(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494901
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】炭酸飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/00 20060101AFI20190325BHJP
A23L 2/38 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
A23L2/00 T
A23L2/00 U
A23L2/38 P
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-60711(P2013-60711)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-183771(P2014-183771A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年10月30日
【審判番号】不服2018-3436(P2018-3436/J1)
【審判請求日】2018年3月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】新井 望
(72)【発明者】
【氏名】藤原 優
【合議体】
【審判長】
紀本 孝
【審判官】
松下 聡
【審判官】
槙原 進
(56)【参考文献】
【文献】
特公昭49−20508(JP,B1)
【文献】
特開昭53−104765(JP,A)
【文献】
特公昭56−1891(JP,B2)
【文献】
特開昭49−13361(JP,A)
【文献】
特開昭57−144937(JP,A)
【文献】
特表2009−504180(JP,A)
【文献】
特開2013−51910(JP,A)
【文献】
特開2009−112220(JP,A)
【文献】
特開平8−154652(JP,A)
【文献】
加藤友治、「入門講座 食品分野における界面活性剤」、オレオサイエンス、2001年、第1巻、第10号、p.29−35
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L2/00
A23L2/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2〜4.0重量%、pHが6.5以下、炭酸ガス圧が2.5〜4.0kg/cm2である、発酵乳および乳酸を含む清涼飲料水。
【請求項2】
発酵乳由来の無脂乳固形分の量が0.05重量%以上である、請求項1に記載の清涼飲料水。
【請求項3】
乳成分として脱脂粉乳をさらに含む、請求項1または2に記載の清涼飲料水。
【請求項4】
乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2〜4.0重量%、pHが6.5以下になるように、発酵乳および乳酸を含む飲料を調整する工程と、
炭酸ガス圧が2.5〜4.0kg/cm2になるように飲料に炭酸ガスを含ませる工程と、
を含む、乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2〜4.0重量%である清涼飲料水の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、泡立ちと泡持ちが良好である、乳成分を含む炭酸飲料、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸飲料においては、良好な泡の形成(泡立ちともいう)や、安定な泡の持続性(泡持ちともいう)は、飲用時の爽快感や口当たりに影響を及ぼす。特に、乳成分を含む炭酸飲料の泡は、キメ細かく舌の上で優しく弾ける口当たりが特徴であり、この泡の存在により、乳の臭みや酸味の刺激が緩和され、まろやかな乳の味わいが形成される。
【0003】
一方、乳成分を含む炭酸飲料は、保管中の乳化状態の安定性の観点から、乳脂肪分を低くすること、具体的には0.5重量%以下にすることが望ましい。しかし、乳脂肪分の量が少なくなると、炭酸飲料における泡の形成に悪影響を及ぼし、従来の乳成分を含む炭酸飲料では、グラスに注ぐ際の泡立ちが悪く、さらに注ぐと同時に泡が消えてしまい、飲用時の爽快感や口当たり、乳の味わいを十分に楽しむことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−11号公報
【特許文献2】国際公開WO2010/035869号
【特許文献3】特開2006−129787号公報
【特許文献4】特開2000−253860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、低乳脂肪分にもかかわらず、良好な泡立ちと泡持ち、乳のまろやかな味わいを有する、従来にない炭酸飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため、鋭意研究を行った結果、驚くべきことに、飲料中の無脂乳固形分の量と炭酸ガス圧を所定の範囲にすることによって、泡立ちと泡持ちの向上が実現できることが明らかとなった。
【0007】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
(1) 乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2〜4.0重量%であり、炭酸ガス圧が1.5〜4.0kg/cm
2である炭酸飲料。
(2) 発酵乳を含む、(1)に記載の炭酸飲料。
(3) 発酵乳由来の無脂乳固形分の量が0.05重量%以上である、(1)または(2)に記載の炭酸飲料。
(4) pHが6.5以下である、(1)〜(3)のいずれかに記載の炭酸飲料。
(5) 乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2〜4.0重量%になるように飲料を調整する工程と、炭酸ガス圧が1.5〜4.0kg/cm
2になるように飲料に炭酸ガスを含ませる工程と、を含む、乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2〜4.0重量%である炭酸飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乳成分を含有する炭酸飲料において、泡立ちと泡持ちを向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実験例で評価した各種飲料における泡立ちの評価結果を示した図である。
【
図2】実験例で評価した各種飲料における泡持ちの評価結果を示した図である。
【
図3】実験例で評価した各種飲料における無脂乳固形分と泡立ち(泡の液量)の関係を示した図である。
【
図4】実験例で評価した各種飲料における無脂乳固形分と泡持ち(泡消失時間)の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
炭酸飲料
本発明の炭酸飲料とは、炭酸ガスを含有する飲料である。好ましい態様において本発明の炭酸飲料はノンアルコール飲料である。また、本発明の炭酸飲料は乳成分を含み、具体的には、乳成分を含む清涼飲料水及び乳酸菌飲料などが挙げられるが、発酵乳自体は本発明の炭酸飲料には含まれない。なお、本明細書における清涼飲料水、乳酸菌飲料、発酵乳は、食品衛生法に基づく分類と同じである。
【0011】
乳成分
乳成分を含む原料としては、その由来や加工の有無を特に限定するものではないが、具体的には例えば、牛乳、全粉乳、脱脂粉乳、調整粉乳、練乳、クリーム、発酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、バター、チーズ、濃縮乳、濃縮ホエイ、ホエイパウダーなどが挙げられる。本発明の炭酸飲料においては、乳のコクや味わい、さらには泡持ちの効果の面から、発酵乳が含まれることが好ましい。発酵乳を用いる場合、その量は特に限定されるものではないが、好ましくは、飲料中の発酵乳に由来する無脂乳固形分の量が0.05重量%以上、より好ましくは、0.5重量%以上である。
【0012】
無脂乳固形分
無脂乳固形分とは、乳を構成する成分のうち、乳から水分と乳脂肪分を除いた値である。すなわち、乳脂肪分と無脂乳固形分とを合計すると乳固形分となる。無脂乳固形分は、ケルダール法によって測定された全窒素に換算係数を乗じて算出することができる。本発明の炭酸飲料における無脂乳固形分の含有量は、1.2〜4.0重量%であり、好ましくは1.5〜3.5重量%、より好ましくは1.5〜3.0重量%である。無脂乳固形分の含有量が低過ぎると、本発明の泡立ち・泡持ちの効果が得られにくい。また、無脂乳固形分の含有量が高すぎると、乳の臭みやベタつきが際立ち、乳のまろやかな味わいが失われるおそれがある。
【0013】
乳脂肪分
本発明の飲料の乳脂肪分は、0.5重量%以下である。乳脂肪分が0.5重量%より高いと、保管中の乳化状態の安定性に悪影響を与えうる。好ましい範囲は0.2重量%以下、より好ましい範囲は0.1重量%である。なお、乳脂肪分は、ゲルベル法またはレーゼゴットリーブ法によって測定することができる。
【0014】
炭酸ガス圧
本発明の炭酸(二酸化炭素)ガスは、炭酸ガスの圧入、炭酸水などのあらかじめ炭酸ガスを含む液の混合など、通常の方法により飲料に含ませることができる。本明細書におけるガス圧とは、20℃における容器内ガス圧をいう。本発明の炭酸飲料のガス圧は1.5〜4.0kg/cm
2、好ましくは2.0〜4.0kg/cm
2、より好ましくは2.5〜3.5kg/cm
2である。ガス圧が低過ぎると、本発明の泡立ち・泡持ちの効果が得られにくく、ガス圧が高過ぎると、炭酸の刺激により乳のまろやかな味わいが失われるおそれがある。
【0015】
ガス圧の測定は、当業者によく知られた方法によることができ、例えば、試料温度を20℃にし、ガスボリューム測定装置(京都電子工業株式会社製GVA−500A等)を用いて測定することができる。
【0016】
炭酸飲料のpH
本発明の飲料のpHは、保存・流通における変敗抑制がなされる範囲であれば特に限定はされないが、好ましくは6.5以下であり、より好ましくは4.5以下、さらに好ましくは3.0〜4.0である。
【0017】
pHの調整は、通常の食品に使用される各種酸味剤を添加すればよい。具体的な酸味剤としては、乳酸、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、酒石酸、グルコン酸、コハク酸、各種果汁(柑橘類、リンゴ、ベリー等)、これらの抽出エキス又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0018】
その他成分
本発明の炭酸飲料には、発明の効果に悪影響を与えない限り、乳成分以外に、糖、酸味料、果汁、コーヒー、茶、ココア、香料、着色料、安定化剤、乳化剤、ビタミン、ミネラル等の成分を加えることができる。また、充填時の泡噴きを防ぐために、シリコーン消泡剤等を用いてもよい。
【0019】
容器詰飲料
本発明の飲料は、炭酸ガスが含有されているため、容器詰飲料として提供することが好ましい。容器は、ガラス瓶、PETボトル、金属缶などの通常の物が挙げられる。当該容器詰飲料は、加熱殺菌処理されてもよい。また、炭酸飲料を充填する容器は、再栓可能な容器であることが好ましい。
【0020】
飲料の製造
本発明の飲料は、当業者に知られる技術を組み合わせて製造することができる。この製造方法においては、乳脂肪分が0.5重量%以下、無脂乳固形分が1.2〜4.0重量%になるように飲料を調整する工程と、炭酸ガス圧が1.5〜4.0kg/cm
2になるように飲料に炭酸ガスを含ませる工程を行うことが重要であり、これらにより、良好な泡立ちや泡保持を有する炭酸飲料を得ることができる。さらに、飲料を容器に充填する工程、加熱殺菌工程などを含んでいてよい。
【0021】
また別の観点からは、本発明は、容器詰め炭酸飲料、特に乳成分を含有する容器詰め炭酸飲料において泡立ちおよび泡持ちを改善する方法と把握することもできる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、本明細書においては、特記しないかぎり、単位は重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0023】
実験例1:各種飲料の製造と評価
炭酸飲料における無脂乳固形分の量と炭酸ガス圧が泡立ち及び泡持ちに及ぼす影響を検討するため、各種飲料を製造し、それらの泡立ち及び泡持ちを測定した。
【0024】
<各種飲料の製造>
まず、表1の配合で各原料を混合して炭酸飲料を調製し、400mLペットボトルに充填した後、冷却して、容器詰め炭酸飲料を得た(実施例1)。この実施例1の炭酸飲料は、乳酸によりpHが3.6に調整されており、乳固形分が1.53重量%、乳脂肪分が0.03重量%、無脂乳固形分1.5重量%、ガス圧1.5kg/cm
2であった。
【0025】
また、表1の脱脂粉乳とソーダ水の量を調整することで、無脂乳固形分及び炭酸ガス圧が異なる各種飲料を製造した(表2参照、実施例2〜17、比較例1〜4)。各種飲料のpHはいずれも約3.6であり、乳脂肪分はいずれも0.05重量%未満であった。
【0026】
なお、これら飲料の製造に用いた脱脂粉乳は、無脂乳固形分95重量%、乳脂肪分1重量%であり、発酵乳は、無脂乳固形分10重量%、乳脂肪分0.2重量%である。どちらも、市販品を用いた。
【0027】
【表1】
【0028】
<各種飲料の評価>
(1)泡立ちの評価
室温23℃の部屋にて、机上に静置されたガラス製2Lメスシリンダーの中に、飲料400mLを注いだ。注ぎ方は、机上50cmの高さから約5秒/400mLの速さで一気に注いだ。注いだ直後の泡の最上部のメスシリンダーの値を読み取り、その値から液量400mLを引いた量を泡の量とした。したがって、例えば、泡の最上部の値が650mLであれば、泡の量は650mL−400mL=250mLとなる。そして、この泡の量により、泡立ちを3段階で評価した。評価基準は、以下のとおりである。
○(泡立ちが良好):泡の量が400mL以上
△(泡立ちがやや良好):泡の量が200mL以上
×(泡立ちが良好ではない):泡の量が200mL未満
(2)泡持ちの評価
上記の泡立ち評価の後、泡が消えて液量が400mLになるまでの時間を測定した。この泡の消失時間により、泡持ちを3段階で評価した。評価基準は、以下のとおりである。
○(良好):泡の消失時間が90秒以上
△(やや良好):泡の消失時間が60秒以上
×(良好でない):泡の消失時間が60秒未満
上記方法にて評価した結果を、表2、
図1、
図2に示す。また、ガス圧2.0kg/cm
2での無脂乳固形分と泡立ち・泡持ちの関係を
図3および
図4に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
実験例2
乳成分として発酵乳を用いて炭酸飲料を調製し、泡立ち及び泡持ちに及ぼす影響を検討した。まず、表3の配合に従って、無脂乳固形分及びガス圧が一定で、発酵乳の量が異なる飲料(実施例18〜20)を調製した。発酵乳の量は、最終的な炭酸飲料における発酵乳由来の無脂乳固形分の量が各々、0重量%、0.05重量%、0.5重量%となるように調整した。
【0031】
これら飲料はいずれも、乳固形分が1.72重量%、乳脂肪分が0.02重量%、無脂乳固形分1.7重量%、ガス圧2.0kg/cm
2であった。なお、これら飲料の製造に用いた脱脂粉乳と発酵乳は実施例1と同じである。
【0032】
これら飲料の泡立ち及び泡持ちを実施例1と同様の方法で測定した。結果を表4に示すが、乳成分として発酵乳を用いることで、本発明の泡持ちの効果が著しく向上されうることが明らかとなった。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】