特許第6494518号(P6494518)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6494518-保液シート及びフェイスマスク 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494518
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】保液シート及びフェイスマスク
(51)【国際特許分類】
   A45D 44/22 20060101AFI20190325BHJP
   D04H 1/492 20120101ALI20190325BHJP
   D04H 1/4309 20120101ALI20190325BHJP
   D04H 1/435 20120101ALI20190325BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20190325BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20190325BHJP
   D01F 8/10 20060101ALI20190325BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20190325BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   A45D44/22 D
   D04H1/492
   D04H1/4309
   D04H1/435
   D04H1/425
   D01F8/14 D
   D01F8/10 C
   A61Q19/00
   A61K8/02
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-539299(P2015-539299)
(86)(22)【出願日】2014年9月25日
(86)【国際出願番号】JP2014075376
(87)【国際公開番号】WO2015046301
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2017年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-200885(P2013-200885)
(32)【優先日】2013年9月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307046545
【氏名又は名称】クラレクラフレックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】中山 和之
(72)【発明者】
【氏名】落合 徹
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 宗訓
(72)【発明者】
【氏名】清岡 純人
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/008916(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第3101446(JP,U)
【文献】 特開2013−227708(JP,A)
【文献】 特開平05−321108(JP,A)
【文献】 特開2008−261067(JP,A)
【文献】 特開2012−214922(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/001834(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
A45D 44/22
A61K 8/02
A61Q 19/00−19/10
D01F 8/10、8/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初期引張抵抗度30cN/tex以上の芯鞘型複合繊維を50質量%以上含む不織布で形成された保液シートであって、美容液を自重に対して900質量%含浸させて260g/cmの荷重を1分間負荷して取り除いたとき、厚み方向の圧縮に対する復位が5分間で60%以上である保液シート。
【請求項2】
芯鞘型複合繊維の鞘部がエチレン−ビニルアルコール系共重合体で形成され、かつ芯部が疎水性樹脂で形成されている請求項1記載の保液シート。
【請求項3】
疎水性樹脂がポリエステル系樹脂である請求項2記載の保液シート。
【請求項4】
芯鞘型複合繊維の平均繊度が1.5〜10dtexである請求項1〜3のいずれかに記載の保液シート。
【請求項5】
芯鞘型複合繊維が、80℃以上の温度で2.0倍以上に延伸して得られた繊維である請求項1〜4のいずれかに記載の保液シート。
【請求項6】
さらに平均繊度0.3〜5dtexのセルロース系繊維を含み、芯鞘型複合繊維とセルロース系繊維との質量割合が、芯鞘型複合繊維/セルロース系繊維=60/40〜80/20である請求項1〜5のいずれかに記載の保液シート。
【請求項7】
スキンケアシートである請求項1〜6のいずれかに記載の保液シート。
【請求項8】
フェイスマスクである請求項1〜7のいずれかに記載の保液シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状成分(液状化合物)を吸収可能な保液シート、特に、美容成分や薬効成分などを含む液状成分を含浸させ、皮膚に貼付して使用するフェイスマスク用保液シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体の肌(皮膚)などに貼付するシートとして、化粧料などの液体を含浸したスキンケアシート(液体含浸生体被膜シート)が使用されている。フェイスマスクに代表されるスキンケアシートは、皮膚を簡便に高い湿潤状態に維持できることから、近年、多種多様な商品が開発されている。なかでも、フェイスマスクは、マスクを構成するシートに含浸された美容液(化粧料)を肌に伝達させる機能を有しているが、美容液の伝達には、シート自身を肌に密着させる必要がある。そのため、フェイスマスクでは、シートを肌に上手く接触させるために、シート自身又は形状に様々な工夫が施されている。
【0003】
特開2008−261067号公報(特許文献1)には、肌触りが良く、水の保液性及び放出性、形態安定性に優れる含水シートとして、30〜60mmの繊維長を有する溶剤紡糸セルロース系繊維と芯鞘型複合繊維とが、互いに交絡してなる不織布シートであって、前記芯鞘型複合繊維は鞘部と芯部とからなり、前記鞘部がエチレン−ビニルアルコール系共重合体であるとともに、前記芯部が疎水性樹脂からなりその径が5〜15μmである不織布シートが開示されている。この文献には、芯鞘型複合繊維の製造方法に関し、熱延伸することが記載されているが、具体的な条件は記載されていない。
【0004】
しかし、この不織布シートでは、柔軟性や保液性は優れるものの、シートのコシ(剛性)が小さく、フェイスマスクを顔に密着させるために、指で押すと、厚みの回復及び美容液(化粧料)の戻りが遅い。そのため、美容液を効率的に顔全体に行き渡らせるのが困難である。特に、フェイスマスクでは、美容液を補給したい箇所や密着が困難な箇所を指で押さえて密着させる必要がある。そのため、従来のフェイスマスクでは、目的の部位において、フェイスマスクは密着するものの、美容液の補給が不十分な状態となっていた。
【0005】
なお、フェイスマスクの肌(顔面)に対する沿い性を向上するために(肌に密着して沿わせるため)、肌の接触側に極細繊維で形成された層を配設したフェイスマスクや、立体的な構造を有するフェイスマスクなども開発されている。しかし、これらのフェイスマスクでも肌に対する沿い性は充分でなく、一度、貼り付けたフェイスマスクを指で押さえて接着させる行為を繰り返しているのが現状である。そのため、肌に押さえつける行為を繰り返すことにより、その都度、押さえた部分に蓄えられていた美容液が押し出されてしまい(押さえた部分の周囲に滲出し)、美容液の不十分な状態が助長される結果となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−261067号公報(請求項1、段落[0033])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、美容液(化粧料)などの液状成分を含浸した状態で、指で押しても、液状成分の戻りが速い保液シート及びフェイスマスクを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、液状成分を含浸した状態で、指で押しても厚みの回復が速い保液シート及びフェイスマスクを提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、所望の部位に効率的に美容液を補給できる保液シート及びフェイスマスクを提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、柔軟性、保液性、液放出性及び形態安定性に優れた保液シート及びフェイスマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討の結果、特定の高弾性繊維を主繊維として用いて、液状成分を吸収可能な不織布を形成し、保液シートの厚み方向の圧縮に対する復位を制御することにより、美容液などの液状成分を含浸した状態で、指で押しても、液状成分の戻りを早くできることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の保液シートは、ヤング率30cN/T以上の高弾性繊維を50質量%以上含む不織布で形成されている。前記高弾性繊維は芯鞘型複合繊維であってもよい。前記芯鞘型複合繊維の鞘部はエチレン−ビニルアルコール系共重合体で形成され、かつ芯部が疎水性樹脂で形成されていてもよい。前記疎水性樹脂はポリエステル系樹脂であってもよい。前記高弾性繊維の平均繊度は1.5〜10dtex程度であってもよい。前記高弾性繊維は、80℃以上の温度で2.4倍以上に延伸して得られた繊維であってもよい。前記不織布は、さらに平均繊度0.3〜5dtexのセルロース系繊維を含んでいてもよい。前記高弾性繊維と前記セルロース系繊維との質量割合は、高弾性繊維/セルロース系繊維=60/40〜80/20程度である。本発明の保液シートは、化粧料を含む液状成分を含浸させたスキンケアシート(特にフェイスマスク)であってもよい。本発明の保液シートは、美容液を自重に対して900質量%含浸させて260g/cmの荷重を1分間負荷して取り除いたとき、厚み方向の圧縮に対する復位が5分間で60%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、特定の高弾性繊維を主繊維として用いて、液状成分を吸収可能な不織布を形成し、保液シートの厚み方向の圧縮に対する復位が制御されているため、美容液などの液状成分を含浸した状態で、指で押しても、液状成分の戻りが速い。また、液状成分を含浸した状態で、指で押しても、厚みの回復(美容液含浸時の厚み方向に対する圧縮弾性)も速い。そのため、例えば、フェイスマスクとして利用したとき、顔の所望の部位に効率的に美容液を補給(付与)できる。さらに、エチレン−ビニルアルコール系共重合体で形成された鞘部を有する芯鞘型複合繊維を用いることにより、柔軟性、保液性、液放出性及び形態安定性を向上できる。
【0014】
なお、本明細書では、美容液含浸時の厚み方向に対する圧縮弾性(含浸時圧縮弾性)とは、美容液を含浸させたシートに、所定の時間及び荷重でシートを圧縮した後(潰した後)、荷重を取り除き、押し潰されたシートの厚みがどれだけ元に戻るか(圧縮されたシート厚みの戻り具合)を示す特性(%)である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例における美容液含浸時の厚み方向に対する圧縮弾性の測定方法を説明するための概略図である。
図2図2は、実施例における原反への液戻りの測定方法を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[不織布]
本発明の保液シートは、液状成分(特に水性液状成分)を吸収可能な不織布で形成されている。不織布は、美容成分又は薬効(効能)成分(例えば、保湿成分、クレンジング成分、制汗成分、香り成分、美白成分、血行促進成分、冷却成分、紫外線吸収成分、皮膚かゆみ抑制成分など)を含む液状成分(液状化合物)を含浸するのに必要な濡れ性と保液するための空隙とを有し、使用時の取り扱いにおいても液だれすることなく、体の所定の部位(例えば顔)を覆うまで保持し、貼付又は静置すると共に液体化粧料を少しずつ肌側に移行させる役割を有している。本発明の保液シート(不織布)は、保液性に優れるとともに、適度なコシ又は弾性を有しており、液状成分を含浸したとき、圧縮に対する復位及び液の戻りが速く、特に、不織布を特定の高弾性繊維で形成すると、液の戻り性に優れるとともに、厚みも速やかに回復するため、圧縮していない箇所と同様の保液状態に短時間で回復できる。
【0017】
復位に関して、具体的には、美容液を自重に対して900質量%含浸させて260g/cmの荷重を1分間負荷して取り除いたとき、厚み方向の圧縮に対する復位が5分間で60%以上(60〜100%)であり、好ましくは65〜99%、さらに好ましくは70〜98%程度である。復位が60%未満であると、美容液などの液状成分が押圧部に充分に戻ることができない。なお、圧縮に対する復位は、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0018】
液の戻りに関して、具体的には、美容液を自重に対して900質量%含浸させて直径1.2cmの円形状部分に荷重620gを1分間負荷して取り除いたとき、5分後の美容液の液戻りが55%以上(55〜100%)であってもよく、好ましくは60〜99%、より好ましくは65〜98%、さらに好ましくは70〜97%程度である。液戻りが低すぎると、押圧後における液状成分が不足し、フェイスマスクでは、美容液を肌に充分に浸透させることができない。なお、美容液の液戻りは、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0019】
不織布(保液シート)は、湿潤時の柔軟性にも優れ、顔面などの皮膚に追随できるように、適度に繊維が絡合しており、JIS L1913に準拠した湿潤時の30%伸長時応力が、少なくとも一方向において、例えば、0.5〜10N/5cm、好ましくは1〜8N/5cm、さらに好ましくは1.5〜5N/5cm程度である。伸長時応力が小さすぎると、顔面などの皮膚に装着時に伸び過ぎて扱い難く、大きすぎると、皮膚に対する密着性が低下する。なお、湿潤状態における30%伸長時応力は、詳細には、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0020】
不織布(保液シート)は、保液率にも優れ、JIS L1907 7.2に準拠した保水率が800%以上であってもよく、例えば、900〜3000%、好ましくは950〜2000%、さらに好ましくは1000〜1500%程度である。保水率が低すぎると、充分な量の化粧料(美容液)を肌に供給するのが困難となる。
【0021】
不織布の目付は、例えば、30〜100g/m、好ましくは35〜80g/m、さらに好ましくは40〜70g/m(特に50〜65g/m)程度である。目付が小さすぎると、繊維によって形成される保液のための空隙の確保が困難となる。一方、大きすぎると、厚みが大きくなるため、肌への沿い性が低下する。また、保液量が多くなり、効能成分の多くが皮膚まで到達せずに保液層に滞留されたままとなり、効能成分が無駄に消費され易い。
【0022】
不織布の厚みは、100〜3000μm程度の範囲から選択でき、例えば、200〜2000μm、好ましくは300〜1500μm、さらに好ましくは400〜1200μm(特に500〜1000μm)程度である。
【0023】
(高弾性繊維)
不織布は、適度なコシ又は弾性を有するために、主繊維として、ヤング率(初期引張抵抗度)30cN/T(tex)以上(例えば、40〜500cN/T程度)の高弾性繊維を含む。高弾性繊維は、ヤング率は30〜100cN/T(例えば、30〜90cN/T)程度であってもよく、好ましくは30〜80cN/T(例えば、35〜70cN/T)、さらに好ましくは40〜60cN/T(特に45〜55cN/T)程度である。ヤング率が低すぎると、不織布のコシ及び弾性を向上できない。
【0024】
高弾性繊維の構造は、前記ヤング率を有していれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維やポリフェニレンサルファイドのポリフェニレンサルファイド系繊維(単相の繊維)であってもよいが、弾性と保液性及び液放出性とを両立し易い点から、芯鞘型複合繊維が好ましい。
【0025】
芯鞘型複合繊維において、鞘部は、濡れ性や保液性を確保するために、親水性樹脂で構成されているのが好ましい。親水性樹脂で構成された鞘部は、保液シートに化粧料(美容液)などの液体を付加した際に液体を不織布内部まで取り込むために重要な役割を担うと共に、一度不織布内に取り込んだ多量の化粧料液体を使用時に取り扱う際に液だれしないよう保持する役割を担う。
【0026】
親水性樹脂としては、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基などの親水性基(特に水酸基)を分子中に有する樹脂が挙げられるが、モノマー単位に水酸基を有する親水性樹脂が好ましく、特に、分子内に均一に水酸基を有する点から、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が特に好ましい。エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、親水性、非吸水性、熱伝導性に基づく生体適合性を有している。さらに、エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、親水性だけでなく、適度な親油性も有しており、美容液の保液だけでなく、汗や汚れも含め、脂性と水性とが混在した肌への密着性や肌触りを向上できる。
【0027】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体において、エチレン単位の含有量(共重合割合)は25〜70モル%程度の範囲から選択でき、親水性及び溶融紡糸性の点から、30〜65モル%程度であってもよく、滞留樹脂の劣化による溶融紡糸上のトラブルを抑制しながら親水性を維持できる点から、例えば、35〜60モル%、好ましくは37〜55モル%、さらに好ましくは40〜50モル%程度であってもよい。エチレン単位の割合が多すぎると、親水性が低下し、少なすぎると、溶融紡糸性が低下するとともに、ウェット状態での形態安定性が低下する。
【0028】
ビニルアルコール単位のケン化度は80モル%以上であってもよく、親水性及び溶融紡糸性の点から、90モル%以上(例えば、90〜99.99モル%)、好ましくは95モル%以上(例えば、95〜99.98モル%)、さらに好ましくは96〜99.97モル%程度である。ケン化度が小さすぎると、親水性、耐熱性が低下する。
【0029】
なお、エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、熱水に対する安定性を向上させるために、通常、繊維化後にアセタール化などの架橋処理を施して耐熱水性を向上させるが、本発明では、皮膚への適合性が要求されるため、前記架橋処理をしないのが好ましい。
【0030】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体は、他の共重合単位を含んでいてもよい。共重合単位を構成するための重合成分としては、他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)、ビニルシラン化合物(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシランなど)などが挙げられる。これらの重合成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニルシラン化合物が好ましい。ビニルシラン化合物の割合は、重合成分全体に対して、例えば、0.0001〜0.3モル%(特に0.0002〜0.2モル%)程度である。
【0031】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度は、例えば、200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500程度である。
【0032】
鞘部をエチレン−ビニルアルコール系共重合体で形成すると、肌への密着性や肌触りに優れ、化粧料の吸液性及び保持性を向上できるが、吸水により剛性が低下するため、不織布の剛性を維持し、加工工程においても所望の嵩高さ(空隙率)を維持するとともに吸水性を確保するために、芯部は、吸水により剛性の低下しない疎水性樹脂で形成するのが好ましい。
【0033】
疎水性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂などの樹脂成分で形成された繊維などが挙げられる。これらの疎水性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0034】
これらの疎水性樹脂のうち、標準状態(20℃、65%RH)における公定水分率が2.0%未満の樹脂、例えば、一般的に不織布に使用されるポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド4,6などのポリアミド系樹脂、ポリエステルポリオール型ウレタン系樹脂などのポリウレタン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂などで形成された繊維などが汎用され、エチレン−ビニルアルコール系共重合体よりも弾性率が高く、エチレン−ビニルアルコール系共重合体との紡糸性に優れる点から、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂が好ましく、弾性率及び高温での形態安定性が高く、不織布の収縮が抑制でき、作業性にも優れる点から、ポリエステル系樹脂が特に好ましい。
【0035】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリアルキレンアリレート系樹脂や、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂などが挙げられる。これらのポリエステル系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリエステル系樹脂のうち、エチレンテレフタレートやブチレンテレフタレートなどのC2−4アルキレンアリレート単位を80モル%以上含むポリC2−4アルキレンアリレート系樹脂が好ましい。
【0036】
芯鞘型複合繊維において、鞘部が繊維表面積の50%以上(特に90〜100%)の面積を長さ方向に連続して占めるのが好ましく、通常、略全表面積を鞘部が占めている。
【0037】
芯部と鞘部との割合(質量比)は、例えば、鞘部/芯部=90/10〜10/90(例えば、60/40〜10/90)、好ましくは80/20〜15/85、さらに好ましくは60/40〜20/80程度である。鞘部の割合が多すぎると、芯部が繊維の形態を保持できなくなり、繊維自体の強度を確保するのが困難となる。また、芯部の径によっては、繊維のコシが低下し、不織布の密度が上昇して保液性が低下する。鞘部の割合が少なすぎると、親水性が低下する。また、芯部の径によっては、コシが強くなりすぎ、柔軟性や肌への沿い性が低下する。
【0038】
高弾性繊維は、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、着色剤、分散剤、微粒子、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。特に、鞘部のエチレン−ビニルアルコール系共重合体には、溶融成形時の熱劣化を抑制するために、微量の酸(酢酸などの脂肪酸など)や金属塩(リン酸や酢酸などのアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩など)を添加してもよい。これらの添加剤は、繊維表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0039】
高弾性繊維の横断面形状(長さ方向に垂直な断面形状)は、特に制限されず、例えば、丸形断面、異形断面(扁平状、楕円状断面など)、多角形断面、多葉形断面(3〜14葉状断面)、中空断面、V字形断面、T字形断面、H字形断面、Y字形断面、I字形(ドッグボーン形)断面、アレイ形断面などの各種断面形状であってもよい。これらのうち、多角形断面やY字形断面などの鋭角部(突起部)や溝部を有する形状よりも、肌触りに優れる点から、鋭角部(突起部)や溝部を有さない形状、特に、丸型断面(真円状断面などの略円状断面)、楕円状断面が好ましく、略円状断面が特に好ましい。
【0040】
高弾性繊維の平均繊度は、例えば、1.5〜10dtex、好ましくは1.7〜5dtex、さらに好ましくは1.8〜4.5dtex(特に1.9〜4dtex)程度である。さらに、保水率が高く、液状成分の戻りなどの特性にも優れる点から、平均繊度は、例えば、1.5〜5dtex、好ましくは1.6〜3dtex、さらに好ましくは1.7〜2dtex程度であってもよい。高弾性繊維が太すぎると、肌触りが低下したり、吸液性や保液性が低下し易い。一方、細すぎると、弾性が低下するため、不織布を指で押したとき、厚みの回復や液状成分の戻りが遅くなる。また、不織布の密度が高くなり、繊維間空隙が減少するため、保液性も低下する。
【0041】
高弾性繊維の繊維長(平均繊維長)は、特に制限はないが、例えば、20〜70mm、好ましくは30〜60mm、さらに好ましくは45〜60mm(特に45〜55mm)程度である。繊維長が長すぎると、繊維同士の均一な交絡が困難となり、肌触りが低下するとともに、吸液性及び液放出性が低下する。一方、繊維長が短すぎると、不織布から繊維が抜け易く、柔軟性や伸縮性も低下する。
【0042】
高弾性繊維の製造方法は、特に限定されず、慣用の方法を利用できる。高弾性繊維は、例えば、溶融混練押出を経た紡糸方法により製造できるが、繊維に高い弾性率を付与するためには、紡糸後に延伸処理するのが好ましい。本発明では、紡糸後に所定の加熱温度で延伸処理することにより、高弾性繊維を形成する樹脂成分(例えば、芯部を形成するポリエステル系樹脂など)の結晶性などを向上できるためか、繊維の剛性やコシを向上でき、不織布に対してフェイスマスクに必要な弾性を付与できる。
【0043】
延伸方法としては、慣用の方法を利用でき、例えば、紡糸時にノズルから吐出された繊維をゴデットローラーで引き取る際に、熱ゴデットロール間で延伸する1ステップ法でもよく、一度巻き取ってから水浴や熱風炉中にて低速で熱延伸する2ステップ法でもよい。
【0044】
延伸倍率は2.0倍以上であってもよく、具体的には2〜10倍程度の範囲から選択でき、例えば、2.1〜8倍、好ましくは2.2〜5倍、さらに好ましくは2.3〜4倍(特に2.4〜3倍)程度である。延伸倍率が低すぎると、高弾性繊維の弾性を充分に向上できず、高すぎると、糸切れが発生する。
【0045】
延伸における加熱温度は、繊維の種類に応じて選択できるが、例えば、80℃以上、好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは85〜120℃(特に85〜100℃)程度であってもよい。
【0046】
高弾性繊維は、慣用の方法、例えば、捲縮付与装置を用いて機械捲縮付与処理を行ってもよく、処理後に加熱して乾燥してもよい。乾燥温度は、例えば、100〜150℃、好ましくは120〜150℃、さらに好ましくは140〜150℃(特に145〜150℃)程度である。このような範囲の高温で乾燥することにより、高弾性繊維の弾性を更に向上できる。
【0047】
高弾性繊維の割合は、不織布全体に対して50質量%以上であればよく、例えば、50〜100質量%、好ましくは60〜100質量%、さらに好ましくは65〜100質量%(特に70〜100質量%)程度である。保液性に優れ、圧縮に対する厚みの復位及び液の戻りがいずれも速く、保液性と液戻り性とのバランスに優れる点から、高弾性繊維の割合は、不織布全体に対して、例えば、50〜90質量%、好ましくは55〜85質量%、さらに好ましくは60〜80質量%(特に65〜75質量%)程度であってもよい。高弾性繊維の割合が少なすぎると、不織布の弾性を向上できない。
【0048】
(他の繊維)
不織布は、剛性及びコシを損なわない範囲で、前記高弾性繊維に加えて、さらに他の繊維(低弾性繊維)を含んでいてもよい。他の繊維としては、吸液性及び保液性を向上できる点から、セルロース系繊維が好ましい。
【0049】
セルロース系繊維は、天然繊維(木材パルプ、綿又はコットン、麻など)であってもよいが、取り扱い性などの点から、再生繊維が好ましい。再生繊維としては、ビスコース法で得られた再生セルロース系繊維(ビスコースレーヨン、ポリノジックなど)、銅アンモニア法で得られた再生セルロース系繊維(キュプラなど)、溶剤紡糸法(セルロースを一旦化学的に変換することのない直接法)で得られた溶剤紡糸セルロース系繊維(テンセル(登録商標)などのリヨセルなど)などが挙げられる。これらのセルロース系繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0050】
これらのセルロース系繊維のうち、肌触りが良く、湿潤状態での繊維強力に優れる点から、溶剤紡糸セルロース系繊維が好ましい。さらに、溶剤紡糸セルロース系繊維は、セルロースをアミンオキサイドに溶解させた紡糸原液を水中に乾湿式紡糸してセルロースを析出させ得られた繊維をさらに延伸する方法で製造されたセルロース系繊維であってもよい。このような溶剤紡糸セルロース系繊維の代表例として、リヨセルが挙げられ、オーストリアのレンチング社より「テンセル」(登録商標)の商品名で販売されている。
【0051】
溶剤紡糸セルロース系繊維は、通常、ビーター、リファイナー、高速離解機などにより叩解してフィブリル化された繊維が多いが、本発明では、繊維のフィブリル化により、細かい繊維が肌に付着するのを防止するため、実質的にフィブリル化していない溶剤紡糸セルロール系繊維が好ましい。
【0052】
他の繊維も、高弾性繊維と同様に、慣用の添加剤を含有していてもよい。
【0053】
他の繊維のヤング率は、30cN/T未満であり、例えば、1〜29cN/T、好ましくは5〜25cN/T、さらに好ましくは10〜23cN/T(特に15〜20cN/T)程度である。
【0054】
他の繊維の横断面形状も、高弾性繊維の項で例示された形状であってもよいが、肌触りに優れる点から、溶剤紡糸セルロース系繊維のように、丸型断面、楕円状断面が好ましい。
【0055】
他の繊維(特にセルロース系繊維)の平均繊度は、例えば、0.3〜5dtex、好ましくは0.5〜2dtex、さらに好ましくは0.6〜1.7dtex(特に0.8〜1.5dtex)程度である。他の繊維が太すぎると、肌触りが低下したり、吸液性や保液性が低下し易い。一方、細すぎると、不織布の密度が高くなり、繊維間空隙が減少するため、保液性が低下する。
【0056】
他の繊維の繊維長(平均繊維長)は、特に制限はないが、例えば、20〜70mm、好ましくは30〜60mm、さらに好ましくは35〜50mm程度である。繊維長が長すぎると、繊維同士の均一な交絡が困難となり、肌触りが低下するとともに、吸液性及び液放出性が低下する。一方、繊維長が短すぎると、不織布から繊維が抜け易く、柔軟性や伸縮性も低下する。
【0057】
高弾性繊維と他の繊維(特にセルロース系繊維)との割合(質量比)は、特に、保液性と液戻り性とのバランスに優れる点から、高弾性繊維/他の繊維(特に溶剤紡糸セルロース系繊維)=60/40〜80/20であることが好ましく、さらに好ましくは65/35〜75/25程度であってもよい。高弾性繊維の割合が少なすぎると、不織布の弾性が低下し、多すぎると、他の繊維を配合する効果が低下し、例えば、セルロース系繊維の割合が少ないと、保液性や吸液性を向上できない。
【0058】
本発明では、高弾性繊維及びセルロース系繊維の合計割合は、不織布全体に対して、50質量%以上であってもよく、例えば、80〜100質量%、好ましくは90〜100質量%、さらに好ましくは95〜100質量%程度であり、高弾性繊維及びセルロース系繊維のみで不織布を形成してもよい。特に、本発明の保液シートは、皮膚に接触させる用途に使用する場合、寸法安定性などを要求される工業用吸水シートなどとは異なり、肌触りを低下させる慣用のバインダー繊維の含有量は少ない方が好ましく、例えば、バインダー繊維の割合は、不織布全体に対して10質量%以下、好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下であってもよい。
【0059】
[不織布の製造方法]
不織布(保液シート)は、例えば、スパンレース法、ニードルパンチ法、スチームジェット法などにより製造できる。これらの方法のうち、簡便性などの点から、スパンレース法が好ましい。
【0060】
スパンレース法では、ステープル繊維、例えば、高弾性繊維(又は高弾性繊維及び他の繊維との混綿)を、カード機によるカーディングにて開繊して不織布ウェブを作成してもよい。この不織布ウェブは、ウェブを構成する繊維の配合割合によりカード機の進行方向に配列されたパラレルウェブ、パラレルウェブがクロスレイドされたクロスウェブ、ランダムに配列したランダムウェブ、あるいはパラレルウェブとランダムウェブとの中間程度に配列したセミランダムウェブのいずれであってもよいが、横方向で繊維の絡みが発生し、横方向への伸びが阻害されるため、使用時に肌への沿い性が低下する傾向のあるランダムウェブやクロスウェブよりも、積層シートの横方向の柔らかさと伸び性を確保できるパラレルウェブ、セミランダムウェブが好ましい。
さらに、スパンレース法では、得られた不織布ウェブに水流絡合処理を行う。水流絡合処理では、例えば、径0.05〜0.3mm(特に0.08〜0.2mm)、間隔0.3〜1.5mm(特に0.4〜1mm)程度の噴射孔を1〜3列(特に1〜2列)に配列したノズルプレートから柱状に噴射される水流を多孔性支持部材上に載置した不織布ウェブに衝突させて、不織布ウェブを構成する繊維を相互に三次元交絡せしめ一体化させる。不織布ウェブに三次元交絡を施すに際しては、移動する多孔性支持部材上に不織布ウェブを載置して、例えば、水圧1〜15MPa、好ましくは2〜12MPa、さらに好ましくは3〜10MPa程度の水流で1回又は複数回処理する方法が好ましい。噴射孔は不織布ウェブの進行方向と直交する方向に列状に配列し、この噴射孔が配列されたノズルプレートを多孔性支持部材上に載置された不織布ウェブの進行方向に対し直角をなす方向に噴射孔間隔と同一間隔で振幅させて水流を不織布ウェブに均一に衝突させるのが好ましい。不織布ウェブを載置する多孔性支持部材は、例えば、金網などのメッシュスクリーンや有孔板など、水流が不織布ウェブを貫通することができるものであれば特に制限されない。噴射孔と不織布ウェブとの距離は、水圧に応じて選択できるが、例えば、1〜10cm程度である。この範囲外の場合には不織布の地合いが乱れやすくなったり、三次元交絡が不十分だったりする。
【0061】
水流絡合処理を施した後は乾燥処理を施してもよい。乾燥処理としては、まず、処理後の不織布ウェブから過剰水分を除去するのが好ましく、過剰水分の除去は公知の方法を用いることができる。例えば、マングルロールなどの絞り装置を用いて過剰水分をある程度除去し、続いてサクションバンド方式の熱風循環式乾燥機などの乾燥装置を用いて残りの水分を除去してもよい。
【0062】
[保液シート]
本発明の保液シートは、不織布に液状成分を含浸させたシート、例えば、化粧料(美容液)を含む液状成分を不織布に含浸させたスキンケアシート(特にフェイスマスク)であってもよい。
【0063】
本発明の保液シートは、液状成分を吸収させて使用するための用途、例えば、ナプキンやおむつなどの表面材、おむつライナー、ウエットティッシュなどの体液吸収用シート(又は皮膚洗浄用シート)などにも用いることができるが、保液性と放出性とのバランスに優れ、容易に皮膚に密着できるため、美容成分や薬効成分などの液状成分を含浸させたシートを皮膚に密着させる用途、例えば、フェイスマスク、メイク除去シート又はクレンジングシート、身体洗浄用シート(汗拭きシート、油取りシートなど)、冷却シート、薬用又は治療用シート(かゆみ抑制シート、湿布など)などの各種スキンケアシートに用いるのが好ましく、指で押しても液状成分の戻りが速いため、フェイスマスクに用いるのが特に好ましい。
【0064】
本発明の保液シートは、使用時にこれらの液状成分を含浸させて使用するシートであってもよく、予め液状成分を含浸させて使用するシート(いわゆるウエットシート)であってもよい。
【0065】
本発明において、液状成分には、溶媒や液状油などの液状物質の他、美容成分又は薬効(効能)成分などの有効成分を前記液状物質に含有させた溶液又は分散液(化粧料や乳液など)も含まれる。溶媒は、親油性溶媒であってもよいが、人体への安全性などの点から、親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒としては、例えば、水、低級脂肪族アルコール(例えば、エタノール、イソプロパノールなどのC1−4アルキルアルコールなど)、アルキレングリコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールなど)などが挙げられる。これらの親水性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。液状油としては、例えば、不飽和高級脂肪酸類(例えば、オレイン酸、オレイルアルコールなど)、動植物系油(例えば、ホホバ油、オリーブ油、やし油、つばき油、マカデミアンナッツ油、アボガド油、トウモロコシ油、ゴマ油、小麦胚芽油、アマニ油、ひまし油、スクワランなど)、鉱物系油(例えば、流動パラフィン、ポリブテン、シリコーン油など)、合成系油(例えば、合成エステル油、合成ポリエーテル油など)などが挙げられる。これらの液状油は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
これらの液状物質は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。例えば、水やエタノールなどの親水性溶媒に対して、添加剤(油分)として液状油を組み合わせて使用してもよい。これらの液状物質のうち、通常、水、低級アルコール又はこれらの混合物が使用され、好ましくは水及び/又はエタノール(特に水)が使用される。例えば、水と低級アルコール(特にエタノール)とを組み合わせて使用する場合、両者の割合(体積比)は、水/低級アルコール=100/0〜30/70、好ましくは100/0〜50/50、さらに好ましくは100/0〜70/30程度であり、例えば、99/1〜80/20程度であってもよい。
【0067】
有効成分としては、慣用の添加剤、例えば、生理活性成分(皮膚軟化剤、美白剤、制汗剤、肌荒れ防止剤、抗炎症剤、皮膚かゆみ抑制剤、血行促進剤、細胞賦活剤など)、保湿剤、エモリエント剤、クレンジング剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、収斂剤、酵素類、清涼化剤、殺菌剤又は抗菌剤、抗酸化剤、アミノ酸、冷却剤、香料、着色剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤のうち、スキンケア用シートには、例えば、保湿剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、清涼化剤、酵素類、収斂剤、殺菌剤又は抗菌剤などが汎用される。特に、フェイスマスク(フェイスパック)では、例えば、親水性溶媒中に保湿剤やエモリエント剤などが配合されていてもよい。保湿剤又はエモリエント剤としては、例えば、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンショ糖脂肪酸エステル、グリセリン、ヒアルロン酸ナトリウム、ポリオキシメチルグリコシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロースエーテル(メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)などが挙げられる。保湿剤及びエモリエント剤の合計割合は、例えば、溶液中0.1〜50質量%、好ましくは1〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%程度である。
【0068】
これらの添加剤の割合は、用途に応じて適宜選択でき、例えば、水やエタノールなどの液状物質の割合は、通常、添加剤を含む全液状成分中30〜99質量%、好ましくは40〜95質量%、さらに好ましくは50〜90質量%程度である。
【0069】
本発明の保液シートは、皮膚に対して密着性に優れているため、フェイスマスクや湿布などの皮膚に固定するシートとして特に適している。例えば、密着せずに浮いた部分を容易に矯正できるため、鼻の付け根など、微細な隙間(凹凸)にもシートが密着可能であり、フェイスマスクの有効成分を皮膚に有効に浸透できる。
【0070】
本発明の保液シートは、クレンジングシートや皮膚洗浄用シートなどにも適している。すなわち、本発明の保液シートは、顔の微細な隙間にもシートを密着できるため、メイク(ファウンデーション、白粉、口紅、アイメイクアップなどのメイクアップ化粧品など)を有効に除去できる。
【0071】
このように、本発明の保液シートは、液体含浸生体被膜シート(フェイスマスクなど)として利用する場合、通常、液状成分を保液シートに含浸させて、生体の皮膚などに貼付又は接触して使用される。
【0072】
本発明の保液シートは、他の層と積層してもよく、例えば、有効成分の吸収を促進するために、肌と接触しない側に非多孔性のフィルムやシートを積層してもよい。
【実施例】
【0073】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。なお、以下の実施例及び比較例における各物性値は、下記の方法により測定または評価した。また、以下の実施例及び比較例で使用した繊維の詳細は下記の通りである。
【0074】
[溶融粘度(Pa・s)]
溶融粘度計を用い、290℃の温度で10分間予熱後、溶融した熱可塑性樹脂をノズルから押し出し、測定を行った。
【0075】
[MI(メルトインデックス)(g/10分)]
ヒーターで加熱された円筒容器内で一定量の合成樹脂(2160g)を、定められた温度(190℃)で加熱・加圧し、容器底部に設けられた開口部(ノズル)から10分間あたりに押出された樹脂量を測定した。
【0076】
[繊維繊度(dtex)]
30mmにカットした単糸30本のサンプルを5セット準備し、各サンプルの重量をそれぞれ2回ずつ測定した。
【0077】
繊度(dtex)=重量(g)/(本数30本×繊維長30mm)×10000m。
【0078】
[目付(g/m)]
JIS L1906に準じ、温度20℃、湿度65%の標準状態にサンプルを24時間放置後、幅方向1m×長さ方向1mの試料を採取し、天秤を用いて重量(g)を測定する。得られた重量(g)の小数点以下を四捨五入して目付とした。
【0079】
[厚み(mm)]
剃刀(フェザー安全剃刀(株)製「フェザー剃刃S片刃」)を用いて、サンプルを面に垂直にMD方向に切断し、デジタル顕微鏡[(株)キーエンス(KEYENCE)製デジタルマイクロスコープ(DIGITAL MICROSCOPE) VHX−900]にて試料の断面を観察し厚さを計測した。
【0080】
[美容液含浸時の厚み方向に対する圧縮弾性(含浸時圧縮弾性)(%)]
MD方向5cm×CD方向5cmに切断したサンプルを準備し、サンプル重量に対し、900%の美容液(カネボウ化粧品(株)製「フレッシェル エッセンスローション NA」)を含浸させ、図1に示すように、アクリル板(測定台)4の上にサンプル3を広げて静置し、レーザー変位計1で初期の厚みを測定した。次に、原反(不織布)の中心に260g/cmの荷重2を60秒載置し、荷重を取り除いた直後から300秒後までの変位を測定した。測定前の原反の厚みをA、荷重を取り除いた直後の厚みをB、荷重を取り除いて300秒後の厚みをCとしたとき、美容液含浸時の厚み方向に対する圧縮弾性(%)を下記式に従って求めた。
【0081】
美容液含浸時の厚み方向に対する圧縮弾性(%)=[(C−B)/(A−B)]×100。
【0082】
[保水率(%)]
JIS L1907 7.2吸水率に準じて測定した。試験片を5cm角に切り出して重量を測定する(Ag)。その試験片を、水に30秒浸した。浸漬後、試験片の一辺をつまんで液から取り出し、1分後の重量(Bg)を測定した。保液率(C%)は下記式にて算出される。
【0083】
C(%)=[(B−A)/A]×100。
【0084】
[原反への液戻り(%)]
MD方向5cm×CD方向5cmに切断したサンプルを準備し、サンプル重量に対し、900%の美容液(カネボウ化粧品(株)製「フレッシェル エッセンスローション NA」)を含浸させ、図2に示すように、アクリル板(測定台)14の上にサンプル13を広げて静置し、直径1.2cmの円形状の中央部に620gの荷重12を60秒載置し、荷重を取り除いた直後の美容液がない部分の幅を測定した。さらに、荷重を取り除いて300秒後の美容液のない部分の幅を測定した。荷重を取り除いた直後の美容液のない部分の幅をA、荷重を取り除いて300秒後の美容液のない部分の幅をBとしたとき、原反への液戻り(%)を下記式に従って求めた。
【0085】
原反への液戻り(%)=[(A−B)/A]×100。
【0086】
[湿潤時の30%伸長時応力(N/5cm)]
JIS L1913(一般短繊維不織布)6.3.2(湿潤時の引張強さ及び伸び率試験)に記載の方法に準拠して測定した。具体的には、サンプルを20℃±2℃の水中に自重で沈降するまで置くか、又は1時間以上水中に沈めておいた後、浸漬液から取り出して速やかに30%伸長時応力(WET応力)を測定した。
【0087】
[芯鞘複合繊維の製造方法]
(芯鞘複合繊維A)
エチレン含有量44モル%、MI値12g/10分のエチレン−ビニルアルコール系共重合体((株)クラレ製「エバール」)を鞘成分、芯成分に290℃における溶融粘度が12000[Pa・s]のポリエステルチップ(ポリエチレンテレフタレート、(株)クラレ製、固有粘度=0.61)を用い、複合溶融紡糸装置を用いて、温度290℃、の条件で、丸断面口金にて、複合比率(芯部/鞘部)=50/50(重量比)で芯鞘型に接合して紡出した。紡出した糸条を冷却固化した後、引取ローラーを介して速度1000m/分でボビンに捲き取り、5.3dtexの捲取糸を得た。次いで、この捲取糸を延伸温度90℃にて、延伸倍率2.8倍で熱延伸し、油剤浴にて油剤を付与後、機械捲縮付与処理を施した。機械捲縮付与処理は、通常のスタッファ型捲縮付与装置を用いて行なった。捲縮付与処理に引き続き、繊維を150℃の熱風で乾燥した後、51mmにカットすることで単糸繊度1.9dtex、捲縮数23個/25mm、ヤング率51.0cN/Tの短繊維(芯鞘複合繊維A)を得た。紡糸性、延伸性ともに良好であった。
【0088】
(芯鞘複合繊維B)
延伸倍率を2.4倍、熱風による乾燥温度を150℃にする以外は芯鞘複合繊維Aの製造方法と同様にして、単糸繊度1.9dtex、繊維長51mm、捲縮数23個/25mm、ヤング率40.1cN/Tの芯鞘複合繊維Bを得た。
【0089】
(芯鞘複合繊維C)
延伸倍率を2.5倍、熱風による乾燥温度を140℃にする以外は芯鞘複合繊維Aの製造方法と同様にして、単糸繊度1.9dtex、繊維長51mm、捲縮数23個/25mm、ヤング率30.8cN/Tの芯鞘複合繊維Cを得た。
【0090】
(芯鞘複合繊維D)
延伸倍率を2.3倍、熱風による乾燥温度を140℃にする以外は芯鞘複合繊維Aの製造方法と同様にして、単糸繊度1.9dtex、繊維長51mm、捲縮数23個/25mm、ヤング率23.3cN/Tの芯鞘複合繊維Dを得た。
【0091】
[使用した繊維]
テンセル繊維:LENZING社製「TENCEL」、繊度1.7dtex、平均繊維長38mm、ヤング率19.2cN/T
レーヨン繊維:オーミケンシ(株)製「ホープ」、繊度1.7dtex、平均繊維長38mm、ヤング率13.3cN/T
ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維:東洋紡(株)製「プロコン」、2.2dtex、ヤング率441.0cN/T
PET繊維:東レ(株)製、繊度1.7dtex、平均繊維長51mm、ヤング率29.8cN/T
コットン繊維:丸三産業(株)製、繊度1.6dtex、ヤング率12.8cN/T。
【0092】
実施例1〜7及び比較例1〜4
表1に示す繊維を混綿し(単一の繊維を使用する場合は混綿せずに)、カードウェブを作製した。次いで、このカードウェブに水流を噴射し、絡合処理を施して水流絡合不織布を得た。なお、水流絡合処理は、直径0.1mmのオリフィスがウェブの幅方向に間隔0.6mm毎に設けられたノズルを用い、水圧3〜5MPaを表裏2段ずつで噴射し交絡させた。
【0093】
実施例及び比較例で得られた不織布の評価結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1の結果から明らかなように、実施例の不織布では、保水率が高く、美容液含浸時の厚み方向に対する圧縮弾性(含浸時圧縮弾性)及び戻りともに速いのに対して、比較例の不織布では、含浸時圧縮弾性及び戻りが遅い。特に、比較例では、含浸時圧縮弾性の割合に拘わらず、原反への液戻りは50%程度の低い液戻りで一定しているのに対して、実施例では、含浸時圧縮弾性に比例して原反への液戻りも向上し、特に、ヤング率の高い芯鞘複合繊維Aを70質量%以上含む不織布では、80%を超える高い原反への液戻りを示している。
【0096】
参考例1〜12
比較例1〜4における含浸時圧縮弾性と液戻りとの関係を更に明確にするため、表2に示す繊維を混綿し(単一の繊維を使用する場合は混綿せずに)、各種の含浸時圧縮弾性を有する不織布を実施例1〜5及び比較例1〜4と同様にして調製した。なお、比較例1〜4は、それぞれ参考例6、1、2及び10である。
【0097】
【表2】
【0098】
表2の結果から明らかなように、参考例の不織布では、含浸時圧縮弾性が3.6%から56.7%までの広い範囲に亘っているにも拘わらず、原反への液戻りは40〜50%程度の低い水準で一定となっている。この傾向は、含浸時圧縮弾性が所定の範囲では液戻り速度を制御するのが困難であることを示している。
【0099】
一方、表1の結果から明らかなように、実施例では、含浸時圧縮弾性が60%を超えており、含浸時圧縮弾性の向上とともに原反への液戻りも向上し、含浸時圧縮弾性が75%を超えると、原反への液戻りも80%以上にまで達している。
【0100】
すなわち、表1及び2の結果から明らかなように、本発明では、不織布を所定割合の高弾性繊維で形成し、含浸時圧縮弾性を所定の復位以上に調整できたことにより、初めて原反への液戻りを飛躍的に向上させることに成功したのであるが、このような実施例の効果は、従来の低弾性繊維を含む不織布から予測できない顕著な効果である。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の保液シートは、液状成分を吸収し、皮膚に接触させる用途、例えば、体液吸収用シート(例えば、ナプキンやおむつなどの表面材、おむつライナー、ウエットティッシュなど)、スキンケアシート(例えば、フェイスマスク、メイク除去シート、クレンジングシート又は身体洗浄用シート(汗拭きシート、油取りシート、冷却シートなど)、薬用シート(痒み抑制シート、湿布など)などに利用できる。特に、本発明の保液シートは、美容液(化粧料)などの液状成分を含浸した状態で、指で押しても、液状成分の戻りが速いため、顔全体、鼻、目元、口元、首などの保湿、美白等の効能成分を含浸したフェイスマスクに有用である。
【符号の説明】
【0102】
1…レーザー変位計
2,12…荷重
3,13…サンプル
4,14…測定台
図1
図2