(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493859
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】放射線モニタリングシステム
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20190325BHJP
G01T 1/29 20060101ALI20190325BHJP
G01T 1/20 20060101ALI20190325BHJP
G01T 7/00 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
A61N5/10 Q
G01T1/29 A
G01T1/20 A
G01T1/20 E
G01T1/20 G
G01T7/00 A
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-79747(P2015-79747)
(22)【出願日】2015年4月9日
(65)【公開番号】特開2016-198236(P2016-198236A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】397022885
【氏名又は名称】公益財団法人若狭湾エネルギー研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100076484
【弁理士】
【氏名又は名称】戸川 公二
(72)【発明者】
【氏名】伊東 富由美
(72)【発明者】
【氏名】久米 恭
【審査官】
安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−032419(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/023159(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/020360(WO,A1)
【文献】
特開2003−130819(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0217295(US,A1)
【文献】
国際公開第2014/102929(WO,A1)
【文献】
特開2010−127930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
G01T 1/00− 1/29
G01T 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビーム照射装置(A)からターゲット(T)に放射線ビーム(B)を照射する際に用いられる放射線モニタリングシステムであって、
前記ターゲット(T)のビーム入射面に当接させて、或いはビーム入射面近傍にターゲット(T)に固定した状態で配置される板状、シート状またはフィルム状のシンチレータ部材(1)と;このシンチレータ部材(1)に向けて設置される、撮像素子(21)および結像光学系(22)を備えた撮像装置(2)と;この撮像装置(2)に対して通信可能に接続された情報処理装置(3)とを含んで構成すると共に、
前記情報処理装置(3)の記憶装置に、撮像装置(2)から送信された前記シンチレータ部材(1)の発光動画データから静止画象データを切り出し、その静止画像データの画素値に基いて発光強度分布データを生成する画像処理プログラム、及び前記発光強度分布データから予め設定された相関関係に基いて1照射当たりまたは単位時間当たりの線量分布データを生成するデータ変換プログラムを導入して構成し、
更に前記情報処理装置(3)の記憶装置に導入された画像処理プログラムに、撮像装置(2)から送信された発光動画データから複数の静止画像データを切り出し、これらの静止画像データの画素値の平均値または加算値を算出して、この平均値または加算値から発光強度分布データを生成する機能を備えたことにより、
前記シンチレータ部材(1)を介してターゲット(T)にビーム照射を行ったときに、前記撮像装置(2)および情報処理装置(3)によって放射線ビーム(B)の線量分布データがリアルタイムで出力可能となっていることを特徴とする放射線モニタリングシステム。
【請求項2】
シンチレータ部材(1)がターゲット(T)のビーム入射面に対応した形状であることを特徴とする請求項1記載の放射線モニタリングシステム。
【請求項3】
ビーム照射装置(A)の制御部と情報処理装置(3)が通信可能に接続されると共に、情報処理装置(3)の記憶装置に、前記ビーム照射装置(A)の制御部から送信されたトリガ信号によって画像処理プログラムの実行または停止を制御する同期プログラムが導入されていることを特徴とする請求項1または2に記載の放射線モニタリングシステム。
【請求項4】
情報処理装置(3)に警告装置(4)が通信可能に接続されると共に、情報処理装置(3)の記憶装置に、予め設定された基準データと、発光強度分布データまたは線量分布データとを比較し、各座標における差分が閾値を超えた場合に、警告装置(4)に起動信号を送信する警告プログラムが導入されていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一つに記載の放射線モニタリングシステム。
【請求項5】
情報処理装置(3)にビーム照射装置(A)の制御部が通信可能に接続されると共に、情報処理装置(3)の記憶装置に、予め設定された基準データと、発光強度分布データまたは線量分布データとを比較し、各座標における差分が閾値を超えた場合に、ビーム照射装置(A)の制御部に停止信号を送信する強制停止プログラムが導入されていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一つに記載の放射線モニタリングシステム。
【請求項6】
撮像装置(2)に、結像光学系(22)の焦点距離制御部が設けられると共に、情報処理装置(3)の記憶装置に、入力装置からの入力に応じて前記結像光学系(22)の焦点距離制御部に制御信号を送信する遠隔操作プログラムが導入されていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一つに記載の放射線モニタリングシステム。
【請求項7】
情報処理装置(3)の記憶装置に、シンチレータ部材(1)の所定の基準点にピントが合うように結像光学系(22)の焦点距離制御部への制御信号を生成する自動焦点調節プログラムが導入されていることを特徴とする請求項6記載の放射線モニタリングシステム。
【請求項8】
情報処理装置(3)としてPCが使用されていることを特徴とする請求項1〜7の何れか一つに記載の放射線モニタリングシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線モニタリングシステムの改良、詳しくは、放射線ビームの照射中においてターゲットの照射野の線量分布を即時的に把握することができ、しかも、放射線治療における治療計画の効率的な策定および治療の安全性の向上が可能な放射線モニタリングシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、放射線治療を行う際には、患者の負担を最小化して治療効果を最大化するための治療計画が念入りに立てられる。具体的には、CTやMRI画像を撮影して患部(腫瘍部)に線量を集中させるための効率的な照射計画を立案し、照射野における線量分布の計算を行った後、患者の腫瘍部の形状に合わせたボーラスを作製してファントムを用いた線量分布評価を行う。
【0003】
しかし、放射線治療においては、事前に立てた計画に沿って治療を行う場合でも、装置の故障や性能上の要因、またはヒューマンエラー等の人的要因によって稀に意図しない誤照射が起こり得る。そして、誤照射は副作用の拡大や治療効果の縮減に繋がるため、早急に対策を打つ必要があるが、現時点においては、治療中に線量分布のモニタリングを行うシステムは存在しない。
【0004】
ちなみに、従来においては、蛍光板(シンチレータ)の発光状態をCCDカメラ等の撮像装置で撮影して、放射線ビームの形状や強度分布をモニタリングするシステムは公知となっているが(特許文献1〜3参照)、これらのシステムは、あくまでビーム特性を把握するためのものであって、照射野における単位時間当たりの放射線ビームの線量分布を把握するためのものではない。
【0005】
また、上記従来システムにおいて、ターゲット手前に二次元検出器を配置して線量分布を測定する方法では、ターゲットに対する本番のビーム照射とほゞ同条件下で測定が行えるものの、本番のビーム照射時には二次元検出器を外す必要があるため、本番時の線量分布をリアルタイムで把握することはできない。しかも、ターゲットへの照射状況を細かく確認するためには、ビーム照射を繰り返し中断してその都度、二次元検出器を移動させる必要がある。
【0006】
一方、従来においては、治療用途に開発された放射線モニタリングシステムも公知となっているが(特許文献4参照)、このシステムは、ビーム照射中にターゲットを赤外線カメラで撮影して赤外線のエネルギー量分布から照射範囲等の確認できるものの、照射野の線量分布まではモニタリングできない。またこのシステムでは、室温等の影響を受け易いため、使用条件の制限も大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−223943号公報
【特許文献2】特開2002−162475号公報
【特許文献3】特開2002−267759号
【特許文献4】特開2014−25908号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、放射線ビームの照射中にターゲットの照射野の線量分布を即時的に把握することができ、またそれによって放射線治療計画の効率的な策定や安全性の高い放射線治療を実現することが可能で、しかも、使用条件の制限も殆どない放射線モニタリングシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0010】
即ち、本発明は、ビーム照射装置AからターゲットTに放射線ビームBを照射する際に用いられる放射線モニタリングシステムにおいて、前記ターゲットTのビーム入射面に当接させて、或いはビーム入射面近傍に
ターゲットTに固定した状態で配置される板状、シート状またはフィルム状のシンチレータ部材1と;このシンチレータ部材1に向けて設置される、撮像素子21および結像光学系22を備えた撮像装置2と;この撮像装置2に対して通信可能に接続された情報処理装置3とを含んで構成すると共に、前記情報処理装置3の記憶装置に、撮像装置2から送信された前記シンチレータ部材1の発光動画データから静止画象データを切り出し、その静止画像データの画素値に基いて発光強度分布データを生成する画像処理プログラム、及び前記発光強度分布データから予め設定された相関関係に基いて1照射当たりまたは単位時間当たりの線量分布データを生成するデータ変換プログラムを導入し
て構成し、更に前記情報処理装置3の記憶装置に導入された画像処理プログラムに、撮像装置2から送信された発光動画データから複数の静止画像データを切り出し、これらの静止画像データの画素値の平均値または加算値を算出して、この平均値または加算値から発光強度分布データを生成する機能を備えたことにより、前記シンチレータ部材1を介してターゲットTにビーム照射を行ったときに、前記撮像装置2および情報処理装置3によって放射線ビームBの線量分布データをリアルタイム(データ処理やデータ送信にかかる時間を除く)で出力可能とした点に特徴がある。
【0011】
また本発明では、
上記シンチレータ部材1を予めターゲットTのビーム入射面に対応した形状とすることもできる。
【0012】
また更に、上記ビーム照射装置Aの制御部と情報処理装置3とを通信可能に接続すると共に、情報処理装置3の記憶装置に、前記ビーム照射装置Aの制御部から送信されたトリガ信号によって画像処理プログラムの実行または停止を制御する同期プログラムを導入すれば、発光動画データのみから発光強度分布データを生成できる。
【0013】
一方、上記情報処理装置3に警告装置4を通信可能に接続すると共に、情報処理装置3の記憶装置に、予め設定された基準データと、画像処理プログラムまたはデータ変換プログラムにより生成された発光強度分布データまたは線量分布データとを比較し、各座標における差分が閾値を超えた場合に、警告装置4に起動信号を送信する警告プログラムを導入すれば、誤照射対策も行える。
【0014】
また同様の目的で、上記情報処理装置3にビーム照射装置Aの制御部を通信可能に接続すると共に、情報処理装置3の記憶装置に、予め設定された基準データと、画像処理プログラムまたはデータ変換プログラムにより生成された発光強度分布データまたは線量分布データとを比較し、各座標における差分が閾値を超えた場合に、ビーム照射装置Aの制御部に停止信号を送信する強制停止プログラムを導入することもできる。
【0015】
他方、本発明においては、上記撮像装置2に、結像光学系22の焦点距離制御部を設けると共に、情報処理装置3の記憶装置に、入力装置からの入力に応じて前記結像光学系22の焦点距離制御部に制御信号を送信する遠隔操作プログラムを導入することによって、撮像装置2のピント調節を効率良く行うこともできる。
【0016】
加えて、上記遠隔操作プログラムを導入する場合には、情報処理装置3の記憶装置に、シンチレータ部材1の所定の基準点にピントが合うように結像光学系22の焦点距離制御部への制御信号を生成する自動焦点調節プログラムを一緒に導入することで、撮像装置2のピント調節作業をより効率的に行える。
【0017】
また更に、本発明では、上記情報処理装置3をビーム照射装置Aの専用装置として設けずにPCを用いることによって、導入するプログラム群を対応させるだけで多種のビーム照射装置に利用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の放射線モニタリングシステムでは、シンチレータ部材を介してターゲットへのビーム照射を行うことにより、シンチレータ部材の発光動画データから発光強度分布データ及び照射野の線量分布データを即時的に取得することが可能となるため、ターゲットへのビーム照射中に照射状況の確認や誤照射の発見を行うことができる。
【0019】
またこれにより、ターゲットへのビーム照射を中断して二次元検出器の出し入れを行わなくても線量分布の確認が行えるため、放射線治療を迅速に完了できるだけでなく放射線治療計画の策定も効率的に行える。しかも、本発明では、誤照射事故を早期に発見できるため、放射線治療の安全性も高めることができる。
【0020】
また更に、本発明では、ターゲット近傍にシンチレータ部材を配置しているため、ボーラスを設置した状態でも線量分布を正確に把握することができ、またシンチレータ部材の形状をターゲットのビーム入射面に沿わせる作業も容易に行える。しかも、本発明では、室温等の使用条件の制限もないため、様々な環境下で使用できる。
【0021】
したがって、本発明により、治療計画に沿って副作用等が少なく治療効果が大きい放射線治療を安全に実施できるだけでなく、放射線治療計画の策定時や新材料の研究開発等において線量分布データを効率的に取得できる放射線モニタリングシステムを提供できることから、本発明の実用的利用価値は頗る高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例1におけるビーム照射装置および放射線モニタリングシステムを表わす概略図である。
【
図2】本発明の実施例1における画像処理プログラムの処理内容および処理結果を表わす説明図である。
【
図3】本発明の実施例1における画像処理プログラムと同期プログラムの処理フローを表わす説明図である。
【
図4】本発明の実施例1におけるデータ変換プログラムの処理結果を表わす説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施例1]
本発明の実施例1について、
図1から
図4に基いて説明する。同図において、また符号Aで指示するものは、ビーム照射装置であり、符号Tで指示するものは、ターゲットである。また符号1で指示するものは、シンチレータ部材であり、符号2で指示するものは、撮像装置である。また符号3で指示するものは、情報処理装置であり、符号4で指示するものは、警告装置である。
【0024】
『放射線モニタリングシステムのハードウェア構成』
この実施例1では、ビーム照射装置AからターゲットTに放射線ビームBを照射する際に使用される放射線モニタリングシステムを、放射線ビームBに反応して発光するシンチレータ部材1と、このシンチレータ部材1の発光状態を撮像する撮像装置2と、撮像装置2によって得られた動画データから発光強度分布データ及び放射線ビームBの線量分布データを生成する情報処理装置3とから構成している(
図1参照)。
【0025】
また本実施例では、上記基本的なハードウェア構成に加え、情報処理装置3によって得られた発光強度分布データまたは線量分布データから異常事態を感知した場合に、異常事態であることを管理者に知らせる警告装置4も付設している。なお、これらの各構成要素の説明については、以下に別個に記載する。
【0026】
「ビーム照射装置」
まず上記ビーム照射装置Aに関しては、放射線ビームB(例えば、陽子線や炭素線等の粒子放射線やX線等の電磁放射線)を照射可能な装置を使用することができ、本実施例では、陽子線照射装置を使用している。また本実施例で使用する陽子線照射装置は、ビーム制御部から粒子加速器に送信されるトリガ信号のタイミングに合わせて放射線ビームBを出射する構造となっている。
【0027】
また本実施例では、上記ビーム照射装置Aの照射方式として間欠的に照射を行うパルス照射方式を採用しているが、必要に応じて連続照射方式を採用することもできる。そしてまた、本実施例では、上記ビーム照射装置Aに、人体の患部やファントム等をビーム照射のターゲットTとする放射線治療用の装置を使用しているが、新材料の研究開発や植物の品種改良等を行うための実験用装置を使用することもできる。
【0028】
「シンチレータ部材」
次に上記シンチレータ部材1に関しては、本実施例では板状の基材表面に蛍光物質を塗布した蛍光板を使用しているが、シート状やフィルム状のものを使用することもできる。具体的には、放射線治療において患者を固定するために使用される樹脂シート製の固定具や、患部表面を覆うように張り付けて使用される樹脂フィルム製の被覆材に蛍光物質を塗布したものをシンチレータ部材1として使用できる。
【0029】
また、上記シンチレータ部材1の配置に関しては、本実施例ではシンチレータ部材1をターゲットTとなる部位に粘着テープで貼り付けているため、ターゲットTとの間に微小な隙間(1〜2mm)が生じているが、上記放射線治療用の固定具や被覆材をシンチレータ部材1とする場合には、ターゲットTのビーム入射面に当接させた状態で配置することもできる。
【0030】
また本実施例では、上記シンチレータ部材1の形状を、可撓性を有する薄型(厚さ:0.5mm)の平板状として、ターゲットTのビーム入射面に沿うように湾曲させて使用できるようにしているが、ターゲットTのビーム入射面が複雑な凹凸形状を成している場合には、シンチレータ部材1を、予めビーム入射面に対応した形状に成形しておくこともできる(例えば、放射線治療用の固定具等)。
【0031】
「撮像装置」
次に上記撮像装置2に関しては、撮像素子21及びこの撮像素子21に照射野全体を結像させるための結像光学系22を備えたものを使用できる。また撮像装置2の配置に関しては、撮像装置2の光入射窓をシンチレータ部材1に向けて配置する必要があるが、シンチレータ部材1からの距離については、ビーム照射時の発光の強さや放射線ビームBの影響を考慮して適宜調節することができる。
【0032】
また本実施例では、上記撮像素子21にCCDイメージセンサを使用しているが、CMOSイメージセンサ等を使用することもできる。また更に本実施例では、上記結像光学系22を、可動レンズを有する複数のレンズ群(平凸レンズや平凹レンズ等)から構成すると共に、可動レンズを光軸に沿って前後に移動させる焦点処理制御部を設けている。
【0033】
加えて、本実施例では、上記撮像装置2における撮像素子21と結合光学系22の間にバンドパスフィルタ23を配置して、ノイズとなる光(室内照明光等)を除去し、特定波長域の光のみが撮像素子21に入射されるようにしている。なおバンドパスフィルタ23は、結合光学系22の後側でなく手前に配置されていてもよい。
【0034】
「情報処理装置」
次に上記情報処理装置3に関しては、演算装置や制御装置(CPU)、記憶装置(メモリや外部記憶装置)、入力装置(キーボードや操作盤等)、出力装置(出力モニタや外部装置への出力手段等)を備えたものを使用することができる。なお本実施例では、情報処理装置3にPCを用いて他のビーム照射装置Aにも利用できるようにしている。
【0035】
また本実施例では、上記情報処理装置3と撮像装置2、及び情報処理装置3とビーム照射装置Aの制御部を有線で接続しているが、通信可能であれば無線接続であってもよい。また、上記情報処理装置3の処理形態に関しては、必ずしも一つの装置で集中処理する必要はなく、複数の装置を用いて分散処理することもできる。
【0036】
「警告装置」
次に上記警告装置4に関しては、管理者に異常事態を知らせる機能を有するものを使用することができ、本実施例では警報音(ブザー音やベル音)を発生させる警音器を使用している。但し、警告装置4には、回転灯やフラッシュ等の光により警報を行う光警報器や、振動によって警報を行う振動警報器、これらを組み合わせたものも採用できる。また、警告装置4と情報処理装置3とは、有線または無線で通信可能に接続している。
【0037】
『放射線モニタリングシステムのソフトウェア構成』
この実施例1では、上記情報処理装置3の記憶装置に、放射線モニタリング機能を実現するための基本プログラムとして、画像処理プログラム及びデータ変換プログラムを導入する共に、放射線モニタリング機能を向上させるための付加プログラムとして、同期プログラムや警告プログラム、強制停止プログラム、遠隔操作プログラム、自動焦点調節プログラムを導入している。なお各プログラムの説明については、以下に別個に記載する。
【0038】
「画像処理プログラム」
まず上記画像処理プログラムに関しては、撮像装置2から送信されたシンチレータ部材1の発光動画データから
図2(a)に示すような静止画象データを切り出し、この静止画像データの画素値(本実施例では横線部分の画素値)に基いて、
図2(b)に示すようなRGB成分毎の発光強度分布データを生成する処理を行う。なお本実施例では、発光動画データを構成する全ての静止画像データを切り出しているが、静止画像データを必要な数だけ切り出すこともできる。
【0039】
また本実施例では、上記画像処理プログラムにおいて、撮像装置2から送信された発光動画データから複数の静止画像データを切り出した後、これらの静止画像データの画素値の平均値を算出して、この平均値から発光強度分布データを生成する処理を行っている。これにより、発光動画データから1照射当たりまたは単位時間当たりの平均的な発光強度分布データを得ることができる。
【0040】
なお本実施例では、静止画像データの画素値の平均値を用いて発光強度分布データを生成しているが、静止画像データの画素値の加算値から発光強度分布データを生成することもでき、その場合には、1照射当たりまたは単位時間当たりの総合的な発光強度分布データを得ることができる。
【0041】
「同期プログラム」
次に上記同期プログラムに関しては、ビーム照射装置Aの制御部から送信されたトリガ信号によって画像処理プログラムの実行または停止を制御する処理を行う。これにより、ビーム照射装置Aから放射線ビームBが出射されるタイミングに合わせて発光動画データのみを取得して画像処理が行えるため、正確な発光強度分布データを生成できる。
【0042】
ちなみに本実施例では、2000ms(2秒)に1回の間隔で1回約400msのビーム照射を行うパルス照射方式を採用しているため、
図3に示す1pulse目〜5pulse目の照射開始時(矢印部分)に送信されたトリガ信号を受信した後、各pulse目の照射中に得られた発光動画データから静止画像データを10個(数は変更可能)取得し、各pulse目の照射後、次pulse目の照射開始までの時間(約1600ms)にこれらの静止画像データから画素値の平均値(加算値での処理も可能)を算出して、1照射当たりの平均の発光強度分布データを生成している。
【0043】
また、本実施例のようなパルス照射方式でなく連続照射方式を採用する場合でも、ビーム照射時間または取得する静止画像データの個数等を予め設定しておけば、単位時間当たりの平均の発光強度分布データを連続的に生成することができる。また連続照射方式の場合には、ビーム照射を停止する際に情報処理装置3に停止信号を送信して、画像処理プログラムの停止制御を行うこともできる。
【0044】
「データ変換プログラム」
次に上記データ変換プログラムに関しては、画像処理プログラムによって得られた発光強度分布データから予め設定された相関関係に基いて、1照射当たり(パルス照射の場合)または単位時間当たりにおける放射線ビームBの線量分布データを生成する。そして本実施例では、このデータ変換プログラムによって得られた線量分布データを、
図4(a)(b)のようにグラフ化して情報処理装置3の出力モニタに表示させるようにしている。
【0045】
なお、上記発光強度分布データと線量分布データの相関関係については、予め二次元検出器で測定した複数の線量分布データと各測定時における発光強度分布とを比較して具体的な係数を算出しておく必要がある。また本実施例では、上記データ変換プログラムによる処理を、
図3に示す各pulse目の照射後、次pulse目の照射開始までの時間(約1600ms)に行っている。
【0046】
また、上記データ変換プログラムでは、発光強度分布データから生成した線量分布データを積算することによって放射線ビームの総線量の分布を示すデータを算出することもできる(例えば、
図3における1pulse目〜5pulse目の線量分布データを積算して総線量の分布を示すデータを算出する等)。これにより、1照射当たりまたは単位時間当たりの線量分布と全体の線量分布を同時に確認することができる。
【0047】
「警告プログラム」
次に上記警告プログラムに関しては、予め設定された基準データと、データ変換プログラムにより生成された線量分布データとを比較し、各座標における差分が閾値を超えた場合に、警告装置4に起動信号を送信する処理を行う。そしてこれによって、管理者に異常事態であることを知らせることができるため、迅速に誤照射対策を行うことができる。
【0048】
なお本実施例では、線量分布の基準データを設定して実際の線量分布データとの比較処理を行っているが、線量分布と発光強度分布の相関関係から逆算した発光強度分布を基準データに設定して、実際の発光強度分布との比較処理を行うことにより、異常事態か否かの判別処理を行わせることもできる。
【0049】
「強制停止プログラム」
次に上記強制停止プログラムに関しては、上記警告プログラムと同様、予め設定された基準データと、画像処理プログラムまたはデータ変換プログラムにより生成された発光強度分布データまたは線量分布データとを比較し、各座標における差分が閾値を超えた場合に、ビーム照射装置Aの制御部に停止信号を送信する処理を行う。これにより、ビーム照射装置Aを緊急停止させることができるため、誤照射の繰り返しを防止できる。
【0050】
「遠隔操作プログラム」
次に上記遠隔操作プログラムに関しては、情報処理装置3の入力装置からの入力に応じて、撮像装置2の結像光学系22の焦点距離制御部に制御信号を送信する処理を行う。そして、焦点距離制御部が情報処理装置3からの制御信号に基づき結像光学系の可動レンズを前後に移動させることによって、撮像素子3に照射野全体を結像させるピント調節作業を別室から効率良く行える。
【0051】
「自動焦点調節プログラム」
次に上記自動焦点調節プログラムに関しては、シンチレータ部材1の所定の基準点(フォーカスポイント)にピントが合うように結像光学系22の焦点距離制御部への制御信号を生成する処理を行う。そして、この自動焦点調節プログラムで生成された制御信号を、上記遠隔操作プログラムで撮像装置3の焦点距離制御部に送信することにより、撮像装置2のピント調節作業をより省力的にかつ迅速に行えるようになる。
【0052】
『放射線モニタリング機能』
本実施例では、放射線モニタリングシステムにおいて、上記ハードウェア構成及びソフトウェア構成を採用したことにより、ビーム照射装置Aからシンチレータ部材1を介してターゲットTにビーム照射を行ったとき、上記撮像装置2や情報処理装置3によって放射線ビームBの線量分布データをリアルタイムに出力することができる。
【0053】
また、上記リアルタイム処理によるモニタリング機能を実現したことにより、ビーム照射中であっても迅速な誤照射対策が行えるため、特に放射線治療用途に用いた場合に治療の安全性を高めることができる。また上記モニタリング機能によってビーム設定の調整作業も迅速に行えるため、放射線治療計画の策定や実験データの取得も効率的に行える。
【0054】
しかも、本実施例では、上記情報処理装置3に専用装置でなくPCを用いているため、情報処理装置3に導入するプログラム群をビーム照射装置Aに対応させるだけで、放射線モニタリングシステムを特定のビーム照射装置Aだけでなく、多種のビーム照射装置Aに利用することができる。
【0055】
また本発明は、概ね上記のように構成されるが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」の記載内において種々の変更が可能であって、例えば、結像光学系22の自動焦点調節プログラムは、情報処理装置3側でなく撮像装置2側に導入することもできる。
【0056】
また、シンチレータ部材1の設置具や撮像装置2に角度調節機構を設けて情報処理装置3に通信可能に接続し、情報処理装置3の遠隔操作プログラムによって別室から操作できるようにすることもでき、上記何れのものも本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
近年、医療分野における放射線治療技術への期待はより大きくなっており、治療の安全性を高める技術開発が進められている。そのような中で、本発明の放射線モニタリングシステムは、迅速な治療を妨げることなく事故を防止できる有用な技術であることから、その産業上の利用価値は非常に高い。
【符号の説明】
【0058】
1 シンチレータ部材
2 撮像装置
21 撮像素子
22 結像光学系
23 バンドパスフィルタ
3 情報処理装置
4 警告装置
A ビーム照射装置
B 放射線ビーム
T ターゲット