【文献】
Xueqin Zhao,(外5名),Antimonate and antimonite adsorption by a polyvinyl alcohol-stabilized granular adsorbent containing,Chemical Engineering Journal,2014年,Vol.247,page.250-257
【文献】
徳村 雅弘 (外1名),鉄粉(ZVI)を用いた水処理技術,用水と廃水,日本,2013年,Vol.55 No.8,第574−581頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バインダ樹脂は、澱粉、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、リグニンスルホン酸塩類、ポリビニルアルコール、フェノール樹脂、スチレン−アクリル共重合物からなる群から選択される1種以上である、
請求項2に記載のアンチモン含有水処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0029】
≪アンチモン含有水処理方法≫
本発明に係るアンチモン含有水処理方法は、pH1以上6以下のアンチモン含有水及び0価の還元鉄粉を接触して接触後水を得る接触工程と、接触後水に酸化剤を添加する酸化工程と、を備える。
【0030】
接触工程で用いる、0価の還元鉄粉は、pH1以上6以下の環境において、アンチモンやその化合物を、その価数を問わず吸着・保持する特性を有する。このため、アンチモン含有水に還元鉄粉を接触させることにより、アンチモンを吸着させることができる。このように、アンチモン含有水に還元鉄粉を接触させるだけでアンチモンを回収することができるので、複数の薬剤投入や複数の処理工程(例えば、前処理としての酸化処理又は還元処理)が必要となる従来の処理方法に比べて、アンチモン含有水からアンチモンを効率的に除去することができる。
【0031】
以下、このような0価の還元鉄粉を用いたアンチモンの吸着及び沈殿反応について、考えられるメカニズムを、反応式を用いて説明する。
【0032】
初めに、以下の(1)〜(3)式に示す酸化還元反応により、5価のアンチモンは、3価のアンチモンに還元される。
Sb
5+ + 2e
− → Sb
3+ ・・・ (1)
Fe → Fe
2+ + 2e
− ・・・ (2)
Fe
2+ → Fe
3+ + e
− ・・・ (3)
【0033】
その後、(1)式により生成した3価アンチモンは、還元鉄粉の表面の酸化・腐食により発生する酸化鉄又は水酸化鉄と、以下の(4)、(5)式に示すように共沈して、還元鉄粉の表面に吸着される。つまり、本発明においては、3価アンチモンはもちろんのこと、5価のアンチモンも効果的に除去できる。
Sb
3+ → Sb(OH)
3↓
・・・ (4)
Fe
3+ → Fe(OH)
3↓
・・・ (5)
【0034】
なお、(1)式においては、便宜上、5価アンチモンを「Sb
5+」と表記しているが、5価アンチモンはこれに限定されず、例えば、5価アンチモンの主要な水溶性分子種であるSb(OH)
6−等、5価アンチモンの錯体等を含むものである。つまり、本発明におけるアンチモンとは、種々のアンチモン化合物を含む意図である。
【0035】
上述した接触工程のみでも、日本国や中華人民共和国のアンチモン排出基準を達成し得るが、接触工程の後段に酸化工程を設けることにより、アンチモン濃度を極めて低濃度に抑制することができる。また、上述した接触工程のみでは、例えば紡績業の生産排水を処理する場合、混合後水中に比較的高い濃度で鉄が溶解する可能性があり、再利用又は排出するためには、いずれの場合でも鉄濃度を低減させる必要があるが、本発明によれば、接触工程の後段に酸化工程を設けることにより、簡便な手段で溶出した鉄を除去することができ、この鉄の除去に際してアンチモン濃度を極めて低く低減することができる。さらに、例えば、生産排水の種類によっては、共存物質が混合工程における還元鉄粉のアンチモン除去能を低下させること等により、長期の稼働により性能が低下する可能性もあるが、そのような場合、後段の酸化工程においてより確実にアンチモン濃度を低減することができる。
【0036】
処理するアンチモン含有水の種類によっては、有機物成分(例えばBOD、COD
mn、COD
Cr、TOCにより測定される成分)を含み得ることがある。このような有機物成分にもそれぞれ排出基準が設けられているが、このように酸化工程を設けることで、有機物成分も同時に酸化されるという利点も有する。
【0037】
「接触」のより具体的な態様として、例えば「混合」及び「通水」が挙げられる。以下、第1の実施形態においては「混合」の態様、第2の実施形態においては「通水」の具体的な実施形態について説明する。
【0038】
なお、本発明において、「接触後水」(以下の第1の実施形態における「混合後水」、第2の実施形態における「通水後水」)とは、0価の還元鉄粉と接触した後の水をいい、接触した場所(第1の実施形態における混合部、第2の実施形態における通水部)の下流水、より具体的には、第1の実施形態における混合部又は第2の実施形態における通水部と酸化部の間を流れる水を言う。以下の第1の実施形態においては、混合部における上澄み液を「混合後水」と呼んでいるが、これに限定されるものではない。
【0039】
≪第1の実施形態に係るアンチモン含有水処理装置≫
図1は、第1の実施形態に係るアンチモン含有水処理装置の概略図である。
図1に示すアンチモン含有水処理装置1は、混合部11と、凝集沈殿分離部12と、酸化部13と、第1固液分離部14と、磁気分離部15と、第2固液分離部16とを備える。アンチモン含有水処理装置1では、アンチモン含有水と還元鉄粉とを混合部11において混合し、還元鉄粉にアンチモンを吸着させる。そして、凝集沈殿分離部12において混合後水から上澄み液(以下、第1の実施形態に係るアンチモン含有水処理装置における「混合後水」ということもある。)を除去する。酸化部13においてこの上澄み液に酸化剤を添加し、Fe(OH)
3とSb(OH)
3をさらに共沈させる。第1固液分離部14では、このFe(OH)
3とSb(OH)
3の沈殿を固液分離して除去する。一方で、凝集沈殿分離部12において回収した固体成分、すなわち還元鉄粉とフロックと残留水の混合物は、磁気分離部15に搬送され、還元鉄粉のみが回収される。このようにして磁気分離部15において回収された還元鉄粉は、第2固液分離部16に搬送されて固液分離され、再度混合部11に戻される。
【0040】
アンチモン含有水処理装置1においては、このような処理を行うことにより、アンチモン含有水からアンチモンを除去する。以下、各構成要素について説明する。
【0041】
混合部11は、アンチモン含有水に還元鉄粉を投入し、アンチモン含有水と還元鉄粉とを混合してアンチモン含有水に含まれるアンチモン又はその化合物を還元鉄粉に吸着させるものである。混合部11としては、例えば、反応槽等を用いることができる。この混合部11は、還元鉄粉投入部111と、撹拌部112を備える。
【0042】
還元鉄粉投入部111は、混合部11に格納されたアンチモン含有水に、所定量の還元鉄粉を投入するものである。また、撹拌部112は、混合部11内のアンチモン含有水と還元鉄粉とを攪拌して混合するものである。撹拌の方法としては、アンチモン含有水と還元鉄粉とを攪拌して混合し、且つアンチモン含有水を流動することが可能であれば特に限定されず、例えば、上部撹拌、下部撹拌、水中ミキサー等を用いることができる。
【0043】
また、混合部11においては、必要に応じて凝集剤等の添加剤を添加することができ、そのための添加部を適宜設けることができる。
【0044】
凝集沈殿分離部12においては、混合後水を凝集沈殿分離処理することにより、上澄み液を除去し、水分含有量を低減させるものである。具体的に、凝集沈殿分離部12は、上澄み液排出部121と沈殿物排出部122とを備える。
【0045】
上澄み液排出部121は、搬送ラインL1が接続されており、沈殿分離処理によって分離した上澄み液を排出する。
【0046】
酸化部13は、凝集沈殿分離部12の上澄み液排出部121から送出された上澄み水に酸化剤を添加し、Fe(OH)
3及びSb(OH)
3の沈殿を生成させる部分である。
【0047】
第1固液分離部14は、酸化部13で酸化剤を添加することにより生成したFe(OH)
3及びSb(OH)
3の沈殿と、水とを分離する。
【0048】
一方で、沈殿物排出部122は、還元鉄粉とフロックと残留水分からなる混合物(沈殿混合物)を排出する。沈殿物排出部122は、凝集沈殿分離部12の下部に設けられており、搬送ラインL2が接続されている。そして、沈殿物排出部122は、この搬送ラインL2を介して、沈殿混合物を磁気分離部15に送出する。
【0049】
磁気分離部15は、沈殿混合物から還元鉄粉を回収するものである。磁気分離部15では、例えば沈殿混合物に含まれる還元鉄粉の99%以上を回収することができる。磁気分離部15によって還元鉄粉が回収された後の分離後水は、搬送ラインL3を介して混合部11に送出され、再度還元鉄粉と混合され、アンチモンの除去処理が施される。
【0050】
第2固液分離部16は、磁気分離部15によって回収された還元鉄粉と水を分離し、還元鉄粉を回収する。第2固液分離部16には、送風部161(例えば、ブロア等)を備えており、搬送ラインL4を介して還元鉄粉が搬送される。第2固液分離部16によって回収された還元鉄粉は、混合部11の還元鉄粉投入部111に返送され、再利用される。また、分離された残液は搬送ラインL3を介して混合部11に送出する。
【0051】
第1固液分離部14において排出された水は、その後、適宜貯蔵され、またpHや温度等を排出基準内に調整し、排出される。このようにして排出される処理水中のアンチモンの濃度が所定濃度以下(例えば、基準値以下)となるように、アンチモン含有水処理装置1を稼働する。
【0052】
≪第1の実施形態に係るアンチモン含有水処理方法≫
本発明の第1のアンチモン含有水処理方法は、上記の混合部11において、pH1以上6以下のアンチモン含有水と、0価の還元鉄粉と、を混合する工程(混合工程)を備える方法である。このようなアンチモン含有水処理方法によれば、アンチモン含有水からアンチモンを効率良く吸着分離し、処理水中のアンチモン濃度を低濃度に減少させることができる。また、0価の還元鉄粉は、低価格で入手することが可能であるため、ランニングコストも低くすることができる。なお、この実施形態においては、さらに、凝集沈殿分離部12における凝集沈殿分離工程、酸化部13における酸化工程、第1固液分離部14における第1固液分離工程、磁気分離部15における磁気分離工程、第2固液分離部16における第2固液分離工程、搬送ラインL4を介して行われる返送工程、が構成されている。
【0053】
[混合工程]
混合工程は、pH1以上6以下のアンチモン含有水と、0価の還元鉄粉とを混合して混合後水を得る工程である。具体的に、混合工程では、アンチモン含有水を充填した反応槽に、還元鉄粉を添加し、攪拌して混合することができる。このようにして、pH1以上6以下のアンチモン含有水と0価の還元鉄粉とを混合することにより、還元鉄粉にアンチモンを吸着・保持させることができる。
【0054】
混合工程では、0価の還元鉄粉を用いる。このような還元鉄粉を用いることにより、効率良くアンチモンを吸着させることができる。還元鉄粉とは、0価に還元された鉄粉をいい、具体的には、JFEスチール株式会社JIP240M、JIP255M、JIP270M、JIP270MS、JIP255M−90や、DOWAエレクトロニクス株式会社製DCC、DNC、DCC−200、DG、DR、DR−150、DE−50、DE、DE−150、RK−200等を用いることができる。
【0055】
還元鉄粉の粒径としては、100μm以下であることが好ましい。還元鉄粉は、粒径が小さい方が、質量(鉄使用量)あたりの表面積の割合が増加するため、より多くのアンチモンを吸着、保持することができる。なお、本明細書において、「粒径」とは、レーザー回析・散乱法により測定された平均粒径(メジアン径D
50)をいう。
【0056】
還元鉄粉は、銀、リン酸及び硫黄を含まないことが好ましい。還元鉄粉が銀又はリン酸を含むことにより、還元鉄粉のコストが向上するおそれがある。また、還元鉄粉が硫黄を含むことにより、混合時に硫化硫黄が発生するおそれがあり、除去等の対策が必要となる。同様に、添加剤としても銀、リン酸及び硫黄を添加しないことが好ましい。なお、例えば、原料由来又は製造工程由来等の不可避的不純物として、還元鉄粉に含有される銀、リン酸及び硫黄を排除するものではなく、例えばそれぞれの成分について100ppm以下、10ppm以下、1ppm以下の少量の含有は許容される。
【0057】
アンチモン含有水のpHは1以上6以下である。アンチモン含有水のpHが1以上6以下であることにより、還元鉄粉のアンチモン吸着能が高くなる。また、アンチモン含有水のpHとしては、2以上6以下であることが好ましく、3以上6以下であることがより好ましい。また、特に高いアンチモン吸着能の観点から、アンチモン含有水のpHとしては、4以上5以下であることが好ましく、4.5以上5以下であることより好ましく、4.7以上5以下であることがさらに好ましい。
【0058】
アンチモン含有水のpHが所定の範囲に含まれない場合、例えば、pH調整剤を用いてpHを調整することができる。pH調整剤としては、pHを上昇させたい場合、塩基性化合物であれば特に限定されず、例えば、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、炭酸ナトリウムを用いることができる。また、pHを減少させたい場合、酸性化合物であれば特に限定されず、例えば、硫酸等を用いることができる。
【0059】
また、アンチモン含有水のpHを適切な範囲に維持するため、緩衝剤を用いることができる。緩衝剤としては、酸性域に緩衝域を有するものであれば特に限定されず、例えば、酢酸アンモニウム水溶液や酢酸ナトリウム水溶液等を用いることができる。
【0060】
還元鉄粉の添加量としては、特に限定されず、還元鉄粉の粒径との関係から適宜選択することができる。例えば、還元鉄粉の粒径が10μm以上100μm以下の場合には、アンチモン含有水に対して、1,000mg/L以上10,000mg/L以下となるように還元鉄粉を添加することができる。
【0061】
混合時間としては、特に限定されず、還元鉄粉の粒径との関係から適宜選択することができる。例えば、還元鉄粉の粒径が10μm以上100μm以下の場合には、1分以上30分以下とすることができる。
【0062】
アンチモン含有水には、有機・無機凝集剤を添加することができる。これにより、アンチモン含有水中に含まれる粒子等を沈殿分離しやすいフロックにすることができる。そして、その結果、処理水の含水率を低下させることができる。
【0063】
凝集剤としては、還元鉄粉を凝集し得るものであれば特に限定されず、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、有機高分子凝集剤等を用いることができる。
【0064】
また、凝集剤に加えて凝集助剤を添加することもできる。凝集助剤としては、特に限定されず、例えば、アルギン酸ナトリウム、ベントナイト、粉末活性炭、活性珪酸等を用いることができる。
【0065】
なお、凝集剤及び凝集助剤の添加時期としては、特に限定されず、例えば、アンチモン含有水と還元鉄粉の混合後所定の時間経過後、後述する凝集沈殿分離工程の直前又は凝集沈殿分離工程の途中で行うことができる。
【0066】
混合工程においては、上述したpH調整剤、緩衝剤、凝集剤及び凝集助剤以外にも、本発明の効果を損なわない範囲において、適宜添加剤を用いることができる。
【0067】
アンチモン含有水の温度としては、特に限定されず、例えば室温(25℃)以上に調整することが好ましく、30℃以上に調整することが好ましく、35℃以上に調整することがより好ましい。還元鉄粉の吸着力は、温度が高くなるにつれて高くなる。したがって、混合工程においてアンチモン含有水の温度を上昇させることにより、還元鉄粉におけるアンチモンの吸着力の向上を図ることができ、アンチモンをより効果的に除去することができる。一方で、アンチモン含有水の温度としては、例えば、80℃以下とすることが好ましく、60℃以下とすることがより好ましく、50℃以下とすることがさらに好ましく、45℃以下とすることが特に好ましい。排水の排出基準が45℃であるため、アンチモン含有水の温度があまりに高すぎると、冷却にコストを要する場合もある。
【0068】
その後、アンチモン含有水と還元鉄粉の固液混合物を、固体と液体とに分離することができる。固液分離の方法としては、例えば、ろ過法、遠心分離法、沈降分離法、磁気分離法等を用いることができ、これらの2種以上を組み合わせて用いることもできる。中でも、磁気分離法を用いることが好ましい。磁気分離法を用いることにより、回収した還元鉄粉を再度アンチモン含有水に混合して吸着剤として再利用できる。これにより、還元鉄粉の吸着能力の限界まで繰り返し還元鉄粉を使用でき、1回の使用で還元鉄粉を廃棄する場合に比べてコストを低減させることができる。また、1回の使用で還元鉄粉を廃棄しないため、還元鉄粉を大量に投入することができ、その結果として処理時間を短縮させることもできる。
【0069】
[凝集沈殿分離工程]
凝集沈殿分離工程は、固形成分(還元鉄粉及びフロック)を含む水から、固形成分を沈殿させ、上澄み液(混合後水)を除去し、水分量を低減させる工程である。水分量が低減された状態で、後述する磁気分離工程において還元鉄粉を処理することができ、磁気分離工程における処理負担を低減させることができる。固液分離処理の手法としては、ここで述べる凝集沈殿分離工程以外にも種々の手法が考えられるが、これにより複雑な工程や過度な設備を要するのでは、結果としてアンチモン含有水処理の効率の低下を招くおそれもある。そこで、還元鉄粉は比重が重く沈降分離しやすいという特質を利用し、簡易な設備で容易に固液分離を実現できる凝集沈澱法を採用することができる。
【0070】
すなわち、凝集沈殿分離工程では、例えばアンチモン含有水と還元鉄粉の混合後、凝集剤を添加し、アンチモン含有水中に含まれる粒子をフロックとして沈降させるだけでなく、還元鉄粉の自然沈降を促進する。これにより、固液分離処理の効率向上を図ることができる。また、例えば、凝集剤を添加しない場合において、より小規模な設備でアンチモン含有水の処理をすることができる。
【0071】
[酸化工程]
酸化工程は、混合後水に酸化剤を添加し、混合後水に含まれるFe
2+を酸化する工程である。還元鉄粉に含まれるFeは、(2)式の反応によりFe
2+に酸化され、その一部はさらに(3)式の反応によりFe
3+に酸化される。ここで、Fe
2+はその一部が混合後水に溶解し、そのまま混合部11から排出される。これによって当初設定した量のFe
3+が確保されずに吸着量の低下を招くという問題がある。これに対して本発明においては、この混合後水に酸化剤を添加してFe
2+を酸化することで、Fe
3+を生成させることができる。このようにして生成したFe
3+は、混合後水に残存している微量のアンチモンと(4)、(5)式の反応により共沈し、Sb(OH)
3がその表面に付着したFe(OH)
3が固体状で得られる。この固体を分離除去することで、アンチモンが処理水から除去される。このようにすることで、FeをFe
2+として無駄に消費することなく有効利用でき、最低限必要なアンチモンの除去量を設計できるとともに、設計通りのアンチモンの除去量を確保することができる。
【0072】
混合後水のpHとしては、特に限定されないが、例えば7以上であることが好ましく、7.2以上であることがより好ましく、7.5以上であることがさらに好ましい。また、混合後水のpHとしては、例えば8.5以下であることが好ましく、8.2以下であることがより好ましく、8以下であることがさらに好ましい。混合後水のpHが7以上8.5以下であることにより、鉄濃度をより低く低減することができる。また、下水道への放流の排除基準はpH5以上9以下であるから、混合後水に対して中和のためのさらなる工程を要さず、経済的でもある。
【0073】
なお、アンチモン含有水は、還元鉄粉との反応によりpHが上昇し得るため、アンチモン含有水のpHと混合後水のpHとは必ずしも同一とならないことがある。このような場合、混合後水のpHを制御すればよい。混合後水のpHの制御方法は、第2実施形態の変形例で後述するため詳細は省略するが、混合後水のpHを測定し、それに応じて還元鉄と混合する前のアンチモン含有水にpH調整剤、緩衝剤を添加していわゆるフィードバック制御を行うことができる。ここで、pH調整剤、緩衝剤としては、第2実施形態の変形例で後述するものと同様のものを用いることができる。なお、上述したとおりアンチモン含有水のpHと混合後水のpHとは必ずしも同一とならないが、アンチモン含有水のpHが高いほど混合後水のpHも高くなる傾向にある。
【0074】
混合後水の酸化還元電位(vs.SHE)(以下、「ORP」と言うこともある。)としては、特に限定されないが、好ましくは200mV以上、より好ましくは300mV以上、さらに好ましくは400mV以上、特に好ましくは500mV以上に制御する。制御方法としては、例えば酸化工程の前段又は酸化工程において、混合後水をリアルタイムで酸化還元電位を測定し、酸化剤を添加する。また、ORPとしては、好ましくは1000mV以下、より好ましくは800mV以下、さらに好ましくは600mV以下に制御する。
【0075】
酸化剤の濃度としては、特に限定されないが、混合後液に対し、例えば70mg/L以上であることが好ましく、80mg/L以上であることがより好ましく、90mg/L以上であることがさらに好ましく、100mg/L以上であることが特に好ましい。酸化剤の濃度が70mg/L以上であることにより、酸化後水中のアンチモン濃度を極めて低くすることができる。一方で、酸化剤の濃度としては、例えば600mg/L以下であることが好ましく、500mg/L以下であることがより好ましく、400mg/L以下であることがさらに好ましく、300mg/L以下であることが特に好ましい。なお、酸化剤の濃度は600mg/L超であっても本願発明の効果は奏されるが、酸化剤が過剰となり、添加量に見合った効果は得られない。
【0076】
酸化剤としては、Fe
2+をFe
3+に酸化し得るものであれば特に限定されないが、例えば過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム(KMnO
4)等に代表される過マンガン酸塩、重クロム酸カリウム(K
2Cr
2O
7)、酸化クロム(CrO
3)等に代表されるクロム酸類、硝酸(HNO
3)、硝酸カリウム(KNO
3)等に代表される硝酸類、フッ素(F
2)、塩素(Cl
2)、臭素(Br
2)、ヨウ素(I
2)等に代表されるハロゲン、過酸化水素(H
2O
2)、過酸化ナトリウム(Na
2O
2)等に代表される過酸化物、酸化銅(CuO)、酸化鉛(PbO
2)、酸化マンガン(MnO
2)等に代表される酸化物、塩化鉄(FeCl
3)、硫酸銅(CuSO
4)等に代表される金属塩類、空気、酸素(O
2)、オゾン(O
3)に代表される酸素類、熱濃硫酸(H
2SO
4)、発煙硫酸+硝酸に代表される硫酸類、ニトロベンゼン(C
6H
5NO
2)等を用いることができる。操作性、反応性から過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムを使用することが好ましい。
【0077】
酸化剤の添加方法としては、Fe
2+をFe
3+に酸化し得るものであれば特に限定されず、連続的に添加しても断続的に添加してもよい。
【0078】
Fe(OH)
3粒子としては、粒径が0.02μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましく、0.05μm以上であることがさらに好ましく、0.07μm以上であることが特に好ましい。一般的に粒径が大きいほど、後段での固液分離が容易となる。
【0079】
[第1の固液分離工程]
第1固液分離部14においては、酸化部13より排出されたFe(OH)
3及びSb(OH)
3の沈殿を含む酸化後水を固液分離する。
【0080】
固液分離を行う装置としては、固体であるFe(OH)
3及びSb(OH)
3と、水とを分離できる装置であれば特に限定されず、例えば膜分離装置、加圧浮上装置、沈降装置、遠心分離装置等を用いることができる。膜分離装置としては、分離汚泥を濃縮(膜濃縮)できるものであれば特に限定されないが、Fe(OH)
3との接触時間(共沈反応時間)を増やすことで、Sb(OH)
3の低減が図れることから、例えば、孔径0.02μm又は0.03μmのMF膜を用いてクロスフロー方式通水する装置が好ましい。また、通水方式としては、全圧ろ過装置を用いることができる。また、膜分離装置に用いる膜は、UF(限外ろ過膜)であってもよい。
【0081】
[磁気分離工程]
磁気分離工程は、凝集沈殿分離工程により得られた還元鉄粉とフロックと残留水分からなる混合物(以下、「沈殿混合物」ということもある。)から還元鉄粉のみを、磁気(具体的には、磁石等)を用いて回収する工程である。
【0082】
[固液分離工程]
固液分離工程は、磁気分離工程において還元鉄粉とともに吸引・回収された空気を分離し、還元鉄粉のみを回収する工程である。
【0083】
[返送工程]
返送工程は、固液分離において回収された還元鉄粉混合工程に返送する工程である。返送された還元鉄粉は、再度アンチモン含有水に添加され、還元鉄粉のアンチモン吸着能が低下するまで繰り替し、アンチモンの回収に用いることができる。
【0084】
なお、返送された還元鉄粉が添加されるアンチモン含有水としては、混合工程に付されたアンチモン含有水(処理水)及び混合工程に付されていないアンチモン含有水、いずれを用いることもできる。混合工程に付されたアンチモン含有水に繰り返し還元鉄粉を添加することにより、アンチモン濃度を僅少量まで減少させることができる。
【0085】
<第1の実施形態の変形例>
図2は、第1の実施形態に係るアンチモン含有水処理装置の変形例の概略図である。この実施形態においては、混合部11において、アンチモン含有水を加熱するため、加熱部113を設けている点が上記の第1実施形態と異なっている。なお、
図2において、上記の第1実施形態と同様の構成については、同様の図番を付してその説明を省略する。
【0086】
図2のアンチモン含有水処理装置1’は、
図1のアンチモン含有水処理装置1の混合部11において、その内部に加熱部113(例えば、電熱線)が設けられたものである。この加熱部113は、例えば電源に接続されており、混合部11内のアンチモン含有水を加熱するものである。加熱温度は、例えば、45℃に設定する。そして、混合部11では、加熱部113による加熱を行いつつ、撹拌部112でアンチモン含有水を流動させることで、アンチモン含有水を加熱する。このように、加熱部113によりアンチモン含有水を加熱することにより、還元鉄粉における重金属の吸着力の向上を図ることができ、アンチモンをより効果的に除去することができる。
【0087】
≪第2の実施形態に係るアンチモン含有水処理装置≫
図3は、第2の実施形態に係るアンチモン含有水処理装置の概略図である。
図3に示すアンチモン含有水処理装置2は、pH調整部21と、通水部22と、酸化部23と、固液分離部24とを有する。
【0088】
pH調整部21においては、pH測定部211でアンチモン含有水のpHを測定し、その結果に基づきpH調整剤添加部212により、適量のpH調整剤を注入し、アンチモン含有水のpHを所定の値に調整する。ここで、例えば、pHを5に設定することができる。
【0089】
このようにしてpHが調整された後、アンチモン含有水は、吸着剤粒子が充填された通水部22を上向流(通水部の下部から上部へ向けた通水)にて一定速度で通水する。なお、本発明は、通水が上向流のみに限定されるものではなく、下向流、横向流等、あらゆる方向への通水を採用することができる。なお、
図3において、pH調整部21は、通水部22の上流に接続されているが、この例に限定されるものではなく、通水部22に配置することもでき、また、これらの箇所のうち複数箇所に接続することもできる。
【0090】
より具体的な構成として、吸着塔には、例えば還元鉄粉をバインダ樹脂に分散させて粒径1mm以上5mm以下に粒状化させた吸着剤粒子や、粒径100μm以下の鉄粉を転動造粒等の方式で直径1mm以上5mm以下に成型・造粒して構成した吸着剤粒子、粒径1mm以上5mm以下に成型した還元鉄粉そのものからなる吸着剤粒子(例えば、成型時に1mmメッシュ、2mmメッシュ、5mmメッシュ等を用いて分級・篩分けした還元鉄粉)等が充填されている。なお、吸着剤粒子としては、還元鉄粉を含むものであれば特に限定されない。吸着塔には、通水速度(以下、「SV値」という。)を、好ましくは1以上10以下、より好ましくは2以上9以下、さらに好ましくは3以上8以下、特に好ましくは4以上7以下の範囲に設定してアンチモン含有水が通水される。
【0091】
ここで、SV値とは、単位時間あたりに、処理に用いた吸着剤粒子体積の何倍のアンチモン量を処理(吸着)できるかを表す指標である。具体的に、SV値は、処理水量(L/H)/吸着剤粒子体積(L)で算出することができる値である。
【0092】
アンチモン含有水処理装置2においては、このような構成によりアンチモン含有水中のアンチモンを低濃度まで除去することができる。
【0093】
酸化部23においては、酸化剤添加部233より、通水部22を通過した通水後水に酸化剤を添加する。これにより、第1の実施形態で上述したメカニズムと同様に、すなわち、酸化剤の添加により通水部22に配置された吸着剤粒子から溶出して通水後水に混入したFe
2+をFe
3+に酸化しFe(OH)
3を生成させるとともに、その表面にSb(OH)
3を生成させる。
【0094】
固液分離部24においては、酸化部23より排出されたFe(OH)
3及びSb(OH)
3の沈殿を含む酸化後水を固液分離する。
【0095】
固液分離を行う装置としては、第1の実施形態の第1固液分離部14と同様のものを用いることができる。
【0096】
≪第2の実施形態に係るアンチモン含有水処理方法≫
本発明の第2のアンチモン含有水処理方法は、0価の還元鉄粉を含む粒子(以下、「吸着剤粒子」と言うこともある。)が配置されている通水部22に、pH1以上6以下のアンチモン含有水を通水して通水後水を得る通水工程と、得られた通水後水に酸化剤を添加する酸化工程とを備える方法である。このような構成により、第1実施形態に比べてアンチモンをより効率良く吸着分離し、処理水中のアンチモン濃度を低濃度に減少させることができる。
【0097】
[pH調整工程]
pH調整部21におけるpH調整工程は、処理の対象であるアンチモン含有水のpHを1以上6以下に調整する工程である。具体的に、pH調整工程では、アンチモン含有水に、pH調整剤を添加しpHを調整する。
【0098】
アンチモン含有水のpHが所定の範囲に含まれない場合、例えば、pH調整剤を用いてpHを調整することができる。pH調整剤としては、pHを上昇させたい場合、塩基性化合物であれば特に限定されず、例えば、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、炭酸ナトリウムを用いることができる。また、pHを減少させたい場合、酸性化合物であれば特に限定されず、例えば、硫酸等を用いることができる。
【0099】
アンチモン含有水のpHは1以上6以下である。アンチモン含有水のpHが1以上6以下であることにより、還元鉄粉のアンチモン吸着能が高くなる。また、アンチモン含有水のpHとしては4以上5.5以下であることが好ましく、4.5以上5.2以下であることがより好ましく、4.7以上5以下であることがさらに好ましい。アンチモン含有水のpHが4以上5.5以下であることにより、特に高いアンチモン吸着能を有し、アンチモンをより効果的に吸着させることができる。
【0100】
pHの調整方法としては、例えば、アンチモン含有水にpH調整剤を添加しながらpHを測定して、アンチモンを含有する水のpHが、所定の値となったところで添加を停止する方法等が挙げられる。
【0101】
また、アンチモン含有水のpHを適切な範囲に維持するため、緩衝剤を用いることができる。緩衝剤としては、特に限定されず、pKaが1以上7以下であるものが好ましく、2以上6.5以下であることがより好ましく、3以上6以下であることがさらに好ましく、4以上5.5以下であることが特に好ましい。具体的に、このような緩衝剤としては、酢酸アンモニウム水溶液や酢酸ナトリウム水溶液等を用いることができる。
【0102】
なお、アンチモン含有水に対するpH調整剤や緩衝剤の添加量は、通水工程を経た処理水のpHを測定し、その測定値に基づいて変化(フィードバック制御)させることができる。アンチモン含有水は、還元鉄粉と反応することにより、pHが上昇し、処理水が塩基性となることがある。そこで、例えば、pHが排出(排水)基準を満たすように、pHをフィードバック制御することで、処理水のpHのさらなる調整工程を要しない。
【0103】
[温度調整工程]
なお、
図3では図示しないが、上記の加熱部113を設けて温度調整を行ってもよい。
【0104】
[通水工程]
通水部22における通水工程は、0価の還元鉄粉を含む吸着剤粒子が配置されている通水部に、pH1以上6以下のアンチモン含有水を通水する工程である。これにより、アンチモン含有水中に含まれるアンチモンを、吸着剤粒子に吸着させることができる。還元鉄粉については上記第1実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
【0105】
より具体的に、通水工程は、例えば吸着剤粒子を通水部内に充填し、その通水部にアンチモン含有水を通水させることにより、アンチモン含有水からアンチモンを吸着する。
【0106】
通水工程では、吸着剤粒子として0価の還元鉄粉を含む粒子を用いる。このような粒子としては、還元鉄粉そのもの、還元鉄粉を所定の大きさに成型したもの、還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されているもの等を用いることができる。その中でも、還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されているものを用いることが好ましい。還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されていることにより、アンチモン含有水中に含まれるアンチモンを効率的に回収することができる。また、粒子化(ペレット化)することにより、耐圧性も増すので、吸着剤粒子を充填した状態、長期間の連続運転が可能となる。
【0107】
吸着剤粒子の形状としては、吸着剤粒子を通水部に充填し、その通水部にアンチモン含有水を通水させることにより、アンチモン含有水からアンチモンを吸着するのが効率的であることから、通水部に充填でき、その通水部に被処理水を通過させる際の圧力損失が低い形状のものが好ましい。このような形状としては、例えば、球状、立方体状、柱状、中空柱状等の形状等を挙げることができる。なお、吸着剤粒子としてバインダ樹脂を含まない物を用いる場合、圧力損失が低い形状(例えば、球状等)とすることが好ましい。
【0108】
吸着剤粒子の粒径としては、特に限定されず、例えば粒径1mm以上5mm以下であることが好ましい。粒径が1mm以上5mm以下であることにより、吸着剤粒子を充填した場合に通水性を保つとともに、吸着剤粒子に含まれる還元鉄粉とアンチモン含有水とを十分に接触させることができる。
【0109】
吸着剤粒子として、還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されているものを用いる場合、バインダ樹脂としては、特に限定されず、例えば親水性で、少なくとも強い酸性域で溶解しないものを用いることが好ましい。具体的に、天然物としては澱粉、アラビアゴム等、半合成品としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、リグニンスルホン酸塩類等、合成品としては、ポリビニルアルコール(PVA)、フェノール樹脂、スチレン−アクリル共重合物等を用いることができる。
【0110】
吸着剤粒子として、還元鉄粉そのものを所定の大きさに成型したものを用いる場合又は還元鉄粉がバインダ樹脂中に分散されているものを用いる場合、吸着剤粒子に含まれる還元鉄粉の平均粒径としては、特に限定されず、100μm以下であることが好ましい。還元鉄粉は、粒径が小さい方が、重量に対する表面積の割合が増加するため、より多くのアンチモンを吸着・保持することができる。
【0111】
通水部としては、上述した吸着剤粒子を充填した状態で、アンチモン含有水を通水可能なものであれば、特に限定されない。例えば、カラム状のものや、反応塔のようなものを用いることができる。
【0112】
このようにしてアンチモンを吸着した吸着剤粒子については、脱着処理により再生し、再度吸着処理に利用することができる。脱着処理に用いる脱着剤としては、特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等を用いることができる。吸着剤粒子を廃棄処理する場合にも、吸着剤粒子は主成分である鉄は環境に影響を及ぼし得るものでなく、また、アンチモンは吸着剤粒子に強固に保持されていて溶出することがないため、吸着剤粒子を容易に処理することができる。
【0113】
[pH測定工程]
pH測定工程においては、処理水のpHを測定する。そして、上述したpH調整工程において、測定した値に基づいてpH調整剤の添加量を制御することができる。
【0114】
[酸化工程]
第2の実施形態における酸化工程は、第1の実施形態の酸化工程と同様であるため、省略する。なお、第1の実施形態の「混合後水」を「通水後水」と読み替えるものとする。
【0115】
[固液分離工程]
第2の実施形態における固液分離工程は、第1の実施形態の第1固液分離工程と同様であるため、省略する。
【0116】
<第2の実施形態の変形例>
図4は、第2の実施形態に係るアンチモン含有水処理装置の変形例の概略図である。この実施形態においては、緩衝剤添加部213、流量制御部214、pH測定部231、ORP測定部232、温度調整部25及びpH及びORP制御部26を設けている点が上記の第2実施形態と異なっている。なお、
図4において、上記の第2実施形態と同様の構成については、同様の図番を付してその説明を省略する。
【0117】
図4のアンチモン含有水処理装置2’は、
図3のアンチモン含有水処理装置2において、緩衝剤添加部213、流量制御部214、pH測定部231、ORP測定部232、温度調整部25及びpH及びORP制御部26を設けたものである。そして、pH測定部211、pH調整剤添加部212、緩衝剤添加部213、流量制御部214、pH測定部231及びORP測定部232は、いずれもpH及びORP制御部26に通信可能な状態で接続されている。
【0118】
温度調整部25は、撹拌部251と加熱部252を備える。温度調整部25においては、pH調整部21から流入したアンチモン含有水を、加熱部252で加熱するとともに、撹拌部251で撹拌し、アンチモン含有水の温度を例えば45℃に調整する。このように、温度調整部25によりアンチモン含有水を加熱することにより、通水部22の吸着剤粒子中に分散された還元鉄粉における重金属の吸着力の向上を図ることができ、アンチモンをより効果的に除去することができる。
【0119】
pH及びORP制御部26においては、pH測定部211で測定したpH調整部21のアンチモン含有水のpHの値、pH測定部231で測定した酸化部23の通水後水のpHの値及びORP測定部232で測定した酸化部23の通水後水のORPの値の少なくともいずれかを受信する。そして、pH調整部21のアンチモン含有水のpHの値、酸化部23のアンチモン含有水のpHの値及び酸化部23のアンチモン含有水のORPの値の少なくともいずれかが、設定した値となるように演算処理を行い、その結果に基づいた指令を、pH調整剤添加部212、緩衝剤添加部213、流量制御部214及び酸化剤添加部233に送信する。
【0120】
pH調整剤添加部212、緩衝剤添加部213、流量制御部214及び酸化剤添加部233では、pH制御部26からの指令にしたがい、それぞれ、pH調整剤の添加量、緩衝剤の添加量、アンチモン含有水の流量及び酸化剤の添加量を変化させる。なお、
図4において、pH測定部231を酸化部23に配置しているが、配置箇所は、通水部22の下流であれば特に限定されない。また、
図4において、ORP測定部232を酸化部23に配置しているが、通水部22の下流且つ酸化部23又はそれより上流であれば特に限定されない。さらに、
図4において、酸化剤添加部233を酸化部23に配置しているが、通水部22の下流且つ酸化部23又はそれより上流であれば特に限定されず、例えば配管(
図4における通水部22と酸化部23を接続する配管)の途中においてラインミキサーを用いて酸化剤を注入又は混合することもできる。
【0121】
ここで、第1の実施形態において述べたとおり、混合後水の酸化還元電位(vs.SHE)としては、好ましくは200mV以上、より好ましくは300mV以上、さらに好ましくは400mV以上、特に好ましくは500mV以上に制御する。このような制御は、例えばORP測定部232で測定した混合後水の酸化還元電位の値に基づいて、酸化剤添加部233において添加する酸化剤の量を調整すればよい。
【0122】
また、アンチモン含有水処理装置2’は、pH調整部21の後段に温度調整部25を備える。温度調整部25内には、撹拌部251と加熱部252が設けられている。
【0123】
第1又は第2実施形態に係るアンチモン含有水に処理を施した処理水のアンチモン濃度としては、特に限定されず、0.1mg/L未満であることが好ましく、0.05mg/L未満であることがより好ましい。なお、処理水のアンチモン濃度を0.05mg/L未満とする場合には、例えば、浄化処理後のアンチモン濃度が0.1mg/Lに到達した時点で還元鉄粉又は吸着剤粒子の交換を行うことが好ましい。これにより還元鉄粉の吸着能力の限界までアンチモン含有水を処理することできる。
【0124】
なお、還元鉄粉の質量あたりのアンチモン吸着量が6.5mg/gを超えると、還元鉄粉のアンチモン吸着量が低下することがある。また、共存物質が吸着することにより、アンチモンの吸着量が低下することがある。このようにして通水部22から排出される通水後水にアンチモンが0.1mg/L超含まれる場合、あえて、Fe
2+を常時10〜50mg/L溶出させ、酸化部23において酸化することで、0.065〜0.325mg/L程度のアンチモンを吸着することができる。
【0125】
このようにして、従来の凝集沈殿法等のように、アンチモンの吸着が不十分である還元鉄粉を廃棄することがないため、コストの低減及び汚泥量の削減に有効である。また、アンチモン含有水中のアンチモンの濃度に関係なく通水量、通水速度、ORP及びpHの調整をするのみで、アンチモン処理量や処理速度等を制御することができ、処理の簡易化を図りやすい。
【実施例】
【0126】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0127】
<実施例1:Fe(OH)
3粒子の粒度分析>
図4に示す構成のアンチモン処理装置を構成した。アンチモン濃度1mg/Lのアンチモン含有水を、SV値を5として送水した。pH調整剤添加部212では、pH調整剤の添加量を、pH測定部231におけるpHの指示値が7.5となるようにpH及びORP制御部26によって制御した。また、緩衝剤添加部213では、緩衝剤の添加量をその緩衝剤濃度が300mg/Lとなるように流量制御部214と連動して注入した。酸化剤添加部233では、酸化剤の濃度は通液後液に対して約100mg/Lとなるように添加した。この際のORP測定部232におけるORPの指示値は稼働中、ほぼ500mVにであった。なお、その添加した酸化剤の濃度は通液後液に対して約100mg/Lでほぼ一定あった。24時間アンチモン処理装置を稼動し、酸化部23の析出したFe(OH)
3粒子を、固液分離部24を設置した孔径0.2μmのMF膜によってろ過し回収した。回収したFe(OH)
3粒子は、水に分散し、レーザー回折式粒度分布測定装置(Bettersize Instruments Ltd.製、BT−9300ST Intelligent Laser Particle Size Analyzer)により、粒度分布を測定した。
【0128】
図5は、酸化部23に析出したFe(OH)
3粒子の粒度分布(頻度分布及び積算分布)のグラフである。
図5において、横軸はFe(OH)
3粒子の粒径(μ)、縦軸は粒子の存在割合(%)を示す。酸化部23に析出したFe(OH)
3粒子の平均粒径(メジアン径(D
50))は0.154μmであり、粒径0.09〜0.10μmの粒子の割合1.03%、粒径0.09μm未満の粒子の割合は0%であった。
【0129】
以上の結果から、0.02μmの孔径を有するMF膜で簡易に分離可能であることが分かった。
【0130】
なお、アンチモン処理装置稼働中の酸化剤濃度がほぼ一定であったことから、pH及びORP制御部26での制御が有用であることも分かった。
【0131】
<実施例2:酸化剤添加量の鉄析出に対する効果の検討>
ORP測定部232におけるORPの指示値に関わらず、酸化剤の添加量を0mg/L(無添加)、20mg/L、30mg/L、50mg/L、100mg/L、200mg/Lに変更した以外、実施例1と同様にしてアンチモン処理装置を稼働した。稼働から1時間後に、SV値5でMF膜(0.02μm)を透過したろ過後水をサンプリングし、そのろ過後水中の鉄濃度をJIS K 0102:2013に基づき測定した。これにより、酸化剤添加量が酸化後水中の鉄析出に与える影響を検討した。
【0132】
図6は、酸化後水の鉄濃度(mg/L)対酸化剤添加濃度(mg/L)のグラフである。
図6の結果から、通水部22から溶解した鉄イオンは、酸化剤を添加することで通水後液から析出し、MF膜によるろ過で処理液中の鉄濃度が低下することが分かった。
【0133】
<実施例3:通水後水のpHの鉄析出に対する効果の検討>
pH測定部231におけるpHの指示値を、7.0、7.5、8.0、8.1、8.3、8.5となるよう添加するように変更した以外、実施例1と同様にしてアンチモン処理装置を稼働した。働から1時間後に、SV値5でMF膜(0.02μm)を透過したろ過後水をサンプリングし、そのろ過後水中の鉄濃度をJIS K 0102:2013に基づき測定した。これにより、通水後水のpHが酸化後水中の鉄析出に与える影響を検討した。
【0134】
図7は、酸化後水の鉄濃度(mg/L)対通水後水のpHのグラフである。通水後水のpHを7.5〜8.0の範囲に調整することにより、酸化後水の鉄濃度を10〜50mg/Lと低く調整できることがわかった。
【0135】
<実施例4:アンチモン除去能の評価>
実施例1と同様にして、アンチモン処理装置を134日間稼働した。稼働開始の翌日から7日おきに、通水部22の出口における通水後水のアンチモン濃度及び酸化後水をろ過した水(以下、「ろ過後水」と言う。)のアンチモン濃度を測定した。また、
図8は、並びに通水後水及びろ過後水のアンチモン濃度対稼働日数のグラフである。
【0136】
通水部22の出口でのアンチモン濃度は、稼働開始から57日後まで0.1mg/L未満で推移していたが、64日目に0.1mg/Lに到達した。ここで、還元鉄粉によるアンチモン吸着能の低下が確認された。
【0137】
一方で、ろ過後水のアンチモン濃度は、134日経過した時点でも0.05mg/L以下であり、良好なアンチモン除去能を有していた。なお、この時点で、鉄濃度は0.05mg/L未満であった。稼動開始から134日後の通水後水のアンチモン濃度、ろ過後水のアンチモン濃度、流量制御部214に設置した流量計で測定した134日間の総流量、還元鉄粉の質量を用いて、134日間、稼動開始から134日後の通水後水のアンチモン濃度、ろ過後水のアンチモン濃度が一定として、還元鉄粉の質量あたりのアンチモンの総吸着量を求めたところ、6.5mg/gであった。
【0138】
以上の結果より、アンチモン以外の共存物質に影響されることなく長期間に渡ってアンチモン含有水からアンチモンを効率良く吸着分離するとともに、還元鉄粉から溶出するFe
2+を酸化してFe(OH)
3としてSb(OH)
3と共沈させることで、2段階でアンチモンを吸着除去でき、これによりアンチモン濃度を極めて低濃度に低減することができることが分かった。
【課題】アンチモン含有水からアンチモンを効率良く吸着分離し、処理水中のアンチモン濃度を低濃度に減少させることができる実用的な処理方法及び処理装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係るアンチモン含有水処理方法は、pH1以上6以下のアンチモン含有水及び0価の還元鉄粉を接触して接触後水を得る接触工程と、接触後水に酸化剤を添加する酸化工程と、を備える。