特許第6494928号(P6494928)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6494928-乳成分を含有する飲食品 図000007
  • 特許6494928-乳成分を含有する飲食品 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494928
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】乳成分を含有する飲食品
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/152 20060101AFI20190325BHJP
   A23C 3/08 20060101ALI20190325BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20190325BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   A23C9/152
   A23C3/08
   A23L2/38 P
   A23L2/00 A
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-117894(P2014-117894)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-228851(P2015-228851A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】篁園 南
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康陽
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−070679(JP,A)
【文献】 特開2013−176355(JP,A)
【文献】 特表2012−533317(JP,A)
【文献】 特開2013−215148(JP,A)
【文献】 特開2013−074830(JP,A)
【文献】 特開2011−024508(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/005107(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/023844(WO,A1)
【文献】 Encyclopedia of Food Sciences and Nutrition, 2003年,2nd Edition,p.1574-1581
【文献】 後藤 佳代、井藤 大作,FFI Reports 弱酸性乳飲料における安定化システムHi−pHiveのご紹介,Food & Food ingredients J.Jpn,2012年 2月 1日,Vol.217, No.1,p.101-104
【文献】 Ir. J. Fd Sci. Technol., 1982年,Vol.6,p.183-187
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00−23/00
A23L 2/00−2/84
A23L 21/00−21/25
A23L 29/20−29/206
A23L 29/231−29/30
A01J 1/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/WPIX(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)μ成分及びν成分を含有するカラギナン、
(b)牛乳、生クリーム、全脂粉乳及び脱脂粉乳からなる群より選択される1種以上、並びに
(c)乳固形分が70質量%以下である濃縮乳を含有させることを特徴とする、
乳成分含有飲料における乳成分の安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳成分を含有する飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
乳成分を含有する飲食品(以下、「乳成分含有飲食品」という)に用いる安定化剤の一種として、μ成分及びν成分を含有するカラギナンが知られている。例えば、Mu(μ)カラギナンを約2〜7重量%及びNu(ν)カラギナンを約10〜17重量%含有し、両カラギナンの合計が約15〜22重量%であるカラギナンを含有する酸性化ミルク飲料(特許文献1参照)及び冷菓用安定剤としてμカラギナンとνカラギナンを含有する冷菓(特許文献2参照)が知られている。また、特許文献3には、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを添加し、タンパク質及び酸性多糖類を酸性条件下で併用する場合に生じる、凝集物の形成を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2012−533317号公報
【特許文献2】特開2013−70679号公報
【特許文献3】特開2013−198475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
μ成分及びν成分を含有するカラギナンを安定化剤として用いることで、従来から使用されてきたカラギナン(λカラギナン、κカラギナン及びιカラギナン)に比較して、乳成分含有飲食品の安定化を図ることが可能である。しかし、乳成分含量が高い飲食品や、UHTにより殺菌される飲食品、pHが5〜6.5である飲食品など、飲食品の処方によっては安定化を図ることが困難となり、殺菌時や保存時に乳タンパク質が凝集するという問題を抱えていた。
上記従来技術に鑑み、本発明では、従来技術では達成できなかった、安定性がより一層向上した、乳成分含有飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、μ成分及びν成分を含有するカラギナンに加えて、濃縮乳を併用することで、乳成分含有飲食品の安定性を格段に向上できることを見出し、本発明に至った。
【0006】
本発明は以下の態様を有する、乳成分含有飲食品に関する;
項1.μ成分及びν成分を含有するカラギナン、並びに濃縮乳を含有する、乳成分含有飲食品。
項2.前記濃縮乳の乳固形分が15質量%以上であることを特徴とする、項1に記載の乳成分含有飲食品。
項3.前記乳成分含有飲食品における濃縮乳含量が、下記式(1)を満たすものである、項1又は2に記載の乳成分含有飲食品;
式(1) a/A≧0.3
ここで、a及びAは各々、以下のとおりである;
a;乳成分含有飲食品における、濃縮乳由来の無脂乳固形分(質量%)
A;乳成分含有飲食品の無脂乳固形分(質量%)。
項4.前記乳成分含有飲食品が、下記(i)〜(iii)に示す条件を少なくとも一つ以上満たすものである、項1〜3のいずれか一項に記載の乳成分含有飲食品;
(i)乳成分含有飲食品の乳固形分が3質量%以上である、
(ii)乳成分含有飲食品のpHが5〜6.5である、
(iii)乳成分含有飲食品がUHT殺菌されるものである。
項5.前記乳成分含有飲食品が飲料である、項1〜4のいずれかに一項に記載の乳成分含有飲食品。
項6.μ成分及びν成分を含有するカラギナン、並びに濃縮乳を含有させることを特徴とする、乳成分含有飲料における乳成分の安定化方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来技術に比較して、安定性が格段に向上した、乳成分含有飲食品を提供できる。特に、乳成分含量が高い飲食品、UHTにより殺菌される飲食品、又はpHが5〜6.5である飲食品などの、殺菌時や保存時に乳タンパク質の凝集が生じやすい飲食品であっても、前記乳タンパク質の凝集が顕著に抑制された、安定性が高い飲食品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実験例1において、実施例1−1の乳成分含有飲料を、5℃で4週間保存後の写真である。
図2】実験例1において、比較例1−1の乳成分含有飲料を、5℃で4週間保存後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の乳成分含有飲食品は、μ成分及びν成分を含有するカラギナン、並びに濃縮乳を含有することを特徴とする。
カラギナンは紅藻類海藻から抽出、精製される天然高分子である。D−ガラクトースと、3,6−アンヒドロ−D−ガラクトースから構成される多糖類であり、平均分子量は通常、100,000〜500,000である。カラギナンの基本構造単位モノマーを下記(化1)に示した。カラギナンの種類は、この基本構造におけるアンヒドロ糖の有無や、硫酸基の数及び位置によって区別される(参照:特表2005−518463号公報)。各成分の基本構造について、(化2)に示した。
【0010】
【化1】
【0011】
【化2】
【0012】
一般的に市場で流通しているカラギナンは、上記(化2)中、λ成分、κ成分及びι成分を各々主成分とするλカラギナン、κカラギナン及びιカラギナンである。
一方、本発明では上記(化2)で示す、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いることを特徴とする。μ成分及びν成分(化2)は、それぞれκ成分及びι成分の前駆体であるが、一般的に市場に流通しているκカラギナン及びιカラギナンは、各々μ成分及びν成分を実質的に含まない。また、κカラギナンは、溶解した水溶液にカリウムやカルシウム等のカチオン類を添加し、冷却することでゲルを形成し、ιカラギナンは、乳タンパク質と反応してゲルを形成するが、μ成分及びν成分を含有するカラギナンは、それ自体でゲルを形成しないという特徴を有している。
【0013】
本発明では、乳成分含有飲食品中に、μ成分及びν成分を含有するカラギナン、並びに濃縮乳を含有させることで、乳成分含有飲食品の安定性を向上できる。従って、本発明でいう、「μ成分及びν成分を含有するカラギナンを含有する乳成分含有飲食品」には、カラギナンとして、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを乳成分含有飲食品に含有させた場合に限らず、μ成分を含有するカラギナンと、ν成分を含有するカラギナンを飲食品中に添加し、両者を飲食品中で共存させた場合も含まれる。
【0014】
本発明では、μ成分及びν成分を含有するカラギナンとして、μ成分及びν成分を総量で、好ましくは8質量%以上、より好ましくは12質量%以上含有するカラギナンを用いることが望ましい。μ成分及びν成分の総量の上限は特に制限されないが、好ましくは50質量%である。
【0015】
本発明では、μ成分及びν成分を含有するカラギナン製剤として、「カラギニンHi−pHive(「Hi−pHive」はCPケルコ社の登録商標)」を商業上利用することができる。当該製品は、μ成分を2〜7質量%、及びν成分を10〜17質量%の範囲で含有するものである。
本発明は、カラギナンとして、μ成分及びν成分を含有するカラギナンを用いることを特徴とし、残りのカラギナン成分(μ成分及びν成分以外のカラギナン成分)は特に制限されない。残りのカラギナン成分としては、例えば、λ成分、κ成分及びι成分が挙げられるが、本発明で用いるμ成分及びν成分を含有するカラギナンは、κ成分及び/又はι成分を含有していることが好ましい。
【0016】
乳成分含有飲食品における、μ成分及びν成分を含有するカラギナン含量は特に制限されないが、通常、0.01〜2質量%であり、好ましくは0.05〜1質量%、更に好ましくは0.1〜0.5質量%である。また、本発明では、乳成分含有飲食品中のμ成分が0.0001〜0.2質量%、好ましくは0.001〜0.1質量%、更に好ましくは0.002〜0.05質量%、ν成分が0.001〜0.5質量%、好ましくは0.005〜0.2質量%、更に好ましくは0.01〜0.1質量%となるように、前記μ成分及びν成分を含有するカラギナンを含有させることが望ましい。
【0017】
本発明では、前記カラギナンに加え、濃縮乳を併用することを特徴とする。本発明において「濃縮乳」とは、「生乳、牛乳又は特別牛乳を濃縮したもの(濃縮乳)」、及び「生乳、牛乳又は特別牛乳から乳脂肪分を除去したものを濃縮したもの(脱脂濃縮乳)」をいう。本発明の濃縮乳を得るための製造方法(濃縮方法)は特に制限されない。例えば、濃縮方法として、膜処理による濃縮(例えば、ナノろ過膜(NF膜)、逆浸透膜(RO膜)等)、濃縮機による濃縮(例えば、エバポレーター等)などが挙げられる。
【0018】
濃縮乳の乳固形分及び乳脂肪分は、乳等省令(「乳及び乳製品の成分規格等に関する厚生省省令」)で定められている。ここで、乳固形分は、無脂乳固形分及び乳脂肪分の総量をいう。乳等省令では、例えば、全脂濃縮乳は、乳固形分が25.5質量%以上であり、乳脂肪分が7.0質量%以上であること、脱脂濃縮乳は乳固形分が18.5質量%以上であることが定められている。
しかし、本発明で用いる濃縮乳はこれに制限されず、全脂濃縮乳として、生乳、牛乳若しくは特別牛乳を濃縮したもの、又は脱脂濃縮乳として、生乳、牛乳若しくは特別牛乳から脂肪分を取り除いて濃縮したものを広く使用できる。なお、全脂濃縮乳を用いる場合は、乳固形分が好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25.5質量%以上である濃縮乳を好適に使用できる。脱脂濃縮乳を用いる場合は、乳固形分が15質量%以上、より好ましくは18.5質量%以上である脱脂濃縮乳を好適に使用できる。また、濃縮乳として、全脂濃縮乳を用いる場合は、乳脂肪分が好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは7質量%以上である全脂濃縮乳を用いることが好ましい。
本発明で用いる濃縮乳の乳固形分及び乳脂肪分の上限は特に制限されないが、例えば、脱脂濃縮乳の乳固形分の上限として70質量%、全脂濃縮乳の乳固形分の上限として70質量%、全脂濃縮乳の乳脂肪分の上限として20質量%が挙げられる。
【0019】
前述のとおり、本発明の乳成分含有飲食品は、必須成分として、濃縮乳を用いることを特徴とする。本発明の乳成分含有飲食品には、乳成分として、牛乳、生クリーム、全脂粉乳、脱脂粉乳等を使用できるが、これら乳成分を、濃縮乳と併用することなく用いた場合には、乳成分含有飲食品の殺菌時や保存時に乳タンパク質が凝集し、飲食品の安定性を担保することが難しい。
【0020】
乳成分含有飲食品における濃縮乳の含量は特に制限されないが、飲食品の安定性向上の観点からは、下記式(1)を満たすことが好ましい;
【0021】
式(1) a/A≧0.3
ここで、a及びAは各々、以下のとおりである。
a;乳成分含有飲食品における、濃縮乳由来の無脂乳固形分(質量%)
A;乳成分含有飲食品の無脂乳固形分(質量%)
上記a/Aの値が大きい程、飲食品の乳成分中、濃縮乳が占める割合が大きいことを意味する。a/Aのより好ましい値は0.4〜1、更に好ましくは0.5〜1である。
【0022】
本発明の乳成分含有飲食品が、乳脂肪を含有する場合は、更に下記式(2)を満たすことが好ましい;
式(2) b/B≧0.2
ここで、b及びBは各々、以下のとおりである。
b;乳成分含有飲食品における、濃縮乳由来の乳脂肪分(質量%)
B;乳成分含有飲食品の乳脂肪分(質量%)
上記b/Bの値が大きい程、飲食品の乳成分中、濃縮乳が占める割合が大きいことを意味する。b/Bのより好ましい値は0.3〜1、更に好ましくは0.5〜1である。
【0023】
本発明は、乳成分含有飲食品に広く応用でき、飲食品の種類は特に制限されない。例えば、飲料、ゲル状飲食品(例.プリン、ゼリー、ドリンクゼリー、チーズ入りプリン、チーズ入りゼリー等)、ヨーグルト、冷菓(例.アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、氷菓等)、クリーム等が挙げられる。特に、乳成分含有飲食品の中でも、飲料は水分含量が多く、粘度が低いことなどから、乳成分の凝集、沈殿等が起きやすく、安定性を得ることが難しい飲食品である。しかし、本発明によれば、格段に安定性が向上した乳成分含有飲料を提供することができる。
【0024】
本発明はまた、下記(i)〜(iii)に示す少なくとも一種以上の条件に該当する乳成分含有飲食品に対して、顕著な効果を発揮する。
(i)乳成分含有飲食品の乳固形分が3質量%以上である。
(ii)乳成分含有飲食品のpHが5〜6.5である。
(iii)乳成分含有飲食品が超高温瞬間(UHT)殺菌されるものである。
【0025】
(i)乳成分含有飲食品の乳固形分が3質量%以上である
乳成分含有飲食品の乳固形分を3質量%以上、更には6質量%以上に調整することで、乳由来の風味豊かな飲食品を提供できる。しかし一方で、飲食品の製造時や保存時に、乳成分が凝集しやすくなり、飲食品を安定に保持することが難しい。しかし、本発明によれば、前記乳固形分である乳成分含有飲食品であっても、乳成分の凝集を顕著に抑制することが可能である。乳固形分の上限は特に制限されないが、例えば、乳固形分の上限として15質量%が挙げられる。
【0026】
(ii)乳成分含有飲食品のpHが5〜6.5である
乳タンパク質の主要成分であるカゼインは、pH4.6付近に等電点を有する。よって、飲食品のpHが5以上になると、カゼインは全体として僅かにマイナスに帯電し、静電的相互作用により凝集が生じる。特に、乳成分含有飲食品のpHが5〜6、更にはpH5〜5.6の範囲では、カゼインの凝集を抑制することが非常に困難となり、従来から使用されてきた乳成分安定化剤(例えば、HMペクチン、大豆多糖類、カルボキシメチルセルロース等)による安定化が難しい。しかし本発明では、乳成分含有飲食品のpHが上記に示す範囲であっても、安定性に優れた飲食品を提供できる。
【0027】
(iii)乳成分含有飲食品が超高温瞬間(UHT)殺菌されるものである
例えば、乳成分含有飲食品の殺菌方法として、低温保持(LTLT)殺菌(63〜65℃で30分)、高温保持(HTLT)殺菌(75℃以上で15分以上)、高温短時間(HTST)殺菌(72℃以上で15秒以上)、超高温瞬間(UHT)殺菌(120〜150℃で1〜3秒間)、ボイル殺菌(例えば、80〜95℃で30〜60分)、レトルト殺菌(例えば、120〜130℃で10〜30分)等が挙げられる。
上記殺菌中、UHT殺菌は、他の殺菌方法と比較して、殺菌処理による風味劣化が少ないという利点を有するが、一方で、他の殺菌方法と比較して、凝集の発生頻度が増大する場合が多い。しかし本発明では、UHT殺菌を行った場合であっても、凝集が発生せず、高い安定性を有する乳成分含有飲食品を提供できる。
【0028】
上記条件(i)〜(iii)について、乳成分含有飲食品が該当する条件が多いほど、乳成分含有飲食品の安定性を担保することが難しい。しかし、本発明では、乳成分含有飲食品が上記条件(i)〜(iii)の少なくとも2種以上、更には3種全ての条件に該当する場合であっても、顕著に安定性が向上した乳成分含有飲食品を提供することができる。
【0029】
本発明の乳成分含有飲食品は、常法に従って製造できる。
例えば、飲食品が飲料、ゲル状飲食品又はクリームである場合は、水に原料(乳成分、μ成分及びν成分を含有するカラギナン、必要に応じてゲル化剤、糖類、乳化剤等)を添加し、加熱後、必要があれば均質化処理を行ない、殺菌処理後、冷却することで製造できる。均質化処理は、例えば、処理圧5〜20MPaでのホモゲナイザーによる処理などが挙げられる。殺菌処理は、例えば、UHT殺菌(例えば、120〜150℃で1〜3秒間)、HTLT殺菌(例えば、80〜85℃で30分)、レトルト殺菌(例えば、120〜130℃で10〜30分)等での殺菌が挙げられる。
【0030】
乳成分含有飲食品がヨーグルトの場合は、水に原料(乳成分、μ成分及びν成分を含有するカラギナン、糖類等)を添加して加熱後、必要に応じて均質化処理を行ない、殺菌処理後、スターター(乳酸菌等)を添加、発酵することで製造できる。殺菌処理条件は、例えば、HTLT殺菌(例えば、80〜85℃で30分)が挙げられる。
【0031】
乳成分含有飲食品が冷菓の場合は、例えば、水に原料(乳成分、μ成分及びν成分を含有するカラギナン、糖類、乳化剤等)を添加し、加熱後、必要に応じて均質化処理を行ない、殺菌処理後、エージング(0〜5℃で保持)及びフリージングを行うことで製造できる。殺菌処理条件は、68℃で30分間加熱殺菌、又はそれと同等以上の殺菌(例えば、HTST殺菌やUHT殺菌等)が例示できる。
【0032】
その他、本発明の乳成分含有飲食品は、本発明の効果を損なわない範囲において、香料、色素、果汁、酸、ゲル化剤、乳化剤等の各種原料を使用できる。
【0033】
【実施例】
【0034】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」であることを意味する。
【0035】
実験例1 乳成分含有飲食品(飲料)
(飲食品の調製)
表1及び2に示す処方に従って、乳成分含有飲食品を調製した。
詳細には、水及び果糖ぶどう糖液糖の混合物に、砂糖、並びにμ成分及びν成分を含有するカラギナンを添加し、25℃で10分間撹拌した。そこへ乳原料、ショ糖脂肪酸エステル及びグリセリン脂肪酸エステルを添加後、色素、酸化防止剤及び果汁を添加した。次いで、無水クエン酸を用いてpHを調整し、香料を添加後、75℃まで加熱し、ホモジナイザーによる均質化処理(15MPa)を行った。その後、UHT殺菌(130℃2秒間)を行い、透明のペットボトル容器に無菌充填して飲料を調製した。飲料は、無脂乳固形分、乳脂肪分及び乳固形分が表1に示す値となるように、乳原料の添加量を表2に示すように調整した。
【0036】
【表1】
【0037】
注1)「カラギニンHi−pHive*」(μ成分を2〜7質量%、ν成分を10〜17質量%含有するカラギナン製剤)を使用。本製剤は、μ成分及びν成分以外に、κ成分及びι成分を含有する。
【0038】
【表2】
【0039】
注2)無脂乳固形分が18質量%、及び乳脂肪分が7質量%の全脂濃縮乳を使用した。
注3)無脂乳固形分が27質量%の脱脂濃縮乳を使用した。
【0040】
(安定性試験)
調製した乳成分含有飲料(実施例1−1〜1−3及び比較例1−1)について、保存安定性試験を行った。具体的には、調製した飲料を5℃で4週間及び20℃で2週間保存し、保存後の飲料の状態(上透き、沈殿率及び粒子径)を評価した。結果を表3に示す。
【0041】
【表3】

【0042】
[評価項目]
(1)上透き
保存後の飲料を目視し、上透き(飲料の内容成分が分離し、飲料上部の液面付近が透明化する現象)の程度を、以下の5段階で評価した。
− :上透きがない。
± :目視で若干分かる程度の上透きがある。
+ :少々の上透きがあるが、容器を軽く振とうすると容易に分散し、上透きが解消する
++ :上透きが多く、容器を軽く振とうしても容易に分散しない
+++:上透きが非常に多い
(2)沈殿率(%)
乳成分の凝集を示す指標として、飲料の沈殿率を算出した。具体的には、容器に試料を入れた時の重さ(全体量)を測定し、遠心分離機(KUBOTA8420)を用いて遠心分離(1880×g、20分)後、30分間静置させた後に、上澄みを別容器に移して容器に残った沈殿量の重さ(沈殿量)を測定し、下記の計算式に基づいて計算を行った。
計算式:沈殿率(%)=(沈殿量−容器の重さ)/(全体量−容器の重さ)×100
なお、実質上、沈殿量が少ないと判断できる数値(商品上、問題とならない数値)を3%以下としている。
(3)粒子径(μm)
保存後の飲料の乳化粒子径(メジアン径)は、島津製作所(株)製SALD-2200を用いて測定した。
【0043】
実施例1−1〜1−3の乳成分含有飲料は、乳成分含量を高含量、且つpHを6.1に調整し、更にUHT殺菌を行ったにもかかわらず、非常に高い安定性を示した。第一に、保存時に生じる乳成分含有飲料の上透きの発生が認められなかった。一例として、実施例1−1の乳成分含有飲料を5℃で4週間保存後の様子を図1に、比較例1−1の乳成分含有飲料を5℃で4週間保存後の様子を図2に示す。図1及び図2から明らかなように、μ成分及びν成分を含有するカラギナンに加えて、濃縮乳を併用することで、飲料の上透きが認められず、高い安定性を示していた。
第二に、実施例1−1〜1−3の乳成分含有飲料は、沈殿率がいずれも1.5%以下と、実質上、沈殿が問題とならない程度にまで沈殿が抑制されていた。一方、比較例1−1の乳成分含有飲料は、沈殿率が6.11%(5℃で4週間保存後)及び7.18%(20℃で2週間保存後)と高く、商品価値が低いものであった。
第三に、実施例1−1〜1−3の乳成分含有飲料は、比較例1−1の乳成分含有飲料に比べ、乳化粒子の粒子径(メジアン径)が小さく、本数値からも高い安定性を保持していることが示された。
【0044】
また、実施例1−1の乳成分含有飲料の処方において、μ成分及びν成分を含有するカラギナンに代えて、HMペクチン(比較例1−2)、大豆多糖類(比較例1−3)又はカルボキシメチルセルロース(比較例1−4)を用いる以外は、実施例1−1の飲料と同様に、乳成分含有飲料を調製した。しかし、比較例1−2〜1−4の乳成分含有飲料は、濃縮乳を使用しているにもかかわらず、いずれも、飲料調製時に上透き及び乳タンパク質の凝集が生じ、商品価値を有さないものであった。


図1
図2