特許第6493902号(P6493902)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6493902-脊椎靭帯骨化症検査方法及び検査用試薬 図000003
  • 特許6493902-脊椎靭帯骨化症検査方法及び検査用試薬 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493902
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】脊椎靭帯骨化症検査方法及び検査用試薬
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6827 20180101AFI20190325BHJP
   C12Q 1/6858 20180101ALI20190325BHJP
   C12Q 1/6883 20180101ALI20190325BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   C12Q1/6827 ZZNA
   C12Q1/6858 Z
   C12Q1/6883 Z
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-112621(P2014-112621)
(22)【出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2015-226478(P2015-226478A)
(43)【公開日】2015年12月17日
【審査請求日】2017年5月30日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度 文部科学省、科学技術試験研究委託事業「疾患関連遺伝子等の探索を効率化するための遺伝子多型情報の高度化」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】502285457
【氏名又は名称】学校法人順天堂
(73)【特許権者】
【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(72)【発明者】
【氏名】池川 志郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 正宏
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−097867(JP,A)
【文献】 田中利弘、外7名,「多方面からの解析アプローチによる後縦靱帯骨化症の感受性遺伝子同定をめざして」,骨・関節・靱帯,2007年 9月,Vol.20, No.9,pp.875-885
【文献】 HIROKOSHI, T. et al.,"A large-scale genetic association study of ossification of the posterior longitudinal ligament of the spine.",HUM. GENET.,2006年,Vol.119,pp.611-616
【文献】 池川志郎,「OPLLの病態解明への遺伝学的アプローチ」,CLIN. CALCIUM,2009年10月,Vol.19, No.10,pp.1457-1461
【文献】 NAKAJIMA, M. et al.,"A genome-wide association study identifies susceptibility loci for ossification of the posterior longitudinal ligament of the spine.",NATURE GENETICS,2014年 7月27日,Vol.46, No.9,pp.1012-1016 with ONLINE METHODS,[online], doi: 10.1038/ng.3045
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00− 3/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者に由来する、下記(1)から(6)より選択される1つまたは2種以上の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいて、当該塩基の種類がリスクアレルである場合には発症リスクが高く、非リスクアレルである場合には発症リスクが低いと判定することにより被検者の脊椎靭帯骨化症の発症リスクを検査する方法
(1)配列番号1に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がT(リスクアレル)又はC(非リスクアレル)
(2)配列番号2に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がG(リスクアレル)又はA(非リスクアレル)
(3)配列番号3に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がT(リスクアレル)又はC(非リスクアレル)
(4)配列番号4に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がA(リスクアレル)又はG(非リスクアレル)
(5)配列番号5に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がG(リスクアレル)又はA(非リスクアレル)
(6)配列番号6に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がC(リスクアレル)又はT(非リスクアレル)
【請求項2】
前記脊椎靭帯骨化症が、後縦靭帯骨化症である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被検者に由来する、下記(1)から(6)より選択される1つまたは2種以上の一塩基多型のリスクアレルを分析可能なポリヌクレオチドを含む、脊椎靭帯骨化症検査用試薬。(1)配列番号1に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がT(リスクアレル)又はC(非リスクアレル)
(2)配列番号2に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がG(リスクアレ
ル)又はA(非リスクアレル)
(3)配列番号3に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がT(リスクアレル)又はC(非リスクアレル)
(4)配列番号4に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がA(リスクアレル)又はG(非リスクアレル)
(5)配列番号5に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がG(リスクアレル)又はA(非リスクアレル)
(6)配列番号6に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がC(リスクアレル)又はT(非リスクアレル)
【請求項4】
前記脊椎靭帯骨化症が、後縦靭帯骨化症である、請求項に記載の試薬。
【請求項5】
さらに、前記一塩基多型の非リスクアレルを検出可能なポリヌクレオチドを含む、請求項3又は記載の試薬。
【請求項6】
前記ポリヌクレオチドが、前記塩基配列における前記一塩基多型を含む連続した15塩基以上の配列、又はその相補配列を有する、請求項のいずれか一項に記載の試薬。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチドが、前記一塩基多型を含む領域を増幅することのできるプライマーセットである、請求項のいずれか一項に記載の試薬。
【請求項8】
配列番号1〜6から選ばれる塩基配列において、塩基番号第101番目の塩基を含む連続した15塩基以上の配列、又はその相補配列を有する、脊椎靭帯骨化症検査用プローブ。
【請求項9】
配列番号1〜6から選ばれる塩基配列において、塩基番号第101番目の塩基を含む領域を増幅することのできる、脊椎靭帯骨化症検査用プライマーセット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎靭帯骨化症の発症リスクを検査する方法並びにその検査用試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
脊椎靭帯骨化症は、本来骨形成の起こらない軟部組織である脊椎の靭帯に骨化が認められる異所性骨形成の一つである。脊椎のどの靭帯が骨化したかにより、後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、前縦靭帯骨化症等に分類される。脊椎靭帯骨化症の中でも、後縦靭帯骨化症と黄色靭帯骨化症は、特定疾患医療費助成制度の対象となっている難病である。後縦靭帯骨化症は、黄色靭帯骨化症及び/又は前縦靭帯骨化症との合併例が多く、また、糖尿病や肥満患者において発生頻度が高いことが知られている。
【0003】
脊椎の靭帯が骨化し増大することにより、当該靭帯に隣接する脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫され、神経障害、例えば、下肢の痛みやしびれ等の知覚障害や、手指の運動困難や排尿・排便困難等の運動障害が引き起こされる。また、罹患患者が転倒したり転落したりすると、そうした外力により四肢麻痺となる恐れがある。よって、罹患患者は、重症化予防のために、日常生活において注意が必要である。
【0004】
しかし、靭帯に骨化があっても、骨化が急速に大きくなることは少ないため、すぐに症状が現れるわけではない。また、骨化巣が増大し脊髄を圧迫していても無症状な場合もある。例え無症状であっても、靭帯に骨化がある場合には、上記のような外力により四肢麻痺となる恐れがある。よって、靭帯の骨化を認識して日常生活において注意を払うためには、症状がない場合であっても、靭帯の骨化を定期的に検査する必要がある。
【0005】
脊椎靭帯骨化症の診断は、エックス線撮影検査により行われるが、放射線被爆を心配する患者は多い。また、妊婦にはエックス線撮影検査を適用できない。そして、エックス線撮影検査は、そのような設備を有する医療機関でしか検査を行うことができないため、どの病院でも簡便に行うことが出来る検査であるとはいえない。そのため、脊椎靭帯骨化症の診断を、被爆の心配がなく、また、特別な設備を必要とせずに簡便に行うことが望まれていた。
【0006】
これまで、脊椎靭帯骨化症は、遺伝的要因が寄与していることが示唆されている。そして、罹患同胞対連鎖解析および候補遺伝子関連解析により、脊椎靭帯骨化症感受性に連鎖する遺伝子や遺伝子座が、これまでに報告されている(非特許文献1〜3)。しかし、再現解析では、様々な集団でこれらの関連を再現することができていない(非特許文献4、5)。また、高密度一塩基多型を用いるゲノムワイド関連解析(genome-wide linkage analysis;GWAS)は、脊椎靭帯骨化症に関して未だ報告されていない。
【0007】
以上の通り、脊椎靭帯骨化症感受性遺伝子に関する知見は存在するものの、ゲノムワイド水準で脊椎靭帯骨化症との関連が認められた遺伝子や一塩基多型(SNPs)は報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Koga, H. et al. Spine 21, 469-473 (1996)
【非特許文献2】Nakamura, I. et al. Hum Genet 104, 492-497 (1999)
【非特許文献3】Tanaka, T. et al.Am J Hum Genet 73, 812-822(2003)
【非特許文献4】Horikoshi, T. et al. Hum Genet 119, 611-616 (2006)
【非特許文献5】Karasugi, T. et al. J Bone Miner Metab 31, 136-143 (2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、脊椎靭帯骨化症の発症リスクを正確に検査する方法、並びに該方法に用いられる検査用試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題の解決のために鋭意検討した結果、第20染色体短腕12領域(20p12.3)、第8染色体長腕23領域(8q23.1)、第12染色体短腕11領域(12p11.22)、第12染色体短腕12領域(12p12.2)、第8染色体長腕23領域(8q23.3)、及び第6染色体短腕21領域(6p21.1)に存在する一塩基多型(SNP)が、脊椎靭帯骨化症と関連することを同定した。そして、これらの多型を調べることにより、脊椎靭帯骨化症の発症リスクを正確に実施できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]被検者に由来する1つまたは2種以上の一塩基多型を分析し、該分析結果に基づいて被検者の脊椎靭帯骨化症の発症リスクを検査する方法であって、
該一塩基多型が、配列番号1〜6から選ばれる塩基配列の塩基番号101番目の塩基に相当する塩基、又は該塩基と連鎖不平衡の関係にある塩基における一塩基多型である、方法。
[2]前記一塩基多型が、下記(1)から(6)より選択される1つまたは2種以上であり、当該塩基の種類がリスクアレルである場合には発症リスクが高く、非リスクアレルである場合には発症リスクが低いと判定する工程を含む、[1]に記載の方法。
(1)配列番号1に示す塩基配列における第101番目の塩基に相当する塩基がT(リスクアレル)又はC(非リスクアレル)
(2)配列番号2に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がG(リスクアレル)又はA(非リスクアレル)
(3)配列番号3に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がT(リスクアレル)又はC(非リスクアレル)
(4)配列番号4に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がA(リスクアレル)又はG(非リスクアレル)
(5)配列番号5に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がG(リスクアレル)又はA(非リスクアレル)
(6)配列番号6に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がC(リスクアレル)又はT(非リスクアレル)
[3]前記脊椎靭帯骨化症が、後縦靭帯骨化症である、[1]又は[2]に記載の方法。[4]被検者に由来する1つまたは2種以上の一塩基多型を分析可能なポリヌクレオチドを含む、脊椎靭帯骨化症検査用試薬であって、
該一塩基多型が、配列番号1〜6から選ばれる塩基配列の塩基番号101番目の塩基に相当する塩基、又は該塩基と連鎖不平衡の関係にある塩基における一塩基多型である、試薬。
[5]前記ポリヌクレオチドが、下記(1)から(6)より選択される1つまたは2種以上の一塩基多型のリスクアレルを検出可能なポリヌクレオチドである、[4]に記載の試薬。
(1)配列番号1に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がT(リスクアレル)又はC(非リスクアレル)
(2)配列番号2に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がG(リスクアレ
ル)又はA(非リスクアレル)
(3)配列番号3に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がT(リスクアレル)又はC(非リスクアレル)
(4)配列番号4に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がA(リスクアレル)又はG(非リスクアレル)
(5)配列番号5に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がG(リスクアレル)又はA(非リスクアレル)
(6)配列番号6に示す塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基がC(リスクアレル)又はT(非リスクアレル)
[6]前記脊椎靭帯骨化症が、後縦靭帯骨化症である、[4]又は[5]に記載の試薬。[7]さらに、前記一塩基多型の非リスクアレルを検出可能なポリヌクレオチドを含む、[4]〜[6]のいずれか一に記載の試薬。
[8]前記ポリヌクレオチドが、前記塩基配列における前記一塩基多型を含む連続した10塩基以上の配列、又はその相補配列を有する、[4]〜[7]のいずれか一に記載の試薬。
[9]前記ポリヌクレオチドが、前記一塩基多型を含む領域を増幅することのできるプライマーである、[4]〜[7]のいずれか一に記載の試薬。
[10]配列番号1〜6から選ばれる塩基配列において、塩基番号第101番目の塩基を含む連続した10塩基以上の配列、又はその相補配列を有する、脊椎靭帯骨化症検査用プローブ。
[11]配列番号1〜6から選ばれる塩基配列において、塩基番号第101番目の塩基を含む領域を増幅することのできる、脊椎靭帯骨化症検査用プライマー。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、脊椎靭帯骨化症の発症リスク(罹患リスク)を正確かつ簡便に予測することができる。したがって、本発明は脊椎靭帯骨化症の重症化予防や早期治療に貢献するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】GWASにより得られたP値(−log10P)を示すマンハッタンプロットである。各P値は常染色体上の各々の位置に対してプロットされている。赤線はゲノムワイド有意性閾値(P=5x10−8)を表す。青線は再現解析のためのSNPsを選択するための閾値(P=5x10−7)を表す。
図2】後縦靭帯骨化症の(a)20p12.3、(b)8q23.1、(c)12p11.22、(d)12p12.2、(e)8q23.3、(f)6p21.1の感受性遺伝子座における局所的関連プロット。それぞれの局所的プロットは、−log10P値に対して特定の領域内にあるSNPsの染色体上の位置を示す。各遺伝子座において最も高い関連性シグナルを有する遺伝子型解析されたSNPは、紫色の菱形として表される。他のSNPsは、このSNPとの連鎖不平衡(LD)の程度に従って色付けされる。hg19/1000人ゲノム2012年3月東アジア人版からの推定された組換え率は、水色の線として示される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1>本発明の方法
本発明の方法は、ヒトの第20染色体短腕12領域(20p12.3)、第8染色体長腕23領域(8q23.1)、第12染色体短腕11領域(12p11.22)、第12染色体短腕12領域(12p12.2)、第8染色体長腕23領域(8q23.3)、及び第6染色体短腕21領域(6p21.1)に存在するSNPを分析し、該分析結果に基づいて脊椎靭帯骨化症を検査することを特徴とする、脊椎靭帯骨化症の発症リスクの判定方法である。すなわち、本発明において、「検査」とは脊椎靭帯骨化症の発症リスクの検査
を含む。本発明の方法においては、SNPの分析結果を、脊椎靭帯骨化症の発症リスクと関連付ける。
【0015】
脊椎靭帯骨化症には、脊椎骨周囲の靭帯に骨化変性のある疾患であれば、いずれも含まれる。脊椎骨周囲の靭帯としては、例えば、前縦靭帯、後縦靭帯、黄色靭帯、棘突起間靭帯、及び棘突起上靭帯等が挙げられる。本発明の方法は、特に、特定疾患医療費助成制度の対象となっており、他疾患との合併例も多い後縦靭帯骨化症に好適に用いられる。
【0016】
本発明の方法は、いずれの人種の被検者に対しても用いることができるが、特に、日本人等のアジア人の被検者に好適に用いることができる。また、本発明の方法は、いずれの性別の被検者に対しても用いることができる。
【0017】
また、首筋、肩甲骨周辺、指先又は下肢の痛みやしびれ、脱力等の症状がみられる被験者はもちろん、それらの具体的な症状がみられない被験者に対しても、健康診断等の目的で検査をすることが好ましい。これは、骨化巣があっても無症状な場合があり、そのような場合であっても転倒等による重症化の危険性をはらんでいることから、初発症状がみられる前から骨化を検査することが、日常生活における重症化予防に繋がるからである。
【0018】
第20染色体短腕12領域(20p12.3)に存在するSNPとしては、ヒトのSNPのID番号:rs2423294を挙げることができる。ここで、rs番号はNational Center for Biotechnology InformationのdbSNPデータベース(http//www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)の登録番号を示す。当該SNPを含む配列情報は、GenBank(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)等より入手可能である。
【0019】
rs2423294は、GenBank Accession No. NT_011387.8の7759768番目の塩基におけるSNPである。また、この多型は、配列番号1で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるチミン(T)/シトシン(C)の多型を意味し、この塩基がT(リスクアレル)である場合には脊椎靭帯骨化症の発症リスクが高いと判定できる。
【0020】
第8染色体長腕23領域(8q23.1)に存在するSNPとしては、ヒトのSNPのID番号:rs374810を挙げることができる。rs374810は、GenBank Accession No. NT_008046.16の22369578番目の塩基におけるSNPである。
この多型は、配列番号2で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるグアニン(G)/アデニン(A)の多型を意味し、この塩基がG(リスクアレル)である場合には脊椎靭帯骨化症の発症リスクが高いと判定できる。
【0021】
TC
第12染色体短腕11領域(12p11.22)に存在するSNPとしては、ヒトのSNPのID番号:rs1979679を挙げることができる。rs1979679は、GenBank Accession No. NT_009714.17の21166639番目の塩基におけるSNPである。
この多型は、配列番号3で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるチミン(T)/シトシン(C)の多型を意味し、この塩基がT(リスクアレル)である場合には脊椎靭帯骨化症の発症リスクが高いと判定できる。
【0022】
第12染色体短腕12領域(12p12.2)に存在するSNPとしては、ヒトのSNPのID番号:rs11045000を挙げることができる。rs11045000は、GenBank Accession No. NT_009714.17の12944270番目の塩基におけるSNPである。
この多型は、配列番号4で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるアデニン(A)/グアニン(G)の多型を意味し、この塩基がA(リスクアレル)である場合には脊椎靭帯骨化症の発症リスクが高いと判定できる。
【0023】
第8染色体長腕23領域(8q23.3)に存在するSNPとしては、ヒトのSNPのID番号:rs13279799を挙げることができる。rs13279799は、GenBank Accession No. NT_008046.16の30815156番目の塩基におけるSNPである。
この多型は、配列番号5で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるグアニン(G)/アデニン(A)の多型を意味し、この塩基がG(リスクアレル)である場合には脊椎靭帯骨化症の発症リスクが高いと判定できる。
【0024】
第6染色体短腕21領域(6p21.1)に存在するSNPとしては、ヒトのSNPのID番号:rs927485を挙げることができる。rs927485は、GenBank Accession No. NT_007592.15の44478139番目の塩基におけるSNPである。
この多型は、配列番号6で表される塩基配列の第101番目の塩基に相当する塩基におけるシトシン(C)/チミン(T)の多型を意味し、この塩基がC(リスクアレル)である場合には脊椎靭帯骨化症の発症リスクが高いと判定できる。
【0025】
配列番号1:20p12.3上のrs2423294のSNPを含む塩基配列
配列番号2:8q23.1上のrs374810のSNPを含む塩基配列
配列番号3:12p11.22上のrs1979679のSNPを含む塩基配列
配列番号4:12p12.2上のrs11045000のSNPを含む塩基配列
配列番号5:8q23.3上のrs13279799のSNPを含む塩基配列
配列番号6:6p21.1上のrs927485のSNPを含む塩基配列
【0026】
本発明においては、上記SNPに相当する塩基を解析する。「上記SNPに相当する塩基」とは、上記配列がSNP以外の位置で個体差等により若干変化していても、その前後配列に鑑みれば、当該SNPであると認定できる塩基を意味する。
【0027】
また、本発明において解析するSNPは、上記6つのものに限定されず、上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNPを分析してもよい。ここで「上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNP」とは、上記のSNPとr2(連鎖不平衡係数)>0.5、好ましくはr2>0.8、さらに好ましくはr2>0.9の関係を満たすSNPをいう。また、上記のSNPと連鎖不平衡にあるSNPは、例えば、HapMapデータベース(http://www.hapmap.org/index.html.ja)等を用いて同定することができる。もしくは、30人程度から採取したDNAの塩基配列を解析し、連鎖不平衡にあるSNPを探索することにより同定してもよい。
【0028】
上記SNPの塩基の種類を調べ、得られた結果を上記基準に基づいて脊椎靭帯骨化症と関連付けることにより、脊椎靭帯骨化症を検査することができる。なお、いずれのSNPも、二本鎖DNAのセンス鎖とアンチセンス鎖のどちらを解析してもよい。
【0029】
上記SNPは単独で解析されてもよいし、上記SNPの少なくとも1つを含む複数のSNPsをまとめてハプロタイプ解析してもよい。または、上記SNPの少なくとも1つと、脊椎靭帯骨化症との関連が示唆されているSNPs(非特許文献1〜3等)や、当該示唆されているSNPsと連鎖不平衡にあるSNPsとを組み合わせて解析してもよい。検査の精度を向上するために、脊椎靭帯骨化症と関連する複数のSNPsをまとめて解析することが好ましい。
【0030】
SNPの解析に用いる試料としては、染色体DNAを含む試料であれば特に制限されない。例えば、血液、尿等の体液、口腔粘膜等の細胞、毛髪等の体毛、及び爪などが挙げられる。SNPの解析にはこれらの試料を直接使用することもできるが、これらの試料から染色体DNAを常法により単離したものを用いて解析することが好ましい。
【0031】
SNPの解析は、通常の遺伝子多型解析方法によって行うことができる。例えば、シークエンス解析、PCR、ハイブリダイゼーション、インベーダー法などが挙げられるが、こ
れらに限定されない。
【0032】
シークエンス解析は、通常の方法により行うことができる。具体的には、SNPから数十塩基5’側に離れた位置にプライマーを設定し、そのプライマーを使用してシークエンス反応を行い、その解析結果から、該当するSNPがどの種類の塩基であるかを決定することができる。なお、シークエンス反応の前に、PCRなどによって、あらかじめSNP部位を含む断片を増幅しておくことが好ましい。
【0033】
また、SNPの解析は、PCRによる増幅の有無を調べることによって行うことができる。例えば、プライマーの3’末端が各SNPの位置となるように、プライマーを設計する。それぞれのプライマーを使用してPCRを行い、増幅産物の有無によってどのタイプの多型であるかを決定することができる。また、LAMP法(特許第3313358号明細書)、NASBA法(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification;特許2843586号明細書)、ICAN法(特開2002−233379号公報)などによっても増幅の有無を調べることができる。
【0034】
また、SNP部位を含むDNA断片を増幅し、増幅産物の電気泳動における移動度の違いによって、どのタイプの多型であるかを決定することもできる。このような方法としては、例えば、PCR−SSCP(single-strand conformation polymorphism)法(Genomics. 1992 Jan 1; 12(1): 139-146.)が挙げられる。具体的には、まず、目的のSNPを含むDNAを増幅し、増幅したDNAを一本鎖DNAに解離させる。次いで、解離させた一本鎖DNAを非変性ゲル上で分離し、分離した一本鎖DNAのゲル上での移動度の違いによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0035】
さらに、多型を示す塩基が制限酵素認識配列に含まれる場合は、制限酵素による切断の有無によって解析することもできる(RFLP法)。この場合、まず、DNA試料を制限酵素により切断する。次いで、DNA断片を分離し、検出されたDNA断片の大きさによってどのタイプの多型であるかを決定することができる。
【0036】
他に、DNAチップ等によりハイブリダイゼーションの有無を調べることによって、多型の種類を解析することも可能である。すなわち、各塩基に対応するプローブを用意し、いずれのプローブにハイブリダイズするかを調べることによって、SNPがいずれの塩基であるかを調べることもできる。
【0037】
また、DNA三重鎖構造を特異的に認識して切断するクリベース、インベーダーと呼ばれる遺伝子多型を認識するプローブ、及び、蛍光シグナルを発生するよう設計されたプローブを使用するインベーダー法により、多型解析をしてもよい。
【0038】
本発明の方法の具体的態様の一例としては、まず上記SNPに相当する塩基を解析し、被検者の塩基の種類を決定する。次に、当該塩基の種類がリスクアレルである場合には発症リスクが高く、非リスクアレルである場合には発症リスクが低いと判定し、検査結果として医師等に情報を提供することができる。発症リスクの判定は、被験者の塩基の種類がリスクアレルであるか非リスクアレルであるか機械的に振り分けるものである。従って、本発明の方法に基づく発症リスクの判定及びその情報の提供は、医師等による専門的な判断は要さない。
提供された検査結果に基づき、必要に応じて医師等が被験者に対して処置を行う。たとえば、後縦靭帯骨化症(OPLL)の発症リスクが高いとの判定結果が出た被験者に対しては、検査後定期的に脊椎のX線撮影やCT撮影のようなより詳細な検査を行い、発症の有無を確認することができる。一方、OPLL発症リスクが低いとの判定結果が出た被験者に対しては、受診・検査の頻度、回数を減じることができる。このように、本発明の方法を行うこと
により、受診の回数や検査の方法を適切に設定し、OPLL患者やその疑いのある患者、医療従事者等の医学的、経済的負担、労力を軽減することができる。
【0039】
<2>本発明の検査用試薬
本発明は、上記SNP部位のリスクアレルを検出可能なポリヌクレオチドを含む、脊椎靭帯骨化症を検査するための検査試薬を提供する。当該ポリヌクレオチドとしては、プライマーやプローブなどが含まれるが、それらに限定されない。また、1つのSNPを検出可能なポリヌクレオチドを、単独で検査試薬に含めてもよいし、当該ポリヌクレオチドを複数含めてもよい。検査の精度を向上するために、複数のポリヌクレオチドにより複数のSNPを検査することが好ましい。
さらに、非リスクアレルを検出可能なポリヌクレオチドを含めてもよい。
【0040】
上記プローブとしては、上記SNP部位を含み、ハイブリダイズの有無によってSNP部位の塩基の種類を判定できるプローブが挙げられる。具体的には、配列番号1〜6から選ばれる塩基配列の101番目の塩基を含む配列、又はその相補配列を有する連続した10塩基以上の長さのプローブや、当該101番目の塩基と連鎖不平衡の関係にある塩基を含む配列、又はその相補配列を有する連続した10塩基以上の長さのプローブが挙げられる。
プローブの長さは、好ましくは10〜50塩基であり、より好ましくは15〜35塩基であり、さらに好ましくは20〜35塩基である。
【0041】
上記プライマーとしては、上記SNP部位を増幅するためのPCRに用いることのできるプライマー、又は上記SNP部位を配列解析(シークエンシング)するために用いることのできるプライマーが挙げられる。具体的には、配列番号1〜6から選ばれる塩基配列の101番目の塩基を含む領域を増幅したりシークエンシングしたりすることのできるプライマーや、当該101番目の塩基と連鎖不平衡の関係にある塩基を含む領域を増幅したりシークエンシングしたりすることのできるプライマーが挙げられる。このようなプライマーの長さは10〜50塩基が好ましく、15〜50塩基がより好ましく、15〜35塩基がさらに好ましく、20〜35塩基が特に好ましい。
【0042】
上記SNP部位をシークエンシングするためのプライマーとしては、上記塩基の5’側領域、好ましくは30〜100塩基上流の配列を有するプライマーや、上記塩基の3’側領域、好ましくは30〜100塩基下流の領域に相補的な配列を有するプライマーが例示される。PCRによる増幅の有無で多型を判定するために用いるプライマーとしては、上記塩基を含む配列を有し、上記塩基を3’側に含むプライマーや、上記塩基を含む配列の相補配列を有し、上記塩基の相補塩基を3’側に含むプライマーなどが例示される。
【0043】
なお、本発明の検査用試薬は、これらのプライマーやプローブに加えて、PCR用のポリメラーゼやバッファー、ハイブリダイゼーション用試薬、蛍光色素などを含むものであってもよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0045】
1.実験方法
<オンライン方法>
対象となる後縦靭帯骨化症の患者は、脊柱のエックス線撮影検査に基づいて、参加病院の経験を積んだ脊椎外科医によって診断された。患者の頸椎における後縦靭帯の異所的骨形成が調べられた。2つよりも多くの脊椎分節の後縦靭帯骨化を有する日本人の患者(総計1,660人)が、本試験に含まれた。対照用に、バイオバンク・ジャパンプロジェク
ト(Nakamura, Y. The BioBank Japan Project. Clin Adv Hematol Oncol 5, 696-697 (2007))における後縦靭帯骨化症と無関係の疾患を有する対象に由来するゲノムワイドスクリーニングデータを使用した。全ての個体が本試験に参加する書面によるインフォームド・コンセントを提出した。この研究プロジェクトは理化学研究所(RIKEN)横浜研究所の倫理委員会によって承認された。
【0046】
<遺伝子型解析および精度管理>
ゲノムDNAは、常法にて末梢血白血球から抽出された。GWASは、イルミナ・ヒト・オムニエクスプレス・エクソーム・ビーズチップ(Illumina HumanOmniExpressExome BeadChip)を使用して、症例試料の遺伝子型を解析した。対照試料の遺伝子型は、イルミナ・ヒト・オムニエクスプレス・ビーズチップ(Illumina HumanOmniExpress BeadChip)とイルミナ・ヒト・エクソーム・ビーズチップ(Illumina HumanExome BeadChip)を使用して解析した。
【0047】
0.99未満のコールレートを有するSNPs、ハーディー・ワインベルグ平衡より逸脱するSNPs(対照においてP<1x10−6)、X染色体上のSNPs、および非多型性SNPsを排除する標準的なSNP精度管理の後に、総計で616,496個のSNPsを、さらなる解析のために使用した。試料精度管理については、アイデンティティ・バイ・ステート法を用いて、各試料について潜在的関連性を評価し、少なくとも第二級の関連性を除去した。
【0048】
本試験の集団階層化を検討するために、基準としてのHapMapデータに由来する、ヨーロッパ人(CEU)、アフリカ人(YRI)、日本人(JPT)、および中国漢族(CHB)を含む4つの基準集団を用いる主成分分析(PCA;Price, A.L. et al. Nat Genet 38, 904-909 (2006))を実施した。
【0049】
JPT/CHBクラスターに属さない外れ値を有する人を特定するために、上位2つの関連主成分(固有ベクトル)を用いて散布図をプロットした。その後、集団の下位構造をさらに評価するために、症例被検者と対照被検者の遺伝子型の情報のみを使用するPCA分析を実施した。
【0050】
予想されたP値に対する観察されたP値、および試験対象の潜在的な集団階層化を評価するために、計算された拡張係数値(λ値)を用いて、分位数‐分位数(Q‐Q)プロットを構築した。
【0051】
PCAの実施後、以降の解析は、主要な日本人(本土)クラスター内の1,112人の症例被検者と6,810人の対照を選択して行った。
【0052】
再現解析では、多重PCRベース・インベーダーアッセイ(Third Wave Technologies)を用いて、548人の後縦靭帯骨化症の患者の遺伝子型を解析した。また、再現解析における対照として、バイオバンク・ジャパンに登録された後縦靭帯骨化症を有しない6,469人を動員した。
【0053】
<統計解析>
GWASおよび再現解析では、自由度1のコクラン・アーミテージの傾向検定を用いて各SNPの関連を評価した。2×2アレル頻度表から、オッズ比とそれらの信頼区間を計算した。マンテル・ヘンツェル法により、GWASと再現解析のデータを結合し、そして、ブレスロウ・デイ検定(Breslow, N.E. & Day, N.E. IARC Sci Publ, 1-406 (1987))を用いて、試験間の不均一性を調べた。局所的関連プロットはローカスズーム(LocusZoom;Pruim, R.J. et al. Bioinformatics 26, 2336-2337 (2010))を用いて作成された。
【0054】
<インピュテーション(imputation)>
minimacを用いてGWAS内での遺伝子型のインピュテーションを実施した。基準集団として1000人ゲノムプロジェクト(ハプロタイプの相を特定したJPT、CHBおよび中国南部漢族(CHS)のデータ、2012年、3月;1000 Genomes Project Consortium et al. Nature 467, 1061-1073 (2010))に由来する個体を使用した。1%未満のマイナーアレル頻度および低精度のインピュテーション(RSQ<0.9)を有するSNPsは、排除された。関連解析は、mach2datによって遺伝子量について実施した。
【0055】
2.GWAS
後縦靭帯骨化症感受性遺伝子を同定するために、1,130人の後縦靭帯骨化症の個体と、7,135人の対照からなる日本人の集団において、オンライン方法によりGWASを実施した。
【0056】
SNP遺伝子型解析データ(オンライン方法)の精度管理フィルター処理の後に、616,496個の常染色体性SNPsを、コクラン・アーミテージの傾向検定によって関連について調査した。主成分分析(PCA)による集団階層化解析によって、本試験における全ての個体が東アジア人であることが示された。
【0057】
しかし、本試験における後縦靭帯骨化症の症例被検者と対照についての遺伝子型情報のみを用いてPCA分析を実施すると、主要な日本人クラスター(本土クラスター;Yamaguchi-Kabata, Y. et al. Am J Hum Genet 83, 445-456 (2008))から分離される小集団の試料が存在した。
【0058】
そのため、当該分離される小集団を除く、1,112人の後縦靭帯骨化症の症例被検者と6,810人の対照からなる主要な日本人クラスターに由来する試料を使用して、分位数‐分位数(Q‐Q)プロットを作成し、ゲノム拡張係数(genomic inflation factor)(λGC)が1.01であることを見出した。このことは、集団の階層化により、偽陽性関連が生じる可能性が低かったことを示している。
【0059】
8p11.21、8q23.1、8q23.3、12p12.2、12p11.22、および20p12.3の6か所の染色体領域内の26個のSNPsが、P<5×10−8というゲノムワイド有意性閾値に達した(図1)。さらに、後縦靭帯骨化症との示唆的な関連(P<5×10−7)を示す追加の2か所の遺伝子座(6p21.2および18q23)を発見した(図1)。
【0060】
さらなる感受性遺伝子座を調査するため、インピュテーション処理されたSNPsに対する全ゲノム関連の結果を得た。上述した後縦靭帯骨化症との関連が示された計8か所の遺伝子座における895個のSNPsが、P<5×10−7で関連することを見出した。他の遺伝子座を発見することはなかった。
【0061】
3.再現解析
後縦靭帯骨化症との関連が示された上記8か所の遺伝子座における関連を確定するために、各遺伝子座で最小のP値を有するSNPsを、再現解析のために選択した。548人の日本人の後縦靭帯骨化症患者および6,469人の日本人の対照からなる独立した集団の遺伝子型を解析した。その結果、ボンフェローニ補正の後でも、8個のSNPsのうちの5個について、P<6.25×10−3(0.05/8)で有意な関連を見出した(表1)。
【0062】
【表1】
【0063】
GWASと再現解析の結果をまとめると、6個のSNPsがP<5×10−8というゲノムワイド有意性閾値に達した(表1)。これらの6個のSNPsのブレスロウ・デイ検定により、試験間の有意な不均一性の不在(P>0.05)が証明された。
【0064】
次に、GWASデータを用いて、これらの6か所の遺伝子座にある関連性が高いSNPsを調整する条件的分析(conditional analysis)を実施した。それらの6か所の遺伝子座には独立したシグナルは存在しなかった。
【0065】
GWASと再現解析のデータを結合したメタ解析において、最も関連性が高いSNPであるrs2423294(P複合=1.1×10−13)は、20p12.3上のHAO1の3’隣接領域に位置する(図2a)。HAO1は主に肝臓と膵臓において発現し、そして、ヒドロキシ酸オキシダーゼをコードし、その酵素は2‐ヒドロキシ酸を酸化する。この領域は、我々が以前に報告した後縦靭帯骨化症の示唆的な連鎖ピーク(非特許文献5)に含まれている。この領域内に、関連についてゲノムワイド有意性閾値(P<5×10−8)に達する80個のインピュテーション処理されたSNPsを同定した。71個の関連性が高いSNPs(P<1×10−9)は、HAO1の3’隣接領域に位置した(図2a)。
【0066】
8q23.1における疾患関連領域は、3個の遺伝子、RSPO2、EIF3EおよびEMC2を含む(図2b)。これらの3個の遺伝子の機能に関して現在入手できる情報から、RSPO2は後縦靭帯骨化症の発病における最も可能性が高い候補である。RSPO2(R‐スポンジン2)は、古典的Wnt/β‐カテニンシグナル伝達を介したβ‐カテニン活性化に関わるR‐スポンジンファミリー(Kim, K.A. et al. Cell Cycle 5, 23-26
(2006))の分泌タンパク質のメンバーをコードし、そのシグナル伝達は骨芽細胞形成に不可欠である(Monroe, D.G., McGee-Lawrence, M.E., Oursler, M.J. & Westendorf, J.J. Gene 492, 1-18(2012))。RSPO2の発現の低下が骨関節炎骨芽細胞で報告されており、そして、骨芽細胞のWnt依存性石灰化がRSPO2によって促進される(参照文献14)。
【0067】
EIF3Eは、真核生物翻訳開始因子3(eIF‐3)複合体の構成要素をコードし、その複合体はタンパク質合成の開始におけるいくつかのステップで必要とされる。eIF‐3複合体は、43S前開始複合体へのmRNAの動員、およびAUG認識のためのmRNAの走査を促進する(Chaudhuri, J., Chowdhury, D. & Maitra, U. J Biol Chem 274,
17975-17980 (1999))。
【0068】
EMC2は、ER膜タンパク質複合体の構成要素をコードする(Christianson, J.C. et al. Nat Cell Biol 14, 93-105 (2012))。しかし、その細胞機能は不明である。
【0069】
染色体12p11.22領域は、CCDC91を含み(図2c)、CCDC91はトランスゴルジネットワークに関与するタンパク質をコードする。特に、その疾患関連領域は、PTHLH遺伝子に隣接して位置し、PTHLH遺伝子は副甲状腺ホルモン(PTH)ファミリーのメンバーをコードする。PTHは、その受容体であるPTH1Rを介して軟骨の骨化を調節し、その軟骨の骨化は後縦靭帯骨化症の進行と関連が有る(Sato, R. et al. J Neurosurg Spine 7, 174-183 (2007))。
【0070】
12p12.2遺伝子座における関連SNPsは、LOC100506393内に存在し(図2d)、それは巨大遺伝子間非コードRNA(lincRNA)であると予測されている。LOC100506393は3つのエクソンからなり、そして、既知のオルソロガスな転写物に対する類似性を持たない推定上の新規遺伝子である。
【0071】
8q23.3における疾患関連領域は、LINC00536とEIF3Hの間にある遺伝子砂漠領域に位置する(図2e)。LINC00536はlincRNAに属する。EIF3HもeIF‐3複合体の構成要素をコードする。
【0072】
6つの後縦靭帯骨化症遺伝子座のうちの2つがeIF‐3複合体中のタンパク質をコードする遺伝子を有するという事実より、この経路の異常が、後縦靭帯骨化症の発病にとって重要であり得ると示唆される。
【0073】
6p21.1における疾患関連領域も、CDC5L、MIR4642とSUPT3Hの
間にある遺伝子砂漠に位置する(図2f)。CDC5L遺伝子がコードする細胞分裂周期5様(cell division cycle 5-like)タンパク質は、細胞周期のG2/M進行の正の調節因子である(Zhang, N., Kaur, R., Akhter, S. & Legerski, R.J. EMBO Rep 10, 1029-1035(2009))。CDC5Lは推定上のE3ユビキチンリガーゼ複合体の中核構成要素としても見いだされた。この複合体は酵母からヒトまでメッセンジャーRNA前駆体のスプライシングに役割を有することが示されている(Ajuh, P. et al. EMBO J 19, 6569-6581(2000))。
【0074】
CDC5L遺伝子のイントロン14内に位置するMIR4642は、その標的遺伝子と機能が未知であるマイクロRNAをコードする。SUPT3Hは、RNAポリメラーゼIIによって転写される多数の遺伝子の転写に必要とされる出芽酵母の転写因子であるSpt3のヒトホモログをコードする(Yu, J., Madison, J.M., Mundlos, S., Winston, F. & Olsen, B.R. Genomics 53, 90-96 (1998))。特に、その疾患関連領域は、骨芽細胞の分化と骨格の形態形成に必須である転写因子をコードするRUNX2(Ziros, P.G. et al. J Biol Chem 277, 23934-23941(2002))の約760kb上流に位置する。Runx2は、骨芽細胞に対するPTHの抗アポトーシス作用を仲介する。その作用が骨芽細胞の数を増加させ、そして、強力に骨を形成させることになる(Bellido, T. et al. J Biol Chem 278, 50259-50272 (2003))。
【0075】
後縦靭帯骨化症遺伝子座の機能の基礎を理解するために、リンパ芽球様細胞株の解析から得られた公開されて利用可能な全ての発現量的形質遺伝子座データ(Genevar;Yang, T.P. et al. Bioinformatics 26,2474-2476 (2010))を調査した。しかし、遺伝子型と遺伝子発現の間に有意な関連の証拠はなかった(複数の試験に対する調整の後でP>0.05)。
【0076】
後縦靭帯骨化症関連遺伝子座における遺伝子間の関係を調査するために、GRAIL(Raychaudhuri, S. et al. PLoS Genet 5, e1000534 (2009))を用いることによって、経路分析を行った。有意なゲノムワイド関連が有る6か所の領域をクエリー領域として使用し、それにより12個のユニークな遺伝子を分析することになった。分析の結果、翻訳開始のメンバーについて、EIF3E(rs374810;P=0.020)とEIF3H(rs13279799;P=0.021)の関連(P<0.05)を発見した。
【0077】
まとめると、日本人集団におけるGWASおよび再現解析により、脊椎靭帯骨化症に対する6つの感受性遺伝子座を同定した。これら6つの感受性遺伝子座に存在するSNPsは、脊椎靭帯骨化症の検査に有用である。また、この結果は、脊椎靭帯骨化症の基礎を成すいくつかの経路の存在を示唆する。これらの経路は、骨芽細胞形成(RSPO2、PTHLHおよびRUNX2)、ならびにmRNAの転写、スプライシングおよび翻訳の制御(EIF3E、EIF3H、CDC5LおよびSUPT3H)を含み得る。
【産業上の利用可能性】
【0078】
以上の通り、全ゲノムレベルでのケース−コントロール(Case-Control)関連解析により、ゲノムワイド水準を満たして脊椎靭帯骨化症と関連する領域が見出された。当該領域に存在するSNPsは、脊椎靭帯骨化症の検査に有用であり、脊椎靭帯骨化症の予防および/または治療に貢献するものである。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]