(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の発明は、鉛蓄電池の交換時に求めた充電効率をその電池に対して使い続けるものであり、充電効率の経時変化に対応できない。また、鉛蓄電池の交換時に故意に行う充電と放電は電力を無駄に使用することとなり、その際に放電させ過ぎると鉛蓄電池の劣化を促進してしまう可能性がある。
【0007】
また、近年では常に充電の余力を残しておくために、電池を満充電状態でなく不完全充電状態で使用する場合も多い。特許文献1の発明では、処理のフローに満充電判定が組み込まれており、満充電を基本としたシステムにしか対応できない。
【0008】
前記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、充電効率の経時変化にも対応でき、不完全充電状態での使用であっても、使用中の電池の充電率を精度よく算出できる充電率検出装置及び充電率検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために第1の発明に係る充電率検出装置は、動作中の電池の充電電流を積算して、充電電流積算値を生成する充電電流積算部と、前記電池の放電電流を積算して、放電電流積算値を生成する放電電流積算部と、条件(a)又は(b)の少なくとも一方を満たす場合に、前記放電電流積算値の大きさを前記充電電流積算値の大きさで除算して得られる充電効率を算出する充電効率演算部と、を含み、前記条件(a)は、前記電池の推定される開放電圧が、変動があった後、積算開始時に推定された開放電圧から所定の範囲内にあることであり、前記条件(b)は、
前記放電電流積算値の絶対値及び前記充電電流積算値の絶対値が、前記除算の精度を確保する大きさとなっていることであることを特徴とする。
【0010】
また、第2の発明に係る充電率検出装置は、第1の発明の充電率検出装置において、検出された前記電池の電流および電圧から開放電圧を推定する開放電圧推定部を含み、前記開放電圧推定部が推定した開放電圧に基づいて第1の充電率を算出する。
【0011】
また、第3の発明に係る充電率検出装置は、第2の発明の充電率検出装置において、前記充電電流積算値の変化量、前記放電電流積算値の変化量、および前記充電効率に基づいて、前記開放電圧推定部が推定した開放電圧の変化量を調整するフィルタを有するフィルタ部を含み、前記フィルタを通過した前記開放電圧に基づいて前記第1の充電率を算出する。
【0012】
また、第4の発明に係る充電率検出装置は、第2または第3の発明の充電率検出装置において、前記充電効率演算部が前記充電効率を算出した場合に、前記充電電流積算値、前記放電電流積算値、および前記充電効率に基づいて算出される第2の充電率、または前記第1の充電率を選択的に出力する。
【0013】
また、第5の発明に係る充電率検出装置は、第1から第4の発明のいずれか1つに記載の充電率検出装置において、前記電池は車両に搭載されており、前記充電電流積算部および前記放電電流積算部は、前記車両の複数回の動作において、前記充電電流および前記放電電流を継続して積算する。
【0014】
また、第6の発明に係る充電率検出装置は、第1から第5の発明のいずれか1つに記載の充電率検出装置において、前記電池の開放電圧が一定であるように制御する電池状態制御部を含む。
【0015】
また、第7の発明に係る充電率検出装置は、第1から第6の発明のいずれか1つに記載の充電率検出装置において、前記充電効率演算部が、前記条件(a)かつ(b)を満たす場合に、前記充電効率を算出する。
【0016】
また、第8の発明に係る充電率検出方法は、(A)動作中の電池の充電電流を積算して、充電電流積算値を生成するステップと、(B)前記電池の放電電流を積算して、放電電流積算値を生成するステップと、(C)条件(a)又は(b)の少なくとも一方を満たす場合に、前記放電電流積算値の大きさを前記充電電流積算値の大きさで除算して得られる充電効率を算出するステップと、を含み、前記条件(a)は、前記電池の推定される開放電圧が、変動があった後、積算開始時に推定された開放電圧から所定の範囲内にあることであり、前記条件(b)は、
前記放電電流積算値の絶対値及び前記充電電流積算値の絶対値が、前記除算の精度を確保する大きさとなっていることであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明に係る充電率検出装置によれば、使用中の電池についての充電効率を演算で求めるため充電効率の経時変化にも対応し、この充電効率に基づいて充電率を精度よく算出できる。ここで、一度算出した充電効率を交換された電池に対して使い続ける特許文献1の発明では、電池交換の際に満充電状態を基準とする演算を行って各区間の充電効率を求めておく必要があった。しかし、電池の使用中に充電効率を算出できる本発明では、満充電状態を基準とする演算は必要ない。そのため、電池が不完全充電状態で使用される場合でも対応可能である。
【0018】
また、第2の発明に係る充電率検出装置によれば、内部抵抗の電圧降下分の誤差を考慮する必要のない開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)を求めるので、開放電圧に基づいて精度の高い充電率(第1の充電率)の算出が可能である。
【0019】
また、第3の発明に係る充電率検出装置によれば、充電・放電電流積算値の変化量等を用いて推定された開放電圧の変化量を補正することにより、充電率(第1の充電率)の精度をより高めることができる。
【0020】
また、第4の発明に係る充電率検出装置によれば、充電・放電電流積算値に基づく第2の充電率と、推定された開放電圧に基づく第1の充電率とを、状況に応じて選択的に出力でき、最終的に出力される充電率の精度を保つことが可能になる。
【0021】
また、第5の発明に係る充電率検出装置によれば、電池は車両に搭載されている。そして、車両の1回の動作では短距離走行しかされないとしても、繰り返される短距離走行について累積的な積算ができるため、誤差の少ない充電効率が得られる。
【0022】
また、第6の発明に係る充電率検出装置によれば、充電率が大きく変化する場合には充電効率の誤差が大きくなる可能性があるところ、電池の開放電圧が一定であるように制御することで誤差を小さく抑えることができる。
【0023】
また、第7の発明に係る充電率検出装置によれば、充電効率は条件(a)かつ(b)を満たす場合に算出されるため、さらに正確になる。
【0024】
また、第8の発明に係る充電率検出方法によれば、使用中の電池についての充電効率を演算で求めるため充電効率の経時変化にも対応し、この充電効率に基づいて充電率を精度よく算出できる。ここで、一度算出した充電効率を交換された電池に対して使い続ける特許文献1の発明では、電池交換の際に満充電状態を基準とする演算を行って各区間の充電効率を求めておく必要があった。しかし、電池の使用中に充電効率を算出できる本発明では、満充電状態を基準とする演算は必要ない。そのため、電池が不完全充電状態で使用される場合でも対応可能である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(全体構成)
まず、本実施形態の充電率検出装置10の全体構成を、
図1を参照しながら説明する。充電率検出装置10は、例えば自動車等の車両に搭載される電池Bに接続されている。電池Bの種類は特に限定されるものではないが、以下において鉛蓄電池であるとして説明する。電池Bは、機械的運動エネルギーをオルタネーターAltで変換して得られる電気エネルギーを蓄積(充電)し、図示しない車両の駆動モータ等へ電気エネルギーを供給(放電)する。本実施形態の電池Bは、車両の減速時に発生する回生電力をオルタネーターAltから受け取り充電する。充電率検出装置10は、車両の動作中に、充電・放電を行う電池Bの充電率を算出するものである。また、本実施形態の充電率検出装置10は、オルタネーターAltに制御信号を与えることで電池Bの状態も制御できる。ここで、車両の動作中とは、車両のエンジンが動いており、移動のために走行、停車等している状態をいう。
【0027】
充電率検出装置10は、開放電圧推定部12、SOCv算出部14、電流積算部16、SOCi算出部18、SOC選択部20、電池状態制御部22を含む。概略として、充電率検出装置10は、車両の動作中すなわち電池Bの使用中に、電池Bの端子電圧VBと電流IBとを受け取り、所定の条件が満たされた場合にリアルタイムで電池Bの充電効率ηを演算で求める。そのため、電池Bの経時変化にも対応する充電効率ηを取得でき、経時変化を反映した充電効率ηに基づいて精度の高い充電率SOCを算出できる点が従来技術と相違する。なお、電池Bの端子電圧VBは、図示しない電圧センサによって検出されて充電率検出装置10へと出力される。また、電池Bの電流IBは、図示しない電流センサによって検出されて充電率検出装置10へと出力される。
【0028】
開放電圧推定部12は、電池Bの端子電圧VBと電流IBとを受け取り、第1の推定開放電圧OCVeを出力する。第1の推定開放電圧OCVeは、開放電圧推定部12が含む電池Bの等価回路(以下、「バッテリモデル」とする)に電流IBを与えることで得られる。バッテリモデルの構成例については後述する。充電率検出装置10は、開放電圧推定部12を含むことで、電池Bの内部抵抗の電圧降下分の誤差を考慮する必要のない開放電圧に基づいて、精度の高い開放電圧充電率SOCvの算出が可能である。
【0029】
SOCv算出部14は、第1の推定開放電圧OCVeを受け取り、開放電圧充電率SOCvを出力する。開放電圧充電率SOCvは本発明の第1の充電率に対応する。SOCv算出部14は、フィルタ部24、OCV−SOC変換部26を含む。フィルタ部24は第1の推定開放電圧OCVeを受け取り、フィルタ処理を実行する。フィルタ部24は、電流積算部16から、電流積算法で得られる電流積算値Saの変化量に対応する電流(補正値Sd)も受け取る。そして、補正値Sdによって、第1の推定開放電圧OCVeの変化量の制限(以下、「レートリミット」ともいう)を実行するフィルタ処理を行い、第1の推定開放電圧OCVeより誤差の少ない第2の推定開放電圧OCVvを出力する。第1の推定開放電圧OCVeおよび第2の推定開放電圧OCVvの波形の例については後述する。なお、本実施形態では第2の推定開放電圧OCVvが本発明の「推定される開放電圧」に対応するが、別の実施形態として第1の推定開放電圧OCVeを本発明の「推定される開放電圧」としてもよい。
【0030】
OCV−SOC変換部26は、第2の推定開放電圧OCVvを受け取り、開放電圧から充電率への変換(以下、「OCV−SOC変換」とする)を実行して、開放電圧充電率SOCvを出力する。開放電圧と充電率との関係は、温度や劣化に依らず一定に保たれることが知られている。そのため、OCV−SOC変換部26は、例えば実験等により予め得られた電池Bの開放電圧−充電率特性に基づくOCV−SOC変換テーブルを記憶してもよい。開放電圧−充電率特性の例については後に例示する。
【0031】
電流積算部16は、電池Bの電流IBを受け取り、電流積算値Saおよび補正値Sdを出力する。電流積算値Saは、電流積算法で得られる電池Bの電流IBの積算値であり、補正値Sdは、電流積算値Saの変化量に対応する電流である。
【0032】
電流積算部16は、充電電流積算部33、放電電流積算部32および充電効率演算部35を含む。充電電流積算部33は、電池Bの充電電流I
inを積算して、充電電流積算値∫(I
in)dtを生成する。放電電流積算部32は、電池Bの放電電流I
outを積算して、放電電流積算値∫(I
out)dtを生成する。充電効率演算部35は、放電電流積算値∫(I
out)dtの大きさ(絶対値)を、充電電流積算値∫(I
in)dtの大きさで除算して得られる充電効率ηを算出する。
【0033】
また、本実施形態の充電率検出装置10では、電流積算部16は分離変換部31、乗算器および加算器を含む。分離変換部31は、電池Bの電流IBを受け取り、充電電流I
inと放電電流I
outとに分離して、後段の回路で効率的な演算が可能なように符号付きの値で出力する。乗算器および加算器は、電流積算値Saおよび補正値Sdを得るための演算で用いられる。電流積算値Saおよび補正値Sdの計算式については後述する。
【0034】
SOCi算出部18は、電流積算値Saを受け取り、積算開始時の初期値(以下、「初期充電率」とする)を加算して、電流積算充電率SOCiを出力する。電流積算充電率SOCiは本発明の第2の充電率に対応する。SOCi算出部18は、記憶部38を含む。記憶部38は例えば不揮発性メモリであって、初期充電率が記憶されている。また、記憶部38は以前にSOCi算出部18が出力した電流積算充電率SOCi(以下、「過去の電流積算充電率SOCi」とする)を記憶してもよい。そして、SOCi算出部18は、電流積算値Saに基づいて演算で得られる電流積算充電率SOCiの精度が低いような場合に、記憶部38から読み出した過去の電流積算充電率SOCiを出力することができる。
【0035】
SOC選択部20は、選択信号Selに応じて開放電圧充電率SOCv、または電流積算充電率SOCiを選択して、充電率SOCとして出力する。選択信号Selは図示しない選択制御部から出力され、選択制御部は、例えば開放電圧充電率SOCvと電流積算充電率SOCiとを比較して、より精度が高いと思われる方を選択させるように選択信号Selを出力してもよい。また、選択制御部は、車両の動作に連動した選択(例えば、車両が停車しているときには電流積算充電率SOCiを出力する等)をするように選択信号Selを出力してもよい。本実施形態では、後述するように、原則として電流積算充電率SOCiが充電率SOCとして選択されるが、充電電流積算部33、放電電流積算部32および記憶部38のデータがリセットされた場合には開放電圧充電率SOCvが選択される。充電率検出装置10は、SOC選択部20を含むことで、開放電圧充電率SOCvと電流積算充電率SOCiとを状況に応じて選択的に出力でき、最終的に出力される充電率SOCの精度を保つことが可能になる。
【0036】
電池状態制御部22は、第2の推定開放電圧OCVvに基づいて、オルタネーターAltに制御信号を与えることで、電池Bがターゲットの開放電圧となるように制御する。充電率検出装置10は、電池状態制御部22を含むことで、電池Bの開放電圧が一定であるように制御することが可能である。電流積算中に電池Bの充電率が大きく変化している場合には充電効率ηの誤差が大きくなる可能性があるところ、電池状態制御部22が電池Bの開放電圧が一定であるように制御すれば、充電効率ηの誤差を小さく抑えることができる。また、充電効率演算部35は、満充電を基準に充電効率ηを求めるわけではないので、電池Bを満充電にする必要性はない。そのため、電池状態制御部22を備える充電率検出装置10は、電池Bを不完全充電状態で用いるシステムで好適に用いられる。
【0037】
以上、
図1を参照しながら充電率検出装置10の全体構成を説明したが、以下に、開放電圧推定部12、SOCv算出部14、電流積算部16の詳細について説明し、その後、充電率検出装置10の処理について説明する。
【0038】
(開放電圧推定部)
図2は、電池Bの等価回路(バッテリモデル)である。バッテリモデルは、電解液抵抗とオーム抵抗等の直流成分を設定する抵抗R0と、電荷移動過程における動的な振る舞いを表す反応抵抗として設定する抵抗R1と、電気二重層として設定するC1と、拡散過程における動的な振る舞いを表すものとして設定するR2、C2とにより構成される。ここでは、電荷移動過程で一次の並列回路、拡散過程で二次の並列回路の等価回路モデルで表しているが、次数は必要に応じて設定する。
【0039】
電流IBをバッテリモデルに入力したとき、電池Bの端子電圧VBとバッテリモデルの端子電圧推定値VBmとの差分がなくなるように図示しない適応機構によってバッテリモデルの各パラメータR0、R1、R2、C1、C2を逐次修正することで、現在の電池Bの状態に合致したバッテリモデルを得ることができる。
【0040】
開放電圧推定部12は、推定した各パラメータR0、R1、R2、C1、C2と電流IBから過電圧VRを算出し、端子電圧VBから過電圧VRを減算して開放電圧OCVを計算する。計算される開放電圧OCVは、
図1の第1の推定開放電圧OCVeに対応する。
【0041】
ここで、各パラメータR0、R1、R2、C1、C2を逐次修正する適応機構は、例えばカルマン・フィルタであってもよい。カルマン・フィルタは内部のパラメータを自己修正するのに適したフィルタで、逐次パラメータ推定に用いられる。なお、カルマン・フィルタによるパラメータ推定の詳細については、本出願人の特願2011−007874号に説明してある。
【0042】
(SOCv算出部)
SOCv算出部14は、前記の通り、フィルタ部24、OCV−SOC変換部26を含む。
図3(A)、
図3(B)はそれぞれフィルタ部24を通過する前、通過した後の推定された開放電圧の変化を示す図である。
図3(A)は第1の推定開放電圧OCVeの時間変化の例を示す。この第1の推定開放電圧OCVeに対し、フィルタ部24でレートリミットを実行するフィルタ処理が行われる。そのため、
図3(B)に示される第2の推定開放電圧OCVvの時間変化は、第1の推定開放電圧OCVeに比べて緩やかになっている。この例では、第2の推定開放電圧OCVvはVtgを中心に変動している。ここで、Vtgは積算開始時に得られた第2の推定開放電圧OCVvの値である。積算開始時は、充電電流積算部33、放電電流積算部32が積算を開始した時である。後述するように、積算は複数回の車両の動作(例えば、「エンジンをかけて走行を開始してから目的地に着いてエンジンを切るまで」を1回の動作と考えることができる)を通して実行されることが好ましい。このような場合、最初の車両の動作の開始時が積算開始時となる。
図3(A)、
図3(B)の例において、Vtgは時間軸の原点より前に得られたものであってもよい。また、Vtgは、電池状態制御部22がターゲットとする開放電圧に等しい値であってもよい。
【0043】
フィルタ部24は、例えば電流積算部16から受け取った補正値Sdに基づく分散(電流積算法分散)と、開放電圧推定部12から受け取った第1の推定開放電圧OCVeに基づく分散(開放電圧推定法分散)とを算出して、これらの分散の関係に基づいてレートリミットを行って第2の推定開放電圧OCVvを生成してもよい。ここで、第2の推定開放電圧OCVvの生成についても、カルマン・フィルタで誤差が最小となるように誤差モデルを修正していく手法が採られてもよい。このとき、フィルタ部24は、電流積算法に基づく値と開放電圧推定法に基づく値とを用いて推定誤差を補正していく、いわゆるセンサ・フュージョン技術を用いる。なお、前記の通り、カルマン・フィルタによるパラメータ推定の詳細については、本出願人の特願2011−007874号に説明してある。
【0044】
図4は電池Bの開放電圧−充電率特性を例示する図である。
図4の特性では、開放電圧OCVがV0[V]であるときに充電率SOCは0[%]である。また、開放電圧OCVがV1[V]であるときに充電率SOCは100[%]である。鉛蓄電池である電池Bについて具体例を示すと、例えばV0は約1.9[V]、V1は約2.1[V]である。OCV−SOC変換部26は、開放電圧と充電率の関係式(例えば、鉛蓄電池では一次の関係式)を記憶し、受け取った第2の推定開放電圧OCVvの値に応じた充電率SOCの値を開放電圧充電率SOCvとして出力する。
【0045】
(電流積算部)
ここで、再び
図1を参照して、電流積算部16における演算について説明する。分離変換部31は、受け取った電池Bの電流IBを、充電電流I
inと放電電流I
outとに分ける。ここで、充電電流I
inと放電電流I
outとは互いに逆の符号を付され、以下では充電電流I
inが正の値を、放電電流I
outは負の値をとるものとして説明する。
【0046】
そして、充電電流積算部33は、積算開始時から充電電流I
inを積算して充電電流積算値∫(I
in)dtを生成する。放電電流積算部32は、積算開始時から放電電流I
outを積算して放電電流積算値∫(I
out)dtを生成する。
【0047】
充電効率演算部35は、充電効率ηを算出するが、放電電流積算値∫(I
out)dtの大きさを、充電電流積算値∫(I
in)dtの大きさで除算して得られる。すなわち、
η=|∫(I
out)dt|/∫(I
in)dt …(式1)
となる。
【0048】
また、電流積算部16は、電流積算値Saと、電流積算値Saの変化量に対応する電流である補正値Sdとを出力する。ここで、電流積算値Saは以下の式で与えられる。
Sa=∫(I
out)dt+η×∫(I
in)dt …(式2)
そして、補正値Sdは以下の式で与えられる。
Sd=I
out+η×I
in …(式3)
【0049】
ここで、電池状態制御部22によって、電池Bの残量が一定であるように制御されているとする。
図5は、検出される残量と充電効率ηとの関係を示す図である。充電効率ηが充電効率演算部35によって更新される場合には、更新時における電池Bの経時変化等を反映した充電効率ηが用いられることになる。
図5の例では、η変動と示された実線が充電効率演算部35によって充電効率ηを更新する場合を示しており、電池Bの残量がほぼ一定であることを正しく検出している。一方、従来技術のように充電効率ηを固定的に用いて経時変化を考慮しない場合および充電効率η自体を考慮しない場合には、時間の経過とともに電池Bの残量の検出値に誤差が生じる(
図5のη固定と示された点線)。
【0050】
後述するように、本実施形態では所定の条件を満たしたときに充電効率ηを更新する。更新によって充電効率ηの経時変化に対応でき、充電効率ηを固定的に用いる場合に比べて誤差を小さくできる。
【0051】
(充電率検出装置の処理について)
本実施形態の充電率検出装置10では、「第2の推定開放電圧OCVvが、変動があった後、積算開始時の値から所定の範囲内にあること(以下、条件(a)とする)」、「充電電流積算値∫(I
in)dtおよび放電電流積算値∫(I
out)dtが所定の値よりも大きくなること(以下、条件(b)とする)」、の少なくとも一方が満たされる場合に、充電効率演算部35が充電効率ηを更新する。ここで、条件(a)は充電率が積算開始時の近くまで戻っている、すなわち、放電したまま、あるいは充電したままでないことを意味し、条件(b)は充電効率を計算するときに除算する値と除算される値の絶対値が十分大きく、同じ電圧に戻っていなくてもその除算結果の精度が確保されていることを意味する。換言すれば、更新した充電効率ηを用いて開放電圧充電率SOCv、電流積算充電率SOCiを計算しても、十分な精度が得られない場合には、充電率検出装置10は充電効率ηを更新しない。
【0052】
また、条件(a)の「所定の範囲」とは、積算開始前の充電率に十分近い範囲、すなわち積算された充電電流と放電電流を比較することに意味がある範囲のことである。充電率が積算開始前の値から大きくずれている場合に充電電流積算値と放電電流積算値とを比較しても、正確な充電効率ηは求められないためである。
図6は電池Bの第2の推定開放電圧OCVvの変化を例示するが、Vtg(積算開始時に得られた第2の推定開放電圧OCVvの値)を中心とする−ΔV〜+ΔVの範囲が条件(a)の「所定の範囲」に対応する。なお、ΔVはゼロであってもよい。
【0053】
一方、条件(b)の「所定の値」は、第2の推定開放電圧OCVvが積算開始前の値まで戻っていなくても(充電率に多少のずれがあっても)、充電効率ηを求める際に、そのずれが無視できるように設定される値である。つまり、充電電流、放電電流の積算量が十分大きければ、充電率に多少のずれがあっても充電効率ηがほぼ正確な値となることが期待される。条件(b)の「所定の値」は、その程度に充電電流、放電電流の積算量が大きくなるように設定される。
【0054】
ここで、
図6を参照して、上記の条件(a)、条件(b)と充電効率ηの算出処理との関係について説明する。まず、時刻taが積算開始時であるとし、このときの第2の推定開放電圧OCVvの値がVtgであったとする。その後、時刻tbで第2の推定開放電圧OCVvの値がVtg−ΔVを下回り、時刻tcになってVtg−ΔVに戻ったとする。このとき、時刻tb〜tcの区間Z0では、条件(a)が満たされない。ここで、充電電流積算部33、放電電流積算部32による積算は、時刻taで開始されたばかりであるため、区間Z0では条件(b)も満たされない。そのため、充電効率ηの算出処理は行われない。
【0055】
その後、第2の推定開放電圧OCVvの値は、時刻tdでVtgに戻り、さらに時刻teでVtg+ΔVまで上昇する。時刻tc〜teの区間Z1では、第2の推定開放電圧OCVvの値が、Vtg−ΔVからVtg+ΔVの範囲(条件(a)の所定の範囲)に収まっており、条件(a)を満たすので充電効率ηの算出処理が行われる。
【0056】
そして、第2の推定開放電圧OCVvの値は、時刻tfになってVtg+ΔVに戻り、時刻tgになってVtgまで戻る。時刻te以降を区間Z2とすると、区間Z2においては、少なくとも時刻te〜tfの間で条件(a)を満たさない。しかし、時刻te以降においては、時刻taから充電電流積算部33、放電電流積算部32による積算が行われていたことにより、条件(b)が満たされる。そのため、区間Z2では充電効率ηの算出処理が行われる。
【0057】
図7は、車両に搭載された電池Bに設けられた充電率検出装置10の処理を示すフローチャートである。まず、充電率検出装置10は、車両の動作開始まで待機している(ステップS2のNo)。車両が動作開始すると(ステップS2のYes)、前回の動作から所定の時間が経過したかを判定する(ステップS4)。
【0058】
ここで、所定の時間とは、車両が動作しなかった間に電池Bの状態が大きく変化したと考えられる期間である。例えば、車両が1週間動作しなかった場合、鉛蓄電池状態が暗電流等の自己放電によって大きく変わっていることがある。このような場合、充電率検出装置10は、車両が動作しない間の電流IBを受け取ることができないため、保存している充電電流積算値∫(I
in)dt、放電電流積算値∫(I
out)dtおよび電流積算充電率SOCi等と実際の電池Bの状態とが合致しない可能性がある。そのため、前回の動作から所定の時間が経過した場合(ステップS4のYes)、充電電流積算部33、放電電流積算部32および記憶部38のデータをリセットする(ステップS6)。
【0059】
ステップS6の後、または前回の車両の動作から所定の時間が経過していない場合(ステップS4のNo)には、充電率検出装置10は、電池Bの端子電圧VBと電流IBとを取得し、第2の推定開放電圧OCVv、充電電流積算値∫(I
in)dt、放電電流積算値∫(I
out)dtを求める(ステップS8)。
【0060】
第2の推定開放電圧OCVvについて、積算開始時の推定開放電圧(
図6のVtg)から所定の範囲内であれば(ステップS10のYes)、充電効率ηを算出し、選択信号Selに応じて、更新後の開放電圧充電率SOCvまたは電流積算充電率SOCiを充電率SOCとして出力する(ステップS16)。
【0061】
第2の推定開放電圧OCVvが積算開始時の推定開放電圧から所定の範囲内でなければ(ステップS10のNo)、充電電流積算値∫(I
in)dtと放電電流積算値∫(I
out)dtの大きさが所定の値より大きいかを判定する(ステップS12)。ステップS12で前記大きさが所定の値より大きい場合には(ステップS12のYes)、ステップS16が実行される。ステップS16が実行されることは、前記の条件(a)又は条件(b)の少なくとも一方が満たされて充電効率ηが算出されることに対応する。
【0062】
一方、ステップS12で前記大きさが所定の値以下である場合には(ステップS12のNo)、さらに、記憶部38のデータ(過去の電流積算充電率SOCi)がリセットされているかが判定される(ステップS14)。記憶部38のデータがリセットされていなければ(ステップS14のNo)、記憶された過去の電流積算充電率SOCiを充電率SOCとして出力する(ステップS18)。電池Bの状態が大きく変化したのでなければ、過去に算出した電流積算充電率SOCiが電池Bの現在の充電率に十分近いと考えられるからである。一方、記憶部38のデータがリセットされている場合(ステップS14のYes)、記憶部38に出力可能なデータはなく、充電効率ηも算出されていないため、開放電圧充電率SOCvを充電率SOCとして出力する(ステップS20)。
【0063】
ステップS16、S18、S20が実行された後、車両の動作が停止すれば一連の処理を終了し(ステップS22のYes)、車両が動作中であれば(ステップS22のNo)、再びステップS8に戻る。
【0064】
ここで、前回の車両の動作から所定の時間が経過した場合(ステップS4のYes)には、充電電流積算部33、放電電流積算部32がリセットされる(ステップS6)が、それ以外の場合には充電電流積算値∫(I
in)dt、放電電流積算値∫(I
out)dtは保存される。つまり、車両の1回の動作では短距離走行しかされないとしても、繰り返される短距離走行について累積的な積算(継続した積算)がされるため、十分に大きな充電電流積算値∫(I
in)dt、放電電流積算値∫(I
out)dtを得ることができる。このことにより、誤差(元の充電率に戻っていない等)の影響(相対的な大きさ)を小さくすることができ、その結果として、算出される充電効率ηの誤差も小さくすることができる。
【0065】
以上のように、本実施形態の充電率検出装置10および充電率検出方法によれば、交換時等ではなく使用中の電池Bについての充電効率ηを演算で求めるため、電力を無駄に使用することや鉛蓄電池の劣化を促進してしまうこともなく、充電効率ηの経時変化にも対応できる。また、満充電状態を基準とする演算は必要ないため、電池Bの不完全充電状態での使用も対応可能である。
【0066】
本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段及びステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段及びステップを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。