(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コンバインの大型化・高出力化に伴って、動力伝達装置にかかる牽引力やトルク等の負荷が増大する。この増大した負荷に耐えるために、動力伝達装置と走行装置とを連結する部分や走行装置の軸受に構造的な強化が必要となる。
しかし、構造的な強化は部品の大型化を招きやすく、上記のような左右分配式の動力伝達装置を採用するコンバインは機体下部中央に上記部品が大きく張り出すため、機体の最低地上高が低くなってしまうという点で改良の余地があった。
【0006】
そこで、左右分配式の動力伝達装置を機体フレームの中央に一つだけ備える構成に換えて、単一のエンジンから出力された駆動力がそれぞれ入力される二つの動力伝達装置を機体フレームの左右に備えて、左右の動力伝達装置により左右一対の走行装置を独立して駆動させる構成の採用が考えられる。
【0007】
このような構成であっても、主変速装置に加えて副変速装置を備えることがある。左右独立した動力伝達装置のそれぞれに備えられた副変速装置は、同時に変速比の切り替え制御がなされるが、実際には左右の副変速装置の個体差や、左右の副変速装置を構成する機構が備えるクラッチのすべりやギヤの噛み合いタイミング等のずれに起因して、左右の副変速装置の変速比の切替には時間的なずれが生じることがある。
【0008】
左右の副変速装置の変速比の切替タイミングのずれは、左右一対の走行装置の速度差となって現れる。左右一対の走行装置に速度差が生じると、当該コンバインには操縦者が意図しない旋回動作が生じてしまう虞があった。
【0009】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、左右独立した副変速装置の変速比の切替時に、直進性を確保することができる農作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の目的を達成するための、本発明に係る農作業機の特徴は、駆動源と、左右一対の走行装置と、前記駆動源の駆動力を前記左右一対の走行装置に伝達する動力伝達装置とを備えた農作業機であって、前記動力伝達装置は、可変容量型の油圧ポンプで構成され前記駆動源の駆動力が入力される第一油圧ポンプと、第一油圧回路により前記第一油圧ポンプと連結され前記第一油圧ポンプに入力された駆動力を前記左右一対の走行装置のうちの一方の走行装置へ出力する第一出力軸を有する第一油圧モータとを備えた静油圧式の第一無段変速装置と、前記第一油圧ポンプと前記一方の走行装置との間に配設された第一副変速装置と、可変容量型の油圧ポンプで構成され前記駆動源の駆動力が入力される第二油圧ポンプと、第二油圧回路により前記第二油圧ポンプと連結され前記第二油圧ポンプに入力された駆動力を前記左右一対の走行装置のうちの他方の走行装置へ出力する第二出力軸を有する第二油圧モータとを備えた静油圧式の第二無段変速装置と、前記第二油圧ポンプと前記他方の走行装置との間に配設された第二副変速装置と、前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置による変速を禁止又は許可する変速制御機構
と、前記第一出力軸の回転と前記第二出力軸の回転とを一致させる同調駆動状態と、前記第一出力軸の回転と前記第二出力軸の回転とを一致させない非同調駆動状態とに切り替え可能な状態切替機構と、を備え、前記変速制御機構は、当該農作業機の旋回操作時には前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置による変速を禁止
し、前記状態切替機構が前記同調駆動状態であるときのみ前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置による変速を許可する点にある。
【0011】
第一副変速装置及び第二副変速装置を左右独立に配設しながらも、当該農作業機の旋回操作時には、変速制御装置が前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置による変速を禁止に制御するため、当該農作業機に操縦者が意図しない旋回動作が生じる虞はない。
【0012】
第一副変速装置及び第二副変速装置として、油圧モータとして可変容量型の油圧モータを採用する構成や、油圧モータと走行装置との間に多板クラッチによるギヤ比切り替え可能な遊星歯車機構を採用する構成等が好ましい。
【0013】
特に、前記第一出力軸の回転と前記第二出力軸の回転とを一致させる同調駆動状態と、前記第一出力軸の回転と前記第二出力軸の回転とを一致させない非同調駆動状態とに切り替え可能な状態切替機構を備え、前記変速制御機構は、前記状態切替機構が前記同調駆動状態であるときのみ前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置による変速を許可す
ることから以下の作用効果を奏することができる。
【0014】
左右独立式の動力伝達装置は、二つの動力伝達装置の伝達効率の差や左右一対の走行装置にかかる負荷に起因する作動油の漏れ(オイルリーク)等に起因して左右一対の走行装置の回転に差が生じる虞があった。左右一対の走行装置の回転数の差は、当該農作業機の旋回動作として現れる。
【0015】
本発明によると、状態切替機構を第一出力軸の回転と第二出力軸の回転とを一致させる同調駆動状態にすると、左右一対の走行装置の独立駆動が不可能となるため、直進性を確保することができる。また、状態切替機構を第一出力軸の回転と第二出力軸の回転とを一致させない非同調駆動状態にすると、左右一対の走行装置が独立駆動するため、滑らかな旋回動作が可能となる。
【0016】
当該農作業機の直進操作時には、状態切替機構は同調駆動状態となっている。この状態であるときは、変速制御装置が前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置による変速を許可する。仮に第一副変速装置及び第二副変速装置に変速タイミングのずれが生じたとしても、状態切替機構によって第一出力軸の回転と第二出力軸の回転とが一致させられているため、当該農作業機に操縦者が意図しない旋回動作が生じる虞はない。
【0017】
当該農作業機の旋回操作時には、状態切替機構は非同調駆動状態となっている。本発明であれば、この状態であるときは、前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置による変速が禁止されるため、当該農作業機に操縦者が意図しない旋回動作が生じる虞はない。
【0018】
本発明においては、前記変速制御機構は、前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置の変速が完了するまでは前記状態切替機構を前記同調駆動状態に維持すると好適である。
【0019】
前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置による変速の完了は、変速の開始から所定時間の経過や、前記第一副変速装置及び前記第二副変速装置の切替完了を検知する検知機構から送信された変速完了信号等によって検知することが可能である。第一副変速装置及び第二副変速装置に変速タイミングのずれがあったとしても、第一副変速装置及び第二副変速装置の変速が完了するまでは、前記状態切替機構を前記同調駆動状態にするため、当該農作業機に操縦者が意図しない旋回動作が生じる虞はない。
【0020】
本発明においては、前記第一油圧モータ及び前記第二油圧モータは可変容量型の油圧モータで構成され、当該第一油圧モータが前記第一副変速装置を構成し、当該第二油圧モータが前記第二副変速装置を構成すると好適である。
【0021】
第一副変速装置及び第二副変速装置は、第一油圧モータの斜板の角度及び第二油圧モータの斜板の角度を変更する構成であるため、スムーズな変速が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る農作業機の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1には、農作業機の一例である自脱型コンバイン1(以下、コンバイン1という。)が示されている。以下の説明において、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」等の相対的な方向を伴う文言は基本的にコンバイン1の前進方向を基準とする。
【0024】
コンバイン1は、圃場を自走しながら稲や麦の刈取り脱穀をする収穫機であって、機体フレーム9の前部右領域に運転部3を備え、前部左領域に刈取部4を備え、後部左領域に脱穀装置5を備え、後部右領域に穀粒タンク6を備え、下部に左右一対の走行装置の一例である無限軌道式の走行装置2,2を備えている。
【0025】
運転部3には、コンバイン1の進行方向を操作するための操向操作具(操向レバー3aやハンドル,
図3参照)や、コンバイン1の走行方向及び速度を無段階に操作するための変速操作具(主変速レバー3c及び副変速レバー3d,
図3参照)や、操縦者の運転席等が備えられている。運転席に搭乗した操縦者が操向レバー3aや変速操作具を操作することで、コンバイン1は直進(前進、後進)、右旋回、左旋回、停止等の各動作をする。
【0026】
本実施形態では、刈取部4は六条刈りができるように構成されている。従って、コンバイン1は圃場を前進しながら一度に六条の稲や麦を刈取ることができる。往復刈りを行うときは圃場の端で旋回して未刈り地の反対側へ移動して次の六条の稲や麦を刈取ること繰り返す。
【0027】
図2に示すように、コンバイン1の動力源であるエンジン7は、機体フレーム9のうち運転部3(図示せず)の操縦部の支持フレームの下方であって、左右一対の走行装置2,2の車軸より高い位置にあるエンジン支持フレーム9aに支持されている。
【0028】
エンジン7の出力軸7aの駆動力は作業伝動装置(図示せず)が備える伝動ベルト等の伝動機構を介して刈取部4や脱穀装置5等に伝動される。
【0029】
また、エンジン7の出力軸7aの駆動力は、出力軸7aに直結された動力伝達装置10に伝達される。動力伝達装置10は、エンジン7の駆動力を左右一対の走行装置2,2に伝達するための装置であり、左右一対の静油圧式の第一無段変速装置20及び第二無段変速装置30等を備えている。
【0030】
第一無段変速装置20は、第一油圧ポンプ21と、第一油圧モータ22と、第一油圧ポンプ21と第一油圧モータ22とを連結する第一油圧回路とを備えている。
第一油圧回路は、可撓性の油圧ホース23,24により構成されている。作動油は油圧ホース23,24を通って第一油圧ポンプ21と第一油圧モータ22との間を往来する。
【0031】
第二無段変速装置30は、第二油圧ポンプ31と、第二油圧モータ32と、第二油圧ポンプ31と第二油圧モータ32とを連結する第二油圧回路とを備えている。
第二油圧回路は、可撓性の油圧ホース33,34により構成されている。作動油は油圧ホース33,34を通って第二油圧ポンプ31と第二油圧モータ32との間を往来する。
【0032】
第一油圧回路及び第二油圧回路を可撓性の油圧ホース23,24,33,34で構成することで、第一油圧ポンプ21及び第二油圧ポンプ31を、機体フレーム9のうちエンジン7に近い位置にそれぞれ独立して支持し、第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32を、機体フレーム9のうち走行装置2に近い位置にそれぞれ独立して支持することができる。
つまり、第一油圧ポンプ21及び第二油圧ポンプ31、並びに第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32を、機体フレーム9を構成する複数のフレームに分散して配設することができるため、各フレームは独立した強度を有していればよく、全てのポンプ及びモータを単一の屈強なフレームで支持する構成に比べて、安価に構成することができる。
【0033】
第一油圧ポンプ21及び第二油圧ポンプ31は、それぞれエンジン7から入力された駆動力により駆動する可変容量型のポンプである。
【0034】
第一油圧ポンプ21の斜板の角度及び第二油圧ポンプ31の斜板の角度は、運転部3の操向レバー3aや変速操作具(主変速レバー3c)に連係された操向装置及び油圧機構(図示せず)によって、それぞれ独立して斜板の角度が中立停止位置、前進側又は後進側に無段階に変更操作され、一定回転あたりの作動油の吐出量が変化される。
なお、当該斜板の角度が、当該斜板が備えられているポンプ軸心に垂直な面に対して大きく傾くほど作動油の吐出量が多くなり、前記ポンプ軸心に垂直な面に対して小さく傾くほど作動油の吐出量が少なくなる。
つまり、第一油圧ポンプ21は第一主変速装置を構成し、第二油圧ポンプ31は第二主変速装置を構成する。
【0035】
第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32は、それぞれ第一油圧ポンプ21及び第二油圧ポンプ31から供給される作動油により駆動する可変容量型のモータである。
本実施形態では、第一油圧モータ22が、本発明における「第一副変速装置」に相当し、第一油圧ポンプ21と一方の走行装置2との間に配設されている。また、第二油圧モータ32が、本発明における「第二副変速装置」に相当し、第二油圧ポンプ31と他方の走行装置2との間に配設されている。
【0036】
第一油圧モータ22の斜板の角度及び第二油圧モータ32の斜板の角度は、運転部3の操向レバー3aや変速操作具(副変速レバー3d)に連係された操向装置及び図示しない油圧機構により、両者が同角度を維持したまま、最小傾斜状態から最大傾斜状態に無段階に変更操作される。つまり、第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32は、第一油圧ポンプ21及び第二油圧ポンプ31から供給された作動油の一定量あたりの第一出力軸25及び第二出力軸35の回転数を変化させる機構である。
【0037】
第一油圧モータ22の斜板の角度及び第二油圧モータ32の斜板の角度が、当該斜板が備えられているモータ軸心に垂直な面に対して大きく傾くほど第一出力軸25及び第二出力軸35を一定回転させるのに必要な作動油の供給量が多くなるため、第一出力軸25及び第二出力軸35の回転数は小さくなり、第一油圧モータ22の斜板の角度及び第二油圧モータ32の斜板の角度が、前記モータ軸心に垂直な面に対して小さく傾くほど、第一出力軸25及び第二出力軸35を一定回転させるのに必要な作動油の供給量が少なくなるため、第一出力軸25及び第二出力軸35の回転数は大きくなる。
【0038】
上述の構成により、第一無段変速装置20は、エンジン7から入力された駆動力を第一油圧ポンプ21の斜板の角度に応じて無段階に変更し、第一油圧モータ22の斜板の角度に応じて第一出力軸25から出力する。
同様に、第二無段変速装置30は、エンジン7から入力された駆動力を第二油圧ポンプ31の斜板の角度に応じて無段階に変更し、第二油圧モータ32の斜板の角度に応じて第二出力軸35から出力する。
【0039】
第一出力軸25は、第一油圧モータ22のモータケースを貫通してコンバイン1の外側及び内側に向けて突出している。
第一出力軸25のうちコンバイン1の外側に向けて突出した部分25aには、減速伝動機構8aを介して走行装置2の起動輪2aが接続されている。
減速伝動機構8aは所定の変速比を有する複数のギヤが組み合わされた例えば遊星歯車機構で構成されており、第一出力軸25の回転は所定の変速比で減速されて走行装置2の起動輪2aに伝達される。
【0040】
第二出力軸35は、第二油圧モータ32のモータケースを貫通してコンバイン1の外側に向けて及び内側に向けて突出している。
第二出力軸35のうちコンバイン1の外側に向けて突出した部分35aには、減速伝動機構8bを介して走行装置2の起動輪2bが接続されている。
減速伝動機構8bは所定の変速比を有する複数のギヤが組み合わされた例えば遊星歯車機構で構成されており、第二出力軸35の回転は所定の変速比で減速されて走行装置2の起動輪2bに伝達される。
【0041】
第一出力軸25のうちコンバイン1の内側に向けて突出した部分25bと、第二出力軸35のうちコンバイン1の内側に向けて突出した部分35bとの間には状態切替機構50が配設されている。
【0042】
図3に示すように、状態切替機構50は噛合クラッチで構成されている。
噛合クラッチは、ケーシングの内部に、第一入力軸51の端部に軸心方向に相対移動可能かつ周方向に相対回転不可なように備えられた第一噛合部53と、第二入力軸52の端部に備えられると共に第一噛合部53と噛み合い可能な第二噛合部55と、第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合うように第一噛合部53を第二噛合部55の方向へ付勢する弾性力を発生する弾性体としての圧縮コイルばね54と、第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合わないように第一噛合部53を第二噛合部55から離間する方向へ移動させるための操作ロッド57とを備えている。
【0043】
状態切替機構50は、第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合うことで、第一連結機構40を介して第一出力軸25の駆動力が入力される第一入力軸51の回転と、第二連結機構41を介して第二出力軸35の駆動力が入力される第二入力軸52の回転とを一致させる、つまり第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とを一致させる同調駆動状態となる。また、状態切替機構50は、第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合わないことで、第一入力軸51の回転と第二入力軸52の回転とを一致させない、つまり第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とを一致させない非同調駆動状態となる。
【0044】
操作ロッド57は、運転部3の操向レバー3aの操作に連動して作動する油圧機構70により操作される。
【0045】
油圧機構70は、エンジン7の駆動力により駆動する油圧ポンプ71と、複動型の油圧シリンダ72と、油圧シリンダ72の各シリンダ室につながる油路73と、油路73に備えられ油圧ポンプ71から供給される圧油の方向を切り替える方向制御弁74と、方向制御弁74を制御する弁切替機構75と、弁切替機構75を制御する電気制御ユニット76等とを備えて構成されている。電気制御ユニット76は操向装置を構成する。
【0046】
方向制御弁74としては、4ポート単動式の弁機構が用いられている。後述する弁切替機構75の操作レバー78の揺動によって、方向制御弁74のスプールが押し込み操作されると、油圧ポンプ71の圧油が油圧シリンダ72のピストンロッド77の引退側に供給される。操作レバー78によるスプールの押し込みが操作が終了すると、方向制御弁74のスプールがスプリングの弾性力によって自動的に元の位置へ復帰して、油圧ポンプ71の圧油が油圧シリンダ72のピストンロッド77の進出側に供給される。
【0047】
弁切替機構75は、電気制御ユニット76により制御されるアクチュエータ79と、アクチュエータ79の操作ロッド80の進退により直立又は傾倒させられる操作レバー78とを備えて構成されている。
【0048】
アクチュエータ79は電気制御ユニット76と電気的に連結されている。また、アクチュエータ79は操作ロッド80を備えている。電気制御ユニット76から送信される制御信号により、操作ロッド80の進退が制御される。
アクチュエータ79の操作ロッド80が進出すると、操作ロッド80の先端部が操作レバー78を傾倒させ、スプールが押し込まれる。
アクチュエータ79の操作ロッド80が引退すると、スプールはスプリングの弾性力で元の位置へ復帰する。このとき操作レバー78は直立に復帰する。
このように、電気制御ユニット76がアクチュエータ79を制御することで、方向制御弁74が制御され、油圧シリンダ72のピストンロッド77が進退制御される。
【0049】
油圧シリンダ72のピストンロッド77は操作ロッド57に当接可能に配設してある。
油圧シリンダ72のピストンロッド77が進出したときには、操作ロッド57を押圧し、操作ロッド57が傾倒することにより第一噛合部53が第二噛合部55から離間する。逆に、油圧シリンダ72のピストンロッド77が引退したときには、操作ロッド57から離間して、圧縮コイルばね54の弾性力により第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合う。このとき操作ロッド57は直立する。
【0050】
図3に示すように、運転部3の操向レバー3aには、ポテンショメータ81が連結されている。
ポテンショメータ81は電気制御ユニット76と電気的に接続されている。
操向レバー3aを左又は右に旋回操作すると、ポテンショメータ81は電気信号を電気制御ユニット76に送信する。
電気制御ユニット76は、ポテンショメータ81から送信された電気信号を受信すると、操向レバー3aの旋回操作の変位レベルが所定の閾値Th以上であるか否かを識別する。
【0051】
電気制御ユニット76は、変位レベルが所定の閾値Th未満であると識別した場合には、操向レバー3aは旋回操作されていないと判断する。
【0052】
このとき、アクチュエータ79の操作ロッド80は進出側に制御され、方向制御弁74は油圧ポンプ71の圧油を油圧シリンダ72のピストンロッド77の引退側のシリンダ室に供給させる。
これにより操作ロッド57は直立状態となり、圧縮コイルばね54の弾性力により第一噛合部53と第二噛合部55とが噛み合い、状態切替機構50は同調駆動状態となる。
【0053】
電気制御ユニット76は、変位レベルが所定の閾値Th以上であると識別した場合には、操向レバー3aが旋回操作されたと判断する。
このとき、アクチュエータ79の操作ロッド80は引退側に制御され、方向制御弁74は油圧ポンプ71の圧油を、油圧シリンダ72のピストンロッド77の進出側のシリンダ室に供給させる。
これにより操作ロッド57は傾倒状態となり、第一噛合部53が第二噛合部55から離間する方向へ移動させられ、状態切替機構50は非同調駆動状態となる。
【0054】
上述のように、状態切替機構50は、運転部3の操向レバー3aの操作に連動し、自動で同調駆動状態と非同調駆動状態とがスムーズに切り替えられるため、操縦者が切り替える手間を省略することができる。
【0055】
運転部3に備えられた変速操作具(主変速レバー3c及び副変速レバー3d)には、ポテンショメータ86,87が連結されている。
ポテンショメータ86,87は電気制御ユニット76と電気的に接続されている。
変速操作具(主変速レバー3c及び副変速レバー3d)を操作すると、ポテンショメータ86,87は電気信号を電気制御ユニット76に送信する。
電気制御ユニット76は、ポテンショメータ86,87から送信された電気信号を受信すると、図示しない油圧機構を制御して第一油圧ポンプ21の斜板の角度及び第二油圧ポンプ31の斜板の角度、並びに第一油圧モータ22の斜板の角度及び第二油圧モータ32の斜板の角度を変更する。
【0056】
運転部3に備えられた主変速レバー3cを増速側に切り替えると、第一油圧ポンプ21の斜板及び第二油圧ポンプ31の斜板の角度は前記ポンプ軸心に垂直な面に対して大きく傾く方に変更される。
運転部3に備えられた主変速レバー3cを減速側に切り替えると、第一油圧ポンプ21の斜板及び第二油圧ポンプ31の斜板の角度は前記ポンプ軸心に垂直な面に対して小さく傾く方に変更される。
【0057】
運転部3に備えられた副変速レバー3dを増速側に切り替えると、第一油圧モータ22の斜板及び第二油圧モータ32の斜板の角度は前記モータ軸心に垂直な面に対して小さく変更される。
運転部3に備えられた副変速レバー3dを減速側に切り替えると、第一油圧モータ22の斜板及び第二油圧モータ32の斜板の角度は前記モータ軸心に垂直な面に対して大きく変更される。
本実施形態では、電気制御ユニット76が本発明における「変速制御機構」に相当し、第一副変速装置である第一油圧モータ22及び第二副変速装置である第二油圧モータ32による変速を禁止又は許可する。
【0058】
電気制御ユニット76には、操向レバー3aの操作情報、主変速レバー3c及び副変速レバー3dの操作情報、エンジン7の出力情報、第一無段変速装置20及び第二無段変速装置30の出力情報及び状態切替機構50の状態情報等が入力される。
【0059】
電気制御ユニット76は、ポテンショメータ81から送信された電気信号に基づき、操向レバー3aが左又は右に旋回操作されていると判断すると、つまり状態切替機構50が非同調駆動状態であるときは、副変速レバー3dが切り替え操作されたとしても操作の受付処理をせず、図示しない油圧機構による第一油圧モータ22の斜板の角度及び第二油圧モータ32の斜板の角度の変更を行わない。
つまり、電気制御ユニット76は、コンバイン1の旋回操作時には第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32による変速を禁止する。
【0060】
電気制御ユニット76は、ポテンショメータ81から送信された電気信号に基づき、操向レバー3aが直進操作されていると判断した場合のみ、つまり状態切替機構50が同調駆動状態であるときのみ、副変速レバー3dの切り替え操作を受け付け、図示しない油圧機構による第一油圧モータ22の斜板の角度及び第二油圧モータ32の斜板の角度の変更を行なう。
つまり、電気制御ユニット76は、コンバイン1の直進操作時には第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32による変速を許可する。
仮に第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32に変速タイミングのずれが生じたとしても、状態切替機構50によって第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とが一致させられるため、当該コンバイン1に操縦者が意図しない旋回動作が生じる虞はない。
【0061】
また、電気制御ユニット76は計時手段を有し、副変速レバー3dの切り替え操作を受け付けてから所定時間が経過するまでは、状態切替機構50を同調駆動状態に維持するように構成されている。なお所定時間は、第一油圧モータ22の斜板の角度及び第二油圧モータ32の斜板の角度が変更を完了するまでに十分な時間が設定される。
この構成により、第一油圧モータ22の斜板の角度及び第二油圧モータ32の斜板の角度が変更途中であるにもかかわらずコンバイン1を旋回操作し、状態切替機構50が非同調駆動状態となったことにより生じる、操縦者が意図しないコンバイン1の旋回動作が回避される。
【0062】
なお、第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32による変速の完了は、変速の開始から所定時間の経過を待つ構成に限られない。例えば、第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32に、斜板の角度を検知する検知機構を備え、当該検知機構が変速完了信号を電気制御ユニット76に送信するように構成し、さらに電気制御ユニット76は当該信号を受信するまでは旋回操作を実行しない構成であってもよい。
【0063】
図2に示すように、第一連結機構40は、第一出力軸25と第一伝達軸43aとを軸心方向に相対移動可能かつ周方向に相対回転不可なように連結する第一連結部42と、第一伝達軸43aに備えられ第一伝達軸43aと共に回転する第一傘歯車43bと、第一傘歯車43bと噛み合って第二伝達軸44aに駆動力を伝達する第二傘歯車44bと、第二伝達軸44aと第三伝達軸46aとを軸心方向に相対移動可能かつ周方向に相対回転不可なように連結する第二連結部45と、第三伝達軸46aに備えられ第三伝達軸46aと共に回転する第三傘歯車46bと、第三傘歯車46bと噛み合って第四伝達軸47aに駆動力を伝達する第四傘歯車47bと、第四伝達軸47aと第一入力軸51とを軸心方向に相対移動可能かつ周方向に相対回転不可なように連結する第三連結部48とを備えている。
第一連結機構40が備える第一連結部42と第二連結部45と第三連結部48とにより、第一油圧モータ22と状態切替機構50との相対的な移動が許容される。
【0064】
また、第一傘歯車43bと第二傘歯車44bと第三伝達軸46aと第四傘歯車47bとはそれぞれの歯数が第一出力軸25の回転を増速して第一入力軸51に伝達可能に設定されている。第一連結機構40は、第一増速機構として構成され、第一連結機構40により第一出力軸25の回転数は増加され、すなわちトルクは減少されて第一入力軸51に伝達される。
【0065】
なお、第二連結機構41も第一連結機構40と同様に構成されており、第二油圧モータ32と状態切替機構50との相対的な移動が許容される。また、第二連結機構41は、第二増速機構として構成され、第一連結機構40と同様に第二出力軸35の回転を増速して第二入力軸52に伝達する。第二連結機構41を構成する各部について、第一連結機構40を構成する各部と対応するものに同じ符号を付して説明を省略する。
【0066】
第一入力軸51及び第二入力軸52のトルクは、第一増速機構である第一連結機構40の増速作用と、第二増速機構である第二連結機構41の増速作用により、第一出力軸25及び第二出力軸35のトルクより低トルクとなる。
【0067】
例えば、第一出力軸25に第一噛合部53を直接的に備え、第二出力軸35に第二噛合部55を直接的に備え、第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転とを、第一噛合部53と第二噛合部55とで直接同調させる場合は、第一噛合部53及び第二噛合部55は高トルクに耐え得る高価な材料で構成する必要がある。これに対して、第一出力軸25及び第二出力軸35のトルクより低トルクの第一入力軸51と第二入力軸52の回転とを同調させる構成としたことで、第一噛合部53及び第二噛合部55は安価な材料で構成することができる。
【0068】
なお、第一出力軸25及び第二出力軸35の回転数差は、第一無段変速装置20と第二無段変速装置30の伝達効率の差や、左右一対の走行装置2,2にかかる負荷に応じた作動油の漏れ(オイルリーク)等に起因する。
上述したように、第一無段変速装置20及び第二無段変速装置30や、左右一対の走行装置2,2を同一の構成とすることで、第一出力軸25及び第二出力軸35の回転数差を極力小さくすることができる。
【0069】
また、
図2に示すように、状態切替機構50は、第一油圧モータ22及び第二油圧モータ32が支持されている位置よりも高い位置であって、機体フレーム9のうち状態切替機構50が支持されている箇所と、機体フレーム9のうち第一油圧モータ22と第二油圧モータ32が支持されている箇所とは剛連結されていない箇所に支持されている。
【0070】
従来のような左右分配式の動力伝達装置を採用するコンバインは、当該動力伝達装置が機体下部中央に張り出し、機体の最低地上高を高くすることが困難であるのに対して、当該コンバイン1は動力伝達装置10を構成する第一油圧ポンプ21と第二油圧ポンプ31と状態切替機構50とを、機体フレーム9のうち比較的高い位置に配設することができるため、その分機体下部中央の最低地上高を高くすることができる。
【0071】
上述した実施形態は、いずれも本発明の一例であり上記の記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能である。
【0072】
例えば、状態切替機構50は、
図4に示すような多板クラッチで構成してもよい。
多板クラッチは、ケーシングの内部に、第一入力軸51の端部に、軸心方向に相対移動可能かつ周方向に相対回転不可なように備えられた円筒部の内周に、軸心方向に摺動可能に配設された摩擦プレート58と、第二入力軸52の周囲に軸心方向に摺動可能に配設された摩擦プレート59とが備えられると共に、摩擦プレート58と摩擦プレート59とを圧接する方向にピストンを62進出させる油圧シリンダ60と、油圧シリンダ60のピストン62による圧接を解除する方向へ弾性力を発生する弾性体としての圧縮コイルばね56とを備えている。
【0073】
摩擦プレート58と摩擦プレート59の接続状態と非接続状態は、油圧シリンダ60のピストン62の押圧力の大きさと、圧縮コイルばね56の弾性力の大きさとの関係により決定される。ピストン62の押圧力を弾性力より大きくすれば、摩擦プレート58と摩擦プレート59とは圧接される。ピストン62の押圧力を徐々に弱めることで摩擦プレート58と摩擦プレート59とに徐々にすべり始め、やがてすべりが大きくなり、最終的に摩擦プレート58と摩擦プレート59は接続状態から非接続状態へと移行する。
【0074】
非接続状態であるときに、ピストン62の押圧力を徐々に強めると、摩擦プレート58と摩擦プレート59は非接続状態から接続状態へと移行し、徐々にすべりが小さくなり、最終的に摩擦プレート58と摩擦プレート59はすべらないように圧接される。
このように、摩擦プレート58と摩擦プレート59のすべりを利用することで、同調駆動状態と非同調駆動状態との移行を徐々に行うことができる。
【0075】
多板クラッチは、同調駆動状態の維持時、すなわち直進時に摩擦プレート58と摩擦プレート59にすべりが生じないようにするために強い圧接力を必要とする。この強い圧接力を圧縮コイルばねの弾性力により得る構成とした場合、同調駆動状態から非同調駆動状態への移行時及び非同調駆動状態の維持時、すなわち旋回時に、その圧縮コイルばねの強い弾性力に打ち勝つように、強い押圧力を発生可能な油圧機構が必要となってしまう。
【0076】
多板クラッチを、同調駆動状態の維持時、すなわち直進時に、ピストン62の押圧力を利用し、同調駆動状態から非同調駆動状態への移行時及び非同調駆動状態の維持時、すなわち旋回時に、圧縮コイルばね56の弾性力を利用する構成としたことにより、圧縮コイルばね56は、押圧力が下がっている状態のときに機能する程度の弱い弾性力のものでよく、そして、油圧シリンダ60もその弱い弾性力に打ち勝つ程度の押圧力を発揮できるものでよい。なお、油圧シリンダ60は、運転部3の操向レバー3aの操作に連動して作動する油圧機構により操作される。
【0077】
また、状態切替機構50は、
図5に示すように、噛合クラッチと多板クラッチを第一出力軸25と第二出力軸35の間に並列的に備えた構成であってもよい。
【0078】
噛合クラッチは、基本的には
図3に示した噛合クラッチと同様の構成であり、多板クラッチは、基本的には
図4に示した多板クラッチと同様の構成である。
なお本実施形態では、噛合クラッチの第一噛合部53と、多板クラッチの摩擦プレート58とが一体的に回転するように接続され、噛合クラッチの第二噛合部55と、多板クラッチの第二入力軸52とが一体的に回転するように接続されている。
【0079】
このような構成によると、噛合クラッチにより第一出力軸25の回転と第二出力軸35の回転の確実な一致が実現でき、多板クラッチにより摩擦プレート58と摩擦プレート59のすべりを利用することで、同調駆動状態と非同調駆動状態との移行を徐々に行うことができる。
【0080】
さらに、状態切替機構50は、
図3に示すような噛合クラッチと、
図4に示す多板クラッチとを、第一出力軸25と第二出力軸35の間に直列的に備えた構成であってもよい。
この構成によると、噛合クラッチによる切り替えか、多板クラッチによる切り替えかを選択することができる。
【0081】
さらに、状態切替機構50は、流体クラッチ、遠心クラッチ、電磁クラッチ等の公知のクラッチや自動車等に用いられる差動装置を応用してもよい。
【0082】
また、第一連結機構40による第一出力軸25から第一入力軸51への駆動力の伝達は、第一傘歯車43b等の歯車の噛み合いによる構成に限らず、例えば、第一伝達軸43aに設けたスプロケットと第四伝達軸47aに設けたスプロケットとに配設した動力伝達ベルトや動力伝達チェーンにより第一出力軸25から第一入力軸51へ駆動力を伝達するように構成してもよい。第二連結機構41も同様である。
【0083】
また、第一無段変速装置20は、第一油圧ポンプ21と第一油圧モータ22とが同一のケーシング内に一体的に備えられ、第一油圧回路として同ケーシングに配設された油路により第一油圧ポンプ21と第一油圧モータ22が接続される構成であってもよい。第二無段変速装置30も同様である。
【0084】
上述した実施形態では、第一副変速機構が第一油圧モータ22で構成され、第二副変速機構が第二油圧モータ32で構成される例について説明した。しかし、このような実施形態に限定されない。第一副変速機構及び第二副変速機構は、減速伝動機構8a,8bを構成する遊星歯車機構に内蔵され、各歯車の噛み合わせのパターンを切り替える切替クラッチにより構成されていてもよい。この場合は、第一副変速機構及び第二副変速機構は多段式の変速機構となる。
【0085】
さらに、上述の実施形態では、状態切替機構50が運転部3の操向レバー3aの操作に連動して作動する油圧機構70により操作される構成について説明したがこれに限らない。運転部3に状態切替機構50を同調駆動状態又は非同調駆動状態に手動で切り替えるための機構を備えてあってもよい。