特許第6494229号(P6494229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494229
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造体
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/20 20060101AFI20190325BHJP
   E04B 5/43 20060101ALI20190325BHJP
   E03F 3/04 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   E04B1/20 E
   E04B5/43 J
   !E03F3/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-200513(P2014-200513)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69923(P2016-69923A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年7月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】村田 義行
【審査官】 金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−097305(JP,A)
【文献】 特開2013−253441(JP,A)
【文献】 実開昭63−129015(JP,U)
【文献】 特開平06−033600(JP,A)
【文献】 特開2008−223370(JP,A)
【文献】 特開平05−295786(JP,A)
【文献】 特開平08−134996(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00060352(EP,A1)
【文献】 米国特許第04953280(US,A)
【文献】 特開平01−178642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/20
E04B 5/43
E03F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋材と前記鉄筋材に設けられた板状コンクリートとを備えた単純支持スラブの鉄筋コンクリート構造体であって、
前記鉄筋材は、水平に延びて配置される上側鉄筋材と、前記上側鉄筋材の下方に対応して配置された下側鉄筋材とを有し、
前記下側鉄筋材は、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された普通強度部分と、前記普通強度部分よりも降伏点又は0.2%耐力が大きく設定された高強度部分とを有し、かつ、前記高強度部分が前記普通強度部分と同じ強度の1本の普通鉄筋を部分焼入れして形成され、
前記下側鉄筋材の前記普通強度部分の長さと前記高強度部分の長さとは、前記普通強度部分の強度と前記高強度部分の強度との比に基づいて曲げモーメント分布より設定される
ことを特徴とする鉄筋コンクリート構造体。
【請求項2】
上壁部、底壁部及び左右の側壁部を備えて角筒状に形成され鉄筋材にコンクリートが設けられた鉄筋コンクリート構造体であって、
前記鉄筋材は、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された普通強度部分と、前記普通強度部分よりも降伏点又は0.2%耐力が大きく設定された高強度部分とを有し、かつ、前記高強度部分が前記普通強度部分と同じ強度の1本の普通鉄筋を部分焼入れして形成され、
前記鉄筋材は、中心側に配置される内側鉄筋材と、中心から離れた外部側に配置される外側鉄筋材とを備え、
前記内側鉄筋材は、水平に延びて配置され前記高強度部分に相当する中央部と、前記中央部の両側にそれぞれ設けられ前記普通強度部分に相当する端部とを有し、
前記外側鉄筋材は、水平に延びて配置され前記普通強度部分に相当する中央部と、前記中央部の両側にそれぞれ設けられ前記高強度部分に相当する湾曲部とを有し、前記湾曲部はボックスカルバート角部に沿うように湾曲形成され、
予め設定された曲げモーメントの値が両側にある極大値から0に至る部分に対応して前記外側鉄筋材の前記高強度部分が配置され、かつ、前記曲げモーメントの値が0の間の中央部に対応して前記普通強度部分が配置される
ことを特徴とする鉄筋コンクリート構造体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された鉄筋コンクリート構造体において、
前記普通強度部分と前記高強度部分との許容曲げモーメントの比は、前記普通強度部分の強度と前記高強度部分の強度との比に基づいて設定される
ことを特徴とする鉄筋コンクリート構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単純支持スラブ、ボックスカルバート、その他の鉄筋コンクリート構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート構造体として、単純支持スラブやボックスカルバートが知られている。
ボックスカルバートは、上壁、底壁、左側壁及び右側壁により角筒状に形成されている。これらの上壁、底壁、左側壁及び右側壁に、それぞれ鉄筋材が配された従来例がある(特許文献1)。
一般に、ボックスカルバート、その他の鉄筋コンクリート構造体では、一端から他端にかけて同一強度の鉄筋材が用いられている。この鉄筋材の径寸法や本数を、曲げモーメントに応じて選択することで、鉄筋コンクリート構造体が設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−243139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
単純支持スラブ、ボックスカルバート、その他の鉄筋コンクリート構造体では、荷重の作用の仕方によって、各部で発生する曲げモーメントの大きさが異なる。
しかしながら、特許文献1、その他の従来例では、一般的に、使用される鉄筋材は一端から他端にかけて同じ強度であるため、曲げモーメントに対応できるような構成とはなっておらず、曲げモーメントが大きい箇所で鉄筋量を算定すると、曲げモーメントの小さな箇所では鉄筋を過剰に配置することになる。
ここで、曲げモーメントの小さな箇所で鉄筋量を算定し、鉄筋コンクリート構造体の曲げモーメントの大きい箇所で強度を部分的に大きなものにするため、鉄筋コンクリート構造体の強度が小さな部分に鉄筋本数を追加することが考えられるが、それでは、鉄筋コンクリート構造体を厚くしなければならない。しかも、単に、鉄筋量を追加することは、配筋が過密となることに過ぎない。
【0005】
本発明の目的は、鉄筋量を増加させることなく、十分な強度を得ることができる鉄筋コンクリート構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の鉄筋コンクリート構造体は、鉄筋材と前記鉄筋材に設けられた板状コンクリートとを備えた単純支持スラブの鉄筋コンクリート構造体であって、前記鉄筋材は、水平に延びて配置される上側鉄筋材と、前記上側鉄筋材の下方に対応して配置された下側鉄筋材とを有し、前記下側鉄筋材は、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された普通強度部分と、前記普通強度部分よりも降伏点又は0.2%耐力が大きく設定された高強度部分とを有し、かつ、前記高強度部分が前記普通強度部分と同じ強度の1本の普通鉄筋を部分焼入れして形成され、前記下側鉄筋材の前記普通強度部分の長さと前記高強度部分の長さとは、前記普通強度部分の強度と前記高強度部分の強度との比に基づいて曲げモーメント分布より設定されることを特徴とする。
【0007】
この構成の本発明では、鉄筋材に板状コンクリートが設けられた構造の単純支持スラブを設計するに際して、従来と同様の方法にて予め曲げモーメントを求めておく。そして、曲げモーメントから、下側鉄筋材の普通強度部分の長さと高強度部分の長さとを、普通強度部分の強度と高強度部分の強度との比に基づいて設定する。曲げモーメントの値が最大値から小さな値に至る部分に対応して高強度部分を配置し、曲げモーメントの値が小さな値から0となる部分に普通強度部分を配置する。
この構成では、曲げモーメントの大きな部分は大きな荷重がかかる部位であるため、その部位に高強度部分を配置することで、大きな荷重に耐えることができる。曲げモーメントの小さな部分にかかる荷重が小さいので、高強度部分より強度の小さい普通強度部分を配置することで十分である。
従って、本発明では、単純支持スラブにおいて、大きな強度を必要とする部分に高強度部分を配置することで、補強効果を得ることができる。
【0008】
本発明の鉄筋コンクリート構造体は、上壁部、底壁部及び左右の側壁部を備えて角筒状に形成され鉄筋材にコンクリートが設けられた鉄筋コンクリート構造体であって、前記鉄筋材は、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された普通強度部分と、前記普通強度部分よりも降伏点又は0.2%耐力が大きく設定された高強度部分とを有し、かつ、前記高強度部分が前記普通強度部分と同じ強度の1本の普通鉄筋を部分焼入れして形成され、前記鉄筋材は、中心側に配置される内側鉄筋材と、中心から離れた外部側に配置される外側鉄筋材とを備え、前記内側鉄筋材は、水平に延びて配置され前記高強度部分に相当する中央部と、前記中央部の両側にそれぞれ設けられ前記普通強度部分に相当する端部とを有し、前記外側鉄筋材は、水平に延びて配置され前記普通強度部分に相当する中央部と、前記中央部の両側にそれぞれ設けられ前記高強度部分に相当する湾曲部とを有し、前記湾曲部はボックスカルバート角部に沿うように湾曲形成され、予め設定された曲げモーメントの値が両側にある極大値から0に至る部分に対応して前記外側鉄筋材の前記高強度部分が配置され、かつ、前記曲げモーメントの値が0の間の中央部に対応して前記普通強度部分が配置されることを特徴とする。
【0009】
この構成の本発明では、上壁部、底壁部及び左右の側壁部を備えて角筒状に形成された構造のボックスカルバートを設計するに際して、従来と同様の方法にて予め曲げモーメントを求めておく。そして、曲げモーメントの値が大きな部分に高強度部分を配置し、曲げモーメントの値が0となる部分に普通強度部分を配置する。
本発明では、ボックスカルバートにおいて、大きな強度を必要とする部分に高強度部分を配置することで、補強効果を得ることができる。
しかも、1本の鉄筋材に高強度部分と普通強度部分とを有する構成としたので、鉄筋量を増加させることを要せず、高強度部分が1本の普通鉄筋を部分焼入れして形成されているから、鉄筋材の製造コストを抑えることができる。
さらに、ボックスカルバートの上壁部と底壁部とでは、曲げモーメントは、その値が一端部と他端部との中間部分に位置する中央部が最も大きく、この中央部から一端部と他端部とにそれぞれ向かう途中で0となり、さらに、一端部と他端部とに向かうに従って反転して一端と他端とで極大値をとる。そのため、内側鉄筋材において、曲げモーメントの値が中央部の最大値から一端部と他端部とにそれぞれ向かって0となる領域に対応して高強度部分とし、中央部の両側に位置する端部を普通強度部分とすることで、鉄筋量を増加させることなく、十分な強度を得ることができる。
しかも、曲げモーメントは、一端と他端とでそれぞれ所定の大きさの極大値をとるため、これらの極大値に対応して外側鉄筋材の湾曲部を高強度部分とし、これらの湾曲部の間の中央部を普通強度部分とすることで、鉄筋量を増加させることなく、十分な強度を得ることができる。
即ち、本発明では、曲げモーメントが中央部で最大値をとる領域と端部で極大値をとる領域とにそれぞれ対応できるように内側鉄筋材と外側鉄筋材との2種類を用意し、これらの鉄筋材での高強度部分と普通強度部分との位置を異ならせることで、複雑な曲げモーメントに適切に対応して大きな補強効果を得ることができる。
【0012】
本発明では、前記普通強度部分と前記高強度部分との許容曲げモーメントの比は、前記普通強度部分の強度と前記高強度部分の強度との比に基づいて設定される構成が好ましい。
この構成では、普通強度部分と高強度部分との長さを、普通強度部分と高強度部分との許容曲げモーメントに対応させて合理的に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態の全体構成を示す一部を破断した斜視図。
図2】第1実施形態の全体構成を示す断面図。
図3】第1実施形態の曲げモーメントを示す概略図。
図4】(A)は外側鉄筋材を示す正面図、(B)は内側鉄筋材を示す正面図。
図5】本発明の第2実施形態を示す断面図。
図6】第2実施形態の曲げモーメントを示す概略図。
図7】(A)は外側鉄筋材を示す正面図、(B)は内側鉄筋材を示す正面図。
図8】(A)は本発明の第3実施形態の曲げモーメントを示す概略図、(B)は第3実施形態の要部を示す断面図、(C)は鉄筋材の強度分布を示す強度分布図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を図1から図4に基づいて説明する。
図1及び図2には、第1実施形態にかかる鉄筋コンクリート構造体の全体構成が示されている。第1実施形態では、鉄筋コンクリート構造体は、上壁部11、底壁部12、左側の側壁部13及び右側の側壁部14を備えて角筒状に形成されたボックスカルバート1である。
ボックスカルバート1の内部は、角筒軸方向に沿って空間が連続形成されている。
ボックスカルバート1では、鉄筋材2にコンクリート体100が設けられている。なお、図1及び図2では、コンクリート体100の断面を示すハッチングは図示が省略されている。
【0015】
鉄筋材2は、ボックスカルバート1の角筒軸方向に沿って複数が並んで配置されている。これらの鉄筋材2を連結する連結用鉄筋20が角筒軸方向に延びて配置されている。連結用鉄筋20は、上壁部11、底壁部12及び側壁部13,14にそれぞれ配置されている。
鉄筋材2は、上壁部11と底壁部12とにそれぞれ中心部が水平に延びて配置される外側鉄筋材21と、上壁部11と底壁部12とにそれぞれ水平に延びて配置される内側鉄筋材22と、左右の側壁部13,14にそれぞれ配置される普通鉄筋23,24と、ボックスカルバート角部に配置される補強用鉄筋25とを備えている。
【0016】
外側鉄筋材21は、ボックスカルバート1の中心とは反対側の外部側に配置されるものであり、上下に一対配置されている。
外側鉄筋材21は、水平に延びて配置される中央部21Aと、中央部21Aの両側にそれぞれ設けられた湾曲部21Bと、湾曲部21Bの端部に設けられた先端部21Cとを有する異形鉄筋である。
湾曲部21Bは、ボックスカルバート角部に沿うように湾曲して形成されている。湾曲部21Bの中間から先端部21Cは、側壁部13と側壁部14とにそれぞれ配置されている。
【0017】
上側の外側鉄筋材21と下側の外側鉄筋材21とは、それぞれ先端部21Cの先端同士が当接されており、これらの当接部は溶接で互いに接合されている。なお、先端部21Cの端部同士を溶接で接合する代わりに、継手を用いてもよく、あるいは、上側の外側鉄筋材21の先端部21Cと下側の外側鉄筋材21の先端部21Cとを互いに一部重ね合わせ、この重ね合わされた部分を結線するものでもよい。
なお、本実施形態では、外側鉄筋材21から先端部21Cを省略し、中央部21A及び湾曲部21Bから外側鉄筋材21を構成するものでもよい。この場合、上側の外側鉄筋材21の湾曲部21Bの下端と、下側の外側鉄筋材21の湾曲部21Bの上端とを、普通鉄筋で接続する構成としてもよい。
【0018】
内側鉄筋材22は、ボックスカルバート1の中心側にそれぞれ上下一対配置されるものである。内側鉄筋材22は、中央部22aと、中央部22aの両側にそれぞれ設けられた端部22bとを有する異形鉄筋である。
左の側壁部13に配置される普通鉄筋23は、異形鉄筋であって、その降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された値、例えば、295MPa(N/mm)以上490MPa(N/mm)以下である。
普通鉄筋23の上下端は、それぞれ内側鉄筋材22に交差する。
右の側壁部14に配置される普通鉄筋24は、普通鉄筋23と同じ材質からなる異形鉄筋であり、その上下端は、それぞれ内側鉄筋材22に交差する。
【0019】
補強用鉄筋25は、その両端が外側鉄筋材21の湾曲部21Bに連結されるものであり、その材質は、普通鉄筋24と同じである。
連結用鉄筋20は、内外二列となって配置されており、それぞれ外側鉄筋材21、内側鉄筋材22及び普通鉄筋23,24と交差して配置されている。これらの鉄筋材と連結用鉄筋20とは必要に応じて結線されている。連結用鉄筋20は、普通鉄筋23と同じ材質からなる異形鉄筋である。
【0020】
図3には、ボックスカルバート1を設計する際に用いられる曲げモーメントの概略が示されている。
曲げモーメントは、上壁部11に対応する曲げモーメントM11と、底壁部12に対応する曲げモーメントM12と、左の側壁部13に対応する曲げモーメントM13と、右の側壁部14に対応する曲げモーメントM14とからなる。曲げモーメントは、常時(自重)荷重のモーメントに外力モーメントを加えたものである。設計用曲げモーメントは通常の設計手法によって求められる。
【0021】
曲げモーメントM11は、その値が上壁部11の中心点(隣合う側壁部13,14の中間地点)で最大となり、側壁部13,14に向かうに従って小さくなって所定位置で0となる領域Maと、値が0となった位置から反転して両端(側壁部13,14)において極大値となる領域Mbとからなる。
曲げモーメントM12は、曲げモーメントM11とは正負が逆になる。なお、一般的には、上壁部11より底壁部12のほうが両端および中央部の曲げモーメントは大きくなる。
曲げモーメントM13,14は、その値が側壁部13,14の中間高さで0となり、上端あるいは下端で最大となる。なお、一般的には、上端より下端の曲げモーメントのほうが大きくなる。
【0022】
本実施形態では、曲げモーメントM11,12に基づいて外側鉄筋材21と内側鉄筋材22との構造が設定される。
つまり、外側鉄筋材21は、曲げモーメントM11,12のうち領域Mbに対応させるために高強度部分と普通強度部分とが設定されるものである。具体的には、高強度部分に相当する両端部22bがそれぞれ領域Mbに対応して配置され、これらの領域Mbの間に普通強度部分に相当する中央部22aが配置される。
内側鉄筋材22は、曲げモーメントM11,12のうち領域Maに対応させるために高強度部分と普通強度部分とが設定されるものである。具体的には、高強度部分に相当する中央部22aが領域Maに対応して配置され、領域Maの両側に普通強度部分に相当する端部22bが配置される。
【0023】
図4(A)には、外側鉄筋材21が拡大して示され、図4(B)には、内側鉄筋材22が拡大して示されている。
図4(A)において、外側鉄筋材21は、中央部21Aと湾曲部21Bの半分とが直線状に形成されている。湾曲部21Bは、中心部分を境に直角に折れ曲がって形成されている。湾曲部21Bの残り半分と先端部21Cとが直線状に形成されている。
中央部21Aの長さ寸法はLAであり、湾曲部21Bの半分の長さ寸法はLB1であり、残り半分の長さ寸法はLB2である。
中央部21A及び先端部21Cは、それぞれ普通強度部分であり、その降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された値、例えば、295MPa(N/mm)以上490MPa(N/mm)以下である。
【0024】
湾曲部21Bは、普通強度部分よりも降伏点又は0.2%耐力が大きく設定された高強度部分であり、その降伏点又は0.2%耐力は、490MPa(N/mm)を超え1000MPa(N/mm)以下である。
外側鉄筋材21は、普通強度部分と同じ降伏点又は0.2%耐力を有する1本の普通鉄筋を部分焼入れして高強度部分である湾曲部21Bを形成し、焼入れしていない部分が中央部21Aと先端部21Cとなる。
外側鉄筋材21の高強度部分を構成するLB1やLB2の長さは、中央部21Aの強度に基づいて算定される曲げモーメントの許容値が、曲げモーメント分布上で上回る位置となるように設定される。
【0025】
図4(B)において、内側鉄筋材22は、中央部22aと端部22bとが直線状に形成されている。
中央部22aの長さ寸法はLaであり、端部22bの長さ寸法はLbである。
中央部22aは、高強度部分であり、その降伏点又は0.2%耐力は、490MPa(N/mm)を超え1000MPa(N/mm)以下である。
端部22bは、普通強度部分であり、その降伏点又は0.2%耐力はJISG3112で規定された値、例えば、295MPa(N/mm)以上490MPa(N/mm)以下である。
内側鉄筋材22は、普通強度部分と同じ降伏点又は0.2%耐力を有する1本の普通鉄筋の中央部分を焼入れして高強度部分の中央部22aを形成し、焼入れしていない部分が端部22bとなる。
【0026】
内側鉄筋材22の高強度部分を構成する中央部22aの長さ(La)は、端部22bの強度に基づいて算定される曲げモーメントの許容値が、曲げモーメント上で上回る位置となるように設定される。
曲げモーメントの許容値は概算的には強度の比率で表され、例えば、中央部22aの強度が685MPa(N/mm)であり、端部22bの強度が490MPa(N/mm)であるとすると、この比率(490/685)を曲げモーメントが最大である中央部22aの曲げモーメントに乗じた値が曲げモーメント分布上で同等以上となる位置と等しい。
【0027】
従って、第1実施形態では、次の効果を奏することができる。
(1)ボックスカルバート1の内側鉄筋材22を、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された普通強度部分に相当する両側の端部22bと、これらの端部22bの間に配置され高強度部分に相当する中央部22aとを有し、かつ、高強度部分を1本の普通鉄筋を部分焼入れして形成した。そして、予め設定された曲げモーメントMの値が最大値から0に至る部分に対応して高強度部分に相当する中央部22aを配置した。そのため、ボックスカルバート1において、大きな強度を必要とする中央部22aを高強度部分とすることで、補強効果を得ることができる。しかも、1本の鉄筋材に高強度部分と普通強度部分とを有する構成としたので、鉄筋量を増加させることを要しない。そのため、鉄筋材の製造コストを抑えることができる。
【0028】
(2)外側鉄筋材21を、普通強度部分に相当する中央部21Aと、中央部21Aの両側にそれぞれ設けられ高強度部分に相当する湾曲部21Bとを有し、湾曲部21Bをボックスカルバート角部に沿うように湾曲形成した。曲げモーメントMは、一端と他端とでそれぞれ所定の大きさの極大値をとるため、これらの極大値に対応して外側鉄筋材21の湾曲部21Bを高強度部分とし、これらの湾曲部の間の中央部21Aを普通強度部分とすることで、鉄筋量を増加させることなく、十分な強度を得ることができる。
【0029】
(3)普通強度部分と高強度部分との曲げモーメントの比を、概算的に普通強度部分の強度と高強度部分の強度との比に基づいて設定できるので、普通強度部分と高強度部分との長さを合理的に設定することができる。
【0030】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態を図5から図7に基づいて説明する。
第2実施形態の鉄筋コンクリート構造体は、両端部がコンクリート体30にそれぞれ支持された単純支持スラブ3である。第2実施形態では、第1実施形態と同じ構成は同一符号を付して説明を省略する。
単純支持スラブ3は、鉄筋材4に板状コンクリート体40が設けられた構造である。
なお、図5では、コンクリート体30や板状コンクリート体40の断面を示すハッチングは図示が省略されている。
【0031】
鉄筋材4は、図5の紙面貫通方向に複数が並んで配置されており、これらの鉄筋材4が連結鉄筋(図示せず)で連結されている。
鉄筋材4は、水平に延びて配置される上側鉄筋材41と、上側鉄筋材41の下方に対応して配置された下側鉄筋材42とを有する。
上側鉄筋材41は、水平に延びて配置される中央部41Aと、中央部41Aの両側にそれぞれ設けられた湾曲部41Bとを有する異形鉄筋である。湾曲部41Bは、下側に向けて形成されており、その先端部は中央部41Aと平行である。
下側鉄筋材42は、水平に延びて配置される中央部42aと、中央部42aの両側にそれぞれ設けられた湾曲部42bとを有する異形鉄筋である。湾曲部42bは、上側に向けて形成されており、その先端部は中央部42aと平行である。
【0032】
図6には、単純支持スラブ3を設計する際に用いられる曲げモーメントM2の概略が示されている。
曲げモーメントM2は、その値が単純支持スラブ3の中心点(隣合うコンクリート体30の中間地点)で最大となり、その両端に向かうに従って小さくなって支持点Cで0となる領域からなる。
本実施形態では、曲げモーメントM2に基づいて下側鉄筋材42の構造が設定される。
つまり、下側鉄筋材42は、曲げモーメントM2に対応させるために高強度部分と普通強度部分とが設定される。具体的には、高強度部分が中央部42aとされ、普通強度部分が湾曲部42bとされる。高強度部分が設定される中央部42aの長さは、両支持点Cの間の寸法の全てでもよく、図6で示されるように一部であってもよい。
【0033】
図7(A)には、上側鉄筋材41が拡大して示され、図7(B)には、下側鉄筋材42が拡大して示されている。
図7(A)において、上側鉄筋材41は、中央部41Aが直線状に形成されており、その両端に湾曲部41Bがそれぞれ一体に形成されている。
上側鉄筋材41は、普通強度部分であり、その降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された値、例えば、295MPa(N/mm)以上490MPa(N/mm)以下である。
【0034】
図7(B)において、下側鉄筋材42は、中央部42aが直線状に形成されており、その両端に湾曲部42bがそれぞれ一体に形成されている。図7(B)では、中央部42aの一部が高強度部分であり、中央部42aの残りの部分と湾曲部42bとは普通強度部分である。
中央部42aのうち高強度部分の長さ寸法はLaであり、普通強度部分の長さ寸法はLbである。
高強度部分の降伏点又は0.2%耐力は、490MPa(N/mm)を超え1000MPa(N/mm)以下である。
【0035】
普通強度部分の降伏点又は0.2%耐力はJISG3112で規定された値、例えば、295MPa(N/mm)以上490MPa(N/mm)以下である。
下側鉄筋材42は、普通強度部分と同じ降伏点又は0.2%耐力を有する1本の普通鉄筋の中央部分を焼入れして中央部42aの高強度部分を形成する。焼入れしていない部分は普通強度部分を形成する。
【0036】
下側鉄筋材42の普通強度部分の長さLbと、高強度部分の長さは、普通強度部分の強度と高強度部分の強度との比に基づいて曲げモーメント分布より設定される。
例えば、中央部42aの高強度部分の強度が685MPa(N/mm)であり、それ以外の普通強度部分の強度が490MPa(N/mm)であるとすると、この比率(490/685)を曲げモーメントが最大である中央部の曲げモーメントに乗じた値が曲げモーメント分布上で同等以上となる位置と等しい。
【0037】
従って、第2実施形態では、第1実施形態の(3)と同様の効果を奏することができる他、次の効果を奏することができる。
(4)単純支持スラブ3の下側鉄筋材42を、降伏点又は0.2%耐力がJISG3112で規定された普通強度部分に相当する両側の湾曲部42bと、これらの湾曲部42bの間に配置され高強度部分に相当する中央部42aとを有し、かつ、高強度部分を1本の普通鉄筋を部分焼入れして形成した。そして、予め設定された曲げモーメントM2の値が最大値から0に至る部分に対応して高強度部分に相当する中央部42aを配置したため、補強効果を得ることができるとともに、鉄筋量を増加させることを要しない。
【0038】
(5)上側鉄筋材41として、従来から利用している鉄筋材を用いることができるので、鉄筋材2の製造コストを抑えることができる。
【0039】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態を図8に基づいて説明する。
第3実施形態は、外側鉄筋材21及び内側鉄筋材22の構成が第1実施形態とは異なるもので、他の構成は第1実施形態と同じである。第3実施形態の説明において、第1実施形態と同一の構成は同一符号を付して説明を省略する。
第3実施形態では、外側鉄筋材21は、普通強度部分が配置される中央部21Aと、高強度部分が配置される湾曲部21Bとの間に、普通強度部分から高強度部分に強度が移行する強度移行部分21Dを設けた点が第1実施形態と異なるものであり、他の構成は第1実施形態と同じである。
【0040】
前述の各実施形態では、普通強度部分に隣接して高強度部分が形成されている鉄筋材を用いているが、製造工程を考慮すると、普通強度部分と高強度部分との間には、これらの強度の中間部分が存在することが想定できる。つまり、熱処理は、加熱装置に1本の普通鉄筋を所定長さ送り、その後、高強度部分に相当する部分を加熱することで実施することが考えられる。しかし、この熱処理では、普通強度部分と高強度部分との間に、強度が普通強度部分から高強度部分に連続的に移行する強度移行部分が生じてしまうため、この強度移行部分を強度設計上、どのように扱うかが問題となる。
【0041】
図8では、曲げモーメント分布が(A)に示され、図2の一部を拡大した図が(B)に示され、曲げモーメントの強度分布が(C)に示されている。
図8(A)で示される曲げモーメント分布は、右端で最大となる。図8(A)の右端は、隣合う側壁部13,14(図8では側壁部14を省略)の中間位置に相当する。曲げモーメントは、側壁部13に向かうに従って小さくなり、途中で0となった後、向きが反転し、側壁部13の内側面で極大となる。
本実施形態では、設計位置Qは、地震時に外側鉄筋材21の付け根R、つまり、側壁部13の内側面の位置で鉄筋材あるいはコンクリート材が許容応力度の限界に達すると同時に許容応力度の限界に達するように設計された位置である。なお、同時に許容応力度の限界に達するときが最も合理的な設計となる。
鉄筋材が設計位置Qで許容応力度の限界に達すると同時に、付け根Rで許容応力度の限界に達するため、すなわち、高強度部分である湾曲部21Bを有効に活用するには、付け根Rで高強度部分の許容応力度の限界に達していることが望ましい。しかし、付け根Rが強度移行部分21Dの途中に位置することがあり、この場合であっても、付け根Rの曲げモーメントに対して強度が十分であれば問題とはならない。
【0042】
第3実施形態では、高強度部分である湾曲部21Bと強度移行部分21Dとの境界Pを、付け根Rから内側に寸法Tだけ離し、付け根Rを強度移行部分21Dの途中に位置させた。
強度移行部分21Dと普通強度部分である中央部21Aとの境界は設計位置Qであり、設計位置Qは、付け根Rから寸法Sだけ離れた位置にある。
強度移行部分21Dにおける付け根Rの許容曲げモーメントが地震時モーメント分布から求められた付け根R位置の曲げモーメント以上となるように強度を設定する。
【0043】
図8(C)では、外側鉄筋材21の強度の分布が実線で示され、図8(A)の曲げモーメント分布から公知の数式等に基づいて逆算して求められる鉄筋材の必要強度の分布が一点鎖線で示されている。
図8(C)に示される通り、外側鉄筋材21の強度は、高強度部分である湾曲部21Bにおける強度THと、普通強度部分である中央部21Aにおける強度TLと、強度移行部分21Dにおける強度NLとからなる。強度NLは、強度TLと強度THとの端部同士を接続した線分で示される。
強度THは、付け根Rでも必要とされる。付け根Rにおける必要強度と設計位置Qにおける必要強度とを結ぶ曲線Lであって、強度移行部分21Dと湾曲部21Bとの境界Pの位置における強度の値が本実施形態における高強度部分で必要とされる必要強度TH’である。曲線Lから求められる勾配(二点鎖線で示す)より設計位置Qと境界Pとの間の強度NLの勾配が大きくなるように、外側鉄筋材21の強度が設定されている。なお、内側鉄筋材22においても、外側鉄筋材21と同様に、高強度部分と普通強度部分との間に強度移行部分を設けた鉄筋を使用する場合、前述と同様な手法により、強度設計することが可能である。
【0044】
従って、第3実施形態では、第1実施形態の効果に加えて、次の効果を奏することができる。
(6)外側鉄筋材21を、普通強度部分の中央部21Aと高強度部分の湾曲部21Bとの間に強度移行部分21Dを配置した構成とし、高強度部分を上壁部11と側壁部13との接合部に配置し、地震時に鉄筋材の接合部の付け根Rで許容応力度の限界に達すると同時に許容応力度の限界に達するように設計された設計位置Qを、普通強度部分と強度移行部分との境界とし、高強度部分と強度移行部分との境界を接合部の内部に位置させるとともに、付け根Rを強度移行部分21Dに位置させ、強度移行部分における付け根Rの強度を曲げモーメント分布から逆算して求められた必要強度TH’以上のTHに設定した。そのため、地震時モーメントの勾配よりも、強度の勾配を大きくすることで、強度移行部分21Dが長くても、耐震構造の建物に用いることができる。
【0045】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、第1実施形態及び第3実施形態では、鉄筋材を外側鉄筋材21及び内側鉄筋材22から構成し、第2実施形態では、鉄筋材を上側鉄筋材41及び下側鉄筋材42から構成したが、本発明では、いずれか一方でもよく、あるいは、他の鉄筋材を加えた構成でもよい。
また、本発明では、鉄筋コンクリート構造体をボックスカルバート1や単純支持スラブ3として説明したが、本発明では、他の構造体でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ボックスカルバートや、単純支持スラブ、その他の鉄筋コンクリート構造物に利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1…ボックスカルバート(鉄筋コンクリート構造体)、2…鉄筋材、100…コンクリート体、11…上壁部、12…底壁部、13,14…側壁部、21…外側鉄筋材、22…内側鉄筋材、21A…中央部(普通強度部分)、21B…湾曲部(高強度部分)、22a…中央部(高強度部分)、22b…端部(普通強度部分)、3…単純支持スラブ(鉄筋コンクリート構造体)、4…鉄筋材、40…板状コンクリート体、41…上側鉄筋材、42…下側鉄筋材、42a…中央部(高強度部分)、42b…湾曲部(普通強度部分)、M11,M12,M2…曲げモーメント

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8