特許第6494344号(P6494344)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494344
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】コンバイン
(51)【国際特許分類】
   A01D 41/12 20060101AFI20190325BHJP
   A01D 41/127 20060101ALI20190325BHJP
   A01F 12/60 20060101ALI20190325BHJP
   G06Q 50/02 20120101ALI20190325BHJP
【FI】
   A01D41/12 Z
   A01D41/127 130
   A01F12/60
   G06Q50/02
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-51973(P2015-51973)
(22)【出願日】2015年3月16日
(65)【公開番号】特開2016-171749(P2016-171749A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2017年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】高原 一浩
(72)【発明者】
【氏名】植田 麻央
【審査官】 小島 洋志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−053674(JP,A)
【文献】 特開2006−081487(JP,A)
【文献】 特開2014−194653(JP,A)
【文献】 特開2014−187944(JP,A)
【文献】 特開2014−067309(JP,A)
【文献】 特開2014−187943(JP,A)
【文献】 特開2014−067308(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/174869(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/050524(WO,A1)
【文献】 特開2011−248741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01D41/12−41/127
A01F12/60
G06Q50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行しながら圃場から穀稈を刈り取り、刈取穀稈を脱穀することで得られた穀粒を穀粒タンクに貯留するコンバインにおいて、
前記圃場を特定する圃場識別情報を管理する圃場識別情報管理部と、
前記穀粒タンクに供給される穀粒の成分に関する測定値を出力する穀粒測定部と、
通信回線を介して前記圃場識別情報を管理サーバに送信するとともに、前記圃場識別情報によって特定された圃場のための演算情報を前記管理サーバから受信する通信部と、
前記圃場で収穫された穀粒の成分を示す穀粒成分値を前記測定値から導出するための最適な測定値・穀粒成分値テーブルを、前記演算情報を用いて決定するテーブル管理部と、
前記テーブル管理部によって決定された測定値・穀粒成分値テーブルを用いて前記測定値から穀粒成分値を求める穀粒成分値演算部と、
を備えているコンバイン。
【請求項2】
前記測定値から穀粒成分値を導出するための複数の測定値・穀粒成分値テーブルを格納するテーブル格納部が備えられ、
前記テーブル管理部は、前記演算情報を検索条件として前記テーブル格納部から抽出された測定値・穀粒成分値テーブルを前記最適な測定値・穀粒成分値テーブルとして決定する請求項1に記載のコンバイン。
【請求項3】
前記測定値・穀粒成分値テーブルの基準となる基準測定値・穀粒成分値テーブルが格納されており、
前記テーブル管理部は、前記演算情報に基づいて前記基準測定値・穀粒成分値テーブルを補正することで前記最適な測定値・穀粒成分値テーブルを決定する請求項1に記載のコンバイン。
【請求項4】
前記演算情報は、前記圃場で収穫される穀粒の種別または品種あるいはその両方である請求項1から3のいずれか一項に記載のコンバイン。
【請求項5】
前記演算情報が、前記測定値から前記穀粒成分値を導出するための前記最適な測定値・穀粒成分値テーブルである請求項1に記載のコンバイン。
【請求項6】
前記穀粒タンクに供給される穀粒の少なくとも一部を受け入れる一時貯留室が設けられ、前記穀粒測定部は、前記一時貯留室に一時的に貯留されている穀粒に対して照射した光の分光測定に基づいて前記測定値を出力し、前記穀粒成分値演算部は前記測定値から少なくとも水分を求める請求項1から5のいずれか一項に記載のコンバイン。
【請求項7】
前記穀粒成分値演算部は、前記測定値からタンパク質の成分値を導出する請求項6に記載のコンバイン。
【請求項8】
前記穀粒成分値を表示可能な表示部を備えている請求項1から7のいずれか一項に記載のコンバイン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
走行しながら圃場から穀稈を刈り取り、刈取穀稈を脱穀することで得られた穀粒を穀粒タンクに貯留するコンバインに関する。
【背景技術】
【0002】
穀粒タンクへの穀粒供給口から流入してくる穀粒を回転する電極ローラ間で圧砕するともに圧砕された状態の穀粒の電気抵抗値を検出する水分センサが穀粒タンク内に設けられ、この電気抵抗値から穀粒水分量を測定する穀粒水分量測定手段が制御装置に設けられているコンバインが、特許文献1から知られている。この穀粒水分量測定手段は、水分センサからの電気抵抗値から所定の穀粒水分量換算用演算式やLUT(ルックアップテーブル)を用いて穀粒水分量を演算する。具体的には検量線と呼ばれる穀粒水分量換算用の演算式やLUTは、収穫する作物の種類毎及び品種毎にROMに予め登録されている。
【0003】
特許文献1によるコンバインに備えられた穀粒水分量測定手段では、制御装置のROMに予め登録された検量線(測定値から穀粒水分値を導出するテーブル)が用いられている。しかしながら、同一の作物の種類及び品種であっても、その地域や年度によって、測定値と穀粒成分値(穀粒水分値はその一種)との関係は異なっている。さらに、穀粒水分量を導出するための元になる測定値が、電気抵抗値ではなく分光測定値などの測定値と穀粒成分値との関係が高精度である測定法が採用された場合では、単に作物の種類毎及び品種毎に予め登録されている検量線を使い続けるだけでは、満足できる穀粒成分の算定ができないという不都合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−081488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の実情に鑑み、収穫時において、より精度の高い穀粒成分値を求めることができるコンバインが要望されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
走行しながら圃場から穀稈を刈り取り、刈取穀稈を脱穀することで得られた穀粒を穀粒タンクに貯留する、本発明によるコンバインは、前記圃場を特定する圃場識別情報を管理する圃場識別情報管理部と、前記穀粒タンクに供給される穀粒の成分に関する測定値を出力する穀粒測定部と、通信回線を介して前記圃場識別情報を管理サーバに送信するとともに前記圃場識別情報によって特定された圃場のための演算情報を前記管理サーバから受信する通信部と、前記圃場で収穫された穀粒の成分を示す穀粒成分値を前記測定値から導出するための最適な測定値・穀粒成分値テーブルを前記演算情報を用いて決定するテーブル管理部と、前記テーブル管理部によって決定された測定値・穀粒成分値テーブルを用いて前記測定値から穀粒成分値を求める穀粒成分値演算部とを備えている。
【0007】
この構成によれば、穀粒測定部から出力された穀粒の成分に関する測定値から穀粒成分値を導出するための測定値・穀粒成分値テーブルは、通信回線を介して管理サーバから受信する演算情報を用いて決定される。その際、コンバインから収穫対象となっている圃場の圃場識別情報を受け取った管理サーバが、その圃場識別情報に基づいて当該圃場から収穫される穀粒の穀粒成分値を導出するために最適な測定値・穀粒成分値テーブルを決定するための演算情報をコンバインに送信する。これにより、収穫地域や収穫年度などを考慮した最新の、つまり収穫作業中の圃場での収穫穀粒に最適な測定値・穀粒成分値テーブルを用いて、高信頼度の穀粒成分値を求めることができる。
【0008】
本発明の好適な実施形態の1つでは、前記測定値から穀粒成分値を導出するための複数の測定値・穀粒成分値テーブルを格納するテーブル格納部が備えられ、前記テーブル管理部は、前記演算情報を検索条件として前記テーブル格納部から抽出された測定値・穀粒成分値テーブルを前記最適な測定値・穀粒成分値テーブルとして決定する。なお、テーブル格納部に格納されている測定値・穀粒成分値テーブルは、収穫地域の天候などの環境条件や品種改良などを考慮して、追加または更新される。これにより、収穫する作物の種類毎及び品種、さらには地域や年度変動などを考慮して作成された、測定値と穀粒成分値との関係(計量線とも呼ばれる)が微妙に異なる多くの複数の測定値・穀粒成分値テーブルが抽出可能に格納されている。中央管理センタなどに設置される管理サーバは、コンバインから送られてくる圃場の圃場識別情報に基づいて決定される、収穫穀粒の種類毎及び品種、さらには地域や時期、さらには周辺の圃場における収穫穀粒の品質状況などを入力パラメータとして、当該コンバインが実際に収穫しようとする穀粒にとって最適な測定値・穀粒成分値テーブルを抽出するための検索条件を作成する。この検索条件は、演算情報として当該コンバインに送り出される。コンバインが管理サーバから検索条件を受け取ると、この検索条件に基づいて、収穫しようとする穀粒にとって最適な測定値・穀粒成分値テーブルが設定され、この最適な測定値・穀粒成分値テーブルを用いて、穀粒成分値演算部が精度の高い穀粒成分値を算出することができる。
【0009】
本発明の別な実施形態の1つでは、前記測定値・穀粒成分値テーブルの基準となる基準測定値・穀粒成分値テーブルが格納されており、前記テーブル管理部は、前記演算情報に基づいて前記基準測定値・穀粒成分値テーブルを補正することで前記最適な測定値・穀粒成分値テーブルを決定する。この実施形態では先の実施形態とは異なり、コンバインが複数の測定値・穀粒成分値テーブルを有するのではなく、基準の測定値・穀粒成分値テーブルだけを有している。コンバインは、管理サーバに圃場の圃場識別情報を送ることによって受け取る演算情報に基づいて基準の測定値・穀粒成分値テーブルを補正して、収穫しようとする穀粒にとって最適な測定値・穀粒成分値テーブルを作成する。したがって、この実施形態での演算情報は、基準の測定値・穀粒成分値テーブルから最適な測定値・穀粒成分値テーブルを作成するための補正情報である。
【0010】
なお、先に述べた2つの実施形態では、コンバインが最適な測定値・穀粒成分値テーブルを使用するために、管理サーバから圃場の圃場識別情報に応じて送られてくる演算情報が利用される。この演算情報の最も簡単な情報は、圃場で収穫される穀粒の種別または品種あるいはその両方である。この構成では、管理サーバが圃場の圃場識別情報からその時点での当該圃場で収穫される穀粒の種別または品種あるいはその両方を取得することで、各圃場で収穫作業を行うコンバインに対して適切にその収穫穀粒の種別または品種あるいはその両方を演算情報として知らせることができる。これにより、設定される測定値・穀粒成分値テーブルの穀粒の種別または品種と、実際に収穫されている穀粒の種別または品種とが異なっていることから生じる穀粒成分値の算定エラーを回避することができる。
【0011】
従来型のコンバインなどでは、複数の測定値・穀粒成分値テーブルから最適な測定値・穀粒成分値テーブルを抽出するような機能や、基準の測定値・穀粒成分値テーブルを補正して最適な測定値・穀粒成分値テーブルを作成する機能は備えられていない。そのようなケースにおいては、前記演算情報が、前記測定値から前記穀粒成分値を導出するための前記最適な測定値・穀粒成分値テーブルであるような実施形態が好都合である。コンバインが送った圃場の圃場識別情報に基づいて管理サーバが最適な測定値・穀粒成分値テーブルを選択または作成する。その測定値・穀粒成分値テーブルをテーブル管理部が管理サーバから受け取って設定するだけで、穀粒成分値演算部が測定値から精度の高い穀粒成分値を求めることができる。
【0012】
本発明によるコンバインでは、上述したように、穀粒測定部の測定値から精度の高い穀粒成分値を求めることができる。このため、穀粒測定部においても、精度の高い測定方法、及び圃場単位ではなく圃場の微小区画単位のきめの細かい穀粒測定が行われることが好ましい。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記穀粒タンクに供給される穀粒の少なくとも一部を受け入れる一時貯留室が設けられ、前記穀粒測定部は、前記一時貯留室に一時的に貯留されている穀粒に対して照射した光の分光測定に基づいて前記測定値を出力し、前記穀粒成分値演算部は前記測定値から少なくとも水分を求める構成が採用されている。この構成により、収穫される穀粒は、順次一時貯留室に貯留され、その穀粒成分量、特に食味との関連が高い水分が、分光測定を通じて高精度で求められる。これにより、圃場微細区画単位の営農管理が可能となる。
【0013】
また、穀粒の重要な栄養成分としてのタンパク質の成分も水分とともに測定可能であれば、営農管理上、好都合である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記穀粒成分値演算部が、前記測定値からタンパク質の成分値を導出するように構成されている。
【0014】
本発明によるコンバインでは、収穫時に穀粒成分値を圃場微細区画単位で求めることが可能となる。したがって、コンバインが営農管理に通じている運転者によって運転されている場合、その穀粒成分値をリアルタイムあるいは作業途中で確認できると好都合である。このため、本発明の好適な実施形態の1つでは、前記穀粒成分値を表示可能な表示部が備えられている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】収穫穀粒に対する測定値から正確な穀粒成分値を導出するための基本的な構成を示す模式図である。
図2】本発明によるコンバインの一例を示す側面図である。
図3】コンバインの平面図である。
図4】コンバインに搭載された穀粒タンクの前部を示す横断平面図である。
図5】穀粒タンク内部を示す模式図である。
図6】穀粒タンクに設けられた筒状形成体の内部に設けられた貯留シャッタが閉位置の時の計測ユニットの縦断側面図である。
図7】貯留シャッタが開位置の時の計測ユニットの縦断側面図である。
図8】コンバインに構築された測定制御系の一例を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明によるコンバインの具体的な実施形態を説明する前に、図1を用いて、コンバインによる穀粒収穫時にその穀粒の評価を行う評価システムの基本構成を説明する。ここでは、コンバインは走行しながら刈取部14で圃場から穀稈を刈り取り、刈り取られた穀稈から脱穀装置15によって穀粒が取り出される。穀粒は、脱穀装置15から穀粒搬送機構によって穀粒タンク16に供給される。脱穀装置15から穀粒タンク16までの穀粒供給路において、少なくとも一部の穀粒を取り込んで、穀粒の成分に関する測定を行う穀粒測定部30が装備されている。収穫物が米や小麦の場合、その食味に影響する穀粒成分は、水分やタンパク質である。このことから、穀粒測定部30が水分やタンパク質に関する測定データを出力できることが好ましい。また、このコンバインは、穀粒収穫時に穀粒成分値を算定することができるため、この穀粒成分値を表示可能な液晶ディスプレイなどの表示部52を備えることで、運転者は収穫作業中に穀粒成分値を確認することができる。
【0017】
このコンバインには、圃場を特定する圃場識別情報を管理する圃場識別情報管理部61が備えられている。圃場識別情報管理部61は、タッチパネルなどの入力デバイスを用いた運転者による手動入力、圃場に設置されたビーコンなどを用いた自動入力、圃場地図とGPS測位データとのマッチング、などを通じてこれから収穫作業を行う圃場を特定する圃場識別情報を生成する。水分やタンパク質などの穀粒成分の算定は、穀粒測定部30からの測定値に基づいて穀粒成分値演算部62によって行われる。その際、穀粒成分値演算部62は、穀粒測定部30からの測定値を入力値とし、特定の穀粒成分値を出力値とする、関数あるいはテーブルを用いる。このような関数あるいはテーブル(簡単なものは計量線とも呼ばれる)を、ここでは、穀粒成分値を測定値から導出する測定値・穀粒成分値テーブルと称する。測定値と穀粒成分値との関係は、測定対象となっている穀粒の種類や状態等によって異なるので、正確な穀粒成分値を得るためには、測定対象の穀粒に最適な測定値・穀粒成分値テーブル(計量線)を使用しなければならない。この最適な測定値・穀粒成分値テーブルを生成または選択するためのルールないしはアルゴリズムはかなり複雑である。また統計的な手法によりルールないしはアルゴリズムを随時改定する必要性も生じてくる。したがって、最適な測定値・穀粒成分値テーブルを生成または選択をコンバインに搭載されているスタンドアローンな制御演算システムだけで行うことは好ましくはない。このことから、このコンバインでは、多くの農家や農機メーカによって運営されている外部の管理サーバ8とデータ交換できる通信部51が備えられている。コンバインは、通信回線を介して上述した圃場識別情報を管理サーバ8の通信部81に送信するとともに、当該圃場識別情報によって特定された圃場のための演算情報を管理サーバ8から通信部81を介して受信する。テーブル管理部63は、受信した演算情報を用いて最適な測定値・穀粒成分値テーブルを決定する。これによって、穀粒成分値演算部62は、最適な測定値・穀粒成分値テーブルを用いて測定値から穀粒成分値を求めることができる。
【0018】
最適な測定値・穀粒成分値テーブルを決定するためにテーブル管理部63によって利用される演算情報の代表的なものを以下に列挙する。
(1)予めコンバインに多数の測定値・穀粒成分値テーブルを用意しておき、圃場識別情報から特定される圃場に最適な測定値・穀粒成分値テーブルを選択するための選択情報を演算情報とする。簡単な例としては、コンバインに穀粒の種別や品種あるいはその両方毎に異なる測定値・穀粒成分値テーブルを用意しておいた場合、管理サーバ8は、圃場識別情報から特定された圃場で収穫される現時点での穀粒の種別または品種あるいはその両方を演算情報とする。テーブル管理部63は、この演算情報を選択条件として最適な測定値・穀粒成分値テーブルを選択することができる。これは、コンバインの運転者が圃場や農作に詳しくない場合に好都合である。
(2)予めコンバインに測定値・穀粒成分値テーブルの基準となる基準測定値・穀粒成分値テーブルだけを用意しておき、当該基準測定値・穀粒成分値テーブルを補正することで、圃場識別情報によって特定された圃場に最適な測定値・穀粒成分値テーブルを作成するために必要な情報を演算情報とする。例えば、測定値から穀粒成分値を求める関数の係数、計量線の傾きや平行移動量などを演算情報とすれば、この演算情報を用いて、基準測定値・穀粒成分値テーブルから最適な基準測定値・穀粒成分値テーブルが作成可能である。簡単な例では、係数や傾きを穀粒の種別または品種あるいはその両方で関係づけておけば、情報穀粒の種別または品種あるいはその両方を演算情報とするだけ済ませることができる。
(3)コンバイン側の負担を最も少なくするためには、演算情報自体を最適な測定値・穀粒成分値テーブルとして構成するとよい。つまり、管理サーバ8が、圃場識別情報で特定された圃場で収穫された穀粒に最適な測定値・穀粒成分値テーブルを演算情報として作成して、これをコンバインに送出する。テーブル管理部63は受け取った最適な測定値・穀粒成分値テーブルを測定値・穀粒成分値テーブル設定部64を介して設定するだけでよい。
【0019】
このコンバインには、穀粒タンク16に供給される穀粒の少なくとも一部を受け入れる一時貯留室が設けられている。穀粒測定部30は、一時貯留室に一時的に貯留されている穀粒に対して照射した光の分光測定に基づいて測定値を出力する光学式測定装置を採用することができる。穀粒成分値演算部62はこの測定値から水分やタンパク質の成分値を求めることができる。収穫された穀粒を一時的に貯留しながら穀粒成分を算定することを収穫作業中に繰り返すことで、単位走行距離当たり、つまり圃場の微小区画当たりの穀粒成分値を得ることができる。このような微小区画当たりの穀粒成分値から、特定の圃場における穀粒成分値の分布図を作成することができ、精密営農が実現可能となる。
【0020】
次に、図面を用いて、本発明によるコンバインの具体的な実施形態の1つを説明する。図2はクローラ走行式の自脱型コンバインの側面図であり、図3は平面図である。このコンバインには、エンジン11によって駆動される左右一対のクローラ走行装置12によって自走するように構成された走行機体10が備えられている。走行機体10の機体フレーム13の前部に支持された植立穀稈を刈取る刈取部14と、刈取穀稈を脱穀処理する脱穀装置15と、脱穀装置15によって脱穀された穀粒を貯留する穀粒タンク16と、穀粒タンク16内の穀粒を外部に排出する穀粒排出装置であるアンローダ17と、運転者が着座する運転座席18等が備えられた運転操縦部19とが備えられている。
【0021】
図2及び図3に示すように、穀粒タンク16は、機体フレーム13のうち脱穀装置15に対して機体右横側に配置され、エンジン11の後方に位置する。穀粒タンク16の左横側部には、揚送スクリュー26が備えられている。揚送スクリュー26は、穀粒タンク16内の機体左横部に配置されている。揚送スクリュー26は、脱穀装置15から搬送されてきた穀粒を流入口27まで揚送する。図4に示すように、流入口27まで揚送された穀粒は、揚送スクリュー26と一体に設けられて反時計まわりに回転駆動される回転羽根28によって流入口27から跳ね飛ばされて、穀粒タンク16内に広範囲に拡散されながら飛翔し、落下する。流入口27から供給された穀粒のうちの大部分は穀粒タンク16内の内部空間Mに供給される。穀粒の成分に関する測定値を出力する穀粒測定部30が穀粒タンク16の前部に配置されている。この穀粒測定部30は、流入口27から供給された穀粒の一部を内部に一時的に貯留し、貯留状態の穀粒に光ビームを照射し、戻ってくる光ビームの分光計測結果を出力する。
【0022】
図2図3に示すように、穀粒タンク16内の底部には、穀粒タンク16に貯留された穀粒を外部に排出するように構成されている機体前後向きの排出オーガ24が設けられている。排出オーガ24は、エンジン11の駆動力により作動される。排出オーガ24によって、穀粒タンク16に貯留された穀粒が、穀粒タンク16の後部から排出され、さらにアンローダ17を通じて外部へ排出される。
【0023】
図2図3に示すように、穀粒タンク16の前部の下方位置には、穀粒タンク16内の穀粒の収量を穀粒タンク16の重量に基づいて測定するように構成されているロードセルが収量測定器70として備えられている。
【0024】
図5に示すように、穀粒測定部30は、穀粒タンク16の前壁16aに、防振ゴムを介してねじ固定されている。穀粒測定部30は、測定容器30Aと測定ユニット30Bとからなる。図6図7に示すように、測定ユニット30Bは、穀粒の水分とタンパクの成分値に関する測定データを取得する光学プローブ31が内蔵された箱状のハウジング32を備えている。測定容器30Aは、光学プローブ31による穀粒成分測定を行う穀粒を一時貯留させるための、一時貯留部33を備えている。
【0025】
測定容器30Aは、穀粒タンク16の内部空間Mの方を向いた第1壁341と、左右一対の側壁343と、測定ユニット30Bの方を向いた第2壁342とからなる断面矩形の筒体である。なお、この実施形態では、第2壁342はハウジング32の内部空間Mの方を向いた垂直な壁面部分で兼用されている。もちろん、第2壁342が個別に設けられてもよい。このような測定容器30Aの構造により、その内部に、垂直に延びた穀粒経路34が作り出され、穀粒経路34の途中に一時貯留部33が形成される。穀粒経路34は、穀粒を取り込む上部の取込口34aと、穀粒を排出する下部の排出口34bを有する。
【0026】
一時貯留部33は、脱穀装置15から搬送されてきて回転羽根28(図4参照)によって跳ね飛ばされた穀粒の一部を、一時的に貯留するように構成されている。一時貯留部33は、一時貯留部33の上部に形成された取込口34aから脱穀装置15より搬送されてきた穀粒の一部を取り込んで一時的に貯留し、一時貯留部33の下部に形成された排出口34bから一時貯留部33に貯留された穀粒を穀粒タンク16内の内部空間Mへ排出されるように構成されている。一時貯留部33の上部には、測定容器30Aの側壁343に穀粒を検知する近接センサからなる貯留量検出器741が備えられている。一時貯留部33の下部には、排出口34bを閉塞または開放する貯留シャッタ35が備えられている。一時貯留部33に貯留された穀粒の品質を検出する光学プローブ31は一時貯留部33に臨んでいる。
【0027】
貯留シャッタ35は、板状の揺動式に構成されている。貯留シャッタ35は、モータ37を駆動してカム等によって構成される切換機構36によって、水平姿勢となる貯留用閉位置と、下向き垂直姿勢となる排出用開位置とに切り替えられる。貯留シャッタ35は、貯留シャッタ35の開閉方向と交差する横向きの支軸38周りに揺動する。支軸38は、測定容器30Aの第1壁341に支持されている。
【0028】
図8は、このコンバインに構築された測定制御系の機能ブロック図である。この機能ブロック図には、穀粒測定部30、収量測定器70、測定制御系の中核要素である測定制御モジュール6を構築する制御ユニット5、遠隔地の農業管理センタに構築されている管理サーバ8が示されている。制御ユニット5には、管理サーバ8と無線データ通信が可能な通信部51、液晶パネルなどで構成される表示部52、データ入力インターフェースである入力信号処理部53、種々の動作機器を制御する機器制御部54、測定制御モジュール6などが含まれている。実質的にプログラムの実行を通じて構築される測定制御モジュール6の各機能は、図1を用いて説明された測定制御の基本原理を採用している。
【0029】
入力信号処理部53には、穀粒測定部30及び収量測定器70からの測定値信号、センサ・スイッチ群74の1つである貯留量検出器741からの貯留完了信号(又は貯留未了信号)、タッチパネルなどの人為操作入力デバイス71からの入力操作信号、各種のセンサやスイッチからの検出信号などが入力される。さらに、計測始動スイッチ(非図示)などの測定制御に関するスイッチからの信号も入力される。入力信号処理部53に入力された信号は、必要な前処理を受けて、測定制御モジュール6に転送される。機器制御部54は、コンバインに装備されている種々の動作機器の制御を行うための制御機能を備えている。例えば、シャッタ制御部541は、穀粒測定部30において穀粒の一時貯留を行うために、貯留シャッタ35を開閉するモータ37に開閉制御指令を与える。この実施形態では、貯留量検出器741からの信号に基づいて、一時貯留部33における穀粒が所定量以上貯留された状態を検知することで、穀粒測定部30による測定を開始する。穀粒測定部30による測定が終了すると、貯留シャッタ35を開位置に揺動させ、一時貯留部33で貯留された穀粒を排出する。次いで、貯留シャッタ35を閉位置に揺動させ、次の測定に移行する。
【0030】
測定制御モジュール6には、圃場識別情報管理部61、穀粒成分値演算部62、テーブル管理部63、測定値・穀粒成分値テーブル部64、収量演算部65、表示データ生成部66、収穫情報記録部67が含まれている。
【0031】
圃場識別情報管理部61は、穀粒を収穫するためにコンバインが穀稈を刈り取る圃場を確定し、その確定された圃場を特定する圃場識別情報を管理する。収穫対象となる圃場の確定には、種々の方法がある。たとえば、(1)圃場に設置された圃場ID保持体から、近距離無線通信やOCRなどによって圃場IDを受け取って、この圃場IDに基づいて収穫対象となる圃場を確定する、(2)運転者が写真や地図を参照しながら実際の圃場を目で確認して、収穫対象となる圃場を人為操作入力デバイス71等を通じて入力する、(3)正確な圃場地図が作成されている場合は、圃場地図とGPSによる方位情報(経緯度)とのマッチングによって収穫対象となる圃場を確定する、などである。
【0032】
収量演算部65は、ロードセルである収量測定器70の測定値から測定値・収量変換テーブルを用いて収量を算定する。なお、この実施形態では、収量演算部65は、所定のサンプリング時間で算定した収量から、指定の開始時点から指定の終了時点までの収量の増加量を演算することで、走行距離当たりの収量を算定する機能を有する。収量演算部65で算定される収量はその収穫位置(走行位置)とともに収穫情報記録部67に記録される。
【0033】
穀粒成分値演算部62は、測定値・穀粒成分値テーブル部64に設定されている収穫対象圃場に最適な測定値・穀粒成分値テーブルを用いて穀粒測定部30からの測定値から穀粒成分値として、水分とタンパク質を求める。この収穫対象圃場に最適な測定値・穀粒成分値テーブルの決定は、圃場識別情報管理部61で管理されている圃場識別情報を管理サーバ8に送信することで、管理サーバ8から送られてくる演算情報に基づいて行われる。このため、管理サーバ8には、圃場別演算情報生成部82が備えられている。圃場別演算情報生成部82は、コンバインの通信部51と管理サーバ8の通信部81とを通じて送られてくる圃場識別情報から特定される収穫対象圃場で収穫される農作物(穀粒)に最適な測定値・穀粒成分値テーブルを決定するために必要な演算情報を作成する。穀粒成分値演算部62で算定された水分及びタンパク質はその収穫位置(走行位置)及び収量演算部65で算定された収量とともに収穫情報記録部67に記録される。
【0034】
穀粒成分値演算部62で算定された水分及びタンパク質及び収量演算部65で算定された収量は、表示データ生成部66で視覚データ化され、表示部52で表示される。その際、穀粒成分値や収量は、走行距離単位または圃場単位で表示可能である。
【0035】
テーブル管理部63は、穀粒成分値演算部62によって用いられる最適な測定値・穀粒成分値テーブルを測定値・穀粒成分値テーブル部64に設定する。その際、テーブル管理部63は、管理サーバ8の圃場別演算情報生成部82から送られてくる演算情報を用いて最適な測定値・穀粒成分値テーブルを決定する。この実施形態では、圃場別演算情報生成部82は、コンバインから送られてきた圃場識別情報に基づいて、作業対象となっている圃場の作物の種別と品種をデータベースから抽出し、その抽出結果、例えば、種別が米で品種が大和小町25号を表す作物属性データを演算情報として、コンバインに送出する。受け取った演算情報である作物属性データからテーブル管理部63は、予め用意している基準測定値・穀粒成分値テーブルを補正し、当該圃場における穀粒成分値を導出するために最適な基準測定値・穀粒成分値テーブルを作成して、測定値・穀粒成分値テーブル部64に設定する。例えば、Sを成分値、X1、X2、・・・を分光結果群、Fを基準測定値・穀粒成分値テーブル(計量線)とすれば、基準測定値・穀粒成分値テーブルはS=F(X1、X2、・・・、α1、α2)と表すことができ、演算情報としてα1とα2の係数値が与えられると、唯一の最適な基準測定値・穀粒成分値テーブルが決定可能となる。
【0036】
〔別実施形態〕
(1)図8で示された測定制御系における機能部の区分けは一例であり、それぞれの機能部の統合や、各機能部の分割は任意である。本発明の制御機能が実現するものであればどのような構成でもよいし、またそれらの機能は、ハードウエアまたはソフトウエアあるいはその両方で実現することができる。
(2)上述した実施形態では、収量測定は、穀粒タンク16の重量増加に基づいて行われた。これに代えて、収量測定も、穀粒を一時的に所定量だけ貯留する測定容器30Aを用い、所定量の穀粒が貯留するまでの時間と車速とで単位走行(面積)当たりの収量を算定する構成を採用してもよい。その際、収量測定用の測定ユニット30Bと穀粒成分測定用の測定容器30Aとが相互連結された一体的な構造体であってもよいし、互いに独立した別構造体であってもよい。
(3)上述した実施形態では、管理サーバ8の通信部81と制御ユニット5の通信部51がデータ交換のために直接つながれていた。これに代えて、管理サーバ8の通信部81と制御ユニット5の通信部51との間に運転者が持参するスマートフォンなどの携帯通信端末を介在させてもよい。その際、表示部52に表示される内容の少なくとも一部が携帯通信端末の表示画面にも表示されると好都合である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、自脱型のコンバインの他、全稈投入型コンバインにも利用できる。また、クローラ走行式のコンバインの他、ホイール走行式のコンバインにも利用できる。
【符号の説明】
【0038】
14 :刈取部
15 :脱穀装置
16 :穀粒タンク
27 :流入口
28 :回転羽根
30 :穀粒測定部
31 :光学プローブ
32 :ハウジング
34 :穀粒経路
35 :貯留シャッタ
5 :制御ユニット
51 :通信部
52 :表示部
53 :入力信号処理部
54 :機器制御部
6 :測定制御モジュール
61 :圃場識別情報管理部
62 :穀粒成分値演算部
63 :テーブル管理部
64 :測定値・穀粒成分値テーブル部
65 :収量演算部
66 :表示データ生成部
67 :収穫情報記録部
70 :収量測定器
71 :人為操作入力デバイス
8 :管理サーバ
81 :通信部
82 :圃場別演算情報生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8