(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493904
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】パラメータ選定方法、パラメータ選定プログラム及びパラメータ選定装置
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
G05B23/02 F
【請求項の数】27
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-149750(P2014-149750)
(22)【出願日】2014年7月23日
(65)【公開番号】特開2016-24713(P2016-24713A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年7月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133526
【氏名又は名称】株式会社チノー
(74)【代理人】
【識別番号】100109553
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 一郎
(72)【発明者】
【氏名】石橋 政三
(72)【発明者】
【氏名】仲摩 崇
(72)【発明者】
【氏名】今村 藍介
【審査官】
影山 直洋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−284055(JP,A)
【文献】
特開昭58−068106(JP,A)
【文献】
特開2008−296107(JP,A)
【文献】
特開平11−292603(JP,A)
【文献】
特開平02−245902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 11/00−13/04
G05B 23/00−23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の因子のそれぞれに割り当てられた複数パラメータ値の組合せから複数の因子によって導き出される複数の評価値を総合した総合値の最適値を定めるパラメータの最適値を算出するためのパラメータ選定方法であって、
複数の因子のパラメータ最適値である第一次最適値を既知の調整則で求める調整則利用第一次最適値算出ステップと、
求められた第一次最適値に基づいて各因子について複数の第二次最適値候補を算出する第二次最適値候補算出ステップと、
求められた複数の第二次最適値候補を用いて直交配列表を利用した実験計画を実験計画法に基づき策定する実験計画策定ステップと、
策定された実験計画に基づいて実施した実験によって得られる複数の評価値を変数とする制御評価関数によって示される総合値を算出する総合値算出ステップと、
算出された複数の総合値と、その総合値の算出に用いられた各パラメータ値である第二次最適値候補から総合値を最適とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定するパラメータ最適値選定ステップと、
を計算機に実行させるパラメータ選定方法。
【請求項2】
前記パラメータ最適値選定ステップは、実験の結果から総合値の母平均を推定する式に基づいて総合値の母平均を最大又は最小とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定するパラメータ最適値選定サブステップを含む、
請求項1に記載のパラメータ選定方法。
【請求項3】
前記パラメータ最適値選定サブステップにおける前記総合値の母平均を推定する式は分散分析に基づいたデータ構造式に基づく、
請求項2に記載のパラメータ選定方法。
【請求項4】
前記総合値算出ステップで用いられる制御評価関数は各複数の評価値について比率を用いることで無単位化して演算する無単位化制御評価関数である、
請求項1から3のいずれか一に記載のパラメータ選定方法。
【請求項5】
第二次最適値候補算出ステップは各因子について第一次最適値を中心として+25%以内、−25%以内の振幅内に算出する、
請求項1から4のいずれか一に記載のパラメータ選定方法。
【請求項6】
実験計画法に代えてタグチメソッドを用いる、
請求項1から5のいずれか一に記載のパラメータ選定方法。
【請求項7】
因子はPIDパラメータを含む、 請求項1から6のいずれか一に記載のパラメータ選定方法。
【請求項8】
前記既知の調整則は、ジーグラニコルスの調整法、エドガーの調整法、CHR法のいずれか一である、
請求項1から7のいずれか一に記載のパラメータ選定方法。
【請求項9】
前記複数の評価値は、オーバーシュート、整定時間、立上り時間を含む、 請求項1から8のいずれか一に記載のパラメータ選定方法。
【請求項10】
複数の因子のそれぞれに割り当てられた複数パラメータ値の組合せから複数の因子によって導き出される複数の評価値を総合した総合値の最適値を定めるパラメータの最適値を算出するためのパラメータ選定プログラムであって、
複数の因子のパラメータ最適値である第一次最適値を既知の調整則で求める調整則利用第一次最適値算出ステップと、
求められた第一次最適値に基づいて各因子について複数の第二次最適値候補を算出する第二次最適値候補算出ステップと、
求められた複数の第二次最適値候補を用いて直交配列表を利用した実験計画を実験計画法に基づき策定する実験計画策定ステップと、
策定された実験計画に基づいて実施した実験によって得られる複数の評価値を変数とする制御評価関数によって示される総合値を算出する総合値算出ステップと、
算出された複数の総合値と、その総合値の算出に用いられた各パラメータ値である第二次最適値候補から総合値を最適とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定するパラメータ最適値選定ステップと、
を計算機に読取実行可能に記述したパラメータ選定プログラム。
【請求項11】
前記パラメータ最適値選定ステップは、実験の結果から総合値の母平均を推定する式に基づいて総合値の母平均を最大又は最小とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定するパラメータ最適値選定サブステップを含む、
請求項10に記載のパラメータ選定プログラム。
【請求項12】
前記パラメータ最適値選定サブステップにおける前記総合値の母平均を推定する式は分散分析に基づいたデータ構造式に基づく、
請求項11に記載のパラメータ選定プログラム。
【請求項13】
前記総合値算出ステップで用いられる制御評価関数は各複数の評価値について比率を用いることで無単位化して演算する無単位化制御評価関数である、
請求項10から12のいずれか一に記載のパラメータ選定プログラム。
【請求項14】
第二次最適値候補算出ステップは各因子について第一次最適値を中心として+25%以内、−25%以内の振幅内に算出する、
請求項10から13のいずれか一に記載のパラメータ選定プログラム。
【請求項15】
実験計画法に代えてタグチメソッドを用いる、
請求項10から14のいずれか一に記載のパラメータ選定プログラム。
【請求項16】
因子はPIDパラメータを含む、
請求項10から15のいずれか一に記載のパラメータ選定プログラム。
【請求項17】
前記既知の調整則は、ジーグラニコルスの調整法、エドガーの調整法、CHR法のいずれか一である、
請求項10から16のいずれか一に記載のパラメータ選定プログラム。
【請求項18】
前記複数の評価値は、オーバーシュート、整定時間、立上り時間を含む、 請求項10から17のいずれか一に記載のパラメータ選定プログラム。
【請求項19】
複数の因子のそれぞれに割り当てられた複数パラメータ値の組合せから複数の因子によって導き出される複数の評価値を総合した総合値の最適値を定めるパラメータの最適値を算出するためのパラメータ選定装置であって、
複数の因子のパラメータ最適値である第一次最適値を既知の調整則で求める調整則利用第一次最適値算出部と、
求められた第一次最適値に基づいて各因子について複数の第二次最適値候補を算出する第二次最適値候補算出部と、
求められた複数の第二次最適値候補を用いて直交配列表を利用した実験計画を実験計画法に基づき策定する実験計画策定部と、
策定された実験計画に基づいて実施した実験によって得られる複数の評価値を変数とする制御評価関数によって示される総合値を算出する総合値算出部と、
算出された複数の総合値と、その総合値の算出に用いられた各パラメータ値である第二次最適値候補から総合値を最適とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定するパラメータ最適値選定部と、
からなるパラメータ選定装置。
【請求項20】
前記パラメータ最適値選定部は、実験の結果から総合値の母平均を推定する式に基づいて総合値の母平均を最大又は最小とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定するパラメータ最適値選定サブ手段を含む、
請求項19に記載のパラメータ選定装置。
【請求項21】
前記パラメータ最適値選定サブ手段における前記総合値の母平均を推定する式は分散分析に基づいたデータ構造式に基づく、
請求項20に記載のパラメータ選定装置。
【請求項22】
前記総合値算出部で用いられる制御評価関数は各複数の評価値について比率を用いることで無単位化して演算する無単位化制御評価関数である、
請求項19から21のいずれか一に記載のパラメータ選定装置。
【請求項23】
第二次最適値候補算出部は各因子について第一次最適値を中心として+25%以内、−25%以内の振幅内に算出する、
請求項19から22のいずれか一に記載のパラメータ選定装置。
【請求項24】
実験計画法に代えてタグチメソッドを用いる、
請求項19から23のいずれか一に記載のパラメータ選定装置。
【請求項25】
因子はPIDパラメータを含む、 請求項19から24のいずれか一に記載のパラメータ選定装置。
【請求項26】
前記既知の調整則は、ジーグラニコルスの調整法、エドガーの調整法、CHR法のいずれか一である、
請求項19から25のいずれか一に記載のパラメータ選定装置。
【請求項27】
前記複数の評価値は、オーバーシュート、整定時間、立上り時間を含む、
請求項19から26のいずれか一に記載のパラメータ選定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメータ選定方法、パラメータ選定プログラム、及びパラメータ選定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
状態を制御するには、状態を支配している設定値を適合する値とすることが必要になる。制御手法の一つとしてPID制御が知られている。PID制御とは、出力値と目標値の偏差(P)、偏差の積分(I)、偏差の微分(D)に応じて印加電圧などの値を決定する制御手法である。
【0003】
PID制御において、新規に設計した製品の状態制御のためにパラメータを定める場合、そのパラメータの選定は一般に難しい。そのため、PID制御を用いる装置にはオートチューニングという、PIDパラメータの自動選定プログラムが組み込まれていることがある。例えば特許文献1にオートチューニングに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58‐68106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オートチューニングにより選定されたパラメータを用いた制御では、目標とする状態を必ずしも実現できない場合がある。オートチューニングはあくまで理論的な最適パラメータであって、実際には求めるものと異なっている場合が存在する。最適パラメータを選定する方法として、それぞれのパラメータのとりうる値の組み合わせ全てで実験を行うという手法が考えられるが、この手法は非常に時間がかかるため、実際に利用するには非効率である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上のような課題を解決するために、第一の発明は、複数の因子のそれぞれに割り当てられた複数パラメータ値の組合せから複数の因子によって導き出される複数の評価値を総合した総合値の最適値を定めるパラメータの最適値を算出するためのパラメータ選定方法であって、複数の因子のパラメータ最適値である第一次最適値を既知の調整則で求める調整則利用第一次最適値算出ステップと、求められた第一次最適値に基づいて各因子について複数の第二次最適値候補を算出する第二次最適値候補算出ステップと、求められた複数の第二次最適値候補を用いて直交配列表を利用した実験計画を実験計画法に基づき策定する実験計画策定ステップと、策定された実験計画に基づいて実施した実験によって得られる複数の評価値を変数とする制御評価関数によって示される総合値を算出する総合値算出ステップと、算出された複数の総合値と、その総合値の算出に用いられた各パラメータ値である第二次最適値候補から総合値を最適とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定するパラメータ最適値選定ステップと、からなるパラメータ選定方法を提案する。
【0007】
また、第二の発明は、複数の因子のそれぞれに割り当てられた複数パラメータ値の組合せから複数の因子によって導き出される複数の評価値を総合した総合値の最適値を定めるパラメータの最適値を算出するためのパラメータ選定プログラムであって、複数の因子のパラメータ最適値である第一次最適値を既知の調整則で求める調整則利用第一次最適値算出ステップと、求められた第一次最適値に基づいて各因子について複数の第二次最適値候補を算出する第二次最適値候補算出ステップと、求められた複数の第二次最適値候補を用いて直交配列表を利用した実験計画を実験計画法に基づき策定する実験計画策定ステップと、策定された実験計画に基づいて実施した実験によって得られる複数の評価値を変数とする制御評価関数によって示される総合値を算出する総合値算出ステップと、算出された複数の総合値と、その総合値の算出に用いられた各パラメータ値である第二次最適値候補から総合値を最適とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定するパラメータ最適値選定ステップと、を計算機に読取実行可能に記述したパラメータ選定プログラムを提案する。
【0008】
また、第三の発明は、複数の因子のそれぞれに割り当てられた複数パラメータ値の組合せから複数の因子によって導き出される複数の評価値を総合した総合値の最適値を定めるパラメータの最適値を算出するためのパラメータ選定装置であって、複数の因子のパラメータ最適値である第一次最適値を既知の調整則で求める調整則利用第一次最適値算出部と、求められた第一次最適値に基づいて各因子について複数の第二次最適値候補を算出する第二次最適値候補算出部と、求められた複数の第二次最適値候補を用いて直交配列表を利用した実験計画を実験計画法に基づき策定する実験計画策定部と、策定された実験計画に基づいて実施した実験によって得られる複数の評価値を変数とする制御評価関数によって示される総合値を算出する総合値算出部と、算出された複数の総合値と、その総合値の算出に用いられた各パラメータ値である第二次最適値候補から総合値を最適とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定するパラメータ最適値選定部と、からなるパラメータ選定装置を提案する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によってパラメータ最適値の効率的な算出が可能となり、多様な場面での制御性を効率的に高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】実験計画策定ステップに用いる直交配列表の一例(L9直交配列表)
【
図5】パラメータ選定装置のハードウェア構成の一例
【
図6】パラメータ選定装置の処理の流れの一例(パラメータ選定方法)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について図面と共に説明する。なお、本発明は本明細書の記載に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、様々な態様で実施しうる。
<構成>
【0012】
図1にパラメータ選定装置における機能ブロックの一例を示す。例えば本パラメータ選定装置0101は、調整則利用第一次最適値算出部0102と、第二次最適値候補算出部0103と、実験計画策定部0104と、総合値算出部0105と、パラメータ最適値選定部0106と、から構成される。
【0013】
なお、上記に記載の各機能ブロックは、ハードウェア、ソフトウェア、又はハードウェア及びソフトウェアの両方として実現され得る。さらに、ソフトウェアをコンピュータに実行させるために用いるソフトウェア製品、及び同製品を記録した記録媒体なども、当然にこの発明の技術的な範囲に含まれる。
【0014】
また、上記に記載の各機能ブロックは、同一のハードウェアによって機能を果たす構成も可能であるし、別々のハードウェアとする構成も可能である。これらの関連付けを行うためのデータは、外部記憶媒体から取得する構成や、操作入力装置を介して入力を受け付ける構成、通信装置を介してネットワーク上の他の装置から取得する構成など種々のものが考えられる。
<各部の構成>
【0015】
「調整則利用第一次最適値算出部」0102は、複数の因子のパラメータ最適値である第一次最適値を既知の調整則で求める機能を有する。「複数の因子」とは、例えばPID制御における、出力値と目標値の偏差(P)、偏差の積分(I)、偏差の微分(D)の3つなどが考えられる。「既知の調整則」としては特に詳細は問わないが、ジーグラニコルスの調整法、エドガーの調整法、CHR法などを用いるのが良い。
【0016】
「第二次最適値候補算出部」0103は、前記調整則利用第一次最適値算出部0102により求められた第一次最適値に基づいて各因子について複数の第二次最適値候補を算出する機能を有する。各因子について複数の第二次最適値候補を算出するには、例えば各因子について第一次最適値を中心として+25%以内、−25%以内の振幅内に算出するとしてもよい。ちなみに水準の数はいくつでも良いが、3つがより好適である。
【0017】
図2に第二次最適値候補算出部0103の一例を示す。例えばオートチューニングにより求まったP、I、Dそれぞれの値を第2水準とし、それぞれの値に対して25%減少させたものを第1水準、25%増加させたものを第3水準として、各因子について3つの第二次最適値候補を算出する。
【0018】
「実験計画策定部」0104は、前記第二次最適値候補算出部0103により求められた複数の第二次最適値候補を用いて直交配列表を利用した実験計画を実験計画法に基づき策定する機能を有する。実験計画法とは、効率よく実験を行うために用いられる統計学的手法である。
【0019】
図3に実験計画策定部0104に用いる直交配列表の一例を示す。
図3に示している直交配列表はL9直交配列表と呼ばれている。1つの行が1つの実験を示し、行内に示された第二次最適値候補を用いて実験を行うよう、実験計画を策定する。なお、実験は図の一番右に示すような順序で行うのが好ましい。実験を行った結果として、複数の因子の第二次最適値候補の組合せごとに複数の評価値が得られる。評価値として、例えばオーバーシュート、整定時間、立上り時間などが考えられるが、どの値でも構わないし、いくつ得られても構わない。通常、3つのパラメータの最適値候補としてそれぞれ3つの値があるとき、すべての組合せを試すと27通りの実験が必要になる。しかし、直交配列表を用いた実験計画法においては、9通りの実験でパラメータの最適値を探すことが可能であり、非常に効率的である。
【0020】
なお、パラメータとしてPIDパラメータだけでなく、目標値フィルタの下げ幅、フィルタ時定数など、因子を増やすことができる。その場合、直交配列表を大きくして実験計画を策定する。例えばL9直交配列表からL27直交配列表、更にL81直交配列表と大きくすることによって、よりたくさんのパラメータの最適値を算出することが可能となる。
【0021】
実験計画策定部0104において、実験計画法の全部または一部に代えてタグチメソッドを用いて実験計画を策定してもよい。「タグチメソッド」とは品質工学とも呼ばれ、実験計画法と同じく効率的な技術開発を行う手法として知られている。タグチメソッドにおいては、実験計画法と同じく直交配列表を用いる点に加えて、SN比(信号−雑音比)や、損失関数の概念をさらに導入する。
【0022】
「総合値算出部」0105は、前記実験計画策定部0104により策定された実験計画に基づいて実施した実験によって得られる複数の評価値を変数とする制御評価関数によって示される総合値を算出する機能を有する。各実験において、得られた複数の評価値を制御評価関数に代入して計算した結果、複数の因子の第二次最適値候補の組合せごとに総合値が算出される。
【0023】
図4に総合値算出部0105における実験結果の概要を示す。「制御評価関数」とは、例えば式1のように表される。評価値は3つより少なくても多くても良い。各項の分母は例えば調整則利用第一次最適値算出部0102により求められた第一次最適値を用いて得られた複数の評価値としても良い(Y
i)。各項の分子は総合値算出部0105により得られた複数の因子の第二次最適値候補の組合せごとの複数の評価値のことを示す(Y
i,n)。本制御評価関数は、実験により得られた各複数の評価値について比率を用いることで無単位化する無単位化制御評価関数である。このことによって、複数の評価値を線形結合させて総合値を導出することが可能となる。その結果、複数の評価値をパラメータの選定要素として取り入れることが可能となる。
【0025】
線形結合の際、各評価値に重み付けの係数を付加する。各係数は式2の条件を満たしている。例えばユーザーが評価値1を重要視する場合、評価値1の係数であるαを、評価値2や3の係数であるβやγより大きくする。本評価関数によって、よりユーザーの要望に沿ったパラメータの選定が可能となる。
【0027】
「パラメータ最適値選定部」0106は、前記総合値算出部0105の実験の結果から算出された複数の総合値と、その総合値の算出に用いられた各パラメータ値である第二次最適値候補から総合値を最適とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定する機能を有する。
【0028】
なお、パラメータ最適値選定部0106は、パラメータ最適値選定サブ手段0107を含んでも良い。「パラメータ最適値選定サブ手段」0107は、前記総合値算出部0105の結果から総合値の母平均を推定する式に基づいて総合値の母平均を最小又は最大とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定する機能を有する。
【0029】
式3に、総合値の母平均を推定する式の一例を示す。A
i、B
i、C
iは複数の因子の第二次最適値候補を、μ(上付きバー)
Ai,Bi,CiはA
iとB
iとC
iに示す第二次最適値候補の組合せのもとでの母平均を表している。また、x(上付きバー)
Ai、x(上付きバー)
Bi、x(上付きバー)
Ciは複数の因子の第二次最適値候補別平均値を、x(上付きバー)は全総合値の平均値を表している。「第二次最適値候補別平均値」とは、総合値算出部0105において、各第二次最適値候補を用いて行った実験から得られた総合値の平均値である。全ての複数の因子の第二次最適値候補の組合せの母平均を算出し、算出された母平均を最小又は最大とする各複数の因子の第二次最適値候補の組合せをパラメータ最適値として選定することができる。
【0031】
パラメータ最適値選定部0106における前記総合値の母平均を推定する式は、分散分析に基づいたデータ構造式に基づいても良い。分散分析とは、データのばらつきをデータの誤差によるものとデータに影響する因子によるものに分解することで、因子のデータに与える効果を分析する統計学的手法である。分散分析を行うことによって、総合値に対して各複数の因子が優位な効果を持つかどうかを検証することができ、優位な効果を持つ複数の因子だけを総合値の母平均を推定する式に取り入れることができる。
【0032】
なお、上述のパラメータ最適値選定サブ手段0107で行っていることは、複数の因子に関して第二次最適値候補別平均値の最大値又は最小値を与える第二次最適値候補を、パラメータ最適値として選定することと等価である。すなわち、わざわざ母平均を推定する式を立式しなくても良い。
【0033】
また、第二次最適値候補算出部0103において、第二次最適値候補が3水準ある場合、パラメータ最適値選定部0106を次のように行うこともできる。すなわち、複数の因子それぞれにおいて、3点の第二次最適値候補別平均値が算出される。その3点を通る2次曲線は一意に定まり、その2次曲線の最大値又は最小値を取る値を各複数の因子のパラメータ最適値として選定することもできる。
<ハードウェア構成>
【0034】
図5にパラメータ選定装置のハードウェア構成の一例を示す。パラメータ選定装置0501は、例えば「CPU」0502、「主記憶装置」0503、「プログラム記憶装置」0504、「2次記憶装置」0505、「外部機器I/F」0506、「ユーザI/F」0507、「出力I/F」0508、「バス」0509などで構成されることが考えられる。
【0035】
「CPU」0502において、調整則利用第一次最適値算出ステップや第二次最適値候補算出ステップなどの処理が実行される。計算の指示や、計算に必要なパラメータなどは、他の装置から与えられる。
【0036】
「主記憶装置」0503は、CPU0502におけるプログラム実行の際に必要なワーク領域を提供する。また、プログラムの実行中などに得られる直交配列表、評価値などを保持し、必要に応じてCPU0502に提供する。
【0037】
「プログラム記憶装置」0504は、調整則利用第一次最適値算出ステップや第二次最適値候補算出ステップなどのパラメータ選定に必要なプログラムを記憶しており、CPU0502等にそのプログラムを提供する。
【0038】
「2次記憶装置」0505は、プログラム実行中に動的にデータを書き換え可能な記憶装置であり、信号処理装置の電源が切れても記憶しているデータは消去されない。
【0039】
「外部機器I/F」0506は、制御の対象となる機器を示す。CPU0502からの命令を受けて、パラメータ選定方法における実験などの処理がなされる。
【0040】
「ユーザI/F」0507は、例えばマウスやキーボードなどを示す。ユーザはユーザI/F0507を通して、主記憶装置0503などにパラメータ選定に関する要望を入力することができる。
【0041】
「出力I/F」0508は、例えばディスプレイなどを示す。ユーザは出力I/F0508を通して、プログラムの実行状況や、算出されたパラメータ最適値を確認することができる。
【0042】
なお、0502から0508に示される装置は、「バス」0509によって接続されていることが考えられる。
<処理の流れ>
【0043】
図6にパラメータ選定装置の処理の流れの一例を示す。まずS0601において、複数の因子のパラメータ最適値である第一次最適値を既知の調整則で求める(調整則利用第一次最適値探索ステップ)。次にS0602において、求められた第一次最適値に基づいて各因子について複数の第二次最適値候補を算出する(第二次最適値候補算出ステップ)。そして、S0603において、求められた複数の第二次最適値候補を用いて直交配列表を利用した実験計画を実験計画法に基づき策定する(実験計画策定ステップ)。その後、S0604において、策定された実験計画に基づいて実施した実験によって得られる複数の評価値を変数とする制御評価関数によって示される総合値を算出する(総合値算出ステップ)。そしてS0605において、算出された複数の総合値と、その総合値の算出に用いられた各パラメータ値である第二次最適値候補から総合値を最適とする各パラメータ値であるパラメータ最適値を選定する(パラメータ最適値選定ステップ)。
【0044】
なお、S0601からS0605までの処理の流れは、パラメータ選定方法として実施することも可能である。
<効果>
【0045】
本構成を取ることにより、効率的にパラメータ最適値を選定することが可能となる。