特許第6494830号(P6494830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494830
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】制御装置及び工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23C 3/12 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   B23C3/12 C
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-55159(P2018-55159)
(22)【出願日】2018年3月22日
(62)【分割の表示】特願2015-514835(P2015-514835)の分割
【原出願日】2014年4月25日
(65)【公開番号】特開2018-134731(P2018-134731A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2018年3月22日
(31)【優先権主張番号】特願2013-95927(P2013-95927)
(32)【優先日】2013年4月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160716
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 力
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−285202(JP,A)
【文献】 特開2007−265237(JP,A)
【文献】 特開2004−223638(JP,A)
【文献】 特開平03−256659(JP,A)
【文献】 再公表特許第2011/132252(JP,A1)
【文献】 米国特許第05167477(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 1/00 − 9/00
B23B 1/00 −25/06
B24B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロス穴が形成されたワークを把持する主軸と、円錐状の切削刃部を有する工具が装着された工具主軸と、を備え、前記クロス穴の開口縁部に同一幅の面が形成されるよう面取加工をする工作機械の前記主軸および前記工具主軸を制御する制御装置であって、
前記工具の前記クロス穴に対する加工点に接する仮想平面で前記切削刃部を切断した際に生じる円錐曲線を算出し、前記円錐曲線と、前記クロス穴の開口縁部形状とに基づき、前記円錐曲線が前記クロス穴の内壁に対して1点で接するよう、前記工具の高さおよび回転軸の位置のうちの少なくとも1つを制御することを特徴とする制御装置
【請求項2】
前記工具の前記切削刃部の円錐形状の頂角の大きさおよび母線上の位置、前記ワークの中空形状の内径および外径、ならびに前記クロス穴の内径に基づいて、前記工具の高さおよび回転軸の位置のうちの少なくとも1つを制御する請求項1に記載の制御装置
【請求項3】
クロス穴が形成されたワークを把持する主軸と、
円錐状の切削刃部を有する工具が装着された工具主軸と、
前記主軸および前記工具主軸を制御する制御装置と、を備え、前記クロス穴の開口縁部に同一幅の面が形成されるよう面取加工をする工作機械であって、
前記制御装置は、前記工具の前記クロス穴に対する加工点に接する仮想平面で前記切削刃部を切断した際に生じる円錐曲線を算出し、前記円錐曲線と、前記クロス穴の開口縁部形状とに基づき、前記円錐曲線が前記クロス穴の内壁に対して1点で接するよう、前記工具の高さおよび回転軸の位置のうちの少なくとも1つを制御する、ことを特徴とする工作機械。
【請求項4】
前記制御装置は、前記工具の前記切削刃部の円錐形状の頂角の大きさおよび母線上の位置、前記ワークの中空形状の内径および外径、ならびに前記クロス穴の内径に基づいて、前記工具の高さおよび回転軸の位置のうちの少なくとも1つを制御する請求項3に記載の工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに形成されたクロス穴の開口縁部に対する面取加工を、円錐状の切削刃部を有する工具を回転させながら行う面取加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外周内周共に断面円形の中空状棒材からなるワークに対して、円錐状の切削刃部を有する円錐工具を用いてクロス穴を形成すると、クロス穴の開口縁部は外周内周の円弧に沿って傾斜面に形成される。
【0003】
図13は、中空状棒材からなるワークの外径側から円錐工具を用いてクロス穴の開口縁部に面取加工をした場合を説明する図であって、(a)は斜視図であり、(b)は上面図である。
【0004】
ワークWの外側から円錐工具を用いて前記開口縁部に面取加工を行うと、形成されたクロス穴2−1の開口縁部は、前記ワークWの外周面の曲率に沿って傾斜面から徐々に略平らな面へ変化しさらに傾斜面へと変化をしていくことと、円錐工具の切削刃部との接触の度合いから面取量は均一とならずに面取りが大きいところ小さいところができてしまう。すなわち、ワークWの円弧中心軸線方向については、前記円錐工具の当接が強く深くなるが、ワークWの円弧中心軸線に直交する方向については、前記円錐工具の当接が弱く浅くなってしまい、その結果前記円弧軸線方向に長い楕円形の面取となる。
【0005】
図14は、中空状棒材からなるワークの内径側から円錐工具を用いてクロス穴の開口縁部に面取加工をした場合を説明する図であって、(a)は斜視図であり、(b)は上面図である。
【0006】
ワークWの中空部分の内側から円錐工具を用いて前記開口縁部に面取穴あけ加工するを行うと、形成されたクロス穴2−2の開口縁部は、前記ワークWの内周面の曲率に沿って傾斜面から徐々に略平らな面へ変化しさらに傾斜面へと変化をしていくことと、円錐工具の切削刃部との接触の度合いから面取量は均一とならずに面取りが大きいところ小さいところができてしまう。すなわち、ワークWの円弧中心軸線方向に直交する方向については、図13で説明した外周面の場合とは逆に、前記円錐工具の当接が強く深くなるが、ワークWの円弧中心軸線方向については、前記円錐工具の当接が弱く浅くなってしまい、その結果前記円弧軸線に直行する方向に長い楕円形の面取となる。
【0007】
また、ワークに形成されたクロス穴の開口縁部が、ワークの表面に対して傾斜して形成された開口縁部である場合も、開口縁部の面における形状が楕円形状となるため形成されたクロス穴の開口縁部は、円錐工具の回転軸を軸心とする円筒形状にはならない。
【0008】
このような傾斜を有するクロス穴の開口縁部に対して面取加工する面取装置および方法がいくつか提案されている。
【0009】
例えば、穴の入口周囲に生じたバリを除去するための面取バーを小型化して狭小空間内に挿入可能とした面取装置がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
また例えば、ワークに形成された断面円形の貫通穴の裏面側の周縁部に発生するバリをワークの表面側からバリを除去する方法がある(例えば、特許文献2参照。)。
【0011】
また例えば、砥石とこの砥石を保持するホルダとを有する研磨工具において、砥石を当該ホルダの軸線方向の双方向に移動可能に支持するとともに砥石を当該ホルダ側に向けて付勢する第1の付勢部材をホルダに設け、ワークに対する砥石の軸線方向における位置については高い精度で制御しなくても、砥石は第1の付勢部材の付勢力に応じた最適な荷重をもってワークに当接する構造を有することで、砥石が磨耗しても、あるいはワークの被加工領域に凹凸があっても、砥石は常にワークの裏面側に適正に当接させで、手間のかかる調整を行なわなくても、ワーク裏面側の被加工領域を好適に研磨することができる研磨工具がある(例えば、特許文献3参照。)。
【0012】
また例えば、削液が通過できる空間を形成した本体部と、本体部に設けられ本体部の外側へ変位可能な刃部とを有し、空間を通過してきた切削液の静水圧力の変化に応じて刃部を本体部の外側へ変位させて当該刃部により本体部を回転させて角部を加工する角部加工工具がある(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】実願昭63−67015号公報
【特許文献2】特開2004−223638号公報
【特許文献3】特許第5150194号公報
【特許文献4】特開2010−149271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、ワークに形成されたクロス穴の開口縁部の面取加工を、円錐状の切削刃部を有する円錐工具を回転させながら行う面取加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、ワークに形成されたクロス穴の開口縁部の面取加工を、円錐状の切削刃部を有する円錐工具を回転させながら行う面取加工方法において、円錐工具のクロス穴に対する加工点に接する仮想平面で切削刃部を切断した際に生じる円錐曲線と、クロス穴の開口縁部形状とに基づき、円錐工具の高さおよび回転軸の位置のうちの少なくとも1つを制御して、クロス穴の開口縁部に同一幅の面が形成されるよう面取加工をする。
【0016】
上記面取加工方法においては、円錐工具の切削刃部の円錐形状の頂角の大きさおよび母線上の位置、ワークの中空形状の内径および外径、ならびにクロス穴の内径に基づいて、円錐工具の高さおよび回転軸の位置のうちの少なくとも1つを制御する。
【0017】
また、上記面取加工方法においては、上記円錐曲線が、クロス穴の開口縁部に対して1点で接するよう、円錐工具のクロス穴の貫通方向に対する高さおよび回転軸の位置のうちの少なくとも1つを制御する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ワークに形成されたクロス穴の開口縁部の面取加工が、例えばクロス穴の開口縁部がワークの円弧形状部に位置した場合やクロス穴に対してワークの面が斜面に位置した場合の面取加工を、円錐状の切削刃部を有する円錐工具を回転させながら行う面取加工方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】外周内周共に円形の断面形状を有する中空状棒材からなるワークに形成されたクロス穴の開口縁部の面取加工を説明する斜視図である。
図2】面取加工に用いられる円錐工具を例示する側面図である。
図3】中空状棒材からなるワークの凸状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工に用いられる円錐工具を説明する断面図である。
図4】中空状棒材からなるワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工に用いられる円錐工具を説明する断面図(その1)である。
図5】中空状棒材からなるワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工に用いられる円錐工具を説明する図(その2)であり、(a)はワークの円弧中心軸方向に直交する面でから見た縦断面図あり、(b)はワークの円弧中心軸方向に沿って見た横断面図ある。
図6】面取加工における中空状棒材からなるワークと円錐工具の切削刃部との位置関係を説明する図であって、(a)はワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の上面図であり、(b)はワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の断面図であり、(c)は円錐工具の切削刃部の側面図である。
図7】本発明による面取加工方法の原理を説明する図である。
図8】円錐工具の切削刃部を仮想平面で切断した際に生じる円錐曲線を説明する図である。
図9】中空状棒材からなるワークの凸状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工を説明する図(その1)であって、(a)は断面図であり、(b)は上面図である。
図10】中空状棒材からなるワークの凸状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工を説明する図(その2)であって、(a)は断面図であり、(b)は上面図である。
図11】中空状棒材からなるワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部における加工点を説明する断面図である。
図12】中空状棒材からなるワークの凸状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部における加工点を説明する断面図である。
図13】中空状棒材からなるワークの外径側から円錐工具を用いてクロス穴の開口縁部に面取加工をした場合を説明する図であって、(a)は斜視図であり、(b)は上面図である。
図14】中空状棒材からなるワークの内径側から円錐工具を用いてクロス穴の開口縁部に面取加工をした場合を説明する図であって、(a)は斜視図であり、(b)は上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、外周内周共に円形の断面形状を有する中空状棒材からなるワークに形成されたクロス穴の開口縁部の面取加工を説明する斜視図である。
【0021】
ワークWにクロス穴2−1および2−2が形成されると、ワークWの外周面の凸状円弧形状部3にはクロス穴2−1の開口縁部21−1およびクロス穴2−2の開口縁部21−3が位置し、ワークWの内周面の凹状円弧形状部4にはクロス穴2−1の開口縁部21−2およびクロス穴2−2の開口縁部21−4が位置する。開口縁部21−1、開口縁部21−3、開口縁部21−2、および開口縁部21−4に対し、円錐状の切削刃部11−1および11−2を有する円錐工具1を回転させながら面取加工を行う。
【0022】
図2は、面取加工に用いられる円錐工具を例示する側面図である。円錐工具1は、例えば、図2(a)に示すような刃先に向かって円錐形状が広がるような切削刃部11−1および刃先に向かって円錐形状が狭まるような切削部11−2を2つ張り合わせて形成された切削部を有するもの、図2(b)に示すような刃先に向かって円錐形状が広がるような切削刃部11−1を有するもの、図2(c)に示すような刃先に向かって円錐形状が狭まるような切削部11−2を有するものがある。各円錐工具1は、面取加工されるクロス穴の開口縁部が、ワークWの凸状円弧形状部もしくは凹状円弧形状部のいずれに位置するかや、切削刃部の大きさなどに応じて適宜使い分けられる。
【0023】
図3は、中空状棒材からなるワークの凸状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工に用いられる円錐工具を説明する断面図である。図3に示すように、ワークWの開口縁部21−1の面取加工に例えば図2(a)に示した円錐工具1を用いる場合、ワークWの外方から切削刃部11−2を開口縁部21−1に押し当てて円錐工具1を回転させることで面取加工を行う。またあるいは、図2(c)に示した円錐工具1を用いてもよく(図示せず)、この場合、ワークWの外方から切削部11−2を開口縁部21−1に押し当てて円錐工具1を回転させることで面取加工を行う。
【0024】
図4は、中空状棒材からなるワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工に用いられる円錐工具を説明する断面図(その1)である。図4に示すように、ワークWの開口縁部21−2の面取加工に例えば図2(a)に示した円錐工具1を用いる場合、クロス穴2−1に切削刃部11−1および11−2を挿入し、ワークWの中空部分の内方から切削刃部11−1を開口縁部21−2に押し当てて円錐工具1を回転させることで面取加工を行う。またあるいは、図2(b)に示した円錐工具1を用いてもよく(図示せず)、この場合、クロス穴2−1に切削刃部11−1を挿入し、ワークWの中空部分の内方から切削刃部11−1を開口縁部21−2に押し当てて円錐工具1を回転させることで面取加工を行う。
【0025】
図5は、中空状棒材からなるワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工に用いられる円錐工具を説明する図(その2)であり、(a)はワークの円弧中心軸方向に直交する面でから見た縦断面図あり、(b)はワークの円弧中心軸方向に沿って見た横断面図ある。図5に示すように、ワークWの開口縁部21−2の面取加工に例えば図2(c)に示した円錐工具1を用いる場合、ワークWの中空部分に切削刃部11−2を挿入し、ワークWの中空部分の内方から切削刃部11−2を開口縁部21−2に押し当てて円錐工具1を回転させることで面取加工を行う。
【0026】
図6は、面取加工における中空状棒材からなるワークと円錐工具の切削刃部との位置関係を説明する図であって、(a)はワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の上面図であり、(b)はワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の断面図であり、(c)は円錐工具の切削刃部の側面図である。
【0027】
図6(a)および図6(b)に示す凹状円弧形状部4上に位置するクロス穴2−1の面取加工を、図6(c)に示す円錐工具1を用いて行う場合、図6(a)に示すように上面からはクロス穴2−1の円上に位置するように見える点P0、P1およびP2は、ワークWの凹状円弧形状部4上に位置することから、図6(b)に示すように円弧中心軸から離れるにつれて、クロス穴2−1の貫通方向の高さ位置が低くなる。例えば、図6(c)に示す円錐工具1の切削刃部11−2の点T0を用いて点P0を加工点として面取加工を行う際に、切削刃部11−2の高さを変えずに円錐工具を回転させながら円弧中心軸方向に直交する方向に切削刃部11−2を移動させていくと、内周面の曲率を持った傾斜に起因して、加工点P0よりも低い位置にある点P1に対しては切削刃部11−2の点T1が接触し、加P1よりも低い位置にある点P2に対しては切削刃部11−2の点T2が接触するので、加工する予定のない点P1およびP2が余計に切削されてしまう。
【0028】
図7は、本発明による面取加工方法の原理を説明する図である。図7(a)に示すように、クロス穴2−1の面取加工を、円錐工具の切削刃部11−2を用いて行う場合、ワークWの内周面側に対する加工点Pに切削刃部11−2が押し当てられて回転すると、切削刃部11−2の傾斜の回転と内周面の円弧では、加工点Pよりも高い位置にある凸状円弧形状部3に対して部分Qの位置で接触するので、加工する予定のない部分Qが余計に切削されてしまう。そこで、本発明では、円錐工具1を回転させながら移動させていく際に切削部11−2が加工点PのみでワークWの内壁と接するよう、円錐工具1の高さおよび回転軸の位置のうちの少なくとも1つを逐次変更する制御を行う。図7(b)では、円錐工具1を回転させながら移動させていく際に切削部11−2が加工点PのみでワークWの内壁と接するよう、円錐工具1の回転軸の位置をクロス穴2−1の開口縁部から離れる方向に逐次変更していく例を示している。変形例として、ここでは図示しないが、円錐工具1を回転させながら移動させていく際に切削部11−2が加工点PのみでワークWの内壁と接するよう、円錐工具1の高さを逐次変更したりあるいは円錐工具1の高さおよび回転軸の位置の両方を逐次変更するようにしてもよい。
【0029】
本発明による面取加工方法では、円錐工具のクロス穴に対する加工点に接する仮想平面で円錐工具の切削刃部を切断した際に生じる円錐曲線と、クロス穴の開口縁部形状とに基づき、円錐工具の高さおよび回転軸の位置を制御し、クロス穴の開口縁部に同一幅を有する面が形成されるよう面取加工をする。以下に円錐曲線について説明する。
【0030】
図8は、円錐工具の切削刃部を仮想平面で切断した際に生じる円錐曲線を説明する図である。ここでは一例として、図2(a)に示した円錐工具1の切削刃部11−1を仮想平面で切断した場合について説明する。円錐曲線とは、円錐面を任意の平面で切断したときの断面として得られる曲線群の総称である。円錐の全ての母線と交わり、かつ底面に平行でない平面で切断すると、円錐曲線は楕円になる。また、円錐の母線に平行でない平面で切断すると、円錐曲線は双曲線になる。また、円錐の母線に平行な平面で切断すると、円錐曲線は放物線になる。例えば、図8(a)に示すように点P1を通る仮想平面V1で切削刃部11−1を切断すると、図8(b)に示すように円錐曲線L1は楕円になる。また例えば図8(a)に示すように点P2を通る仮想平面V2で切削刃部11−1を切断すると、図8(b)に示すように円錐曲線L2は双曲線になる。
【0031】
図9は、中空状棒材からなるワークの凸状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工を説明する図(その1)であって、(a)は断面図であり、(b)は上面図である。図9(a)に示すように、開口縁部21−1の加工点Pを切削刃部11−2で面取加工する場合、加工点Pに接する仮想平面Vは、切削刃部11の全ての母線と交わり、かつ底面に平行ではない平面なので、仮想平面Vで切削刃部11−2を切断した際に生じる円錐曲線Lは、図9(b)に示すような楕円となる。この楕円からなる円錐曲線Lが、クロス穴2−1の内壁に対して1点で接するよう円錐工具1の高さおよび回転軸の位置を制御して切削刃部11−2を加工点Pに押し当て、円錐工具1を回転させて、開口縁部21−1に同一幅を有する面が形成されるよう面取加工をする。
【0032】
図10は、中空状棒材からなるワークの凸状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部の面取加工を説明する図(その2)であって、(a)は断面図であり、(b)は上面図である。図10(a)に示すように、開口縁部21−1の加工点Pを切削刃部11−2で面取加工する場合、加工点Pに接する仮想平面Vは、円錐形状を有する切削刃部11−2の母線に平行でないので、仮想平面Vで切削刃部11−2を切断した際に生じる円錐曲線Lは、図10(b)に示すような双曲線となる。この双曲線からなる円錐曲線Lが、クロス穴2−1の内壁に対して1点で接するよう円錐工具1の高さおよび回転軸の位置を制御して切削刃部11−2を加工点Pに押し当て、円錐工具1を回転させて、開口縁部21−1に同一幅を有する面が形成されるよう面取加工をする。
【0033】
このように、円錐工具1のクロス穴に対する加工点Pに接する仮想平面Vで切削刃部を切断した際に生じる円錐曲線Lがどのようなものになるかは、円錐工具1の切削刃部の円錐形状の頂角の大きさおよび円錐工具1の切削刃部の母線上の位置、ワークWの中空状棒材の内径および外径、ならびにクロス穴の内径によって決まる。したがって本発明では、円錐工具の高さおよび回転軸の位置を、円錐工具1の切削刃部の円錐形状の頂角の大きさおよび母線上の位置、ワークWの中空状棒材の内径および外径、ならびにクロス穴の内径に基づいて、制御する。円錐工具1の高さおよび回転軸の位置は、円錐工具1の回転動作および高さを制御する制御装置(図示せず)によって制御される。
【0034】
中空状棒材からなるワークの凸状円弧形状部および凹状円弧形状部のいずれに形成された開口縁部に対しても、当該開口縁部を加工点として仮想平面を設定し、円錐曲線を算出することができる。図11および図12を参照して説明すると次の通りである。
【0035】
図11は、中空状棒材からなるワークの凹状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部における加工点を説明する断面図である。ワークWの凹状円弧形状部4に形成された開口縁部21−2を面取加工する場合、開口縁部21−2上の加工点Pに接する仮想平面Vを設定し、この仮想平面Vで円錐工具の切削刃部(図示せず)を切断した際に生じる円錐曲線を算出する。算出された円錐曲線が、クロス穴2−1の内壁に対して1点で接するよう円錐工具の高さおよび回転軸の位置を制御して切削刃部を加工点Pに押し当て、円錐工具を回転させて、開口縁部21−2に同一幅を有する面が形成されるよう面取加工をする。クロス穴2−1の内径の大きさに依存して、図11(a)および図11(b)に示すように、設定される仮想平面Vが変わる。
【0036】
図12は、中空状棒材からなるワークの凸状円弧形状部上に位置するクロス穴の開口縁部における加工点を説明する断面図である。ワークWの凸状円弧形状部3に形成された開口縁部21−1を面取加工する場合、開口縁部21−1上の加工点Pに接する仮想平面Vを設定し、この仮想平面Vで円錐工具の切削刃部(図示せず)を切断した際に生じる円錐曲線を算出する。算出された円錐曲線が、クロス穴2−1の内壁に対して1点で接するよう円錐工具の高さおよび回転軸の位置を制御して切削刃部を加工点Pに押し当て、円錐工具を回転させて、開口縁部21−1に同一幅を有する面が形成されるよう面取加工をする。クロス穴2−1の内径の大きさに依存して、図11(a)および図11(b)に示すように、設定される仮想平面Vが変わる。
【0037】
なお、上述の実施例では、面取加工される開口縁部が、ワークの凹状円弧形状部および凸状円弧形状部に設けられた場合について説明したが、ワークの面に対して傾斜して穴あけされた開口縁部であっても適用することができる。また例えば、面取加工される開口縁部が長穴や四角穴などである場合や、クロス穴が円筒形状ではなくテーパー形状を有する場合にも、本発明の面取加工方法を適用することができる。また、本発明の面取加工方法が適用できるワークは円筒形状である丸材に限定されず、外径にテーパー形状を有する丸材や、あるいは角材であってもよい。
【0038】
また、本発明の面取加工方法を、ワークの軸方向に沿った中心穴と交差するクロス穴やクロス穴同士の交差部などのような、ワークの内側部分における面取加工にも適用することができる。この場合、中心穴や一方のクロス穴から円錐工具を挿入して面取り加工を行う。
【0039】
また、球状工具のある一点を、円錐工具の円錐状の切削刃部に見立てることができるので、円錐工具の代わりに球状工具を用いて本発明の面取加工方法を実行することもできる。
【0040】
上述の各処理からなる面取加工方法を実行する工作機械は、ワークを把持する主軸と、円錐工具が装着された工具主軸と、主軸および工具主軸を回転制御する制御装置とを備える。円錐工具の高さおよび回転軸の位置は制御装置によって制御される。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、ワークに形成されたクロス穴の開口縁部に対する面取加工を行う工作機械に適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 円錐工具
2−1、2−2 クロス穴
3 凸状円弧形状部
4 凹状円弧形状部
11−1、11−2 切削刃部
21−1、21−2、21−3、21−4 開口縁部
W ワーク
図1
図2
図3
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図12
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図14