【実施例】
【0052】
以下、実施例を記載して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。
【0053】
(製造例1)
64Cu−ATSM、及び、血管新生阻害剤の調製
(ATSMの合成)
ジアセチル‐ビス(N4−メチルチオセミカルバゾン)(ATSM)の合成は、Tanakaらの方法(Nuclear Medicine and Biology,vol.33,2006,pp.743−50)に準じた。
【0054】
(
64Cu−ATSMの合成)
64CuはMcCarthyらの方法(Nuclear medicine and biology,vol.24,1997,pp.35−43)及びObataらの方法(Nuclear medicine and biology,vol.30,2003,pp.535−539)に準じて製造・精製した。ATSMと
64Cuを用い、Tanakaらの方法(上掲)に準じて
64Cu−ATSMを合成した。また、製造後の薬剤は、薄層クロマトグラフ法(TLC法)を用いて検定し、放射化学的純度95%以上のものを以下の実験に使用した。なお、TLCを用いた
64Cu−ATSMの分析条件は下記のとおりである。
TLCプレート:シリカゲルプレート(製品名:Silica gel60、メルク)
展開相:酢酸エチル
検出:フルオロイメージアナライザー(形式:FLA−7000,富士フイルム)
【0055】
(ベバシズマブ溶液の調製)
ベバシズマブ(アバスチン(登録商標)点滴静注用100mg/4mL、中外製薬)を生理食塩液に溶解し、マウス1匹あたり100μLになるように調製して、以下の実験に使用した。
(レゴラフェニブ溶液の調製)
レゴラフェニブ(スチバーガ(登録商標)錠40mg28錠、バイエル)を生理食塩液に溶解し、マウス1匹あたり100μLになるように調製して、以下の実験に使用した。
【0056】
(実施例1)HT29担がんマウスへの
64Cu−ATSM及びベバシズマブの投与による抗腫瘍効果
ヒト大腸がん由来のHT29細胞は、ATCCより購入したものを増殖させて利用した。HT29担がんモデルは、BALB/cヌードマウス(オス,6週齢,体重約20−25g,日本エス・エル・シーから入手)の大腿部皮下にHT29細胞1×10
7個を移植して作製した。HT29細胞の移植後、腫瘍径が6mm前後に到達した時点で、ベバシズマブを1回5mg/kgずつ、週2回腹腔内に反復投与した。ベバシズマブ投与開始(試験開始)から21日目に、
64Cu−ATSM37MBq(1mCi)含有の生理食塩液溶液を尾静脈より投与した。なお、対照群にはベバシズマブ及び
64Cu−ATSMに代えて生理食塩液を投与した。試験開始後、経時的に週2回、マウスの腫瘍径を計測した。
【0057】
(比較例1)HT29担がんマウスへのベバシズマブの単独投与による抗腫瘍効果
64Cu−ATSMに代えて生理食塩液を投与した以外は、実施例1と同様にした。
【0058】
(比較例2)HT29担がんマウスへの
64Cu−ATSMの単独投与による抗腫瘍効果
ベバシズマブを投与する代わりに生理食塩液を投与した以外は、実施例1と同様に行った。
【0059】
[評価1−1]腫瘍成長
実施例1、及び、比較例1、2において測定した腫瘍径から腫瘍体積を算出し、その経時変化を、
図1に示す。
図1中、異なるアルファベットのグループは、two−way ANOVA検定を行った結果、有意差(P<0.05)があったものを示す。
図1では、試験開始前日の腫瘍体積を100%とし、これに対する比率を腫瘍体積率(%)として示した。また、
図1は、各マウス群5匹の平均及び標準偏差で示した。腫瘍体積が1000%に達した時点を本試験でのエンドポイントに設定した(以下「エンドポイント」の定義も同じである。)。
図1で示すように、
64Cu−ATSMの単独投与では、腫瘍の増殖をほとんど抑制できず、試験開始から31日目でエンドポイントに達した。また、ベバシズマブの単独投与により腫瘍の増殖を抑制できたが、
64Cu−ATSMとベバシズマブとの併用投与により、腫瘍増殖抑制効果の更なる向上が認められた。
【0060】
表1には、実施例1、比較例1,2及び対照群について、試験開始前日における腫瘍体積が5倍になるまでの日数(5倍腫瘍成長日数)を、各マウス群5匹の平均値±標準偏差で示す。また、実施例1、比較例1,2について、対照群を基準として、基準日から対照群の腫瘍体積と同等の体積に成長するまでの日数を、対照群に対する成長遅延日数として示す。表1で示すとおり、
64Cu−ATSMとベバシズマブとの併用投与により、相乗的な腫瘍成長遅延が認められた。
【0061】
【表1】
【0062】
なお、実施例1、比較例1,2及び対照群の全ての腫瘍径測定時期において、試験開始前日からの体重に対して体重減少率が10%未満であった。
以上の結果から、
64Cu−ATSMと体重減少のない量のベバシズマブとの併用により、有意な抗腫瘍効果が認められ、かつ体重減少も観察されないことが示された。
【0063】
[評価1−2]白血球数
実施例1、比較例1,2のHT29担がんマウスについて、それぞれ
64Cu−ATSMの投与前後の白血球の数を調べた。試験開始から21日目(
64Cu−ATSM投与開始前)、試験開始から23日目(
64Cu−ATSM投与開始2日後)及び各例のエンドポイント日で、血液10μLを採取し、チュルク液(メルク)で10体積倍に希釈した。白血球の数は、血球計算盤で計測した。
【0064】
結果を
図2に示す。
図2には、各マウス群5匹の平均±標準偏差を示す。併用投与と単独投与との違いにより、白血球数に有意差はなかった。
【0065】
[評価1−3]
64Cu−ATSMの体内分布
実施例1と同様にしてHT29担がんモデルを作製し、HT29細胞の移植後、腫瘍径が6mm前後に到達した時点で、ベバシズマブを5mg/kg腹腔内に投与し、投与後21日目に
64Cu−ATSM185kBq(5μCi)含有の生理食塩溶液を尾静脈投与した。1時間後、イソフルラン麻酔下で、心臓からの脱血によって屠殺した。血液及び臓器(肝臓、腎臓、小腸、大腸及び筋肉)を摘出して、重量を計量後、血液及び各摘出臓器の放射能を測定した。血液及び各摘出臓器の放射能分布(%injected dose(ID)/g)を
図3に示す。また、対照群は、ベバシズマブに代えて生理食塩液を投与する以外は同様に処理したマウス群とした。
図3は、各マウス群5匹の平均と標準偏差を示す。
【0066】
図3で示すように、
64Cu−ATSMの単剤投与は、肝臓への集積が多く認められたが、ベバシズマブを前投与することで、肝臓への集積の低減することが示された。これにより、ベバシズマブと
64Cu−ATSMとの併用により、
64Cu−ATSMの肝臓への被曝を低減できることが示唆された。
【0067】
[評価1−4]PET/SPECT評価
実施例1と同様にしてHT29担がんモデルを作製し、HT29細胞の移植後、腫瘍径が6mm前後に到達した時点で、ベバシズマブを5mg/kg腹腔内に投与し、投与後21日目に、
64Cu−ATSM37MBq(1mCi)の生理食塩液溶液をPET/SPECTスキャン開始60分前に、テクネチウム−99mヒト血清アルブミン(
99mTc−HSA;プールシンチ注、日本メジフィジックス)18.5MBq(0.5mCi)をPET/SPECTスキャン開始10分前にそれぞれ尾静脈投与し、PET/SPECTカメラ(製品名:VECTor SPECT/PET/CT system、MILabs)で撮像した。また、ベバシズマブに代えて生理食塩液を投与し、ベバシズマブ投与後21日目の腫瘍とほぼ同じ大きさになるまで(具体的には、HT29植え付け後2週間まで)生育したものを対照群として同様な処置を行った。
結果を
図4に示す。
【0068】
図4A〜Fは、各HT29担がんマウスの腫瘍移植部位の画像であり、破線で囲んだ部位が腫瘍移植部位である。
図4中、Aは対照群の
64Cu−ATSM(PET)画像であり、Bは対照群の
99mTc−HSA(SPECT)画像であり、CはAとBとの重ねあわせである。Dはベバシズマブ投与群の
64Cu−ATSM(PET)画像であり、Eはベバシズマブ投与群の
99mTc−HSA(SPECT)画像であり、FはDとEとの重ねあわせである。
図4B、Eで示すように、ベバシズマブ投与により血管の描出が減少したが、
図4A、Dで示すように、ベバシズマブ投与後も
64Cu−ATSMの取り込みは維持されていた。この結果から、血管新生抑制剤により血液取りこみが減少した腫瘍に対しても
64Cu−ATSMは取りこまれ、血管新生抑制剤とともに抗腫瘍効果を発揮することが示唆された。
【0069】
[評価1−5]
64Cu−ATSM取りこみ評価
実施例1と同様に作製したHT29担がんマウスに、ベバシズマブを5mg/kg腹腔内に投与し、投与後21日目に、
64Cu−ATSM185kBq(5μCi)含有の生理食塩液溶液を投与した後、1時間後、イソフルラン麻酔下で、心臓からの脱血によって屠殺した。腫瘍を摘出して、重量及び放射能を測定した。また、対照群として、ベバシズマブに代えて生理食塩液を投与し、ベバシズマブ投与群の投与後21日目の腫瘍と同じ大きさになるまで(具体的にはHT29植え付け後2週間まで)生育したものを対照群として同様な処置を行った。得られた腫瘍の放射能分布(%injected dose(ID)/g)を
図5に示す。
【0070】
図5は、各マウス群5匹の平均値と標準偏差を示す。
図5に示すように、ベバシズマブを前投与したHT29担がんマウス群は、対照群に対して、t検定による有意差(P<0.05)をもって、
64Cu−ATSMの取りこみが増加することが確認された。
【0071】
(実施例2)A549担がんマウスへの
64Cu−ATSM及びのベバシズマブ投与による抗腫瘍効果
ヒト肺がん由来のA549細胞は、ATCCより購入したものを増殖させて利用した。A549担がんモデルは、BALB/cヌードマウス(オス,6週齢,体重約20−25g,日本エス・エル・シーから入手)の大腿部皮下にA549細胞1×10
7個を移植して作製した。A549細胞の移植後、腫瘍径が6mm前後に到達した時点で、ベバシズマブを1回5mg/kgずつ、週2回腹腔内に反復投与した。ベバシズマブ投与開始(試験開始)から21日目に、
64Cu−ATSM37MBq(1mCi)含有の生理食塩液溶液を尾静脈より投与した。なお、対照群にはベバシズマブ及び
64Cu−ATSMに代えて生理食塩液を投与した。試験開始後、経時的に週2回、マウスの腫瘍径を計測した。
【0072】
(比較例3)A549担がんマウスへのベバシズマブの単独投与による抗腫瘍効果
64Cu−ATSMに代えて生理食塩液を投与した以外は、実施例2と同様にした。
【0073】
(比較例4)A549担がんマウスへの
64Cu−ATSMの単独投与による抗腫瘍効果
ベバシズマブに代えて生理食塩液を投与した以外は、実施例2と同様にした。
【0074】
[評価2−1]腫瘍成長
実施例2、及び、比較例3、4において測定した腫瘍径から腫瘍体積を算出し、その経時変化を、
図6に示す。
図6中、異なるアルファベットのグループは、two−way ANOVA検定を行った結果、有意差(P<0.05)があったものを示す。
図6では、試験開始前日の腫瘍体積を100%とし、これに対する比率を腫瘍体積率(%)として示した。また、
図6は、各マウス群5匹の平均及び標準偏差で示した。
図6で示すように、
64Cu−ATSMの単独投与により、腫瘍の増殖はやや抑制されたが、試験開始から35日目でエンドポイントに達した。また、ベバシズマブの単独投与により腫瘍の増殖を抑制できたが、
64Cu−ATSMとベバシズマブとの併用投与により、腫瘍増殖抑制効果の更なる向上が認められた。
【0075】
表2には、実施例2、比較例3,4及び対照群について、試験開始前日における腫瘍体積が5倍になるまでの日数(5倍腫瘍成長日数)を、各マウス群5匹の平均値±標準偏差で示す。また、実施例2、比較例3,4について、対照群を基準として、基準日から対照群の腫瘍体積と同等の体積に成長するまでの日数を、対照群に対する成長遅延日数として示す。表2で示すとおり、
64Cu−ATSMとベバシズマブとの併用投与により、相乗的な腫瘍成長遅延が認められた。
【0076】
【表2】
【0077】
なお、実施例2、比較例3,4及び対照群の全ての腫瘍径測定時期において、試験開始前日からの体重減少率が10%未満であった。
以上の結果から、がん種を変更した場合においても
64Cu−ATSMと体重減少のない量のベバシズマブとの併用により、有意な抗腫瘍効果が認められ、かつ体重減少も観察されないことが示された。
【0078】
(実施例3)HT29担がんマウスへの
64Cu−ATSM及びレゴラフェニブの投与による抗腫瘍効果
実施例1と同様な方法でHT29担がんモデルを作製し、HT29細胞の移植後、腫瘍径が6mm前後に到達した時点で、レゴラフェニブを1日1回30mg/kgずつ、10日間、中2日間の休薬を挟んで(4日目・5日目を休薬日とした)、腹腔内に反復投与した。レゴラフェニブ投与(試験開始)から7日目に、
64Cu−ATSM37MBq(1mCi)含有の生理食塩液溶液を尾静脈より投与した。なお、対照群にはレゴラフェニブ及び
64Cu−ATSMに代えて生理食塩液を投与した。試験開始後、経時的に週2回、マウスの腫瘍径を計測した。
【0079】
(比較例5)HT29担がんマウスへのレゴラフェニブの単独投与による抗腫瘍効果
64Cu−ATSMに代えて生理食塩液を投与した以外は、実施例3と同様にした。
【0080】
(比較例6)HT29担がんマウスへの
64Cu−ATSMの単独投与による抗腫瘍効果
レゴラフェニブに代えて生理食塩液を投与した以外は、実施例3と同様にした。
【0081】
[評価3−1]腫瘍成長
実施例3、及び、比較例5、6において測定した腫瘍径から腫瘍体積を算出し、その経時変化を、
図7に示す。
図7中、異なるアルファベットのグループは、two−way ANOVA検定を行った結果、有意差(図示したもの以外は、P<0.05)があったものを示す。
図7では、試験開始前日の腫瘍体積を100%とし、これに対する比率を腫瘍体積率(%)として示した。また、
図7は、各マウス群5匹の平均及び標準偏差で示した。
図7で示すように、
64Cu−ATSMの単独投与により、腫瘍の増殖はやや抑制されたが、試験開始から34日目でエンドポイントに達した。また、レゴラフェニブの単独投与により腫瘍の増殖を抑制できたが、
64Cu−ATSMとレゴラフェニブとの併用投与により、腫瘍増殖抑制効果の更なる向上が認められた。
【0082】
表3には、実施例3、比較例5,6及び対照群について、試験開始前日における腫瘍体積が5倍になるまでの日数(5倍腫瘍成長日数)を、各マウス群5匹の平均値±標準偏差で示す。また、実施例3、比較例5,6について、対照群を基準として、基準日から対照群の腫瘍体積と同等の体積に成長するまでの日数を、対照群に対する成長遅延日数として示す。表3で示すとおり、
64Cu−ATSMとレゴラフェニブとの併用投与により、相乗的な腫瘍成長遅延が認められた。
【0083】
【表3】
【0084】
なお、実施例3、比較例5,6及び対照群については、試験開始13日目以降の腫瘍径測定時期において、試験開始前日からの体重減少率が10%未満であった。
以上の結果から、
64Cu−ATSMとレゴラフェニブとの併用により、有意な抗腫瘍効果が認められ、かつ体重減少も観察されないことが示された。
【0085】
[評価3−2]白血球数
実施例3、比較例5、6のHT29担がんマウスについて、それぞれ
64Cu−ATSMの投与前後の白血球の数を調べた。試験開始から6日目(
64Cu−ATSM投与開始前)、試験開始から9日目(
64Cu−ATSM投与開始2日後)及び各群エンドポイント日で、血液10μLを採取し、チュルク液(メルク)で10体積倍に希釈した。白血球の数は、血球計算盤で計測した。
【0086】
結果を
図8に示す。
図8には、各マウス群5匹の平均値±標準偏差を示す。併用投与と単独投与との違いにより、白血球数に有意差はなかった。
【0087】
以上の結果から、
64Cu−ATSMと血管新生阻害剤との併用により、相乗的な抗腫瘍効果が認められた。