特許第6494006号(P6494006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494006
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】省エネルギー減速走行制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/14 20060101AFI20190325BHJP
   B60W 30/18 20120101ALI20190325BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20190325BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   B60W30/14
   B60W30/18
   B60T7/12 B
   G08G1/09 D
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-203550(P2018-203550)
(22)【出願日】2018年10月30日
(65)【公開番号】特開2019-34734(P2019-34734A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2018年11月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301001199
【氏名又は名称】渡邉 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】渡邉雅弘
【審査官】 神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−056927(JP,A)
【文献】 特開2012−47148(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00−50/16
G08G 1/00− 1/16
B60T 7/12− 8/1769
8/32− 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
速度vcで走行中の車両の交差点等目標減速・停止点への減速走行を、当該車両の有する運動エネルギーの惰性走行への利用効率η、および前記当該車両の有する運動エネルギーの惰性走行への利用効率ηでの惰性走行の間の平均惰性走行速度vcb、の最適化によって定まる、目標減速・停止点上流距離L=Li1+Lbに達した地点からの惰性走行、および前記惰性走行に継続しての、目標減速・停止点上流距離L=Lbに達した地点からの制動走行で行い、速度vcから惰性走行距離Li1の前記惰性走行の結果、車両が目標減速・停止点上流距離L=Lbに達した時点の速度がvb’ であるとき、前記惰性走行による目標減速・停止点上流距離Lb地点到着時の当初予定速度vbと実惰性走行結果による速度vb’の運動エネルギー差から、以下の数式により前記惰性走行距離Li1を補正・更新することを特徴とする省エネルギー減速走行制御方法。
ここで、
η=(vc2−vb2)/vc2
vb:惰性走行速度範囲下限値、制動走行開始速度
Li1=η・Li0
Li0:速度vcで走行中の車両の有する運動エネルギーを100%惰性走行に利用した場合の惰性走行距離(惰性走行可能距離)
≒vc2/(2・αi(vc0) )
αi(vc0):速度vc〜0間の平均惰性走行減速度
Li1’=Li1+{(vb’2−vb2)/(2・αi(vb))}
Li1’:補正・更新した惰性走行距離
αi(vb):速度vb時の惰性走行減速度
vcb≒(vc+vb)/2
Lb=vb2/(2・αb )
αb:制動減速度
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、主として市街地走行中の車両における交差点等目標減速・停止点への減速走行を、原則として減速走行を行う全車両において、惰性走行と制動走行(回生制動走行を含む)の最適配分での減速走行によって交差点等目標減速・停止点への到達・通過を安全かつ省エネルギー・排出ガス削減走行で可能にする省エネルギー減速走行制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市街地走行における減速・停止点の代表的存在が交差点である。
この交差点通過を安全かつ省エネルギーで可能にするシステムに「交差点無停止走行システム」(あるいは「信号同期速度制御システム」)がある。
これは交差点上流特定地点において、車両は次に通過すべき交差点の信号情報を路側に設けられた路車間通信装置等から獲得し、前記獲得した交差点信号情報に基づき、当該車両が交差点を青信号・無停止で通過することのできる速度あるいは走行所要時間等の走行条件の算出・特定および前記算出・特定した走行条件での前記特定地点から交差点への走行を行い、交差点を青信号・無停止で通過するものである(特許文献1)。
しかしこの方法では、路側においては交差点信号情報を車両個々に通報するための路車間通信路側装置、車側においては前記路車間通信路側装置からの情報を受信し前記受信した情報から交差点を青信号・無停止で通過するための走行条件の算出・特定および前記算出・特定された走行条件での走行を行うための演算・制御機能(装置)、が必要となる。
【0003】
上記「交差点無停止走行システム」における走行条件の算出およびおよび前記走行条件での走行制御の煩雑さを避ける方法として、「信号情報活用運転支援システム」がある(非特許文献1)。
「信号情報活用運転支援システム」においては、車両は路車間通信装置(光ビーコン)から送信される交通信号情報を受信し、現在走行中の速度での交差点青信号・無停止通過が可能な場合、現速度で交差点に向かい青信号で交差点を無停止通過する「ノンストップ通過支援」、現速度では青信号・無停止通過が不可能な場合は、現地点から交差点までの走行距離が惰性走行可能距離範囲内である場合、惰性走行で交差点に向かい、交差点で停止する「赤信号減速支援」がある。
即ち、交差点を青信号・無停止で通過できる車両はそのまま青信号・無停止通過を、通過できない車両は交差点まで惰性走行による減速走行を行い交差点で停止する。
【0004】
ここで惰性走行とは、車両の駆動源(エンジン、モーター等)と駆動輪間の接続を遮断あるいは疎とすることによって、車両の減速走行駆動を車両の有している運動エネルギー主体で行う走行を云う。
また、惰性走行可能距離とは、通常走行状態から惰性走行状態に移行した場合、車両停止まで減速走行可能な最大惰性走行距離を云う(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−031573
【特許文献2】特開2011−046272
【特許文献3】特開2014−000942
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】一般社団法人UTMS協会:「信号情報のリアルタイム活用技術の開発及び実証報告書」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記非特許文献1による「信号情報活用運転支援システム」では、特許文献1による「交差点無停止走行制御システム」の如き交差点無停止通過のための速度等の走行条件算出・特定、および算出・特定結果の走行条件に基づく煩雑な走行制御が不要となる利点があるが、「交差点無停止走行制御システム」の場合と同様、交差点の信号情報を、交差点上流地点においてそこを通過する個々の車両に、通報しなければならない、即ち、通過すべき交差点の信号情報を車両に通報するための光ビーコン等の路側システムが各交差点に対応して必要であり、全交差点に対応した路側システムを設置するにはその費用が膨大となる、という問題が残る。
上記問題に対して本願発明は、「交差点無停止走行システム」あるいは「信号情報活用運転支援システム」の如き車両に対しての交差点信号情報の通報を不要とするにもかかわらず、交差点信号情報が得られる場合とほぼ同等な省エネルギーかつ安全な交差点等目標減速・停止点への省エネルギー減速走行制御方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
走行開始地点から目的地点までの車両の走行開始に先立って、走行開始地点から目的地点までの経路探索を行い、前記経路探索結果に基づいて走行開始地点から目的地点までの間の走行区間中に(一般的には複数の)目標減速・停止点を特定し前記目標減速・停止点毎にその位置および到達時の車両速度(停止点の場合速度は0)を特定する。
前記走行開始地点から目的地点までの走行は、走行開始地点からあらかじめ特定されている加速度αaでの加速走行、加速走行の結果速度が定速走行速度vcに達した場合は定速走行、および目標減速・停止点に向けては目標減速・停止点上流惰性走行可能距離範囲内からの目標減速・停止点に向けての惰性走行主体による減速走行を行う。
目標減速・停止点に到着(あるいは到着直前の目標減速・停止点信号状態の視認等による確認)後は、改めて目標減速・停止点の信号状態に応じて、例えば信号が青である場合はそのまま交差点を無停止で通過する、信号が青でない場合は交差点手前で停止し、信号が青になるのを待つ。
この結果、車両は走行開始地点から目的地点までの全区間、定速走行による走行を行ったとほぼ同等な省エネルギー走行が可能となる。(特許文献3)
【0009】
上記本願発明の根拠となる目標減速・停止点走行方法の相違による省エネルギー性能の違いを、図1を用いて説明する。
図1において、
地点Aは、車両走行開始点(加速度αaで加速走行開始点)、
地点Bは、加速走行の結果車両速度が定速度vcに到達した地点、
地点Dは、速度vcで定速走行中の車両が地点Eに向けて制動減速度αb での制動を開始する地点、
(速度vcからの制動減速度αb での制動走行距離はLb0)
地点Eは、車両が通過あるいは停止すべき目標交差点
地点Fは、地点Eでの停止状態から加速度αaによる加速走行の結果車両速度が(再度)定速度vcに到達する地点、
である。
【0010】
ここで、地点Aから地点Eまでの道路は平坦路とし、当該道路を車両が速度vで走行する場合の走行抵抗Rは、(数1)で示されるものとする。
(数1)
R=R1+R2・v2
ここで、
R1:転がり抵抗、
R2・v2:速度vで走行時の空気抵抗
v:車両走行速度
である。
(数1)より、走行抵抗Rは速度に無関係な成分R1と速度の二乗に比例する成分R2・v2の和となることがわかる。
【0011】
速度v=vcで走行中の車両の有する運動エネルギーEvccは(数2)で、また速度v=vc で走行中の車両の惰性走行可能距離、即ち速度vc で走行中の車両が惰性走行に移行後惰性走行で目標減速・停止点(地点E)に速度0で到達するに要する距離(惰性走行可能距離)Li0は(数3)で示される。
ここで、地点E上流距離Li0の地点を惰性走行開始点(地点P0)とする。
(数2)
Evcc =m・vc2 /2
≒(R1+R2・vc02)・Li0
(数3)
Li0 ≒vc2/(2・αi(vc0))
ここで、
m :車両質量(搭載物質量を含む)
vc0:速度vc〜0間の平均惰性走行速度
αi(vc0):平均惰性走行速度vc0に対応する惰性走行減速度
である。
【0012】
次に、交差点(地点E)信号が赤の場合、通常走行では速度vcで走行中の車両が地点E上流地点Dにおいて制動減速度αbによる制動走行に移行して地点Eで停止する場合の運動エネルギーEvccによる走行距離Lb0は(数4)で示される。
(数4)
Lb0=vc2/(2・αb)
従って、例えば、50km/hで定速走行中の車両の、Li0は300m以上、Lb0は30m以下であることから、制動走行によって減速走行に利用される運動エネルギーは、惰性走行によって減速走行に利用される運動エネルギーの10%以下になる(残る90%は制動による摩擦熱として大気中に放散される)ことがわかる。
【0013】
一方、地点P0から地点Eまでの距離Li0間 を定速走行速度vcで走行する場合の走行抵抗Rvcは(数6)で示されることから、この間に必要となる駆動輪駆動レベルのエネルギーEvcは(数7)で示される。
(数6)
Rvc =(R1+R2・vc2
(数7)
Evc =(R1+R2・vc2 )・Li0
但し、上記走行の結果地点Eにおける速度vc の車両は、運動エネルギーEvcを有している。
(数2)と(数7)で示されるエネルギーを比較するとvc >vavであることから
(数8)
Evcc<Evc
即ち、同一距離Li0走行に際しての平均走行速度(平均走行抵抗)の相違により、地点P0(速度vc )から地点E(速度0)までの間惰性走行する方が速度vcで定速走行するよりも省エネルギーであり、その消費エネルギー差ΔE2は、
(数9)
ΔE2=Evc−Evcc
≒{(R1+R2・vc2 )−(R1+R2・vc02 )}・Li0
≒R2・(vc2 − vc02)・Li0
であることがわかる。
【0014】
即ち、
走行方式1: 「速度vc で走行中の車両が、制動走行後交差点で停止する」
走行方式2: 「速度vc で走行中の車両が、惰性走行開始点から惰性走行して交差点で停止する」
走行方式3: 「速度vc で走行中の車両が、惰性走行開始点から速度vc で定速走行して交差点に到達する」
において、
上記各方式の省エネルギー性能は、
走行方式2が一番よく、次いで走行方式3であり、走行方式1が最も悪いことがわかる。
【0015】
また、上記説明より、
走行方式2は、走行方式1はもとより、走行方式3(この場合目標地点Eにおいては車両の運動エネルギーは未消費のまま残る)」よりも空気抵抗の差分だけ省エネルギーとなる、ことがわかる。
即ち、上記各交差点走行方法において、交差点に向けて惰性走行可能距離惰性走行を行う走行方法は、制動走行を行う方法は言うに及ばず、定速走行で交差点を通過する方法よりも省エネルギーになる。
【0016】
しかし、惰性走行による交差点等減速・停止点走行には大きな問題がある。
それは惰性走行による減速走行距離が長大化し、この間の平均走行速度が低下する、即ち減速走行時間が伸長する、ことによって、交通流に乱れを生じさせる恐れがあることである。
この問題を低減する方法、即ち本願発明の主体を、図2を用いて説明する。
基本的には、
「走行中の車両の有する運動エネルギーの惰性走行への利用効率ηを、許容できる範囲(例えば、回生制動での運動エネルギー回生効率を上回る範囲内)で軽減、即ち惰性走行開始速度vcと惰性走行終了速度(制動走行開始速度)vbの比(vb/vc)を最適設定、しこのη軽減効果(言い換えれば惰性走行距離短縮効果)を平均惰性走行速度の向上に供する」
のである。
運動エネルギーの惰性走行への利用効率ηとするとηは(数10)であらわすことができる。
(数10)
η=(vc2−vb2)/vc2
ここで
vc:惰性走行開始速度
vb:惰性走行終了速度(制動走行開始速度)
である。
(数10)において、惰性走行開始速度vc一定の状態で、惰性走行終了速度vbを変化させることによって、(即ちvb/vcを変化させることによって、)ηの変化が可能であることがわかる。
また、惰性走行速度範囲vc 〜 vb間の平均惰性走行速度vcbは(数11)であらわすことができる。
(数11)
vcb≒(vc+vb)/2
【0017】
上記、(数10)、(数11)を用いての、惰性走行距離、および平均惰性走行速度改善効果を具体的数値で例示する。
速度vc=50km/hから速度0までの間の惰性走行可能距離Li0=300mとすると、
その間の平均惰性走行速度vc0は
vc0 ≒(vc+0)/2
≒25km/h
である。
一方、惰性走行速度範囲をvc=50km/hからvb1=25km/hとすると、この間の惰性走行距離Li1は、
Li1≒{(vc2−vb12)/vc2}・Li0
≒225m
また、vc=50km/hからvb1=25km/hの間の平均惰性走行速度vcb1は
vcb1≒(50+ 25)/2
≒37km/h
となる。
【0018】
即ち、上記方策を実行することによって、惰性走行距離は、当初の(η=225/300=)75%に短縮されるが、平均惰性走行速度は惰性走行開始速度vcに対して当初((vc0/vc)≒50%に減少していたものが、((vcb1/vc)≒)74%に改善されることがわかる。
(但し、この平均惰性走行速改善効果は惰性走行速度に限った改善であり、図2に示すP0地点からP1地点までの距離(Li0−Li1)を含めた平均減速走行速度を考えれば、その平均減速走行速度は約41km/hとなり約82%への改善となる。)
上記の如く、運動エネルギーの惰性走行への利用効率を、惰性走行速度範囲vc〜vbを設けて限定することによって低減して、惰性走行距離を短縮するとともに、平均惰性走行速度を向上させることによって、惰性走行距離の長大化の低減及び平均減速(惰性)走行速度の低減防止を図ることができる。
【0019】
しかし、上記方法においては、もう一つ大きな問題がある。
それは惰性走行距離Li1算出のベースとなる惰性走行可能距離Li0は、前記(数3)より明らかな如く、惰性走行減速度αi(vc0)と速度vcできまるが、この惰性走行減速度は走行抵抗の逆数であり、走行抵抗は(同一車両であってもその時の車両条件、走行環境即ち)車両重量あるいは道路・車両タイヤ間の摩擦係数等で大きく変化する。
この問題は、車両の実惰性走行状態で惰性走行距離Li1を学習して補正・更新することによって解決する。
即ち、速度vcから距離Li1の惰性走行の結果、車両が目標減速・停止点上流距離 L=Lbに達した時点の速度がvb’ であるとき、目標減速・停止点到着後に行う次の惰性走行においては、例えば、惰性走行距離をLi1‘
(数12)
Li1‘=Li1+{(vb’2−vb2)/(2・αi(vb))
と補正・更新する。
ここで、
αi(vb):速度vb時の惰性走行減速度
である。
【0020】
従って、交差点上流での交差点信号情報が得られない場合の、即ち「信号情報活用運転支援システム」における「ノンストップ通過支援」あるいは「赤信号減速支援」の如き走行制御方法が不可能な場合の、交差点走行制御方法として、上記の如く交差点上流距離Li1地点から(交差点信号状態にかかわらず)惰性走行を開始し、目標減速・停止点上流距離Lb地点到達後は制動走行を行う。併せて目標減速・停止点上流距離Lb地点到着時の当初予定速度vbと実惰性走行結果による速度vb’から、例えば(数12)のごとく、速度vbとvb’の運動エネルギー差を用いて次回の速度vcからの惰性走行距離Li1の補正・更新を行う。
この結果、信号情報活用走行制御方式に比べても省エネルギー性能および安全性能で大差ない交差点走行制御方法が可能となる。
【0021】
但し、本願発明による走行制御方法では惰性走行距離はそこを走行する車両毎の走行抵抗R によっても、あるいは惰性走行移行時の車両速度vcによっても、目標減速・停止点に向けての惰性走行開始地点は変動する。このため惰性走行開始後の走行領域での交通流の安定が妨げられる恐れが生じる。
この問題は、惰性走行開始地点を、車両毎に目標減速・停止地点上流惰性走行開始最適距離地点とせずに、全車共通の惰性走行可能距離範囲内特定地点として設定し、その地点で全車惰性走行に移行することで解決できる。
この方策、即ち惰性走行開始地点を全車共通化することによって、車両毎の運動エネルギー利用効率即ち省エネルギー性能は低下するが、交通流の安定化は可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本願発明により、交差点を安全かつ省エネルギーで通過するための交差点信号情報取得が不可の場合でも、車両は交差点上流惰性走行可能距離の地点から交差点に向けての(信号状態にかかわらず無条件で)惰性走行主体の減速走行を行うことによって、交差点信号情報を獲得しての交差点通過とほぼ同等な安全かつ省エネルギー交差点走行が可能となる。
【0023】
即ち、本願発明は、前記「信号情報活用運転支援システム」用の路側装置としての光ビーコン、あるいは前記光ビーコンからの信号情報受信用車載装置がなくとも、交差点等の目標減速・停止点上流惰性走行可能距離地点を特定する機能を付加した現行カーナビゲーション装置改良タイプにおいて、目標減速・停止点上流惰性走行可能距離範囲内の地点から目標減速・停止点に向けての惰性走行支援を行うことによって「信号情報活用運転支援システム」と同等な効果を得ることができる。
さらに、本願発明は目標減速・停止点として交差点の如き固定地点ではなく、例えば自車前方に走行中の車両等の障害物に対しても適用可能である。
また、加速走行あるいは定速走行から惰性走行への移行を、本願発明による省エネルギー減速走行制御機能を有するカーナビゲーション装置等からの指示により、惰性走行開始地点においてドライバーが手動で行うことは勿論可能であるが、自動運転車においては、自動的に惰性走行移行は可能であることから、本願発明は自動運転車の目標減速・停止点走行制御方法としても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】交差点等減速・停止点に向けての走行形態毎の省エネルギー効果説明用車両走行形態図、
図2】本願発明による惰性走行距離(Li1),および制動走行距離(Lb1)説明図、
図3】本願発明による、安全かつ省エネルギーな交差点走行制御のための走行制御手順例、である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明をカーナビゲーション装置の改良で可能とするためには、当該カーナビゲーション装置に少なくとも下記機能・情報の一部付加が必要である。
地図データベース
・交差点等目標減速・停止点の正確な位置情報、
・車両の惰性行移行速度vcに対応した惰性走行距離情報およびその蓄積領域確保、
・制動開始速度vb時に対応する惰性走行減速度αi(vb)情報
・制動走行減速度αb情報、制動距離 Lb情報
・惰性走行可能距離範囲内道路における惰性走行適/不適情報
(例えば道路勾配、道路曲率、等の理由による惰性走行不適情報等)
センサー情報取得機能
・現速度情報
・高精度現在位置情報(GPS)
演算機能
・車両現在位置−目標交差点間距離L算出機能
・惰性走行開始速度−惰性走行下限速度間の惰性走行距離Li算出機能
・距離L情報と、惰性走行距離Liおよび制動走行距離Lb 比較機能、
【実施例1】
【0026】
上記機能を有するカーナビゲーション装置における本願発明を採用した省エネルギー交差点走行制御手順例を図3に示す。
図3において、
301は、本願発明による省エネルギー交差点走行制御手順開始点、
302は、車両の走行開始地点、目的地点および、この間の経路探索、目標減速・停止点の特定を行う経路探索処理、
303は、処理302の結果より次の目標減速・停止点の特定を行う次の目標減速・停止点特定処理、
304は、車両の走行開始のための発進可能か否かの判定をする走行開始判定処理、
305は、処理305において走行開始可能と判定された場合、加速走行を開始・継続する加速走行処理、
【0027】
306は、車両の現在速度および現在位置を特定する現在速度・現在位置特定処理、
307は、車両現在位置―目標減速・停止点位置情報から車両現在位置―目標減速・停止点間距離Lを特定する距離L特定処理、
308は、車両の現在速度vに対応する惰性走行距離Li1をデータベースから選択・抽出・特定するLi特定処理、
309は、処理307で特定した距離Lが、処理308で特定した距離Li以上か否かを判定する距離L・Li判定処理、
310は、処理309の判定結果、距離Lが距離(Li +Lb)を超えていると判定された場合、車両現速度vと車両定速走行速度vcの比較を行う車両の定速走行判定処理、
311は、距離処理310で車両現速度vが定速走行速度vc以上であると判定された場合、定速走行に移行・継続する定速走行処理、
【0028】
312は、処理309で距離Lが距離(Li +Lb)以下であると判定された場合惰性走行に移行あるいは惰性走行を継続する惰性走行処理、
313は、車両現在速度v、および車両現在位置を特定する現在速度・位置特定処理、
314は、処理313で特定された車両現在位置情報を用いて、車両現在位置―目標減速・停止点間距離Lを特定する距離L特定処理、
315は、処理314で特定された距離Lと制動走行距離Lbの比較を行うL・Lb比較処理、
316は処理315の結果距離Lが距離Lb以下と判定された結果に対応して、制動走行に移行する制動処理、
317は、車両現在位置を特定する現在位置特定処理、
318は、処理317で特定された車両現在位置情報を用いて、車両現在位置―目標減速・停止点間距離Lを特定する距離L特定処理、
319は、距離Lが0、即ち車両が目標減速/停止点に到着したか否かの判定を行う目標減速・停止点到着判定処理、
320は、処理319でL=0と判定された場合、車両停止する車両停止処理、
321は、処理320の停止が目的地点到着による停止か否かの判定をする目的地点到着判定処理、
322は、処理315において、距離Lと制動走行距離Lbの関係がL≦Lbと判定された場合、(数
12)により、補正惰性走行距離Li1’を算出して、データベース中の惰性走行開始速度vcに対応した惰性走行距離記憶領域に(次回の減速走行時、速度vcからの惰性走行距離Li1として利用することを目的として)格納するLi1更新・格納処理、
323は、経路探索の結果特定された車両走行開始地点から目的地点までの走行制御処理の終了点、
である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本願発明による減速走行制御方法による交差点等目標減速・停止点走行は、従来の「交差点無停止走行システム」あるいは「信号情報活用運転支援システム」の如き交差点を青信号・無停止通過のための信号情報の車両への通報が不可能であっても、また車両側において上記路車間通信路側装置からの信号情報の受信が不可能であっても、モーター駆動車両は勿論、エンジン駆動車両等すべての駆動形態の車両に、適用して相応な安全かつ省エネルギーな走行を可能とする。
この結果、本願発明によって、通常の(回生制動を含む)制動走行を主体とした交差点走行に比べて概略20%以上の省エネルギー・排出ガス削減および制動時の摩擦熱による熱エネルギーの大気中への放散量削減、の各効果を得ることができると推測される。
【符号の説明】
【0030】
図1図2において、
αi(v):速度vにおける惰性走行減速度
αb:制動減速度
αa:加速度
vc:定速走行速度
Evcc:速度vcで走行中の車両の有する運動エネルギー、
(速度vcから速度0間惰性走行した場合に消費する駆動輪駆動レベルエネルギー)
Li0:速度vcから速度0間惰性走行した場合の惰性走行可能距離
(但しこの間の惰性走行減速度はαi(vc0):一定とする)
Lb0:速度vcから速度0間の制動走行距離
Li1:速度vcから速度vb1間惰性走行した場合の惰性走行可能距離
(但しこの間の惰性走行減速度もαi(vc0):一定とする)
Lb1:速度vb1から速度0間の制動走行距離
図1
図2
図3