【文献】
T.S. CHENG ET AL.,Glycogen Synthase Kinase 3 Interacts with and Phosphorylates the Spindle-associated Protein Astrin,JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2008年 1月25日,vol. 283, no. 4,PP.2454-2464
【文献】
YANG Y C ET AL.,Silencing of astrin induces the p53-dependent apoptosis by suppression of HPV18 E6 expression and sensitizes cells to paclitaxel treatment in HeLa cells,BIOCHEMICAL AND BIOPHYSICAL RESEARCH COMMUNICATIONS,2006年 5月 5日,vol. 343, no. 2,PP.428-434
【文献】
DU J ET AL.,Astrin regulates Aurora-A localization,BIOCHEMICAL AND BIOPHYSICAL RESEARCH COMMUNICATIONS,2008年 5月30日,vol.370,no.2,PP.213-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
該化合物は、ペプチドライブラリー、コンビナトリーライブラリー、細胞抽出物、植物細胞抽出液、低分子薬、アンチセンス−オリゴヌクレオチド、siRNA、mRNA、およびラプターへのアストリンの結合を特異的に阻止する抗体若しくはその断片からなるグループから選択される、請求項1〜4のいづれか一に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明において、用語「接触する:contacting」は、アストリンと候補結合化合物間の何らかの相互作用を意味し、それによって、2つのコンポーネントのうちのいずれも、液相、例えば溶液中において若しくは懸濁液において互いに非依存的であり、又は固相に、例えば実質的に平面構造で若しくは粒子、真珠等の形状で、結合することができる。
好ましい具体化態様では、多くの異なる候補結合化合物が、固相に、例えば、化合物ライブラリー・チップに、捕捉され、そして、アストリン(あるいはそれの機能的な部分)が、続いて、そのようなチップと接触を受ける。
【0019】
本発明の方法で使用されたアストリンは、全長タンパク質又は、N/C-末端及び/若しくは内部の削除された断片でありえる。好適には、断片は、ラプターへのアストリンの結合部分、そして、N-末端断片若しくはC-末端断片を含むものである。
さらに好適には、本発明は方法に関し、該方法において、該アストリンのラプター結合断片は、アストリンポリペプチドのN末端頭部ドメイン、例えば、ここに記述されるようにアストリンポリペプチドのN-末端アミノ酸1-481、特にSEQ ID No.1を含む。
【0020】
アストリンへの結合性が測定される、候補結合化合物は、任意の化学物質あるいは任意のその混合物でありうる。例えば、それは、ペプチドライブラリー、コムビナトリーライブラリー、細胞抽出物、特に植物細胞抽出物、小分子薬、タンパク質及び/又はタンパク質断片のような物質でありえる。
【0021】
アストリンへの該化合物の結合の測定は、タンパク質に若しくは候補相互作用物質に付着させることができるマーカーの測定によっても、行なわれることができる。適切なマーカーは、当業者に周知であり、例えば、蛍光あるいは放射性のマーカーを含む。しかしながら、2つのコンポーネントの結合は、又、結合化合物若しくはタンパク質の電気化学的パラメーターの変化によって測定され、それは結合により、アストリン若しくは結合化合物の酸化還元性の変化が例示される。
そのような変化を検知する適切な方法は、例えば、電位差測定方法を含む。互いへの2つのコンポーネントの結合を検知する及び/又は測定するさらなる方法は、当業者に周知であり、アストリンまたはアストリン断片への候補相互作用化合物の結合を測定するために、制限なしで、使用されうる。化合物の結合の影響若しくはアストリンの活性は、又、例えば、結合後にアストリンの酵素活性を分析することにより、間接的に測定されうる。
【0022】
候補相互作用化合物の結合を測定した後、及び、少なくとも2つの異なる候補相互作用化合物を測定した後の更なるステップとして、少なくとも1つの化合物が、例えば、測定された結合活性を根拠に、あるいはアストリン(結合)活性及び/又は発現の検知された増加若しくは減少を根拠に、選択されうる。
【0023】
本発明の別の態様は、スクリーニング方法に関し、ストレス小粒コンポーネントG3BP1とアストリンの相互作用の付加的スクリーニングを含む。該スクリーニングは、アストリンの存在若しくは欠如で可能であり、及びアストリンとラプターを使った最初のスクリーニングにおいて同定された(予備的に選ばれた)化合物の存在若しくは欠如で可能である。
【0024】
かくして選択された結合化合物は、好ましい実施態様において、更なるステップで修飾される。修飾は、当業者に知られる、多様な方法によって達成することができ、それは、制限なしに以下を含む;新規側鎖の導入、又は例えば特にF、ClあるいはBrであるハロゲンの導入のような官能基の置換、好適には例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、ターシャリー-ブチル、n-ペンチルあるいはイソペンチル基のような1〜5つの炭素原子をもつ低級アルキル基、好適には、2〜5つの炭素原子を持っている低級アルケニル基、好適には、2〜5つの炭素原子を持つ低級アルキニル基の導入、又は例えばNH
2、NO
2、OH、SH、NH、CN、アリル、ヘテロアリル、COH若しくはCOOH基のグループから選ばれた基の導入による。
【0025】
かくして修飾された結合化合物は、本発明の方法で個々にテストされ、つまり、それらはアストリンと接触を受け、ついで、アストリンポリペプチドへの修飾された化合物の結合が測定される。このステップで、両方のそれ自身の結合が測定されえ及び/又はアストリン様機能の効果、つまり例えば、ラプターへの結合及び/又は該ポリペプチドの酵素活性が測定されうる。もし必要なら、結合化合物の選択、結合化合物の修飾、アストリンポリペプチドと結合化合物の接触、修飾化合物の該タンパク質への結合の測定のステップが、必要とするだけ、3度あるいは求められる回数繰り返すことができる。
上記の記述された方法は「指向性進化」となづけられた。というのは、修飾と選択の多くのステップを含み、それによって、結合化合物は、特性、例えばその結合活性、アストリンポリペプチドの活性を活性化するか調整するその能力のような特性に関して、その能力を最適化する「進化の」プロセスで選択されている。
【0026】
上記のものを考慮して、ヒトへの本発明の可能な適用は次のものを含んでいる;
a) 診断アプローチ: アストリン活性は、ラプターそしてしたがってmTOR複合体1とリンクされるので、遺伝子検査は、特に個別化された治療計画を展開するために、アストリン結合、活性及び/又は発現に基づいた癌に関連して個々のリスクを評価するために開発されうる。
b) 薬学的(癌)および治療的アプローチ: 本発明者のデータは、アストリン作用の阻害は、哺乳動物/ヒトの癌の進行を阻害、処置及び/又はスローダウンさせる薬剤として使用できることを示唆する。アストリン結合阻害剤/阻害構成物は、同様に制癌剤として使用されうる。
【0027】
アストリン/ラプターパスウェイは、細胞分裂とアポトーシス及び/又はその他、未知の生物学的現象を調節することについて潜在的に価値のある下流部標的をもつ新規なパスウェイである。
【0028】
ここに使用されるような用語「相同」は、BLAST [Basic local alignment search tool; Altschul, S. F. et al., J.Mol. Biol., 215, 403-410, (1990)]サーチによって得られた評価を意味する。アミノ酸配列での相同はBLASTサーチアルゴリズムによって計算されることができる。特に、それはデフォルト・パラメーターに従って、BLASTパッケージ(sgi32bit edition, version 2.0.12;NCBIから得られた。)でbl2seqプログラム(Tatiana A. Tatusova and Thomas L. Madden, FEMS Microbiol. Lett.,174, 247-250, 1999)を使用して計算されうる。
ペアの整列パラメーターとして、プログラム「blastp」が使用される。さらに、ギャップ挿入コスト価値として「0」、ギャップ延長コスト価値として「0」、質問シーケンス用のフィルタとして「SEG」およびマトリックスとしての「BLOSUM62」が、それぞれ使用される。
【0029】
その他の態様によれば、本発明の目的は、癌の治療用若しくは予防用薬剤のためのスクリーニングツールを提供することにより達成され、特に、アストリンを発現する及び/又はそのラプター結合断片を発現する単離された細胞を含み、細胞における、発現、生物活性及び/又はラプターとのアストリンの相互作用を調整する化合物のスクリーニングツールを意味し、ここで、該細胞は選択的にラプター及び/又はそれのアストリン結合断片を発現し、及び該細胞はヒト胚性幹細胞ではない。
該細胞は、原核生物か真核細胞でありえ、また、発現構築物は、染色体外に存在することができ、若しくは、染色体へ導入することができる。該ポリペプチドは、発現産物を検知することができるように、例えば、リポーター構築物として酵素的に活性な分子と共に、融合タンパク質の形で発現することができる。好適な宿主細胞は、骨格筋、肝臓、脂肪組織、心臓、膵臓、腎臓、胸部組織、卵巣組織及び/又は視床下部から選ばれた細胞に由来する。したがって、本発明の好適なスクリーニングツールにおいて、該細胞は、癌細胞のグループ、アストリン若しくはそれのラプター結合断片を発現する組換宿主細胞、酵母菌および組換細菌細胞であり、該組換細胞はラプター及び/又はそれのアストリン結合断片を選択的に発現する。
さらに好適な、本発明の方法において、アストリンの当該ラプター結合断片は、アストリンポリペプチドのN末端頭部ドメインを含み、例えばここに記述されるようなアストリンポリペプチドのN-末端アミノ酸1-481であり、特にSEQ ID No.1である。
【0030】
また別の態様によれば、本発明の目的は、癌を治療するか予防するための薬剤のスクリーニングツールを提供することにより達成され、特に、細胞におけるアストリンとラプターの相互作用、発現、及び/又は生物学的活性を調整する化合物を選択するためのスクリーニングツールであり、そこで、該細胞は、非ヒト遺伝子組換哺乳動物の一部であり、それは好適には遺伝子リポーター構築物として選択的にアストリン及び/又はラプターを過剰発現する。
トランスジェニックマウス、ネズミ、ブタ、ヤギあるいは羊が好適であり、そこではリポーター構築物は、骨格筋、肝臓、脂肪組織、心臓、膵臓、腎臓及び/又は該動物の視床下部から選ばれた細胞で好適に発現される。アストリン及び/又はラプターを過剰発現する及び/又はアストリン及び/若しくはラプター遺伝子リポーター構築物を担持する非ヒト遺伝子組換哺乳動物を生産する方法は当業者に周知である。アストリン/ラプターに同族である遺伝子が、修飾機能をもつ遺伝子(例えばノックアウトあるいはノック・イン動物)によって交換される遺伝子組換非ヒト哺乳動物が好適である。
【0031】
アストリンと相互作用する化合物の同定、ラプターへのその結合及び/又はアストリンの生物活性の取り組みと同様に、細胞における、アストリンの発現を調整する化合物も同定されうる。好適な戦略では、アストリンの発現は、遺伝子リポーター構築物を使いアストリンをモニターされ得(アストリンポリペプチドの翻訳効果及び/又は安定性を分析するために)、例えばそれは検知できる融合メンバーを含む融合タンパク質(酵素的若しくは蛍光基、あるいはここに記述されるようなGFPのような)であり、又は細胞中に存在するmRNAの量が例えばノーザンブロットによって測定されうる。
発現は、チップ分析あるいはrtPCRの使用により分析しモニターされうる。細胞でのアストリンの発現を調整する好ましい化合物は、特異的アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNAs、mRNAあるいはアストリンをコードする他の好適変異核酸から選ばれる。これらの遺伝子要素は、該細胞における、アストリンの機能欠損(例えば同定されるようなトランケーションによって)若しくはそのラプター結合を、提供する/維持するために使われる。
別の好ましい態様は、遺伝子治療を使用して、当該遺伝子要素の移入である。更に、当該細胞への該遺伝子要素の導入のためのウイルス構築物が包含される。あるいは、さらに、「裸の」核酸が細胞へ導入されうる、例えば、粒子仲介技術の使用による。それぞれの方法は、文献によく記述され、当業者に知られている。
【0032】
さらに好適な本発明の態様は、スクリーニングツールであり、該アストリン、ラプター及び/又はそれらの断片は標識化される。標識および標識化方法は、当業者に周知であり、酵素化標識、染料、蛍光物質及び/又は放射活性の標識でありえる。
【0033】
また本発明の別の態様は、ここに記述されるような細胞におけるアストリンとラプターの相互作用、発現、及び/又は生物学的活性を調整する化合物をスクリーニングするための該ツールの使用に関する。本発明の好適な使用において、該ツールは、アストリンポリペプチドのN末端頭部ドメインを含むアストリンのラプター結合断片であり、例えばここに記述されるようにアストリンポリペプチドのN-末端アミノ酸1-481、特にSEQ ID No.1である。
【0034】
本発明の別の態様は、次のステップを含む、癌を治療若しくは予防する医薬組成物を製造する方法に関する;本発明によってスクリーニングを履行し、スクリーニングされ同定された当該化合物を医薬組成物に剤型化する。
【0035】
本発明の方法のさらなる態様において、上記に概説される同定された相互作用する化合物(それは修飾と選択の付加的繰り返しをしてもしなくとも)は、適切な補助物質及び/又は添加物と混合される。そのような物質は、薬学的に許容される物質を含み、それらは、相互作用する化合物の安定性、溶解性、生物学的適合性あるいは生物学的半減期を増加させるか、又は、例えば、静脈投与用注射液、スプレー、バンドエイドあるいは錠剤のような投与の特定ルートのために含まれねばならない物質若しくは材料を含む。
【0036】
例えば、任意の従来のルートによって、特に、経腸的に、例えば経口、例えば錠剤若しくはカプセルの剤型で、非経口的に、例えば注射用溶液若しくは懸濁液、局所的に、例えばローション、ゲル、軟膏若しくはクリームの剤型で、若しくは経鼻あるいは座薬剤型で、全身にあるいは局所的に投与される製薬組成物の剤型化のための担体、補助剤及び処方は、当業者に周知である。
【0037】
薬剤、例えば、化合物の投与は、薬剤が標的細胞に到着することを可能にするあらゆる方法によってなされうる。これらの方法は、例えば注射、付着、埋め込み、坐薬、経口摂取、吸入、局所性投与、薬剤による標的細胞へのアクセスが達成される投与の他の方法を含む。
注射は、例えば、静脈内か皮内か、皮下か、筋肉内か、腹腔内投与でありえる。植え込みは、植え込み型薬物送達システム、例えばマイクロスフェア、ヒドロゲル、重合体リザーバー、コレステロールマトリックス、マトリックス浸食及び/又は拡散システムのような重合体システム、圧縮、融合若しくは部分的融合ペレットのような非重合体のシステムを含む。坐薬はグリセリン坐剤を含む。
経口摂取投与剤は、腸管的に被覆できる。吸入は、人工呼吸装置でのエアゾールでの薬剤投与を含んでおり、単独で若しくは吸収することができるキャリアーに付着されうる。薬剤は、液体中に、例えば溶解若しくはコロイド状形態で懸濁されうる。液体は、溶媒、部分的溶媒若しくは非溶媒でありうる。多くの場合では、水あるいは有機的な液体が使用されうる。
【0038】
さらに、本発明の別の態様は、癌を治療若しくは予防のための、上記のような方法によって入手可能な、薬学的組成物を指向する。
【0039】
ある具体化態様では、化合物(阻害剤)は、例えば、siRNAのような抗アストリン RNAのような組換核酸の投与により、対象を処置されうる。好適には、組換核酸は、遺伝子治療ベクターである。
【0040】
本発明の別の態様は、方法若しくは用途に関係があり、そこでは薬学的組成物が、さらに、癌治療のための付加的な薬学的活性物、例えばラパマイシンのような、化学療法剤を含む。
【0041】
加えて、本発明の別の態様は、上記の本発明による薬学的組成物の有効な量を患者に投与することを含む、患者の癌を治療若しくは予防する方法に関する。一般に、主治医は、同定されるような化合物での処置を基本とし、そして選択的に他の個々の患者データ(臨床データ、家族歴、DNAなど)に治療を基づかせる。
そして、治療は、これらの要因のコンビネーションに基づいても行なうことができる。本発明のこの方法は、個々の診断の癌データを、患者の臨床データおよび一般的なヘルスケア統計を、例えば、患者へのテーラーメイド医療の適用を可能にするために統合することを含む。薬剤有効性、薬物相互作用および他の患者のステータス条件に関する重要な情報も、使用されうる。
【0042】
好適には、本発明の治療方法の処置されるべき哺乳動物は、マウス、ネズミあるいはヒトである。
【0043】
より好ましくは、治療される癌は、固形腫瘍であり、例えば、乳腺、骨、卵巣、肝臓、腎臓および肺の癌が例示される。
【0044】
好適には、阻害活性薬剤は、抗体、ヌクレオチドあるいはアストリン/ラプター結合のための不活性化結合化合物のような薬学的組成物の形態で投与される。好適には、患者はヒトである。処置は、例えば、癌のような疾患若しくは症状の予防、治療、兆候の減少若しくは治癒等を含む。
【0045】
本発明の別の態様は、癌を治療するか予防する薬学的組成物の製造のための、ラプターへのアストリンの結合、及び/又は細胞でのアストリンの発現及び/若しくは生物活性の調節因子の使用に関係がある。本発明の好適な製造への使用において、該調節因子は、ラプターへのアストリンの結合、及び/又はアストリンの発現及び/若しくは生物活性、の阻害剤である。
【0046】
さらに、本発明の別の態様は、ラプターへのアストリンの結合を特異的に認識する及び相互作用する単クローン抗体あるいはその機能的断片、例えばscFv若しくはFab断片、に関係する。好適には、該単クローン抗体若しくはその機能的断片は、ラプターへのアストリンの結合を妨げる、例えば阻害する。該抗体若しくはその断片は、標識化することができ(上記参照)、及び/又は、例えば、抗体指向酵素プロドラッグ療法(ADEPT)(antibody-directed enzyme prodrug therapy)若しくは放射免疫療法(RIT)のために、それらに付着された治療群を担持できる。
【0047】
「有効な量」は、ここに記述の、アストリンの発現及び/又は存在量における減少をもたらす、又は、ラプターへのアストリンの結合を阻害する及び/又は減少させる該化合物若しくは該薬学的組成物の量である。該量は、癌で見られるような徴候を緩和する。緩和とは、例えば、疾患(癌)若しくは症状(例えば腫瘍サイズ及び/若しくは転移)を、例えば、予防、処置、減少させること、又は治癒させることを含む文言である。
【0048】
本発明は、さらに癌のリスクがある患者を処置する方法を含み、そこで、治療的に有効な量の調節因子が提供される。該疾患のリスクがあることは、例えば該疾患の家族歴、該疾患を起こしやすい遺伝子型、あるいは該疾患を起こしやすい表現型の徴候に起因しうる。本発明のさらなる態様は、細胞でのアストリンの発現及び/若しくは生物活性、及び/又はラプターへのアストリンの結合の調節因子の、癌を治療若しくは予防する薬学的組成物の製造における使用である。好適には、該調節因子は、ここに記述されるような、該発現及び/又は生物活性及び/又はラプターへのアストリンの結合の阻害剤である。
【0049】
上述のように、ラパマイシン(rapamycin)(mTOR)キナーゼの哺乳類の標的は、細胞の成長および代謝の主要なレギュレーターである(Polak, P., and Hall, M.N. (2009). mTOR and thecontrol of whole body metabolism. Curr Opin Cell Biol 21, 209-218) 。mTORは、多くの腫瘍、および年齢関連の疾患において、非調節化される(Laplante, M., and Sabatini, D.M. (2012). mTORSignaling in Growth Control and Disease. Cell 149, 274-293) 。そして、mTOR阻害剤は、現在、腫瘍及び代謝疾患のために臨床試験中である(Inoki, K., Kim, J., and Guan, K.L. (2012). AMPK andmTOR in cellular energy homeostasis and drug targets. Annu Rev PharmacolToxicol 52, 381-400)。
【0050】
mTORは、mTOR複合体1(mTORC1)およびmTORC2という名の、2つの別個の多重タンパク質複合体で存在する。mTORC1による翻訳調節は、いくつかのレベルで、4E結合蛋白質(4E−BP1)を含むいくつかの翻訳開始因子の調節によって短期間、およびリボソームのコンポーネントの翻訳のコントロールおよびpre-RNAのプロセシングにより長期間、行われる(Grzmil, M., and Hemmings, B.A. (2012). Translationregulation as a therapeutic target in cancer. Cancer Res 72, 3891-3900; Iadevaia, V., Wang, X., Yao, Z., Foster, L.J., andProud, C.G. (2012a). Evaluation of mTOR-regulated mRNA translation. Methods MolBiol 821, 171-185; Iadevaia, V.,Zhang, Z., Jan, E., and Proud, C.G. (2012b). mTOR signaling regulates theprocessing of pre-rRNA in human cells. Nucleic Acids Res 40, 2527-2539; Thedieck, K., and Hall, M.N. (2009). TranslationalControl by Amino Acids and Energy. In The Handbook of Cell Signaling, R.B.a.E.Dennis, ed., pp. 2285-2293)。
【0051】
酸化ストレスとROSは、ストレス小粒(SGs)およびp-bodies(PBs)(processing bodies)を導き、それらは高度に動的であり、mRNAターンオーバーと翻訳を調整する及び細胞生存に寄与する微小管依存性構造でありトーマス等によってレビューされた(Thomas, M.G., Loschi, M., Desbats, M.A., and Boccaccio,G.L. (2011). RNA granules: the good, the bad and the ugly. Cell Signal 23, 324-334; and Anderson, P., and Kedersha, N. (2009b). Stressgranules. Curr Biol 19, R397-398)。SGsとPBsは進化的に保存されたRNA粒子である。それらは互いに恒常的交換状態にあり、そして、PBおよびSGマーカータンパク質p54/DDX6を含むいくつかのコンポーネントを共有する。PBsは、常在型細胞コンポーネントであり、miRNA、RNAiを経たmRNA分解若しくはナンセンス仲介分解のサイトである。対照的に、SGsは、ストレス下で形成されるmRNA蓄積のサイトである。
温度、栄養素ストレス、酸化ストレスあるいは放射能に対する細胞の反応は、翻訳抑制のいくつかのメカニズムを活性化し、その中にはeIF2alpha-S51燐酸化および阻害があり、RNA粒子内に非ポリソーム的なポリアデニル化mRNAおよび翻訳開始因子の蓄積に結びつく。これらのmRNAタンパク質複合体は、細胞障害性粒子関連RNA結合蛋白質TIA1、TIA-1関連するタンパク質TIARおよびRasGAP SH3結合タンパク質G3BP1を含む、自己関連SGコンポーネントと共に、SGsにおいてアッセンブルしうる。顕著に、これら後者のコンポーネントの過剰発現は、SGsを誘導するのに多くの場合十分である。SGsにおいてmRNAは、PBsで分解のためにソートされる、あるいはストレス緩和における翻訳再開始のために保存される。
【0052】
SGsとmTORの両方は、酸化還元反応のストレスおよび翻訳調節に密接に関係づけられるが、哺乳動物において該2つの間の関係の証拠はなく、また、直接の分子のリンクは未解決のままである。本発明では、発明者はmTORC1シグナリングの重大なコンポーネントとしてアストリンを確立し、それは癌細胞のSGアッセンブリーおよびアポトーシス感受性とmTORC1活性を結び付ける。それらは、アストリンがSGsへmTORC1の構成要素のラプターを補充し、代謝的攻撃および酸化還元反応のストレスにおけるmTORC1活性化を制限するためにmTOR-ラプター複合体を解離することを実証した。
更に、データは、アストリンが、mTORC1-依存の抗アポトーシス性SG機能を仲介することを示す。アストリンは、癌細胞で高度に発現され、低酸素誘導酸化還元反応のストレスが腫瘍において共通の状態であるので、アストリンは、mTORC1活性をコントロールし、かつアポトーシスへ腫瘍細胞を感受性にするための治療的介在物として有望な標的である。
【0053】
次の図、配列および実施例は、単に本発明を例証する役目をし、実施例に記述された発明に本発明の範囲を制限するためには解釈されるべきではない。ここに引用されるような参照はすべて、参照によってそれらの全体が本願明細書の記述に組み入まれる。
【0054】
SEQ ID NO .1は、ヒトアストリンのアミノ酸配列を示す。
【実施例】
【0056】
実験手法
構築物、試薬、細胞株および組織培養。
pCMV6-AC-FLAG-アストリン(オーダー# RC201783)は、“Origin, Rockville, MD,USA”から購入された。アストリン全長cDNA配列は、メーカーのプロトコルによって次のプラスミドへ移入された: pCMV6-AC-GFP、pCMV6-AN-GFP、pCMV6-AN-FLAG、pCMV6-エントリー。
DNAトランスフェクションは、以下に記述されるように行った:JetPEI, PolyPlus, Strasbourg, France JetPEI, PolyPlus, Strasbourg, Franceas described (Sonntag, A.G., Dalle Pezze, P., Shanley, D.P., andThedieck, K. (2012). A modelling-experimentalapproach reveals IRS dependent regulation of AMPK by Insulin. FEBS J)。
【0057】
siRNAトランスフェクションは、メーカー・プロトコルによってLipofectamine™ 2000, Invitrogen, Carlsbad, CA, USAで行った。アストリン/SPAG5 siRNA(オーダー#L-006839-00-0005)は、Dharmacon ThermoFisherScientific, Waltham, MA, USAから得た。ラプターとTSC2用の安定的に形質導入された誘導性shRNA細胞株は記述(Dalle Pezze et al., 2012b)によった。アストリン siRNAは、ON-TARGET プラスSMARTpool siRNA(# L-006839-00-0005)で誘導された;Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA, USA。
【0058】
レンチウイルスのアストリンshRNA(オーダー# RHS4740)は、誘導性shRNAmir遺伝子セットとしてOpen Biosystems, ThermoFisher Scientific, Waltham, MA, USAから得た。HeLaαKyoto細胞は、メーカー・プロトコル(clone A8,ID# V2THS_203559; G9, ID# V2THS_203218; D9, ID# V3THS_361123;H8, ID# V3THS_361121; B1, ID# V3THS_361120)によってレンチウイルスで形質導入された。すべてのsiRNAsおよびshRNAクローンのための標的配列は異なっていた。
【0059】
実験は、HeLaαKyoto細胞およびBT474、MDA-MB-231、MDA-MB-453、T-47DおよびMCF-7乳癌細胞株で行った。組織培養プロトコルは記述(Dalle Pezze, P., Sonntag, A.G., Thien, A., Prentzell,M.T., Godel, M., Fischer, S., Neumann-Haefelin, E., Huber, T.B., Baumeister,R., Shanley, D.P., et al. (2012b). ADynamic Network Model of mTOR Signaling Reveals TSC-Independent mTORC2Regulation. Sci Signal 5, ra25)によった。 乳癌細胞株T-47D、BT474、MDA-MB-231およびMDA-MB-453の培養は、次の培地で行った: 100 nM インシュリンで補充されたRPMI (PAA, Pasching,Austria) 。MCF7細胞は、RPMI (PAA, Pasching,Austria)で培養された。記述された(Sonntag et al., 2012)ように、インシュリン/aa誘導はなされた。500 µM Arsenite 若しくは 2 mM H
2O
2でのストレス誘導に先立って、細胞は、1.5%のL-グルタミンで補われたグルコースおよびウシ胎仔血清のないDMEM(PAA, Pasching, Austria)中で16時間飢えさせた。
【0060】
ストレス小粒は、30分のストレス誘導の後に分析された。アポトーシスは、1-3時間のストレス誘導の後に分析された。阻害剤は、Calbiochem, Merck KGaA, Darmstadt, Germany andSigma Aldrich, St.Louis, USAから得られ; DMSOに溶かされ、次の濃度で、すべての誘導レジメ前30分適用された: Rapamycin(100 nM), PP242 (250 nM), Wortmannin (200 nM), Cycloheximide(2 µg/mL);ヒーラー細胞は、Nocodazole(400ng/mL)で同期化され、つづく有糸分裂がG2/Mでシェイクオフされ、そして記述されるようにリリースされる(Rapamycin(100 nM), PP242 (250 nM), Wortmannin (200 nM), Cycloheximide(2 µg/mL)。
【0061】
質量分析。
新規なmTORおよびラプター相互作用の同定を記述されるように行った(Thedieck, K., Polak, P., Kim, M.L., Molle, K.D.,Cohen, A., Jeno, P., Arrieumerlou, C., and Hall, M.N. (2007). PRAS40 andPRR5-like protein are new mTOR interactors that regulate apoptosis. PLoS One 2, e1217007)。
【0062】
リシス、IPおよび免疫ブロット法(IB)
これは以下に記述される(Dalle Pezze, P., Sonntag, A.G., Shanley, D.P., andThedieck, K. (2012a). Response to Comment on "A Dynamic Network Model ofmTOR Signaling Reveals TSC-Independent mTORC2 Regulation". Sci Signal 5; Dalle Pezze et al., 2012b; Sonntaget al., 2012; Thedieck et al., 2007)。抗体は別記される(Dalle Pezze et al., 2012b; Sonntag et al., 2012)。さらなる抗体は、HistoneH3 (#A300-823A), Histone H3-pS10 (#A301-844A)及びDDX6/p54 (#A300-461A)に対するものがBethyl, Montgomery, TX, USAから及びATF-4 (#11815), hnRNP-A1 (#8443), YB1 (#9744),HSP90 (#4877), HSP70 (#4867), HSF1 (#4356)に対するものがCell Signaling Technology Inc., Boston, MA, USAから及びG3BP1 (#sc-81940), astrin (#sc-98605)に対するものがSanta Cruz, CA, USAから及びPlk1 (#ab17056)に対するものがAbcam, Cambridge, UKから得た。
抗体はすべてメーカー・プロトコルによって使用された。PLAのための単クローン抗体は、Dr. Elisabeth Kremmer,(Helmholtz ZentrumMünchen, Institute of Molecular Immunology, Marchioninistrasse 25, 81377Munich, Germany)によってアストリン、mTORおよびラプターのためにマウスかネズミで調製された。抗体産生のためのペプチドは、Peptide SpecialtyLaboratories (PSL) GmbH, Heidelberg, Germanyによって作られた。
【0063】
IF、蛍光顕微鏡検査法および共焦点顕微鏡検査法。
IF 染色は、記述されるように行われた(Thedieck etal., 2007)。細胞は、-20℃で氷寒メタノールによって5分間固定された。GFP-トランスフェクト細胞は、室温で、20分間4%パラホルムアルデヒドで固定された。蛍光顕微鏡検査法は、AxioCam MRm3CCDカメラを備えたAxioimager.Z1複合顕微鏡で行った; Axiovisionソフトウェア・バージョン4.8.1 (CarlZeiss AG, Germany)が画像分析に使用された。
共焦点顕微鏡検査での画像診断は、100x/1.45 NAPlan-Apochromate objectiveを備えたLSM 510 Duo-Live顕微鏡(両方CarlZeiss)で行った。フルフォロフォアー(Hoechst 33342, Alexa-488, Cy3, Cy5)の励起は、各々405、488、561および633nmで行った。指定された範囲の発光信号の検知のために、光電子増倍管チャンネルが、BPのフィルタ420-480、BP 505-530、BP 575-615、LP 650nmで使用された。共焦点針穴直径は、1μmセクションに常に調節された。すべてのイメージにおけるスケールバーは、10μmである。
【0064】
PLA分析。
PLA分析に使用された全ての試薬は、Olink Bioscience, Uppsala, Sweden から得、そして全てのPLA反応は、メーカープロトコルにより、ウェルあたり20μLのサンプル・ボリュームで、暗湿度容器で行われた。簡潔に、細胞はテフロン
登録商標でコートされたPLAスライド(Menzel-Gläser, Thermo Scientific)上に接種され、7.5%CO
2中で37℃ 2日間培養した。細胞は、-20℃5分間で100%メタノールによって固定した。
固定化後、細胞は、4℃15分間そしてRTで15分間、0.5%サポニン含有PBSで処理され、37℃で60分間5%BSA含有 PBSでブロックされた。細胞は、4℃で一夜、一次抗体(mTOR複合体コンポーネントおよびアストリンに対するもので自己生産:抗体希釈で1:50稀釈)とインキュベートされた。次の日、細胞は、37℃で60分間、一致するPLAプローブ(各々、抗マウス、抗ウサギ若しくは抗ラット用のユニークDNAプローブに結合した第2の抗体)とインキュベートされた。NA-oligosの連結および環状化のために、細胞は、37℃で30分間、リガーゼ溶液とインキュベートされた。ローリングサークル増幅のために、細胞は、37℃で120分間、検知できるフルフォロフォアーとして相補的なAlexa555ラベル化DNAリンカーを含む増幅溶液でインキュベートされた。
細胞は、DAPI含有Duolink In Situ Mounting Mediumの最小ボリュームを使用し、カバーグラス(24x50 mm)に載せ、共焦点顕微鏡検査で分析した(Zeiss LSM 510 orLSM 780 META laser scanning microscope equipped with a 63x/1.4 oil DICobjective), (Zeiss, Jena, Germany) 。写真は、1024x1024(1764x1764)ピクセルの最適なフレーム・サイズで、優れたイメージのためにスキャンスピード7および12ビット(8ビット)のダイナミック・レンジで撮られた。アンプ・オフセットおよび検知器ゲインは、最初に調節され、実験のセッションの間変更されなかった。細胞あたりのシグナル比率(細胞当たりのレッドPLAスポットの数)は、個々の細胞のための定義されたピクセル・サイズとしてPLA−シグナルおよび核を数える無料配布のBlobFinderソフトウェア(Centre for ImageAnalysis, Uppsala University, Sweden)で分析された。
【0065】
計量と統計。
実験はすべて少なくともN=3繰り返しで行った。IBにおけるシグナルは記述されるように計られ標準化された(Dalle Pezze et al., 2012b)。IBとPLAのデータの分析のため、ノンパラメトリカルな2テイルド−スチューデントのt-検定が、不等な変化を仮定して使用された。統計分析は、p<0.05の信頼区間で行った。標準誤差(SEM)が、統計の変わりやすさを評価して選ばれた。ボックスとウィスカーのプロットはGraphPadプリズム6.01ソフトウェアで計算された。百分位数は次の定式によって計算された: 結果=百分位数*[n(値)+1/100]。メジアン(50百分位数)、25〜75百分位数(ボックス)および5〜95百分位数(ウィスカー)が示される。
【0066】
アストリンは、mTORC1アッセンブリーを阻害する特異的ラプター相互作用物質である。
新しいmTOR調節剤を同定するために、本発明者は、ヒーラー細胞から、内在性のmTOR、ラプター(mTORC1)、およびRictor(mTORC2)を免疫法で精製し、記述されるように(Thedieck et al., 2007)質量分析(MS)によって免疫沈澱物(IP)を分析した。
驚いたことに、ラプターは、mTORとの複合体において作用すると一般的に思われてきた(Laplante, M., and Sabatini, D.M. (2012). mTORSignaling in Growth Control and Disease. Cell 149, 274-293)けれど、本発明者は、ラプターIPにアストリンを同定し (
図2、配列カバレッジ12%)、mTOR若しくはRictor IPでは同定されなかった。これは、ラプターのmTOR(mTORC1)との複合体においてではなく、アストリンがラプターに結合することを示唆した。
【0067】
アストリン(UniProtKB: Q96R06)は、160と140 kDaの大きなタンパク質であり、そのより小さなアイソフォームは、蛋白質分解から恐らく生ずる。
高いアストリン mRNAレベルは、胸部および肺の癌における悲観的な予後と関係がある(Buechler, S. (2009). Low expression of a few genesindicates good prognosis in estrogen receptor positive breast cancer. BMCCancer 9, 243; Valk, K., Vooder, T.,Kolde, R., Reintam, M.A., Petzold, C., Vilo, J., and Metspalu, A. (2010). Geneexpression profiles of non-small cell lung cancer: survival prediction and newbiomarkers. Oncology 79, 283-292)。したがって、本発明者は、3つの乳癌細胞株中のアストリンタンパク質発現を分析した。アストリンタンパク質レベルは、Akt活性と肯定的に関係し、否定的にmTORC1基質PRAS40-S183およびp70-S6K1-T389の燐酸化と関係した。
【0068】
ヒーラー細胞でのFLAG-アストリンの過剰発現は、アストリンとラプター間の可能な機能的な関連の考えを強くするように、ラプターのレベルを増加させた。
FLAG-アストリンは、MSのデータと一致するように、ラプターと共免疫沈澱をしたが、mTORあるいはmTORC2構成要素Rictorとではおこらなかった。さらに、内在性のアストリンは、ラプターと共免疫精製したが、mTORではおこらなかった(
図2)。したがって、アストリンは、本質的なmTORC1構成要素ラプターの特異的相互作用物質であり、mTORキナーゼ自体のそのような物質ではない。IPに続く、30分間のアロステリックなmTORC1阻害剤ラパマイシンとの細胞のインキュベーションにおいて、ラプターは、mTOR-ラプター複合体から解離することが見出されたが、アストリン-ラプター結合に対する影響は見られなかった。
したがって、mTORC1活性は、ラプター-アストリン結合に影響しない。
逆に、アストリンのsiRNAノックダウンが、ラプターIPでの増加したmTOR量をもたらしたように、アストリン阻害はmTORC1アッセンブリーに影響する。同様に、近接ライゲーション分析(PLA)によるmTOR-ラプター関連性についてのインサイツ測定で(Soderberg, O., Leuchowius, K.J., Gullberg, M.,Jarvius, M., Weibrecht, I., Larsson, L.G., and Landegren, U. (2008). Characterizingproteins and their interactions in cells and tissues using the in situproximity ligation assay. Methods 45,227-232)、アストリンノックダウンにおいてmTORC1アッセンブリーの驚異的な誘導を明らかにした(
図3および4)。本発明者は、アストリンがラプター結合のためにmTORと競合し、アストリン欠如下で増加したmTORC1形成に帰着することを結論づけた。
【0069】
アストリンは、mTORC1シグナリングを阻害する。
アストリンは、有糸分裂進行の調節剤として記述され、そしてmTORC1のために、有糸分裂における役割が提案された。したがって、本発明者は、アストリン欠乏が、有糸分裂中のmTORC1活性を変えるかどうかのテストをした。NocodazoleによってG2/Mにて成長停止されたヒーラー細胞において、および有糸分裂ブロックからの開放下で、mTORC1基質 p70-S6K1-T389の燐酸化が、観察された。p70-S6K1-T389は、有糸分裂細胞で単に弱く燐酸化され、アストリン阻害で不変のままであった。有糸分裂の細胞とは対照的に、アストリン欠乏は、有糸分裂を除き、mTORC1へのアストリンの調節の役割を示唆し、非同期化細胞でp70 S6K1-pT389を誘導した。
非同期化細胞のアストリン欠乏は、mTORC1基質 p70 S6K1-T389の燐酸化を引き起こし、また、この結果はアストリンの有糸分裂機能に依存しない。さらにmTORC1シグナリングで、アストリンの役割を確立するために、本発明者は、飢えさせ、アストリンノックダウンの有無で、mTORシグナリングを強く活性化するために10分間インシュリンとaaで細胞を誘導した; そして、アストリン欠損細胞で、p70-S6K1-pT389誘導を確認した。mTORC1の特異的阻害剤ラパマイシンおよびATPアナログ阻害剤PP242(両mTOR複合体をターゲットとする)は、両方とも強力にアストリン欠損細胞でp70-S6K1-pT389を阻害した。したがって、アストリンのp70-S6K1-pT389での阻害効果はmTORC1-依存的である。
【0070】
活性化されたp70-S6K1は、S636/639(つまりNFL)での燐酸化によってIRS1を阻害する。 アストリン欠乏下で活性化されたmTORC1およびp70-S6K1を持つ株で、本発明者は、IRS pS636/639がアストリン siRNAによって誘導されることを見出した。インシュリン/aa誘導下での時間的経過実験は、アストリン欠乏がmTORC1基質p70-S6K1-T389およびPRAS40-S183 mTORC1、およびp70-S6K1基質IRS1-S636/639〔siAstrinでの誘導後5分 対 コントロール細胞での7分〕燐酸化誘導を加速することを明らかにした。siAstrinは、さらにNFLの発病、およびp70 S6K1-pT389の結果としての抑制を加速した(siAstrin細胞で誘導後7分で減少し、それはコントロール細胞の誘導における誘導後20分までの定常状態での誘導と比較される)。したがって、全体的なmTORC1ネットワーク動力学はアストリンがない状態で加速される。アストリンによるmTORC1調節におけるスキームは
図1に描かれる。
【0071】
アストリン-ラプター複合体はストレス小粒(SGs)に局在する。
アストリン-ラプター相互作用の生物学的機能をさらに究明するために、本発明者は、組み換えアストリン-GFP融合構築物を調製した。N-末端球状頭部ドメインと2つのC末端コイルドコイルドメインをもつアストリンのモジュール構造(Gruber, J., Harborth, J., Schnabel, J., Weber, K.,and Hatzfeld, M. (2002). The mitotic-spindle-associated protein astrin is essentialfor progression through mitosis. J Cell Sci115, 4053-4059)は、アストリンがアダプタータンパク質として役立つかもしれないことを示唆した。かくして、本発明者は、全長アストリン(GFP‑astrin
full length)、N-末端頭部ドメイン(GFP-Astrin
1-481)、およびC-末端コイルドコイルドメイン(GFP-astrin
482-1193)のための構築物を調製した(
図5に描かれたスキーム)。
【0072】
GFP‑astrin
full lengthは、光顕微鏡検査によっても目に見える細胞質の粒状構造に局在した。
注目すべきは、C-末端GFP-astrin
482-1193もまた、細胞質ゾルの粒状構造に局在し、一方N-末端GFP-Astrin
1-481は拡散した細胞質ゾルへの局在化を示した。対照的に、GFP‑astrin
fulllength と N末端 GFP‑astrin
1‑481は、ラプターと共精製され、そこでC-末端GFP-astrin
482-1193のみが、弱くラプターに結合していた。これらのデータは、主としてラプター結合を仲介するアストリンのN末端頭部ドメインと一致する。そこで、アストリンのC末端コイルドコイルドメインは主としてその局在化を仲介する。ラプターに結合するmTORまたはアストリンは、相互に排他的である。
【0073】
内在性のアストリンがSGsに局在するかを分析するために、本発明者は500μMアルセナイトで30分間ヒーラー細胞に酸化ストレスを引き起こした。
アルセナイトは種々様々の細胞性ROS誘導する(Jomova, K., Jenisova, Z., Feszterova, M., Baros, S.,Liska, J., Hudecova, D., Rhodes, C.J., and Valko, M. (2011). Arsenic: toxicity,oxidative stress and human disease. J Appl Toxicol 31, 95-107)。その特異性を確認しうる、免疫蛍光検査法(IF)で、用いられた商用アストリン抗体でアストリン-GFPを検知した。非ストレス処理細胞では、内在性のアストリンは微小管パターンを示した。特異的SGマーカーG3BP1は、粒状細胞質構造の中に、すなわち、アルセナイトストレス下のSGsに局在化する、そしてアストリンは、部分的にG3BP1と共局在し、したがって、アストリンはアルセナイトストレス下でSGsに局在する。HA-ラプターは、SGsの中へアストリンおよびG3BP1と共局在した。対照的に、mTORは、G3BP1と共局在しなかった。
したがって、酸化ストレスに際して、アストリンとラプターはSGsと共局在し、しかし、mTORはSGsから除外されたままである。
これらの発見は、SGsへのアストリン-ラプター複合体の再局在化が、酸化ストレス下でのmTOR-ラプター複合体を分解するかもしれないという仮説に本発明者を導いた。ストレス下、形成されており、SGsに再局在するアストリン-ラプター複合体に呼応して、ラプターとアストリンの結合は、co-IPsでおよび元の位置で、アルセナイトによって強く増加された(
図4)。したがって、ラプター-アストリン複合体の形成およびSGsとのその結合は、アルセナイトストレスによって引き起こされる。
【0074】
その後、これらの結果がアルセナイトに特異的であるのか、あるいはさらに、他の酸化、SG誘導ストレスで観察することができるかがテストされた。
過酸化水素(H
2O
2)は、SGsを誘導する。そのため、上記の実験は、2mM H
2O
2で繰り返えした。H
2O
2での結果はすべて、アルセナイトで得たものを再現した。したがって、異なる酸化ストレスは、mTORC1分解に結びつき、SGsへのラプターのアストリン仲介増強を誘導する。
【0075】
SGおよびアストリン依存mTORC1阻害は、酸化ストレス誘導アポトーシスから癌細胞を保護する。
本発見の医学的観点からの意味は、高いアストリンレベルは、乳腺腫細胞における高いAktおよび低いmTORC1シグナリングと同様に、癌細胞攻撃性(Buechler, 2009; Valk et al., 2010)と関連する。低酸素症による酸化還元ストレスは、腫瘍での共通の条件である。また、腫瘍細胞は、酸化の損傷に応じてアポトーシスを回避する必要がある(Fruehauf, J.P., and Meyskens, F.L., Jr. (2007).Reactive oxygen species: a breath of life or death? Clin Cancer Res 13, 789-794; Sosa et al., 2012)。
並んで、癌細胞の化学耐性は、しばしばアポトーシスを抑制するそれらの増加したキャパシティーに依存する(Ajabnoor, G.M., Crook, T., and Coley, H.M. (2012).Paclitaxel resistance is associated with switch from apoptotic to autophagiccell death in MCF-7 breast cancer cells. Cell Death Dis 3, e260)。
活性mTORは、細胞成長を促進し、それによりアポトーシスを阻害すると一般に思われるが、極度に活性的なmTORC1シグナリングは、アポトーシスに細胞を敏感にする(Thedieck et al., 2007)。興味深いことには、アストリン欠乏は、アポトーシスを促進し、そして、本発明者は、分割されたPARによって測定されるように、siAstrinが、H
2O
2誘導アポトシスに対して、ヒーラー細胞を、敏感にした。
重要なことには、アストリン依存のアポトーシス誘導は、shRaptorを仲介するmTORC1阻害によって阻害された。また、本発明者は、アストリンによるmTORC1阻害が、アポトーシスに対抗する酸化ストレス下のヒーラー細胞を保護すると結論をした。MCF-7乳癌細胞のようないくつかの乳癌細胞株で示されたように、これらの発見は、さらに他の癌細胞でもしめされる。要約すると、アストリンは、酸化ストレス下のmTORC1超活性化を防ぐことにより癌細胞でのアポトーシスを阻害する(
図6を参照)。
【0076】
本発明において、アストリンとラプターの相互作用はmTORC1ネットワークの新しい重大なコンポーネントであることが確認された。
アストリンは、ラプターをSGsへ補充し、酸化及び加熱ストレスと同様に栄養及びインシュリン刺激を含んでいるmTORC1を誘導する条件のもとで、mTORC1活性を制限するmTORC1分解に導く。本発明は、mTORC1を分解し、代謝的に障害のある細胞でのその活性を制限する、重要関連物質としてアストリンを明らかにした。一時的なストレス下での、アストリンあるいはSGsのいずれかの阻害は、mTORC1活性の制限におけるアストリンとSGsの重大な意義を明確に示し、細胞に、mTORC1超活性化によるアポトーシスをおこす。
mTORC1阻害剤ラパマイシン(rapamycin)は、寿命を延長させる( Harrison, D.E., Strong, R., Sharp, Z.D., Nelson,J.F., Astle, C.M., Flurkey, K., Nadon, N.L., Wilkinson, J.E., Frenkel, K.,Carter, C.S., et al. (2009). Rapamycinfed late in life extends lifespan in genetically heterogeneous mice. Nature 460, 392-395) そして癌進行を阻止する( Anisimov, V.N., Zabezhinski, M.A., Popovich, I.G.,Piskunova, T.S., Semenchenko, A.V., Tyndyk, M.L., Yurova, M.N., Antoch, M.P.,and Blagosklonny, M.V. (2010). Rapamycin extends maximal lifespan incancer-prone mice. Am J Pathol 176,2092-2097)。
したがって、ROS仲介mTORC1活性化は、正常な細胞機能にとって重要かもしれないし、又老化および癌の進行に関与するかもしれない。私たちのデータはこの2重の役割を支持し、アストリン枯渇およびその結果のmTORC1超活性化は、一時的なストレス下で細胞死を助長し、しかし増加したアストリンレベルは、明確に癌進行と関連した(Buechler, 2009; Valk et al., 2010)。
【0077】
アストリン仲介mTORC1阻害の1つの効果は、Aktに対するmTORC1-依存性NFLの不活性化である。
Akt活性化は、アポトーシスを阻止することがよく知られるメカニズムである、増加したFoxO1/3Aリン酸化および不活性化に帰着した(Appenzeller-Herzog, C., and Hall, M.N. (2012). Bidirectionalcrosstalk between endoplasmic reticulum stress and mTOR signaling. Trends CellBiol 22, 274-282) 。
正常細胞での、アポトーシスのアストリン仲介抑制は、それが、細胞が一時的なストレスか代謝障害でアポトーシスを受けるのを防ぐので、有益でありうる。対照的に、癌細胞では、アストリン仲介mTORC1とアポトシス抑制は、それが、過剰成長細胞がプログラム細胞死をうけるのを阻止するので、不利益でありうる。
このプロセスについての理解は、癌治療に新しい手段を開く。顕著に、アストリンは、腫瘍細胞(Buechler, 2009; Valk et al., 2010)および精母細胞で高度に発現される、しかし、他のすべての非癌組織では低レベルでのみ出現する(GeneNoteanalysis, www.genecards.org/cgi-bin/carddisp.pl?gene=SPAG5)。従って、アストリン阻害は、特異的に腫瘍細胞のmTORネットワーク活性を調整することを可能にすることができる。また、これは、NFLを回復し、かつ、進行癌でしばしば見られるコンデションの、Aktが極度に活性的な場合にアポトーシス増感を達成するのに特に有益でありうる( Spears, M., Cunningham, C.A., Taylor, K.J., Mallon,E.A., Thomas, J.S., Kerr, G.R., Jack, W.J., Kunkler, I.H., Cameron, D.A.,Chetty, U., et al. (2012). Proximityligation assays for isoform-specific Akt activation in breast cancer identifyactivated Akt1 as a driver of progression. J Pathol 227, 481-489)。
アストリン欠損細胞の不完全な細胞周期進行は、治療の標的としてのアストリンの適応性を制限する。だがアストリン欠損マウス(Xue, J., Tarnasky, H.A., Rancourt, D.E., and van DerHoorn, F.A. (2002). Targeted disruption of the testicular SPAG5/deepest proteindoes not affect spermatogenesis or fertility. Mol Cell Biol 22, 1993-1997)及びラット(Yagi, M., Takenaka, M., Suzuki, K., and Suzuki, H.(2007). Reduced mitotic activity and increased apoptosis of fetal sertoli cellsin rat hypogonadic (hgn/hgn) testes. J Reprod Dev 53, 581-589)は、主要な表現型を表示することなしに、生存可能である。したがって、重要な機能に影響せずに、ヒト疾患においてアストリンをターゲットとすることは確実性がある。