特許第6493878号(P6493878)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493878
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】ベルト取付具
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/18 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   B60R22/18 118
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-208273(P2015-208273)
(22)【出願日】2015年10月22日
(62)【分割の表示】特願2014-561607(P2014-561607)の分割
【原出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2016-27978(P2016-27978A)
(43)【公開日】2016年2月25日
【審査請求日】2015年10月22日
【審判番号】不服2017-5888(P2017-5888/J1)
【審判請求日】2017年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】594066176
【氏名又は名称】株式会社遠州
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 忠男
【合議体】
【審判長】 島田 信一
【審判官】 尾崎 和寛
【審判官】 一ノ瀬 覚
(56)【参考文献】
【文献】 独国特許出願公開第102004041665(DE,A1)
【文献】 特許第3281226(JP,B2)
【文献】 特開平8−301068(JP,A)
【文献】 特開2012−171587(JP,A)
【文献】 特開平8−188117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00 - 22/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートベルト装置用のベルトが挿通される挿通孔が形成され、車両に取付けられる本体部材と、
前記本体部材に対し曲げられた状態で設けられて前記挿通孔の外周面を構成し、前記挿通孔の全周において先端側部分を基端側部分から離間される状態に基端側部分より前記挿通孔の径方向外側に突出される突出部と、
を備えたベルト取付具。
【請求項2】
前記挿通孔の外周面を前記挿通孔側に凸状に湾曲させた請求項1記載のベルト取付具。
【請求項3】
前記本体部材及び前記突出部が形成された炭素鋼が熱処理により高強度化された請求項1又は請求項2記載のベルト取付具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートベルト装置用のベルトが挿通されると共に車両に取付けられるベルト取付具に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載のベルト取付金具では、基板に長孔が形成されており、長孔にシートベルト装置用のベルトが挿通される。さらに、基板の長孔周囲に、凸条が形成されており、凸条は、長孔の外周面を構成している。また、ベルト取付金具の材料は、高張力鋼板にされている。
【0003】
ここで、このベルト取付金具では、基板の板厚寸法を小さくすると、長孔の外周面の基板により構成される部分の面積が小さくなって、長孔の外周面の面積が小さくなることで、ベルトの長孔外周面との接触面積が小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3281226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事実を考慮し、本体部材の板厚寸法を小さくできるベルト取付具を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1態様のベルト取付具は、車両のシートベルト装置用のベルトが挿通される挿通孔が形成され、車両に取付けられる本体部材と、前記本体部材に対し曲げられた状態で設けられて前記挿通孔の外周面を構成し、前記挿通孔の全周において先端側部分を基端側部分から離間される状態に基端側部分より前記挿通孔の径方向外側に突出される突出部と、を備えている。
【0007】
本発明の第2態様のベルト取付具は、本発明の第1態様のベルト取付具において、前記挿通孔の外周面を前記挿通孔側に凸状に湾曲させている。
【0008】
本発明の第3態様のベルト取付具は、本発明の第1態様又は第2態様のベルト取付具において、前記本体部材及び前記突出部が形成された炭素鋼が熱処理により高強度化されている
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1態様のベルト取付具では、車両に取付けられる本体部材に挿通孔が形成されており、車両のシートベルト装置用のベルトが挿通孔に挿通される。また、本体部材に突出部が設けられており、突出部は、挿通孔の外周面を構成している。
【0010】
ここで、突出部が先端側部分を基端側部分から離間される状態に挿通孔の径方向外側に突出されている。このため、挿通孔の外周面の突出部により構成される部分の面積を大きくできる。これにより、本体部材の板厚寸法を小さくしても、挿通孔の外周面の面積を大きくできて、ベルトの挿通孔外周面との接触面積を大きくできる。したがって、本体部材の板厚寸法を小さくできる。
【0011】
本発明の第2態様のベルト取付具では、挿通孔の外周面が挿通孔側に凸状に湾曲されている。このため、ベルトの損傷を効果的に抑制できる。
【0012】
本発明の第3態様のベルト取付具は、本体部材及び突出部が形成された炭素鋼が熱処理により高強度化されている。このため、炭素鋼を熱処理する前本体部材、挿通孔及び突出部を形成することで、本体部材、挿通孔及び突出部を容易に形成できる。その後、炭素鋼を熱処理することで、本体部材及び突出部の強度を効果的に高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態における車両の主要部を示す車両左斜め前方から見た斜視図である。
図2】本発明の実施形態に係るアンカを示す正面図である。
図3】本発明の実施形態に係るアンカを示す側面図である。
図4】本発明の実施形態に係るアンカを示す断面図(図2の4−4線断面図)である。
図5】本発明の実施形態に係るアンカの主要部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図2には、本発明の実施形態に係るベルト取付具としてのアンカ10が正面図にて示されており、図3には、アンカ10が側面図にて示されている。また、図1には、アンカ10が適用された車両12(自動車)の主要部が車両左斜め前方から見た斜視図にて示されている。なお、図面では、アンカ10の表側を矢印SFで示し、アンカ10の先端側を矢印TPで示している。
【0015】
図1に示す如く、本実施形態に係るアンカ10は、車両12のシートベルト装置14に用いられており、シートベルト装置14は、車室内の乗員(例えば運転者)着座用のシート16に装備されている。
【0016】
シートベルト装置14には、格納装置18(巻取装置)が設けられており、格納装置18は、シート16の車幅方向外側かつ下側において、車体(シート16でもよい)に取付けられている。格納装置18には、ベルト20である長尺帯状のシートベルト22(ウェビング)が基端側から巻取られて格納されており、格納装置18は、シートベルト22に巻取方向への付勢力を作用させている。
【0017】
シートベルト22は、格納装置18より先端側において、スルーアンカ24に移動可能に挿通されており、スルーアンカ24は、シート16の車幅方向外側かつ上側において、車体(シート16でもよい)に回動可能に取付けられている。さらに、シートベルト22は、スルーアンカ24より先端側において、タング26に移動可能に挿通されている。
【0018】
シートベルト22の先端は、アンカ10であるベルトアンカ28に取付けられており、ベルトアンカ28は、シート16の車幅方向外側かつ下側において、車体(シート16でもよい)に取付けられている(固定されている)。
【0019】
シートベルト装置14には、バックル30が設けられており、バックル30は、ベルト20である長尺帯状の取付ベルト32(ウェビング)の先端が取付けられている。取付ベルト32の基端は、アンカ10である取付アンカ34に取付けられており、取付アンカ34は、シート16の車幅方向内側かつ下側において、車体(シート16でもよい)に取付けられている(固定されている)。
【0020】
ここで、タング26は、バックル30に着脱可能にされており、タング26がバックル30に装着されることで、シート16に着座した乗員にシートベルト22が装着される。これにより、シートベルト22のスルーアンカ24とタング26との間の部分(ショルダベルト部)が乗員の上半身に斜め方向に掛渡されると共に、シートベルト22のタング26とベルトアンカ28との間の部分(ラップベルト部)が乗員の腰部に横方向に掛渡される。また、車両の緊急時(例えば衝突時)には、格納装置18がシートベルト22の引出しをロックすることで、乗員をシート16に拘束可能にされている。
【0021】
本実施形態に係るアンカ10(ベルトアンカ28及び取付アンカ34)は、材料が所謂炭素鋼(ボロン鋼等)にされており、アンカ10は、炭素鋼が熱処理されて、強度が高くされている。
【0022】
図2図5に示す如く、アンカ10には、本体部材としての板状のアンカ本体36が設けられており、アンカ本体36の板厚寸法は、従来のアンカ本体の板厚寸法(例えば3.2mm)に比し小さくされている(例えば1.6mmにされている)。アンカ本体36は、炭素鋼が熱処理される前に、プレス加工によって形成されており、アンカ本体36の先端側部分(長手方向一側部分)は、アンカ本体36の基端側部分(長手方向他側部分)に対し屈曲されて、アンカ本体36の先端側へ向かうに従いアンカ本体36の表側へ向かう方向へ傾斜されている。
【0023】
アンカ本体36の基端側部分には、円状の取付孔38が貫通形成されており、取付孔38は、炭素鋼が熱処理される前に、プレス加工によって形成されている。取付孔38には、取付ボルト40(図1参照)が貫通かつ嵌合されており、取付ボルト40が車体に締結されると共に、取付ボルト40の頭部と車体との間にアンカ本体36の取付孔38周囲が挟持されることで、アンカ10が車体に取付けられている。
【0024】
アンカ本体36の先端側部分には、正面視略楕円状の挿通孔42が貫通形成されており、挿通孔42は、炭素鋼が熱処理される前に、プレス加工によって形成されている。挿通孔42は、アンカ本体36の幅方向に長尺にされており、挿通孔42の外周面は、アンカ本体36基端側の基端42Aが正面視直線状に形成されると共に、基端42Aの近傍部分42Bが正面視で凹状の湾曲線状に形成され、かつ、アンカ本体36先端側の先端部42Cが正面視でアンカ本体36先端側へ凹状の湾曲線状に形成されている。
【0025】
アンカ本体36の先端側部分には、挿通孔42の全周において、略楕円筒状の突出部44(フランジ)が形成されており、突出部44は、炭素鋼が熱処理される前に、プレス加工によって形成されている。突出部44は、アンカ本体36の表側に突出されており、突出部44は、アンカ10の挿通孔42形成部分の面積を大きくし、かつ、アンカ10の挿通孔42形成部分を補強している。突出部44の内周面は、挿通孔42の外周面を構成しており、挿通孔42は、突出部44によってアンカ本体36板厚方向に拡大されている。また、アンカ本体36の板厚寸法を小さくする場合に、突出部44の突出寸法を大きくできて、突出部44のアンカ本体36板厚方向における寸法L(図5参照)が大きくされている(例えば4.4mmにされている)。
【0026】
突出部44の突出基端側部分は、アンカ本体36の板厚方向に突出されると共に、突出部44の突出先端側部分は、挿通孔42の径方向外側に突出(カーリング)されており、突出部44の肉厚寸法は、例えば、アンカ本体36の板厚寸法以下にされている。突出部44の挿通孔42とは反対側(挿通孔42径方向外側)の部分には、断面略矩形状の凹部46が形成されており、凹部46は、挿通孔42とは反対側に開放されると共に、外周面の各角部46Aが凹状に湾曲されている。挿通孔42の外周面(突出部44の内周面を含む)の断面は、略半円弧状にされており、挿通孔42の外周面は、挿通孔42側(挿通孔42径方向内側)に凸状に湾曲されている。
【0027】
挿通孔42には、ベルト20(シートベルト22又は取付ベルト32)が挿通されており、ベルト20は、挿通孔42挿通位置において折返されると共に、挿通孔42挿通位置近傍において重合された状態で縫合されている。これにより、ベルト20がアンカ10に取付けられている。車両の緊急時(例えば衝突時)に、格納装置18がシートベルト22の引出しをロックした状態で、シートベルト22に乗員の荷重が作用された際には、ベルト20(シートベルト22及び取付ベルト32)が乗員によって引張られることで、ベルト20が、挿通孔42外周面の先端部42Cに沿って撓んだ状態で、挿通孔42外周面の先端部42Cに面接触される。
【0028】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0029】
以上の構成のアンカ10では、アンカ本体36に取付孔38が貫通形成されており、アンカ10が取付孔38において車体に取付けられている。
【0030】
また、アンカ本体36に挿通孔42が貫通形成されると共に、アンカ本体36に挿通孔42の全周において突出部44が形成されており、突出部44の内周面が挿通孔42の外周面を構成している。さらに、ベルト20が挿通孔42に挿通された状態でアンカ10に取付けられている。
【0031】
ここで、突出部44の突出基端側部分がアンカ本体36の板厚方向に突出されるのみならず、突出部44の突出先端側部分が挿通孔42の径方向外側に突出されている。このため、挿通孔42の外周面の突出部44内周面により構成される部分の面積を大きくできる。これにより、アンカ本体36の板厚寸法を小さくしても、挿通孔42の外周面の面積を大きくできる。したがって、ベルト20の挿通孔42外周面との接触面積を大きくできて、ベルト20の損傷(磨耗及び破断)を抑制できることで、アンカ本体36の板厚寸法を小さくできて、アンカ10を軽量化できる。
【0032】
さらに、アンカ本体36の板厚寸法を小さくしても、突出部44の突出寸法を大きくできる。このため、挿通孔42の外周面の突出部44内周面により構成される部分の面積を効果的に大きくできて、挿通孔42の外周面の面積を効果的に大きくできる。したがって、ベルト20の挿通孔42外周面との接触面積を効果的に大きくできて、ベルト20の損傷(磨耗及び破断)を効果的に抑制できる。
【0033】
また、挿通孔42の外周面(突出部44の内周面を含む)が挿通孔42側に凸状に湾曲されている。このため、ベルト20の損傷(磨耗及び破断)を一層効果的に抑制できる。
【0034】
さらに、アンカ10が、炭素鋼をプレス加工してアンカ本体36、取付孔38、挿通孔42及び突出部44を形成した後に、当該炭素鋼を熱処理して製造されている。
【0035】
このため、炭素鋼を熱処理する前にプレス加工して、アンカ本体36、取付孔38、挿通孔42及び突出部44を形成することで、アンカ本体36、取付孔38、挿通孔42及び突出部44を容易に形成できる。特に、アンカ10を軽量化(薄板化)するためにアンカ10の材料を超高張力鋼板にする場合と異なり、アンカ本体36に突出部44を容易に形成できる。
【0036】
その後、炭素鋼を熱処理することで、アンカ本体36の板厚寸法及び突出部44の肉厚寸法が小さい場合でも、アンカ10(アンカ本体36及び突出部44)の強度を効果的に高くできる。このため、特に、車両の緊急時(例えば衝突時)に、格納装置18がシートベルト22の引出しをロックした状態で、ベルト20(シートベルト22及び取付ベルト32)が乗員によって引張られた際でも、ベルト20からアンカ10に入力される荷重によってアンカ10(アンカ本体36、取付孔38、挿通孔42及び突出部44)が損傷することを抑制できる。
【0037】
なお、本実施形態では、突出部44の突出基端側部分をアンカ本体36の板厚方向に突出させた。しかしながら、突出部44の突出基端側部分を挿通孔42の径方向外側に突出させてもよい。
【0038】
また、本実施形態では、アンカ本体36の表側に突出部44を突出させた。しかしながら、アンカ本体36の表側及び裏側の少なくとも一方に突出部44を突出させればよい。
【0039】
さらに、本実施形態では、アンカ本体36に挿通孔42の全周において突出部44を形成した。しかしながら、アンカ本体36に挿通孔42の周方向一部(特に車両の緊急時(例えば衝突時)におけるベルト20との接触部分)において突出部44を形成してもよい。
【符号の説明】
【0040】
10 アンカ(ベルト取付具)
12 車両
14 シートベルト装置
20 ベルト
36 アンカ本体(本体部材)
42 挿通孔
44 突出部
図1
図2
図3
図4
図5