特許第6493976号(P6493976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6493976-ロータリーキルンの操業方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493976
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】ロータリーキルンの操業方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/00 20060101AFI20190325BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20190325BHJP
   B03C 3/01 20060101ALI20190325BHJP
   F27B 7/42 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   C22B23/00 101
   C22B1/02
   B03C3/01 Z
   !F27B7/42
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-153221(P2015-153221)
(22)【出願日】2015年8月3日
(65)【公開番号】特開2017-31474(P2017-31474A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】山口 允裕
(72)【発明者】
【氏名】窪田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】亀井 一成
【審査官】 荒木 英則
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−198086(JP,A)
【文献】 特開2012−125719(JP,A)
【文献】 特開2011−214121(JP,A)
【文献】 特開平04−358551(JP,A)
【文献】 特開2001−248824(JP,A)
【文献】 特開2013−050274(JP,A)
【文献】 米国特許第03775090(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 23/00
C22B 1/00−1/02
F27B 7/00− 7/42
B03C 3/00− 3/01
F27D 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気集塵機を備えた、鉱石の乾燥または還元処理を行うロータリーキルンの操業方法であって、該処理の際に装入端側から排出される排ガスの温度低下に応じて該装入端側のドラフト圧を低く調整することで該排ガスに含まれるダストの比抵抗を10〜1011(Ω・cm)にすることを特徴とするロータリーキルンの操業方法。
【請求項2】
前記鉱石がニッケル酸化鉱であることを特徴とする、請求項1に記載のロータリーキルンの操業方法。
【請求項3】
前記ドラフト圧が−200Pa以上−100Pa未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載のロータリーキルンの操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェロニッケル製錬などの金属製錬で使用されるロータリーキルンの操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄とニッケルとの合金であるフェロニッケルは、ステンレス鋼や特殊鋼の原料として使用されている。このフェロニッケルの製錬では、原料としてのニッケル酸化鉱石(以下、鉱石と称する)に対して、乾燥工程、焼成及び部分還元工程、熔融還元工程、精製(脱硫とも称する)工程、及び鋳造工程からなる一連の処理を施す乾式製錬方法が一般に用いられている。
【0003】
具体的には、先ず乾燥工程において、所定の調合組成となるよう配合された鉱石がロータリードライヤーに装入され、ここで鉱石に含まれる付着水の一部が除去されて乾燥鉱石となる。得られた乾燥鉱石は次の焼成及び部分還元工程において石炭などの炭素質還元剤及び必要に応じて添加される熔剤と共にロータリーキルンに装入され、ここで残りの付着水及び結晶水が完全に除かれると共に部分的に還元され、800〜900℃の鉱石(焼鉱と称する)が生成される。得られた焼鉱は未反応の還元剤と共にロータリーキルンから排出され、次の熔融還元工程に送られる。
【0004】
熔融還元工程では、電気炉や熔鉱炉等の還元炉で焼鉱が熔融還元されて粗フェロニッケルとスラグとが生成される。粗フェロニッケルは、炭素質還元剤の添加によって15〜25質量%のニッケル品位に調整されており、鉱石中のコバルトや一部の鉄、更には硫黄等の不純物を含有した状態で還元炉の排出口から産出される。一方、スラグは鉱石中の酸化鉄の大部分と二酸化ケイ素及び酸化マグネシウムを含んだ状態で粗フェロニッケルとは別の排出口から産出される。このスラグは鉄鋼の焼結工程における成分調整用マグネシア熔剤、コンクリート用細骨材や土木工事用資材等として有効利用される。
【0005】
上記熔融還元工程で生成された粗フェロニッケルは、製品スペックに応じて脱硫処理が施される。脱硫処理を施す場合は、レードルを用いて機械式攪拌又は電気誘導式攪拌による精製炉等に移され、ここで所望の硫黄含有量となる様にカルシウムカーバイド等の脱硫剤が添加され、粗フェロニッケル中の硫黄が硫化カルシウム(CaS)として精製スラグ中に固定される。これにより粗フェロニッケルから硫黄が除去され、精製フェロニッケル熔湯が得られる。得られた精製フェロニッケル熔湯は、次に鋳造工程において回転する円盤に流し落とされ、この円盤によって飛散せしめられて粗粒化する。粗粒化した精製フェロニッケル熔湯は水槽に落下し、水中で冷却される事でフレーク状粒体のいわゆるショット形状の製品となる。
【0006】
ところで、上記したフェロニッケル製錬では、ロータリーキルンからダストを含んだ排ガスが排出されるため除塵設備が設けられている。一般にダストを含んだ排ガスの除塵設備には電気集塵機が用いられている。例えば、特許文献1には、石炭燃焼ボイラや廃熱回収ボイラなどのボイラと、該ボイラから排出される排ガス中のダストを集塵する電気集塵機とを備えた処理設備において、低温や高温域では電気抵抗が低下して電気集塵機の性能がよくなる特質を利用して、高温域のボイラ内に電気集塵機を設置する技術が開示されている。これにより設備全体のスペースが大幅に縮小すると共に、集塵効率が向上すると記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、比抵抗値が互いに異なる2種類の成分で構成される廃棄物を粉砕して粉末にし、これら2種類の成分を分離して回収する技術について開示されている。具体的には、比抵抗値の低い材質である石膏等を主成分とした基材にアスベスト配合して固化した廃ボード等の廃棄物に対して、1次粉砕工程として破砕機で粗粉砕した後、竪型粉砕機にてさらに粉砕して粉末にし、該粉末を電気集塵機に導入して該電気集塵機で捕集可能な比抵抗値を有する基材成分のみを該電気集塵機で捕集し、電気集塵機の後流側に配したバグフィルターでその他の成分を捕集している。このように廃棄物を2段階で捕集することにより、基材とアスベストを分離した状態で効率良く回収することができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−248824号公報
【特許文献2】特開2002−11453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した乾式のフェロニッケル製錬方法はエネルギーを大量に消費するプロセスであるため、その経済性の向上が望まれている。例えば、乾燥工程、乾燥及び部分還元工程ではロータリーキルンの鉱石処理能力を最大限に引き出す事が重要な課題になっており、ロータリーキルンに設けたバーナーからの入熱量を一定にしたまま鉱石装入量を増加させることが試みられている。しかし、鉱石装入量のみを増加させると、バーナーで生成した燃焼ガスが鉱石と熱交換した後の温度が低下するため、該ロータリーキルンに付属して設けられている電気集塵機の集塵性能が低下することがあった。
【0010】
すなわち、電気集塵機の運転に際しては集塵効率を維持することが望ましいが、この集塵効率は排ガス中のダストの比抵抗に大きく左右されるため、ダスト比抵抗を正常荷電領域である10〜1011(Ω・cm)の範囲内にするのが好ましい。このダスト比抵抗はダストの物性や温度に依存するため、フェロニッケル製錬では、従来ロータリーキルンで処理する原料の調合やロータリーキルンから発生する排ガスの水分を調整する事で、ダスト比抵抗の調整が行われてきた。しかしながら、前述したように鉱石処理能力の増加のために低下した排ガス温度の影響を受けてダスト比抵抗が正常荷電領域である10〜1011(Ω・cm)を外れる可能性が出てきたため、より効果的にダスト比抵抗を調整する方法が求められていた。
【0011】
本発明は、上記した状況に鑑みてなされたものであり、フェロニッケル製錬に代表される金属製錬で使用されるロータリーキルンにおいて、鉱石処理量の引き上げなどによりロータリーキルンからの排ガスの温度が下がった場合であっても該排ガスの処理を行う電気集塵機の集塵効率を維持出来るロータリーキルンの操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、本発明に係るロータリーキルンの操業方法は、電気集塵機を備えた、鉱石の乾燥または還元処理を行うロータリーキルンの操業方法であって、該処理の際に装入端側から排出される排ガスの温度低下に応じて該装入端側のドラフト圧を低く調整することで該排ガスに含まれるダストの比抵抗を10〜1011(Ω・cm)にすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ロータリーキルンにおいて鉱石処理量のみを引き上げて運転してもこれに付随して設けられている電気集塵機の集塵効率を維持することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ロータリーキルン及びこれに付属して設けられた電気集塵機の概略のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のロータリーキルンの操業方法の一具体例について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1にはフェロニッケル製錬の焼成及び部分還元工程で使用されるロータリーキルン及びその排ガスを処理する電気集塵機の概略のフロー図が示されている。具体的には、鉱石の焼成及び部分還元処理を行うロータリーキルン1は、筒状体を横にして回転可能に支持された構造を有しており、その紙面左側の装入端部(炉尻とも称する)に鉱石及び炭素質還元剤が投入される投入口2が設けられている。該投入口2から投入された鉱石等はロータリーキルン1の回転と共に掻き上げられながら、装入端部よりもわずかに下方に位置する紙面右側の排出端部(炉前とも称する)に向けて徐々にロータリーキルン1内を移動する。
【0016】
上記のロータリーキルン1の排出端部には混焼バーナー3が設けられており、鉱石等は上記したようにロータリーキルン1内を移動する間に混焼バーナー3によって生成された燃焼ガスと熱交換する。この熱交換によって冷却された燃焼ガスは、ロータリーキルン1と電気集塵機4との間に設けられている排ガスファン5による吸引によって排ガスとしてロータリーキルン1の装入端部から排出される。この排ガスには鉱石が掻き上げられた際に生じたダストが含まれているため、電気集塵機4で該ダストの除塵が行われた後、図示しない煙突から大気放出される。
【0017】
ところで、フェロニッケル製錬に占める電力コストの内、熔融還元工程で使用する電気炉の電力コストを除くと、上記した排ガスファン5の電力コストが大きな割合を占めているため、これを出来るだけ抑えるために排ガスファン5は回転数を出来るだけ抑えて運転するのが好ましく、従来はロータリーキルン1の排出端側の炉前圧力測定器(炉前ドラフト圧測定器とも称する)6で測定した圧力(排出端側のドラフト圧とも称する)P1がプラス圧にならない様に排ガスファン5の回転数を調整することが行われてきた。
【0018】
しかしながら、ロータリーキルン1における操業をより一層効率化するため、ロータリーキルン1では前述したように装入した鉱石及び炭素質還元剤と混焼バーナー3で生成した燃焼ガスとの間の熱交換効率を高めた運転が行われるようになり、これにより装入端部から排出される排ガスの温度が低下して排ガスに含まれるダストの比抵抗が増加する傾向にあった。その結果、電気集塵機4の集塵極に付着したダスト層で逆電離現象が発生し、排ガスからの除塵が不十分なまま排ガスが大気に排出されるリスクが高まっていた。この場合、ロータリーキルン1に装入する鉱石の量を削減すれば排ガス温度が高くなってダスト比抵抗を下げることができるが、操業効率が低下するので経済性の観点からは好ましい対応とはいえなかった。
【0019】
本発明者らは上記したロータリーキルン1への鉱石装入量の削減等の方法に替わるダスト比抵抗の低減方法について鋭意検討を行った結果、排ガスファン5の回転数を上げてロータリーキルン1からの排ガスの排出量を増加させ、これによりストークス則から粒径の粗いダスト粒子を排ガスと共にロータリーキルン1から積極的に排出させて電気集塵機4に導入するダストの平均粒径を大きくすることでダスト比抵抗が低下することを見出した。その結果、フェロニッケル製錬で使用されるロータリーキルン1における鉱石等と燃焼ガスとの熱交換効率を向上させるべく従来よりも排ガス温度を下げた運転を行っても、ロータリーキルン1から発生する排ガスの処理を行う電気集塵機4において集塵効率を維持したまま良好に集塵処理することが可能になる。
【0020】
上記のように排ガスファン5の回転数を上げてロータリーキルン1からの排ガスの排出量を増加させることで、ロータリーキルン1に装入した鉱石のうち排ガスと共にロータリーキルン1から排出されるダストの割合(ダスト発生率とも称する)が増加する。そのため、該ダストをロータリーキルン1に繰り返して処理するコストが増加することになる。また、排ガスファン5の電力コストが増加するといったデメリットもある。しかし、これらデメリットは前述したように電気集塵機4の集塵効率を安定化させるためロータリーキルン1への鉱石装入量を削減することによって生じる操業効率の低下のデメリットに比べればはるかに有利である。
【0021】
上記した本発明の一具体例のロータリーキルンの操業方法は、鉄鋼製錬及び非鉄金属製錬等の製錬プロセスにおいて鉱石を乾燥、還元、または焼成する工程において好適に使用することができる。その際、処理対象となる鉱石には限定がなく、上記の製錬プロセスで処理される種々の鉱石に適用することができるが、処理対象となる鉱石はニッケル酸化鉱石であるのが好ましく、ガーニエライト鉱が特に好ましい。
【0022】
ガーニエライト鉱はフェロニッケル製錬の鉱石として最も一般的に用いられており、その代表的な組成は、乾燥鉱換算でNi品位が2.0〜2.5重量%、Fe品位が11〜23質量%、MgO品位が20〜28質量%、SiO品位が29〜39質量%、CaO品位が<0.5質量%、灼熱減量が10〜15質量%である。なお、上記したロータリーキルンから排出される排ガス中のダストにはこのニッケル酸化鉱由来の成分の他、石炭などの炭素質還元剤由来の成分が含まれていてもよい。また、ロータリーキルンへ装入される鉱石は、通常は10〜30質量%の付着水と10〜15質量%の灼熱減量分の結晶水とを含んでいる。
【0023】
上記した本発明の一具体例のロータリーキルンの操業方法では、ロータリーキルン1の装入端側の炉尻圧力測定器(炉尻ドラフト圧測定器)7で測定した圧力(装入端側のドラフト圧とも称する)P2が−200Pa以上−100Pa未満であることが好ましい。この装入端側のドラフト圧P2が−200Pa未満になると、ロータリーキルン1から排出される排ガスに含まれるダスト量が著しく増加し、これはロータリーキルン1に繰り返されるため、かえって生産性が低下するおそれがある。一方、装入端側のドラフト圧P2が−100Paを超えると、ロータリーキルン1から排出される排ガスに含まれるダスト粒径が小さくなるので、ダスト比抵抗が低下せず、上記した本発明の効果が得られにくくなる。
【0024】
特に、装入端側のドラフト圧P2を−200〜−100Paにすることに加えて、排出端側のドラフト圧P1を−50〜−20Paとし、且つロータリーキルン1の筒内風速を2.5〜5.0m/s(大気圧、温度25℃)にするのがより好ましい。これらの範囲内であれば、上記したように電気集塵機4での集塵効率を良好に維持できることに加えて、ロータリーキルン1においても安定的に運転することが可能になる。
【実施例】
【0025】
図1に示すような電気集塵機4及び排ガスファン5を備えた、長さ105m、内径4.8m、耐火物ライニング厚さ250mmのフェロニッケル製錬用のロータリーキルン1を用いてガーニエライト鉱を乾燥及び部分還元する処理を行った。その際、ロータリーキルン1の装入端側のドラフト圧力P2を表1に示すように操業モード1から操業モード2に切り替えた。なお、ドラフト圧力P2以外のロータリーキルン1の操業条件は、装入鉱石付着水分18〜28質量%、回転数0.7〜1.4rpm、焼鉱温度800〜900℃とし、混焼バーナー3には重油・微粉炭混焼バーナーを使用した。
【0026】
その結果、下記表1に示すように、操業モード1では200℃におけるダスト比抵抗が電気集塵機4の正常荷電領域(10〜1011(Ω・cm))の範囲外であったが、ロータリーキルン1の装入端側のドラフト圧力P2を−100Paから−150Paに下げて操業モード2で運転することにより正常荷電領域の範囲内となった。なお、ダスト比抵抗はJIS 9915の方法で測定した。
【0027】
【表1】
【符号の説明】
【0028】
1 ロータリーキルン
2 投入口
3 混焼バーナー
4 電気集塵機
5 排ガスファン
6 炉前圧力測定器(炉前ドラフト圧測定器)
7 炉尻圧力測定器(炉尻ドラフト圧測定器)
図1