特許第6494737号(P6494737)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494737
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】MLUに基づく加速度計
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/105 20060101AFI20190325BHJP
   G01P 15/18 20130101ALI20190325BHJP
   G01P 15/08 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   G01P15/105
   G01P15/18
   G01P15/08 101C
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-501181(P2017-501181)
(86)(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公表番号】特表2017-519997(P2017-519997A)
(43)【公表日】2017年7月20日
(86)【国際出願番号】EP2015064770
(87)【国際公開番号】WO2016005224
(87)【国際公開日】20160114
【審査請求日】2018年3月12日
(31)【優先権主張番号】14290201.4
(32)【優先日】2014年7月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509096201
【氏名又は名称】クロッカス・テクノロジー・ソシエテ・アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】アラウィ・アリ
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−503858(JP,A)
【文献】 特開2014−089088(JP,A)
【文献】 特開2009−041949(JP,A)
【文献】 特表2009−509126(JP,A)
【文献】 特開2006−019383(JP,A)
【文献】 特開2010−192902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 15/00 − 15/18
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのMLUセルと1つのプルーフマスとを有するMLUに基づく加速度計であって、
前記少なくとも1つのMLUセルが、固定された1つの第1磁化方向を呈する1つの第1磁性層と変更され得る第2磁化方向を呈する第2磁性層との間に1つのトンネル障壁層を有し、
前記プルーフマスが、プルーフマス磁場を誘導するプルーフマス磁化方向を呈する強磁性材料から成り、加速度ベクトルに追従するときに、少なくとも1つの方向に変位可能であるように、前記プルーフマスが、弾性式に懸架されていて、前記プルーフマスが、前記プルーフマス磁場を通じて前記少なくとも1つのMLUセルに磁気結合されている当該加速度計において、
前記MLUに基づく加速度計が、前記少なくとも1つのMLUセルのいずれか1つのMLUセルに対する前記プルーフマスの変位から加速度ベクトルを測定するように、それぞれの前記少なくとも1つのMLUセルの磁気抵抗を読み取り操作中に測定するために構成された読み取りモジュールをさらに有し、
前記第2磁化方向が、前記プルーフマス磁場の変化とほぼ線形に変化するように、前記読み取りモジュールは、前記第2磁化方向前記第1磁化方向に対して平行と反平行との間の中間状態に読み取り操作中に切り替えるための手段と、センス電流32を磁気トンネル接合2中に通電することによって前記第2磁化方向と前記第1磁化方向との間の整列の度合いを測定するための手段とを有することを特徴とする加速度計。
【請求項2】
前記第2磁化方向が、前記プルーフマス磁場の変化とほぼ線形に変化するように、前記第2磁化方向を前記第1磁化方向に対して平行と反平行との間の中間状態に読み取り操作中に切り替えるための手段は、前記MLUセルに磁気結合された1つの磁場用配線を有し、この磁場用配線が、バイアス磁場を誘導する1つのバイアスフィールド電流を通電するために形成されている請求項1に記載の加速度計。
【請求項3】
前記読み取りモジュールは、センス電流を1つのビット用配線を通じて前記MLUセル中に通電するために形成された前記ビット用配線をさらに有する請求項1に記載の加速度計。
【請求項4】
前記加速度計は、複数のMLUセルを前記プルーフマスのx方向のそれぞれの側面上に有し、複数のMLUセルを前記プルーフマスのy方向のそれぞれの側面上に有する請求項1に記載の加速度計。
【請求項5】
z方向に向けられた加速度ベクトルが検出され得るように、前記加速度計は、1つ又は複数のMLUセルを前記プルーフマスの上又は有する請求項1に記載の加速度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、向上した感度を有する加速度計デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
加速度計は、加速力を測定するために使用されるMEMSデバイスである。従来の用途は、振動測定、地震検出、及び地震アプリケーションを含む。MEMS加速度計のための最も一般的な用途のうちの1つは、自動車用のエアバッグ展開システムと、潜在的に全てのスマートフォン及びタブレットとにおいて存在する。自動車及びモバイルの産業における加速度計の普及した使用が、それらのコストを劇的に減少させた。今日の市場では、一軸のモデル、二軸のモデル、及び三軸のモデルが一般に入手可能である。最初のマイクロ加速度計が導入されて以降、静電容量型加速度計の性能が、劇的に向上した。
【0003】
変位測定式の加速度計は、入力加速度に応じて、懸架されたプルーフマス(proof−mass)の変位を測定する。図1(左側)は、複数の弾性テザー12によって懸架された1つのプルーフマス11と2つの固定プレート14を有する複数の櫛形電極13とを備える静電容量に基づく加速度計(静電容量に基づく加速度計)1の概要を示す。また、図1(右側)は、左に向かって指向された加速度70に起因して右に向かって変位51された静電容量に基づく加速度計のプルーフマス11を示す。
【0004】
図2は、静電容量型加速度計の櫛形構造を示す走査型電子顕微鏡画像である。
【0005】
静電容量型加速度計によってエンコードされた情報は、静電容量値である。換言すると、当該静電容量型加速度計に加速度を引き起こすことが、微小静電容量値の変化に変換される。
【0006】
最近のほとんどの加速度計は、図3に示されたような開ループ系を使用する。加速度計1の2つの固定プレート14に印加される信号は、180°移相した交流信号である。当該測定回路の出力は、その振幅が対象となる静電容量に比例する交流信号である。静電容量Cの変化に関連する変化に追従し得る方法でこの振幅を抽出するため、同期復調器が使用され得る。キャリア信号が、関係ない情報を除去するためにローパスフィルタによってフィルタリングされる。
【0007】
当該静電容量の変化は、一般にフェムトファラドの範囲内にある。
【0008】
MEMSは、電子装置によって通常のシリコン基板上でマイクロメートルの寸法に縮小された複数の機械要素の集積体である。このスケール(μm)では、当該機構のスケーリング特性、設計、材料及び製造工程を良く理解することが重要である。USバークレーのK.S.J.Pister及びその他の研究者による研究:MEMSの性能は、大きさに逆比例する。ほとんどのセンサの未処理の感度は、当該センサの寸法が小さくなるにつれて低下する。
【0009】
ほとんどのMEMSセンサシステムの根本的な限界は、熱雑音である。温度、つまり分子の振動が、約10−21ジュールの平均運動エネルギーによって全ての機械デバイス及び電気デバイスにジッターを引き起こす。このことは、多くの場合にフェムトファラド(10−12ファラド)のスケールである静電容量型加速度計の測定を妨害するのに十分である。
【0010】
静電容量型加速度計は、自動車のエアバッグの使用又はスマートフォンの方向の検出のために十分である専ら1−gの変化を検出し得る。しかしながら、静電容量型加速度計は、医療での使用又はリアルタイムの使用において重要であるマイクロgの振動に対応するには多大な労力を要する。
【0011】
米国特許第2007025027号明細書は、物理パラメータを検知するための方法及び装置を開示する。当該装置は、磁気トンネル接合(MTJ)と磁場源とを有する。この磁場源の磁場が、この磁気トンネル接合と重なり合い、この磁気トンネル接合に近接する当該磁場が、センサへの入力に応じて変化する。この磁気トンネル接合は、第1磁気電極と第2磁気電極との間の重要なトンネリング電導を可能にするように形成された誘電体によって分離されたこの第1磁気電極とこの第2磁気電極とを有する。この第1磁気電極は、ピン止めされたこの第1磁気電極のスピン軸を有し、第2磁気電極は、この第2磁気電極の自由なスピン軸を有する。当該磁場源が、この第1磁気電極よりもこの第2磁気電極の近くに配向されている。当該センサの全動作範囲が、同じ入力を受け取るが、異なる個々の応答曲線を有し、好ましくは同じ基板上に本質的に形成されない、並列に電気接続された複数のセンサを提供することによって拡張される。
【0012】
米国特許第2013066587号明細書は、集積回路を有する位置センサと、磁場源の位置を示す検出信号を集積回路に提供する磁場センサとを開示する。この磁場センサは、トンネル磁気抵抗(TMR)センサから構成される。当該位置センサは、当該集積回路に結合された無線回路をさらに有する。この場合、この無線回路は、当該検出信号に基づく位置信号を放射するように構成されたアンテナを有する。
【0013】
米国特許第2013255381号明細書は、励磁コイルを有する本体と第1軸に沿って延在する第1検出コイルとを備える慣性センサを開示する。懸架された質量体が、当該励磁コイルに対応する位置に磁場集中器を有し、当該第1軸に沿った面内で慣性によって変位するように形成されている。電圧/電流を当該検出コイル中に誘導するように当該磁場集中器と相互に作用する磁場を生成するため、給電検出回路が、当該励磁コイルと当該第1検出コイルとに電気接続されていて、当該励磁コイル中に流れる電流の時間変数の流れを発生させるように構成されている。当該第1軸に沿った当該懸架された質量体の変位に関連する量を検出するため、集積回路が、当該第1検出コイル中に誘導される電圧/電流の値を測定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第2007025027号明細書
【特許文献2】米国特許第2013066587号明細書
【特許文献3】米国特許第2013255381号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
全ての従来の技術の解決策が、2つの種類:より良好な設計アプローチ、より良好な増幅器に分類される。
【0016】
(フェムトファラド単位の)既に非常に小さい静電容量の測定の安定化を支援しようとする様々な設計アプローチは、多くの場合に、製造工程中のより高いコストを招く。また、CMOS回路は、(チップの作動によって生成される)温度変化を補償する必要があり、より正確な増幅器が、益々必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
ここでの開示は、少なくとも1つのMLUセルと1つのプルーフマスと1つの読み取りモジュールとを有するMLUに基づく加速度計(MLUに基づく加速度計)に関する。
【0018】
前記少なくとも1つのMLUセルは、固定された1つの第1磁化方向を呈する1つの第1磁性層と変更され得て且つ第1磁性層と第2磁性層との間の磁気結合に起因して前記第1磁化方向に対して反平行に配向される第2磁化方向を呈する第2磁性層との間に1つのトンネル障壁層を有する。
【0019】
前記プルーフマスは、プルーフマス磁場を誘導するプルーフマス磁化方向を呈する強磁性材料から成り、加速度ベクトルに追従するときに、少なくとも1つの方向に変位可能であるように、前記プルーフマスが、弾性式に懸架されていて、前記プルーフマスが、前記プルーフマス磁場を通じて前記少なくとも1つのMLUセルに磁気結合されている。
【0020】
前記読み取りモジュールは、前記少なくとも1つのMLUセルのいずれか1つのMLUセルに対する前記プルーフマスの変位から加速度ベクトルを測定するように、それぞれの前記少なくとも1つのMLUセルの磁気抵抗を測定するために構成されている。
【0021】
ここで開示されたMLUに基づく加速度計は、静電容量に基づくMEMS加速度計を代替しようとするものであり、増幅器を必要とすることなしにより高い感度を提供する。また、当該MLUに基づく加速度計は、より低い静的電力消費を有し、製造工程中に利益を提供する。実際に、当該MLUに基づく加速度計は、製造することが複雑であるが、静電容量に基づく加速度計の通常の機能のために必要である櫛形構造なしで済ますことができる。さらに、当該MLUに基づく加速度計は、当該静電容量に基づく加速度計のために通常必要とされる検出回路を必要としない。
【0022】
本発明は、例示され且つ図示された実施の形態の説明によってより良好に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来の静電容量型プルーフマスが懸架された加速度計を示す。
図2】従来の静電容量型加速度計の櫛構造を示す走査型電子顕微鏡画像である。
図3】従来の開ループ系を示す。
図4】1つの実施の形態による、1つのプルーフマス磁場と複数のMLUセルとを有するプルーフマスから構成される2次元MLUに基づく加速度計の上面図である。
図5】1つの実施の形態による、ストレージ層とセンス層とを有するMLUセルの側面図である。
図6】加速度ベクトルによって変位したプルーフマスを示すMLUに基づく加速度計の上面図である。
図7a】1つの実施の形態による、プルーフマス磁場が存在する場合のストレージ層のストレージ磁化方向とセンス層のセンス磁化方向とを示す。
図7b】1つの実施の形態による、プルーフマス磁場が存在する場合のストレージ層のストレージ磁化方向とセンス層のセンス磁化方向とを示す。
図8】バイアス磁場が印加されるときの、MLUセルの抵抗における変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の原理は、MEMS加速度計内のコンデンサを可変抵抗器とみなされ得るMLUスタックで置換することである。加速度計は、依然としてプルーフマスシステムに基づく。しかしながら、静電容量型加速度計が要求する櫛形構造は必要でない。
【0025】
2次元のMLUに基づく加速度計100の上面が、1つの実施の形態に応じて図4に示されている。MLUに基づく加速度計100は、プルーフマス磁場61を誘導する既定の方向に配向されたプルーフマス磁化方向60を呈する強磁性材料から成るプルーフマス6を有する。
【0026】
加速度計100が、加速度ベクトルに追従するときに、プルーフマス6が、この加速度ベクトルの方向に対して反対の方向に変位されるように、プルーフマス6が、ばね要素62によって懸架されている。図4の例では、2次元のMLUに基づく加速度計100が、ばね要素として作用する4つの可撓性梁62を有し、この梁は、このプルーフマス6の4つの角のそれぞれの角で位置決めされている。このプルーフマスの中心線に対する当該4つの可撓性梁62の対称な配置は、プルーフマス6が当該加速度ベクトルの方向に応じてx方向及び/又はy方向に変位されることと、低い直交軸感度とを可能にする。可撓性梁62は、支持要素63を介して固定構造体に取り付けられ得る。
【0027】
当該ばね要素のその他の配置が考えられる。例えば、当該4つの可撓性梁6は、プルーフマス6の側面上に配置されてもよい。
【0028】
MLUに基づく加速度計100は、MRAMに基づく4つのMLUセルをさらに有する。第1MLUセル101と第3MLUセル103とは、y方向のプルーフマス6のそれぞれの側面上に配置されている。第2MLUセル102と第4MLUセル104とは、x方向のプルーフマス6のそれぞれの側面上に配置されている。第1MLUセル101と第4MLUセル104とは、x方向に沿った加速度を検出するために使用され得、第2MLUセル102と第3MLUセル103とは、y方向に沿った加速度を検出するために使用され得る。図5は、1つの実施の形態による、4つのMLUセル101,102,103,104のうちの1つのMLUセルの側面を示す。これらのMLUセル101〜104は、第1磁性層23と、第2磁性層21と、この第1磁性層23とこの第2磁性層21との間に配置されているトンネル障壁層22とを有する。当該第1磁性層は、ストレージ磁化方向231を呈するストレージ層23でもよく、当該第2磁性層は、センス磁化方向211を呈するセンス層21でもよい。当該それぞれのセンス層21及びストレージ層23は、磁性材料、特に強磁性タイプの磁性材料を含むか又は当該磁性材料、特に強磁性タイプの磁性材料から成る。強磁性材料は、特定の保持力を有するほぼ平面状の磁化方向を特徴とする。当該保持力は、磁化方向が1つの方向に飽和された後に、その磁化方向を戻し逆にするための磁場の大きさを示す。一般に、センス層21及びストレージ層23は、同じ強磁性材料又は異なる強磁性材料を含有し得る。図5に示されているように、センス層21は、軟強磁性材料、すなわち比較的低い保持力を有する強磁性材料を含有し得る一方で、ストレージ層23は、硬強磁性材料、すなわち比較的高い保持力を有する強磁性材料を有し得る。こうして、センス磁化方向211が、低強度の磁場の下で容易に変更され得る。適切な強磁性材料は、典型元素を含有するか又は含有しない、遷移金属、希土類元素及びそれらの合金を含む。例えば、適切な強磁性材料は、鉄(「Fe」)、コバルト(「Co」)、ニッケル(「Ni」)、及びパーマロイ(又はNi80Fe20)のようなそれらの合金、並びにNi、Fe及びホウ素(「B」)に基づく合金、Co90Fe10、並びにCo、Fe及びBに基づく合金を含有する。場合によっては、Ni及びFe(及びオプションでB)に基づく合金が、Co及びFe(及びオプションでB)に基づく合金よりも小さい保持力を有し得る。センス層21とストレージ層23とのそれぞれの厚さは、約1nm〜約20nm又は約1nm〜約10nmのように、nmの範囲内でもよい。センス層21とストレージ層23とのその他の実装が考えられる。例えば、センス層21若しくはストレージ層23又はこれらの双方の層が、いわゆる複合反強磁性層と同様に複合的な複数の副層を有してもよい。
【0029】
トンネル障壁層22は、絶縁材料から成り得るか又は絶縁材料から形成され得る。適切な絶縁材料は、アルミニウム酸化物(例えば、Al)及びマグネシウム酸化物(例えば、MgO)のような酸化物から成る。トンネル障壁層22の厚さは、約1nm〜約10nmのように、nmの範囲内でもよい。
【0030】
MLUセル101〜104のその他の実装が考えられる。例えば、センス層21とストレージ層23との相対位置決めが、ストレージ層23の上に配置されたセンス層21によって逆にされてもよい。
【0031】
図5を参照すると、磁気トンネル接合2は、ストレージ反強磁性層24も有する。このストレージ反強磁性層24は、ストレージ層23に隣接して配置されていて、このストレージ反強磁性層24の低閾値温度T未満の温度若しくはそれに近い温度であるときに、すなわちネール温度のようなブロッキング温度よりも低いときに、又はこのストレージ反強磁性層24の別の閾値温度よりも低いときに、交換バイアスによってストレージ層磁化方向231を特定の方向にピン止めする。当該温度が、高閾値温度Tにある、すなわち当該ブロッキング温度よりも高いときに、このストレージ反強磁性層24は、ストレージ磁化方向231のピン止めを外すか又は解除する。その結果、ストレージ磁化方向231が、別の方向に切り替えられ得る。このストレージ反強磁性層24は、反強磁性体の磁性材料から成るか又は当該磁性材料から形成される。適切な反強磁性材料は、遷移金属及びそれらの合金を含有する。例えば、適切な反強磁性材料は、イリジウム(「Ir」)及びMnに基づく合金(例えば、IrMn)のような、マンガン(「Mn」)に基づく合金、Fe及びMnに基づく合金(例えば、FeMn)、白金(「Pt」)及びMnに基づく合金(例えば、PtMn)、及びNi及びMnに基づく合金(例えば、NiMn)を含有する。例えば、ストレージ反強磁性層24は、約120°〜約220°又は約150°〜約200°の範囲内にある高閾値温度Tを呈するIr及びMnに基づく(又はFe及びMnに基づく)合金から成り得るか又は当該合金から形成され得る。センス磁化方向211のピン止めが外されるので、さもなければ、動作温度範囲の上限に設定されるかもしれない閾値温度なしに、又は当該閾値温度を考慮することなしに、高閾値温度Tが、高温用途のような希望する用途に適応させるために選択され得る。センス磁化方向211は、低閾値温度Tと高閾値温度Tとで任意に調整可能である。自由に調整可能なセンス磁化方向211を呈するセンス層21を有するこの種類のMLUセル1は、自己参照MLUセルとして知られている。
【0032】
ストレージ磁化方向231は、高閾値温度Tで磁気トンネル接合2を加熱するステップと、このストレージ磁化方向231を既定の方向に切り替えるステップとを有するサーマリー・アシスティッド・スイッチング(TAS)書き込み操作を使用することによって設定され得る既定の方向を呈する。
【0033】
この代わりに、MLUセル101〜104が、工場等内で予め設定され、続いて固定された磁化方向を有し得る通常の磁化方向であるセンス磁化方向211と参照磁化方向231とを呈して実装されてもよい。MLUセル101〜104のストレージ層23が、磁気トンネル接合2を加熱することによって、その後に参照磁化方向231を適切な方向に整列させるために電流(図示せず)を磁場用配線4中に通電することによって設定され得る。この設定は、工場内の事前設定として実行されてもよいし、及び/又は、MLUに基づく加速度計100が工場を離れた後の設定として実行されてもよい。
【0034】
図6は、プルーフマス6が加速度ベクトル70に追従するときに変位されることを示すMLUに基づく加速度計100の上面を示す。特に、図6は、(細い破線によって示された)加速度のない初期位置にあるプルーフマス6を示す。また、このプルーフマス6は、左側に向けられた加速度ベクトル70に追従するときに、第2MLUセル102へ向かう方向xに第1変位51によって変位されて(実線によって)示されている。この配列では、プルーフマス6が、第2MLUセル102により近づき、この第2MLUセル102が、右側に向けられた増大した大きさのプルーフマス磁場61を受ける。
【0035】
図7は、1つの実施の形態による、プルーフマス磁場61の発生中のMLUセル101〜104のストレージ磁化方向231とセンス磁化方向211とを示す。図7aは、加速度計100の特定の配向を示す。この場合、第2MLUセル102と第4MLUセル104とのストレージ磁化方向231が、プルーフマス磁場61に対してほぼ平行に整列された既定の方向(すなわち、図6及び7aの右側に向けられたストレージ磁化231の方向)を呈する。図7bは、加速度計100の特定の配向を示す。この場合、第1MLUセル101と第3MLUセル103とのストレージ磁化方向231も、プルーフマス磁場61に対してほぼ平行に整列された既定の方向(すなわち、図6及び7bの左側に向けられたストレージ磁化231の方向)を呈する。
【0036】
図6及び7の特定の配列では、プルーフマス磁場61が、ストレージ磁化方向231とほぼ平行に配向されている。外部磁場の不在中に、センス磁化方向211が、ストレージ磁化方向231に対してほぼ反平行に整列されるように、磁気双極子相互作用が、ストレージ磁化方向231とセンス磁化方向211との間に発生する。プルーフマス6が、正又は負のx方向及びy方向に変位すると、このプルーフマス6が変位して向かうそのMLUセル101〜104内のセンス層21の、有効なセンス磁化211が減少し、ほぼ反平行に結合する磁化が減少する。
【0037】
図5及び6を参照すると、MLUセル101〜104は、磁気トンネル接合2に磁気結合されている磁場用配線4と、磁気トンネル接合2に電気接続されているビット用配線3とをさらに有する。磁場用配線4は、バイアス磁場42を誘導するようにバイアスフィールド電流41を通電するために適合されていて、ビット用配線3は、センス電流32を通電するために適合されている。図6では、第2MLUセル102及び第4MLUセル104がそれぞれ、独立した1つの磁場用配線4によって番地付けされ、第1MLUセル101及び第3MLUセル103が、第2MLUセル102及び第4MLUセル104から独立してもう1つの磁場用配線4によって番地付けされるように、3つの磁場用配線4又は3つの磁場用配線4の一部が、互いに平行に配置されている。
【0038】
MLUに基づく加速度計100の読み取り操作中に、それぞれのMLUセル101〜104の磁気抵抗が、変調された極性を呈するバイアスフィールド電流41を、整合されるべき入力ビットによって設定されるバイアス磁場用配線4中に通電することによって変調され得る。MLUに基づく加速度計100の読み取り操作中に、ストレージ磁化方向231が、その既定の方向に一定に維持される。特に、センス磁化方向211をストレージ磁化方向231に対してほぼ反平行な方向から(平行と反平行との間の)中間状態に切り替えるために形成されたバイアス磁場42を誘導するように、変調されたバイアスフィールド電流41が、磁場用配線4中に通電され得る。この場合、当該磁気トンネル接合が、プルーフマス磁場6によって放射された外部磁場に対して高感度である。センス磁化方向211の当該中間状態は、ストレージ磁化方向231に対してほぼ直角を成すセンス磁化211の方向に相当し得る。いずれにしても、プルーフマス磁場61に対するセンス磁化211の方向の変化に起因して、すなわちプルーフマス磁場61の変化に対してほぼ線形な変化に起因して、センス磁化方向211の当該中間状態は、MLUセル101〜104の磁気トンネル接合2の抵抗Rを変化させる。
【0039】
図8は、バイアス磁場42(正規化して印加された磁場)が磁場用配線4中に印加されているときの、MLUセル101〜104の抵抗(正規化抵抗)の変化を示す。複数のMLUセル101〜104を連続して番地付けする電流ライン4中にフィールド電流41を通電するため、バイアス磁場42の関数と同じ種類の抵抗の変化が達成され得る。換言すると、センス磁化方向211が、プルーフマス磁場61の変化とほぼ線形に変化するように、バイアス磁場42が、ストレージ磁化方向231に対するセンス磁化方向211を設定する。図8には、抵抗−電流曲線の線形部分が、長方形6内に示されている。
【0040】
この高感度な状態では、すなわち、抵抗−電流曲線の線形部分では、外部磁化方向の小さい変化(プルーフマス6の変位に起因するプルーフマス磁場61の小さい変化)が、磁気トンネル接合2の抵抗値の大きい線形変化を引き起こす。図6及び7の例では、このことは、第2MLUセル102と第4MLUセル104とに番地付けする極性とは逆の極性を有する第1MLUセル101と第3MLUセル103とを番地付けする磁場用配線4中にバイアスフィールド電流41を通電することによって達成される。バイアス磁場42。
【0041】
プルーフマス6がMLUセル101〜104に向かって変位されるそのMLUセル101〜104の高感度の磁気状態にセンス磁化方向211を切り替えるために要求されるバイアスフィールド電流41の大きさは、プルーフマス磁場61の大きさに比例して、すなわちプルーフマス6の変位の大きさに比例して増大される。
【0042】
センス磁化方向211とストレージ磁化方向231との整列の度合いが、センス電流32を、例えばビット用配線3を通じて磁気トンネル接合2中に通電することによって測定され得る(図5参照)。センス電流32が通電されるときに、磁気トンネル接合2にわたる電圧を測定すると、ストレージ磁化231の方向に対するセンス磁化方向211の特定の整列に対する磁気トンネル接合2の抵抗値Rが測定される。その代わりに、抵抗値が、磁気トンネル接合2にわたって電圧を印加し、電流を測定することによって測定されてもよい。センス磁化方向211が、ストレージ磁化方向231に対して反平行である場合、磁気トンネル接合2の抵抗値Rは、一般に最大値、すなわちRmaxに相当し、当該それぞれの磁化方向が、平行である場合、磁気トンネル接合2の抵抗値は、一般に最小値、すなわちRminに相当する。
【0043】
1つの例では、ストレージ磁化231の方向にあるプルーフマス磁場61が、センス磁化方向211のカップリング成分のg%であると仮定する場合、1つのMLUセル101〜104の抵抗が、(Rminに対して)約(g*(Rmax−Rmin)/Rmin)パーセントだけ変化し得る。
【0044】
したがって、x又はy方向の加速度が、MLUに基づく加速度計100内に含まれるMLUセル101〜104のいずれかのMLUセルの磁気トンネル接合2の抵抗の変化を通じて測定され得る。
【0045】
MLUに基づく加速度計100のその他の配置が考えられる。例えば、x方向及びy方向のいずれかの方向の加速度測定に対応する抵抗信号を増幅するため、複数のMLUセルから成る列が、プルーフマス6のそれぞれの側面上に配置され得る。例えば、MLUに基づく加速度計が、複数(可能であれば、数万)のMLUセルから成る1つのアレイを一緒に結合することによって提供され得る。この場合、当該アレイは、プルーフマス6のそれぞれの側面上に設置される。このような配置は、出力信号と測定電流利得を増大させることを可能にする一方で、結合容量は非常に小さく維持される。
【0046】
3次元のMLUに基づく加速度計100が、1つ又は複数のMLUセルをプルーフマス6の上又は下に配置することによって達成され得る。そして、z方向に向けられた加速度ベクトルを検出するため、当該プルーフマスが、z方向に変位するように配置され得る。
【符号の説明】
【0047】
1 加速度計
2 磁気トンネル接合
ビット用配線
磁場用配線、電流ライン
6 プルーフマス、長方形
11 プルーフマス
12 弾性テザー
13 櫛形電極
14 固定プレート
21 第2磁性層、センス層
22 トンネル障壁層
23 第1磁性層、ストレージ層
24 ストレージ反強磁性層
32 センス電流
41 バイアスフィールド電流
42 バイアス磁場
51 第1変位
60 プルーフマス磁化方向
60′ プルーフマス磁化方向
60″ プルーフマス磁化方向
61 プルーフマス磁場
62 ばね要素、可撓性梁
63 支持要素
70 加速度ベクトル
100 MLUに基づく加速度計
101 第1MLUセル
102 第2MLUセル
103 第3MLUセル
104 第4MLUセル
211 センス磁化(方向)
231 ストレージ磁化(方向)、参照磁化(方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8