(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
放送用に用いられるテレビジョンカメラ装置は、一般に、光学像を電気信号に変換するカメラヘッド部と、この電気信号を各種整形処理し、カメラヘッド部を制御するカメラ制御部(CCU:Camera Control Unit)よりなる。ここで、カメラヘッド部からカメラ制御部へは、カメラヘッド部で生成される映像信号、音声信号等が本線信号として伝送され、一方、カメラ制御部からカメラヘッド部へはカメラヘッド部でのモニタ用の映像信号、連絡用の音声信号等が伝送される。
以下の説明においては、カメラヘッド部からカメラ制御部への伝送を下り回線(Down Link:DL)と称し、カメラ制御部からカメラヘッド部への伝送を上り回線(Up Link:UL)と称することにする。これらのDL、UL伝送を、ケーブルを用いて伝送する場合、電源用、グランド用、信号伝送用の3本の同軸ケーブルが1組となったトライアックスケーブルが使用されることが多い。
このように、トライアックスケーブルでは、DL、UL伝送を信号伝送用の1本のケーブルを用いて伝送する。
【0003】
従来、映像信号、音声信号等をMPEG−2(Moving Picture Experts Group 2)やH.264などの映像符号化によりデジタル化し、直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:OFDM)方式などのデジタル変調方式を用いた伝送が用いられている。そしてDL、ULそれぞれに対して変調信号を生成し、これらを異なる周波数で多重して伝送する周波数分割多重方式による双方向伝送が行われている。カメラ映像伝送では一般的に、DLが本線信号を伝送し、ULがモニタ信号を伝送するため、DLの方が広い帯域幅を必要とする。この周波数分割多重による双方向伝送のスペクトル配置を
図3に示す。
図3では低域周波数にDLスペクトルを配置し、高域周波数にULスペクトルを配置している。このように、周波数を分割して伝送することで、1本のケーブルで双方向伝送を行うことが可能となる。
【0004】
先行技術文献としては、例えば、特許文献1に、相手の送受信装置の受信に際し、基準となるBER(Bit Error Rate、ビット誤り率)およびCNR(Carrier to Noise ratio、搬送波対雑音比)を確保し、できるだけ少ない送信電力で送信できる発明が開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
本発明の第一の実施例について
図1を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係る伝送装置のブロック図である。
図1において、伝送装置は、カメラヘッド部110とカメラ制御部120と伝送ケーブル130で構成されている。
カメラヘッド部110は、既知信号発生部111、適応変調送信部112、選択部113、受信部114、SN比判定部115、適応変調制御部116、時分割選択部117で構成されている。
カメラ制御部120は、既知信号発生部121、適応変調送信部122、選択部123、受信部124、SN比判定部125、適応変調制御部126、時分割選択部127で構成されている。
伝送路である伝送ケーブル130は、トライアックスケーブルであってもよい。
【0013】
次に、ケーブル長に応じて最適な伝送方式と伝送帯域幅を選定するためキャリブレーション処理について
図7を用いて説明する。
図7は本発明の一実施例に係る伝送装置の動作を説明するためのタイミングチャートである。
ケーブル長に応じて最適な伝送方式と伝送帯域幅を選定は2つの処理ステップによる。
図7において、上のタイミングチャートがカメラヘッド部を示し、下のタイミングチャートがカメラ制御部を示している。また、四角の実線は送信信号を示し、点線は受信信号を示している。
更に、カメラヘッド部とカメラ制御部間でのDL、ULの双方向伝送を時間的に分割して伝送を行う時分割分割多重方式について説明を行うが、単方向の伝送であってもよい。
【0014】
まず、キャリブレーション処理について説明する。
キャリブレーション処理では、カメラヘッド部110に具備されている既知信号発生部111からキャリブレーション用の信号を生成する。キャリブレーション信号はケーブル伝送に使用できる最も低い周波数から最も高い周波数までをカバーする広帯域信号を発生し、選択部113に送出する。選択部113では、キャリブレーション処理期間は既知信号発生部111を選択して出力するように動作し、データ伝送処理期間では適応変調送信部112からの信号を選択して出力するように動作する。
キャリブレーション処理期間では、既知信号発生部111からの広帯域既知信号を出力し、時分割選択部117に送出する。
【0015】
時分割選択部117ではDL送信期間は選択部113からの信号を選択して出力する。キャリブレーション期間のDL伝送期間では、伝送ケーブル130にキャリブレーション用の広帯域既知信号を送出する。
広帯域既知信号は伝送ケーブル130を経由して、カメラ制御部120に伝送される。この際、
図4に示すように、長いケーブル長を使用する場合には、高い周波数での減衰量が大きくなる。この広帯域既知信号のカメラヘッド部110での送信信号とカメラ制御部120の受信信号の信号レベルの特性を
図8に示す。
図8は広帯域既知信号の送信信号と受信信号の特性例を示す図である。
【0016】
時分割選択部117では伝送ケーブル130を経由した広帯域既知信号が入力され、このタイミングではカメラ制御部は受信期間となり、時分割選択部117では伝送ケーブル130からの信号を受信部114及び、SN比判定部115に出力する。
キャリブレーション期間ではSN比判定部115には
図8に示すような受信スペクトルが入力され、SN比判定部115では周波数毎のSN比を測定する。
【0017】
次に、SN比の算出方法の二つの具体例について説明する。
第一の具体例として、受信信号を高速フーリエ変換(FFT)等の周波数解析処理により、周波数毎の受信信号レベルを観測し、各周波数で熱雑音とのレベル差を算出することにより、周波数毎のSN比を測定する。
【0018】
また、第二の具体例は、第一の具体例と同様にFFT等の周波数解析処理を施し、伝送信号は既知信号であることを利用し、伝送ケーブル130の周波数特性を算出する。この周波数特性の算出方式には種々の方式が挙げられる。例えば、受信信号と既知信号の除算を行う。有線伝送であるため、伝送路の変動がないものとして、除算結果に対して時間方向にフィルタ処理することで、熱雑音による擾乱成分を除去し、伝送ケーブル130の周波数特性を可能な限り高精度に算出する。この方式は無線信号処理ではチャネル推定処理と称されている。そして、除算結果と時間フィルタを施したケーブルの周波数特性とを除算すると、熱雑音が混入されていない場合には、その除算結果は“1”となる。しかし、熱雑音の混入により、“1”の値がずれるため、複数回のキャリブレーション試行を行い、除算結果の分散を算出することでSN比を測定することが可能となる。
【0019】
図7におけるDL伝送の広帯域既知信号の伝送が完了すると、UL伝送の広帯域既知信号の伝送を開始する。これは、送信と受信を時分割的に分割して伝送するため、カメラ制御120部が送信期間の場合(UL伝送)には、カメラヘッド部110と同様に、既知信号発生部121から広帯域既知信号を出力する。既知信号発生部121からの信号は選択部123、時分割選択部127を経由して伝送ケーブル130に送出される。
【0020】
伝送ケーブル130から出力される信号は、受信部114とSN比判定部115に接続され、SN比判定部115では前述したSN比判定部125と同様の処理により周波数毎のSN比を算出する。
以上の処理により、伝送ケーブル130の周波数毎のSN比がカメラヘッド部110とカメラ制御部120にてそれぞれ算出される。DL、UL共に同一の伝送ケーブル130を経由しているため、上記のSN比はDL、ULで同一の値となる。
カメラヘッド部110のSN比判定部115の出力は、適応変調制御部116に入力され、カメラ制御部120も同様に、SN比判定部125の出力は適応変調制御部126に入力される。
【0021】
ところで、前述したように本発明の一実施例では、変調信号として伝送帯域を複数のサブキャリアに分割して伝送を行うOFDM方式である。
なお、変調方式はOFDM方式に類して、伝送帯域を複数に分割して伝送を行う方式であってもよい。
【0022】
適応変調制御部116,126は、伝送ケーブル130の周波数毎のSN比に基づき、最も伝送容量が大きくなるように、各サブキャリアに割り当てる変調多値数を制御する。
【0023】
次に、有線伝送環境下での、適応変調方式、及び最適周波数帯域幅の選定について説明する。
一般的なシャノンの通信路容量定理によれば、通信路容量はSN比と帯域幅BWに依存し、(式1)で表される。
【数1】
ここで、ケーブル伝送では
図8に示すように周波数毎のSN比が大きく異なるため、サブキャリア毎のSN比も異なり、また、ケーブルであるため無線伝送と異なり、帯域幅BWの制限もない。
このことから、有線伝送に対してシャノンの通信路容量定理を適用すると、(式2)として表される。
【数2】
【数3】
【0024】
次に、(式2)、(式3)について説明する。
(式2)は、サブキャリアの変数をωとし、伝送帯域の開始周波数をωst、終了周波数をωenとすると、帯域幅BWはBW=ωen−ωstとなる。
また、変数αに関しては、(式1)で示されるシャノンの通信路容量定理で示される通信路容量は理論的な限界値であり、装置化を考慮した現実の伝送容量はそれを下回る。そのため、変数αは現実のシステムにおける伝送容量の劣化量を示すために設けられており、α<1となる。
【0025】
さらに、[X,L]の記号はXがLよりも大きい場合にはX=Lに制限するためのクリップ関数である。SN比が大きくなると、a・log
2{1+SNR(ω,BW)}も大きな値となるが、この値に関しても、現実のシステムを考慮した場合、装置に含まれるシステム雑音により、その上限は制限される。
具体的には、多値変調を行う場合に装置に含まれるシステム雑音を考慮した場合、例えば4096QAM(Quadrature Amplitude Modulation)程度が伝送可能な限界となり、この場合には4096=2
12であるため、L=12で制限されることになる。
以上が(式2)に関する説明である。
【0026】
次に、(式2)に含まれるSNR(ω,BW)について(式3)を用いて説明する。
SNR(ω,BW)はサブキャリアωと帯域幅BWの関数で表される。SN比は送信電力Pに対して、伝送ケーブル130の特性L(ω)の特性が乗算された結果が受信部124に到達する信号電力となる。この際、伝送ケーブル特性L(ω)は、例えば、
図4に示すように、伝送距離により異なる特性となる。
また、雑音成分は受信部124の初段に設けられる低雑音電力増幅器で印可される熱雑音が支配的となり、N
0(BW)=kT・BWとなる。
ここで、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、BWは帯域幅である。
【0027】
次に、(式1)と(式2)を用いて変調方式を最適に制御する適応変調制御部の動作について
図9を用いて説明する。
図9は本発明の一実施例に係る伝送装置の適応変調制御部を説明するためのブロック図である。
適応変調制御部116,126は、SN比補正部901、BW可変部902、最適帯域幅算出部903、SN比補正部904、SNR対変調多値数算出部905で構成されている。
適応変調制御部116,126では、SN比判定部115,125により得られたSN比に対して、帯域幅BWを可変しながら、(式2)及び(式3)を計算することで、帯域幅BW対伝送容量Cの関係を得る。
【0028】
図10は1〜3kmの伝送距離における帯域幅BWと伝送容量Cの関係の一例を図示している。
図10では、例えばケーブル長が1.5kmを想定した場合、帯域幅BWが約80MHzの時に最大のビットレート約640Mbpsを実現できることを示している。
この最適帯域幅の算出は、
図9のSN比補正部901、BW可変部902、最適帯域幅算出部903にて実施し、この具体的な処理について説明する。
【0029】
BW可変部902では、
図10に示すように最適な帯域幅BWを算出するため、狭い帯域幅から広い帯域幅まで帯域幅BWを可変させ、SN比補正部901に入力する。
また、SN比補正部901にはSN比判定部115,125で算出したSN比が入力される。SN比は帯域幅BWの逆数に比例するため、キャリブレーション期間で算出した際の広帯域既知信号の帯域幅をBW
0とするとSN比補正部901での補正後のSNR’(ω,BW)は(式4)となる。
【数4】
【0030】
補正後のSNR’(ω,BW)は最適帯域幅算出部903に入力され、最適帯域幅算出部903ではSNR’(ω,BW)を(式2)に代入して、(式2)の計算を実施する。この処理をBW可変部902によるBWの可変を行いながら実施することで
図10に示す伝送容量C(BW)の特性が得られ、その最大値となる帯域幅BWが最適の帯域幅BW
optとして算出される。
【0031】
図10は帯域幅BWと通信路容量の関係の例を示す図である。
図9の最適帯域幅算出部903からの最適帯域幅BW
optはSN比補正部904に入力され、SN比補正部904のもう一方の入力にはSN比判定部115,125で算出したSN比が入力される。SN比補正部904では(式5)に示すように、最適帯域幅BW
optに対応する補正SN比のSNR’(ω,BW
opt)を算出する。
【数5】
【0032】
図9のSNR対変調多値数算出部905にはSN比補正部904からのSN比が入力される。SNR対変調多値数算出部905では
図11に示すように、補正SN比に対して、各サブキャリアで所要SN比を満たす変調多値数が割り当てられる。
図11は本発明の一実施例に係る伝送装置のSN比と所要SN比を満たす変調多値数の割り当てを説明するための図である。
【0033】
以上の処理がキャリブレーション期間に実施され、その後、データ伝送期間に移行する。
サブキャリア毎に算出された変調多値数の設定は、
図1の適応変調送信部112,122に入力され、それぞれDL送信データ、UL送信データに対して変調多値数に応じたマッピングを行う。その後、逆フーリエ変換等の処理を用いてOFDM変調信号を生成する。このOFDM変調信号の生成は周知の技術を使用する。
【0034】
また、このサブキャリア毎の変調多値数の割り当てや最適伝送帯域幅BW
optは受信部124が変調信号を復調する際に予め通知しておく。これらの情報は変調信号に重畳して伝送しても良いが、別の周波数を用いて受信側に通知しても良く、この通知方法に関しては特に限定しない。
【0035】
データ伝送期間では、
図1の選択部113は適応変調送信部112からの信号を選択して出力する。また、DL期間では時分割選択部117は選択部113からの信号を選択して出力する。
時分割選択部117からのDL信号は伝送ケーブル130を経由して時分割選択部127に入力される。DL期間では時分割選択部127は伝送ケーブル130の信号を受信部124に選択して出力する。
【0036】
このDL伝送は
図7のデータ伝送期間DLにあるBW
opt帯域幅変調信号として示している。
受信部124は、送信側で割り当てられたサブキャリア毎の変調多値数に基づいて復調処理を行い、復調結果の信号をDLの受信データとして出力する。このOFDM復調及び誤り訂正復号は周知の技術を使用する。
【0037】
同様に、UL伝送においても、適応変調送信部122により変調信号が生成され、データ伝送期間では選択部123は適応変調送信部122からの信号を選択して出力する。また、UL期間では時分割選択部127は選択部123からの信号を選択して出力する。
時分割選択部127からのUL信号は伝送ケーブル130を経由して時分割選択部117に入力される。UL期間では時分割選択部117は伝送ケーブル130の信号を受信部114に選択して出力する。
このUL伝送は
図7のデータ伝送期間DLにあるBW
opt帯域幅変調信号として示している。
受信部114は、受信部124と同様に時分割選択部117からの信号に対して復調処理を行い、復調結果の信号をULの受信データとして出力する。
【0038】
以上の処理により、用いられる伝送ケーブルの特性に合わせて、帯域幅とサブキャリア毎の変調方式を最適化することで、従来よりも高いビットレートでの双方向データ伝送を実現することが可能となる。
また、上記の説明ではDL期間とUL期間の比率については特に明記していないが、DL/UL時間比率は要求されるシステム要求によって異なる。例えば、本線信号を伝送するDL伝送に対して、モニタ用の信号を伝送するUL伝送の伝送レートの比が2:1である場合には、DL/UL時間比率も2:1に設定すれば良い。
【0039】
上記の従来技術で説明した周波数分割多重方式ではケーブル長に応じてDL伝送特性とUL伝送特性が大きく異なっていたが、本発明の一実施例による時分割多重方式では、それらの伝送特性は同程度になるため、安定した伝送が実現できる。
【0040】
次に、本発明の第二の実施例について
図2を用いて説明する。
図2は本発明の他の一実施例に係る伝送装置のブロック図である。
図2において、伝送装置は、カメラヘッド部210とカメラ制御部220と伝送ケーブル130で構成されている。
第二の実施例は、
図1に示す第一の実施例におけるSN比判定部115,125を省略し、適応変調制御部116,126へのSNR(ω)信号を外部から入力できる構成となっており、それ以外の構成は第一の実施例と同様である。
【0041】
第一の実施例ではキャリブレーション処理を行うことにより、伝送ケーブルに応じて最適な伝送を適応的に対応することができた。それに対して、第二の実施例は、あらかじめ伝送ケーブル130の特性が把握できている場合に適した伝送装置を提供することを目的としている。
伝送ケーブル130の特性が把握できているため、SNR(ω)も既知の特性であり、このSNR(ω)は適応変調制御部116,126に入力される。
【0042】
適応変調制御部116,126は、外部から入力されたSNR(ω)に基づいて伝送ケーブル特性に適した適応変調を施すことは第一の実施例と同様であるが、第一の実施例と異なる点はキャリブレーション処理を省略することが可能であるという点にある。
また、適応変調制御部116,126はオフラインの計算により最適帯域幅BW
optと変調多値数を算出することであってもよい。
【0043】
オフラインの処理はネットワークに接続された計算機であっても良く、またはオフラインの計算結果を電子的なファイルを経由して適応変調送信部112,122に通知する構成であっても良い。
以上の説明した第二の実施例により、演算処理数が多い適応変調制御部116,126の処理を外部の計算機で計算させることにより、装置の負荷を軽減できるという利点がある。
【0044】
本発明の実施形態である伝送装置は、伝送ケーブルに対して帯域幅、変調方式の最適化を行うことで安定伝送を図ることである。
【0045】
以上、本発明の一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができる。この出願は、2015年10月30日に出願された日本出願特願2015−214349を基礎として優先権の利益を主張するものであり、その開示の全てを引用によってここに取り込む。