特許第6493727号(P6493727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6493727球状フェライト粉、該球状フェライト粉を含有する樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いた成型体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493727
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】球状フェライト粉、該球状フェライト粉を含有する樹脂組成物、及び該樹脂組成物を用いた成型体
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20190325BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20190325BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20190325BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20190325BHJP
   H01F 1/00 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   C01G49/00 C
   C08L101/00
   C08K3/22
   C08K9/04
   H01F1/00
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-191984(P2014-191984)
(22)【出願日】2014年9月19日
(65)【公開番号】特開2016-60682(P2016-60682A)
(43)【公開日】2016年4月25日
【審査請求日】2017年7月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231970
【氏名又は名称】パウダーテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000108742
【氏名又は名称】タツタ電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】安賀 康二
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 章郎
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/141843(WO,A1)
【文献】 特開2006−160560(JP,A)
【文献】 特開平02−198106(JP,A)
【文献】 特開2005−347449(JP,A)
【文献】 特開2005−286190(JP,A)
【文献】 特開2005−139050(JP,A)
【文献】 特開2006−332294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G49/00−49/08
H01F1/12−1/375
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径11μm未満のフェライト粒子を15〜30重量%含有し、残部が粒径11μm以上のフェライト粒子からなり、
当該粒径11μm未満のフェライト粒子のBET比表面積が2〜50m/g、
当該粒径11μm以上のフェライト粒子のBET比表面積が0.1〜2m/gであり、
かつ体積平均粒径が10〜50μmであることを特徴とする真球状フェライト粉。
【請求項2】
前記粒径11μm以上のフェライト粒子が樹脂で被覆されている請求項1に記載の真球状フェライト粉。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の真球状フェライト粉を50〜99.5重量%含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂組成物を成型してなる成型体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィラーとして用いられたときの充填性及び成型性が良好で、また優れたハンドリング性を有し、かつ高抵抗の球状フェライト粉、該フェライト粉を含有する樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いた成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体等のLSI封止剤を始めとして種々の分野において、樹脂に無機フィラーを混合した樹脂組成物が種々用いられ、また提案されている。
【0003】
現在、一般的に樹脂に混合する無機フィラーとして様々な組成、平均粒径や粉体特性及び電気特性を持ったものが使われている。
【0004】
通常、流動性の高い樹脂に対してフィラーを添加する場合、フィラーの粒径や樹脂の粘度にもよるが、フィラーの添加量が増加するとフィラー添加後の樹脂組成物の流動性は低くなる。一方、フィラーの粒径が大きい場合はフィラーを添加量が増加しても流動性が低くなるとは限らない。そのため、主として特性を発揮させるためのフィラーと樹脂組成物の流動性制御のためのフィラーといった複数のフィラーが添加されることが多い。
【0005】
主として特性を発揮させるためのフィラーの例として、各種金属粉、酸化物金属等が挙げられ、流動性制御のフィラーとしてシリカ粉、カーボンブラック等が挙げられる。
【0006】
また、組成は同じで異なる粒径のシリカ等のフィラーを用いることで広い粒度分布を持たせ、樹脂組成物の流動性の制御を行う場合もある。さらに、不定形状のフェライト粉等のフィラーにおいて広い粒度分布を持たすことで流動性の制御とフィラー充填率の改善を行う場合もある。
【0007】
フィラーはその用途によって選択されるが、電磁波吸収用途において磁性フィラーを用いて高いフィラー充填率と高い体積抵抗率を両立しようとする場合、磁性フィラーの各種粉体特性(平均粒径、粒度分布及び形状等)の制御と電気的特性の調整が必要となり、難易度が高くなる。
【0008】
磁性フィラーとしては、フェライト粉末を用いた提案が数多くなされており、例えば特許文献1(特開平5−335121号公報)には、シランカップリング剤で表面処理されたフェライト粉末を含有する樹脂からなる磁性封止材料が記載されている。この磁性封止材料によって、強度が向上し、離型性が良好となるとしている。
【0009】
特許文献2(特開2005−139050号公報)には、120℃における体積固有抵抗が5×10Ωm(5×10Ωcm)以上及び25℃における体積固有抵抗が3×10Ωm(3×1011Ωcm)以上であり、球状のフェライト磁性粉体が記載されている。また、この特許文献2には、このフェライト磁性粉体を含む半導体封止用樹脂組成物が開示され、シリカ粒子と併用して用いることが示されている。
【0010】
この特許文献2によれば、同文献に記載のフェライト磁性粉体は、電磁波遮蔽機能及び電気絶縁性を備えるとされ、このフェライト磁性粉体を含む半導体封止用樹脂組成物は高い信頼性を有するとされている。
【0011】
特許文献3(特開2005−347449号公報)には、頻度粒度分布において、10μm以上50μm以下の領域に極大値Aと、0.5μm以上10μm未満の領域に極大値Bとを有する軟磁性粉末、及びこの軟磁性粉末を樹脂又はゴムに含有させる有機材料が記載されている。この特許文献3では、電磁波吸収性と放熱性とに優れた成型物を得ることができるとされている。
【0012】
しかしながら、これら特許文献1〜3に記載の磁性粉末は、各種粉体特性(平均粒径、粒度分布及び形状等)の制御と電気的特性の調整を同時に行うことによって、フィラーとして用いられたときの充填性が良好で、また優れたハンドリング性を有し、かつ高抵抗ものではない。
【0013】
一方、特許文献4(再公表2007/108437号公報)には、レーザー回折・散乱法による体積基準頻度粒度分布において、少なくとも、1〜4μmの粒度域に極大ピーク1の最大頻度値と、15〜55μmの粒度域に極大ピーク2の最大頻度値とを有するシリカ粉末であって、前記極大ピークの最大頻度値が、前記極大ピーク1の最大頻度値よりも大きく、前記極大ピーク2にショルダーがあり、15〜55μmの粒度域の粒子の含有率が、1〜4μmの粒度域の粒子の含有率よりも多いシリカ粉末が記載されている。また、このシリカ粉末をゴム及び樹脂の少なくとも一方に含有させてなる組成物を半導体封止材料として用いることが記載されている。
【0014】
この特許文献4によれば、シリカ粉末が高充填された成形性が良好で、バリの少ない封止材料が得られるとされている。しかし、特許文献4は、流動性制御のフィラーとして用いられるシリカ粉末に関するもので、特性を発揮させるためのフィラーとして用いられるフェライト粉に関するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平5−335121号公報
【特許文献2】特開2005−139050号公報
【特許文献3】特開2005−347449号公報
【特許文献4】再公表2007/108437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従って、本発明の目的は、フィラーとして用いられたときの充填性及び成型性が良好で、また優れたハンドリング性を有し、かつ高抵抗の球状フェライト粉、該フェライト粉を含有する樹脂組成物及び該樹脂組成物を用いた成型体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討した結果、形状が真球状で、特定の粒径及び粒度分布を持つフェライト粒子を含有することで、フィラーとして用いたときの高い充填性及び成型性と優れたハンドリング性を有し、かつ高抵抗のフェライト粉が得られ、上記目的を達成し得ることを知見し、本発明に至った。なお、ここでフェライト粒子とは、個々の粒子又は一定の粒径の集合体を意味し、またフェライト粉とは、フェライト粒子の全体の集合体を意味する。
【0018】
すなわち、本発明は、粒径11μm未満のフェライト粒子を15〜30重量%含有し、残部が粒径11μm以上のフェライト粒子からなり、当該粒径11μm未満のフェライト粒子のBET比表面積が2〜50m/g、当該粒径11μm以上のフェライト粒子のBET比表面積が0.1〜2m/gであり、かつ体積平均粒径が10〜50μmであることを特徴とする真球状フェライト粉を提供するものである。
【0019】
本発明に係る上記真球状フェライト粉において、前記粒径11μm以上のフェライト粒子は樹脂で被覆されていることが望ましい。
【0020】
また、本発明は、上記真球状フェライト粉を50〜99.5重量%含有することを特徴とする樹脂組成物を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、上記樹脂組成物を成型してなる成型体を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るフェライト粉は、形状が真球状で、特定の粒径及び粒度分布を有するフェライト粒子を含有することで、フィラーとして用いたときに高い充填性及び成型性と優れたハンドリング性を有し、かつ高抵抗である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0024】
<本発明に係るフェライト粉>
本発明に係るフェライト粉は、上記したように、真球状である。不定形状、粒状、板状等の真球状以外の形状の場合は、フィラーとして用いたときの充填量を十分大きくできない。特に電磁波吸収等の用途において、電磁波吸収能力は磁性粉の磁気特性以外に、単位重量に占める磁性体量が多ければ多いほど高くなる。そのため真球状である必要がある。
【0025】
ここでいう真球状とは、形状係数SF−1が100〜120、好ましくは100〜110、更に好ましくは、100に限りなく近い形状をいう。形状係数SF−1が120を超えると、フェライト粒子の球状性が損なわれる。
【0026】
形状係数SF−1: 11μm未満のフェライト粒子の形状係数SF−1は、FE−SEMにて倍率50000倍にて総計100粒子以上カウント出来るように視野を変えて撮影する。11μm以上のフェライト粒子の形状係数SF−1は、FE−SEMにて倍率800倍にて総計100粒子以上カウント出来るように視野を変えて撮影する。それらの画像情報を、インターフェースを介してメディアサイバネティクス社製画像解析ソフト(Image−Pro PLUS)に導入して解析を行い、円相当径と投影面積を求め、下記式により算出し得られた数値である。フェライト粒子の形状が球形に近いほど100に近い値となる。11μm未満のフェライト粒子と11μm以上のフェライト粒子の形状係数SF−1は、それぞれ1粒子毎に算出し、100粒子の平均値をそのフェライト粒子の形状係数SF−1とした。
【0027】
【数1】
【0028】
本発明に係る球状フェライト粉は、粒径11μm未満のフェライト粒子を15〜30重量%含有する。このフェライト粒子の含有量が30重量%を上回ると、フィラーとして樹脂に添加した際に樹脂混合物の粘度が高くなりやすく、成型しにくくなる恐れがある。フェライト粒子の含有量が15重量%を下回る場合、フィラーとして樹脂に添加した際に樹脂組成物の粘度が低くなりやすく、成型しにくくなる恐れがある。
【0029】
本発明に係る球状フェライト粉の体積平均粒径は10〜50μmである。体積平均粒径が10μmを下回ると、フェライト粉をフィラーとして樹脂に添加した際に樹脂組成物の粘度が高くなりやすく、成型しにくくなる恐れがある。言い換えると、粘度をある一定のレベルにしようとすると10μmよりも小さいフィラーのみを用いた場合、フィラーの添加量を下げなければならず、フィラーの高い充填量を確保しにくくなることを意味している。体積平均粒径が50μmを超える場合、フェライト粉をフィラーとして樹脂に添加した際に樹脂組成物の粘度が低くなりやすく、成型しにくくなる恐れがある。
【0030】
上記の体積平均粒径と粒径11μm未満のフェライト粒子を含有する割合は、添加する樹脂(添加剤も含む)と成型物の形状等によって決定されるが、上記の範囲で組み合わせて使用することにより高いフィラー充填率を維持したまま流動性調整が容易に行えるようになる。
【0031】
体積平均粒径(マイクロトラック): この体積平均粒径は、次のようにして測定される。すなわち、日機装株式会社製マイクロトラック粒度分析計(Model9320−X100)を用いて測定される。分散媒には水を用いた。試料10gと水80mlを100mlのビーカーに入れ、分散剤(ヘキサメタリン酸ナトリウム)を2〜3滴添加する。次いで超音波ホモジナイザー(SMT.Co.LTD.製UH−150型)を用い、出力レベル4に設定し、20秒間分散を行った。その後、ビーカー表面にできた泡を取り除き、試料を装置へ投入した。
【0032】
本発明に係るフェライト粉において、粒径11μm以上のフェライト粒子は樹脂で被覆されていることが好ましい。フィラーの充填量が高くなればなるほどフィラーの影響が大きくなり、樹脂と混合、分散しても樹脂より抵抗の低い真球状フェライト粒子同士が接触し、電流の通り道になりやすい。樹脂で被覆されていることにより、フィラー同士の接触が起こりにくくなり、高抵抗の樹脂組成物及びこれを成型した成型体が得やすくなる。
【0033】
被覆する樹脂は特に制限されない。例えば、フッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、フッ素アクリル樹脂、アクリル−スチレン樹脂、シリコーン樹脂、あるいはアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等の各樹脂で変性した変性シリコーン樹脂等が挙げられる。使用中の機械的ストレスによる樹脂の脱離を考慮すると、熱硬化性樹脂が好ましく用いられる。具体的な熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂及びそれらを含有する樹脂等が挙げられる。樹脂の被覆量は、フェライト粒子100重量部に対して、0.5〜5.0重量部が好ましい。
【0034】
また、被覆樹脂中には、熱硬化性や耐溶剤性を改善するためにカップリング剤を含有させることができる。カップリング剤の例としては、各種シランカップリング剤が挙げられる。これは樹脂組成物を射出成型する際に、被覆した樹脂が高温に晒されることで剥離したり変質したりすることで成型体の抵抗が下がることがあるが、カップリング剤を添加することによりこれらの現象を改善することできるためである。使用できるカップリング剤の種類は特に限定されないが、アミノシランカップリング剤、エポキシ系シランカップリング剤等が好ましい。
【0035】
本発明に係るフェライト粉において、粒径11μm未満のフェライト粒子はAl化合物で被覆されていることが好ましい。粒径11μm未満のフェライト粒子は11μm以上のフェライト粒子同士の空隙に入る。粒径11μm未満のフェライト粒子の比表面積は大きいため分散しにくく凝集体として樹脂組成物中に存在し、電流の通り道になりやすい。Al化合物で被覆されていることにより、粒子表面を流れる電流を小さくすることができるので、高抵抗の樹脂組成物及びこれを成型した成型体が得やすくなる。Al化合物としては硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等が挙げられる。表面処理量は、Al換算でフェライト粒子に対して0.2〜1重量%である。
【0036】
本発明に係るフェライト粉は、下記式(1)で表される組成であることが好ましい。
【0037】
【化1】
【0038】
上記組成において、式(1)中の(MnO)及び/又(MgO)の一部がSrOで置換されており、SrOの置換量は0.1〜2.5モル%であることが望ましい。
【0039】
SrOの置換量が2.5モル%を超えると、ハードフェライトとしての影響が出始めるため、フィラーとして用いたときに、急速に各種特性が悪くなる可能性がある。SrOの量は、2.0モル%以下が好ましく、より好ましくは1.5モル%以下である。
【0040】
Fe、Mn、Mg及びSrの含有量: これらFe、Mn、Mg及びSrの含有量は、下記によって測定される。試料(フェライト粉)0.2gを秤量し、純水60mlに1Nの塩酸20ml及び1Nの硝酸20mlを加えたものを加熱し、フェライト粉を完全溶解させた水溶液を準備し、ICP分析装置(島津製作所製ICPS−1000IV)を用いてFe、Mn、Mg及びSrの含有量を測定した。
【0041】
本発明に係るフェライト粉は、5K・1000/4π・A/mにおける磁化が35〜95Am/kgであることが望ましい。
【0042】
フェライト粉の5K・1000/4π・A/mにおける磁化が35Am/kg未満であると、電磁波吸収能力として十分ではない可能性があり、ソフトフェライトの磁化は95Am/kgを超えることはない。
【0043】
磁化: 振動試料型磁気測定装置(型式:VSM−C7−10A(東英工業社製))を用いた。測定試料は、内径5mm、高さ2mmのセルに詰めて上記装置にセットした。測定は、印加磁場を加え、5K・1000/4π・A/mまで掃引した。次いで、印加磁場を減少させ、ヒステリシスカーブを作製した。このカーブのデータより磁化を求めた。
【0044】
本発明に係る11μm以上の樹脂被覆前の大粒径側フェライト粒子は、BET比表面積が0.1〜2m/gであることが望ましい。さらに望ましくは0.2〜2m/gである。
【0045】
大粒径側フェライト粒子のBET比表面積の値が2m/gを超えると、11μm未満のフェライト粒子の含有量が多く、流動性が下がり成型がうまくできない可能性がある。BET表面積の値が0.1m/g未満では、樹脂組成物の流動性が上がりすぎ成型がうまくできない可能性がある。
【0046】
本発明に係る11μm未満の小粒径側フェライト粒子は、BET比表面積が2〜50m/gであることが望ましい。さらに望ましくは2〜40m/gであり、最も望ましくは2〜35m/gである。
【0047】
小粒径側フェライト粒子のBET比表面積の値が2m/g未満であると、11μm未満のフェライト粒子の含有量が少なく、流動性が上がり成型がうまくできない可能性がある。BET表面積の値が50m/gを超えると、流動性が下がり成型がうまくできない可能性がある。
【0048】
BET比表面積: ここで、BET比表面積は、株式会社マウンテック製BET比表面積測定装置(Macsorb HM model 1210)を用いて測定を行った。測定試料を真空乾燥機に入れ、常温で2時間処理を行う。その後、試料をセルが密になるように充填し、装置にセットする。脱気温度40℃にて60分間前処理を行った後、測定を行った。
【0049】
本発明に係るフェライト粉は、常温常湿下の体積抵抗が、1×10〜5×10Ω・cmであることが望ましい。さらに望ましくは1×10〜5×10Ω・cmであり、最も望ましくは1×10〜5×10Ω・cmである。ここで常温常湿(N/N)とは、温度20〜25℃、相対湿度50〜60%である。
【0050】
フェライト粉の常温常湿下の体積抵抗が1×10Ω・cm未満であると、樹脂と混合・分散を行って成型物を成型しても、十分な絶縁性が得られないため好ましくない。体積抵抗が5×10Ω・cmを超えることは、粒径11μm未満の粒子が15重量%よりも少ない量含有していることを意味しており、樹脂と混合した際に樹脂組成物の流動性の調整ができない可能性が高い。
【0051】
体積抵抗: 断面積が4cmのフッ素樹脂製のシリンダーに高さ4mmとなるように試料を充填した後、両端に電極を取り付け、さらにその上から1kgの分銅を乗せて抵抗を測定した。抵抗の測定はケースレー社製6517A型絶縁抵抗測定器にて電圧印加は25Vとし、60sec後の電流値(60secの電流値)から抵抗を算出し体積抵抗とした。
【0052】
<本発明に係る樹脂組成物>
本発明に係る樹脂組成物は、上記球状フェライト粉を50〜99.5重量%含有する。フェライト粉の含有量が50重量%を下回ると、フェライト粉を含有していてもフェライトの特性を十分発揮することができない。また、フェライト粉の含有量が99.5重量%を超える場合は、樹脂をほとんど含有していないため、成型できない可能性がある。
【0053】
この樹脂組成物に用いられる樹脂は、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂等が挙げられるが、特に限定されない。また、この樹脂組成物には硬化剤や硬化促進剤が含有され、さらには必要に応じてシリカ粒子等の各種添加剤が含有される。
【0054】
<本発明に係る成型体>
本発明に係る成型体は、樹脂組成物を成型、加熱硬化することにより得られる。そして、この成型体は、電磁波吸収を目的としたLSI用封止剤等の用途に使用される。
【0055】
<本発明に係るフェライト粉の製造方法>
本発明に係るフェライト粉の製造方法について説明する。
【0056】
本発明に係るフェライト粉の製造方法は、原材料を適量秤量した後、ボ−ルミル又は振動ミル等で0.5時間以上、好ましくは1〜20時間粉砕混合する。原料は特に制限されないが、上述した組成となるように選択することが望ましい。
【0057】
このようにして得られた粉砕物を、加圧成型機等を用いてペレット化した後、700〜1300℃の温度で仮焼成する。加圧成型機を使用せずに、粉砕した後、水を加えてスラリー化し、スプレードライヤーを用いて粒状化しても良い。仮焼成後さらにボ−ルミル又は振動ミル等で粉砕した後、バインダー等を添加し、ヘンシェルミキサー等の乾式混合装置を用いて造粒を行う。
【0058】
このようにして調製された造粒物を大気中で溶射してフェライト化する。溶射には、可燃性ガス燃焼炎として燃焼ガスと酸素が用いられ、燃焼ガスと酸素の容量比は1:3.5〜6.0である。可燃性ガス燃焼炎の酸素の割合が燃焼ガスに対して3.5未満では、溶融が充分ではなく、酸素の割合が燃焼ガスに対して6.0を超えると、フェライト化が困難となる。例えば燃焼ガス10Nm/hrに対して酸素35〜60Nm/hrの割合で用いられる。
【0059】
上記溶射に用いられる燃焼ガスとしては、プロパンガス、プロピレンガス、アセチレンガス等が用いられるが、特にプロパンガスが好適に用いられる。また、造粒物搬送ガスは、窒素、酸素又は空気が用いられる。造粒物流速は、20〜60m/secが好ましい。
【0060】
このようにして溶射してフェライト化されたフェライト粉末は、水中又は室温の大気で急冷凝固され、これをフィルターによって捕集する。
【0061】
その後、捕集用フィルターで回収したフェライト粉末は、必要に応じて分級を行う。分級方法としては、既存の風力分級、メッシュ濾過法、沈降法など用いて所望の粒径に粒度調整する。なお、サイクロン等で粒径の大きい粒子と分離して回収することも可能である。
【0062】
上述のように、球状フェライト粉を調製した後、粒径11μm以上のフェライト粒子については、樹脂により表面を被覆することが望ましい。とりわけ粉体特性はフェライト粒子表面に存在する材料や性状に影響されることが多い。従って、適当な樹脂を表面被覆することによって、所望とする成型後の樹脂成型物の電気抵抗、ハンドリング性(樹脂との分散性、樹脂組成物に添加する該フェライト粒子以外の微粒子との混合性、及び/又は、樹脂成型物の成型時の硬化性)を制御することができる。被覆する方法としては、公知の方法、例えば刷毛塗り法、乾式法、流動床によるスプレードライ方式、ロータリードライ方式、万能攪拌機による液浸乾燥法等により被覆することができる。被覆率を向上させるためには、流動床による方法が好ましい。樹脂被覆後、焼き付けする場合には、外部加熱方式又は内部加熱方式のいずれでもよく、例えば固定式又は流動式電気炉、ロータリー式電気炉、バーナー炉でもよく、もしくはマイクロウェーブによる焼き付けでもよい。UV硬化樹脂を用いる場合は、UV加熱器を用いる。焼き付けの温度は使用する樹脂により異なるが、融点又はガラス転移点以上の温度は必要であり、熱硬化性樹脂又は縮合架橋型樹脂等では、充分硬化が進む温度まで上げる必要がある。
【0063】
球状フェライト粉末を調製した後、粒径11μm未満のフェライト粒子については、Al化合物により表面を被覆することが望ましい。フェライト粒子を水に分散し、分散したスラリーにAl化合物水溶液を滴下することにより表面被覆を行う。Al化合物は各種樹脂と混合分散する際に凝集せずに分散しやすくなるので好ましい。特に理由ははっきりとはわかっていないが水酸基を含有する樹脂への分散性が向上しやすい。
【0064】
<本発明に係る樹脂組成物の製造方法>
本発明に係る樹脂組成物は、上記球状フェライト粉と樹脂、硬化剤及び硬化促進剤、さらには必要に応じてシリカ粒子等の各種添加剤を加え、ロールミル、ニーダ等の混合機を用いて混合し、樹脂組成物が製造される。
【0065】
<本発明に係る成型体の製造方法>
本発明に係る成型体は、上記樹脂組成物を成型及び加熱硬化することにより得られる。成型法としては、ドクターブレード法、押し出し法、プレス法、カレンダーロール法等が用いられる。また、加熱硬化は、外部加熱方式又は内部加熱方式のいずれでもよく、例えば固定式又は流動式電気炉、ロータリー式電気炉、バーナー炉でもよく、もしくはマイクロウェーブによる焼き付けでもよい。
【0066】
以下、実施例等に基づき本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0067】
大粒径側: Mn換算で12mol%、Mg(OH)換算で11mol%、Fe換算で52mol%、SrO換算で1mol%になるように各原材料を適量配合し、水を加え、湿式ボールミルで6時間粉砕、混合しスラリー得た。得られたスラリーを造粒乾燥し、大気中で1135℃、6時間保持した後、粉砕し、Mn−Mg−Srフェライト粉(一次焼成粉)を得た。
【0068】
得られたフェライト粉を40kg/hrの供給速度でプロパン5Nm/hr、酸素25Nm/hrが供給されるフレームを通過させて真球化処理を行った後、粒度分布を調整することで平均粒径20μmのフェライト粉を得た。得られた各フェライト粒子にアクリル樹脂(三菱レイヨン製BR−80)をフェライト粒子に対して樹脂重量が1wt%となるよう樹脂被覆溶液を調製し、流動床コーティング装置にて被覆し、145℃で2時間焼き付けを行った後、解砕し、大粒径側フェライト粒子とした。なお、樹脂被覆溶液は樹脂の固形分が10重量%となるように溶剤で希釈した。
【0069】
小粒径側: 造粒物の平均粒径を変えた以外は上記と同様にして真球化処理を行い、捕集用フィルターを用いて小粒径側のフェライト粉を得た。得られた各フェライト粒子を固形分10重量%となるように水に分散し、分散したスラリーにアルミン酸ナトリウム水溶液を滴下することで表面処理を行った。このとき、分散したスラリーのpHは8.5〜を維持するように酢酸水溶液を添加した。処理量はアルミニウム換算でフェライト粒子(粉体)に対して0.85重量%であり、アルミン酸ナトリウム水溶液中のアルミニウム濃度が10重量%となるように調製した。表面処理したフェライト粒子を含有したスラリーをろ過し、120℃で8時間乾燥させて水分を除去したのち、サンプルミルで粉砕してAl化合物で表面処理されたフェライト粒子を作製した。
【0070】
上記にて作製した大粒径側フェライト粒子80wt%と小粒径側フェライト粒子20wt%を30分間混合し、実施例1のフェライト粉とした。
【実施例2】
【0071】
大粒径側フェライト粒子85wt%と小粒径側フェライト粒子15wt%を30分間混合した以外は、実施例1の同様の方法でフェライト粉を作製した。
【実施例3】
【0072】
大粒径側フェライト粒子70wt%と小粒径側フェライト粒子30wt%を30分間混合した以外は、実施例1の同様の方法でフェライト粉を作製した。
【実施例4】
【0073】
樹脂被覆前の大粒径側フェライト粒子の平均粒径を50μmとした以外は、実施例1の同様の方法でフェライト粉を作製した。
【実施例5】
【0074】
フェライト粉の組成をMn換算で8mol%、Mg(OH)換算で21mol%、Fe換算で52mol%、SrO換算で1mol%になるように各原材料を適量配合し、大粒径側フェライト粒子及び小粒径フェライト粒子を調製した以外は、実施例1の同様の方法でフェライト粉を作製した。
【0075】
上記にて作製した大粒径側フェライト粒子80wt%と小粒径側フェライト粒子20wt%を30分間混合し、実施例5のフェライト粉とした。
【実施例6】
【0076】
フェライト粒子の組成をMn換算で14mol%、Mg(OH)換算で5mol%、Fe換算で52mol%、SrO換算で1mol%になるように各原材料を適量配合し、大粒径側フェライト粒子及び小粒径フェライト粒子を調製した以外は、実施例1の同様の方法でフェライト粉を作製した。
【0077】
上記にて作製した大粒径側フェライト粒子80wt%と小粒径側フェライト粒子20wt%を30分間混合し、実施例6のフェライト粉とした。
【比較例】
【0078】
〔比較例1〕
実施例1に記載の樹脂被覆後の大粒径側フェライト粒子を比較例1のフェライト粉とした。
【0079】
〔比較例2〕
大粒径側フェライト粒子60wt%と小粒径側フェライト粒子40wt%を30分間混合した以外は、実施例1と同様の方法でフェライト粉を作製した。
【0080】
〔比較例3〕
実施例4に記載の樹脂被覆前の大粒径側フェライト粒子を比較例3のフェライト粉とした。
【0081】
実施例1〜6及び比較例1〜3の原料組成、一次焼成条件(焼成炉、焼成温度及び焼成雰囲気)及び本焼成条件を表1に示す。また、実施例1〜6及び比較例1〜3の大粒径側フェライト粒子について、粒子の回収方法、被覆前のフェライト粒子の平均粒径、BET比表面積、形状係数SF−1、樹脂被覆、被覆量、コーティング装置及び樹脂被覆後の11μm未満の粒子の含有量を表2に示す。実施例1〜6及び比較例1〜3の小粒径側フェライト粒子について、粒子の回収方法、表面処理前のフェライト粒子の平均粒径、BET比表面積、形状係数SF−1、表面処理剤、表面処理を行った時のフェライト粒子の分散液のpH、処理量及びフェライト粒子の重量混合比率(大粒径:小粒径)を表3に示す。
【0082】
実施例1〜6及び比較例1〜3の化学分析、粉体特性(平均粒径、11μm未満含有量、BET比表面積)、磁気特性(5K・1000/4π・A/mにおけるVSM磁化)及び電気特性(体積抵抗)を表4に示す。実施例1〜6及び比較例1〜3の液体樹脂成型性及び粉末成型性を表5及び表6にそれぞれに示す。表4の各特性の測定方法は上述の通りである。また、表5の液体樹脂成型性及び表6の粉末成型性の測定方法は下記の通りである。
【0083】
液体樹脂成型性: 実施例1〜6及び比較例1〜3で得られたフェライト粉に10%PVA水溶液及びポリカルボン酸分散剤を表5に示す混合条件で加えたものを準備し、30分間撹拌を続け、撹拌終了後B型粘度計で粘度を測定した。
【0084】
粉末樹脂成型性: 実施例1〜6及び比較例1〜3で得られたフェライト粉にフッ素系粉末樹脂を表6に示す混合条件で50ccのガラス瓶に入れて、ボールミルにて30分間混合した。得られた混合物を0.8g秤量したのち、直径13mm、内径5mmのドーナツ状のプレス金型に充填し、30MPaにて加圧して成型した。得られた成型体を取り出す時に型崩れするかどうか確認し、型崩れしないものを〇、型崩れしたものを×として評価した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
【表3】
【0088】
【表4】
【0089】
【表5】
【0090】
【表6】
【0091】
表4〜表6から明らかなように、実施例1〜6は抵抗も高く、高粘度の液体中においても十分粘度制御可能なフェライト粉となっただけでなく、粉末成型においても型崩れしにくいフェライト粉となった。
【0092】
一方、比較例1のフェライト粉は小粒径側フェライト粒子が存在しなかったため、成型性が悪いものとなった。比較例2は小粒径側フェライト粒子が多すぎたため、高粘度の液体中において粘度調整の分散剤を添加しても粘度制御ができず、フィラーとして使用できないものとなった。比較例3は大粒径側フェライト粒子に樹脂被覆を行わなかったため抵抗が低く、絶縁性が要求される用途では使用できないものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明に係るフェライト粉は、フィラーとして用いられたときの充填性及び成型性が良好で、また優れたハンドリング性を有し、かつ高抵抗であることから、この球状フェライト粉を樹脂と共に樹脂組成物とし、さらに成型した成型体は、電磁波吸収用のIC用封止剤を始めとする種々の用途に使用可能である。