特許第6494450号(P6494450)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494450
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】医療用コンテナ
(51)【国際特許分類】
   A61B 6/00 20060101AFI20190325BHJP
   B60P 3/00 20060101ALI20190325BHJP
   A61B 6/03 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   A61B6/00 390M
   B60P3/00 N
   B60P3/00 U
   A61B6/03 Z
   A61B6/03 321H
   A61B6/00 390E
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-134066(P2015-134066)
(22)【出願日】2015年7月3日
(65)【公開番号】特開2017-12577(P2017-12577A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2018年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】506148590
【氏名又は名称】株式会社Sansei
(74)【代理人】
【識別番号】100101384
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 成夫
(74)【代理人】
【識別番号】100101742
【弁理士】
【氏名又は名称】麦島 隆
(72)【発明者】
【氏名】尚和 直生
(72)【発明者】
【氏名】森 誠司
(72)【発明者】
【氏名】川本 真司
(72)【発明者】
【氏名】織笠 慎
(72)【発明者】
【氏名】濱本 保
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐
【審査官】 伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−000596(JP,A)
【文献】 特開2001−095780(JP,A)
【文献】 特開2004−313390(JP,A)
【文献】 特開2002−147009(JP,A)
【文献】 特開2001−299743(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0053203(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0191744(US,A1)
【文献】 特開2011−045439(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0049370(US,A1)
【文献】 特開2007−236817(JP,A)
【文献】 米国特許第05727353(US,A)
【文献】 特開平04−008349(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 − 6/14
B60P 3/00
E04F 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線CT装置を収納可能なCT室、および前記のX線CT装置を作動させるために必要な電源を収納可能な電源室を備えたコンテナであって、
前記の電源室および前記のCT室に挟まれた位置には、前記のX線CT装置を操作するための操作室を位置させるとともに、
その操作室およびCT室の間には、X線CT装置が作動時に発するX線を遮蔽可能な遮蔽壁と、
前記のX線CT装置が取得した画像データを遠隔地へ送信可能なデータ送信装置と、
前記のCT室、電源室および操作室には、各室の気温や湿度などの環境データを取得可能な環境監視装置と、
前記のCT室、電源室および操作室における少なくとも気温を変更可能な空気調和機と、を備え、
前記のデータ送信装置は、前記の環境データを遠隔地へ送信可能とした
医療用コンテナ。
【請求項2】
前記のCT室は、X線遮蔽が可能な遮蔽壁で覆われているとともに、CT室の内壁の隅は曲面を形成した請求項1に記載の医療用コンテナ。
【請求項3】
前記のX線CT装置は、検査を受ける被検査者が横たわる寝台と、その寝台に対して長手方向を相対的に移動するスキャナ本体とを備え、
その寝台の長手方向がコンテナの長手方向と一致するように寝台およびスキャナ本体を設置した
請求項1または請求項2のいずれかに記載の医療用コンテナ。
【請求項4】
前記の操作室には、コンテナ内への出入りを可能とするための出入り口を備え、
前記の遮蔽壁には、前記のCT室と前記の操作室との間で前記X線CT装置での被検査者が行き来可能とする扉と、前記の操作室から前記のCT室の中を目視できるようにするための窓と、を備えた
請求項1から請求項3のいずれかに記載の医療用コンテナ。
【請求項5】
前記のスキャナ本体は、前記の遮蔽壁から遠い側に位置するように設置した
請求項4に記載の医療用コンテナ。
【請求項6】
コンテナにおけるCT室に対応する側壁には、スキャナ本体に相当する位置へ、観音開きとなるメンテナンス用扉を備えた
請求項5に記載の医療用コンテナ。
【請求項7】
前記のX線CT装置を遠隔地から操作可能な操作データを受信可能な操作データ受信装置を備えた
請求項1から請求項6のいずれかに記載の医療用コンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器を搭載して移動が容易な医療用コンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、大規模な災害の発生地や紛争勃発地域、へき地等、医療設備が行き届かない地域にて緊急的に多くのけが人や病人が発生した際に、比較的多数の患者を総合的に診察、医療処置が可能な移動病院システムが開示されている。
この移動病院システムは、いくつかのコンテナ車両に対して、水を供給する給水手段と、電源を供給する発電手段と、該発電手段に燃料を給油する給油手段と、を具備する。
【0003】
特許文献2には、移動可能なトレーラ上に検査用X線CT装置が搭載されたX線CT検査車が開示されている。この技術は、自由に移動できて、貨物内部の状態(相対密度分布,構造)を正確に画像化して表示することを目的としている。
【0004】
特許文献としては検索できなかったが、「野外手術システム」として、トラックや輸送艦へ手術室を装備して移動可能としたものが実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−142211号公報
【特許文献2】特開平8−127282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医療処置の前提となる検査が必要な場合、患部の状態確認が可能なX線CT装置が多用されている。そのX線CT装置は、X線を用いるので、被験者を除いてX線を浴びないように、遮蔽性能を確保しなければならない。
【0007】
したがって、X線CT装置を搭載した移動可能な設備を提供しようとする場合、非常に大がかりな設備となってしまう。特許文献1に開示された技術は、こうした点が配慮された技術とは言い難く、現実の製品としては、現存していないようである。
輸送艦ほどの大きな空間およびそれを異動させることができる駆動設備を備えていれば、X線CT装置を搭載した移動可能な設備を提供することは可能であろう。しかし、トレーラほどの自在移動性は確保できない。
加えて、X線CT装置に対して独立した電源を確保することは、物理的な制約があり、特許文献1、2に開示された技術では困難であった。
【0008】
また、被験者に対する衛生状態の確保、被験者を原因とする医療関係者への衛生状態の確保、という点から、X線CT装置を収納できる空間が消毒作業をしやすいものとしたい、という要望が医療現場には存在する。そうした要望を配慮しつつ、X線CT装置を搭載したトレーラでの移動が可能な設備を提供することは、困難であった。
【0009】
第一の発明が解決すべき課題は、自在な移動性(運搬性)を確保しつつ、X線CT装置を独立して作動させることができる設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(第一の発明)
第一の発明は、X線CT装置(30)を収納可能なCT室(21)、および前記のX線CT装置(30)を作動させるために必要な電源を収納可能な電源室(22)を備えたコンテナ(20)に係る。
前記の電源室(22)および前記のCT室(21)に挟まれた位置には、前記のX線CT装置(30)を操作するための操作室(23)を位置させるとともに、その操作室(23)および前記のCT室(21)の間には、前記のX線CT装置(30)が作動時に発するX線を遮蔽可能な遮蔽壁(鉛入り壁24)を備える。
【0011】
(用語説明)
「コンテナ」とは、40ft型と呼ばれるISO規格の海上コンテナ、またはその40ft型よりも内側空間寸法が大きな輸送用コンテナである。 本発明に係る「医療用コンテナ」は、X線CT装置(30)を予め収納したコンテナとして提供する場合の他、X線CT装置(30)を収納していないコンテナとして提供しても、本願発明に含まれることを意図している。
「X線CT装置」とは、患部を透過させたX線のデータから画像を得るための装置である。一般には、アナログのX線データを画像はデジタルデータにまで加工する。
「電源室(22)」は、発電機(40)を内装する場合の他、外部電源と接続してその変圧などを実行できる中継機器を内装する場合、蓄電池を内装する場合などを選択できるものとする。
【0012】
(作用)
電源室(22)に電源(たとえば発電機40)を設置し、CT室(21)にてX線CT装置(30)を設置し、操作室(23)にX線CT装置(30)を操作するための設備を設置する。 電源(40)から電気エネルギをX線CT装置(30)へ供給して作動させれば、X線CT装置(30)を独立して作動させることができる。
X線CT装置(30)を独立して作動させることができるので、このコンテナ(20)を輸送した場所において、X線CT装置(30)を用いた検査が可能である。
【0013】
(第一の発明のバリエーション1)
第一の発明は、以下のように形成すると、より好ましい。
すなわち、前記のCT室(21)は、前記の遮蔽壁(24)以外の五面もX線の遮蔽が可能な遮蔽壁で覆われているとともに、 前記のCT室(21)の内壁の隅は曲面を形成する。
上記の「曲面」は、たとえば、床の最上面を形成する床材を壁の所定高さまで立ち上げることで、半径5〜10ミリメートル程度のアールを形成する。
【0014】
(作用)
CT室(21)の内壁の隅は角張っておらず、曲面となっているため、清掃がしやすく、清掃後にも早く乾燥する。そのため、雑菌の繁殖を抑制しやすく、感染症の原因を減らすことに寄与できる。
【0015】
(第一の発明のバリエーション2)
第一の発明は、以下のように形成すると、より好ましい。
すなわち、前記のX線CT装置(30)は、検査を受ける被検査者が横たわる寝台(32)と、その寝台(32)に対して長手方向を相対的に移動するスキャナ本体(31)とを備える。その寝台(32)の長手方向がコンテナ(20)の長手方向と一致するように、寝台(32)およびスキャナ本体(31)を設置する。
なお、「スキャナ本体(31)」について、「寝台(32)に対して長手方向を相対的に移動する」としたのは、後述する実施形態のように寝台(32)がスキャナ本体(31)に対して移動する場合の他、スキャナ本体(31)が寝台(32)に対して移動しても良いし、スキャナ本体(31)および寝台(32)が互いに移動しても良い、という趣旨である。
【0016】
(作用)
寝台(32)の長手方向は、CT室(21)へ収納すべき部材の中で、最も長い寸法である。これをコンテナ(20)の長手方向と一致するように設置したことで、寝台(32)およびスキャナ本体(31)を合理的に配置することとなる。たとえば、コンテナ(20)の幅寸法が40ft型にて足りることとなり、コンテナ(20)の選択、およびその運搬方法についての選択肢を狭めなくて済む。
【0017】
(第一の発明のバリエーション3)
第一の発明は、以下のように形成すると、より好ましい。
すなわち、前記の操作室(23)にはコンテナ(20)内への出入りを可能とするための出入り口(横扉29)を備える。
前記の遮蔽壁(鉛入り壁24)には、前記のCT室(21)と前記の操作室(23)との間で前記X線CT装置(30)での被検査者が行き来可能とする扉(鉛入り扉25)と、前記の操作室(23)から前記のCT室(21)の中を目視できるようにするための窓(鉛入りガラス26)と、を備える。
【0018】
(作用)
X線CT装置(30)による検査を受けるべき被検査者や、線CT装置(30)を操作する操作者は、出入り口(横扉29)からコンテナ(20)内へ出入りする。前記の被検査者は、操作室(23)から扉(鉛入り扉25)を使ってCT室(21)へ出入りする。
前記の操作者は、窓(鉛入りガラス26)からCT室(21)の中にいる被検査者を目視することができる。
【0019】
(第一の発明のバリエーション4)
第一の発明における前記バリエーション3は、以下のように形成すると、より好ましい。
すなわち、前記のスキャナ本体(31)は、前記の遮蔽壁(24)から遠い側に位置するように設置するのである。
【0020】
スキャナ本体(31)は、前記の遮蔽壁(24)から遠い側に位置するように設置されていると、結果として寝台(32)が遮蔽壁(24)に近い位置に設置されていることとなる。そのため、被検査者は、操作室(23)から検査を受けるためにCT室(21)へ移動する場合の移動距離が短くなる。
【0021】
(第一の発明のバリエーション5)
第一の発明における前記バリエーション4は、以下のように形成すると、より好ましい。
すなわち、コンテナ(20)におけるCT室(21)に対応する側壁には、スキャナ本体(31)に相当する位置へ、観音開きとなるメンテナンス用扉(27)を備える。
【0022】
(作用)
CT室(21)において最も大きな部材であるスキャナ本体(31)は、コンテナ(20)における長手方向に垂直な断面形状に対して、余裕があまりない状態で配置されている。したがって、X線CT装置(30)にメンテナンスの必要が生じた場合などにおいては、メンテナンス作業がしにくい。
メンテナンス用扉(27)を備えたことで、メンテナンス作業のしやすい状態をつくり出すことができた。観音開きであるので、スキャナ本体(31)に干渉するおそれがなく、引き戸ではないので、CT室(21)の内部空間を狭めることもない。
【0023】
(第一の発明のバリエーション6)
第一の発明に係る医療用コンテナは、前記のX線CT装置(30)が取得した画像データを遠隔地へ送信可能なデータ送信装置を備えると、より好ましい。
「遠隔地」とは、本発明に係る医療用コンテナと物理的に離れた場所にあることを意味する。例えば、本発明に係る医療用コンテナの操作室に医師がいない場合、X線CT装置(30)が取得した画像データを見て診断などをすることができる医師がいる病院が「遠隔地」となる。
【0024】
(作用)
X線CT装置(30)が取得した画像データは、データ送信装置が遠隔地へ送信する。これによって、本発明に係る医療用コンテナと物理的に離れた場所にいる医師が、送信された画像データを見て診察をするなどのことが可能となる。結果として、医師が本発明に係る医療用コンテナのある場所へ移動しなくて済む、ということとなる。
【0025】
(第一の発明のバリエーション7)
前述した第一の発明のバリエーション6は、以下のように形成すると、より好ましい。
すなわち、 前記のCT室、電源室および操作室には、各室の気温や湿度などの環境データを取得可能な環境監視装置と、 前記のCT室、電源室および操作室における少なくとも気温を変更可能な空気調和機と、を備え、 前記のデータ送信装置は、前記の環境データをも遠隔地へ送信可能とするのである。
なお、ここでの「遠隔地」は、バリエーション6の「遠隔地」と異なっていても良いし、同じでも良い。
【0026】
(作用)
環境監視装置は、CT室、電源室および操作室における各室の気温や湿度などの環境データを取得する。そして、取得した環境データを、データ送信装置にて遠隔地へ送信する。
CT室、電源室および操作室における気温を空気調和機が変更可能であるので、空気調和機の操作指示を遠隔地から連絡したり、空気調和機を遠隔地から直接操作したりすることができる。
【0027】
(第一の発明のバリエーション8)
第一の発明に係る医療用コンテナは、前記のX線CT装置(30)を遠隔地から操作可能な操作データを受信可能な操作データ受信装置を備えることとすれば、より好ましい。
なお、ここでの「遠隔地」もまた、バリエーション6の「遠隔地」と異なっていても良いし、同じでも良い。
また、「操作データ」は、X線CT装置(30)のほか、前述の空気調和機、発電機(40)などを操作するためのデータを含むこととしても良い。
【0028】
遠隔地からX線CT装置を操作するための操作データが送信された場合、その操作データは操作データ受信装置が受信する。そして、その操作データによって、X線CT装置を遠隔地から操作することができる。
【発明の効果】
【0029】
第一の発明によれば、自在な移動性(運搬性)を確保しつつ、X線CT装置を独立して作動させることができる設備を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施形態に係るコンテナおよびそのコンテナを積載したトレーラの右側面図である。
図2】本発明の実施形態に係るコンテナおよびそのコンテナを積載したトレーラの左側面図である。
図3】本発明の実施形態に係るコンテナおよびそのコンテナを積載したトレーラの透視斜視図である。
図4】本発明の実施形態に係るコンテナの平面図である。
図5】本発明の実施形態に係るコンテナおよびX線CT装置におけるスキャナ本体を示す正面図である。
図6】本発明の実施形態に係るコンテナと遠隔地にある病院との関係を示す概念図である。
図7】本発明の実施形態に係るコンテナと遠隔地にある病院との関係を示す概念図である。
図8】本発明の実施形態に係るコンテナと遠隔地にある病院との関係を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態について、図面を参照させながら説明する。ここで使用する図面は、図1から図8である。
図1および図2に示すように、この実施形態は、トレーラ10へ積載可能な医療用コンテナである。
【0032】
コンテナ20としては、40ft型と呼ばれるISO規格の海上コンテナを採用した。「40ft」とは、全長が40フィート(12.192メートル)であることを意味している。また、幅寸法は2.438メートル、高さ寸法は約2.3メートルである。 このサイズであれば、陸上、海上の輸送が可能であり、航空機やヘリコプターでの輸送も可能である。
ただし、本願発明が40ft型のコンテナに限るということではない。
【0033】
図3に示すように、コンテナ20は、X線CT装置30を内装するCT室21と、そのX線CT装置30を含めた各種の内装機器に対する電源となる発電機40を内装する電源室22と、その電源室22および前記のCT室21に挟まれた位置に操作室23と、を備える。
【0034】
本実施形態においては、CT室21の長さ寸法を5.3メートル、電源室22の長さ寸法を3.2メートル、操作室の長さ寸法を約3.55メートルとした。
CT室21と電源室22との間に操作室23を配置することが最も合理的である。電源室22にて発生する音や振動がCT室21へ到達するのを、操作室23の存在によって緩和できるからである。
【0035】
このコンテナ20がトレーラ10へ装着される場合、トレーラの運転席側(前側)には電源室22が位置し、CT室21が最後尾となる。最後尾となるコンテナ20の面は、説明の便宜上、後面20Aとする。この後面20Aには、40ft型のコンテナの場合、内部空間へ収納する荷物を積み卸しするための観音開きの扉が標準で設けられている。
なお、X線CT装置30の搬入は、前述の扉からも可能であるが、後述するメンテナンス用扉27から行う。
【0036】
後面20Aには、CT室21に備えられる空気調和機(エアコン)の室外機39を固定する。コンテナ20がトレーラ10へ装着された場合でも、空気調和機(エアコン)の室外機39の突出は、公道を運転しても問題ないからである。
ただし、この室外機39は、本実施形態に係る医療用コンテナ20をトレーラ10以外の輸送手段(たとえば、船)にて輸送する場合には取り外してコンテナ20の内部へ収納する。
【0037】
CT室21と操作室23との間は、鉛入り壁24によって仕切られている。操作室23へのX線浸入を遮断するためである。なお、鉛入り壁24には、患者(被検査者)などがCT室21への出入りができるようにするための鉛入り扉25と、操作者や医者などがCT室21の中を目視できるようにするための鉛入りガラス26とが備えられている。
【0038】
電源室22と操作室23との間は、グラスウールなどを内装することによって遮音性能を高めた防音壁28によって仕切られている。発電機40が発する騒音が、操作室23やCT室21へ伝わることをできる限り抑制することに寄与している。
また、電源室22、操作室23には、図2に示すように換気扇50を備えており、CT室21にも図示を省略しているが換気扇を備えている。
【0039】
電源室22および操作室23には、コンテナ20の内部への機器などの搬入、患者(被検査者)や医者など人間の出入りのための横扉29が備えられている。
また、操作室23における横扉29には、人間の出入りのために、踊り場付きの階段60を装着して固定することが可能である。この階段60は、折りたたんでコンテナ20内への収納、またはコンテナの屋根面20Bなどへの収納が可能である。そのため、輸送時には邪魔にならず、輸送後に組み立てて使用することが可能である。
【0040】
本実施形態では、前記の横扉29は、トレーラ10へコンテナ20が設置された場合に左側へ位置するようにしている。これは、車両が道路を左側通行する日本や英国などで使用することを想定した実施形態である。北米、南米やヨーロッパ大陸などなど使用することを想定した実施形態であれば、前記の横扉29は、トレーラ10へコンテナ20が設置された場合に右側へ位置させることが好ましい。
【0041】
X線CT装置30は、検査を受ける患者(被検査者)が横たわる寝台32の長手方向がコンテナ20の長手方向と一致するように、寝台32およびスキャナ本体31が設置されている。X線CT装置30のシステムトランス35もCT室21に設置されている。
【0042】
スキャナ本体31は、後述するCT室の内寸幅寸法に収まるように、横幅寸法が2070ミリメートル(高さ寸法は1920ミリメートル)の製品を採用した。
寝台32は、そこへ横たわる患者(被検査者)をCT室21における長手方向に沿って動かすことでスキャナ本体31に対して往復移動する。それによって、スキャナ本体31は患者の患部をスキャニングする。
【0043】
操作室23には、X線CT装置30を操作するための操作コンソール34を備えており、その操作コンソール34を操作者が操作確認しやすい高さにするためのデスク33が鉛入り壁24側へ設置されている。また、操作コンソール34には、スキャナ本体31が取得したX線データをデジタル画像として処理するデータ処理装置(コンピュータ)を備えている。
鉛入り壁24におけるCT室21側には、寝台32に横たわる患者(被検査者)を映し出すための患者(被検査者)モニタカメラ37が備えられている。また、患者(被検査者)と操作者または医者との会話をするため、スピーカおよびマイク(図示は省略)がCT室21および操作室23に備えられている。
【0044】
前記のCT室21は、前記の遮蔽壁24以外の五面もX線の遮蔽が可能な遮蔽壁で覆われている。たとえば、CT室の内寸幅寸法は、2178ミリメートルとなった。X線を遮蔽するための鉛板を内装したためである。
【0045】
また、詳細な図示は省略しているが、前記CT室21の内壁の隅は、曲面を形成するように製造されている。具体的には、抗菌防カビ性、耐薬品性、耐衝撃性、耐動荷重性に優れた合成樹脂製の床材を、床面から壁面側へ連続させて1メートルほど立ち上げることで、内壁の隅に曲面(半径5〜10ミリメートル程度)を形成している。
このため、CT室21の内壁の隅は角張っておらず、曲面となっている。そのため、清掃がしやすく、清掃後にも早く乾燥する。そのため、雑菌の繁殖を抑制しやすく、感染症の原因を減らすことに寄与している。
【0046】
本実施形態によれば、電源室22に発電機40を備えており、CT室21にてX線CT装置30を設置し、操作室23にX線CT装置30を操作するための操作コンソール34を設置している。 発電機40から電気エネルギをX線CT装置30へ供給して作動させることで、X線CT装置30を外部電源に頼ることなく独立して作動させることができる。
【0047】
X線CT装置30を外部電源に頼ることなく独立して作動させることができるので、このコンテナ20を輸送した場所において、X線CT装置30を用いた検査が可能である。たとえば、災害地、紛争地帯などへ海路、陸路にて輸送したり、空輸したりすることができる。
なお、前述した発電機40は、X線CT装置30や各部屋の空気調和機を稼働させても余力がある程度の発電性能を備えたものを採用している。このため、本実施形態に係るコンテナ20の外部に対しても電気を供給することができる。
【0048】
図3に示すように、スキャナ本体31は、その停止時に遮蔽壁24から遠い側に位置するように設置されている。そのため、寝台32が遮蔽壁24に近い位置に設置されている。これによって被検査者は、操作室23から検査を受けるためにCT室21へ移動する場合の移動距離が短くて済むという合理的な配置となる。
【0049】
図3および図4に示すように、コンテナ20におけるCT室21に対応する側壁には、スキャナ本体31の停止時に相当する位置へ、観音開きとなるメンテナンス用扉27を備えている。これによって、CT室21に設置された機器のメンテナンス作業のしやすい状態をつくり出すことができた。観音開きであるので、スキャナ本体31に干渉するおそれがなく、引き戸構造ではないので、CT室21の内部空間を狭めることもない。
【0050】
図6から図8は、医療用のコンテナ20と、そのコンテナ20とは物理的に離れた遠隔地(病院)との間で、どのようなデータがやり取りされているかを示した概念図である。
【0051】
X線CT装置30におけるスキャナ本体31が、患者の患部のX線データを取得し、操作コンソール34の一部であるデータ処理装置によって、デジタル画像データが作成されることは、これまでの説明と同じである。
図6は、そのデジタル画像データを、データ送信装置および公衆通信網を介して、遠隔地にある病院へ送信する様子を示す。送信されたデジタル画像データは、病院にあるデータ受信装置が受信し、病院にある画像出力装置へ出力させる。
【0052】
コンテナ20からは離れた病院にいる医師は、画像出力装置へ出力された患者の患部のデジタル画像データを見て診察をすることが可能となる。結果として、その医師は、このコンテナ20のある場所へ移動しなくて済む、ということとなる。
【0053】
図7は、図6に示したデータ送信装置およびデータ受信装置とは別に、電話回線を通じて、病院にいる医師とコンテナ20におけるX線CT装置30の操作者とが、電話で連絡を取っている様子を示している。
データ送信装置およびデータ受信装置は、公衆通信網の混み具合、送信されるデジタル画像データの容量などによって、送信速度が極めて遅くなるような事態が生じる。また、画像出力装置にて出力されたデジタル画像データを見た医師が、別のデジタル画像データをリクエストしたい、といった事態も生じる。
【0054】
そのような事態に素早く対応するには、医師と操作者とが直接会話をするのが一番的確で速い。そのような場合には、デジタル画像データを送信する際に使う公衆通信網とは別の、電話回線を使って電話をすることが望ましい。そのため、公衆通信網とは別の、電話回線にて通話が可能な電話をコンテナおよび病院にて確保しておくこととなる。
【0055】
図8には、図3などで示したCT室、電源室および操作室には、各室の気温や湿度などの環境データを取得可能な環境監視装置を備え、CT室、電源室および操作室の各部屋に空気調和機(エアコン)を備え、その空気調和機を含めたコンテナにおける各種機器を遠隔操作可能としている状態を示している。
【0056】
環境監視装置が取得した環境データは、デジタル画像データと同じように病院へ送信する。この図8では、デジタル画像データを送信するためのデータ送信装置を介して送信することとして図示しているが、前記のデータ送信装置とは別のデータ送信装置(たとえば環境監視装置へ内蔵されたデータ無線送信機)を介して送信することとしてもよい。
【0057】
図4において患者モニタカメラ37について説明したが、この患者モニタカメラ37が取得した動画データや音声データを、遠隔地である病院の画像出力装置へ出力させることとしている。更に、病院にマイクを設置し、そのマイクはコンテナにおけるCT室に備えられたスピーカへ、当該マイクが拾った音声データを出力させることができるようにしている。
なお、前記の患者モニタカメラ37やマイクは、データ無線送信機を内蔵していることとする。
【0058】
このような構成を備えることで、CT室に入った患者と、遠隔地の病院にいる医師とがコミュニケーションを取れるようにしている。もちろん、操作室にいる操作者が、患者モニタカメラ37やスピーカを介してコミュニケーションを取れる状態を確保している。
【0059】
この図8では、コンテナに備えられた空気調和機、スキャナ本体、データ処理装置、データ送信装置などを操作するための操作データを送信するための操作データ送信装置を、病院側に備えている。また、その操作データ送信装置が送信した操作データを受信し、その操作データを空気調和機、スキャナ本体、データ処理装置、データ送信装置に対して送り込むための操作データ受信装置を、コンテナ側に備えている。
【0060】
たとえば、環境データを病院側で出力させてチェックしていたり、患者モニタカメラを介して患者からリクエストがあったりしたような場合に、CT室の空気調和機による温度設定を変更する操作データを送信し、CT室の気温をコントロールすることができる。
また、医師が希望するデジタル画像データを病院側にて出力させるために、スキャナ本体、データ処理装置、データ送信装置のいずれかまたは全部を操作する操作データを送信し、希望するデジタル画像データを得ることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
コンテナの製造業、コンテナを用いた運搬業、医療機器の製造業、医療機器のメンテナンス業、医療機器やトレーラのレンタル業、などにおいて利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0062】
10 ;トレーラ
20 ;コンテナ(40ft型) 20A;後面
20B;屋根面
21 ;CT室 22 ;電源室
23 ;操作室 24 ;鉛入り壁
25 ;鉛入り扉 26 ;鉛入りガラス
27 ;メンテナンス用扉 28 ;防音壁
29 ;横扉
30 ;X線CT装置 31 ;スキャナ本体
32 ;寝台 33 ;コンソールデスク
34 ;操作コンソール(データ処理装置) 35 ;システムトランス
37 ;患者モニタカメラ 39 ;エアコン室外機
40 ;発電機
50 ;換気扇
60 ;後付け階段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8