【課題を解決するための手段】
【0008】
走行開始地点から目的地点までの車両の走行開始に先立って、走行開始地点から目的地点までの経路探索を行い、前記経路探索結果に基づいて走行開始地点から目的地点までの間の走行区間中に(一般的には複数の)目標減速・停止点を特定し前記目標減速・停止点毎にその位置および到達時の車両速度(停止点の場合速度は0)を特定する。
前記走行開始地点から目的地点までの走行は、走行開始地点からあらかじめ特定されている加速度αaでの加速走行、加速走行の結果速度が定速走行速度vcに達した場合は定速走行、および目標減速・停止点に向けては目標減速・停止点上流惰性走行可能距離範囲内からの目標減速・停止点に向けての惰性走行主体による減速走行を行う。
目標減速・停止点に到着(あるいは到着直前の目標減速・停止点信号状態の視認等による確認)後は、改めて目標減速・停止点の信号状態に応じて、例えば信号が青である場合はそのまま交差点を無停止で通過する、信号が青でない場合は交差点手前で停止し、信号が青になるのを待つ。
この結果、車両は走行開始地点から目的地点までの全区間、定速走行による走行を行ったとほぼ同等な省エネルギー走行が可能となる。(特許文献3)
【0009】
上記本願発明の根拠となる目標減速・停止点走行方法の相違による省エネルギー性能の違いを、
図1を用いて説明する。
図1において、
地点Aは、車両走行開始点(加速度αaで加速走行開始点)、
地点Bは、加速走行の結果車両速度が定速度vcに到達した地点、
地点Dは、速度vcで定速走行中の車両が地点Eに向けて制動減速度αb での制動を開始する地点、
(速度vcからの制動減速度αb での制動走行距離はLb0)
地点Eは、車両が通過あるいは停止すべき目標交差点
地点Fは、地点Eでの停止状態から加速度αaによる加速走行の結果車両速度が(再度)定速度vcに到達する地点、
である。
【0010】
ここで、地点Aから地点Eまでの道路は平坦路とし、当該道路を車両が速度vで走行する場合の走行抵抗Rは、(数1)で示されるものとする。
(数1)
R=R1+R2・v
2
ここで、
R1:転がり抵抗、
R2・v
2:速度vで走行時の空気抵抗
v:車両走行速度
である。
(数1)より、走行抵抗Rは速度に無関係な成分R1と速度の二乗に比例する成分R2・v
2の和となることがわかる。
【0011】
速度v=vcで走行中の車両の有する運動エネルギーEvccは(数2)で、また速度v=vc で走行中の車両の惰性走行可能距離、即ち速度vc で走行中の車両が惰性走行に移行後惰性走行で目標減速・停止点(地点E)に速度0で到達するに要する距離(惰性走行可能距離)Li0は(数3)で示される。
ここで、地点E上流距離Li0の地点を惰性走行開始点(地点P0)とする。
(数2)
Evcc =m・vc
2 /2
≒(R1+R2・vc0
2)・Li0
(数3)
Li0 ≒vc
2/(2・αi(vc0))
ここで、
m :車両質量(搭載物質量を含む)
vc0:速度vc〜0間の平均惰性走行速度
αi(vc0):平均惰性走行速度vc0に対応する惰性走行減速度
である。
【0012】
次に、交差点(地点E)信号が赤の場合、通常走行では速度vcで走行中の車両が地点E上流地点Dにおいて制動減速度αbによる制動走行に移行して地点Eで停止する場合の運動エネルギーEvccによる走行距離Lb0は(数4)で示される。
(数4)
Lb0=vc
2/(2・αb)
従って、例えば、50km/hで定速走行中の車両の、Li0は300m以上、Lb0は30m以下であることから、制動走行によって減速走行に利用される運動エネルギーは、惰性走行によって減速走行に利用される運動エネルギーの10%以下になる(残る90%は制動による摩擦熱として大気中に放散される)ことがわかる。
【0013】
一方、地点P0から地点Eまでの距離Li0間 を定速走行速度vcで走行する場合の走行抵抗Rvcは(数6)で示されることから、この間に必要となる駆動輪駆動レベルのエネルギーEvcは(数7)で示される。
(数6)
Rvc =(R1+R2・vc
2 )
(数7)
Evc =(R1+R2・vc
2 )・Li0
但し、上記走行の結果地点Eにおける速度vc の車両は、運動エネルギーEvcを有している。
(数2)と(数7)で示されるエネルギーを比較するとvc >vavであることから
(数8)
Evcc<Evc
即ち、同一距離Li0走行に際しての平均走行速度(平均走行抵抗)の相違により、地点P0(速度vc )から地点E(速度0)までの間惰性走行する方が速度vcで定速走行するよりも省エネルギーであり、その消費エネルギー差ΔE2は、
(数9)
ΔE2=Evc−Evcc
≒{(R1+R2・vc
2 )−(R1+R2・vc0
2 )}・Li0
≒R2・(vc
2 − vc0
2)・Li0
であることがわかる。
【0014】
即ち、
走行方式1: 「速度vc で走行中の車両が、制動走行後交差点で停止する」
走行方式2: 「速度vc で走行中の車両が、惰性走行開始点から惰性走行して交差点で停止する」
走行方式3: 「速度vc で走行中の車両が、惰性走行開始点から速度vc で定速走行して交差点に到達する」
において、
上記各方式の省エネルギー性能は、
走行方式2が一番よく、次いで走行方式3であり、走行方式1が最も悪いことがわかる。
【0015】
また、上記説明より、
走行方式2は、走行方式1はもとより、走行方式3(この場合目標地点Eにおいては車両の運動エネルギーは未消費のまま残る)」よりも空気抵抗の差分だけ省エネルギーとなる、ことがわかる。
即ち、上記各交差点走行方法において、交差点に向けて惰性走行可能距離惰性走行を行う走行方法は、制動走行を行う方法は言うに及ばず、定速走行で交差点を通過する方法よりも省エネルギーになる。
【0016】
しかし、惰性走行による交差点等減速・停止点走行には大きな問題がある。
それは惰性走行による減速走行距離が長大化し、この間の平均走行速度が低下する、即ち減速走行時間が伸長する、ことによって、交通流に乱れを生じさせる恐れがあることである。
この問題を低減する方法、即ち本願発明の主体を、
図2を用いて説明する。
基本的には、
「走行中の車両の有する運動エネルギーの惰性走行への利用効率ηを、許容できる範囲(例えば、回生制動での運動エネルギー回生効率を上回る範囲内)で軽減、即ち惰性走行開始速度vcと惰性走行終了速度(制動走行開始速度)vbの比(vb/vc)を最適設定、しこのη軽減効果(言い換えれば惰性走行距離短縮効果)を平均惰性走行速度の向上に供する」
のである。
運動エネルギーの惰性走行への利用効率ηとするとηは(数10)であらわすことができる。
(数10)
η=(vc
2−vb
2)/vc
2
ここで
vc:惰性走行開始速度
vb:惰性走行終了速度(制動走行開始速度)
である。
(数10)において、惰性走行開始速度vc一定の状態で、惰性走行終了速度vbを変化させることによって、(即ちvb/vcを変化させることによって、)ηの変化が可能であることがわかる。
また、惰性走行速度範囲vc 〜 vb間の平均惰性走行速度vcbは(数11)であらわすことができる。
(数11)
vcb≒(vc+vb)/2
【0017】
上記、(数10)、(数11)を用いての、惰性走行距離、および平均惰性走行速度改善効果を具体的数値で例示する。
速度vc=50km/hから速度0までの間の惰性走行可能距離Li0=300mとすると、
その間の平均惰性走行速度vc0は
vc0 ≒(vc+0)/2
≒25km/h
である。
一方、惰性走行速度範囲をvc=50km/hからvb1=25km/hとすると、この間の惰性走行距離Li1は、
Li1≒{(vc
2−vb1
2)/vc
2}・Li0
≒225m
また、vc=50km/hからvb1=25km/hの間の平均惰性走行速度vcb1は
vcb1≒(50+ 25)/2
≒37km/h
となる。
【0018】
即ち、上記方策を実行することによって、惰性走行距離は、当初の(η=225/300=)75%に短縮されるが、平均惰性走行速度は惰性走行開始速度vcに対して当初((vc0/vc)≒50%に減少していたものが、((vcb1/vc)≒)74%に改善されることがわかる。
(但し、この平均惰性走行速改善効果は惰性走行速度に限った改善であり、
図2に示すP0地点からP1地点までの距離(Li0−Li1)を含めた平均減速走行速度を考えれば、その平均減速走行速度は約41km/hとなり約82%への改善となる。)
上記の如く、運動エネルギーの惰性走行への利用効率を、惰性走行速度範囲vc〜vbを設けて限定することによって低減して、惰性走行距離を短縮するとともに、平均惰性走行速度を向上させることによって、惰性走行距離の長大化の低減及び平均減速(惰性)走行速度の低減防止を図ることができる。
【0019】
しかし、上記方法においては、もう一つ大きな問題がある。
それは惰性走行距離Li1算出のベースとなる惰性走行可能距離Li0は、前記(数3)より明らかな如く、惰性走行減速度αi(vc0)と速度vcできまるが、この惰性走行減速度は走行抵抗の逆数であり、走行抵抗は(同一車両であってもその時の車両条件、走行環境即ち)車両重量あるいは道路・車両タイヤ間の摩擦係数等で大きく変化する。
この問題は、車両の実惰性走行状態で惰性走行距離Li1を学習して補正・更新することによって解決する。
即ち、速度vcから距離Li1の惰性走行の結果、車両が目標減速・停止点上流距離 L=Lbに達した時点の速度がvb’ であるとき、目標減速・停止点到着後に行う次の惰性走行においては、例えば、惰性走行距離をLi1‘
(数12)
Li1‘=Li1+{(vb’
2−vb
2)/(2・αi(vb))
と補正・更新する。
ここで、
αi(vb):速度vb時の惰性走行減速度
である。
【0020】
従って、交差点上流での交差点信号情報が得られない場合の、即ち「信号情報活用運転支援システム」における「ノンストップ通過支援」あるいは「赤信号減速支援」の如き走行制御方法が不可能な場合の、交差点走行制御方法として、上記の如く交差点上流距離Li1地点から(交差点信号状態にかかわらず)惰性走行を開始し、目標減速・停止点上流距離Lb地点到達後は制動走行を行う。併せて目標減速・停止点上流距離Lb地点到着時の当初予定速度vbと実惰性走行結果による速度vb’から、例えば(数12)のごとく、速度vbとvb’の運動エネルギー差を用いて次回の速度vcからの惰性走行距離Li1の補正・更新を行う。
この結果、信号情報活用走行制御方式に比べても省エネルギー性能および安全性能で大差ない交差点走行制御方法が可能となる。
【0021】
但し、本願発明による走行制御方法では惰性走行距離はそこを走行する車両毎の走行抵抗R によっても、あるいは惰性走行移行時の車両速度vcによっても、目標減速・停止点に向けての惰性走行開始地点は変動する。このため惰性走行開始後の走行領域での交通流の安定が妨げられる恐れが生じる。
この問題は、惰性走行開始地点を、車両毎に目標減速・停止地点上流惰性走行開始最適距離地点とせずに、全車共通の惰性走行可能距離範囲内特定地点として設定し、その地点で全車惰性走行に移行することで解決できる。
この方策、即ち惰性走行開始地点を全車共通化することによって、車両毎の運動エネルギー利用効率即ち省エネルギー性能は低下するが、交通流の安定化は可能となる。