特許第6493926号(P6493926)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シージェイ チェイルジェダン コーポレーションの特許一覧

特許6493926L−リシンの産生能が向上した微生物及びこれを用いたL−リシンの産生方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493926
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】L−リシンの産生能が向上した微生物及びこれを用いたL−リシンの産生方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20190325BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20190325BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   C12N1/21
   C12P13/08 A
   !C12N15/31ZNA
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-566983(P2016-566983)
(86)(22)【出願日】2015年5月8日
(65)【公表番号】特表2017-514510(P2017-514510A)
(43)【公表日】2017年6月8日
(86)【国際出願番号】KR2015004588
(87)【国際公開番号】WO2015170907
(87)【国際公開日】20151112
【審査請求日】2016年11月7日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0055102
(32)【優先日】2014年5月8日
(33)【優先権主張国】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM11481P
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM11482P
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM11502P
(73)【特許権者】
【識別番号】512088051
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】CJ CheilJedang Corporation
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】イ,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ジュン オク
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒュン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,ソン ギ
【審査官】 吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−191370(JP,A)
【文献】 Sven Brand, et al,Arch Microbiol,2003年,Vol.180,p.33-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号7及び13のアミノ酸配列よりなる群から選ばれた少なくとも一つ以上の分泌タンパク質が不活性化されたL−リシンを産生するコリネバクテリウム・グルタミクム。
【請求項2】
微生物を培養して培養物又は細胞中にL−リシンを産生するステップと、培養物からL−リシンを回収するステップと、を含む、L−リシンを産生する方法であって、
該微生物が、 配列番号1、7及び13のアミノ酸配列よりなる群から選ばれた少なくとも一つ以上の分泌タンパク質が不活性化された、L−リシン産生能を有するコリネバクテリウム属である、方法。
【請求項3】
L−リシンを産生するための、L−リシンを産生するコリネバクテリウム属微生物の使用であって、ここで微生物は、配列番号1、7及び13のアミノ酸配列よりなる群から選ばれた少なくとも一つ以上の不活性化された分泌タンパク質を含む、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−リシンの産生能が向上した微生物及びこれを用いたL−リシンの産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
L−リシンは、動物の飼料、ヒトの医薬品及び化粧品産業に用いられており、コリネバクテリウム属菌株やエシェリキア属菌株を用いた発酵により産生されている。最近、高効率の産生菌株及び発酵工程技術の開発のための様々な研究が行われている。
【0003】
ビールやワインの生産に用いられる酵母において、発酵過程中の気泡の発生を調節するための研究が盛んに行われてきている中で、最近の研究において、気泡の発生に影響を及ぼす遺伝子(AWA1、FPG1、CFG1)が判明された(Shimoi H. et al., 2002, Appl. Environ. Microbiol. 68:2018−25; Blasco L. et al., Yeast. 2011, 28:437−51; Blasco L. et al., J. Agric. Food Chem. 2012, 60:10796−07)。ここで、これらの遺伝子が不活性化された菌株においては、気泡の発生が母菌株に比べて大幅に減少されたのに対し、これらの遺伝子が過発現された菌株においては、気泡の発生が増加することが究明された。
【0004】
酵母の培養に際して、気泡は、次のような一連の過程に経て発生する。まず、発酵中に発生する微細ガスバブルにマンノタンパク質が混ざる。このとき、ガスバブルの内部は疎水性部位が、ガスバブルの外部は親水性部位が占める。その結果、培養液の粘性が増加して様々なタンパク質だけではなく、細胞まで混ざることにより、気泡が発生する(Swart CW. et al., FEMS Yeast Res. 2012, 12:867−69)。
【0005】
酵母を用いた ビールの生産に当たっては適切なレベルの気泡の発生が求められているが、アミノ酸など有用産物の量産に用いられる微生物の発酵に当たっては気泡の発生を抑える必要がある。培養中に過量の気泡が発生する場合、培養液の粘性が増加して培養液内の酸素ガスの伝達効率(Oxygen Transfer Rate;OTR)が低下され、酷い場合には菌体の溶解を引き起こすこともある。なお、気泡の発生を抑えるための過量の消泡剤の使用は、産業的な側面からみて、製造コストを高騰させる負担要因として働くおそれがあり、菌体の生長を阻害する否定的な影響を及ぼすおそれがある。
この理由から、本発明者らは、コリネバクテリウム属菌株を対象として過量の気泡の発生に影響を及ぼす遺伝子を選別して、遺伝的な側面からみて気泡の発生を有効に抑えることにより、L−リシンの産生能が増加することを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、L−リシンの産生能が向上したコリネバクテリウム属微生物を提供することである。
本発明の他の目的は、前記コリネバクテリウム属微生物を用いてL−リシンを産生する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明の一態様は、配列番号1、7、及び13のアミノ酸配列よりなる群から選ばれた少なくとも一つ以上の分泌タンパク質が不活性化されたコリネバクテリウム属微生物を提供する。
本発明の他の態様は、前記コリネバクテリウム属微生物を培養してL−リシンを産生する方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明による微生物は、気泡の発生に与る分泌タンパク質が不活性化されてL−リシンの産生能が向上した菌株である。この菌株を用いると、気泡の発生が抑えられ、その結果、工程設備の増設又はさらなる多量の消泡剤の投入なしに培養可能な産生量が増える。なお、産業的な側面からみて、産生し易さ及び製造コストの節減などの効果が期待され、L−リシンが効率よく産生される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。
一つの態様によれば、本発明においては、配列番号1、7、及び13のアミノ酸配列よりなる群から選ばれた少なくとも一つ以上の分泌タンパク質が不活性化されたコリネバクテリウム属微生物を提供する。
【0010】
L−リシンを産生するための大量の培養中に過量の気泡が発生する場合、培養液の粘性が増加して培養液内の酸素ガスの伝達効率(Oxygen Transfer Rate;OTR)が低下され、酷い場合には菌体の溶解を引き起こすこともある。すなわち、気泡の発生を抑えるという側面からみて、気泡の発生の原因となる分泌タンパク質を不活性化させることは、リシンの産生に有利に働くものと考えられた。
【0011】
このため、本発明の一実施形態においては、L−リシンの産生及び発酵工程を改善すべく、リシンの産生に不要な気泡の発生の原因となる主たる分泌タンパク質を選別するために、コリネバクテリウム・グルタミクムKCCM11016P(前記微生物は、KFCC10881として公開されていて、ブダペスト条約下である国際寄託機関に再寄託されてKCCM11016Pという寄託番号が与えられた、韓国登録特許第10−0159812号)を培養した後、発酵過程中に生成された気泡のみを分離してペプチドを確保した。このようにして確保したペプチドを分析して、相対的に検出量が最も多いタンパク質3種を選んでコリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032に対するNCBI許可番号NCgl0336、NCgl0717及びNCgl2912遺伝子により暗号化されるペプチドを選り抜いた。
【0012】
本発明において、前記NCgl0336遺伝子により暗号化されるペプチドは、コリネバクテリウム属微生物に内在的に存在するエステラーゼである。具体的には、前記ペプチドは配列番号1のアミノ酸を含んでいてもよく、本発明において提示した分泌タンパク質であって、エステラーゼ活性を有するタンパク質である限り、前記配列番号1のアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは、90%以上、より好ましくは、95%以上、特に好ましくは、97%以上の相同性を有するアミノ酸配列もまた本発明に含まれる。なお、微生物の種又は菌株に応じて前記活性を示すタンパク質のアミノ酸配列に違いが存在する場合があるため、これに限定されない。前記配列と相同性を有する配列であって、実質的に配列番号1のアミノ酸配列と同一であるか、又はそれに対応する生物学的な活性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換又は付加されたアミノ酸配列を有する場合もまた本発明の範囲に含まれるということはいうまでもない。
【0013】
本発明において、前記NCgl0336遺伝子は配列番号2のヌクレオチド配列を有し、前記配列番号2のヌクレオチド配列に対して80%以上、好ましくは、90%以上、より好ましくは、95%以上、特に好ましくは、97%以上の相同性を有するヌクレオチド配列もまた本発明に含まれる。また、遺伝暗号の縮退性(genetic codedegeneracy)に起因して同じアミノ酸配列をコーディングする前記配列の変異体もまた本発明に含まれる。更に、本発明のNCgl0336をコーディングするポリヌクレオチドは、配列番号2のヌクレオチド配列又は前記ヌクレオチド配列に由来するプローブと厳しい条件(stringent conditions)下で混成化されてもよく、正常的に機能するNCgl0336をコーディングする変異型であってもよい。
【0014】
本発明において、前記NCgl0717遺伝子により暗号化されるペプチドは、コリネバクテリウム属微生物に内在的に存在するエステラーゼである。具体的には、前記ペプチドは配列番号7のアミノ酸を含んでいてもよく、本発明において提示した分泌タンパク質であって、エステラーゼ活性を有するタンパク質である限り、前記配列番号7のアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは、90%以上、より好ましくは、95%以上、特に好ましくは、97%以上の相同性を有するアミノ酸配列もまた本発明に含まれる。また、微生物の種又は菌株に応じて前記活性を示すタンパク質のアミノ酸配列に違いが存在する場合があるため、これに限定されない。前記配列と相同性を有する配列であって、実質的に配列番号7のアミノ酸配列と同じであるか、又はそれに対応する生物学的な活性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換又は付加されたアミノ酸配列を有する場合もまた本発明の範囲に含まれるということはいうまでもない。
【0015】
本発明において、前記NCgl0717遺伝子は、配列番号8のヌクレオチド配列を有し、前記配列番号8のヌクレオチド配列に対して80%以上、好ましくは、90%以上、より好ましくは、95%以上、特に好ましくは、97%以上の相同性を有するヌクレオチド配列もまた本発明に含まれる。また、遺伝暗号の縮退性に起因して同じアミノ酸配列をコーディングする前記配列の変異体もまた本発明に含まれる。更に、本発明のNCgl0717をコーディングするポリヌクレオチドは、配列番号8のヌクレオチド配列又は前記ヌクレオチド配列に由来するプローブと厳しい条件下で混成化されてもよく、正常的に機能するNCgl0717をコーディングする変異型であってもよい。
【0016】
本発明において、前記NCgl2912遺伝子により暗号化されるペプチドは、コリネバクテリウム属微生物に内在的に存在するエステラーゼである。具体的には、前記ペプチドは配列番号13のアミノ酸を含んでいてもよく、本発明において提示した分泌タンパク質であって、エステラーゼ活性を有するタンパク質である限り、前記配列番号13のアミノ酸配列に対して80%以上、好ましくは、90%以上、より好ましくは、95%以上、特に好ましくは、97%以上の相同性を有するアミノ酸配列もまた本発明に含まれる。また、微生物の種又は菌株に応じて前記活性を示すタンパク質のアミノ酸配列に違いが存在する場合があるため、これに限定されない。前記配列と相同性を有する配列であって、実質的に配列番号13のアミノ酸配列と同じであるか、又はそれに対応する生物学的な活性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、変形、置換又は付加されたアミノ酸配列を有する場合もまた本発明の範囲に含まれるということはいうまでもない。
【0017】
本発明において、前記NCgl2912遺伝子は、配列番号14のヌクレオチド配列を有し、前記配列番号14のヌクレオチド配列に対して80%以上、好ましくは、90%以上、より好ましくは、95%以上、特に好ましくは、97%以上の相同性を有するヌクレオチド配列もまた本発明に含まれる。また、遺伝暗号の縮退性に起因して同じアミノ酸配列をコーディングする前記配列の変異体もまた本発明に含まれる。更に、本発明のNCgl0717をコーディングするポリヌクレオチドは、配列番号14のヌクレオチド配列又は前記ヌクレオチド配列に由来するプローブと厳しい条件下で混成化されてもよく、正常的に機能するNCgl2912をコーディングする変異型であってもよい。
【0018】
本発明において、「相同性」という用語は、与えられたアミノ酸配列又は塩基配列と一致する度合いを意味し、百分率にて表示されてもよい。本明細書において、与えられたアミノ酸配列又は塩基配列と同一又は類似の活性を有するその相同性配列が「%相同性」と表示される。前記アミノ酸配列に対する相同性は、例えば、文献によるアルゴリズムBLAST[参照:Karlin及びAltschul, Pro. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 5873(1993)]やPearsonによるFASTA[参照:Methods Enzymol., 183, 63(1990)]を用いて決定してもよい。このようなアルゴリズムBLASTに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている[参照:http://www.ncbi.nlm.nih.gov].
【0019】
本発明における用語「厳しい条件」とは、ポリヌクレオチド間の特異的な混成化を可能にする条件を意味する。例えば、このような厳しい条件は、文献(J. Sambrook et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory press, Cold Spring Harbor, New York, 1989; F.M. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc., New York)に具体的に記載されている。
【0020】
本発明における用語「不活性化」は、当業界における周知の任意の不活性化方法により行われてもよい。本発明において、不活性化とは、前記内在的な遺伝子の発現が野生菌株に比べて低いレベルに減るか、或いは全く発現されない遺伝子及びたとえ発現されてもその活性がないか、或いは減っている遺伝子が生成されることを意味するものであり、遺伝子の塩基配列の全体、一部、又はその発現調節配列の全体又は一部を欠失、置換、挿入により変異させるか、又はこれらの組み合わせによるものであってもよい。
【0021】
具体例としては、前記内在的な遺伝子のオープンリーディングフレームが内部的に失われた遺伝子断片を含む組換えベクターにコリネバクテリウム属微生物を形質転換して内在的な遺伝子を欠損又は突然変異させることにより、前記内在的な遺伝子の活性が不活性化された微生物を製造してもよい。前記遺伝子の染色体内への挿入は、当業界における周知の任意の方法により行われてもよい。
【0022】
本明細書における用語「内在的な」酵素及び活性とは、微生物又は細胞にそもそも存在する天然状態の酵素及びその活性を意味する。すなわち、当該酵素及び活性が変異される前の酵素及びその活性を意味するものである。
【0023】
本発明における用語「組換えベクター」とは、好適な宿主内において目的タンパク質を発現させるように好適な調節配列に作動可能なように連結された前記目的タンパク質を暗号化させるポリヌクレオチドの塩基配列を含有するDNA製造物を意味する。前記調節配列は、転写を開始可能なプロモータ、そのような転写を調節するための任意のオペレータ配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコーディングする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含む。ベクターは、適当な宿主内に形質転換された後、宿主ゲノムとは無関係に複製されたり機能したりでき、ゲノムそれ自体に取り込まれてもよい。本発明において用いられるベクターは、宿主中において複製可能なものであれば、特に限定されるものではなく、当業界における周知の任意のベクターが使用可能である。
【0024】
前記組換えベクターの製作に用いられたベクターは、天然状態若しくは組換え状態のプラスミド、コスミド、ウィルス及びバクテリオファージであってもよい。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとして、pWE15、M13、λMBL3、λMBL4、λIXII、λASHII、λAPII、λt10、λt11、Charon4A、及びCharon21Aなどが使用可能であり、プラスミドベクターとして、pDZベクター、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などが使用可能である。使用可能なベクターは特に限定されるものではなく、公知の発現ベクターが使用可能である。
【0025】
本発明における用語「形質転換」とは、目的タンパク質を暗号化させるポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞内に取り込んで宿主細胞内において前記ポリヌクレオチドが暗号化させるタンパク質を発現させることを意味する。取り込まれたポリヌクレオチドは、宿主細胞内において発現可能である限り、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置してもよく、染色体外に位置してもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質を暗号化させるDNA及びRNAを含む。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に取り込まれて発現可能なものである限り、いかなる形態で取り込まれても構わない。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自体的に発現されるのに必要なあらゆる要素を含むポリヌクレオチド構造体である発現カセットの形で宿主細胞に取り込まれてもよい。前記発現カセットは、通常、前記遺伝子のオープンリーディングフレーム(open reading frame、以下、「ORF」と略称する。)に作動可能なように連結されているプロモータ、転写終結信号、リボソーム結合部位及び翻訳終結信号を含む。前記発現カセットは、自体的に複製可能な発現ベクターの形であってもよい。なお、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形で宿主細胞に取り込まれて、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能なように連結されているものであってもよい。
【0026】
前記組換えベクターを取り込む母菌株としては、L−リシンを産生する微生物であれば、制限なしに使用可能であるが、具体的には、コリネバクテリウム属又はブレビバクテリウム属微生物が使用可能であり、更に具体的には、コリネバクテリウム・グルタミクム微生物が使用可能である。
【0027】
本発明における用語「L−リシンを産生する微生物」とは、L−リシンを産生するように通常の公知の遺伝子を操作して得た微生物であってもよく、例えば、L−アミノ酸の産生に与るコリネバクテリウム属微生物に内在するaspB(アスパルテートアミノトランスフェラーゼを暗号化させる遺伝子)、lysC(アスパルテートキナーゼを暗号化させる遺伝子)、asd(アスパルテートセミアルデヒドジヒドロゲナーゼを暗号化させる遺伝子)、dapA(ジヒドロジピコリネートシンターゼを暗号化させる遺伝子)、dapB(ジヒドロジピコリネートリダクターゼを暗号化させる遺伝子)及びlysA(ジアミノジピメレートジカルボキシラーゼを暗号化させる遺伝子)よりなる群から選ばれた遺伝子のうちの一つ又はそれ以上を挿入して得るか、又はL−ロイシン栄養要求性を取り込んだ変異菌株にN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(NTG)を処理して得た微生物であってもよい。
【0028】
より具体的に、本発明においては、コリネバクテリウム属微生物として、コリネバクテリウム・グルタミクムKCCM11016P(前記微生物は、KFCC10881で公開されていて、ブタペスト条約下である国際寄託機関に再寄託されてKCCM11016Pという寄託番号が与えられた。大韓民国登録特許第10−0159812号)、コリネバクテリウム・グルタミクムKCCM10770P(大韓民国登録特許第10−0924065号)、コリネバクテリウム・グルタミクムL−リシンの産生菌株KCCM11347P(前記微生物は、KFCC10750で公開されていて、ブタペスト条約下の国際寄託機関に再寄託されて、KCCM11347Pが与えられた。大韓民国登録特許第10−0073610号)及びコリネバクテリウム・グルタミクムCJ3P菌株(Binder et al., Genome Biology 2012, 13:R40)を用いたが、これに限定されない。
【0029】
本発明の好適な実施形態において、本発明により形質転換された微生物は、コリネバクテリウム・グルタミクム(KCCM11502P、KCCM11481P、KCCM11482P)であってもよい。
【0030】
他態様によれば、また、本発明においては、前記形質転換された微生物を用いてL−リシンを産生する方法を提供する。より具体的には、本発明の微生物を培養して培養物又は細胞中にL−リシンを産生するステップ及び前記培養物からL−リシンを回収するステップを含んでなる、L−リシンを産生する方法を提供する。
【0031】
本発明の方法において、コリネバクテリウム属微生物の培養は、当業界における周知の任意の培養条件及び培養方法が使用可能である。
コリネバクテリウム属微生物の培養のために使用可能な培地としては、例えば、Manual of Methods for General Bacteriology by the American Society for Bacteriology (Washington D.C., USA, 1981)に開示されている培地が挙げられる。
培地中において使用可能な糖源としては、葡萄糖、サッカロース、乳糖、果糖、マルトース、澱粉、セルロースなどの糖及び炭水化物、大豆油、ひまわり油、ヒマシ油、ココナッツオイルなどの油及び脂肪、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセロール、エタノールなどのアルコール、酢酸などの有機酸が挙げられる。これらの物質は、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
使用可能な窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆・麦及びよう素又は無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが挙げられる。窒素源もまた、単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
使用可能なリン源としては、リン酸二水素カリウム又はリン酸水素二カリウム又はこれに対応するナトリウムを含有する塩が挙げられる。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウム又は硫酸鉄などの金属塩を含有しなければならない。最後に、前記物質に加えて、 アミノ酸及びビタミンなどの必須性物質が使用可能である。なお、培養培地に適した前駆体が使用可能である。前記原料は、培養過程において培養物に適切な方式により回分式又は連続式により添加可能である。
前記微生物の培養中に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの基礎化合物又はリン酸又は硫酸などの酸化合物を適切な方式を用いて培養物のpHを調節してもよい。また、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡の生成を抑えてもよい。好気状態を保つために、培養物内に酸素又は酸素含有ガス(例えば、空気)を注入する。培養物の温度は、通常、20℃〜45℃、好ましくは、25℃〜40℃である。培養時間は、所望のL−アミノ酸の生成量が得られるまで持続可能であるが、好ましくは、10〜160時間である。
本発明の方法において、培養は、バッチ工程、注入バッチ及び繰り返し注入バッチ工程などの連続式又は回分式により行われてもよい。このような培養方法は、当業界において周知であり、任意の方法が使用可能である。
【0032】
以下、本発明について実施例を挙げてより詳細に説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明を例示的に説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
実施例1:培養中の気泡の発生に関わる分泌タンパク質の選別
本実施例においては、気泡の発生原因となる分泌タンパク質を選別するために、下記の方法を用いて実験を行った。
まず、コリネバクテリウム・グルタミクムKCCM11016P(前記微生物は、KFCC10881で公開されていて、ブタペスト条約下である国際寄託機関に再寄託されてKCCM11016Pという寄託番号が与えられた。大韓民国登録特許第10−0159812号)菌株を1Lの発酵槽を用いて培養した後、発酵過程において生成された気泡のみを分離して15mlの試験管に移して濃縮させた。
気泡濃縮試料中に含まれているタンパク質の同定のために、界面活性剤入り適量の染色剤を試料に混合した後、8%のドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行い、電気泳動の終わったドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲルは、クマシーブルー染色法を用いて染色した。次いで、染色されたタンパク質バンド部位を切開し、トリプシンを処理してペプチドを確保し、LC−MS/MS方法を用いて確保されたペプチドのアミノ酸配列を分析した。
分析されたペプチドを米国国立生物情報センター(NCBI)が提供するブラスト検索を通じてコリネバクテリウム属微生物にある遺伝子として同定した。同定されたペプチドの内から相対的に検出量が最も多い3種を選んで当該タンパク質の遺伝子を最終的に選り抜き、選り抜かれた遺伝子は、NCBI許可番号NCgl0336、NCgl0717及びNCgl2912である。
【0034】
実施例2:分泌タンパク質NCgl0336遺伝子の不活性化のための組換えプラスミドの製作
コリネバクテリウム染色体上においてNCgl0336遺伝子を不活性化させる組換えプラスミドの製作のために、米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH Genbank)に報告された塩基配列に基づいて、NCgl0336の配列番号1のアミノ酸及び配列番号2のヌクレオチドの配列を確保した。NCgl0336のオープンリーディングフレームが内部的に失われた遺伝子断片を製造するために、前記配列番号2に基づいてそれぞれ配列番号3〜6のプライマーを製作した。
【0035】
配列番号3:5'−atcctctagagtcgacGAAGCCTCTGCACCTCGCTG−3'
配列番号4:5'−TATAGTTCGGTTCCGCGTCTCCAACGCATCCGGCC−3'
配列番号5:5'−CGGAACCGAACTATACCACCGAGGGACGCATTCTC−3'
配列番号6:5'−atgcctgcaggtcgacGCTCAAACGCACGAGCGAAG−3'
【0036】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAを鋳型として配列番号3及び配列番号4、配列番号5及び配列番号6をプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)[Sambrook et al, Molecular Cloning, a Laboratory Manual (1989), Cold Spring Harbor Laboratories]を行った。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件は、95℃における30秒間の変性、50℃における30秒間のアニーリング及び72℃における1分間の重合反応を30回繰り返し行った。
その結果、342bp及び315bpのNCgl0336遺伝子部位が含まれている2対のDNA断片である、NCgl0336−A及びNCgl0336−Bを得た。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅された前記DNA断片は、インフュージョンクローニングキット(インビトロジェン社製)を用いてpDZプラスミド(大韓民国登録特許第10−0924065号)に接合した後、大腸菌DH5αに形質転換し、25mg/Lのカナマイシンが含まれているLB固体培地に塗抹した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて目的とする遺伝子が挿入されたプラスミドに形質転換されたコロニーを選別した後、通常的に知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを得、このプラスミドをpDZ−ΔNCgl0336と命名した。pDZ−ΔNCgl0336は、NCgl0336の遺伝子503bpが失われていた。
【0037】
実施例3:分泌タンパク質NCgl0717遺伝子の不活性化のための組換えプラスミドの製作
コリネバクテリウム染色体上においてNCgl0717遺伝子を不活性化させる組換えプラスミドの製作のために、米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH Genbank)に報告された塩基配列に基づいて、NCgl0717の配列番号7のアミノ酸及び配列番号8のヌクレオチドの配列を確保し、NCgl0717のオープンリーディングフレームが内部的に失われた遺伝子断片を製造するために、前記配列番号8に基づいてそれぞれ配列番号9〜12のプライマーを製作した。
【0038】
配列番号9:5'−CCGGGGATCCTCTAGAGTTCGCGGATAAATGGG−3'
配列番号10:5'−CACGTGAAATTCAGGTCGCGTGGTTCACCTCCGAAG−3'
配列番号11:5'−CTTCGGAGGTGAACCACGCGACCTGAATTTCACGTG−3'
配列番号12:5'−GCAGGTCGACTCTAGAGGTCCCATGATTGTTCTG−3'
【0039】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAを鋳型として配列番号9及び配列番号10、配列番号11及び配列番号12をプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件は、95℃における30秒間の変性 、50℃における30秒間アニーリング及び72℃における1分間の重合反応を30回繰り返し行った。
その結果、493bp及び491bpのNCgl0717遺伝子部位が含まれている2対のDNA断片である、NCgl0717−A及びNCgl0717−Bを得た。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅された前記DNA断片は、インフュージョンクローニングキット(インビトロジェン社製)を用いてpDZプラスミドに接合した後、大腸菌DH5αに形質転換し、25mg/Lのカナマイシンが含まれているLB固体培地に塗抹した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて目的とする遺伝子が挿入されたプラスミドに形質転換されたコロニーを選別した後、通常的に知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを得、このプラスミドをpDZ−ΔNCgl0717と命名した。pDZ−ΔNCgl0717は、NCgl0717の遺伝子786bpが失われていた。
【0040】
実施例4:分泌タンパク質NCgl2912遺伝子の不活性化のための組換えプラスミドの製作
コリネバクテリウム染色体上においてNCgl2912遺伝子を不活性化させる組換えプラスミドの製作のために、米国国立保健院の遺伝子銀行(NIH Genbank)に報告された塩基配列に基づいて、NCgl2912の配列番号13のアミノ酸及び配列番号14のヌクレオチドの配列を確保し、NCgl2912のオープンリーディングフレームが内部的に失われた遺伝子断片を製造するために、前記配列番号14に基づいてそれぞれ配列番号15〜18のプライマーを製作した。
【0041】
配列番号15:5'−CCGGGGATCCTCTAGAGCTGCAAGAAGTGCGAC−3'
配列番号16:5'−CTCGTAGTCGCTAGCACCTATTACGGGAGGTC−3'
配列番号17:5'−GACCTCCCGTAATAGGTGCTAGCGACTACGAG−3'
配列番号18:5'−GCAGGTCGACTCTAGACCCGAGCTATCTAACAC−3'
【0042】
コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032ゲノムDNAを鋳型として配列番号15及び配列番号16、配列番号17及び配列番号18をプライマーとして用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行った。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)条件は、95℃における30秒間の変性 、50℃における30秒間アニーリング及び72℃における1分間の重合反応を30回繰り返し行った。
その結果、444bp及び636bpのNCgl2912遺伝子部位が含まれている2対のDNA断片である、NCgl2912−A及びNCgl2912−Bを得た。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅された前記DNA断片は、インフュージョンクローニングキット(インビトロジェン社製)を用いてpDZプラスミドに接合した後、大腸菌DH5αに形質転換し、25mg/Lのカナマイシンが含まれているLB固体培地に塗抹した。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて目的とする遺伝子が挿入されたプラスミドに形質転換されたコロニーを選別した後、通常的に知られているプラスミド抽出法を用いてプラスミドを得、このプラスミドをpDZ−ΔNCgl2912と命名した。pDZ−ΔNCgl2912は、NCgl2912の遺伝子128bpが失われていた。
【0043】
実施例5:リシンの産生菌株KCCM11016P由来の分泌タンパク質遺伝子の不活性化菌株の製作及び評価
前記実施例2、3及び4において製作した3種の組換えプラスミド(pDZ−ΔNCgl0336、pDZ−ΔNCgl0717及びpDZ−ΔNCgl2912)を電気パルス法を用いてコリネバクテリウム・グルタミクムKCCM11016Pにそれぞれ形質転換し、相同組換えにより染色体上において目的遺伝子が不活性化された菌株をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)方法を用いて製造し、それぞれKCCM11016P−ΔNCgl0336、KCCM11016P−ΔNCgl0717、KCCM11016P−ΔNCgl2912と命名した。
前記3種の菌株及び対照群を下記の種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに接種し、30℃において20時間かけて200rpmにて振とう培養した。次いで、1mlの種培養液を下記の産生培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに接種し、37℃において96時間かけて200rpmにて振とう培養した。前記種培地及び産生培地の組成は、それぞれ下記の通りである。
【0044】
<種培地(pH7.0)>
葡萄糖20g、(NH4)2SO410g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、ヨウ素1.5g、KH2PO44g、K2HPO48g、MgSO4・7H2O0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl1000μg、カリシウム−パントテン酸2000μg、ニコチンアミド2000μg(蒸留水1lを基準とする)
<産生培地(pH7.0)>
葡萄糖100g、(NH4)2SO440g、大豆タンパク質2.5g、コーンスティープ固形分5g、ヨウ素3g、K2HPO41g、MgSO4・7H2O0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1000μg、カリシウム−パントテン酸2000μg、ニコチンアミド3000μg、CaCO330g(蒸留水1lを基準とする)
培養を終えた後、培養液をマスシリンダに移して生成された気泡の高さを測定し、HPLCを用いて分析したL−リシンの濃度を下記表1に示す。表1の結果は、3回繰り返し実験した結果値であり、平均値をもって産生能を評価した。
【表1】
【0045】
表1に示すように、母菌株KCCM11016PからNCgl0336、NCgl0717及びNCgl2912遺伝子が不活性化された菌株においてリシンの産生能が約6%増加した。これとともに、気泡の発生は、母菌株に比べてNCgl0336、NCgl0717及びNCgl2912遺伝子がそれぞれ不活性化された菌株において約6〜15%低減されることが分かる。
したがって、コリネバクテリウム属微生物においてリシンの産生に不要な主たる分泌タンパク質を不活性化させることにより、培養中に発生する気泡が有効に制御することができ、これにより、L−リシンの産生能を向上させることができるということを確認した。
【0046】
実施例6:L−リシンの産生菌株KCCM10770P由来の分泌タンパク質不活性化菌株の製作及び評価
リシン生合成経路が強化されたL−リシンの産生菌株コリネバクテリウム・グルタミクムKCCM10770P(大韓民国登録特許第10−0924065号)において分泌タンパク質の不活性化効果が前記実施例5の実験結果と略同じであるか否かを比較するために、3種の分泌タンパク質が不活性化された菌株を前記実施例5の方法と同様にして製造して、KCCM10770P−ΔNCgl0336、KCCM10770P−ΔNCgl0717、KCCM10770P−ΔNCgl2912と命名し、L−リシンの産生能とともに気泡の発生量を比較した。
前記菌株のリシンの産生能を比較するために、各対照群とともに実施例6の方法と同様にして培養し、培養を終えた後、気泡の発生量は実施例6の方法と同様にして測定し、HPLCを用いて分析したL−リシンの濃度は、下記表2に示す。表2の結果は、3回繰り返し実験結果値であり、平均値をもって産生能を評価した。
【表2】
【0047】
表2に示すように、母菌株KCCM10770PからNCgl0336、NCgl0717、NCgl2085、NCgl2912遺伝子がそれぞれ不活性化された菌株においてリシンの産生能が約4%増加した。これとともに、気泡の発生は、母菌株に比べてNCgl0336、NCgl0717、NCgl2085、NCgl2912遺伝子がそれぞれ不活性化された菌株において約4〜18%低減されることが分かる。
したがって、コリネバクテリウム・グルタミクムKCCM10770P(大韓民国登録特許第10−0924065号)においても、前記実施例6と同様に、リシンの産生に不要な主たる分泌タンパク質を不活性化させることにより、培養中に発生する気泡を有効に制御することができ、これにより、L−リシンの産生能を向上させることができるということを確認した。
【0048】
実施例7:L−リシンの産生菌株KCCM11347P由来の分泌タンパク質不活性化菌株の製作及び評価
人工変異法により製作されたコリネバクテリウム・グルタミクムL−リシンの産生菌株KCCM11347P(前記微生物は、KFCC10750で公開されていて、ブタペスト条約下の国際寄託機関に再寄託されて、KCCM11347Pが与えられた。大韓民国登録特許第10−0073610号)においても分泌タンパク質の不活性化の効果を確認するために、3種の分泌タンパク質が不活性化された菌株を前記実施例5、6の方法と同様にして製造してKCCM11347P−ΔNCgl0336、KCCM11347P−ΔNCgl0717、KCCM11347P−ΔNCgl2912と命名し、L−リシンの産生能とともに気泡の発生量を比較した。
前記菌株のリシンの産生能を比較するために、各対照群とともに実施例5、6の方法と同様にして培養し、培養を終えた後、気泡の発生量は実施例5、6の方法と同様にして測定し、HPLCを用いて分析したL−リシンの濃度は、下記表3に示す。表3の結果は、3回繰り返し実験結果値であり、平均値をもって産生能を評価した。
【表3】
【0049】
表3に示すように、母菌株KCCM11347PからNCgl0336、NCgl0717及びNCgl2912遺伝子が不活性化された菌株においてリシンの産生能が約5%増加した。これとともに、気泡の発生は、母菌株に比べてNCgl0336、NCgl0717及びNCgl2912遺伝子がそれぞれ不活性化された菌株において約4〜15%低減されることが分かる。
したがって、コリネバクテリウム・グルタミクムKCCM11347P(大韓民国登録特許第94−0001307号)においても前記実施例5、6と同様にリシンの産生に不要な主たる分泌タンパク質を不活性化させることにより、培養中に発生する気泡を有効に制御することができ、これにより、L−リシンの産生能を向上させることができるということを確認した。
【0050】
実施例8:L−リシンの産生菌株CJ3P由来の分泌タンパク質不活性化菌株の製作及び評価
野生株に3種の変異[pyc(P458S)、hom(V59A)、lysC(T311I)]を組み込んでL−リシンの産生能を有するコリネバクテリウム・グルタミクムCJ3P(Binder et al.Genome Biology 2012,13:R40)においても前記実施例5、6、7と同様に分泌タンパク質の不活性化の効果を調べるために、3種の分泌タンパク質が不活性化された菌株を前記実施例5、6、7の方法と同様にして製造してCJ3P−ΔNCgl0336、CJ3P−ΔNCgl0717、CJ3P−ΔNCgl2912と命名し、L−リシンの産生能とともに気泡の発生量を比較した。
前記菌株のリシンの産生能を比較するために、各対照群とともに実施例5、6、7の方法と同様にして培養し、培養を終えた後、気泡の発生量は実施例5、6、7の方法と同様にして測定し、HPLCを用いて分析したL−リシンの濃度は、下記表4に示す。表4の結果は、3回繰り返し実験結果値であり、平均値をもって産生能を評価した。
【表4】
【0051】
表4に示すように、母菌株CJ3PからNCgl0336、NCgl0717、NCgl2912遺伝子が不活性化された菌株においてリシンの産生能が約8%増加した。これとともに、気泡の発生は、母菌株に比べてNCgl0336、NCgl0717、NCgl2912遺伝子がそれぞれ不活性化された菌株において約5〜17%低減されることが分かる。
したがって、コリネバクテリウム・グルタミクムCJ3Pにおいても、前記実施例5、6、7の実験結果と同様に、リシンの産生に不要な主たる分泌タンパク質を不活性化させることにより、培養中に発生する気泡を有効に制御することができ、これにより、L−リシンの産生能を向上させることができるということを確認した。
【0052】
実施例9:L−リシンの産生菌株KCCM11016P由来の分泌タンパク質同時不活性化菌株の製作及び評価
L−リシンの産生菌株コリネバクテリウム・グルタミクムKCCM11016Pにおける分泌タンパク質の同時不活性化による効果を確認するために、分泌タンパク質遺伝子が同時に不活性化された3種の菌株を前記実施例5、6、7、8の方法と同様にして製造して、各遺伝子を組み合わせて不活性化させた菌株をKCCM11016P−ΔNCgl0336/ΔNCgl0717、KCCM11016P−ΔNCgl0336/ΔNCgl2912、KCCM11016P−ΔNCgl0717/ΔNCgl2912と命名し、L−リシンの産生能とともに気泡の発生量を比較した。
前記菌株のリシンの産生能を比較するために、対照群とともに実施例5、6、7、8の方法と同様にして培養し、培養を終えた後、気泡の発生量は、実施例5、6、7、8の方法と同様にして測定し、HPLCを用いて分析したL−リシンの濃度は、下記表5に示す。表5の結果は、3回繰り返し実験結果値であり、平均値をもって産生能を評価した。
【表5】
【0053】
表5に示すように、母菌株KCCM11016PからNCgl0336/NCgl0717、NCgl0336/NCgl2912、NCgl0717/NCgl2912遺伝子が同時に不活性化された菌株においてリシンの産生能が約5%増加した。これとともに、気泡の発生は、母菌株に比べてNCgl0336/NCgl0717、NCgl0336/NCgl2912、NCgl0717/NCgl2912遺伝子が同時に不活性化された菌株において約10〜14%低減されることが分かる。
したがって、コリネバクテリウム属微生物においてリシンの産生に不要な主たる分泌タンパク質を同時に不活性化させることにより、培養中に発生する気泡を有効に制御することができ、これにより、L−リシンの産生能を向上させることができるということを確認した。
【0054】
実施例10:L−リシンの産生菌株KCCM11016P由来の分泌タンパク質不活性化統合菌株の製作及び評価
L−リシンの産生菌株コリネバクテリウム・グルタミクムKCCM11016Pにおける分泌タンパク質の不活性化による統合効果を確認するために、3種の分泌タンパク質がいずれも不活性化された菌株を前記実施例5、6、7、8、9の方法と同様にして選別してKCCM11016P−ΔNCgl0336/ΔNCgl0717/ΔNCgl2912と命名し、L−リシンの産生能とともに気泡の発生量を比較した。
前記菌株のリシンの産生能を比較するために、対照群とともに実施例5、6、7、8、9の方法と同様にして培養し、培養を終えた後、気泡の発生量は、実施例5、6、7、8、9の方法と同様にして測定し、HPLCを用いて分析したL−リシンの濃度は、下記表6に示す。表6の結果は、3回繰り返し実験結果値であり、平均値をもって産生能を評価した。
【表6】
【0055】
表6に示すように、母菌株KCCM11016PからNCgl0336、NCgl0717及びNCgl2912遺伝子がいずれも不活性化された菌株においてリシンの産生能が約7%増加し、気泡の発生は、母菌株に比べてNCgl0336、NCgl0717及びNCgl2912遺伝子がいずれも不活性化された菌株において約17%低減されることが分かる。
したがって、コリネバクテリウム属微生物においてリシンの産生に不要な主たる分泌タンパク質をいずれも不活性化させることにより、培養中に発生する気泡を有効に制御することができ、これにより、L−リシンの産生能を向上させることができるということを確認した。
上記の結果から、L−リシンの産生菌株における主たる分泌タンパク質の不活性化は、発酵中に過剰に生成される気泡を制御することにより、菌体の生長とともにL−リシンの産生能を増加させるのに効果があるということを確認し、前記菌株、KCCM11016P−ΔNCgl0336、KCCM11016P−ΔNCgl0717、及びKCCM11016P−ΔNCgl2912をそれぞれCA01−2281、CA01−2279、及びCA01−2280と命名し、CA01−2279及びCA01−2280は2013年11月22日付けで、CA01−2281は2013年12月13日付けで韓国微生物保存センター(KCCM)に国際寄託してそれぞれKCCM11481P(CA01−2279)、KCCM11482P(CA01−2280)、及びKCCM11502P(CA01−2281)という寄託番号が与えられた。
【表7】
【表8】
【表9】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]