特許第6494749号(P6494749)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6494749電気駆動システム、および電気自動車の電動機を駆動する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494749
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】電気駆動システム、および電気自動車の電動機を駆動する方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20190325BHJP
   B60L 50/40 20190101ALI20190325BHJP
   B60L 50/50 20190101ALI20190325BHJP
   B60L 53/00 20190101ALI20190325BHJP
   B60L 55/00 20190101ALI20190325BHJP
   B60L 58/00 20190101ALI20190325BHJP
   B60L 9/18 20060101ALI20190325BHJP
   B60L 7/14 20060101ALI20190325BHJP
   H02P 4/00 20060101ALI20190325BHJP
   H02M 7/487 20070101ALI20190325BHJP
【FI】
   H02P27/06
   B60L11/18 A
   B60L9/18 J
   B60L7/14
   H02P4/00
   H02M7/487
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-520493(P2017-520493)
(86)(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公表番号】特表2017-532942(P2017-532942A)
(43)【公表日】2017年11月2日
(86)【国際出願番号】EP2015069614
(87)【国際公開番号】WO2016058742
(87)【国際公開日】20160421
【審査請求日】2017年4月14日
(31)【優先権主張番号】102014220834.3
(32)【優先日】2014年10月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501125231
【氏名又は名称】ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100120499
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100095957
【弁理士】
【氏名又は名称】亀谷 美明
(72)【発明者】
【氏名】ヴォル、クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ボイリヒ、クラウス
(72)【発明者】
【氏名】サハリ、ワリード
【審査官】 樋口 幸太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−087105(JP,A)
【文献】 特開平07−264715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
B60L 7/14
B60L 9/18
B60L 50/40
B60L 50/50
B60L 53/00
B60L 55/00
B60L 58/00
H02M 7/487
H02P 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電気エネルギー貯蔵装置(11)および第2の電気エネルギー貯蔵装置(12)を備える電気エネルギー貯蔵器(1)と、
電動機(3)と、
第1の駆動モードでは、前記第1の電気エネルギー貯蔵装置(11)により提供された第1の電圧を利用して前記電動機(3)を駆動し、第2の駆動モードでは、前記第1の電気エネルギー貯蔵装置(11)および前記第2の電気エネルギー貯蔵装置(12)から成る並列回路により得られた第2の電圧を利用して前記電動機(3)を駆動するよう構成されたインバータ(2)と、
を備え、
前記インバータ(2)はさらに、回収モードにおいて、前記電動機(3)により提供された電圧を整流し、前記第1の電気エネルギー貯蔵装置(11)および/または前記第2の電気エネルギー貯蔵装置(12)に提供するよう構成され、
前記第1の電気エネルギー貯蔵装置(11)と前記第2の電気エネルギー貯蔵装置(12)とは、充電サイクルの数が異なり、
前記第1の電気エネルギー貯蔵装置(11)と前記第2の電気エネルギー貯蔵装置(12)とのうちの、より充電サイクルの数が大きい電気エネルギー貯蔵装置が、優先的に充電され
前記第1の電気エネルギー貯蔵装置(11)と前記第2の電気エネルギー貯蔵装置(12)とは、同一の構成である、電気駆動システム。
【請求項2】
前記インバータ(2)は、NPC(Neutral−Point Clamped。中性点クランプ式)インバータを含む、請求項1に記載の電気駆動システム。
【請求項3】
前記第1の電気エネルギー貯蔵装置(11)と前記第2の電気エネルギー貯蔵装置(12)とは、接点(K)で互いに電気的に接続され、前記接点(K)は、前記NPCインバータの中間端子と電気的に接続されている、請求項2に記載の電気駆動システム。
【請求項4】
前記第1の電気エネルギー貯蔵装置(11)は、主バッテリを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の電気駆動システム。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の電気駆動システムを備える自動車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気駆動システム、電気駆動システムを備えた自動車、および電動機を駆動する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気で駆動する乗用車のような電気自動車で、良好な加速とともに速い最高速度を実現するために、様々な構想が知られている。例えば、電動機は、二段の変速機構を介して車輪と結合されうる。さらに、特にスポーツカータイプで出力が高い自動車の場合に、回転数が高い際にも未だ十分な回転トルクを提供できるために、対応した大きさに電動機の寸法を定めることも知られている。
【0003】
独国特許出願公開第102011056012号明細書では、さらに、2つの別々の電動機を備えた電気自動車のためのドライブトレインが記載されており、ここでは、第1の電動機は、より高い最大回転トルクのための第2の電動機と比較して、より低い最大回転数のために設計されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特に電気自動車のための電気駆動システム分野においてさらなる開発が進んでいることから、安価で、効率良く昇圧(boost)が可能な電気駆動システムに対する需要が発生している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このために、本発明は、第1の観点に従って、第1の電気エネルギー貯蔵装置および第2の電気エネルギー貯蔵装置を備える電気エネルギー貯蔵器と、電動機と、第1の駆動モードでは第1の電気エネルギー貯蔵装置により提供された第1の電圧を利用して電動機を駆動し、第2の駆動モードでは第1の電気エネルギー貯蔵装置および第2の電気エネルギー貯蔵装置から成る並列回路により得られる第2の電圧を利用して電動機を駆動するよう構成されたインバータとを備える、電気駆動システムを創出する。
【0006】
第2の観点に従って、本発明は、電動機を駆動する方法であって、第1の電気エネルギー貯蔵装置および第2の電気エネルギー貯蔵装置を備える電気エネルギー貯蔵器を準備する工程と、第1の駆動モードにおいて、第1の電気エネルギー貯蔵装置により提供された第1の電圧を利用して電動機を駆動する工程と、第2の駆動モードにおいて、第1の電気エネルギー貯蔵装置および第2の電気エネルギー貯蔵装置から成る並列回路により得られた第2の電圧を利用して電動機を駆動する工程とを含む、上記方法を創出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の根底には、現時点で必要な所要電力に従って、様々な電圧により電気駆動システム内の電動機を駆動するという考えがある。回転数が小さくまたは所要電力が小さい際には、電動機は、適切なエネルギー貯蔵装置からのより低い電圧によって駆動されうる。さらに、特に回転数が高い際に出力を上げるために、上記エネルギー貯蔵装置と他のエネルギー貯蔵装置とを組み合わせることによって、電動機を駆動するための電圧を上げることが可能である。
【0008】
このようにして、所要電力が小さい際にも効率の良い動作点で電動機を駆動することが可能である。これにより、所要電力が小さい際に、部分負荷駆動時の従来の駆動システムよりも高い非常に良好な効率が実現される。
【0009】
例えば、回転数が高い際の強い加速のためまたは比較的速度が速い際の電気自動車の駆動のために、所要電力がより大きい際には、さらに、追加的なエネルギー貯蔵装置によって、電動機を駆動するための電圧を高めることが可能である。例えば、このために、複数のエネルギー貯蔵装置が直列に接続され、したがって、電動機の駆動のために、個々のエネルギー貯蔵装置の端子電圧の総和が提供される。
【0010】
したがって、電動機を本発明に基づいて駆動することによって、一方では、所要電力が小さい際に高い効率が獲得され、さらに、高出力および高い回転数のためにも十分なエネルギー貯蔵量が提供される。この駆動モードは、昇圧(Boost)駆動モードとも呼ばれる。この昇圧駆動モードでは、従来の駆動システムを比較的小さく変更するだけでよい。コストが掛かるトランスミッション、追加的な電動機等が必要な従来の解決策に対して、電動機のコスト、重量、および容量が下がる。
【0011】
一実施形態によれば、インバータは、NPC(Neutral−Point Clamped。中性点クランプ式)インバータを含む。NPCインバータによって、従来のB6ブリッジと比べて、耐電圧性が変えられていないスイッチング素子が使用された状態で出力電圧を2倍にすることが可能である。このようにして、対応して電圧が高い駆動モードにおいて電動機を駆動することが可能であり、その際にそのために、耐電圧性がより優れた新しいスイッチング素子を開発する必要はない。十分な耐電圧性を備えた対応する半導体スイッチ要素、特に、MOSFET(metal oxide semiconductor field−effect transistor。MOS電解効果トランジスタ)、IGBT(insulated−gate bipolar transistor。絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)、炭素ケイ素(SiC)スイッチング素子、または、窒化ガリウム(GaN)スイッチング素子が、既に市場で入手可能である。さらに、NPCインバータの使用によって、可能なより高いスイッチング周波数により、必要とされるパッシブ(passiv)な構成要素の小型化も可能となり、その際にこのことが効率に対して重大な影響を及ぼさない。さらに、スイッチの故障が、必ずしもNPCインバータの完全な故障には繋がらず、これにより、電気駆動システムの利便性も上げられる。
【0012】
他の実施形態によれば、第1の電気エネルギー貯蔵装置と第2の電気エネルギー貯蔵装置とは、接点で互いに電気的に接続されている。この接点は、NPCインバータの中間端子(中性点)と電気的に接続されている。このようにして、例えばエネルギー貯蔵器として、センタータップ付きの電池が使用されうる。この場合、センタータップは、2つのエネルギー貯蔵装置の間の接点である。このようにして、本発明に係る電気駆動システムのためのエネルギー供給が、特に簡単に実現されうる。
【0013】
一実施形態によれば、インバータはさらに、回収モードにおいて、電動機により提供された電圧を整流するよう構成される。この整流された電圧は、インバータによって、第1の電気エネルギー貯蔵装置および/または第2の電気エネルギー貯蔵装置に提供されうる。このようにして、電動機によって運動エネルギーを電気エネルギーに変換し、この電気エネルギーを再び電気貯蔵器に供給することが可能である。
【0014】
一実施形態によれば、第1の電気エネルギー貯蔵装置と第2の電気エネルギー貯蔵装置とは異なる構成をしている。例えば、第1の電気貯蔵装置は、高エネルギー貯蔵装置を含みうる。このような高エネルギー貯蔵装置は、大量のエネルギーを貯蔵して、必要な際にこのエネルギーを再び放出するよう構成されている。このようにして、例えば第1の電気エネルギー貯蔵装置によって、電動機の長期間の駆動のために必要なエネルギーが提供されうる。さらに、例えば第2の電気エネルギー貯蔵装置が、高性能エネルギー貯蔵器として実現されうる。このような高性能エネルギー貯蔵器は、特に、大量の電気エネルギーを非常に迅速に提供することができる。この提供された電気エネルギーは、例えば、強い加速過程、または、特に高出力での電動機の短時間の駆動のために利用されうる。2つの電気エネルギー貯蔵装置が互いに異なって実現されることで、この2つのエネルギー貯蔵装置の各々が個別に各要請に対して適合されうる。
【0015】
さらに、例えば電気エネルギー貯蔵器による回収の間に、インバータによっても充電される場合には、特に、2つの電気エネルギー貯蔵装置の一方が好適に選択されうる。この場合に、上記回収過程の間に充電すべきエネルギー貯蔵装置が、増大された数による充電サイクルのために最適化されうる。このためには、例えば、スーパーキャパシタ(Supercap)等が特に適している。回収の間に、増大された数による充電サイクルのために設計されたエネルギー貯蔵装置が充電される場合には、このようにして、エネルギー貯蔵装置全体の推定耐用寿命が延ばされる。
【0016】
代替的な実施形態において、第1の電気エネルギー貯蔵装置と第2の電気エネルギー貯蔵装置とは、同一の構成をしている。このようにして、必要な電気エネルギー貯蔵器が、開発コストが増大することなく特に簡単に実現されうる。
【0017】
他の実施形態によれば、第1の電気エネルギー貯蔵装置は主バッテリを含む。これにより、本発明に係る駆動システムのための電気エネルギー貯蔵器が特に簡単に構成されうる。
【0018】
一実施形態によれば、第1の電気エネルギー貯蔵装置および/または第2の電気エネルギー貯蔵装置は、少なくとも300Vの端子電圧を有しうる。好適に、対応する端子電圧は、約400Vの電圧を有する。このような電圧レベルのために、例えば主バッテリおよびNPCインバータ等の、耐電圧性が充分に優れた数多くの提供可能な構成要素が既に存在する。したがって電気駆動システムはこの場合特に簡単かつ安価で構成されうる。
【0019】
一実施形態によれば、電動機は、当該電動機の回転数が所定の第1の限界値を上回りおよび/または当該電動機により提供される回転トルクが所定の第2の限界値を上回る場合には、第2の駆動モードで駆動される。電動機の回転数および/または要求される回転トルクに従って、2つの駆動モードを切り替えることによって、どんな場合にも最適な駆動モードが選択され、したがって、一方では、電動機が非常に効率良く駆動され、さらに、一時的な高い出力要求も考慮されうる。
【0020】
他の観点に従って、本発明は、本発明に係る電気駆動システムを備えた自動車を創出する。本発明に係る電気駆動システムを、例えば乗用車等の自動車、または、例えばバスもしくはトラック等の他の自動車に組み込むことによって、特に加速時または速度が速い際にも十分な電力の蓄積量を提供する効率の良い駆動システムが、非常に広いパワースペクトルに亘って提供される。
【0021】
本発明のさらなる別の実施形態および利点が、添付の図面に関する以下の明細書の記載から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施形態に係る電気駆動システムの概略図を示す。
図2】一実施形態に係るNPCインバータを備えた電気駆動システムの概略図を示す。
図3】一実施形態に係る駆動システムを備えた自動車の概略図を示す。
図4】電動機の回転数に対する回転トルクの推移の概略図を示す。
図5】一実施形態の土台となる、電動機を駆動する方法の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、一実施形態に係る電動機の概略図を示している。電気エネルギー貯蔵器1は、その電気エネルギーをインバータ2に供給する。インバータ2は、電気エネルギー貯蔵器1により提供された直流電圧を、単相または多相の交流電圧に変換し、この交流電圧を用いて電動機3を駆動する。
【0024】
電気エネルギー貯蔵器1は、基本的に、2つの外部端子であるプラスおよびマイナスの他にさらに追加的なセンタータップKを有する任意の電気エネルギー貯蔵器でありうる。例えば、エネルギー貯蔵器1は、2つの部分から成るエネルギー貯蔵器であって、第1の電気エネルギー貯蔵装置11と第2の電気エネルギー貯蔵装置12とを備える上記エネルギー貯蔵器でありうる。第1の電気エネルギー貯蔵装置11と第2の電気エネルギー貯蔵装置12とは、接点で互いに電気的に接続されている。この場合、接点は、電気エネルギー貯蔵器1のセンタータップKである。ここに示される例では、第1の電気エネルギー貯蔵装置11の正の端子が、第2の電気エネルギー貯蔵装置12の負の端子と接続されており、接点がインバータ2と接続されている。さらに、第1の電気エネルギー貯蔵装置11の負の端子および第2の電気エネルギー貯蔵装置12の正の端子が、インバータ2と接続されている。代替的に、第1の電気エネルギー貯蔵装置11の負の端子が第2のセネルギー貯蔵装置12の正の端子と接続されたエネルギー貯蔵器1も可能である。
【0025】
その際に、電気エネルギー貯蔵器1は、センタータップKを有する1つのバッテリであり、2つのエネルギー貯蔵装置11および12は各々、1つ以上のバッテリセルにより形成されている。代替的に、電気エネルギー貯蔵器1は、2つの別々のバッテリによっても形成されうる。その際には、2つのバッテリの各々が、エネルギー貯蔵装置11または12に相当する。この場合、2つのバッテリの間の電気的接続がセンタータップKとなる。
【0026】
その際に、第1の電気エネルギー貯蔵装置11の端子電圧は、厳密にまたは少なくとも近似的に、第2の電気エネルギー貯蔵器12の端子電圧に相当しうる。代替的に、第1の電気的エネルギー貯蔵装置11と第2の電気的エネルギー貯蔵装置12とが、異なる端子電圧を有するということも同様に可能である。好適に、少なくとも、第1の電気エネルギー貯蔵装置11での端子電圧は、例えば電気自動車の電動機を駆動するために使用されるような従来の主バッテリの端子電圧に相当する。このような主バッテリは、通常は、少なくとも300Vの端子電圧、特に約300V〜400Vの端子電圧を有する。
【0027】
電気エネルギー貯蔵器1の第1の電気エネルギー貯蔵装置11と第2の電気エネルギー貯蔵装置12とは、同一の構成をしていてもよい。しかしながら、第1の電気エネルギー貯蔵装置11と第2の電気エネルギー貯蔵装置12とが、その構成において、または少なくとも、エネルギー貯蔵容量および/または端子電圧等のパラメータにおいて異なっているということも可能である。例えば、第1の電気エネルギー貯蔵装置11が、第2の電気エネルギー貯蔵装置12よりも大きくまたは小さいエネルギー貯蔵容量を有するということが可能である。第1の電気エネルギー貯蔵装置11は、例えば、高エネルギー貯蔵器として設計可能である。このような高エネルギー貯蔵器は、比較的小さな貯蔵容量で大量のエネルギーを貯蔵し、必要な場合にこの電気エネルギーを提供することが可能である。第2の電気エネルギー貯蔵装置12は、例えば、高性能エネルギー貯蔵器として実現されうる。このような高性能エネルギー貯蔵器は、非常に短時間で大量のエネルギー、特に大量の電気エネルギーを提供することが可能である。したがって、このような高性能エネルギー貯蔵器によって、例えば所要電力が非常に大きい際に、必要な電気エネルギーを非常に迅速に提供することが可能である。例えば、このような高性能貯蔵器は、スーパーキャパシタ(Supercap)等でありうる。しかしながら、他の貯蔵技術も同様に可能である。
【0028】
さらに、電気エネルギー貯蔵器1の2つの電気エネルギー貯蔵装置11および12は、互いに異なる数の最大充電サイクルに対しても最適化されうる。したがって、例えば、2つの電気エネルギー貯蔵装置11または12の一方が、特に大きな数の充電サイクルに対して最適化され、エネルギー貯蔵装置11または12の各他方が、より小さな数の充電サイクルのために設計される。この場合、回収モードでは、電気エネルギーが好適に、より大きな数の充電サイクルのために設計された電気エネルギー貯蔵装置11または12へと供給される。これにより、より小さい数の充電サイクルのために設計されたエネルギー貯蔵装置11または12には、回収過程の間負荷が掛からない。このようにして、電気エネルギー貯蔵器1が、低コストで、長い寿命のために形成されうる。
【0029】
電気エネルギー貯蔵器1の3つの端子、すなわち、負の端子、正の端子、および、センタータップKは、インバータ2と電気的に接続されている。例えば、このインバータは、中性点クランプ式(NPC:Neutral−Point Clamped)インバータでありうる。このインバータ2は、電気エネルギー貯蔵器1により提供された直流電流を、単相または多相の交流電圧へと変換する。この変換された交流電圧によって、インバータ2と電気的に接続された電動機3が駆動される。その際に、インバータ2の駆動は、制御装置4により生成されてインバータ2に提供される制御信号に基づいて行われうる。制御装置4での制御信号の生成は例えば、所定の回転数、または電動機3に提供される回転トルク等の制御パラメータ41に基づいて行われうる。
【0030】
第1の駆動モードでは、インバータ2は、電気エネルギー貯蔵器1の部分電圧であって、第1の電気エネルギー貯蔵装置11により提供される上記部分電圧のみを利用して電動機3を駆動することが可能である。第2の電気エネルギー貯蔵装置12は、この第1の駆動モードでは、電動機3の駆動のために利用されない。したがって、この第1の駆動モードでは、電動機3がそれにより駆動可能な電圧の振幅が、第1の電気エネルギー貯蔵装置11の端子電圧によって制限されている。通常では、第1の電気エネルギー貯蔵装置11により提供される電圧は、所定の限界値までの回転数範囲において電動機3を駆動するためには十分である。回転数の上記限界値までは、電動機3は、第1のエネルギー装置11が提供する電圧のみを利用しても、良好に加速されうる。さらに、回転数がより高い際にも電動機を良好に加速しうるため、または回転数がより高い際にも電動機3によって十分な回転トルクを提供しうるために、電動機3は、インバータ2によって、他の駆動モードで、電気エネルギー貯蔵器1での全電圧を利用して駆動されうる。この場合には、インバータ2は、電動機3を駆動するために、第1の電気エネルギー貯蔵装置11と第2の電気エネルギー貯蔵装置12との並列回路から得られる電圧であって、電気エネルギー貯蔵器1の正の端子と負の端子の間の上記電圧を利用する。このより高い電圧を利用することによって、インバータ2は、対応して振幅がより高い交流電圧も電動機3に提供することが可能である。したがって、回転数がより高い際にも、電動機3によって十分に高い回転トルクが提供され、または、回転数がより高い際にも、電動機3の改善された加速が達成されうる。これに関して、電動機3の絶縁、特に電動機3内のコイルの絶縁も対応して耐電圧性に優れて設けられることに注意されたい。すなわち、電動機3の耐電圧性は、電気貯蔵器1の正の端子と負の端子の間で得られる電圧、つまり、第1の電気エネルギー貯蔵装置11と第2の電気エネルギー貯蔵装置12との並列回路により得られる電圧に対して適合される必要がある。さらに、電気駆動システム、特に、電動機3およびインバータ2は、高電力のために、さらにこれに関連して、この第2の駆動モードで生じうる発熱のために、設計される必要がある。
【0031】
インバータ2が、第1の駆動モードで、電気エネルギー貯蔵装置11からの電圧のみを利用して電動機3を駆動するのか、または、電動機3が、第1の電気エネルギー貯蔵装置11と第2の電気エネルギー貯蔵装置12とから成る電気エネルギー貯蔵器1の全電圧を利用して駆動されるかについての決定は、電動機3の回転数、および/または、電動機3で設定される回転トルクに基づいて決められる。先に記載したように、回転数が低い際または電動機3で設定される回転トルクが低い際には、第1の電気エネルギー貯蔵装置11の電圧のみを利用して電動機3を駆動することで十分である。これに対して、回転数がより高い際または設定される回転トルクがより高い際には、電動機3は、第1の電気エネルギー貯蔵装置11および第2の電気エネルギー貯蔵装置12からの電圧を利用して駆動される。各駆動モードの選択は、制御装置4によって、当該制御装置4に提供される制御パラメータ41を利用して行われうる。その際に、制御装置4は、例えば、電動機の目標回転数および電動機で設定される回転トルクについてのデータを受信して、このデータから適切な駆動モードを定めることが可能である。続いて、このようにして定められた駆動モードでインバータ2が駆動される。
【0032】
上記の2つの駆動モードの他に、回収モードがさらに可能である。このさらなる別の駆動モードでは、電動機3は発電機として駆動される。その際に、電動機3は、インバータ2に単相または多相の交流電圧を提供し、この単相または多相の交流電圧は、インバータ2によって直流電圧に変換される。インバータ2は、この駆動モードでは、すなわち整流器として機能する。このように整流された電圧を、エネルギー貯蔵器1に提供して、当該エネルギー貯蔵器1を充電することが可能である。その際に、電気エネルギー貯蔵器1の第1の電気エネルギー貯蔵装置および第2の電気エネルギー貯蔵装置を同時に充電することが可能である。代替的に、2つのエネルギー貯蔵装置11または12の一方のみ充電することが可能である。例えば、現時点で充電状態がより低いエネルギー貯蔵装置11または12のみを充電することが可能である。さらに、2つのエネルギー貯蔵装置11または12の一方を好ましいように充電させることも可能である。例えば、2つのエネルギー貯蔵装置11または12の一方が、より大きな数の充電サイクルに対して最適化されうる。この場合に、各他方のエネルギー貯蔵装置11または12は、低コストで、より小さい数の充電サイクルのために設計されうる。
【0033】
図2は、一実施形態に係る電気駆動システムの概略図を示している。ここでは、インバータ2は、NPCインバータとして実現されている。このようなNPCインバータは、特に、上述の電気駆動システムのためのインバータとして適している。センタータップKと、電気エネルギー貯蔵器1の正または負の端子との間にはそれぞれ中間回路コンデンサC1、C2が配置されている。ここに示すインバータの3つの位相はそれぞれ、4つの半導体スイッチ要素T1〜T4、T5〜T8、およびT9〜T12を含む。しかしながら基本的に、ここに提示する接続原則を用いて、3とは異なる数の位相も実現される。その際に、第1の位相について、4つのスイッチ要素T1〜T4が、エネルギー貯蔵器1の正の端子と負の端子との間に直列に接続されている。第2の半導体スイッチ要素T2と第3の半導体スイッチ要素T3との間の中央の接点は、電動機3の1の位相端子と接続されている。第1の半導体スイッチ要素T1と第2の半導体スイッチ要素T2との間の接点、および、第3の半導体スイッチ要素T3と第4の半導体スイッチ要素T4との間の接点はそれぞれダイオードD1またはD2を介して、電気エネルギー貯蔵器1のセンタータップKと接続されている。その際に、さらなる別の位相の構造は、図2に示すように、今説明した第1の位相と同様である。
【0034】
このように実現された、NPCインバータの形態によるインバータ2によって、例えばMOSFET(metal oxide semiconductor field−effect transistor。MOS電解効果トランジスタ)またはIGBT(insulated−gate bipolar transistor。絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)等の従来のスイッチング素子の使用も、さらに、高速でスイッチングする新型の炭素ケイ素(SiC)スイッチまたは窒化ガリウム(GaN)スイッチの使用も可能となる。
【0035】
図3は、一実施形態に係る電気駆動システムを備えた電気自動車5の概略図を示している。電気エネルギー貯蔵器1は、インバータ2に電力供給する。これに基づいて、インバータ2は、電動機3を駆動する。電動機3は、トランスミッションおよび機械的接続を介して、電気自動車5の軸の車輪51と結合されている。ここでは、電動機3の回転数、したがって電気自動車5の速度と、所望の加速度または設定される回転トルクとに従って、電動機3は、エネルギー貯蔵器1により提供された全電圧によって駆動され、またはセンタータップと電気エネルギー貯蔵器1の外部端子との間の部分電圧のみによって駆動される。
【0036】
図4は、電動機3の回転数nに対する利用可能な回転トルクMを示すグラフの概略図を示している。破線による曲線の推移は、第1の駆動モードにおいて利用可能な回転トルクを示している。第1の駆動モードでは、電動機3は、インバータ2によって、第1の電気エネルギー貯蔵装置11からの部分電圧のみによって駆動される。ここでは、限界回転数を上回ると、利用可能な回転数Mが落ちることが分かる。したがって、電動機3を、さらに場合によっては電動機3により駆動される電気自動車も、より強く加速させることができない。これに対して、第1の電気エネルギー貯蔵装置11と第2の電気エネルギー貯蔵装置12との組み合わせから成る電気エネルギー貯蔵器1の全電圧が利用される際には、利用可能な回転トルクは、遥かにより高い回転数範囲に亘って、ここでも回転トルクの低下が示されるまで一定のままである。したがって、電動機3は、より高い電圧で駆動される際には、より高い回転数範囲に亘っても非常に良好に加速されうる。
【0037】
上述の電気駆動システムは、例えば、完全にまたは部分的に電気で駆動する車両のために使用されうる。特に、最高速度が比較的速い乗用車の場合に、非常に大きな速度範囲に亘って良好な加速を実現することが可能である。回転数が高い際でもまだ高い回転トルクを提供することが可能である。同様に、上述の電気駆動システムも、任意の他の自動車のために使用されうる。例えば、バスまたはトラック等の重量がより大きい車両も、通常の走行駆動では一の駆動モードで駆動され、強い加速の間には他の駆動モードで駆動されうる。
【0038】
図5は、一実施形態に係る電動機3を駆動する方法の土台となるフロー図の概略図を示している。第1の工程S1において、第1のエネルギー装置11および第2のエネルギー装置12を備える電気的エネルギー貯蔵器1が提供される。2つのエネルギー貯蔵装置11および12は、好適に、共通の接点Kで互いに電気的に結合されている。工程S2において、電動機3は、第1の駆動モードにおいて、第1の電気エネルギー貯蔵装置11により提供される電圧を利用して駆動される。さらに、工程S3において、電動機3は、第2の駆動モードにおいて、第1の電気エネルギー貯蔵装置11と第2の電気エネルギー貯蔵装置12とから成る並列回路により得られる第2の電圧を利用して駆動される。その際に、電動機3は、電動機3の回転数が所定の第1の限界値を上回りおよび/または電動機により提供される回転トルクが所定の第2の限界値を上回る場合には、第2の駆動モードで駆動される。
【0039】
以上、本発明は、電動機および電動機を駆動する方法に関する。電動機は、第1の駆動モードにおいて第1の電圧を利用して駆動される。一時的に出力を上げるために、電動機はさらに、第2の駆動モードで駆動される。第2の駆動モードでは、駆動のために利用される電圧が、第2のエネルギー源によって高められる。
図1
図2
図3
図4
図5