特許第6493712号(P6493712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6493712応力フリーに固定されたMEMSデバイスを有するモジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493712
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】応力フリーに固定されたMEMSデバイスを有するモジュール
(51)【国際特許分類】
   B81B 7/02 20060101AFI20190325BHJP
   H01L 29/84 20060101ALI20190325BHJP
   H04R 19/04 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   B81B7/02
   H01L29/84 Z
   H04R19/04
【請求項の数】16
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-538240(P2017-538240)
(86)(22)【出願日】2015年11月6日
(65)【公表番号】特表2018-510069(P2018-510069A)
(43)【公表日】2018年4月12日
(86)【国際出願番号】EP2015075947
(87)【国際公開番号】WO2016116183
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2017年9月15日
(31)【優先権主張番号】102015100757.6
(32)【優先日】2015年1月20日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】特許業務法人ナガトアンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ロムバッハ, パルミン ハルマン オットー
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2011/0230068(US,A1)
【文献】 特表2009−514691(JP,A)
【文献】 特開2008−072580(JP,A)
【文献】 特開2009−257984(JP,A)
【文献】 特開2001−356220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00 − 7/04
B81C 1/00 − 99/00
H04R 1/00 − 1/06、19/04
B01J 10/00 − 12/02、
14/00 − 19/32
G01N 35/00 − 37/00
G01N 21/00 − 21/15
H01L 29/00 − 29/84
G01C 19/00 − 19/72
G01P 15/00 − 15/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子モジュール(M)であって、
第1の温度膨張係数K1,1つの第1の固定点、および1つの第2の固定点を有する1つの担体(T)と、
MEMS構造(ME,BP)、前記第1の温度膨張係数(K1)と異なる第2の温度膨張係数(K2)、1つの第1の固定点、および1つの第2の固定点を有する1つのMEMSデバイス(MB)と、
前記担体(T)の前記第1の固定点と前記MEMSデバイス(MB)の前記第1の固定点との間の1つの第1の機械的結合部(MV1)と、
前記担体(T)の前記第2の固定点と前記デバイス(MB)の前記第2の固定点との間に温度膨張係数KKを有する1つの補償構造(KS)を有する1つの第2の機械的結合部(MV2)と、
を備え、
前記MEMSデバイス(MB)での前記第1および前記第2の固定点は、水平方向の間隔d1を有し、そして前記担体(T)での前記第1および前記第2の固定点は水平方向の間隔d2を有し、
前記間隔d1および前記間隔d2の値は、前記補償構造(KS)が、温度変化の際の前記間隔d1および前記間隔d2の異なる長さ変化を補償するように選択され、そして前記MEMSデバイス(MB)は、様々な温度で応力フリーで前記担体と結合しており
前記補償構造(KS)は、2つの前記第2の固定点の間の結合部方向に沿った、2つの前記第2の固定点の間のずれΔd = d2 − d1を跨いでおり、
式d2=d1(KK−K1)/(KK−K2)を満足する、
ことを特徴とするモジュール。
【請求項2】
請求項1に記載のモジュールにおいて、
前記補償構造の膨張係数KKが、以下の式のように、前記第1の膨張係数K1および前記第2の膨張係数K2の大きい方の値よりも大きいか、
K > max(K1,K2)、
または、以下の式のように、前記補償構造の膨張係数KKが上前記第1の膨張係数K1および前記第2の膨張係数K2の小さい方の値よりも小さい、
K < min(K1,K2)、
ことを特徴とするモジュール。
【請求項3】
前記補償構造(KS)が1つの水平方向部分(HA)を備え、当該水平方向の部分が前記担体(T)の上または上方に配設されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のモジュール。
【請求項4】
前記モジュールは、1つ以上のさらなる補償構造(KS)を備え、当該さらなる補償構造は、さらなる前記担体(T)の固定点を、さらなる前記MEMSデバイス(MB)の固定点と結合することを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項5】
前記第1の機械的結合部(MV1)は、1つの補償構造(KS)を備え、当該補償構造は他の補償構造(KS)と共に、温度変化の際に、前記担体(T)および前記MEMSデバイス(MB)の異なる長さ変化を補償することを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項6】
少なくとも1つの補償構造(KS)は、前記担体(T)と前記MEMSデバイス(MB)との間の電気的接続を形成していることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項7】
前記担体(T)は1つのセラミック材料または1つの有機の配線基板材料を含むことを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項8】
前記担体(T)は、複数の誘電体層を備え、当該誘電体層の間には、パターニングされたメタライジング層(ML)が配設されていることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項9】
前記MEMSデバイス(MB)は、1つの半導体材料から成る1つの基体を備えることを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項10】
少なくとも1つの補償構造(KS)が1つの金属を含むことを特徴とする、請求項1乃至のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項11】
全ての補償構造(KS)が1つの中心(Z)の周りに放射対称に配設されていることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項12】
少なくとも1つの補償構造(KS)が、前記担体(T)上の複数の固定点と結合されており、および/または前記MEMSデバイス(MB)上の複数の固定点と結合されていることを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項13】
前記MEMSデバイス(MB)は、700μm以下の高さおよび0.3mm〜5mmの辺長を有する1つの基体を備えることを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか1項に記載のモジュール。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載のモジュール(M)を備えるマイクロフォンであって、前記MEMSデバイス(MB)は、1つの電子音響変換器(EAW)であることを特徴とするマイクロフォン。
【請求項15】
請求項14に記載のマイクロフォンにおいて、
前記モジュール(M)は、3つ以上の補償構造KS)を備え、当該補償構造は、1つの中心(Z)の周りに回転対称に配設されており、
前記電子音響変換器(EAW)は、前記中心(Z)に1つの音響入口を備える、
ことを特徴とするマイクロフォン。
【請求項16】
前記補償構造(KS)は、前記MEMSデバイス(MB)を弾力性を有して固定するように設けられていることを特徴とする、請求項14または15に記載のマイクロフォン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つのMEMSデバイスが広い温度領域に渡って応力フリーに固定されているモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
MEMSデバイス(MEMS=Micro-Electro-Mechanical System)は、機械的に能動的な構造(複数)を含み、これらの構造は、機械的な応力に敏感に反応する。MEMSデバイスは、たとえば1つの電子音響変換器であってよく、この電子音響変換器は、1つのASICチップ(ASIC=Application Specific Integrated Circuit)と共に、マイクロフォンモジュールの担体上に固定され、このASICチップと回路接続されている。ここでこの変換器は、1つの振動可能なメンブレンおよび1つのバックプレート(英語:back plate)を備え、これらは1つのコンデンサの2つの電極を形成している。このメンブレンの振動は、このバックプレートに対する時間的に変化する容量を生じさせる。たとえば1つのASICを用いて、この容量を評価することによって、音信号を電気信号に変換することができる。
【0003】
問題は、上記の変換器の担体および材料が、一般的に異なる熱膨張係数(CTE:Coefficient of Thermal Expansion)を備えることである。温度が変化すると、担体と変換器との間の結合部を介して機械的応力がこの変換器に伝達される。変換器における機械的応力は、その機械的構造が支障無く動作することを妨げるので、温度変化はこのマイクロフォンの信号品質に悪い影響を与える。
【0004】
温度により誘発される障害は、マイクロフォンの場合だけではない。原則として全てのMEMSデバイス、たとえば圧力センサまたは音響波で動作するフィルタ素子にも影響する。
【0005】
常に進歩する微小化の継続的なトレンド、たとえばより薄いMEMSデバイスを要求するトレンドは、この問題を増幅する。これは、より薄いデバイスは外部からの力の作用でより大きく変形するからである。
【0006】
MEMSデバイスへの機械的応力の取込みは、容易に変形可能なばね素子を、担体とMEMSデバイスとの間の結合部材として用いることによって低減される。しかしながらこの場合は、この結合部の機械的剛性も低減され、そしてこれを用いたモジュールは、負荷試験、たとえば落下試験に、もはや合格することはないであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、相反する仕様、すなわちMEMSデバイスの応力フリーの固定と同時に機械的剛性を満足し、かつさらに進む微小化を可能とするモジュールに対する要望が存在し、信号品質のためには妥協なく追及されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため以下では、独立請求項1に示される以下に記載するモジュールを、単独であるいは協働して改善することができる、1つのモジュールならびに様々な有利な特性が提示される。従属項はこのモジュールの有利な実施例を提示する。
【0009】
このモジュールは、第1の温度膨張係数K,1つの第1の固定点、および1つの第2の固定点を有する1つの担体を備える。さらにこのモジュールは、MEMS構造(複数)、上記の第1の温度膨張係数Kとは異なっている第2の温度膨張係数K、1つの第1の固定点、および1つの第2の固定点を有する1つのMEMSデバイスを備える。さらにこのモジュールは、上記の担体の第1の固定点と上記のデバイスの第1の固定点との間の1つの第1の機械的結合部を備える。その他にこのモジュールは、上記の担体の第2の固定点と上記のデバイスの第2の固定点との間の1つの第2の機械的結合部を備える。この第2の機械的結合部は、温度膨張係数Kを有する1つの補償構造を有する。このMEMSデバイスでのこれら2つの固定点は、水平方向の間隔dを有し、そして上記の担体上の固定点(複数)は水平方向の間隔dを有する。これらの値dおよびdは、上記の補償構造が、温度変化の際のd1およびd2の異なる長さ変化を補償するように選択され、こうしてこのMEMSデバイスは、様々な温度で応力フリーとなり、しかしながら上記の担体と堅く結合している。
【0010】
異なる温度で誘発される長さ変化が正確に補償され得るように、上記の担体と上記のデバイスとの間の機械的結合部の寸法決めを行うことができ、そしてその材料、具体的にはその膨張係数を選択することができることが見いだされた。ここで上記の機械的結合部は大質量となっていてよく、そしてこれによって極めて剛性が高くなり得る。これはこの機械的結合部が、担体とデバイスとの間の膨張バッファとして作用するために、機械的な変形エネルギーを取り込む必要がないからである。このためこのようなモジュールは、担体とデバイスとの間の極めて剛性のある結合部を備え、機械的応力によってこのデバイスの動作に悪影響が起こることがない。このため、小型化に関する要求が満たされるように、このデバイスを薄く形成することも可能である。
【0011】
確かに担体とデバイスとの間にただ1つの機械的結合部が存在する場合には、上記の補償構造を省略することが可能である。これはこれら両方の基体がその異なる長さ変化に問題なく追従できるからである。しかしながらこの機械的結合部は、原則として、同時に電気的信号路とならなければならず、こうして多数の結合部、たとえば2つ、3つ、または4つが存在することになる。
【0012】
最も簡単な場合には、担体とデバイスとの間に2つの機械的結合部が存在する。このような実施形態の場合、上記の補償構造は、この結合部方向に沿った、これら2つの固定点の間のずれΔd = d2 − d1を跨ぐ。さらに以下の式が成り立つ。


(1)
すなわち、これらの距離dおよび膨張係数Kは、それぞれ対応して選択される。このためには複数の可能性がある。膨張係数(複数)が与えられると(これらは一般的に材料の選択によって与えられる)、上記の固定点(複数)の間隔を設定することができる。特に、上記の2つの間隔では、他方の間隔とこれら2つの膨張係数が与えられている場合には、一方の間隔を設定することができる。もう1つの可能性は、間隔(複数)が与えられた場合に、上記の補償構造の材料、すなわち上記の担体の材料または上記のデバイスの材料が上記の式に対応して選択されることである。
【0013】
ここで上記のパラメータの意味および上記の補償構造の動作が図1および2に見易く示されている。
【0014】
上記の補償構造の膨張係数Kが、以下の式のように、上記の2つの値KおよびKの大きい方の値よりも大きいことも可能である。
> max(K,K) (2)
【0015】
代替として上記の補償構造の膨張係数Kが上記の2つの値KおよびKの小さい方の値よりも小さいことも可能である。これに対応して以下の式が成り立つ。
< min(K,K) (3)
【0016】
さらに、上記の補償構造が1つの水平方向部分を備え、この水平方向の部分が上記の担体上または上方に配設されていることが可能である。
【0017】
具体的には、上記の担体および上記のデバイスの長さ変化の際に、さらに、対応して調整されている固有の長さ変化により、応力が避けられるように、上記の水平方向部分が用いられている。ここで上記の水平方向部分は、1つの水平領域を跨いでおり、そして上記の担体の表面に対してほぼ平行に延在している。しかしながら、この水平方向部分が、水平方向に対し多少の小さな角度で、上記の担体の上面と上記のデバイスの下面との間の高さの差を跨ぐことも可能である。
【0018】
原則として、上記のMEMSデバイスから上記の担体へ信号を伝送するためには、1つの単一の電気的結合部で充分であり、この結合部は同時に1つの機械的結合部でもあり得る。こうして上記のデバイスは、1つの単一の浮動的な電極を備えることができるであろう。
【0019】
しかしながら一般的には、上記のデバイスにおいて少なくとも1つのスイッチ素子に電圧あるいは電流が印加されることが好ましく、こうして最低限2個の電気的結合部があることが好ましい。もう1つの機械的結合部が付加され、そしてこのデバイスが3点で支持されると、その浮動支持部の機械的安定性は、さらに顕著に改善される。ここで、担体とデバイスとの間の、これらの機械的および電気的な結合部の数は、もっと大幅に多くてよい。このデバイスが、たとえば電子音響変換器であり、そして複数のメンブレンまたは複数のバックプレートを備えると、これらにはそれぞれ1つの電位が印加されなければならず、こうして4個、5個、または6個の電気的結合部が担体とデバイスとの間に設けられていてもよい。
【0020】
このため、上記のモジュールは、1つ以上のさらなる補償構造を備えてよく、これらの補償構造は、さらなる上記の担体の固定点を、さらなる上記のデバイスの固定点と結合する。
【0021】
ここで上記の機械的結合部(複数)の少なくとも1つ、ただし好ましくは複数または全ての機械的結合部は、1つの補償構造を備え、この補償構造は他の補償構造と共に、温度変化の際に、担体およびMEMSデバイスの異なる長さ変化を補償する。ここでこれらの個々の機械的結合部および/またはこれらの補償構造は、同じ構造を有し、そして同じ材料から形成されている。上記のモジュールが3つ以上の補償構造を有すると、これよりこれらの補償構造を、2つの固定点の間を結ぶ1つの直線に沿って設置することはもはや可能ではない。むしろこのようなモジュールは、1つの共通な中心を有し、これらの補償構造はこの中心から見て放射方向に配設されている。3つ以上の補償構造の場合には、これらの補償構造の配設の幾何形状の次元が大きくなる。基体当たりただ2つの固定点がある場合には、これらの異なる長さ変化は1次元問題である。3つ以上の補償構造の場合には、2つの次元において異なる膨張係数が存在し、ここで各々の膨張係数K,K,Kは、x方向あるいはy方向に異なる成分を有し得る。
【0022】
これらの膨張係数が等方性であると、全ての補償構造は同等に構築され、そして1つの共通な中心の周りに回転対称に配設され、上記の異なる温度膨張係数は再び1つの一次元問題に帰し、これには上記の式(1)が適用される。ここで上記のパラメータdおよびdは、この共通の中心からの補償構造の各々の固定点の距離を表す。
【0023】
上記の担体は1つのセラミック材料または1つの有機材料、たとえば配線基板材料および/またはBCB(Benzocyclobuten)ポリマーを含んでよい。
【0024】
さらに上記のMEMSデバイスは、1つの半導体材料、たとえばSi(ケイ素)から成る1つの基体を備えてよい。
【0025】
ここでこの担体は、複数の誘電体層を備えてよく、これらの誘電体層の間には、パターニングされたメタライジング層が配設されている。
【0026】
少なくとも1つの補償構造または全ての補償構造が1つの金属を含んでよい。この金属は、たとえばCu(銅)、Ag(銀)、Au(金)、Ni(ニッケル)、または、一般的な金属堆積処理を用いて上記の担体の上面に取り付けることができる他の金属であってよい。
【0027】
全ての補償構造が1つの共通な中心の周りに放射対称に配設されていると有利である。ここでこれらの補償構造は、この中心に対して全てが同じ距離を有する必要はない。これらの補償構造の第1のグループが第1の距離を有し、そしてこれらの補償構造の第2のグループが第2の距離を有する等も、同様に可能である。次にこれらの補償構造はそれぞれ、仮想的な円に沿って上記の中心の周りに配設される。上記の中心の周りでこれらの補償構造が決まった角度で回転することは、これらの補償構造自体での回転に転化される。
【0028】
これらの補償構造の少なくとも1つ、または複数、または全ての補償構造が、上記の担体上の複数の固定点と結合されていること、および/または上記のMEMSデバイス上の複数の固定点と結合されていることが可能である。このような多点結合は、この補償構造が、1つの固定点で上記の担体またはデバイスから外れかねないような場合に対し、この補償構造の信頼性を高める。
【0029】
上記のMEMSデバイスは、700μm以下の高さおよび0.3mm〜5mmの辺長を有する1つの基体を備えることが可能である。
【0030】
以上により、薄いMEMSデバイスが、上述の補償構造により、広い温度領域に渡ってほぼ応力フリーで固定されることができ、そして上記のモジュールの全高に対して、従来の固定と比較して大幅に小さなものとなっている。
【0031】
上記のMEMSデバイスは、1つの電子音響変換器であってよい。ここでこの電子音響変換器は、少なくとも1つのメンブレンおよび少なくとも1つのバックプレート、このメンブレンの背後の1つのパターニングされた空洞を有する、ケイ素から成る1つの基体、および少なくとも2つの電気的接続端子を備える。
【0032】
ここで上記のモジュールは、1つのマイクロフォンとなっており、このマイクロフォンはさらにもう1つのチップを備えてよく、このチップにはたとえば1つのASICが組み込まれている。
【0033】
ここでこのようなマイクロフォンは、3つ以上の補償構造を上記のモジュールに備えてよく、これらの補償構造は、1つの中心の周りに回転対称に配設されている。さらに上記の電子音響変換器は、1つの信号入力部を有し、この信号入力部は、上記の中心の領域に配設されている。
【0034】
ここで上記の補償構造の材料は、実質的にどのような材料、好ましくはどのような導電性材料を含んでいてもよく、その熱膨張係数は上記の2つの基体の小さい方の熱膨張係数より小さくなっている。この場合d<dが成り立っている。代替として、この補償構造の熱膨張係数は、上記の基体の大きい方の熱膨張係数よりも大きくなっていてよい。この場合d>dが成り立っている。
【0035】
ここでそれぞれ対応するモジュールの開発のための方法は、デンマーク工科大学(DTU)で開発された、最適化ソフトウェアTopOptを用いている。具体的には、外側の拘束条件が、1つの純粋に一次元の構造を断念することを強制する場合、たとえば1つの音響入口開口部は上記の補償構造によって覆われてはならないこと、機械的剛性が極めて厳しい落下試験に関して最適化されていなければならないこと等の場合は、ソフトウェアを用いたシミュレーションツールは有利である。
【0036】
さらに上記の補償構造が、上記のMEMSデバイスを弾力性を有して、すなわちばね性を有して固定するように設けられることが可能である。この場合、たとえば1つの電話機への組込まれた場合に加速度ピークおよび/または力を吸収することができ、そして機械的にもたらされる変形を弱めるあるいは避けることができる。
【0037】
上記のモジュールおよび上記の補償構造の作用原理が、概略的な図を用い、そしてそれに限定するものでない実施形態例を用いて詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】1つの担体、1つのデバイス、および2つの機械的結合部の空間的配置を、第1の温度の場合に示す。
図2】同じ配置を第2の温度の場合に示す。
図3】1つの例示的な従来のマイクロフォンを示す。
図4】1つのマイクロフォンの一部分を示し、このマイクロフォンでは、1つの電子音響変換器が1つの補償構造を介して、1つの多層基板と結合されそして回路接続されている。
図5】機械的な結合部によって1つの担体と結合されている1つのデバイスを有する1つのモジュールの斜視図を示す。
図6図5の1つの補償構造の斜視図を示す。
図7】実質的に1次元の方向を有する1つの機械的結合部を示す。
図8】2次元の方向を有する1つの機械的結合部を示す。
図9】応力が低減された水平方向の部分を有する、図6の機械的結合部の1つの派生実施例を示す。
【0039】
図1は、1つの担体T上に1つのMEMSデバイスMBを有する1つのモジュールMの構成体を示す。デバイスMBおよび担体Tは、1つの第1の機械的結合部MV1を介して、そして1つの第2の機械的結合部MV2を介して結合されている。このデバイスでの結合点(複数)間の距離はdとなっている。この担体Tでの結合点(複数)間の距離はdとなっている。1つの所定の温度で、このデバイスは長さlを有し、そしてこの担体は長さlを有する。
【0040】
これらの寸法およびその材料が対応して選択されていると、長さの膨張の完全な補償が生じ、そしてこれによって、これらの材料が温度変化と共に線形に膨張する全温度領域において、熱的に誘発される応力が完全に避けられる。
【0041】
図2は、図1に示す状態の温度から温度差ΔTだけずれた1つの温度での、上記の同じ構造体を示す。ここで上記のデバイスMBの長さはlからl’に伸張している。このデバイスでの上記の固定点間の距離は、以下の式のようにdからd’に伸張している。


(4)
【0042】
上記の担体での上記の固定点間の距離は、以下の式のようにdからd’に伸張している。


(5)
【0043】
図1の温度では、上記の固定点の間隔は、以下の式のようにまだΔdとなっている。


(6)
この間隔は以下式のようにΔd’に伸張している。


(7)
【0044】
ここで上記の第2の機械的結合部MV2は、1つの水平方向部分HAを有する1つの補償構造KSを備え、この水平方向部分は上記の長さの差でΔdあるいはΔd’を跨いでいる。上記の間隔dに対して、上記の異なる長さの伸長Δd’-Δdが補償されるように、上記の補償構造KSの材料あるいはその水平方向部分HAが選択される。
【0045】
線形の膨張では以下の式が成り立つ。


(8)
式(4)および式(5)から以下の式が導かれる。


(9)
式(8)および式(9)から以下の式が導かれる。


(10)
これより以下の式が導かれる。


(11)
【0046】
式(11)および式(6)から式(1)が導かれる。
【0047】
担体TがMEMSデバイスMBよりも大きな温度膨張係数を有すると、d>dとなる。これと逆の場合(K>K)には、d>dとならなければならない。すなわち補償構造KSの熱膨張係数は、担体Tの熱膨張係数より小さくなくてはならない。小さな温度膨張係数を有する補償構造の場合には、上記の構造は逆の関係になっていなければならない。
【0048】
図3は、1つのマイクロフォンの一部分を示し、このマイクロフォンでは、1つの電子音響変換器EAWがバンプ結合部(複数)BUを介して、1つの多層基板MLSと結合されそして回路接続されている。この電子音響変換器EAWの他に、1つのASICを有する1つのチップが、この多層基板MLS上に配設されている。多層基板、変換器EAW、およびチップASICの膨張係数は異なっており、これらは一般的にこのチップASICの電気的な機能の障害のみよりも格段に大きな、この変換器EAWの機能の障害となる。これはこの変換器が、機械的な応力に対して、このチップASICよりも敏感に反応するからである。
【0049】
図4は、以上に対応した上記のマイクロフォンの改善を示す。ここで、上記の電子音響変換器はここでは、1つのメンブレンMEおよび1つのバックプレートBPを有し、1つのバンプ結合部を介して、多層基板MLSとは直接結合されておらず、むしろ1つの補償構造KSを用いて結合され、かつ回路接続されている。結合のためにはんだ材料が設けられている部位には、はんだパッドが配設されていてよい。同様に、この変換器EAWもはんだパッドを介して取り付けられていてよく、これにより耐久性のあるはんだ結合を行うことができる。
【0050】
図5は、1つのモジュールMの斜視図を示し、このモジュールでは、1つのMEMSデバイスMBが、1つの担体T上に配設されており、そして機械的結合部(複数)あるいはその補償構造(複数)KSを介して結合され、かつ回路接続されている。ここでこのモジュールは4つの機械的結合部を備え、これらの機械的結合部は、その共通な中心Zの周りに回転対称に配設されて揃えられている。これらの機械的結合部の各々は、上記の担体Tとの4つの接続部位、および上記のデバイスMBとの1つの接続部位を有する。
【0051】
中心Zの領域において、このデバイスMBは、1つの音響入口開口部を有する。ここで上記の機械的結合部(複数)MVは、この音響入口開口部の周りでグルーピングされ、音響信号を問題なく受信できるようになっている。
【0052】
図6は、図5の1つの機械的結合部を斜視図で示す。この機械的結合部は、4つの固定点BP−Tを有し、これらの固定点でこの機械的結合部は上記の担体上に固定されている。さらにこの機械的結合部は、1つの固定点BP−MBを有し、この固定点を介してこの機械的結合部は上記のMEMSデバイスと結合されている。さらにこの機械的結合部は、水平方向部分(複数)HAを備え、この水平方向部分は2次元で等長であることを可能とする。
【0053】
ここでこれらの水平方向部分HAは、上記の担体の固定点BP−Tに対して容易に持ち上がることができ、これによってこれらの水平方向部分HAと上記の担体Tとの間には機械的応力がまったく形成され得ない。
【0054】
このような機械的結合部は、製造プロセスの間に作成することができ、この製造プロセスでは上記の水平方向部分HAが上記の担体T上の1つの犠牲材料上に取り付けられ、この犠牲層は、この水平方向部分HAの材料を取り付けた後に除去される。
【0055】
図7は、実質的に1次元に構成された1つの機械的結合部を示し、この機械的結合部は、上記の担体へのただ1つの固定点BP−Tおよび上記のMEMSデバイスへのただ1つの固定点BP−MBを備える。これらの間の1つの水平方向部分がこれら2つの点を結合している。
【0056】
図8は、2つの方向に水平方向部分を備える、1つの機械的結合部の1つの実施形態を示す。これに対応して、上記の担体に対して2つの固定点BP−Tがあり、そして上記のデバイスに対して1つの固定点BP−MBがある。
【0057】
ここで上記の水平方向部分は、図7の構成とは対照的に、直線的に延伸する辺部でなく、機械的な応力集中を避けるために、むしろ曲がって延伸する辺部によって構成されている。これに対応して図9は、上記の担体に対する4つの固定点BP−Tおよび上記のデバイスに対する1つの固定点BP−MBを有する1つの機械的結合部の1つの実施形態を示し、ここで水平方向部分(複数)HAは同様に、曲がって延伸する辺部を有する部分によって構成されている。
【0058】
本発明によるモジュールは上記に示した実施形態例に限定されない。温度補償のための他の機械的および/または電気的結合部を有するモジュール、あるいは他のデバイスを有するモジュールも同様に本発明を用いた実施となるものである。
【符号の説明】
【0059】
ASIC : ASICチップ
BP : バックプレート
BP−MB : デバイスへの固定点
BP−T : 担体への固定点
BU : バンプ結合部
: MEMSデバイスでの固定点の間隔、あるいは中心からのMEMSデバイスでの固定点の距離
: 担体上の機械的結合部の間隔、あるいは担体上の機械的結合部の中心からの距離
EAW : 電子音響変換器
HA : 水平方向部分
: 担体の温度膨張係数
: デバイスの温度膨張係数
: 補償構造の温度膨張係数
KS : (温度)補償構造
: MEMSデバイスの長さ
: 担体の長さ
M : モジュール
MB : MEMSデバイス
ME : メンブレン
MLS : 多層基板
MV : 機械的結合部
MV1,MV2 : 第1、第2の機械的結合部
T : 担体
Z : (対称)中心
Δd、Δd’: 補償構造によって跨がれる水平方向のずれ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9