特許第6494619号(P6494619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6494619知的財産権の評価の方法、システム、および、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494619
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】知的財産権の評価の方法、システム、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/18 20120101AFI20190325BHJP
【FI】
   G06Q50/18 310
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-527825(P2016-527825)
(86)(22)【出願日】2015年6月9日
(86)【国際出願番号】JP2015066610
(87)【国際公開番号】WO2015190485
(87)【国際公開日】20151217
【審査請求日】2018年5月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-120031(P2014-120031)
(32)【優先日】2014年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】513025222
【氏名又は名称】アスタミューゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139778
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 潔
(72)【発明者】
【氏名】永井 歩
【審査官】 松田 岳士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−194921(JP,A)
【文献】 特開2004−265305(JP,A)
【文献】 特開2010−231564(JP,A)
【文献】 特開2007−241992(JP,A)
【文献】 特開2005−115594(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/054001(WO,A1)
【文献】 特表2012−517046(JP,A)
【文献】 米国特許第06556992(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、
企業の企業価値に基づく企業価値係数を含む企業属性保存手段とを備えたコンピューターにより実行される、知的財産権の財産的価値を評価する方法であって、
前記特許情報保存手段から第一の特許の出願人の情報を読み出すステップと、
前記特許情報保存手段から前記第一の特許が先行技術として引用されている第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出すステップと、
前記企業属性保存手段から前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出すステップと、
前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記企業価値係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映するステップとを含み、
前記企業属性保存手段から前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出す前記ステップが、さらに、
前記企業属性保存手段内の第三の出願人のデータと前記第二の特許の出願人のデータとが完全に一致していなくても十分に近似すると判断される場合には、第三の出願人と第二の出願人が等しいものとして読み出しを行なうステップ、あるいは、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが一致した場合でも、第三の特許と第二の特許の技術分野の相違により、第三の出願人と第二の出願人が異なると判断された場合には読み出しを行なわないステップとを
含む方法。
【請求項2】
前記コンピューターは、さらに、企業間のビジネス関係情報保存手段を備え、
前記ビジネス関係情報保存手段から前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出すステップと、
前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記ビジネス関係係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映するステップとを、さらに含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、
企業間のビジネス関係情報保存手段とを備えたコンピューターにより実行される、知的財産権の財産的価値を評価する方法であって、
前記特許情報保存手段から第一の特許の出願人の情報を読み出すステップと、
前記特許情報保存手段から前記第一の特許が先行技術として引用されている、第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出すステップと、
前記ビジネス関係情報保存手段から前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出すステップと、
前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記ビジネス関係係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映するステップとを含み、
前記ビジネス関係情報保存手段から前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出す前記ステップが、さらに、
前記ビジネス関係情報保存手段内の第三の出願人のデータと前記第二の特許の出願人のデータとが完全に一致していなくても十分に近似すると判断される場合には、第三の出願人と第二の出願人が等しいものとして読み出しを行なうステップ、あるいは、前記ビジネス関係情報保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが一致した場合でも、第三の特許と第二の特許の技術分野の相違により、第三の出願人と第二の出願人が異なると判断された場合には読み出しを行なわないステップとを
含む方法。
【請求項4】
出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、
企業の企業価値に基づく企業価値係数を含む企業属性保存手段と、
特許評価指数算定手段とを備えた知的財産権の財産的価値を評価するコンピューター・システムであって、
前記特許評価指数算定手段は、
前記特許情報保存手段から第一の特許の出願人の情報を読み出し、
前記特許情報保存手段から前記第一の特許が先行技術として引用されている第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出し、
前記企業属性保存手段から前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出す過程において、
前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが完全に一致していなくても十分に近似すると判断される場合には、第三の出願人と第二の出願人が等しいものとして企業価値係数を読み出し、あるいは、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが一致した場合でも、第三の特許と第二の特許の技術分野の相違により、第三の出願人と第二の出願人が異なると判断された場合には企業価値係数を読み出さず、
前記第二の特許の出願人のそれぞれについて前記企業価値係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映して第一の特許の特許評価指数を算定する
コンピューター・システム。
【請求項5】
企業間のビジネス関係情報保存手段をさらに含み、
前記特許評価指数算定手段は、
前記特許情報保存手段から第一の特許の出願人の情報を読み出し、
前記特許情報保存手段から前記第一の特許が先行技術として引用されている第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出し、
前記ビジネス関係情報保存手段から前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出し、
前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記ビジネス関係係数に基づいて計算された評価指数増分を反映して第一の特許の評価指数を算定する、
請求項4に記載のコンピューター・システム。
【請求項6】
出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、
企業間のビジネス関係情報保存手段と特許評価指数算定手段から成る知的財産権の財産的価値を評価するコンピューター・システムであって、
前記特許評価指数算定手段は、
前記特許情報保存手段から第一の特許の出願人の情報を読み出し、
前記特許情報保存手段から前記第一の特許が先行技術として引用されている第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出し、
前記ビジネス関係情報保存手段から前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出す過程において、
前記ビジネス関係情報保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが完全に一致していなくても十分に近似すると判断される場合には、第三の出願人と第二の出願人が等しいものとしてビジネス関係係数を読み出し、あるいは、前記ビジネス関係情報保存内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが一致した場合でも、第三の特許と第二の特許の技術分野の相違により、第三の出願人と第二の出願人が異なると判断された場合にはビジネス関係係数を読み出さず、
前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記ビジネス関係係数に基づいて計算された評価指数増分を反映して第一の特許の評価指数を算定するコンピューター・システム。
【請求項7】
出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、
企業の企業価値に基づく企業価値係数を含む企業属性保存手段とを備えたコンピューターにより実行される、知的財産権の財産的価値を評価するプログラムであって、
前記特許情報保存手段から第一の特許の出願人の情報を読み出す手順と、
前記特許情報保存手段から前記第一の特許が先行技術として引用されている第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出す手順と、
前記企業属性保存手段から前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出す手順であって、
該手順において、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが完全に一致していなくても十分に近似すると判断される場合には、第三の出願人と第二の出願人が等しいものとして読み出しを行ない、あるいは、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが一致した場合でも、第三の特許と第二の特許の技術分野の相違により、第三の出願人と第二の出願人が異なると判断された場合には読み出しを行なわない手順と、
前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記企業価値係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映する手順とを
コンピューターに実行させるプログラム。
【請求項8】
企業間のビジネス関係情報保存手段を、さらに備えたコンピューターにより実行される、知的財産権の財産的価値を評価するプログラムであって、
前記特許情報保存手段から第一の特許の出願人の情報を読み出す手順と、
前記特許情報保存手段から前記第一の特許が先行技術として引用されている、第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出す手順と、
前記ビジネス関係情報保存手段から前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出す手順と、
前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記ビジネス関係係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映する手順とをコンピューターに実行させる請求項7に記載のプログラム。
【請求項9】
特許情報保存手段と企業間のビジネス関係情報保存手段とを備えたコンピューターにより実行される、知的財産権の財産的価値を評価するプログラムであって、
前記特許情報保存手段から、第一の特許の出願人の情報を読み出す手順と、
前記特許情報保存手段から、前記第一の特許が先行技術として引用されている、第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出す手順と、
前記ビジネス関係情報保存手段から、前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出す手順であって、
該手順では前記ビジネス関係情報保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが完全に一致していなくても十分に近似すると判断される場合には、第三の出願人と第二の出願人が等しいものとして読み出しを行ない、あるいは、前記ビジネス関係情報保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが一致した場合でも、第三の特許と第二の特許の技術分野の相違により、第三の出願人と第二の出願人が異なると判断された場合には読み出しを行なわない手順と、
前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記ビジネス関係係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映する手順とを
コンピューターに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無形資産、特に知的財産権の客観的・定量的評価を自動化する方法、プログラム、および、システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本政策投資銀行のレポートによれば、「企業の市場価値総額に占める無形資産(知的財産や、人的資産、基盤的資産を含む)の割合は約4割」と言われており、今日の経済における知的財産の重要性は論を俟たない。知的財産を保護する手段である知的財産権、特に、特許(ここでは、登録された特許権と審査係属中の特許出願の両方を指すこととする)の客観的かつ定量的な評価をコンピューター・システムにより自動的に行なえる技術が求められている。このような技術は知的財産権に対する投資計画、ライセンシング条件設定、および、譲渡価格設定などのために不可欠である。
【0003】
このような知的財産権、特に特許権の評価を行なうための技術としては、特許文献1で開示されたものが知られている。特許文献1では、回帰分析手法に基づき、特定の特許グループの価値から別の特許グループの価値を推定する技術が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、特許に対する第三者の法的アクション(たとえば、無効審判や閲覧請求)に基づき、その特許の価値(特許力)を客観的に定量評価する技術が開示されている。たとえば、ある特許が無効審判を請求されるということは、その特許が存在すると事業の障害になる企業がいることを意味し、その特許の事業差別化要素としての価値が高いことが推定されることがこの評価手法の根拠になっている。
【0005】
また、特許文献3には、特許出願の審査段階における拒絶理由の根拠になった引用文献に基づいて特許の価値を算定する技術が開示されている。他人の特許出願の権利化を阻止できたということは特許としての価値が高いと推定されるという考え方がこの評価手法の根拠になっている。
【0006】
しかし、上記を初めとする従来の知的財産権評価手法は、法律的な要因に基づく分析、あるいは、技術的な分析(たとえば、特許請求の範囲で使用されている用語の出現頻度や文章構造の複雑性、明細書における特定のキーワードの出願頻度)のみに基づいており、その特許の権利者である企業の市場におけるビジネス価値、および、市場における企業間のビジネス上の関係を十分に反映していない点に課題があった。知的財産権は、ビジネス上の価値を提供できてこそ意味があるものであり、ビジネスの文脈を無視した知的財産権評価は現実に即したものとは言えない。
【0007】
たとえば、他社の特許出願を拒絶査定に導く要因となった引用発明として使用されたことを根拠に特許の価値を評価する場合でも、その他社が大規模企業であるか、小規模企業であるかに応じて、特許権の評価を変えるべきである。例えば、あるバイオ系ベンチャー企業が創薬の基盤技術を開発し特許権を取得した際に、当該特許が多数引用されても、その相手が小規模企業でキャッシュが潤沢にない場合には、ライセンスアウトは見込み難い。逆に、引用される回数が少なくとも、相手が大手製薬メーカーである場合には、ライセンスアウトの確度は相対的に高まる。そのため、大規模企業の特許権利化を阻止できた特許の価値をより高く評価すべきであるが、このような要素は従来技術にはなかった。
【0008】
また、引用発明の発明者と審査中の特許出願の発明者のビジネス上の関係も特許の価値算定の根拠の一つとすべきである。たとえば、ある特許出願が競合他社の特許出願の審査段階で拒絶理由の引用例として使用され、結果的にその権利化を阻止できた特許は(同じ特許文献が、競合ではないパートナー企業の特許権利化を阻止できた場合よりも)、権利行使等により実際のビジネスに及ぼされる影響が大きいため、その価値を高く評価すべきであるが、このような要素は従来技術にはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6556992号公報
【特許文献2】特許5273840号公報
【特許文献3】特許4848945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
企業のビジネス的価値、および、企業間のビジネス上の関係を加味することで、より現実に即した知的財産権の評価を行なえる方法、システム、および、プログラムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、企業の企業価値に基づく企業価値係数を含む企業属性保存手段とを備えたコンピューターにより実行される、知的財産権の財産的価値を評価する方法であって、前記特許情報保存手段から、第一の特許の出願人の情報を読み出すステップと、前記特許情報保存手段から、前記第一の特許が先行技術として引用されている第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出すステップと、前記企業属性保存手段から、前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出すステップと、前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記企業価値係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映するステップとを含む方法を提供することで上記課題を解決する。
【0012】
また、本願発明は、出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、企業間のビジネス関係情報保存手段とを備えたコンピューターにより実行される、知的財産権の財産的価値を評価する方法であって、前記特許情報保存手段から、第一の特許の出願人の情報を読み出すステップと、前記特許情報保存手段から、前記第一の特許が先行技術として引用されている、第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出すステップと、前記ビジネス関係情報保存手段から、前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出すステップと、前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記ビジネス関係係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映するステップとを含む方法を提供することで上記課題を解決する。
【0013】
また、本願発明は、特許評価指数保存手段をさらに備えるコンピューターにより実行され、段落0011、または、段落0012に記載の方法により計算された特許評価指数を特許評価指数保存手段に保存しておくステップと、前記第二の特許のそれぞれについて、前記特許評価指数保存手段から読み出した評価指数に基づいて計算された評価指数増分を前記第一の特許の評価指数に反映するステップとをさらに含む段落0011、または、段落0012に記載の方法を提供することで上記課題を解決する。
【0014】
また、本願発明は、前記企業属性保存手段から、前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出すステップにおいて、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが完全に一致していなくても十分に近似すると判断される場合には、第三の出願人と第二の出願人が等しいものとして読み出しを行なうステップ、あるいは、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが一致した場合でも、第三の特許と第二の特許の技術分野の相違により、第三の出願人と第二の出願人が異なると判断された場合には読み出しを行なわないステップをさらに含む段落0011に記載の方法を提供することで上記課題を解決する。
【0015】
また、本願発明は、複数の特許公報を読み取り、前記特許公報内のそれぞれの出願人と特許分類の関係に基づいて前記ビジネス関係情報保存手段に保存するビジネス関係係数の少なくとも一部を設定するステップをさらに含む段落0012に記載の方法を提供することで上記課題を解決する。
【0016】
また、本願発明は、出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、企業の企業価値に基づく企業価値係数を含む企業属性保存手段と、特許評価指数算定手段から成る知的財産権の財産的価値を評価するコンピューター・システムであって、前記特許評価指数算定手段は、前記特許情報保存手段から第一の特許の出願人の情報を読み出し、前記特許情報保存手段から前記第一の特許が先行技術として引用されている第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出し、前記企業属性保存手段から前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出し、前記第二の特許の出願人のそれぞれについて前記企業価値係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映して、第一の特許の特許評価指数を算定するコンピューター・システムを提供することで上記課題を解決する。
【0017】
また、本願発明は、出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、企業間のビジネス関係情報保存手段と特許評価指数算定手段から成る知的財産権の財産的価値を評価するコンピューター・システムであって、前記特許評価指数算定手段は、前記特許情報保存手段から第一の特許の出願人の情報を読み出し、前記特許情報保存手段から前記第一の特許が先行技術として引用されている第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出し、前記ビジネス関係情報保存手段から前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出し、前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記ビジネス関係係数に基づいて計算された評価指数増分を反映して第一の特許の評価指数を算定するコンピューター・システムを提供することで上記課題を解決する。
【0018】
また、本願発明は、特許評価指数保存手段をさらに備え、前記特許評価指数算定手段は、さらに、特許評価指数を特許評価指数保存手段に保存し、前記第二の特許のそれぞれについて前記特許評価指数保存手段から読み出した評価指数に基づいて計算された評価指数増分を反映して前記第一の特許の評価指数を算定するさらに含む段落0016、または、段落0017に記載のコンピューター・システムを提供することで上記課題を解決する。
【0019】
また、本願発明は、前記特許評価指数算定手段は、さらに、前記企業属性保存手段から前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出す時に、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが完全に一致していなくても十分に近似すると判断される場合には、第三の出願人と第二の出願人が等しいものとして企業価値計数を読み出し、あるいは、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが一致した場合でも、第三の特許と第二の特許の技術分野の相違により、第三の出願人と第二の出願人が異なると判断された場合には企業価値計数を読み出さない段落0016に記載のコンピューター・システムを提供することで上記課題を解決する。
【0020】
また、本願発明は、前記特許評価指数算定手段は、さらに、複数の特許公報を読み取り、前記特許公報内のそれぞれの出願人と特許分類の関係に基づいて前記ビジネス関係情報保存手段に保存するビジネス関係係数の少なくとも一部を設定する段落0017に記載のコンピューター・システムを提供することで上記課題を解決する。
【0021】
また、本願発明は、出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、企業の企業価値に基づく企業価値係数を含む企業属性保存手段とを備えたコンピューターにより実行される、知的財産権の財産的価値を評価するプログラムであって、前記特許情報保存手段から、第一の特許の出願人の情報を読み出す手順と、前記特許情報保存手段から、前記第一の特許が先行技術として引用されている第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出す手順と、前記企業属性保存手段から、前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出す手順と、前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記企業価値係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映する手順とをコンピューターに実行させるプログラムを提供することで上記課題を解決する。
【0022】
また、本願発明は、出願人および特許間の引用関係を特定する情報を含む特許情報保存手段と、企業間のビジネス関係情報保存手段とを備えたコンピューターにより実行される、知的財産権の財産的価値を評価するプログラムであって、前記特許情報保存手段から、第一の特許の出願人の情報を読み出す手順と、前記特許情報保存手段から、前記第一の特許が先行技術として引用されている、第二の一つ以上の特許の出願人の情報を読み出す手順と、前記ビジネス関係情報保存手段から、前記第一の特許の出願人と前記第二の特許の出願人のそれぞれとの間のビジネス関係係数を読み出す手順と、前記第二の特許の出願人のそれぞれについて、前記ビジネス関係係数に基づいて計算された評価指数増分を第一の特許の評価指数に反映する手順とをコンピューターに実行させるプログラムを提供することで上記課題を解決する。
【0023】
また、本願発明は、特許評価指数保存手段をさらに備えるコンピューターにより実行され、段落0011、または、段落0022に記載のプログラムにより計算された特許評価指数を特許評価指数保存手段に保存しておく手順と、前記第二の特許のそれぞれについて、前記特許評価指数保存手段から読み出した評価指数に基づいて計算された評価指数増分を前記第一の特許の評価指数に反映する手順とをさらにコンピューターに実行させる段落0021、または、段落0022に記載のプログラムを提供することで上記課題を解決する。
【0024】
また、本願発明は、前記企業属性保存手段から、前記第二の特許の出願人のそれぞれの企業価値係数を読み出す手順において、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが完全に一致していなくても十分に近似すると判断される場合には、第三の出願人と第二の出願人が等しいものとして読み出しを行なう手順、あるいは、前記企業属性保存手段内の第三の出願人データと前記第二の特許の出願人のデータとが一致した場合でも、第三の特許と第二の特許の技術分野の相違により、第三の出願人と第二の出願人が異なると判断された場合には読み出しを行なわない手順とをさらにさらにコンピューターに実行させる段落0021に記載のプログラムを提供することで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0025】
本願発明によれば、出願人である企業のビジネス的要素を加味し、より現状に即した知的財産権の定量的評価を、客観的かつ自動的に実行可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本願発明に係る特許評価情報システム実施例の全体構造の一例である。
図2】本願発明に係る特許評価情報システム実施例を構成する特許情報データベースの内容の一例である。
図3】本願発明に係る特許評価情報システム実施例を構成する企業属性データベースの内容の一例である。
図4】本願発明に係る特許評価情報システム実施例を構成する企業間関係データベースの内容の一例である。
図5】本願発明に係る企業間関係データベースの自動構築方法の一例である。
図6】本願発明に係る知的財産権評価に係る処理手順を表わすフローチャートの一例である。
図7】本願発明に係る特許情報データベースと企業情報データベースのマッチング方法の一例である。
図8】本願発明に係る知的財産権評価に係る評価指数の計算結果の一例である。
図9】本願発明に係る特許評価情報システムの概念を示す他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に図を参照しながら、本願発明に係る実施形態の例を説明する。当該実施例は特許(審査中のもの、および、権利確定のものを含む)に関するものであるが、本願発明の思想は、審査(あるいは技術評価)の対象になり得る他の知的財産権(たとえば、日本における意匠権、実用新案権)にも適用可能である。なお、本明細書の記載では、特許の出願人とは、最初の出願人から特許を受ける権利を承継した者、および、特許登録後の権利者、および、その承継人を含むものとする。
【0028】
図1は、本願発明を実現する特許評価情報システム(101)の一例である。
【0029】
特許情報データベース(102)は、特許を識別する番号(出願番号、および、登録番号)、出願人情報、審査過程で引用された文献情報を含み、DBMS等の任意のデータ管理技術で実現できる。特許情報データベース(102)は、特許庁が公開する公報データや経過情報に基づいて作成することができ、加えて、特許情報提供サービスにより提供されるデータを利用して作成することもできる。
【0030】
特許情報データベース(102)の内容の例を図2に示す。評価指数増分は出願経過に応じた値であり、管理者の裁量により設定できる。後述の基本的考え方を反映するために、他人の特許出願の権利化を阻止できた場合(拒絶査定に導けた場合)に高い値を設定することが望ましい。
【0031】
企業属性データベース(103)は、特許出願人である企業の市場におけるビジネス価値算定の根拠となる財務情報や株価情報(典型的には、時価総額データ)を含み、DBMS等の任意のデータ管理技術で実現される。企業属性データベース(103)は、各企業が公開する財務情報、証券会社が提供する株価情報、企業情報提供会社が提供するデータ等に基づいて作成することができる。
【0032】
企業属性データベース(103)の内容の例を図3に示す。企業価値係数は、企業の価値を指数化したものであり、たとえば、時価総額、従業員数、売上、利益率、第三者機関による企業評価等に基づき設定できる。図3では、時価総額に基づいた計算式で機械的に計算する例を示しているが、この例には限定されない。
【0033】
企業間関係データベース(104)は、企業間のビジネス上の関係(たとえば、バイヤーとサプライヤーの関係にあるか、競合関係にあるか、あるいは、無関係な市場で活動しているか等)を表わす情報を含み、DBMS等の任意のデータ管理技術で実現できる。企業競合関係データベース(104)は、技術分野ごとの企業間の競合関係を保存できることが望ましい。特定の二企業の関係が、ある技術分野では競合関係であり、別の技術分野では協業関係にあることも多いからである。たとえば、CCDカメラという技術分野であれば、アップルとソニーはバイヤーとサプライヤーという協業関係にあるが、携帯音楽プレーヤーという技術分野であればアップルとソニーは競合他社の関係にある。ここで、特許文献との対応付けの容易性という観点から、技術分野は標準的な特許分類体系(たとえば、IPC(国際特許分類))に基づいていることが望ましい。
【0034】
企業間関係データベース(104)では、単に競合関係にあるかないかだけではなく、競合の度合いを数値で表わしていてもよい。たとえば、本願出願時点においてアップルとサムスンは多くの領域で敵対的関係にあるため競合関係が強いと評価することができる。また、業種によって競合の度合いの数値を変化させてもよい。この数値設定においては、業種別の価値連鎖における川上と川下の企業群の成長性や利益率、M&A、および、ライセンスの動向を考慮することが望ましい。
【0035】
企業間関係データベース(104)の内容の例を図4に示す。ビジネス関係係数は管理者の裁量で設定できる値であり、後述の基本的考え方を反映するために、競合関係がある場合には高い値を設定することが望ましい。
【0036】
企業間関係データベース(104)は管理者等が手作業で入力することもできるし、一般に提供されている企業情報データベースサービスの情報から少なくともその一部を自動的に設定するようにしてもよい。また、特許公開公報、あるいは、特許情報データベース(102)から読み出した出願人企業と特許の技術分野の関係に基づいて、企業間関係データベース(104)のビジネス関係係数の少なくとも一部を自動的に設定するようにしてもよい。たとえば、ある製品(たとえば、太陽電池)のメーカーに相当する技術分野での特許出願を行なっている企業は、その製品の部品(たとえば、セル・モジュール)のメーカー企業とサプライヤー−バイヤーとしてのパートナー関係にあることが推定される。その場合には、両企業のビジネス関係係数としてパートナーに相当する値を設定することができる。図5に示したような業種別の価値連鎖で見られる技術分野(特許分類と対応していることが望ましい)間の典型的関係の表を作成しておくことで、企業間関係データベース(104)の作成作業を自動化してもよい。たとえば、技術分野(特許分類)がAAAAである出願の出願人と、技術分野(特許分類)がBBBBである出願の出願人とは価値連鎖におけるパートナー(素材サプライヤーとバイヤー)の関係にあると推定できる。また、技術分野(特許分類)がAAAAである出願の出願人と、技術分野(特許分類)がFFFFである出願の出願人とは価値連鎖において特定の関係がない(市場が異なる)と推定できる。図5の表は手作業で入力してもよいし、多数の特許公報データを入力として公報中の特徴キーワード(たとえば、「部品」、「素材」等)と特許分類の相関関係を分析することで少なくともその一部を自動的に設定してもよい。たとえば、異なる産業ごとに企業間の価値連鎖の流れを多段階で示すテンプレート集を保存し、各段階を特徴付けるキーワードを含有する公報に付与された技術分野を集計することで各段階に相当する技術分野を特定し、前記各段階に相当する技術分野を構成する特許群間の引用・被引用の多少、又は前記特許群の各出願人の企業価値や利益率等の大小に基づいて各段階(すなわち、価値連鎖の川上・川下)の相対的な重み付けを行い、該重み付け結果に基いて各段階のビジネス関係係数を設定してもよい。これにより、設定の人手をかけることなく、川上・川下のビジネスの実情に応じた価値評価が可能となる。なお、企業間関係データベース(104)は市場の情勢に応じて適時更新していくことが望ましい。
【0037】
特許評価指数テーブル(105)は、本願発明に係る方法等により得られた特許の評価指数を保存する手段であり、DBMS等の任意のデータ管理技術で実現できる(メモリ上の一時的なテーブルであってもよい)。特許評価指数テーブル(105)は特許番号をキーとしてその評価指数を得ることができればよく、その構造は自明であるため特に図示しない。
【0038】
特許評価プログラム(106)は、本願発明に係る特許評価を行なうためのコンピュータープログラムである。特許評価プログラム(106)の内部動作の詳細は後述する。
【0039】
表示・入力装置(107)は、特許評価プログラム(106)のデータ入力や表示を行なうための手段であり、一般的なパーソナルコンピューターやプリンター等で実現される。
【0040】
本願発明に係る特許価値評価の基本的考え方は以下のとおりである。
【0041】
第一に、他特許出願の審査過程等において先行技術分野として引用された特許は評価指数を高める。他社の権利の特許化を防いだ(あるいは、防ぐことに多少とも貢献した)からである。(1)引用されたがそのまま登録された(特許化は阻止できなかった)ケース、(2)引用されて補正の後に登録された(特許の権利範囲の縮小に成功できた)ケース、あるいは、(3)引用されたことにより拒絶査定になった(特許化を阻止できた)ケース等があり得るが、それぞれケースによって評価指数の増分や重み付けを変えてもよい(この場合、(3)のケースに最も大きな増分(あるいは重み付け)を与え、(2)のケースでは中間的増分(あるいは重み付け)、(1)のケースでは低い増分(あるいは重み付け)を与えることが望ましい)。
【0042】
加えて、評価指数増分の計算において、引用した特許の出願人の企業のビジネス的な影響度を加味することが望ましい。ビジネス的な影響度は、たとえば、引用した特許の出願人の企業価値(典型的には、時価総額)、引用された特許の出願人と引用した特許の出願人とのビジネス上の関係、または、その両方に基づいて定量的に算出できる。
【0043】
第一に、引用した特許の出願人の企業価値が大きい場合には引用された特許(評価対象となっている特許)の評価指数増分を増すことが望ましい。一般に特許の価値とその出願人の企業価値とには正の相関があることが知られており、出願人の企業価値が大きい(すなわち特許としての価値が高い)特許の審査過程等で引用されたことでその特許の権利化を阻止できたのであれば、それを阻止できた特許の価値も高く評価すべきだからである。
【0044】
第二に、引用した特許の出願人と引用された特許の出願人が市場にいて競合関係にある場合には、引用された特許(評価対象の特許)の評価指数増分を増すことが望ましい。市場で競合している他社の特許取得を阻止できた特許の価値は高いと判断できるからである。
【0045】
上記の引用と被引用に基づいた特許価値の計算を再帰的に繰り返してもよい。すなわち、上記方法によりある特許Aの評価指数Aが算定されたならば、その評価指数Aを特許評価指数データベース(105)に特許Aと対応付けて保存しておき、後に他の特許Bの評価において、特許Aが特許Bを引用していることが、特許情報データベース(102)を読み取ることにより判明した場合には、保存されていた特許Aの評価指数に基づいて特許Bの評価指数増分を計算してもよい。なお、この場合において、特許評価指数テーブル(105)はメモリ上の一時的なテーブルであって、特許A、特許B、および、それらと引用関係にある複数の特許の評価を一連のプログラム実行として行なってもよい。
【0046】
図6に本願発明に係る特許評価プログラム(106)のフローチャートの一例を示す。以下にその各ステップについて説明する。
【0047】
(S601)
入出力装置(107)等から、評価対象特許の識別子(出願番号、登録番号等)を得る。
【0048】
(S602)
評価対象特許の評価指数を保存する変数を初期化する。
【0049】
(S603)
評価対象特許の識別子をキーとして、特許情報データベース(102)を照会し、当該評価対象特許を審査過程(あるいは審判等)において引用している特許(以下、「引用特許出願」と呼ぶ)のリストを得る。以下のS604からS610までの処理はリスト中の引用特許出願のそれぞれに対して行なわれる。
【0050】
(S604)
特許情報データベース(102)から引用特許出願の出願経過情報を読み出し、その出願経過に相当する評価指数増分を読み出す。
【0051】
(S605)
引用特許出願の出願人をキーにして企業属性データベース(103)を読み取り、当該出願人の企業価値係数を得る。
【0052】
ここで、社名の変更、あるいは、表記法の揺れ(たとえば、カタカナ文字列中の中黒のあるなし)にかかわらず、引用特許出願の出願人情報を元に企業属性データベース(103)から対応する企業の情報を正しく読み取るようにするためにあいまい検索を行なってもよい。ここで、あいまい検索とは、特許情報データベース(102)中の引用特許出願の出願人情報と企業属性データベース(103)が文字列として完全に一致しなくても、十分に類似していれば一致したものとして扱うことをいう。文字列の相違点が所定の閾値以内であれば一致したものとして扱うようにしてもよい。加えて、句読点や中黒などを無視するロジック、予め登録しておいた「株式会社」、「インターナショナル」等の語句を無視し、要部以外の語句を無視するロジック、および、予め登録された同義として扱う語(たとえば、「インターナショナル」と「インター」)を同じものとして扱うなどのロジックを加えてもよい。
【0053】
さらに、特許の国際分類等が表わす技術分野と企業属性データベース(103)内の企業の産業分野とを比較することで、上記のあいまい検索、または、通常の文字列一致判断によって正しい企業の情報が読み取たかどうか(同名他社を検索していないか)を判断してもよい。たとえば、金融業に属する企業が原子炉に関する特許出願(国際特許分類がG21C1/00)を行なうことは想定しがたいため、このような場合には仮に企業名としては一致していても同名他社と判断して、特許指数の算定から排除するようにしてもよい。このロジックの実行に必要な特許分類と産業分野の対応表は、多数の特許公報を定量的に分析することで自動的に構築しておいてもよい。このようなロジックを加えたマッチング処理の例の概念図を図7に示す。加えて、共同出願人の一致度などに応じたチェック処理を行なってもよい。
【0054】
(S606)
評価指数増分に企業価値係数を乗じる(重み付けを行なう)。
【0055】
(S607)
評価対象特許の出願人と引用特許出願の出願人をキーにして、企業間関係データベース(103)を読み取り、両出願人の間のビジネス関係係数を得る。ここで、評価対象特許の技術分野(典型的にはIPCで表わされる)のビジネス関係係数だけを読み出し、他は無視するようにしてもよい。
【0056】
(S608)
評価指数増分にビジネス関係係数を乗じる(重み付けを行なう)。
【0057】
(S609)
引用特許出願の評価指数が評価指数テーブルに存在する場合(これは、以前にその特許出願に対して評価が既に行なわれたことを意味する)、その評価指数を読み出す。なお、この際に、当該引用特許出願の評価指数の最新の値を得るために、評価処理を再実行するようにしてもよい。引用特許出願の評価指数が評価指数テーブルに存在しない場合にも、評価処理を再実行するようにしてもよい。この再実行において読み出された引用特許出願に対してさらに評価処理を再帰的に実行するようにしてもよい。そして、最終的に得られた引用特許出願の評価指数に応じて、評価対象特許の評価指数増分を増減してもよい。
【0058】
(S610)
S604からS609のステップで計算された評価指数増分(重み付け後)を評価対象特許の評価指数に加算する。引用対象特許のリストをすべて処理し終わった場合にはS611に進む。そうでない場合には、リスト中の次の引用対象特許に対してS604からのステップを実行する。
【0059】
(S611)
評価対象特許に対して最終的に得られた評価指数を、評価対象特許の識別子と対応付けて評価指数テーブル(105)に保存する。
【0060】
(S612)
評価対象特許に対して最終的に得られた評価指数を入力・表示装置(107)等を介して出力する。)
【0061】
図8に、図2図3、および、図4で例として挙げたデータを使用し、図6のフローチャートに基づく処理を行なった場合の、特許評価指数の計算結果を示す(ただし、この例では図6のS609に相当する処理は行なわないものとする)。
【0062】
図6のフローチャートの処理方式は一例であり、特定のステップの実行が行なわれなくてもよい。また、図8の評価指数の計算方法は一例であり、前述の基本的考え方を反映した計算方法であれば任意の計算式を使用してよい。たとえば、引用する側の特許出願の企業の時価総額等に基づく係数を評価指数に乗じる(重み付け)のではなく、時価総額等に基づく定数を加算するようにしてもよい。
【0063】
図9に、本発明に係る知的財産権の財産的価値を評価する方法を用いて、知的財産権の取引を支援するためのシステムの構成図を示す。
【0064】
本システムは、ある企業A社が保有する特許ポートフォリオに基いて、ライセンシー候補群、及びポートフォリオを補完する他の特許群を導出するために利用されるシステムであって、(M1)A社が保有する特許ポートフォリオに関する情報を算出・保持する第一モジュール、(M2)ライセンシー企業候補群に関する情報を算出・保持する第二モジュール、及び(M3)A社の特許ポートフォリオを補完する他の特許候補群に関する情報を算出・保持する第三モジュールから構成される。これらの詳細な動作は以下の通りである。
【0065】
(M1)A社が保有する特許ポートフォリオに関する情報を算出・保持する第一モジュール:まず、企業A社が保有する特許ポートフォリオをデータベースに入力する。ここで入力された特許ポートフォリオの出願人・特許権者の識別情報に基いて、予め登録された企業情報データベースから、当該出願人・特許権者の各種企業情報(例えば、時価総額、売上、国・製品別売上、利益、株主等利害関係者、従業員数、設立年、業種)が抽出される。また、入力された特許ポートフォリオの文献番号と、予め登録された世界各国特許の書誌情報を格納した書誌情報データベースに基いて、関連するファミリー特許が抽出される。さらに、対象特許ポートフォリオを構成する特許の各公報に記載された特許請求の範囲におけるクレーム数や、対象となる技術分野における新規な情報の有無などが、技術的価値の基礎情報として登録される。また、当該特許の出願人のアクションや、第三者のアクション、権利化状況や有効期間が、書誌情報や審決・判例データベースから抽出され、知財的価値の基礎情報として登録される。さらに、当該企業が起訴され、原告となった件数が審決・判例データベースから抽出され、リスク情報として登録される。
【0066】
(M2)ライセンシー企業候補群に関する情報を算出・保持する第二モジュール:上記企業A社が保有する特許ポートフォリオとそのファミリーに対して、引用・被引用分析を行うことで、当該特許の後願であって追随する他社が特定される。これが、A社のライセンシー企業候補群となる。これらの企業群は、その業種や、出願に付与された技術分野、あるいは出願内容のキーワード分析により、商品・市場カテゴリに分類される。また、その保有特許の出願国や、売上の地域セグメント情報に基づいて、国・地域カテゴリに分類される。「商品・市場カテゴリ?国・地域カテゴリ」で特定される個別のセグメントについては、マクロ環境情報として、市場の規模や成長率、訴訟の頻度が予め設定されている。これに加えて、ミクロ環境情報として、各企業の時価総額やバリューチェーンなどが企業情報データベースより抽出される。更に、A社の特許を引用した回数や時期が、書誌情報データベースより抽出される。これにより、A社の特許を引用した回数が多い企業のみならず、引用回数が少なくても、マクロ・ミクロな市況に基づきビジネス的なインパクトが大きいと想定される企業を、ライセンシー企業候補として抽出することが可能となる。
【0067】
(M3)A社の特許ポートフォリオを補完する他の特許候補群に関する情報を算出・保持する第三モジュール: 知的財産権の価値は、実施主体によって異なる。そのため、本モジュールでは、システム利用者が上記(M2)のライセンシー企業候補群のうち、いずれの企業をターゲットにするかを設定する画面が提供される。例えば、A社もしくは取引仲介者は、スマートフォンの米国市場でアップル社とグーグル社を候補企業として設定することができる。そうすると、対象企業の保有特許群の引用被引用分析により、逆引きする形で、A社の特許ポートフォリオを補完する他の特許候補群を抽出することが可能となる。例えば、この分析により、NTTドコモ、東京大学、MITの3社が、他の特許候補群を保有していることが特定される。さらに、企業情報データベースと書誌情報データベースに基づき、これら3社の優先順位を定量的に評価する。これにより、A社にとっては、異なるライセンシー候補企業に応じて、より強固で価値の高い特許ポートフォリオを設計・増強することが可能となる。
【0068】
以上示したように、本システムによると、ある企業A社が保有する特許ポートフォリオに基いて、ライセンシー候補群、及びポートフォリオを補完する他の特許群を、客観的かつ効率的に導出することが可能となる。これにより、知的財産権の透明で効率的な市場取引が活性化されると期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9