(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495026
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】ガラス繊維断熱吸音体及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
G10K 11/162 20060101AFI20190325BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20190325BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20190325BHJP
B32B 5/26 20060101ALI20190325BHJP
B32B 17/02 20060101ALI20190325BHJP
D04H 1/4218 20120101ALI20190325BHJP
【FI】
G10K11/162
G10K11/16 120
B60R13/08
B32B5/26
B32B17/02
D04H1/4218
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-18476(P2015-18476)
(22)【出願日】2015年2月2日
(65)【公開番号】特開2016-141248(P2016-141248A)
(43)【公開日】2016年8月8日
【審査請求日】2017年12月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】313012349
【氏名又は名称】旭ファイバーグラス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【弁理士】
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】志村 貴文
(72)【発明者】
【氏名】板谷 透
(72)【発明者】
【氏名】酒井 篤
(72)【発明者】
【氏名】政井 春樹
【審査官】
渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭58−023399(JP,U)
【文献】
特開2008−173802(JP,A)
【文献】
米国特許第5547743(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B60R 13/01−13/04
B60R 13/08
D04H 1/00−18/04
E04B 1/62− 1/99
G10K 11/00−13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガラス繊維を絡み合わせて成形されて互いに重ね合わされた柔軟性部及び高剛性部を備え、
前記柔軟性部の密度は80kg/m3よりも高くて100kg/m3以下でありであり、
前記高剛性部の密度は120kg/m3〜300kg/m3であり且つ曲げ弾性率が150MPa〜500MPaであることを特徴とするガラス繊維断熱吸音体。
【請求項2】
前記柔軟性部の厚みは20mm〜30mmであり、前記高剛性部の厚みは3mm〜10mmであることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維断熱吸音体。
【請求項3】
前記高剛性部を形成する前記ガラス繊維の繊維径は7μm以上であり、前記高剛性部の密度は120kg/m3〜150kg/m3であることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス繊維断熱吸音体。
【請求項4】
前記高剛性部の一部又は全部が露出した状態で自動車のエンジンに対して、前記高剛性部がガラス繊維断熱吸音体の外側となるように取り付けることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のガラス繊維断熱吸音体を用いたガラス繊維断熱吸音体の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス繊維からなる断熱吸音体、より詳しくは自動車用エンジンルームの吸音のために用いられるガラス繊維断熱吸音体及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン室には、騒音等の低下及びエンジン部から発生する熱の断熱を目的として、ガラス繊維断熱吸音体が使用されている。このガラス繊維断熱吸音体は、未硬化の熱硬化性樹脂を付着させたマット状のガラス繊維集合体を加圧加熱成形して形成される。
【0003】
一般的なガラス繊維断熱吸音体は、密度が100kg/m
3、厚みが30mm以下の成形体であるため剛性が不足している。このため、エンジン室組立の際の変形防止や剛性向上の観点から、ガラス繊維断熱吸音体をこれと同形状の金属成形品あるいは熱可塑性樹脂成形品に貼着させ、エンジン室と車室の間、エンジン部の周囲及び下部等に取付けて使用される。
【0004】
また、エンジンルームの下面に取り付ける場合には、上記金属成形品あるいは熱可塑性樹脂成形品は、車両の走行中の小石等の跳ね上がり(チッピング)によるエンジン部品の損傷防止としても使用されている。
【0005】
近年、自動車は、省エネルギ―等の観点から、各部品に軽量化が求められており、吸音体においても、上記金属成形品、あるいは熱可塑性樹脂成形品を排し軽量化を図ることが望まれている。
【0006】
このような課題に対して、特許文献1では、密度が実質的に8.0〜80.0kg/m
3の嵩高い防音部分と、その少なくとも一方のフェースに沿って、前記防音部分と一体に設けられた比較的密度の高いスキン層と、厚さが約0.5〜3.0mmのけん縮辺縁部とを有する繊維材料のパッドから成るインシュレータ型ライナーであって、前記スキン層は厚さが実質的に0.25〜10.0mm、密度が実質的に、32.0〜1600.0kg/m
3であることを特徴とするインシュレータ型ライナが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4129427号公
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、自動車のエンジン室内、特にエンジン周囲の空間は狭く、ガラス繊維断熱吸音体の厚みに制限があるため、限定された厚みの中で吸音性を高くする必要がある。自動車等で要求される1000Hz以上の騒音に対する吸音性は、ガラス繊維断熱吸音体の密度による影響が大きい。ガラス繊維断熱吸音体の密度が低すぎると音が透過しやすく、密度が高すぎると音が反射してしまう。音が反射すると吸音体が設置されていないわずかな個所から音が増幅されてしまい、外部に洩れるという現象が生じてしまう。このため、ガラス繊維断熱吸音体の厚みと密度の設定は重要である。
【0009】
また、ガラス繊維からなる吸音体ではガラス繊維の弾性率の関係で3000Hz〜4000Hz付近で共振現象(コインシデンス効果)が起こり(
図4のA部分参照)、垂直入射法による吸音率の低下が生じてしまう。したがって、この周波数帯域での吸音対策も求められている。
【0010】
また、特許文献1で記載されているように、スキン層の密度が1000kg/m
3以上になると、熱可塑性樹脂成形品と同等、あるいは同等以上の密度となってしまい、本発明が目的とする軽量化に沿わないものとなる。
【0011】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、耐チッピング性能を備えつつ軽量化を実現でき、さらに3000Hz〜4000Hz付近での共振現象による吸音率低下を防止したガラス繊維断熱吸音体及びその使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するため、本発明では、互いに重ね合わされた柔軟性部及び高剛性部を備え、前記柔軟性部の密度は80kg/m
3よりも高くて100kg/m
3以下であり、前記高剛性部の密度は120kg/m
3〜300kg/m
3であり且つ曲げ弾性率が150MPa〜500MPaであることを特徴とするガラス繊維断熱吸音体を提供する。
【0013】
好ましくは、前記柔軟性部の厚みは20mm〜30mmであり、前記高剛性部の厚みは3mm〜10mmである。
【0014】
好ましくは、前記高剛性部を形成する前記ガラス繊維の繊維径は7μm以上であり、前記高剛性部の密度は120kg/m
3〜150kg/m
3である。
【0015】
また、本発明では、前記高剛性部の一部又は全部が露出した状態で自動車のエンジンに対して、前記高剛性部がガラス繊維断熱吸音体の外側となるように取り付けることを特徴とするガラス繊維断熱吸音体の使用方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、柔軟性部と高剛性部とを重ねているため、柔軟性部により吸音効果を発揮しながら、高剛性部により耐チッピング性能等を発揮することができる。また、両者をガラス繊維で形成することで軽量化を図ることができる。特に、高剛性部として金属成形品や熱可塑性樹脂成形品を用いるよりも飛躍的に軽量化を図ることができる。すなわち、チッピングにより損傷を防止できる程度の剛性を有しながら吸音効果を発揮でき、さらに軽量化をも図ることができる。また、柔軟性部の密度を80kg/m
3よりも高くて100kg/m
3以下とし、高剛性部の密度を120kg/m
3〜300kg/m
3とすることで、3000Hz〜4000Hz付近での共振現象による吸音率低下を防止できることが確認されている。このため、自動車用のエンジンが発する広い周波数帯域での部分的な吸音率の低下を防止するのに好適である。
【0017】
また、柔軟性部の厚みを20mm〜30mm、高剛性部の厚みを3mm〜10mmとすることで、最適な軽量化を図ることができる。すなわちこの厚みの範囲であれば柔軟性部及び高剛性部の密度、弾性率と相俟って最適な吸音性能、軽量を実現でき、取り扱い性のよい厚みを得ることができている
【0018】
また、高剛性部を形成するガラス繊維の繊維径を7μm以上とすれば、高剛性部の密度を低くすることができる。これにより、耐チッピング性を実現できる程度の剛性を保持しつつ、高剛性部によるある程度の吸音効果も発揮することができる。
【0019】
また、高剛性部の一部又は全部が露出した状態で、自動車のエンジンに対して、前記高剛性部がガラス繊維断熱吸音体の外側となるように取り付けることで、音源となるエンジン側に柔軟性部が配されるので、吸音効果を十分に発揮することができるとともに、自動車のエンジンの下側に取付けた際には、チッピングを受ける側に高剛性部が配されるので耐チッピング性能も十分に発揮することができる。また、エンジンの発する広い周波数帯域での3000Hz〜4000Hz付近での共振現象による吸音率低下についても防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係るガラス繊維断熱吸音体の概略図である。
【
図2】実施例1と比較例との吸音率を比較したグラフである。
【
図3】実施例1及び2と比較例との吸音率を比較した結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示すように、本発明に係るガラス繊維断熱吸音体1は、柔軟性部2及び高剛性部3を備えている。これら柔軟性部2及び高剛性部3は、未硬化の熱硬化性バインダーが付着したマット状のガラス繊維集合体(以下、中間体と称する)を加圧加熱成形して得られる。
【0022】
ガラス繊維には多く種類があるが、本発明で使用するガラス繊維のガラス組成に関して、特に制限はないが、グラスウール断熱材に使用されるソーダライムガラス、もしくはAガラスと称されるガラス組成が好ましい。当該ガラス組成であれば、比較的低い溶融温度にて、遠心法を用いることで量産化が可能であること等の点で経済性に優れている。
【0023】
前記ガラス繊維の繊維径は、特に制限がないが、繊維径が3μm〜10μmの範囲にあることが好ましい。繊維径が上記の範囲であれば、柔軟性部や高剛性部に用いても、本発明の目的を満足させることができ、同じ繊維径のガラス繊維を柔軟性部及び高剛性部に使用しても、柔軟性部と高剛性部にて、繊維径の異なるガラス繊維を使用しても構わない。
【0024】
また、柔軟性部に用いるガラス繊維は、繊維径が3μm〜7μmであることがより好ましく、繊維径が3μm〜5μmであることが更に好ましい。ガラス繊維断熱吸音体において、吸音体の密度が同一であっても、構成するガラス繊維の繊維径が細くなると、単位体積あたりのガラス繊維の本数が多くなり、その結果、ガラス繊維同士が交差して形成される空間が小さく且つ数が多くなるので、吸音性が向上する。本発明のガラス繊維断熱吸音体の柔軟性部においても、上記の範囲にある繊維径のガラス繊維を使用することで、本発明の目的を達成することが容易となる。
【0025】
高剛性部に用いるガラス繊維は、繊維径が4μm〜10μmであることがより好ましく、7μm〜10μmであることが更に好ましい。ガラス繊維径がこの範囲にあると、ガラス繊維断熱吸音体の密度を上げなくとも、曲げ弾性率は高くなる。
【0026】
本発明で使用する未硬化の熱硬化性バインダーは、水性アルデヒド縮合性樹脂であることが好ましい。アルデヒド縮合性樹脂は、レゾール型フェノール樹脂、アミノ樹脂、フラン樹脂が挙げられる。
【0027】
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との付加反応によって得られる樹脂であり、フェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン及びこれらの変性物が例示でき、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの他、アセトアルデヒド、フルフラール、パラホルムアルデヒドが例示できる。
【0028】
アミノ樹脂は、尿素、及びメラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等の尿素から誘導されるアミノ基を有する化合物とアルデヒド類との付加反応によって得られる樹脂である。これに類似して、ポリアクリルアミド、アミノアルコール、ポリアミン類等のアミノ基を有する化合物とアルデヒド類との付加反応によって得られる樹脂も使用できる。
【0029】
アルデヒド縮合性樹脂を使用する場合は、各樹脂を単独で使用しても、あるいは上記の樹脂を混合して使用しても構わない。例えば、フェノール樹脂の一部をメラミン樹脂、尿素樹脂に置き換えてもよい。
【0030】
本発明に用いる熱硬化性バインダーには、主成分の熱硬化性樹脂以外にpH調整剤、硬化促進剤、シランカップリング剤、着色剤、防塵剤、無機繊維から溶出するアルカリ成分を中和する中和剤等の添加剤を必要により加えてもよい。バインダーは上記の各成分を常法に従って混合し、水を加えて所定の濃度に調整される。
【0031】
マット状のガラス繊維集合体(中間体)における、未硬化の熱硬化性バインだーの付着量は、ガラス繊維集合体の全質量に対して、5質量%〜20質量%であることが好ましい。
【0032】
更に、柔軟性部を成形するために使用するマット状のガラス繊維集合体(中間体)においては、未硬化の熱硬化性バインダーの付着量は、5質量%〜15質量%であることが好ましい。未硬化の熱硬化性バインダーの付着量が上記の範囲にあれば、本発明の柔軟性部の密度及び(弾性率)に関する要件を満たすことが可能となる。
【0033】
未硬化の熱硬化性バインダーの付着量が5質量%未満になると、成形後の柔軟性部の密度が80kg/m
3超にならない場合があり、付着量が15質量%を超えると、柔軟性部の密度が100kg/m
3を超える場合があり、ともに柔軟性部の吸音性が低下する。
【0034】
一方、高剛性部を形成するために使用するマット状のガラス繊維集合体(中間体)においては、未硬化の熱硬化性バインダーの付着量は、10質量%〜20質量%であることが好ましい。未硬化の熱硬化性バインダーの付着量が上記の範囲にあれば、本発明が目的とする高剛性部の密度及び曲げ弾性率に達することが可能となる。未硬化の熱硬化性バインダーの付着量が10質量%未満になると、成形後の高剛性部の密度及び曲げ弾性率が所望する範囲にならない場合があり、付着量が20質量%を超えると、高剛性部の密度及び曲げ弾性率がこれ以上の向上が見られず、不経済である。
【0035】
ガラス繊維断熱吸音体1は、これら柔軟性部2及び高剛性部3を互いに重ねて形成されている。
【0036】
ここで、柔軟性部2の密度は80kg/m
3よりも高くて100kg/m
3以下である。柔軟性部の密度が80kg/m
3よりも高くなると、吸音体を透過する音が減少し、吸音率が向上する。一方、柔軟性部の密度を100kg/m
3以下にすることで、吸音体密度の上昇による音の反射を抑制し、吸音率が向上する。すなわち、最適な吸音率が得られる密度は80kg/m
3よりも高くて100kg/m
3以下となる。
【0037】
また、柔軟性部2の厚みは15mm〜30mm、好ましくは20mm〜30mmである。柔軟性部の厚みを15mm以上にすると、透過する音が減少し、吸音性能が十分となる。一方、柔軟性部の厚みを30mm以下にすると、吸音性能を維持しつつ、自動車のエンジン室等の狭い空間にでも設置することが可能な吸音体が得られる。
【0038】
一方で、高剛性部3の密度は120kg/m
3〜300kg/m
3である。高剛性部3の密度が120kg/m
3以上であれば、耐チッピング性を有する剛性を得ることができ、300kg/m
3以下であれば、音の反射による吸音性能の低下を抑制することができる。吸音性能の観点から、高剛性部3の密度は250kg/m
3以下とするのがより好ましい。
【0039】
また高剛性部3の曲げ弾性率は150MPa〜500MPa、より好ましくは180MPa〜300MPaである。高剛性部の曲げ弾性率が150MPa以上であれば、自動車エンジン室への設置の際の吸音体の取扱性が向上し且つ、耐チッピング性を有する。高剛性部の曲げ弾性率が500MPa以下であれば、剛性が高くなりすぎて、音の反射が大きくなるという現象が避けられる。
【0040】
高剛性部3の厚みは3mm〜10mm、好ましくは5mm〜8mm、最適は5mmである。ただし厚みは吸音体1の重量と剛性を最適化することを考慮して適宜設定される。高剛性部の厚みが3mm以上であれば、吸音体の取扱性及び、耐チッピング性が向上し、厚みが10mm以下であれば、吸音体の質量増加を抑制することができる。
【0041】
柔軟性部2及び高剛性部3をこのような特性とすることで、柔軟性部2には高い効果の吸音性能を付与しつつ、高剛性部3にはある程度の吸音性能及び剛性を付与することができる。したがって、吸音体1としては吸音性能が高く、耐チッピング性能も兼ね備えたものとすることができる。
【0042】
このように、吸音体1は、柔軟性部2と高剛性部3とを重ねているため、柔軟性部2により吸音効果を発揮しながら高剛性部3により耐チッピング性能を発揮することができる。また、両者をガラス繊維で形成することで軽量化を図ることができる。特に、高剛性部3として金属製の板材や樹脂製の板材を用いるよりも飛躍的に軽量化を図ることができる。すなわち、吸音体1は、チッピングにより損傷を防止できる程度の剛性を有しながら吸音効果を発揮でき、さらに軽量化をも図ることができる。
【0043】
また、柔軟性部2の密度を80kg/m
3よりも高くて100kg/m
3以下とし、高剛性部の密度を120kg/m
3〜300kg/m
3且つ高剛性部3の曲げ弾性率を150MPa〜500MPaとすることで、、3000Hz〜4000Hz付近での共振現象による吸音率低下を防止できることが確認されている。このため、自動車用のエンジンが発する広い周波数帯域での部分的な吸音率の低下を防止するのに吸音体1は好適である。
【0044】
高剛性部3を形成するガラス繊維の繊維径が7μm以上の場合、高剛性部の密度は120kg/m
3〜150kg/m
3が好ましい。このように、高剛性部3を形成するガラス繊維の繊維径を7μm以上とすれば、高剛性部3の密度を低くすることができる。これにより、耐チッピング性を実現できる程度の剛性を保持しつつ、高剛性部3によるある程度の吸音効果も発揮することができる。すなわち、繊維径を7μm以上とすれば高剛性部3の高密度化を図らずとも高弾性率を得ることができるので、軽量化や経済性の点で好ましい。
【0045】
本発明のガラス繊維断熱吸音体の成形法において、特に制限はないが、好ましい成形法は以下の通りである。
【0046】
(1)まず、高剛性部を成形する。
使用する金型は、高剛性部の寸法に合う間隙を有している。高剛性部として所望する密度及び寸法より算出した質量分の中間体を金型内に設置して、圧力8TPa〜12TPa、温度200℃〜250℃にて1分間〜5分間硬化させて、高剛性部を成形する。
【0047】
(2)次いで、柔軟性部を高剛性部上に成形する。
使用する金型は、ガラス繊維断熱吸音体の寸法、すなわち、高剛性部の寸法に柔軟性部の寸法を付加した寸法の間隙を有している。先に成形した高剛性部を金型内に配置し、その上に、柔軟性部の所望する密度及び寸法より算出した質量の中間体を金型内に設置して、圧力8TPa〜12TPa、温度200℃〜250℃にて1分間〜5分間硬化させて、吸音体を成形する。
【0048】
高剛性部と柔軟性部は、柔軟性部成形時に、中間体に含まれる未硬化の熱硬化性バインダーにより、接着される。上記の成形条件であれば、高剛性部と柔軟性部の接着は十分である。
【0049】
(実施例1)
実施例1として、以下のガラス繊維断熱吸音体を得た。まず、溶融したガラスを遠心法で平均繊維径4μmのガラス繊維とし、その直後にレゾール型フェノール樹脂からなる水性バインダーをスプレーした。水性バインダーの付着量は13質量%となるようにし、中間体を得た。中間体を質量が250gとなるように裁断して、500mm角にて深さ5mmの間隙を有する金型に設置し、金型温度240℃、成形圧力10TPaにて成形時間2分で加熱加圧硬化させた。これにより、500mm角、厚み5mm、密度200kg/m
3、(曲げ)弾性率250MPaの高剛性部を得た。一方で、この高剛性部を500mm角にて深さ30mmの間隙を有する金型に設置し、中間体を質量が506gとなるように裁断して高剛性部と重ねて積層し、金型温度240℃、成形圧力10TPaにて成形時間5分で加熱加圧硬化させた。これにより実施例1のガラス繊維断熱吸音体を成形した。なお、高剛性部に重ねて積層された部分は柔軟性部となっていて、この柔軟性部は厚み25mm、密度81kg/m
3、であった。
【0050】
(実施例2)
実施例2として以下のガラス繊維断熱吸音体も得た。まず、溶融したガラスを遠心法で平均繊維径7μmのガラス繊維とし、その直後にレゾール型フェノール樹脂からなる水性バインダーをスプレーした。水性バインダーの付着量は10質量%となるようにし、このような中間体を得た。中間体を質量が160gとなるように裁断して、500mm角にて深さ5mmの間隙を有する金型に設置し、金型温度240℃、成形圧力10TPaにて成形時間1分で加熱加圧硬化させた。
【0051】
これにより、厚み5mm、密度128kg/m
3、(曲げ)弾性率200MPaの高剛性部を得た。一方で、この高剛性部を500mm角にて深さ25mmの間隙を有する金型に設置し、中間体を質量が405gとなるように裁断して高剛性部と重ねて積層し、金型温度240℃、成形圧力10TPaにて成形時間4分で加熱加圧硬化させた。これにより実施例2のガラス繊維断熱吸音体を成形した。なお、高剛性部に重ねて積層された部分は柔軟性部となっていて、この柔軟性部は厚み20mm、密度81kg/m
3、であった。
【0052】
(比較例)
比較例として、以下のガラス繊維断熱吸音体を得た。上述したル中間体を質量が750gとなるように裁断して、500mm角にて深さ30mmの間隙を有する金型に設置し、金型温度240℃、成形圧力10TPaにて成形時間7.5分で加熱加圧硬化させた。これにより、厚み30mm、密度100kg/m
3、(曲げ)弾性率84MPaの比較例のガラス繊維断熱吸音体を得た。
【0053】
図2に示すように、上記実施例1と比較例との音の周波数に対する吸音率を測定したところ、比較例(
図2の実線B)では3150Hzあたりで共振現象が見られ、吸音率の低下が確認された。一方で実施例1(
図2の実線C)では共振現象が見られる3000Hz〜4000Hzでは吸音率の低下が見られなかった。これは柔軟性部と高剛性部との密度や弾性率が相俟って奏された効果である。
【0054】
図3に示すように、実施例1及び2、さらに比較例を所定周波数毎にその(垂直入射)吸音率を測定した。測定はJIS A−1405−2に従って行った。実施例1及び2とも、比較例に対してはどの周波数においても吸音率が高かった。実施例1及び2においても、共振現象は確認されていない。
【0055】
上述したガラス繊維断熱吸音体1は、高剛性部3の一部又は全部が露出した状態で自動車のエンジンルーム下部に取り付けられて使用される。このような使用方法によれば、音源となるエンジン側に柔軟性部2が配されるので、吸音効果を十分に発揮することができるとともに、チッピングを受ける側に高剛性部3が配されるので耐チッピング性能も十分に発揮することができる。また、エンジンの発する広い周波数帯域での3000Hz〜4000Hz付近での共振現象による吸音率低下についても防止できる。
【符号の説明】
【0056】
1:ガラス繊維断熱吸音体、2:柔軟性部、3:高剛性部