特許第6494969号(P6494969)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6494969ガラス基板の製造方法、およびガラス基板製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6494969
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法、およびガラス基板製造装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/225 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   C03B5/225
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-202484(P2014-202484)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-69251(P2016-69251A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 駿介
(72)【発明者】
【氏名】藤本 慎吾
【審査官】 和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−055100(JP,A)
【文献】 中国実用新案第203625224(CN,U)
【文献】 特開2013−212942(JP,A)
【文献】 特開2014−028734(JP,A)
【文献】 特表2012−509246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/00 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスの原料を熔解して、清澄剤を含む熔融ガラスをつくる熔解工程と、
前記熔融ガラスの導入によって前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれる気相空間が形成され、前記気相空間に接する壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置を用いて前記熔融ガラスを処理する工程であって、前記熔融ガラスの脱泡処理を行い、前記熔融ガラスの脱泡処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が前記熔融ガラスに混入する、熔融ガラス処理工程と、
前記脱泡処理の後、前記熔融ガラスの温度を1660℃以上で10分以上保持することで、前記熔融ガラス処理工程で前記熔融ガラスに混入した凝集物の少なくとも一部を前記熔融ガラスに熔解させる凝集物処理工程と、を備え、
前記熔融ガラス処理工程では、前記熔融ガラス内に酸素含有ガスをバブリングし、
前記凝集物処理工程における前記熔融ガラスの温度を1660〜1750℃とし、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を0.2〜0.5の範囲とすることを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記熔融ガラスは、前記清澄剤として、少なくとも酸化スズを含み、
前記酸化スズの含有量は、0.05〜0.4モル%であり
前記熔解工程において前記清澄剤の含有量を調節することにより前記[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を調整する、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記凝集物処理工程では、前記ガラス処理装置内の前記熔融ガラスに含まれる白金族金属の含有量が0.05〜20ppmである、請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
ガラスの原料を熔解して、清澄剤を含む熔融ガラスをつくる熔解装置と、
少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された壁を有し、前記熔融ガラスの導入によって前記熔融ガラスの表面と前記壁に囲まれた気相空間が形成されるとともに、前記熔融ガラスを処理するガラス処理装置であって、前記熔融ガラスの脱泡処理が行われ、前記脱泡処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が混入する、ガラス処理装置と、を備え、
前記ガラス処理装置では、前記脱泡処理の後、前記熔融ガラスの温度を1660℃以上で10分以上保持することで、前記熔融ガラスに混入した前記凝集物の少なくとも一部を前記熔融ガラスに熔解させる凝集物処理工程が行われ
前記ガラス処理装置は、前記熔融ガラス内に酸素含有ガスをバブリングし、
前記凝集物処理工程における前記熔融ガラスの温度を1660〜1750℃とし、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を0.2〜0.5の範囲とすることを特徴とするガラス基板製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法、およびガラス基板製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板は、一般的に、ガラス原料から熔融ガラスを生成させた後、清澄工程、均質化工程を経て、熔融ガラスをガラス基板へと成形する工程を経て製造される。 ところで、高温の熔融ガラスから品位の高いガラス基板を量産するためには、ガラス基板の欠陥の要因となる異物等が、ガラス基板を製造するいずれのガラス処理装置からも熔融ガラスへ混入しないよう考慮することが望まれる。このため、ガラス基板の製造過程において熔融ガラスに接する部材の壁は、その部材に接する熔融ガラスの温度、要求されるガラス基板の品質等に応じ、適切な材料により構成する必要がある。
たとえば、熔融ガラスを生成した後成形工程に供給するまでの間の熔融ガラスは極めて高温状態になるため、熔融、清澄、供給、攪拌を行う装置は、耐熱性の高い白金族金属である白金を含有する部材が用いられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−111533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、白金族金属は、高温になるに従って揮発し易くなる。そして白金族金属の揮発物が凝集すると、この凝集物である結晶の一部が異物として熔融ガラス中に混入し、ガラス基板の品質の低下を招くおそれがあった。特に、清澄工程は、熔解工程から成形工程にいたるまでの間で熔融ガラスの温度が最も高くなる工程であるので、清澄工程を主に行う清澄管は、極めて高い温度に加熱される。このため、清澄工程後の熔融ガラスには、清澄管から揮発した白金族金属が凝集することで得られる凝集物の一部が異物となって混入し易い。
【0005】
ガラス基板製造過程で白金族金属の異物が混入すると、白金族金属の異物とガラスの熱膨張係数の差に起因してガラス基板に歪が生じ、この歪によってディスプレイの表示不良を引き起こす問題や、白金族金属がガラス基板の主表面付近に存在してガラス基板の主表面に凹凸を形成し、主表面上に薄膜トランジスタ(TFT)を形成するときにTFTの形成が均一に行えないことに起因するディスプレイの表示不良の問題が生じる。近年、画像表示装置の画面表示の高精細化に伴ってディスプレイに用いるガラス基板では、ガラス基板内に混入する白金族金属の異物の低減がさらに強く求められている。
一方で、ガラス基板の品質を低減させる要因は、白金族金属の異物のほかにも存在し、例えば、ガラス基板中に残存する気泡が欠陥として扱われる。
【0006】
そこで、本発明は、製造工程中、白金族金属の凝集物が熔融ガラスに混入しても、白金族金属の凝集物の欠陥個数を低減したガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
熔融ガラスの温度を高くすると、白金族金属の飽和溶解度が上昇し、白金族金属は熔融ガラスに溶けやすくなる。また、熔融ガラスの酸素活量を大きくすることによっても、白金族金属の飽和溶解度が上昇し、白金族金属は熔融ガラスに溶けやすくなる。しかし、熔融ガラスに混入した白金族金属の異物を溶かすために、熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、熔融ガラスの粘度が低くなり、例えば清澄工程において清澄剤を用いて清澄を行った場合、熔融ガラスに含まれる酸素が気相空間に放出されやすくなる結果、熔融ガラスの酸素活量が小さくなり、白金族金属の異物の溶解が抑制されてしまうことがあった。一方、熔融ガラスに混入した白金族金属の異物を溶かすことを目的として熔融ガラスの酸素活量を大きくするために、熔融ガラスに含まれる酸素が気相空間に放出される量を低減するために清澄工程における熔融ガラス温度を低くし過ぎると、白金族金属の異物の溶解が抑制されてしまうことがあった。熔融ガラスの温度と酸素活量は、このようにトレードオフの関係にあるため、熔融ガラスに混入した白金族金属の異物を溶かすために両者のうちの一方を調整すると、その調整の程度が大きすぎた場合に、両者のうちの他方がそれを打ち消すように作用し、異物の溶解が妨げられる場合があることが分かった。
本発明者は、このような問題に鑑みて鋭意検討を行った結果、熔融ガラスの温度および熔融ガラスの酸素活量の指標をそれぞれ特定の範囲に調整すれば、白金族金属の溶解量を適正な範囲に収めることができ、高い品質のガラス基板が得られることを見出し、本発明を完成させた。具体的に、本発明は、下記(1)〜(7)を提供する。
【0008】
(1)ガラスの原料を熔解して、清澄剤を含む熔融ガラスをつくる熔解工程と、
前記熔融ガラスの導入によって前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれる気相空間が形成され、前記気相空間に接する壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されたガラス処理装置を用いて前記熔融ガラスを処理する工程であって、前記熔融ガラスの脱泡処理を行い、前記熔融ガラスの脱泡処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が前記熔融ガラスに混入する熔融ガラス処理工程と、
前記脱泡処理の後、前記熔融ガラスの温度を1660℃以上で10分以上保持することで、前記熔融ガラス処理工程で前記熔融ガラスに混入した凝集物の少なくとも一部を前記熔融ガラスに熔解させる凝集物処理工程と、を備え、
前記熔融ガラス処理工程では、前記熔融ガラス内に酸素含有ガスをバブリングし、
ガラス基板に含まれる前記凝集物の欠陥個数を許容レベルにするように、前記凝集物処理工程における前記熔融ガラスの温度を1660〜1750℃とし、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を0.2〜0.5の範囲とすることを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0009】
(2)前記熔融ガラスは、前記清澄剤として、少なくとも酸化スズを含み、
前記酸化スズの含有量は、0.05〜0.4モル%であり、
前記ガラス基板には、清澄剤が含まれ、
前記熔解工程において前記清澄剤の含有量を調節することにより前記[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を調整する、前記(1)に記載のガラス基板の製造方法。
【0011】
)前記凝集物処理工程では、前記ガラス処理装置内の前記熔融ガラスに含まれる白金族金属の含有量が0.05〜20ppmである、前記(1)または前記(2)に記載のガラス基板の製造方法。
【0012】
)前記凝集物処理工程では、前記ガラス処理装置の前記気相空間の圧力が0.8〜1.2atmである、前記(1)から()のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【0013】
)前記凝集物処理工程が熔融ガラス処理工程に占める時間の割合が35〜85%である、前記(1)から()のいずれか一項に記載のガラス基板の製造方法。
【0014】
(6)ガラスの原料を熔解して、清澄剤を含む熔融ガラスをつくる熔解装置と、
少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された壁を有し、前記熔融ガラスの導入によって前記熔融ガラスの表面と前記壁に囲まれた気相空間が形成されるとともに、前記熔融ガラスを処理するガラス処理装置であって、前記熔融ガラスの脱泡処理が行われ、前記脱泡処理時、前記気相空間に存在する、前記壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が混入する、ガラス処理装置と、を備え
前記ガラス処理装置では、前記脱泡処理の後、前記熔融ガラスの温度を1660℃以上で10分以上保持することで、前記熔融ガラスに混入した前記凝集物の少なくとも一部を前記熔融ガラスに熔解させる凝集物処理工程が行われ
前記ガラス処理装置は、前記熔融ガラス内に酸素含有ガスをバブリングし、
前記凝集物処理工程における前記熔融ガラスの温度を1660〜1750℃とし、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を0.2〜0.5の範囲とすることを特徴とするガラス基板製造装置。
【0015】
前記(1)から()のガラス基板の製造方法、前記()のガラス基板製造装置のいずれか1つにより製造されたガラス基板は、液晶ディスプレイ用ガラス基板、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ用ガラス基板、あるいはLTPS(Low Temperature Poly-silicon)薄膜半導体を用いたディプレイ用ガラス基板として用いられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製造工程中、白金族金属の凝集物が熔融ガラスに混入しても、白金族金属の凝集物の欠陥個数を低減したガラス基板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態に係るガラス基板の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図2】実施形態に係るガラス基板製造装置の構成を示す模式図である。
図3】実施形態に係る清澄管を主に表した外観図である。
図4】実施形態に係る清澄管の内部を表す断面図と清澄管の温度プロファイルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(実施形態の概要)
本実施形態のガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置について説明する。
本実施形態のガラス基板の製造方法は、熔融ガラス処理工程と凝集物処理工程と、を少なくとも備える。
熔融ガラス処理工程は、ガラス処理装置を用いて熔融ガラスを処理する工程であるが、このとき、熔融ガラスを構成する白金族金属が揮発して凝集した凝集物(以降、異物ともいう)が熔融ガラスに混入する。ガラス処理装置は、前記熔融ガラスの導入によって前記熔融ガラスの表面と壁に囲まれる気相空間が形成され、気相空間に接する壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されている。
凝集物処理工程は、熔融ガラス処理工程で熔融ガラスに混入した白金族金属の凝集物の少なくとも一部を熔融ガラスに溶解させる工程である。 本実施形態の方法は、前記凝集物処理工程における前記熔融ガラスの温度を1660〜1750℃とし、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を0.2〜0.5の範囲とする。[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])は、熔融ガラスの酸素活量の指標となる。このように凝集物の溶解量を適正な範囲に収められることで、凝集物の欠陥個数を許容レベルにしつつ、白金族金属の凝集物の混入以外の他の要因によるガラス基板への影響も抑えることができ、高い品質のガラス基板を製造できる。白金族金属の凝集物の混入以外の他の要因としては、リボイル泡の増加等が挙げられる。
【0019】
熔融ガラスの温度が低すぎると、ガラス基板において凝集物の欠陥個数が許容レベルになるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができない。一方、熔融ガラスの温度が高すぎると、凝集物の混入以外の他の要因によるガラス基板への影響が抑えられるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができない。また、[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が過剰に小さくなってしまうおそれがある。
また、[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が小さ過ぎると、ガラス基板において凝集物の欠陥個数が許容レベルになるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができない。一方、[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が大き過ぎると、凝集物の混入以外の他の要因によるガラス基板への影響が抑えられるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができない。また、熔融ガラス温度を白金族金属の飽和溶解度を上昇させるために十分に高くすることができなくなる傾向にある。
【0020】
また、本実施形態のガラス基板製造装置は、ガラスの原料を熔解して熔融ガラスをつくる熔解装置と、少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成された壁を有し、熔融ガラスの導入によって熔融ガラスの表面と壁に囲まれた気相空間が形成されるとともに、気相空間に存在する、壁から揮発した白金族金属の揮発物の凝集物が混入した熔融ガラスを処理するガラス処理装置であって、熔融ガラスに混入した凝集物の少なくとも一部を熔融ガラスに溶解させるガラス処理装置と、を備える。
このガラス基板製造装置では、凝集物処理工程における熔融ガラスの温度を1660〜1750℃とし、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])を0.2〜0.5の範囲とする。これにより、ガラス基板に含まれる凝集物の欠陥個数を許容レベルにすることができる。
【0021】
本実施形態でいう白金族金属は、単一の白金族元素からなる金属、および、白金族元素からなる金属の合金を意味する。白金族元素は、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)およびイリジウム(Ir)の6元素である。 本実施形態でいう白金族金属の異物は、一方向に細長い線状物である。白金族金属の凝集物(異物)の最大長さとは、白金族金属の異物を撮影して得られる異物の像に外接する外接長方形の最大長辺の長さをいう。最小長さとは、白金族金属の異物を撮影して得られる異物の像に外接する外接長方形の最小短辺の長さをいう。
なお、凝集物処理工程前は、最大長さが100μm以上である白金族金属の異物の割合が80%を超える。白金族金属の異物とは、最大長さの最小長さに対する比であるアスペクト比が100を超える白金族金属の異物を指す。例えば、白金族金属の異物の最大長さは50μm〜300μm、最小長さは0.5μm〜2μmである。
このような熔融ガラス処理工程及び凝集物処理工程は、以下に説明するガラス基板の製造方法の一部として行なわれる。
【0022】
(ガラス基板の製造方法及びガラス基板製造装置)
図1は、本実施形態に係るガラス基板製造方法の工程の一例を示すフローチャートである。ガラス基板の製造方法は、図1に示されるように、主として、熔解工程S1と、清澄工程S2と、攪拌工程S3と、成形工程S4と、徐冷工程S5と、切断工程S6とを備える。
図2は、本実施形態に係るガラス基板製造装置200の構成の一例を示す模式図である。ガラス基板製造装置200は、熔解槽40と、清澄管41と、攪拌装置100と、成形装置42と、移送管43a,43b,43cとを備える。移送管43aは、熔解槽40と清澄管41を接続する。移送管43bは、清澄管41と攪拌装置100を接続する。移送管43cは、攪拌装置100と成形装置42を接続する。
【0023】
熔解工程S1では、ガラスの原料を熔解して熔融ガラスが生成される。熔融ガラスは、熔解槽に貯留され、所望の温度を有するように加熱される。熔融ガラスは、清澄剤を含有する。環境負荷低減の観点から、清澄剤として酸化錫が好適に用いられる。
熔解槽40では、ガラス原料は、その組成等に応じた温度に加熱されて熔解される。これにより、熔解槽40では、例えば、1500℃〜1620℃の高温の熔融ガラスGが得られる。なお、熔解槽40では、少なくとも1対の電極間に電流を流すことで、電極間の熔融ガラスGが通電加熱されてもよく、また、通電加熱に加えてバーナーによる火焔を補助的に与えることで、ガラス原料が加熱されてもよい。
【0024】
清澄工程S2は、少なくとも清澄管の内部を流れる熔融ガラスに対して行われ、移送管43aおよび移送管43bの内部を流れる熔融ガラスに対して行われてもよい。最初に、熔融ガラスの温度を上昇させる。清澄剤は、昇温により還元反応を起こして酸素を放出する。熔融ガラス中に含まれる泡は、放出した酸素を含んで泡の大きさが大きくなり、熔融ガラスの表面に浮上し、破泡して消滅する。すなわち、脱泡処理工程S2Aが行われる。さらに、脱泡処理工程S2Aの途中から、あるいは、脱泡処理工程S2Aの終了後、熔融ガラスの温度を高くして、脱泡処理において混入した白金族金属の凝集物の少なくとも一部を溶解する凝集物処理工程S2Bが行われる。その後、熔融ガラスの温度を低下させる。これにより、還元された清澄剤は、酸化反応を起こして、熔融ガラス中に残存している酸素等のガス成分が熔融ガラス中に溶け込む。すなわち、吸収処理工程S2Cが行われる。
具体的には、熔解槽40で得られた熔融ガラスGは、熔解槽40から移送管43aを通過して清澄管41に流入する。清澄管41は、熔融ガラスの導入によって熔融ガラスの表面と壁に囲まれる気相空間が形成され、気相空間を囲む壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されている。移送管43a,43b,43cは、白金族金属製の管である。本実施形態では、例えば、白金含有量が70%以上である白金とロジウムの合金が好適に用いられる。白金族金属は、融点が高く、熔融ガラスに対する耐食性に優れている。清澄管41には、熔解槽40と同様に加熱機構が設けられている。また、少なくとも移送管43aにも加熱機構が設けられている。
【0025】
清澄工程S2では、熔融ガラスGを昇温することで脱泡する脱泡処理工程と、白金族金属の異物を熔融ガラスに溶解させる凝集物処理工程と、熔融ガラスを降温させて、熔融ガラス中の泡を熔融ガラスに吸収させる吸収処理工程を行う。凝集物処理工程では、熔融ガラスに混入する白金族金属の異物の溶解量を大きくするための後述する条件パラメータとして少なくとも熔融ガラスの温度および熔融ガラスの酸素活量を調整することで、白金族金属の異物を溶解させる。このことは後で詳細に説明する。
清澄工程S2では、熔融ガラスGの清澄を十分に行なうという観点からは、移送管43aの内部を流れる熔融ガラスGの温度は、降温されることなく、順次昇温されることが好ましい。熔解工程S1の後、熔融ガラスGは1630℃以上まで3℃/分以上の速度で昇温されることが好ましい。
清澄工程S2を移送管43aで行なう場合、移送管43aを流れる熔融ガラスGの最高温度は1620℃〜1690℃であり、1640℃〜1670℃であることが好ましい。また、移送管43aと清澄管41を接続する領域である清澄管入口での熔融ガラスGの温度は、1610℃〜1680℃であり、1630℃〜1660℃であることが好ましい。さらに、清澄管41と移送管43bとを接続する領域である清澄管出口での熔融ガラスGの温度は、1530℃〜1600℃であり、1540℃〜1580℃であることが好ましい。
清澄管41において清澄された熔融ガラスGは、清澄管41から移送管43bを通過して攪拌装置100に流入する。熔融ガラスGは、移送管43bを通過する際に冷却される。
【0026】
攪拌工程S3では、清澄された熔融ガラスが攪拌されて、熔融ガラスの成分が均質化される。これにより、ガラス基板の脈理等の原因である熔融ガラスの組成ムラが低減される。均質化された熔融ガラスは、成形工程S4に送られる。
具体的には、攪拌装置100では、清澄管41を通過する熔融ガラスGの温度よりも低い温度で、熔融ガラスGが攪拌される。例えば、攪拌装置100において、熔融ガラスGの温度は、1250℃〜1450℃である。例えば、攪拌装置100において、熔融ガラスGの粘度は、500ポアズ〜1300ポアズである。熔融ガラスGは、攪拌装置100において攪拌されて均質化される。
攪拌装置100で均質化された熔融ガラスGは、攪拌装置100から移送管43cを通過して成形装置42に流入する。熔融ガラスGは、移送管43cを通過する際に、熔融ガラスGの成形に適した粘度となるように冷却される。例えば、熔融ガラスGは、1100〜1300℃まで冷却される。
なお、本実施形態の攪拌工程S3は、清澄工程S2の後に行なわれるが、攪拌工程S3は、清澄工程S2の前に行われてもよい。この場合、攪拌工程S3時の熔融ガラスGの温度は、清澄管41内の熔融ガラスGの温度と同等か高くてもよい。
【0027】
成形工程S4では、オーバーフローダウンドロー法またはフロート法によって、熔融ガラスからシートガラスが連続的に成形される。
具体的には、成形装置42に流入した熔融ガラスGは、成形炉(図示せず)の内部に設置されている成形体52に供給される。成形体52の上面には、成形体52の長手方向に沿って溝が形成されている。熔融ガラスGは、成形体52の上面の溝に供給される。溝から溢れた熔融ガラスGは、成形体52の一対の側面を伝って下方へ流下する。成形体52の側面を流下した一対の熔融ガラスGは、成形体52の下端で合流して、シートガラスGRが連続的に成形される。
【0028】
徐冷工程S5では、成形工程S4で連続的に成形されたシートガラスが所望の厚みを有し、かつ、歪みおよび反りが生じないように徐々に冷却される。
切断工程S6では、徐冷工程S5で徐冷されたシートガラスが所定の長さに切断されて、ガラスシートが得られる。ガラスシートは、さらに、所定のサイズに切断されて、ガラス基板が得られる。
【0029】
本実施形態は、熔融ガラス処理工程を清澄工程とし、ガラス処理装置を、清澄管41を含んだ清澄装置とする形態を例に挙げて説明しているが、熔融ガラス処理工程を行う装置は、熔解槽40と成形装置42との間に設けられ、熔融ガラスに所定の処理をする装置である限りにおいて、特に制限されない。ガラス処理装置は、清澄装置の他に、例えば攪拌装置、あるいは熔融ガラスを移送する移送管とすることもできる。また、ガラス処理装置は、熔融ガラス中の酸素濃度を高めるために酸素を含んだガス(酸素含有ガス)のバブリングを行なうバブリング槽を有するバブリング装置とすることもできる。したがって、熔融ガラスの処理は、熔融ガラスを清澄する処理の他に、熔融ガラスを均質化する処理、熔融ガラスを移送する処理、熔融ガラスを酸素含有ガスでバブリングする処理等を含む。また、凝集物処理工程S2Bも、清澄工程S2で行われる例を挙げて説明したが、例えば、攪拌工程S3、移送管にて熔融ガラスGを移送する工程で行われてもよい。なお、凝集物処理工程S2Bが清澄工程S2で行われる場合であっても、凝集物処理工程S2Bは、上述したように、吸収処理工程S2Cの前に行われる必要はなく、吸収処理工程S2Cの後に行われてもよい。
【0030】
(清澄管の構成)
次に、本実施形態における清澄装置の清澄管41の構成について詳細に説明する。なお、清澄装置は、清澄管41の他に、通気管41a、加熱電極41b、及び、清澄管41の外周を囲む図示されない耐火物保護層及び耐火物レンガを含む。図3は、清澄管41を主に表す外観図である。図4は、清澄管41の内部を表す断面図と清澄管の温度プロファイルの一例を示す図である。
【0031】
清澄管41には、通気管41a、および、一対の加熱電極41bが取り付けられている。清澄管41は、その内部に、熔融ガラスGが導入されることで熔融ガラスGの表面と壁から形成される気相空間を有する。気相空間41cは、熔融ガラスGの流れの方向に沿って形成されている。気相空間41cを囲む壁の少なくとも一部が白金族金属を含む材料で構成されている。本実施形態では、気相空間41cを囲む壁全体が白金族金属を含む材料で構成されている。また、清澄管41には、気相空間にガスを供給するためのガス供給機構が設けられてもよい。ガスとしては、例えば、希ガス、窒素ガス等の不活性ガスや、空気等の不活性ガス以外のガスが挙げられる。ガスは、気相空間に直接供給されてもよく、熔融ガラスにバブリングすることで間接的に供給されてもよい。ガス供給機構には、例えば、気相空間を囲む清澄管の壁に設けられたノズルが用いられ、ガス供給機構は清澄管の外部に配されたガスの供給源と接続される。
【0032】
通気管41aは、熔融ガラスGが流れる方向の途中であって、気相空間41cと接する壁に設けられ、気相空間41cと清澄管41の外側の大気とを連通させる。通気管41aは、清澄管41と同様に、白金族金属で成形されることが好ましい。通気管41aは放熱機能により、通気管41aの温度が低下し易いので、通気管41aを加熱するための加熱機構を設けてもよい。
一対の加熱電極41bは、清澄管41の両端に設けられたフランジ形状の電極板である。加熱電極41bは、図示されない電源から供給される電流を清澄管41に流し、この電流により、清澄管41は通電加熱される。なお、加熱電極41bは清澄管41に一対設けられるが、加熱電極41bの数は特に制限されない。
【0033】
このような清澄管41の内部では、熔融ガラスGに添加されている清澄剤、例えば酸化錫の酸化還元反応によって、熔融ガラスGに含まれるCO2またはSO2を含む泡が除去される。具体的には、最初に、熔融ガラスGの温度を高くして、清澄剤を還元させることにより、酸素泡を熔融ガラスG中に発生させる。熔融ガラスG中に含まれるCO2、N2、SO2等の気体成分を含む泡は、清澄剤の還元反応によって生じた酸素を含んで泡の体積が大きくなる。この泡は、熔融ガラスGの表面に浮上し泡の成分を放出する、すなわち破泡して消滅する(脱泡処理)。このとき、清澄管41の壁から白金族金属は盛んに揮発する。脱泡によって気相空間に酸素が放出されるので、脱泡処理が行われる気相空間の部分では、酸素濃度が高くなり、この結果、白金族金属の揮発はよりいっそう盛んになる。これに伴って、気相空間に含まれる白金族金属の揮発物の濃度が高くなるので、気相空間に含まれる白金族金属の揮発物の凝集が生じやすくなる。特に、壁の部分的に冷えた位置、例えば、清澄管41の入口近傍の壁で白金族金属の揮発物は凝集し易くなる。したがって、清澄管41の壁に付着した白金族金属の凝集物の一部が脱落して、熔融ガラスG内に異物として混入し易い。
このため、脱泡処理の途中から、あるいは脱泡処理の終了後から、熔融ガラスGに混入する白金族金属の異物を熔融ガラスGに溶解させる凝集物処理工程を行う。
脱泡処理の終了後から凝集物処理工程を行う場合、白金族金属の異物を含む熔融ガラスGの温度を、白金族金属の異物が熔融ガラスGに混入する領域における熔融ガラスの温度と比べて高くなるように熔融ガラスGを昇温させることが好ましい。
また、脱泡処理工程の途中から凝集物処理工程を行う場合、脱泡処理工程と凝集物処理工程が同時に行われる。
【0034】
清澄管41の内部では、この後、熔融ガラスGの温度を低くして、還元された清澄剤を酸化させる。これにより、熔融ガラスG中に残留する泡の酸素を熔融ガラスGに溶けこませることで、泡を消滅させる(吸収処理)。こうして、熔融ガラスGに残存する泡は小さくなり消滅する。このように、清澄剤の酸化還元反応によって、熔融ガラスGに含まれる泡が除去される。また、吸収処理工程S2Cでは、熔融ガラスGの温度及び清澄管41の壁の温度は例えば1580℃以下に低下するので、白金族金属の揮発及び凝集は行われ難くなる。このため、吸収処理工程S2Cでは、脱泡処理工程S2Aと比較して新たな白金族金属の凝集物が異物となって熔融ガラスGに混入する可能性は遥かに低い。
【0035】
なお、図2には示されていないが、清澄管41の外壁面には耐火物保護層が設けられる。耐火物保護層の外側には、さらに、耐火物レンガが設けられる。耐火物レンガは、基台(図示せず)に載置されている。
【0036】
図4は、清澄管41のX方向の位置に合わせて表した清澄管41の温度プロファイル(清澄管41の気相空間41cと接する壁のX方向の温度プロファイル)の一例を示している。温度プロファイルでは、清澄管41の熔融ガラスGの流入する側の端41d(入口)と通気管41aとの間で、温度が最高温度Tmaxとなっている。この最高温度Tmaxの位置Pから、清澄管41の端41dに向かって温度が低下する温度勾配が形成されている。同様に、最高温度Tmaxの位置Pから、通気管41aのX方向の位置に向かって温度が低下する温度勾配が形成されている。また、温度勾配領域は、図示されないが、上記以外に、通気管41aのX方向の位置と清澄管41の熔融ガラスGの流出する側の端41e(出口)との間にも形成されている。このような温度勾配領域において、いずれの温度勾配領域においても温度勾配領域における最高温度と最低温度の温度差が0℃超、100℃以下になっている。図4に示すように、壁の温度が端41dから最高温度Tmaxになるまで継続して続く温度上昇区間おける清澄管41の前半部分で、脱泡処理が開始し、少なくとも最高温度Tmaxまで続く。また、最高温度Tmaxを含む、温度上昇区間の後半部分で凝集物処理工程が開始し、少なくとも最高温度Tmaxまで続く。なお、脱泡処理工程の終了と凝集物処理工程の終了の時点は、どちらが先であってもよいが、熔融ガラスに混入する全ての白金族金属の異物を凝集物処理工程の対象とする点から、凝集物処理工程の終了は、脱泡処理工程の終了と同時あるいはそれ以降であることが好ましい。
このような熔融ガラス処理装置において、白金族金属の凝集物が熔融ガラスに溶解される量(以降、この量を溶解量という)を大きくするためのガラス処理装置における条件パラメータについて説明する。
【0037】
(凝集物の溶解量を大きくするための条件パラメータ)
本実施形態では、ガラス処理装置において、ガラス基板中の凝集物の欠陥個数が許容レベルになるよう、ガラス処理装置における各条件パラメータは調整されている。
白金族金属の凝集物の溶解量を大きくするための条件パラメータとしては、例えば、
(a)熔融ガラスの温度、
(b)熔融ガラスの酸素活量、
(c)気相空間の圧力、
(d)熔融ガラスに含まれる白金族金属の含有量、
(e)凝集物処理工程が熔融ガラス処理工程に占める時間の割合、が挙げられる。
ここでは、ガラス処理装置が清澄管を含む場合を例にし、熔融ガラス処理工程として清澄工程を例にして説明する。
【0038】
(a)熔融ガラスの温度
清澄管において、熔融ガラスに混入した白金族金属の凝集物の溶解量は、熔融ガラスの温度を高くすることで増加させることができる。熔融ガラスの温度の調整は、清澄管の温度を調整することにより行うことができ、例えば、清澄管を流れる電流の調整、清澄管の周囲に配されたヒータに供給される電流の調整、あるいはこれらの組み合わせによって行うことができる。
熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、白金族金属の凝集物の溶解量が大きくなる反面、下記のデメリットを生じさせる。
・リボイル泡の増加
清澄管において熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、熔融ガラスの粘度が下がって、熔融ガラスが脱泡され易くなるため、熔融ガラスに溶存する酸素が不足した還元状態になりやすい。この状態で、後の吸収処理工程が行われると、熔融ガラス中にリボイル泡が発生して、ガラス基板にリボイル泡の気泡が残ってしまう場合がある。リボイル泡は、具体的には、熔融ガラスに不純物として含まれる硫黄分に起因して生じたSOあるいはCOや、N等を含んでいる。このうちSO、COは、熔融ガラスが還元状態にある場合、熔融ガラスに溶存しているSO、COが容易に還元されて生成しやすい。このSO、COはSO、COに比べて熔融ガラスに溶存されにくいために気泡となりやすい。Nは、清澄管41の気相空間内の気体中に含まれる窒素が、高温の熔融ガラスに曝されることで熔融ガラス中に溶解し、吸収処理工程において熔融ガラスの温度が低下したときに気泡となって現れる。このようなリボイル泡が多量に発生すると、ガラス基板に気泡として残ってガラス基板の品質を低下させる場合がある。なお、ガラス基板に残存した気泡は、例えば、レーザ顕微鏡または目視により検出される。
・ガラス成分の揮発量の増加
清澄管において熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、熔融ガラスに含まれる、B等の揮発しやすい成分の揮発量が増加する。ガラス成分の揮発量が増えると、ガラス基板において筋状の凹凸が生じる等して、ガラス品質を低下させる場合がある。
・白金族金属の揮発量の増加
清澄管において、熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、熔融ガラスに接する気相空間の温度も高くなるため、気相空間を囲む清澄管の壁から白金族金属が揮発しやすくなる。白金族金属の揮発量が増えると、気相空間の白金族金属の濃度が高くなり、凝集および凝集物の熔融ガラスへの混入が起きやすくなる。
・清澄管の熔損
清澄管において、熔融ガラスの温度を高くし過ぎると、熔融ガラスに接する清澄管の壁が熔損してしまう場合がある。
このようなデメリットの発生を抑える観点から、熔融ガラスの温度調整によって白金族金属の凝集物の溶解量を大きくする際には、適宜他の条件パラメータを組み合わせて調整することが好ましい。
【0039】
(b)熔融ガラスの酸素活量
清澄管において、白金族金属の凝集物の溶解量は、熔融ガラスの酸素活量を大きくすることで増加させることができる。熔融ガラスの酸素活量とは、熔融ガラスに溶存する酸素(気泡として熔融ガラス中に存在するものを除く)を意味する。酸素活量の指標には、[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が用いられる。[Fe2+]および[Fe3+]は、Fe2+およびFe3+の熔融ガラス中の活量であり、例えば、分光光度法を用いて計測できる。
熔融ガラスの酸素活量の調整は、例えば、熔解工程において、ガラス原料中の清澄剤、酸化物の量を調整することのほか、清澄工程において、熔融ガラスの温度を調整することや、熔融ガラス内に酸素含有ガスをバブリングすることによって行うことができる。熔融ガラスの温度が高いと、熔融ガラスの粘度が低くなり、脱泡によって気相空間に放出される酸素量が増えるため、熔融ガラスの酸素活量は小さくなる。一方、熔融ガラスの温度が低いと、熔融ガラスの粘度が高くなり、脱泡によって気相空間に放出される酸素量は減るため、熔融ガラスの酸素活量は大きくなる。
熔融ガラスの酸素活量を大きくし過ぎると、白金族金属の凝集物の溶解量が大きくなる反面、下記のデメリットを生じさせる。
・白金族金属の揮発量の増加
熔融ガラスの酸素活量を大きくし過ぎると、脱泡処理工程において気相空間に放出される酸素量が増加し、気相空間の酸素濃度が上昇するため、白金族金属が容易に酸化されて揮発しやすくなる。白金族金属が揮発しやすくなると、白金族金属の凝集物が生成しやすく、熔融ガラスに混入しやすくなる。
・酸素含有泡の熔融ガラス中での残存
熔融ガラスの酸素活量を大きくし過ぎると、吸収処理工程において、還元された清澄剤が酸素を吸収しきれなくなり、酸素を含んだ泡(酸素含有泡)が熔融ガラス中に残存してガラス基板において気泡として残るため、ガラス基板の品質を低下させやすくなる。
このようなデメリットの発生を抑える観点から、熔融ガラスの酸素活量の調整によって白金族金属の凝集物の溶解量を大きくする際には、適宜他の条件パラメータを組み合わせて調整することが好ましい。
【0040】
(c)気相空間の圧力
白金族金属の凝集物の溶解量は、清澄管の気相空間の圧力を高くすることで増加させることができる。気相空間の圧力とは、気相空間に含まれる気体の全圧を意味する。
気相空間の圧力の調整は、例えば、気相空間内の気体が通気管を通って清澄管の外側に吸引される量(吸引量)や、清澄管内へのガスの供給量、気相空間の温度、熔融ガラスから放出されるガスの放出量を調整することによって行うことができる。吸引量は、例えば、清澄管の通気管の出口を狭める等して、気相空間と清澄管の外側の大気との圧力差の大きさを調節することで調整できる。気相空間の温度は、清澄管の壁の温度または熔融ガラスの温度の調整によって調整できる。熔融ガラスから放出されるガスの放出量は、例えば、熔融ガラスに含まれる清澄剤の量、ガラス成分の配合比を調整することで調整できる。なお、気相空間の圧力が、清澄管の外側の大気圧より高いまたは低いことは、例えば、通気管から放出されるガス量によってわかる。
気相空間の圧力を高くし過ぎると、白金族金属の凝集物の溶解量が大きくなる反面、下記のデメリットを生じさせる。
・清澄不良
気相空間内の圧力を高くし過ぎると、脱泡処理工程において、熔融ガラス中に発生した泡が熔融ガラスの表面から放出され難くなり、清澄不良を招く場合がある。
・白金族金属の揮発量の増加
気相空間内の圧力を高くし過ぎると、清澄管の外側の大気との圧力差が大きくなって、気相空間内の気流の流速が上昇する。このため、気相空間内の白金族金属の濃度が上昇せず飽和状態になり難いため、清澄管の壁からの白金族金属の揮発量が増加する。
このようなデメリットの発生を抑える観点から、気相空間の圧力を高くして白金族金属の凝集物の溶解量を大きくする際には、適宜他の条件パラメータを組み合わせて調整することが好ましい。
【0041】
(d)熔融ガラスに含まれる白金族金属の含有量
白金族金属の凝集物の溶解量は、熔融ガラスに含まれる白金族金属の含有量を小さくすることで増加させることができる。白金族金属の含有量は、熔融ガラス中に溶解している白金族金属の量であり、熔融ガラスに混入して溶解していない白金族金属の凝集物は除かれる。熔融ガラスに含まれる白金族金属の含有量は、例えば、熔融ガラスの温度を高くすることで、熔融ガラスに溶解できる凝集物の溶解量を大きくすることや、熔融ガラスと接する清澄管の壁の部分に、気相空間と接する清澄管の壁の部分よりも白金族金属の含有量の小さい金属材料を用いることによって調整することができる。熔融ガラスに含まれる白金族金属の含有量は、例えば、清澄管内の熔融ガラスをサンプリングし、原子吸光光度法を用いて測定できる。
白金族金属の含有量を小さくし過ぎると、白金族金属の凝集物の溶解量が大きくなる反面、下記のデメリットを生じさせる。
・清澄管の熔損
白金族金属の含有量を小さくし過ぎると、熔融ガラスと接する清澄管の壁から熔融ガラスに白金族金属が溶出して、清澄管の熔損を起こす場合がある。
このようなデメリットの発生を抑える観点から、白金族金属の含有量を小さくして白金族金属の凝集物の溶解量を大きくする際には、適宜他の条件パラメータを組み合わせて調整し、白金族金属の凝集物の溶解量を適正な範囲に調整することが好ましい。
【0042】
(e)凝集物処理工程が清澄工程に占める時間の割合
白金族金属の凝集物の溶解量は、凝集物処理工程が熔融ガラス処理工程に占める時間の割合を大きくすることで増加させることができる。凝集物処理工程が熔融ガラス処理工程に占める時間の割合は、熔融ガラス処理工程全体に要する時間に占める凝集物処理工程に要する時間の割合である。
凝集物処理工程の時間は、白金族金属の凝集物が熔融ガラスに溶解する溶解温度領域にある時間である。溶解温度領域とは、熔融ガラスの白金族金属の凝集物が熔融ガラスに溶解する温度の領域であり、熔融ガラスが流れる清澄管の場合、上記凝集物が熔融ガラスに溶解する温度の清澄管の長手方向に沿った長さである。上記凝集物が熔融ガラスに溶解する温度は、清澄管41の標準的な動作条件を再現した実験において、白金族金属が所定の時間内において溶解することが確かめられる温度であり、例えば、1650℃〜1750℃のように定められている。上記所定の時間とは、適宜設定され、例えば、標準的な条件下、清澄管41を熔融ガラスが通過する時間をいう。
熔融ガラスが溶解温度域にある時間は、例えば、清澄管の壁の温度プロファイルから定めることができる。具体的には、熔融ガラスの流れる方向に沿って清澄管の外壁の複数箇所に設けた熱電対によって測定される清澄管の壁の温度プロファイルから熔融ガラスの温度プロファイルを求め、この熔融ガラスの温度プロファイルに基づいて溶解温度領域を
求めることができる。清澄管の壁の温度と、これに対応する熔融ガラスの温度は、例えば、過去にガラス基板を製造した時のデータや清澄管41の熱伝導シミュレーション計算結果を用いて予め対応付けておくことができる。これにより、清澄管の壁の温度プロファイルから熔融ガラスの温度プロファイルを求めることができる。清澄管41では、熔融ガラスは略一定の速度で流れるので、清澄管における溶解温度域の、熔融ガラスの流れに沿った長さを熔融ガラスの流れの流速で割ることにより求めることができる。
熔融ガラスの温度が温度プロファイルを有し、溶解温度域が複数存在する場合、複数の溶解温度領域に熔融ガラスがある時間の合計の時間で表される。
熔融ガラス処理工程の時間は、清澄工程の場合、熔融ガラスが脱泡処理S2A及び吸収処理S2Cにある時間をいう。脱泡処理S2A及び吸収処理S2Cは、清澄剤の酸化還元反応を利用する処理であるので、脱泡処理S2A及び吸収処理S2Cの時間は、酸化還元反応を発現する温度が異なる清澄剤の種類によって異なる。例えば酸化錫の場合、移送管43a、清澄管41、移送管43bにおける熔融ガラスの温度が1550℃〜1760℃の温度範囲にある時間を脱泡処理S2A及び吸収処理S2Cの時間とする。
【0043】
また、清澄管41およびその前後の移送管43a,43bで清澄工程が行われる場合、清澄管41および移送管43a,43bの該当部分の管の長手方向に沿った長さで、上述の溶解温度領域の管の長手方向に沿った長さを割った値が、凝集物処理工程が熔融ガラス処理に占める時間の割合となる。
凝集物処理工程が清澄工程に占める時間の割合(凝集物処理工程の割合ともいう)は、具体的には、清澄装置を通過する熔融ガラスの流速を調整することにより調整できる。熔融ガラスの流速は、例えば、熔解工程において原料の投入量を調節することや、成形工程における熔融ガラスの引出量を調節することによって調整できる。熔融ガラスの引出量は、清澄管から成形装置に向かって流れる熔融ガラスの流速で表すことができ、この熔融ガラスの流速は、例えば、熔融ガラスの粘度や、清澄管と成形装置の高低差の大きさによって調整できる。また、熔融ガラスの引出量は、成形工程におけるシートガラスの搬送速度の調整によって行うことができる。
凝集物処理工程が清澄工程に占める時間の割合を長くし過ぎると、白金族金属の凝集物の溶解量が大きくなる反面、下記のデメリットを生じさせる。
・リボイル泡の増加
凝集物処理工程が清澄工程に占める時間の割合を大きくし過ぎると、熔融ガラスが脱泡処理工程に曝される時間も長くなり、後の吸収処理工程で上記したリボイル泡が生じやすくなる。
このようなデメリットを抑える観点から、凝集物処理工程が清澄工程に占める時間の割合を調整することで白金族金属の凝集物の溶解量を大きくする際には、適宜他の条件パラメータを組み合わせて調整することが好ましい。
【0044】
(熔融ガラスの温度および酸素活量の調整)
本実施形態では、凝集物処理工程において、以上の条件パラメータのうち少なくとも熔融ガラスの温度および酸素活量を調整する。本実施形態では、熔融ガラスの温度を1660〜1750℃とし、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])は0.2〜0.5の範囲で調整される。これにより、白金族金属の飽和溶解量を上昇させることができ、溶解量を適正な範囲に収めることができ、凝集物の欠陥個数を許容レベルにしつつ、ガラス基板の品質への影響を抑えられた、高い品質のガラス基板が得られる。
調整の対象となる熔融ガラスの温度および酸素活量はそれぞれ、凝集物処理工程開始時点のものであってもよく、凝集物処理工程の途中のものであってもよい。
ガラス基板中の白金族金属の凝集物の欠陥は、ガラス基板の表面に斜め方向からレーザ光等の光を入射させ、その反射光を受光することを、ガラス基板の各位置で行ない、受光により得られた画像から白金族金属の凝集物の形状に合致する領域を特定することにより、検出することができる。凝集物の欠陥は、このように装置を用いて行う代わりに目視によって検出してもよい。この凝集物の欠陥個数の許容レベルは、単位質量で表したとき、例えば0.02個/kg以下である。上記許容レベルは、ガラス基板のユーザが求める、歪みや主表面の凹凸に関するスペックに応じて変化する。
熔融ガラスの温度調整は、具体的に、ガラス処理装置が清澄管を含む清澄装置である場合は、清澄管に電流を流して通電加熱することによって行うことができる。電流量は、加熱電極に印加される電圧の大きさによって調整することができる。また、熔融ガラスの温度調整は、通電加熱に代えてまたは通電加熱と組み合わせて、清澄管の周囲に配した図示されないヒータによって間接的に調整されてもよい。ヒータは、例えば、後述する耐火物保護層や耐火物レンガの内部または外側に配置される。また、熔融ガラスの温度調整は、耐火物保護層や耐火物レンガを用いて清澄管からの放熱量を調整することで行われてもよい。
熔融ガラスの酸素活量の調整は、具体的に、熔解工程において、ガラス原料中の清澄剤、酸化物の量を調整することのほか、清澄工程において、熔融ガラスの温度を調整することや、熔融ガラス内に酸素含有ガスをバブリングすることによって行うことができる。
【0045】
このように熔融ガラスの温度および酸素活量の調整を行う場合、凝集物処理工程における熔融ガラスの温度は下記のように調整されることが好ましい。
凝集物処理工程において、熔融ガラスGの温度は、白金族金属の異物が溶解する温度、好ましくは1660℃以上に調整され、より好ましくは1680℃以上に調整される。この場合、熔融ガラスGの温度が1660℃以上の温度が10分以上、好ましくは30分以上維持されることが好ましい。1660℃以上の温度が10分以上保持されることで、白金族金属の異物が溶解しやすくなる。熔融ガラスGは、より具体的には、1660℃〜1750℃に加熱されることが好ましく、1680℃〜1700℃に加熱されることがより好ましい。熔融ガラスGの最高温度が1750℃を超えると、清澄管41aを構成する白金族金属からなる管が熔損し易くなる。なお、熔融ガラスGの最高温度は、清澄管41に設けられた図示されない熱電対による計測値から算出することができる。熱電対は、例えば、熔融ガラスの流れる方向に沿って清澄管41の外壁の複数箇所に設けられる。
【0046】
また、熔融ガラスの温度および酸素活量の調整を行う場合に、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整する観点から、適宜、熔融ガラスの温度および酸素活量以外の他の条件パラメータを組み合わせて調整してもよい。
例えば、白金族金属の含有量の調整を組み合わせて行う場合は、白金族金属の含有量は0.05〜20ppmの範囲で調整されることが好ましい。白金族金属の含有量が0.05ppm以上に調整されることで、凝集物の混入以外の他の要因によるガラス基板への影響が抑えられるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができる。20ppm以下に調整されることで、凝集物の欠陥個数が許容レベルになるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができる。白金族金属の含有量は、例えば、熔融ガラスの温度を高くすることで、熔融ガラスに溶解できる凝集物の溶解量を大きくすることによって調整することができる。
また、気相空間の圧力の調整を組み合わせて行う場合は、気相空間の圧力は0.8〜1.2atmの範囲で調整されることが好ましい。気相空間の圧力が0.8atm以上に調整されることで、凝集物の欠陥個数が許容レベルになるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができる。気相空間の圧力が1.2atm以下に調整されることで、凝集物の混入以外の他の要因によるガラス基板への影響が抑えられるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができる。気相空間の圧力の調整は、上記したように、ガラス処理装置として清澄装置を用いた場合は、気相空間内の気体が通気管を通って清澄管の外側に吸引される量(吸引量)や、清澄管内へのガスの供給量、気相空間の温度、熔融ガラスから放出されるガスの放出量を調整することによって行うことができる。
さらに、凝集物処理工程の割合の調整を組み合わせて行う場合は、凝集物処理工程の割合が30〜85%の範囲で調整されることが好ましい。凝集物処理工程の割合が30%以上に調整されることで、凝集物の欠陥個数が許容レベルになるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができる。凝集物処理工程の割合が85%以下に調整されることで、凝集物の混入以外の他の要因によるガラス基板への影響が抑えられるように、白金族金属の飽和溶解度を適正な範囲に調整することができる。凝集物処理工程の割合は、上記したように、清澄装置を通過する熔融ガラスの流速を調整することにより調整できる。熔融ガラスの流速は、例えば、熔解工程において原料の投入量を調節することや、成形工程における熔融ガラスの引出量を調節することによって調整できる。熔融ガラスの引出量は、この熔融ガラスの流速は、例えば、熔融ガラスの粘度や、清澄管と成形装置の高低差の大きさによって調整できる。また、熔融ガラスの引出量は、成形工程におけるシートガラスの搬送速度の調整によって行うことができる。
【0047】
なお、熔融ガラス処理工程は、ガラス処理装置として清澄管を含む清澄装置を用いた場合は、加熱電極41bの電流量を調整することで、清澄管41の気相空間41cと接する壁の温度は、例えば1500〜1750℃の範囲に調整されることが好ましい。また、清澄剤として酸化錫を用いた場合、例えば清澄管41の壁は最高温度が1670℃〜1750℃、より好ましくは1690℃〜1750℃となるように加熱される。清澄管41の壁の最高温度と最低温度との差分は5℃以上であることが好ましい。
【0048】
本実施形態の製造方法および製造装置では、熔融ガラスの温度を1660〜1750℃とし、熔融ガラスの酸素活量の指標であるガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が0.2〜0.5の範囲で調整される。これにより、白金族金属の溶解量を適正な範囲に収めることができ、凝集物の欠陥個数を許容レベルにしつつ、ガラス基板の品質への影響を抑えられた、高い品質のガラス基板が得られる。
【0049】
(ガラス基板の適用例)
本実施形態の製造方法および製造装置によって製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ等のディスプレイに用いられるディスプレイ用ガラス基板や、ディスプレイを保護するカバーガラスとして特に適している。フラットパネルディスプレイとしては、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ等が挙げられる。本実施形態によって製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイの中でも、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を用いた酸化物半導体ディスプレイ、LTPS(Low Temperature Poly-silicon)薄膜半導体を用いたLTPSディプレイ等の高精細ディプレイに好適に用いることができる。
ディスプレイ用ガラス基板としては、無アルカリガラス、または、アルカリ微量含有ガラスが用いられる。ディスプレイ用ガラス基板は、高温時における粘性が高い。例えば、102.5ポアズの粘性を有する熔融ガラスの温度は、1500℃以上である。なお、無アルカリガラスは、アルカリ金属酸化物(R2O)を実質的に含まない組成のガラスである。アルカリ金属酸化物を実施的に含まないとは、原料等から混入する不純物を除き、ガラス原料としてアルカリ金属酸化物を添加しない組成のガラスであり、例えば、アルカリ金属酸化物の含有量は0.1質量%未満である。
【0050】
(ガラス組成)
ガラス原料は、所望の組成のガラスを実質的に得ることができるように調製される。ガラスの組成の一例として、フラットパネルディスプレイ(FPD)用ガラス基板等のディスプレイ用ガラス基板として好適な無アルカリガラスは、SiO2 50質量%〜70質量%、Al23 0質量%〜25質量%、B23 0質量%〜15質量%、MgO 0質量%〜10質量%、CaO 0質量%〜20質量%、SrO 0質量%〜20質量%、BaO 0質量%〜10質量%を含有し、さらにFe23を含有するする。ここで、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合計の含有量は、5質量%〜30質量%である。
【0051】
また、ディスプレイ用ガラス基板として、アルカリ金属酸化物を微量含むアルカリ微量含有ガラスを用いてもよい。アルカリ微量含有ガラスは、成分として、0.1質量%〜0.5質量%のR’2Oを含み、好ましくは、0.2質量%〜0.5質量%のR’2Oを含む。ここで、R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種であり、R’2Oは、Li2O、Na2O、K2Oの含有量の合計である。なお、R’2Oの含有量の合計は、0.1質量%未満であってもよい。したがって、本実施形態のガラス基板は、無アルカリガラスを含めて、アルカリ金属酸化物(R’2O)の含有量が0〜0.5質量%であるガラスが好適に用いられる。
【0052】
本実施形態によって製造されるガラスは、上記成分に加えて、SnO2 0.01質量%〜1質量%(好ましくは、0.01質量%〜0.5質量%)、Fe23 0質量%を超え0.2質量%以下(好ましくは、0.01質量%〜0.08質量%)をさらに含有してもよい。また、本発明によって製造されるガラスは、環境負荷を考慮して、As23、Sb23およびPbOを実質的に含有しないことが好ましい。環境負荷低減のために、好ましくは、酸化錫(SnO2)が清澄剤として用いられる。
【0053】
本実施形態では、熔融ガラスGの温度を高くするために清澄管41の温度を高くする場合に、本実施形態の上述した効果を有効に発揮することができる。
例えば、環境負荷低減のために、熔融ガラスの清澄剤として酸化錫が用いられることが好ましいが、酸化錫は、As23やSb23と比較して、清澄効果(酸化反応)が得られる温度が高い。このため、酸化錫を清澄剤とした用いた場合、As23やSb23を清澄剤とした用いた場合と比較して清澄管41の温度を高くして、熔融ガラスGの温度を高くする必要がある。すなわち、清澄剤として酸化錫を使用するため、従来よりも清澄管41の揮発(酸化)が生じ易くなり、白金族金属の揮発及び凝集の問題が生じ易い。このように、清澄剤として酸化錫を用いることで、白金族金属の異物が熔融ガラスに混入する量が増加したとしても、本実施形態のように、ガラス基板に含まれる白金族金属の凝集物の欠陥個数が許容レベルにあるので、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができるといった効果が顕著になる。すなわち、表示不良を引き起こすような異物の量を十分に低減できる。
【0054】
ディスプレイパネルに用いるガラス基板には、薄膜トランジスタが形成されるが、薄膜トランジスタの動作に悪影響を与えないように、ガラス基板には、無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスを用いることが好ましい。無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスは、アルカリ含有ガラスと比較して、粘性が高いため、清澄工程において泡の浮上速度が遅く、清澄することが難しい。このため、清澄効果を十分に得るためには、清澄管41の温度を高くして、熔融ガラスGの温度を高くする必要がある。つまり、製造する対象が無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスであるため、アルカリガラスよりも清澄管41の揮発(酸化)が生じやすくなっており、白金族金属の揮発及び凝集の問題が生じ易い。このように、無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスを用いるために、清澄管41の温度を高くして、白金族金属の異物が熔融ガラスに混入する量が増加したとしても、本実施形態のように、ガラス基板に含まれる白金族金属の凝集物の欠陥個数は許容レベルにあるので、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができるといった効果が顕著になる。すなわち、表示不良を引き起こすような異物の量を十分に低減できる。
【0055】
上述した無アルカリガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスは、歪点が高いガラスである。歪点の高いガラスは、歪点が低いガラスと比較して、粘性が高いため、清澄工程において泡の浮上速度が遅く、清澄することが難しい。このため、清澄効果を十分に得るためには、清澄管41の温度を高くして、熔融ガラスGの温度を高くする必要がある。つまり、歪点が高いガラスを製造する場合、歪点が低いガラスを製造する場合よりも清澄管の揮発(酸化)が生じやすくなっており、白金族金属の揮発及び凝集の問題が生じ易い。このように、歪点の高いガラスを用いるために、清澄管41の温度を高くして、白金族金属の異物が熔融ガラスに混入する量が増加したとしても、本実施形態のように、ガラス基板に含まれる白金族金属の凝集物の欠陥個数は許容レベルにあるので、ガラス基板に歪が生じ難く、ガラス基板の主表面の凹凸を作りにくくすることができるといった効果が顕著になる。すなわち、表示不良を引き起こすような異物の量を十分に低減できる。
なお、ディスプレイ用ガラス基板には、ガラス基板の歪点が600℃以上、より好ましくは650℃以上であることが求められるが、ガラス基板の歪点が600℃以上であると、表示不良を引き起こすような大きさの異物の量を十分に低減できる本実施形態の効果が顕著となる。また、高精細ディスプレイ用ガラス基板には、より歪点が高いことが求められ、歪点が690℃以上であることが好ましく、730℃以上であることがより好ましい。このように歪点が690℃以上、730℃以上であると、本実施形態の上述した効果がより顕著になる。
【0056】
ガラス基板に用いるガラスは、歪点が600℃以上であるガラスが、本実施形態のガラス基板の製造方法およびガラス基板製造装置に適している。上記歪点は650℃以上であることがより好ましく、690℃以上であることがよりいっそう好ましく、730℃以上であることが特に好ましい。
【0057】
[実験例]
本実施形態の効果を確認するために、図1に示す凝集物処理工程S2Bを含んだ製造工程でガラス基板を作製した(実施例)。
ガラス基板の作製条件は下記の通りである。
ガラス基板の作製に用いたガラスの組成は、SiO2 60.7質量%、Al23 17質量%、B23 11.5質量%、MgO 2質量%、CaO 5.6質量%、SrO 3質量%、SnO2 0.18質量%、Fe23 0.02質量%であった。
凝集物処理工程S2Bでは熔融ガラスの温度を1690℃〜1700℃とし、ガラス基板の[Fe3+]/([Fe2+]+[Fe3+])が0.30〜0.35となるように調整した。ガラスの温度調整は、清澄管に電流を流して通電過熱することにより行った。
一方、凝集物処理工程S2Bにおいて熔融ガラスの温度を1660℃未満の温度、あるいは熔融ガラスの酸素活量の指標を0.5を超える値に調整した点を除いて、実施例と同様の条件でガラス基板を作製した(従来例)。
【0058】
こうして作製したガラス基板における白金族金属の異物を、光学顕微鏡を用いて検出し、その個数をカウントした。さらに、検出した白金族金属の異物について、その最大長さ、最小長さを計測した。そして、ガラス基板に含まれる全白金族金属の異物のうち、最大長さの最小長さに対する比であるアスペクト比が100を超える白金族金属の異物の個数(欠陥個数)を求めた。実施例のガラス基板では、白金族金属の異物の欠陥個数は、許容レベルにあったが、従来例のガラス基板では、白金族金属の異物の欠陥個数は、いずれも許容レベルを外れていた。
【0059】
以上、本発明のガラス基板の製造方法、及びガラス基板製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0060】
40 熔解槽
41 清澄管
41a 通気管
41b 加熱電極
41c 気相空間
42 成形装置
52 成形体
43a,43b.43c 移送管
100 攪拌装置
200 ガラス基板製造装置
図1
図2
図3
図4