【文献】
Journal of the American Chemical Society,2010年,Vol.132, No.19,p.6632-6633
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)組換えによって発現させた、(a)EgtAタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、(b)EgtBタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、(c)EgtCタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、(d)EgtDタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、および(e)EgtEタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片およびFAD合成酵素または酵素活性を保持しているその機能的断片を含む反応混合物と共に、ヒスチジンまたはヘルシニンをインキュベートする段階であって、EgtEタンパク質が、EgtE生産を促進するために、FAD合成酵素をコードする遺伝子と共に組換えによって同時発現される、段階;ならびに(ii)酵素的混合物からエルゴチオネインを単離する段階を含む、エルゴチオネインを調製するための方法。
(i)組換えによって発現させた、(a)EgtDタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、(b)OvoAタンパク質、NcEgt1タンパク質、または酵素活性を保持しているその機能的断片、および(c)EgtEタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片およびFAD合成酵素または酵素活性を保持しているその機能的断片を含む反応混合物と共に、ヒスチジンをインキュベートする段階であって、EgtEタンパク質が、EgtE生産を促進するために、FAD合成酵素をコードする遺伝子と共に組換えによって同時発現される、段階;ならびに(ii)酵素的混合物からエルゴチオネインを単離する段階を含む、エルゴチオネインを調製するための方法。
(i)egtA遺伝子、egtB遺伝子、egtC遺伝子、egtD遺伝子、egtE遺伝子、およびegtE遺伝子によってコードされるEgtEタンパク質の生産を促進するためのFAD合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現する細胞を、適切な代謝条件下で適切な培地において培養する段階;ならびに
(ii)培地中または細胞集団中にエルゴチオネインを蓄積させ、その後、それらからエルゴチオネインを回収する段階、
を含む、エルゴチオネインを調製する方法。
(i)(a)ovoA遺伝子またはNcEgt-1遺伝子ならびに(b)egtE遺伝子およびegtE遺伝子によってコードされるEgtEタンパク質の生産を促進するためのFAD合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現する細胞を、適切な代謝条件下で適切な培地において培養する段階;ならびに
(ii)培地中または細胞集団中にエルゴチオネインを蓄積させ、その後、それらからエルゴチオネインを回収する段階、
を含む、エルゴチオネインを調製する方法。
(i)(a)egtD遺伝子、(b)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子、ならびに(c)egtE遺伝子およびegtE遺伝子によってコードされるEgtEタンパク質の生産を促進するためのFAD合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現する細胞を、適切な代謝条件下で適切な培地において培養する段階;ならびに
(ii)培地中にエルゴチオネインを蓄積させ、その後、それからエルゴチオネインを回収する段階、
を含む、エルゴチオネインを調製する方法。
egtD遺伝子、ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子、egtE遺伝子、FAD合成酵素をコードする遺伝子、およびSAM合成酵素をコードする遺伝子が、異なるベクターから発現される、請求項8〜19のいずれか一項記載の方法。
ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子、egtE遺伝子、およびFAD合成酵素をコードする遺伝子が第1のベクターから発現され、egtD遺伝子およびSAM合成酵素をコードする遺伝子が第2のベクターから発現される、請求項8〜19、21、または22のいずれか一項記載の方法。
egtD遺伝子、ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子、egtE遺伝子、FAD合成酵素をコードする遺伝子、およびSAM合成酵素をコードする遺伝子がすべて、同じベクターから発現される、請求項8〜19、21、または22のいずれか一項記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
特定の微生物に由来する遺伝子、他の核酸配列、およびアミノ酸配列が下記で考察および/または例示される範囲にわたって、他の微生物が同様の代謝経路、ならびにそのような経路内で同様の構造および機能を有する遺伝子およびタンパク質を有していることが理解されると考えられる。したがって、遺伝物質の供給源または改変される宿主細胞のいずれかとして、任意の特定の微生物に関して下記に考察する原理は、他の微生物に応用可能であり、本発明に明確に包含される。
【0027】
本発明は、オボチオール生合成経路に由来する酵素OvoAを用いて、エルゴチオネイン生合成の中間体を生産することができるという本発明者らの発見に部分的に基づいている。とりわけ、本発明者らは、酵素OvoA(またはNcEgt1)が、ヘルシニンとシステインとの酸化的結合を触媒して、エルゴチオネイン生合成の中間体である化合物
を生成し得ることを発見した。通常OvoAはヒスチジンとシステインの結合を触媒して化合物
を生成するため、これは意外で予想外である。見て理解できるように、システインがイミダゾール環に連結する位置が、これら2種の生成物では異なる:予想外で意外な結果。
【0028】
本発明の別の部分は、これまで発現が実現可能ではなかったEgtEの生産に部分的に基づいている。とりわけ、本発明者らは、FAD合成酵素を有している遺伝的背景のもとでEgtEを組換えによって生産できることを発見した。
【0029】
したがって、本明細書において説明する1つまたは複数の遺伝子を組換えによって発現する細胞、およびエルゴチオネインを生産する際のそのような細胞の使用が、本明細書において開示される。その細胞は、エルゴチオネイン生合成経路の1つまたは複数の遺伝子およびオボチオール生合成経路の1つまたは複数の遺伝子を組換えによって発現することができる。
【0030】
いくつかの態様において、細胞は、(i)EgtAタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;(ii)EgtBタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;(iii)EgtCタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;(iv)EgtDタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;および(v)EgtEタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、ならびにFAD合成酵素または酵素活性を保持しているその機能的断片をコードする遺伝子の内の少なくとも1つを組換えによって発現するように形質転換される。
【0031】
いくつかの態様において、細胞は、SAM合成酵素または酵素活性を保持しているその機能的断片を組換えによって発現するようにさらに形質転換される。
【0032】
いくつかの態様において、細胞は、(i)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;および(ii)egtE遺伝子、ならびにFAD合成酵素をコードする遺伝子の内の少なくとも1つを組換えによって発現するように形質転換される。
【0033】
他のいくつかの態様において、細胞は、(i)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;および(ii)egtE遺伝子、ならびにFAD合成酵素をコードする遺伝子の内の1つに加えて、少なくともegtD遺伝子を組換えによって発現するように形質転換される。このいくつかの別の態様において、細胞は、SAM合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現するようにさらになお形質転換される。
【0034】
いくつかの態様において、細胞は、(i)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;および(ii)egtE遺伝子、ならびにFAD合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現する。
【0035】
いくつかの他の態様において、細胞は、(i)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;(ii)egtE遺伝子;および(iii)FAD合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現する。
【0036】
いくつかの態様において、細胞は、(i)egtD遺伝子;(ii)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;および(iii)egtE遺伝子、ならびにFAD合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現する。
【0037】
いくつかの他の態様において、細胞は、(i)egtD遺伝子;(ii)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;(iii)egtE遺伝子およびFAD合成酵素をコードする遺伝子;ならびに(iv)SAM合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現する。
【0038】
さらにいくつかの他の態様において、細胞は、(i)egtD遺伝子;(ii)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;(iii)egtE遺伝子およびFAD合成酵素をコードする遺伝子;(iv)SAM合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現する。
【0039】
本明細書において説明する局面または態様のいずれかにおいて、細胞は、(i)egtD遺伝子;(ii)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;(iii)egtE遺伝子およびFAD合成酵素をコードする遺伝子;(iv)SAM合成酵素をコードする遺伝子の内の1つまたは複数を内因的に発現することができる。
【0040】
いくつかの態様において、本明細書において説明する形質転換細胞は、コドン最適化された遺伝子を組換えによって発現する。例えば、細胞は、コドン最適化された、egtD遺伝子、ovoA遺伝子、ncEgt-1遺伝子、egtE遺伝子、SAM合成酵素をコードする遺伝子、またはFAD合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現する。
【0041】
本明細書において使用される場合、「細胞」、「宿主細胞」、または「細胞株」という用語は、十分に特徴付けられている同種の生物学的に純粋な細胞集団を指すと意図される。これらの細胞は、初代細胞だけでなく、新生物性であるか、もしくは当技術分野において公知の方法によってインビトロで「不死化された」真核細胞でもよく、または原核細胞でもよい。非限定的に、宿主細胞または細胞株は、哺乳動物、植物、昆虫、真菌(酵母を含む)、または細菌に由来するものであってよい。
【0042】
いくつかの態様において、細胞は細菌細胞である。これのいくつかのさらなる態様において、細胞は大腸菌または化膿性連鎖球菌(S. pyogenes)である。本明細書において説明する様々な局面に適用できる(amenable)大腸菌の例示的な株には、BL21(DE3)、BL21(DE3)pLysS、BL21(DE3)pLysE、BL21(DE3)pLacl、BL21trxB(DE3)、BL21trxB(DE3)pLysS、BLR(DE3)、BLR(DE3)pLysS、AD494(DE3)、AD494(DE3)pLysS、HMS174(DE3)、HMS174(DE3)pLysS、HMS174(DE3)pLysE、Origami(DE3)、Origami(DE3)pLysS、Origami(DE3)pLysE、Origami(DE3)pLacl、OrigamiB(DE3)、OrigamiB(DE3)pLysS、OrigamiB(DE3)pLysE、OrigamiB(DE3)pLacl、Rosetta(DE3)、Rosetta(DE3)pLysS、Rosetta(DE3)pLysE、Rosetta(DE3)pLacl、Tuner(DE3)、Tuner(DE3)pLysS、およびTuner(DE3)pLaclが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0043】
いくつかの他の態様において、細胞は、昆虫(例えば、Sf9細胞、ハイファイブ細胞、およびSf21細胞)、酵母(例えば、P.パストリス(P. pastoris)、P.メタノリカ(P. methanolica)、S.ポンベ(S. pombe)、およびS.セレビシエ(S. cerevisiae))、哺乳動物(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、Cos-1、CV-1、HeLa、NIH3T3、PER-C6、およびNSO)または植物に由来することができる。他の適切な細胞もまた、当業者に公知である。
【0044】
本明細書において使用される場合、「トランスフェクトされた」または「形質転換された」という用語は、少なくとも1つのポリヌクレオチド、例えば、DNA配列(遺伝子工学の技術分野において「異種DNA」、「組換えDNA」、「外来性DNA」、「遺伝子操作された」、「非天然の」、または「外来DNA」とも呼ばれる)であって、単離され、遺伝子操作の処置によって宿主細胞または細胞株中に導入されたDNA配列の存在によって、そのゲノムが変更または増強された任意の細胞、宿主細胞、または細胞株を含む。トランスフェクトされたDNAは、染色体外エレメントとして、または宿主細胞の宿主染色体中に安定に組み込まれるエレメントとして、維持され得る。染色体外エレメントとして、または宿主染色体中に安定に組み込まれたエレメントとして維持されているトランスフェクトされたDNAを有する宿主細胞は、本明細書において「組換え宿主細胞」または「形質転換細胞」と呼ばれる。
【0045】
本発明に適合する一部の細胞は、本明細書において説明する遺伝子の内の1つまたは複数の内因性コピー、ならびにその組換えコピーを発現できることが理解されるべきである。いくつかの態様において、本明細書において説明する遺伝子の内の1つまたは複数の内因性コピーを細胞が有している場合、本明細書において説明する細胞および方法は、内因的に発現される遺伝子の組換えコピーを加えることを必ずしも必要としない。いくつかの態様において、細胞は、本明細書において説明する経路に由来する1種または複数種の酵素を内因的に発現することができ、エルゴチオネインの効率的な生産のための本明細書において説明する経路に由来する1種または複数種の他の酵素を組換えによって発現することができる。
【0046】
いくつかの態様において、非形質転換細胞、例えば、野生型細胞は、エルゴチオネインを生産しない。
【0047】
いくつかの態様において、形質転換細胞は、同じ条件下で非形質転換宿主細胞が生産するエルゴチオネインの量と比べて、少なくとも(例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも1倍、少なくとも1.25倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、少なくとも75倍、少なくとも100倍またはそれ以上)である量のエルゴチオネインを生産することができる。
【0048】
ovoA遺伝子にコードされるポリペプチド(OvoA酵素)は、5-ヒスチジルシステインスルホキシド合成酵素である。OvoAは、単環式の非ヘム酵素であり、4電子酸化プロセスを触媒する。OvoAは、エルウィニア・タスマニエンシス(Erwinia tasmaniensis)およびクルーズ・トリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)から特徴を明らかにされた最初のオボチオール生合成酵素であった。相同酵素であるOvoAホモログが、プロテオバクテリアから真菌まで多岐にわたる80種を超えるゲノムにおいてコードされている。
【0049】
ncEgt-1遺伝子にコードされるポリペプチド(アカパンカビ(Neurospora crassa)に由来するNcEgt-1酵素)は、ヘルシニンおよびシステインからの
の形成を触媒する。
【0050】
egtE遺伝にコードされるポリペプチド(EgtE酵素)は、ヘルシニンとシステインとの酸化的結合の生成物中のC-S結合の切断を触媒する。
【0051】
egtD遺伝子にコードされるポリペプチド(EgtD酵素)酵素は、ヒスチジンのN-メチル化を触媒してヘルシニンを生成させる。
【0052】
EgtDはSAM依存性のメチル基転移酵素であるため、SAM合成酵素をEgtDと同時発現させてEgtDの活性を高めることができる。したがって、いくつかの態様において、細胞は、SAM合成酵素をコードする遺伝子を組換えによって発現するようにさらに形質転換され得る。酵素SAM合成酵素(EC2.5.1.6)は、メチオニンおよびATPのS-アデノシルメチオニン(AdoMetまたはSAM)への変換を触媒する。SAMへのメチオニンの変換を触媒するSAM合成酵素の遺伝子は、大腸菌からクローン化された。
【0053】
SAM合成酵素の基質はメチオニンおよびATPであるため、エルゴチオネイン生産のための細胞培養培地は、ヒスチジンまたはヘルシニンに加えてメチオニンをさらに補充されてもよい。
【0054】
本発明者らは、FAD合成酵素を有している条件下で、細胞におけるEgtE発現を増大させることができることを発見した。FAD合成酵素は、リボフラビンおよびATPからのフラビンアデニンジヌクレオチドの形成を触媒する。
【0055】
したがって、いくつかの態様において、細胞は、FAD合成酵素または酵素活性を保持しているその機能的断片をコードする遺伝子を組換えによって発現するようにさらに形質転換され得る。
【0056】
有効性を最大にするためには金属酵素(EgtBまたはOvoA)の取込みおよび成熟が不可欠であるため、エルゴチオネインを生産するためにFe取込み系を形質転換細胞に含めることができる。例えば、宿主細胞は、シデロホア、例えば、シデロホアまたはその機能的断片をコードするポリヌクレオチドを発現して、培地に1種または複数種の鉄塩を補充するように、さらに形質転換され得る。
【0057】
本明細書において説明する遺伝子は、様々な供給源から得ることができることを当業者は理解するであろう。
【0058】
いくつかの態様において、ovoA遺伝子は酸化酵素であり、SEQ ID NO: 1(ETA_00030[エルウィニア・タスマニエンシスEt1/99]、アクセッションYP_001905965:
のヌクレオチド配列を含む。
【0059】
いくつかの態様において、ncEgt-1遺伝子は酸化酵素であり、SEQ ID NO: 2 (アカパンカビOR74A 機能未知タンパク質(hypothetical protein)NCU04343の部分的mRNA、アクセッションXM_951231、バージョンXM_951231.2 GI:164429491:
のヌクレオチド配列を含む。
【0060】
いくつかの態様において、egtD遺伝子はメチル基転移酵素であり、SEQ ID NO: 3(機能未知タンパク質MSMEG_6247[スメグマ菌(Mycobacterium smegmatis)MC2 155株]、アクセッションYP_890466、バージョンYP_890466.1 GI:118473274:
のヌクレオチド配列を含む。
【0061】
いくつかの態様において、egtE遺伝子はC-Sリアーゼであり、SEQ ID NO: 4(ピリドキサールリン酸依存性トランスフェラーゼ[スメグマ菌MC2 155株]、アクセッションABK70212、バージョンABK70212.1 GI:118169316:
のヌクレオチド配列を含む。
【0062】
いくつかの態様において、FAD合成酵素をコードする遺伝子は、SEQ ID NO: 5(コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)のFAD合成酵素遺伝子、全コード領域(complete cds)、アクセッションD37967、バージョンD37967.1 GI:840670:
のヌクレオチド配列を含む。
【0063】
いくつかの態様において、SAM合成酵素をコードする遺伝子は、SEQ ID NO: 6(大腸菌のS-アデノシルメチオニン合成酵素をコードするmetK遺伝子、アクセッションK02129、領域86〜1420、バージョンK02129.1 GI:146838:
のヌクレオチド配列を含む。
【0064】
当業者は承知しているように、酵素の相同遺伝子は、他種から得ることができ、例えば国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)のインターネットサイト(www.ncbi.nlm.nih.gov)で利用可能なタンパク質BLAST検索によるホモロジー検索によって同定することができる。本発明に関連する遺伝子は、所与の遺伝子を含むDNAの任意の供給源に由来するDNAからPCR増幅することができる。一定の態様において、遺伝子は、ゲノムDNA(gDNA)鋳型を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって得られる。いくつかの態様において、本発明に関連する遺伝子は、合成されたものである。本発明に関連する酵素をコードする遺伝子を得る任意の手段は、本発明に適合している。
【0065】
本明細書において使用される場合、遺伝子を発現することとは、その遺伝子にコードされる完全長ポリペプチドまたは完全長ポリペプチドの機能的断片のいずれかを細胞が生産することを意味する。「機能的」という用語は、「断片」と一緒に使用される場合、その断片が由来する(of which it is a fragment thereof)実体または分子の生物活性と実質的に同様である生物活性を備えているポリペプチドに関係する。この文脈における「実質的に同様」とは、対応する野生型ペプチドの関連するまたは所望の生物活性の少なくとも25%、少なくとも35%、少なくとも50%が保持されていることを意味する。例えば、ポリペプチドの機能的断片は、細胞において発現される遺伝子にコードされる完全長ポリペプチドの酵素活性と実質的に同様である酵素活性を保持している。
【0066】
本件において、egtE遺伝にコードされるポリペプチドの機能的断片は、ヘルシニンとシステインとの酸化的結合の生成物中のC-S結合の切断、すなわちエルゴチオネインへの中間体
の変換を触媒することができるペプチドであると思われる。ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子にコードされるポリペプチドの機能的断片は、ヘルシニンおよびシステインからの
の形成を触媒することができるペプチドであると思われる。egtD遺伝子にコードされるポリペプチドの機能的断片は、ヒスチジンのN-メチル化を触媒してヘルシニンを生成させることができるペプチドであると思われる。SAM遺伝子にコードされるポリペプチドの機能的断片は、S-アデノシルメチオニンへのメチオニンおよびATPの変換を触媒することができるペプチドであると思われる。FAD合成酵素遺伝子にコードされるポリペプチドの機能的断片は、FADの形成を触媒することができるペプチドであると思われる。このような機能的断片は、本明細書の実施例において開示する方法によって評価することができる。
【0067】
いくつかの態様において、本明細書において説明する遺伝子の内の1つまたは複数が組換え発現ベクターまたはプラスミドにおいて発現される。本明細書において使用される場合、「ベクター」という用語は、宿主細胞中に導入遺伝子を移入するのに適したポリヌクレオチド配列を意味する。「ベクター」という用語は、プラスミド、ミニ染色体、ファージ、および裸DNAなどを含む。例えば、米国特許第4,980,285号、同第5,631,150号、同第5,707,828号、同第5,759,828号、同第5,888,783号、および同第5,919,670号、ならびにSambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Press (1989)を参照されたい。ベクターの1つのタイプは「プラスミド」であり、これは、付加的なDNAセグメントが連結されている環状二本鎖DNAループを指す。別のタイプのベクターは、付加的なDNAセグメントがウイルスゲノム中に連結されているウイルスベクターである。ある種のベクターは、導入された先の宿主細胞において自立複製することができる(例えば、細菌の複製起点を有する細菌ベクターおよび哺乳動物エピソームベクター)。さらに、ある種のベクターは、機能的に連結されている遺伝子の発現を指示することができる。このようなベクターは、本明細書において「発現ベクター」と呼ばれる。一般に、組換えDNA技術において有用な発現ベクターは、プラスミドの形態であることが多い。プラスミドはベクターの最も一般に使用される形態であるため、本明細書において、「プラスミド」および「ベクター」は同義的に使用される。しかしながら、本発明は、等価な機能を果たすこのような他の形態の発現ベクター、例えばウイルスベクター(例えば、複製欠損レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)を含むと意図される。
【0068】
クローニングベクターは、宿主細胞において自律的に複製できるか、またはゲノム中に組み込まれることができ、かつ1つまたは複数のエンドヌクレアーゼ制限部位(この部位で、ベクターを決定可能な様式で切断することができ、所望のDNA配列をこの部位にライゲーションすることができ、その結果、新しい組換えベクターは宿主細胞中で複製するその能力を保持する)をさらに特徴とするものである。プラスミドの場合、所望の配列の複製は、宿主細菌のような宿主細胞内でプラスミドがコピー数を増やす際に何度も起こり得るか、または宿主が有糸分裂によって繁殖する前に宿主1つにつき1回だけ起こり得る。ファージの場合、複製は、溶菌段階の間に能動的に、または溶原段階の間に受動的に起こり得る。
【0069】
発現ベクターは、所望のDNA配列が調節配列に機能的に連結され、RNA転写物として発現されることができるように、制限およびライゲーションによって所望のDNA配列を挿入できるものである。ベクターは、ベクターを用いて形質転換もしくは形質転換またはトランスフェクトされた細胞またはされていない細胞を同定する際に使用するのに適した1種または複数種のマーカー配列をさらに含むことができる。マーカーには、例えば、抗生物質または他の化合物に対する耐性または感受性のいずれかを増大または減少させるタンパク質をコードする遺伝子、当技術分野において公知の標準的アッセイ法によってその活性が検出可能である酵素(例えば、β-ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、またはアルカリホスファターゼ)をコードする遺伝子、および形質転換またはトランスフェクトされた細胞、宿主、コロニー、またはプラークの表現型に可視的に影響を及ぼす遺伝子(例えば緑色蛍光タンパク質)が含まれる。一定の態様において、本明細書において使用されるベクターは、それらが機能的に結合されているDNAセグメント中に存在する構造遺伝子産物の自律複製および発現を起こすことができる。
【0070】
本明細書において使用される場合、コード配列および調節配列は、コード配列の発現または転写を調節配列の影響下または制御下に置くような方法でそれらが共有結合的に連結される場合、「機能的に」結合されていると称される。コード配列が機能的タンパク質に翻訳されることが望ましい場合、5'調節配列中のプロモーターの誘導によってコード配列の転写が起こる場合、かつ2つのDNA配列間の連結の性質が、(1)フレームシフト変異の導入をもたらしもせず、(2)プロモーター領域がコード配列の転写を指示する能力を妨害もせず、(3)対応するRNA転写物がタンパク質に翻訳される能力を妨害もしない場合、それら2つのDNA配列は機能的に結合していると称される。したがって、得られる転写物が所望のタンパク質またはポリペプチドに翻訳され得るようにプロモーター領域がそのDNA配列の転写を実施することができた場合、プロモーター領域はコード配列に機能的に結合していると思われる。
【0071】
本明細書において説明する酵素のいずれかをコードする核酸分子が細胞において発現される場合、様々な転写制御配列(例えば、プロモーター/エンハンサー配列)が、その発現を指示するために使用され得る。プロモーターは、固有のプロモーター、すなわち、内因性環境におけるその遺伝子のプロモーターで、その遺伝子の発現の通常の調節を実現するものであってよい。いくつかの態様において、プロモーターは構成的であってよく、すなわち、プロモーターは調節されず、関連する遺伝子の連続的な転写が可能である。ある分子の有無に基づいて制御されるプロモーターのような、様々な条件的プロモーターもまた、使用され得る。
【0072】
遺伝子発現に必要とされる調節配列の正確な性質は、種または細胞型によって異なり得るが、一般に、必要に応じて、転写および翻訳の開始にそれぞれ関与している5'非転写配列および5'非翻訳配列、例えば、TATAボックス、キャッピング配列、およびCAAT配列などが含まれ得る。特に、このような5'非転写調節配列は、機能的に結合された遺伝子を転写制御するためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。また、調節配列は、所望に応じてエンハンサー配列または上流のアクチベーター配列も含み得る。本発明のベクターは、5'のリーダー配列またはシグナル配列を任意で含んでよい。適切なベクターの選択および設計は、当業者の能力および裁量の範囲内である。
【0073】
発現に必要なエレメントすべてを含む発現ベクターは市販されており、当業者に公知である。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989を参照されたい。細胞は、異種DNA (RNA)を細胞中に導入することによって、遺伝的に操作される。その異種DNA(RNA)は、宿主細胞における異種DNAの発現を可能にする転写エレメントの操作可能な制御下に置かれる。
【0074】
いくつかの態様において、ベクターはpETDuetベクターである。
【0075】
いくつかの他の態様において、ベクターはpACYDuetベクターである。
【0076】
いくつかの他の態様において、ベクターはpASK-IBAベクターである。
【0077】
非限定的に、本明細書において説明する遺伝子は、1つのベクターまたは別々のベクター中に含まれてよい。例えば、ovoA遺伝子もしくはncEgt-1遺伝子およびegtE遺伝子が同じベクター中に含まれてよく;またはegtE遺伝子およびFAD合成酵素遺伝子をコードする遺伝子が同じベクター中に含まれてよく;またはovoA遺伝子もしくはncEgt-1遺伝子、egtE遺伝子、およびFAD合成酵素をコードする遺伝子が同じベクター中に含まれてよく;またはegtD遺伝子およびSAM合成酵素をコードする遺伝子が同じベクター中に含まれてよい。
【0078】
いくつかの態様において、ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子、egtE遺伝子、およびFAD合成酵素をコードする遺伝子が第1のベクター中に含まれてよく、egtD遺伝子、ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子、およびegtE遺伝子が第2のベクター中に含まれてよい。
【0079】
いくつかの態様において、組換えによって発現される遺伝子の内の1つまたは複数は、細胞のゲノム中に組み込まれてよい。
【0080】
特許請求される本発明の酵素をコードする核酸分子は、当技術分野において標準である方法および技術を用いて、1つまたは複数の細胞中に導入され得る。例えば、核酸分子は、化学的形質転換およびエレクトロポレーション、形質導入、微粒子銃などを含む形質転換のような標準プロトコールによって導入され得る。また、特許請求される本発明の酵素をコードする核酸分子の発現は、その核酸分子をゲノム中に組み込むことによっても達成され得る。
【0081】
本明細書において提供されるいくつかの局面は、本明細書において説明する細胞の培養から採取された細胞培養培地または上清を対象とする。
【0082】
本明細書において提供される他の局面は、本明細書において説明する細胞を細胞培養培地において培養する段階を含む方法を対象とする。
【0083】
本明細書において説明する様々な局面は、エルゴチオネイン生合成経路の1つまたは複数の遺伝子およびオボチオール生合成経路の1つまたは複数の遺伝子を細胞において組換えによって発現させる段階を含む方法に関した。
【0084】
本明細書において提供されるいくつかの局面は、エルゴチオネインを調製するための方法を対象とする。
【0085】
いくつかの態様において、方法は、(i)EgtAタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;(ii)EgtBタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;(iii)EgtCタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;(iv)EgtDタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;および(v)EgtEタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、ならびにFAD合成酵素または酵素活性を保持しているその機能的断片をコードする遺伝子を細胞において組換えによって発現させる段階を含んだ。
【0086】
いくつかの態様において、方法は、(i)OvoAタンパク質、NcEgt1タンパク質、または酵素活性を保持しているその機能的断片;(ii)EgtEタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、および(iii)FAD合成酵素または酵素活性を保持しているその機能的断片を細胞において組換えによって発現させる段階を含む。
【0087】
いくつかの態様において、方法は、(i)EgtDタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;(ii)OvoAタンパク質、NcEgt1タンパク質、または酵素活性を保持しているその機能的断片;(iii)EgtEタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片;および(iv)FAD合成酵素または酵素活性を保持しているその機能的断片を細胞において組換えによって発現させる段階を含む。本出願のいくつかのさらなる態様において、細胞は、SAM合成酵素または酵素活性を保持しているその機能的断片をさらに発現する。
【0088】
いくつかの態様において、方法は、(i)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;および(ii)egtE遺伝子、ならびにFAD合成酵素遺伝子を細胞において組換えによって発現させる段階を含む。
【0089】
本明細書において論じるように、本発明者らはまた、形質転換細胞においてヘルシニンから開始し、エルゴチオネインを生産することによって、エルゴチオネイン合成をさらに簡略化できることも発見した。したがって、いくつかの態様において、方法は、(i)egtD遺伝子;(ii)ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子;および(iii)egtE遺伝子、ならびにFAD合成酵素を細胞において組換えによって発現させる段階を含む。いくつかの態様において、方法は、S-アデノシルメチオニン(SAM)合成酵素をコードする遺伝子を細胞から組換えによって発現させる段階をさらに含む。
【0090】
いくつかの態様において、本明細書において説明する方法は、本明細書において説明する細胞を細胞培養培地において培養する段階をさらに含む。
【0091】
いくつかの態様において、本明細書において提示する局面または態様のいずれか1つにおいて説明する方法は、ヘルシニンまたはヒスチジンを細胞に供給する段階を含む。例えば、細胞が(組換えによっても別の方法でも)egtD遺伝子を発現しない場合、細胞にヘルシニンを供給してよい。すなわち、培地にヘルシニンを補充してよい。別の例において、細胞が(組換えによってまたは別の方法で)egtD遺伝子を発現する場合には、細胞にヒスチジンを供給してよい。すなわち、培地にヒスチジンを補充してよい。egtD遺伝子が発現されると、細胞がヒスチジンをヘルシニンに変換することができ、次いでヘルシニンが、ovoA遺伝子またはncEgt-1遺伝子によって発現されるポリペプチドによって使用されることができる。
【0092】
いくつかの態様において、本明細書において説明する方法は、本明細書において説明する細胞を培養した後に細胞培養培地または上清を採取する段階をさらに含む。
【0093】
いくつかの態様において、本明細書において説明する方法は、純粋な酵素またはこれらの酵素を発現する細胞に由来する溶解物、例えば、本明細書において説明する細胞から得られた溶解物のいずれかを用いた、インビトロの反応を含む。したがって、いくつかの態様において、エルゴチオネインを生産するための方法は、(i)組換えによって発現させたEgtAタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、EgtBタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、EgtCタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、EgtDタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、およびEgtEタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片を含む反応混合物と共にヒスチジンまたはヘルシニンをインキュベートする段階;ならびに(ii)酵素的混合物からエルゴチオネインを単離する段階、を含む。
【0094】
いくつかの態様において、エルゴチオネインを調製するための方法は、(i)組換えによって発現させた、(a)OvoAタンパク質、NcEgt1タンパク質、または酵素活性を保持しているその機能的断片、および(b)酵素活性を保持しているその機能的断片のEgtEタンパク質を含む反応混合物と共にヘルシニンをインキュベートする段階;ならびに(ii)酵素的混合物からエルゴチオネインを単離する段階、を含む。
【0095】
いくつかの態様において、エルゴチオネインを調製するための方法は、(i)組換えによって発現させた、(a)EgtDタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片、(b)OvoAタンパク質、NcEgt1タンパク質、または酵素活性を保持しているその機能的断片、および(c)EgtEタンパク質または酵素活性を保持しているその機能的断片を含む反応混合物と共にヒスチジンをインキュベートする段階;ならびに(ii)酵素的混合物からエルゴチオネインを単離する段階、を含む。
【0096】
いくつかの態様において、反応混合物は、本明細書において説明する細胞に由来する細胞溶解物を含む。したがって、いくつかの態様において、反応混合物は、本明細書において説明する細胞に由来する細胞溶解物(例えば無細胞溶解物)を含む。
【0097】
いくつかの態様において、反応混合物は、メチオネイン(methoinenine)またはシステインをさらに含む。
【0098】
いくつかの態様において、反応混合物は、鉄塩を補充される。
【0099】
いくつかの態様において、本明細書において説明する方法は、細胞から、細胞が増殖する場である培地から、または反応混合物からエルゴチオネインを回収する段階をさらに含む。
【0100】
細胞、例えば形質転換細胞は、従来の細胞培養物または発酵バイオリアクター中で培養され得る。細胞は、限定されるわけではないが、回分発酵、流加発酵、細胞リサイクル発酵、および連続発酵を含む、任意の培養方法または発酵方法によって培養され得る。本発明に基づく細胞は、任意のタイプ(富栄養(rich)または最少栄養(minimal))および任意の組成の培地中で培養され得る。当業者は理解するはずであるように、いくつかの態様において、ごく普通の最適化によって、様々なタイプの培地の使用が可能になると思われる。選択された培地は、様々なその他の成分を補充されてよい。補充成分のいくつかの非限定的な例には、ヘルシニン、ヒスチジン、抗生物質、IPTGまたは遺伝子誘導のための他の誘導物質、およびATCC微量ミネラルサプリメント(Trace Mineral Supplement)が含まれる。同様に、本発明の培地および細胞の増殖条件の他の局面も、ごく普通の実験法によって最適化することができる。例えば、pHおよび温度は、最適化され得る因子の非限定的な例である。いくつかの態様において、培地の選択、培地サプリメント、および温度などの因子は、エルゴチオネインの生産レベルに影響を及ぼし得る。いくつかの態様において、補助成分の濃度および量が最適化され得る。いくつかの態様において、1種または複数種の補助成分が培地に補充される頻度、およびエルゴチオネインを回収する前に培地が培養される時間の長さが最適化される。
【0101】
本明細書において説明する局面によれば、細胞溶解物または無細胞溶解物において、本発明に関連する遺伝子の組換え発現により、高力価のエルゴチオネインが生産される。本明細書において使用される場合、「高力価」とは、1リットルあたりミリグラム(mg/L)の規模またはそれ以上の規模の力価を意味する。所与の生産物について得られる力価は、培地の選択を含む多数の因子の影響を受けると考えられる。いくつかの態様において、エルゴチオネインの生産に関する力価は、少なくとも1000mg/Lである。
【0102】
一定の局面において、本明細書において説明する態様に関連する細胞を増殖させるのに使用する液体培養物は、当技術分野において公知であり使用される培養容器のいずれかに入れられる。いくつかの態様において、撹拌槽反応器のような通気反応容器における大規模生産が、多量のエルゴチオネインを生産するために使用される。
【0103】
エルゴチオネインが形質転換細胞によって生産された後、エルゴチオネインは培養培地中に蓄積することができ、それから採取または回収され得る。エルゴチオネインのような生産物を「採取する」とは、発酵バイオリアクターからバイオマスを採取することを単に意味してよく、分離、回収、または精製といった付加的な段階を含意する必要はない。例えば、採取する段階は、培養物全体(すなわち、形質転換細胞および発酵培地)をバイオリアクターから取り出すこと、および/またはエルゴチオネインを含む形質転換細胞をバイオリアクターから取り出すことを意味してよい。「回収すること」または「回収する」という用語は、エルゴチオネインを回収することに関して本明細書において使用される場合、任意の純度レベルのエルゴチオネインを得るために付加的な加工段階を実施することを意味する。これらの段階に、さらに別の精製段階が続いてもよい。例えば、エルゴチオネインは、限定されるわけではないが次の段階を含む技術によって、バイオマスから回収され得る:細胞を溶液に溶解すること(lysing the cells solution)、エルゴチオネインを含む残存固体を採取および洗浄すること、洗浄した固体を適切な緩衝液または溶液に再懸濁すること、ならびにクロマトグラフィーによる後続の精製に加えて、エルゴチオネインを溶液から濃縮すること。
【0104】
いくつかの態様において、エルゴチオネインは、実質的に純粋な形態で回収される。本明細書において使用される場合、「実質的に純粋な」とは、市販用の化合物としてエルゴチオネインを有効に使用することを可能にする純度を意味する。
【0105】
いくつかの態様において、好ましくは、エルゴチオネイン生産物は、生産生物および他の培養培地構成成分または反応混合物から分離される。このような分離を実現するための方法は、当業者に公知である。例えば、分離技術には、イオン交換クロマトグラフィーおよびHPLC精製の組合せが含まれるが、それらに限定されるわけではない。
【0106】
本発明の局面は、細胞からのエルゴチオネインの生産を最適化するための戦略を含む。エルゴチオネインの最適化された生産とは、最適化戦略の遂行後に、そのような戦略が行われない場合に達成されると思われる量よりも多い量のエルゴチオネインを生産することを意味する。いくつかの態様において、最適化は、適切なプロモーターおよびリボソーム結合部位の選択を通じて、本明細書において説明する1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを増大させることを含む。いくつかの態様において、これは、高コピー数プラスミド、または低コピー数プラスミドもしくは中コピー数プラスミドの選択を含む。いくつかの態様において、プラスミドは、pETDuetのような中コピー数プラスミドである。本明細書において説明する細胞および方法において使用され得る他のプラスミドには、pCDFDuet-1、pACYCDuet-1、pASK-IBA、およびpCOLADuet-1が含まれる。また、いくつかの態様において、ステムループのような構造物の導入または除去を通じて遺伝子発現を調節するために、転写終結の段階も対象とされ得る。
【0107】
いくつかの態様において、エルゴチオネイン生産に関して最適化された細胞が使用される。いくつかの態様において、エルゴチオネインの生産増大をもたらす変異のスクリーニングが、ランダム変異誘発スクリーニングまたは公知の変異のスクリーニングによって実施される。他の態様において、ゲノム断片のショットガンクローニングが、エルゴチオネインの生産増加に関するこれらの断片を有する細胞または生物のスクリーニングを通じて、エルゴチオネインの生産増加をもたらすゲノム領域を同定するのに使用される。場合によっては、1つまたは複数の変異が、同じ細胞または生物において組み合わされている。
【0108】
また、いくつかの態様において、タンパク質発現の最適化は、酵素をコードする遺伝子を、例えば、細菌細胞での発現向けのコドン最適化によって、細胞中に導入する前に改変することを必要とする場合がある。様々な生物のコドン使用頻度は、コドン使用頻度データベース(Codon Usage Database)(ウェブサイト: kazusa.or.jp/codon/)から利用することができる。
【0109】
いくつかの態様において、タンパク質工学が、本発明に関連する1種または複数種の酵素の発現または活性を最適化するのに使用され得る。一定の態様において、タンパク質工学アプローチは、ある酵素の3D構造を決定すること、または関連タンパク質の構造に基づいて、その酵素の3D相同性モデルを構築することを含み得る。3Dモデルに基づいて、酵素の変異を構築し、細胞または生物に組み入れることができ、次いで、細胞または生物はエルゴチオネインの生産増加に関してスクリーニングされ得る。いくつかの態様において、細胞におけるエルゴチオネイン生産は、本明細書において説明する経路に関連した酵素と同じ経路において作用する酵素を操作することにより、増加する。例えば、いくつかの態様において、ある酵素、または本明細書において説明する経路の内の任意の1つもしくは複数に関連している酵素のような標的酵素の上流で作用する他の因子の発現を増大させることが有利であり得る。いくつかの態様において、これは、任意の標準的方法を用いて上流因子を過剰発現させることによって実現される。
【0110】
いくつかの選択された定義
便宜上、本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲において本文書で使用するいくつかの用語をここに集める。別段の記載が無い限り、または文脈によって暗に示されない限り、次の用語および語句は、下記に提供する意味を含む。別段の明瞭な記載が無い限り、または文脈から明らかでは無い限り、下記の用語および語句は、その用語または語句が関連する技術分野で得る意味を除外しない。これらの定義は、個々の態様を説明するのを助けるために提供され、本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定されるため、これらの定義は、特許請求される本発明を限定することを意図していない。さらに、文脈において特に指示がない限り、単数形の用語は複数形を含むものとし、かつ複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0111】
他に規定されない限り、本明細書で使用される技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。任意の公知の方法、装置、および材料を本発明の実践または試験において使用してよいが、この点に関する方法、装置、および材料は、本明細書において説明される。
【0112】
本明細書において使用される場合、「含むこと」または「含む」という用語は、本発明にとって極めて重要である組成物、方法、およびその個々の構成要素に関して使用されるが、極めて重要であるか否かに関わらず不特定要素を包含することが可能である。
【0113】
単数形の用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈において特に指示がない限り、複数の指示対象を含む。同様に、「または」という単語は、文脈において特に指示がない限り、「および」を含むと意図される。
【0114】
本来の実施例以外で、または特に指示が無い場合、本明細書において使用される成分の量または反応条件を表す数字はすべて、あらゆる場合において「約」という用語で修飾されると理解されるべきである。パーセンテージに関連して使用される場合の「約」という用語は、言及されている値の±5%を意味し得る。例えば、約100は、95〜105を意味する。
【0115】
本明細書において説明するものと同様または等価な方法および材料が、本開示の実践または試験において使用され得るが、適切な方法および材料を後述する。「含む(comprises)」という用語は、「含む(includes)」を意味する。「例えば(e.g.)」という略語は、ラテン語の例えば(exempli gratia)に由来し、非限定的な例を示すために本明細書において使用される。したがって、「e.g.」という略語は、「例えば(for example)」という用語と同義である。
【0116】
「減少する(decrease)」、「低減された(reduced)」、「低減(reduction)」、「減少(decrease)」、または「阻害する(inhibit)」という用語はすべて、統計学的に有意な量の減少を一般に意味するために本明細書において使用される。しかしながら、不確かになるのを避けるために、「低減された(reduced)」、「低減(reduction)」、もしくは「減少する(decrease)」、または「阻害する(inhibit)」とは、参照レベルと比べて少なくとも10%の減少、例えば、少なくとも約20%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%の減少、もしくは最高100%(100%を含む)の減少(例えば、参照試料と比べて、存在しないレベル)、または参照レベルと比べて10〜100%の間の任意の減少を意味する。
【0117】
「増加された(increased)」、「増加する(increase)」、もしくは「増大させる(enhance)」、または「活性化する(activate)」という用語はすべて、統計学的に有意な量の増加を一般に意味するために本明細書において使用される。何かしら不確かになるのを避けるために、「増加された(increased)」、「増加する(increase)」、もしくは「増大させる(enhance)」、または「活性化する(activate)」という用語は、参照レベルと比べて少なくとも10%の増加、例えば、少なくとも約20%、もしくは少なくとも約30%、もしくは少なくとも約40%、もしくは少なくとも約50%、もしくは少なくとも約60%、もしくは少なくとも約70%、もしくは少なくとも約80%、もしくは少なくとも約90%の増加、もしくは最高100%(100%を含む)の増加、または参照レベルと比べて10〜100%の間の任意の増加、または参照レベルと比べて少なくとも約2倍、もしくは少なくとも約3倍、もしくは少なくとも約4倍、もしくは少なくとも約5倍、もしくは少なくとも約10倍の増加、または2倍〜10倍の間もしくはそれ以上の任意の増加を意味する。
【0118】
「統計学的に有意な」または「有意に」という用語は、統計学的有意性を指し、一般に、参照レベルから少なくとも標準偏差の2倍(2SD)離れていることを意味する。この用語は、差異があるという統計学的証拠に関係する。これは、帰無仮説が実際に真である場合、帰無仮説を棄却するという決定を下す確率と定義される。
【0119】
本明細書において使用される場合、「遺伝子エレメント」とは、経路の酵素機能を果たすことができるかまたは制御することができる、タンパク質、アポタンパク質などの産物に対する発現可能なコード配列を有する所定の核酸(通常、DNAもしくはRNA)、またはアンチセンス核酸構築物を意味する。発現されたタンパク質は、酵素として機能し得るか、酵素活性を抑制し得るかもしくは低下させ得るか、または酵素の発現を制御し得る。これらの発現可能な配列をコードする核酸は、染色体性のもの(例えば、相同組換え、転位、もしくは他の何らかの方法によって非ヒト生物の染色体中に組み込まれる)、または染色体外のもの(エピソーム)(例えばプラスミド、コスミドなどによって保有される)のいずれかであってよい。遺伝子エレメントには、制御エレメントが含まれる。他の多くの遺伝子エレメントが、当技術分野において公知である。例えば、米国特許第4,980,285号、同第5,631,150号、同第5,759,828号、同第5,888,783号、および同第5,919,670号を参照されたい。
【0120】
本明細書において使用される場合、「遺伝子操作」という用語は、インビトロ技術、インビボ技術、またはインビトロ技術とインビボ技術の両方の組合せのいずれかによるポリヌクレオチド配列の意図的な変更を意味する。「遺伝子操作」は、染色体中へまたは染色体外で複製するエレメントとしてのいずれかの非ヒト生物への異種ポリヌクレオチド配列の導入、染色体ポリヌクレオチド配列の変更、染色体遺伝子またはプラスミドにコードされた遺伝子に対する転写調節シグナルおよび/または翻訳調節シグナルの付加および/または置換、ならびに関心対象の遺伝子への様々な挿入変異、欠失変異、および置換変異の導入を含む。インビトロおよびインビボの遺伝子操作のための方法は、当業者に広く知られている。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Press (1989)、ならびに米国特許第4,980,285号、同第5,631,150号、同第5,759,828号、同第5,888,783号、および同第5,919,670号を参照されたい。
【0121】
本明細書において使用される場合、「機能的に連結される」とは、構成要素の正常な機能が果たされ得るような近接した配置(juxtaposition)を意味する。したがって、制御配列に「機能的に連結された」コード配列とは、これらの配列の制御下でコード配列が発現され得る配置を意味する。このような制御は、直接的、すなわち、単一の遺伝子が単一のプロモーターに関連付けられている場合もあれば、間接的な場合もあり、その場合、単一のプロモーターからポリシストロニックな転写物が発現される。例えば、米国特許第4,980,285号、同第5,631,150号、同第5,707,828号、同第5,759,828号、同第5,888,783号、および同第5,919,670号、ならびにSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Press (1989)を参照されたい。
【0122】
本明細書において使用される場合、「過剰発現」は、遺伝子発現に関係する。遺伝子および遺伝子産物は、過剰発現され得る。このような遺伝子産物には、RNA、タンパク質、および酵素が含まれる。他方、「過剰生産する」は、蓄積する細胞生産物、特に、何らかの特定の用途のために回収される予定である細胞生産物に関係する。したがって、タンパク質、材料(例えばポリマー)、および代謝産物(例えばアミノ酸)が過剰生産される。タンパク質は、(遺伝子発現の制御に関する場合)過剰発現され得るか、または(タンパク質の蓄積に関する場合)過剰生産され得る。エルゴチオネインの「過剰生産」とは、エルゴチオネインを「過剰生産」する細胞が、与えられた一組の増殖条件下で、エルゴチオネインを「過剰生産」しない類似細胞よりも各細胞につき多くのエルゴチオネイン分子を生産することを意図する。
【0123】
本明細書において使用される場合、「プロモーター」という用語は、当技術分野において認識されている意味を有しており、RNAポリメラーゼ結合および転写開始に備えるDNA配列を含む遺伝子の一部分を示す。プロモーター配列は、常にではないが普通、遺伝子の5'非コード領域中に存在する。転写開始において機能するプロモーター内の配列エレメントは、しばしば、コンセンサスヌクレオチド配列を特徴とする。有用なプロモーターには、構成的プロモーターおよび誘導性プロモーターが含まれる。多くのこのようなプロモーター配列は、当技術分野において公知である。例えば、米国特許第4,980,285号、同第5,631,150号、同第5,707,828号、同第5,759,828号、同第5,888,783号、同第5,919,670号、およびSambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Press (1989)を参照されたい。他の有用なプロモーターには、構成的でもなく、特定の(または公知の)誘導物質分子に対して応答性でもないプロモーターが含まれる。このようなプロモーターには、発達上のきっかけ(cues)(例えば、培養物の増殖期もしくは細胞分化の段階)または環境上のきっかけ(例えば、pH、浸透圧調節物質、熱、もしくは細胞密度)に応答するものが含まれ得る。異種プロモーターとは、天然にはその遺伝子に連結していないプロモーターである。異種プロモーターは、同じ種または異なる種に由来してよい。例えば、異種プロモーターは、その遺伝子と同じ生物に由来するが、天然では異なる遺伝子に連結していることが判明しているプロモーターであってよい。
【0124】
本明細書において使用される場合、「導入遺伝子」という用語は、ポリヌクレオチド配列に関して使用される際、細胞中に天然には存在しないポリヌクレオチド配列を意味する。したがって、「導入遺伝子」という用語は、ある1つの種のポリヌクレオチド配列が異なる種(または株)の細胞に移入された場合だけでなく、例えば、遺伝子Aおよび遺伝子Bが同じ生物に由来する場合の、構造遺伝子Bに機能的に結合された遺伝子Aのプロモーターも含む。また、「導入遺伝子」という用語は、そのように改変された導入遺伝子のクローンも含む。米国特許第4,980,285号、同第5,631,150号、同第5,707,828号、同第5,759,828号、同第5,888,783号、および同第5,919,670号を参照されたい。
【0125】
本明細書において使用される場合、「培地」、および「細胞培養培地」という用語は、インビトロでの細胞(すなわち、細胞培養物)の増殖を援助するのに適している媒体を意味する。この用語は、いかなる特定の細胞培養培地に限定されることも意図しない。例えば、この定義は、増殖培地ならびに維持培地を包含すると意図される。実際、この用語は、関心対象の細胞培養物の増殖に適している任意の培地を包含することが意図される。
【0126】
本明細書において使用される場合、「細胞型」という用語は、供給源にも特徴にも関わらず、任意の細胞に関係する。
【0127】
本明細書において使用される場合、「形質転換細胞株」という用語は、本明細書において説明する特徴を有する連続的な細胞株に形質転換された細胞培養物を意味する。
【0128】
本明細書において使用される場合、「形質転換された非ヒト生物」という用語は、形質転換された初代対象細胞および形質転換されたその子孫を含む。非ヒト生物は、原核性または真核性であってよい。したがって、「形質転換体」または「形質転換細胞」は、移入(transfer)の回数に関わらず、導入遺伝子によって形質転換された初代対象細胞およびそれに由来する培養物を含む。また、意図的または偶発性の変異および/または改変が原因で、あらゆる子孫のDNA内容がまったく同一ではない場合があることも理解されている。最初に形質転換された細胞においてスクリーニングされたのと同じ機能性を有する変異子孫が含まれる。異なる呼称が意図される場合、それは文脈から明らかであると考えられる。例えば、米国特許第4,980,285号、同第5,631,150号、同第5,707,828号、同第5,759,828号、同第5,888,783号、同第5,919,670号、およびSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., 60 Cold Spring Harbor Press (1989)を参照されたい。
【0129】
本明細書において使用される場合、「単離された」という用語は、天然状態から「人の手によって」変更されたことを意味する。「単離された」組成物または物質とは、その本来の環境から変化させられたか、もしくは取り出されたか、または両方をされたものである。例えば、この用語が本明細書において使用される場合、細胞または生きている動物中に天然に存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、「単離されて」いないが、天然の状態の共存する材料から切り離された同じポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、「単離されて」いる。
【0130】
本明細書において使用される場合、「誘導体」という用語は、「親」化合物と呼ばれ得る、別の、すなわち「元の」物質に構造的に関連している化学物質を意味する。「誘導体」は、1つまたは複数の段階で、構造的に関連した親化合物から作製され得る。「密接に関連した誘導体」という語句は、その分子量の増加分が親化合物の重量の50%以下である誘導体を意味する。また、密接に関連した誘導体の一般的な物理的特性および化学的特性は親化合物に類似している。
【0131】
以前に示されていない範囲にわたって、本明細書において開示される他の態様のいずれかに示される特徴を組み入れるために、本明細書において説明され例示される様々な態様のいずれか1つをさらに変更できることが、当業者に理解されると考えられる。
【0132】
以下の実施例は、本発明のいくつかの態様および局面を例示する。様々な修正、追加、および置換などを、本発明の精神も範囲も変更することなく実施できること、かつそのような修正および変化が、以下の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲内に包含されることが、関連技術分野の熟練者には明らかであると考えられる。以下の実施例は、本発明を全く限定しない。
【実施例】
【0133】
実施例1:代謝工学によるエルゴチオネイン生産(インビトロの酵素的アプローチ)
エルゴチオネイン生合成遺伝子クラスターの同定
エルゴチオネインおよびオボチオール(5および7、
図1)は、1909年にTanretによって麦角から単離された2種のチオール-イミダゾール含有代謝産物である
[1]。ヒトにはエルゴチオネイン特異的輸送体が存在するため
[2]、我々は食事に由来するエルゴチオネインを少数の器官(例えば、肝臓、腎臓、中枢神経系、および赤血球)においてミリモル濃度に濃縮することができる
[3]。他のチオールとは違って、エルゴチオネインおよびオボチオールのチオール-イミダゾール側鎖のチオラート型とチオン型の平衡は、チオン型(例えば、
図1Aの5)に優勢に傾き(favors predominantly)
[3f、4]、これにより、他のチオール(例えばグルタチオン)と比べて酸化に対してはるかに安定になっている
[4a]。エルゴチオネインの独特の酸化還元特性
[4a、5]のおかげで、エルゴチオネインは赤血球においてヘモグロビンが酸化されないように守り、水晶体に白内障が形成するのを防ぐことができる
[6]。さらに、エルゴチオネインは、細胞の金属解毒のための金属キレート剤としても機能することができる。現在、エルゴチオネインは、数十億ドルの市場規模を有する多くの市販製品(抗老化化粧品、保存剤、栄養補助食品、毛髪および爪の成長促進製品など)の重要な成分の1つとして幅広く使用されている。
【0134】
全ゲノム解析のためのバイオインフォマティクスツールと生化学的特徴付けの組合せを用いて、エルゴチオネイン生合成経路(
図1)が2010年にSeebeckによって提唱された
[7]。エルゴチオネイン(5)の構造を解析する場合、それがメチル化されチオールケトン官能基を有するヒスチジン誘導体であることが明らかである。Seebeckは、3種のエルゴチオネイン生合成生物、すなわちマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)、スメグマ菌、およびアカパンカビのゲノムを解析した。M.アビウムのゲノムには、メチル基転移酵素として注釈付けられる78種の遺伝子がある
[8]。それら78種のメチル基転移酵素の内で、アカパンカビ(N. crassa)においてホモログを有するものは29種しかない。大腸菌および枯草菌(Bacillus subtilis)はエルゴチオネインを生産しないため、29種の残りのメチル基転移酵素の内で、大腸菌または枯草菌のいずれかにおいてホモログを有するものを、次いでさらに除外した。バイオインフォマティクスツールを用いた全ゲノム解析においてポジティブ選択規則およびネガティブ選択規則を適用することによって、Seebeckは、メチル基転移酵素の数を10個まで絞り込む。細菌における二次代謝産物生合成のための遺伝子はクラスター形成してオペロン構造体となる傾向があるため、残り10種のメチル基転移酵素の近隣をさらに解析することにより、彼は、スメグマ菌中の1つの候補(MSMEG_6247、以下、
図1のEgtDと名付ける)まで絞り込む。遺伝子クラスター中のメチル基転移酵素(EgtD)のほかに、EgtA(MSMEG_6250)はγ-グルタミルシステインリガーゼをコードし、EgtBの機能は未知であり、EgtCはアミドトランスアミダーゼであり、EgtEはPLP依存性酵素であると思われる。さらに、Seebeckは、インビトロで活性を実証することによって、EgtA、EgtB、EgtC、およびEgtDの機能も確認した。Seebeckによれば、EgtEは多大な努力にも関わらずそれらから発現させることができなかったため、提唱されたC-Sリアーゼ活性(EgtE)は確認されなかった
[9]。
【0135】
エルゴチオネインとオボチオールの間には顕著な類似性があるため、オボチオール生産株のEgtBホモログが、オボチオール生合成におけるC-S結合形成を担っている可能性があると仮説が立てられた。実際、オボチオール生産株であるエルウィニア・タスマニエンシスのこのようなホモログ(OvoA、
図1B)が、E.タスマニエンシスゲノムにおけるEgtBホモログの検索によって同定された。OvoAを大腸菌において過剰発現させ精製した後、精製された酵素は、ヒスチジンとシステインの結合を触媒して、スルホキシド(6、
図1B)を形成させる
[10]。オボチオール生合成経路の残りは、まだ特定されないでいる。
【0136】
エルゴチオネインは、多くの市販製品で重要な成分の内の1つとして広く使用されているため、大きな需要がある。しかしながら、現在使用されている化学合成スキームは効率的ではなく
[11]、天然供給源(例えばキノコ)からの単離は、天然存在量が少ないため、実用的ではない。エルゴチオネインおよびオボチオールの生合成遺伝子クラスターの同定が、エルゴチオネインおよびオボチオールの生合成ならびに代謝工学によるそれらの生産のより詳細な機構的研究のきっかけとなる。
図1のスキームに従い代謝工学によってエルゴチオネインを生産する場合、次の3つの問題がある:
(i)EgtBの活性が低い。EgtBは単環式の非ヘム鉄酵素であると提唱されている。現在の活性が低い。本発明者らは、活性を向上させるか、またはより優れた活性を有する酵素を発見する必要がある。
(ii)EgtEタンパク質を過剰発現させることができない。これまで、EgtE過剰発現の成功に関する文献報告はない。エルゴチオネイン生合成経路を再構成するためには、この問題を解決しなければならない。
(iii)現在のエルゴチオネイン生合成経路を最適化する必要がある。天然のエルゴチオネイン生合成経路、特に酸化的C-S結合形成段階(EgtB触媒)を最適化する必要がある。さらに、
図1Aの経路に従うと、エルゴチオネインとグルタチオンの生合成の間に競合がある。
【0137】
図1の天然エルゴチオネイン生合成経路の場合、EgtBはヘルシニン(2)およびγ-Glu-Cysを酸化的に結合して3を形成させる。次いで、3のグルタミン酸が別の酵素EgtCによって加水分解されて、EgtE基質4を形成させる。ヘルシニン(2)とCysの直接的酸化的結合を触媒できる酵素(
図1の赤い矢印)を同定することができた場合には、少なくとも2つの利点が与えられると考えられる。すなわち、1)エルゴチオネイン生合成経路が2段階短縮される;2)γ-Glu-Cysがグルタチオン生合成経路の基質でもあるために起こるエルゴチオネイン生合成およびグルタチオン生合成の競合が解消される。グルタチオンは、細胞内還元電位を調節するのに使用される重要分子の内の1つであり、mM濃度の単位で存在するため、そのような競合を解消することにより、高レベルエルゴチオネイン生産条件下での細胞ストレスが軽減され、代謝工学による高レベルエルゴチオネイン生産にとってかなり有利となる。
【0138】
本発明は、上記の問題すべてに取り組み、その結果、新しいエルゴチオネイン生合成経路を得、その態様を
図2に示している。
【0139】
単環式の非ヘム鉄酵素の活性の向上
単環式の非ヘム鉄酵素(例えば、EgtB、OvoA)を改良するのに不可欠な段階として、本発明者らは、少なくとも2種の異なる活性アッセイ法を開発した。したがって、これらのアッセイ法は、これらの酵素の活性を向上させるにあたっての本発明者らの取り組みを目標へと導くのに使用される。
【0140】
活性アッセイ法
EgtB触媒およびOvoA触媒の両方に関する2つの異なるアッセイ法を考案した(
図3)。EgtBおよびOvoAは両方とも酸化酵素であることが提唱されており
[9〜10]、HisとCysの間の酸化的結合を触媒してC-S結合を形成させる。同時に、硫黄を酸化してスルホキシドにする。全体的なプロセスは、イソペニシリンN合成酵素の場合に類似した4電子酸化プロセス(
図1)である
[12]。Seebeckによる最初の報告では、彼らは260nmにおける吸収変化をモニターすることによって反応をモニターした。これは、酸化生成物(3または6、
図1)がこの領域に吸収を有するためであった。しかしながら、それはあまり感度が高くない。嫌気条件下では検出可能な生成物が形成されなかったため、酸素が必要である。この特徴に基づいて、本発明者らは、NeoFoxy酸素電極(
図3-I-A)を用いて酸素消費速度(
図3-I-B)をモニターすることによるEgtB活性アッセイ法およびOvoA活性アッセイ法を考案した。このアッセイ法(
図3-I-B)をルーチンのアッセイ法として使用して、EgtB活性およびOvoA活性のための条件を最適化した。
【0141】
酸素添加酵素または酸化酵素によって触媒される反応に関して、潜在的な問題には、副反応の存在、非生産的な酸素消費、または酵素それ自体の酸化的不活性化が含まれる。複数の活性アッセイ法により、それらの状況を解析するための有用な情報が提供される。この目的を達成するために、酸素消費アッセイ法に加えて、本発明者らは、生成物形成を直接的にモニターするために
1H-NMRアッセイ法も考案した(
図3-II)。
1H-NMRにおいて、両方の生成物(3および6、
図3-II)ならびに基質(1および2)中のイミダゾールH原子の化学シフトは、反応混合物のその他のものから十分に離れている。したがって、生成物を分離する必要なく、反応混合物をルーチン的に解析することができる。
図3-II-B(OvoA触媒)において、6.93ppmおよび7.70ppmに化学シフトを有するシグナルは、2つのヒスチジンイミダゾールH原子に帰属する。7.83ppmのシグナルは、酸化的結合生成物6のイミダゾールH原子に由来する。一方、酸化生成物3(EgtB触媒)の場合、そのイミダゾールH原子は、7.10ppmの化学シフトを有している(
図3-II-B)。したがって、酸素消費アッセイ法と
1H-NMRアッセイ法を組み合わせて使用することにより、本発明者らは、次のいくつかの機構的特徴を得ることができる:1)酸素消費と生成物形成の比率;2)生成物のC-S結合の領域選択性;3)提唱されている酸化的C-S結合形成以外の反応の存在。
【0142】
向上したOvoA活性
EgtBおよびOvoAは単環式の非ヘム鉄酵素であると提唱されているため、それらが鉄を含む酵素である場合、触媒的代謝回転過程の間に不活性化される可能性がある。酸素消費アッセイ法を用いて、本発明者らは、Seebeckによって報告されている活性と比べて300倍にOvoA活性を向上させた(k
catが572±20/分)
[10]。これは、次のいくつかの因子を組み合わせた結果である:1)本発明者らは、好気的ではなく嫌気的にOvoAを精製して、精製過程の間にOvoAが不活性化される機会を最小限にした;2)精製したOvoAをFe
2+を用いて嫌気的に再構成;3)触媒的代謝回転過程の間にFe
2+をFe
3+に酸化することによって一部のOvoAが実際に不活性化される場合、Fe
3+を還元してFe
2+に戻すために反応緩衝液中にアスコルビン酸を含める。理論に拘束されることを望むものではないが、これらの戦略は、EgtBタンパク質およびNcEgt1タンパク質にも応用することができる。
【0143】
これらの初期の結果から、EgtBおよびOvoAのインビボ活性の向上に関する将来の研究に方向性が定められ(points directions)、以下が含まれる:1)培地にFeを補充すること。2)インビボでの有効性を最大にするために金属酵素(EgtBまたはOvoA)の取込みおよび成熟が不可欠であるため、エルゴチオネイン生産株を作製するためにFe取込み系が使用され得る(例えば、シデロホア生合成遺伝子クラスター)。
【0144】
単環式の非ヘム鉄酵素の活性の向上
Seebeckは、インビトロで活性を実証することによって、EgtA、EgtB、EgtC、およびEgtDの機能を確認した。しかしながら、EgtE生産に関する様々な方法の検討に彼らが多大な努力を費やしたにもかかわらず、EgtEタンパク質は、過剰発現させることも精製することもできなかった
[9]。したがって、合成生物学によるエルゴチオネイン生産は不可能である。本発明者らの予備研究において、本発明者らは、EgtEを過剰発現させ精製することに成功した(
図4A)。精製EgtEのUV可視スペクトルを
図4Bに示しており、400nm付近での吸収特徴は、PLP補助因子の存在と一致している。これらの試みから得られた最も重要な発見の内の1つは、EgtEが別の遺伝子、例えばFAD合成酵素と呼ばれる遺伝子と共に同時発現される必要があり得るということである。
【0145】
エルゴチオネイン生産生合成経路を最適化する
上記のセクションにおいて、本発明者らはEgtEの問題を解決することに成功した。これにより、代謝工学によるエルゴチオネイン生産が可能になる。しかしながら、もともとのエルゴチオネイン生合成経路(
図1A)は効率的ではない。この問題を解決するために、本発明者らは、
図2に概説したように、ヘルシニン(2)とCysを直接的に酸化的結合することができる酵素の探索を開始した。バイオインフォマティクス解析と酸素アッセイ法および
1H-NMRアッセイ法を用いた活性解析との組合せによって、このような酵素の内の2種(
図1BのOvoAおよびアカパンカビに由来するNcEgt-1
[13])が同定された。
【0146】
Seebeckの初期の報告によれば
[9〜10]、EgtBおよびOvoAは、それらの基質嗜好性および生成物のC-S結合の位置選択性の両方に基づいて、お互いを区別する(
図1)。エルゴチオネイン(5)中のC-S結合は、ヒスチジンε炭素上に位置しているのに対し、オボチオールでは、C-S結合はヒスチジンδ炭素上に位置している(8)。また、それらの基質嗜好性も異なっている。EgtBは、ヘルシニン(2)とγ-Glu-Cysの酸化的結合を触媒する。OvoAは、HisとCysを優先的に結合する(
図1B)。
図2に概説する目的を達成するための第1段階として、本発明者らは、ヘルシニン(2)およびCysを基質として用いてEgtB活性を検査した。Seebeckが最初に報告したように、EgtBはCysを基質として認識することができない。したがって、EgtBを触媒として用いてヘルシニン(2)とCysの直接的な結合を実現することは不可能である。そのような所望の酵素は、EgtBの基質特異性を変えるためにEgtBを一定方向に進化させることによって(directed evolution)、またはCysを好む酵素を探索することによって、得ることができる。同定されたそのような酵素の内の1つはOvoAである。OvoAの提唱されている生物活性は、HisとCysの酸化的結合であり、実際、OvoAは、提唱されているこの活性を有している(
図1B)。意外なことに、ヘルシニン(2)を用いて基質としてのHisを置き換えたところ、本発明者らは、OvoAがヘルシニン(2)も基質として利用できることを発見した。空気飽和させたHEPES緩衝液中でのOvoAの動態解析により、Cysとヘルシニン(2)の酸化的結合に関する次の動態パラメータが明らかになった:ヘルシニンに関するk
catは270±5/分、K
mは395±30μΜであり、Cysに関するK
mは3.19±0.41mM。k
catは、Hisを基質として用いた反応のk
catの2分の1に過ぎない。
【0147】
より重要なことには、生成物を
1H-NMRアッセイ法によって解析した場合、生成物は、天然のOvoA反応のC-S連結を有する化合物(
図1Bおよび
図5A)ではなく、化合物4(
図5C)である。OvoA触媒によるヘルシニン(2)とCysの結合反応の
1H-NMRスペクトルにおいて、新しいシグナルが7.45ppmの位置に認められる。
図3において考察される情報によると、このシグナルは、EgtBタイプの結合生成物のイミダゾールH原子に由来する可能性が最も高く、これは、Cysとヘルシニン(2)がヒスチジンのδ炭素ではなくε炭素で酸化的に結合していることを暗示し、その結果、本発明者らは、4をOvoA触媒によるCysとヘルシニンの酸化的結合生成物として最初に対応付けた(
図5C)。決定的な答えを提供するために、ヘルシニン(2)とCysの酸化的結合生成物を単離し、質量分析法およびいくつかのNMR分光法(最初の原稿の情報を裏付ける、
1H-NMR、
13C-NMR、ならびにCOSY、HMBC、およびHMQCを含む2D-NMR)によって特徴を明らかにした。これらのデータはすべて、ヘルシニン(2)とCysの直接的酸化的結合に由来するOvoA触媒による4の生産を裏付ける強力な証拠を提供するものであるため、本発明者らは
図2に概説する目的、すなわち2から4への1段階変換を達成することができる。
【0148】
この刺激的な発見に基づいて、本発明者らは、アカパンカビに由来する別のタンパク質NcEgt-1も検査した
[13]。実際、NcEgt-1もまた、ヘルシニン(2)とCysの酸化的結合を触媒して、OvoA触媒による2→4変換とほぼ同等の活性を有する4を形成させる。
【0149】
要約すれば、本発明者らの研究において、本発明者らは、3つの課題すべてを克服して、代謝工学によるエルゴチオネイン生産を実現した:1)金属酵素の活性を司る因子の同定(OvoA、EgtB金属補助因子の導入(installation)および酵素不活性化の防止);2)生合成経路を単純化するための直接的な2→4変換の成功およびエルゴチオネイン生合成とグルタチオン生合成の競合の解消;3)EgtEタンパク質を過剰発現させるための条件を突き止めること。これらの成果を用いて、本発明者らは、
図2に概説した2種の異なるエルゴチオネイン生合成経路を成功裡に確立した:1)EgtEの上首尾な生産後の、本来のエルゴチオネイン経路(
図2A)によるエルゴチオネインの生産;2)直接的な2→4変換を行うことができる酵素の発見およびEgtEの上首尾な生産後の、より短い経路(
図2B)によるエルゴチオネインの生産。後続のセクションにおいて、本発明者らは、発酵によるインビボのエルゴチオネイン生産を説明する。
【0150】
代謝工学によるエルゴチオネイン生産
方法I:
図2に概説した新しいエルゴチオネイン生合成経路に従うと、2段階しか必要とされない:OvoAまたはNcEgt-1(2→4変換)によって触媒される、ヘルシニン(2)とCysの酸化的結合によって化合物4になる段階、およびEgtE触媒によるC-S溶解(lysis)段階(4→5変換、
図2)。EgtE生産は、EgtEが別の遺伝子(例えばFAD合成酵素遺伝子)と同時発現される場合にのみ達成可能であるため、したがって、最小限のエルゴチオネイン生合成遺伝子クラスターは、3種の遺伝子(OvoAまたはNcΔEgt-1、EgtE、およびFAD合成酵素)を用いて組立てられ得る。本発明者らは、pETDuetベクターのマルチクローニング部位IにEgtEおよびFADを、マルチクローニング部位IIにNcEgt-1遺伝子をクローニングして、
図6に示すような構築物を作製し、(Ego-1)と名付けた。
【0151】
Ego-1ベクターを用いてエルゴチオネインを生産するために、大腸菌BL(21)DE3細胞にそれをトランスフォームし、Ego-1ベクターを用いて形質転換させることができ、100μg/mLのアンピシリン(Amp)を補充したLBプレート上で所望の細胞を選択する。エルゴチオネインを生産するために、上記の細胞の一晩培養物を用いて、37℃で(100μg/mL Amp、1mMヘルシニン、1mM Cys、および1mM Metを補充した)新鮮なLB培地またはTB培地に播種する。OD
600が0.6に達した場合、培地の温度を25℃に下げ、0.4〜1mMのIPTGを添加してNcEgt-1、EgtE、およびFAD合成酵素の生産を誘導することによって、エルゴチオネイン生産を開始する。エルゴチオネイン生産は、培地1mLを抜き取り
1H-NMRによってヘルシニン濃度を経時的に直接解析することによって、モニターすることができる。ヘルシニンすべてが消費されるか、またはエルゴチオネイン生産がそれ以上増えなくなったら、発酵工程を停止する。上清および細胞を遠心分離によって分ける。上清および細胞沈殿物の両方に由来するエルゴチオネインを、イオン交換クロマトグラフィーを用いて単離した。
【0152】
方法II:方法Iを用いる場合、本発明者らは、自分達の研究室で化学的に合成したヘルシニン(2)を培地に補充する必要がある。発酵費用をさらに削減するために、本発明者らは、pACYCDuetベクターのマルチクローニング部位IIにEgtD遺伝子を、マルチクローニング部位IにSAM合成酵素遺伝子をクローニングすることによって、第2のプラスミド(Ego-2)を作り出した。ヒスチジンをメチル化してヘルシニン(2)にするのを担っているEgtD遺伝子を導入することにより、本発明者らは、ヘルシニン(2)の代わりにHisを培地に補充することができ、これにより、発酵費用がさらに削減されると考えられる。このメチル化過程は別の補助基質、すなわちS-アデノシルメチオネイン(adenosylmethioneine)(SAM)を必要とするため、SAM合成酵素を導入することにより、His→ヘルシニン(2)変換におけるEgtDの最大活性が確実になると考えられる。SAM合成酵素の基質はHisに加えてメチオニンおよびATPであるため、別の培地補助成分としてMetが含められる。
【0153】
最適条件下でエルゴチオネインを生産するために、Ego-1およびEgo-2の両方でBL21(DE3)大腸菌細胞を形質転換し、100μg/mL Ampおよび20μg/mLクロロフェニコールを補充したLBプレート上で選択する。次いで、BL21(DE3)-Ego1-Ego2の一晩培養物を用いて、37℃で、100μg/mL Ampおよび20μg/mLクロロフェニコール、1mM His、1mM Metを補充した新鮮なLB培地またはTB培地に播種する。OD
600が0.6に達した場合、温度を25℃に下げ、0.4〜1mMのIPTGを用いてエルゴチオネイン生産を誘導する。エルゴチオネイン生産は、培地1mLを抜き取り
1H-NMRによってHis濃度を経時的に直接解析することによって、モニターすることができる。Hisすべてが消費されるか、またはエルゴチオネイン生産がそれ以上増えなくなったら、発酵工程を停止する。上清および細胞を遠心分離によって分ける。上清および細胞沈殿物の両方に由来するエルゴチオネインを、イオン交換クロマトグラフィーを用いて単離した。
【0154】
エルゴチオネインの1つの無細胞の酵素的転換合成において、反応混合物は、TCEP緩衝液中にOvoA、EgtE、ヘルシニン、およびシステインを含んだ。反応は、好気条件下、25℃で行った。
1H-NMRによって反応をモニターし、反応が完了したら、イオン交換クロマトグラフィーによってエルゴチオネインを精製した。
参考文献:
【0155】
本明細書および実施例において特定される特許および他の刊行物はすべて、あらゆる目的のために参照により本明細書に明確に組み入れられる。これらの刊行物は、本出願の出願日より前のそれらの開示を示すためだけに提供される。この点に関するいかなる事も、本発明者らが、以前の発明のせいで、または他のなんらかの理由のために、そのような開示に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。日付に関する記載またはこれらの文献の内容に関する表現はすべて、出願者が入手可能な情報に基づいており、これらの文献の日付または内容の正確さについて認めようとするものでは決してない。
【0156】
好ましい態様を本明細書において詳細に示し説明してきたが、様々な修正、追加、および置換などを、本発明の精神から逸脱することなく実施できること、ならびに、したがって、これらが、以下の特許請求の範囲において定義される本発明の範囲内にあるとみなされることが、関連技術分野の熟練者には明らかであると考えられる。さらに、以前に示されていない範囲で、本明細書において開示される他の態様のいずれかに示される特徴を組み入れるために、本明細書において説明され例示される様々な態様のいずれか1つをさらに変更できることが、当業者に理解されるであろう。