(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494172
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】医療用インプラントで使用するためのセラミック強化チタンベース合金
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20190325BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20190325BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20190325BHJP
A61L 27/00 20060101ALI20190325BHJP
A61F 2/02 20060101ALI20190325BHJP
A61B 17/58 20060101ALI20190325BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
C22F1/18 H
C22C1/02 503E
A61L27/00
A61F2/02
A61B17/58
!C22F1/00 675
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 621
!C22F1/00 624
!C22F1/00 625
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 681
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
【請求項の数】12
【外国語出願】
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-71595(P2014-71595)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193875(P2015-193875A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年10月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518410995
【氏名又は名称】パルス アイピー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー イー. フィスク
(72)【発明者】
【氏名】アナトリー デムチシン
(72)【発明者】
【氏名】ミコラ クズメンコ
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ フィルストフ
(72)【発明者】
【氏名】レオニド クラーク
【審査官】
河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−531125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/00 − 3/02
A61B 17/58
A61F 2/02
A61L 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金を含んでなるインゴットであって、
前記合金が、10wt%から20wt%までのニオブ、1.25wt%から2wt%までのケイ素、78wt%から88.75wt%までのチタン、及び不可避的不純物からなり、
前記不可避的不純物として、0.5wt%以上2wt%以下の窒素、0.5wt%以上2wt%以下の酸素、0.5wt%以上2wt%以下の炭素のいずれかを含み、
前記合金が、20vol%から70vol%までのα相、及び、30vol%から80vol%までのβ相を有し、
1000MPa以上の極限引張強さ、及び、150GPa以下のヤング率を有するインゴット。
【請求項2】
1000MPaから1400MPaまでの極限引張強さ、及び、100GPaから150GPaまでのヤング率を有する請求項1に記載のインゴット。
【請求項3】
1100MPaから1300MPaまでの極限引張強さ、及び、110GPaから140GPaまでのヤング率を有する請求項1に記載のインゴット。
【請求項4】
合金が、40vol%から70vol%までのα相、及び、30vol%から60vol%までのβ相を含む請求項1に記載のインゴット。
【請求項5】
合金が、45vol%から65vol%までのα相、及び、45vol%から60vol%までのβ相を含む請求項1に記載のインゴット。
【請求項6】
請求項1に記載のインゴットから形成される医療用インプラント。
【請求項7】
ネジ、ピン、ロッド材、棒材、バネ、コイル、ケーブル、ステープル、クリップ又はプレートの形態である請求項6に記載の医療用インプラント。
【請求項8】
インゴットを形成する方法であって、
5wt%から35wt%までのニオブ、0.5wt%から3.5wt%までのケイ素、及び、61.5wt%から94.5wt%までのチタンの
10wt%から20wt%までのニオブ、1.25wt%から2wt%までのケイ素、及び、78wt%から88.75wt%までのチタン、及び0.5wt%以上2wt%以下の窒素、0.5wt%以上2wt%以下の酸素、0.5wt%以上2wt%以下の炭素、のいずれかの不可避不純物、の実質的に均一な混和物を含む溶融合金を形成し、
所定形状に前記溶融合金を鋳造し、
次いで冷却して形状をインゴットにすることを含み、
前記合金が20vol%から70vol%までのα相、及び、30vol%から80vol%までのβ相を有し、インゴットが940MPa以上の極限引張強さ、及び、150GPa以下のヤング率を有するものである、インゴットを形成する方法。
【請求項9】
インゴットを医療用インプラントに形成する後続ステップを更に含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
医療用インプラントがネジ、ピン、ロッド材、棒材、バネ、コイル、ケーブル、ステープル、クリップ又はプレートの形態である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
インゴットをアニーリングする後続ステップを更に含む請求項8に記載の方法。
【請求項12】
医療用インプラントをアニーリングする後続ステップを更に含む請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用インプラントを製造するために使用される、セラミック強化チタンベース合金を含んでなるインゴットに関する。より詳細には、セラミック強化された、チタン、ニオブ、及び、ケイ素を含む合金インゴットに関する。本合金は、α相とβ相の両方を有する。インゴットは、約940MPa以上の極限引張強さ、及び、約150GPa以下のヤング率を有する。
【背景技術】
【0002】
骨を外科的に接合するため、及び、歯をインプラントするため、生体適合性を有し医療用に適したインプラントの製造に、商業的関心が大きくなっている。ネジ、ピン、ロッド材、棒材、バネ、コイル、ケーブル、ステープル、クリップ、プレート等の医療用インプラントは、非常に高い引張強さと高サイクル疲労寿命を有しつつ、また骨と適合するように低い弾性率も有する材料を必要とする。
【0003】
一般的な合金としては、チタン合金、ステンレス鋼合金、及び、コバルトクロム合金が挙げられる。ステンレス鋼合金及びコバルトクロム合金は非常に高い引張強さを示すが、身体に対する公知の刺激物であるニッケルとクロムの両方を含有する。更に、これらの合金は、延性が低く、骨のヤング率の5倍に達するヤング率を有する。かかる高い引張強さ及びヤング率は、これらのコンポーネントを従来の技法で費用効果的に機械加工することを困難にもしている。
【0004】
チタン及びその合金は、脊柱固定のために一般的に使用される整形外科用の骨ネジ及びプレートに関して特に好評な選択である。種々の用途のためのチタン合金が当技術分野において公知であり、増大した引張強さ及び延性等の所望の特性を有する合金を提供するのに使用される幅広い範囲の元素を開示している、数多くの参考文献がある。
【0005】
一般に、チタン及びその合金は、2つの基本的な結晶構造、すなわち、六方最密構造であるα相と体心立方構造であるβ相の片方又は混合物として存在し得る。工業用グレードの純度のチタン合金は、低い引張強さを有するが、組織刺激の徴候を示さない。これらの合金は、骨構造に外部からインプラントされ、そのため大きなサイズを有し得る整形外科用プレートに一般的に使用される。Ti
6AlV
4合金は、小さなサイズで収められなければならない固定ネジ又はプレート等について、より高い強度の用途のために一般的に使用される。
【0006】
米国特許第6,752,882号(特許文献1)では、1種の公知な医療用埋込式合金が開示されている。その合金は、主要相としてα相を含有し、かつ10〜30wt%のNb及び残部のチタンから本質的になり、生体適合性で低弾性率の高強度チタン−ニオブ合金を提供する。
【0007】
米国特許第5,954,724号(特許文献2)は、ハフニウム及びモリブデンを添加することで、耐食性を改善すると共に、高強度、低弾性率及び高硬度を有し、更には、この合金から作製されたインプラントの表面硬化も可能にする医療用インプラント及びデバイスへの使用に適したチタン合金に関する。
【0008】
米国特許第7,892,369号(特許文献3)は、整形外科用装具を製造するためのチタン合金について、そのミクロ構造を改質するための方法を提供する。整形外科用装具は、最初にチタン合金から形成され、続いて熱処理を施された後、急速焼入れされる。装具中のチタン合金のミクロ構造は、フレッティング疲労に対する改善された抵抗性を有する。
【0009】
米国特許第7,682,473号(特許文献4)は、骨の弾性率に近くて応力遮蔽を阻止するほどの弾性率と、骨の引張及び圧縮強さならびに破壊靭性以上の引張及び圧縮強さならびに破壊靭性とを有するTiAlNb合金からなる、インプラント装具を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,752,882号
【特許文献2】米国特許第5,954,724号
【特許文献3】米国特許第7,892,369号
【特許文献4】米国特許第7,682,473号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
アルミニウム及びバナジウムを使用するその他の合金に関して鍵となる問題は、動き及びフレッティングを伴う場合に疑われるAl及びVの効果である。血流中へのAl及びVの放出は、患者に対する刺激を長期的に引き起こし得る。
【0012】
ある種のグレードのチタンに関した別の課題は、サイクル疲労中のいわゆる「切欠き効果」である。ある種のチタン合金から調製して研磨した試料は、極限引張強さ(極限強さ)に近い疲労強度を有することが示されてきた。しかし、切欠きが試料に導入された場合、疲労強度は、極限引張強さの40%まで低下し得る。埋込式デバイスには適切な追跡情報をレーザーマーキングしなければならないため、切欠き状態(notch situation)が常に存在するし、切欠き疲労強度を超えないように注意もしなければならない。
【0013】
埋込式デバイスの設計に関連した問題は、具体的には、高い引張強さ及び最低限のヤング率を有し、公知の刺激物を含有せず、従来の方法により経済的に機械加工できる合金を提供することである。本発明は、これらの課題のすべてに対処する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、チタン、ニオブ及びケイ素の合金を提供する。チタン及びニオブは、非常に低いヤング率(50〜80GPa)を有する合金を形成することが公知である。これらの公知の合金に関した問題は、それらが、骨プレート及び固定ネジ等の整形外科用デバイス製造のために十分な強度を有さないことである。
【0015】
本発明は、クラックの伝播中にエネルギーを吸収し、かつ応力の適用中に転位を遅延させるように作用するガラス状ケイ素セラミックを、金属の固溶体中に組み入れることにより、従来の合金に課されていた制約を克服する。このガラス状ケイ素セラミックの原子パーセントは、適度に低いヤング率及び良好な形成性を維持するように制御される。
【0016】
Tiを主成分としNb及びSiが添加された本発明の合金は、ある量のガラス状材料を含んだ複雑なα/β構造を有する合金を製造する。得られた合金は、医療用インプラント中に現在使用されているチタングレードと同等の弾性率を保持しながらも、より高い強度を有する。
【0017】
本発明は、合金を含むインゴットを提供し、この合金は約5wt%から約35wt%までのニオブ、約0.5wt%から約3.5wt%までのケイ素、及び約61.5wt%から約94.5wt%までのチタンを含み、この合金は約20vol%から約70vol%までのα相、及び約30vol%から約80vol%までのβ相を有し、このインゴットは約940MPa以上の極限引張強さ、及び約150GPa以下のヤング率を有する。
【0018】
また、本発明は、インゴットを形成する方法も提供する。この方法は、約5wt%から約35wt%までのニオブ、約0.5wt%から約3.5wt%までのケイ素、及び約61.5wt%から約94.5wt%までのチタンの実質的に均一な混和物を含む溶融合金を形成すること、ある形状に溶融合金を鋳造し、次いで冷却してこの形状をインゴットにすることを含む方法である。この合金は、約20vol%から約70vol%までのα相、及び約30vol%から約80vol%までのβ相を有し、このインゴットが約940MPa以上の極限引張強さ、及び約150GPa以下のヤング率を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の合金は、公知の刺激物を含有するものではなく、高い引張強さ及び最低限のヤング率を有する。また、従来の方法により経済的に機械加工できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
合金は、工業用に純粋なある量のチタン、ニオブ及びケイ素を組み合わせることにより形成される。これらは、棒材、ワイヤー、粉末、粒子、又は任意のその他の好都合な形状の形態で得ることができる。これらは次いで、それぞれが溶融してブレンドされて実質的に均一な混和物になるまで加熱される。
【0021】
チタンの量は、約61.5wt%から約94.5wt%までの、好ましくは約72.5wt%から約92wt%までの、より好ましくは約78wt%から約88.75wt%までの範囲に及び得る。
【0022】
ニオブの量は、約5wt%から約35wt%までの、好ましくは約7wt%から約25wt%までの、より好ましくは約10wt%から約20wt%までの範囲に及び得る。
【0023】
ケイ素の量は、約0.5wt%から約3.5wt%までの、好ましくは約1wt%から約2.5wt%までの、より好ましくは約1.25wt%から約2wt%までの範囲に及び得る。
【0024】
好ましくは、合金は、2wt%以下の窒素、酸素又は炭素を有する。より好ましくは、合金は、約1wt%以下の窒素、酸素又は炭素を有する。更により好ましくは、合金は、約0.5wt%以下の窒素、酸素又は炭素を有する。
【0025】
最も好ましい実施形態としては、不可避的不純物以外には、この合金は、約5wt%から約35wt%までのニオブ、約0.5wt%から約3.5wt%までのケイ素、及び残部チタンとなるように、これら3つの元素のみを含む。
【0026】
このような高強度で低弾性率の生体適合性チタン合金を調製する方法は、上記の成分を機械的にブレンドし、次いで溶融するまでそれらを1回又は複数回加熱することを包含する。
【0027】
合金は、好ましくは、正確に秤量された純粋な元素を機械的にブレンドし、このブレンドをプラズマアーク炉又は真空アーク炉等の炉内で溶融させ、必要に応じて均一性を得るために再溶融させ、次いで鋳造して冷却することにより作製される。溶融させる方法の一例には、市販のアーク溶融式真空加圧鋳造システム内で、成分を混合することが挙げられる。溶融室が最初に脱気され、アルゴン等の不活性ガスによってパージされる。例えば1.5kgf/cm
2のアルゴン圧力が、溶融の間に維持され得る。適切な量のチタン、ニオブ及びケイ素は、溶融物を誘導撹拌しながらの電子ビーム式スカル溶融(electron beam skull melting)により調製される。
【0028】
得られた混合物は、任意選択により、均質性を改善するために複数回再溶融させてもよい。溶融合金は次いで鋳造されて、又は、冷却しながら水冷されたロッド材によりるつぼから引き出されて、円筒形インゴットを形成する。
【0029】
合金は、α相とβ相の両方が組み合わさった結晶格子構造を有する。特に、合金は、約20vol%から約70vol%までのα相、及び、約30vol%から約80vol%までのβ相を有する。好ましくは、合金は、約40vol%から約70vol%までのα相、及び、約30vol%から約60vol%までのβ相を有する。より好ましくは、合金は、約45vol%から約65vol%までのα相、及び約45vol%から約60vol%までのβ相を含む。
【0030】
得られたインゴットは、約940MPa以上の、一般には約1000MPaから約1400MPaまでの、より一般には約1100MPaから約1300MPaまでの極限引張強さを有する。
【0031】
また、得られたインゴットは、約150GPa以下の、一般には約100GPaから約150GPaまでの、より一般には約110GPaから約140GPaまでのヤング率を有する。
【0032】
得られたインゴットは次いで、ネジ、ピン、ロッド材、棒材、バネ、コイル、ケーブル、ステープル、クリップ、プレート等のような、所望の医療用インプラントの形状に形成してもよい。また、インプラントとして、股関節ステム、大腿骨ヘッド、膝大腿骨コンポーネント、膝脛骨コンポーネント、髄内ネイル、内耳用通気管、脊柱プレート、脊柱ディスク、骨盤プレート、歯科用インプラント、心血管インプラント、コンプレッションヒップスクリュー等に適合する特注形状に形成してもよい。このような形成は、慣用の工作機械の使用により行ってもよい。
【0033】
任意選択により、鋳造されたインゴット又は機械加工された医療用インプラントのいずれかは、強度増大のために、周知の方法によりアニール、研磨、又は、陽極酸化されてもよい。アニーリングは、約500℃から約1200℃までの、好ましくは約750℃から約1000℃までの範囲の温度で、約20分から約360分までの、好ましくは約40分から約120分までの間加熱することにより行ってもよい。研磨は、機械的なバニッシングにより行ってもよい。陽極酸化は、表面の電気化学酸化により行ってもよい。
【0034】
[実施例]
下記の非限定的な例は、本発明を説明するのに役立つ。
3つの合金を形成して、鋳放し状態のものと、真空中で950℃で1時間アニーリングしたものの両方において試験した。合金は、溶融物を誘導撹拌しながらの電子ビーム式スカル溶融により調製した。得られた材料を、水冷されたロッド材によりるつぼから引き出して、円筒形インゴットを形成した。
【0036】
インゴット試料について、機械特性・加工性試験、研磨試験、及び、発色陽極酸化を施した。すべての試料の組成において非常に良好な結果を示し、研磨及び陽極酸化に関しては市販のグレード4及びグレード23チタンの特性を超えている。
【0037】
Ti−21Nb−1.25Si材料について詳細な化学的及び相分析を実施した。相分析は、おおよそ55/45のα相/β相構造を示している。XPS分析により、ガラス状相中には多数の原子が存在し、材料の1.6at%がSiCとして存在することを確認した。
【0038】
このSiCガラス状セラミックは、粒界に堆積する。炭化物の高い破壊靭性があれば、これらの侵入型成分は、転位の動きを阻止するように作用するだけでなく、クラックの伝播の際にエネルギーを吸収もする。SiCを形成するのに使用した合金中の炭素は、出発原材料に典型的な不純物として存在する。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の合金は、公知の刺激物を含有するものではなく、高い引張強さ及び最低限のヤング率を有する。また、従来の方法により経済的に機械加工できる。本発明について、好ましい実施形態を参照しながら詳細に提示及び説明してきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく様々な変更及び修正がなされ得ることは、当業者ならば容易に理解されよう。請求項は、開示した実施形態、上述したそれらの代替形態、及び、それらに対するすべての均等物を包摂すると解釈されることを意図されている。