特許第6495036号(P6495036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6495036-密封装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495036
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3204 20160101AFI20190325BHJP
   F16F 9/36 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   F16J15/3204 101
   F16F9/36
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-23860(P2015-23860)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-148354(P2016-148354A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【弁理士】
【氏名又は名称】桐山 大
(72)【発明者】
【氏名】森 達也
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−019863(JP,U)
【文献】 特開2013−204748(JP,A)
【文献】 実開昭58−097354(JP,U)
【文献】 実開平05−019692(JP,U)
【文献】 特開平11−042276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00−9/58
F16J 15/16−15/3296
15/46−15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属環の内周部に設けられるとともに作動ロッドの周面に摺動可能に接触することにより機内の密封流体をシールする主リップと、前記金属環の内周部に設けられるとともに前記作動ロッドの周面に摺動可能に接触することにより機外の異物をシールするダストリップを有する密封装置において、
前記ダストリップの機外側にグリース保持カバーを設け、前記グリース保持カバーおよび前記ダストリップ間の空間にグリースを充填し、
前記グリース保持カバーは、環状に形成され、カバー基端部を備え、
前記カバー基端部は、前記ダストリップのリップ基端部の外周側で前記金属環に被着され、
前記グリース保持カバーは、カバー先端部を備え、
前記カバー先端部は、前記ダストリップのリップ先端部の更に機外側で前記作動ロッドの周面に対向していることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1記載の密封装置において、
前記グリース保持カバーのカバー先端部は、前記作動ロッドの周面に対し非接触とされ、前記グリース保持カバーのカバー先端部および前記作動ロッドの周面間に径方向間隙が設定されていることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の密封装置において、
当該密封装置は、ショックアブソーバ用シールとして用いられることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール技術に係る密封装置に関する。本発明の密封装置は例えば、自動車関連の分野または汎用機械の分野などで用いられる。また本発明の密封装置は例えば、車輪懸架装置におけるショックアブソーバ用シールとして用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来から図2に示すように、機内Aの密封流体(オイルなど)をシールする主リップ52と、機外Bの異物(ダストや泥水など)をシールするダストリップ53とを有するリップタイプのショックアブソーバ用シール51が知られている。シール51はショックアブソーバのケーシング61内周に装着され、主リップ52およびダストリップ53がそれぞれ作動ロッド62の周面に摺動可能に接触することによりシール機能を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−298074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記シール51は、機内Aの密封流体をシールする主リップ52のほかに、機外Bの異物をシールする専用のダストリップ53を有しているため、機外Bの異物が機内Aへ侵入するのを有効に抑制することができるが、さらに以下の点で改良の余地がある。
【0005】
すなわち、上記ダストリップ53がその配置として機外Bの大気中のオゾンに直接接触するため、ダストリップ53が材質上劣化し、ダストリップ53にオゾンクラックが発生する現象が認められる。
【0006】
したがって、このようにダストリップ53にオゾンクラックが発生すると、ダストリップ53のシール機能が低下し、機外Bの異物が機内Aへ侵入することが懸念される。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みて、ダストリップにオゾンクラックが発生してダストリップのシール機能が低下するのを抑制することができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の請求項1による密封装置は、金属環の内周部に設けられるとともに作動ロッドの周面に摺動可能に接触することにより機内の密封流体をシールする主リップと、前記金属環の内周部に設けられるとともに前記作動ロッドの周面に摺動可能に接触することにより機外の異物をシールするダストリップを有する密封装置において、前記ダストリップの機外側にグリース保持カバーを設け、前記グリース保持カバーおよび前記ダストリップ間の空間にグリースを充填し、前記グリース保持カバーは、環状に形成され、カバー基端部を備え、前記カバー基端部は、前記ダストリップのリップ基端部の外周側で前記金属環に被着され、前記グリース保持カバーは、カバー先端部を備え、前記カバー先端部は、前記ダストリップのリップ先端部の更に機外側で前記作動ロッドの周面に対向していることを特徴とする。
【0009】
上記構成を備える本発明の密封装置においては、ダストリップの機外側にグリース保持カバーが設けられるとともにグリース保持カバーおよびダストリップ間の空間にグリースが充填されるため、グリースが機外の大気中のオゾンを遮断する。したがってダストリップが機外の大気中のオゾンに直接接触しなくなるため、ダストリップが材質上劣化してダストリップにオゾンクラックが発生するのを抑制することが可能とされる。
【0010】
また、本発明の請求項2による密封装置は、上記した請求項1記載の密封装置において、前記グリース保持カバーのカバー先端部は、前記作動ロッドの周面に対し非接触とされ、前記グリース保持カバーのカバー先端部および前記作動ロッドの周面間に径方向間隙が設定されていることを特徴とする。
また、本発明の請求項3による密封装置は、上記した請求項1または2記載の密封装置において、当該密封装置は、ショックアブソーバ用シールとして用いられることを特徴とする。
【0011】
本発明では、ダストリップがその配置として機外の大気中のオゾンに直接接触する可能性があれば、密封装置はその用途を限定されない。但し、密封装置は典型的には上記のとおりショックアブソーバ用シールとして用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ダストリップにオゾンクラックが発生してダストリップのシール機能が低下するのを抑制することができる。したがってダストリップの耐久性および、ダストリップによる対ダストのシール性を維持向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係る密封装置の要部断面図
図2】従来例に係る密封装置の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施例に係る密封装置11の要部断面を示している。当該実施例に係る密封装置11は、機内(機器内部)Aの密封流体(オイルなど)が機外(機器外部)Bへ漏洩するのを抑制するとともに機外Bの異物(ダストや泥水など)が機内Aへ侵入するのを抑制するショックアブソーバ用シールとして用いられる。
【0016】
当該密封装置11は、金属環12と、この金属環12に被着(加硫接着)されたゴム状弾性体13とを有し、このゴム状弾性体13によってシールリップ14および膜部15が一体に成形されている。
【0017】
シールリップ14は、金属環12の内周部に設けられるとともに使用時に作動ロッドの周面16に摺動可能に接触することにより機内Aの密封流体をシールするガータスプリング17付きの主リップ14Aと、金属環12の内周部に設けられるとともに使用時に作動ロッドの周面16に摺動可能に接触することにより機外Bの異物をシールするダストリップ14Bと、金属環12の外周部に設けられるとともに使用時にロッドガイドまたはシリンダチューブ等のケーシング(図示せず)に接触することにより金属環12およびケーシング間をシールする外周リップ14Cと、主リップ14Aおよび外周リップ14C間に設けられるとともに使用時にロッドガイドに接触することにより金属環12およびロッドガイド間をシールする中間リップ14Dとの組み合わせよりなり、これら複数のシールリップ14を金型にて一体成形した結果として、これらシールリップ14と一体の膜部15が金属環12の表面上に設けられている。
【0018】
上記構成において、ダストリップ14Bが使用時、機外Bの大気中のオゾンOに直接接触すると材質上劣化し、オゾンクラックが発生することが懸念される。
【0019】
そこで、対策として当該密封装置11では、以下の構成が追加されている。
【0020】
すなわち図示するように、ダストリップ14Bが機外Bの大気中のオゾンOに直接接触して材質上劣化することがないように、ダストリップ14Bの機外B側に位置して、グリース保持カバー18が設けられ、グリース保持カバー18とダストリップ14Bとの間に空間19が設定され、この空間19にグリース20が充填される。
【0021】
グリース保持カバー18は、以下のように構成されている。
【0022】
(1)グリース保持カバー18は、主リップ14Aおよびダストリップ14B等のシールリップ14ならびに膜部15とともにゴム状弾性体13により一体に成形されている。
【0023】
(2)グリース保持カバー18は、環状に形成され、カバー基端部18aを備え、カバー基端部18aはダストリップ14Bのリップ基端部14Baの外周側において金属環12に被着(加硫接着)されている。
【0024】
(3)グリース保持カバー18は、カバー先端部18bを備え、カバー先端部18bはダストリップ14Bのリップ先端部14Bbの更に先(機外B側)において作動ロッドの周面16に対向する。
【0025】
(4)グリース保持カバー18のカバー先端部18bは、作動ロッドの周面16に対して非接触とされ、カバー先端部18bおよび作動ロッドの周面16間には間隙(径方向間隙)21が設定される。
【0026】
このように作動ロッドの周面16に対し非接触とされるグリース保持カバー18には、これが設けられても作動ロッドのストローク時に摺動抵抗が発生しないため、作動ロッドのストロークに摺動抵抗の増大による影響(駆動力のロスなど)を及ぼさないと云う利点がある。
【0027】
(5)グリース保持カバー18は、カバー基端部18aおよびカバー先端部18b間に屈曲部18cを備え、カバー基端部18aおよび屈曲部18c間に基端側斜面部18dを備え、屈曲部18cおよびカバー先端部18b間に先端側斜面部18eを備えている。
【0028】
基端側斜面部18dは、その径寸法がカバー基端部18aから屈曲部18cへかけて徐々に縮小するよう設定され、先細のテーパー状に形成されている。先端側斜面部18eはこれも、その径寸法が屈曲部18cからカバー先端部18bへかけて徐々に縮小するよう設定され、先細のテーパー状に形成されている。
【0029】
基端側斜面部18dおよび先端側斜面部18eを比較すると、前者の基端側斜面部18dよりも後者の先端側斜面部18eのほうがロッドの周面16に対する傾斜角度が大きく設定されており、これによりグリース保持カバー18は全体として断面略くの字状に形成されている。
【0030】
このように断面略くの字状に形成されたグリース保持カバー18には、これがカバー基端部18aからカバー先端部18bへかけて直線状に形成された場合と比較して、グリース保持カバー18の強度を高めることができる効果があり、機外B側から飛石などが衝突したときのクッション性に優れる効果があり、また、ダストリップ14Bとの間の空間19の容積が大きいためにグリース20を多量に充填することができる効果がある。
【0031】
上記構成を備える密封装置11によれば、グリース保持カバー18およびダストリップ14B間の空間19に充填されるグリース20がオゾン遮蔽効果を発揮し、これによりダストリップ14BがオゾンOに直接接触しないため、ダストリップ14Bが材質上劣化してダストリップ14Bにオゾンクラックが発生するのを抑制することが可能とされる。したがってダストリップ14Bにオゾンクラックが発生してダストリップ14Bのシール機能が低下するのを抑制することができ、よってダストリップ14Bの耐久性および、ダストリップ14Bによる対ダストのシール性を維持向上することができる。
【符号の説明】
【0032】
11 密封装置
12 金属環
13 ゴム状弾性体
14 シールリップ
14A 主リップ
14B ダストリップ
14Ba リップ基端部
14Bb リップ先端部
14C 外周リップ
14D 中間リップ
15 膜部
16 ロッド周面
17 ガータスプリング
18 グリース保持カバー
18a カバー基端部
18b カバー先端部
18c 屈曲部
18d 基端側斜面部
18e 先端側斜面部
19 空間
20 グリース
21 間隙
A 機内
B 機外
O オゾン
図1
図2