(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
なお、特に断りがない場合、「先(端)」や「前(方)」等の表現は、各部材等において液体の噴霧方向側を表し、「後(端)」や「後(方)」等の表現は、各部材等において液体の噴霧方向と反対側を表すものとする。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の静電噴霧装置10の全体構成を示す斜視図である。
図1に示すように、静電噴霧装置10は、液体噴霧部20と、捕集体30と、を備え、液体噴霧部20から噴霧される塗料などの液体を霧化液体の状態で被塗物40に塗布する装置である。
また、静電噴霧装置10は、液体噴霧部20と捕集体30との間、及び、液体噴霧部20と被塗物40との間に電圧を印加する少なくとも1つの電圧印加手段(電圧電源)50を備えている。
【0011】
図1では、液体噴霧部20の中心軸を一点斜線で示しており、
図1に示されるように、液体噴霧部20は、液体噴霧部20の中心軸が捕集体30のほぼ中央に位置するように配置されており、被塗物40は、その中心軸上に位置するように位置しており、この状態で、被塗物40には、塗料などの液体が霧化液体の状態で塗布される。
【0012】
そして、
図1を見れば、分かるように、静電噴霧装置10は、液体噴霧部20と捕集体30との間の距離が、液体噴霧部20と被塗物40に霧化液体が塗布される位置との間の距離よりも離れているようにされている。
また、静電噴霧装置10は、捕集体30、及び、被塗物40をアースする手段60を備え、捕集体30、及び、被塗物40がアースされるようになっている。
【0013】
なお、必ずしもアースする手段60を備える必要はなく、アースする手段60を設けるか否かは任意であるが、作業者が捕集体30や被塗物40に触れる作業を伴う場合には、安全面の観点で設けることが好ましい。
また、本実施形態では、被塗物40に、直接、電圧印加手段からの電気配線が接続されている場合を示しているが、被塗物40に、直接、電気配線を接続する必要はない。
【0014】
例えば、被塗物40が搬送装置などによって、霧化液体が塗布される位置に搬送されるような場合には、電圧印加手段からの電気配線が搬送装置に接続されるようにしておいて、その搬送装置の被塗物40が載置される載置部を介して被塗物40が電圧印加手段に電気的に接続されるようにしても良い。
【0015】
(液体噴霧部)
図2は、
図1の一点斜線(液体噴霧部20の中心軸)に沿った断面図を示したものである。
図2に示すように、液体噴霧部20は、液体の供給される液体供給口21aを有する液体流路21bが形成された絶縁材料からなる本体部21と、貫通孔が本体部21の液体流路21bに連通するように本体部21の先端に設けられる液体ノズル22と、本体部21の液体流路21b内及び液体ノズル22の貫通孔内に配置される導電材料からなる心棒23と、を備えている。
【0016】
本体部21には、心棒23を後端側に取り出すために、液体流路21bと連通した孔部21cが設けられ、その孔部21c内には、心棒23との間の隙間をシールして液体が漏れないようにするシール部材24が設けられている。
なお、本実施形態では、シール部材24としてOリングを用いているが、Oリングに限らず、シールが可能なものであればよい。
【0017】
そして、孔部21cを通じて本体部21の後端側に位置する心棒23の後端には、絶縁材料からなる摘み部23aが設けられているとともに、摘み部23aのほぼ中央を貫通するように設けられた導電材料からなる電気配線接続部23bが設けられている。
【0018】
電気配線接続部23bには、電圧印加手段50からの電気配線が接続されるとともに、電気配線接続部23bが心棒23に接触するようにされることで心棒23と電気配線接続部23bとが電気的に接続されている。
なお、本実施形態では、心棒23を液体噴霧部20の電極としている場合を示しているが、液体ノズル22を導電材料からなるものとして電圧印加手段50からの電気配線が液体ノズル22に接続されるようにし、液体ノズル22を液体噴霧部20の電極としても良い。
【0019】
また、本体部21の後端開口部21dの内周面には、摘み部23aを螺合接続するための雌ネジ構造21eが設けられ、一方、摘み部23aの先端外周面には、雄ネジ構造23cが設けられている。
【0020】
したがって、本体部21の後端開口部21dの雌ネジ構造21eに摘み部23aの先端外周面の雄ネジ構造23cを螺合させることで心棒23が取外し可能に本体部21に取付けられている。
また、摘み部23aの螺合量を調節することで心棒23を前後方向に移動させることができ、心棒23の先端面23dの位置を前後方向に調節できるようになっている。
【0021】
一般に、静電噴霧装置の液体を噴霧するノズルは、液体が流れる貫通孔の直径が小さい微細な液体流路とされる。
これは、液体が流れ出るノズル先端の開口直径が大きいと、安定した液体の霧化状態が得られなくなるためと推察される。
例えば、一般には、ノズル先端の開口直径は0.1mm未満とされている。
【0022】
このため、液体が乾燥したりすると直ぐに、ノズル先端の開口部が目詰まりするが、開口直径が小さいため、この目詰まりを解消することが難しいという問題がある。
【0023】
しかしながら、理由については、後ほど説明するが、心棒23を用いるようにすることで、従来に比較して、ノズル先端の開口径を大きな開口直径としても良好な霧化ができることを見出し、このため、本実施形態の液体ノズル22の先端の開口部22bの開口直径は0.2mmの大きな開口直径にできている。
この結果、目詰まりが発生する頻度を大幅に低減することができるようになっている。
【0024】
なお、液体ノズル22の開口部22bの開口直径は0.2mmに限定されるものではなく、心棒23を用いる形態においては、開口直径は1mm程度であっても問題はない。
【0025】
液体ノズル22の開口部22bの開口直径は、目詰まりが起きにくく、また、目詰まりが起きても清掃ができることを考慮すると、0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましく、さらに0.2mmより大きくすることが好ましい。
【0026】
一方、液体ノズル22の開口部22bの開口直径は、霧化の安定性を考慮すると、1.0mm以下が好適であり、より好ましく0.8mm以下であり、さらに好ましくは0.5mm以下とするのが良い。
【0027】
また、本実施形態では、上述のように、心棒23を前後方向に移動させることができるため、目詰まりが起きても心棒23を移動させることで目詰まりの解消を行うことができる。
さらに、液体ノズル22の貫通孔の内径も心棒23を配置できる程度に大きくできているため、心棒23を取り外して洗浄液を大量に流して洗浄することも可能になっている。
【0028】
図3は、液体噴霧部20の先端側を拡大した拡大図であり、
図3(a)は、心棒23の先端面23dが後方に位置する場合であり、
図3(b)は、
図3(a)の状態よりも心棒23の先端面23dが前方に位置する場合である。
【0029】
図3(a)に示すように液体ノズル22は、開口部22b側に向かってテーパ状に内径が小さくなるテーパ角度がαであるテーパ状内径部(範囲A参照)を有しており、心棒23は、先端面23dに向かって外径が小さくなるテーパ角度がβであるテーパ形状部(範囲B参照)を有している。
【0030】
そして、液体ノズル22のテーパ状内径部のテーパ角度αが、心棒23のテーパ形状部のテーパ角度βよりも大きくされている。
また、心棒23の先端面23dの直径は、液体ノズル22の開口部22bの開口直径よりも小さい直径とされているが、心棒23のテーパ形状部は、後端側に向かって徐々に直径が大きくなり、液体ノズル22の開口部22bの開口直径よりも直径の大きい部分を有するように形成されている。
【0031】
上記のように、液体ノズル22及び心棒23の先端側を形成することによって、
図3(a)及び(b)を見比べるとわかるように、心棒23を前後方向に移動させることで液体ノズル22と心棒23とで形成される隙間の幅を調節できるようになり、液体ノズル22の開口部22bから出る液体の量を調節することができる。
【0032】
また、
図3(b)で示す状態よりも、さらに、心棒23を前方側に動かすことで、心棒23が液体ノズル22の内周面に当接し、液体ノズル22の開口部22bを閉塞することが可能である。
したがって、液体を噴霧しない状態において、液体ノズル22の開口部22bを心棒23で閉塞させ、液体ノズル22内の液体が乾燥することを防止することが可能であり、液体ノズル22が目詰まりを起こすことを抑制ができる。
【0033】
(捕集体)
捕集体30は、被塗物40に塗着しなかった霧化液体が飛散しないように捕集する部材であり、霧化液体が飛散する前に静電気力によって霧化液体を引き寄せて捕集する。
【0034】
このため、液体噴霧部20の極に対して異極を構成するように、捕集体30の材料としては、導電材料や表面抵抗が10
10Ω以下である帯電防止材料を用いて構成するのが好ましい。
【0035】
本実施形態では、捕集体30は、
図1に示すように、平板状の形状としているが、上述のように、静電気力によって霧化液体を捕集するので形状自体は特に限定されるものではなく、また、メッシュのように多数の貫通開口を有していても問題はない。
【0036】
次に、上記構成からなる本実施形態の静電噴霧装置10を用いて、被塗物40に霧化液体を塗布するときの状態について説明を行う。
図4は、被塗物40に霧化液体を塗布するときの状態を説明するための図である。
【0037】
本体部21の液体供給口21aに供給された液体は、液体ノズル22の先端側に供給されていき、被塗物40及び捕集体30と液体噴霧部20との間に印加される電圧に伴う静電気力によって、前方側に引っ張られて前方に離脱・霧化する。
【0038】
なお、液体の供給は、噴霧により消費されることで液体噴霧部20から失われる分の液体が順次供給されていれば良く、液体ノズル22の開口部22b(より正確には、開口部22bと心棒23との間の隙間)から液体が噴射するような圧力で圧送供給される必要はなく、液体が勢いよく噴射される状態の場合、かえって霧化ができなくなるようなことが起こる。
【0039】
より具体的には、心棒23の先端面23d及び液体ノズル22の先端外周縁22aへの表面張力や粘度による付着力に対して、液体を前方に引っ張る静電気力が釣り合うことで、
図3に示すように、液体ノズル22の先端側に供給された液体が、その先端で円錐形の形状となるテーラコーン70が形成される。
【0040】
このテーラコーン70は、電場の作用によって、液体中で正/負電荷の分離が起こり、過剰電荷で帯電した液体ノズル22先端のメニスカスが変形して円錐状となって形成されているものである。
そして、液体ノズル22から離脱する液体は、静電気力によって、テーラコーン70の先端から帯電した液体がほぼ真直ぐに引っ張られ、その後静電爆発によって斜め前方の上下左右に向かって広がるように離脱していく。
この離脱して液体粒子となった液体は、離脱前の状態に比べ、空気に触れる面積が飛躍的に大きくなるため溶媒の気化が促進され、その溶媒の気化に伴って帯電している電子間の距離が近づき、静電反発(静電爆発)が発生して、さらに、小さい粒径の液体粒子に分裂する。
【0041】
この分裂が起こると、さらに、分裂前に比べ空気に触れる表面積が増えることになるため、溶媒の気化が促進され、上述したのと同様に静電爆発が発生し、さらに、小さい粒径の液体粒子に分裂する。
このような静電爆発が繰り返されることで液体が霧化される。
【0042】
ここで、本実施形態では、液体ノズル22内に心棒23を設けるようにしている。
仮に、従来の静電噴霧装置のように、この心棒23を設けないものとすると、液体ノズル22の先端の液体が付着できる部分は、液体ノズル22の先端外周縁22aだけとなる。
【0043】
このような状態で開口直径の大きな液体ノズル22を採用するようにすると、液体の付着できる部分が、液体ノズル22の先端外周縁22aだけのため、例えば、液体ノズル22の上下左右などに液体がふらついたりし易く、きれいなテーラコーン70が形成できなくなったり、また、テーラコーン70自体が維持できなくなるため、液体ノズル22から離脱する液体粒子の安定性(粒子の大きさ、数、及び、帯電状態などの安定性)が得られなくなり、結果、液体の安定した霧化ができなくなるものと推察される。
【0044】
一方、本発明では、液体ノズル22内に心棒23を配置して、液体ノズル22の先端外周縁22aだけでなく、心棒23の先端面23dとの間でも液体は付着する。
したがって、液体ノズル22の開口部22bの開口直径が大きくなっても、開口部22bの中央部に液体が付着できる心棒23の先端面23dが存在するため、従来に増して大きな液体ノズル22の開口部22bの開口直径としても、安定したテーラコーン70を形成することができ、液体の安定した霧化ができるようになっているものと考えられる。
【0045】
なお、心棒23の先端面23dが液体ノズル22の先端外周縁22a(つまり、液体ノズル22の開口部22bの先端面)から前方に出過ぎると液体ノズル22から出る液体に電場が作用し難くなり、一方、心棒23の先端面23dが液体ノズル22の開口部22bの先端面から後方に引っ込み過ぎると、開口部22bの中央部に液体が付着できる部分が存在しないのと同じ状態となる。
【0046】
このことから、霧化液体の塗布を行うときには、心棒23の先端面23dの位置が、液体ノズル22の開口部22bの先端面を基準にして、心棒23の中心軸に沿った前後方向で、液体ノズル22の先端の開口部22bの開口直径の10倍以内に位置することが好適であり、より好ましくは5倍以内に位置することが好適であり、さらに、好ましくは3倍以内に位置することが好適である。
【0047】
例えば、本実施形態では、液体ノズル22の開口部22bの開口直径が0.2mmであるので、霧化液体の塗布を行うときには、心棒23の先端面23dの位置が、液体ノズル22の開口部22bの先端面を基準にして、前後2mm以内に位置しているのが好適であり、より好ましくは、1mm以内に位置しているのが好適であり、さらに、好ましくは、0.6mm以内に位置しているのが好適である
【0048】
上記のように、心棒23の先端面23dの位置が、液体ノズル22の開口部22bの開口直径を基準として定められるのは、液体ノズル22の開口部22bの開口直径に応じて、開口部22bから出てくる液体の大きさが決まるためである。
【0049】
なお、例えば、液体ノズル22の開口部22bの開口直径が、従来のように、0.1mm未満のような場合、液体ノズル22の製作は、機械加工では困難であるが、本実施形態のように、液体ノズル22の開口部22bの開口直径が0.1mm以上あるように大きくできると、液体ノズル22の製作を機械加工で行うことができるという利点もある。
【0050】
そして、液体ノズル22から離脱する液体は、上述のように、液体ノズル22から斜め前方の上下左右に広がるように噴霧されるので、被塗物40に対して衝突する方向に向かう液体のみならず、被塗物40からオフセットした方向に向かう液体もあるが、このような被塗物40からオフセットした方向に向かう液体であってもその多くは被塗物40に塗着することができる。
【0051】
つまり、このような被塗物40からオフセットした方向に向かう液体であっても、静電爆発により小さい粒子径となった霧化液体については、液体粒子が帯電しているので、液体粒子と被塗物40との電位差によって発生する静電気力によって、被塗物40側に引き寄せられて被塗物40に塗着するので、その多くは被塗物40に塗着することができる。
しかしながら、被塗物40からオフセットした方向に向かう液体のうち、静電爆発の進む具合によって、まだ、大きい粒子径を有する霧化液体においては、質量が大きいため、慣性力の方が静電気力に勝る場合があり、被塗物40に塗着せずに飛散するものがある。
【0052】
ここで、
図4を見るとわかるように、液体噴霧部20と捕集体30との間、及び、液体噴霧部20と被塗物40との間に電圧を印加する電圧印加手段50の正極が液体噴霧部20に接続され、負極が捕集体30及び被塗物40に接続されることで、液体噴霧部20の電位が、捕集体30を基準としたときは第1の電位とされ、被塗物を基準としたときは第2の電位とされるようになっているが、この第1の電位の極性の方向及び第2の電位の極性の方向が同じとなるようにされて、捕集体30も液体噴霧部20の極に対して異極となるようにされている。
【0053】
このため、被塗物40の位置を通り過ぎた霧化液体は、今度は、捕集体30に静電気力により引き寄せられて捕集体30に塗着する。
本実施形態では、液体噴霧部20からの距離で被塗物40の位置よりも遠い位置に捕集体30が位置するので、被塗物40の位置よりも、さらに、静電爆発が進み微粒化が進み慣性力が小さくなり、静電気力によって引き寄せ易くなった状態で捕集体30は被塗物40に塗着しなかった霧化液体を捕集することになるので、効率よく霧化液体の捕集を行うことができる。
【0054】
ここで、本実施形態では、捕集体30、及び、被塗物40をアースする手段60によって、捕集体30、及び、被塗物40はともにアースされているので、捕集体30、及び、被塗物40の電位は、共に0(v)とされている。
このため、捕集体30を基準としたとき、つまり、捕集体30の電位を基準電位としたときの液体噴霧部20の第1の電位と、被塗物40を基準としたとき、つまり、被塗物40の電位を基準電位としたときの液体噴霧部20の第2の電位は、同じ電位になっている。
【0055】
上述のように、捕集体30で霧化液体を捕集するためには、液体噴霧部20の極に対して捕集体30が異極となるようになっていればよく、第1の電位と第2の電位とが同じである必要はないが、このように同じ電位にしておけば、霧化液体が被塗物40と捕集体30とのどちらに塗着しやすいかが、液体噴霧部20からの距離によって決まってくる。
【0056】
このため、液体噴霧部20に近い位置にある被塗物40に優位に霧化液体が塗着し、上述のように、主に、被塗物40に塗着できるゾーンを超えて飛行した霧化液体だけを捕集体30が捕集することになるので被塗物40に対する霧化液体の塗着効率を良好に保つことができる。
【0057】
言いかえれば、第1の電位と第2の電位が同じであれば、被塗物40側に引き寄せられて塗着できるはずの霧化液体の一部、例えば、被塗物40の位置を通り過ぎようとしたものの、静電気力によって被塗物40側に塗着するような霧化液体の一部が、捕集体30の電位を基準電位としたときの液体噴霧部20の第1の電位の方が大きい場合、捕集体30側に引き寄せられて被塗物40に塗着しなくなる場合がある。
【0058】
しかしながら、本実施形態のように、第1の電位と第2の電位とが同じであれば、霧化液体を引き寄せる力は、液体噴霧部20からの距離が離れている捕集体30の方が、被塗物40よりも確実に小さくなる。
このため、捕集体30は、被塗物40に塗着できるゾーンを超えて飛行した霧化液体だけを捕集し、被塗物40に塗着できるはずの霧化液体を捕集体30が引き寄せてしまい被塗物40への霧化液体の塗着効率が低下するようなことが抑制される。
【0059】
なお、捕集体30及び被塗物40がアースされて電位が共に0(v)になっていなくても、第1の電位と第2の電位を同じ電位にすることは可能であるので、必ずしも、捕集体30及び被塗物40がアースされる必要はないが、作業者が捕集体30や被塗物40に触れる作業を伴う場合には、安全面の観点でアースされることが好ましい。
【0060】
一方、本実施形態の構成によれば、被塗物40がない場合においても、捕集体30と液体噴霧部20との間に印加される電圧によって発生する静電気力で霧化液体の噴霧状態が実現できる。
【0061】
霧化液体の噴霧開始直後は、霧化状態(液体の噴霧量や粒子径など)が安定しない場合があるため、このような霧化状態が安定していない状態で被塗物40への霧化液体の塗布を行うと塗布ムラの原因などとなる場合がある。
このため、被塗物40への霧化液体の塗布は、噴霧開始直後を避けて、霧化状態が安定してから行うのが好適である。
【0062】
しかしながら、被塗物40を液体噴霧部20の極に対する異極として、被塗物40と液体噴霧部20だけで液体の霧化を行うような構成の場合、霧化液体の塗布が行われる位置に被塗物40が位置する状態でしか霧化液体の噴霧開始が行えないので、上述のような噴霧開始直後の霧化液体の被塗物40への塗布を避けることができない。
【0063】
その点、本実施形態の場合、被塗物40に霧化液体を塗布するために、霧化液体が塗布される位置に被塗物40を位置させる前の段階から、液体噴霧部20と捕集体30との間の電位差で発生する静電気力によって、液体の帯電及び脱離を行い、霧化液体が噴霧されている状態にしておいて、霧化の状態が安定してから霧化液体が塗布される位置に被塗物40を位置させるようにして霧化液体を塗布するという霧化液体の塗布方法を実施することが可能である。
したがって、本実施形態の静電噴霧装置10であれば、被塗物40に対する液体の塗布ムラを抑制した霧化液体の塗布を実現することができる。
【0064】
また、被塗物40が搬送装置で順次自動搬送されながら、被塗物40に霧化液体の塗布を行う場合にも、上述した通り、本実施形態の静電噴霧装置10は、被塗物40が無くても噴霧状態が維持できるため、塗布ムラの少ない連続塗装を行うことができる。
【0065】
(第2実施形態)
図5は、本発明に係る第2実施形態の静電噴霧装置10’の全体構成を示す斜視図である。
図1を参照して説明したように、第1実施形態では、液体噴霧部20は、液体噴霧部20の中心軸が捕集体30のほぼ中央に位置するように配置されており、被塗物40は、その中心軸上に位置するように位置しており、この状態で、被塗物40には、塗料などの液体が霧化液体の状態で塗布されるようになっていた。
【0066】
つまり、液体噴霧部20は、液体噴霧部20の先端が捕集体30に向くように配置されており、被塗物40に霧化液体を塗布するために被塗物40が配置される位置が液体噴霧部20の先端の向く方向と一致している。
【0067】
一方、第2実施形態の静電噴霧装置10’では、
図5に示すように、被塗物40に霧化液体を塗布するために被塗物40が配置される位置が液体噴霧部20の先端の向く方向から外れた位置とされており、この点が第1実施形態と異なっており、その他の点は、第1実施形態と同様である。
【0068】
このように、被塗物40に霧化液体を塗布するために被塗物40が配置される位置が液体噴霧部20の先端の向く方向から外れた位置とされた静電噴霧装置10’では、
図5に矢印で示すように、被塗物40に静電気力によって引き寄せられる霧化液体だけが被塗物40に塗着し、静電爆発の進み具合によって、粒子径が、まだ、大きく被塗物40の引き寄せ力よりも慣性力が勝っているような霧化液体の被塗物40への塗着が回避される。
【0069】
したがって、被塗物40の塗膜は、粒子径の小さい霧化液体だけで形成されることとなり、薄膜で膜厚の均質性が求められるような塗装において良好な塗装を実現することができる。
この場合、積極的に粒子径が大きい霧化液体を被塗物40に塗着させないことになるので、飛散する塗料などの液体の量が増えることになるが、その飛散する液体は捕集体30によって捕集されるので、被塗物40に塗着しない塗料などの液体によって周囲が汚れることもない。
【0070】
(第3実施形態)
図6は、本発明に係る第3実施形態の静電噴霧装置10’’の全体構成を示す斜視図であり(なお、
図6では、電圧印加手段を省略している)、
図7は、
図2と同様の液体噴霧部20の中心軸に沿った断面図であり、
図8は、正面図である。
図6から
図8に示すように、第3実施形態の静電噴霧装置10’’は、第1実施形態の構成に加えて、排気口81を有するブース80と、排気口81から空気を排風する排風手段83と、を備えている点が異なり、その他の点は第1実施形態とほぼ同様であり、捕集体30は排気口81に設けられるようになっている。
【0071】
なお、第3実施形態の静電噴霧装置10’’では、排気口81と排風手段83とが排気ダクト82で繋がれる態様としているが、排気ダクト82を用いずに、排気口81に近接するように排風手段83を設置するようにしても良い。
排風手段83としては、一般的な排気ファンを使用することが可能であるが、使用する塗料などの液体が可燃性の揮発成分などを含む場合には、防爆形の排気ファンを使用するとよい。
【0072】
図9は、第3実施形態の捕集体30だけを示した斜視図である。
図9を見るとわかるように、第3実施形態の捕集体30は、ブース80内の空気が排気できるように、網目形状に形成したものになっている。
【0073】
このような構成とすると、被塗物40に塗着しなかった霧化液体がブース80と排風手段83とからなる排風機構によって排気口81のところに集められることになり、そこに捕集体30が設けられているので、被塗物40に塗着しなかった霧化液体が効率よく捕集体30の近くに集まり、そして、その捕集体30の近くに集まった霧化液体が捕集体30に引き寄せられて捕集されるので、極めて効率の高い霧化液体の捕集が可能となる。
なお、捕集体30には、捕集した霧化液体が付着するので定期的に交換できるように、捕集体30は、排気口81に着脱可能に取付けられていることが好適である。
【0074】
以上、具体的な実施形態に基づいて本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を実施しても良い。
上記実施形態では、電圧印加手段が1つの場合について示したが、電圧印加手段が複数設けられていても良い。
例えば、
図10に示す第1実施形態の変形例のように、捕集体30と液体噴霧部20との間に電圧を印加する電圧印加手段(電圧電源)51と、被塗物40と液体噴霧部20との間に電圧を印加する電圧印加手段(電圧電源)52と、を備えるようにしても良い。
また、この場合、捕集体30をアースする手段61と被塗物40をアースする手段62とを設けるようにしても良い。
【0075】
さらに、被塗物40に塗布する液体は、塗料に限定される必要はなく、静電噴霧装置に用いる液体は、必要に応じて選択すればよい。
加えて、霧化液体を捕集する観点においては、液体噴霧部20が心棒23を備えることは必須の要件ではなく、したがって、心棒23を用いることに限定されるものでもない。
【0076】
また、上記実施形態では、心棒23の先端面23dが平坦な平面である場合を示したが、必ずしも、心棒23の先端が平坦な平面である必要はなく、安定したテーラコーン70の形成に寄与すれば良いので、例えば、心棒23の先端はR形状のように、前方側に向かって突出する曲面になっていても良い。
【0077】
このように、本発明は、具体的な実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良を施したものも本発明の技術的範囲に含まれるものであり、そのことは、当業者にとって特許請求の範囲の記載から明らかである。