【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成26年4月11日、http://clincancerres.aacrjournals.org/content/20/12/3087(平成26年4月11日)を通じて発表
【文献】
井上 他,消化器癌におけるゲノム異常研究の現況―単一遺伝子変異から全ゲノム包括的変異解析への道 Genomic alter,医学のあゆみ,2009年 9月 5日,Vol. 230, No. 10,p. 829-837
【文献】
木浦 他,岡山医学会雑誌,2013年 4月,Vol. 125,p. 57-66
【文献】
Takeuchi et al,nature medicine,2012年 2月12日,Vol. 18, No. 3,p. 378-381
【文献】
Kohno et al,nature medicine,2012年 2月12日,Vol. 18, No. 3,p. 375-377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
がんの責任変異(ドライバー変異)である遺伝子融合の検出方法であって、がんを有する被験者由来の単離された試料における下記(a)〜(e)のいずれかの融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドを検出する工程を含む、方法:
(a)EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドであって、EZRのコイルドコイルドメインの全部または一部及びERBB4のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ここで該EZRのコイルドコイルドメインの一部は該ポリペプチドを二量体化し得る;
(b)KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドであって、KIAA1468のコイルドコイルドメインの全部または一部及びRETのキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ここで該KIAA1468のコイルドコイルドメインの一部は該ポリペプチドを二量体化し得る;
(c)TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドであって、TRIM24のRINGフィンガードメインの全部及びBRAFのキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ここで該ポリペプチドはBRAFのRaf様Ras結合ドメインを含まない;
(d)CD74-NRG1融合ポリヌクレオチドであって、CD74の膜貫通ドメイン及びNRG1のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;ならびに
(e)SLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドであって、SLC3A2の膜貫通ドメイン及びNRG1のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
がんの責任変異(ドライバー変異)である遺伝子融合により生じる融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質が治療効果をもたらすがんの患者またはがんのリスクを有する被験者を同定する方法であって、下記の工程を含む、方法:
(1)被験者由来の単離された試料における下記(a)〜(e)のいずれかの融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドを検出する工程:
(a)EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドであって、EZRのコイルドコイルドメインの全部または一部及びERBB4のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ここで該EZRのコイルドコイルドメインの一部は該ポリペプチドを二量体化し得る、
(b)KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドであって、KIAA1468のコイルドコイルドメインの全部または一部及びRETのキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ここで該KIAA1468のコイルドコイルドメインの一部は該ポリペプチドを二量体化し得る、
(c)TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドであって、TRIM24のRINGフィンガードメインの全部及びBRAFのキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ここで該ポリペプチドはBRAFのRaf様Ras結合ドメインを含まない、
(d)CD74-NRG1融合ポリヌクレオチドであって、CD74の膜貫通ドメイン及びNRG1のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびに
(e)SLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドであって、SLC3A2の膜貫通ドメイン及びNRG1のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;ならびに
(2)前記融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドが検出された場合に、前記ポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質が前記被験者において治療効果をもたらすと判定する工程。
EZRタンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部及びERBB4タンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有する、単離されたEZR-ERBB4融合ポリペプチドまたはその断片であって、
ここで該EZRタンパク質のコイルドコイルドメインの一部は該ポリペプチドを二量体化し得、
該断片は、融合点の上流および下流の配列を含む連続した部分配列からなり、該上流および下流の配列は、それぞれ融合点から10アミノ酸残基以上を含む、前記ポリペプチドまたはその断片。
KIAA1468タンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部及びRETタンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有する、単離されたKIAA1468-RET融合ポリペプチドまたはその断片であって、
ここで該KIAA1468タンパク質のコイルドコイルドメインの一部は該ポリペプチドを二量体化し得、
該断片は、融合点の上流および下流の配列を含む連続した部分配列からなり、該上流および下流の配列は、それぞれ融合点から10アミノ酸残基以上を含む、前記ポリペプチドまたはその断片。
CD74タンパク質の膜貫通ドメイン及びNRG1タンパク質のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有する、単離されたCD74-NRG1融合ポリペプチドまたはその断片であって、
該断片は、融合点の上流および下流の配列を含む連続した部分配列からなり、該上流および下流の配列は、それぞれ融合点から10アミノ酸残基以上を含む、前記ポリペプチドまたはその断片。
SLC3A2タンパク質の膜貫通ドメイン及びNRG1タンパク質のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有する、単離されたSLC3A2-NRG1融合ポリペプチドまたはその断片であって、
該断片は、融合点の上流および下流の配列を含む連続した部分配列からなり、該上流および下流の配列は、それぞれ融合点から10アミノ酸残基以上を含む、前記ポリペプチドまたはその断片。
【発明を実施するための形態】
【0017】
後述の実施例において示す通り、本発明者らは、がん組織において、がんの責任変異(ドライバー変異)として5種の遺伝子融合、すなわちEZR-ERBB4遺伝子融合、KIAA1468-RET遺伝子融合、TRIM24-BRAF遺伝子融合、CD74-NRG1遺伝子融合、及びSLC3A2-NRG1遺伝子融合を初めて見出した。本発明はかかる知見に基づき、当該遺伝子融合の検出方法、当該責任変異の存在に基づくがん治療が効果をもたらすがんの患者またはがんのリスクを有する被験者の同定方法、がんの治療方法およびがん治療剤、がん治療剤のスクリーニング方法等を提供する。
【0018】
本発明において「がんの責任変異」とは、ドライバー変異と互換的に使用される用語であるが、がん組織に存在する変異であって、細胞に対するがん化能を有する変異をいう。典型的には、ある変異が見出されたがん組織において、既知のがん遺伝子変異(少なくとも、EGFR点変異・インフレーム欠失変異、KRAS点変異、BRAF点変異、HER2インフレーム挿入変異、ALK-EML4遺伝子融合、KIF5B-RET遺伝子融合、CCDC6-RET遺伝子融合、CD74-ROS1遺伝子融合、EZR-ROS1遺伝子融合及びSLC34A2-ROS1遺伝子融合)がいずれも存在しない場合(すなわち、当該変異が前記既知のがん遺伝子変異と相互排他的に存在する場合)、当該変異はがんの責任変異であるということができる。
【0019】
<具体的ながんの責任変異>
以下、各遺伝子融合について説明する。なお本明細書中、融合ポリヌクレオチドにおける「融合点」とは、5’側の遺伝子部分と3’側の遺伝子部分とが接続される境界を意味し、これは2つのヌクレオチド残基の間の境界である。また融合ポリペプチドにおける「融合点」とは、N末端側のポリペプチドとC末端側のポリペプチドとが接続される境界を意味し、これは2つのアミノ酸残基の間の境界であるか、または遺伝子融合が1つのコドン内で生じた場合には当該コドンによりコードされる1つのアミノ酸残基自体である。
【0020】
(1)EZR-ERBB4遺伝子融合
本遺伝子融合は、EZRタンパク質とERBB4タンパク質の融合タンパク質(以下、EZR-ERBB4融合ポリペプチドとも称する)の発現を生じる変異であり、ヒト染色体においては6q25および2q34の領域内に切断点を有する転座(t(2;6))により生じる変異である。
【0021】
EZRタンパク質は、ヒトにおいては6q25に存在する遺伝子にコードされるタンパク質であり、典型的には配列番号20で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NP_001104547.1(09-JUN-2013)からなるタンパク質である。EZRタンパク質は、コイルドコイル(Coiled-coil)ドメインを有することを特徴としており(
図1)、当該ドメインは、ヒトであれば配列番号20で表されるアミノ酸配列の300〜550位のアミノ酸配列に該当する。
【0022】
ERBB4タンパク質は、ヒトにおいては2q34に存在する遺伝子にコードされるタンパク質であり、典型的には配列番号22で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NP_001036064.1(15-JUN-2013)からなるタンパク質である。ERBB4タンパク質は、キナーゼドメインを有することを特徴としており(
図1)、ヒトであれば配列番号22で表されるアミノ酸配列の708〜964位のアミノ酸配列に該当する。
【0023】
またERBB4タンパク質において、キナーゼドメインのN末端側にはフューリン様リピート(Furin-like repeat)及び膜貫通ドメイン(例えば、配列番号22で表されるアミノ酸配列の183〜665位)が存在する。
【0024】
EZR-ERBB4融合ポリペプチドは、EZRタンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部及びERBB4タンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドである。
【0025】
EZR-ERBB4融合ポリペプチドには、EZRタンパク質のコイルドコイルドメインの全部が含まれてもよいし、EZR-ERBB4融合ポリペプチドを二量体化し得る限り、コイルドコイルドメインの一部が含まれてもよい。EZR-ERBB4融合ポリペプチドが二量体化するか否かは、ゲルろ過クロマトグラフィー、架橋剤処理とSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の組合せなどの公知の方法により確認することができる。
【0026】
EZR-ERBB4融合ポリペプチドには、ERBB4タンパク質のキナーゼドメインの全部が含まれてもよいし、EZR-ERBB4融合ポリペプチドがキナーゼ活性を有する限り、キナーゼドメインの一部が含まれてもよい。
【0027】
EZR-ERBB4融合ポリペプチドが「キナーゼ活性を有する」とは、ERBB4タンパク質由来のキナーゼドメインに起因してチロシンをリン酸化する酵素としての活性を有することを意味する。EZR-ERBB4融合ポリペプチドのキナーゼ活性は、定法により測定され、通常、適切な条件下で基質(合成ペプチド基質など)及びATPと共にインキュベーションした後、基質のリン酸化チロシンを検出する。また市販の測定キットを用いて測定することもできる。
【0028】
EZR-ERBB4融合ポリペプチドは、ERBB4タンパク質のフューリン様リピート及び膜貫通ドメインの全部又は一部を含んでもよいが、含まないことが好ましい。
【0029】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、EZR-ERBB4融合ポリペプチドは、N末端側に存在するコイルドコイルドメインを介して二量体化して自己リン酸化し、恒常活性化することによりがん化に寄与すると考えられる。
【0030】
本発明において、EZR-ERBB4融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドとも称する)は、EZRタンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部及びERBB4タンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドは、mRNA、cDNAおよびゲノムDNAのいずれであってもよい。
【0031】
本発明におけるEZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のポリペプチドをコードするEZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド、または
(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド。
【0032】
配列番号2で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたEZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列である。なお、配列番号2で表されるアミノ酸配列中、融合点は、448位のArgに位置する。
【0033】
上記(ii)において、「1若しくは複数のアミノ酸」とは、通常、1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜10個、さらにより好ましくは1〜数個(例えば、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1若しくは2個、または1個)のアミノ酸を意味する。
【0034】
上記(iii)において、「80%以上の配列同一性」とは、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、さらにより好ましくは97%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を意味する。アミノ酸配列の同一性は、カーリンおよびアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)に基づくBLASTXまたはBLASTPと呼ばれるプログラム(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)を利用して決定することができる。BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は当業者にはよく知られている(例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0035】
また本発明におけるEZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のいずれかのポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(ii)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(iii)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または
(iv)配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の配列同一性を有し、かつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0036】
配列番号1で表される塩基配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたEZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号1で表される塩基配列中、融合点は、1524位のグアニンと1525位のグアニンの間に位置する。
【0037】
上記(ii)において、「ストリンジェントな条件下」とは、特に記載した場合を除き、中程度または高程度にストリンジェントな条件をいう。
【0038】
中程度にストリンジェントな条件は、例えば、対象となるポリヌクレオチドの長さに基づき、当業者であれば容易に設計することができる。基本的な条件は、Sambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第3版、第6〜7章、Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001に示されている。典型的には、中程度にストリンジェントな条件は、ニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5%SDS、1.0 mM EDTA(pH8.0)の前洗浄条件;約40〜50℃での、約50%ホルムアミド、2〜6×SSC(または、約42℃での、約50%ホルムアミド中のStark's solutionなどの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件;および約40℃〜60℃、0.5〜6×SSC、0.1% SDSの洗浄条件を含む。中程度にストリンジェントな条件は、好ましくは、約50℃、6×SSCのハイブリダイゼーション条件を含み、前述の洗浄条件および/または洗浄条件を含んでいてもよい。
【0039】
高程度にストリンジェントな条件(高ストリンジェントな条件)もまた、例えば、対象となるポリヌクレオチドの長さに基づき、当業者であれば容易に設計することができる。高ストリンジェントな条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度および/または低い塩濃度が含まれる。典型的には、約65℃、0.2〜6×SSC、好ましくは6×SSC、より好ましくは2×SSC、さらに好ましくは0.2×SSCのハイブリダイゼーション条件を含む。いずれの場合も、約65〜68℃、0.2×SSC、0.1% SDSの洗浄条件を含むことが好ましい。
【0040】
いずれの場合も、ハイブリダイゼーション、前洗浄および洗浄のための緩衝液として、SSC(1×SSCは、0.15 M NaClおよび15 mM クエン酸ナトリウムである。)の代わりにSSPE(1×SSPEは、0.15 M NaCl、10 mM NaH2PO4、および1.25 mM EDTA、pH7.4である。)を代用することができる。いずれの場合も、洗浄は、ハイブリダイゼーションが完了した後、約15分間行うことができる。
【0041】
上記(iii)において、「1若しくは複数のヌクレオチド」とは、通常、1〜50個、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜10個、さらにより好ましくは1〜数個(例えば、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1若しくは2個、または1個)のヌクレオチドを意味する。
【0042】
上記(iv)において、「80%以上の配列同一性」とは、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、95%以上、さらにより好ましくは97%以上、98%以上、99%以上の配列同一性を意味する。塩基配列の同一性は、前記アルゴリズムBLASTに基づくBLASTNと呼ばれるプログラム(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)を利用して決定することができる。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。
【0043】
(2)KIAA1468-RET遺伝子融合
本遺伝子融合は、KIAA1468タンパク質とRETタンパク質の融合タンパク質(以下、KIAA1468-RET融合ポリペプチドとも称する)の発現を生じる変異であり、ヒト染色体においては18q21および10q11の領域内に切断点を有する転座(t(10;18))により生じる変異である。
【0044】
KIAA1468タンパク質は、ヒトにおいては18q21に存在する遺伝子にコードされるタンパク質であり、典型的には配列番号24で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NP_065905.2(17-APR-2013)からなるタンパク質である。KIAA1468タンパク質は、コイルドコイルドメインを有することを特徴としており(
図1)、当該ドメインは、ヒトであれば配列番号24で表されるアミノ酸配列の360〜396位のアミノ酸配列に該当する。
【0045】
RETタンパク質は、ヒトにおいては10q11に存在する遺伝子にコードされるタンパク質であり、典型的には配列番号26で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NP_066124.1(07-JULY-2013))からなるタンパク質である。RETタンパク質は、キナーゼドメインを有することを特徴としており(
図1)、ヒトであれば配列番号26で表されるアミノ酸配列の723〜1012位のアミノ酸配列に該当する。
【0046】
またRETタンパク質において、キナーゼドメインのN末端側にはカドヘリンリピート(Cadherin repeat)及び膜貫通ドメインが存在する。
【0047】
KIAA1468-RET融合ポリペプチドは、KIAA1468タンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部及びRETタンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドである。
【0048】
KIAA1468-RET融合ポリペプチドには、KIAA1468タンパク質のコイルドコイルドメインの全部が含まれてもよいし、KIAA1468-RET融合ポリペプチドを二量体化し得る限り、コイルドコイルドメインの一部が含まれてもよい。KIAA1468-RET融合ポリペプチドが二量体化するか否かは、ゲルろ過クロマトグラフィー、架橋剤処理とSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の組合せなどの公知の方法により確認することができる。
【0049】
KIAA1468-RET融合ポリペプチドには、RETタンパク質のキナーゼドメインの全部が含まれてもよいし、KIAA1468-RET融合ポリペプチドがキナーゼ活性を有する限り、キナーゼドメインの一部が含まれてもよい。
【0050】
KIAA1468-RET融合ポリペプチドが「キナーゼ活性を有する」とは、RETタンパク質由来のキナーゼドメインに起因してチロシンをリン酸化する酵素としての活性を有することを意味する。KIAA1468-RET融合ポリペプチドのキナーゼ活性は、定法により測定され、通常、適切な条件下で基質(合成ペプチド基質など)及びATPと共にインキュベーションした後、基質のリン酸化チロシンを検出する。また市販の測定キットを用いて測定することもできる。
【0051】
KIAA1468-RET融合ポリペプチドは、RETタンパク質のカドヘリンリピート及び膜貫通ドメインの全部又は一部を含んでもよいが、含まないことが好ましい。
【0052】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドは、N末端側に存在するコイルドコイルドメインを介して二量体化して自己リン酸化し、恒常活性化することによりがん化に寄与すると考えられる。
【0053】
本発明において、KIAA1468-RET融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドとも称する)は、KIAA1468タンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部及びRETタンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドは、mRNA、cDNAおよびゲノムDNAのいずれであってもよい。
【0054】
本発明におけるKIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のポリペプチドをコードするKIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド、または
(iii)配列番号4で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド。
【0055】
配列番号4で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたKIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列である。なお、配列番号4で表されるアミノ酸配列中、融合点は、540位のGluと541位のGluの間に位置する。
【0056】
上記(ii)における「1若しくは複数のアミノ酸」、および上記(iii)における「80%以上の配列同一性」の意味は、上記「(1)EZR-ERBB4遺伝子融合」に記載した通りである。
【0057】
また本発明におけるKIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のいずれかのポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(ii)配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(iii)配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または
(iv)配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の配列同一性を有し、かつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0058】
配列番号3で表される塩基配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたKIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号3で表される塩基配列中、融合点は、1835位のグアニンと1836位のグアニンの間に位置する。
【0059】
上記(ii)における「ストリンジェントな条件下」、上記(iii)における「1若しくは複数のヌクレオチド」、および上記(iv)における「80%以上の配列同一性」の意味は、上記「(1)EZR-ERBB4遺伝子融合」に記載した通りである。
【0060】
(3)TRIM24-BRAF遺伝子融合
本遺伝子融合は、TRIM24タンパク質とBRAFタンパク質の融合タンパク質(以下、TRIM24-BRAF融合ポリペプチドとも称する)の発現を生じる変異であり、ヒト染色体においては7q33および7q34の領域内に切断点を有する逆位(inv7)により生じる変異である。
【0061】
TRIM24タンパク質は、ヒトにおいては7q33に存在する遺伝子にコードされるタンパク質であり、典型的には配列番号28で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NP_003843.3(17-APR-2013)からなるタンパク質である。TRIM24タンパク質は、RINGフィンガードメインを有することを特徴としており(
図1)、当該ドメインは、ヒトであれば配列番号28で表されるアミノ酸配列の56〜82位のアミノ酸配列に該当する。
【0062】
BRAFタンパク質は、ヒトにおいては7q34に存在する遺伝子にコードされるタンパク質であり、典型的には配列番号30で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NP_004324.2(16-JUN-2013)からなるタンパク質である。BRAFタンパク質は、キナーゼドメインを有することを特徴としており(
図1)、ヒトであれば配列番号30で表されるアミノ酸配列の457〜717位のアミノ酸配列に該当する。
【0063】
またBRAFタンパク質において、キナーゼドメインのN末端側にはキナーゼ抑制ドメインとしてRaf様Ras結合ドメイン(Raf-like Ras-binding domain)(配列番号22で表されるアミノ酸配列の155〜227位)が存在する。
【0064】
TRIM24-BRAF融合ポリペプチドは、BRAFタンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドである。
【0065】
TRIM24-BRAF融合ポリペプチドには、TRIM24タンパク質のRINGフィンガードメインの全部又は一部を含んでもよいし、含まなくてもよい。
【0066】
TRIM24-BRAF融合ポリペプチドには、BRAFタンパク質のキナーゼドメインの全部が含まれてもよいし、TRIM24-BRAF融合ポリペプチドがキナーゼ活性を有する限り、キナーゼドメインの一部が含まれてもよい。
【0067】
TRIM24-BRAF融合ポリペプチドが「キナーゼ活性を有する」とは、BRAFタンパク質由来のキナーゼドメインに起因してセリン又はスレオニンをリン酸化する酵素としての活性を有することを意味する。TRIM24-BRAF融合ポリペプチドのキナーゼ活性は、定法により測定され、通常、適切な条件下で基質(合成ペプチド基質など)及びATPと共にインキュベーションした後、基質のリン酸化セリン又はスレオニンを検出する。また市販の測定キットを用いて測定することもできる。
【0068】
TRIM24-BRAF融合ポリペプチドは、Raf様Ras結合ドメイン(Raf-like Ras-binding domain)を含まないことが好ましい。
【0069】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、TRIM24-BRAF融合ポリペプチドは、野生型BRAFタンパク質のN末端側に存在するキナーゼ抑制ドメインがなくなることで恒常活性化することによりがん化に寄与すると考えられる。
【0070】
本発明において、TRIM24-BRAF融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドとも称する)は、BRAFタンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドは、mRNA、cDNAおよびゲノムDNAのいずれであってもよい。
【0071】
本発明におけるTRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のポリペプチドをコードするTRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド、または
(iii)配列番号6で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド。
【0072】
配列番号6で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたTRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列である。なお、配列番号6で表されるアミノ酸配列中、融合点は、294位のArgに位置する。
【0073】
上記(ii)における「1若しくは複数のアミノ酸」、および上記(iii)における「80%以上の配列同一性」の意味は、上記「(1)EZR-ERBB4遺伝子融合」に記載した通りである。
【0074】
また本発明におけるTRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のいずれかのポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(ii)配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(iii)配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または
(iv)配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の配列同一性を有し、かつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0075】
配列番号5で表される塩基配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたTRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号5で表される塩基配列中、融合点は、1096位のグアニンと1097位のグアニンの間に位置する。
【0076】
上記(ii)における「ストリンジェントな条件下」、上記(iii)における「1若しくは複数のヌクレオチド」、および上記(iv)における「80%以上の配列同一性」の意味は、上記「(1)EZR-ERBB4遺伝子融合」に記載した通りである。
【0077】
(4)CD74-NRG1遺伝子融合
本遺伝子融合は、CD74タンパク質とNRG1タンパク質の融合タンパク質(以下、CD74-NRG1融合ポリペプチドとも称する)の発現を生じる変異であり、ヒト染色体においては5q32および8p12の領域内に切断点を有する転座(t(5;8))により生じる変異である。
【0078】
CD74タンパク質は、ヒトにおいては5q32に存在する遺伝子にコードされるタンパク質であり、典型的には配列番号32で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NP_004346.1(29-APR-2013)からなるタンパク質である。CD74タンパク質は、膜貫通ドメインを有することを特徴としており(
図1)、当該ドメインは、ヒトであれば配列番号32で表されるアミノ酸配列の47〜72位のアミノ酸配列に該当する。
【0079】
NRG1タンパク質は、ヒトにおいては8p12に存在する遺伝子にコードされるタンパク質であり、典型的には配列番号34で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NP_001153477.1(07-JUL-2013))からなるタンパク質である。NRG1タンパク質は、EGFドメインを有することを特徴としており(
図1)、ヒトであれば配列番号34で表されるアミノ酸配列の143〜187位のアミノ酸配列に該当する。
【0080】
CD74-NRG1融合ポリペプチドは、CD74タンパク質の膜貫通ドメイン及びNRG1タンパク質のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドである。
【0081】
CD74-NRG1融合ポリペプチドには、CD74タンパク質の膜貫通ドメインの全部が含まれてもよいし、一部が含まれてもよい。
【0082】
CD74-NRG1融合ポリペプチドには、NRG1タンパク質のEGFドメインの全部が含まれてもよいし、CD74-NRG1融合ポリペプチドが細胞内情報伝達を亢進する活性を有する限り、EGFドメインの一部が含まれてもよい。
【0083】
CD74-NRG1融合ポリペプチドが「細胞内情報伝達を亢進する活性を有する」とは、NRG1タンパク質由来のEGFドメインに起因して、細胞内情報伝達を亢進する活性を有することを意味する。この活性は、Wilson, T.R. et al., Cancer Cell, 2011, 20, 158-172に記載された以下の方法により測定される。
【0084】
血清を除いた状態で培養したEFM-19細胞(DSMZ, No. ACC-231)に被験物質を添加し、30分間処理したのち、EFM-19細胞を溶解し、タンパク質を抽出する。ウエスタンブロット解析により、EGFR、ERBB2、ERBB3又はERBB4のリン酸化状態を調べ、被験物質非添加の場合と比較してリン酸化が上昇した場合、被験物質が細胞内情報伝達を亢進する活性を有すると決定される。ここで被験物質としては、CD74-NRG1融合ポリペプチド全体を使用してもよいが、溶解性等を考慮して、膜貫通ドメインを欠きかつEGFドメインを含むその断片を使用してもよい。
【0085】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、CD74-NRG1融合ポリヌクレオチドは、野生型NRG1タンパク質よりも高発現し、オートクライン機構で、細胞内情報伝達の亢進及び生存に正に働くことにより、がん化に寄与すると考えられる。
【0086】
本発明において、CD74-NRG1融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、CD74-NRG1融合ポリヌクレオチドとも称する)は、CD74タンパク質の膜貫通ドメイン及びNRG1タンパク質のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。CD74-NRG1融合ポリヌクレオチドは、mRNA、cDNAおよびゲノムDNAのいずれであってもよい。
【0087】
本発明におけるCD74-NRG1融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のポリペプチドをコードするCD74-NRG1融合ポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号8または10で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号8または10で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞内情報伝達殖を亢進する活性を有するポリペプチド、または
(iii)配列番号8または10で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチド。
【0088】
配列番号8または10で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたCD74-NRG1融合ポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列である。なお、配列番号8で表されるアミノ酸配列中、融合点は、230位のAlaに位置する。また配列番号10で表されるアミノ酸配列中、融合点は、209位のAlaに位置する。
【0089】
上記(ii)における「1若しくは複数のアミノ酸」、および上記(iii)における「80%以上の配列同一性」の意味は、上記「(1)EZR-ERBB4遺伝子融合」に記載した通りである。
【0090】
また本発明におけるCD74-NRG1融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のいずれかのポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号7または9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(ii)配列番号7または9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(iii)配列番号7または9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または
(iv)配列番号7または9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の配列同一性を有し、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0091】
配列番号7または9で表される塩基配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたCD74-NRG1融合ポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号7で表される塩基配列中、融合点は、875位のグアニンと876位のシトシンの間に位置する。また配列番号9で表される塩基配列中、融合点は、812位のグアニンと813位のシトシンの間に位置する。
【0092】
上記(ii)における「ストリンジェントな条件下」、上記(iii)における「1若しくは複数のヌクレオチド」、および上記(iv)における「80%以上の配列同一性」の意味は、上記「(1)EZR-ERBB4遺伝子融合」に記載した通りである。
【0093】
(5)SLC3A2-NRG1遺伝子融合
本遺伝子融合は、SLC3A2タンパク質とNRG1タンパク質の融合タンパク質(以下、SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドとも称する)の発現を生じる変異であり、ヒト染色体においては11q12.3および8p12の領域内に切断点を有する転座(t(8;11))により生じる変異である。
【0094】
SLC3A2タンパク質は、ヒトにおいては11q12.3に存在する遺伝子にコードされるタンパク質であり、典型的には配列番号39で表されるアミノ酸配列(NCBIアクセッション番号NP_001012680.1(27-APR-2014)からなるタンパク質である。SLC3A2タンパク質は、膜貫通ドメインを有することを特徴としており(
図4)、当該ドメインは、ヒトであれば配列番号39で表されるアミノ酸配列の184-207位のアミノ酸配列(http://www.hprd.org/sequence?hprd_id=01148&isoform_id=01148_3&isoform_name=Isoform_2)または184-206位のアミノ酸配列(http://asia.ensembl.org/Homo_sapiens/Transcript/ProteinSummary?g=ENSG00000168003;r=11:62623583-62656332;t=ENST00000377891#)に該当する。
【0095】
NRG1タンパク質は、上記「(4)CD74-NRG1遺伝子融合」に記載した通りである。
【0096】
SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドは、SLC3A2タンパク質の膜貫通ドメイン及びNRG1タンパク質のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドである。
【0097】
SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドには、SLC3A2タンパク質の膜貫通ドメインの全部が含まれてもよいし、一部が含まれてもよい。
【0098】
SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドには、NRG1タンパク質のEGFドメインの全部が含まれてもよいし、SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドが細胞内情報伝達を亢進する活性を有する限り、EGFドメインの一部が含まれてもよい。
【0099】
SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドが「細胞内情報伝達を亢進する活性を有する」とは、NRG1タンパク質由来のEGFドメインに起因して、細胞内情報伝達を亢進する活性を有することを意味する。この活性は、Wilson, T.R. et al., Cancer Cell, 2011, 20, 158-172に記載された以下の方法により測定される。
【0100】
血清を除いた状態で培養したEFM-19細胞(DSMZ, No. ACC-231)に被験物質を添加し、30分間処理したのち、EFM-19細胞を溶解し、タンパク質を抽出する。ウエスタンブロット解析により、EGFR、ERBB2、ERBB3又はERBB4のリン酸化状態を調べ、被験物質非添加の場合と比較してリン酸化が上昇した場合、被験物質が細胞内情報伝達を亢進する活性を有すると決定される。ここで被験物質としては、SLC3A2-NRG1融合ポリペプチド全体を使用してもよいが、溶解性等を考慮して、膜貫通ドメインを欠きかつEGFドメインを含むその断片を使用してもよい。
【0101】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、SLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドは、野生型NRG1タンパク質よりも高発現し、オートクライン機構で、細胞内情報伝達の亢進及び生存に正に働くことにより、がん化に寄与すると考えられる。
【0102】
本発明において、SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、SLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドとも称する)は、SLC3A2タンパク質の膜貫通ドメイン及びNRG1タンパク質のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。SLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドは、mRNA、cDNAおよびゲノムDNAのいずれであってもよい。
【0103】
本発明におけるSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のポリペプチドをコードするSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号36で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号36で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチド、または
(iii)配列番号36で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチド。
【0104】
配列番号36で表されるアミノ酸配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列である。なお、配列番号36で表されるアミノ酸配列中、融合点は、302位のスレオニンに位置する。
【0105】
上記(ii)における「1若しくは複数のアミノ酸」、および上記(iii)における「80%以上の配列同一性」の意味は、上記「(1)EZR-ERBB4遺伝子融合」に記載した通りである。
【0106】
また本発明におけるSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドは、例えば、下記のいずれかのポリヌクレオチドであり得る:
(i)配列番号35で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(ii)配列番号35で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(iii)配列番号35で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1若しくは複数のヌクレオチドが欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、または
(iv)配列番号35で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと80%以上の配列同一性を有し、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0107】
配列番号35で表される塩基配列は、後述の実施例において示すように、ヒトがん組織由来のサンプル中に見出されたSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドの塩基配列である。配列番号35で表される塩基配列中、融合点は、904位のアデニンと905位のシトシンの間に位置する。
【0108】
上記(ii)における「ストリンジェントな条件下」、上記(iii)における「1若しくは複数のヌクレオチド」、および上記(iv)における「80%以上の配列同一性」の意味は、上記「(1)EZR-ERBB4遺伝子融合」に記載した通りである。
【0109】
<がんの責任変異(ドライバー変異)である遺伝子融合の検出方法>
本発明は、前記4種の遺伝子融合の検出方法(以下、本発明の検出方法とも称する)を提供する。本発明の検出方法は、がんを有する被験者由来の単離された試料における前記いずれかの融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドを検出する工程を含む。
【0110】
本発明の検出方法において、被験者は、哺乳動物であれば特に限定されない。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、シマリス、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク、イヌ、ネコ、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類等を挙げることができるが、ヒトが好ましい。
【0111】
がんを有する被験者は、がんに罹患している被験者のみならず、がんに罹患している疑いのある被験者、又は将来がんになるリスクを有する被験者であってもよい。本発明の検出方法を適用する対象となる「がん」としては、前記4種の遺伝子融合のうちいずれかが検出され得るがんであれば特に限定されないが、好ましくは肺がんであり、さらに好ましくは非小細胞肺がんであり、特に好ましくは肺腺がんである。
【0112】
被験者由来の「単離された試料」は、生体試料(例えば、細胞、組織、臓器、体液(血液、リンパ液等)、消化液、喀痰、肺胞・気管支洗浄液、尿、便)のみならず、これらの生体試料から得られる核酸抽出物(ゲノムDNA抽出物、mRNA抽出物、mRNA抽出物から調製されたcDNA調製物やcRNA調製物等)やタンパク質抽出物も含む。ゲノムDNA、mRNA、cDNA又はタンパク質は、当業者であれば、前記試料の種類及び状態等を考慮し、それに適した公知の手法を選択して調製することが可能である。また、前記試料は、ホルマリン固定処理、アルコール固定処理、凍結処理又はパラフィン包埋処理が施してあるものでもよい。
【0113】
また「単離された試料」は、前記がんが存在するか又は存在すると疑われる臓器由来であることが好ましく、例えば、小腸、脾臓、腎臓、肝臓、胃、肺、副腎、心臓、脳、膵臓、大動脈等に由来するものが挙げられるが、より好ましくは肺由来である。
【0114】
本発明の検出方法において、融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドの検出は、自体公知の手法を用いて行なうことができる。
【0115】
ゲノムDNAからの転写産物(mRNAまたはmRNAから調製したcDNA)を対象とする場合、例えば、RT-PCR法、シークエンシング、TaqManプローブ法、ノーザンブロッティング、ドットブロット法、cDNAマイクロアレイ解析等を利用してmRNA又はcDNAである融合ポリヌクレオチドを検出することができる。
【0116】
またゲノムDNAを対象とする場合、例えば、in situハイブリダイゼーション(ISH)、ゲノムPCR法、シークエンシング、TaqManプローブ法、サザンブロッティング、ゲノムマイクロアレイ解析等を利用してゲノムDNAである融合ポリヌクレオチドを検出することができる。
【0117】
これらの手法はそれぞれ単独で利用することができるが、組み合わせて利用してもよい。例えば、前記4種の遺伝子融合は、融合ポリペプチドを発現することによりがん化に寄与すると考えられることから、ゲノムDNAである融合ポリヌクレオチドを検出する場合(例えばin situハイブリダイゼーション等による)には、転写産物またはタンパク質が生成することをさらに確認すること(例えばRT-PCR、免疫染色法等による)も好ましい。
【0118】
ハイブリダイゼーション技術(例えば、TaqManプローブ法、ノーザンブロッティング、サザンブロッティング、ドットブロット法、マイクロアレイ解析、in situハイブリダイゼーション(ISH)など)により融合ポリヌクレオチドを検出する場合には、前記融合ポリヌクレオチドを特異的に認識するように設計されたプローブであるポリヌクレオチドを使用することができる。ここで「融合ポリヌクレオチドを特異的に認識する」とは、ストリンジェントな条件で、当該融合ポリヌクレオチドの融合点から5’末端側及び3’末端側の部分が由来する野生型遺伝子を含めて当該融合ポリヌクレオチド以外のポリヌクレオチドから、当該融合ポリヌクレオチドを識別して認識することをいう。
【0119】
本発明の検出方法においては、治療又は診断の過程で得られる生体試料(生検サンプル等)は、ホルマリン固定されていることが多いため、検出対象であるゲノムDNAがホルマリン固定下においても安定しており、検出感度が高いという観点から、in situハイブリダイゼーションを用いることが好適である。
【0120】
in situハイブリダイゼーションにおいては、前記生体試料に、融合ポリヌクレオチドを特異的に認識するように設計されたプローブであるポリヌクレオチドとして少なくとも15塩基の鎖長を有する下記(a)または(b)に記載のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせることにより、融合ポリペプチドをコードするゲノムDNA(融合ポリヌクレオチド)を検出することができる。
(a)各融合遺伝子について、5’側融合パートナー遺伝子(EZR、KIAA1468、TRIM24、CD74またはSLC3A2遺伝子)の塩基配列にハイブリダイズするプローブ及び3’側融合パートナー遺伝子(ERBB4、RET、BRAFまたはNRG1遺伝子)の塩基配列にハイブリダイズするプローブからなる群から選択される少なくとも一つのプローブであるポリヌクレオチド
(b)各融合遺伝子について、5’側融合パートナー遺伝子と3’側融合パートナー遺伝子との融合点を含む塩基配列にハイブリダイズするプローブであるポリヌクレオチド。
【0121】
本発明にかかるEZR遺伝子は、ヒト由来のものであれば、典型的にはGenbankアクセッション番号 NC_000006.11で特定されるゲノムの配列のうち159186773から159240456番目のDNA配列からなる遺伝子である。
【0122】
また、本発明にかかるKIAA1468遺伝子は、ヒト由来のものであれば、典型的にはGenbankアクセッション番号 NC_000018.9で特定されるゲノムの配列のうち59854524〜59974355番目のDNA配列からなる遺伝子である。
【0123】
本発明にかかるTRIM24遺伝子は、ヒト由来のものであれば、典型的にはGenbankアクセッション番号 NC_000007.13で特定されるゲノムの配列のうち138145079〜138270333番目のDNA配列からなる遺伝子である。
【0124】
また、本発明にかかるCD74遺伝子は、ヒト由来のものであれば、典型的にはGenbankアクセッション番号 NC_000005.9で特定されるゲノムの配列のうち149781200〜149792499番目のDNA配列からなる遺伝子である。
【0125】
また、本発明にかかるSLC3A2遺伝子は、ヒト由来のものであれば、典型的にはGenbankアクセッション番号 NC_000011.10で特定されるゲノムの配列のうち62856012〜62888883番目のDNA配列からなる遺伝子である。
【0126】
本発明にかかるERBB4遺伝子は、ヒト由来のものであれば、典型的にはGenbankアクセッション番号 NC_000002.11で特定されるゲノムの配列のうち212240442〜213403352番目のDNA配列からなる遺伝子である。
【0127】
また、本発明にかかるRET遺伝子は、ヒト由来のものであれば、典型的にはGenbankアクセッション番号 NC_000010.10で特定されるゲノムの配列のうち43572517〜43625799番目のDNA配列からなる遺伝子である。
【0128】
また、本発明にかかるBRAF遺伝子は、ヒト由来のものであれば、典型的にはGenbankアクセッション番号 NC_000007.13で特定されるゲノムの配列のうち140433812から140624564番目のDNA配列からなる遺伝子である。
【0129】
また、本発明にかかるNRG1遺伝子は、ヒト由来のものであれば、典型的にはGenbankアクセッション番号 NC_000008.10で特定されるゲノムの配列のうち31496820〜32622558番目のDNA配列からなる遺伝子である。
【0130】
しかしながら、遺伝子のDNA配列は、その変異等により、自然界において(すなわち、非人工的に)変化しうる。従って、このような天然の変異体も本発明の対象になりうる(以下、同様)。
【0131】
本発明の(a)に記載のポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドの標的塩基配列である、5’側融合パートナー遺伝子(EZR、KIAA1468、TRIM24、CD74またはSLC3A2遺伝子)の塩基配列および/または3’側融合パートナー遺伝子(ERBB4、RET、BRAFまたはNRG1遺伝子)の塩基配列にハイブリダイズすることにより、前記生体試料における融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAの存在を検出できるものであればよいが、好ましくは、下記(a1)〜(a3)に記載のポリヌクレオチドである:
(a1) 5’側融合パートナー遺伝子の切断点よりも5’側の上流領域の塩基配列にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下、「5’融合パートナー遺伝子プローブ1」とも称する)と、3’側融合パートナー遺伝子の切断点よりも3’側の下流領域の塩基配列にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下、「3’融合パートナー遺伝子プローブ1」とも称する)との組み合わせ;
(a2) 5’側融合パートナー遺伝子の切断点よりも5’側の上流領域の塩基配列にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下、「5’融合パートナー遺伝子プローブ1」とも称する)と、5’側融合パートナー遺伝子の切断点よりも3’側の下流領域の塩基配列にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下、「5’融合パートナー遺伝子プローブ2」とも称する)との組み合わせ;
(a3) 3’側融合パートナー遺伝子の切断点よりも5’側の上流領域の塩基配列にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下、「3’融合パートナー遺伝子プローブ2」とも称する)と、3’側融合パートナー遺伝子の切断点よりも3’側の下流領域の塩基配列にハイブリダイズするポリヌクレオチド(以下、「3’融合パートナー遺伝子プローブ1」とも称する)との組み合わせ。
【0132】
上記(a1)〜(a3)において、5’側融合パートナー遺伝子がEZR遺伝子である場合、当該遺伝子の切断点よりも5’側の上流領域の塩基配列には、EZRタンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部のコード領域が含まれる。
【0133】
上記(a1)〜(a3)において、3’側融合パートナー遺伝子がERBB4遺伝子である場合、当該遺伝子の切断点よりも3’側の下流領域の塩基配列には、ERBB4のキナーゼドメインの全部または一部のコード領域が含まれる。
【0134】
上記(a1)〜(a3)において、5’側融合パートナー遺伝子がKIAA1468遺伝子である場合、当該遺伝子の切断点よりも5’側の上流領域の塩基配列には、KIAA1468タンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部のコード領域が含まれる。
【0135】
上記(a1)〜(a3)において、3’側融合パートナー遺伝子がRET遺伝子である場合、当該遺伝子の切断点よりも3’側の下流領域の塩基配列には、RETのキナーゼドメインの全部または一部のコード領域が含まれる。
【0136】
上記(a1)〜(a3)において、5’側融合パートナー遺伝子がTRIM24遺伝子である場合、当該遺伝子の切断点よりも5’側の上流領域の塩基配列には、例えば、TRIM24タンパク質のRINGフィンガードメインの全部または一部のコード領域が含まれ得る。
【0137】
上記(a1)〜(a3)において、3’側融合パートナー遺伝子がBRAF遺伝子である場合、当該遺伝子の切断点よりも3’側の下流領域の塩基配列には、BRAFのキナーゼドメインの全部または一部のコード領域が含まれる。また当該遺伝子の切断点よりも5’側の上流領域の塩基配列には、BRAFのRaf様Ras結合ドメインのコード領域が含まれる。
【0138】
上記(a1)〜(a3)において、5’側融合パートナー遺伝子がCD74遺伝子である場合、当該遺伝子の切断点よりも5’側の上流領域の塩基配列には、CD74タンパク質の膜貫通ドメインのコード領域が含まれる。
【0139】
上記(a1)〜(a3)において、3’側融合パートナー遺伝子がNRG1遺伝子である場合、当該遺伝子の切断点よりも3’側の下流領域の塩基配列には、NRG1のEGFドメインの全部または一部のコード領域が含まれる。
【0140】
上記(a1)〜(a3)において、5’側融合パートナー遺伝子がSLC3A2遺伝子である場合、当該遺伝子の切断点よりも5’側の上流領域の塩基配列には、SLC3A2タンパク質の膜貫通ドメインのコード領域が含まれる。
【0141】
前記(a1)に記載のポリヌクレオチドとしては、例えば、以下の(a1-1)〜(a1-4)のポリヌクレオチドの組み合わせが挙げられる:
(a1-1)EZRのコイルドコイルドメインの全部または一部のコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドと、ERBB4のキナーゼドメインの全部または一部のコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドの組み合わせ、
(a1-2)KIAA1468のコイルドコイルドメインの全部または一部のコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドと、RETのキナーゼドメインの全部または一部のコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドの組み合わせ、
(a1-3)TRIM24のRINGフィンガードメインの全部または一部のコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドと、BRAFのキナーゼドメインの全部または一部のコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドの組み合わせ、
(a1-4)CD74の膜貫通ドメインのコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドと、NRG1のEGFドメインの全部または一部のコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドの組み合わせ、および
(a1-5)SLC3A2の膜貫通ドメインのコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドと、NRG1のEGFドメインの全部または一部のコード領域にハイブリダイズするポリヌクレオチドの組み合わせ。
【0142】
本発明において、in situハイブリダイゼーションに用いられる前記(a)に記載のポリヌクレオチドがハイブリダイズする領域(標的塩基配列)としては、標的塩基配列に対する特異性及び検出の感度の観点から、5’側融合パートナー遺伝子(EZR、KIAA1468、TRIM24、CD74またはSLC3A2遺伝子)と3’側融合パートナー遺伝子(ERBB4、RET、BRAFまたはNRG1遺伝子)との融合点から1000000塩基以内の領域であることが好ましい。
【0143】
また、本発明において、in situハイブリダイゼーションに用いられる前記(b)に記載のポリヌクレオチドは、該ポリヌクレオチドの標的塩基配列である、5’側融合パートナー遺伝子と3’側融合パートナー遺伝子との融合点を含む塩基配列にハイブリダイズすることにより、前記生体試料における融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAの存在を検出できるものであればよいが、典型例としては、配列番号:1、3、5、7、9又は35に記載の塩基配列中の融合点を含む塩基配列にハイブリダイズするポリヌクレオチドである。
【0144】
また、本発明において、in situハイブリダイゼーションに用いられる前記(a)または(b)に記載のポリヌクレオチドは、標的塩基配列に対する特異性及び検出の感度の観点から、前記標的塩基配列全体をカバーすることのできる、複数種のポリヌクレオチドからなる集団であることが好ましい。かかる場合、該集団を構成するポリヌクレオチドの長さは少なくとも15塩基であるが、100〜1000塩基であることが好ましい。
【0145】
in situハイブリダイゼーションに用いられる前記(a)または(b)に記載のポリヌクレオチドは、検出のため、蛍光色素等によって標識されていることが好ましい。かかる蛍光色素としては、例えば、DEAC、FITC、R6G、TexRed、Cy5が挙げられるが、これらに制限されない。また、蛍光色素以外に放射性同位元素(例:
125I、
131I、
3H、
14C、
33P、
32P等)、酵素(例:β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリホスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素等)、発光物質(例:ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)等)、によって、前記ポリヌクレオチドを標識してもよい。
【0146】
in situハイブリダイゼーションにおいて、5’側融合パートナー遺伝子プローブ1と3’側融合パートナー遺伝子プローブ1とを用いる場合、5’側融合パートナー遺伝子プローブ1と5’側融合パートナー遺伝子2とを用いる場合、または3’融合パートナー遺伝子プローブ2と3’融合パートナー遺伝子プローブ1とを用いる場合、これらプローブは互いに異なる色素にて標識されていることが好ましい。そして、このように異なる色素にて標識したプローブの組み合わせを用いてin situハイブリダイゼーションを行った場合、5’側融合パートナー遺伝子プローブ1の標識が発するシグナル(例えば、蛍光)と3’側融合パートナー遺伝子プローブ1の標識が発するシグナルとの重なりが観察された際に融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAを検出できたと判定することができる。一方、5’側融合パートナー遺伝子プローブ1の標識が発するシグナルと5’側融合パートナー遺伝子プローブ2の標識が発するシグナルとの分離、3’側融合パートナー遺伝子プローブ2の標識が発するシグナルと3’側融合パートナー遺伝子プローブ1の標識が発するシグナルとの分離が観察された際に融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAを検出できたと判定することができる。
【0147】
なお、ポリヌクレオチドの標識は、公知の手法により行うことができる。例えば、ニックトランスレーション法やランダムプライム法により、蛍光色素等によって標識された基質塩基をポリヌクレオチドに取り込ませ、該ポリヌクレオチドを標識することができる。
【0148】
in situハイブリダイゼーションにおいて、前記(a)または(b)に記載のポリヌクレオチドと前記生体試料とをハイブリダイズさせる際の条件は、当該ポリヌクレオチドの長さ等の諸要因により変動し得るが、高ストリンジェンシーなハイブリダイズの条件として、例えば、0.2xSSC、65℃という条件が挙げられ、低ストリンジェンシーなハイブリダイズの条件として、例えば、2.0xSSC、50℃という条件が挙げられる。なお、当業者であれば、塩濃度(SSCの希釈率等)と温度の他、例えば、界面活性剤(NP−40等)の濃度、ホルムアミドの濃度、pH等の諸条件を適宜選択することで、前記条件と同様のストリンジェントなハイブリダイゼーションの条件を実現することができる。
【0149】
前記(a)または(b)に記載のポリヌクレオチドを用いて、融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAを検出する方法としては、前記in situハイブリダイゼーション以外に、サザンブロッティング、ノーザンブロッティング及びドットブロッティングが挙げられる。これら方法においては、前記生体試料から得られる核酸抽出物を転写したメンブレンに、前記(a)または(b)に記載のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせることにより、前記融合遺伝子を検出する。前記(a)のポリヌクレオチドを用いた場合、5’側融合パートナー遺伝子の塩基配列にハイブリダイズするポリヌクレオチドと3’側融合パートナー遺伝子の塩基配列にハイブリダイズするポリヌクレオチドとが、メンブレンにおいて展開された同一のバンドを認識した場合に、融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAを検出することができたと判定することができる。
【0150】
前記(b)のポリヌクレオチドを用いて融合ポリペプチドをコードするゲノムDNAを検出する方法としては、さらに、ゲノムマイクロアレイ解析やDNAマイクロアレイ解析が挙げられる。これら方法においては、前記(b)のポリヌクレオチドを基板に固定したアレイを作製し、当該アレイ上のポリヌクレオチドに前記生体試料を接触させることにより、当該ゲノムDNAを検出する。基板としては、オリゴまたはポリヌクレオチドを固相化できるものであれば特に限定されず、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーなどを挙げることができる。
【0151】
本発明の検出方法においては、PCRを利用して融合ポリヌクレオチドを検出することも好ましい。
【0152】
PCRにおいては、前記生体試料から調製したDNA(ゲノムDNA、cDNA)やRNAを鋳型として融合ポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計された一対のプライマーであるポリヌクレオチドを使用することができる。ここで「融合ポリヌクレオチドを特異的に増幅できる」とは、当該融合ポリヌクレオチドの融合点から5’末端側及び3’末端側の部分が由来する野生型遺伝子を増幅することなく、当該融合ポリヌクレオチドのみを増幅できることをいい、当該融合ポリヌクレオチドの全部が増幅されてもよいし、融合点を含む当該融合ポリヌクレオチドの一部が増幅されてもよい。
【0153】
PCR等で利用する「一対のプライマーであるポリヌクレオチド」は、標的となる融合ポリヌクレオチドを特異的に増幅するセンスプライマー(フォワードプライマー)とアンチセンスプライマー(リバースプライマー)とからなり、センスプライマーは当該融合ポリヌクレオチドの融合点から5’末端側の塩基配列から設計し、アンチセンスプライマーは当該融合ポリヌクレオチドの融合点から3’末端側の塩基配列から設計する。またこれらのプライマーは、PCR法による検出の精度や感度の観点から、通常PCR産物が5 kb以下になるよう設計される。プライマーの設計は、公知の手法により適宜行なうことができ、例えば、Primer Express(登録商標)ソフトウェア(Applied Biosystems)を利用することができる。これらのポリヌクレオチドの長さは、通常15塩基以上(好ましくは16、17、18、19または20塩基以上、より好ましくは21塩基以上)であり、100塩基以下(好ましくは90、80、70、60、50または40塩基以下、より好ましくは30塩基以下)である。
【0154】
「一対のプライマーであるポリヌクレオチド」の好適な例としては、EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドに対しては配列番号11で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと配列番号12で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとからなるプライマーセット、KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドに対しては配列番号13で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと配列番号14で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとからなるプライマーセット、TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドに対しては配列番号15で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと配列番号16で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとからなるプライマーセット、CD74-NRG1融合ポリヌクレオチドに対しては配列番号17で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと配列番号18で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとからなるプライマーセット、そしてSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドに対しては配列番号37で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと配列番号18で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドとからなるプライマーセットが挙げられる(後述の表1を参照のこと)。
【0155】
PCRを利用して融合ポリヌクレオチドを検出する場合、PCR産物を対象としてダイレクトシークエンシングを行い、融合点を含む塩基配列を決定することで、5’側の遺伝子部分と3’側の遺伝子部分とがインフレームで連結されていることおよび/または融合ポリヌクレオチド中に所定のドメインが含まれていることを確認することができる。シークエンシングは公知の手法により行うことができ、シークエンサー(例えば、ABI-PRISM 310 Genetic Analyzer(Applied Biosystems Inc.)などを)を取扱説明書に従って使用することにより、簡単に実施することができる。
【0156】
またPCRを利用して融合ポリヌクレオチドを検出する場合、TaqManプローブ法をにより、5’側の遺伝子部分と3’側の遺伝子部分とがインフレームで連結されていることおよび/または融合ポリヌクレオチド中に所定のドメインが含まれていることを確認することができる。TaqManプローブ法において使用するプローブとしては、例えば前記(a)または(b)に記載のポリヌクレオチドが挙げられる。プローブは、レポーター色素(例えば、FAM、FITC、VIC等)とクエンチャー(例えば、TAMRA、Eclipse、DABCYL、MGBなど)で標識される。
【0157】
上記プライマー及びプローブは、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAである。またその一部又は全部において、PNA(polyamide nucleic acid、ペプチド核酸)、LNA(登録商標、locked nucleic acid、Bridged Nucleic Acid、架橋化核酸)、ENA(登録商標、2'-O,4'-C-Ethylene-bridged nucleic acids)、GNA(Glycerol nucleic acid、グリセロール核酸)、TNA(Threose nucleic acid、トレオース核酸)等の人工核酸によって、ヌクレオチドが置換されているものであってもよい。また上記プライマー及びプローブは、二本鎖であっても一本鎖であってもよいが、好ましくは一本鎖である。
【0158】
また上記プライマーおよびプローブは、標的配列に特異的にハイブリダイズし得る限り、1又は複数のヌクレオチドのミスマッチを含んでいてもよく、標的配列の相補配列に対して通常80%以上、好ましくは90、91、92、93、94%以上、より好ましくは95、96、97、98、99%以上の同一性を有し、最も好ましくは100%の同一性を有する。
【0159】
上記プライマー及びプローブは、例えば、本明細書に記載された塩基配列の情報に基づいて、DNA/RNA自動合成機を用いて常法に従って合成することができる。
【0160】
本発明の検出方法においては、全トランスクリプトームシークエンシング(RNAシークエンシング)またはゲノムシークエンシングにより融合ポリヌクレオチドを検出してもよい。これらの手法は、例えば、次世代シークエンサー(例えば、ゲノムアナライザーIIx(Illumina社)、ハイセックシークエンサー(HiSeq2000、イルミナ社)ゲノムシークエンサー FLX System(Roche社)など)を使用して製造者の説明書に従って行なうことができる。RNAシークエンシングは、例えば、市販のキット(例えば、mRNA-Seqサンプル調製キット(Illumina社)など)を用いて製造者の説明書に従ってトータルRNAからcDNAライブラリーを調製し、これを次世代シークエンサーを使用するシークエンシングに供することにより行なうことができる。
【0161】
本発明の検出方法において、融合ポリヌクレオチドの翻訳産物(すなわち、融合ポリヌクレオチド)を対象とする場合、例えば、免疫染色法、ウェスタンブロッティング法、RIA法、ELISA法、フローサイトメトリー法、免疫沈降法、抗体アレイ解析などを利用して当該翻訳産物を検出することができる。これらの方法においては、融合ポリペプチドを特異的に認識する抗体が用いられる。ここで「融合ポリペプチドを特異的に認識する」とは、当該融合ポリペプチドの融合点からN末端側及びC末端側の部分が由来する野生型タンパク質を含めて当該融合ポリペプチド以外のタンパク質を認識することなく、当該融合ポリペプチドのみを認識することをいう。本発明の検出方法において使用される「融合ポリペプチドを特異的に認識する」抗体は、1つの抗体であってもよいし、2つ以上の抗体の組み合わせであってもよい。
【0162】
「融合ポリペプチドを特異的に認識する抗体」としては、融合ポリペプチドの融合点を含むポリペプチドに特異的な抗体(以下、「融合点特異的抗体」とも称する)が挙げられる。ここで、「融合点特異的抗体」とは、前記融合点を含むポリペプチドに特異的に結合するが、N末端側及びC末端側の部分が由来する野生型タンパク質には結合しない抗体を意味する。
【0163】
また「融合ポリペプチドを特異的に認識する抗体」としては、融合ポリペプチドの融合点からN末端側の領域からなるポリペプチドに結合する抗体と融合ポリペプチドの融合点からC末端側の領域からなるポリペプチドに結合する抗体の組み合わせも挙げられる。これら2つの抗体を用いてサンドイッチELISA、免疫染色法、免疫沈降法、ウェスタンブロッティング法などを行なうことにより、融合ポリペプチドを検出することができる。
【0164】
本発明において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換え技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体、一本鎖抗体、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。結合性断片とは、特異的結合活性を有する前記抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばFab、Fab’、F(ab')
2、Fv、及び単鎖抗体などが挙げられる。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgEなどのいずれのアイソタイプを有する抗体であってもよいが、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
【0165】
「融合ポリペプチドを特異的に認識する抗体」は、当業者であれば適宜公知の手法を選択して調製することができる。かかる公知の手法としては、前記融合ポリペプチドの融合点を含むポリペプチド、前記融合ポリペプチドの融合点からN末端側の領域からなるポリペプチド、または前記融合ポリペプチドの融合点からC末端側の領域からなるポリペプチドを免疫動物に接種し、該動物の免疫系を活性化させた後、該動物の血清(ポリクローナル抗体)を回収する方法や、ハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法等のモノクローナル抗体の作製方法が挙げられる。市販の抗体を利用してもよい。また標識物質を結合させた抗体を用いれば、当該標識を検出することにより、標的蛋白質を直接検出することが可能である。標識物質としては、抗体に結合することができ、検出可能なものであれば特に制限されることはなく、例えば、ペルオキシダーゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミンイソチオシアネート(RITC)、アルカリホスファターゼ、ビオチン、及び放射性物質などが挙げられる。さらに、標識物質を結合させた抗体を用いて標的タンパク質を直接検出する方法以外に、標識物質を結合させた二次抗体、プロテインGまたはプロテインA等を用いて標的タンパク質を間接的に検出する方法を利用することもできる。
【0166】
<がんの責任変異(ドライバー変異)である遺伝子融合の検出用キット>
以上のように、がんの責任変異である遺伝子融合により生じる融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドを、前記プライマー、プローブ、または抗体、あるいはそれらの組み合わせを用いて検出することができ、それにより当該遺伝子融合を検出することができる。したがって、本発明は、下記のいずれかまたはそれらの組み合わせを含む、がんの責任変異である遺伝子融合の検出用キット(以下、本発明のキットとも称する)を提供する:
(A)EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチド、KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチド、TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチド、CD74-NRG1融合ポリヌクレオチド、またはSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドを特異的に認識するように設計されたプローブであるポリヌクレオチド;
(B)EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチド、KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチド、TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチド、CD74-NRG1融合ポリヌクレオチド、またはSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計された一対のプライマーであるポリヌクレオチド;あるいは
(C)EZR-ERBB4融合ポリペプチド、KIAA1468-RET融合ポリペプチド、TRIM24-BRAF融合ポリペプチド、CD74-NRG1融合ポリペプチド、またはSLC3A2-NRG1融合ポリペプチドを特異的に認識する抗体。
【0167】
本発明のキットには、ポリヌクレオチドや抗体に加えて、ポリヌクレオチドや抗体に付加した標識の検出に必要な基質、陽性対照(例えば、EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチド、KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチド、TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチド、CD74-NRG1融合ポリヌクレオチド、またはSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチド、EZR-ERBB4融合ポリペプチド、KIAA1468-RET融合ポリペプチド、TRIM24-BRAF融合ポリペプチド、CD74-NRG1融合ポリペプチド、またはSLC3A2-NRG1融合ポリペプチド、あるいはこれらを保持する細胞等)や陰性対照、PCR用試薬、in situハイブリダイゼーション等において用いられる対比染色用試薬(DAPI等)、抗体の検出に必要な分子(例えば、二次抗体、プロテインG、プロテインA)、試料の希釈や洗浄に用いる緩衝液等を適宜組み合わせて含めることができる。本発明のキットには、使用説明書を含めることもできる。本発明のキットを使用することにより、上記本発明の検出方法を容易に実施することが可能である。
【0168】
本発明の検出方法及び検出用キットは、がんの責任変異として新たに見出した遺伝子融合の検出を可能にするものであり、後述のように当該遺伝子融合の陽性例を同定し個別化医療を適用する上で極めて有用である。
【0169】
<がんの患者またはがんのリスクを有する被験者を同定する方法>
前記5種の遺伝子融合は、がんの責任変異であり、それぞれERBB4キナーゼ活性の恒常活性化、RETキナーゼ活性の恒常活性化、BRAFキナーゼ活性の恒常活性化、およびNRG1の細胞増殖因子としての機能の亢進により、がんの悪性化等に寄与していると考えられる。そのため、このような遺伝子融合が検出されるがん患者においては、当該遺伝子融合により生じる融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質による治療が有効である蓋然性が高い。
【0170】
したがって、本発明は、がんの責任変異(ドライバー変異)である遺伝子融合により生じる融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質が治療効果をもたらすがんの患者またはがんのリスクを有する被験者を同定する方法(以下、本発明の同定方法とも称する)を提供する。
【0171】
本発明の同定方法は、下記の工程を含む:
(1)被験者由来の単離された試料における下記(a)〜(e)のいずれかの融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドを検出する工程:
(a)EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドであって、EZRのコイルドコイルドメインの全部または一部及びERBB4のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(b)KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドであって、KIAA1468のコイルドコイルドメインの全部または一部及びRETのキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(c)TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドであって、BRAFのキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(d)CD74-NRG1融合ポリヌクレオチドであって、CD74の膜貫通ドメイン及びNRG1のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびに
(e)SLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドであって、SLC3A2の膜貫通ドメイン及びNRG1のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド;ならびに
(2)前記融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドが検出された場合に、前記ポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質が前記被験者において治療効果をもたらすと判定する工程。
【0172】
本発明の同定方法において、「がんの患者またはがんのリスクを有する被験者」は、がんに罹患しているか、またはがんに罹患している疑いのある哺乳動物、好ましくはヒトである。本発明の同定方法を適用する対象となる「がん」としては、前記5種の遺伝子融合のうちいずれかが検出され得るがんであれば特に限定されないが、好ましくは肺がんであり、さらに好ましくは非小細胞肺がんであり、特に好ましくは肺腺がんである。
【0173】
本発明の同定方法において、「治療効果」とは、がん治療の効果であって、患者に対する有益な効果であれば特に限定されず、例えば、腫瘍縮小効果、無増悪生存期間延長効果、延命効果などが挙げられる。
【0174】
本発明の同定方法において、EZR-ERBB4遺伝子融合に関してがん治療の有効性を評価する対象となる「がんの責任変異(ドライバー変異)である遺伝子融合により生じる融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質」(以下、本発明の同定方法における対象物質とも称する)としては、EZR-ERBB4融合ポリペプチドの発現および/またはその機能を直接または間接的に阻害する物質であれば特に限定されない。
【0175】
EZR-ERBB4融合ポリペプチドの発現を阻害する物質としては、例えば、EZR-ERBB4融合ポリペプチドの発現を抑制するsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(micro RNA)、アンチセンス核酸、これらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクター、低分子化合物などが挙げられる。
【0176】
EZR-ERBB4融合ポリペプチドの機能を阻害する物質としては、例えば、ERBB4キナーゼ活性を阻害する物質(例えば、低分子化合物等)、EZR-ERBB4融合ポリペプチドに結合する抗体等が挙げられる。
【0177】
これらの物質は、EZR-ERBB4融合ポリペプチドの発現および/または活性を特異的に抑制する物質であってもよいし、野生型ERBB4タンパク質の発現および/または活性をも抑制する物質であってもよい。このような物質の具体例としては、afatinib、dacomitinib等が挙げられる。
【0178】
これらの物質は、本明細書中に開示されたEZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドおよび/またはEZR-ERBB4融合ポリペプチドの配列情報等に基づいて、自体公知の方法により調製することができる。また市販の物質を利用してもよい。
【0179】
これらの物質は、がんを有する被験者由来の単離された試料においてEZR-ERBB4融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドが検出された場合に、当該被験者に対してがん治療剤として有効である。
【0180】
KIAA1468-RET遺伝子融合に関して、本発明の同定方法における対象物質としては、KIAA1468-RET融合ポリペプチドの発現および/またはその機能を直接または間接的に阻害する物質であれば特に限定されない。
【0181】
KIAA1468-RET融合ポリペプチドの発現を阻害する物質としては、例えば、KIAA1468-RET融合ポリペプチドの発現を抑制するsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(micro RNA)、アンチセンス核酸、これらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクター、低分子化合物などが挙げられる。
【0182】
KIAA1468-RET融合ポリペプチドの機能を阻害する物質としては、例えば、RETキナーゼ活性を阻害する物質(例えば、低分子化合物等)、KIAA1468-RET融合ポリペプチドに結合する抗体等が挙げられる。
【0183】
これらの物質は、KIAA1468-RET融合ポリペプチドの発現および/または活性を特異的に抑制する物質であってもよいし、野生型RETタンパク質の発現および/または活性をも抑制する物質であってもよい。このような物質の具体例としては、vandetanib、cabozantinib、sorafenib、sunitinib、lenvatinib、ponatinib等が挙げられる。
【0184】
これらの物質は、本明細書中に開示されたKIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドおよび/またはKIAA1468-RET融合ポリペプチドの配列情報等に基づいて、自体公知の方法により調製することができる。また市販の物質を利用してもよい。
【0185】
これらの物質は、がんを有する被験者由来の単離された試料においてKIAA1468-RET融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドが検出された場合に、当該被験者に対してがん治療剤として有効である。
【0186】
TRIM24-BRAF遺伝子融合に関して、本発明の同定方法における対象物質としては、TRIM24-BRAF融合ポリペプチドの発現および/またはその機能を直接または間接的に阻害する物質であれば特に限定されない。
【0187】
TRIM24-BRAF融合ポリペプチドの発現を阻害する物質としては、例えば、TRIM24-BRAF融合ポリペプチドの発現を抑制するsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(micro RNA)、アンチセンス核酸、これらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクター、低分子化合物などが挙げられる。
【0188】
TRIM24-BRAF融合ポリペプチドの機能を阻害する物質としては、例えば、BRAFキナーゼ活性を阻害する物質(例えば、低分子化合物等)、TRIM24-BRAF融合ポリペプチドに結合する抗体等が挙げられる。
【0189】
これらの物質は、TRIM24-BRAF融合ポリペプチドの発現および/または活性を特異的に抑制する物質であってもよいし、野生型BRAFタンパク質の発現および/または活性をも抑制する物質であってもよい。このような物質の具体例としては、vemurafenib、dabrafenib等が挙げられる。
【0190】
これらの物質は、本明細書中に開示されたTRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドおよび/またはTRIM24-BRAF融合ポリペプチドの配列情報等に基づいて、自体公知の方法により調製することができる。また市販の物質を利用してもよい。
【0191】
これらの物質は、がんを有する被験者由来の単離された試料においてTRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドが検出された場合に、当該被験者に対してがん治療剤として有効である。
【0192】
CD74-NRG1遺伝子融合に関して、本発明の同定方法における対象物質としては、CD74-NRG1融合ポリペプチドの発現および/またはその機能を直接または間接的に阻害する物質であれば特に限定されない。
【0193】
CD74-NRG1融合ポリペプチドの発現を阻害する物質としては、例えば、CD74-NRG1融合ポリペプチドの発現を抑制するsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(micro RNA)、アンチセンス核酸、これらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクター、低分子化合物などが挙げられる。
【0194】
CD74-NRG1融合ポリペプチドの機能を阻害する物質としては、例えば、NRG1の細胞内情報伝達を亢進する活性を阻害する物質(例えば、低分子化合物等)、CD74-NRG1融合ポリペプチドに結合する抗体等が挙げられる。
【0195】
これらの物質は、CD74-NRG1融合ポリペプチドの発現および/または活性を特異的に抑制する物質であってもよいし、野生型NRG1タンパク質の発現および/または活性をも抑制する物質であってもよい。このような物質の具体例としては、NRG1タンパク質の切断に関与するBACEタンパク質の阻害剤MK-8931、E2609等が挙げられる。
【0196】
これらの物質は、本明細書中に開示されたCD74-NRG1融合ポリヌクレオチドおよび/またはCD74-NRG1融合ポリペプチドの配列情報等に基づいて、自体公知の方法により調製することができる。また市販の物質を利用してもよい。
【0197】
さらに、野生型NRG1タンパク質は、その受容体であるHERタンパク質群に属するタンパク質を介して細胞内情報伝達を亢進すると考えられることから、本発明の同定方法における対象物質としては、HERタンパク質の発現および/またはその機能を直接または間接的に阻害する物質も挙げられる。ここでHERタンパク質群は、チロシンキナーゼ型受容体の一群であり、HER1(ErbB1)、HER2(ErbB2)、HER3(ErbB3)、およびHER4(ErbB4)の4つのタンパク質が含まれる。
【0198】
HERタンパク質の発現を阻害する物質としては、例えば、HERタンパク質の発現を抑制するsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(micro RNA)、アンチセンス核酸、これらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクター、低分子化合物などが挙げられる。
【0199】
HERタンパク質の機能を阻害する物質としては、例えば、HERタンパク質のキナーゼ活性を阻害する物質(例えば、低分子化合物等)、HERタンパク質に結合する抗体等が挙げられる。このような物質の具体例としては、rapatinib、afatinib、dacomitinib、trastuzumab等が挙げられる。
【0200】
これらの物質は、公知の配列情報等に基づいて、自体公知の方法により調製することができる。また市販の物質を利用してもよい。
【0201】
これらの物質は、がんを有する被験者由来の単離された試料においてCD74-NRG1融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドが検出された場合に、当該被験者に対してがん治療剤として有効である。
【0202】
SLC3A2-NRG1遺伝子融合に関して、本発明の同定方法における対象物質としては、SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドの発現および/またはその機能を直接または間接的に阻害する物質であれば特に限定されない。
【0203】
SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドの発現を阻害する物質としては、例えば、SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドの発現を抑制するsiRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、miRNA(micro RNA)、アンチセンス核酸、これらのポリヌクレオチドを発現し得る発現ベクター、低分子化合物などが挙げられる。
【0204】
SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドの機能を阻害する物質としては、例えば、NRG1の細胞内情報伝達を亢進する活性を阻害する物質(例えば、低分子化合物等)、SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドに結合する抗体等が挙げられる。
【0205】
これらの物質は、SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドの発現および/または活性を特異的に抑制する物質であってもよいし、野生型NRG1タンパク質の発現および/または活性をも抑制する物質であってもよい。このような物質の具体例としては、NRG1タンパク質の切断に関与するBACEタンパク質の阻害剤MK-8931、E2609等が挙げられる。
【0206】
これらの物質は、本明細書中に開示されたSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドおよび/またはSLC3A2-NRG1融合ポリペプチドの配列情報等に基づいて、自体公知の方法により調製することができる。また市販の物質を利用してもよい。
【0207】
さらに、野生型NRG1タンパク質は、その受容体であるHERタンパク質群に属するタンパク質を介して細胞内情報伝達を亢進すると考えられることから、本発明の同定方法における対象物質としては、HERタンパク質の発現および/またはその機能を直接または間接的に阻害する物質も挙げられる。これらの物質の例としては、上記CD74-NRG1遺伝子融合に関して列挙した物質が挙げられる。
【0208】
これらの物質は、公知の配列情報等に基づいて、自体公知の方法により調製することができる。また市販の物質を利用してもよい。
【0209】
これらの物質は、がんを有する被験者由来の単離された試料においてSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドが検出された場合に、当該被験者に対してがん治療剤として有効である。
【0210】
本発明の同定方法における工程(1)は、前記本発明の検出方法に含まれる工程と同様に実施することができる。
【0211】
本発明の同定方法における工程(2)では、工程(1)でがんを有する被験者(すなわちがんの患者またはがんのリスクを有する被験者)由来の単離された試料において融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドが検出された場合に、本発明の同定方法における対象物質が前記被験者において治療効果をもたらすと判定され、一方、融合ポリヌクレオチドまたはそれによりコードされるポリペプチドが検出されなかった場合には、本発明の同定方法における対象物質が前記被験者において治療効果をもたらす可能性が低いと判定される。
【0212】
本発明の同定方法によれば、がんの患者またはがんのリスクを有する被験者の中からがんの責任変異として新たに見出した遺伝子融合の陽性例を検出し、当該遺伝子融合により生じる融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質が治療効果をもたらすがんの患者またはがんのリスクを有する被験者を同定することが可能であり、本発明はそのような対象に適した治療を行うことが可能になる点で有用である。
【0213】
<がんの治療方法およびがん治療剤>
上記の通り、本発明の同定方法により、前記5種の遺伝子融合のいずれかにより生じる融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質が治療効果をもたらすがん患者が同定される。そのため、がん患者のうち、当該融合遺伝子を保持する患者に選択的に当該物質を投与することにより、効率的にがんの治療を行うことが可能である。従って、本発明は、がんの治療方法であって、上記本発明の同定方法により当該物質が治療効果をもたらすと判定された被験者に、当該物質を投与する工程を含む方法(以下、本発明の治療方法とも称する)を提供する。
【0214】
また、本発明の治療方法において投与される物質はがん治療剤として機能することから、本発明はさらに、前記5種の遺伝子融合のいずれかにより生じる融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質を有効成分とするがん治療剤(以下、本発明のがん治療剤とも称する)を提供する。
【0215】
本発明のがん治療剤としては、上記本発明の同定方法に関連して、前記5種の遺伝子融合のいずれかにより生じる融合ポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの発現および/または活性を抑制する物質として記載した物質が挙げられる。
【0216】
本発明のがん治療剤は、それらの製剤化に通常用いられる薬理学上許容される担体、賦形剤、および/またはその他の添加剤を用いて、医薬組成物として調製することができる。
【0217】
本発明のがん治療剤の投与方法は、当該阻害剤の種類やがんの種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、経口、静脈内、腹腔内、経皮、筋肉内、気管内(エアゾール)、直腸内、膣内等の投与形態を採用することができる。
【0218】
本発明のがん治療剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等を考慮して、適宜決定することができる。
【0219】
本発明の治療方法およびがん治療剤は、従来知られておらず本願発明により明らかとなった特定のがんの責任変異を有する患者の治療を可能にするため有用である。
【0220】
<がん治療剤のスクリーニング方法>
本発明は、前記4種の遺伝子融合のいずれかを有するがん患者に対して治療効果をもたらすがん治療剤のスクリーニング方法(以下、本発明のスクリーニング方法とも称する)を提供する。本発明のスクリーニング方法により、前記5種の融合ポリペプチド(すなわち、EZR-ERBB4融合ポリペプチド、KIAA1468-RET融合ポリペプチド、TRIM24-BRAF融合ポリペプチド、CD74-NRG1融合ポリペプチド、およびSLC3A2-NRG1融合ポリペプチド)のうちいずれかの発現および/または活性を抑制する物質を、がん治療剤として得ることができる。
【0221】
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる化合物又は組成物であってもよく、例えば、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和又は不飽和の直鎖、分岐鎖及び/又は環を含む脂肪酸)、アミノ酸、タンパク質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、低分子化合物、化合物ライブラリー、ランダムペプチドライブラリー、天然成分(例、微生物、動植物、海洋生物等由来の成分)、あるいは食品等が挙げられる。
【0222】
本発明のスクリーニング方法は、被験物質が前記4種の融合ポリペプチドのうちいずれかの発現および/または活性を抑制するか否かを評価可能である限り、いかなる形態であってもよい。典型的には、本発明のスクリーニング方法は、下記の工程を含む:
(1)EZR-ERBB4融合ポリペプチド、KIAA1468-RET融合ポリペプチド、TRIM24-BRAF融合ポリペプチド、CD74-NRG1融合ポリペプチド、またはSLC3A2-NRG1融合ポリペプチドを発現している細胞に被験物質を接触させる工程;
(2)前記融合ポリペプチドの発現および/または活性が抑制されるか否かを決定する工程;ならびに
(3)前記融合ポリペプチドの発現および/または活性を抑制すると決定された物質をがん治療剤として選択する工程。
【0223】
工程(1)では、前記5種の融合ポリペプチドのうちいずれかを発現している細胞と被験物質を接触させる。対照として、被験物質を含まない溶媒(例えば、DMSOなど)を用いることができる。当該接触は、培地中で行うことができる。培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0224】
前記5種の融合ポリペプチドのうちいずれかを発現している細胞としては、例えば、内在的に当該融合ポリペプチドを発現しているがん組織由来の細胞、当該細胞から誘導された細胞株、遺伝子工学的に作製された細胞株などが挙げられるが、これらに限定されない。ある細胞が前記5種の融合ポリペプチドのうちいずれかを発現しているか否かは、上記本発明の検出方法を利用して確認することもできる。また細胞は、通常哺乳動物の細胞であり、好ましくはヒトの細胞である。
【0225】
工程(2)では、前記融合ポリペプチドの発現および/または活性が抑制されるか否かが決定される。融合ポリペプチドの発現は、細胞におけるmRNAレベルまたはタンパク質レベルを公知の分析方法、例えば、ノーザンブロット法、定量的PCR法、イムノブロット法、ELISA法等を用いて決定することにより測定することができる。また融合ポリペプチドの活性も、公知の分析方法(例えば、キナーゼ活性測定など)により測定することができる。得られた測定値を被験物質と接触させない対照細胞における測定値と比較する。測定値の比較は、好ましくは有意差の有無に基づいて行われる。被験物質と接触させた細胞における測定値が対照と比較して有意に低い場合、当該被験物質が融合ポリペプチドの発現および/または活性を抑制すると決定することができる。
【0226】
あるいは、これらの融合ポリペプチドを発現している細胞は、増殖が亢進していることから、当該細胞の増殖を本工程における決定のための指標とすることができる。この場合、まず、被験物質と接触させた当該細胞の増殖を測定する。細胞増殖の測定は、セルカウント、
3Hチミジンの取り込み、BRDU法等の自体公知の方法により行うことができる。次に、被験物質と接触させた当該細胞の増殖を、被験物質と接触させない対照細胞の増殖と比較する。増殖レベルの比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質と接触させない対照細胞の増殖は、被験物質と接触させた細胞の増殖の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。比較の結果、被験物質と接触させた当該細胞の増殖が抑制された場合に、当該被験物質が融合ポリペプチドの発現および/または活性を抑制すると決定することができる。
【0227】
工程(3)では、工程(2)において融合ポリペプチドの発現および/または活性を抑制すると決定された被験物質をがん治療剤として選択する。
【0228】
以上のように、本発明のスクリーニング方法によれば、従来知られていなかったがんの責任変異を有する患者の治療に適用可能ながん治療剤を取得することが可能となる。
【0229】
<単離された融合ポリペプチドまたはその断片、およびそれらをコードするポリヌクレオチド>
本発明は、以下の単離された融合ポリペプチド(以下、本発明の融合ポリペプチドとも称する)またはその断片を提供する:
(1)EZRタンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部及びERBB4タンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有する、単離されたEZR-ERBB4融合ポリペプチド、
(2)KIAA1468タンパク質のコイルドコイルドメインの全部または一部及びRETタンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有する、単離されたKIAA1468-RET融合ポリペプチド、
(3)BRAFタンパク質のキナーゼドメインを含みかつキナーゼ活性を有する、単離されたTRIM24-BRAF融合ポリペプチド、
(4)CD74タンパク質の膜貫通ドメイン及びNRG1タンパク質のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有する、単離されたCD74-NRG1融合ポリペプチド、ならびに
(5)SLC3A2タンパク質の膜貫通ドメイン及びNRG1タンパク質のEGFドメインを含みかつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有する、単離されたSLC3A2-NRG1融合ポリペプチド。
【0230】
本明細書中、「単離された」物質とは、ある物質が天然に存在する環境(例えば、生物体の細胞内)の他の物質(好ましくは、生物学的因子)(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。本明細書において「単離された」とは、好ましくは75重量%以上、より好ましくは85重量%以上、よりさらに好ましくは95重量%以上、そして最も好ましくは96重量%以上、97重量%以上、98重量%以上、99重量%以上、又は100%の純度を有することを意味する。「単離された」ポリヌクレオチドおよびポリペプチドには、標準的な精製方法によって精製されたポリヌクレオチドおよびポリペプチドが含まれ、また化学的に合成したポリヌクレオチドおよびポリペプチドも含まれる。
【0231】
上記(1)〜(5)中のその他の各用語の意味については、上記<具体的ながんの責任変異>において記載した通りである。
【0232】
「断片」とは、本発明の融合ポリペプチドの断片であって、融合点の上流および下流の配列を含む連続した部分配列からなるものをいう。当該部分配列に含まれる融合点の上流の配列は、融合点から1アミノ酸残基以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、100アミノ酸残基以上)を含み、本発明の融合ポリペプチドのN末端までを含みうる。当該部分配列に含まれる融合点の下流の配列は、融合点から1アミノ酸残基以上(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、30、40、50、100アミノ酸残基以上)を含み、本発明の融合ポリペプチドのC末端までを含みうる。断片の長さは、特に限定されないが、通常8アミノ酸残基以上(例えば、9、10、11、12、13、14、15、20、25、50、100アミノ酸残基以上)である。
【0233】
また本発明の融合ポリペプチドは、例えば下記の単離された融合ポリペプチドであり得る。
(1)EZR-ERBB4融合ポリペプチドに関して、
(i)配列番号2で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド、あるいは
(iii)配列番号2で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド;
(2)KIAA1468-RET融合ポリペプチドに関して、
(i)配列番号4で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド、あるいは
(iii)配列番号4で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド;
(3)TRIM24-BRAF融合ポリペプチドに関して、
(i)配列番号6で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド、あるいは
(iii)配列番号6で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつキナーゼ活性を有するポリペプチド;
(4)CD74-NRG1融合ポリペプチドに関して、
(i)配列番号8または10で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号8または10で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチド、あるいは
(iii)配列番号8または10で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチド;ならびに
(5)SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドに関して、
(i)配列番号36で表わされるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(ii)配列番号36で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいて、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチド、あるいは
(iii)配列番号36で表されるアミノ酸配列と80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつ細胞内情報伝達を亢進する活性を有するポリペプチド。
【0234】
上記(i)〜(iii)中の各用語の意味については、上記<具体的ながんの責任変異>において記載した通りである。
【0235】
さらに本発明は、上記本発明の融合ポリペプチドまたはその断片をコードする単離されたポリヌクレオチド(以下、本発明のポリヌクレオチドとも称する)を提供する。本発明のポリヌクレオチドは、mRNA、cDNAおよびゲノムDNAのいずれであってもよい。また二本鎖であっても一本鎖であってもよい。
【0236】
EZR-ERBB4融合ポリペプチドをコードするcDNAの典型例は、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0237】
KIAA1468-RET融合ポリペプチドをコードするcDNAの典型例は、配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0238】
TRIM24-BRAF融合ポリペプチドをコードするcDNAの典型例は、配列番号5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0239】
CD74-NRG1融合ポリペプチドをコードするcDNAの典型例は、配列番号7または9で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0240】
SLC3A2-NRG1融合ポリペプチドをコードするcDNAの典型例は、配列番号35で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
【0241】
本発明のポリヌクレオチドは、自体公知の方法により作製することができる。例えば、EZR-ERBB4融合ポリヌクレオチド、KIAA1468-RET融合ポリヌクレオチド、TRIM24-BRAF融合ポリヌクレオチド、CD74-NRG1融合ポリヌクレオチド、またはSLC3A2-NRG1融合ポリヌクレオチドを保持するがん組織等から調製したcDNAライブラリーまたはゲノムライブラリーから公知のハイブリダイゼーション技術を利用して抽出することができる。また、前記がん組織等から調製したmRNA、cDNAまたはゲノムDNAを鋳型として公知の遺伝子増幅技術(PCR)を用いて増幅することにより調製することもできる。さらに、各融合ポリヌクレオチドの5’末端側及び3’末端側の部分が由来する野生型遺伝子のcDNAを材料とし、PCR、制限酵素処理、部位特異的変異誘発(site-directed mutagenesis)法(Kramer, W. & Fritz, HJ., Methods Enzymol, 1987, 154, 350.)等の公知の遺伝子増幅技術や組換え技術を利用して調製することもできる。
【0242】
本発明の融合ポリペプチドまたはその断片も、自体公知の方法により作製することができる。例えば、上記のようにして調製したポリヌクレオチドを適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを無細胞タンパク質合成系(例えば、網状赤血球抽出液、小麦胚芽抽出液)に導入してインキュベーションすることにより、また該ベクターを適当な細胞(例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞)に導入し、得られた形質転換体を培養することにより、本発明の融合ポリペプチドを調製することができる。
【0243】
本発明の融合ポリペプチドまたはその断片は、本発明の検出方法等におけるマーカーとして使用することができ、また本発明の融合ポリペプチドに対する抗体の作製等にも使用することができる。
【実施例】
【0244】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0245】
<サンプル>
がん患者から採取した肺組織からトータルRNAを調製した。
【0246】
トータルRNAは、大まかに切り分けて凍結した組織サンプルから製造者のインストラクションに従いトリゾール試薬を用いて抽出し、モデル2100 バイオアナライザー(model 2100 bioanalyzer、アジレント・テクノロジー社製)を用いて質の検定を行った。その結果、全てのサンプルが6を超えるRIN(RNA integrity number)値を示した。また、組織サンプルからは、QIAamp DNAミニキット(登録商標、キアゲン社製)を用いてゲノムDNAも抽出した。なお、この研究は、本研究に係る組織の倫理審査員会の承認を得て進められた。
【0247】
<RNAシークエンシング>
RNAシークエンシングのためのcDNAライブラリーは製造者の標準プロトコールに従い、mRNA-Seqサンプル調製キット(イルミナ社製)を用いて調製した。簡潔に説明すると、2μgのトータルRNAからpoly-A(+)RNAを精製し、フラグメンテーション緩衝液で94℃、5分加熱することで断片化した後、2本鎖cDNA合成に用いた。得られた2本鎖cDNAをPEアダプターDNAにライゲ―ションした後、PCRで増幅した。このように作成したライブラリーをゲノムアナライザーIIxシークエンサー(GAIIx、イルミナ社製)、又はハイセックシークエンサー(HiSeq2000、イルミナ社製)を用いた50-bp又は75-bpのペアエンドシークエンスに供した。
【0248】
<融合転写産物の検出>
融合転写産物の検出は、McPherson, A. et al PLoS Comput Biol. 2011 May;7(5):e1001138に記載されるdeFuseプログラムを用いて行った。具体的には、スプライスされた遺伝子配列とスプライスされていない遺伝子配列からなる参照配列にペアエンドリードをアライン(Align)した。次に、参照配列に一致しないアラインメント(ambiguous discordant alignments)について、可能な2遺伝子の遺伝子融合を仮定し、アラインメントを行った。そして、遺伝子融合をヌクレオチドレベルで支持するような2つの遺伝子に亘るスプリットリードを検出し、スプリットリードとそれぞれが2つの遺伝子にマップされるペアエンドリード(スパニングリード)による確証性、スパニングリード間のヌクレオチド長の整合性を考慮し、遺伝子融合の候補とした。次に、当該候補より、コードされるであろうアミノ酸構造が、タンパク質キナーゼやキナーゼが司る細胞内情報伝達経路の活性化をもたらすような遺伝子融合を抽出した。
【0249】
<RT-PCR、ゲノムPCR、サンガーシークエンシング>
トータルRNA(500 ng)をスーパースクリプトIII逆転写酵素(登録商標、インビトロジェン社製)を用いて逆転写した。得られたcDNA(10 ngのトータルRNAに相当)もしくは10 ngのゲノムDNAをKAPA Taq DNAポリメラーゼ(KAPAバイオシステムス社製)を用いたPCR増幅に供した。反応は次の条件のもとサーマルサイクラー内で行った:95℃30秒、60℃30秒、72℃2分を40サイクル、その後72℃10分最終伸長反応。また、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をコードする遺伝子をcDNA合成の効率の評価のため増幅した。さらに、PCR産物はBigDyeターミネーターキットとABI 3130xl DNAシークエンサー(アプライドバイオシステムス社製)とを用いて、両方向に塩基配列を直接決定した。なお、本研究で用いたプライマーを表1に示す。
【0250】
【表1】
【0251】
(実施例1)
本実施例は、肺がん組織における新規融合転写産物の同定について記載する。
【0252】
治療標的となりうる新規融合転写産物を同定するため、114例の肺腺がんと3例の非がん肺組織の全トランスクリプトームシークエンシング(RNAシークエンシング、Meyerson, M. et al., Nat Rev Genet, 2010, 11, 685-696)を行った。
【0253】
RNAシークエンシングで得られたペアエンドリードを解析し、逆転写(RT)-PCR産物のサンガーシークエンシングを行った。その結果、表2及び
図1に示すように、4つの新規融合遺伝子産物が同定された。
【0254】
【表2】
【0255】
EZR-ERBB4は、染色体転座t(2;6)により生じた、染色体6q25に存在するEZR遺伝子と染色体2q34に存在するERBB4遺伝子との融合遺伝子である。
【0256】
KIAA1468-RETは、染色体転座t(10;18)により生じた、染色体18q21に存在するKIAA1468遺伝子と染色体10q11に存在するRET遺伝子との融合遺伝子である。
【0257】
TRIM24-BRAFは、染色体逆位inv7により生じた、染色体7q33に存在するTRIM24遺伝子と染色体7q34に存在するBRAF遺伝子との融合遺伝子である。
【0258】
CD74-NRG1は、染色体転座t(5;8)により生じた、染色体5q32に存在するCD74遺伝子と染色体8p12に存在するNRG1遺伝子との融合遺伝子である。
【0259】
これらのうち、EZR-ERBB4、KIAA1468-RET及びTRIM24-BRAFは、それぞれ1例の肺がんサンプルから検出された。一方、CD74-NRG1は、異なる2例の肺がんサンプルから切断点の異なるバリアントが検出された(variant 1及び2)。
【0260】
(実施例2)
本実施例は、実施例1で見出された遺伝子融合のRT-PCRによる検出について記載する。
【0261】
各融合遺伝子について、5’側及び3’側遺伝子部分のcDNA配列に由来するPCRプライマー(それぞれフォワードプライマー及びリバースプライマー)を作製した(表1)。これらのプライマーを用いて、がん組織由来RNAから合成したcDNAを鋳型としてPCR増幅を行った。
【0262】
PCR産物の電気泳動図を
図2に示す。一部の試料において特異的なバンドの増幅が認められ、さらにPCR産物の塩基配列を決定した結果、融合遺伝子の一部が増幅されたことが確認された。
【0263】
以上の結果から、RT-PCRによる特異的なバンドの増幅の有無の検査やPCR産物の塩基配列決定により、実施例1で見出された遺伝子融合を検出することができることが示された。
【0264】
(実施例3)
本実施例は、実施例1で見出された遺伝子融合が肺がんの責任変異である可能性が高いことを示す。
【0265】
実施例1において新規遺伝子融合が見出された5例の肺がんにおける、他の公知のがんの責任変異であるEGFR点変異・インフレーム欠失変異(EGFR point mutation, EGFR in-flame deletion mutation)、KRAS点変異(KRAS point mutation)、BRAF点変異(BRAF point mutation)、HER2インフレーム挿入変異(HER2 in-flame insertion mutation)、EML4-ALK遺伝子融合(EML4-ALK fusion)、KIF5B-RET遺伝子融合(KIF5B-RET fusion)、CCDC6-RET遺伝子融合(CCDC6-RET fusion)、CD74-ROS1遺伝子融合(CD74-ROS1 fusion)、EZR-ROS1遺伝子融合(EZR-ROS1 fusion)及びSLC34A2-ROS1遺伝子融合(SLC34A2-ROS1 fusion)の有無を調べた。
【0266】
その結果、前記5例の肺がんのいずれも他の公知の変異については陰性であり、4種の新規遺伝子融合と他の公知のがんの責任変異とは相互排他的な関係にあった。
【0267】
この結果から、4種の新規遺伝子融合はがんの責任変異であることが示された。
【0268】
(実施例4)
本実施例および実施例5には、実施例1において解析した114例に含まれる90例についてさらに解析を行った結果を示す。
【0269】
材料と方法
<サンプル>
90例のIMAは、1998年から2013年までに国立がん研究センター中央病院(東京、日本)で外科的処置を受けた原発性肺腺がんを有する連続する患者から同定した。組織学的診断は、LADCについての最新の世界保健機関の分類およびthe International Association for the Study of Lung Cancer/American Thoracic Society/European Respiratory Society(IASLC/ATS/ERS)の基準に基づいた(Travis WD, et al. J Thorac Oncol. 2011, 6, 244-85; Travis WD, Brambilla, E., Muller-Hermelink, H.K. and Harris, C.C. , editor. World Health Organization Classification of Tumors; Pathology and Genetics, Tumours of Lung, Pleura, Thymus and Heart. Lyon: IARC Press; 2004)。トータルRNAは、大まかに切り、急速凍結した(snap-frozen)組織サンプルから、TRIzol(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)を使用して抽出した。研究は、参加機関の治験審査委員会によって承認された。
【0270】
<RNAシークエンシング>
RNAシークエンシングライブラリーは、1または2μgのトータルRNAから、mRNA-Seq Sample Prep KitまたはTruSeq RNA Sample Prep Kit(Illumina、San Diego、CA、USA)を使用して調製した。得られたライブラリーを、Genome Analyzer IIx(GAIIx)またはHiSeq 2000(Illumina)による50または75 bpリードのペアエンドシークエンシングに供した。TopHat-Fusionアルゴリズム(Kim D, Salzberg SL. TopHat-Fusion: an algorithm for discovery of novel fusion transcripts. Genome Biol. 2011, 12, R72)を使用して、融合転写産物を検出した。
【0271】
<融合産物の発がん特性の試験>
CD74-NRG1、EZR-ERBB4およびTRIM24-BRAF融合タンパク質の発現用のレンチウイルスベクターを構築するために、全長cDNAをPCRにより腫瘍のcDNAから増幅し、pLenti-6/V5-DESTプラスミド(Invitrogen)に挿入した。各インサートcDNAの完全性を、サンガーシークエンシングにより確認した。予測されたサイズの融合産物の発現を、一過性にトランスフェクトした細胞およびウイルス感染させた細胞のウェスタンブロット解析により確認した(
図3)。
【0272】
<サンプル>
IMA患者は、1998年から2013年までに国立がん研究センター中央病院(東京、日本)で外科的処置を受けた全てのLADC症例のおよそ2%を構成した。切除された組織は、10%ホルマリンで固定され、パラフィンに包埋されていた。4μmの連続切片をアルシアンブルー−過ヨウ素酸シッフ法を使用してヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、細胞質のムチン産生を可視化した。トータルRNAは、大まかに切り、急速凍結した(snap-frozen)組織サンプルから、TRIzol(Invitrogen、Carlsbad、CA、USA)を使用して抽出し、その品質を2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies、Santa Clara、CA、USA)を使用して調べた。全てのサンプルは、>6.0のRNAインテグリティーナンバー(RNA Integrity Numbers(RINs))を有していた。ゲノムDNAも、組織サンプルから、QIAamp DNA Mini kit(Qiagen、Valencia、CA、USA)を使用して抽出した。EGFR、KRAS、BRAF、およびHER2遺伝子におけるホットスポット変異を高解像度融解(HRM)法によって調べ、EML4-またはKIF5B-ALK、KIF5B-またはCCDC6-RET、およびCD74-、EZR-、またはSLC34A2-ROS1融合をRT-PCRによって調べた。詳細な方法は、以前に記載されている(Kohno T, et al. Nat Med. 2012, 18, 375-7; Yoshida A, et al. Am J Surg Pathol. 2013, 37, 554-62; Kinno T, et al. Ann Oncol. 2014, 25, 138-42)。
【0273】
<RT-PCRおよびサンガーシークエンシング>
トータルRNA(500 ng)を、Superscript III Reverse Transcriptase(Invitrogen)を使用してcDNAに逆転写した。cDNA(10 ngのトータルRNAに相当する)または10 ngのゲノムDNAを、KAPA Taq DNA Polymerase(KAPA Biosystems、Woburn、MA、USA)を使用するPCR増幅に供した。以下の条件下で、サーマルサイクラー内で反応を行った:95℃30秒間、60℃30秒間、および72℃2秒間を40サイクル、72℃10分間の最終伸長。グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をコードする遺伝子を増幅し、cDNA合成の効率を推定した。PCR産物を、BigDye Terminator kitを使用して、ABI 3130xl DNA Sequencer(Applied Biosystems、Foster City、CA、USA)上で、両方向で直接配列決定した。ここで使用したプライマーを表1に示す。
【0274】
<細胞株および試薬>
NIH3T3細胞は、沖縄科学技術大学院大学(沖縄、日本)の山本雅博士から提供された。NCI-H1299細胞は、UT Southwestern Medical CenterのDr. J. D. Minnaから提供された。EFM19および293FT細胞は、それぞれDSMZ(Braunschweig、Germany)およびInvitrogenから入手した。H1299およびEFM-19は、10% FBSを含むRPMI培地中で培養し、NIH3T3および293FTは、10% FBSを含むDMEM培地中で培養した。
【0275】
ラパチニブ、アファチニブ、およびソラフェニブは、Selleck(Houston、TX、USA)から購入した。U0126は、Calbiochem(San Diego、CA、USA)から購入した。
【0276】
ERBB4に対する一次抗体(カタログ番号2218-1)およびERBB2に対する一次抗体(カタログ番号2064-1)は、Epitomics(Burlingame、CA、USA)から購入した。BRAFに対する抗体(カタログ番号sc-166)およびERBB3に対する抗体(カタログ番号sc-285)は、Santa Cruz Biotechnology(Dallas、TX、USA)から購入した。NRG1のEGF様ドメイン(Wilson TR, et al. Cancer Cell. 2011, 20, 158-72)に対する抗体(カタログ番号RB-276)は、Thermo Scientific(Fremont、CA、USA)から購入した。phospho-ERBB4 pTyr1284に対する抗体(カタログ番号4757)、phospho-ERBB3 pTyr1289に対する抗体(カタログ番号4791)、phospho-ERBB2 pTyr1248に対する抗体(カタログ番号2247)、AKTに対する抗体(カタログ番号4691)、phospho-AKT pSer473に対する抗体(カタログ番号4060)、トータルERK1/2に対する抗体(カタログ番号4695)、phospho-ERK1/2 pThr202/Tyr204に対する抗体(カタログ番号4370)、およびβ-アクチンに対する抗体(カタログ番号3700)は、Cell Signaling Technology(Danvers、MA、USA)から購入した。
【0277】
<免疫組織化学>
免疫組織化学を、組織マイクロアレイ切片について実施した。4μmの厚さの切片を脱パラフィンし、BRAFおよびNRGについては標的賦活化溶液9(Dako、Carpinteria、CA、USA)を使用して、ERBB4についてはクエン酸バッファーを使用して、熱誘導エピトープ賦活化(heat-induced epitope retrieval)を実施した。スライドを3%過酸化水素で20分間処理して、内因性のペルオキシダーゼ活性を阻害し、その後、脱イオン水で2〜3分間洗浄した。次いでスライドを、BRAFに対する一次抗体(1:800、ポリクローナル、Sigma、St. Louis、Mo、USA)、NRG1に対する一次抗体(1:500、ポリクローナル、Thermo Scientific)、またはERBB4に対する一次抗体(1:100、clone E200;Abcam、Cambridge、UK)と、室温にて1時間インキュベートした。EnVision-FLEXおよびLINKER(Dako)システムを使用して免疫反応を検出した。反応を3,3'-ジアミノベンジジンで可視化し、その後、ヘマトキシリンで対比染色した。腫瘍細胞の>10%での細胞質の染色を、BRAFおよびNRG1について陽性であるとし、膜染色をERBB4について陽性であるとした。
【0278】
<蛍光in situハイブリダイゼーション>
NRG1再構成を同定するために、NRG1用のbreak-apartプローブ(Chromosome Science Labo、札幌、日本;3'セントロメア側プローブとして、Spectrum Orangeで標識した、RP11-1002K11 + RP11-35D16、および5'テロメア側プローブとして、Spectrum Greenで標識した、RP11-23A12 + RP11-715M18)を使用して、ホルマリン固定し、パラフィン包埋した腫瘍について、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を実施した。
【0279】
<CD74-NRG1、EZR-ERBB4およびTRIM24-BRAF融合タンパク質の発現用のレンチウイルスベクターの構築>
KOD-PLUS Taqポリメラーゼ(Toyobo、大阪、日本)を使用して、各インデックス腫瘍サンプルからのcDNAをPCR増幅することにより、全長のCD74-NRG1、EZR-ERBB4、およびTRIM24-BRAF cDNAを得た。PCR産物を制限酵素で消化し、pLenti-6/V5-DESTプラスミド(Invitrogen)にライゲーションした。各インサートcDNAの完全性を、サンガーシークエンシングにより確認した。各発現プラスミドを、ViraPower packaging mix(Invitrogen)と共に、Lipofectamine 2000試薬(Invitrogen)を使用して293FT細胞にトランスフェクトすることにより、CD74-NRG1、EZR-ERBB4、またはTRIM24-BRAFを発現するレンチウイルスを作製した。
【0280】
一過性発現のために、空プラスミド、またはCD74-NRG1、TRIM24-BRAFもしくはEZR-ERBB4 cDNAを発現するプラスミドを、Lipofectamine 2000試薬を使用して、80%コンフルエンスのNCI-H1299肺がん細胞にトランスフェクトした。補充したRPMI培地中で24時間インキュベーションした後、細胞をアッセイに使用した。
【0281】
安定発現のために、60〜70%コンフルエンスのNIH3T3線維芽細胞を空のレンチウイルス、またはCD74-NRG1、EZR-ERBB4、もしくはTRIM24-BRAFを発現するレンチウイルスで感染させ、次いで、ブラストサイジン(4μg/ml)で2週間処理した。大量培養したブラストサイジン耐性細胞をアッセイに使用した。
【0282】
<CD74-NRG1によるHER2:HER3シグナル伝達活性化>
CD74-NRG1 cDNAを発現する細胞がHER2:HER3細胞内シグナル伝達を活性化するNRG1リガンドを分泌するか否かを決定するために、以前に記載されているように(Wilson TR, et al. Cancer Cell. 2011, 20, 158-72)、ERRB2/HER2およびERBB3/HER3タンパク質の両方を発現するEFM-19乳がん細胞をレポーター細胞として使用した。CD74-NRG1発現プラスミドまたは空の(対照)プラスミドで一過性にトランスフェクトしたNCI-H1299細胞をPBSで2回洗浄し、無血清培地中でのインキュベーションにより一晩血清飢餓にした。培地を回収し、4℃にて5分間遠心して、細胞片を除去した。サブコンフルエントのEMF-19細胞を、DMSO(ビヒクル対照)またはHER-TKIを補充したこれらの馴化培地と30分間インキュベートした。次いで、全細胞ライセートをSDS-PAGEおよびイムノブロッティングに供した。
【0283】
<ERBB4およびBRAFキナーゼの構成的活性化およびチロシンキナーゼ阻害剤によるその阻害>
EZR-ERBB4もしくはTRIM24-BRAF cDNAsを発現するプラスミドまたは空のプラスミドで安定的に形質導入したNIH3T3細胞を、無血清培地中で一晩維持し、次いで、DMSO(Sigma)または示された阻害剤(DMSOに溶解させた)で2時間処理した。全細胞ライセートをイムノブロット解析に供した。
【0284】
<イムノブロッティング>
Complete Protease and PhosSTOP Phosphatase Inhibitor Cocktail(Roche、Mannheim、Germany)を含有するRIPAバッファー中で細胞を溶解させた。タンパク質をSDS-PAGEに供し、その後、ポリビニリデンジフルオライド膜上にイムノブロットした。膜を0.1% Tween 20および1.0% BSAを含有するTBSで1時間ブロッキングし、次いで、一次抗体で調べた。0.1% Tween 20を含有するTBSで洗浄した後、膜を西洋ワサビペルオキシダーゼ結合抗マウスまたは抗ウサギ二次抗体とインキュベートし、次いで、エンハンスドケミルミネッセンス試薬(Perkin Elmer、Waltham、MA、USA)で可視化した。LAS3000イメージングシステム(Quansys Biosciences,
West Logan、UT、USA)を使用して、シグナルの強度を算出した。
【0285】
<ソフトアガーアッセイ>
空のレンチウイルス、またはCD74-NRG1、EZR-ERBB4、もしくはTRIM24-BRAFレンチウイルスで感染させたNIH3T3細胞を、0.6%アガロースの基層上の0.3% SeaPlaqueアガロース(Lonza、Rockland、ME、USA)の上層に、24ウェルプレート中4,000細胞/ウェルで、三連で播種した。DMSOまたはチロシンキナーゼ阻害剤を含有する培地をトップアガーに加え、また0.3%アガロース層の上に加えた。カバー培地は週2回交換した。14日後に、直径が100μmよりも大きいコロニーを数えた。
【0286】
<ヌードマウスにおける腫瘍形成能アッセイ>
空ベクターまたはEZR-ERBB4もしくはTRIM24-BRAF融合タンパク質を発現するベクターを有する安定なNIH3T3細胞(5 × 10
6)を、50% マトリゲル(BD Biosciences、Bedford、MA、USA)を含むPBS中に再懸濁した。細胞を、6週齢の雌のnu/nuマウスの右側腹部に皮下注入した。腫瘍のサイズがおよそ2 cm × 2 cmに達するまで、腫瘍のサイズを週2回測定した。21日目に写真を撮影した。マウスに関する全ての研究は、国立がん研究センターの動物実験に関する倫理委員会によって承認された。
【0287】
結果と考察
KRAS変異を有する56例(62%)およびKRAS変異を有さない34例(38%)からなる90例の浸潤性粘液性腺がん(invasive mucinous adenocaricinoma(IMA))コホートを準備した。KRAS陰性の34例は、2例のBRAF変異、1例のEGFR変異、および1例EML4-ALK融合を含んでいた。残りの30例は、LADCにおける代表的なドライバー変異に関して全陰性(pan-negative)であった。
【0288】
27例の全陰性例および5例のKRAS変異陽性例を含む、32例のIMAを、RNAシークエンシングに供した(表3)。RNAシークエンシングによって得られた>2 x 10
7ペアエンドリードを解析し、続いてRT-PCR産物のサンガーシークエンシングによる確認を行った結果、前記4つの新規遺伝子融合転写産物(CD74-NRG1、EZR-ERBB4、TRIM24-BRAF、およびKIAA1468-RET)に加えて、もう1つの新規遺伝子融合転写産物(SLC3A2-NRG1)を見出した。これらは、全陰性のIMAのみにおいて検出された(
図1、および4〜6、ならびに表1および4)。
【0289】
【表3】
【0290】
【表4】
【0291】
RNAシークエンシングに供さなかった残りの58例のIMAについてこれらの遺伝子融合のRT-PCRスクリーニングを行い、更に1例の全陰性例がCD74-NRG1融合を有することを明らかにした。すなわち、CD74-NRG1融合は、KRAS変異陰性IMAの34例中5例(14.7%)で検出されており、最も頻度が高かった。NRG1のCD74またはSLC3A2との融合は、34例中6例(17.6%)に存在した。5つの新規遺伝子融合は、相互排他的であり、KRAS変異陽性例においては存在しなかった(表5)。
【0292】
【表5】
【0293】
(実施例5)
CD74-NRG1、SLC3A2-NRG1、EZR-ERBB4、およびTRIM24-BRAFの4つの新規融合遺伝子は、タンパク質キナーゼまたは受容体タンパク質キナーゼのリガンド(NRG1/ニューレグリン/へレグリン)をコードする遺伝子の再構成を含んでおり、当該遺伝子については、肺癌においてがん化をもたらす再構成はこれまで報告されていなかった(
図7)。残りの融合遺伝子は、RETがん遺伝子に関わる新規のタイプであった;RETの融合は、LADCの1〜2%に見られる(Drilon A, et al. Cancer Discov. 2013, 3, 630-5; Takeuchi K, et al. Nat Med. 2012, 18, 378-81; Lipson D, et al. Nat Med. 2012, 18, 382-4; Kohno T, et al. Nat Med. 2012, 18, 375-7; Kohno T, et al. Cancer Sci. 2013, 104, 1396-400)。日本人患者からのIMAの特徴を有さない315例のLADCおよびアメリカ人患者からの144例の連続するLADCのスクリーニングにおいて、全ての腫瘍は、NRG1、BRAFおよびERBB4融合、ならびに新規RET融合の全てについて陰性であった。したがって、これらの融合は、IMAの特徴を有するLADCに特異的なドライバー変異であると考えられる。CD74-NRG1、SLC3A2-NRG1、EZR-ERBB4、およびKIAA1468-RETの4つの遺伝子融合は、染色体間転座によって引き起こされた可能性が高く、TRIM24-BRAF遺伝子融合は、動原体を挟まない(paracentric)逆位によって引き起こされた可能性が高い(表4および
図7)。このことと一致して、CD74-NRG1融合陽性腫瘍の蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)解析で、融合陽性腫瘍におけるNRG1の転座部位に隣接する2つのプローブによって生成されたシグナルの分離が観察された(
図8)。また、融合タンパク質に保持されているポリペプチドを認識する抗体を用いた免疫組織化学解析によって、NRG1、ERBB4、およびBRAF融合を有する腫瘍細胞において、対応するタンパク質が過剰発現していることも確認した;NRG1、ERBB4、およびBRAFタンパク質の発現は、いくつかの融合陰性例においても観察された(
図9)。遺伝子融合を有するIMAは、男性患者および女性患者の両方から得られたが、NRG1融合陽性例は、女性の非喫煙者から優先的に得られた(表4)。
【0294】
CD74-NRG1およびSLC3A2-NRG1融合タンパク質(その配列は、RNAシークエンシングデータから推測した)は、CD74またはSLC3A2の膜貫通ドメインを含み、かつNRG1タンパク質(NRG1 III-β3フォーム)の上皮増殖因子(EGF)様ドメインを保持していた(
図1および4)。NRG1 III-β3タンパク質は、細胞質側のN末端領域および膜に係留されたEGF様ドメインを有し、HER2:HER3受容体を介して伝達されるジャクスタクラインシグナルを仲介する(Falls DL. Exp Cell Res. 2003, 284, 14-30)。CD74またはSLC3A2の一部が野生型NRG1 III-β3の膜貫通ドメインを置き換えたことから、膜に係留されたEGF様ドメインがHER2:HER3受容体を介して伝達されるジャクスタクラインシグナルを活性化すると推測された。また、NRG1タイプIIIタンパク質について最近示唆されたように(Fleck D, et al. J Neurosci. 2013, 33, 7856-69; Dislich B and Lichtenthaler SF. Front Physiol. 2012, 3, 8)、これらの融合タンパク質の発現が、NRG1に由来する部位(EGFドメインのN末端側に位置する)における切断により、可溶性NRG1タンパク質の産生をもたらした可能性もある。外因性CD74-NRG1融合タンパク質を発現するH1299ヒト肺がん細胞からの馴化培地にEFM-19細胞をさらすことにより、内因性ERBB2/HER2およびERBB3/HER3タンパク質のリン酸化がもたらされたが、このことはCD74-NRG1ポリペプチドから生成され分泌されたNRG1リガンドによって自己分泌HER2:HER3シグナル伝達が活性化されたことを示唆する(
図10A)。HER2:HER3の下流のメディエーターであるERKおよびAKTのリン酸化も増加した。HER2、HER3、およびERKのリン酸化は、HERキナーゼを標的とする、FDAに承認されたTKIであるラパチニブおよびアファチニブ(Majem M and Pallares C. Clin Transl Oncol. 2013, 15, 343-57; Perez EA and Spano JP. Cancer. 2012, 118, 3014-25; Nelson V, et al. Onco Targets Ther. 2013, 6, 135-43)によって抑制された。総合すると、これらの観察結果は、NRG1融合が、ジャクスタクラインおよび/または自己分泌のメカニズムによって、HER2:HER3シグナル伝達を活性化したことを示す。
【0295】
EZR-ERBB4融合タンパク質は、タンパク質二量体化において機能するEZRコイルドコイルドメインを含み、また全長のERBB4キナーゼドメインも保持していた(
図1)。これらの特徴は、EZR-ROS1融合(Takeuchi K, et al. Nat Med. 2012, 18, 378-81)の場合と同様に、EZR-ERBB4タンパク質が、EZRのコイルドコイルドメインを介してホモ二量体を形成し、ERBB4のキナーゼ機能の異常な活性化を引き起こす可能性が高いことを示す。実際、EZR-ERBB4 cDNAをNIH3T3線維芽細胞において外因性に発現させた場合、ERBB4キナーゼ部位の活性化ループに位置するチロシン1258が血清刺激無しでリン酸化され、このことはEZRとの融合がERBB4キナーゼを異常に活性化させたことを示す(
図10B)。これと一致して、下流のメディエーターであるERKのリン酸化も増加した。ERBB4およびERKのリン酸化は、ERBB4タンパク質を阻害するラパチニブおよびアファチニブ(Majem M and Pallares C. Clin Transl Oncol. 2013, 15, 343-57; Perez EA and Spano JP. Cancer. 2012, 118, 3014-25; Nelson V, et al. Onco Targets Ther. 2013, 6, 135-43)によって抑制された。
【0296】
TRIM24-BRAF融合タンパク質は、BRAFキナーゼドメインを保持していたが、BRAFキナーゼの負の制御を担うN末端のRAS結合ドメインを欠いていた。これらの特徴は、他のがんにおけるESRP1-BRAFおよびAGTRAP-BRAF融合の場合(Palanisamy N, et al. Nat Med. 2010, 16, 793-8)と同様に、当該融合タンパク質が構成的に活性化していることを示唆する。TRIM24-BRAF cDNAをNIH3T3細胞において外因性に発現させた場合、BRAFの下流のメディエーターであるERKが血清刺激無しでリン酸化され、このことはTRIM24との融合がBRAFキナーゼを異常に活性化させたことを示す(
図10C)。ERKのリン酸化は、RAFキナーゼ阻害剤として通常認定されているFDAに承認された薬物であるソラフェニブ(Wilhelm SM, et al. Mol Cancer Ther. 2008, 7, 3129-40)、およびMEK阻害剤U0126によって抑制された(
図10C)。
【0297】
融合遺伝子のcDNAの外因性発現は、NIH3T3線維芽細胞の足場非依存的な増殖を誘導し、このことは当該融合遺伝子の形質転換活性を示す(
図10D−F)。この増殖は、上述の、融合によって誘導されたシグナル伝達の活性化を抑制したキナーゼ阻害剤によって抑制された。EZR-ERBB4またはTRIM24-BRAF融合のcDNAを発現するNIH3T3細胞は、ヌードマウスにおいて腫瘍を形成した(
図11)。したがって、これらの3つの融合遺伝子は、IMA発症においてドライバー変異として機能すると結論された。200種類の一般的に使用されているヒト肺がん細胞株をスクリーニングしたが、これら3つの融合遺伝子についてはいずれも陰性であった(データは示さない)。
【0298】
ここに示した結果は、NRG1、ERBB4およびBRAF融合が、肺におけるIMAの発症に関与する新規のドライバー変異であり(
図12)、既存のTKIの標的となる可能性があることを示唆する。NRG1は、ヒト気管支上皮細胞の初代培養において杯細胞形成のレギュレーターとして以前に同定されたことから(Kettle R, et al. Am J Respir Cell Mol Biol. 2010, 42, 472-81)、NRG1融合が多いことは特に注目すべき点である;したがって、NRG1によって仲介されるシグナル伝達経路は、細胞形質転換および杯細胞形態の獲得の両方に寄与することにより、IMA発症において役割を果たしている可能性がある。新薬の開発につながるようなごく一部の公知の異常(ALK融合およびEGFR変異)に加えて、10%を超えるIMA(11/90; 12.2%)は、既存のキナーゼ阻害剤によって標的とされる、新薬の開発につながるようなその他の異常を有していた:これらの異常は、NRG1、ERBB4、BRAFもしくはRETが関与する融合、またはBRAF変異によって代表される(表5および
図12)。したがって、ここで同定された遺伝子融合は、IMAの治療において有望な標的であるとともに、IMAの診断におけるマーカーとしても有用である。