特許第6494019号(P6494019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6494019-斜板式圧縮機 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494019
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】斜板式圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 27/12 20060101AFI20190325BHJP
   C10M 103/02 20060101ALI20190325BHJP
   C10M 107/38 20060101ALI20190325BHJP
   C10M 145/20 20060101ALI20190325BHJP
   C10M 149/18 20060101ALI20190325BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   F04B27/12 Q
   F04B27/12 A
   C10M103/02 Z
   C10M107/38
   C10M145/20
   C10M149/18
   C10N20:00 Z
   C10N20:04
   C10N20:06 Z
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:30
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-554048(P2014-554048)
(86)(22)【出願日】2012年12月28日
(86)【国際出願番号】JP2012084229
(87)【国際公開番号】WO2014103073
(87)【国際公開日】20140703
【審査請求日】2015年12月3日
【審判番号】不服2017-10774(P2017-10774/J1)
【審判請求日】2017年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデンホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷山 憲男
(72)【発明者】
【氏名】富田 武夫
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 宏光
(72)【発明者】
【氏名】安藤 怜
【合議体】
【審判長】 藤井 昇
【審判官】 山村 和人
【審判官】 堀川 一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−92822(JP,A)
【文献】 特開2004−323594(JP,A)
【文献】 特開2005−187617(JP,A)
【文献】 特開2012−31780(JP,A)
【文献】 特開2011−79921(JP,A)
【文献】 特開2010−202741(JP,A)
【文献】 特開2009−1745(JP,A)
【文献】 特開平9−326227(JP,A)
【文献】 特開2012−62355(JP,A)
【文献】 特開2011−246684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/12
C10M 101/00 - 177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に回転可能に配置された駆動軸と、駆動軸に傾斜角度をもって直接固定さ
れ又は連結部材を介して傾斜角度可変に取り付けられ、駆動軸と一体に回転する斜板と、
斜板とピストンとの間に介在するシューと、シリンダボア内を往復運動するピストンとを
備え、斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して冷媒を圧縮する車両用空調装置に
用いられる斜板式圧縮機において、
斜板のシューとの摺動部に形成された、バインダー樹脂と、平均アスペクト比が1〜1.5で平均粒子径が7〜13μmのフッ素樹脂粒子及び平均粒子径が1〜5μmで比表面積が100m2/g以上であるグラファイトからなる摺動皮膜の、前記バインダー樹脂は、ポリアミドイミド樹脂100重量部と芳香族エポキシ樹脂2〜18重量部からなる熱硬化性樹脂であって、
前記摺動皮膜が、バインダー樹脂100重量部、フッ素樹脂粒子40〜70重量部及びグラファイト1〜20重量部からなることを特徴とする斜板式圧縮機。
【請求項2】
フッ素樹脂粒子の数平均分子量が100,000以下であることを特徴とする請求項1
に記載の斜板式圧縮機。
【請求項3】
芳香族エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の斜板式圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用空調装置などに用いられる斜板式圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
斜板式圧縮機には、ハウジング内に回転可能に配置された駆動軸に斜板を傾斜させて直接固定した固定容量型斜板式圧縮機と、連結部材を介して駆動軸に斜板を傾斜角度可変且つ摺動可能に取り付けた可変容量型斜板式圧縮機があり、そのいずれにおいても、斜板にシューを摺動させ、シューを介して斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して冷媒を圧縮する。
【0003】
これらの斜板式圧縮機では、運転初期では冷媒中に含まれる潤滑油が斜板のシューとの摺動部に到達する前に斜板とシューが摺動するため、その摺動部が潤滑油のないドライ潤滑状態となり、焼付きが発生しやすい。このため、斜板のシューとの摺動部に焼き付き防止のための摺動皮膜を設けるのが通常である。例えば、特許文献1には、ポリアミドイミド樹脂などのバインダー樹脂にプラズマ処理などで表面処理した平均粒子径が0.01〜20μmのポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」という。)などのフッ素樹脂粒子を分散させた摺動用塗料を斜板基材に塗布乾燥して形成した摺動皮膜が開示されている。特許文献2には、ポリアミドイミド樹脂などのバインダー樹脂に平均粒子径が2〜20μmを平均アスペクト比1.5〜10となるように扁平比したPTFEなどのフッ素樹脂粒子を分散させた摺動用塗料を斜板基材に塗布乾燥して形成した摺動皮膜が開示されている。特許文献3には、ポリアミドイミド樹脂などのバインダー樹脂にPTFEなどの平均粒子径が0.01〜20μmのフッ素樹脂粒子を分散させた摺動用塗料を内燃機関のピストンスカート外周面に塗布乾燥して形成した摺動皮膜が開示されている。
【特許文献1】特開2004−323594号公報(段落[0012]、[0035]、[0047])
【特許文献2】特開2005−187617号公報(段落[0008]、[0013]、[0015])
【特許文献3】特開2001−11372号公報(段落[0010]、[0012]、[0028])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、斜板式圧縮機は軽量化や小型化に伴って高速化や高負荷化が進んでおり、要求される耐焼付き性などの摺動特性はますます高度化している。これに対し、上記の従来技術では、斜板の耐焼付き性などの摺動特性を高度化する見地から、フッ素樹脂粒子の平均アスペクト比(各粒子の長径/短径の比の平均値)と平均粒子径の各数値範囲を最適化することはなされていない。特許文献1では三本ロールでフッ素樹脂粒子を粉砕混合し、特許文献2ではビーズミルでフッ素樹脂粒子を粉砕混合し、特許文献3ではサンドミルでフッ素樹脂粒子を粉砕混合しており、いずれもフッ素樹脂粒子に高せん断力をかけて破砕混合している。このため、上記の従来技術では、摺動皮膜中に存在するフッ素樹脂粒子の平均アスペクト比や平均粒子径が、斜板の耐焼付き性などの摺動特性を高度化する見地から、最適化されているとはいえない。
【0005】
本発明は、上記の従来技術の実情に鑑みてなされたものであって、摺動皮膜中に存在するフッ素樹脂粒子の平均アスペクト比や平均粒子径を斜板の耐焼付き性などの摺動特性を高度化する見地から最適化することにより斜板の耐焼き付き性を改善した斜板式圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の斜板式圧縮機は、上記課題を解決するために、ハウジング内に回転可能に配置された駆動軸と、駆動軸に傾斜角度をもって直接固定され又は連結部材を介して傾斜角度可変に取り付けられ、駆動軸と一体に回転する斜板と、斜板とピストンとの間に介在するシューと、シリンダボア内を往復運動するピストンとを備え、斜板の回転運動をピストンの往復運動に変換して冷媒を圧縮する車両用空調装置に用いられる斜板式圧縮機において、
斜板のシューとの摺動部に形成された、バインダー樹脂と、平均アスペクト比が1〜1.5で平均粒子径が7〜13μmのフッ素樹脂粒子及び平均粒子径が1〜5μmで比表面積が100m2/g以上であるグラファイトからなる摺動皮膜の、前記バインダー樹脂は、ポリアミドイミド樹脂100重量部と芳香族エポキシ樹脂2〜18重量部からなる熱硬化性樹脂であって、前記摺動皮膜が、バインダー樹脂100重量部、フッ素樹脂粒子40〜70重量部及びグラファイト1〜20重量部からなることを特徴する構成を採用している。

















【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、斜板式圧縮機の斜板において、斜板の摺動皮膜中に存在するフッ素樹脂粒子の平均アスペクト比と平均粒子径とを最適化することにより斜板の耐焼き付き性を従来技術に比較して大幅に改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】斜板式圧縮機の断面図
図2】斜板式圧縮機が備える駆動軸、ローター、斜板及びリンクアームの組立品の斜視図
図3】斜板のシューとの摺動部の部分拡大図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施例に係る斜板式圧縮機を次に説明する。
図1に示すように、斜板式圧縮機100は可変容量型斜板式圧縮機である。この圧縮機100は駆動軸1と、駆動軸1に固定されたローター2と、傾角変動可能且つ摺動可能に駆動軸1に支持された斜板3とを備えている。斜板3は斜板基材3aと斜板ボス部3bとを含み、斜板基材3aは斜板ボス部3bにリベットで固着されている。斜板3の周縁部を挟持する一対のシュー4を介して斜板3に係留されたピストン5が、シリンダブロック6に形成されたシリンボア6aに摺動可能に嵌合している。駆動軸1、ローター2、斜板3はフロントハウジング7に収容されている。吐出室及び吸入室がシリンダヘッド8に形成されている。シリンダブロック6とシリンダヘッド8とにより弁板9が挟持されている。シリンダブロック6、フロントハウジング7、シリンダヘッド8、弁板9は一体に組み付けられている。駆動軸1はフロントハウジング7とシリンダブロック6とにより回転可能に支持されている。
【0010】
図1及び図2に示すように、ローター2から斜板3へ向けて伸びる一対のローターアーム2aに円形貫通穴2b、2cが形成されている。円形貫通穴2b、2cは、駆動軸1の中心軸線Xと斜板3の上死点Dpとにより形成される平面に直交して、同軸に延在している。斜板3からローター2へ向けて伸びる単一の斜板アーム3cに円形貫通穴3dが形成されている。円形貫通穴3dは、駆動軸1の中心軸線Xと斜板3の上死点Dpとにより形成される平面に直交して延在している。ローターアーム2aと斜板アーム3cとを連結するリンクアーム10が配設されている。リンクアーム10の一端部に円形貫通穴10aが形成され、リンクアーム10の二股に分かれた他端部に円形貫通穴10b、10cが形成されている。一対のローターアーム2aはリンクアーム10の一端部を挟持しており、リンクアーム10の二股に分かれた他端部は斜板アーム3cを挟持している。
【0011】
ピン11が円形貫通穴3dに圧入固定されると共に両端部が円形貫通穴10b、10cに相対摺動可能に嵌合している。ピン12が円形貫通穴10aに圧入固定されると共に両端部が円形貫通穴2b、2cに相対摺動可能に嵌合している。ローターアーム2a、斜板アーム3c、リンクアーム10、ピン11、12によりリンク機構13が形成されている。リンク機構13は、斜板3の傾角変動を許容しつつローター2と斜板3とを駆動軸1回りに相対回転不能に連結している。
【0012】
斜板式圧縮機100においては、駆動軸1が外部駆動源により回転駆動され、駆動軸1の回転に伴って斜板3が回転し、シュー4を介して斜板3によりピストン5が往復駆動される。外部冷却回路から圧縮機100へ還流した冷媒ガスが、吸入ポートを介して吸入室14へ流入し、弁板9に形成された吸入穴と吸入弁とを介してシリンダボア6a内へ吸引され、ピストン5により加圧圧縮され、弁板9に形成された吐出穴と吐出弁とを介して吐出室へ吐出し、吐出ポートを介して外部冷却回路へ還流する。このとき、斜板3の傾角制御は、図示しない制御システムにより、空調装置の熱負荷に応じて吸入室14の圧力とクランク室15の圧力との差圧を差圧制御弁により制御することにより行われる。
【0013】
図3に示すように、斜板基材3aのシュー4との摺動部には摺動用塗料の摺動皮膜3eが形成されている。摺動皮膜3eは、バインダー樹脂、平均アスペクト比が1〜1.5で平均粒子径が7〜13μmのフッ素樹脂粒子及びグラファイトから構成されている。本発明において、フッ素樹脂粒子の「アスペクト比」とは粒子の長径/短径の比を意味し、「平均アスペクト比」とは所定個数(10、000個)のフッ素樹脂粒子のアスペクト比の平均値を意味する。
【0014】
バインダー樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂の少なくとも一種が使用可能であるが、ポリアミドイミド樹脂を主成分とするものが好ましい。特に、バインダー樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対してエポキシ樹脂2〜18重量部を配合した熱硬化性樹脂組成物が好ましく、この熱硬化性樹脂組成物を使用することにより耐焼付き性の優れた摺動皮膜を得ることができる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などの芳香族エポキシ樹脂を使用できるが、特に常温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
【0015】
また、バインダー樹脂としてポリアミドイミド樹脂に芳香族エポキシ樹脂を配合したものを使用した場合、摺動皮膜3eが形成された斜板3の耐焼付き性は、芳香族エポキシ樹脂の添加量に対して極大値を有する関係にあり、耐焼付き性は、添加量5%付近で最大となり、添加量2%未満では無添加の場合と大きな有意差はなく、添加量18%超では無添加の場合と同等又はそれ以下となる。
【0016】
フッ素樹脂粒子としては、例えば、PTFE、パーフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体などの少なくとも一種のフッ素樹脂の粒子を使用することができる。これらの中でも、PTFE樹脂粉末を用いることが好ましい。PTFE樹脂は、約340〜380℃の溶融粘度が約1010〜1011Pa・sと高く、融点を越えても流動し難く、フッ素樹脂の中では最も耐熱性に優れ、耐摩耗性にも優れる。
【0017】
フッ素樹脂粒子は一般的にバインダー樹脂との結合力が弱いために、斜板のシューとの摺動により発生する摩擦力や負荷荷重によって、フッ素樹脂粒子がバインダー樹脂との境界面で剥離して摺動皮膜3eから脱落し、その脱落部で焼付きが発生し易くなる。本発明では、摺動皮膜3e中のフッ素樹脂粒子の平均アスペクト比を1〜1.5とし平均粒子径を7〜13μmとすることにより、フッ素樹脂粒子の摺動皮膜からの剥離・脱落を可及的に防止して斜板の耐焼付き性を改良している。フッ素樹脂粒子の平均アスペクト比を1.5よりも大きくしたり、フッ素樹脂粒子の平均粒子径を7μmより小さくしたりすると、フッ素樹脂粒子の単位重量当たりの表面積(比表面積)が大きくなり過ぎて、すなわち、フッ素樹脂粒子とバインダー樹脂との結合力が弱い部分の表面積が大きくなり過ぎて、フッ素樹脂粒子が摺動皮膜3eから脱落し易くなり、その結果、焼付きが起こりやすくなる。また、フッ素樹脂粒子の平均粒子径を13μmより大きくすると、斜板基材とバインダー樹脂の接触面積が減少することで皮膜の密着力が低下し、焼付きが発生し易くなる。
【0018】
摺動皮膜3eが形成された斜板3の耐焼付き性(耐焼付き時間)は、フッ素樹脂粒子の平均アスペクト比が1〜1.5で平均粒子径が7〜13μmの範囲内において、フッ素樹脂粒子の平均粒子径に対して極大値を有する関係に有り、耐焼付き性は10μm付近で最大となる。
【0019】
フッ素樹脂粒子は高速摺動条件下において摺動皮膜3eの摩擦係数を低くして皮膜表面の摩耗や傷つきなどを防ぐ。フッ素樹脂粒子の添加量を増加させると摩擦係数は低下するが、フッ素樹脂粒子の添加量が多くなり過ぎると摺動皮膜の硬さが低下して摩耗量が増大し摺動皮膜の剥離が発生する。従って、フッ素樹脂粒子の添加量は、バインダー樹脂100重量部に対して40〜70重量部が好ましく、50〜60重量部がより好ましい。
【0020】
グラファイトとしては、天然グラファイト及び人造グラファイトのいずれも使用できる。また、グラファイトの形状として鱗片状、土状、塊状、薄片状、球状などがあるが、そのいずれも使用できる。グラファイトの平均粒子径は1〜15μmが好ましく、1〜5μmがより好ましい。グラファイトは摺動皮膜3eの耐摩耗性を高めるが、グラファイトの添加量を増大させると摩擦係数が増大する。従って、グラファイトの添加量はバインダー樹脂100重量部に対して1〜20重量部が好ましく、5〜15重量部がより好ましい。
【0021】
摺動用塗料は、バインダー樹脂、フッ素樹脂粒子及びグラファイトの所定割合の配合物を適量の有機溶剤とともに混合分散することにより製造することができる。有機溶剤としては、例えば、バインダー樹脂に対して良好な溶解性を有するN−メチルピロリドン、2-ピロリドン、メチルイソピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの高沸点極性溶剤;トルエン、キシレンなどの芳香族溶剤;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;
又はそれらの混合溶剤が通常使用される。
【0022】
平均アスペクト比が1〜1.5で平均粒子径が7〜13μmのフッ素樹脂粒子を塗料原料として使用したとしても、摺動用塗料の製造時にその粒子を粉砕するほどの高せん断力をかけると、フッ素樹脂粒子の平均アスペクト比と平均粒子径は変化し上記範囲を逸脱するおそれがある。最終的に調製された摺動用塗料中のフッ素樹脂粒子が平均アスペクト比1〜1.5と平均粒子径を7〜13μmを維持していなければならない。このために、塗料製造時に使用する混合分散機としては、プロペラ攪拌機、マグネチックスターラー、自転公転ミキサーなどフッ素樹脂粒子の粉砕を生じさせないものが使用に適している。
【0023】
斜板基材3aは摺動用塗料を塗布する前に脱脂処理される。斜板基材3aは脱脂処理後にショットブラスト法により粗面化処理して基材表面の粗さを8.0〜13.0μmRzjisに調整することが好ましい。耐焼付き性(焼付き時間)は、この表面粗さの範囲内において、斜板基材の表面粗さに対して極大値を有する関係にある。表面粗さが8.0μmRzjis未満では耐焼付き荷重が低下し、表面粗さ13.0μmRzjis超では摺動皮膜3eが粗面凸部で摩耗して斜板基材3aの下地金属が露出し焼付きが生じやすくなる傾向がある。
【0024】
摺動皮膜3eは、上記処理を施した斜板基材3aに摺動用塗料を乾燥膜厚が35〜70μmとなるように塗布し、この塗膜を180〜270℃で15〜80分間加熱硬化させた後、この硬化塗膜を研削機で研削して表面粗さ0.6〜1.6μmRaに調整することにより形成することができる。加熱硬化の方法としては、熱風だけでも良いが、熱風と遠赤外線を併用する方がより好ましい。斜板基材3aとして鉄系、銅系又はアルミニウム系の基材を使用することができるが、通常は鉄系基材が使用される。
【実施例】
【0025】
バインダー樹脂中のフッ素樹脂粒子の平均アスペクト比と平均粒子径とが耐焼付き性に及ぼす影響を調べるために次の試験を行った。表1に記載の配合組成の皮膜形成成分と適量の有機溶剤(N−メチルピロリドン)とをプロペラ攪拌機により攪拌混合することにより実施例の摺動用塗料を調製した。一方、表1に記載の配合組成の皮膜形成成分と適量の有機溶剤(N−メチルピロリドン)とをビーズミルにより粉砕混合することにより比較例の摺動用塗料を調製した。一方、鋼鉄材料の斜板基材を脱脂処理した後、表面をショットブラスト法で粗面化して表面粗さ9.0μmRzjisとした。この斜板基材の表面に上記の摺動用塗料を乾燥膜厚50μmとなるように塗布し、この塗膜を230℃で30分間加熱して硬化させた。次いで、この硬化塗膜を研削機で研削して表面を平滑化し、表面粗さ0.8μmRaの摺動皮膜を形成した。グラファイトの平均粒子径は4〜5μmであった。
【0026】
上記の摺動皮膜を形成した斜板基材について、摺動性能試験を次の試験条件で行った。
試験条件
試験機:回転式摩擦摩耗試験機
潤滑:ドライ潤滑
荷重:8.8MPa
速度:2000rpm
相手軸:SUJ2(シュー形状)
【0027】
試験結果を以下に記載する。
【0028】
上記表中の被膜形成成分
PAI:ポリアミドイミド樹脂(日立化成工業社製 HPC−6000系)
BPER:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(25℃で液状)(DIC製EPICLON850)
PTFE粒子:ポリテトラフルオロエチレン(喜多村社製 KTLシリーズ)
Gr:グラファイト(日本黒鉛工業社製 CSSP)
【0029】
上記表中のPTFE粒子のアスペクト比と粒子径の測定方法
アスペクト比の測定方法:
動的画像解析法/粒子分析計(セイシン企業製PITA−3)を用いて、粒子のアスペクトを測定。
粒子径の測定方法:
レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(日機装製Microtrac)を用いて、体積比50%の粒子径を算出。
【0030】
上記試験結果において、平均粒子径10μmのPTFE粒子を用いた場合に焼付き時間は最長となり、粒子径7〜13μmのPTFE粒子を用いた場合は粒子径4μm及び20μmのPTFE粒子を用いた場合より焼付き時間は長くなっている。
【0031】
次に、バインダー樹脂中のPTFE粒子の数平均分子量と耐焼付き性に及ぼす影響を調べるために次の試験を行った。表2に記載の配合組成の皮膜形成成分と適量の有機溶剤(N−メチルピロリドン)とをプロペラ攪拌機により攪拌混合することにより実施例の摺動用塗料を調製した。一方、鋼鉄材料の斜板基材を脱脂処理した後、表面をショットブラスト法で粗面化して表面粗さ8.5μmRzjisとした。この斜板基材の表面に上記の摺動用塗料を乾燥膜厚60μmとなるように塗布し、この塗膜を230℃で30分間加熱して硬化させた。次いで、この硬化塗膜を研削機で研削して表面を平滑化し、表面粗さ0.8μmRaの摺動皮膜を形成した。
【0032】
上記の摺動皮膜を形成した斜板基材について、摺動性能試験を次の試験条件で行った。
試験条件
試験機:回転式摩擦摩耗試験機
潤滑:ドライ潤滑
荷重:8.8MPa
速度:2000rpm
相手軸:SUJ2(シュー形状)
【0033】
試験結果を以下に記載する。
【0034】
上記表中の被膜形成成分
PAI:ポリアミドイミド樹脂(日立化成工業社製 HPC−6000系)
BPER:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(25℃で液状)(DIC社製 EPICLON850)
PTFE粒子:ポリテトラフルオロエチレン(喜多村社製 KTLシリーズ)
Gr:グラファイト(日本黒鉛工業社製 CSSP)
PTFE粒子の数平均分子量(Mn)の測定方法:
ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC) により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定。
PTFE形状の測定方法:
動的画像解析法/粒子分析計(セイシン企業製PITA−3)を用いて、粒子のアスペクトを測定。
粒子径の測定方法:
レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(日機装製Microtrac)を用いて、体積比50%の粒子径を算出。
【0035】
上記試験結果において、数平均分子量100、000以下のPTFE粒子を用いた場合は数平均分子量100、000超のPTFE粒子を用いた場合よりも焼付き時間が長くなっている。
【0036】
次に、グラファイトの比表面積の耐焼付き性に及ぼす影響を調べるために次の試験を行った。表3に記載の配合組成の皮膜形成成分と適量の有機溶剤(N−メチルピロリドン)とをプロペラ攪拌機により攪拌混合することにより実施例の摺動用塗料を調製した。使用したPTFE粒子の平均粒径は10μm、アスペクト比は1.3であった。一方、鋼鉄材料の斜板基材を脱脂処理した後、表面をショットブラスト法で粗面化して表面粗さ8.5μmRzjisとした。この斜板基材の表面に上記の摺動用塗料を乾燥膜厚60μmとなるように塗布し、この塗膜を230℃で30分間加熱して硬化させた。次いで、この硬化塗膜を研削機で研削して表面を平滑化し、表面粗さ0.8μmRaの摺動皮膜を形成した。
【0037】
上記の摺動皮膜を形成した斜板基材について、摺動性能試験を次の試験条件で行った。
試験条件
試験機:回転式摩擦摩耗試験機
潤滑:ドライ潤滑
荷重:8.8MPa
速度:2000rpm
相手軸:SUJ2(シュー形状)
【0038】
試験結果を以下に記載する。
【0039】
上記表中の被膜形成成分
PAI:ポリアミドイミド樹脂(日立化成工業社製 HPC−6000系)
BPER:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(25℃で液状)(DIC社製 EPICLON850)
PTFE粒子:ポリテトラフルオロエチレン(喜多村社製 KTL−10N)
Gr:グラファイト(日本黒鉛工業社製、CSSP(245m/g)、UCP(110m/g)、 J−CPB(13m/g))
グラファイトの比表面積の測定方法:
流動式比表面積自動測定装置(島津社製フローソーブIII2305/2310)を用いて、窒素吸着法(BET法)により測定。
粒子径の測定方法: レーザー回折・散乱式の粒度分布測定装置(日機装製Microtrac)を用いて、体積比50%の粒子径を算出。
【0040】
上記試験結果において、比表面積100超のグラファイトを用いた場合は比表面積100未満のグラファイトを用いた場合よりも焼付き時間が長くなっている。
【0041】
次に、バインダー樹脂中のポリアミドイミド樹脂に対する芳香族エポキシ樹脂の添加量の耐焼付き性に対する影響を調べるために次の試験を行った。表4に記載の配合組成の皮膜形成成分をプロペラ攪拌機で攪拌混合して摺動用塗料を調製した。一方、鋼鉄材料の斜板基材を脱脂処理した後、表面をショットブラスト法で粗面化して表面粗さ9.0μmRzjisとした。この斜板基材の表面に上記の摺動用塗料を乾燥膜厚60μmとなるように塗布し、この塗膜を230℃で30分間加熱して硬化させた。次いで、この硬化塗膜を研削機で研削して表面を平滑化し、表面粗さ0.8μmRaの摺動皮膜を形成した。使用したPTFEの平均粒径は10μm(アスペクト比1.3)、グラファイトの平均粒径は4〜5μmであった。
【0042】
上記の摺動皮膜を形成した斜板基材について、摺動性能試験を次の試験条件で行った。
試験条件
試験機:回転式摩擦摩耗試験機
潤滑:ドライ潤滑
荷重:8.8MPa
速度:2000rpm
相手軸:SUJ2(シュー形状)
【0043】
試験結果を以下に記載する。

PAI:ポリアミドイミド樹脂(日立化成工業社製 HPC−6000系)
BPER:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(25℃で液状)(DIC製EPICLON850)
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン(喜多村社製KTL−10N)
Gr:グラファイト(日本黒鉛工業社製 CSSP)
【0044】
上記試験結果において、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対し、ビスフェノーA型エポキシ樹脂の添加量が5重量部とすることで焼付き時間は最も長くなり、添加量が2〜18重量部では無添加の場合より焼付き時間は長くなっている。しかし、添加量が2重量部未満及び18重量部超では、焼付き時間は無添加の場合と同等又はそれ以下となっている。また、PTFE及びグラファイトの添加量はポリアミドイミド樹脂100重量部に対し、それぞれ50〜60重量部、5〜15重量部で良好な焼付き性を示している。PTFEの添加量が40重量部未満及び70重量部超、あるいはグラファイトの添加量が1重量部未満及び20重量部超では、いずれも焼付き時間は短くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る斜板式圧縮機は、斜板の摺動皮膜中に存在するフッ素樹脂粒子の平均アスペクト比と平均粒子径とを最適化することにより斜板の耐焼き付き性を従来技術に比較して大幅に改良することができるので産業上有用である。
【符合の説明】
【0046】
1 駆動軸
2 ローター
2a ローターアーム
2b、2c 円形貫通穴
3 斜板
3a 斜板基材
3b 斜板ボス部
3c 斜板アーム
3d 円形貫通穴
3e 摺動皮膜
4 シュー
5 ピストン
6 シリンダブロック
6a シリンダボア
7 フロントハウジング
8 シリンダヘッド
9 弁板
10 リンクアーム
10a、10b、10c 円形貫通穴
11、12 ピン
13 リンク機構
14 吸入室
15 クランク室
図1
図2
図3