(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、金属により形成された飛散防止カバーにおいては、飛散防止カバーと回転子とを密着させることは困難であり、飛散防止カバーと回転子との間には僅かな隙間が生じる。そこで、特許文献1、特許文献2などのように、このような隙間を埋めるための方法が提案されている。しかしながら、従来の方法では、隙間を埋めるための工程が必要であり、飛散防止カバーによる回転子コアに固定された永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に防止できないという問題がある。
【0007】
本発明は、これらの従来技術の欠点を解消するものである。すなわち、本発明は、回転子の表面に容易に密着させることができ、高速で回転する回転子からの永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に防止することのできるマグネット型モータの回転子の被覆部材を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の従来技術の課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有するポリマーを含む熱可塑性樹脂により形成されたチューブ状の部材であって、下記(1)及び(2)の特性を有する、マグネット型モータの回転子の被覆部材は、回転子の表面に容易に密着させることができ、高速で回転する回転子からの永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に防止できることを見出した。
−(Ar
1−C(=O)−Ar
2−O−Ar
3−O)− (A)
[一般式(A)において、基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3は、それぞれ独立に、置換基を有することがある芳香族炭化水素基である。]
(1)150℃で30分間加熱後の前記チューブの周長の収縮率が10%以上である
(2)150℃で30分間加熱後、さらに170℃で1時間加熱した後において、前記チューブのTD方向における引張弾性率が3000MPa以上である
【0009】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 下記一般式(A):
−(Ar
1−C(=O)−Ar
2−O−Ar
3−O)− (A)
[一般式(A)において、基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3は、それぞれ独立に、置換基を有することがある芳香族炭化水素基である。]
で表される繰り返し単位を有するポリマーを含む熱可塑性樹脂により形成されたチューブ状の部材であって、下記(1)及び(2)の特性を有する、マグネット型モータの回転子の被覆部材。
(1)150℃で30分間加熱後の前記チューブの周長の収縮率が10%以上である
(2)150℃で30分間加熱後、さらに170℃で1時間加熱した後において、前記チューブのTD方向における引張弾性率が3000MPa以上である
項2. 前記チューブが、円筒状無端チューブである、項1に記載のマグネット型モータの回転子の被覆部材。
項3. 前記チューブの肉厚が80μm〜500μmである、項1または2に記載のマグネット型モータの回転子の被覆部材。
項4. 下記一般式(A):
−(Ar
1−C(=O)−Ar
2−O−Ar
3−O)− (A)
[一般式(1)において、基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3は、それぞれ独立に、置換基を有することがある芳香族炭化水素基である。]
で表される繰り返し単位を有するポリマーを含む熱可塑性樹脂を連続溶融押出成形に供してチューブ状に成形する成形工程と、
前記成形工程で成形された未延伸チューブを延伸する延伸工程と、
前記延伸工程で得られた延伸チューブ内に回転子を配置した状態で前記延伸チューブを加熱し、前記延伸チューブを収縮させて、前記回転子の表面に前記延伸チューブを密着させる収縮工程と、
前記収縮工程における加熱温度よりも高温度において、前記回転子を被覆した被覆チューブを加熱して、前記被覆チューブをアニール処理するアニール工程と、
を備える、マグネット型モータの回転子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマグネット型モータの回転子の被覆部材によれば、回転子の表面に容易に密着させることができ、高速で回転する回転子からの永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に防止することができる。具体的には、本発明の被覆部材は、回転子の表面に被覆させ、当該被覆部材を収縮、アニールすることにより、回転子に密着した飛散防止カバーとすることができる。当該飛散防止カバーは、機械的強度が高く、耐熱性に優れ、回転子の表面に密着しているため、高速で回転する回転子の高温及び遠心力によっても、回転子からの永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に防止することができる。また、このような飛散防止カバーが被覆された回転子は、マグネット型モータの回転子として好適に使用することができる。さらに、当該飛散防止カバーが被覆された回転子を備えるマグネット型モータは、回転子からの永久磁石の飛散が効果的に抑制されているため、安定した駆動を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のマグネット型モータの回転子の被覆部材は、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有するポリマーを含む熱可塑性樹脂により形成されたチューブ状の部材であって、下記(1)及び(2)の特性を有することを特徴とする。
−(Ar
1−C(=O)−Ar
2−O−Ar
3−O)− (A)
[一般式(A)において、基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3は、それぞれ独立に、置換基を有することがある芳香族炭化水素基である。]
(1)150℃で30分間加熱後の前記チューブの周長の収縮率が10%以上である
(2)150℃で30分間加熱後、さらに170℃で1時間加熱した後において、前記チューブのTD方向における引張弾性率が3000MPa以上である
以下、本発明のマグネット型モータの回転子の被覆部材、その製造方法、当該被覆部材により形成された飛散防止カバーで被覆された回転子、及び当該回転子を備えるマグネット型モータについて詳述する。
【0013】
1.マグネット型モータの回転子の被覆部材
本発明のマグネット型モータの回転子の被覆部材は、下記一般式(A)で表される繰り返し単位を有するポリマーを含む熱可塑性樹脂により形成されたチューブ状の部材である。
−(Ar
1−C(=O)−Ar
2−O−Ar
3−O)− (A)
【0014】
一般式(A)において、基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3は、それぞれ独立に、置換基を有することがある芳香族炭化水素基である。基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3は、それぞれ独立に、置換基を有することがあるフェニレン基であることが好ましい。
【0015】
基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3が置換基を有する場合、置換基としては、特に制限されないが、被覆部材により形成される飛散防止カバーを回転子の表面に密着させ、かつ、当該飛散防止カバーの耐熱性及び機械的強度を高め、高速で回転する回転子からの永久磁石の飛散をより効果的かつ簡便に防止する観点から、好ましくは、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。同様の観点から、基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3は、それぞれ、置換基を有しないことが好ましく、フェニレン基であることがより好ましい。
【0016】
一般式(A)において、基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3が、全てフェニレン基であるポリマーは、ポリエーテルエーテルケトン(以下、「PEEK」と表記する場合がある。)と称されるポリマーである。PEEKは、通常、ヒドロキノンと、ハロゲンを置換体として両端に結合させたベンゾフェノンとを、公知の求核置換反応により結合させて製造される。例えば、ジフェニルスルホン(DPS)中で、例えば、炭酸カリウム及び/又は炭酸ナトリウムなどの炭酸アルカリ金属の存在下、4,4’−ジフルオロベンゾフェノンとヒドロキノンとを反応させる方法等により製造することができる。また、ベンゾフェノンと、両端に求電子剤として塩素を結合させたケトン基を持つベンゼン環を、塩化アルミニウム等を触媒として、公知の求電子置換反応で結合させる製造方法もある。PEEKを構成するモノマーの構成比を調整して、ポリマーの末端を、フッ素原子等のハロゲン原子としたものも用いることができ、水酸基としたものも用いることができる。また、PEEKの末端に末端封止剤を反応させることにより、ハロゲン末端や水酸基末端を、フェニル基等の不活性置換基に置き換えたものを用いることもできる。
【0017】
PEEKの市販品として代表的なものとしては、ビクトレックス(Victrex)社製の商品名「ビクトレックスPEEK」シリーズなどが挙げられる。具体的には、ビクトレックス社PEEK450G、381G、151G、90G(商品名)などがある。また、PEEKの市販品としては、ダイセル・デグサ社のVESTAKEEP(商品名)も挙げられ、他に、ソルベイ社からも上市されている。
【0018】
本発明において、一般式(A)で表される繰り返し単位を有するポリマーは、上記繰り返し単位により構成された単独重合体であってもよいし、他の繰り返し単位との共重合体であってもよい。他の繰り返し単位との共重合体である場合、被覆部材により形成される飛散防止カバーを回転子の表面に密着させ、かつ、当該飛散防止カバーの耐熱性及び機械的強度を高める観点からは、他の繰り返し単位の具体例としては、下記一般式(B)〜(F)などが挙げられる。
【0019】
−(Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−X−Ar−O)− (B)
−(Ar−C(=O)−Ar−O)− (C)
−(Ar−C(=O)−Ar−C(=O)−Ar−O−Ar−X−Ar−O)− (D)
−(Ar−SO
2−Ar−O−Ar−O)− (E)
−(Ar−SO
2−Ar−O−Ar−X−Ar−O)− (F)
【0020】
一般式(B)〜(F)において、複数の基Arは、それぞれ独立して、上記の一般式(A)の基Ar
1〜Ar
3と同様である。また、基Xとしては、単結合、酸素原子、硫黄原子、基−SO
2−、基−CO−、または2価の炭化水素基が挙げられる。
【0021】
本発明の被覆部材を形成する熱可塑性樹脂は、上記のポリマーに加えて、さらに他のポリマーを含んでいてもよい。他のポリマーとしては、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリフェニルスルホン(PPSU)などが挙げられる。これらの他のポリマーは、例えば、上記のポリマーを補強することなどを目的として用いることができる。
【0022】
本発明の被覆部材を形成する熱可塑性樹脂において、上記一般式(A)で表される繰り返し単位を有するポリマーの割合としては、好ましくは50〜100質量%程度、より好ましくは80〜100質量%程度が挙げられる。また、上記の他のポリマーの割合としては、好ましくは0〜20質量%程度が挙げられる。熱可塑性樹脂における上記ポリマーと上記他のポリマーの割合がこのような範囲にあることにより、被覆部材により形成される飛散防止カバーを回転子の表面に密着させ、かつ、当該飛散防止カバーの耐熱性及び機械的強度をより高め得る。
【0023】
本発明の被覆部材は、上記の熱可塑性樹脂に加えて、必要に応じてフィラーや添加剤を含んでいてもよい。フィラーは、本発明の被覆部材により形成される飛散防止部材の機械的強度を高めることなどを目的として、必要に応じて添加される。フィラーとしては、公知のフィラーを用いることができ、板状、薄片状、鱗片状等の無機フィラーや、カーボンブラックなどを使用することができる。
【0024】
無機フィラーとしては、例えば、鱗片状または薄片状の雲母、マイカ、セリサイト、イライト、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、バーミキュライト、板状または薄片状の二酸化チタン、チタン酸カリウムやチタン酸リチウムなどの鱗片状チタン酸塩化合物、ベーマイトなどが挙げられる。フィラーとしては、これらの中でも、好ましくは、マイカ、セリサイト、イライト、タルク、カオリナイト、モンモリロナイト、鱗片状チタン酸塩化合物、ベーマイトなどが挙げられる。カーボンブラックとしては、例えば、ガスブラック、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブなどが挙げられる。フィラーは、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。本発明の被覆部材がフィラーを含む場合、フィラーの含有量としては、好ましくは3〜30質量%程度が挙げられる。
【0025】
添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、熱伝導剤、可塑剤、光安定剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、接着剤、難燃剤、分散剤などが挙げられる。例えば、熱伝導剤として、金属窒化物(窒化ホウ素、窒化アルミニウムなど)、シリコン、スズ等を配合すると、モータの放熱効果を補助する点で好ましい。添加剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。本発明の被覆部材が添加剤を含む場合、添加剤の含有量としては、好ましくは30〜60質量%程度が挙げられる。
【0026】
本発明の被覆部材の形状は、チューブ状である。被覆部材により形成される飛散防止カバーを回転子の表面に密着させ、かつ、当該飛散防止カバーの耐熱性及び機械的強度を高める観点からは、当該チューブは円筒状無端チューブであることが好ましい。
【0027】
チューブの肉厚M(
図1を参照)としては、回転子の大きさなどに応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、マグネット型モータにおける飛散防止カバーの占めるスペースの増大を抑制しつつ、飛散防止カバーを回転子の表面に密着させ、かつ、当該飛散防止カバーの耐熱性及び機械的強度を高める観点からは、好ましくは80〜500μm程度、より好ましくは100〜200μm程度が挙げられる。
【0028】
また、チューブの長さL(
図1を参照)としては、回転子の大きさなどに応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、例えば10〜100mm程度が挙げられる。チューブの外径N(
図1を参照)としては、回転子の大きさなどに応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、例えば5〜100mm程度が挙げられる。
【0029】
本発明の被覆部材は、以下の(1)及び(2)の特性を有する。
(1)150℃で30分間加熱後の前記チューブの周長の収縮率が10%以上である。
(2)150℃で30分間加熱後、さらに170℃で1時間加熱した後において、前記チューブのTD方向における引張弾性率が3000MPa以上である。
【0030】
特性(1)に関し、本発明の被覆部材の収縮率は、次のようにして測定して得られた値である。150℃の大気環境下の恒温槽で30分間加熱して収縮させた収縮後のチューブと、収縮させる前のチューブについて、それぞれ、チューブを長手方向に切断してチューブを開き、チューブの周長をノギスで測定して、次の計算式により求める。
収縮率=(収縮前の周長−収縮後の周長)÷収縮前の周長×100(%)
【0031】
本発明の被覆部材における当該収縮率としては、好ましくは10〜60%程度、より好ましくは20〜40%程度が挙げられる。収縮率がこのような範囲にあることにより、被覆部材により形成される飛散防止カバーの回転子への密着性をより高めつつ、当該飛散防止カバーの耐熱性及び機械的強度を高めることができる。
【0032】
また、特性(2)に関し、本発明の被覆部材は、150℃の恒温層で30分間加熱した後、さらに170℃の大気環境下で1時間加熱した後において、前記チューブのTD方向における引張弾性率が3000MPa以上である。当該引張弾性率は、次のように測定して得られた値である。150℃の大気環境下の恒温槽で30分間加熱した後、さらに170℃の大気環境下の恒温槽で1時間加熱したチューブをJIS K 7127に準拠した試験片とし、常温環境下、引張速度10mm/分の条件で、チューブのTD方向における引張弾性率を測定する。
【0033】
本発明の被覆部材における当該引張弾性率としては、より好ましくは3000〜7000MPa程度が挙げられる。引張弾性率がこのような範囲にあることにより、被覆部材により形成される飛散防止カバーの回転子への密着性を向上させつつ、当該飛散防止カバーの耐熱性及び機械的強度を向上させることができる。なお、後述の通り、本発明の被覆部材において上記の収縮率を備えさせ、かつ、収縮後において上記の引張弾性率を備えさせるためには、本発明の被覆部材を特定条件で収縮させた後に、さらに特定条件でアニール処理する必要がある。
【0034】
以上の通り、本発明の被覆部材によれば、回転子の表面に容易に密着させることができ、高速で回転する回転子からの永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に防止することができる。具体的には、本発明の被覆部材は、回転子の表面に被覆させ、当該被覆部材を収縮、アニールすることにより、回転子に密着した飛散防止カバーとすることができる。当該飛散防止カバーは、機械的強度が高く、耐熱性に優れ、回転子の表面に密着しているため、高速で回転する回転子の高温及び遠心力によっても、回転子からの永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に防止することができる。
【0035】
2.被覆部材の製造方法
本発明の被覆部材は、例えば次のような成形工程と延伸工程とを備える製造方法により製造することができる。
【0036】
(成形工程)
下記一般式(A):
−(Ar
1−C(=O)−Ar
2−O−Ar
3−O)− (A)
[一般式(1)において、基Ar
1、基Ar
2、及び基Ar
3は、それぞれ独立に、置換基を有することがある芳香族炭化水素基である。]
で表される繰り返し単位を有するポリマーを含む熱可塑性樹脂を連続溶融押出成形に供してチューブ状に成形する。
【0037】
成形工程において、連続溶融押出成形に供される熱可塑性樹脂の組成としては、上記の被覆部材で説明した通りである。具体的には、上記の組成を有する熱可塑性樹脂、必要に応じて添加されるフィラーや添加物などの原料を混合し、連続溶融押出成形によってチューブ状に成形する。原料の混合方法としては、公知の混合手段を適用することができ、例えば二軸押出成形を用いることができる。連続溶融押出成形は、公知の溶融押出成形手段を適用することができ、例えば単軸押出機と押出成形用のサーキュラーマンドレルダイとを用いる方法が挙げられる。このとき、得られるチューブの肉厚は、サーキュラーマンドレルのリップ幅及び押出成形条件を適宜設定して所望の厚みに調節することができる。吐出後のチューブの形状を精度よく保持するために、ダイ出口にエアーリング等のマンドレルを使用してもよい。また、二軸押出機の先端にサーキュラーマンドレルダイを設置することにより、原料の混合と溶融押出を一度に行ってチューブ状に成形することもできる。
【0038】
連続溶融押出成形における加熱温度としては、原料とする熱可塑性樹脂の組成に応じて適宜設定すればよいが、後述する収縮工程において被覆部材に上記所定の収縮率を付与する観点と、回転子を被覆した後における耐熱性及び機械的強度を高める観点と両立させるためには、好ましくは350〜420℃程度、より好ましくは370〜400℃程度が挙げられる。
【0039】
(延伸工程)
延伸工程においては、上記の成形工程で成形されたチューブ(未延伸チューブ)を延伸する。この延伸工程により、チューブに優れた熱収縮性を付与する。この延伸工程は、成形工程と連続して行ってもよいし、別工程で行ってもよい。また、チューブの延伸工程は、公知の延伸装置を用いたチューブラー延伸によって行うことができる。チューブラー延伸は同時二軸延伸であってもよいし、TD方向のみの一軸延伸であってもよい。
【0040】
延伸工程においては、本発明の被覆部材を構成するチューブに上記所定の収縮率を付与するために、延伸条件を設定する。具体的には、TD方向の収縮率は、未延伸チューブの外径と延伸チューブの外径の比(横方向延伸倍率)で制御する。上記の収縮率を有する被覆部材を得るためには、横方向延伸倍率を1.10以上に設定する。また、MD方向の収縮率は、延伸部に導入する未延伸チューブの速度と延伸部から離脱してゆく延伸チューブの速度の比(縦方向延伸倍率)で制御する。一方、上記の収縮率を有する被覆部材を得るためには、縦方向延伸倍率は任意で構わない。そのため、縦方向の長さを固定せずにある程度自由な状態で、横方向の延伸のみを行なってもよい。また、使用用途によっては、縦方向延伸倍率を0.95〜1.20倍程度の範囲内に設定してもよい。
【0041】
延伸工程を行う雰囲気下の温度は、原料となる熱可塑性樹脂の弾性率を急激に低下させる温度から同樹脂の結晶化温度までの範囲内に設定することが好ましい。上記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリマーは、結晶性樹脂であるため、延伸温度が高いほど結晶化が進む。結晶化が進むほど、チューブの機械的強度を高めることができるものの、チューブの収縮率は小さくなる。したがって、被覆部材に上記所定の収縮率を付与する観点と、回転子を被覆した後における耐熱性及び機械的強度を高める観点とを両立させるためには、延伸工程を行う雰囲気下の温度としては、好ましくは120〜160℃程度、より好ましくは130〜150℃程度が好ましい。熱可塑性樹脂の結晶化温度付近以下の温度を選択して、結晶化があまり進まないようにすることで、被覆部材を10%以上収縮させて回転子の表面に容易に密着させることができる。
【0042】
本発明の被覆部材は、上記の成形工程及び延伸工程を経て、長尺のチューブとして得られる。したがって、本発明の被覆部材を被覆させる回転子の大きさに応じて、所望の長さに切断し、本発明の被覆部材とすることができる。
【0043】
3.マグネット型モータの回転子
本発明のマグネット型モータの回転子は、上記本発明の被覆部材を130〜160℃で加熱して収縮させた後、160〜200℃でアニール処理してなる飛散防止カバーで表面が被覆されてなる。本発明において、当該飛散防止カバーで被覆される回転子は、回転子コアの表面に永久磁石が固定された公知の回転子であり、後述の固定子との相互作用により高速回転し、マグネット型モータによる動力を生み出す。本発明のマグネット型モータの回転子に上記の飛散防止カバーを被覆、密着させる方法は、本発明の被覆部材に下記の収縮工程(被覆工程)及びアニール工程を付与することにより行うことができる。
【0044】
(収縮工程)
収縮工程においては、上記の延伸工程で得られた延伸チューブ(本発明の被覆部材)内に回転子を配置した状態で延伸チューブを加熱し、延伸チューブを収縮させて、前記回転子の表面に延伸チューブを密着させる。すなわち、この収縮工程により、本発明の被覆部材によって、回転子が被覆されるため、被覆部材の収縮工程は、回転子の被覆工程となる。回転子の表面には、永久磁石が固定されているため、永久磁石が本発明の被覆部材によって被覆される。
【0045】
本発明の収縮工程を説明するための模式図を
図2に示す。収縮工程においては、
図2のように、回転子2を被覆部材1内に配置し、この状態で被覆部材1を加熱して内側に収縮させて、被覆部材1を回転子2に密着させることにより、収縮した被覆部材1で回転子2の表面を被覆する。このとき、収縮した被覆部材1によって、回転子コアの表面に固定された永久磁石が被覆されることになる。
【0046】
収縮工程における加熱温度としては、被覆部材を回転子の表面に密着させ、かつ、後述のアニール工程を経た飛散防止カバーの耐熱性及び機械的強度を高める観点から、好ましくは130〜160℃程度、より好ましくは140〜150℃程度が挙げられる。加熱時間は、回転子及び被覆部材の大きさに応じて適宜設定されるが、例えば、被覆部材が上記の温度に到達してから10分間以上、好ましくは10〜15分間程度の間、上記の温度を保持すればよい。
【0047】
被覆部材による回転子の被覆は、例えば、回転子の外周面に上記の被覆部材を被せ、おおよそ同心軸上に自由状態で静置させた状態で、恒温槽で加熱することにより行うことができる。
【0048】
以上のようにして、本発明の被覆部材を回転子に被覆させ、密着させることができる。なお、例えば、永久磁石を回転子に固定する接着剤として、エポキシ系やシリコーン系などの比較的硬化温度の高い接着剤を用いる場合、収縮工程の加熱による延伸チューブの収縮と、永久磁石を固定する接着剤の硬化とを並行して行うことができる。これらを並行して行うことにより、マグネット型モータを製造する工数を削減することができる。
【0049】
(アニール工程)
アニール工程においては、収縮工程における加熱温度よりも高温度において、回転子を被覆した被覆チューブを加熱して、被覆チューブをアニール処理する。アニール工程は、回転子を被覆した被覆チューブの機械的強度を高めるために行う。すなわち、アニール工程によって、上記のポリマーを含む熱可塑性樹脂により構成された被覆チューブの機械的強度が高められ、高速で回転する回転子からの永久磁石の飛散をより効果的に防止することが可能となる。
【0050】
上記の収縮工程においては、アニール工程における加熱温度よりも低温でチューブを加熱し、熱可塑性樹脂の結晶化を抑制することにより、回転子の表面にチューブを密着させるために必要な収縮率となるように制御している。回転子をチューブで被覆させるためには、チューブの収縮率を上記のように設定する必要がある。一方、収縮後の被覆チューブにおいては、被覆チューブを構成する熱可塑性樹脂の結晶化が抑制されているため、マグネット型モータにおいて高速で回転する回転子からの永久磁石の飛散を抑制する観点からは機械的強度が不十分である。
【0051】
本発明においては、収縮工程における加熱温度よりも高温度において、アニール工程を行うことにより、マグネット型モータにおいて高速回転する回転子からの永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に抑制することが可能となる。具体的には、例えば、収縮工程において150℃の温度で30分間加熱してチューブを収縮させた後、170℃の温度で1時間さらに加熱した後におけるチューブのTD方向における引張弾性率としては、3000MPa以上であるため、永久磁石の飛散が効果的に抑制される。
【0052】
従来、PEEKなどを含む熱可塑性樹脂は、耐熱性及び機械的強度には優れているものの、収縮率が小さいため、回転子に強固に密着させることができず、回転子の被覆部材として適用することは困難であったが、本発明の被覆部材によれば、上記の収縮工程とアニール工程とを行うことにより、回転子を簡便に被覆することができ、回転子からの永久磁石の飛散を効果的に抑制することができる。
【0053】
本発明において、アニール工程における被覆チューブの加熱温度としては、上記の延伸工程における加熱温度よりも高温、かつ、被覆チューブを構成する熱可塑性樹脂の結晶化温度よりも高温であることが好ましく、具体的には、好ましくは160〜200℃程度、より好ましくは170〜180℃程度が挙げられる。
【0054】
アニール工程は、上記の収縮工程における加熱後、連続して加熱温度を上昇させて行ってもよいし、収縮工程後に被覆チューブを冷却してから、アニール工程における加熱を行ってもよい。加熱時間は、回転子及び被覆チューブの大きさに応じて適宜設定されるが、例えば、被覆チューブの温度が上記の温度に到達してから30分間以上、好ましくは60〜90分間程度の間、上記の温度を保持すればよい。
【0055】
アニール工程は、例えば、被覆チューブが被覆された回転子を恒温層中で加熱することにより行うことができる。
【0056】
4.マグネット型モータ
本発明のマグネット型モータは、本発明の被覆部材により形成された飛散防止カバーにより被覆された上記の回転子と、当該回転子と相互作用して回転モーメントを発生させる固定子とを備えている。上記の通り、本発明の回転子は、本発明の被覆部材を130〜160℃で加熱して収縮させた後、160〜200℃でアニール処理してなる飛散防止カバーで表面が被覆されており、当該飛散防止カバーは、高い機械的強度及び耐熱性を有し、回転子の表面に密着している。このため、当該飛散防止カバーによって被覆された回転子を備えた本発明のマグネット型モータは、高速で回転する回転子からの永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に抑制することが可能となっており、安定した駆動を発揮することができる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。本発明において、チューブの収縮率及び引張弾性率は、それぞれ、以下のとおり測定した。
【0058】
<収縮率>
チューブの収縮率は、実施例及び比較例における「(3)のチューブの収縮工程」で収縮させた収縮後のチューブと、収縮させる前のチューブについて、それぞれ、チューブを長手方向に切断してチューブを開き、チューブの周長をノギスで測定して、次の計算式により求めた。
収縮率=(収縮前の周長−収縮後の周長)÷収縮前の周長×100(%)
【0059】
<引張弾性率>
引張弾性率は、実施例及び比較例における「(4)チューブのアニール工程」で得られたチューブをJIS K 7127に準拠した試験片とし、常温環境下、引張速度10mm/分の条件で、チューブのTD方向における引張弾性率を測定した。
【0060】
<実施例1>
以下の方法により、チューブを製造し、チューブの収縮率及び、収縮後のチューブの引張弾性率を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
(1)熱可塑性樹脂のチューブ状への成形工程
熱可塑性樹脂として、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン、ビクトレックス社製のPEEK450G)をスクリュー径30mの単軸押出機に投入し、外径24mm、肉厚120μmのチューブ状に成形した。
(2)チューブの延伸工程
成形されたチューブを長さ1000mmにカットし、150℃に加熱した状態で0.2MPaの内圧をかけ、外径30mmまで拡張した。次に、内圧をかけた状態で室温まで冷却し、内圧を解除すると、外径30mm、肉厚100μmの収縮チューブが得られた。
(3)チューブの収縮工程
延伸工程で得られたチューブを150℃の大気環境下の恒温槽で30分間加熱し、チューブを収縮させ、収縮率を上記の方法で測定した。
(4)チューブのアニール工程
収縮後のチューブを170℃の大気環境下の恒温層で1時間加熱し、得られたチューブの引張弾性率を上記の方法で測定した。
【0061】
<実施例2>
以下の方法により、チューブを製造し、チューブの収縮率及び、収縮後のチューブの引張弾性率を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
(1)熱可塑性樹脂のチューブ状への成形工程
熱可塑性樹脂として、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン、ビクトレックス社製のPEEK450G)を用い、これにアセチレンブラックを15%添加した原料をスクリュー径30mの単軸押出機に投入し、外径24mm、肉厚120μmのチューブ状に成形した。
(2)チューブの延伸工程
チューブを長さ1000mmにカットし、150℃に加熱した状態で0.3MPaの内圧をかけ、外径30mmまで拡張した。次に、内圧をかけた状態で室温まで冷却し、内圧を解除すると、外径30mm、肉厚100μmの収縮チューブが得られた。
(3)チューブの収縮工程
延伸工程で得られたチューブを150℃の大気環境下の恒温槽で30分間加熱し、チューブを収縮させ、収縮率を上記の方法で測定した。
(4)チューブのアニール工程
収縮後のチューブを170℃の大気環境下の恒温層で1時間加熱し、得られたチューブの引張弾性率を上記の方法で測定した。
【0062】
<実施例3>
以下の方法により、チューブを製造し、チューブの収縮率及び、収縮後のチューブの引張弾性率を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
(1)熱可塑性樹脂のチューブ状への成形工程
熱可塑性樹脂として、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン、ビクトレックス社製のPEEK450G)を用い、これにタルクを10%添加した原料をスクリュー径30mの単軸押出機に投入し、外径24mm、肉厚120μmのチューブ状に成形した。
(2)チューブの延伸工程
チューブを長さ1000mmにカットし、150℃に加熱した状態で0.3MPaの内圧をかけ、外径30mmまで拡張した。次に、内圧をかけた状態で室温まで冷却し、内圧を解除すると、外径30mm、肉厚100μmの収縮チューブが得られた。
(3)チューブの収縮工程
延伸工程で得られたチューブを150℃の大気環境下の恒温槽で30分間加熱し、チューブを収縮させ、収縮率を上記の方法で測定した。
(4)チューブのアニール工程
収縮後のチューブを170℃の大気環境下の恒温層で1時間加熱し、得られたチューブの引張弾性率を上記の方法で測定した。
【0063】
<比較例1>
以下の方法により、チューブを製造し、チューブの収縮率及び、収縮後のチューブの引張弾性率を上記の方法で測定した。結果を表1に示す。
(1)熱可塑性樹脂のチューブ状への成形工程
熱可塑性樹脂として、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、MDF社製の350J)をスクリュー径30mの単軸押出機に投入し、外径24mm、肉厚120μmのチューブ状に成形した。
(2)チューブの延伸工程
チューブを長さ1000mmにカットし、150℃に加熱した状態で0.3MPaの内圧をかけ、外径30mmまで拡張した。次に、内圧をかけた状態で室温まで冷却し、内圧を解除すると、外径30mm、肉厚100μmの収縮チューブが得られた。
(3)チューブの収縮工程
延伸工程で得られたチューブを150℃の大気環境下の恒温槽で30分間加熱し、チューブを収縮させ、収縮率を上記の方法で測定した。
(4)チューブのアニール工程
収縮後のチューブを170℃の大気環境下の恒温層で1時間加熱し、得られたチューブの引張弾性率を上記の方法で測定した。
【0064】
<参考例1>
実施例1で得られた収縮後のチューブについて、アニール工程を行う前の引張弾性率を上記の方法で測定した。
【0065】
(試験例)
実施例1〜3及び比較例1において、それぞれ、延伸して得られたチューブ1内に、
図3に示されるように、回転子コア21の表面に永久磁石22が固定された回転子2(外径28mm、長さ50mm)を配置した状態で上記の収縮工程及びアニール工程を行い、回転子2にチューブ1を被覆させた。永久磁石22は、熱硬化型エポキシ接着剤で固定されている。なお、参考例1においては、収縮工程のみを行い、アニール工程は行わずに回転子2にチューブ1を被覆させた。次に、チューブ1を被覆させた回転子2の中心に回転軸4を挿入し、マグネット型モータに実装して、450rpmで300時間回転させた。その後、回転子コア21に固定された永久磁石22の飛散の有無を確認した。永久磁石22の飛散が無かった場合を○、永久磁石22が破損し、飛散していた場合には×、飛散はしなかったがチューブ1の一部に変形が生じていた場合を△と評価した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示される結果から明らかな通り、熱可塑性樹脂としてPEEKを用いたチューブにおいて、大気中150℃の温度で30分間加熱したときの前記チューブの周長の収縮率が10%以上であり、大気中170℃の温度で1時間さらに加熱した後におけるチューブのTD方向における引張弾性率が3000MPa以上である場合には、チューブを回転子の被覆部材として用いることにより、回転子をマグネット型モータに実装した場合にも、永久磁石の飛散がなかった。また、実施例1〜3のチューブを回転子の被覆部材(飛散防止カバー)として用いることにより、加熱による収縮によって被覆部材と回転子とを容易に密着させることができた。このように、実施例1〜3のチューブによれば、回転子の表面に容易に密着させることができ、高速で回転する回転子からの永久磁石の飛散を効果的かつ簡便に防止することができた。
【0068】
一方、熱可塑性樹脂としてPFAを用いた比較例1のチューブでは、収縮率は10%となり、回転子を密着性高く被覆できるものの、引張弾性率が小さく、回転子をマグネット型モータに実装した場合、永久磁石が飛散した。また、実施例1で延伸して得られたチューブを収縮して回転子に被覆させて後に、アニール工程を行わなかった参考例1のチューブでは、引張弾性率が低下し、永久磁石の飛散こそなかったものの、チューブの一部が変形してしまった。