特許第6494865号(P6494865)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ タテホ化学工業株式会社の特許一覧

特許6494865焼鈍分離剤用酸化マグネシウム及び方向性電磁鋼板
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494865
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】焼鈍分離剤用酸化マグネシウム及び方向性電磁鋼板
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20190325BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20190325BHJP
   C01F 5/08 20060101ALI20190325BHJP
   C23C 22/00 20060101ALI20190325BHJP
   H01F 1/18 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   C21D8/12 B
   C21D9/46 501B
   C01F5/08
   C23C22/00 A
   H01F1/18
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-509020(P2018-509020)
(86)(22)【出願日】2017年3月16日
(86)【国際出願番号】JP2017010690
(87)【国際公開番号】WO2017169853
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2018年10月25日
(31)【優先権主張番号】特願2016-67692(P2016-67692)
(32)【優先日】2016年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】北垣 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】平津 豊
(72)【発明者】
【氏名】亀井 忠輔
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/051270(WO,A1)
【文献】 特開2015−205797(JP,A)
【文献】 特開2011−202224(JP,A)
【文献】 特開平11−181525(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/047999(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12, 9/46
C23C 22/00−22/86
C01F 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーン比表面積が2.5×10〜7.0×10・kg−1、及びCAAが50〜170秒である焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項2】
ホウ素を0.04〜0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下である請求項1に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤。
【請求項4】
鋼板表面に二酸化ケイ素被膜を形成する工程と、
請求項3に記載の焼鈍分離剤を二酸化ケイ素被膜の表面に塗布し、焼鈍することにより、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成する工程と
を含む、方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼鈍分離剤用の酸化マグネシウム及び方向性電磁鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
変圧器や発電機に使用される方向性電磁鋼板は、一般に、ケイ素(Si)を約3%含有するケイ素鋼を、熱間圧延し、次いで最終板厚に冷間圧延し、次いで脱炭焼鈍、仕上焼鈍して、製造される。脱炭焼鈍(一次再結晶焼鈍)では、鋼板表面に二酸化ケイ素被膜を形成し、その表面に焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含むスラリーを塗布して乾燥させ、コイル状に巻取った後、仕上焼鈍することにより、二酸化ケイ素(SiO)と酸化マグネシウム(MgO)が反応してフォルステライト(MgSiO)被膜が鋼板表面に形成される。このフォルステライト被膜は、鋼板表面に張力を付加し、鉄損を低減して磁気特性を向上させ、また鋼板に絶縁性を付与する役割を果たす。
【0003】
方向性電磁鋼板の特性を向上するために、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに含有される微量成分についての研究が行われている。焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中の含有量の制御が検討されている微量成分は、酸化カルシウム(CaO)、ホウ素(B)、亜硫酸(SO)、フッ素(F)、及び塩素(Cl)等である。更に、微量成分の含有量だけでなく、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中の、微量成分元素を含む化合物の構造を検討する試みが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、CaOとBの含有量を特定した焼鈍分離剤用酸化マグネシウムが開示されている。また、特許文献2では、Mg、及びCa等の塩化物の含有量とそれらに対するB比率を特定した焼鈍分離剤用酸化マグネシウムが開示されている。また、特許文献3及び特許文献4では、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中のCaO、SO、ハロゲン、及びBの含有量を特定した焼鈍分離剤用酸化マグネシウムが開示されている。更に、その他の諸物性を特定した焼鈍分離剤用酸化マグネシウムが研究されており、例えば特許文献5では、CaO、CO、SO、K、Na、及びB等を含めた多くの物性値を制御した焼鈍分離剤用酸化マグネシウムが開示されている。
【0005】
また、特許文献6では、Cl含有量とSO含有量を特定した酸化マグネシウムを用いる方向性電磁鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献7では、F及びClの含有量及び諸物性を特定した方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤が開示されている。
【0006】
更に、微量成分以外には酸化マグネシウム粒子と酸との反応速度による活性度、すなわちクエン酸活性度(CAA:Citric Acid Activity)に着目した発明について研究がなされている。CAAは、所定温度(例えば303K)の0.4規定のクエン酸水溶液中に、指示薬フェノールフタレインを混合し、最終反応当量の酸化マグネシウムを投入して攪拌し、クエン酸水溶液が中性になるまでの時間で表わされる。CAAは、方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤として使用される酸化マグネシウムの評価指標になり得ることが経験的に知られている。
【0007】
酸化マグネシウムの反応当量におけるCAAの分布に関する発明として、特許文献8には、最終反応率20%、40%、60%及び70%の各々の場合において、CAAを狭い範囲に制御するように活性度を調整した焼鈍分離剤用の酸化マグネシウムの発明が開示されている。また、特許文献9及び特許文献10には、CAA40%及びCAA80%の活性度、粒子径又は比表面積などをそれぞれ所定値に限定した焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの発明が開示されている。また、更に、特許文献11には、CAA70%、CAA70%とCAA40%との比、粒子径、比表面積などを、それぞれ所定値に限定した方向性電磁鋼板用焼鈍分離剤の発明が開示されている。これらの発明では、いずれも、酸化マグネシウム粒子の水和性と反応性の制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平04−025349号公報
【特許文献2】特許第2690841号公報
【特許文献3】特公昭54−014566号公報
【特許文献4】特許第3043975号公報
【特許文献5】特開平10−88244号公報
【特許文献6】特許第3021241号公報
【特許文献7】特許第3091096号公報
【特許文献8】特公昭57−045472号公報
【特許文献9】特許第2650817号公報
【特許文献10】特許第4192282号公報
【特許文献11】特許第3650525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
方向性電磁鋼板の磁気特性及び絶縁特性、並びに市場価値は、フォルステライト被膜の性能、具体的には、(a)フォルステライト被膜の生成しやすさ(フォルステライト被膜生成率)、(b)被膜の外観、(c)被膜の密着性、及び(d)未反応酸化マグネシウムの酸除去性の4点に左右される。いいかえると、方向性電磁鋼板の特性及び価値は、フォルステライト被膜を形成するための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの性能に依存している。
【0010】
しかしながら、従来の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムでは、方向性電磁鋼板の被膜不良の発生を完全には防止できておらず、また一定の効果が得られないため信頼性を欠いていた。したがって、充分な性能を有する焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは未だ見出されていない。
【0011】
上述のように、特許文献1〜5には、焼鈍分離剤用酸化マグネシウム中に微量成分元素を含む化合物の構造を検討する試みが記載されている。しかし、これらの文献に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを用いた場合には、いずれも得られるフォルステライト被膜の密着性又は未反応酸化マグネシウムの酸除去性が悪い。
【0012】
特許文献6及び7に記載の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、ハロゲン、特にFのフォルステライト被膜の形成促進効果に着目して得られたものである。これらの文献に記載の酸化マグネシウムは、一定したフォルステライト被膜の形成には効果があるものの、効果は未だ充分とはいえない。
【0013】
このように、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムの複数の物性値を制御し、フォルステライト被膜の形成促進効果を一定化させ、かつフォルステライト被膜の品質を改善する試みが多くなされている。しかしながら、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムに課せられた要求(上記の(a)〜(d))を充分に満足するために、さらなる品質の向上が求められている。
【0014】
CAAを指標とした酸化マグネシウムの活性度は、酸化マグネシウムとクエン酸との固相−液相反応の反応性を評価するものである。この固相−液相反応では、固相の反応サイトが増加するほど、すなわち酸化マグネシウムの粒子径が小さいほど、またその比表面積が大きいほど、表面自由エネルギーも大きくなり、活性度が高まる。しかしながら、酸化マグネシウムをはじめとする粉体粒子は、製造方法によっては、粉体粒子が単位粒子として存在する場合のみならず、いくつかの粉体粒子が凝集結合した粒子集合体の形態で存在することも多い。このように凝集・集合した粒子集合体の場合には、CAAの測定値は、粒子集合体としての構造を反映した数値とはならない。したがって、CAAのみによって焼鈍分離剤の反応性を正しく表わすことはできない。
【0015】
更に、CAAは、酸化マグネシウムとクエン酸との固相−液相反応により、実際の電磁鋼板の表面で起こる二酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの固相−固相反応の反応性を、経験的にシミュレートしているにすぎない。固相−固相反応であるフォルステライト生成反応では、固相−液相反応と異なり、例えば二酸化ケイ素被膜と酸化マグネシウム粒子との接点の数に代表されるような、酸化マグネシウム粒子の凝集構造が大きく影響することが考えられる。すなわち、酸化マグネシウム粒子が活性な表面を持っていても、粒子凝集構造に影響される接点の数が少なければ反応が不充分になる。一方、不活性な表面を持つ酸化マグネシウム粒子であっても、接点の数を多くすれば十分な反応を行うことができる。
【0016】
以上述べたように、これまで電磁鋼板用焼鈍分離剤の特性を表わす指標として用いられてきたCAAは、ある一定の条件下でのみ酸化マグネシウムの反応性を評価することができる指標であり、実際に電磁鋼板の表面上で起こる固相−固相反応を必ずしも評価しているとはいえない。したがって、粉体粒子の凝集構造を考慮した固相−固相反応の制御方法を用いれば、これまでCAAを用いた指標では活性度が好ましくないとされてきた酸化マグネシウムにおいても、焼鈍分離剤に好適な粒子凝集構造を有する酸化マグネシウムが見出される可能性がある。また、粉体粒子の凝集構造を考慮した固相−固相反応の制御方法を用いれば、CAAを用いた指標では活性度が好ましいとされていた酸化マグネシウムにおいて、より磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得ることのできる酸化マグネシウムを選択することができる可能性がある。
【0017】
そこで本発明は、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得るための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することを目的とする。具体的には、鋼板の表面に、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を形成することができる焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、焼鈍分離剤用酸化マグネシウムのブレーン比表面積とCAAを所定の範囲とすることにより、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0019】
本発明は、ブレーン比表面積が2.5×10〜7.0×10・kg−1、及びCAAが50〜170秒である焼鈍分離剤用酸化マグネシウムである。
【0020】
本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを用いることにより、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得ることができる。具体的には、鋼板の表面に、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を形成できる。
【0021】
本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、ホウ素を0.04〜0.15質量%含有し、塩素含有量が0.05質量%以下であることが好ましい。ホウ素及び塩素の含有量が所定の範囲であることにより、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得るための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを、より確実に得ることができる。
【0022】
本発明は、上述の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤である。本発明の焼鈍分離剤を用いることにより、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0023】
本発明は、鋼板表面に二酸化ケイ素被膜を形成する工程と、上述の焼鈍分離剤を二酸化ケイ素被膜の表面に塗布し、焼鈍することにより、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成する工程とを含む、方向性電磁鋼板の製造方法である。本発明の製造方法により、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を製造することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、磁気特性及び絶縁特性に優れた方向性電磁鋼板を得るための焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することができる。具体的には、本発明によれば、鋼板の表面に、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性に優れたフォルステライト被膜を形成することができる焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、ブレーン比表面積が2.5×10〜7.0×10・kg−1であり、かつ、CAAが50〜170秒である。ここで、ブレーン比表面積とは、JIS R5201:2015の「8.1比表面積試験」に記載されているブレーン法により測定される比表面積である。CAA(クエン酸活性度、Citric Acid Activity)とは、温度:303K、0.4Nのクエン酸水溶液中に40%の最終反応当量の酸化マグネシウムを投与して攪拌したときの、最終反応までの時間、つまりクエン酸が消費され溶液が中性となるまでの時間を意味する。
【0026】
ブレーン法では、粉体充填層内に空気を透過させることにより比表面積の測定を行うため、空気の流れによって内部の空気が置き換わらない微細な細孔部の表面積を測定することができない。このため、ブレーン法によれば、凝集粒子を構成する一次粒子の表面積を除外した凝集粒子のみの比表面積(ブレーン比表面積)を測定することができる。
【0027】
CAAでは、固相−液相反応により、実際の電磁鋼板の表面で起こる二酸化ケイ素と酸化マグネシウムとの固相−固相反応の反応性を、経験的にシミュレートしており、一次粒子を含む酸化マグネシウム粒子の反応性を測定することできる。
【0028】
酸化マグネシウムのブレーン比表面積が2.5×10・kg−1未満であれば、酸化マグネシウムの凝集粒子が粗大になり、酸化マグネシウム凝集体粒子と鋼板との接触率が低下するために反応性が悪くなり、(a)フォルステライト被膜生成率が低下する。また、粗大な酸化マグネシウムの凝集粒子を含んだフォルステライト被膜が形成されるので、厚みが不均一になる。そのため、方向性電磁鋼板のフォルステライト被膜の(b)被膜外観及び/又は(c)密着性が悪くなる。
【0029】
酸化マグネシウムのブレーン比表面積が7.0×10・kg−1を越えると、酸化マグネシウムの凝集粒子の粒子径が小さくなり、鋼板との接触率が増大するため、反応性が速くなりすぎ、均一なフォルステライト被膜が形成できない。そのため、方向性電磁鋼板のフォルステライト被膜の(b)被膜外観及び/又は(c)密着性が悪くなる。
【0030】
酸化マグネシウムのCAAが170秒より大きければ、酸化マグネシウムの一次粒子径が粗大になり、酸化マグネシウム粒子の反応性が悪くなるため、(a)フォルステライト被膜生成率が低下する。また粒子が粗大なため酸で除去した際残留物が残り、(d)酸除去性も悪い。
【0031】
酸化マグネシウムのCAAが50秒未満であれば、酸化マグネシウムの一次粒子径が小さくなり、酸化マグネシウム粒子の反応性が速くなりすぎる。そのため、均一なフォルステライト被膜ができなくなり、フォルステライト被膜の(b)被膜外観及び/又は(c)密着性が悪くなる。
【0032】
上記のように、本発明は、酸化マグネシウム凝集体粒子のブレーン比表面積及びCAAを制御することにより、従来の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムでは得られなかった高いフォルステライト被膜形成能を高い信頼性で達成している。ここで、高いフォルステライト被膜形成能は、方向性電磁鋼板の製造におけるフォルステライト被膜生成率の高さ、被膜の密着性の高さ、並びに未反応酸化マグネシウムの酸除去性の良好さ及び被膜の外観の良好さにより示されている。
【0033】
また、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムによれば、優れた絶縁特性と磁気特性を有する方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0034】
本発明において、酸化マグネシウムの製造方法は公知の方法を用いることができる。例えば、原料として塩化マグネシウムを用い、この水溶液に水酸化カルシウムをスラリーの状態で添加し反応させ、水酸化マグネシウムを形成する。次いで、この水酸化マグネシウムを、ろ過、水洗、乾燥させた後、加熱炉で焼成し、酸化マグネシウムを形成し、これを所望の粒径まで粉砕して、製造することができる。
【0035】
また、水酸化カルシウムの代わりに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸基を有するアルカリ性化合物を用いることもできる。また、海水、潅水、苦汁等のような塩化マグネシウム含有水溶液を反応器に導入し、1773〜2273Kで直接酸化マグネシウムと塩酸を生成させるアマン法(Aman process)により酸化マグネシウムを生成させ、これを所望の粒径まで粉砕して、酸化マグネシウムを製造することができる。
【0036】
更に、鉱物マグネサイトを焼成して得た酸化マグネシウムを、水和させ、得られた水酸化マグネシウムを焼成し、これを所望の粒径まで粉砕して、酸化マグネシウムを製造することもできる。
【0037】
本発明において、酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAの調整は、次のような方法により行うことができる。すなわち、水酸化マグネシウムの製造工程中の反応温度及びアルカリ源の濃度を調整することにより、水酸化マグネシウムの一次粒子径及び二次粒子径を制御し、酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAを調整することができる。また、粒子径を制御した水酸化マグネシウムの焼成温度及び時間を制御することによっても、酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAを調整することができる。また、ブレーン比表面積及びCAAの調整方法として、粉砕後のブレーン比表面積及びCAAを測定し、複数回焼成を行うことでも調整することができる。更に、焼成した酸化マグネシウムを、ジョークラッシャー、ジャイレトリークラッシャー、コーンクラッシャー、インパクトクラッシャー、ロールクラッシャー、カッターミル、スタンプミル、リングミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、回転ミル、振動ミル、遊星ミル、及びボールミル等の粉砕機を使用して粉砕することによっても、酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAを調整することができる。
【0038】
また、酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAを調整するために、分級機を用いても酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAを調整することができる。
【0039】
本発明の範囲の酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAを得るための粉砕機の最適条件は、使用する粉砕機の方式、能力(動力)により異なるが、粉砕を強化するとブレーン比表面積が増加し、CAAの反応性は高くなる。弱めるとブレーン比表面積は低下し、CAAの反応性は低くなる。分級機を併用することは必ずしも必要ではないものの、併用することにより、より広範囲の制御が可能になる。
【0040】
また、上記の方法によって得られた酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAを測定し、ブレーン比表面積及びCAAが過剰なものには、それが不足するものを組み合わせて、混合することによっても調整することができる。
【0041】
本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムは、BET比表面積が、好ましくは12.0×10〜25.0×10・kg−1、より好ましくは12.0×10〜23.0×10・kg−1、更に好ましくは14.0×10〜20.0×10・kg−1である。ここで、BET比表面積とは、窒素ガス吸着法(BET法)により測定される比表面積である。BET比表面積が上述の範囲であることにより、酸化マグネシウムの一次粒子径を適切な大きさにすることができる。
【0042】
本発明において、微量含有物量を、粗生成物の製造工程で制御する場合、湿式で微量成分を添加して、例えば、原料として予め微量含有物の量を分析した塩化マグネシウムの水溶液を用い、この水溶液に、水酸基を有するアルカリ性水溶液又はスラリーを添加し反応させ、水酸化マグネシウムを形成する工程で、微量含有物が所定量となるように調整添加することができる。例えば、カルシウム(Ca)を添加する場合、カルシウムの酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ケイ酸塩及びリン酸塩系が使用できる。リン(P)を添加する場合、リン酸、メタリン酸、ホスホン酸及び亜リン酸、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、並びにアンモニウム塩系を使用できる。ホウ素(B)を添加する場合、ホウ酸、ホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アンモニウム塩及びメタホウ酸アルカリ金属塩系、二酸化ホウ素等が使用できる。硫黄(S)を添加する場合、硫酸及び亜硫酸、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、並びにアンモニウム塩系を使用できる。フッ素(F)を添加する場合、フッ化マグネシウム等を使用できる。塩素(Cl)を添加する場合、塩化マグネシウム等を使用できる。ケイ素(Si)を添加する場合、ケイ酸アルカリ金属塩、ケイ酸アルカリ土類金属塩及びコロイダルシリカ系を使用できる。
【0043】
本発明の酸化マグネシウムは、例えば、カルシウム(Ca)、リン(P)、ホウ素(B)、硫黄(S)、フッ素(F)、及び塩素(Cl)等の微量含有物を含むことができる。
本発明の酸化マグネシウムがカルシウム(Ca)を含む場合、カルシウムの含有量は、CaO換算で0.2〜2.0質量%であることが好ましい。本発明の酸化マグネシウムがリン(P)を含む場合、リンの含有量は、P換算で0.03〜0.15質量%であることが好ましい。本発明の酸化マグネシウムがホウ素(B)を含む場合、ホウ素の含有量は、0.04〜0.15質量%であることが好ましい。本発明の酸化マグネシウムが硫黄(S)を含む場合、硫黄の含有量は、SO換算で0.01〜1.5質量%であることが好ましい。本発明の酸化マグネシウムがフッ素(F)を含む場合、フッ素の含有量は、0.05質量%以下であることが好ましい。本発明の酸化マグネシウムが塩素(Cl)を含む場合、塩素の含有量は、0.05質量%以下であることが好ましい。本発明の酸化マグネシウムがケイ素(Si)を含む場合、ケイ素の含有量は、0.05〜0.5質量%であることが好ましい。なお、本明細書の「質量%」は、「重量%」と同じ意味である。
【0044】
また、本発明における微量含有物量を、粗生成物の製造工程中に除去して制御するには、上記の水酸化マグネシウム形成工程で、酸を添加して除去するか、上記の水酸化マグネシウム形成工程の後、ろ過し、水洗を繰り返すことにより除去することができる。
【0045】
水洗する場合は、水酸化マグネシウムを水洗して微量含有物量を除去することができ、例えば塩素(Cl)を除去することができる。また、塩化マグネシウム含有水溶液と水酸基を有するアルカリ性水溶液の反応を行う場合には、水酸化マグネシウムの一部を事前に反応析出させ、析出粒子に微量含有物である例えばホウ素(B)を吸着させ除去することができる。
【0046】
更に、得られた水酸化マグネシウム等を、最終焼成前に微量含有物量を制御することができる。これは、得られた水酸化マグネシウムの微量含有元素の量を分析し、微量成分を添加したり、微量含有元素が過剰なものには、それが不足するものを組み合わせて、混合し、焼成することにより制御することができる。
【0047】
本発明の方向性電磁鋼板は、下記のような方法で製造することができる。方向性電磁鋼板用の鋼板は、ケイ素(Si)を2.5〜4.5%を含有するケイ素鋼スラブを熱間圧延し、酸洗後、強冷間圧延を行うか、中間焼鈍をはさむ2回冷間圧延を行って、所定の板厚に調整することによって製造することができる。次に、この鋼板を冷間圧延したコイルに対して、923〜1173Kの湿潤水素雰囲気中で、脱炭を兼ねた再結晶焼鈍を行う。このとき鋼板表面に二酸化ケイ素を主成分とする酸化被膜を形成させる。次に、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムを含む焼鈍分離剤を水に均一に分散させ、スラリーを得る。このスラリーを、表面に酸化被膜を形成した鋼板上に、ロールコーティング又はスプレーを用いて連続的に塗布し、約573Kで乾燥させる。こうして処理された鋼板を、例えば、1473Kで20時間の最終仕上焼鈍を行って、鋼板表面にフォルステライト被膜(MgSiO被膜)を形成する。フォルステライト被膜は絶縁被膜であるとともに、鋼板表面に張力を付与して、方向性電磁鋼板の鉄損値を低減し、磁気特性を向上させることができる。
【実施例】
【0048】
下記の実施例により本発明を詳細に説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味においても制限するものではない。
【0049】
<試験方法>
(1)ブレーン比表面積の測定方法
ブレーン空気透過装置(C−202B 株式会社西日本試験機製)により、JIS R5201:2015(8.粉末度試験、8.1比表面積試験)のとおりにブレーン比表面積を測定した。本測定では室温298K±1、ポロシチーを0.80に設定して測定した。
【0050】
(2)ホウ素(B)の含有量の測定方法
測定試料を、12Nの塩酸(試薬特級)に加え加熱して完全に溶解させた後、ICP測定装置(PS3520 VDD、株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いてホウ素(B)の含有量を測定した。
【0051】
(3)塩素(Cl)の含有量の測定方法
塩素(Cl)の含有量については、試料を酸に溶解した後、分光光度計(UV−2550、島津製作所製)を用いて質量を測定することで、試料中の濃度を算出した。
【0052】
(4)CAAの測定方法
0.4Nのクエン酸溶液1×10−4と、指示薬として適量(2×10−6)の1%フェノールフタレイン液とを、2×10−4のビーカーに入れ、液温を303Kに調整し、マグネットスターラーを使用して700rpmで攪拌しながら、クエン酸溶液中に40%の最終反応当量の酸化マグネシウムを投入して、最終反応までの時間、つまりクエン酸が消費され溶液が中性となるまでの時間を測定した。
【0053】
(5)フォルステライト被膜生成率
フォルステライトの形成機構は反応式:2MgO+SiO→MgSiOで示される。そのため、酸化マグネシウム粉末と非晶質の二酸化ケイ素のモル比を、2:1になるように調合した混合物を形成し、この混合物0.8×10−3kgを圧力50MPaで成型し、直径15×10−3m、高さ約3×10−3mの成形体を得た。次に、この成形体を窒素雰囲気中で、1473Kで4.0時間焼成し、得られた焼結体中のフォルステライト生成量を、X線回折により定量分析した。生成率が90%以上の場合、充分な反応性を有し、良好なフォルステライト被膜が形成されると考えられる。
【0054】
(6)フォルステライト被膜の外観
フォルステライト被膜の外観、フォルステライト被膜の密着性及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性の試験試料供試鋼として、方向性電磁鋼板用のケイ素鋼スラブを、公知の方法で熱間圧延、冷間圧延を行って、最終板厚0.28×10−3mとし、更に、窒素25%+水素75%の湿潤雰囲気中で脱炭焼鈍した鋼板を用いた。脱炭焼鈍前の鋼板の組成は、質量%で、C:0.01%、Si:3.29%、Mn:0.09%、Al:0.03%、S:0.07%、N:0.0053%、残部は不可避的な不純物とFeである。この電磁鋼板上に酸化マグネシウムを塗布して、フォルステライト被膜の被膜特性を調査した。具体的には、本発明の酸化マグネシウム又は比較例の酸化マグネシウムをスラリー状にして、乾燥後の質量で14.0×10−3kg・m−2になるように鋼板に塗布し、乾燥後、1473Kで20時間の最終仕上焼鈍を行った。最終仕上焼鈍が終了したのち冷却し、鋼板を水洗し、塩酸水溶液で酸洗浄した後、再度水洗して、乾燥させた。被膜の外観は、洗浄後の被膜の外観から判断した。すなわち、灰色のフォルステライト被膜が、均一に厚く形成されている場合を◎、被膜が均一であるがやや薄く形成されている場合を○、被膜が不均一で薄いが、下地の鋼板が露出している部分がない場合を△、被膜が不均一で非常に薄く、下地の鋼板が明らかに露出した部分がある場合を×とした。
【0055】
(7)フォルステライト被膜の密着性
フォルステライト被膜の密着性は、洗浄前の被膜状態から判断した。すなわち、被膜が均一に形成され、剥離部位が存在しない場合を◎、被膜が僅かに不均一であるが、剥離部分が存在しない場合を○、被膜が不均一で、ピンホール状の剥離部位が存在する場合を△、被膜が不均一で、明確な剥離部位が存在する場合を×とした。
【0056】
(8)未反応酸化マグネシウムの酸除去性
未反応酸化マグネシウムの酸除去性(単に、「酸除去性」ともいう。)は、洗浄後の被膜状態から判断した。すなわち、未反応の酸化マグネシウムが完全に除去されている場合を◎、明確な未反応酸化マグネシウムの残存は認められないものの、被膜に濃淡があり僅かに未反応酸化マグネシウムが残存すると判断した場合を○、点状に未反応酸化マグネシウムの残存が明確に観察される場合を△、明らかに未反応酸化マグネシウムが残存している場合を×とした。
【0057】
<試薬での合成例>
<合成例1>
塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ0.5×10mol・m−3の塩化マグネシウム水溶液を作製した。次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、0.5×10mol・m−3の水酸化カルシウム分散液を作製した。これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl/Ca(OH)=1.1のモル比で1.0×10−3になるように混合し、混合液を得た。その後、最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量(B)が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、600rpmで撹拌しながら、363Kにて5.5時間反応させ水酸化マグネシウムスラリーを得た。その後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られる水酸化マグネシウムの質量の100倍の純水で洗浄し、378Kで12時間乾燥して水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末を、電気炉を用いて、更に1373Kで2.5時間焼成した。このようにして、ブレーン比表面積が1.4×10・kg−1、CAAが172秒の酸化マグネシウムを得た。
【0058】
<合成例2>
塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ0.5×10mol・m−3の塩化マグネシウム水溶液を作製した。次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、0.5×10mol・m−3の水酸化カルシウム分散液を作製した。これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl/Ca(OH)=1.1のモル比で1.0×10−3になるように混合し、混合液を得た。その後、最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、300rpmで撹拌しながら363Kにて6.0時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。その後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られる水酸化マグネシウムの質量の40倍の純水で洗浄し、378Kで12時間乾燥して水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末を、電気炉を用いて、1173Kで1時間焼成した。このようにして、ブレーン比表面積が2.0×10・kg−1、CAAが89秒の酸化マグネシウムを得た。
【0059】
<合成例3>
塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ0.5×10mol・m−3の塩化マグネシウム水溶液を作製した、次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、0.5×10mol・m−3の水酸化カルシウム分散液を作製した。これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl/Ca(OH)=1.1のモル比で1.0×10−3になるように混合し、混合液を得た。その後、最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、600rpmで撹拌しながら、363Kにて3.0時間反応させ水酸化マグネシウムスラリーを得た。その後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られる水酸化マグネシウムの質量の40倍の純水で洗浄し、378Kで12時間乾燥して水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末を、電気炉を用いて、1073Kで1.5時間焼成した。このようにして、ブレーン比表面積が3.2×10・kg−1、CAAが45秒の酸化マグネシウムを得た。
【0060】
<合成例4>
塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ0.5×10mol・m−3の塩化マグネシウム水溶液を作製した。次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、0.5×10mol・m−3の水酸化カルシウム分散液を作製した。これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl/Ca(OH)=1.1のモル比で1.0×10−3になるように混合し、混合液を得た。その後、最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、300rpmで撹拌しながら343Kにて5.0時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。その後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られる水酸化マグネシウムの質量の100倍の純水で洗浄し、378Kで12時間乾燥して水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末を、電気炉を用いて、1123Kで1.5時間焼成した。このようにして、ブレーン比表面積が7.6×10・kg−1、CAAが51秒の酸化マグネシウムを得た。
【0061】
<合成例5>
塩化マグネシウム(試薬特級)を純水に溶解させ0.5×10mol・m−3の塩化マグネシウム水溶液を作製した、次に水酸化カルシウム(試薬特級)を純水に入れ、0.5×10mol・m−3の水酸化カルシウム分散液を作製した。これらの塩化マグネシウム水溶液及び水酸化カルシウム分散液をMgCl/Ca(OH)=1.1のモル比で1.0×10−3になるように混合し、混合液を得た。その後、最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を混合液に投入し、4枚ばねの攪拌羽を使用して、300rpmで撹拌しながら363Kにて6.0時間反応させ、水酸化マグネシウムスラリーを得た。その後、水酸化マグネシウムスラリーをろ過し、得られる水酸化マグネシウムの質量の100倍の純水で洗浄し、378Kで12時間乾燥して水酸化マグネシウム粉末を得た。得られた水酸化マグネシウム粉末を、電気炉を用いて、1173Kで1.5時間焼成した。このようにして、ブレーン比表面積が7.5×10・kg−1、CAAが85秒の酸化マグネシウムを得た。
【0062】
表1に、試薬を原料に製造した酸化マグネシウムの合成例1〜5の成分を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
<試薬での実施例及び比較例>
<実施例1〜5、比較例1〜5>
合成例1〜5を、表2に示す配合で混合し、実施例1〜5及び比較例1〜5の酸化マグネシウムを得た。
【0065】
得られた酸化マグネシウムを、脱炭焼鈍を終えた鋼板に塗布し、仕上焼鈍し、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成した。このようにして得られた鋼板の、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性について、評価した。表2にそれらの結果を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2から明らかなように、ブレーン比表面積及びCAAが所定の範囲である酸化マグネシウム(実施例1〜5)を用いて形成したフォルステライト被膜は、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性のすべてにおいて優れている。したがって、これらのフォルステライト被膜は、均一で充分な厚みを有する被膜であるといえる。
【0068】
これに対し、酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAを調整せずに、ブレーン比表面積及びCAAが所定の範囲外である酸化マグネシウム(比較例1〜5)を用いて形成したフォルステライト被膜は、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性という特性のうちいずれかを満たしてはいないため、所望の鋼板が得られないことが明らかとなった。
【0069】
<試薬以外での実施例及び比較例>
<実施例6>
最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.07質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を投入した濃度2.0×10mol・m−3のマグネシウムイオンを含む苦汁に、水酸化カルシウムスラリーを、反応後の水酸化マグネシウム濃度が2.0×10mol・m−3になるように添加し、600rpmで撹拌しながら、323Kで7.0時間反応させた。その後フィルタープレスでろ過し、水洗し、乾燥して水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムをロータリーキルンで、1373K、0.5時間焼成後、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムを、衝撃型粉砕機(ジェットミル)を用いて所定の範囲になるようにブレーン比表面積及びBET比表面積を調整し、最終的に得られた酸化マグネシウムのブレーン比表面積が3.8×10・kg−1、CAAが79秒であった。
【0070】
<実施例7>
最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.07質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を投入した濃度2.0×10mol・m−3のマグネシウムイオンを含む苦汁に、水酸化カルシウムスラリーを、反応後の水酸化マグネシウム濃度が2.0×10mol・m−3になるように添加し、600rpmで攪拌し、353Kにて2.0時間反応させた。その後フィルタープレスでろ過し、水洗し、乾燥して水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムをロータリーキルンで、1373K、0.5時間焼成後、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムを、衝撃型粉砕機(ジェットミル)を用いて所定の範囲になるようにブレーン比表面積及びBET比表面積を調整し、最終的に得られた酸化マグネシウムのブレーン比表面積が4.1×10・kg−1、CAAが73秒であった。
【0071】
<実施例8>
最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を投入した濃度2.0×10mol・m−3のマグネシウムイオンを含む苦汁に、水酸化カルシウムスラリーを反応後の水酸化マグネシウム濃度が1.0×10mol・m−3になるように添加し、600rpmで攪拌し、333Kにて20.0時間反応させた。その後フィルタープレスでろ過し、水洗し、乾燥して水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムをロータリーキルンで、1373K、0.5時間焼成後、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムを、衝撃型粉砕機(ジェットミル)を用いて所定の範囲になるようにブレーン比表面積及びBET比表面積を調整し、最終的に得られた酸化マグネシウムのブレーン比表面積が5.3×10・kg−1、CAAが77秒であった。
【0072】
<実施例9>
海水に水酸化カルシウムを、反応後の水酸化マグネシウム濃度が0.05×10mol・m−3となるように加え、最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を投入し、323Kで20.0時間、反応させて水酸化マグネシウムを得た。なお、反応終了5.0時間前に、高分子凝集剤を0.02質量%加えた。その後、水酸化マグネシウムをフィルタープレスでろ過し、水洗し、乾燥した。次に、ロータリーキルンにより、1373Kで1.0時間焼成後、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムを、衝撃型粉砕機(ジェットミル)を用いて所定の範囲になるようにブレーン比表面積及びBET比表面積を調整し、最終的に得られた酸化マグネシウムのブレーン比表面積が3.1×10・kg−1、CAAが90秒であった。
【0073】
<実施例10>
海水に水酸化カルシウムを、反応後の水酸化マグネシウム濃度が0.05×10mol・m−3となるように加え、最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を投入し、343Kで20.0時間、反応させて水酸化マグネシウムを得た。なお、反応終了5時間前に、高分子凝集剤を0.02質量%加えた。その後、水酸化マグネシウムをフィルタープレスでろ過し、水洗し、乾燥した。次に、ロータリーキルンにより、1373Kで1時間焼成後、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムを、衝撃型粉砕機(ジェットミル)を用いて所定の範囲になるようにブレーン比表面積及びBET比表面積を調整し、最終的に得られた酸化マグネシウムのブレーン比表面積が4.7×10・kg−1、CAAが93秒であった。
【0074】
<比較例6>
最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を投入した濃度2.0×10mol・m−3のマグネシウムイオンを含む苦汁に、水酸化カルシウムスラリーを、反応後の水酸化マグネシウム濃度が0.8×10mol・m−3になるように添加し、600rpmで攪拌し、333Kにて10.0時間反応させた。その後フィルタープレスでろ過、水洗し、乾燥して得た水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムをロータリーキルンで、1473K、1.0時間焼成後、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムを、衝撃型粉砕機(ジェットミル)を用いて所定の範囲になるようにブレーン比表面積及びBET比表面積を調整し、最終的に得られた酸化マグネシウムのブレーン比表面積が3.3×10・kg−1、CAAが183秒であった。
【0075】
<比較例7>
最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を投入した濃度2.0×10mol・m−3のマグネシウムイオンを含む苦汁に、水酸化カルシウムスラリーを、反応後の水酸化マグネシウム濃度が0.8×10mol・m−3になるように添加し、600rpmで攪拌し、353Kにて6.0時間反応させた。その後フィルタープレスでろ過、水洗、乾燥して水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムをロータリーキルンで、1473K、0.5時間焼成後、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムを、衝撃型粉砕機(ジェットミル)を用いて所定の範囲になるようにブレーン比表面積及びBET比表面積を調整し、最終的に得られた酸化マグネシウムのブレーン比表面積が2.0×10・kg−1、CAAが133秒であった。
【0076】
<比較例8>
最終的に得られる酸化マグネシウム中のホウ素含有量が0.06質量%になるように、純水で0.3×10mol・m−3に調整したホウ酸水溶液を投入した濃度2.0×10mol・m−3のマグネシウムイオンを含む苦汁に、水酸化カルシウムスラリーを、反応後の水酸化マグネシウム濃度が0.8×10mol・m−3になるように添加し、600rpmで攪拌し、343Kにて8.0時間反応させた。その後フィルタープレスでろ過、水洗、乾燥して水酸化マグネシウムを得た。この水酸化マグネシウムをロータリーキルンで、1473K、2.0時間焼成後、酸化マグネシウムを得た。得られた酸化マグネシウムを、衝撃型粉砕機(ジェットミル)を用いて所定の範囲になるようにブレーン比表面積及びBET比表面積を調整し、最終的に得られた酸化マグネシウムのブレーン比表面積が1.2×10・kg−1、CAAが214秒であった。
【0077】
上記のようにして得られた実施例6〜10及び比較例6〜8の酸化マグネシウムを、表3に示す。
【0078】
得られた酸化マグネシウムを、脱炭焼鈍を終えた鋼板に塗布し、焼鈍し、鋼板表面にフォルステライト被膜を形成した。このようにして得られた鋼板の、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性について、評価した。表3に、それらの結果を示す。
【0079】
【表3】
【0080】
表3から明らかなように、工業用の原料である海水、苦汁を使用して合成した、ブレーン比表面積及びCAAが所定の範囲である酸化マグネシウム(実施例6〜10)を用いて形成したフォルステライト被膜は、フォルステライト被膜生成率が90%以上と優れていることが明らかとなった。更に、これらのフォルステライト被膜は、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性についてもすべて優れていることが明らかとなった。
【0081】
これに対し、酸化マグネシウムのブレーン比表面積及びCAAを調整せず、ブレーン比表面積及びCAAが所定の範囲外である酸化マグネシウム(比較例6〜8)を用いて形成したフォルステライト被膜は、フォルステライト被膜生成率、被膜の外観、被膜の密着性、及び未反応酸化マグネシウムの酸除去性という特性のうち、いずれかを満たしてはいないため、所望の鋼板が得られないことが明らかとなった。
【0082】
以上のことから、本発明の焼鈍分離剤用酸化マグネシウムによれば、優れた絶縁特性と磁気特性を有する方向性電磁鋼板を製造することができることが明らかとなった。