(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、2輪車や4輪車の自動車のオートレースの競技に用いられるヘルメットのシールドは、短時間で表面が汚れて視界が妨げられことが度々発生する。また、塗装作業の際に用いられる塗装用保護眼鏡は、塗装作業中に飛散した塗料等で眼鏡の表面が汚れて視界が妨げられることがある。また、医療用ゴーグルやフェイスシールドでは、手術中に患者から飛散した血液等でその表面が汚れることもある。
【0003】
このように汚染物の飛来が予測できない環境では、即座に視界の回復を図ることが求められる。しかしながら、例えばオートレース中等、汚染物を拭き取る時間的余裕がない場合や、外科的手術中等、そもそも汚染物が危険物であることから接触することが好ましくない場合もある。このような問題は、前述した自動車競技や塗装作業等以外でも、ヘルメット、ゴーグル、保護眼鏡等を使用する環境では頻繁に発生している。
【0004】
このような問題を解決するために、従来、ヘルメットのシールドや塗装用保護眼鏡の表面に簡単に剥離可能な保護フィルムを複数枚積層しておき、汚れによって視界が妨げられた際には、一番上層の保護フィルムを汚れと共に剥離し視界を回復させることが行われている。この種の技術について、例えば特許文献1では、ヘルメットのシールド部分を覆うように複数のシート状保護カバー、即ち使い捨てのバイザーを貼り付けたヘルメットのシールド部分の保護装置が開示されている。
【0005】
しかしながら、上記のように保護装置を単なる保護フィルムの積層構造とすると、積層した各層間における界面で反射が生じるなどする。また、単純に積層枚数の増加に伴い透過性が低下する(積層枚数に限界ができる)等の問題がある。
【0006】
例えば、前述した保護フィルムとしては、一般に透明なプラスチックフィルムを用いることができる。このプラスチックフィルムとしては、屈折率が1.4〜1.6のものが汎用されており、フィルムの表裏でそれぞれ4〜5%程度の光の反射があり、全体の透過率としては90〜92%程度になっている。1枚のフィルムでは90%程度の透過率であるが、2枚重ねた場合は81%、3枚重ねた場合は73%と、複数枚重ねるごとに光線の透過率が下がり見えづらくなる問題がある。
【0007】
一方、可視光波長以下のピッチを備えたモスアイ構造体の光学素子、フィルムは、広く知られている。例えば、特許文献2に開示されているように、透明基材上にモスアイ構造体を備える方法として、未硬化の紫外線硬化樹脂を、表面に構造体形状を備えた原盤の間に挟持し光照射させて得る手法がある。
【0008】
このようなモスアイ構造体は、液晶ディスプレイ等に用いられる特定波長に対応したARフィルムとは異なり、基本的には全波長対応なので、当該モスアイ構造体を介して被写体を見たとき、その色味が変わらない等といった利点もある。
【0009】
このようなモスアイ構造体の利点に着目し、例えば、特許文献3では、表面の微細構造が発現するモスアイ効果によって低反射率が実現された低反射透明板及びそれを用いた展示用ケースが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の透明積層体、及びそれを用いた保護具に係る好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、本発明の透明積層体、及びそれを用いた保護具は、以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。
【0019】
先ず、本発明の透明積層体について概略説明すると、可塑性を有する基体の表裏面に可視光波長以下のピッチで構造体を設けている。以下、反射防止機能を有する微細な凹凸構造体を「モスアイ構造体」と称する。そして、複数のフィルム状部材を積層する際に、フィルム状部材間に空隙ができるようにする。構造体の間に所定の空隙ができるようにするため、フィルム状部材の粘着層の粘着領域を適宜設定できる。例えば、端部にのみ接着層を設ける態様があり、この接着層は線で形成しても点で形成されていてもよい。また、どちらも備えた形でもよい。また、接着層はフィルム部材の端部のみでなく、全面にわたって設けられた態様を除外するものではなく、この場合は端部と端部位外の領域で剥離性が異なればよい。望ましくは、端部以外の剥離性が、端部よりも弱いことが求められる。
【0020】
その他の態様として、フィルム状部材の端部もしくはその一部を物理的に固定して積層することもできる。一例として、フィルム状部材を積層した状態において、ピンで固定する、ないしは固定化されたピンやフックにひっかける、などして固定化する。この場合、端部もしくはその一部に設けられた固定部は、積層体が安定するように設けられていることが求められる。フィルム状部材の一部は切り込みなどの加工がなされていてもよい。更に、超音波溶着法又は熱溶着法を用いて積層を固定化させてもよい。
【0021】
即ち、従来のフィルムでは、積層により光学性能の低下が生じていたことに鑑みて、本発明では、モスアイ構造体を備えたフィルム状部材を積層する。そして、モスアイ構造体が片面にのみ設けられているフィルム状部材の積層構造では、透過率の低下やフィルム状部材の裏面側での反射などの問題が発生するため、両面にモスアイ構造が設けられたフィルム状部材を用いて透明積層体を構成する。これにより透過性低下のない積層シールド構成とすることができ、透過性が向上するので積層枚数を増やすこともできる。但し、片面にモスアイ構造体を備えたものを除外するものではない。
【0022】
積層は接着剤等の粘着層によってなされると固定化が容易になる。この接着剤は装着時に視野外となるような外周部に設けられることが望ましい。フィルム状部材の全面に接着剤を設けないようにすることで、(1)フィルム状部材自体の剥離性向上、(2)接着剤の離形性(残渣による視認性低減回避)向上、(3)接着剤の厚みによる歪みの発生の回避、などといった特性とコストを両立した条件を見出し易くなる。但し、全面を粘着層により貼り合わせるものを除外するものではない。
【0023】
モスアイ構造体を備えたフィルム状部材を積層することで、シールドの視認性が汚れなどで低下しても、必要に応じてフィルム状部材を剥離することで低下要因ごと取り除くことができるので、シールドを備えた保護具の利便性をも高めることもできる。
【0024】
以上の概要を踏まえて、以下、本発明の実施形態について詳述する。
【0026】
図1は本発明の一実施形態に係る透明積層体の構成の一例を示す概略図である。
【0027】
図1に示されるように、この透明積層体1は、複数の光学素子としてのフィルム状部材10が、接着剤等による粘着層2により接合され、構成されている。各フィルム状部材10は、基体11の両面に基底層13を介して構造体12が設けられている。
【0028】
光学素子としてのフィルム状部材10は、対向する表面及び裏面の両面が反射防止機能を有している。
【0029】
即ち、フィルム状部材10は、表面および裏面を有する基体11と、この基体11の表面及び裏面に積層された基底層13と、この基底層13を介して設けられた複数の構造体12とを備えている。複数の構造体12は、基体11の表面及び裏面において、基底層13の上に複数の列をなすように規則的に配置されている。こうして、フィルム状部材10の表面及び裏面は複数の構造体12からなるモスアイ構造体による凹凸形状を有する(但し、表面のみに構造体12を設けることもできる。)。
【0030】
つまり、フィルム状部材10の表面及び裏面は、可視光の波長以下のピッチで複数の構造体が設けられたモスアイ構造体による凹凸面となっている。このような凹凸面をフィルム状部材10の表面及び裏面に設けることで、波長依存性が少なく、視認性の優れた光学調整機能を、透明積層体1が装着された被着体の表面に付与することができる。即ち、視認性に優れた被着体を実現することに寄与することができる。
【0031】
ここで、「光学調整機能」とは、透過特性や反射特性の光学調整機能を示す。光学素子としてのフィルム状部材10は、例えば可視光に対して透明性を有しており、その屈折率nは、好ましくは1.30以上2.00以下、より好ましくは1.34以上2.00以下の範囲内であることが好ましい。但し、これには限定されない。
【0032】
なお、構造体12の屈折率は、粘着層2および基体11の屈折率と同様又は略同様であることが好ましい。内部反射を抑制し、コントラストを向上できるからである。
【0033】
図1では、構造体12が基底層13を介して基体11の表裏面に形成される例を示したが、この基底層13は、基体11に対する構造体12の密着性を向上させる役割を担っている。この場合、基底層13は、構造体12の底面側に当該構造体12と一体成形される光学層であって、透明性を有しており、構造体12と同様のエネルギー線硬化性樹脂組成物などを硬化することにより形成されてよい。
【0034】
また、例えば
図2に示されるように、基底層13を有せず、基体21の上に複数の構造体22によるモスアイ構造が直接形成されたフィルム状部材20としてもよい。
【0035】
さらに、基体と構造体とは、例えば、
図3に示されるように一体成形されてもよい。すなわち、この
図3の構成の場合、基体31の両面に構造体32が一体成形され、フィルム状部材30が構成されることになる。
【0036】
ここで、基体11について更に言及する。
【0037】
基体11は、例えば、透明性を有する透明基体である。基体11の材料としては、例えば、透明性を有するプラスチック材料を主成分とするものが挙げられるが、これらの材料に特に限定されるものではない。
【0038】
基体11としてプラスチック材料を用いる場合、プラスチック材料の表面の表面エネルギー、塗布性、すべり性、平面性などをより改善するために、表面処理により不図示の下塗り層を更に設けるようにしてもよい。この下塗り層としては、例えば、オルガノアルコキシメタル化合物、ポリエステル、アクリル変性ポリエステル、ポリウレタンなどが挙げられる。また、下塗り層を設けるのと同等の効果を得るために、基体11の表面に対してコロナ放電処理、UV照射処理などを行うようにしてもよい。
【0039】
基体11がプラスチックフィルムである場合、当該基体11は、例えば、上述の樹脂を伸延、あるいは溶剤に希釈後フィルム状に成膜して乾燥するなどの方法で得ることができる。基体11の厚さは、光学積層体1の用途に応じて適宜選択することが好ましく、例えば10μm以上500μm以下程度であってよい。基体11の形状としては、例えば、フィルム状、プレート状等を挙げることができるが、特にこれら形状に限定されるものではない。なお、フィルムにはシートが含まれるものとする。
【0040】
そして、基体11の材料としては、例えば、メチルメタクリレート(共)重合体、ポリカーボネート、スチレン(共)重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアセタール、ポリエーテルケトン、ポリウレタン、ガラス等が挙げられるが、これらには限定されない。
【0041】
次に、構造体12について更に言及する。
【0042】
一般に、可視光の波長帯域は360nm〜830nmであるが、この実施形態では、構造体12を可視光の波長帯域以下のサイズで規則配列している。かかる観点から、構造体12の配置ピッチは350nmを超えないものとする。構造体12は、錐体状、柱状、針状など、種々の形状でよい。構造体12は、例えばエネルギー線硬化性樹脂組成物などを硬化することで形成される。構造体12を形成するエネルギー線硬化性樹脂生成物は、基体11の両面で異なる物性を持っても良い。例えば、使用の用途によって、撥水性、親水性を使い分けることにより、防曇などの機能を特定の面に持たせることができる。
【0043】
エネルギー線硬化性樹脂組成物としては、紫外線硬化性樹脂組成物を用いることが好ましい。また、エネルギー線硬化性樹脂組成物が、必要に応じてフィラーや機能性添加剤などを含んでいてもよい。
【0044】
紫外線硬化性樹脂組成物は、例えばアクリレート及び開始剤を含んでいる。
【0045】
そして、紫外線硬化性樹脂組成物は、例えば単官能モノマー、二官能モノマー、多官能モノマー等を含み、具体的には、以下に示す材料を単独又は複数混合したものである。
【0046】
即ち「単官能モノマー」としては、例えば、カルボン酸類(アクリル酸)、ヒドロキシ類(2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート)、アルキル、脂環類(イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、イソボニルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート)、その他機能性モノマー(2−メトキシエチルアクリレート、メトキシエチレンクリコールアクリレート、2−エトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、ベンジルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、2−(パーフルオロオクチル)エチル アクリレート、3−パーフルオロヘキシル−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、3−パーフルオロオクチルー2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチル アクリレート、2−(パーフルオロー3−メチルブチル)エチル アクリレート)、2,4,6−トリブロモフェノールアクリレート、2,4,6−トリブロモフェノールメタクリレート、2−(2,4,6−トリブロモフェノキシ)エチルアクリレート)、2−エチルヘキシルアクリレートなどを挙げることができる。
【0047】
「二官能モノマー」としては、例えば、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、トリメチロールプロパン ジアリルエーテル、ウレタンアクリレートなどを挙げることができる。
【0048】
「多官能モノマー」としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ及びヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどを挙げることができる。
【0049】
「開始剤」としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンなどを挙げることができる。
【0050】
「フィラー」としては、例えば、無機微粒子および有機微粒子のいずれも用いることができる。無機微粒子としては、例えば、SiO
2、TiO
2、ZrO
2、SnO
2、Al
2O
3などの金属酸化物微粒子を挙げることができる。
【0051】
「機能性添加剤」としては、例えば、レベリング剤、表面調整剤、消泡剤などを挙げることができる。
【0052】
ここで、この実施形態に係る透明積層体は、可視光波長以下のピッチからなる凹凸による構造体12からなるモスアイ構造体が基体11の表裏面に設けられた複数のフィルム状部材10を備え、当該フィルム状部材10の少なくとも端部は接着剤などの粘着層2によって積層されているが、積層されたフィルム状部材10間には上記構造体12間に空隙14がある。空隙14のパターンとしては、種々のパターンが考えられるが、いくつかの例を
図4(a)乃至(c)に示している。空隙14は、接着剤など樹脂で設けられる場合も含む。つまり空隙14は、空気層でもよく、樹脂層でもよい。
【0053】
即ち、
図4(a)は粘着層2の厚みにより対向する構造体12同士が接触せずに空気層ができている場合を示している。
図4(b)は対向する構造体12の先端同士が点接触しているが、構造体12は凹凸の連続であることから凹部において空気層ができている場合を示している。そして、
図4(c)は構造体12の先端が対向する構造体12の凹部に入り込んでいるが、完全には入り込まないので所定の空気層ができる場合を示している。これらの場合、各空気層が空隙となって存在する。尚、空隙は空気層には限定されず、例えば構造体12の全面を粘着層2により貼り付けた場合には、当該粘着層2も広義には空隙に含まれてよいことは勿論である。
【0054】
この実施形態では、構造体12は、規則配列となっているので、縦方向、横方向いずれで見た場合でも規則性を有しているので、積層性も良好である。
【0055】
積層は接着剤等の粘着層2によってなされるが、この実施形態では、粘着層2は装着時に視野外となるような外周部に設けられる。つまり、視認部以外に設ける。例えば、フィルム状部材10の四隅に、あるいは左右の端部において短手方向に所定幅、所定長で延びる領域で、フィルム状部材2の構造体12同士を粘着層2により部分的に接合するようにしてもよい。
【0056】
このように、フィルム状部材10の全面には粘着層2としての接着剤を設けないようにすることで、フィルム状部材10自体の剥離性が向上し、粘着層2としての接着剤の離形性(残渣による視認性低減回避)も向上し、粘着層2としての接着剤の厚みによる歪みの発生も回避することができるようになる。なお、透過性能を最優先とする場合には、接着剤等による全面貼り付けとしてもよいことは勿論である。この場合、視認性向上のため屈折率等も好適となるように樹脂組成が適宜選択される。
【0057】
また、この実施形態に係る透明積層体1は、反射防止機能を実現するモスアイ構造体を両面に有する積層体であり、複数の光学素子としてのフィルム状部材が、複数の粘着層により接合されているが、
図5に示されるように、該透明積層体1は貼合層3を介して被着体4に貼り合わされる。この被着体としては、オートレース等で用いられるヘルメットのバイザーや、医療用のフェイスシールド、医療用のディスプレイ、塗装用保護眼鏡等が挙げられる。但し、これらには限定されず、汚染物の飛来が予想できず、汚染された場合に即時的に視界の回復が必要な環境、乃至はそもそも汚染物が危険物であり接触が好ましくない環境、などで用いられる各種の光学用品が含まれる。また、この実施形態に係る透明積層体をARフィルムの上に貼り付けしてもよい。なお、
図5の透明積層体1が装着された被着体は、本実施形態の保護具の一例に相当する。
【0058】
なお、貼合層3は、例えば、ゴムやシリコン等の粘着剤を用いることができるが、透明性を実現するためにはアクリル系粘着剤が好適である。また、粘着剤としては、重量平均分子量20万〜200万好ましくは、50万〜200万の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を用い、その重量平均分子量5万以下が5%以下であることとしてもよい。この場合は粘着剤がフィルム全面であっても、剥離性がよいので、実用上問題はない。
【0059】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る透明積層体は、可撓性を有する透明基材としての基体11の両面に可視光の波長以下のピッチで複数の構造体12を設けたフィルム状部材10を、当該フィルム状部材10の面積の一部の積層間を空隙とし、複数枚積層貼合することにより構成される。
【0060】
したがって、例えばオートレース中等、汚染物を拭き取る時間的余裕がない場合や、外科的手術中等、そもそも汚染物が危険物であることから接触することが好ましくない場合でも、汚染されたフィルム状部材10を1枚ずつ剥離すればよいので、即時に視界の回復を図ることができ、更に危険物に接触しなくても済む。
【0061】
しかも、フィルム状部材10の両面に複数の構造体12の規則配列によるモスアイ構造体を設けることで、フィルム状部材10が複数枚積層され、接着剤等の粘着層2で接合されたときに、モスアイ構造体間に空隙ができても、透過性の低下を防止し、界面での反射を低減し反射防止性能を実現することができる。
【0062】
また、このようなモスアイ構造体は、液晶ディスプレイ等に用いられる特定波長に対応したARフィルムとは異なり、基本的には全波長対応なので、当該モスアイ構造体を介して被写体を見たとき、その色味が変わらない等といった利点もある。また、モスアイ構造体の特性から、照度が急激に跳ね上がるような環境、人間の目が照度差に慣れるまでに時間がかかるような環境での使用にも好適であるといえる。
【0063】
さらに、前述したように、フィルム状部材10の構造体12の一部のみを接着剤等の粘着層2により接合するようにしているので、剥離の即時性、簡便性も図られ、更に接着剤の厚みによる歪みも生じない。シールド面が汚れ、フィルム状部材10を剥離する際には一部の面積のみ接着されていることから、軽い力で剥離することができる。また、視野の大部分を粘着層2を有しない領域とすることで、高温での保存や使用時でも視界内に粘着層2の糊残りが発生せず、良好な視界が得られる。広範な面積に接着層を設ける場合、端部と視認部で剥離力に差を設けるのは、上記した軽い力による剥離性を阻害させないためである。
【0064】
また、複数のフィルム状部材10を全面貼り付けした場合には、2つの透明な物質の間に光の波長に比較しうる程度の細い隙間があれば同心円状のニュートンリングが観察されることがあるが、この実施形態に係る透明積層体1では、各フィルム状部材10を両面モスアイ構造とすることで、その発生を抑制することができる。
【0065】
本実施形態によれば、モスアイ構造体を備えたフィルム状部材を積層することで、反射率の高まりや透過率の低下を防止しつつ、剥離の即時性、簡便性を損なわず、接着剤の離形性も向上し、接着剤の厚みによる歪みの発生も回避し、視認性も確保できる透明積層体、及びそれを用いた保護具を提供することができる。
【0066】
尚、以上の実施形態において、例えば、フィルム状部材の裏面側に設けられる構造体を親水性とし、表面側に設けられる構造体を撥水性とし、透明積層体を構成するフィルム状部材を1枚ずつ剥離したときに、剥離したフィルム状部材側に接着剤等の粘着層が残るように構成することで、剥離後に接着剤等が表面に残り、飛来する汚染物の付着を助長させるような事態が発生するのを防止することもできる。
【0067】
また、フィルム状部材の左右端部に取り外し用のつまみ(突出部)を1枚ずつ交互に設けて、左からフィルム状部材を外した後は、右から、そして左からと交互にフィルム状部材を剥離するように構成してもよい。また、フィルム状部材10の残りの枚数を把握することができるように、当該つまみ部に枚数を数字で表示してもよい。
【0068】
そして、この実施形態に係る透明積層体が適用される被着体としては、オートレース等で用いられるヘルメットのバイザーや、医療用のフェイスシールド、医療用のディスプレイ、塗装用の保護眼鏡等を挙げたが、人の目に対する効果が期待できるもののほか、カメラや望遠鏡等の光学機器への適用も可能である。光学機器への適用の場合、屈折率などの光学的な感度は人間のそれとは直接的には異なるため、樹脂を充填させるなどして対応する場合が出てくる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0070】
(実施例1)
先ず、光の波長以下の微細な凹凸形状であるモスアイ形状をもつ原盤上にUV硬化樹脂を数滴垂らし、基体に相当する透明基材としてのポリカーボネイトフィルムをかぶせ、原盤全体にローラーにて拡げた。その後、透明基材としてのポリカーボネイトフィルム側から紫外線を照射し、樹脂の硬化を行った後、原盤から離型し、光学素子としてのフィルム状部材を得た。同様の手順でポリカーボネイトフィルムの反対面側にもモスアイ形状を原盤より転写し、両面に凹凸形状を備える光学素子としてのフィルム状部材を得た。こうして得られたフィルム状部材を粘着層としての接着剤等を用いて2層、3層、それぞれ積層し、単層のものを含め3種の透明積層体を得た。即ち、
図6(a)は単層、
図6(b)は2枚積層、
図6(c)は3枚積層した透明積層体の構成をそれぞれ示している。この例では、粘着層はフィルム状部材の端部にのみ設けられているので、空隙は粘着面と非粘着面に分けられることになる。
【0071】
(実施例2)
先ず、光の波長以下の微細な凹凸形状であるモスアイ形状をもつ原盤上にUV硬化樹脂を数滴垂らし、基体に相当する透明基材としてのポリカーボネイトフィルムをかぶせ、原盤全体にローラーにて拡げた。その後、透明基材としてのポリカーボネイトフィルム側から紫外線を照射し、樹脂の硬化を行った後、原盤から離型し、光学素子としてのフィルム状部材を得た。この得られたフィルム状部材を粘着層としての接着剤等を用いて2層、3層、それぞれ積層し、単層のものを含め3種の透明積層体を得た。即ち、
図7(a)は単層、
図7(b)は2枚積層、
図7(c)は3枚積層した透明積層体の構成をそれぞれ示している。この例では、粘着層はフィルム状部材の端部にのみ設けられているので、空隙は粘着面と非粘着面に分けられることになる。
【0072】
(比較例1)
比較例1としては、市販されている光学用PETフィルムを粘着層として接着剤等を用いて2層、3層、それぞれ積層し、単層のものを含め3種の透明積層体を得た。即ち、
図8(a)は単層、
図8(b)は2枚積層、
図8(c)は3枚積層した透明積層体の構成をそれぞれ示している。この例では、粘着層は光学用PETフィルムの端部にのみ設けられているので、空隙は粘着面と非粘着面に分けられることになる。
【0073】
(光学特性評価)
実施例1〜2の透明積層体と比較例1の透明積層体との反射スペクトル及び透過スペクトルを、紫外可視分光光度計(日本分光株式会社、製品名:V-500)を用いて測定した。
【0074】
(結果)
以上の光学特性の評価結果は、以下の表1,2に示される。
【0075】
即ち、各実施例1〜2と比較例1の積層構造毎の透過率の評価結果は以下の表1に示される通りである。
【表1】
【0076】
そして、この結果を図示した様子は、
図9,10に示される。
【0077】
また、各実施例1〜2と比較例1の積層構造毎の反射率の評価結果は以下の表2に示される通りである。
【表2】
【0078】
そして、この結果を図示した様子は、
図11に示される。
【0079】
(考察)
上記評価結果から、n層の構造の透過率は、単層の場合の透過率のおよそn乗倍ととらえることができる。先ず、実施例1では、表1、
図9より、3枚積層した場合でも透過率が非常に高く、実施例2,3、比較例1の単層の透過率以上の透過率を確保できていることが明らかになった。即ち、例えば、実施例2の単層の透過率は95.29%であるのに対して、実施例1では、接着面では2枚積層が99.13%、3枚積層が98.85%、そして20枚積層でも95.74%となり、非接着面でも2枚積層が98.36%、3枚積層が97.60%となり、実施例2,3、比較例1の単層の数値を上回っており、透過率が良好な状態が維持されていることが明らかになった。
【0080】
また、一般にJIS規格(JIS T8147 保護めがね)の要求視感透過率は85%以上であるが、
図10からも明らかなように、実施例1では、20枚積層した場合でも、この要求視感透過率を満たしていることが分かる。これは、規格製品への適用の幅が広いことを意味する。反射率についても表2、
図11に示したように、2枚積層、3枚積層の場合であっても、粘着面、非粘着面ともに、4%を下回る良好な結果となっている。
【0081】
実施例2では、表1、
図9,10に示したように、接着面においては、2枚積層、3枚積層、20枚積層の場合であっても、比較例1の単層の透過率以上の透過率を確保できている。しかしながら、実施例2では、非粘着面での透過率が1層増える毎に約4%程度落ちており、微細構造の無い面での反射による影響が多少見られる。また、反射率については、粘着面では2枚積層、3枚積層の場合であっても、比較例1の単層の反射率に比して良好な結果を得ており、非粘着面においても、2枚積層の場合は、比較例1の単層の反射率に比して良好な結果となっていることが分かる。
【0082】
一方、比較例1ではフィルムの両界面での反射の影響がでており、3枚重ねた状態での透過率は非粘着面で79%である。これは、JIS規格(JIS T8147 保護めがね)の要求視感透過率85%を満たしておらず、実際のシールドに適用した場合の視界への悪影響は顕著であるといえる。
【0083】
なお、ここでは、用途の一例としてJIS規格製品への適用の可能性を述べたが、用途により要求される透過率や反射率は異なってくる。その場合、透過率であれば、単層の場合の透過率の積層n乗倍で、おおよその限界積層数を算定することが可能である。
【0084】
次に、実施例3〜8について詳述する。
【0085】
(実施例3)
以下、ナノ構造体シートの作製、粘着剤樹脂の作製、そして透明積層体の作製の各手順について説明する。
【0086】
(1)ナノ構造体シートの作製
先ず、ポリカーボネート(PC)支持体(屈折率=1.58、厚み100um)の表面に、UV硬化性の樹脂(硬化後の屈折率=1.53)をバーコーターにて4um塗布し、ドットピッチ230nm、隣接するドット間隔153nmとして凹凸220nmとしたナノ構造体の型を合わせ、PC基材側よりUV光を照射し、硬化させ、表面にナノ構造体を有するシートを得た。
【0087】
(2)粘着剤樹脂の作製
次に、主成分としてリビングラジカル重合により得た粘着剤、トルエン溶媒を添加して固形分25%とし、更に、架橋剤として日本ポリウレタン社製のコロネートHXを20重量部添加し、軽剥離処理のされたPETフィルム上へ塗布、乾燥し、更に軽剥離処理のされたポリプロピレン(OPP)フィルムにて挟み込み、常温にて1週間保管して粘着剤を得た。
トルエン溶媒を添加して固形分25%とした。
(主成分は以下になる)
・ブチルアクリレート :80重量部
・アクリル酸2−エチルヘキシル :25重量部
・4−ヒドロキシブチルアクリレート :5重量部
【0088】
(3)透明積層体の作製
工程(1)で得られたナノ構造体が設けられていない一方の面にコロナ処理を施し、工程(2)で作成した粘着剤樹脂の軽剥離OPPを剥離し貼合した。これを、別の工程(1)で得られたナノ構造体の表面にローラーで貼合することによって透明積層体を得た。
図12(a)は単層、
図12(b)は2枚積層、
図12(c)は3枚積層した透明積層体の構成をそれぞれ示している。この例では、複数枚積層する際に用いる粘着剤は、フィルム状部材の全面に亘り設けられている。
【0089】
(実験例4〜8)
実施例4乃至8は、詳細は後述するように樹脂の組成がそれぞれ異なる以外、前述した実施例3と同様にして作製した。
【0090】
(比較例3)
実施例3の組成にて、リビング重合ではなく、溶液重合した樹脂を使用した以外には、同様にして粘着剤を作製し、実施例3と同様に透明積層体を作製した。
【0091】
こうして得られた実施例3乃至8の透明積層体について、以下の評価を行った。
【0092】
(光学特性)
全光線透過率(Tt)を、村上色彩製のヘイズメーターより計測した(JIS-K-7361)。
【0093】
(粘着剤特性)
重量平均分子量、平均重量分子量分布が5万以下の成分について、液体クロマトグラフィーにて計測して求めた。
【0094】
(粘着剤の剥離強度)
ナノ構造体の支持体とナノ構造体間の剥離強度について、剥離角度90°、剥離スピード300mm/minにて剥離した際の荷重を、引っ張り試験機により求めた。
【0095】
(環境試験)
環境試験では、40℃/90%RH条件下にて10日間保管した後に、剥離強度、全光線透過率の変化を計測した。
【0096】
以上の評価結果は以下の表3に示される。
【表3】
【0097】
また、実施例3乃至8の透明積層体に用いた粘着剤の内容、並びに架橋剤の種類については、表4に示される。尚、粘着剤には、架橋剤を含む。
【表4】
【0098】
なお、
図13(a)乃至(c)は、本発明の実施例1と同様の手法で作製した両面にモスアイ形状を備えたフィルム状部材の粘着層を介した積層体である透明積層体の他の構成を示す図である。即ち、
図13(a)は単層、
図13(b)は2枚積層、
図13(c)は3枚積層した透明積層体の構成をそれぞれ示している。複数枚積層する際に用いる粘着剤は、フィルム状部材の全面に亘り設けられている。このように、実施例1と同様の手法で作成した両面にモスアイ形状を備えた透明積層体でも、問題なく効果が得られる。
【0099】
(考察)
以上の実施例3乃至8に係る評価結果より、透明支持体と、少なくとも一方の面に可視光の波長以下のピッチで複数の構造体を設けた基体と他の基体とを粘着剤により積層して光透過性積層体を構成するに際し、粘着剤として、重量平均分子量20万〜200万の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を用い、その重量平均分子量5万以下が5%以下であることが好ましいことが明らかとなった。このような粘着剤を用いることで、ナノ構造体への糊残り/剥離力の経時変化を抑制できる。
【0100】
このような光透過性積層体では、フィルム状部材を複数枚積層貼合してよく、更に一のフィルム状部材を当該フィルム状部材の面積の一部の積層間を空隙とし、残りの面積の積層間を剥離可能な粘着剤を用いて複数枚積層貼合してもよい。また、前記粘着剤の重量平均分子量5万以下の低分子量成分が2重量部以下であることとしてもよい。また、フィルム状部材を、超音波溶着法や熱溶着法を用いて複数枚積層貼合してもよい。
【0101】
従って、実施例3乃至8によれば、糊残り、粘着特性の劣化のない透明積層体が実現されることになる。