(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494270
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】生体用電極
(51)【国際特許分類】
A61N 1/05 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
A61N1/05
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-255717(P2014-255717)
(22)【出願日】2014年12月18日
(65)【公開番号】特開2015-119969(P2015-119969A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2017年11月9日
(31)【優先権主張番号】14/136,810
(32)【優先日】2013年12月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518410995
【氏名又は名称】パルス アイピー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】特許業務法人田中・岡崎アンドアソシエイツ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー イー. フィスク
【審査官】
宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−261953(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0183260(US,A1)
【文献】
国際公開第2007/095549(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/04 − A61N 1/05
A61N 1/36 − A61N 1/362
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周表面を有する中実のモノリシック基板を含む電極であって、
前記外周表面は、前記外周表面の周りに分配され、前記外周表面から外側に延びる複数の区別可能なマクロ突起によって規定されるトポグラフィを有し、
前記マクロ突起が、0.15μm〜50μmの範囲の幅を有し、
前記マクロ突起上には、前記マクロ突起から外側に延びる複数の区別可能なミクロ突起が分配されており、
前記ミクロ突起が、0.15μm〜5μmの範囲の幅を有し、
更に、前記ミクロ突起上には、前記ミクロ突起から外側に延びる複数の区別可能なナノ突起が分配されており、
前記ナノ突起が、0.01μm〜1μmの範囲の幅を有する、電極。
【請求項2】
マクロ突起が、中実のモノリシック基板の外周表面にわたって略均一に分配されている請求項1記載の電極。
【請求項3】
ミクロ突起が、ミクロ突起の高さを有する周期波の形態でマクロ突起上に分配されている請求項1又は請求項2記載の電極。
【請求項4】
ナノ突起が、管及び/又は小球の形態でミクロ突起上に配されている請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電極。
【請求項5】
マクロ突起が、0.2μm〜30μmの範囲の幅を有し、
ミクロ突起が、0.2μm〜2μmの範囲の幅を有し、
ナノ突起が、0.02μm〜1μmの範囲の幅を有する請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電極。
【請求項6】
マクロ突起が、1μm〜20μmの範囲の幅を有し、
ミクロ突起が、0.4μm〜1.5μmの範囲の幅を有し
ナノ突起が、0.075μm〜0.8μmの範囲の幅を有する請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電極。
【請求項7】
基板が生体適合性金属を含む請求項1〜請求項6のいずれかに記載の電極。
【請求項8】
基板が、白金、鋼、イリジウム、白金合金、イリジウム合金、ニッケル及びコバルト合金、チタン、チタン合金、タンタル、又は、これらの組み合わせを含む請求項1〜請求項7のいずれかに記載の電極。
【請求項9】
外周表面が、更に、前記外周表面の周りに分配され、基板を通して深さを有する複数のボイドを含み、
前記ボイドは、50nm〜500nmの深さを有し、50nm〜500nmの幅を有し、
前記ボイドは、50nm〜250nmの距離で隣接ボイドとの間隔を空ける請求項1〜請求項8のいずれかに記載の電極。
【請求項10】
哺乳類の組織内にインプラントするのに好適な構成を有する請求項1〜請求項9のいずれかに記載の電極。
【請求項11】
外周表面が、1mm2〜20mm2である請求項1〜請求項10のいずれかに記載の電極。
【請求項12】
基板にその末端部において電気的に取り付けられた少なくとも1つの電気コネクタを更に含む請求項1〜請求項11のいずれかに記載の電極。
【請求項13】
電気コネクタの他の末端部に取り付けた電気パルス発生器を更に含む請求項12記載の電極。
【請求項14】
電気コネクタの他の末端部に取り付けられた電気測定デバイスを更に含む請求項12記載の電極。
【請求項15】
外周表面を有する中実のモノリシック基板を含む電極を製造するための方法であって、
前記外周表面は、前記外周表面の周りに分配され、前記外周表面から外側に延びる複数の区別可能なマクロ突起によって規定されるトポグラフィを有し、
前記マクロ突起が、0.15μm〜50μmの範囲の幅を有し、
前記マクロ突起上には、前記マクロ突起から外側に延びる複数の区別可能なミクロ突起が分配されており、
前記ミクロ突起が、0.15μm〜5μmの範囲の幅を有し、
更に、前記ミクロ突起上には、前記ミクロ突起から外側に延びる複数の区別可能なナノ突起が分配されており、
前記ナノ突起が、0.01μm〜1μmの範囲の幅を有し、
前記方法は、中実のモノリシック基板を、1μm〜1,000μmの範囲のレーザースポット直径を有するレーザー照射のパルスに曝す暴露工程を含むものであって、
スポットあたりのレーザー照射のパルスの数が、10〜1500パルスの範囲であり、
パルス波長が、200nm〜1500nmの範囲であり、
パルス幅が、200ワット/cm2〜5000ワット/cm2の放射照度にて1フェムト秒〜5ピコ秒の範囲である電極の製造方法。
【請求項16】
曝露工程は、レーザー放射線のスポットを、中実のモノリシック基板の外周表面にわたって50mm/min〜1000mm/minの速度でトラベリングすることによって行われる請求項15に記載の電極の製造方法。
【請求項17】
基板が生体適合性金属を含む、請求項15又は請求項16記載の電極の製造方法。
【請求項18】
レーザーが、2μm〜250μmの範囲のスポット直径を有し、
スポットあたりのレーザー照射のパルスの数が20〜1000の範囲であり、
前記レーザーが、400〜1000の範囲であるパルス波長を有し、
レーザーパルス幅が、1フェムト秒〜3ピコ秒の範囲である、請求項15〜請求項17のいずれかに記載の電極の製造方法。
【請求項19】
レーザーが、5μm〜200μmの範囲のスポット直径を有し、
スポットあたりのレーザー放射線のパルスの数が、100〜500の範囲であり
前記レーザーが400〜800の範囲であるパルス波長を有し
レーザーパルス幅が、1フェムト秒〜3ピコ秒の範囲である、請求項15〜請求項17のいずれかに記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的に活性な医療用デバイスのためのインプラント可能な生体用電極に関する。この電極は、電気性能の向上のために改善された表面トポグラフィを有する。こうした電極は、刺激電極として、例えばペースメーカー又は医学的状態のセンサとして人体に永久的にインプラントされ得るデバイスに好適である。本発明は、表面積を増大させて後電位分極(after−potential polarization)を低下させるため、中実のモノリシック電極材料の表面へ超高速高エネルギーパルスを適用したことによって達成される。
【背景技術】
【0002】
組織への刺激付与、又は、電気的バイオリズムを検知するために使用される電極であって、活性を有しつつインプラント可能なデバイスを作製することが、商業的に大きな関心を集めている。このインプラント可能な電極の電気性能は、体内組織と接触する外部表面積を増大させることで向上させることができる。インプラント可能な電極の表面積を増大させることで、電極の二重層キャパシタンスを増大させ、後電位分極を低減することができる。そして、これによりデバイスの電池寿命を増大させ、又は、捕獲閾値をより低くしてR波及びP波等の特定の電気信号の感知を改善することができることが知られている。
【0003】
電極の表面積を増大させ、それにより後電位分極を低減させる方法としては、コーティングを施すことが当該技術分野で知られている。これにより後電位分極が低減し、その結果、より低い電圧で電荷転送を増大させることが可能となり電荷転送効率が増大する。これは、神経学的な刺激において特に重要である。
【0004】
二重層キャパシタンスは、通常、電気化学インピーダンス分光法を用いて測定される。この方法では、電極が電解槽内に浸漬され、小さい周期的な波が電極にかけられる。この電極/電解液システムの電流及び電圧応答を測定して、二重層キャパシタンスを判定する。キャパシタンスは、低周波数(10Hz未満)のインピーダンスで最も重要な要因であり、したがってキャパシタンスは通常、0.001Hz〜1Hzの周波数で測定される。
【0005】
現在のところ、インプラント可能な電極の表面積を増大させるための技術としては、電極基板の表面に適切なコーティングを適用することである。このコーティングに伴う主な問題としては、基板とコーティング材料をつなぎ合わせて両者を付着させることに関するものである。
【0006】
この点について、特許文献1(米国特許第5,571,158号)は、有効表面積が電極の幾何学的な基本形状によって画定される表面積より実質的に大きい、多孔質の表面コーティングを有する刺激電極について示している。
【0007】
特許文献2(米国特許第6,799,076号)は、基板の少なくとも一部分を覆う第1の層と、第1の層の少なくとも一部分を覆う第2の層とを含む基板を有する電極について開示している。第1の層は、チタン、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ハフニウム、タンタル、又はタングステンの炭化物、窒化物、又は炭窒化物からなる。第2の層は、イリジウムを含む。
【0008】
特許文献3(米国特許第5,318,572号)は、高効率で組織を刺激して信号を感知する電極について教示している。この技術では、リードが白金イリジウムの多孔質の電極を有し、表面内に凹状の領域又は溝が形成される。これらの溝は、障害を形成して心内膜組織を捕獲する結果、迅速に電極を安定化することができる。ベース電極の表面上に、直径20〜200μmの球形の粒子からなる少なくとも1つの多孔質のコーティング層を堆積させると、長期的な組織内殖を促す多孔質の微細構造が得られる。微細構造の表面コーティングを施し、電気化学分極を減らして電気キャパシタンスを増大させることによって、有効表面積を増大させ、電気効率を向上させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第5,571,158号
【特許文献2】米国特許第6,799,076号
【特許文献3】米国特許第5,318,572号
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/0160821号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらの先行技術に関して特に懸念される問題としては、コーティングの一セクションが使用中に剥離又は外れて刺激物質になり得ることである。この点、基板に対するコーティングの付着性を試験する場合には高価な試験片を破壊することが必要であり、また、試験方法及びサンプリングを有効にするためには統計学的エビデンスが必要である。
【0011】
一方、コーティングに対して代替可能な手段として、電極基板材料自体を変質させることが考えられる。この手段によれば、コーティングの不十分な接着性の問題は取り除かれ、使用中におけるコーティング成分の剥離・外れの可能性は削減される。
【0012】
しかしながら、コーティングによらずに電極の改質表面を作製しようとするこれまでの試みは、機械的制限のために機能していないのが現状である。例えば、特許文献4(米国特許出願公開第2011/0160821号)では、表面をレーザーでエッチングし、表面形体に25000nm〜250000nmのリッジを作製する方法が開示されているが、このような電極表面のレーザーエッチングについての教示では好適な電極を作製することはできなかった。
【0013】
本発明は、以上の背景のもとになされたものであり、上記の問題を解決するものである。本発明は、コーティングによらずに電極の改質表面を作製し、これにより電極の電気性能の改善を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者によれば、生体適合性を有しインプラント可能なデバイスに適した電極の表面形体としては、サブミリメートル、例えば1nm〜1000nmでなければならない。上記の従来技術は、電極表面のレーザー加工について教示しているが、そのような技法ではナノメートルスケールの形体を実現することができない。例えば、上記の特許文献4のレーザーエッチング処理では、レーザーの衝突によって電極表面を改質するものであり、作製可能な最小サイズは集束されたレーザービームの寸法に等しく、これはレーザーの波長(通常は200〜1600nmである)によって制限される。
【0015】
本発明は、超高速のエネルギーパルスを電極表面に供給することによって、上記課題を解決する。本発明で超高速レーザーを用いて送達されるエネルギーパルスは、人体組織を刺激するのに理想的な50nm〜500nm程度の表面構造を作製することできることが分かっている。この処理は、材料のレーザーエッチング及び除去ではなく、表面の再構造化(restructuring)によって行われる。
【0016】
本発明では、電気性能の向上のために所望の表面トポグラフィを形成する際に重要な因子として、三段階での表面構造の形態を示すことを見出した。この表面構造に関する三段階の形態は、ナノ構造、ミクロ構造、及び、マクロ構造の観点から示される。
【0017】
ナノ構造は、丸い管(円筒)又は球状の小球として現れるナノ小球として表現される。これは外観がほぼ粉末状であるが、表面に非常によく接着されている。ナノ小球の真球性は、スポットあたりのレーザー照射パルスの数を増大させるにつれて低下する。
【0018】
これらのナノ小球は、レーザーの波長によって決定される周期的パターンで、ヒロック(hillock:小丘)状のミクロ構造上に重ねられる。波長が短くになるにつれて、パターンの周期は小さくなる。このミクロ構造パターンは、メサ(mesas:台地)状の幾分大きなマクロ構造上に重ねられる。
【0019】
そして、マクロ突起(マクロ構造)は、0.15μm〜50μmの範囲の幅を有し、ミクロ突起(ミクロ構造)は、0.15μm〜5μmの範囲の幅を有し、ナノ突起(ナノ小球)は、0.01μm〜1μmの範囲の幅を有する。また、本発明の実施形態の基板表面のように、これらの外側方向に延びる突起又はアップリフトに加えて、基板表面の内側方向に下方に延びるボイドを有していてもよい。
【0020】
以上の通り、本発明は、外周表面を有する中実のモノリシック基板を含む電極であって、前記外周表面は、前記外周表面の周りに分配され、前記外周表面から外側に延びる複数の区別可能なマクロ突起によって規定されるトポグラフィを有し、前記マクロ突起が、0.15μm〜50μmの範囲の幅を有し、前記マクロ突起上には、前記マクロ突起から外側に延びる複数の区別可能なミクロ突起が分配されており、前記ミクロ突起が、0.15μm〜5μmの範囲の幅を有し、更に、前記ミクロ突起上には、前記ミクロ突起から外側に延びる複数の区別可能なナノ突起が分配されており、前記ナノ突起が、0.01μm〜1μmの範囲の幅を有する、電極である。
【0021】
本発明は、外周表面を有する中実のモノリシック基板を含む電極を提供し、この外周表面が、この外周表面の周りに分配され、この外周表面から外側に延びる複数の区別可能なマクロ突起によって規定されるトポグラフィを有し、このマクロ突起が、0.15μm〜50μmの範囲の幅を有し、複数の区別可能なミクロ突起が、このマクロ突起上に分配され、このマクロ突起から外側に延び、このミクロ突起が、0.15μm〜5μmの範囲の幅を有し、及び複数の区別可能なナノ突起が、このミクロ突起上に分配され、このミクロ突起から外側に延び、このナノ突起が、0.01μm〜1μmの範囲の幅を有する。
【0022】
本発明はまた、外周表面を有する中実のモノリシック基板を含む電極を製造するための方法を提供する。本発明の方法は、この外周表面が、この外周表面の周りに分配され、この外周表面から外側に延びる複数の区別可能なマクロ突起によって規定されるトポグラフィを有し、このマクロ突起が、0.15μm〜50μmの範囲の幅を有し、複数の区別可能なミクロ突起が、このマクロ突起上に分配され、このマクロ突起から外側に延び、このミクロ突起が、0.15μm〜5μmの範囲の幅を有し、及び複数の区別可能なナノ突起が、このミクロ突起上に分配され、このミクロ突起から外側に延び、このナノ突起が、0.01μm〜1μmの範囲の幅を有し、前記方法は、中実のモノリシック基板を、1μm〜1,000μmの範囲のレーザースポット直径を有するレーザー照射のパルスに曝す工程を含み、ここでスポットあたりのレーザー照射のパルスの数が、10〜1500パルスの範囲であり、このパルス波長が、200nm〜1500nmの範囲であり、このパルス幅が、200ワット/cm
2〜5000ワット/cm
2の放射照度にて1フェムト秒〜5ピコ秒の範囲である。
【発明の効果】
【0023】
以上説明した本発明は、電極基板の材料自体を改変すること好適な表面積を有する電極を提供するものである。本発明に係る電極は、従来のコーティングによる電極が抱えていた不十分な接着性の問題を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施例1のトライアル1に従って得られた基板構造のSEM画像。
【
図2】実施例1のトライアル2に従って得られた基板構造のSEM画像。
【
図3】実施例1のトライアル3に従って得られた基板構造のSEM画像。
【
図4】実施例2のトライアルAに従って得られた基板構造のSEM画像。
【
図5】実施例2のトライアルBに従って得られた基板構造のSEM画像。
【
図6】実施例2のトライアルCに従って得られた基板構造のSEM画像。
【
図7】実施例2のトライアルDに従って得られた基板構造のSEM画像。
【
図8】実施例2のトライアルEに従って得られた基板構造のSEM画像。
【
図9】実施例2のトライアルFに従って得られた基板構造のSEM画像。
【
図10】実施例2のトライアルGに従って得られた基板構造のSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0025】
インプラントされた生体用電極の表面モルホロジーは、周囲組織との相互作用を改善するように設計される。本発明は、ナノメートルスケールの形体を利用することによる利点、例えば、感染可能性の低減等といった生物学的な利点や、電気伝達の改善等といった機能的な利点を提供する。
【0026】
本発明は、例えば種々の波長にて操作されたフェムト秒のレーザーに曝すことによって、白金等の生体適合性の金属上に形体(features)を形成する。本発明は、電極の有効表面積を最大にしながら後電位分極作用を最小にする。それによって電荷転送効率を増大させる最適の表面幾何形状を実現する。本発明は、従来の典型的な表面改質に対して性能的優位点を実現する。
【0027】
後電位分極とは、ペースメーカー等のデバイスから電極に刺激パルスをかけた後に電極上に残っている電圧である。後電位分極は、どれだけ効率的に電荷が組織内へ注入されるかを示す尺度となる。
【0028】
医療用電極における電荷転送方法は、電極の表面上に形成された電気二重層キャパシタンスの充電及び放電によって行われることが知られている。この層は、刺激すべき組織が主に水、Na、K、及びClからなる障壁によって電極表面から分離される簡単な平行板モデルであると考えることができる。この層の厚さは、体内の電解液の濃度によって左右され、したがって電極の動作寿命にわたって均一である。
【0029】
0.9%の生理的食塩水、即ち体液に溶解させた導電体によって形成される電気二重層の厚さは、1nm程度であり、正常な体の電解液中に形成される二重層キャパシタンスの予期される厚さは、約0.5nm〜約10nm、より典型的には約5〜約6nmになるはずである。
【0030】
典型的な人間の細胞のサイズは、約5000nm〜約10000nm程度である。細胞は、電気二重層よりはるかに大きく、電極表面よりはるかに小さいため、電極の表面に対して平行になると考えることができる。非極性の電解液(電気二重層内に存在するが関与しない電解液)が増大するにつれて、組織−電極システムのインピーダンスも増大する。これは、液抵抗として知られている。インピーダンスが増大する結果、液抵抗経路に沿って電圧が放散するため、有効電荷転送は小さくなる。このインピーダンスを最小にするには、刺激すべき組織を電極表面に可能な限り近接させるべきである。したがって、これらの目的のため、電極表面を平坦にし、組織に対して平行に配置することが好ましいはずである。
【0031】
そこで本発明は、外周表面を有する中実のモノリシック基板を備える電極を提供する。基板は、哺乳動物の組織内にインプラントするのに適した生体適合性の金属を含む。例には、白金、鋼、白金とイリジウムの合金、ニッケルとコバルトの合金、及びこれらの組合せが含まれるがこれらに限定されない。
【0032】
ある実施形態では、電極の外周表面は約1mm
2〜20mm
2、好ましくは3mm
2〜12mm
2の面積を有する。電極は、チューブ状、平坦、キノコ状、又は螺旋状の形状等の任意の適した構成又は形状を有することができる。外周表面は、外周表面の周りに分配され、外周表面から外側に延びた複数の区別可能なマクロ突起によって規定されるトポグラフィを有する。
【0033】
ある実施形態においては、マクロ突起は、中実のモノリシック基板の外周表面にわたって実質的に均一に分配される。ある実施形態においては、マクロ突起は、0.15μm〜50μmの範囲の幅を有する。別の実施形態において、マクロ突起は、0.2μm〜30μmの範囲の幅を有する。さらに別の実施形態において、マクロ突起は、1μm〜20μmの範囲の幅を有する。
【0034】
区別可能な複数のミクロ突起は、マクロ突起上に分配され、マクロ突起から外側に延びる。ある実施形態において、ミクロ突起は、0.15μm〜5μmの範囲の幅を有する。別の実施形態において、ミクロ突起は、0.2μm〜2μmの範囲の幅を有する。さらに別の実施形態において、ミクロ突起は、0.4μm〜1.5μmの範囲の幅を有する。ある実施形態において、ミクロ突起は、ミクロ突起の高さの周期波の形態でマクロ突起にわたって分配される。周期波は、レーザー照射の波長によって生じ、制御されると考えられる。
【0035】
区別可能な複数のナノ突起は、ミクロ突起上に分配され、ミクロ突起から外側に延びる。ある実施形態において、ナノ突起は、0.01μm〜1μmの範囲の幅を有する。別の実施形態において、ナノ突起は、0.02μm〜1μmの範囲の幅を有する。さらに別の実施形態において、ナノ突起は、0.075μm〜0.8μmの範囲の幅を有する。ある実施形態において、ナノ突起は、管及び/又は小球の形態でミクロ突起にわたって分配される。ナノ突起は、パルスの数及びパルス期間によって生じ、制御できると考えられる。
【0036】
特定の理論に拘束されることはなく、マクロ、ミクロ及びナノ突起は、基板表面のレーザードリリングボイドによって形成され、次いでボイドからの材料が基板表面上にこれらの突起として再堆積されると考えられる。そのため、レーザー照射は、基板をガスでパージすることなく、さらに実質的なガス圧力なしで行われることが重要である。何故なら、ガスによる影響はボイド材料を基材に再堆積させるのではなく吹き飛ばす傾向があるためである。レーザー照射が行われる雰囲気は、除去されたボイド材料が吹き飛ばされず、基板上に再堆積されることができる雰囲気である限り、重要ではないと考えられる。このドリリング効果は、レーザースポットの中央部にて最も強く、そのため基板表面にわたるレーザースポットのトラベリングにより、スポットの重なりが生じるので、適用されたレーザー放射線のガウス型分布を生じる。
【0037】
本発明の他の実施形態での表面構造においては、上記のマクロ、ミクロ、及びナノ突起に加えて、レーザーによって誘起されたボイドのアレイが形成される。このボイドの長さ及び深さは使用されたレーザーパラメータに依存する。従って、この実施形態においては、外周表面に、マクロ、ミクロ、及びナノ突起に加えて、外周表面の周りに分配された複数のボイドを有するトポグラフィを有する。それは基板を通って深さを延ばす。ボイドは、50nm〜500nm、好ましくは100nm〜250nmの基板を通る深さを有する。ボイドは、50nm〜500nm、好ましくは100nm〜250nmの幅を有する。ボイドは、隣接するボイドから50nm〜250nmの離間隔で形成される。
【0038】
本発明に係る電極は、生体適合性金属からなる中実のモノリシック基板の外周表面をレーザー照射のパルスに曝すことによって製造される。ある実施形態において、レーザーは、1μm〜1000μm範囲のスポット直径を有する。別の実施形態において、レーザーは、2μm〜250μmの範囲のスポット直径を有し、さらに別の実施形態において、レーザーは、5μm〜200μmの範囲のスポット直径を有する。
【0039】
ある実施形態において、スポットあたりのレーザー照射のパルスの数は、10〜1500パルスの範囲である。別の実施形態において、スポットあたりのレーザー照射のパルスの数は、20〜1,000の範囲であり、さらに別の実施形態において、スポットあたりのレーザー照射のパルスの数は、100〜500の範囲である。
【0040】
ある実施形態において、レーザーは、200nm〜1500nmの範囲のパルス波長を有する。別の実施形態において、パルス波長は400〜1,000の範囲であり、さらに別の実施形態においてパルス波長は、400〜800の範囲である。
【0041】
ある実施形態において、パルス幅は、1フェムト秒〜5ピコ秒の範囲である。別の実施形態において、パルス幅は、1フェムト秒〜3ピコ秒の範囲である。
【0042】
ある実施形態において、レーザー放射照度は200ワット/cm
2〜5000ワット/cm
2の範囲である。
【0043】
レーザーの曝露は、50mm/min〜1000mm/minの速度にて、中実のモノリシック基板の外周表面にわたってレーザー放射線のスポットを横切ることによって行われてもよい。但し、速度は、重要ではなく、本発明の方法のコスト的に有効な実行に影響を与えるだけである。好適なレーザーの例としては、Coherent Libra−F Ti:Sapphire増幅器レーザーシステム、Rofin Startfemto、及び、Coherent AVIAレーザー等が挙げられる。但し、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明によって得られる電極は、1000mV以下、好ましくは500mV以下、より好ましくは200mV以下の分極を有する。電極の分極が低ければ低いほど、電気性能の改善ために表面形状が最適化されると判定できる。電極の二重層キャパシタンスが大きく、後電位分極作用が小さいという表面特性は、電極の表面積が増大すると向上する。後電位分極が低減する結果、より低い電圧における電荷転送の増大を可能にすることによって、電荷転送効率が増大する。したがって、後電位分極が低減するとデバイスの電池寿命が増大し、特定の電気信号の感知が改善される。
【0045】
デバイス使用の際には、本発明の電極は、少なくとも1つの電気コネクタを有し、その端部が基板に電気的に取り付けられる。通常、この電気コネクタは、白金、銀、銅等の生体適合性の導電性材料、MP35N等の超合金、又はNitrol等の超塑性合金等、適した材料のワイアとすることができる。ある実施形態では、ワイアの他方の端部は、心臓ペースメーカー等の電気パルス生成器に接続される。また、他の実施形態では、ワイアの他方の端部は、生物学的条件のセンサ等の電気測定デバイス、又は電圧記録デバイスに接続される。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を例示するための実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
第1実施形態:本実施形態では、2.05mmの直径及び2.5mmの有効長を有するシリンダ状白金電極を、超高速レーザーテクスチャリングを介して加工処理した。シリンダをその頭軸を中心に回転させ、機械的ステージを介して移動させつつ一連のパルスを送達した。サンプルは、レーザーの下に配置しながら、レーザーをほぼ斜めの角度にて表面に衝突させ、パルスの数を変更した。露光には、Coherent Libra−F Ti:Sapphire増幅器レーザーシステムを使用した。公称スポットサイズは105μmであった。スポット中央部間のオフセットは、70μmであり、オーバーラップは30%であった。パルス期間は、100pfであり、パルスエネルギーは1mJであり、繰り返し周波数は1kHzであった。露光の際の操作パラメータの変更させたものに電極について、電位分極を測定して比較検討した。所望の後電位分極は<20mVである。
【0048】
トライアル1(比較例)
この例は比較例であり、スポットあたり100パルスが送達された。
図1に走査電子顕微鏡写真(SEM)で観察された構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、高さ<10μmを有するミクロヒロック構造を示す。画像(d)は、わずかに視覚可能なミクロヒロック構造の周期構造を示す。画像(e)は、高い真球性を有するナノ小球を示す。この比較例の電極についての分極は456mVであった。
【0049】
トライアル2
この実施例においては、スポットあたり300パルスが送達された。
図2の走査電子顕微鏡写真(SEM)に得られた構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、高さ>10μmを有するミクロヒロック構造を示す。画像(d)は、視覚可能なミクロヒロック構造の周期構造を示す。画像(e)は、真球性を有し、一部のチューブ状フィーチャを有するナノ小球を示す。この実施例の電極の分極は105mVであった。
【0050】
トライアル3
この実施例においては、スポットあたり500パルスが送達された。
図3の走査電子顕微鏡写真(SEM)に得られた構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、25μmの高さを有するミクロヒロック構造を示す。画像(d)は、際立ったミクロヒロック構造の周期構造を示す。画像(e)は、角のあるナノ小球及び大きなボイド及びキャビティを示す。分極は45mVであった。
【0051】
第2実施形態:この実施形態では、2.05mmの直径及び2.5mmの有効長を有するシリンダ状白金電極を、超高速レーザーテクスチャリングを介してそれらの表面の30%を加工処理した。シリンダをその頭軸を中心に回転させ、機械的ステージを介して移動させつつ一連のパルスを送達した。サンプルをレーザーの下に配置しながら、レーザーをほぼ斜めの角度で表面に衝突させた。露光には、Rofin StarFrmto FX レーザーシステムを使用した。公称スポットサイズは、50μm、100μm及び200μmで変動させた。スポット中央部間のオフセットステップは25μm、35μm、50μm、70μm、及び140μmで変動した。スポットあたりのパルスの数は、500であった。この実施例2ではレーザー曝露は800nmの固定波長を有していた。そして、露光の際の操作パラメータの変更させたものに電極について、電位分極を測定して比較検討した。所望の後電位分極は、実施例1よりも加工処理された表面サイズが低減したことによりこの構成では<5500mVである。
【0052】
トライアルA
この例において、スポットサイズは50μmであり、オフセットステップは35μmであった。
図4の走査電子顕微鏡写真(SEM)に得られた構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、オフセットステップに対応する8μmのミクロヒロック構造を示す。画像(d)は、ミクロヒロック構造の周期構造を示す。画像(e)は、角のあるナノ小球を示し、真球性が低い。分極は、410mVであった。
【0053】
トライアルB
この例において、スポットサイズは50μmであり、オフセットステップは35μm×25μmであった。
図5の走査電子顕微鏡写真(SEM)に得られた構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、25μmのミクロヒロック構造を示す。画像(d)は、ミクロヒロック壁の周期構造を示す。画像(e)は、角のあるナノ小球を示し、低い真球性を有し、大きいなボイドを有する。分極は、365mVであった。
【0054】
トライアルC
この例において、スポットサイズは50μmであり、オフセットステップは35μm×50μmであった。
図6の走査電子顕微鏡写真(SEM)は得られた構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、ミクロヒロック構造がオフセットによりリッジを形成することを示す。ヒロック構造は非常に浅い。画像(d)は、ミクロヒロック壁の周期構造を示す。画像(e)は、真球性を有し、ボイドをほとんど有していないナノ小球を示す。分極は490mVであった。
【0055】
トライアルD(比較例)
この例において、スポットサイズは50μmであり、オフセットステップは50μm×50μmであった。
図7の走査電子顕微鏡写真(SEM)に得られた構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、ミクロヒロック構造がオフセットによりリッジを形成することを示す。ヒロック構造は非常に浅い。画像(d)は、ミクロヒロック壁の周期構造を示す。画像(e)は、チューブ状構造とのナノ小球の混合物を示す。分極は、710mVであった。
【0056】
トライアルE
この例において、スポットサイズは50μmであり、オフセットステップは250μm×25μmであった。
図8の走査電子顕微鏡写真(SEM)に得られた構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、ミクロヒロック構造がオフセットによりリッジを形成することを示す。この構造では、深いヒロックが形成された形体であることが示され、一部の周期構造をヒロック壁に見ることができる。画像(d)は、真球性及び深いボイドを有するナノ小球を示す。分極は、185mVであった。
【0057】
トライアルF
この例において、スポットサイズは100μmであり、オフセットステップは70μm×70μmであった。
図9の走査電子顕微鏡写真(SEM)に得られた構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、ヒロック構造オフセット及びオフセットに比例するヒロック形体を示す。画像(d)は、ミクロヒロック壁の周期構造を示す。画像(e)は真球性を有し、ほとんどボイドを有していないナノ小球を示す。分極は525mVであった。
【0058】
トライアルG(比較例)
この例において、スポットサイズは200μmであり、オフセットステップは140μm×140μmであった。
図10の走査電子顕微鏡写真(SEM)は、得られた構造を示す。画像(a)は、基板のマクロ画像を示す。画像(b)〜(c)は、ヒロック構造オフセット及びオフセットに比例するヒロックの形体を示す。画像(d)は、ミクロヒロック壁の周期構造を示す。画像(e)は、チューブ状構造を有し、ほとんどボイドを有していないナノ小球を示す。分極は、630mVであった。
【0059】
これらのトライアルは、ヒロック構造を形成する際のスポットのオーバーラップが、構造や性能に大きい影響を与えていたことを示している。ヒロック構造のボイド幅は、レーザースポットサイズによって影響を受けるが、隆起したヒロック構造の周期性は、オフセットステップによって形成される。
【0060】
トライアルC及びトライアルEのように類似したナノ小球のパターンであっても、マクロ構造化されたヒロックの差異よって全く異なる結果が示される。トライアルA及びCの場合のような連結されたヒロックの列を示すものと比較すると、ナノ小球を有する一連の隆起した構造は、トライアルEで見られたような構造に重ね合わせられることが好ましい。トライアルBに見られるような矩形の構造と比較した場合に、トライアルEにあるように均一に形成されたメソ構造を有することも好ましい。
【0061】
形体(feature)の幅についてトライアルAとトライアルF及びGとを比較したとき、また、形体の高さについてトライアル1、トライアル2及びトライアル3を比較したときから理解されるように、構造のサイズを最適化することは好ましいことである。
【0062】
示されたデータに基づき、より小さい幅及びより深いボイド深さが好ましいことが明らかとなった。ナノ小球は、球体又は角のある小球の形態であることが好ましく、これはトライアルDをトライアルFと比較すると把握でき、チューブ状構造に比べて小球の形態が好ましい。
【0063】
トライアルAとトライアルDとの比較から、好適な性能は、体積の大きいボイドを有するナノ小球構造から生じることがわかる。体積の大きいボイドを有するナノ小球の創出は、トライアル1、2及び3に見られるように、それぞれ個々のスポットにおいてエネルギーパルスの数によって影響を受ける。この効果は、スポットサイズより小さいオフセットが、他の領域より一部の領域においてより多いパルスを創出するので、オフセットステップが変更される場合に見られる。トライアルA及びEを比較することによって相互影響(co−influence)を見ることができる。
【0064】
ミクロ構造の周期パターンは、ナノ小球のための核形成部位として作用するので性能に対して二次効果を有すると思われる。好ましいメサ状ヒロックは、これが周期構造の欠損というよりもおそらくナノ小球の過創出及び核形成によりあり得るが、周期構造があまり目立たないようである。
【0065】
以上、好ましい実施形態を参照して本発明が詳細に示され記載されたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、種々の変化及び変更が行われ得ることが当業者には容易に理解される。特許請求の範囲は、開示された実施形態、上記で議論された代替及びそれらのすべての等価物をカバーすると解釈されることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0066】
発明は、電極基板の材料自体の改変によって得られた好適な表面積を有する電極である。本発明に係る電極は、良好な活性を有しつつインプラント可能な電極であり、心臓ペースメーカー等の電気パルス生成器、生物学的センサ等の電気測定デバイスや電圧記録デバイスといった各種デバイスに接続することができる。