【実施例1】
【0029】
圧電基板上に形成されたグレーティング電極がSH波を励振する場合についてシミュレーションした。グレーティング電極として音速の遅い物質を用いることにより、SH波の音速が横波バルク波より小さくなれば、バルク波の放射が生じず、低損失化が可能になると考えられる。そこで、音速が遅く重い物質であり、かつ圧電基板上への堆積が可能な物質として、Cu(銅)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)およびMo(モリブデン)に着目した。これらの金属の金属膜をグレーティング電極に用いた場合について、金属膜の膜厚と弾性波共振器の損失の関係を有限要素法を用いシミュレーションした。
【0030】
図1(a)は、シミュレーションに用いた共振器の平面図、
図1(b)は、
図1(a)のA−A断面図である。
図1(a)および
図1(b)に示すように、圧電基板10上にIDT12および反射器14が形成されている。圧電基板10は、回転YカットX伝播タンタル酸リチウム基板である。IDT12および反射器14は金属膜16により形成されている。IDT12は一対の櫛型電極12aおよび12bを有する。一対の櫛型電極12aおよび12bは、それぞれ複数の電極指と、複数の電極指が接続されたバスバーを有する。一対の櫛型電極12aおよび12bの電極指は、グレーティング電極を形成する。IDT12の弾性波の伝播方向の両側に反射器14が形成されている。反射器14は、弾性波を反射する。金属膜16の膜厚をh、グレーティング電極(IDT12の電極指)のピッチをλとする。λは、IDT12が励振するSH波の波長に相当する。
【0031】
シミュレーションした共振器の構造を以下に示す。
ピッチλ: 4μm
電極指デュティ比:50%
IDT電極指対数:55.5対
反射器電極指数: 20本
開口長: 35λ
【0032】
表1は、金属膜16の材料としてシミュレーションに用いた金属の物性値を示す表である。表1に示すように、金属膜として、Cu膜、W膜、Ru膜およびMo膜を用いた。物性値として、密度、ヤング率およびポアソン比を用いた。
【表1】
【0033】
まず、金属膜16をCu膜として、シミュレーションを行なった。
【0034】
図2(a)から
図3(c)は、共振器における規格化周波数に対するアドミッタンスをシミュレーションした結果を示す図である。金属膜16の膜厚hのIDT16のピッチ(すなわちSH波の波長)λに対する比率である比膜厚(h/λ)を0.02から0.11まで変化させている。横軸は規格化した周波数であり、縦軸はアドミッタンスである。金属膜16はCu膜とし、圧電基板10は36°回転YカットX伝播タンタル酸リチウム基板である。
【0035】
共振器の損失の度合いを評価する尺度として、共振器の共振点と反共振点とのアドミッタンス差分ΔYを用いる。共振器の共振点においては、アドミッタンスが大きい方が損失が小さい。共振器の反共振点においては、アドミッタンスが小さい方が損失が小さい。そこで、ΔYが大きいほど、共振器のQ値が大きく低損失となる。
【0036】
図2(a)から
図3(c)に示すように、h/λが0.02から0.08まではΔYは比較的小さいが、h/λが0.09から0.11では、ΔYが比較的大きくなる。このように、h/λが0.08以下の共振器に比べΔYが0.09以上の共振器はΔYが大きく、低損失な共振器である。また、h/λが0.02から0.06では、共振点および反共振点のピークは鋭くない。h/λが0.08では、共振点のピークが鋭くQ値が高くなる。h/λが0.09から0.11では、共振点および反共振点のピークが鋭くQ値が高くなる。
【0037】
図4は、Cuを電極とした共振器のh/λに対するΔYを示す図である。圧電基板10のYカット角を20°、30°、36°、42°および48°とした。Yカット角が20°より小さいと電気機械結合係数が小さくなる。Yカット角が48°より大きいと周波数の温度係数が大きくなる。よって、Yカット角が20°から48°の範囲は実用的な範囲である。
【0038】
図4に示すように、h/λが0.08以下の範囲30では、h/λに対するΔYの極大点を有する。これは、SH波の最適膜厚を示すものであり、SH波の音速が横波バルク波より遅くなったためではない。h/λが0.08より大きい範囲32では、ΔYが著しく大きくなる。
【0039】
図5(a)から
図6(c)は、共振器における規格化周波数に対するコンダクタンスをシミュレーションした結果を示す図である。金属膜16はCu膜とし、圧電基板10は36°回転YカットX伝播タンタル酸リチウム基板である。共振点のピークを除いたコンダクタンスを破線の直線で近似している。h/λが0.09から0.11では、共振点と反共振点との間に、破線よりコンダクタンスが低くなる領域40が生じる。領域40は、バルク波の放射がなく、コンダクタンスが低下した領域と考えられる。以上のように、h/λ=0.08を境にΔYおよびコンダクタンスの振る舞いが大きく変わる。h/λが0.08より大きくなると、SH波の音速が横波バルク波より遅くなり、バルク波の放射が抑制され、低損失の共振器が実現できると考えられる。
【0040】
次に、金属膜16をW膜、Ru膜およびMo膜とした場合のシミュレーションを行なった。
図7は、Wを電極とした共振器のh/λに対するΔYを示す図である。
図7に示すように、h/λに対するΔYの振る舞いは、Cuの場合と同様である。ΔYの振る舞いが変化する境界点はh/λが約0.05である。
【0041】
図8は、Ruを電極とした共振器のh/λに対するΔYを示す図である。
図8に示すように、h/λに対するΔYの振る舞いは、Cuの場合と同様である。ΔYの振る舞いが変化する境界点はh/λが約0.07である。
【0042】
図9は、Moを電極とした共振器のh/λに対するΔYを示す図である。
図9に示すように、h/λに対するΔYの振る舞いは、Cuの場合と同様である。ΔYの振る舞いが変化する境界点はh/λが約0.08である。
【0043】
W、RuおよびMoについて、h/λを規格化した。金属膜16の密度をρ、Cuの密度をρ0、金属膜16のポアソン比をP、Cuのポアソン比をP0とする。このとき、規格化h/λ=(h/λ)×(ρ/ρ0)×(P/P0)とする。Cuの場合、規格化h/λはh/λと同じである。
【0044】
図10は、Wを電極とした共振器の規格化h/λに対するΔYを示す図である。
図11は、Ruを電極とした共振器の規格化h/λに対するΔYを示す図である。
図12は、Moを電極とした共振器の規格化h/λに対するΔYを示す図である。
図10から
図12に示すように、規格化h/λが0.08より大きい範囲32において、バルク波の放射を抑制でき、低損失化が可能となる。このように、規格化h/λを用いることにより、金属膜16の材料によらず、範囲30と32との間の境界を一般化できる。
【0045】
図13(a)は、実施例1に係る共振器の平面図、
図13(b)は、
図13(a)のA−A断面図である。
図13(a)および
図13(b)に示すように、共振器100は、回転YカットX伝播タンタル酸リチウム基板である圧電基板10上にIDT12および反射器14が形成されている。IDT12および反射器14は金属膜16により形成される。圧電基板10のYカット角は、20°以上かつ48°以下である。Yカット角は、25°以上または30°以上でもよく、45°以下または40°以下でもよい。IDT12の電極指はグレーティング電極を形成する。グレーティング電極は金属膜16により形成される。金属膜16の規格化膜厚h/λは0.08より大きい。Yカット角を20°以上かつ48°以下とし、規格化h/λを0.08より大きくすると、IDT12が励振する弾性波の主モードはSH波となる。
【0046】
これにより、
図4、
図11から
図12のように、バルク波の放射を抑制し、低損失化が可能となる。低損失化のためには、規格化h/λは0.09以上が好ましく、0.10以上がより好ましい。規格化h/λが0.14より大きくなると、SH波と同程度の周波数のレーリー波が大きくなる。このため、スプリアスが大きくなる。よって、規格化h/λは0.14以下が好ましく、0.13以下がより好ましく、0.12以下がさらに好ましい。
【0047】
金属膜16の主成分は、音速が遅く重い物質であることが好ましい。さらに、圧電基板10上への堆積が可能であることが好ましい。金属膜16の主成分は、例えばCu、W、Ru、Mo、Ta(タンタル)およびPt(白金)の少なくとも1つであることが好ましい。
【0048】
図4のように、金属膜16の主成分がCuのとき、h/λは0.08より大きいことが好ましく、0.09以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。
図7のように、金属膜16の主成分がWのとき、h/λは0.05より大きいことが好ましく、0.055以上がより好ましく、0.06以上がさらに好ましい。
図8のように、金属膜16の主成分がRuのとき、h/λは0.07より大きいことが好ましく、0.08以上がより好ましく、0.09以上がさらに好ましい。
図9のように、金属膜16の主成分がMoのとき、h/λは0.08より大きいことが好ましく、0.09以上がより好ましく、0.10以上がさらに好ましい。なお、主成分とは、意図しない不純物や、特性改善のために意図的添加した不純物を除く成分であり、例えば50原子%以上含む成分である。また、例えばポアソン比/密度が、純粋な金属に対し±10%以内となるような範囲で他の元素を含んでいてもよい。
【0049】
電極指のピッチは、グレーティング電極(IDT12)と反射器14とで10%以下、好ましくは5%以下の範囲で異なっていてもよい。また、グレーティング電極内でピッチが10%以下、好ましくは5%以下の範囲で変調されていてもよい。この場合、h/λのλとしてグレーティング電極内のいずれもピッチを用いても、h/λの誤差は10%以下、または5%以下であり、結果にほとんど影響しない。
【0050】
図14(a)から
図14(c)は、それぞれ実施例1の変形例1から3に係る共振器の断面図である。
図14(a)に示すように、圧電基板10上に金属膜16を覆うように誘電体膜18が形成されている。誘電体膜18は、周波数調整および/または温度変化補償のための膜である。誘電体膜18としては、例えば、酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、または酸化アルミニウム膜を用いることができる。誘電体膜18は、金属膜16に比べ軽い膜である。このため、誘電体膜18の有無は、上記シミュレーションの結果にほとんど影響しない。
【0051】
図14(b)に示すように、金属膜16と圧電基板10との間に密着層17が形成されていてもよい。密着層17は、金属膜16と圧電基板10との密着を向上させるための膜である。密着層17としては、例えばTi(チタン)またはCr(クロム)を用いることができる。密着層17の材料は金属膜16より軽くかつ薄い。このため、密着層17の有無は、上記シミュレーションの結果にほとんど影響しない。
【0052】
図14(c)に示すように、金属膜16は、複数の金属膜16aおよび16bが積層されていてもよい。このとき、規格化h/λは、各金属膜16aおよび16bで算出した規格化h/λの和とすることができる。金属膜16aの膜厚、密度およびポアソン比をh1、ρ1およびP1とし、金属膜16bの膜厚、密度およびポアソン比をh2、ρ2およびP2とする。金属膜16aの規格化h1/λ=(h1/λ)×(ρ1/ρ0)×(P1/P0)であり、金属膜16bの規格化h2/λ=(h2/λ)×(ρ2/ρ0)×(P2/P0)である。よって、規格化h/λ=規格化h1/λ+規格化h2/λ=(h1/λ)×(ρ1/ρ0)×(P1/P0)+(h2/λ)×(ρ2/ρ0)×(P2/P0)である。このように算出した規格化h/λが0.08より大きければよい。
【0053】
このように、グレーティング電極として、圧電基板10上に複数の金属膜が積層されているとき、複数の金属膜のうち各金属膜の密度をρi、各金属膜のポアソン比をPi、各金属膜の膜厚をhi、銅の密度をρ0、銅のポアソン比をP0、およびピッチをλとしたとき、各金属膜における(hi/λ)×(ρi/ρ0)×(Pi/P0)を複数の金属膜について合計した値が0.08より大きければよい。
【実施例4】
【0058】
実施例4は、グレーティング電極を厚くすることにより、異方性係数を負から正に変える例である。
図17(a)は、配列した電極指の平面図、
図17(b)は、波数の平面図である。
図17(a)および
図17(b)におけるX方向およびY方向は、異方性係数を説明するための方向であり、圧電基板の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。
【0059】
図17(a)に示すように、圧電基板上にIDT12の電極指13aがX方向に配列している。X方向に直交する方向をY方向とする。弾性波はX方向に伝搬する。
図17(b)に示すように、X方向の弾性波の波数をβ
x、Y方向の弾性波の波数をβ
yとする。X方向からY方向に角度θの方向の弾性波の波数β
θが角度θに対して放物線近似できるとすると、波数β
θは異方性係数γ用い、β
x2+γ・β
y2=β
θ2で表される。
【0060】
図18は、β
x/β
θに対するβ
y/β
θを示す図である。β
x/β
θはX方向の弾性波の位相速度の逆速度(slowness)に相当し、β
y/β
θはY方向の弾性波の位相速度の逆速度に対応する。
図18は、異方性係数γが1、0および−3のときを示している。異方性係数γが正のときの逆速度面70は、原点からみて凸型となる。このため、γ>0のときを凸型ともいう。異方性係数γが0のとき、逆速度面71は平面となる。異方性係数γが負のとき逆速度面72は原点からみて凹型となる。このため、γ<0のときを凹型ともいう。
【0061】
圧電基板として回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板を用いた場合、異方性係数γは負となる。電極指の材料および膜厚を変え、異方性係数γをシミュレーションした。
【0062】
シミュレーションには、
図1(a)および
図1(b)の構造を用いた。シミュレーションした共振器の構造を以下に示す。
圧電基板10:42°YカットX伝播タンタル酸リチウム基板
ピッチλ: 4μm
電極指デュティ比:50%
IDT電極指対数および開口長:無限
【0063】
シミュレーションに用いたCu膜、W膜およびMo膜の物性値は実施例1と同じとした。Al膜およびTi膜の物性値は表2とした。
【表2】
【0064】
図19は、Moを金属膜とした共振器のh/λに対するΓを示す図である。異方性係数γ=1+Γである。つまり、Γが−1より大きいとき異方性係数γは正となり、Γが−1より小さいとき異方性係数は負となる。
図19に示すように、電極指13aの膜厚(電極指13aを形成する金属膜)のSH波の波長に対する比膜厚h/λが大きくなるとΓは大きくなる。h/λが約0.08以下ではΓ<−1(つまり異方性係数は負)であり、膜厚h/λが約0.08より大きい範囲ではΓ>−1(つまり異方性係数は正)となる。このように、異方性係数γは電極指13aの膜厚が大きくなると負から正となる。
【0065】
表3は、金属膜としてMo膜、Cu膜、Al膜、W膜およびTi膜を用いた場合のh/λとΓを示す表である。
【表3】
【0066】
表3に示すように、Mo膜ではh/λが約0.08より大きい範囲でΓ>−1となる。Cu膜ではh/λが約0.08以上でΓ>−1となる。Al膜ではh/λが約0.15以上でΓ>−1となる。W膜ではh/λが約0.05以上でΓ>−1となる。Ti膜ではh/λが約0.125以上でΓ>−1となる。
【0067】
以上のように、異方性係数γが負から正になる比膜厚h/λは、実施例1においてアドミッタンス差分の振る舞いが変わるh/λ、つまりSH波の音速が横波バルク波より遅くなるh/λとほぼ一致する。このように、実施例1において低損失となるh/λの範囲では異方性係数γは正である。異方性係数γが正となるh/λがSH波の音速が横波バルク波より遅くなるh/λとほぼ同じとなる理由は明確ではないが、弾性波が関係していることから、実施例1と同様に電極指13aを形成する金属膜のポアソン比と密度で規格化できると考えられる。
【0068】
異方性係数γが正の場合、負の場合より横モードの不要波の抑制が容易である。例えば、異方性係数γが正の場合、特許文献3および4の方法を用い横モードの不要波を抑制できる。
【0069】
図20(a)および
図20(b)は、横モードの不要波を抑制するためのIDT内の音速を示す図である。
図20(a)および
図20(b)は、それぞれ異方性係数γが正および負の場合に対応する。
図20(a)および
図20(b)の左図に示すように、IDT12は、2つの櫛型電極12aおよび12bを備えている。櫛型電極12aおよび12bは電極指13aとバスバー13bを有する。複数の電極指13aがバスバー13bに接続されている。電極指13aはグレーティング電極に相当する。電極指13aが交差する領域が交差領域56(開口領域ともいう)である。交差領域56は中央領域50およびエッジ領域52を有する。交差領域56とバスバー13bとの間がギャップ領域54である。
【0070】
図20(a)の右図に示すように、異方性係数γが正のとき、交差領域56に比べギャップ領域54の音速を速くする。これにより、弾性波が交差領域56内に閉じ込められる。エッジ領域52の音速を中央領域50より遅くする。これにより、横モードによる不要波を抑制できる。
図20(b)の右図に示すように、異方性係数γが負のとき、交差領域56に比べギャップ領域54の音速を遅くする。これにより、弾性波が交差領域56内に閉じ込められる。エッジ領域52の音速を中央領域50より速くする。これにより、横モードによる不要波を抑制できる。このような構造をピストンモード構造という。
【0071】
異方性係数が正の場合に対応し、エッジ領域52の音速を中央領域50より遅くするためには、特許文献3のように、エッジ領域52の電極指13aの幅を中央領域50の電極指13aの幅より大きくする。一方、異方性係数が負の場合に対応し、エッジ領域52の音速を中央領域50より速くするためには、エッジ領域52の電極指13aの幅を中央領域50の電極指13aの幅より小さくする。電極指13aの幅を狭く形成することは、製造の観点から負担が大きい。よって、異方性係数が正の場合は負の場合より、横モードの不要波を抑制することが容易である。また、エッジ領域52の音速を中央領域50より遅くする方法としては、特許文献4のように、エッジ領域52の電極指13a上に付加膜を形成する等の方法も用いることができる。
【0072】
回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板の異方性係数は
図20(b)のような負であるが、電極の膜厚を大きくする。これにより、
図20(a)のように異方性係数が正となる。よって、横モードの不要波の抑制が容易となる。
【0073】
実施例4によれば、圧電基板10を20°以上かつ48°以下のカット角を有するYカットX伝播タンタル酸リチウム基板とする。実施例1と同様に、グレーティング電極として、圧電基板10上に複数の金属膜が積層されているとき、複数の金属膜のうち各金属膜の密度をρi、各金属膜のポアソン比をPi、各金属膜の膜厚をhi、銅の密度をρ0、銅のポアソン比をP0、およびピッチをλとしたとき、各金属膜における(hi/λ)×(ρi/ρ0)×(Pi/P0)を複数の金属膜について合計した値が0.08より大きくする。これにより、圧電基板10では異方性係数は負であるが、弾性波デバイスとして異方性係数を正とすることができる。
【0074】
そして、グレーティング電極(電極指13a)が設けられた交差領域56は、グレーティング電極の延伸方向における中央に設けられた中央領域50とグレーティング電極の延伸方向におけるエッジに設けられたエッジ領域52を有する。エッジ領域52における弾性波の速度を中央領域50における弾性波の速度より大きくする。これにより、横モードの不要波の抑制が容易となる。
【0075】
横モードの不要波の抑制方法について説明する。
図21(a)は、実施例4の変形例1に係る弾性波デバイスの一部の平面図、
図21(b)は、
図21(a)のA−A断面図である。
図21(a)および
図21(b)に示すように、IDT12が形成されている。エッジ領域52の電極指13aの幅W52は中央領域50の電極指13aの幅W50より広い。エッジ領域52と中央領域50のピッチW13は同じである。このため、エッジ領域52のデュティ比(W52/W13)は中央領域50のデュティ比(W50/W13)より大きくなる。
【0076】
実施例4の変形例1の共振器について実際に試作を行なった。試作した構造は以下である。
ピッチλ W13:3.84μm
中央領域50のデュティ比:45%
エッジ領域52のデュティ比:50%
交差領域56の長さL50(開口長):20λ
エッジ領域52の長さL52:1.5λ
IDT電極指対数:100対
電極材料:銅
電極膜厚h/λ:0.1λ
エッジ領域52のデュティ比を45%とした比較例についても試作した。
【0077】
図22(a)および
図22(b)は、実施例4の変形例1および比較例に係る共振器における、それぞれ反射特性のスミスチャートおよび周波数に対するコンダクタンスを示す図である。
図22(a)および
図22(b)に示すように、比較例においては矢印で示すようにスプリアスが発生している。実施例4の変形例1ではスプリアスが抑制されている。これは、エッジ領域52のデュティ比が中央領域50のデュティ比より大きいため、エッジ領域52の弾性波の速度が中央領域50の弾性波の速度より遅くなったためと考えられる。
【0078】
このように、実施例4の変形例1によれば、グレーティング電極が銅のとき、グレーティング電極の膜厚h/λを0.08以上とする。エッジ領域52における弾性波の伝搬方向の幅W52を中央領域50におけるグレーティング電極の弾性波の伝搬方向の幅W50より大きくする。これにより、横モードの不要波を抑制できる。
【0079】
電極指13aの膜厚が小さく、異方性係数γが負の場合、ピストンモード構造とするためには、エッジ領域52の電極指13aの幅W52を中央領域50の幅W52より小さくなる。電極指13aの幅を小さくすることは製造の観点から難しい。実施例4の変形例1では、h/λを大きくし、異方性係数γを正とする。これにより、エッジ領域52の電極指13aの幅W52を大きくすることによりピストンモード構造が実現できる。よって、より簡単に横モードの不要波を抑制できる。
【0080】
図23(a)は、実施例4の変形例2に係る弾性波デバイスの一部の平面図、
図23(b)は、
図23(a)のA−A断面図である。
図23(a)および
図23(b)に示すように、エッジ領域52において、圧電基板10および電極指13a上に付加膜42が形成されている。付加膜42は弾性波の伝搬方向に連続して帯状に形成されている。
【0081】
実施例4の変形例2によれば、エッジ領域52内のグレーティング電極上に付加膜42が形成され、中央領域50内のグレーティング電極上には付加膜42が形成されていない。これにより、エッジ領域52の音速を中央領域50より遅くできる。付加膜42としては、例えば五酸化タンタル(Ta
2O
5)膜または酸化アルミニウム(Al
2O
3)膜を用いることができる。付加膜42の密度は例えば4g/cm
3以上が好ましい。また、付加膜42の膜厚は例えば200nm以下が好ましい。
【0082】
付加膜42はエッジ領域52内の電極指13a上に少なくとも一部に形成されていればよい。付加膜42は電極指13a間の圧電基板10上に形成されていなくともよい。電極指13a上に形成される付加膜42は絶縁膜または金属膜とすることができる。電極指13a間の圧電基板10上に形成される付加膜42は絶縁膜であることが好ましい。
【0083】
異方性係数γが負の場合、付加膜42を付加することによりピストンモード構造を実現することはできない。実施例4の変形例2では、h/λを大きくし、異方性係数γを正とする。これにより、エッジ領域52の電極指13a上に付加膜42を形成することで、簡単にピストンモード構造を実現できる。
【0084】
図24(a)は、実施例4の変形例3に係る弾性波デバイスの一部の平面図、
図24(b)は、
図24(a)のA−A断面図である。
図24(a)および
図24(b)に示すように、エッジ領域52において、電極指13a間の圧電基板10上に付加膜44が形成されている。電極指13a上には付加膜44は形成されていない。
【0085】
実施例4の変形例3によれば、エッジ領域52内のグレーティング電極間の圧電基板10上に付加膜44が形成され、中央領域50内のグレーティング電極間の圧電基板10上には付加膜44が形成されていない。これにより、エッジ領域52の音速を中央領域50より遅くできる。付加膜44としては、例えば五酸化タンタル膜または酸化アルミニウム膜を用いることができる。付加膜44の密度は例えば4g/cm
3以上が好ましい。また、付加膜42の膜厚は例えば200nm以下が好ましい。
【0086】
付加膜44はエッジ領域52内の電極指13a間の少なくとも一部に形成されていればよい。付加膜44は絶縁膜であることが好ましい。
【0087】
異方性係数γが負の場合、付加膜44を付加することによりピストンモード構造とすることはできない。実施例4の変形例3では、h/λを大きくし、異方性係数γを正とする。これにより、エッジ領域52の電極指13間の圧電基板10上に付加膜44を形成することで、簡単にピストンモード構造を実現できる。
【0088】
実施例4およびその変形例において、金属膜16を実施例1の変形例のように複数の膜で形成してもよい。中央領域50が主に弾性波デバイスの特性に寄与するため、中央領域50の長さがエッジ領域52の長さより大きいことが好ましい。中央領域50の長さはエッジ領域52の長さの2倍以上が好ましく、10倍以上が好ましい。実施例4およびその変形例において、実施例1の変形例のように、金属膜16を複数の膜で形成してもよい。実施例4およびその変形例を実施例2のフィルタおよび実施例3のデュプレクサに用いてもよい。
【0089】
実施例1から4およびその変形例において、弾性波デバイスとして弾性表面波デバイスを例に説明したが、弾性波デバイスは、ラブ波デバイスまたは弾性境界波デバイス等でもよい。また、圧電基板10は、サファイア基板等の支持基板に接合された圧電基板でもよい。
【0090】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。