(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(A)において、上記二次元領域に含まれるピクセル単位の数が、5,000個以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載のセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率の推定方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法によれば、フライアッシュ、シリカフューム等の混和材や石灰岩からなる骨材が含まれている可能性のあるセメント系硬化体であっても、セメント及びフライアッシュ等の混和材を含む結合材全体の化学組成を推定することができる。
また、特許文献2に記載された方法によれば、セメント硬化体中のセメント水和物、非セメント水和物および空隙の構成比率を測定することができる。
しかし、特許文献1〜2に記載された方法では、セメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率を推定することは困難であった。
そこで、本発明は、セメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率を、高い精度で簡易に推定することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、セメント質硬化体において適宜定めた二次元領域を、ピクセル単位に区画した後、該二次元領域の中から、高炉スラグ微粉末に相当する1つ以上のスラグ粒子の各粒子中のピクセル単位を選択し、電子線マイクロアナライザーを用いて、選択されたピクセル単位のSiO
2含有率を測定し、次いで、その測定結果に基づいてSiO
2含有率に関するしきい値を定めた後、上記二次元領域を構成するピクセル単位から、特定の基準によって骨材及び空隙に相当するピクセル単位を除外して得られるピクセル単位(セメントペーストに相当するピクセル単位)について、電子線マイクロアナライザーを用いて、そのSiO
2含有率を測定し、得られた測定値の平均値を、セメントおよび高炉スラグ微粉末からなるセメントペーストのSiO
2含有率として定め、次いで、セメントのSiO
2含有率と、高炉スラグ微粉末に相当する各粒子中のピクセル単位のSiO
2含有率の測定値の平均値とに基づいて定めた関係式に、上述のセメントペーストのSiO
2含有率(セメントペーストに相当するピクセル単位におけるSiO
2含有率の測定値の平均値)を適用する方法によれば、前記の目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1] 高炉スラグ微粉末を含む水硬性組成物を硬化させてなるセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率を推定するための方法であって、(A) 上記セメント質硬化体において適宜定めた二次元領域を、電子線マイクロアナライザーによる分析のために、ピクセル単位に区画する工程と、(B) 工程(A)で定めた上記二次元領域の中から、高炉スラグ微粉末に相当する1つ以上のスラグ粒子の各粒子中のピクセル単位を選択し、電子線マイクロアナライザーを用いて、上記選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率を測定し、その測定結果に基いて、SiO
2含有率に関するしきい値を定める工程と、(C)工程(A)で定めた上記二次元領域を構成するピクセル単位から、工程(B)で定めたSiO
2含有率に関するしきい値を超えるピクセル単位(x)と、空隙に相当するピクセル単位(y)とを除外して得られるピクセル単位について、電子線マイクロアナライザーを用いて、そのSiO
2含有率を測定し、得られた測定値の平均値を、セメントおよび高炉スラグ微粉末からなるセメントペーストのSiO
2含有率として定める工程と、(D) 上記セメントのSiO
2含有率と、工程(B)で得た上記高炉スラグ微粉末に相当する各粒子中のピクセル単位のSiO
2含有率の測定値の平均値とに基いて、セメントおよび高炉スラグ微粉末からなるセメントペーストにおける、セメントペーストのSiO
2含有率と、セメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率の関係式を定める工程と、(E) 工程(D)で定めた関係式に、工程(C)で得た上記セメントペーストのSiO
2含有率を適用して、上記セメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率を推定する工程、を含むことを特徴とするセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率の推定方法。
【0008】
[2] 工程(A)と工程(C)の間に、(B1)電子線マイクロアナライザーを用いて、工程(A)で定めた上記二次元領域を構成するピクセル単位の各々のCO
2含有率を測定し、その測定結果に基いて、CO
2含有率に関するしきい値を定める工程、を含み、工程(C)において、工程(A)で定めた上記二次元領域を構成するピクセル単位から、上記ピクセル単位(x)及び(y)とともに、工程(B1)で定めたCO
2含有率に関するしきい値を超えるピクセル単位(z)を除外する前記[1]に記載のセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率の推定方法。
[3] 工程(B1)において、上記CO
2含有率に関するしきい値が、35〜45質量%の範囲内で適宜定めた値である前記[2]に記載のセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率の推定方法。
[4] 工程(B)において、上記SiO
2含有率に関するしきい値が、上記選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率の平均値に、適宜定めた調整値を加えてなる値、または、上記選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率の中の最大値もしくは該最大値に適宜定めた調整値を加えてなる値である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率の推定方法。
[5] 工程(C)において、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、MgO、SO
3、Na
2O、K
2OおよびTiO
2の合計の含有率が、40〜60質量%の範囲内で適宜定めた値未満であるピクセル単位を、上記空隙に相当するピクセル単位として定める前記[1]〜[4]のいずれかに記載のセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率の推定方法。
[6] 工程(D)において、上記セメントのSiO
2含有率として、上記セメント質硬化体を構成する水硬性組成物の材料であるセメントのSiO
2含有率の実測値、または、標準的なセメントの既知のSiO
2含有率の値を用いる前記[1]〜[5]のいずれかに記載のセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率の推定方法。
[7] 工程(A)において、上記二次元領域に含まれるピクセル単位の数が、5,000個以上である前記[1]〜[6]のいずれかに記載のセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率の推定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の推定方法によれば、セメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率を、高い精度で簡易に推定することができる。
例えば、セメント質硬化体の作製後に、該硬化体の材料である高炉スラグ微粉末の配合量を確認したい場合に、本発明の推定方法を用いれば、高炉スラグ微粉末の配合量を迅速かつ容易に推定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率の推定方法は、高炉スラグ微粉末を含む水硬性組成物を硬化させてなるセメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率を推定するための方法であって、(A)上記セメント質硬化体において適宜定めた二次元領域を、電子線マイクロアナライザーによる分析のために、ピクセル単位に区画する工程と、(B)工程(A)で定めた上記二次元領域の中から、高炉スラグ微粉末に相当する1つ以上のスラグ粒子の各粒子中のピクセル単位を選択し、電子線マイクロアナライザーを用いて、上記選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率を測定し、その測定結果に基いて、SiO
2含有率に関するしきい値を定める工程と、(C)工程(A)で定めた上記二次元領域を構成するピクセル単位から、工程(B)で定めたSiO
2含有率に関するしきい値を超えるピクセル単位(x)と、空隙に相当するピクセル単位(y)とを除外して得られるピクセル単位について、電子線マイクロアナライザーを用いて、そのSiO
2含有率を測定し、得られた測定値の平均値を、セメントおよび高炉スラグ微粉末からなるセメントペーストのSiO
2含有率として定める工程と、(D)上記セメントのSiO
2含有率と、工程(B)で得た上記高炉スラグ微粉末に相当する各粒子中のピクセル単位のSiO
2含有率の測定値の平均値とに基いて、セメントおよび高炉スラグ微粉末からなるセメントペーストにおける、セメントペーストのSiO
2含有率と、セメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率の関係式を定める工程と、(E)工程(D)で定めた関係式に、工程(C)で得た上記セメントペーストのSiO
2含有率を適用して、上記セメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率を推定する工程、を含むものである。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0012】
[工程(A)]
工程(A)は、セメント質硬化体において適宜定めた二次元領域を、電子線マイクロアナライザーによる分析のために、ピクセル単位に区画する工程である。
本発明において、「セメント質硬化体」とは、セメント、水、高炉スラグ微粉末、及び、他の任意材料(減水剤、粗骨材、細骨材等)からなる水硬性組成物の硬化体をいう。具体的には、コンクリート硬化体、モルタル硬化体、またはペースト硬化体を意味する。
【0013】
セメント質硬化体を構成するセメントの種類は、特に限定されず、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、シリカセメント(A、B、C種)、フライアッシュセメント(A、B、C種)等が挙げられる。
【0014】
「セメント質硬化体において適宜定めた二次元領域」とは、平坦な表面を有するセメント質硬化体における当該平坦な表面の中の適宜定めた一部の領域、または、セメント質硬化体を適宜の位置で切断した場合における平坦な切断面の中の適宜定めた一部の領域を意味する。
二次元領域は、電子顕微鏡等による拡大観察によって、粗骨材が存在せずかつ細骨材がなるべく少ない領域を選択して定めることが望ましい。
【0015】
ピクセル単位とは、電子線マイクロアナライザーを用いて、セメント質硬化体の化学組成を測定するための測定単位(1回の測定操作で測定される対象)である微小な領域をいう。
ピクセル単位は、特に形状が限定されるものではないが、通常、一辺が特定の寸法を有する正方形の領域である。
ピクセル単位の一辺の寸法は、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.3〜5μm、特に好ましくは0.6〜2μmである。該値が0.1μm以上であれば、非常に高性能の電子線マイクロアナライザーを必要とせずに測定ができ、測定装置のコストの面から実用的である。該値が10μm以下であれば、高炉スラグ微粉末の含有率を推定する精度をより向上させることができる。
【0016】
化学組成の分析対象である二次元領域に含まれるピクセル単位の数は、好ましくは5000個以上、より好ましくは1万〜100万個、さらに好ましくは2万〜50万個、特に好ましくは3万〜25万個である。該値が5000個以上であれば、高炉スラグ微粉末の含有率を推定する精度をより向上させることができる。該値が100万個以下であれば、電子線マイクロアナライザーを用いた測定の負担が過大になることを防ぐことができる。
本発明において、電子線マイクロアナライザーを用いたピクセル単位の化学組成の測定は、セメント等の結合材を構成する主な9つの元素である、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、MgO、SO
3、Na
2O、K
2O、TiO
2の各元素(酸化物換算)、及び、石灰岩(CaCO
3)等からなる材料やエポキシ樹脂を構成する主な元素の一つである炭素(酸化物換算としてはCO
2)の定量として行われる。
【0017】
[工程(B)]
工程(B)は、工程(A)で定めた二次元領域の中から、高炉スラグ微粉末に相当する1つ以上のスラグ粒子の各粒子中のピクセル単位を選択し、電子線マイクロアナライザーを用いて、選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率を測定し、その測定結果に基いて、SiO
2含有率に関するしきい値を定める工程である。
高炉スラグ微粉末に相当するスラグ粒子は、電子顕微鏡を用いた背面反射電子像観察を行い、工程(A)で定めた二次元領域の中に存在する粒子の形状や輝度から判断することができる。具体的には、二次元領域において、角ばっており、かつ、輝度の高い粒子(明るく表示される粒子)が高炉スラグ微粉末に相当するスラグ粒子である。
【0018】
本工程では、1つのスラグ粒子に対して、該スラグ粒子に相当するピクセル単位群のうち、任意のピクセル単位(好ましくは、スラグ粒子の略中央に存在する1つのピクセル単位)を選択する。測定の対象であるスラグ粒子の数は、本発明における高炉スラグ微粉末の含有率の推定の精度を高める観点から、好ましくは3つ以上、より好ましくは5つ以上、特に好ましくは8つ以上である。
【0019】
SiO
2含有率に関するしきい値は、選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率を測定し、得られた測定値の平均値(質量%)に、適宜定めた調整値(質量%)を加えてなる値(以下、「調整平均値」ともいう。)、または、選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率の中の最大値(質量%)もしくは該最大値(質量%)に適宜定めた調整値(質量%)を加えてなる値(以下、「調整最大値」ともいう。)である。
調整平均値における上記調整値は、好ましくは1〜5質量%(より好ましくは2〜4質量%)の間の特定の値(例えば、3質量%)である。
調整最大値における上記調整値は、好ましくは0.1〜5質量%(より好ましくは0.5〜2質量%)の間の特定の値(例えば、1質量%)である。
選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率の平均値、または選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率の中の最大値に、上記数値範囲内の調整値を加えることで、高炉スラグ微粉末の含有率を推定する精度をより向上させることができる。
SiO
2含有率に関するしきい値として、調整平均値または調整最大値のいずれを選択してもよい。中でも、高炉スラグ微粉末の含有率を推定する精度をより向上させる観点から、調整平均値と調整最大値を比較して、大きい方の値をしきい値として選択することが好ましい。
【0020】
なお、本工程において選択されたピクセル単位の各々のSiO
2含有率の平均値は、推定の対象であるセメント質硬化体を構成する水硬性組成物の材料である、高炉スラグ微粉末のSiO
2含有率を意味する。また、該SiO
2含有率は、後述する工程(D)において、セメントペーストのSiO
2含有率とセメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率の関係式を定める際に使用される。
【0021】
[工程(C)]
工程(C)は、工程(A)で定めた二次元領域を構成するピクセル単位から、工程(B)で定めたSiO
2含有率に関するしきい値を超えるピクセル単位(x)と、空隙に相当するピクセル単位(y)とを除外して得られるピクセル単位について、電子線マイクロアナライザーを用いて、そのSiO
2含有率を測定し、得られた測定値の平均値を、セメントおよび高炉スラグ微粉末からなるセメントペーストのSiO
2含有率として定める工程である。
工程(B)で定めたSiO
2含有率に関するしきい値を超えるピクセル単位は、石灰岩以外の材料からなる骨材(例えば、陸砂、砕砂、砂岩骨材等)に相当すると判断することができる。
空隙に相当するピクセル単位は、電子線マイクロアナライザーを用いたピクセル単位の化学組成の測定によって得られた、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、MgO、SO
3、Na
2O、K
2OおよびTiO
2の合計の含有率から判断することができる。具体的には、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、MgO、SO
3、Na
2O、K
2OおよびTiO
2の合計の含有率が、好ましくは40〜60質量%(より好ましくは45〜55質量%)の範囲内で適宜定めた値(例えば、50質量%)をしきい値として、該しきい値未満であるピクセル単位は、空隙に相当すると判断することができる。
【0022】
後述する工程(B1)において、CO
2含有率に関するしきい値を定めた場合、本工程において、CO
2含有率に関するしきい値を超えるピクセル単位を、石灰岩からなる成分または粗大な空隙に侵入したエポキシ樹脂等に相当すると判断することができ、該ピクセル単位を除外することができる。
なお、本発明において、しきい値は特定のピクセル単位を除外するための目安として適宜定めた値であることから、本明細書中、「しきい値を超える」及び「しきい値未満」は、各々、「しきい値以上」及び「しきい値以下」に置き換えることができる。
【0023】
本工程において、上述した特定のピクセル単位を除外することで、二次元領域を構成する全ピクセル単位から、セメントおよび高炉スラグ微粉末からなるセメントペーストに相当するピクセル単位を抽出することができる。
上述した特定のピクセル単位を除外して得られるピクセル単位(セメントペーストに相当するもの)の数は、好ましくは5,000個以上、より好ましくは1万個以上、特に好ましくは2万個以上である。電子線マイクロアナライザーを用いた測定の対象であるピクセル単位は、非常に微小な面積を有するものである。そのため、セメントペーストに相当するピクセル単位群に属するピクセル単位の相互間であっても、化学組成のばらつきが大きい。そこで、セメントペーストに相当するピクセル単位群に属する非常に多数のピクセル単位の化学組成の平均値を算出することによって、より高い精度でセメントペーストの化学組成を得ることができる。
【0024】
[工程(B1)]
工程(A)と工程(C)の間に、工程(B1)として、電子線マイクロアナライザーを用いて、工程(A)で定めた二次元領域を構成するピクセル単位の各々のCO
2含有率を測定し、その測定結果に基いて、CO
2含有率に関するしきい値を定める工程を含んでもよい。
工程(C)において、工程(B1)で定めたCO
2含有率に関するしきい値を超えるピクセル単位を、石灰岩やエポキシ樹脂に相当するピクセル単位をみなすことで、ピクセル単位(x)、(y)とともに、石灰岩からなる材料(石灰岩骨材、石灰岩粉末等)、または、粗大な空隙に侵入したエポキシ樹脂(電子線マイクロアナライザーを用いる際に、セメント質硬化体の試料の表面に適用するもの)等に相当するピクセル単位(z)を除外することができる。
本発明において、セメント質硬化体中に石灰岩からなる材料(石灰岩骨材、石灰岩粉末等)が含まれる場合や、電子線マイクロアナライザーを用いる際にエポキシ樹脂を用いて試料を固化する場合等には、本工程を行うことが好ましい。本工程を行い、工程(C)において、工程(B1)で定めたしきい値を用いて特定のピクセル単位(石灰岩からなる骨材や、エポキシ樹脂に相当するピクセル単位)を除外することで、本発明における高炉スラグ微粉末の含有率の推定の精度をより高めることができる。
【0025】
CO
2含有率に関するしきい値は、好ましくは35〜45質量%(より好ましくは38〜42質量%)の範囲内で適宜定めた値(例えば、40質量%)である。
なお、CO
2含有率は、気体の二酸化炭素を意味するものではなく、セメント質硬化体中の石灰岩からなる材料や、エポキシ樹脂を、電子線マイクロアナライザーを用いて測定した場合における炭素原子(C)の酸化物換算の濃度である。
また、工程(A)と工程(C)の間において行われる、工程(B)と工程(B1)の順序は特に限定されるものではない。
【0026】
[工程(D)]
工程(D)は、セメントのSiO
2含有率と、工程(B)で得た高炉スラグ微粉末に相当する各粒子中のピクセル単位のSiO
2含有率の測定値の平均値とに基いて、セメントおよび高炉スラグ微粉末からなるセメントペーストにおける、セメントペーストのSiO
2含有率と、セメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率の関係式を定める工程である。
セメントのSiO
2含有率としては、本発明の方法の対象であるセメント質硬化体を構成する水硬性組成物の材料であるセメントの入手が可能である場合は、該セメントのSiO
2含有率の実測値を用いることができ、上記セメントの入手が不可能である場合には、標準的なセメントの既知のSiO
2含有率の値を用いることができる。
標準的なセメントの既知のSiO
2含有率としては、市販の普通セメントや低熱セメント等において一般的に公表されているセメントのSiO
2の含有率や、社団法人セメント協会が販売している化学分析用セメント標準物質の成分組成として公表されているセメントのSiO
2の含有率等が挙げられる。これらの中で、本発明の方法の対象であるセメント質硬化体を構成する水硬性組成物の材料であるセメントに最も近いと考えられるセメントのSiO
2の含有率(例えば、低熱セメントを使用した可能性が高い場合、市販の低熱セメントについて公表されているSiO
2の含有率)を適宜選択して用いることが好ましい。
【0027】
セメントペーストのSiO
2含有率と、セメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率の関係式は、セメントのSiO
2含有率と、工程(B)で得た高炉スラグ微粉末に相当する各粒子中のピクセル単位(高炉スラグ粒子中の未反応の部分に相当するもの)のSiO
2含有率の測定値の平均値とに基づいて得ることができる。
具体的には、セメントのSiO
2含有率(
図1中、「セメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率」が0質量%である場合における「セメントペーストのSiO
2含有率」に該当)、及び、工程(B)で得た高炉スラグ微粉末に相当する各粒子中のピクセル単位のSiO
2含有率の測定値の平均値(
図1中、「セメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率」が100質量%である場合における「セメントペーストのSiO
2含有率」に該当)を用いて、セメントペーストのSiO
2含有率(x)とセメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率(y)の関係式y=ax+b(aおよびbは定数である。)を定めることができる。
【0028】
[工程(E)]
工程(E)は、工程(D)で定めた関係式(y=ax+b)に、工程(C)で得たセメントペーストのSiO
2含有率を代入して、セメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率(セメントと高炉スラグ微粉末からなるセメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率)を推定する工程である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
[実施例]
(1)コンクリート硬化体の作製
普通ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末を混合して、高炉スラグ微粉末の含有率が40質量%である高炉セメントを調製した。その後、「JIS A 1138(試験室におけるコンクリートの作り方)」に準拠して、水を162kg/m
3、高炉セメントを295kg/m
3、細骨材(山砂)を830kg/m
3、粗骨材(安山岩砕石)を994kg/m
3、AE減水剤を0.74kg/m
3の各配合量で混練し、コンクリートを調製した。その後、型枠内に、調製したコンクリートを打設して、φ100×200mmの供試体を作製した。成型後、供試体に対して標準水中養生を行った。
使用した普通ポルトランドセメント及び高炉スラグ微粉末の化学組成を、蛍光X線分析を用いて測定した。それぞれの結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
(2)電子線マイクロアナライザーによる分析
成型から7日経過後に、脱型して得られたコンクリート供試体の中心付近から、40×40×20mmの板状の試料を切り出して、得られた試料を、エポキシ樹脂を用いて包埋した。エポキシ樹脂が硬化した後、分析を行う面を研磨し、次いで、研磨した面に導電性物質として炭素を蒸着させた。
その後、炭素を蒸着させた面の中の、極力骨材を含まない二次元領域(以下、「領域1」ともいう。)を適宜定めた。領域1に対して、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて分析を行った。この際、EPMA装置としては、日本電子社製の電子線マイクロアナライザーJXA−8100を使用した。ピクセル単位は、一辺の長さが1μmの正方形とした。ピクセル単位の数は、縦横方向に各々200個、総数で40,000個とした。つまり、測定対象の二次元領域(領域1)は、200μm×200μmの正方形とした。
【0032】
まず、二次元領域の中から、高炉スラグ微粉末に相当するスラグ粒子を9個選択し、各スラグ粒子の略中央に存在するピクセル単位を、電子線マイクロアナライザーを用いて、各々、測定した。測定に際し、電子線マイクロアナライザーのプローブ径は0.5μm未満とした。
選択された各ピクセル単位(No.1〜9)から得られた9種の元素(セメントを構成する主な9種の元素:Si、Al、Fe、Ca、Mg、S、Na、K、Ti)の酸化物換算の含有率を表2に示す。
表2中、各スラグ粒子のSiO
2含有率の中の最大値である35.0質量%に、調整値として1.0質量%を加えた36.0質量%を、SiO
2含有率のしきい値として定めた。
【0033】
【表2】
【0034】
次いで、二次元領域を構成する全ピクセル単位の、Si、Al、Fe、Ca、Mg、S、Na、K、Ti、Cの酸化物換算の含有率を、電子線マイクロアナライザーを用いて、各々、測定した。
二次元領域を構成する全ピクセル単位から、「SiO
2含有率のしきい値を超えるピクセル単位」、「SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、CaO、MgO、SO
3、Na
2O、K
2O、及びTiO
2の合計の含有率が50質量%未満であるピクセル単位」、および「CO
2含有率が40質量%を超えるピクセル単位」のいずれかに該当するピクセル単位を除外し、29,005個のピクセル単位を抽出した。
【0035】
抽出した29,005個のピクセル単位(セメントペーストに相当するもの)の各々について、9種の元素(Si、Al、Fe、Ca、Mg、S、Na、K、Ti)の各々の酸化物換算の含有率を、電子線マイクロアナライザーを用いて、測定した。
そして、9種の元素の各々について、これら(29,005個のピクセル単位)の元素の含有率の平均値を算出し、得られた値をセメントペーストの各元素の含有率の測定値とした。結果を表3に示す。
また、前記の炭素を蒸着させた面において、領域1とは位置が異なる二次元領域を三か所適宜定めて(以下、「領域2」〜「領域4」という。)、これら「領域2」〜「領域4」の各々について、領域1と同様にして、セメントペーストの9種の元素の各々の酸化物換算の含有率の測定値を得た。
【0036】
【表3】
【0037】
(3)高炉スラグ微粉末の含有率の推定
セメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末に相当する9個のスラグ粒子のSiO
2含有率の平均値(表2中、SiO
2含有率の平均値:32.8質量%)、及び、使用した普通ポルトランドセメントのSiO
2含有率(表1中、普通ポルトランドセメントのSiO
2含有率:20.6質量%)から、セメントペーストのSiO
2含有率(x)と、セメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率(y)との関係式(1)を以下のとおり定めた(
図1参照)。
y=8.1967x−168.85 (1)
セメントペーストのSiO
2の含有率(表3中、SiO
2含有率の平均値:25.5質量%)を、上記関係式(1)のxに代入したところ、セメントペースト中の高炉スラグ微粉末の含有率(y)は40.2質量%であった。該値は、セメントペースト中の高炉スラグ微粉末の実際の含有率(40.0質量%)に非常に近い数値である。
このように、本発明の推定方法によれば、セメント質硬化体中の高炉スラグ微粉末の含有率を高い精度で推定することができた。