(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6493978
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】開口補強材の取付け金物、及び、それを用いた軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/94 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
E04B2/94
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-178547(P2015-178547)
(22)【出願日】2015年9月10日
(65)【公開番号】特開2017-53161(P2017-53161A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2017年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】399117730
【氏名又は名称】住友金属鉱山シポレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山下 泰介
【審査官】
星野 聡志
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−102916(JP,A)
【文献】
実開平06−010407(JP,U)
【文献】
英国特許出願公開第02058169(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/88−2/96
E04B 1/62−1/99
E06B 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の開口部に軽量気泡コンクリートパネルを取り付けるための開口補強鋼材の縦材の取付け金物であって、
矩形状の金属板が複数個所で折り曲げられてなる金属基板に、受け部と、フック部と、が形成されてなり、
前記受け部は、前記金属板が、連続的且つ直角に、谷折り及び山折りされることにより、谷折り部分と山折り部分との間に形成されている平面部であって、前記金属板の一の面を起点に、該一の面に直交する態様で突出していて、
前記フック部は、前記金属板の他の面を起点に、該他の面に直交する態様で突出している平面部の先端寄りの一部が直角に折曲げられてなる逆L時形状の鍵状部である取付け金物。
【請求項2】
前記金属板がイナズマ型に折り返されていることにより、該金属板の中央近傍部分の一部が、前記金属基板の両端部よりも前記フック部が突出する方向に平行移動した位置において定規アングル接合面を形成している請求項1に記載の取付け金物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の取付け金物が定規アングルを介して建物の躯体に固定されていて、
前記取付け金物の受け部に開口補強部材の縦材が載置されていて、
前記取付け金物のフック部が前記定規アングルと契合していて、
前記受け部の前記金属板の一の面からのせり出し幅と、前記縦材の厚さが略同一である、軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量気泡コンクリートパネル(ALCパネル)の建物の開口部への取り付けに用いる開口補強材を、建物の躯体に固定するために用いる取付け金物、及びそれを用いた軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の外壁面には必ずサッシやドア等の開口部を設ける必要がある。ALCパネルを建物の開口部に取り付ける際には、この開口部を、ALCパネルを支えるための鋼性の開口補強鋼材を建物の躯体に固定する(特許文献1参照)。
【0003】
開口部は、通常、縦材(開口補強縦材)と横材(開口補強横材)とで構成される。開口補強縦材は、建物の駆体を構成する上下の梁を垂直に結んで、開口幅を決定する部材である。一方開口補強横材は、建物駆体に固定された所定間隔を有する一対の開口補強縦材の間に、上下に水平に溶接接合されることにより開口部を構成する(特許文献2参照)。
【0004】
ALCパネルを支える開口補強鋼材を建物の躯体に固定する際には、一般的に、開口部の縦方向の幅に合わせて切断した開口補強縦材を、開口部の両袖に配置されているALCパネルにシャコ万やクリップ等で仮止めしてから、開口部上下の梁等の建物の躯体にこれを溶接固定するという手順がふまれる。
【0005】
ALCパネルによる外壁を形成する作業現場において、開口部への開口補強縦材の取り付け作業は、シャコ万等の仮止め器具の操作と、開口補強縦材の高さの保持及び調整とを、同時に手作業で行う方法によっているのが現状である。しかし、このような手作業を、鋼材の落下の危険を回避しながら、且つ、開口補強縦材を正確な位置に固定するには、高度に熟練した技術が必要とされる。
【0006】
例えば、開口補強横材の開口補強縦材への取り付け方法については、開口補強横材を開口補強縦材の所定位置に仮固定するための取付け金物と、それを使用した開口補強横材の取り付け方法が既に提案されている(特許文献3)。
【0007】
しかしながら、開口補強縦材の建物の躯体への取り付けについては、依然、上記のような熟練工の技術に依存した手作業が行われているのが現状である。ALCパネルの施工現場においては、開口補強縦材を、熟練工の高度な技術に依存することなく、取り付け作業中の落下の危険を未然に防いで、尚且つ、建物の躯体に正確に取り付けることができる取付け手段が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−65090号公報
【特許文献2】特開2009−243147号公報
【特許文献3】特開2010−90681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ALCパネルを用いた外壁の形成において、開口補強鋼材の縦材(開口補強縦材)の建物の躯体への取り付けを、安全、正確、且つ、簡易に行うことができる取付け手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ALCパネルの開口部における開口補強縦材の建物の躯体への取り付けを、金属基板の一の面から垂直に突出した平面であるパネル受け面と、同金属基板の他の面に形成されているフック部を有する取付け金物を用いて行うことによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0011】
(1) 建物の開口部に軽量気泡コンクリートパネルを取り付けるための開口補強鋼材の縦材の取付け金物であって、矩形状の金属板が複数個所で折り曲げられてなる金属基板に、受け部と、フック部と、が形成されてなり、前記受け部は、前記金属板が、連続的且つ直角に、谷折り及び山折りされることにより、谷折り部分と山折り部分との間に形成されている平面部であって、前記金属板の一の面を起点に、該一の面に直交する態様で突出していて、前記フック部は、前記金属板の他の面を起点に、該他の面に直交する態様で突出している平面部の先端寄りの一部が直角に折曲げられてなる逆L時形状の鍵状部である取付け金物。
【0012】
(1)の発明によれば、開口補強縦材を、定規アングルを介して建物の躯体へ固定する作業において、取付け金物のフック部を定規アングルに契合させた状態で、当該取付け金物が有する受け部の上に開口補強縦材を載置することができる。これにより、上記作業中の開口補強縦材の落下を防ぎつつ、且つ、正確な位置にこれを固定する作業を従来よりも遙かに容易に行うことができる。
【0013】
(2) 前記金属板がイナズマ型に折り返されていることにより、該金属板の中央近傍部分の一部が、前記金属基板の両端部よりも前記フック部が突出する方向に平行移動した位置において定規アングル接合面を形成している(1)に記載の取付け金物。
【0014】
(2)の発明によれば、(1)の取付け金物において、金属板の所定部分をイナズマ型に折り返すことにより、金属基板における定規アングル接合面と他の面との間に適切なせり出し幅(出寸法)を確保できる形状とした、このせり出し幅を適宜調整することによって、定規アングルとALCパネルとの隙間の大きさが、開口補強縦材の厚さよりも大きい場合であっても、スペーサー板等の追加部材を介さずに取付け金物を直接定規アングル及びALCパネルに直接固定することができる。これにより、ALCパネルを用いた外壁の開口部構造を形成する作業の施工容易性や経済性を更に高めることができる。
【0015】
(3) (1)又は(2)に記載の取付け金物が定規アングルを介して建物の躯体に固定されていて、前記取付け金物の受け部に開口補強部材の縦材が載置されていて、前記取付け金物のフック部が前記定規アングルと契合している、軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造。
【0016】
(3)の発明によれば、(1)又は(2)の発明の上記効果を享受しつつ、軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造を形成することができる。必ずしも熟練工の高度な技術に依存することなく、軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁製造作業の作業精度と安全性を十分に高めることができるため、品質安定性と経済性に優れた建物の外壁を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ALCパネルを用いた外壁の形成において、開口補強鋼材の縦材(開口補強縦材)の建物の躯体への固定を、安全、正確、且つ、簡易に行うことができる取付け手段を提供することができる。これにより、上記固定作業の作業精度を維持したまま、施工容易性を飛躍的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の開口補強鋼材の縦材の取付け金物の全体形状を示す斜視図である。
【
図2】本発明の開口補強鋼材の縦材の取付け金物の全体形状を示す正面図及び側面図である。
【
図3】本発明の開口補強鋼材の縦材の取付け金物を用いてなる軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造の側面図である。
【
図4】本発明の開口補強鋼材の縦材の取付け金物を用いてなる軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造の全体構成の説明に供する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<取付け金物>
本発明の取付け金物1は、
図3及び
図4に示す通り、建物の開口部にALCパネル5Aを取り付けるための開口補強鋼材の縦材(開口補強縦材)2を、定規アングル3Bを介して建物の躯体4Bに取り付けるために用いる金物である。又、取付け金物1は、
図1及び
図2に示す通り、矩形状の金属板が複数個所で折り曲げられてなる金属基板に、受け部11と、フック部12とが、それぞれ所定の位置に形成されている金属部材である。
【0020】
[受け部]
受け部11は、金属基板が、連続的且つ直角に、谷折り及び山折りされることにより、当該谷折り部分と当該山折り部分との間に形成されている平面部である。受け部11は、金属板の一の面における、好ましくは一方の端部寄りの位置を起点に、当該一の面に直交する態様で突出している。この一の面が、取付け金物1を用いた外壁構造の形成時に、ALCパネル側に向けて配置されることが想定されている面であることは上述の通りである。受け部11は、ALCパネルからなる外壁の開口部構造において、
開口補強縦材が載置される面となる。よって、受け部11の金属基板からのせり出し幅(
図2における幅W
1)は、当該面上に載置される、開口補強縦材の厚さに対応して調整すればよい。一般的な山型鋼の厚さが6mm〜9mm程度であるので、この範囲の厚さの山形鋼を用いる限りにおいては、受け部11のせり出し幅(W
1)も、同様に6mm〜9mm程度とすればよい。
【0021】
[フック部]
フック部12は、金属基板の他の面における、好ましくは他方の端部寄り、即ち、受け部11の形成されている位置とは反対側の端部に寄った位置を起点に、当該他の面に直交する態様で突出している平面部の先端寄りの一部が直角に折曲げられてなる逆L時形状の鍵状部分である。尚、本明細書における上記の「他の面」とは、取付け金物1を用いた外壁構造の形成時に、建物の躯体と定規アングルの側に向けて配置されることが想定されている面のことを言うものとする。
【0022】
フック部12における金属版に直交している部分のせり出し幅(
図2における幅W
2)は、フック部12に契合される定規アングル3Bの厚さに対応して調整すればよい。一般的な定規アングルの厚さが6mm〜9mm程度であるので、この範囲の厚さの定規アングルを用いる限りにおいては、フック部12のせり出し幅(W
2)も、同様に6mm〜9mm程度とすればよい。
【0023】
金属基板へのフック部12の形成は、外壁の開口部構造の中でフック部12にかかる加重に耐えうる構造となっているものである限り、特定の形成態様に限定されない。取付け金物を形成する金属版の一部が切り出されて折り曲げ加工されることにより形成されているものであってもよいし、他の部分と一体的に金型成型されているものであってもよい。
【0024】
[定規アングル接合面]
取付け金物1は、更に、金属板がイナズマ型に折り返されていることにより、金属板の中央近傍部分の一部が、金属基板の両端よりもフック部12が突出する方向に平行移動した位置において、定規アングル接合面13を形成している形状であることがより好ましい。
【0025】
定規アングル接合面13が上記の通り金属基板の両端よりもフック部12が突出する方向に平行移動した位置に形成されていることにより、
図2及び
図3に示すように、定規アングル接合面13を基準面と考えたときに、この定規アングル接合面13から、開口部下方のALCパネルとの接合面となる下側ALCパネル接合面14が所望のせり出し幅W
3でALCパネルの側にせり出す形状とすることができる。定規アングル接合面13からの下側ALCパネル接合面14のせり出し幅W
3を、建物の構造上予め決まっている定規アングルとALCパネルとの隙間の大きさに併せて、予め取付け金物1を形成することにより、取付け金物1を、ALCパネルや定規アングルに、他の部材を介することなく、直接固定することが可能となる。例えば、開口補強縦材の厚さが6mmであって、上記隙間がこれよりも大きい12mmである場合においても、
図3に示すように、せり出し幅W
3を12mmとした取付け金物1であれば、例えば厚さ6mmのフラットバー等、他のスペーサー部材を介することなく、ALCパネル5B及び定規アングル3Bに直接固定することができる。
【0026】
[その他の構造]
図3に示す通り、取付け金物1には、開口部構造10において、下側ALCパネル接合面14と定規アングル3Bと間の隙間に契合する突起部分である定規アングル接合補助突起部15が形成されていることが好ましい。定規アングル接合補助突起部15の高さは、
図2に示す通り、下側ALCパネル接合面14のせり出し幅W
3から金属板の厚さを減じた高さであればよい。この定規アングル接合補助突起部15は金属版の一部を折曲げ加工した物であっても良いし、或いは、その他の材料からなる適切なサイズのスペーサー部材を適宜金属板上に設置したものであってもよい。
【0027】
尚、下側ALCパネル接合面14は、ALCパネル5B(下側パネル)の上面の風荷重を受ける役割も兼ねており、通常は定規アングル3Bとパネルの間に生じるクリアランスにスペーサー(アングルクリップ)を設ける。取付け金物1が、下側ALCパネル接合面14を上記のように、所定のせり出し幅で形成することにより、ALCパネル5B(下側パネル)の上部に生じる風荷重を受けたり、施工上の建て入れ調整にも使用することができる。
【0028】
<軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造>
ALCパネルを用いた建物の外壁における窓や出入口等の開口部廻りには、通常、開口補強鋼材からなる補強部を設ける。この補強部は、開口部廻りの小壁(腰壁、垂壁)となるALCパネルを支持するとともに、開口部そのものの形状をも支持する。この開口補強鋼材は、開口部の大きさ、風圧力等に対し、構造安全上有効な断面を有するものとする。尚、開口補強鋼材には等辺山形鋼が主に用いられている。
【0029】
本発明の軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造とは、開口補強鋼材の建物の躯体への取り付けが定規アングルを介して行われている外壁の開口部構造であって、開口補強鋼材の縦材の定規アングルへの取り付けが、本発明の取付け金物を介して行われている構造部分を含んでなる構造のことを言う。
【0030】
本発明の軽量気泡コンクリートパネルを用いた外壁の開口部構造10においては、開口部の両脇下端部に、
図3及び
図4に示す通り、取付け金物1が設置されており(一方の脇の下端部は図視を省略)、この取付け金物1の受け部11に開口補強縦材2が載置される態様で固定されていて、取付け金物1のフック部12が定規アングル3Bと契合する態様で固定されている。取付け金物1の定規アングル3Bへの固定は溶接により行うことが一般的である。
【0031】
図4に示す通り、開口部構造10における補強部は、上記方法により、H型鉄骨梁等の建物の躯体4Bに垂直に固定された開口補強縦材2の所定位置に、更に、開口補強横材8が固定されることにより形成される。そして、この補強部を構成する開口補強縦材2にALCパネル5Aが支持固定されることにより、開口部構造10が形成される。
【0032】
尚、開口部構造10におけるALCパネル5の開口補強鋼材への固定方法は特に限定されず、例えば、イナズマプレートと固定ボルトを用いて定規アングルに固定する方法等、適宜、従来周知の方法によることができる。
【0033】
以上のように、本発明によれば、開口補強鋼材の縦材を、定規アングルに固定する際、開口補強鋼材の縦材を、取付け金物の受け部で支持することができる。そのため、従来のようにシャコ万等の仮止め器具の操作と、開口補強鋼材の縦材の高さの保持及び調整とを、同時に手作業で行う難易度の高い手作業の必要がなくなる。これにより、当該作業の作業精度を維持したまま、施工容易性を飛躍的に向上させることができる。
【符号の説明】
【0034】
1 取付け金物
11 受け部
12 フック部
13 定規アングル接合面
14 下側ALCパネル接合面
15 定規アングル接合補助突起部
2 開口補強縦材
3A、3B 定規アングル
4A、4B 躯体
5A、5B ALCパネル
10 開口部構造