特許第6494437号(P6494437)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6494437アルキド変性レゾール樹脂及び印刷インキ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494437
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】アルキド変性レゾール樹脂及び印刷インキ
(51)【国際特許分類】
   C08G 81/00 20060101AFI20190325BHJP
   C09D 11/102 20140101ALI20190325BHJP
【FI】
   C08G81/00
   C09D11/102
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-114862(P2015-114862)
(22)【出願日】2015年6月5日
(65)【公開番号】特開2017-2127(P2017-2127A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】田中 龍太
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 博
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 倫彦
【審査官】 武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−030579(JP,A)
【文献】 特開2004−026910(JP,A)
【文献】 特開平10−088052(JP,A)
【文献】 特開2011−016869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 81/00− 85/00
C08L 1/00− 101/14
C09D 11/00− 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルキド樹脂(A)とジシクロペンタジエン変性レゾール樹脂であるレゾール樹脂(B)とを反応させて得られ、反応原料中の前記アルキド樹脂(A)と前記レゾール樹脂(B)との合計が80質量%以上であり、かつ、前記アルキド樹脂(A)の一塩基酸原料の80質量%以上が、油脂、油脂由来の脂肪酸、再生油脂、又は炭素原子数12〜30の高級脂肪酸由来であることを特徴とするアルキド変性レゾール樹脂。
【請求項2】
請求項1記載のアルキド変性レゾール樹脂、ゲル化剤、及び有機溶剤を含有する印刷インキ用ワニス。
【請求項3】
請求項記載の印刷インキ用ワニスに顔料を配合してなることを特徴とする印刷インキ。
【請求項4】
請求項記載の印刷インキを紙基材上に印刷してなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートセット性や乳化適性が高く、印刷作業性に優れる印刷インキ用のアルキド変性レゾール樹脂、これを含有する印刷インキ用ワニス及び印刷インキ、これを印刷してなる印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
オフセット用平版インキには従来からロジン変性フェノール樹脂が広く採用されている。平版インキの分野では印刷スピードや印刷作業環境の改善のため、これまで様々な改良がなされてきたが、樹脂系の抜本的な変更はなく、現在もなおロジン変性フェノール樹脂を基本とする樹脂が主流である(例えば特許文献1、2参照)。原料となるロジンは松脂からなる天然資源であるが、印刷インキ用途の他、タイヤや接着剤の原料としても利用されており、昨今の旺盛な需要に対し供給が不足する傾向にある。一方、石油原料から得られる樹脂はメタンハイドレート資源の発掘が進み安定化され、また、植物油も安定的な栽培による供給が継続する見通しである。このような状況下、石油化学原料や植物油等の市場に豊富に供給された原料を用い、ロジン変性フェノール樹脂と同等の性能を発現し得る印刷インキ用樹脂の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特昭63−030579号公報
【特許文献2】特開2004−175974号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明が解決しようとする課題は、ヒートセット性や乳化適性が高く、印刷作業性に優れる印刷インキ用樹脂、これを含有する印刷インキ用ワニス及び印刷インキ、これを印刷してなる印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、油脂を原料とするアルキド樹脂により変性されたレゾール樹脂が、ロジン変性フェノール樹脂と同等の印刷特性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、アルキド樹脂(A)とレゾール樹脂(B)とを反応させて得られ、反応原料中の前記アルキド樹脂(A)と前記レゾール樹脂(B)との合計が80質量%以上であり、かつ、前記アルキド樹脂(A)の一塩基酸原料の80質量%以上が油脂又は脂肪酸由来であることを特徴とするアルキド変性レゾール樹脂、これを用いた印刷インキ用ワニスと印刷インキ、及びこれを印刷してなる印刷物に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒートセット性や乳化適性が高く、印刷作業性に優れる印刷インキ用樹脂、これを含有する印刷インキ用ワニス及び印刷インキ、これを印刷してなる印刷物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のアルキド変性レゾール樹脂は、アルキド樹脂(A)とレゾール樹脂(B)とを主な原料とする。本発明で用いるアルキド樹脂(A)は、多塩基酸やその無水物、多価アルコール、油脂や脂肪酸等の一塩基酸原料などを反応させて得られるアルキド樹脂であって、一塩基酸原料の80質量%以上が油脂又は脂肪酸由来であることを特徴とする。
【0009】
前記多塩基酸又はその無水物は、例えば、シュウ酸、マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸等の脂肪族二塩基酸;(無水)テトラヒドロフタル酸、(無水)ヘキサヒドロフタル酸等の脂環式二塩基酸;(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族二塩基酸;オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、ノナデセン酸、エイコセン酸、ドコセン酸、セラコレイン酸、リノール酸等の不飽和一塩基酸を二量化又は三量化させて得られるダイマー酸やトリマー酸;(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸等3官能以上の芳香族他塩基酸等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。中でも、反応性が良好な点から脂肪族二塩基酸、脂環式二塩基酸、芳香族二塩基酸が好ましく、弾性が高く印刷適性に優れるアルキド変性レゾール樹脂となることから芳香族二塩基酸が特に好ましい。
【0010】
前記多価アルコールは、炭素数2〜16のアルキレンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の脂肪族ポリオール;ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、1,4−ベンゼンジメタノール、ビフェニルジオール、ビフェニルジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ナフタレンジオール、ナフタレンジメタノール等の芳香環含有ポリオール;前記脂肪族又は芳香環含有ポリオールと、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、エチルグリシジルエーテル、プロピルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等の種々の環状エーテル化合物との開環重合によって得られるポリエーテル変性ポリオール;前記脂肪族又は芳香環含有ポリオールと、ε−カプロラクトン等のラクトン化合物との重縮合によって得られるラクトン変性ポリオール等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。中でも、樹脂構造中に分岐構造が導入され、弾性が高く印刷適性に優れるアルキド変性レゾール樹脂となることから、3官能以上のポリオールが好ましく、3官能以上の脂肪族ポリオールがより好ましい。
【0011】
一塩基酸原料である前記油脂又は脂肪酸は、例えば、亜麻仁油、桐油、米油、サフラワー油、大豆油、トール油、菜種油、パーム油、ひまし油、やし油脂等の油脂;これら油脂由来の脂肪酸;これらの再生油脂;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸等、炭素原子数12〜30の高級脂肪酸等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。この他、一般に知られている一塩基酸原料としては、炭素原子数12未満の低鎖・中鎖脂肪酸や、ロジン等が挙げられる。本願発明においては、一塩基酸原料の80質量%以上が油脂又は脂肪酸由来であれば、これらその他の一塩基酸原料を併用しても良い。
【0012】
前記アルキド樹脂(A)の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、多塩基酸又はその無水物、多価アルコール、油脂又は脂肪酸等の一塩基原料などの反応原料を一括で反応させる方法や、油脂又は脂肪酸等の一塩基酸原料と多価アルコールとを反応させた後、多塩基酸又はその無水物を加えて反応させる方法、油脂又は脂肪酸等の一塩基酸原料と多塩基酸又はその無水物とを反応させた後、多価アルコールを加えて反応させる方法、多価アルコールと多塩基酸又はその無水物とを反応させた後、油脂又は脂肪酸等の一塩基酸原料を加えて反応させる方法等が挙げられる。反応温度は120〜300℃反応の進行度合いは、脱水反応で留出する水の量や、酸価あるいは水酸基価を測定することでモニターすることができる。また、必要に応じてエステル化触媒を適宜用いても良い。
【0013】
前記アルキド樹脂(A)の油長は、乳化適性と顔料分散性とに優れ、インキ化した際の印刷面の光沢に優れることから、45%〜80%の範囲であることが好ましい。
【0014】
また、前記アルキド樹脂(A)の質量平均分子量(Mw)は印刷インキの種類や所望の性能により適宜調整されるが、特にオフセット印刷用途に適した弾性となる値としては、10,000〜100,000の範囲であることが好ましく、30,000〜70,000の範囲であることがより好ましい。
【0015】
尚、本発明において、重量平均分子量(Mw)は下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される値である。
測定装置 :東ソー株式会社製「HLC−8320 GPC」
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HZ−H」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL SuperHZM−H」×4本
検出器: RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8320 EcoSECアプリケーション」
測定条件: カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 0.6ml/分
標準 : 前記「GPC−8320 EcoSECアプリケーション」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−380」
東ソー株式会社製「F−450」
東ソー株式会社製「F−850」
試料 : 樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(50μl)。
【0016】
前記アルキド樹脂(A)の粘度は、印刷インキの種類や所望の性能により適宜調整されるが、特にオフセット印刷用途に適した弾性となる値としては、E型粘度計で測定される値が100〜300Pa・sの範囲であることが好ましい。
【0017】
前記アルキド樹脂(A)の酸価は、乳化適性に優れるアルキド変性レゾール樹脂となることから、30mgKOH/g以下であることが好ましく、0.1〜10mgKOH/gの範囲であることがより好ましい。また、記アルキド樹脂(A)の水酸基価は、乳化適性に優れるアルキド変性レゾール樹脂となることから、1〜30mgKOH/gの範囲であることが好ましい。
【0018】
前記レゾール樹脂(B)は、例えば、フェノール性化合物とアルデヒド化合物とを塩基性触媒の存在下で反応させて得られるものが挙げられる。前記フェノール性化合物は、例えば、フェノールの他、クレゾール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、ペンチルフェノール、ヘキシルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、キシレノール等、炭素原子数1〜10のアルキル基を有するアルキルフェノール;メトキシフェノール、エトキシフェノール、エトキシフェノール等、炭素原子数1〜10のアルコキシ基を有するアルコキシフェノール;カルダノール等天然物由来のフェノール性化合物等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種類以上を併用しても良い。中でも乳化適性と弾性のバランスに優れるアルキド変性レゾール樹脂となることから、アルキルフェノールが好ましい。
【0019】
前記アルデヒド化合物は、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、グリオキサール、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。中でも、反応性に優れることからホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドが好ましい。
【0020】
前記塩基性触媒は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;トリエチルアミン、トリメチルアミン、エタノールアミンのようなアミン類等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0021】
前記フェノール性化合物とアルデヒド化合物との反応は、例えば、フェノール性化合物1モルに対しアルデヒド化合物を1〜4モルの割合で両者を用い、フェノール性化合物1モルに対し0.01〜0.5モル程度の塩基性触媒存在下、50〜150℃の温度条件で1〜5時間反応させる方法が挙げられる。反応終了後は、必要に応じて硫酸、酢酸、リン酸等で中和しても良い。中和後は水洗し、減圧脱水することが好ましい。
【0022】
前記レゾール樹脂(B)は、フェノール性化合物及びアルデヒド化合物の他、これら以外の反応原料により変性されていても良い。具体的には、ジシクロペンタジエンやシクロペンタジエン等のジエン化合物により変性されたジエン変性レゾール樹脂や、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−アミルアルコール等のアルコールにより変性されたアルコキシ化レゾール樹脂等が挙げられる。本発明のアルキド変性レゾール樹脂においては、ガラス転移温度が高く、疎水性や弾性の高い樹脂となることから、ジエン化合物により変性されたジエン変性レゾール樹脂を用いることが好ましい。
【0023】
前記ジエンレゾール樹脂を製造する方法は、例えば、前記フェノール性化合物と、前記アルデヒド化合物と、前記ジエン化合物とを一度に反応させる方法が挙げられる。前記フェノール性化合物とジエン化合物との反応割合は、例えば、前記フェノール性化合物1モルに対し、前記ジエン化合物を0.5〜1モルの割合で用いることが好ましい。
【0024】
本発明のアルキド変性レゾール樹脂は、前記アルキド樹脂(A)と前記レゾール樹脂(B)とを反応させて得られる。両者の反応割合は、顔料分散性と印刷適性とのバランスに優れるアルキド変性レゾール樹脂となることから、前記アルキド樹脂(A)と前記レゾール樹脂(B)質量比[(A)/(B)]が1/1〜1/5の範囲であることが好ましく、1/1.5〜1/4の範囲であることが好ましい。また、この時の反応温度は100〜200℃程度であることが好ましい。
【0025】
このようにして得られる本発明のアルキド変性レゾール樹脂は、印刷適性に優れることから、重量平均分子量が50,000〜150,000の範囲であることが好ましい。
【0026】
本発明の印刷インキ用ワニスは、前記アルキド変性レゾール樹脂と、ゲル化剤、及び有機溶剤を含有する。前記ゲル化剤は印刷インキ用ワニスの粘弾性を調整する目的で用いるものであり、例えば、オクチル酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリブトキシド、アルミニウムジプロポキシドモノアセチルアセテート、アルミニウムジブトキシドモノアセチルアセテート、アルミニウムトリアセチルアセテート、テトライソプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、テトラブトキシジルコニウム、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなど公知のものを特に限定無く使用できる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0027】
前記ゲル化剤の添加量は目標の粘弾性により調整が可能であるが、通常は印刷インキ用ワニス100質量部に対し、0.1〜2.0質部の範囲で用いる。
【0028】
前記有機溶剤は、例えば、例えば、植物油や石油系溶剤が挙げられる。前記植物油は、例えば、亜麻仁油、桐油、米油、サフラワー油、大豆油、トール油、菜種油、パーム油、ひまし油、やし油脂等の植物油、および、これら植物油を食品加工用等に使用した後に再生処理した再生植物油の他、アマニ油脂肪酸メチル、大豆油脂肪酸メチル、アマニ油脂肪酸エチル、大豆油脂肪酸エチル、アマニ油脂肪酸プロピル、大豆油脂肪酸プロピル、アマニ油脂肪酸ブチル、大豆油脂肪酸ブチルなどといった前記植物油脂肪酸のモノエステルなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を併用しても良い。中でも、乾燥性に優れる印刷インキ用ワニスとなることから亜麻仁油、桐油、大豆油等の分子中に不飽和結合を有する植物油が好ましく、環境に対する負荷が小さいことから大豆油及びその再生油がより好ましい。
【0029】
前記石油系溶剤とは、例えば、JX社製「1号スピンドル油」、「3号ソルベント」、「4号ソルベント」、「5号ソルベント」、「6号ソルベント」、「ナフテゾールH」、「アルケン56NT」、三菱化学(株)製「ダイヤドール13」、「ダイヤレン168」;日産化学(株)製「Fオキソコール」、「Fオキソコール180」;JX社製「AFソルベント4号」、「AFソルベント5号」「AFソルベント6号」「AFソルベント7号」、ISU社製DSOL溶剤、「ソルベントH」;ISU(株)製「N−パラフィンC14−C18」;出光興産(株)「スーパーゾルLA35」、「スーパーゾルLA38」;エクソン化学(株)の「エクソールD80」、「エクソールD110」、「エクソールD120」、「エクソールD130」、「エクソールD160」、「エクソールD100K」、「エクソールD120K」、「エクソールD130K」、「エクソールD280」、「エクソールD300」、「エクソールD320」;マギーブラザーズ社製の「マギーソル−40」、「マギーソル−44」、「マギーソル−47」、「マギーソル−52」、「マギーソル−60」等が挙げられる。
【0030】
これらの中でも、前記アルキド変性レゾール樹脂の溶解性に優れ、芳香族成分が少ないことからAFソルベントが好ましく、特に、芳香族成分が1.0%以下である所謂アロマフリー溶剤であることが好ましい。更に具体的には、例えば、熱乾燥型オフセット輪転インキ用ワニスの調製には、JX社製「AFソルベント4号」、JX社製「AFソルベント5号」、JX社製「AFソルベント7号」が好ましく、浸透乾燥型新聞インキ用ワニスの調整にはJX社製「AFソルベント6号」、ISU社製「DSOL300」が好ましく、酸化重合型枚葉インキ用ワニスの調整にはJX社製「AFソルベント6号」が好ましい。
【0031】
本発明の印刷インキ用ワニスは各種の印刷インキ用途に用いることができるが、オフセットインキ用途に用いる場合、印刷インキ用ワニスの不揮発分が30〜75質量%となるよう調整することが好ましい。また、VOCを低減して環境負荷の小さいインキとするには、前記有機溶剤として植物油のみを用いることが好ましい。一方、オフセット輪転印刷向けなど熱風により溶剤成分を蒸発させてセットを促すインキ用途に用いる場合には、植物油よりも石油系溶剤を多く使用するケースが多い。本発明においては、その目的に応じて植物油と石油系溶剤とを、適切な比率で使用してよい。
【0032】
本発明の印刷インキ用ワニスは、前記ゲル化剤及び有機溶剤の他、酸化防止剤等他の添加剤を含有しても良い。前記酸化防止剤は、インキ用ワニス組成物の皮張りを防止する目的で用いるものであり、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールなど公知のものを特に限定無く使用できる。前記酸化防止剤の使用量は、保存期間等を考慮して配合量を決定するが、通常は印刷インキ用ワニス100質量部中0.1〜1.0質量部の範囲で用いる。
【0033】
本発明の印刷インキ用ワニスは、上記各成分を混合、攪拌して製造することができるが、混合攪拌の際には、これらを、通常、100℃以上240℃以下の範囲内の温度に加熱することにより、各成分を溶解させて混合して得られる。
【0034】
本発明の印刷インキは、前記印刷インキ用ワニスに更に顔料等を配合してなる。顔料以外には、例えば、ワックス、乾燥促進剤(ドライヤー)、乾燥抑制剤等の各種添加剤が挙げられる。
【0035】
前記顔料は、例えば「有機顔料ハンドブック(著者:橋本勲、発行所:カラーオフィス、2006年初版)」に掲載される印刷インキ用有機顔料等が挙げられ、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、金属フタロシアニン顔料、無金属フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン顔料、金属錯体顔料、ジケトピロロピロール顔料、カーボンブラック顔料、その他多環式顔料等が使用可能である。本発明においては無機顔料を用いることもでき、例えば、酸化チタン、クラファイト、亜鉛華等の無機着色顔料の他、炭酸石灰粉、沈降性炭酸カルシウム、石膏、クレー(ChinaClay)、シリカ粉、珪藻土、タルク、カオリン、アルミナホワイト、硫酸バリウム、ステアリン酸アルミニウム、炭酸マグネシウム、バライト粉、砥の粉等の無機体質顔料や、シリコーン、ガラスビーズなどがあげられる。これら顔料の配合量は、目的とする印刷インキの種類によっても異なるが、通常、印刷インキ100質量部中5〜55質量部の範囲であることが好ましい。
【0036】
前記ワックスは、インキ塗膜の耐摩擦性、ブロッキング防止性、スベリ性、スリキズ防止性等を向上させる目的で添加されるものであり、例えば、カルナバワックス、木ろう、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の天然ワックス;フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックス、シリコーン化合物等の合成ワックス等が挙げられる。ワックスの配合量は目的とする印刷インキの種類によっても異なるが、通常、印刷インキ100質量部中0.1〜7.0質量部の範囲であることが好ましい。
【0037】
前記乾燥促進剤(ドライヤー)は、インキ塗膜の乾燥性を向上させる目的で添加されるものであり、例えば、コバルト、マンガン、鉛、鉄、亜鉛等の金属とオクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸等のカルボン酸との塩である金属石鹸類等が挙げられる。乾燥促進剤の配合量は目的とする印刷インキの種類によっても異なるが、通常、印刷インキ100質量部中0.01〜5質量部の範囲であることが好ましい。
【0038】
前記乾燥抑制剤は、保存安定性を向上させ、皮張りを抑制する目的で添加されるものであり、例えば、ハイドロキノン、メトキノン、tert−ブチルハイドロキノン等が挙げられる。乾燥抑制剤は、乾燥抑制剤の配合量は目的とする印刷インキの種類によっても異なるが、通常、印刷インキ100質量部中0.01〜5質量部の範囲であることが好ましい。
【0039】
これら印刷インキに添加される各種添加剤は、印刷インキ中に均一に混合できれば印刷インキ製造のいずれの段階で添加しても構わない。具体的には、印刷インキ製造の最終段階で添加しても良いし、印刷インキ用ワニスの製造段階で予め添加しても構わない。
【0040】
本発明の印刷インキは、例えば、アルキド変性レゾール樹脂、ゲル化剤、有機溶剤、顔料及びその他添加剤を、ロールミル、ボールミル、アトライター、サンドミルといった公知のインキ製造装置を用いて、練肉・調製することにより得ることができる。
【0041】
このようにして調整された本発明の印刷インキは、オフセットインキ、樹脂凸版インキ、その中でも特に熱乾燥型オフセット輪転インキ、浸透乾燥型新聞インキ、酸化重合型枚葉インキとして好適に用いることができる。また、本発明の印刷インキは、前記したとおり優れた乳化特性を発現することから、特に、PS版など水を用いた印刷方式であるオフセット輪転印刷又はオフセット枚葉印刷によって印刷物を得る用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下に参考例、実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれ制限されるものではない。なお、例中の部および%は、特に断りのない限り質量基準である。また、各実施例及び比較例にて得られた樹脂及びワニスの各種性状値は以下の方法によって測定した。
【0043】
粘度の測定
E型粘度計を用い、被験試料0.2ml、スピンドルR9.7、回転数1〜10rpm、25℃の条件で測定を行った。
【0044】
重量平均分子量(Mw)の測定
下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
測定装置 :東ソー株式会社製「HLC−8320 GPC」
カラム:東ソー株式会社製ガードカラム「HZ−H」
+東ソー株式会社製「TSK−GEL SuperHZM−H」×4本
検出器: RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「GPC−8320 EcoSECアプリケーション」
測定条件: カラム温度 40℃
展開溶媒 テトラヒドロフラン
流速 0.6ml/分
標準 : 前記「GPC−8320 EcoSECアプリケーション」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−380」
東ソー株式会社製「F−450」
東ソー株式会社製「F−850」
試料 : 樹脂固形分換算で1.0質量%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィ
ルターでろ過したもの(50μl)。
【0045】
製造例1 アルキド樹脂(A−1)の製造
攪拌機、温度計、脱水トラップ付還流冷却器、および窒素ガス導入装置の付いた四ツ口フラスコに、大豆油784質量部とグリセリン70質量部を仕込み、230℃まで昇温して2時間反応させた。次いで、180℃まで冷却し、ペンタエリスリトール20質量部、グリセリン80質量部を仕込み、5時間かけて220℃まで昇温した後、更に3時間反応させた。縮合水の発生が弱まった後に240℃まで更に昇温し、更に6時間脱水反応を行って油長74%のアルキド樹脂(A−1)を得た。得られたアルキド樹脂(A−1)の酸価は5.0mgKOH/g、E型粘度計にて測定される粘度は200Pa・sec、重量平均分子量(Mw)は50,000であった。なお、アルキド樹脂(A−1)は一塩基酸原料の100質量%が大豆油である。
【0046】
製造例2 アルキド樹脂(A−2)の製造
製造例1と同様の装置に大豆油脂肪酸750質量部とイソフタル酸240質量部を仕込み、150℃まで昇温して1時間攪拌した。次いで、ペンタエリスリトール20質量部、グリセリン150質量部を仕込み、5時間かけて220℃まで昇温した後、更に3時間反応させた。縮合水の発生が弱まった後に240℃まで更に昇温し、更に6時間脱水反応を行って油長74%のアルキド樹脂(A−2)を得た。得られたアルキド樹脂(A−2)の酸価は5.0mgKOH/g、E型粘度計にて測定される粘度は200Pa・sec、重量平均分子量(Mw)は50,000であった。なお、アルキド樹脂(A−2)は一塩基酸原料の100質量%が大豆油脂肪酸である。
【0047】
製造例3 レゾール樹脂(B−1)の製造
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた4つ口フラスコに、パラターシャルブチルフェノール1000質量部、92%パラホルムアルデヒド435質量部、キシレン1000質量部、50%水酸化ナトリウム10質量部を仕込み、90℃まで昇温し、同温度を維持しながら6時間反応させた。次いで、水300質量部と塩酸13質量部との混合物溶液を加えて中和した後、更に水1000質量部を加え、上澄みを取り出して樹脂固形分58質量%のレゾール樹脂溶液(B−1)を得た。
【0048】
製造例4 レゾール樹脂(B−2)の製造
製造例3と同様の装置に、パラターシャルブチルフェノール1000質量部、ジシクロペンタジエン440質量部、92%パラホルムアルデヒド435質量部、キシレン1000質量部、50%水酸化ナトリウム10質量部を仕込み、90℃まで昇温し、同温度を維持しながら6時間反応させた。次いで、水300質量部と塩酸13質量部との混合溶液を加えて中和した後、更に水1000質量部を加え、上澄みを取り出して樹脂固形分64.5質量%のレゾール樹脂溶液(B−2)を得た。
【0049】
製造例5 レゾール樹脂(B−3)の製造
攪拌機および温度計を備えた加圧反応釜に、パラターシャルブチルフェノール1000質量部を仕込み120℃で加熱溶解させた。次いで、ジシクロペンタジエン440質量部、92%パラホルムアルデヒド434質量部、水酸化カルシウム8質量部を加え、130℃まで昇温し、同温度を維持しながら2時間反応させてレゾール樹脂(B−3)を得た。
【0050】
実施例1 アルキド変性レゾール樹脂(1)の製造
攪拌機、温度計、脱水トラップ付還流冷却器および窒素ガス導入装置の付いた四ツ口フラスコに、前記アルキド樹脂(A−1)200質量部を仕込み、170℃に昇温し、同温度を維持しながら前記レゾール樹脂溶液(B−1)730質量部を滴下ロートにて3時間かけて滴下した。同温度を維持しさらに5時間反応させた後、30分間減圧脱溶剤を行い、アルキド変性レゾール樹脂(1)を得た。得られたアルキド変性レゾール樹脂(1)の重量平均分子量(Mw)は85,000であった。
【0051】
実施例2 アルキド変性レゾール樹脂(2)の製造
実施例1と同様の装置に、前記アルキド樹脂(A−1)200質量部を仕込み、170℃に昇温し、同温度を維持しながら前記レゾール樹脂溶液(B−2)865質量部を滴下ロートにて3時間かけて滴下した。同温度を維持しさらに5時間反応させた後、30分間減圧脱溶剤を行い、アルキド変性レゾール樹脂(2)を得た。得られたアルキド変性レゾール樹脂(2)の重量平均分子量(Mw)は95,000であった。
【0052】
実施例3アルキド変性レゾール樹脂(3)の製造
実施例1と同様の装置に、前記アルキド樹脂(A−1)200質量部と前記レゾール樹脂(B−3)570質量部を仕込み、170℃で8時間反応させてアルキド変性レゾール樹脂(3)を得た。得られたアルキド変性レゾール樹脂(3)の重量平均分子量(Mw)は92,000であった。
【0053】
実施例4 アルキド変性レゾール樹脂(4)の製造
実施例1と同様の装置に、前記アルキド樹脂(A−2)200質量部と前記レゾール樹脂(B−3)570質量部を仕込み、170℃で8時間反応させてアルキド変性レゾール樹脂(4)を得た。得られたアルキド変性レゾール樹脂(4)の重量平均分子量(Mw)は90,000であった。
【0054】
実施例5〜8及び比較例1 印刷インキの調整とその評価
下記の要領で印刷インキを調整し、各種評価試験を行った。試験結果を表3に示す。
【0055】
印刷インキ用ワニスの調整
表1に示す割合でフェノール樹脂、大豆油、有機溶剤(JX日鉱日石エネルギー株式会社製「AF−ソルベント7号」)、ゲル化剤(アルミニウムジブトキシドモノアセチルアセテート)を配合し、印刷インキ用ワニスを調整した。
【0056】
【表1】
※1)比較用フェノール樹脂として「BECACITE 1126HV」(DIC株式会社製、一塩基酸原料の100質量%がロジンであるロジン変性フェノール樹脂)を用いた。
【0057】
印刷インキの調整
表2に示す割合で、印刷インキ用ワニス、顔料(DIC株式会社製「FASTOGENBLUE FA5375」)、炭酸カルシウム(白石工業株式会社製「白艶華TDD」)を配合し、三本ロールミルにて練和度(JIS K 5701−1 A値)が5.0μm以下になるまで練肉分散した。更に、大豆油、有機溶剤(JX日鉱日石エネルギー株式会社製「AF−ソルベント7号」)、乾燥防止剤2,6−ジ−ターシャリーブチル−4−クレゾール(本州化学工業株式会社製「H−BHT」)を配合し、印刷インキを調整した。
【0058】
【表2】
【0059】
ヒートセット性の評価
RIテスター(株式会社明製作所製)を用い、前記印刷インキ(1)0.125mlを2分割ロールにてOKトップコート紙に展色した後、200℃に保温されたコンベア型乾燥機を5秒間かけて通過させた。展色物のべた付き具合を指触にて確認し、展色物が乾燥するまでにコンベアを通過させた回数を測定した。乾燥するまでにコンベアを通過させた回数によって、ヒートセット性を評価した。通過させた回数が少ないほど乾燥性は良好と評価する。
【0060】
光沢の評価
RIテスターを用い、前記印刷インキ(1)0.15mlを2分割ロールにてOKトップコート紙に展色した後、雰囲気温度100℃の乾燥機に10秒放置し乾燥させた。乾燥後24時間経過した展色物の光沢値を60°光沢計(BYK Garder GmbH製)で測定した。
【0061】
乳化適性
リソトロニック乳化試験機(novocontrol社製)を使用して、前記印刷インキ(1)25g、温度40℃、水の添加速度2mL/分、撹拌速度1200rpm、水添加開始前のコンディショニング5分、撹拌翼とカップの間隙1mm、計測頻度2回/秒の条件で、印刷インキに水を添加したときのトルク(単位mN・m)を連続測定した。トルクが不安定に変動し始め、直近10回の計測値の標準偏差が100を超えた時点において、下記式で算出される値を最大乳化率とした。なお、水の比重は1g/mLとする。
最大乳化率(%)=〔水の滴下総量(g)/印刷インキ量(25g)〕×100
【0062】
再印刷適性
ローランド社製のR704印刷機を使用し、同一濃度で5000部印刷した後、そのままの状態で30分間放置した。再び刷りだした時に汚れがとれるまでに何枚要したかを調べ、以下の基準で評価した。
◎:59部以下
○:60部以上79部以下
×:80部位上
【0063】
水棒固着性
ローランド社製のR704印刷機を使用し、同一濃度で5000部印刷を行なった後の水着けローラーへの印刷インキの固着状態を指触評価した。
◎:固着がない
×:固着がある。
【0064】
【表3】