(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施形態に係る車椅子について詳細に説明する。
図1は、本発明の好ましい実施形態に係る車椅子を示した右側面図、
図2は、
図1の車椅子の背面図である。
【0013】
図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施形態に係る車椅子は、車椅子の骨格を形成するフレーム12と、右車輪14a及び左車輪14bと、一対のキャスタ16a、16bと、シート18とを備えている。
【0014】
なお、車椅子10は、原則としてその中心線に対して左右対称であり左右それぞれの側に同じ構成要素を有しているが、以下の説明において、車椅子10の右側に位置する構成要素の参照符号に「a」を付し、車椅子10の左側に位置する構成要素の参照符号に「b」を付すものとする。また、本明細書において「内方」とは、車椅子に着座する使用者が位置する側を意味し、「外方」とは、使用者が位置する側と反対側を意味する。
【0015】
右車輪14a及び左車輪14bの外方には、車輪スポーク14a2、14b2に指を挟まないように、車輪カバー14a1、14b1がそれぞれ取り付けられているが、車輪カバー14a1、14b1の装備は任意である。
【0016】
車椅子10はまた、右車輪14aの車軸24aと同心に右車輪14aの外方に配置されたハンドリム20aを備えている。ハンドリム20aは、ハンドリムスポーク20a1に連結されている。なお、
図1では、4本のハンドリムスポーク20a1が図示されているが、ハンドリムスポーク20a1の本数はこれに限定されるものではない。
【0017】
図3は、車椅子10の駆動機構の構成を示した図、
図4(a)は
図3の部分4aを示した図であって、駆動機構の要部を示したものである。
【0018】
車椅子10は、右車輪14aを支持する車軸54aを備えている。車軸54aは、中央に開口54a2が設けられた円形のディスク部54a1と、ディスク部54a1の内方に、ディスク部54a1と同心となるように固定された円筒形の内筒部54a3と、ディスク部54a1の外方に、ディスク部54a1と同心となるように固定された円筒形の外筒部54a4とを有し、内筒部54a3が、取付ボス56a、取付スリーブ58aを介して、フレーム12に取り付けられている。参照符号54a5は、車軸54aを固定するのに用いられる公知の車軸固定ばね付きレバー部材である。
【0019】
車軸54aの内筒部54a3には、回転軸60aが回転可能に配置されている。回転軸60aは、円柱形の軸部60a1と、軸部60a1の外端に設けられ、車軸54aの外筒部54a4内に位置する円板形のディスク部60a2とを有し、ディスク部60a2の外周には、係合部60a3(
図5(b)参照)が配置されている。面接触する係合部60a3は、高摩擦係数の材料(例えば、ゴム)又は後述する係合部68a3の係合面と相補する形状の歯面で形成され、又は高摩擦コーティングが施されている。
【0020】
軸部60a1は、軸受60a4によって内筒部54a3内で回転可能に支持されている。また、車椅子10の左側部分にも、対応する箇所に、同様の構成を有する回転軸60bが設けられている。
【0021】
なお、軸部60a1と軸部60b1は、軸部30a1、30b1と同様に、一体に形成してもよいし、別体に形成し、連結スリーブ(図示せず)を介して連結することによって1本の回転軸を形成するようにしてもよい。
【0022】
車輪ハブ62aが、車軸54aに回転可能に支持されている。車輪ハブ62aは、中央に開口62a2が設けられた円形のディスク部62a1と、ディスク部62a1の開口62a2の周囲に外方に延び、ディスク部62a1と同心となるように固定された円筒形の内筒部62a3と、ディスク部62a1の外周に内方に延び、ディスク部62a1と同心となるように固定された円筒形の外筒部62a4とを有する。内筒部62a3の内端には、係合部62a5(
図5(a)参照)が配置されている。外筒部62a4は、軸受62a6によって、車軸54aの外筒部54a4に回転可能に支持されている。また、車輪ハブ62aの外筒部62a4の外周には、右車輪14aの車輪スポーク14a2が連結されている。なお、面接触する係合部62a5は、高摩擦係数の材料(例えば、ゴム)又は後述する係合部70a3の係合面と相補する形状の歯面で形成され、又は高摩擦コーティングが施されている。
【0023】
車椅子10はまた、伸縮性連結材64a3によって互いに連結された円筒形の内方部64a1および円筒形の外方部64a2を有する外軸64aを備えており、内方部64a1は、軸受64a4によって、車輪ハブ62aの内筒部62a3に回転可能に支持されている。内方部64a1の貫通穴64a5および外方部64a2の貫通穴64a6は、それぞれスプライン穴であり、貫通穴64a5、64a6には、後述するスプライン軸の可動軸部材66aが挿入されている。伸縮性連結材64a3は、形状記憶材料で形成されており、後述する加力装置80aによって力を加えられなければ、中央位置(
図4(a)に示されるように、係合部68a3が係合部60a3に面接触し、かつ、係合部70a3が係合部62a5に面接触する位置)を保持するようになっている。なお、形状記憶材料製の伸縮性連結材64a3を用いる代わりに、加力装置80aによって力を加えられない場合に中央位置を保持するような弾性部材(例えば、ばね)を用いてもよい。
【0024】
車椅子10はまた、全体として円柱形の可動軸部材66aを備えている。可動軸部材66aは、
図6に最も良く示されるように、内端に配置された端隆起部66a1と、中間に配置された中間隆起部66a2とを有し、端隆起部66a1と中間隆起部66a2との間の部分66a3および中間隆起部66a2の外方の部分66a4がスプライン軸になっており、部分66a4が、外軸64aの内方部64a1の貫通穴64a5内および外方部64a2の貫通穴64a6内に摺動可能に配置されている。
【0025】
車椅子10はまた、回転軸側ディスク68aと、ハンドリム側ディスク70aとを備えている。回転軸側ディスク68aは、円筒部68a1と、円筒部68a1の内端に位置するディスク部68a2とを有し、ディスク部68a2の内方の面には係合部68a3(
図6参照)が配置されている。ハンドリム側ディスク70aは、円筒部70a1と、円筒部70a1の外端に位置するディスク部70a2とを有し、ディスク部70a2の外方の面には係合部70a3(
図6参照)が配置されている。円筒部68a1の貫通穴および円筒部70a1の貫通穴はスプライン穴である。回転軸側ディスク68aの円筒部68a1は、部分66a3に摺動可能に配置され、ハンドリム側ディスク70aの円筒部70a1も、部分66a3に摺動可能に配置されている。回転軸側ディスク68aの円筒部68a1およびハンドリム側ディスク70aの円筒部70a1には、回転軸側ディスク68aとハンドリム側ディスク70aを互いに遠去かる方へ付勢するためのばね72aが装着されている。なお、面接触する係合部68a3、70a3は、高摩擦係数の材料(例えば、ゴム)又は係合部60a3、62a5と相補する形状の歯面で形成され、又は高摩擦コーティングが施されている。
【0026】
図6は、可動軸部材66a、回転軸側ディスク68aおよびハンドリム側ディスク70aの相互関係を示した一連の図である(
図6では、各構成要素の相互関係を明瞭に示すため、ばね72aは図示されていない)。
図6(a)は、ハンドリム20aが中央位置(すなわち、内方にも外方にも移動させていない位置)にある状態を示しており、ばね72aによって、回転軸側ディスク68aが最内方に位置し、ハンドリム側ディスク70aが最外方に位置しており、これにより回転軸側ディスク68aのディスク部68a2の係合部68a3が回転軸60aの係合部60a3に面接触し、かつ、ハンドリム側ディスク70aのディスク部70a2の係合部70a3が車輪ハブ62aの係合部62a5に面接触している。
図6(b)は、ハンドリム20aが内方位置にある状態を示しており、ハンドリム側ディスク70aがばね72aのばね力に抗して可動軸部材66aの中間隆起部66a2によって押されるので、係合部70a3と係合部62a5との係合が解除される(
図5(a)参照)。
図6(c)は、ハンドリム20aが外方位置にある状態を示しており、回転軸側ディスク68aがばね72aのばね力に抗して可動軸部材66aの端隆起部66a1によって押されるので、係合部68a3と係合部60a3との係合が解除される(
図5(b)参照)。
【0027】
外軸64aの外方部64a2の内端に外側プレート74aが固定されており、外側プレート74aにはハンドリムスポーク20a1が連結されている。また、外軸64aの内方部64a1の外端に内側プレート76aが取り付けられている。
【0028】
車椅子10はさらに、ハンドリム20aの内方又は外方への移動を可動軸部材66aに伝達するための加力装置80aを備えている。
図7は、加力装置80aを模式的に示した斜視図である。加力装置80aは、可動軸部材66aに摺動可能に取り付けられた支持部材82aと、一対のアーム部材84a、86aと、別の一対のアーム部材88a、90aとを有している。なお、支持部材82aは、スプラインにより独自には回転不能で、可動軸部材66aと一緒に回転するようになっている。
【0029】
図8(a)は、一対のアーム部材84a、86aの支持部材82aへの取り付け状態を示した図である。アーム部材84aは、ほぼ中央の個所がピン84a1によって、支持部材82aの0度の位置に水平面内において回転可能に取り付けられている。アーム部材84aの一端84a2にはローラが取り付けられ、他端84a3にもローラが取り付けられている。これらのローラは、ローラ収容部材84a4、84a5内にそれぞれ収容されている。同様に、アーム部材86aは、ほぼ中央の個所がピン86a1によって、支持部材82aの180度の位置に水平面内において回転可能に取り付けられている。アーム部材86aの一端86a2にはローラが取り付けられ、他端86a3にもローラが取り付けられている。これらのローラは、ローラ収容部材86a4、86a5内にそれぞれ収容されている。
【0030】
図8(b)は、一対のアーム部材88a、90aの支持部材82aへの取り付け状態を示した図である。アーム部材88aは、ほぼ中央の個所がピン88a1によって、支持部材82aの90度の位置に垂直面内において回転可能に取り付けられている。アーム部材88aの一端88a2にはローラが取り付けられ、他端88a3にもローラが取り付けられている。これらのローラは、ローラ収容部材88a4、88a5内にそれぞれ収容されている。同様に、アーム部材90aは、ほぼ中央の個所がピン90a1によって、支持部材82aの270度の位置に垂直面内において回転可能に取り付けられている。アーム部材90aの一端90a2にはローラが取り付けられ、他端90a3にもローラが取り付けられている。これらのローラは、ローラ収容部材90a4、90a5内にそれぞれ収容されている。
【0031】
なお、アーム部材84a、86a、88a、90aの構成を明瞭に示すため、
図8(a)では、アーム部材88a、90aを図示しておらず、
図8(b)では、アーム部材84a、86aを図示していない。
【0032】
図4(a)に最も良く示されるように、ローラ収容部材84a5、86a4、88a5、90a4の各外面は、外側プレート74aに固定されており、ローラ収容部材84a4、86a5、88a4、90a5の各内面は、内側プレート76aに固定されている。
【0033】
加力装置80aの以上の構成により、ハンドリム20aを内方に移動させようとすると、ハンドリムスポーク20a1を介して外側プレート74aが内方に押される。すると、一対のアーム部材84a、86aと別の一対のアーム部材88a、90aとによって形成される2つのX形リンク装置が押し縮められ、可動軸部材66aが内方部64a1の貫通穴64a5内を摺動して内方に移動する(
図5(a)、
図6(b)参照)。これにより、回転軸側ディスク68aが回転軸60aに係合した状態で、ハンドリム側ディスク70aと車輪ハブ62aとの係合が解除される。
【0034】
一方、ハンドリム20aを外方に移動させようとすると、ハンドリムスポーク20a1を介して外側プレート74aが外方に押される。すると、一対のアーム部材84a、86aと別の一対のアーム部材88a、90aとによって形成される2つのX形リンク装置が押し広げられ、可動軸部材66aが内方部64a1の貫通穴64a5内を摺動して外方に移動する(
図5(b)、
図6(c)参照)。これにより、ハンドリム側ディスク70aが車輪ハブ62aに係合した状態で、回転軸側ディスク68aと回転軸60aとの係合が解除される。
【0035】
なお、以上の記載では、主として車椅子10の右側部分の構成について説明してきたが、車椅子10の左側部分も、右側部分と実質的に同一の構成を有している。すなわち、主要な構成要素について記すと、20bはハンドリム、54bは車軸、60bは回転軸、62bは車輪ハブ、64bは外軸、66bは可動軸部材、68bは回転軸側ディスク、70bはハンドリム側ディスク、80bは加力装置をそれぞれ示している。
【0036】
図9及び
図10を参照して、車椅子10の作動について説明する。
図9は、車椅子10の右折又は左折走行を示した模式的な平面図、
図10は、車椅子10の直進走行を示した模式的な平面図である。
【0037】
右手を用いて右折しようとする場合には、右手でハンドリム20aを把持し内方に移動させた状態で前方に回転させる。すると、右車輪14aが回転しない状態で左車輪14bが回転し、これにより車椅子10は右折する(
図9(a)参照)。右手を用いて左折しようとする場合には、右手でハンドリム20aを把持し外方に移動させた状態で前方に回転させる。すると、左車輪14bが回転しない状態で右車輪14aが回転し、これにより車椅子10は左折する(
図9(b)参照)。左手を用いて左折しようとする場合には、左手でハンドリム20bを把持し内方に移動させた状態で前方に回転させる。すると、左車輪14bが回転しない状態で右車輪14aが回転し、これにより車椅子10は左折する(
図9(c)参照)。左手を用いて右折しようとする場合には、左手でハンドリム20bを把持し外方に移動させた状態で前方に回転させる。すると、右車輪14aが回転しない状態で左車輪14bが回転し、これにより車椅子10は右折する(
図9(d)参照)。
【0038】
右手を用いて前進しようとする場合には、右手でハンドリム20aを中央位置に把持した状態で前方に回転させる(
図10(a)参照)。左手を用いて前進しようとする場合には、左手でハンドリム20bを中央位置に把持した状態で前方に回転させる(
図10(b)参照)。さらに、両手を用いて前進することもできる(
図10(c)参照)。この場合は、右手でハンドリム20aを中央位置に把持した状態で前方に回転させるとともに、左手でハンドリム20bを中央位置に把持した状態で前方に回転させる。
【0039】
車椅子10の加力装置80aは、二対のアーム部材84a、86a、88a、90aで形成される2つのX形リンク装置を押し縮め又は押し広げて平行移動させることによって可動軸部材66a、66bを摺動させるように構成されている。
【0040】
車椅子10は、面接触する係合部60a3と係合部68a3、係合部62a5と係合部70a3とによって回転力が伝達されるように構成されているが、平歯車と内歯車とのかみ合いによって回転力が伝達されるように構成してもよい。
【0041】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0042】
たとえば、図示した車椅子の構成要素の細部は単なる例示的なものであり、これらの細部を修正してもよい。
【解決手段】ハンドリムと、一方の側のハンドリムを回転させて生ずる回転力を駆動機構を介して反対側の車輪に伝達する回転軸と、一方の側のハンドリムを回転させて生ずる回転力を駆動機構を介して同じ側の車輪に伝達する車輪ハブを備え、駆動機構が、可動軸部材と、回転軸側ディスクと、ハンドリム側ディスクと、ハンドリムの移動を可動軸部材に伝達するリンク装置からなる加力装置を有し、ハンドリムを移動させると、リンク装置が押し縮められ又は押し広げられて可動軸部材を摺動させ、回転軸側ディスクの係合部及びハンドリム側ディスクの係合部が、回転軸の係合部及び/又は車輪ハブの係合部に選択的に係合して、回転力が所望の側の車輪に伝達されるように構成されている。