(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
建築物の省エネルギー化のために、様々な断熱材が用いられている。このような断熱材としては、発泡樹脂系断熱材、ロックウール系断熱材、グラスウール系断熱材等を挙げることができる。
【0003】
ロックウール系断熱材、グラスウール系断熱材等の無機繊維系断熱材を用いた場合、例えば住宅の壁は、
図1の水平方向断面図に示すような構造を有する場合がある。すなわち、住宅の壁は、屋内側から屋外側へと、壁紙11、石膏ボード等である内壁材12、ポリエチレンシート等の気密性の防湿シート13、柱又は間柱15間の無機繊維系断熱材14、構造用合板16、透湿防水性シート17、通気胴縁18によって形成される通気層19、及び外壁材(サイディング)20を有する場合がある。無機繊維系断熱材14と、透湿防水性シート17との間に、さらに追加で断熱材を与えてもよい。
【0004】
住宅等の壁は、防湿シート13を有することによって内部の気密性を高めることができる。また、防湿シートより屋外側に位置する無機繊維系断熱材に入り込んだ水分は、無機繊維系断熱材の断熱性能を低下させうるが、この水分は、透湿防水性シートを通過し、さらに通気層から排出させることができる。
【0005】
住宅等の床については、
図2に示すような構造を有する場合がある。すなわち、住宅の床は、屋内側から地面側へと、床材(床仕上材+床下地材)21、防湿シート22、根太23間の無機繊維系断熱材24、大引25間の無機繊維系断熱材26、及び透湿防水性シート27を有する場合がある。大引25は、床束28によって支えられている。例えば、床材21の床下地材を防湿性とすることで防湿シート22を用いなくてもよい。
【0006】
このような構造体を構成するためには多くの工程及び作業を必要とするため、様々な検討がなされてきた。例えば、特許文献1は、無機繊維系断熱材を防湿シートの袋で被覆して、袋の耳部分を柱に固定する、断熱構造体の施工方法を開示している。この方法によれば、防湿シートを壁全面に貼り付ける手間が省けるとしている。また、防湿シートは、屋内側に配置する袋の面を防湿性とした上で、袋内に入り込んだ水分を逃すために、屋外側に配置する袋の面に孔を設けることが好ましいとしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に記載の方法によって、断熱構造体を施工する場合、作業者が誤って袋入り断熱材の防湿面が外側になってしまうと、断熱性が著しく低下してしまうおそれがある。
【0009】
また、特許文献1では、隣り合った袋入り断熱材の耳部分同士を重ね合せて固定することで、防湿シートを事実上連続的に施工して気密性を確保できるとしているが、この工程を正確に行わない場合には、住宅内部の気密性が失われてしまう。また、この工程を正確に行おうとすると、むしろ防湿シートを壁全面に貼り付ける方が、作業負担が低い場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、運搬が容易で、かつ施工時の取扱いも容易である袋入り断熱材及びそれを含む断熱構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、以下の態様を有する本発明によって上記課題を解決できることを見出した:
《態様1》
第1主面及び第2主面並びに側面を有する無機繊維系断熱材、及び前記無機繊維系断熱材を被覆する袋状の表皮材を含む、袋入り断熱材であって、
前記表皮材は、前記無機繊維系断熱材の少なくとも第1主面及び第2主面を被覆する部分に、複数の通気性開孔部を有する、態様1に記載の袋入り断熱材。
《態様2》
前記表皮材は、無機繊維系断熱材を収納した状態で、耳部分を有する、態様1に記載の袋入り断熱材。
《態様3》
前記無機繊維系断熱材の密度が、35kg/m
3以下であり、かつ200〜800mmの幅、800〜3500mmの長さ、40〜200mmの厚さを有する、根太間に用いるための態様2に記載の袋入り断熱材。
《態様4》
前記無機繊維系断熱材の密度が、35kg/m
3以下であり、かつ700〜2000mmの幅、700〜2000mmの長さ、40〜200mmの厚さを有する、大引間に用いるための態様2に記載の袋入り断熱材。
《態様5》
幅と長さが実質的に同一の寸法を有している、態様4に記載の袋入り断熱材。
《態様6》
前記無機繊維系断熱材の幅と長さの寸法の差が、50mm以上300mm以下である、態様4に記載の袋入り断熱材。
《態様7》
防湿材、構造部材、前記構造部材間の態様1〜6のいずれか一項に記載の袋入り断熱材、及び透湿防水性シートを含む、断熱構造体。
《態様8》
以下の工程を含む、既存建築物の床下に断熱材を施工する方法:
700mm以下×700mm以下の床下点検口から、態様1〜6のいずれか一項に記載の袋入り断熱材を床下に運ぶ工程;並びに
前記袋入り断熱材を根太間及び/又は大引間に設置して、前記袋入り断熱材を前記根太間及び/又は大引間に固定する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明の袋入り断熱材によれば、運搬が容易で、かつ施工時の取扱いも容易である。したがって、欠陥のない断熱構造体を容易に構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0015】
《袋入り断熱材》
本発明の袋入り断熱材は、第1主面及び第2主面並びに側面を有する無機繊維系断熱材、及びその無機繊維系断熱材を被覆する袋状の表皮材を含む。無機繊維系断熱材は、触れるとチクチクとしびれる感触を有しているため、無機繊維系断熱材が袋状の表皮材に収納されていることで、断熱材として取扱いがし易くなる。さらに、この袋入り断熱材は、無機繊維系断熱材からの繊維片の飛散を防ぐことができる。
【0016】
表皮材は、少なくとも無機繊維系断熱材の第1主面及び第2主面を被覆する部分の両側に、複数の通気性開孔部を有する。これにより、繊維片の飛散を実質的に防ぎながら、袋入り断熱材の内部に入った水分を排出することができ、また圧縮して梱包し、運送することができる。通気性開孔部が無機繊維系断熱材の第1主面及び第2主面を被覆する部分の両側に存在することによって、この袋入り断熱材は、第1主面と第2主面とを区別なく使用することができ、それにより施工時に発生しうる、施工ミスをなくすことができる。
【0017】
本発明の袋入り断熱材は、例えば床下の根太間若しくは大引間、天井裏、又は壁の柱(間柱)間に設置するための断熱材であり、好ましくは、根太間若しくは大引間又は天井裏に設置するための断熱材である。特に、本発明の袋入り断熱材は、既存建築物の床下の根太間に設置するための断熱材である。また、本発明の袋入り断熱材は、既存建築物の床下の大引間に設置するための断熱材である。
【0018】
本発明の袋入り断熱材を床構造の一部として用いる場合には、防湿シートを使用しなくても、無機繊維系断熱材に結露が予想外にも発生しにくいことが分かった。これは、床材が防湿性を有しているためであると考えられる。
【0019】
図3(a)及び(b)に、本発明の袋入り断熱材の実施態様の概略図を例示する。
図3(a)は、表皮材(2)が端部でシール(2b)されて袋状となっている袋入り断熱材(10)を例示しており、
図3(b)は、無機繊維系断熱材(1)の付け根部分で表皮材(2)がシール(2b)されて、無機繊維系断熱材(1)の部分のみが袋状となっている袋入り断熱材(10)を例示している。
【0020】
図3(a)及び(b)に示すように、本発明の袋入り断熱材(10)は、第1主面(1a)及び第2主面(1b)並びに側面(1c)を有する無機繊維系断熱材(1)、及び無機繊維系断熱材(1)を被覆する袋状の表皮材(2)を含む。この表皮材(2)は、少なくとも無機繊維系断熱材(1)の第1主面(1a)及び第2主面(1b)を被覆する部分の両側に、複数の通気性開孔部を有する。また、この実施態様では、表皮材(2)は、無機繊維系断熱材(1)を収納した状態で、無機繊維系断熱材の第1主面、第2主面、及び/又は側面から延出している耳部分(2a)を有する。
図3(a)では、耳部分(2a)は袋体の一部であり、
図3(b)では、耳部分(2a)が2枚のフィルムとなっている。
【0021】
〈無機繊維系断熱材〉
本発明で用いる無機繊維系断熱材は、第1主面及び第2主面並びに側面を有し、好ましくは略直方体の形状を有する。すなわち、本発明で用いる無機繊維系断熱材は、幅、長さ、及び厚さを有してもよい。略直方体とは、直方体である必要はなく、本発明の課題を解決できる形状であれば、あらゆる形状を含むものとする。
【0022】
本発明で用いる無機繊維系断熱材は、袋入り断熱材を根太間又は柱(間柱)間に挿入する場合に、例えば200mm〜800mm、200mm〜600mm、250mm〜500mm、250〜450mm、350〜500mm、400〜450mm、200〜350mm、250〜300mm等の幅を有していてもよい。また、本発明で用いる無機繊維系断熱材は、800mm以上、1000mm以上、1200mm以上、1500mm以上、又は1800mm以上、かつ3500mm以下、3000mm以下、2500mm以下、又は2000mm以下の長さを有していてもよい。さらに、本発明で用いる無機繊維系断熱材は、40mm以上、又は50mm以上、かつ200mm以下、150mm以下、120mm以下、又は100mm以下の厚さを有していてもよい。このような範囲である場合、根太間又は柱(間柱)間に挿入する場合に、適切な寸法となる。
【0023】
本発明で用いる断熱材は、好ましくは低い密度を有することでフェルト状の形態を有し、この場合には根太間等の寸法よりも大きい寸法を有していても、縮めて根太間等に挿入することができる。なお、1つの根太間等に、本発明の袋入り断熱材を2つ以上挿入して用いることもできる。
【0024】
本発明の袋入り断熱材を、既存建築物の根太間に挿入する場合には、既存建築物に設置されている既存の根太間の断熱材に追加して、大引上及び/又は大引間の断熱材上に、本発明の袋入り断熱材を設置することができる。特に、既存の根太間の断熱材が、比較的薄い場合には、本発明の袋入り断熱材をその根太間にさらに追加することが有効である。
【0025】
本発明で用いる無機繊維系断熱材は、袋入り断熱材を大引間又は柱(間柱)間に挿入する場合に、700mm以上、又は800mm以上、かつ2000mm以下、1500mm以下、1200mm以下、1100mm以下、又は1000mm以下の幅を有していてもよい。また、本発明で用いる無機繊維系断熱材は、700mm以上、800mm以上、又は900mm以上、かつ2000mm以下、1800mm以下、1500mm以下、1200mm以下、又は1000mm以下の長さを有していてもよい。さらに、本発明で用いる無機繊維系断熱材は、40mm以上、50mm以上、又は60mm以上、かつ200mm以下、150mm以下、120mm以下、又は100mm以下の厚さを有していてもよい。このような範囲である場合、大引間又は柱(間柱)間に挿入する場合に、適切な寸法となる。
【0026】
本発明で用いる無機繊維系断熱材の長さと幅の寸法の差は、50mm以上、100mm以上、150mm以上、200mm以上、250mm以上、又は300mm以上であってもよく、500mm以下、400m以下、300m以下、200mm以下、150mm以下、100mm以下、又は50mm以下であってもよい。本発明の袋入り断熱材の長さと幅の寸法は、実質的に同一であってもよい。
【0027】
本発明で用いる無機繊維系断熱材は、好ましくは低い密度を有することでフェルト状の形態を有し、この場合には大引間等の寸法よりも大きい寸法を有していても、縮めて大引間等に挿入することができる。なお、1つの大引間等に、本発明の袋入り断熱材を2つ以上挿入して用いることもできる。
【0028】
本発明の袋入り断熱材を、既存建築物の大引間に挿入する場合には、既存建築物に設置されている既存の根太間の断熱材を残したままで、本発明の袋入り断熱材を大引間に設置することができる。
【0029】
本発明で用いる無機繊維系断熱材は、好ましくは低い密度を有することで(フェルト状であることによって)縮めることができ、多少の寸法の誤差を気にせずに断熱材を使用することができる。これにより、無機繊維系断熱材の長さと幅が実質的に同一の寸法であっても、無機繊維系断熱材を大引間に挿入することが可能になる。これにより、本発明の断熱材を、縦方向と横方向、さらに裏表の違いを意識せずに、どのような向きでも用いることができる。この場合、1つの大引間又は1つの根太間に挿入する本発明の断熱材は、2つ以上であってもよい。
【0030】
天井裏の断熱材は、部材間に挿入するのではなく、通常は天井面に敷き詰めるだけであるため、天井裏に本発明の袋入り断熱材を用いる場合には、天井裏口から通すことができれば、そこで用いる無機繊維系断熱材の大きさは、特に限定されない。例えば、天井裏に本発明の袋入り断熱材を用いる場合には、そこで用いる無機繊維系断熱材の大きさは、根太間又は大引間について上述した寸法と同じとすることができる。
【0031】
本発明で用いる無機繊維系断熱材としては、具体的にはロックウール及びグラスウールを挙げることができ、特に好適にはグラスウールを用いることができる。
【0032】
本発明で用いる無機繊維系断熱材の密度は、8kg/m
3以上、10kg/m
3以上、又は15kg/m
3以上であってもよく、35kg/m
3以下、30kg/m
3以下、25kg/m
3以下又は20kg/m
3以下であってもよい。本発明で用いる無機繊維系断熱材の密度を比較的低くすることによって、フェルト状になって、変形をし易くすることができる。すなわち、本発明で用いる無機繊維系断熱材は、好ましくは変形させにくいボード状ではない。そのため、例えば450mm×450mm程度(大きくても561mm×561mm)の内寸が一般的である床下点検口から、高さが250mm〜600mm程度(通常では250mm〜400mm又は300mm〜400mm)が一般的である床下に、長い断熱材を運ぶという場合には、比較的密度の低く、変形させやすい無機繊維系断熱材を用いることが好ましい。通常では、根太間等の無機繊維系断熱材の密度は、32kg/m
3超の高密度品であるが、このような無機繊維系断熱材を含む袋入り断熱材は、通常ボード状であるため変形のしにくさに起因して、床下点検口から床下に運ぶことが困難である。
【0033】
本発明で用いる無機繊維系断熱材には、それがフェルト状となるように比較的低い含有量でバインダー樹脂が含まれていてもよい。バインダー樹脂は、無機繊維系断熱材の総重量に対して、0.5重量%以上、1.0重量%以上、又は2.0重量%以上、また10重量%以下、8.0重量%以下、又は6.0重量%以下の範囲で、無機繊維系断熱材に含まれていてもよい。例えば、密度が8kg/m
3以上35kg/m
3以下ある無機繊維系断熱材の場合には、2.0重量%以上6.0重量%以下の含有量でバインダー樹脂を有している場合に、フェルト状の変形しやすい無機繊維系断熱材を得やすい。
【0034】
バインダー樹脂としては、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の無機繊維系断熱材(特にグラスウール)用のバインダー樹脂を挙げることができる。また、ホルムアルデヒドを実質的に放出しない、天然由来からなる材料を主成分とするバインダーを用いてもよい。このようなバインダーとしては、特表2009−517513号、特表2009−517514号等に記載のバインダーを挙げることができる。
【0035】
〈表皮材〉
表皮材は、袋状であり、上述のとおり、少なくとも無機繊維系断熱材の第1主面及び第2主面を被覆する部分の両側に、複数の通気性開孔部を有する。
【0036】
本発明で用いる表皮材は、無機繊維系断熱材を収納した状態で、無機繊維系断熱材の第1主面、第2主面、及び/又は側面から延出している耳部分を有することが好ましい。耳部分を根太、胴縁、間柱、柱等の断熱材を施工する構造部材に、タッカー、釘等を用いて容易に断熱材を固定することが可能となる。このような場合、断熱材を施工する際に用いる受け材等が必要なくなる。特に床下から袋入り断熱材を施工する際には、受け材等の固定部材の施工が困難であるために、極めて有用となる。
【0037】
また、袋入り断熱材を、受け材を用いて固定する場合には、構造部材(例えば、大引)と受け材とで耳部分をサンドイッチすることによって、袋入り断熱材を固定してもよい。この場合、袋入り断熱材を容易に固定することができ、また構造体の防風性を高めることができる。
【0038】
表皮材の耳部分の大きさは、例えば10mm以上、30mm以上、又は50mm以上であり、200mm以下、又は150mm以下とすることができる。耳部分は、4方から延出していてもよく、3方から延出していてもよく、対となるように2方から延出していてもよく、1箇所から延出していてもよい。施工を行う際に断熱材の向きを認識しやすいように、耳部分は、好ましくは対となるように2方から延出させる。
【0039】
通気性開孔部は、無機繊維系断熱材が飛散させる繊維片を実質的に通過させず、かつ気体が通過できれば、特にその形状、大きさ、数等は限定されない。通気性開孔部は、表皮材が無機繊維系断熱材の第1主面及び第2主面を被覆する部分において存在していればよいが、好ましくは表皮材の全体にわたって存在する。通気性開孔部は、例えば直径0.1mm以上、0.5mm以上、又は1.0mm以上で、5.0mm以下、又は3.0mm以下とすることができ、これが表皮材1m
2当りに100個以上、500個以上、又は1000個以上あってもよく、10000個以下、又は5000個以下であってもよい。
【0040】
表皮材の幅及び長さは、用いる無機繊維系断熱材の幅及び長さの寸法以上である。表皮材の厚さは、無機繊維系断熱材を収納していない状態で、例えば、3mm以下、1mm以下、0.5mm以下、0.1mm以下、又は0.05mm以下であってもよい。
【0041】
表皮材の材料としては、ポリオレフィン系樹脂(特に、ポリエチレン系樹脂)、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂等のポリマーフィルムを挙げることができる。また、ポリオレフィン系、ポリエステル系等の合成樹脂の織布又は不織布であってもよく、上記のポリマーフィルムと織布又は不織布との積層体であってもよい。
【0042】
1枚のシート状形態の表皮材を用いて、これで無機繊維系断熱材を包み込んだ後に、3方シールによって、袋状の表皮材を形成してもよい。このような袋状の表皮材は、2枚のシート状形態の表皮材を用いて4方シールによって袋状とするよりも、容易に得ることができる。一方で、2枚のシート状形態の表皮材を用いて4方シールによって袋状とした場合にも、表皮材の耳部分を容易に形成できるため好ましい。
【0043】
表皮材のシール位置は、特に限定されないが、
図3(a)に示すように、表皮材の端部であってもよく、
図3(b)に示すように、無機繊維系断熱材との接触部分の付け根部分であってもよく、無機繊維系断熱材との接触部分と表皮材の端部との中間的な位置にあってもよい。無機繊維系断熱材と表皮材との接触部分の付け根部分でシールした場合には、耳部分は、2枚のフィルムとなることができ、その場合には固定が比較的容易となると共に、袋入り断熱材の中で無機繊維系断熱材が動かなくなるために、取扱いがし易くなる。
【0044】
《断熱構造体》
本発明の断熱構造体は、屋内側から順に、防湿材、構造部材、構造部材間の上記の袋入り断熱材、及び透湿防水性シートを含む。本発明の断熱構造体は、床、壁、天井等の構造の一部又は全部であってもよい。このような構成であれば、欠陥のない断熱構造体を容易に構成することができる。
【0045】
本発明の断熱構造体が床構造の全部である場合、屋内側から、床材、随意の防湿シート、根太、根太間に位置する上記の袋入り断熱材、床束と連結している大引、随意の大引間の断熱材、透湿防水性シートを含むことができる。この場合、床材は、床仕上材及び床下地材を含み、床仕上材、床下地材、及び/又は防湿シートが防湿材として機能すればよい。大引間の断熱材としては、上記の袋入り断熱材を用いてもよく、透湿防水性シートと貼り合わされている断熱材を用いてもよい。
【0046】
また、本発明の断熱構造体が床構造の全部である場合、屋内側から、床材、随意の防湿シート、根太、随意の根太間の断熱材、床束と連結している大引、大引間に位置する上記の袋入り断熱材、透湿防水性シートを含む。根太間の断熱材としては、上記の袋入り断熱材を用いてもよく、当分野で通常用いられている断熱材、発泡樹脂系断熱材、無機繊維系断熱材等でもよい。
【0047】
ここで、床仕上材としては、フローリング、タイル、畳等を挙げることができ、床下地材としては、構造用合板等を挙げることができる。防湿シートとしては、ポリエチレン系フィルム等を挙げることができる。
【0048】
また、本発明の断熱構造体が床構造の一部である場合、防湿材は、床仕上材、床下地材、及び防湿シート並びにこれらの組合せからなる群から選択される。断熱構造体が床構造の一部である場合、構造部材は、根太、大引等であってもよい。
【0049】
断熱構造体が天井構造体である場合、屋内側から、石膏ボード等である天井板、防湿材である防湿シート、野縁等の構造部材、及び上記の袋入り断熱材を有する。
【0050】
断熱構造体が壁構造の全部である場合、屋内側から、壁紙、石膏ボード等の内壁材、防湿材である防湿シート、構造部材、構造部材間の袋入り断熱材、透湿防水性シート、通気胴縁によって形成された通気層、及びサイディング等の外壁材を含む。構造部材は、柱、間柱、胴縁等であってよく、構造部材が柱(間柱)である場合に、さらにその屋外側に、胴縁と胴縁間の断熱材を有していてもよい。また、さらに構造用合板を有していてもよい。この場合、胴縁間の断熱材は、上記の袋入り断熱材を用いてもよく、透湿防水性シートと貼り合わされている断熱材を用いてもよい。
【0051】
断熱構造体が壁構造の一部である場合、防湿材は、防湿シートである。構造部材は、柱、間柱、胴縁及びこれらの組合せからなる群より選択される。
【0052】
透湿防水性シートは、結露等によって無機繊維系断熱材に入り込んだ水分を排出できるように、例えば特開2002−172739号公報に記載の表皮材を挙げることができる。また、高密度ポリエチレンの3次元網目状繊維を熱圧着した不織布「タイベック」(商標、デュポン株式会社)等も用いることができる。また、「アウトール」(商標、三菱樹脂インフラテック株式会社)、「ウォーターガード」(商標、ケイミュー株式会社)、「スーパーエアテックス」(商標、フクビ化学工業株式会社)等を挙げることができる。
【0053】
透湿防水性シートは、例えば、JIS A 6111に規定する透湿抵抗が、0.25m
2・s・Pa/μg以下、0.20m
2・s・Pa/μg以下、又は0.18m
2・s・Pa/μg以下であってもよく、0.01m
2・s・Pa/μg以上、又は0.05m
2・s・Pa/μg以上であってもよい。また、JIS A 6111に規定する耐水圧が、例えば、3kPa以上、5kPa以上、又は7kPa以上であってもよく、100kPa以下又は50kPa以下であってもよい。
【0054】
《既存建築物に断熱材を施工する方法》
本発明の既存建築物に断熱材を施工する方法は、上記の袋入り断熱材を施工場所付近に運ぶ工程;及び上記の袋入り断熱材を構造部材に設置する工程を含む。さらに、設置した袋入り断熱材よりも屋外側に透湿防水性シートを位置させる工程を含んでもよい。袋入り断熱材を用いることによって、この方法は作業者が無機繊維系断熱材に触れてもチクチクしない点で有利である。
【0055】
特に、本発明の既存建築物の床下に断熱材を施工する方法では、上記の袋入り断熱材を床下点検口から床下に運ぶ工程;並びに上記の袋入り断熱材を根太及び/又は大引に固定する工程を含む。また、既存建築物の天井裏に断熱材を施工する方法では、上記の袋入り断熱材を、天井裏口から天井裏に運ぶ工程;及び上記の袋入り断熱材を天井裏に設置する工程を含む。
【0056】
根太間のみに袋入り断熱材を固定する場合には、さらに大引間用の無機繊維系断熱材を大引間に固定し、そして大引間用の無機繊維系断熱材の下側に透湿防水性シートを固定する工程、又は透湿防水性シートが貼り合わされている無機繊維系断熱材であって、大引間用の無機繊維系断熱材を、透湿防水性シートが地面側に位置するように大引間に固定する工程を含んでもよい。これら方法は、施工中に使用者が建築物を使用できるように床材を残したままで、作業者が既存建築物の床下に入って断熱材を施工する方法であり、作業者が無機繊維系断熱材に触れてもチクチクしない点だけではなく、袋入り断熱材は繊維片が建築物の空間内に飛散しないという点でも、有利である。なお、この場合、根太間に存在している既存の断熱材は、除去してもよく、残存させてもよい。また、根太間の全体にわたって袋入り断熱材を設置してもよく、根太間のうちの大引上の空間又は大引間の断熱材上の空間のみに袋入り断熱材を設置してもよい。
【0057】
大引間に固定する大引間用の無機繊維系断熱材は、入口が狭い場合には、大引間の大きさに合わせて切断してもよく、密度を低くして(フェルト状の無機繊維系断熱材を用いて)入口に変形して入れてもよく、当業者に知られている公知の方法によって大引間に設置することができる。大引間用の無機繊維系断熱材は、上記の無機繊維系断熱材又は袋入り断熱材であってもよく、当業者に知られている公知の断熱材でよい。
【0058】
また、本発明の既存建築物の床下の大引に断熱材を施工する方法では、上記の袋入り断熱材を床下点検口から床下に運ぶ工程;上記の袋入り断熱材を大引に固定する工程;及び大引間用の袋入り断熱材の下側に透湿防水性シートを固定する工程を含むことができる。
【0059】
本発明の既存建築物の壁に断熱材を施工する方法では、上記の袋入り断熱材を施工場所付近まで運ぶ工程;上記の袋入り断熱材を柱(間柱)に固定する工程;随意にさらに胴縁を設置し、その間に胴縁間用の無機繊維系断熱材を胴縁間に固定する工程;透湿防水性シートを上記工程によって得られた構造体の屋外側に位置させる工程;透湿防水性シートよりも屋外側に通気胴縁を設置して通気層を形成する工程;及びさらに屋外側にサイディングを設置する工程を含む。
【0060】
胴縁間用の無機繊維系断熱材は、上記の大引間用の無機繊維系断熱材と同様に、上記の無機繊維系断熱材又は袋入り断熱材であってもよく、当業者に知られている公知の断熱材でよい。
【0061】
本発明の方法で用いる袋入り断熱材の表皮材は、耳部分を有することが構造部材に固定する上での作業性が高まるために好ましい。すなわち、耳部分を固定部に用いることで、タッカー、釘等を用いて構造部材に固定できれば、ポリプロピレンバンド等の固定部材を用いて袋入り断熱材を別途固定する工程を省くことができる。
【0062】
特に床下では、作業者は、地面に仰向きで寝そべりながら作業を行う必要があり、このような状況では、耳部分を、タッカー、釘等を用いて根太に固定できれば、非常に狭い場所での固定部材を用いての袋入り断熱材を固定する工程を省くことができるため、極めて有利である。
【0063】
上記の袋入り断熱材を施工場所付近に運ぶ工程において、施工場所付近への入口が狭い場合、袋入り断熱材に含まれる無機繊維系断熱材は、密度が35kg/m
3以下、特に20kg/m
3以下で比較的低く、それにより変形させやすいことが望ましい。
【0064】
床下に袋入り断熱材を運ぶ場合には、通常は非常に狭い入口を通る。この方法で用いる袋入り断熱材に含まれる無機繊維系断熱材は、根太間に用いる場合、例えば200〜600mmの幅、800〜2000mmの長さ、40〜120mmの厚さを有し、大引間に用いる場合には例えば700〜2000mmの幅、700〜2000mmの長さ、40〜120mmの厚さを有するため、この方法で用いる袋入り断熱材は、非常に狭い入口を通ることができるように、その無機繊維系断熱材を変形しやすくするために、例えば35kg/m
3以下、特に20kg/m
3以下の密度であることが好ましい。このような寸法及び密度(柔軟性)を有している場合には、狭い入口(例えば、700mm以下×700mm以下、650mm以下×650mm以下、600mm以下×600mm以下、500mm以下×500mm以下、又は450mm以下×450mm以下である入口、例えば床下点検口、天井裏口等から)から、床下空間(例えば、大引の下側から地面までの高さが例えば600mm以下、500mm以下、450mm以下、400mm以下、300mm以下又は250mm以下である床下空間、天井から屋根間)に、袋入り断熱材を比較的容易に運ぶことができるからである。
【実施例】
【0065】
床材、根太、大引、及び断熱材を有する床の模型を作製し、これを一辺1.5m程度の上部が開放されている立方体の上面に設置した。その立方体の内部にファンを設置し、立方体の外部に設置した気密測定器を用いて、各床の模型における気密性の評価を行った。ここでは、「住宅の気密性能試験方法」(一般財団法人 建築環境・省エネルギー機構)の「第2章 住宅の気密性能試験方法」に記載されている減圧法に準じて、床の模型にどれくらいの隙間面積が存在するか(相当隙間面積(cm
2/m
2))を、気密シートと気密テープで立方体の上面を密封した場合との差を計算することで、評価した。
【0066】
実施例1では、本発明の袋入り断熱材を根太間及び大引間に設置した。比較例1では、市販の裸の無機繊維系断熱材を根太間に設置し、大引間には断熱材を使用しなかった。比較例2では、発泡系断熱材を根太間に設置し、大引間には断熱材を使用しなかった。
【0067】
結果を表1に示す。
【表1】
【0068】
実施例1は、気密シートと気密テープで立方体の上面を密封した場合と、相当隙間面積の差が小さかった。大引間に断熱材を使用しない比較例1及び2では、気密性が低かった。