(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
100%モジュラスの値が20MPa以上であるポリウレタンと、100%モジュラスの値が10MPa以下であるポリウレタンとを極性溶媒に混合溶解してポリウレタン樹脂溶液を調製する工程、
前記ポリウレタン樹脂溶液の塗膜を形成する工程、及び、
前記塗膜を、ポリウレタンに対して貧溶媒である凝固液に浸漬し、ポリウレタン発泡体を作製する工程を含む、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の研磨パッドの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
(研磨パッドの構成)
本実施形態の研磨パッドは、被研磨物を研磨加工するための研磨面を有する研磨層を有する。研磨パッドは研磨層単独で構成されていてもよいし、研磨層の研磨面とは反対面側に基材やクッション層等の中間層が接合されていてもよい。
基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の、研磨層よりも圧縮率の低い(硬い)無発泡シートが挙げられる。
研磨層の厚みに限定はないが、0.1〜2.0mm程度である。好ましくは0.4〜0.8mm程度である。
【0014】
研磨層は、表面及び内部に微細な空孔が形成された発泡構造を有するポリウレタン発泡体を含む。研磨層は、ポリウレタン発泡体単独で構成されていてもよく、そのような研磨層は、例えば、後述する湿式成膜法等により製造することができる。
【0015】
(研磨層のショアA硬度)
本実施形態において、研磨層のショアA硬度は、15〜50°である。研磨層のショアA硬度がこのような値であれば、研磨中に研磨層が被研磨物の形状に追従して端部ダレが発生することを防止できる。研磨層のショアA硬度は、20〜45°であることが好ましく、30〜40°であることがより好ましい。
ショアA硬度は、A型硬度計(日本工業規格(JIS K 7311))を用いて測定される硬さであり、具体的には実施例に記載したようにして測定することができる。
【0016】
(研磨層の引裂強度)
本実施形態において、研磨層の引裂強度は、0.24kgf/m
m以上である。引裂強度を0.24kgf/m
mより大きくすることにより、研磨層中のポリウレタン発泡体の微細孔が摩擦によって閉塞してしまうことを防止できる。もっとも、引裂強度が大きすぎる場合には研磨層のドレス性が悪化する傾向にあるので、引裂強度は、0.25〜0.30kgf/m
mであることが好ましい。
ここで、引裂強度とは、試料の両端を引張速度100mm/minで試料が切断される(引裂かれる)まで引っ張った際にかかる応力の最大値を、試料の厚みで除した値をいう。
引裂強度(kgf/mm)=応力の最大値(kgf)/厚み(mm)
具体的には、幅25mm×長さ100mmのサイズで、幅方向の中央から長さ方向に70mmの切込みを入れた試料を用意し、その両端を、試験機の上・下
エアチャックに挟み、引張速度100mm/minで上下方向へチャックを移動させて試料を引裂き、切断時までにかかる応力を測定することにより測定することができる。
【0017】
(研磨層の開口保持率)
本実施形態において、研磨層の開口保持率R(摩擦による表面微細孔の閉塞が起こりにくいかどうか示す指標)は、63%以上であることが好ましい。開口保持率がこのような範囲にあると、研磨傷の発生を低減・防止でき、研磨レートの経時低下を抑えることができる。開口保持率Rは、70%以上であることがより好ましく、75%以上であることがさらに好ましい。
【0018】
ポリウレタン発泡体を使用した研磨層においては、研磨層表面に存在する微細孔の開口部が、研磨中に発生する研磨屑を捕捉したり、スラリ(研磨液)を蓄えておくという役割を果たしているところ、ポリウレタンとして比較的硬質なものを用いた場合、研磨中にこの微細孔の開口が一部閉塞してしまうということが本発明者の研究により判明した。微細孔の開口が一部閉塞すると、研磨屑の逃げ場がなくなって被研磨物を傷つけたり、研磨層が保持できるスラリ(研磨液)の量が減って研磨レートが低下すると考えられる。
研磨層の開口保持率が63%以上であると、研磨屑の逃げ場やスラリの貯蔵所として働く微細孔の開口の大きさを維持し、これにより、研磨傷の発生や研磨レートの経時低下を低減・防止する。
【0019】
なお、比較的硬質で変形しにくいはずのポリウレタン発泡体の表面に存在する微細孔の開口部がなぜ研磨の過程で閉塞してしまうのか、また、研磨層の引裂強度が高い場合にはなぜこのような閉塞が起こりにくいのか、その理由は明らかではないが、次のように推測される。
研磨層の表面微細孔の開口の周辺のポリウレタンは、被研磨物との摩擦によってズリ応力を受けるため、研磨中多かれ少なかれ伸びるものであるが、軟質であればその伸びは応力が解除されると復元されて元に戻るのに対し、硬質のものは伸びたまま元に戻らず(降伏点を超えて構造破壊を起こし)、その結果、開口を一部閉塞してしまうと考えられる。
そして、研磨層が引裂強度が高い材料から形成されている場合には、このような構造破壊が起こりにくいと考えられる。
【0020】
本実施形態において、開口保持率Rとは、以下の式1で表される値である。
R=(S−S
0)/S
0×100・・・(式1)
S
0:下記のドレス処理を実施した後の研磨層の表面に存在する微細孔の開口率(%)
S :下記のドレス処理及び下記の研磨処理をこの順で実施した後の研磨層の表面に存在する微細孔の開口率(%)
<ドレス処理>
・ドレッサー:#800ダイヤモンドドレッサー(株式会社アライドマテリアル製、品番D800P)×4枚(片面ドレッサー))
・水流量:2L/min
・処理時間:15min×4回
・ドレス圧:40gf/cm
2
・ドレス速度:−10rpm(上定盤回転数)、30rpm(下定盤回転数)
<研磨処理>
・被研磨物:65mmφ アルミノシリケートガラス基板(1回の研磨で25枚セットして研磨を行った)
・スラリ:酸化セリウム研磨剤 6質量%水分散液(昭和電工株式会社製ショーロックス A10(KT))
・スラリ供給量:500mL/min(ただし、使用済みスラリを全てスラリタンクに戻すスラリ循環を行う)
・処理時間:30min×15回
・研磨圧:120gf/cm
2
・研磨速度:−10rpm(上定盤回転数)、30rpm(下定盤回転数)
【0021】
開口保持率は、以下のようにして測定・算出した開口率(S
0及びS)に基づいて算出することができる。
走査型電子顕微鏡を用い、研磨層の被研磨物が通過する研磨面の任意の9か所について、1.0mm四方の範囲を5000倍に拡大して観察し、そのCCD画像を画像処理ソフトにより二値化処理することによって開口部とそれ以外の部分とを区別し、9か所の1.0mm四方の範囲に存在する全ての開口部より開口径(円相当径)20μm以下の開口部をカットオフし、開口径(円相当径)が20μmより大きい開口部の開口径を測定し、その平均値をr
0(mm)又はr(mm)とする。ここで、開口径(円相当径)とは、開口部の面積から求める円相当径、すなわち、開口が真円であると仮定したときのその直径、である。
そして、以下の式に従い、開口率S
0(%)、S(%)を算出する。ただし、n、n
0は、9か所の1.0mm四方の範囲に存在する開口径(円相当径)が20μmより大きい開口部の個数である。
S
0=n
0×π(r
0/2)
2/(1×9)
S=n×π(r/2)
2/(1×9)
【0022】
(研磨層の材料)
本実施形態において、研磨層は、ポリウレタンの発泡体を含む。ここで、ポリウレタンとは、繰り返し単位の少なくとも一部にウレタン結合(−NHCOO−)を含む高分子をいう。
本実施形態において、使用するポリウレタンの種類に限定はなく、研磨層の材料として従来公知のポリウレタン、例えば、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、及び、ポリカーボネート系ポリウレタン等を用いることができる。
研磨層は、また、ポリウレタン発泡体の他に、ポリサルホンやポリイミド等の他の樹脂(高分子化合物)や従来公知の添加剤を含有することができる。
【0023】
ショアA硬度が25〜50°で、引裂強度が0.24kgf/m
m以上の研磨層は、例えば、100%モジュラスの値が10MPa以上異なる2種類のポリウレタンを含み、全体の100%モジュラスが18MPa以上であるポリウレタン組成物を用いて発泡体を形成することにより、簡単に製造することができる。
2種類のポリウレタンの100%モジュラスの差は、12MPa以上であることが好ましく、15MPa以上であることがより好ましい。
また、ポリウレタン発泡体を構成するポリウレタン組成物全体の100%モジュラスは、2種類のポリウレタンの含有量を適宜調整することによって18MPa以上とすることができ、19MPa以上であることが好ましい。
【0024】
100%モジュラスの異なる2種類のポリウレタンのうち、100%モジュラスが小さい方のポリウレタンの100%モジュラスは、20MPa以上であることが好ましく、より好ましくは25MPa以上である。
一方、100%モジュラスの異なる2種類のポリウレタンのうち、100%モジュラスが大きい方のポリウレタンの100%モジュラスは、10MPa以下であることが好ましく、より好ましくは8MPa以下である。
【0025】
ここで、100%モジュラスとは、樹脂の硬さを表す指標であり、無発泡の樹脂シートを試験片とし、室温23±2℃の環境下において該試験片(ポリウレタンの無発泡体)を100%の伸ばしたとき、すなわち元の長さの2倍に伸ばしたとき、の引張応力を、試験片の初期断面積で除した値をいう。なお、100%モジュラスの値が高い程、硬い樹脂である事を意味する。
100%モジュラスは、ポリウレタン発泡体の原料となるポリウレタン組成物やこれに含まれるポリウレタン各々について測定される値であるが、研磨層に含まれるポリウレタン発泡体を再溶解することによって得られたポリウレタン組成物の無発泡体、さらには、再溶解後、成分を極性溶媒への溶解性(極性)や分子量の差を利用するなどして分離することによって得られた各ポリウレタンの無発泡体を用いて測定することもできる。また、研磨層に含まれる複数のポリウレタンの100%モジュラスは、例えば、アミン分解して、分子量分布や核磁器共鳴スペクトルなどによる構造解析から、鎖伸長剤とポリオールの構造及びそれら成分の割合をもって推定することもできる。
【0026】
ポリウレタン発泡体を構成するポリウレタン組成物中、100%モジュラスが小さい方のポリウレタン及び100%モジュラスが大きい方のポリウレタンの占める割合に限定はないが、共に、10質量%以上であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましく、30〜40質量%であることがさらに好ましい。
また、両者の質量比に特に限定はないが、100%モジュラスが大きい方のポリウレタンの方が多く含まれている方が好ましく、100%モジュラスが小さい方のポリウレタン:100%モジュラスが大きい方のポリウレタン=1:20〜1:1であることがより好ましく、1:10〜1:5であることがさらに好ましい。
発泡体を構成するポリウレタン組成物は、上記のポリウレタンに加えて、その100%モジュラスの値が上記のポリウレタンの値の間にあるポリウレタンを1種類以上含有していてもよい。その場合、その含有量はポリウレタンの総量に対して、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
さらに、発泡体を構成するポリウレタン組成物は、ポリウレタン以外の樹脂(高分子化合物)や添加物(例えば、カーボンブラック等の顔料、ノニオン系界面活性剤等の成膜安定剤、アニオン系界面活性剤等の発泡形成剤等)を含有することもできる。その場合、それらの含有量(質量)の合計はポリウレタンの総量(質量)を上回らないことが好ましい。
【0027】
本実施形態において、ポリウレタン発泡体に含まれる複数のポリウレタンやその他の樹脂は、互いに相溶するものであっても、相溶性の悪いものであってもよい。
もっとも、研磨層において複数のポリウレタンや樹脂が相分離して物理的に明瞭な境界を有すると、研磨均一性を阻害したり、その境界部分から剥離や脱離した樹脂成分が研磨屑やスラリの砥粒成分を捕捉するなどして研磨傷を引き起こすおそれがあることから、研磨層において複数のポリウレタン、樹脂は相分離せず、ポリマーアロイを形成していることが好ましい。
【0028】
100%モジュラスの値が10MPa以上異なる2種類のポリウレタンを含むポリウレタン組成物を用いて発泡体を形成することにより、ショアA硬度が25〜50°で、引裂強度は、0.24kgf/m
m以上の研磨層、すなわち、適度に硬質で端部ダレが発生しにくく、摩擦による表面微細孔の閉塞が起こりにくい研磨層、を実現できるのか、その理由は明らかではない。おそらく、100%モジュラスの大きい方のポリウレタンにより端部ダレを防止するのに必要な硬さが、また、100%モジュラスの小さい方のポリウレタンにより摩擦による表面微細孔の開口の閉塞を防止するのに必要な柔軟性が研磨層に与えられ、しかも、このような作用効果は、たとえ両者が混合され、ポリマーアロイを形成しているような場合であっても維持されているためと推測されるが、機序はこれによらない。
【0029】
(研磨層の製造方法)
本実施形態において、研磨層の製造方法に限定はないが、例えば、従来公知の湿式成膜法により製造することができる。
湿式成膜法では、ポリウレタン(組成物)を水混和性の有機溶媒に溶解させたポリウレタン溶液を成膜用基材に連続的に塗布し、これを水系凝固液に浸漬することでポリウレタンをシート状に凝固再生させる。このようにして得られたシートの内部には、ポリウレタンの凝固再生に伴い発生した多数の発泡が含まれている。そして、これを洗浄後乾燥させて長尺状のポリウレタン発泡体シートを得ることができる。
【0030】
以下、湿式成膜法について説明する。一般に、湿式成膜法は、準備工程、塗布工程、凝固再生工程及び洗浄乾燥工程を含む。さらに、必要に応じて、シートの表面平坦化のための研削・除去工程を含む。
準備工程では、ポリウレタンを、該ポリウレタンを溶解可能で水混和性の有機溶媒に溶解させ、さらに、所望により添加剤を添加し、均一になるよう混合して、ポリウレタン溶液を調製する。ポリウレタン溶液は、濾過により凝集塊等を除去した後、真空下で脱泡しておくことが好ましい。
ポリウレタンを溶解可能で水混和性の有機溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチルピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン(MEK)等の極性溶媒が挙げられる。
また、ポリウレタン溶液中のポリウレタン濃度に限定はないが、例えば、10〜50質量%とすることができる。
さらに、ポリウレタン溶液には、例えば、発泡を促進させる親水性活性剤、ポリウレタンの凝固再生を安定化させる疎水性活性剤、及び、発泡形成を安定化させるためのカーボンブラック等の添加剤を添加することができる。
【0031】
塗布工程では、準備工程で調製されたポリウレタン溶液を、常温下でナイフコータ等を用いて帯状の成膜基材に略均一に塗布するなどして塗膜を形成する。このとき、ナイフコータと成膜基材との間隙(クリアランス)を調整することで、ポリウレタン溶液の塗布厚さ(塗布量)を調整することができる。
成膜基材としては、可撓性フィルム、不織布、織布等を用いることができる。成膜基材として不織布や織布を用いる場合は、ポリウレタン溶液の塗布時にポリウレタン溶液が成膜基材内部へ浸透するのを抑制するため、基材を予め水又は有機溶媒水溶液(DMFと水との混合液等)に浸漬する前処理(目止め)を行うことが好ましい。
【0032】
凝固再生工程では、塗布工程で得られた塗膜(ポリウレタン溶液が塗布された成膜基材)を、ポリウレタンに対して貧溶媒である凝固液(例えば、水や水を主成分とする溶媒)に浸漬し、ポリウレタン溶液の塗布膜を内部に多数の発泡を有するシート状に凝固再生させる。
凝固液中では、一般に、まず、塗布されたポリウレタン溶液の表面に微多孔の形成された厚さ数μm程度のスキン層が形成され、その後、ポリウレタン溶液中の有機溶媒と凝固液との置換の進行によりポリウレタンが成膜用基材の片面にシート状に凝固再生する。このとき、典型的には、有機溶媒がポリウレタン溶液から脱溶媒し、有機溶媒と凝固液とが置換することにより、スキン層の下側(成膜基材側)にスキン層に形成された微多孔より孔径が大きく、シートの厚み方向に丸みを帯びた断面略三角状の発泡が略均等に分散した状態で形成された発泡層が形成されるが、発泡構造はこれに限らない。
【0033】
洗浄・乾燥工程では、凝固再生工程で凝固再生したポリウレタン発泡体シートが成膜基材から剥離され、水等の洗浄液中で洗浄されてポリウレタン中に残留する有機溶媒が除去される。洗浄後、得られたポリウレタン発泡体シートを必要に応じてシリンダ乾燥機等で乾燥させる。
シリンダ乾燥機は内部に熱源を有するシリンダを備える乾燥機であり、ポリウレタン発泡体シートがシリンダの周面に沿って通過することで乾燥する。乾燥後のポリウレタン発泡体シートは、ロール状に巻き取られる。
【0034】
研削・除去工程では、シートの両面のうちの少なくとも一方を、バフ処理又はスライス処理で研削及び/又は一部除去する。バフ処理やスライス処理によりシートの厚みの均一化を図ることができ、シートの表面をより平坦にすることができるため、被研磨物に対する押圧力を一層均等化し、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【0035】
本実施形態における研磨層は、上述の湿式成膜法だけではなく、他の方法、例えば、特許第4624781号公報に開示されているような超臨界ガス発泡法によって100%モジュラスの異なる2種の熱可塑性ポリウレタンから製造することもできる。
【0036】
(研磨パッドの製造方法)
研磨パッドが、研磨層に加えて、基材や中間層等の他の層を有するものである場合には、研磨層(例えば、湿式成膜法で得られたポリウレタン発泡体シート)にこれらの層が接合される。接合には、アクリル系接着剤等の感圧型接着剤を使用することができる。
次いで、円形等の所望の形状に裁断した後、汚れや異物等の付着が無いことを確認する等の検査を行い、研磨パッドを完成させる。
【0037】
(研磨工程)
本実施形態の精密部品の製造方法は、本実施形態の研磨パッドを用い被研磨物の表面を研磨する工程を含む。研磨機としては、片面研磨機、両面研磨機いずれも使用できるが、以下に、具体例として、片面研磨機を使用した場合の研磨工程について説明する。
まず、片面研磨機の保持定盤に被研磨物を保持させる。次いで、保持定盤と対向するように配置された研磨定盤に研磨パッドを装着する。そして、被研磨物と研磨パッドとの間に砥粒(研磨粒子)を含むスラリ(研磨スラリー)を供給すると共に、被研磨物を研磨パッドの方に所定の研磨圧にて押圧しながら研磨定盤ないし保持定盤を回転させることで、被研磨物を化学的機械的研磨により研磨する。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0039】
実施例及び比較例において採用した物性の測定方法及び評価方法について下記に示す。
(1)研磨層のショアA硬度
実施例、比較例の研磨層(ポリウレタン発泡体シート)から、試験片(10cm×10cm)を切り出し、複数枚の試験片を合計厚さが4.5mm以上となるように重ね(例えば、試験片の厚みが0.51mmの場合は、9枚の試験片を重ねた)、A型硬度計(日本工業規格、JIS K 7311)を用いて測定した。
【0040】
(2)研磨層の開口保持率
実施例、比較例の研磨パッドを後述の両面研磨機の上下定盤に取り付け、後述の条件でドレス処理及び研磨処理した。
次いで、処理後の研磨パッドの研磨層の研磨面の任意の9か所について、CCD画像を撮影し、1.0mm四方の範囲を175倍に拡大して観察して得られた拡大画像を画像処理ソフト(NanoHunter NS2K−Pro ver.7.41 Nanosystem Corporation製)により二値化処理して、9か所の1.0mm四方の範囲に存在する全ての開口部のうち開口径(円相当径)が20μm以下のものをカットオフして開口率S
0(%)(ドレス処理後)、S(%)(ドレス処理及び研磨処理後)を求めた。
得られたS
0及びSの値を下記式1に当てはめて、開口保持率R(%)を算出した。
R=(S−S
0)/S
0×100・・・(式1)
<ドレス処理>
・使用機種:SpeedFAM株式会社 9B−5P(両面研磨機)
・ドレッサー:#800ドレッサー
・水流量:2L/min
・処理時間:15min×4回
・ドレス圧:40gf/cm
2
・ドレス速度:−10rpm(上定盤回転数)、30rpm(下定盤回転数)
<研磨処理>
・使用研磨機:SpeedFAM株式会社 9B−5P(両面研磨機)
・被研磨物:65mmφ アルミノシリケートガラス基板 25pcs/BT
・スラリ:酸化セリウム研磨剤 6質量%水分散液(昭和電工株式会社製 ショーロックス A10(KT))
・スラリ供給量:500mL/min(ただし、使用済みスラリを全てスラリタンクに戻すスラリ循環を行う)
・処理時間:30min×15回
・研磨圧:120gf/cm
2
・研磨速度):−10rpm(上定盤回転数)、30rpm(下定盤回転数)
【0041】
(3)研磨層の引裂強度
試料を温度23℃、湿度50%の部屋に24時間以上置き、島津オートグラフAG−100KNG(株式会社島津製作所製精密万能試験機)を使用して、JIS K6400に準じて引張り速度100mm/minで測定した。
具体的には、幅25mm×長さ100mmのサイズの試料を用意し、幅方向の中央から長さ方向に70mm切込み(30mm残し)を入れた。切込みを入れた試験片の両端を、試験機の上・下のエアチャックにて45mmの掴み代で各々試験機に取り付けた。引裂き速度100mm/minで上下方向へチャックを移動させて試料を引裂き、切断時までの最大応力を、予め測定しておいた試料厚みで除した値を算出し、引裂強度とした。
引裂強度(kgf/mm)=応力の最大値(kgf)/厚み(mm)
【0042】
(4)原料のポリウレタンの100%モジュラス
無発泡ポリウレタンシートを作成し、該シートからダンベル状3号形の形状の試験片を切り出した。これを用い、標線間距離が100%伸びたとき(2倍に伸びたとき)における引張応力(MPa)の値を、JIS K 6251(1993)に準じて引張速度100mm/minで測定した。
【0043】
(5)研磨レート
下記の条件で研磨処理を行い、研磨レートを比較例1の研磨レートを100%としたときの相対比で示した。
研磨レートは、1分間あたりの研磨量を厚さである。25枚(1BT)の被研磨物について、研磨処理前後の基板の質量を測定し、25枚(1BT)の合計の質量の差と、被研磨物の研磨面の面積及び比重より、計算にて研磨レートを求めた。
<研磨条件>
・使用研磨機:SpeedFAM株式会社 9B−5P
・被研磨物:65mmφ アルミノシリケートガラス基板 25pcs/BT
・スラリ:酸化セリウム研磨剤 6質量%水分散液(昭和電工株式会社製 ショーロックス A10(KT))
・スラリ供給量:500mL/min(循環)
・処理時間:30min×15回
・研磨圧:120gf/cm2
・定盤速度(回転数):−10rpm(上定盤回転数)、30rpm(下定盤回転数)
【0044】
(6)研磨均一性(研磨ダレの有無)
(5)で得られた被研磨物について、その端部の形状をZYGO New View 5022(ZYGO社製 非接触表面形状測定機)を用いて確認し、以下の基準に従いその端部形状を評価した。
<評価基準>
端部ダレが規格範囲を十分満たす:◎
端部ダレが規格範囲内にある:○
端部ダレが規格範囲より外れる:×
(7)研磨傷の有無
(5)で得られた被研磨物について、研磨傷の有無(多/少)を目視で評価した。
【0045】
(8)研磨層の厚み
実施例、比較例で得られた研磨層の厚みを、ダイヤルゲージ(最小目盛り0.01mm)を使用し、加重100g/cm
2をかけて測定した。縦10cm×横10cmの研磨層(ポリウレタン発泡体シート)の中央部と4隅の5箇所測定し最小目盛りの10分の1(0.001mm)まで読み取り、その平均値を研磨層の厚み(mm)とした。
【0046】
(9)研磨層のかさ密度
実施例、比較例で得られた研磨層(ポリウレタン発泡体シート)から、試料片(10cm×10cm)を切り出し、電子天秤(型式メトラ−AJ−180)でその質量W
0(g)を測定し、シックネスゲージで測定した厚みt(cm)及び上記質量W
0(g)から、かさ密度(ρ)=W
0/t/100(g/cm
3)により算出した。
【0047】
(実施例1)
ポリウレタンとして、ポリエーテル系ポリウレタン1(100%モジュラス:21MPaの30%(質量%)90質量部及びポリエーテル系ポリウレタン2(100%モジュラス:8MPa)の30%DMF溶液を10質量部を用い、これらを両者の良溶媒であるDMF40質量部に溶解し、さらにカーボンブラック1.5質量部、ノニオン系界面活性剤1質量部、アニオン系界面活性剤1質量部を添加して、均一に混合して、ポリウレタン溶液を調製した。
これを、PET製の成膜基材にナイフコータを用いて塗布厚が0.60mmとなるように塗布した。
次いで、得られた塗膜を成膜用基材と共に、凝固液である水からなる室温の凝固浴に浸漬し、搬送スピード2.0m/minで搬送しながら、ポリウレタンを凝固再生してポリウレタン発泡体シートを得た。これを凝固浴から取り出し、成膜用基材を剥離した後、水からなる70℃の洗浄液(脱溶剤浴)に浸漬し、溶媒であるDMFを除去した。その後、ポリウレタン発泡体シートを乾燥させつつ巻き取った。このとき得られた発泡体シートの厚みは0.57mmであった。
この後、発泡体シートの表面をバフ掛けした。バフ掛け後のポリウレタン発泡体シートの厚さは0.51mmであった。
このようにして得られたポリウレタン発泡シートを研磨層とし、その研磨面(バフ掛けした面)とは反対側に、基材として0.188mmのPET基材を接合して、実施例1の研磨パッドを製造した。
【0048】
(実施例2)
ポリウレタン1に代えてポリエーテル系ポリウレタン3(100%モジュラス:27MPa)の30%DMF溶液80質量部を用い、ポリウレタン2の30%DMF溶液の使用量を20質量部とした以外は実施例1と同様にして実施例2の研磨パッドを製造した。
【0049】
(実施例3)
ポリウレタン1に代えてポリエーテル系ポリウレタン3(100%モジュラス:27MPa)の30%DMF溶液60質量部を用い、ポリウレタン2の30%DMF溶液使用量を40質量部とした以外は実施例1と同様にして実施例3の研磨パッドを製造した。
【0050】
(実施例4)
ポリウレタン1に代えてポリエーテル系ポリウレタン3(100%モジュラス:27MPa)の30%DMF溶液50質量部を用い、ポリウレタン2の30%DMF溶液の使用量を50質量部とした以外は実施例1と同様にして実施例2の研磨パッドを製造した。
【0051】
(比較例1)
ポリウレタンとして、ポリエーテル系ポリウレタン1(100%モジュラス:21MPa)の30%DMF溶液100質量部を用いた以外は実施例1と同様にして比較例1の研磨パッドを製造した。
【0052】
(比較例2)
ポリウレタン1に代えてポリエーテル系ポリウレタン3(100%モジュラス:27MPa)の30%DMF溶液40質量部を用い、ポリウレタン2の30%DMF溶液の使用量を60質量部とした以外は実施例1と同様にして比較例2の研磨パッドを製造した。
【0053】
実施例1〜4、並びに、比較例1及び2の研磨層及びこれに用いた原料について、上述の物性の測定を行った。また、これらの研磨パッドを用いて研磨を行い、その研磨評価(研磨レート、研磨均一性(端部ダレの有無)、研磨傷)を行った。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
研磨層が100%モジュラスの値が10MPa以上異なる2種類のポリウレタンを含み、全体の100%モジュラスが18MPa以上であるポリウレタン組成物の発泡体で構成されている実施例1〜4の研磨パッドは、研磨層のショアA硬度及び開口保持率が本発明で規定する範囲内にあり、良好な研磨レートを維持し、研磨傷の発生も僅かで、端部ダレもほぼ見られなかった。
これに対して、研磨層が単一のポリウレタンの発泡体で構成されている比較例1の研磨パッドは、研磨層のショアA硬度は大きいものの開口保持率が小さく、研磨傷の発生が多く、研磨レートも低かった。
また、研磨層が100%モジュラスの値が10MPa以上異なる2種類のポリウレタンを含むが、全体の100%モジュラスが16MPaであるポリウレタン組成物の発泡体で構成されている比較例2の研磨パッドは、開口保持率は大きいもののショアA硬度が十分でなく、被研磨物に端部ダレが発生した。