(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493793
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】溶融塩型熱媒体
(51)【国際特許分類】
C09K 5/12 20060101AFI20190325BHJP
F22B 1/06 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
C09K5/12 E
F22B1/06 Z
【請求項の数】2
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2015-69896(P2015-69896)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-188347(P2016-188347A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2018年2月21日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 独立行政法人化学技術振興機構 SIP(戦略的イノベーション創造プログラム) 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】599160066
【氏名又は名称】綜研テクニックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(74)【代理人】
【識別番号】100186679
【弁理士】
【氏名又は名称】矢田 歩
(74)【代理人】
【識別番号】100189186
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】戸田 健司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峰夫
(72)【発明者】
【氏名】上松 和義
(72)【発明者】
【氏名】金 善旭
(72)【発明者】
【氏名】椿 善太郎
【審査官】
井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/130285(WO,A1)
【文献】
特開昭61−153136(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0167832(US,A1)
【文献】
特開2014−173172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00− 5/20
F22B 1/06
F24J 2/04
F24S10/00
F28D20/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
45.0〜65.0モル%の炭酸リチウムと、1.0〜5.0モル%の炭酸ナトリウムと、10.0〜20.0モル%の炭酸カリウムと、10.0〜20.0モル%の炭酸ストロンチウムと、3.0〜13.0モル%の炭酸セシウムと、からなる炭酸塩混合物を含む溶融塩型熱媒体。
【請求項2】
50.0〜62.0モル%の炭酸リチウムと、1.5〜4.5モル%の炭酸ナトリウムと、12.0〜18.0モル%の炭酸カリウムと、12.0〜18.0モル%の炭酸ストロンチウムと、5.0〜11.0モル%の炭酸セシウムと、からなる炭酸塩混合物を含む溶融塩型熱媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融塩型熱媒体、特に金属炭酸塩混合物を含む熱媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電プラント等の大きな熱量を扱う設備における熱伝達には、一般に熱容量の大きな熱媒体が有利である。また、火力発電プラントや太陽熱発電プラントでは、高温熱源から高温かつ大量の熱を取り出す必要があるため、使用する熱媒体自体の耐熱性も要求される。
【0003】
ところで、金属塩化合物の溶融塩は比較的大きな熱容量を有し、かつ耐熱性にも優れているため、上述の発電プラントにおいて使用する熱媒体としては好適なポテンシャルを備えたものであるといえる。
【0004】
しかしながら、熱媒体には流動性が必須であるが、例えば特許文献1に記載されるような溶融塩であってもいまだ融点が高く、溶融相にするためには大きなエネルギーを要していた。
【0005】
また、例えば金属塩化物系の溶融塩は比較的低融点のものもあるが、塩素を含むことで配管など金属部材の腐食を生じさせやすく、施設の耐久性の点から、このような塩素系の溶融塩は忌避されやすかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開 第2012/130285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明によれば、金属塩化物などの金属ハロゲン化物を使用しないことで金属の腐食を抑制でき、かつ低融点、高熱耐久性の溶融塩型熱媒体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、一実施形態として、45.0〜65.0モル%の炭酸リチウムと、1.0〜5.0モル%の炭酸ナトリウムと、10.0〜20.0モル%の炭酸カリウムと、10.0〜20.0モル%の炭酸ストロンチウムと、3.0〜13.0モル%の炭酸セシウムとからなる炭酸塩混合物を含む溶融塩型熱媒体を提供する。
また、本発明は、別の実施形態として、50.0〜62.0モル%の炭酸リチウムと、1.5〜4.5モル%の炭酸ナトリウムと、12.0〜18.0モル%の炭酸カリウムと、12.0〜18.0モル%の炭酸ストロンチウムと、5.0〜11.0モル%の炭酸セシウムとからなる炭酸塩混合物を含む溶融塩型熱媒体を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属塩化物などの金属ハロゲン化物を使用しないことで配管等、金属部材の腐食を抑制でき、かつ低融点、高熱耐久性の溶融塩型熱媒体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において格別に断らない限り、「%」は「モル%」を意味し、「部」は「モル部」を意味する。
【0011】
<炭酸塩混合物>
本発明の一実施形態に係る溶融塩型熱媒体は、45.0〜65.0モル%の炭酸リチウムと、1.0〜5.0モル%の炭酸ナトリウムと、10.0〜20.0モル%の炭酸カリウムと、10.0〜20.0モル%の炭酸ストロンチウムと、3.0〜13.0モル%の炭酸セシウムとからなる炭酸塩混合物を含んでなるものである。すなわち、本発明の一実施形態に係る溶融塩型熱媒体は、少なくとも上述した5成分からなる金属炭酸塩の混合物を含む。当該5成分が上記の範囲であると、低い融点と低い粘度が両立し、かつ耐熱性に優れた溶融塩型熱媒体を得ることができる。
【0012】
本発明の好ましい実施態様によれば、溶融塩型熱媒体は、50.0〜62.0モル%の炭酸リチウムと、1.5〜4.5モル%の炭酸ナトリウムと、12.0〜18.0モル%の炭酸カリウムと、12.0〜18.0モル%の炭酸ストロンチウムと、5.0〜11.0モル%の炭酸セシウムとからなる炭酸塩混合物を含む。
【0013】
より好ましい実施態様によれば、溶融塩型熱媒体は、53.0〜61.0モル%の炭酸リチウムと、2.0〜4.0モル%の炭酸ナトリウムと、13.0〜17.0モル%の炭酸カリウムと、13.0〜17.0モル%の炭酸ストロンチウムと、6.0〜10.0モル%の炭酸セシウムとからなる炭酸塩混合物を含む。
【0014】
<その他の成分>
本発明の溶融塩型熱媒体は、上述した金属炭酸塩混合物以外の成分(その他の成分とも称する)を含んでもよく、当該その他の成分は、例えばアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0015】
本発明の溶融塩型熱媒体は、例えば上述の5成分からなる金属炭酸塩化合物を構成する炭酸塩以外の金属炭酸塩を配合し、溶融塩型熱媒体全体として6成分以上からなる金属炭酸塩混合物とすることもできる。
【0016】
なお、本発明の溶融塩型熱媒体に、当該その他の成分を配合する場合には、高い耐熱性、比較的低い融点実現の観点から、当該その他の成分として、上述の5成分からなる金属塩化合物を構成する炭酸塩以外の金属炭酸塩を配合することとしてもよい。
【0017】
また、当該その他の成分の配合量は、本発明の金属塩混合物の全合計モル数100モルに対し、0〜20モル部、好ましくは0〜10モル部、より好ましくは0〜5モル部程度である。
【0018】
なお、その他の成分として金属塩化物などの金属ハロゲン化物を配合する場合は、金属腐食性を抑える必要性から、溶融塩型熱媒体の全量100モル%中、0.1モル%以下の配合量とすることが好ましく、0.05モル%以下とすることがさらに好ましく、理想的には全く配合しないことが望ましい。
【0019】
<本発明の利用例(用途)>
本発明によれば、配管等の金属腐食を抑制でき、かつ低融点、高熱耐久性の溶融塩型熱媒体が得られる。そして、当該溶融塩型熱媒体は火力発電プラントや太陽熱発電プラント、水素発生プラントなどの、高温熱源から高温かつ大量の熱を取り出す必要がある用途に好適に利用できる。
【実施例】
【0020】
<溶融塩型熱媒体の調製手順>
94.19 mmol(≒6.960 g:58.09モル%)の炭酸リチウムと、5.66 mmol(≒0.600 g:3.49モル%)の炭酸ナトリウムと、23.66 mmol(≒3.270 g:14.59モル%)の炭酸カリウムと、25.30 mmol(≒3.735 g:15.60モル%)の炭酸ストロンチウムと、13.35 mmol(≒4.35 g:8.23モル%)の炭酸セシウムを混合し、アルミナ製るつぼに入れ,箱型電気炉を用いて、空気中にて600 ℃で2時間加熱した。加熱時間の途中で、溶融状態の試料を均一化するため、るつぼを揺さぶって撹拌した。昇温速度は8 ℃/分である。600 ℃で2時間加熱した溶融体を取り出し、ステンレス製の皿に流し出し、室温放冷させることで、溶融塩型熱媒体1を調製した。
【0021】
<融点測定手順>
上記の手順で調整した溶融塩型熱媒体1をメノウ乳鉢で十分すりつぶしたのち、20〜30 mgをアルミニウム製試料皿に入れ、精秤した後、示差走査熱量計(DSC、リガク製Thermo plus EVO2)にセットした。室温から350 ℃までは10 ℃/分、350 ℃から420 ℃までは1 ℃/分の速度で昇温した。420 ℃に達した後は、350 ℃までは1 ℃/分、350 ℃から室温までは10 ℃/分で降温した。測定は空気中で行った。試料の融点と凝固点は、昇温時の吸熱ピークおよび降温時の発熱ピークのピーク温度をそれぞれの値とした。
結果、当該溶融塩型熱媒体1の融点は372.4
℃、凝固点374.2 ℃と算出した。
【0022】
<粘度測定手順>
上記の手順で調整した溶融塩型熱媒体1について、特殊高温ユニットを装着したAnton Paar社の高温レオメーターシステム(MCR 502)装置を用いて、550 ℃から750 ℃の温度範囲で粘度の測定を行った。測定は空気中で行った。調整した溶融塩型熱媒体粉末をアルミナ製の測定ユニットに入れ、750 ℃まで加熱させた後、温度が安定するまで放置した。その後、750、700、650、630、600、550 ℃の順で粘度の測定を行った。各温度で粘度を測定するに当たって、温度が安定するまで放置した後、温度が安定した時点で、36回の測定を行い、その平均値で溶融塩型熱媒体1の各測定温度における粘度を求めた。測定結果を下記表1に示す。
【表1】