(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494934
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置、硫化鉱物微粒子の検出方法、及び硫化鉱物を探査又は監視する方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/02 20060101AFI20190325BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20190325BHJP
G01N 21/00 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
G01N29/02
G01N21/64 Z
G01N21/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-139497(P2014-139497)
(22)【出願日】2014年7月7日
(65)【公開番号】特開2015-28476(P2015-28476A)
(43)【公開日】2015年2月12日
【審査請求日】2017年7月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-141645(P2013-141645)
(32)【優先日】2013年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501204525
【氏名又は名称】国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100111006
【弁理士】
【氏名又は名称】藤江 和典
(74)【代理人】
【識別番号】100116241
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 一郎
(72)【発明者】
【氏名】中島 康晴
【審査官】
佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−201271(JP,A)
【文献】
特開昭55−047435(JP,A)
【文献】
特開昭60−082835(JP,A)
【文献】
特開昭59−187245(JP,A)
【文献】
特開昭55−159139(JP,A)
【文献】
実開昭57−147749(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01、21/17−21/74、
29/00−29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に存在する、硫化鉱物を含む微粒子をリアルタイムで検出する検出装置であって、前記微粒子を含む水を入れる容器である検出用セルと、前記微粒子を含む水を前記検出用セルに断続的に供給及び排水する供給・停止手段と、前記検出用セルの中に励起光を照射する光源手段と、前記励起光を吸収した前記微粒子が発する音響波を検出する音響波検出手段と、前記光源手段を制御する光源制御手段と、前記音響波検出手段から伝達された音響信号を処理する信号処理手段とを具備することを特徴とする光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項2】
前記検出用セルが照射された前記励起光が内部を透過する構造であることを特徴とする請求項1に記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項3】
前記音響波検出手段は前記検出用セルの中の前記励起光の通過を妨げない構造に形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項4】
前記検出用セルが前記検出用セルの中の前記励起光の通過を妨げない構造に形成した注水口及び排水口を有することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項5】
前記微粒子を含まない水を入れた対比用セルと、前記対比用セルの中に照射する励起光を前記励起光から分割する励起光分割手段と、前記対比用セル内で発する音響波を検出する対比音響波検出手段とをさらに具備し、前記信号処理手段が前記対比音響波検出手段から伝達された音響信号をさらに処理することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項6】
前記信号処理手段が前記音響波検出手段から伝達された音響信号と前記対比音響波検出手段から伝達された音響信号の差分をとることを特徴とする請求項5に記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項7】
前記励起光を吸収した前記微粒子の発光を検出する発光検出手段をさらに具備することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項8】
前記発光検出手段が前記微粒子の発光した燐光を検出したことを特徴とする請求項7に記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項9】
前記光源手段が波長の異なる前記励起光を順次照射する順次照射機能を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項10】
前記信号処理手段で得た情報の情報記録手段と、少なくとも前記情報録手段で記録した情報の通信を外部と行う通信手段をさらに具備することを特徴とする請求項1から請求項9のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置。
【請求項11】
前記請求項1から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用した硫化鉱物微粒子の検出方法であって、硫化鉱物が検出されたと判定した場合は、前記音響信号の強度を参照用データと比較し、硫化鉱物の含有量をリアルタイムで判定することを特徴とする光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出方法。
【請求項12】
前記請求項5から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用した硫化鉱物微粒子の検出方法であって、前記信号処理手段が前記音響波検出手段から伝達された音響信号と前記対比音響波検出手段から伝達された音響信号の差分をとることによって硫化鉱物が検出されたと判定することを特徴とする光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出方法。
【請求項13】
前記請求項7から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用した硫化鉱物微粒子の検出方法であって、硫化鉱物が検出されたと判定した場合は、前記発光検出手段により検出された、前記発光の強度及び発光時間を参照用データと比較し、硫化鉱物の種類及び/又は含有量をリアルタイムで判定することを特徴とする光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出方法。
【請求項14】
前記請求項1から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用して、水中に存在する硫化鉱物を含む前記微粒子を検出し、硫化鉱物の種類及び/又は含有量に基づいて前記検出装置を水中で自律的に移動させることにより、水底に存在する硫化鉱物を探査又は監視することを特徴とする光音響効果を用いた硫化鉱物を探査又は監視する方法。
【請求項15】
前記請求項1から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用して、水中に存在する硫化鉱物を含む前記微粒子を検出し、硫化鉱物の種類及び/又は含有量の情報を位置情報とともにマッピングすることにより、水底に存在する硫化鉱物を探査又は監視することを特徴とする光音響効果を用いた硫化鉱物を探査又は監視する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に存在する硫化鉱物微粒子の検出装置、検出方法、及び海底に存在する塊状硫化鉱物等の探査又は監視に関する。
【背景技術】
【0002】
日本近海を含む世界各地の海底には、高温の熱水が海底から噴出する熱水噴出域が存在する。海底下の熱水には様々な物質が溶解しているが、海中に噴出すると直ちに冷却され、溶解していた物質のうち、常温の海水における溶解度の低い物質が析出する。析出物のうち、金属と硫黄の化合物である硫化鉱物が海底に堆積することによって形成された塊状硫化鉱物は、世界の海底に数多く分布している。特に、銅、鉛、亜鉛などの有用金属を豊富に含む塊状硫化鉱物は、将来の金属鉱物資源として期待されている。
熱水性塊状硫化物が形成されるとき、比較的大きな硫化鉱物の粒子は速やかに海底に堆積して塊状硫化物を形成するのに対して、微細な粒子は沈降せず、海中に流出する。海中に存在する微粒子の検出は、セジメントトラップ等を用いて採取した海中の沈降物の分析により行うことができるが、海中の沈降物には、熱水性塊状硫化物に由来する硫化鉱物微粒子だけではなく、それ以外の人為的活動や、自然界における物理的・生物的な作用によって発生した微粒子も含まれる。硫化鉱物微粒子の検出を行うためには、採取した沈降物を研究施設等に持ち帰り、分析を行うことが必要である。
【0003】
海底に存在する塊状硫化鉱物に含まれる銅、鉛、亜鉛などの金属の含有量を測定する方法が、例えば特許文献1に記載されている。この技術においては、海底などの水底に存在する水底物質の近傍から発光装置により単色光を照射し、水底物質に発生する光音響現象を水底物質に接触させた光音響センサーにより感知し圧電信号として検出する。この圧電信号を電気信号に変換し、光音響スペクトルの観測装置に伝送する。観測装置によって得られた水底物質の光音響スペクトル信号の強度と標準光音響スペクトル信号の強度の比を、予め既知試料の特性と対比することにより、水底物質に含まれる銅、鉛、亜鉛などの金属の含有量を測定することができる。
特許文献2においては、光音響効果を利用して媒質中に存在する測定対象分子の二次元又は三次元濃度分布を測定する方法が記載されている。この技術においては、測定対象分子によって強く吸収される波長のパルス光又は変調光を照射し、光と測定対象分子の相互作用による光音響効果で発生する音響波(圧力波)を検出し、検出した音響信号を処理することにより測定対象分子の濃度情報を取得する。また、照射される光の発光から音響波検出までの時間差を計測し、音響波の発生位置を同定する。さらに、光源からの光を一次元又は二次元的に走査することにより、媒質中における測定対象分子の二次元的又は三次元的な濃度分布の情報を取得することができる。
特許文献3においては、光音響効果を利用してガス状試料中に存在するエアロゾルを測定するための測定チャンバーについて記載されている。この技術においては、ガス状試料の流入口を測定チャンバー両端に設け、その中間となる位置に流出口を設けることにより、ガス状試料の窓への衝突を回避し、エアロゾルによる測定チャンバーの窓の汚化を防止することにより、長時間に亘って高感度で測定を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−187245号公報
【特許文献2】特開平10−253487号公報
【特許文献3】特開2005−214973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されている方法で測定を行うためには、水中カメラ等を用いて水底を観察し、測定の対象とすべき水底物質を探索した上で、水底まで発光装置及び光音響センサーを接近させ、水底物質に光音響センサーを接触させなければならない。すなわち、事前に水底物質の存在が分かった上で、水底物質に光音響センサーを接触させて判定するものであるので、広大な海底において所在が知られていない鉱物を新たに発見する行為である探査には使用できない。実際には、海底地形の特徴や海底からの熱水噴出に伴う周辺海水の温度上昇などを手がかりとして探査が行われているが、多大な時間とコストを要している。
また、特許文献2に記載されている方法では、二次元的又は三次元的な濃度分布の情報を取得することができるとされており、液体媒質中に存在する分子の濃度分布を測定する方法も示されている。しかし、水中では光の減衰が大きく、特に塩分や夾雑物を含む海水中では光源からの光は数メートル程度の距離で減衰してしまい、それ以上の距離に対して光源を用いて計測を行うことは現実には不可能である。
また、特許文献3に記載されている方法は、主としてガス状試料に含まれるエアロゾルの測定を想定したものである。ガスや空気などの気体中に浮遊するエアロゾルはきわめて微細な粒子で質量が小さく、沈降しにくいのに対して、水中には比較的サイズや質量の大きな粒子が浮遊しており、流れによどみが生じた場合は速やかに粒子が沈降して測定チャンバー内に滞留する。このため、粒子を含む液状試料に対して本方法を適用した場合、正確な測定ができなくなる可能性が高い。
【0006】
また、塊状硫化鉱物には砒素などの有害な物質が含まれる場合があるため、塊状硫化鉱物の採掘においては、塊状硫化鉱物の破砕により発生した硫化鉱物を含む微粒子(硫化鉱物微粒子)が水中に浮遊したまま外部の海域に流出することを監視する必要がある。硫化鉱物微粒子は水中に浮遊しているため、特許文献1に記載されている方法で光音響センサーを接触させることはできず、上記の方法では硫化鉱物微粒子の流出をリアルタイムで監視することは不可能である。また、特許文献2に記載されている方法では、海水中では数メートル以上の距離に対して光源を用いて計測を行うことは現実には不可能である。上記の2つの方法においては、いずれも開放空間において光音響効果を利用して計測を行っているため、検出対象物質が大量若しくは高濃度で存在する場合でなければ発生する音響波は微弱であるため、検出することは困難である。発生する音響波を効率的に検出するため容器を使用して閉鎖空間で用いることも考えられるが、上記の2つの方法ではいずれも示唆されていない。また、特許文献3に記載されている方法は、粒子を含む液状試料に適用することは適切ではない。
【0007】
海底の塊状硫化鉱物の探査や、その採掘に伴う硫化鉱物微粒子の流出の監視を行うためには、海中に存在する硫化鉱物微粒子を広範囲にわたって検出する検出装置及び検出方法が必要である。海中に浮遊している硫化鉱物微粒子のサイズは一般に数十μm以下であり、また、熱水噴出口などの発生地点を除き、水中における硫化鉱物微粒子の含有率はきわめて低い。このように、微細かつ低含有率で存在している硫化鉱物微粒子を検出するためには、光音響効果により発生する音響波を効率的かつ高感度で検出するために検出用容器等の閉鎖空間を用いた検出装置及び検出方法が必要であるが、そのような検出装置及び検出方法は知られていない。このため、海底の塊状硫化鉱物の探査には多大な時間とコストを要し、また、塊状硫化鉱物の採掘において発生した硫化鉱物微粒子の流出をリアルタイムで監視することは不可能であった。
【0008】
本発明は、斯かる問題点に鑑みてなされたものであり、光音響効果により発生する音響波を効率的かつ高感度で検出することが可能な検出用容器を用いて、水中に低含有率で存在する硫化鉱物微粒子を広範囲にわたって検出することが可能な検出装置及び検出方法を提供する。また、塊状硫化鉱物の探査に要する時間やコストの低減やリアルタイムでの硫化鉱物微粒子の流出監視等を可能にする探査又は監視する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の請求項1に係る光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置は、水中に存在する、硫化鉱物微粒子を
リアルタイムで検出する検出装置であって、前記微粒子を含む水を入れる容器である検出用セルと、
前記微粒子を含む水を前記検出用セルに断続的に供給及び排水する供給・停止手段と、前記検出用セル内の水に励起光を照射する光源手段と、前記励起光を吸収した前記微粒子が発する音響波を検出する音響波検出手段と、前記光源手段を制御する光源制御手段と、前記音響波検出手段から伝達された音響信号を処理する信号処理手段とを具備することを特徴とする。
この発明においては、硫化鉱物微粒子を含む可能性のある水を検出用セルに入れ、光源手段を用いて励起光を照射する。硫化鉱物はその種類に応じた特定波長の光を吸収し、光音響効果により、音響波を発生する。硫化鉱物微粒子を含む可能性のある水は検出用セルに封入されているため、発生する音響波のエネルギーが外部に漏れることはなく、音響波を高感度で検出することができる。例えば、特定波長の励起光の照射に対する音響波を検出することにより、水中に特定の種類の硫化鉱物微粒子が存在することを効率的に検知することができる。
また、断続的に注水・排水を行い、閉鎖空間を構成して硫化鉱物微粒子の検出を行うことが可能となる。
【0010】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置において、前記検出用セルが照射された前記励起光が内部を透過する構造であることを特徴とする。
この発明においては、検出用セルが、照射された励起光がその内部を透過する構造を有することにより、検出用セルを構成する部品による励起光の吸収や散乱が防止され、硫化鉱物微粒子による励起光の吸収を促進することが可能となる。
【0011】
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置において、前記音響波検出手段は前記検出用セルの中の前記励起光の通過を妨げない構造に形成したことを特徴とする。
この発明においては、検出用セルに設置される音響波検出手段が、照射された励起光が検出用セルの内部を通過することを妨げない構造を有することにより、励起光を照射した場合に検出用セルの中に音響波検出手段の影となる部分がなくなるため、硫化鉱物微粒子による励起光の吸収を促進することが可能となる。
【0012】
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置において、前記検出用セルが前記検出用セルの中の前記励起光の通過を妨げない構造に形成した注水口及び排水口を
有することを特徴とする。
この発明においては、例えば、検出を行う前に、注水口から硫化鉱物微粒子を含む可能性のある水を入れ、検出後にその水を排水口より排出することを、注水口への水の供給・停止を行うための供給・停止手段で行うことにより、
励起光の通過を妨げない構造に形成した注水口及び排水口を介して断続的に注水・排水を行い、閉鎖空間を構成して硫化鉱物微粒子の検出を行うことが可能となる。
【0013】
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載の本発明の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置において、前記微粒子を含まない水を入れた対比用セルと、前記対比用セルの中に照射する励起光を前記励起光から分割する励起光分割手段と、前記対比用セル内で発する音響波を検出する対比音響波検出手段とをさらに具備し、前記信号処理手段が前記対比音響波検出手段から伝達された音響信号をさらに処理することを特徴とする。
この発明においては、検出用セルを用いて硫化鉱物微粒子の検出を行うときに、あらかじめ微粒子を含まない水を入れた対比用セルに、検出用セルに照射される励起光から励起光分割手段を用いて分割された励起光を同時に照射して、対比音響波検出手段から伝達された音響信号を信号処理手段で処理することにより、外部からの振動などにより生じるノイズの影響を除去し、硫化鉱物微粒子の検出を高感度で行うことが可能となる。
【0014】
請求項6記載の本発明は、請求項5に記載の本発明の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置において、前記信号処理手段が前記音響波検出手段から伝達された音響信号と前記対比音響波検出手段から伝達された音響信号の差分をとることを特徴とする。
この発明においては、音響波検出手段から伝達された音響信号と対比音響波検出手段から伝達された音響信号の差分をとることにより、外部からの振動などにより生じるノイズの影響を除去し、硫化鉱物微粒子の検出を高感度で行うことが可能となる。
【0015】
請求項7記載の本発明は、請求項1から請求項6のいずれかに記載の本発明の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置において、前記微粒子の発光を検出する発光検出手段をさらに具備することを特徴とする。
この発明においては、上記の手段に加えて、励起光を吸収した硫化鉱物微粒子からの発光を検出する発光検出手段を有することにより、微粒子が発する音響波だけでなく、発光をも検出に利用することが可能となる。
【0016】
請求項8記載の本発明は、請求項7に記載の本発明の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置において、前記発光検出手段が前記微粒子の発光した燐光を検出することを特徴とする。燐光とは、硫化鉱物微粒子の内部に吸収された励起光のエネルギーが蓄積され、照射終了後においても継続して発光される光である。
この発明においては、前記の発光検出手段が、硫化鉱物微粒子の発する燐光を検出することにより、励起光の照射が終了した後において微粒子の発光を検出し、照射終了後の発光時間を計測することが可能となる。
【0017】
請求項9記載の本発明は、請求項1から請求項8のいずれかに記載の本発明の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置において、前記光源手段が波長の異なる前記励起光を順次照射する順次照射機能を有することを特徴とする。
この発明においては、光源手段が波長の異なる励起光を順次照射し、波長の異なる励起光により生じる発光を区別することが可能となる。
【0018】
請求項10記載の本発明は、請求項1から請求項9のいずれかに記載の本発明の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置において、前記信号処理手段で得た情報の情報記録手段と、少なくとも前記情報録手段で記録した情報の通信を外部と行う通信手段をさらに具備することを特徴とする。
この発明においては、前記信号処理手段で得た情報を記録する情報記録手段と、少なくとも前記情報録手段で記録した情報の通信を外部と行う通信手段により、硫化鉱物微粒子の検出装置において硫化鉱物微粒子の検出を記録し、通信手段により情報記録手段で記録した情報を外部において利用することが可能となる。
【0019】
本発明の請求項11に係る光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出方法は、前記請求項1から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用した硫化鉱物微粒子の検出方法であって、硫化鉱物が検出されたと判定した場合は、前記音響信号の強度を参照用データと比較し、硫化鉱物の含有量を
リアルタイムで判定することを特徴とする。
この発明においては、水中に含まれている硫化鉱物微粒子を検出し、検出された音響信号の強度を、あらかじめ取得されている参照用データと比較することにより、水中に含まれている硫化鉱物の含有量をリアルタイムで判定することが可能となる。
【0020】
本発明の請求項12に係る光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出方法は、前記請求項5から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用した硫化鉱物微粒子の検出方法であって、前記信号処理手段が前記音響波検出手段から伝達された音響信号と前記対比音響波検出手段から伝達された音響信号の差分をとることによって硫化鉱物微粒子が検出されたと判定することを特徴とする。
この発明においては、音響波検出手段から伝達された音響信号と対比音響波検出手段から伝達された音響信号の差分をとることにより、外部からの振動などにより生じるノイズの影響を除去し、硫化鉱物微粒子の検出を高感度で行うことが可能となる。
【0021】
本発明の請求項13に係る光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出方法は、前記請求項7から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用した硫化鉱物微粒子の検出方法であって、硫化鉱物が検出されたと判定した場合は、前記発光検出手段により検出された、前記発光の強度及び発光時間を参照用データと比較し、硫化鉱物の種類及び/又は含有量を
リアルタイムで判定することを特徴とする。
この発明においては、水中に含まれている硫化鉱物微粒子を検出し、検出された発光の強度及び発光時間を、あらかじめ取得されている参照用データと比較することにより、水中に含まれている硫化鉱物の種類や含有量をリアルタイムで判定することが可能となる。
【0022】
本発明の請求項14に係る光音響効果を用いた硫化鉱物を探査又は監視する方法は、前記請求項1から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用して、水中に存在する硫化鉱物を含む前記微粒子を検出し、硫化鉱物の種類及び/又は含有量に基づいて水中を自律的に移動することにより、水底に存在する硫化鉱物を探査又は監視することを特徴とする。
この発明においては、光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を潜水艇などに搭載し、水中に存在する硫化鉱物微粒子を検出し、硫化鉱物の種類や含有量に応じて水中を自律的に移動することにより、水底に存在する硫化鉱物を効率的に探査又は監視することが可能になる。
【0023】
本発明の請求項15に係る光音響効果を用いた硫化鉱物を探査又は監視する方法は、前記請求項1から請求項10のいずれかに記載の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置を利用して、水中に存在する硫化鉱物を含む前記微粒子を検出し、硫化鉱物の種類及び/又は含有量の情報を位置情報とともにマッピングすることにより、水底に存在する硫化鉱物を探査又は監視することを特徴とする。
この発明においては、硫化鉱物微粒子の検出装置を潜水艇などに搭載し、水中に存在する硫化鉱物微粒子を検出し、硫化鉱物の種類や含有量の情報を位置情報とともにマッピングすることにより、水底に存在する硫化鉱物を効率的に探査又は監視し、また、水中における硫化鉱物微粒子の分布状況に関する知見を得ることすることが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置においては、検出用セルの中に励起光を照射し励起光を吸収した微粒子が発する音響波を検出する構成であるため、水中に存在する硫化鉱物微粒子を検出することができる。検出用セルを使用することにより、発生する音響波のエネルギーを外部に漏らすことなく、高感度で音響波を検出することができる。また、励起光を照射する発光手段の使用エネルギーが少なくて済む。また、例えば、特定波長の励起光の照射に対する音響波を検出することにより、水中に特定の種類の硫化鉱物微粒子が存在することを効率的に検知することができる。
また、硫化鉱物微粒子を含む水の供給・停止手段を有することにより、検出用セルへの水の注水・排水を断続的に行い、閉鎖空間を構成して水中に存在する硫化鉱物微粒子を効率よく検出することができる。
【0025】
検出用セルが照射された励起光が内部を透過する構造であるため、検出用セルを構成する部品による励起光の吸収や散乱を防止し、水中に存在する硫化鉱物微粒子を効率よく検出することができる。
【0026】
音響波検出手段が検出用セルの中の励起光の通過を妨げない構造を有することにより、励起光を照射した場合に検出用セルの中に音響波検出手段の影となる部分がなくなるため、水中に存在する硫化鉱物微粒子を効率よく検出することができる。
【0027】
検出用セルが検出用セルの中の励起光の通過を妨げない構造に形成した注水口及び排水口を
有することにより、
励起光の通過を妨げない構造に形成した注水口及び排水口を介して検出用セルへの水の注水・排水を断続的に行い、閉鎖空間を構成して水中に存在する硫化鉱物微粒子を効率よく検出することができる。
【0028】
微粒子を含まない水を入れた対比用セルと、対比用セルの中に照射する励起光を検出用セルに照射する励起光から分割する励起光分割手段と、対比用セル内で発する音響波を検出する対比音響波検出手段とをさらに有し、信号処理手段が対比音響波検出手段から伝達された音響信号をさらに処理する機能を有することにより、外部からの振動などにより生じるノイズの影響を除去し、高感度で硫化鉱物微粒子を検出することができる。
【0029】
信号処理手段が音響波検出手段から伝達された音響信号と対比音響波検出手段から伝達された音響信号の差分をとる機能を有することにより、外部からの振動などにより生じるノイズの影響を除去し、高感度で硫化鉱物微粒子を検出することができる。
【0030】
励起光を吸収した硫化鉱物微粒子の発光を検出する発光検出手段をさらに有することにより、硫化鉱物微粒子が発する音響波だけでなく、発光をも検出に利用することにより、水中に存在する特定の種類の硫化鉱物微粒子を効率よく検出することができる。
【0031】
発光検出手段が硫化鉱物微粒子の発光した燐光を検出する機能を有することにより、励起光の照射が終了した後において硫化鉱物微粒子の発光を検出し、水中に存在する硫化鉱物微粒子を効率よく検出することができる。また、照射終了後の発光時間を計測し、燐光の有無により、水中に存在する硫化鉱物微粒子の種類を特定することができる。
【0032】
光源手段が波長の異なる励起光を順次照射する順次照射機能を有することにより、波長の異なる励起光により生じる発光を区別し、水中に存在する硫化鉱物微粒子の種類を特定することができる。
【0033】
信号処理手段で得た情報の情報記録手段と、少なくとも情報録手段で記録した情報の通信を外部と行う通信手段をさらに有することにより、硫化鉱物微粒子の検出を記録し、通信手段によりその情報を外部において利用することができる。
【0034】
光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出方法においては、水中に含まれている硫化鉱物微粒子を検出し、検出された音響信号の強度を、あらかじめ取得されている参照用データと比較することにより、水中に存在する硫化鉱物の含有量を判定することができる。
【0035】
信号処理手段が音響波検出手段から伝達された音響信号と対比音響波検出手段から伝達された音響信号の差分をとることにより、外部からの振動などにより生じるノイズの影響を除去し、高感度で硫化鉱物微粒子を検出することができる。
【0036】
水中に含まれている硫化鉱物微粒子を検出し、検出された発光の強度及び発光時間を、あらかじめ取得されている参照用データと比較することにより、水中に存在する硫化鉱物の種類及び/又は含有量を判定することができる。
【0037】
光音響効果を用いた硫化鉱物を探査又は監視する方法においては、硫化鉱物の種類及び/又は含有量に基づいて水中を自律的に移動することにより、水底に存在する塊状硫化鉱物を探査することができる。また、塊状硫化鉱物の採掘に伴う硫化鉱物微粒子の流出状況を監視することができる。また、探査や監視に要するコストを削減することが可能になる。
【0038】
硫化鉱物の種類及び/又は含有量の情報を位置情報とともにマッピングすることにより、水底に存在する塊状硫化鉱物を探査し、水中における硫化鉱物微粒子の分布状況に関する知見を得ることができる。また、塊状硫化鉱物の採掘に伴う硫化鉱物微粒子の流出状況を監視することができる。また、探査や監視に要するコストを削減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の第1の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置の概念図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置の要部の構成を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置のフローチャートである。
【
図4】本発明の第2の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置の要部の構成を示す図である。
【
図5】本発明の第3の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置の概念図である。
【
図6】本発明の第3の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置のスペクトルチャートである。
【
図7】本発明の第4の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置のフローチャートである。
【
図8】本発明の第5の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置の概念図である。
【
図9】本発明の第6の実施の形態における光音響効果を用いた、水底に存在する硫化鉱物を探査する方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を実施するための形態となる光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置について説明する。
図1は、本発明の第1の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置10の概念図である。光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置10は、検出用セル11、光源手段12、光源制御手段14、圧電素子(音響波検出手段)15、信号処理手段16から構成される。光源手段12は、レーザ制御部12−1、順次照射部12−2、レーザヘッド12−3から構成される。光源制御手段14は、スイッチ14−1、順次照射選択スイッチ14−2、電源部14−3から構成される。信号処理手段16は、判断処理部16−1、参照データ記憶部16−2、データ比較部16−3から構成される。圧電素子15は、筐体30の内部空間における励起光13の通過を妨げないように形成される。また、筐体30の内部への水の供給及び排水のための注水口32及び排水口33は、励起光13の通過を妨げないように形成される。励起光13の通過を妨げない構造としては、例えば、励起光13の光路上に圧電素子15、注水口32、排水口33が突出していない構造が考えられる。
図2は、光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置10の要部の構成を示す図である。検出用セル11は、筐体30及び窓31から構成される。筐体30は注水口32及び排水口33を有する。検出用セル11には、水の供給及び供給停止を行うための供給・停止手段34が取り付けられている。注水や排水において、検出用セル11内によどみが生じ、硫化鉱物微粒子が滞留することを防ぐために、注水口32及び排水口33はテーパーのついた形状になっている。また、注水や排水において、水が窓31の表面に沿って洗うように流動する構造であるため、硫化鉱物微粒子が窓31の表面に付着、堆積することを防止することができる。また、圧電素子(音響波検出手段)15が取り付けられている。さらに、受光素子(発光検出手段)36を取り付けることにより、励起光を吸収した硫化鉱物微粒子が音響波を生じるだけでなく発光する場合、その発光を検出することができる。
【0041】
硫化鉱物微粒子を含む可能性のある水は、検出用セル11の筐体30に入れられる。光源手段12を用いて照射された励起光13は、窓31を通して筐体30の内部空間を通過し、水に照射される。水に硫化鉱物微粒子が含まれていると、硫化鉱物の種類に応じた特定波長の光が硫化鉱物微粒子に吸収される。吸収された励起光13のエネルギーは熱に変換され、硫化鉱物微粒子や周囲の水の温度を上昇させる。密閉された検出用セル11内では、温度上昇に伴って内部の圧力が上昇し、圧力波すなわち音響波が生じる。この現象を光音響効果と呼ぶ。圧電素子(音響波検出手段)15を用いて音響波を検出し、信号処理手段16を用いて音響波の信号を処理することにより、水中に特定の種類の硫化鉱物微粒子が存在することを検知することができる。
【0042】
図3は、本発明の第1の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置10のフローチャートであり、硫化鉱物微粒子検出方法を示す。まず光源制御手段14に設けられたスイッチ14−1をオンにすることにより、電源部14−2から電力が光源手段12、供給・停止手段34、圧電素子(音響波検出手段)15、信号処理手段16に供給され、硫化鉱物微粒子の検出が開始される。供給・停止手段34により検出用セル11内に硫化鉱物微粒子を含む可能性のある水が充填されて密閉され、閉鎖空間が構成される。(ステップS1) 光源手段12のレーザ制御部12−1によりレーザ発光が制御されレーザヘッド12−2を用いて励起光13を検出用セル11に照射する。(ステップS2)検出用セル11を使用することにより、励起光13を照射する範囲が限定でき、光源手段12の使用エネルギーが少なくて済む。
圧電素子(音響波検出手段)15を用いて音響波を検出し、信号処理手段16を用いて音響波の信号を処理する。検出用セル11を使用することにより、発生する音響波のエネルギーを外部に漏らすことなく、高感度で音響波を検出することができる。判断処理部16−1は特定の種類の硫化鉱物微粒子が存在するか否かを判断する。(ステップS3) 音響波の信号が検出されないと判定処理部16−1が判断した場合は、特定の種類の硫化鉱物微粒子は存在しないと判断される。(ステップS4) 音響波の信号が検出されたと判定処理部16−1が判断した場合は、特定の種類の硫化鉱物微粒子は存在すると判断される。(ステップS5) さらに、検出された音響波の信号の強度を、参照データ記憶部16−2に記憶されている参照用データと比較する。(ステップS6) データ比較部16−3が検出された音響波の信号の強度と参照用データを比較することにより、水中に含まれる特定の種類の硫化鉱物の含有量を判定する。(ステップS7) 供給・停止手段34を用いて検出用セル11内の水を順次交換して硫化鉱物微粒子の検出を行うことにより、試料の持ち帰りを行うことなくリアルタイムで検出することができる。
【0043】
次に、硫化鉱物の種類と吸収される光の波長との関係について説明する。主な硫化鉱物が吸収する光の波長を表1に示す。硫化鉱物は、その種類に応じた特定波長の光を吸収する。例えば、硫化亜鉛を成分とする閃亜鉛鉱は350nmの光を、硫化カドミウムを成分とする硫カドミウム鉱は512nmの光を、硫化水銀を成分とする辰砂は620nmの光を、硫化鉛を成分とする方鉛鉱は3100nmの光を吸収する。検出対象とする硫化鉱物の種類に応じて照射する励起光の波長を選択することにより、特定の種類の硫化鉱物微粒子を検出することができる。例えば、閃亜鉛鉱を検出したいときには、波長350nmの光を励起光として照射するのがよい。
【0045】
なお、1つの波長の励起光により光音響効果と発光の両方を期待できる場合、圧電素子だけではなく受光素子を用いて検出することもできる。例えば、少量のマンガンや銅を微量元素として含む硫化亜鉛は、波長約350nmの光を吸収し、微量元素の種類に応じて特定の波長(例えば、マンガンの場合は約585nm)の蛍光を発する。この性質を利用して、音響波と発光の両方を検出に利用することができる。
【0046】
図4は、本発明の第2の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置10の要部の構成を示す図である。注水口32及び排水口33は筐体30の両端に配置され、窓31は筐体30の側面に配置される。図示していないが、供給・停止手段34が取り付けられている。励起光13は窓31を通して筐体30の内部空間を通過、水に照射される。検出用セル11への注水や排水において水は筐体30内をよどむことなく直線的に流動し、検出用セル11の内部、特に窓31の内面に硫化鉱物微粒子が滞留することを防ぐ。筐体30の側面には、圧電素子(音響波検出手段)15が取り付けられている。さらに、受光素子(発光検出手段)36(図示せず)を取り付けることもできる。
【0047】
図5は、本発明の第3の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置10の概念図である。本装置は、検出用セル11、光源手段12、光源制御手段14、圧電素子(音響波検出手段)15、信号処理手段16、対比用セル17、励起光13を分割するハーフミラー(励起光分割手段)18、対比用セル17内で発する音響波を検出する圧電素子(対比音響波検出手段)19から構成される。光源手段12は、レーザ制御部12−1、順次照射部12−2、レーザヘッド12−3から構成される。光源制御手段14は、スイッチ14−1、順次照射選択スイッチ14−2、電源部14−3から構成される。信号処理手段16は、判断処理部16−1、参照データ記憶部16−2、データ比較部16−3、差分処理部16−4から構成される。また、励起光13から分割された励起光を対比用セル17に導くための導光手段20を設置することもできる。対比用セル17には硫化鉱物微粒子を含まない水が入れられている。対比用セル17及び圧電素子(対比音響波検出手段)19は、検出用セル11及び圧電素子(音響波検出手段)15と同一の構造、仕様のものである。励起光分割手段18により分割された励起光13を検出用セル11及び対比用セル17に同時に照射し、圧電素子(音響波検出手段)15及び圧電素子(対比音響波検出手段)19から伝達された音響信号を差分処理部16−4で処理し、これらの音響信号の差分をとることにより、外部からの振動などにより生じるノイズの影響を除去し、硫化鉱物微粒子の検出を高感度で行うことが可能となる。音響信号の差分に対して、判断処理部16−1は特定の種類の硫化鉱物微粒子が存在するか否かを判断する。さらに、音響信号の差分の強度と参照データ記憶部16−2に記憶されている参照用データをデータ比較部16−3が比較することにより、水中に含まれる特定の種類の硫化鉱物の含有量を判定する。
【0048】
図6は、本発明の第3の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置のスペクトルチャートである。検出用セル11から得られた音響信号のスペクトルには、硫化鉱物微粒子に由来する音響波の信号だけでなく外部からの振動などにより生じるノイズも含まれるため、高感度で検出できない場合がある。また、ノイズの原因としては、例えば検出用セル11内の水による励起光13の吸収も考えられる。そこで、硫化鉱物微粒子を含まない水を入れた対比用セル17を設置し、検出用セル11と同様に励起光13を照射して音響信号のスペクトルを取得し、両者の差分をとることにより、ノイズの影響を除去し、硫化鉱物微粒子の検出を高感度で行うことが可能となる。
励起光を分割せずに対比用セルに励起光を照射する方法としては、対比用セルのために独立した光源手段を設置する方法がある。しかしながら、光源手段を2つ設置するため装置構成が複雑となり、装置の価格も高額になる。また、励起光の光路上に検出用セルと対比用セルを並べ、第1のセルを透過した励起光を第2のセルに照射して音響信号を取得する方法もある。例えば、まず対比用セルに励起光を照射し、透過した励起光を検出用セルに照射する方法が考えられる。しかしながら、励起光が2つのセルを透過するためには、1つのセルを透過する場合よりも出力の大きな光源手段が必要であり、装置の価格も高額になる。これに対して、励起光分割手段としてはハーフミラー等の安価な部品を利用できる。以上のことから、励起光分割手段を用いて励起光を分割し、対比用セルに励起光を照射する方法が優れている。
また、単一の信号処理手段で音響信号間の差分をとる以外の方法として、検出用セルからの音響信号と対比用セルからの音響信号を独立した別個の信号処理手段で処理し、その結果をさらに別の手段で処理する方法もある。しかしながら、装置構成が複雑になり、装置の価格も高額になる。以上のことから、単一の信号処理手段を用いて、検出用セルから得られた音響信号と対比用セルから得られた音響信号の差分をとる方法が優れている。
【0049】
図7は、本発明の第4の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子検出装置10のフローチャートであり、硫化鉱物微粒子検出方法を示す。まず光源制御手段14に設けられたスイッチ14−1をオンにすることにより、電源部14−2から電力が光源手段12、供給・停止手段34、圧電素子(音響波検出手段)15、信号処理手段16に供給され、硫化鉱物微粒子の検出が開始される。供給・停止手段34により検出用セル11内に硫化鉱物微粒子を含む可能性のある水が充填され、密閉される。(ステップS11) 光源手段12のレーザ制御部12−1によりレーザ発光が制御されレーザヘッド12−2を用いて励起光13を検出用セル11に照射する。順次照射選択スイッチ14−3をオンにすることにより順次照射部12−3が作動し、波長の異なる励起光13を順次照射する。(ステップS12) 圧電素子(音響波検出手段)15を用いて音響波を検出し、信号処理手段16を用いて音響波の信号を処理する。判断処理部16−1は特定の複数種の硫化鉱物微粒子が存在するか否かを判断する。(ステップS13) 音響波の信号が検出されないと判断処理部16−1が判断した場合は、特定の複数種の硫化鉱物微粒子は存在しないと判断される。(ステップS14) 音響波の信号が検出されたと判断処理部16−1が判断した場合は、特定の複数種の硫化鉱物微粒子は存在すると判断される。(ステップS15) さらに、受光素子(発光検出手段)36を用いて励起光13の照射後に発生した散乱光、蛍光、燐光などの光を検出する。信号処理手段16において、発光信号の強度及び発光時間を、参照データ記憶部16−2に記憶されている参照用データと比較する。(ステップS16) 検出された発光信号の強度及び発光時間を、参照用データと比較することにより、データ比較部16−3が水中に含まれる特定の複数種の硫化鉱物の種類及び/又は含有量を判定する。(ステップS17)
【0050】
本発明の第1の実施の形態においては、単一の波長の励起光を照射し、音響波の信号のみを用いて特定の種類の硫化鉱物微粒子の検出や含有量の判定を行うが、第4の実施の形態においては、波長の異なる励起光を順次照射し、音響波の信号と発光信号の両方を用いる。例えば、音響信号を用いて硫化鉱物微粒子の有無を判定し、発光信号から得られたデータを用いて特定の複数種の硫化鉱物の種類及び/又は含有量を判定する。また、音響信号を用いて硫化鉱物微粒子の有無を判定し、発光信号から得られたデータ及び音響信号から得られたデータの両方を用いて特定の複数種の硫化鉱物の種類及び/又は含有量を判定することも可能である。発光信号から得られたデータ及び音響信号から得られたデータの両方を使用することにより、特定の複数種の硫化鉱物の種類及び/又は含有量の判定がより正確に可能となる。なお、波長の異なる励起光を順次照射し、音響波の信号のみを用いて特定の複数種の硫化鉱物微粒子の検出や含有量の判定を行うことも可能である。また、参照用データと比較する代わりに、予め標準試料を用意しておき、標準試料から得られたデータと比較することも可能である。また、波長の異なる励起光を順次照射するため、複数の光源手段を使用することも、単独で広い範囲の波長の光を発する光源手段と、その光から特定波長の光を取り出すプリズムや回折格子などの分光手段とを組み合わせて使用することも可能である。
【0051】
図8は、本発明の第5の実施の形態における光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置10の概念図である。本装置は、検出用セル11、光源手段12、光源制御手段14、圧電素子(音響波検出手段)15、信号処理手段16、情報記録手段41、通信手段42から構成されている。光源手段12は、レーザ制御部12−1、順次照射部12−2、レーザヘッド12−3から構成される。光源制御手段14は、スイッチ14−1、順次照射選択スイッチ14−2、電源部14−3から構成される。信号処理手段16は、判断処理部16−1、参照データ記憶部16−2、データ比較部16−3から構成される。情報記録手段41は情報記録部41−1、信号変換部41−2から構成されている。通信手段42は送信部42−1、受信部42−2から構成されている。
【0052】
この第5の実施の形態においては、信号処理手段16で得られた情報は情報記録手段41の信号変換部41−2により電子情報に変換され、情報記録部41−1に記録される。さらに、通信手段42の送信部42−1により通信を行うことにより、外部43において記録された情報を入手することができる。通信手段42の受信部42−2により外部43からの命令を受信することができる。
【0053】
図9は、本発明の第6の実施形態となる光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置10を利用して、水底60に存在する塊状硫化鉱物61を探査する方法を示す図である。光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置10及びバッテリー64を搭載した潜水艇62を航行させ、水中に存在する硫化鉱物微粒子50を検出する。水中の硫化鉱物の種類及び/又は含有量に基づいて潜水艇62の推進手段63を制御することにより、潜水艇62を自律的に移動させ、水底60に存在する塊状硫化鉱物61を探査することができる。また、水中の硫化鉱物の種類及び/又は含有量の情報を位置情報とともにマッピングすることにより、水底60に存在する塊状硫化鉱物61を探査することも可能である。また、得られた情報を通信71により船舶70に送信することも可能である。なお水底60とは、水底表面、水底表面から水中に突出した部分、並びに水底表面下の地中を含むものである。
【0054】
また、塊状硫化鉱物61の採掘が行われている水域において、光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置10を搭載した潜水艇62を航行させ、水中に存在する硫化鉱物微粒子50を検出し、水中の硫化鉱物の種類及び/又は含有量に応じて潜水艇62を自律的に移動させることにより、硫化鉱物微粒子50の流出を監視することが可能である。また、水中の硫化鉱物の種類や含有量の情報を位置情報とともにマッピングすることにより、特定の種類の硫化鉱物微粒子50の流出を監視することも可能である。また、得られた情報を通信71により船舶70に送信することも可能である。
【0055】
以上のように、本発明により、水中に存在する硫化鉱物微粒子のリアルタイムでの検出が可能となり、新たな海底熱水鉱床の発見や、採掘中の海底熱水鉱床の周辺海域における特定の種類の硫化鉱物微粒子の流出や流出した硫化鉱物微粒子の含有量の監視を効率的に実施することが可能となる。また、探査や監視に要するコストを削減することが可能になる。以上に述べた本発明の実施の形態は基本的なものであり、複数の実施の形態を組み合わせることにより、さらに多くの種類の実施の形態を提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、例えば、海底の塊状硫化鉱物を資源として開発するための資源探査や、資源開発における鉱害の防止などの分野で利用することができる。また、試験用の硫化鉱物微粒子の検出装置や硫化鉱物微粒子の検出装置を搭載する潜水艇等に利用することができる。
【符号の説明】
【0057】
10 光音響効果を用いた硫化鉱物微粒子の検出装置
11 検出用セル
12 光源手段
12−1 レーザ制御部
12−2 順次照射部
12−3 レーザヘッド
13 励起光
14 光源制御手段
14−1 スイッチ
14−2 順次照射選択スイッチ
14−3 電源部
15 圧電素子(音響波検出手段)
16 信号処理手段
16−1 判断処理部
16−2 参照データ記憶部
16−3 データ比較部
16−4 差分処理部
17 対比用セル
18 ハーフミラー(励起光分割手段)
19 圧電素子(対比音響波検出手段)
20 導光手段
30 筐体
31 窓
32 注水口
33 排水口
34 供給・停止手段
36 受光素子(発光検出手段)
41 情報記録手段
41−1 情報記録部
41−2 信号変換部
42 通信手段
42−1 送信部
42−2 受信部
43 外部
50 硫化鉱物微粒子
60 水底
61 塊状硫化鉱物
62 潜水艇
63 推進手段
64 バッテリー
70 船舶
71 通信