特許第6494795号(P6494795)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アバンティウム・ナレッジ・センター・ベー・フェーの特許一覧

特許6494795炭水化物源からエチレングルコールを製造する方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494795
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】炭水化物源からエチレングルコールを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/132 20060101AFI20190325BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20190325BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20190325BHJP
   B01J 23/652 20060101ALI20190325BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   C07C29/132
   C07C31/20 A
   C07C31/20 B
   B01J23/89 Z
   B01J23/652 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-555202(P2017-555202)
(86)(22)【出願日】2016年1月13日
(65)【公表番号】特表2018-502920(P2018-502920A)
(43)【公表日】2018年2月1日
(86)【国際出願番号】NL2016050027
(87)【国際公開番号】WO2016114659
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2017年9月8日
(31)【優先権主張番号】2014118
(32)【優先日】2015年1月13日
(33)【優先権主張国】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】517213429
【氏名又は名称】アバンティウム・ナレッジ・センター・ベー・フェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・コルネリス・ファン・デル・ヴァール
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルドゥス・ヨハンネス・マリア・グルテル
(72)【発明者】
【氏名】エリック−ヤン・ラス
【審査官】 鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−510801(JP,A)
【文献】 特開平01−299239(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/027766(WO,A1)
【文献】 国際公開第01/005736(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0275277(US,A1)
【文献】 米国特許第04935102(US,A)
【文献】 米国特許第05423955(US,A)
【文献】 米国特許第04430253(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 29/132
B01J 23/652
B01J 23/89
C07C 31/20
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭水化物源からエチレングリコールを製造するための方法であって、
水素、炭水化物源、液体希釈剤、及び触媒システムが、反応剤として、反応ゾーンに導入され;
前記触媒システムは、タングステン化合物、及び水素化分解金属としてルテニウム、さらには遷移金属及びポスト遷移金属から選択される少なくとも1つのプロモーター金属を含み;
前記炭水化物源は、前記触媒システムの存在下で水素と反応させられて、エチレングリコール及びブチレングリコールを含む生成物の混合物を生じさせ、
ここで、前記炭水化物源が、デンプン、グルコース、スクロース、グルコースのオリゴマー、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され
ルテニウムとプロモーター金属(1又は複数)の質量比が10:1〜70:1の範囲である、製造方法。
【請求項2】
ブチレングリコールが、連行剤を使用する共沸蒸留によって、生成物の混合物から選択的に除去される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
触媒システムが、少なくとも+2の酸化状態を有するタングステン化合物を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
触媒システムが、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むメタタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むパラタングステン酸塩化合物、酸化タングステン(WO)、タングステンのヘテロポリ化合物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるタングステン化合物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
触媒システムがタングステン酸を含む、請求項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種の他の遷移金属が、Cu、及び周期律表の第8、9、及び10族からのその他の水素化分解金属から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
周期律表の第8、9、及び10族からのその他の水素化分解金属が、Fe、Ni、Co、Pt、Pd、Rh、Ir、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
ルテニウム及び少なくとも1つのプロモーター金属が、担体上に担持された触媒の形態で存在する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
担体が、活性炭、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ジルコニア、チタニア、ニオビア、酸化鉄、酸化スズ、酸化亜鉛、シリカ−ジルコニア、ゼオライトアルミノシリケート、チタノシリケート、マグネシア、炭化ケイ素、クレイ、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
ルテニウムに対するタングステンのモル比が1〜25の範囲である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
タングステン化合物の濃度が、タングステンとして計算し、かつ炭水化物源の質量に基づいて1〜35質量%の範囲である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
水素化分解金属としてのルテニウム及びプロモーター金属(1又は複数)の量は、金属として計算して、かつ反応ゾーンに導入される炭水化物源の量を基準にして、0.2〜1.0質量%の範囲である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
炭水化物源が、少なくも1種のペントース含有炭水化物及び少なくとも1種のヘキソース含有炭水化物の組み合わせを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
希釈剤がアルキレングリコールと水の混合物であり、アルキレングリコールの量が、水及びアルキレングリコールの体積を基準にして2〜25体積%の範囲である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
希釈剤が、スルホキシド類、アルキレングリコール以外のアルコール類、アミド類、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ以上の化合物をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
反応ゾーン内の温度が120〜300℃の範囲にある、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
反応ゾーン内の水素分圧が1〜6MPaの範囲にある、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
反応ゾーン内での触媒システムの平均滞留時間が5分〜6時間の範囲にある、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭水化物源からエチレングルコールを製造する方法に関する。特に、本発明は、特定の触媒システムを用いて、持続可能な炭水化物源からエチレングルコールを調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
持続可能な資源からの炭水化物を、有用な化学品、例えばアルキレングリコールへ触媒を用いて変換することは、興味を集めている。アルキレングリコールは、ポリエステル、例えば、ポリ(アルキレンテレフタレート)、ポリ(アルキレンナフテネート)、又はポリ(アルキレンフランジカルボキシレート)の調製に用途が見出されている、興味ある化学品である。アルキレングリコール、特にエチレングルコールのさらなる用途には、凍結防止剤としてのその使用が含まれる。持続可能な資源からのそのような化学品の調製を可能にすることにより、化石燃料資源への依存が低減される。化石燃料への依存を低減することが望まれているので、アルキレングリコール、例えばエチレングルコールの製造のための様々な持続可能な資源に対する必要性が増大している。
【0003】
米国特許第7,960,594号明細書には、エチレングルコールをセルロースから製造する方法が記載されている。この方法は、熱水条件下での、触媒による分解及び水素化反応が関与している。さらに特に、この方法は、上昇させた温度及び圧力において、水素の存在下で、セルロースを、2種類の活性成分を含む触媒システムと接触させることによって実施される。第一の活性成分は、その金属状態のタングステンもしくはモリブデン、又はその炭化物、窒化物、もしくはリン化物を含む。第二の成分は、周期律表の第8、9、及び10族からの水素化反応の金属から選択され、それにはコバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、イリジウム、及び白金が包含される。試験例においては、それら化合物は、担体、例えば活性炭に担持して用いられた。さらに、満足できる収率をもたらす反応条件は、220〜250℃の温度、及び3〜7MPaの水素圧(室温にて測定して)を含むと思われる。セルロースの1質量%のスラリーを30分間これらの化合物にさらすと、エチレングリコールが最大69%の収率で得られる。しかし、この反応を長期間継続する場合には、エチレングリコールの収率が低下するように思われる。
【0004】
米国特許第8,410,319号明細書には連続法が記載されており、その方法では、セルロースを含む原料が、水、水素、及び触媒と接触させられて、少なくとも1種のアルキレングリコールを生成する。その触媒は、Mo、W、V、Ni、Co、Fe、Ta、Nb、Ti、Cr、Zr、及びそれらの組み合わせからなる群から選択された第一の金属成分を含む。この第一の金属成分は、その元素の状態であるか、又はその金属は炭化物、窒化物、リン化物化合物である。触媒はさらに、Pt、Pd、Ru、及びそれらの組み合わせを含み、その金属は元素の状態である。触媒成分は、担体の上に担持されている。
【0005】
この反応は、担体上のニッケル及びタングステンを含む触媒システムについてさらに研究されている。そこでは、ニッケル及びタングステンが反応中に溶液中に浸出していることが発見されており、これは触媒性能の漸次低下の原因となる(例えば、Na Jiら, ChemSusChem, 2012, 5, 939-944)。タングステン及びその他の金属の浸出は、M. Zhengら, Chin. J. Catal., 35 (2014) 602-613に報告された研究において確かめられている。後者の文献はまた、エチレングリコールに加えて、様々な副生成物が得られることを開示しており、それには1,2−プロピレングリコール、エリトリトール、グリセロール、マンニトール、及びソルビトールが含まれる。
【0006】
米国特許出願公開第2011/0312488号明細書は、元素状態の金属成分を含む触媒の見込みのある代替物として、炭水化物からアルキレングリコールを生成させるための触媒システムを記述している。この触媒システムは、少なくとも+2の酸化状態をもつ少なくとも1種の金属を含む。さらに具体的には、この米国出願は、少なくとも+2の酸化状態をもつ第一の金属成分と水素化のための成分とを含む触媒システムを開示している。この水素化のための成分は、任意の酸化状態にある広範囲の金属から選択されることができ、それには元素状態のものも含まれる。この水素化のための成分は、特に、Pt、Pd、Ru、Rh、Ni、Ir、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される活性金属成分を含むことができる。第一の金属成分はまた、広い範囲の金属から選択してもよいが、特に、第一の金属成分を含む化合物は、タングステン酸、モリブデン酸、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むメタタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むパラタングステン酸塩化合物、酸化タングステン、タングステンと、モリブデン、ニオブ、バナジウム、ジルコニウム、チタン、及びクロムの様々な塩及び酸化物とのヘテロポリ化合物からなる群から選択することができる。米国特許出願公開第2011/0312488号明細書による触媒システムは、ブタンジオールの低減された生成とともに、エチレングリコール及びプロピレングリコールに対する選択率を向上させると述べられている。エチレングルコールの生成はいくつかの試験で示されており、それはメタタングステン酸アンモニウムが好ましい第一の金属成分であること、及び好ましい水素化の成分として、白金及びニッケルが用いられうることを示している。ニッケル含有触媒システムの使用は、エチレングリコール及び場合によってはプロピレングリコールの最も高い収率をもたらす。
【0007】
M. Zhengら, Chin. J. Catal., 35 (2104) 602-613の上述した文献においては、タングステン酸系触媒が、セルロースからエチレングリコールへのプロセスの将来の商業化のための最も有望な候補であるという結論が出されている。水素化の成分が、そのようなタングステン酸系触媒に添加される。例には活性炭上のルテニウムが含まれるが、ラネーニッケルが商業化のための最も有望な候補と考えられる。
【0008】
アルキレングリコールへの炭水化物の転化には複雑な反応が関与している。M. Zhengら, Chin. J. Catal., 35 (2014) 602-613には、炭水化物の低い濃度と、高い反応温度、すなわち、200℃より高い温度が、エチレングリコール製造に有利であることが示されている。このことは、国際公開第2014/161852号で確かめられているように思われ、これには1質量%〜6質量%の範囲の高められたグルコース濃度をもつグルコース溶液が、タングステン及びルテニウムを含む触媒システムの存在下で水素と接触させられた試験が含まれている。グルコース濃度が高ければ高いほど、エチレングリコールの収率がより低くなった。この不利な影響を改善するために、国際公開第2014/161852号では、2質量%未満の炭水化物濃度をもつ溶液中で、炭水化物の最初の少量部分を水素及び触媒と接触させ、その最初の部分が反応した場合にのみ、炭水化物のさらなる部分を添加することが提案されている。この点で、この方法は、G. Zhaoら, Ind. Eng. Chem. Res., 2013, 52, 9566-9572に記載された半連続反応に類似している。国際公開第2014/161852号とG. Zhaoら, Ind. Eng. Chem. Res., 2013, 52, 9566-9572の両方とも、エチレングリコールに加えて、1,2−ブタンジオール(ブチレングリコール)が生成することを述べている。ブチレングリコールの相対量は、エチレングリコールの収率を基準にして10%のオーダーでありうる。ブチレングリコールとエチレングリコールは共沸混合物を形成するので、それらの化合物を蒸留によって容易に分離することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,960,594号明細書
【特許文献2】米国特許第8,410,319号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2011/0312488号明細書
【特許文献4】国際公開第2014/161852号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Na Jiら, ChemSusChem, 2012, 5, 939-944)
【非特許文献2】M. Zhengら, Chin. J. Catal., 35 (2014) 602-613
【非特許文献3】G. Zhaoら, Ind. Eng. Chem. Res., 2013, 52, 9566-9572
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、エチレングリコールの収率を高め、ブチレングリコールの相対的な量を低下させるという要求がある。さらに、この比較的少量のブチレングリコールを除去するための容易な分離法に対する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
少なくとも1種の別のプロモーター金属をさらに含むルテニウム含有触媒システムの使用が、エチレングリコールの収率を高めることを発見している。
【0013】
したがって、本発明は、炭水化物源(carbohydrate source)からエチレングリコールを製造するための方法を提供し、その方法では、
水素、炭水化物源、液体希釈剤、及び触媒システムが、反応剤として、反応ゾーンに導入され;
触媒システムは、タングステン化合物、及び水素化分解金属としてルテニウム、さらには遷移金属及びポスト遷移金属から選択される少なくとも1つのプロモーター金属を含み;
炭水化物源は、その触媒システムの存在下で水素と反応させられて、エチレングリコール及びブチレングリコールを含む生成物の混合物を生じさせる。
【0014】
本発明による方法は、タングステン化合物に加えて、ルテニウムと、少なくとも1つのその他の遷移金属又はポスト遷移金属を含む触媒システムを用いる。ポスト遷移金属という語は、W. Masterton, C. Hurley & N. Neth, 2011, Chemistry: Principles and Reactions, 7th ed., Brooks/Cole, Belmont, California, ISBN 1-111-42710-0によってホスト遷移金属として分類された元素、すなわち、Ga、In、Tl、Sn、Pb、Bi、及びPoと理解される。このポスト遷移金属のなかでは、Snが非常に適していることが発見されている。遷移金属には、第3〜12族の元素が含まれる。遷移金属のなかでは、周期律表の第8、9、及び10族からの他の水素化分解金属を選択できるだけでなく、第11及び12族からの金属も非常に適していることが発見されている。この少なくとも1つの他の遷移金属は、Cu及び周期律表の第8、9、及び10族からの他の水素化分解金属から好ましくは選択される。水素化分解金属は、Fe、Ni、Co、Pt、Pd、Rh、Ir、及びそれらの組み合わせからなる群から適切には選択できる。好ましくは、水素化分解金属は、貴金属であるPd、Pt、Ru、Rh、Ir、及びそれらの組み合わせから選択される。これらの金属は良好な収率を与えることが発見されている。金属は、適切には、その金属の形態で、又はその水素化物もしくは酸化物として存在することができる。金属酸化物は、水素の存在下で、反応時に還元されると推測される。
【0015】
好ましい金属の組み合わせは、Cu、Ni、Sn、Pt、Pd、Ir、及びRhから選択される1つ以上の金属とともにルテニウムを含むものである。
【0016】
ルテニウム及び少なくとも1つのプロモーター金属は、好ましくは、担体上に担持された触媒の形態で存在する。担体は、広範囲の公知の担体から選択してよい。適切な支持体には、活性炭、シリカ、ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア、ニオビア、酸化鉄、酸化スズ、酸化亜鉛、シリカ−ジルコニア、ゼオライトアルミノシリケート、チタノシリケート、マグネシア、炭化ケイ素、クレイ、及びそれらの組み合わせが含まれる。当業者は、活性炭が少なくとも800m/gの表面積をもつ非晶質の形態の炭素であることを知るであろう。そのような活性炭はしたがって多孔質構造を有する。最も好ましい支持体は、活性炭、シリカ、シリカ−アルミナ、及びアルミナであり、なぜならそれらを用いて優れた結果が得られているからである。さらに好ましくは、触媒は支持体として活性炭を含む。
【0017】
金属、すなわち、ルテニウムとプロモーター金属(1又は複数)は、含浸によって担体上に含有させられる。含浸は、金属塩の水溶液の含浸と、続いての水の除去によって達成できる。焼成は金属酸化物をもたらすことができ、それが次に還元されて、その金属形態の金属を生じさせうる。最良の結果は、ルテニウムと少なくとも1つのプロモーター金属が同時に含浸された場合に得られることを、驚くべきことに発見している。類似又は同一組成を有するが、その調製方法が異なる触媒を用いた場合、同時含浸(共含浸)によって調製された触媒が、順次の含浸によって調製された類似した触媒よりもより良い性能を示すようである。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、同時含浸時の金属(複数)は親密に混合され、焼成及び続く還元によって、より良好な性能をもたらす合金が形成されると考えられる。
【0018】
プロモーター金属(1又は複数)の量は、適切には、プロモーター金属(1又は複数)の量が、ルテニウムの質量を基準にして多くても50質量%になるように選択される。ルテニウムとプロモーター金属(1又は複数)の質量比は、適切には、2:1〜100:1の範囲である。より好ましくは、Ruとプロモーター金属(1又は複数)の質量比は、10:1〜70:1の範囲である。
【0019】
本発明の方法では、形成されたブチレングリコールは、適切には、連行剤(entraining agent)を使用する共沸蒸留によって、生成物の混合物から選択的に除去されることができる。
【0020】
連行剤は、共沸蒸留によって、アルキレングリコール類の混合物からブチレングルコールを選択的に取り除く。連行剤は、適切には、炭化水素化合物、好ましくは、エチルベンゼン、p-キシレン、n-プロピルベンゼン、o-ジエチルベンゼン、m-ジエチルベンゼン、m-ジ-イソプロピルベンゼン、シクロペンタン、メチルシクロヘキサン、3-メチルペンタン、2,3-ジメチルブタン、ヘプタン、1-ヘプテン、オクタン、1-オクテン、2,3,4-トリメチルペンタン、デカン、デカリン、ジシクロペンタジエン、α-ファランドレン、β-ピネン、ミルセン、テルピノレン、p-メンタ-1,5-ジエン、3-カレン、リモネン、及びα-テルピネンからなる群から選択することができる。好適なヘテロ原子含有化合物は、メチルエチルケトキシムである。
【0021】
さらに、ポリオール類(higher polyols)、例えば、グリセロール、エリスリトール、又はソルビトールは、連行剤として機能しうる。これらの化合物は、M. Zhengら, Chin. J. Catal., 35 (2014) 602-613に示されているように、炭水化物からエチレングリコールを調製する方法において、副生成物として作り出される傾向がある。これらの化合物は、したがって、ブチレングリコールからの分離後に、その工程にリサイクルされることができる。必要な場合、それらが連行剤として使用される場合には、その濃度を高めてそれによって純粋なエチレングリコールを得ることを容易にするために、これらの化合物の1つ以上が本発明の方法の生成物に添加されることもできる。
【0022】
連行剤を用いて共沸蒸留又は抽出蒸留を行う手順は、当業者に知られている。通常は、生成物の混合物を連行剤と混合し、生じた混合物を共沸蒸留にかける。一般に、連行剤は、ブチレングリコールと連行剤の共沸物がエチレングリコールの沸点より低い沸点を有するように選択される。さらに好ましくは、連行剤はブチレングリコールと可溶性でも混和性でもなく、それによって蒸留後に凝縮物が2つの液相を形成し、それによって連行剤の回収を容易にする。回収された連行剤は、適切には、共沸蒸留へリサイクルすることができる。ブチレングリコールは、任意選択によりさらに精製して、いくつかの用途に使用してもよい。
【0023】
そのようなさらなる精製は、例えば、カルボニル基含有化合物を用いて、未精製ブチレングリコールをジオキソランへ変換することを伴ってもよい。生じたジオキソラン含有混合物は、次に蒸留にかける。異なるアルキレングリコール類から誘導される様々なジオキソラン化合物は、蒸留によって容易に分離することができる。存在しうるその他のモノ又はポリアルコールもまた、このようにして容易に分離される。したがって、ブチレングリコールから誘導された純粋なジオキソランが得られる。このジオキソランは、次に、ブチレングリコール及びカルボニル基含有化合物に変換することができる。
【0024】
アルキレングリコール類の混合物のための蒸留条件は当業者に知られている。これら条件は、高々200℃までの温度と、減圧、例えば50ミリバールから大気圧まで変わりうる圧力を含む傾向がある。
【0025】
炭水化物源は様々な原料から選択することができる。適切には、炭水化物源は、多糖類、オリゴ糖類、二糖類、及び単糖類からなる群から選択される炭水化物を含む又は炭水化物のみからなる。
【0026】
適切な例には、セルロース、ヘミセルロース、ヘミセルロース糖、デンプン、糖類、例えば、スクロース、マンノース、アラビノース、グルコース、及びそれらの混合物などの持続可能資源が含まれる。上の炭水化物を含みうる資源には、紙パルプ流、都市廃水流が含まれ、その他のグルコース単位含有ストリームを同様に使用することができ、例えば、木材廃棄物、紙屑、農業廃棄物、都市廃棄物、紙、段ボール、砂糖きび、砂糖大根、小麦、ライ麦、大麦、その他の農作物、及びそれらの組み合わせである。これらの流れ(ストリーム)は、本発明の方法を妨害する成分、例えば、塩基性フィラー、例えば、古紙中の炭酸カルシウムを除去するための前処理を必要としうる。このようにして、本発明の方法は、天然資源からのものを用いることができるだけでなく、廃水流を改善し、役立つように再使用するためにさえ使用することができる。好ましくは、炭水化物源中の炭水化物は、セルロース、デンプン、グルコース、スクロース、グルコースのオリゴマー、紙屑、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、好ましくはグルコール又はデンプンである。セルロースは、その他の炭水化物源には存在しない困難さを提示するので、炭水化物源は、好ましくは、デンプン、ヘミセルロース、及びヘミセルロース糖、グルコース、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0027】
タングステン化合物は広範囲の化合物から選択できる。タングステンは元素状態であってもよい。通常、タングステン化合物は支持体上に存在する。少なくとも1つの水素化分解金属のための支持体と同様に、支持体は広範囲の公知の支持体から選択してよい。適切な支持体には、活性炭、シリカ、ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、チタニア、ニオビア、酸化鉄、酸化スズ、酸化亜鉛、シリカ−ジルコニア、ゼオライトアルミノシリケート、チタノシリケート、及びそれらの組み合わせが含まれる。活性炭、シリカ、シリカ−アルミナ、及びアルミナが支持体として最も好ましく、なぜなら優れた結果がそれらによって得られているからである。+2以下の酸化状態のタングステン化合物、例えば、その炭化物、窒化物、リン化物の形態のものを用いることも可能である。またこの場合に、タングステン化合物は、担持された触媒成分の形態で存在してもよい。担体は、上で述べた支持体から選択してよい。
【0028】
好ましくは、タングステン化合物は、少なくとも+2の酸化状態を有し、好ましくは+5又は+6の酸化状態を有する。タングステン化合物は、タングステン酸(HWO)、タングステン酸アンモニウム、メタタングステン酸アンモニウム、パラタングステン酸アンモニウム、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むメタタングステン酸塩化合物、少なくとも1種の第1又は2族元素を含むパラタングステン酸塩化合物、酸化タングステン(WO)、タングステンのヘテロポリ化合物、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。従来技術においては、ある種のタングステン化合物はそれらの支持体から浸出すること及びそのようなことは不利であると考えられていたことがわかっているのに対して、本発明者は、反応混合物に溶けるタングステン化合物を用いることが有利であることを発見している。タングステン化合物が溶ける場合には、そのタングステン化合物の触媒活性が増大することを発見している。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、水素の存在によって反応ゾーン内で作り出される還元性雰囲気中で、6価のタングステン化合物が5価のタングステンに還元され、その5価のタングステン化合物が希釈剤中に溶けることができると考えられる。この部分的に還元された状態で、タングステンイオンは炭水化物源のなかの炭素結合を攻撃するのに有効であり、アルキレングリコール前駆体を生成する。したがって、好ましいタングステン化合物はタングステン酸である。これとの関連で、アルキレングリコールを含めたポリオールは、希釈剤中へのタングステン化合物の溶解を容易にし、それによってタングステン化合物の触媒活性を促進することを発見していることに注意されたい。希釈剤としてのアルキレングリコールの使用は特に適しており、なぜならそのような使用は、さらなる不利益を示す、反応混合物中への外からの試薬の導入を含まないからである。
【0029】
従来技術によれば、水素化分解金属とタングステン化合物との比は、広い範囲で変化をもたせうる。従来技術によれば、これらの化合物のあいだの質量比は0.02〜3000のあいだで変化をもたせることができる。本発明においては、ルテニウムに対するタングステンのモル比は、好ましくは、1〜25のかなり狭い範囲内にある。より好ましくは、ルテニウムに対するタングステンのモル比は2〜20の範囲、最も好ましくは10〜20の範囲内である。その比がこれらの範囲の限度を超える場合には、エチレングリコール以外のアルキレングリコールの相対的収率が低下する、及び/又は炭水化物の転化が遅くなる。
【0030】
触媒成分の濃度は、本発明の方法において変化をもたせうる。タングステン化合物の濃度は、非常に広い範囲で変化をもたせることができる。タングステン化合物の濃度は、例えば、タングステンとして計算し、かつ反応ゾーンに導入された炭水化物源の質量を基準にして、1〜35質量%の範囲から選択してよい。より好ましくは、タングステンの量は、反応ゾーンに導入された炭水化物源を基準にして、2〜25質量%の範囲である。比較的多量のタングステンの使用は、そのプロセスに顕著な不利益を加えない一方で、コスト面が顕著になりうるので、炭水化物源の量を基準にして5〜20質量%のタングステンの量を用いることが好ましい。
【0031】
水素化分解金属としてのルテニウム及びプロモーター金属(1又は複数)の量は、金属として計算して、かつ反応ゾーンに導入される炭水化物源の量を基準にして、0.2〜1.0質量%の範囲であることが好ましい。ルテニウムとプロモーター金属(1又は複数)の間の質量比は、上で示した通りの範囲内、すなわち、2:1〜100:1の範囲内であることが適切である。
【0032】
炭水化物源及び希釈剤は、両方とも反応ゾーンに導入される。適切には、炭水化物源は、希釈剤の少なくとも一部と一緒に導入される。さらに好ましくは、炭水化物源は、希釈剤に少なくとも部分的に溶解されている。適切には、希釈剤は水性媒体である。本発明の方法においては、希釈剤は、適切には少なくとも水及びアルキレングリコールを含む。多くの炭水化物、例えば、糖類、グルコース、及びフルクトースは水に溶ける。さらに、セルロース、すなわち、非常に適した出発物質と考えられ、水に不溶性である炭水化物は、水溶性であるセロデキストリンに転化することができる。あるいは、炭水化物はスラリーの形態で反応ゾーンに導入してもよい。そのようなスラリーのより一般的な例は、水とセルロース及び/又はデンプンの水性混合物である。そのような態様では、水性セルローススラリー、例えば微結晶セルロースを含むスラリーが、うまく使用できる。
【0033】
希釈剤中の炭水化物源の濃度は変化をもたせることができる。商業的に興味ある操業のためには、より高濃度が望ましい。しかし、高めた濃度においては、アルキレングリコールの収率が低下することを、当業者は教えられる。
【0034】
通常、3種の操作モードが実行可能である。第一のモードはバッチ操作であり、そこでは炭水化物源、希釈剤、及び触媒システムが反応ゾーンに導入されて、水素に曝されて、反応させられる。そのような状況では、希釈剤中の炭水化物源の濃度は、適切には、1〜25質量%である。
【0035】
第二のモードは、国際公開第2014/161852号に従う方法に類似した方法であり、その方法では反応ゾーンには、触媒システム、希釈剤、及び少量の炭水化物源が仕込まれており、そこでその量の炭水化物源が水素と反応される一方、追加の炭水化物源が、追加の希釈剤とともに又は追加の希釈剤なしに添加される。反応は次に完了まで導かれる。反応ゾーンに添加された炭水化物源の最終的な量は、適切には、希釈剤の量を基準にして炭水化物源として計算して、10〜35質量%の範囲である。
【0036】
操作の第三のモードは、連続操作である。一つの連続操作モードにおいては、少なくとも希釈剤及び炭水化物源を含む原料が、水素の存在下及びまた触媒システムの存在下でプラグフロー反応器を通される。希釈剤中の炭水化物の濃度は、適切には、希釈剤の量あたりの炭水化物源の量として計算して、1〜15質量%の炭水化物源の範囲であってよい。その他の連続式反応器には、スラリー反応器及び沸騰床型反応器が含まれる。
【0037】
連続モードの好ましい態様は、連続撹拌槽型反応器(CSTR)を使用することである。CSTRの使用は本発明の方法に非常に適しており、なぜならCSTR内の希釈剤は、CSTR内の炭水化物の最終的濃度を希釈するための優れた手段を提供する一方で、フィードストリーム(供給流)は高濃度の炭水化物を含みうるからである。CSTRのフィード流は、純粋な炭水化物を含んでいてもよい。好ましくは、フィードストリームは、希釈剤中の炭水化物の溶液又はスラリーである。フィードストリーム中の炭水化物濃度はかなり高くすることができ、なぜならCSTRは、触媒システム、生成物及び炭水化物源の混合物、並びに希釈剤を含む反応媒体を含んでいるからである。操作時に、CSTRには、炭水化物源、希釈剤、及び任意選択により場合によっては触媒システムの成分のうちいくつか又は全てを含む1以上のフィードストリームが供給され、CSTRからは、アルキレングリコールを含む生成物混合物、希釈剤、及び任意選択により場合によっては触媒システムの成分のうちいくつか又は全てを含むプロダクトストリーム(生成物流)が取り出される。希釈剤及び炭水化物源に加えて、さらに追加のタングステン化合物を、連続して又は一定期間毎にフィードして、反応時には反応混合物中に溶けていてその後で反応器から取り出されるタングステンを補うことができる。フィードストリーム中の炭水化物濃度はかなり高くてよく、希釈剤の量当たりの炭水化物の量として計算して10〜50質量%の範囲であってよい。炭水化物源の反応によって作り出されるアルキレングリコールは、タングステン化合物がそのなかに溶けることができる媒体を提供し、それにより、タングステン成分の触媒活性の利益になる。したがって本発明はまた、CSTR中で実施される態様をも提供し、そこでは、水素、炭水化物源、及び液体希釈剤がCSTRに連続的にフィードされ、連続的にアルキレングリコール及び希釈剤を含む生成物混合物がCSTRから取り出される。
【0038】
本発明の方法は、希釈剤中の高濃度の炭水化物源、例えば、4〜50質量%を考えることができる態様を可能にする。高濃度は、炭水化物源の溶解度に関する問題を引き起こしうる。希釈剤は、アルキレングリコールを含んでいてもよい。アルキレングリコールは、適切には、2〜6の炭素原子を有する。適切なアルキレングリコールには、1,6−ヘキサンジオール、ブチレングリコール、及びプロピレングリコールが含まれる。ブチレングリコールが追加の成分として希釈剤に添加される場合、このブチレンジオールは、最終的な生成物混合物から取り除かれる必要がある。それは、望ましくない大きなエネルギー入力を必要としうる。したがって、最も好ましいアルキレングリコールはエチレングリコールである。希釈剤はさらに通常は希釈剤としての水を含む。水はまた、ほとんどの炭水化物源のための溶媒として機能する。希釈剤中のアルキレングリコールの量は、適切には、水及びアルキレングリコールの体積を基準にして2〜25体積%の範囲である。好ましい希釈剤は、したがって、アルキレングリコール、特にエチレングリコールと水の混合物であり、アルキレングリコールの量は、水とアルキレングリコールの体積を基準にして2〜25体積%の範囲である。
【0039】
加えて、当業者は、希釈剤にその他の成分を添加することを所望するかもしれない。そのような他の希釈剤は、スルホキシド類、アルキレングリコール以外のアルコール類、アミド類、及びそれらの混合物からなる群から選択してよい。好適なスルホキシドは、ジメチルスルホキシド(DMSO)であり、アミド類の適切な例はジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミドである。より好ましい有機希釈剤はアルコール類である。アルコール類は、モノアルコール類、特に、水に混和性のモノアルコール類、例えば、C〜Cアルコールであることができる。アルコールはまた、ポリオール、例えば、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、又はエリスリトールであることができる。
【0040】
従来技術の方法は、ヘキソース、例えばセルロース、デンプン、及びグルコースの転化に重点をおいている。しかし、ヘキソース含有炭水化物だけでなく、ペントース含有炭水化物を用いることが有利であることを発見している。したがって、本発明はまた、炭水化物源が少なくとも1種のペントース含有炭水化物を含む、又は好ましくは炭水化物源が少なくとも1種のペントース含有炭水化物及び少なくとも1種のヘキソース含有炭水化物の組み合わせ物を含む方法も提供する。ペントース含有炭水化物は、多糖類、オリゴ糖類、二糖類、又は単糖類であることができる。ペントース含有炭水化物は、適切には、ペントサン、例えば、キシラン又はアラビナンである。特に、それは適切には少なくとも1つのアラビノース、リボース、リキソース、及びキシロース残基を含む。ヘキソース及びペントース含有炭水化物の組み合わせ物への本発明の方法の適用は、ペントース含有炭水化物が主生成物としてプロピレングリコール及びエチレングリコールの両方を生成し、ヘキソース含有炭水化物がエチレングリコールを大部分生成するという利点を有する。したがって、プロピレングリコールを主成分として考えている場合、出発物質としてペントース含有炭水化物の使用が有利である。ヘキソース及びペントース単位を含む炭水化物源は、単独のヘキソース及び単独のペントース画分を混合することによって得ることができることは明らかである。あるいは、炭水化物源は、ペントース及びヘキソース単位を既に含んでいる天然資源の生産物であってもよい。それは、例えば、加水分解がペントースとヘキソースの両方を生じさせる、リグノセルロースバイオマスの加水分解生成物であることができる。
【0041】
上で示したように、本発明による方法によるエチレングリコール含有生成物は、一般に、アルキレングリコール類の混合物である。この混合物は適切には精製され、特に、純粋なエチレングリコールが重合目的のために望まれる場合には精製される。ブチレングリコールと共に形成される共沸混合物は、純粋なエチレングリコールを得ることを困難にしている。したがって、本発明にしたがって連行剤が用いられる。
【0042】
分離工程を容易にするためには、出発物質としてペントース含有炭水化物をも用いることが有利である。ペントース含有炭水化物は、副生成物としてブチレングリコールをほとんど形成しない。したがって、ペントース及びヘキソース含有炭水化物の組み合わせ物の反応生成物中のブチレングルコールの割合は、比較的小さくなる。本発明によるそのような反応生成物の精製は、したがって、比較的単純である。プロピレングリコール及びエチレングリコールは、分画によって互いから容易に分離することができる。ペントース及びヘキソース含有炭水化物の両方を含む出発物質を用いる反応生成物の分画は、純粋なエチレングリコール、純粋なプロピレングリコール、及び他のグリコール類のうちの1つ又は両方とともにブチレングリコールを含む比較的少量の画分(これは次に連行剤を用いて処理されうる)をもたらす。
【0043】
本発明によるエチレングリコールの調製方法は、当技術分野で公知のプロセス条件のもとで実施することができる。その条件には、国際公開第2014/161852号に開示されている条件が含まれる。したがって、反応温度は適切には少なくとも120℃、好ましくは少なくとも140℃、さらに好ましくは少なくとも150℃、最も好ましくは少なくとも160℃である。反応器内の温度は、適切には、最高で300℃、好ましくは最高で280℃、さらに好ましくは最高で270℃、なおさらに好ましくは最高で250℃、もっとも好ましくは最高で200℃である。反応器は、出発物質を添加する前にこれらの範囲内の温度にすることができ、その範囲内の温度に保たれる。
【0044】
本発明による方法は、さらに有利には、従来技術の方法で採用される温度よりも通常はいくらか低い温度で実施されることを発見している。比較的低い温度を採用した場合には、ブチレングリコールの形成が低減されることを発見している。さらに有利な温度範囲は150〜225℃、さらに好ましくは160〜200℃、最も好ましくは165〜190℃である。これは、米国特許第7,960,594号明細書において教示されていることとは反対であり、同明細書では220〜250℃の範囲内の反応温度が最も有用であると記載された。
【0045】
本発明の方法は、水素の存在下で行われる。水素は、実質的に純粋な水素として供給することができる。全圧はしたがって水素圧となる。あるいは、水素は、水素と不活性ガスの混合物の形態で供給してもよい。全圧はしたがって水素及びこの不活性ガスの分圧からなる。不活性ガスは、適切には、窒素、アルゴン、ネオン、ヘリウム、及びそれらの混合物から選択することができる。不活性ガスに対する水素の割合は、広い範囲で変化をもたせてよい。適切には、その割合は非常に低くはなく、なぜなら、水素分圧が十分に高い場合に、反応が良好に進行するからである。したがって、水素と不活性ガスの間の体積比は、1:1〜1:0.01でありうる。さらに好ましくは、水素のみが、本発明による方法においてガスとして用いられる。
【0046】
反応器内の圧力は、適切には、少なくとも1MPa、好ましくは少なくとも2MPa、さらに好ましくは少なくとも3MPaである。反応器内の圧力は、適切には、最高で16MPa、さらに好ましくは最高で12MPa、さらに好ましくは最高で10MPaである。好ましくは、出発物質を添加する前に、反応器は水素の添加によって加圧される。当業者は、20℃における圧力は、反応温度における実際の圧力より低くなることを理解する。本方法で適用される圧力は、適切には、20℃で測定して0.7〜8MPaである。この圧力は、水素ガス又は水素含有ガスによってかけてよい。水素含有ガスを用いる場合、その水素含有ガス中の水素含有量は、100体積%以下、例えば、5〜95体積%の範囲であってよい。水素含有ガスの残り部分は、適切には、不活性ガス、例えば、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、又はそれらの混合物であってよく、先に示したとおりである。反応混合物を次に加熱したときに、反応時の圧力は、適切には、1〜16MPaの範囲である。反応が進行するにしたがって、いくらか水素が消費される。有利には、反応温度における水素の分圧は1〜16MPaの範囲に保たれる。水素圧又は水素分圧を、全反応を通じてその範囲内に保つことがさらに好ましい。したがって、水素又は水素含有ガスを、反応時に反応混合物中に導入してもよい。
【0047】
本発明の方法は、適切には、連続法を開始する最初の工程として用いてもよい。そのような方法では、反応は、炭水化物、希釈剤、触媒システム、及び水素の混合物を用いて開始され、ここで希釈剤はアルキレングリコールを含む。反応混合物が反応を開始して、炭水化物の転化がエチレングリコールの形成をもたらし始めたときに、炭水化物、希釈剤、及び任意選択により場合によっては触媒成分の連続流を反応ゾーンに供給してもよく、アルキレングリコール含有生成物混合物の連続流をその反応ゾーンから抜き出してもよい。
【0048】
バッチ又は半連続法においてその必要はないかもしれないが、追加の触媒成分、例えば、タングステン化合物又は水素化分解金属を、反応の経過中に反応混合物に添加することができる。反応が長引き、希釈剤及び/又は炭水化物の添加によって触媒システムの濃度が所望の濃度より低くなった場合に、そのようなことが望ましいことが発見されうる。
【0049】
反応ゾーンは、通常、反応器内にある。本発明における反応器は、当技術分野で公知の適切は反応器であってよい。バッチ法のため及び半連続法のためには、反応器は通常のバッチ反応器であることができる。それは、反応器が、出発物質、希釈剤、及び触媒システムを導入するための適切な数の注入口並びに水素含有ガスのための注入口を備えた圧力容器を含むことを意味する。その容器は、通常、撹拌(stirring)又は激しく撹拌(agitation)する手段を備えている。連続法のためには、反応器はさまざまな反応器から選択することができ、それにはトリクルフローリアクター(trickle flow reactor)、流動床反応器、スラリー反応器、沸騰床反応器、プラグフロー反応器、及び連続撹拌槽型反応器(CSTR)が含まれる。CSTRの使用は、上で示した本発明の方法に非常に適している。
【0050】
本発明による方法における反応時間は変化をもたせることができる。適切には、炭水化物源の滞留時間は少なくとも1分間である。好ましくは、滞留時間は、5分〜6時間の範囲、さらに好ましくは5分〜2時間である。バッチ法では、滞留時間は、反応条件下で、炭水化物源が水素及び触媒システムと接触させられる時間である。連続法においては、滞留時間は、反応ゾーンへはいる炭水化物源の質量流量を、反応ゾーン中の触媒システムの質量流量で割った商であると理解される。一般に、連続法は、金属として表される水素化分解金属の質量当たりの炭水化物源の質量(1時間当たり)として表して0.01〜100hr−1、好ましくは0.05〜10hr−1の範囲の重量空間速度(WHSV)で操作される。
【0051】
本発明を以下の例によってさらに説明する。
【実施例】
【0052】
一般手順
試験は以下の手順にしたがって行った。100mgの量の原料及び1000μlの水を8mlのオートクレーブ反応器に添加した。ある量の水素化分解触媒及びタングステン化合物としてのHWOを反応器に添加した。原料の詳細及び触媒のタイプ及び量は、表に示されている。オートクレーブを密封し、N、次にHでパージし、最後に室温においてHで50バールに加圧した。オートクレーブを約900rpmで一定の撹拌をしながら最高でも190℃まで加熱し、その温度に90分間保った。90分後、オートクレーブを室温まで冷やし、ガスクロマトグラフィーを使用して液体生成物を分析した。
【0053】
水中の硝酸ルテニウム及び別の金属の塩(Cu、Ni、Pd、Pt、又はSnの硝酸塩、又は酢酸Ir)の溶液での活性炭の共含浸(co-impregnation)によって、水素化分解触媒を調製した。含浸された支持体を次に室温で夜通し、さらに80℃で5時間乾燥させた。次に、そうして得られた乾燥した触媒を、H含有ガス流中で、250℃において2時間還元した。
【0054】
例1
表1に示した組成を有する水素化分解触媒を、タングステン酸とともに、上に記載した一般手順を用いて、水素によるグルコースの添加に用いた。触媒は、それぞれ水素化分解触媒上の金属として計算して0.1又は0.5質量%のプロモーター金属と4.9又は4.5質量%のルテニウムを含んでいた。金属の総量は各触媒について5質量%だった。水1L当たりのミリグラム金属として計算して、水素化分解触媒の量は、10mg/Lだった。各試験におけるタングステン酸の量は10mg/L水だった。結果は表1に示されている。
【0055】
【表1】
【0056】
試験No.1は比較試験である。これらの結果は、プロモーター金属の使用が、エチレングリコールの収率を高めることを示している。試験No.5と6の結果のあいだの比較は、プロモーター金属の増加は必ずしも収率を増大させるものではないことを示している。
【0057】
例2
例1の試験に対するのと同様のやり方で一連の試験を実施し、唯一の違いは水1L当たりのミリグラム金属として計算した水素化分解触媒の量、及びタングステン酸の量が5mg/mlへと半分にされたことである。
結果は表2に示されている。
【0058】
【表2】
【0059】
これらの結果は、驚くべきことに、より少ない量の触媒が反応に用いられる場合、ブチレングリコールの収率が増大することを示している。多くの例で、エチレングリコールの収率も増大している。
【0060】
例3
グルコース以外の炭水化物の転化のための触媒システムの適性を示すために、それ以外の試験におけるグルコースのものと同じ開始濃度、すなわち100mg/Lにおいて、一連の試験を、原料としてでんぷんを用いて行った。反応は、上述した一般手順にしたがって行った。水素化分解触媒の量は、全ての試験において、5mg金属/ml水だった。タングステン酸の量は各試験において10mg/mlだった。
触媒及び結果は表3に示されている。
【0061】
【表3】
【0062】
これらの結果は、触媒システムにおいてプロモーター金属を用いることが、増加した量のエチレングリコール及びブチレングリコールを伴うことを示している。試験No.23〜25の結果の比較は、プロモーター金属の量の増加はいずれかのグリコールの増加した収率を常にもたらすものではないことを確認するものである。