特許第6495113号(P6495113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495113
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】筆記具
(51)【国際特許分類】
   B43K 21/16 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   B43K21/16 W
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-125159(P2015-125159)
(22)【出願日】2015年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-7209(P2017-7209A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年4月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】真田 裕右
【審査官】 大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−192595(JP,A)
【文献】 実開昭59−046283(JP,U)
【文献】 実開平05−041878(JP,U)
【文献】 実開昭60−078491(JP,U)
【文献】 特開2013−252661(JP,A)
【文献】 特開2015−123689(JP,A)
【文献】 特開2012−232483(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43K 21/00−21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に芯繰出機構を配設し、前記芯繰出機構を作動させることで前記軸筒内の芯を該軸筒の前方に設けた先口の先端部より繰り出す構造の筆記具において、前記先口の後方に、前端部が該先口の後方部と連設し且つ後端部が前記軸筒の内方に設けた連結部または前記芯繰出機構の前方部と連設する弾性変形部を設け、前記弾性変形部に外方へ膨出する膨出部を形成し、芯に筆圧が掛かった際、前記弾性変形部の膨出部が前記軸筒の内面に圧接されて弾性変形することで該弾性変形部の前端部と後端部との距離が軸心に沿った方向へ広がると共に、前記弾性変形部に連設した前記先口が前記芯繰出機構に対して前方へ移動し、前記芯の前端部が前記先口の先端部で保護されることを特徴とした筆記具
【請求項2】
前記軸筒の内面に内方へ突出した係止部を形成し、前記軸筒の係止部と前記連結部の外面に設けた被係止部とを係止し、前記軸筒の係止部を支点にして前記連結部材を軸心と直交方向に傾動可能に構成したことを特徴とする請求項1に記載の筆記具。
【請求項3】
前記芯繰出機構の前方に、側面が前記先口の内面と摺接するガイド部を連設したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の筆記具。
【請求項4】
前記弾性変形部の膨出部の少なくとも一部が前記軸筒の内面と常に当接するよう構成したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の筆記具。
【請求項5】
前記弾性変形部の膨出部が複数の可撓片からなることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の筆記具。
【請求項6】
前記連結部材の前方部と前記芯繰出機構に設けた段部との間に弾発部材を配し、前記弾発部材により前記芯繰出機構を前方へ弾発したことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具に関する。より詳細には、軸筒内に芯繰出機構を配設し、芯繰出機構を作動させることで軸筒内の芯を該軸筒の前方に設けた先口の先端部より繰り出す構造の筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉛筆、色鉛筆及びクレヨンなどの筆記用の芯を繰り出す芯繰出機構を備えた筆記具が知られている。この芯繰出機構を備えた筆記具を用いて筆記する場合、芯繰出機構を操作することで筆記具の端部から芯を突出させる必要があるが、筆記具から突出させた芯は、芯の突出量が長くなると、突出した部分が折れてしまう場合があり、芯折れを防止する構造が重要視されている。
この芯折れ防止構造は、筆記具のなかでも細くて柔軟性が低く折れ易い芯を繰り出すシャープペンシルにおいて、特に求められる構造である。
【0003】
芯折れを防止するシャープペンシルの構造としては、筆記時に一定以上の筆圧が芯に掛かると筆圧緩衝手段により芯折れを防止する技術が知られている。例えば、特許文献1には、芯に過大な筆圧が掛かると緩衝用のスプリングが収縮して芯を後退させ、芯折れを防止するシャープペンシルが記載されている。
この特許文献1に記載されているシャープペンシルでは、芯を狭持するチャックの後方に固定した芯パイプに緩衝スプリングを嵌着しており、芯とチャックに対して軸心方向に過大な筆圧が掛かると緩衝スプリングが収縮してチャックと芯を後退させる構造となっている。そこで、シャープペンシルを筆記面に対して垂直に立てて筆記した場合、筆圧はそのまま芯を介して緩衝スプリングに伝えられるが、シャープペンシルを筆記面に対して傾けて筆記した場合、芯に掛かる筆圧は、芯の軸心方向に掛かる力が減少し、軸径方向に働く力が大きくなる。このため、シャープペンシルを筆記面に対して傾けて筆記すると、緩衝スプリングが収縮することなく、芯が筆圧に耐えることができずに折れてしまう虞があり、芯が折れないようにするにはシャープペンシルの筆記角度に気を配りながら筆記する必要があった。
【0004】
前記特許文献1以外の構成として、特許文献2では、筆記時において芯に過大な筆圧が掛かった際、口金及び芯繰出機構を含めた筆記部が軸本体内の支点に対して傾動することで芯折れを防止するシャープペンシルが記載されている。
この特許文献2に記載されているシャープペンシルでは、筆記面に対して傾けて筆記した場合でも筆記部が傾動することで芯折れを防止できるが、筆記部が傾動した状態から更に筆圧を上げると芯に負荷が掛かって芯が折れる虞があり、筆圧に気を配りながら筆記する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭56−130874号公報
【特許文献2】特開2010−264638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記問題を鑑みて、筆記時に筆記角度や筆圧に気を配らなくても芯折れを防止できる筆記具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
「1.軸筒内に芯繰出機構を配設し、前記芯繰出機構を作動させることで前記軸筒内の芯を該軸筒の前方に設けた先口の先端部より繰り出す構造の筆記具において、前記先口の後方に、前端部が該先口の後方部と連設し且つ後端部が前記軸筒の内方に設けた連結部または前記芯繰出機構の前方部と連設する弾性変形部を設け、前記弾性変形部に外方へ膨出する膨出部を形成し、芯に筆圧が掛かった際、前記弾性変形部の膨出部が前記軸筒の内面に圧接されて弾性変形することで該弾性変形部の前端部と後端部との距離が軸心に沿った方向へ広がると共に、前記弾性変形部に連設した前記先口が前記芯繰出機構に対して前方へ移動し、前記芯の前端部が前記先口の先端部で保護されることを特徴とした筆記具。
2.前記軸筒の内面に内方へ突出した係止部を形成し、前記軸筒の係止部と前記連結部の外面に設けた被係止部とを係止し、前記軸筒の係止部を支点にして前記連結部材を軸心と直交方向に傾動可能に構成したことを特徴とする前記1項に記載の筆記具。
3.前記芯繰出機構の前方に、側面が前記先口の内面と摺接するガイド部を連設したことを特徴とする前記1項または2項に記載の筆記具。
4.前記弾性変形部の膨出部の少なくとも一部が前記軸筒の内面と常に当接するよう構成したことを特徴とする前記1項ないし3項のいずれか1項に記載の筆記具。
5.前記弾性変形部の膨出部が複数の可撓片からなることを特徴とする前記1項ないし4項のいずれか1項に記載の筆記具。
6.前記連結部材の前方部と前記芯繰出機構に設けた段部との間に弾発部材を配し、前記弾発部材により前記芯繰出機構を前方へ弾発したことを特徴とする前記1項ないし5項のいずれか1項に記載の筆記具。」である。
【0008】
本発明の筆記具は、鉛筆、色鉛筆、クレヨンなどの筆記用の芯を繰り出すことができる筆記具に用いることができ、好適には細くて柔軟性が低く折れやすい芯を繰り出すシャープペンシルに用いることできる。
前記シャープペンシルにおける芯繰出機構としては、公知のシャープペンシルの芯繰出構造を用いることができ、その操作方法は芯繰出機構の後部をノックすることで芯が繰り出される後端ノック式でもよく、芯繰出機構を側部からのノックすることで芯を繰り出すサイドノック式でもよい。
また、前記弾性変形部は先口の後方部に該先口と一体で形成してもよく、前記連結部の前方部または芯繰出機構の前方部に該連結部または該芯繰出機構と一体に形成してもよく、先口と連結部または芯繰出機構と弾性変形部とを各々別体で形成してそれぞれを連結させて構成してもよい。
【0009】
弾性変形部の前端部と後端部との間に形成する膨出部の形状は、薄く形成することで撓んで弾性が得られる金属や硬質樹脂で膨出部を形成する場合と、それ自体が弾力性を有したゴムや発泡樹脂で膨出部を形成する場合とで異なる。
金属や硬質樹脂で膨出部を形成する場合には、その断面形状を軸筒内面への当接箇所を基点に前方と後方とが互いに漸次拡開する形状、例えば外方が先窄むように形成した三角形状、台形形状、円弧形状などを採用できる。いうまでもなく、膨出部が変形できるように、三角形状、台形形状に成形する場合には底辺部は設けず、円形形状に成形する場合には弦を設けず、膨出部の前方と後方とが自由に軸心に沿った方向に広がるようにする必要がある。
ゴムや発泡樹脂で膨出部を形成する場合には、その断面形状を外方が先窄み且つ中身がゴムや発泡樹脂で充填された三角形状、台形形状、円弧形状に形成し、軸筒内面への当接箇所を基点に膨出部全体が圧接され、内方へ潰れることで膨出部の前方と後方とが軸心に沿った方向に伸びるようにする必要がある。
【0010】
本発明における連結部は、軸筒と芯繰出機構との間に設け、軸筒の軸心に芯繰出機構を配置させるものであり、連結部に形成した孔部に芯繰出機構の一部を挿通させることで該芯繰出機構の中心と軸筒の中心とを揃えるものである。
尚、連結部は、軸筒と一体あるいは別体で形成することができるが、芯繰出機構を軸筒の軸心に配置させるため、少なくとも連結部の一部を軸筒に対して動かないようにすることが肝要である。
【0011】
軸筒に設けた係止部と連結部に設けた被係止部との係止手段は、係止部と被係止部とを圧入して嵌着してもよく、係止部と被係止部とに螺子を形成して螺着してもよく、軸筒の係止部に連結部材の被係止部を当接させて連結部材を軸筒に対して前方への移動ができないように係止してもよい。
また、連結部を傾動させる方法としては、連結部を合成樹脂などの軟質材で形成し、連結部が撓むことで傾動させる構成や、連結部を金属などの硬質材で形成し、軸筒の係止部を支点にして該連結部全体が傾くことができるように係止する構成でもよい。
更に、支点となる軸筒の係止部を軸筒の軸心方向における中央部の後方に形成することで、支点から連結部先端までの長さを長くすることができる。そうすることで、支点に対して連結部を撓ませた場合及び連結部全体を傾けた場合のどちらでも傾動させることが容易となるため好ましい。
【0012】
また、芯繰出機構の前方に、側面が前記先口の内面と摺接するガイド部を連設することで、筆記時に弾性変形部が弾性変形して先口を前方に移動させる際、先口がガイド部の側面に沿って移動することで該先口がぐらつくことがなく、先口の軸心とガイド部の軸心が一致した状態を維持できるため、芯に負荷を掛けずに先口を摺動させることができる。
尚、ガイド部は芯繰出機構と一体的に形成してもよく、別体で形成してもよいが、先口と芯繰出機構との間で芯折れが発生した場合に折れた芯を取り除けるように、芯繰出機構とガイド部とを別体で形成し、且つ螺合等によりガイド部材と芯繰出機構または該芯繰出機構を内包した連結部とを着脱可能に構成することが好ましい。
【0013】
また、弾性変形部の膨出部の少なくとも一部が前記軸筒の内面と常に当接するよう構成することで、芯に筆圧が掛かった際、弾性変形部の膨出部が弾性変形する一定の筆圧までは先口と共に芯を支えることができ、過大な負荷が芯に掛かった際、膨出部が即座に弾性変形を始め、先口を前方に押し出すため、芯折れする前に先口の先端部で芯を保護することができる。
【0014】
更に、弾性変形部の膨出部を可撓性を有し同形状に形成した複数の可撓片により構成し、可撓片を外方に向かって膨出する鉤状または円弧状に形成することで、芯に筆圧が掛かった際、可撓片が軸筒の内面に圧接されて軸心方向に伸びるように弾性変形し、弾性変形部の前端部と後端部との距離を広げることができる。
また、複数の可撓片を膨出部の外周に均等に配設した場合には、芯に筆圧が掛かった際、筆記具の円周方向のどの位置を把持して筆記しても複数の可撓片の一つが軸筒内面に圧接されて弾性変形をはじめ、続けて隣設した他の可撓片が次々と弾性変形をはじめ、可撓片全体が軸心に沿って伸びることで先口を前方へ移動させることができ、筆記具を把持する位置に関係なく芯折れを防止することができる。
【0015】
前記連結部材の前方部と前記芯繰出機構に設けた段部との間に弾発部材を配し、前記弾発部材により前記芯繰出機構を前方へ弾発することで、筆記具を筆記面に対して垂直に近くなるように把持して筆記を行った際、筆圧が高くなると弾発部材が収縮することで芯繰出機構が後退し、芯が先口の先端部で保護され、芯折れを防止することができる。
ここで、筆記具を垂直に立てて筆記した場合、芯に掛かる筆圧はほぼ全て芯の軸心方向に掛かり、芯の軸径方向に掛かる力は限りなく小さくなるため、前記緩衝スプリングのみが作用して芯及び芯繰出機構を後退させて先口の先端部で芯を保護することができる。
また、筆記具の筆記角度を傾けるほど、芯の軸心方向に掛かる力が減少し、その分、芯の軸径方向に働く力が大きくなるため、先口を介して連結部及び芯繰出機構が傾動し、弾性変形部の膨出部が軸筒の内面に圧接されることで弾性変形し、先口が前方に移動することで芯を先口の先端部で保護するものとなる。したがって、筆記面に対して筆記具を傾けるほど筆圧は弾性変形部に伝わり易く、筆記面に対して筆記具を垂直に近づけるほど筆圧は緩衝スプリングに伝わり易くなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、筆記具を筆記面に対して傾けて筆記した際、芯に過大な筆圧が掛かっても先口が前方に移動することで芯を保護することができ、筆記時に筆記角度や筆圧に気を配らなくても芯折れを防止できる筆記具を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施例のシャープペンシルの側面図である。
図2図1の縦端面図である。
図3】要部を拡大した縦端面図である。
図4図4は、図3のA−A線端面図である。
図5図2のシャープペンシルにおける弾性変形部材の端面図であり、図5Aは、弾性変形部材の通常状態を示す端面図で、図5Bは、弾性変形部材が伸びた状態を示す端面図である。
図6図1のシャープペンシルの筆記角度を筆記面に対して60°に傾けて筆記を行う状態を示した要部端面図である。
図7図6の筆記状態で芯に過大な筆圧が掛って先口が前方に移動した状態を示す要部端面図である。
図8図1のシャープペンシルを筆記面に対して垂直に立てて筆記を行う状態を示した要部端面図である。
図9図8の筆記状態で芯に過大な筆圧が掛って芯と芯繰出機構が後退した状態を示す要部端面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0018】
以下、図1図9に基づいて本実施例の筆記具を説明する。尚、説明を分かり易くするために、図面中の同様の部材、同様の部分については同じ符号を付してある。本実施例の説明においては、筆記具として、シャープペンシルを用いて説明し、シャープペンシルの先口がある側を前方と表現し、その反対側を後方と表現する。
尚、本実施例におけるシャープペンシルでは、筆記する前の状態において軸筒の軸心と軸筒以外の部品の軸心とが一致した状態で構成する。
【0019】
図1に示すように本実施例の筆記具であるシャープペンシル1は、軸筒2の前方に先口3を配し、先口3の後方でかつ軸筒2内に芯繰出機構を内蔵し、芯繰出機構で狭持される芯11を先口3の先端部3dから突出させ、軸筒2の中に後方から挿入されたノック部材5を装着し、ノック部材5を前方に押圧することで芯11が前方へ繰り出されるように構成してある。
【0020】
次に図2及び図3を用いて本実施例のシャープペンシル1の各構成の説明を行う。芯繰出機構4について詳述すると、前後に貫通した貫通孔を有する筒状部材6の先端孔6aに前部が複数に分割されたチャック7を挿入し、チャック7の頭部7aに締具8を外嵌し、チャック7の後部にパイプ状の芯タンク9を圧入固着する。また、筒状部材6の内鍔6bと芯タンク9の前端との間に取付時荷重が400g程度のチャックスプリング10を取り付け、チャック7と締具8と筒状部材6と芯タンク9とチャックスプリング10とで芯11を繰り出すための芯繰出機構4を構成する。
【0021】
また、前記芯出機構4は軸方向に延び中心に貫通孔を有する連結部材12の先端内孔12aから挿入され、前記筒状部材6に設けた外鍔6cの段部6dと連結部材12の先端内孔の段部12bとの間に、取付時荷重350g程度の緩衝スプリング13を弾発部材として取り付け、連結部材12の先端内孔の段部12bに対して芯繰出機構4を前方に弾発してある。また、連結部材12の前方に段状に形成した貫通孔を有するガイド部材14を配設し、ガイド部材14の後部に設けた雌螺子部14aと連結部材12の前部に設けた第1の雄螺子部12cとを着脱可能に螺着する。このとき、筒状部材6の外鍔6cがガイド部材14の後段部14bと当接し、芯繰出機構4の前方への移動が阻止される。更に、締具8は筒状部材6の前端部6eとガイド部材14の内孔段部14cとの間で長手方向に適宜移動可能に遊嵌される。
【0022】
更に、連結部材12は前記した軸筒2の前部内孔2aから挿入され、軸筒2の後部内面2bに設けた段状の係止部2cに連結部材12の後部の被係止部12dを圧入固着してある。また、芯タンク9は連結部材12の後端より後方へ突出するよう形成され、芯タンク9の後部に前記したノック部材5を着脱可能に装着する。
本実施例においては、連結部材12及び芯繰出機構4の芯タンク9を軟質材である合成樹脂で形成することで、連結部材12及び連結部材12内に内包した芯繰出機構4の芯タンク9が撓み、係止部2cを支点にして連結部材12と芯繰出機構4とが傾動するように構成される。
【0023】
ガイド部材14の前方に前記した先口3を配設し、先口3の内孔に設けた摺動部3aにガイド部材14の前部外周部14dを挿入して、先口3をガイド部材14の軸心に沿った方向へ摺動可能に構成してある。また、先口3の内孔の先段部3bには芯11を10g程度の力で保持する芯保持部材15が内蔵される。更に先口3と連結部材12の間に、先口3と連結部材12とを繋ぐ弾性変形部材16を配設し、弾性変形部材16の前部に筒状に形成した前端部16aを先口3の後段部3cに圧入固着するとともに、弾性変形部材16の後部に筒状の後端部16bを形成し、後端部16bの内面に設けた雌螺子部16cを連結部材12の外周に設けた第2の雄螺子部12eに着脱可能に螺着して連結させる。
【0024】
弾性変形部材16は図4及び図5Aに示すように、膨出部16dを外方に向かって膨出する8個の可撓片16eで構成し、8個の可撓片16eは膨出部16dの外周上に均等に配置されて形成される。また、可撓片16eは頂部16fを外方に向かって膨出する鉤状に形成し、可撓片16eの頂部16fは軸筒2の前部内面2dに当接するよう構成される。更に、頂部16fには凹状の溝部16gを形成してあり、可撓片16eの頂部16fが軸筒2の前部内面2dに当接した際、溝部16gにより頂部16fは直線部16hより薄く形成されていることから、図5Bのように頂部16fを基点にして、直線部16hを維持したまま可撓片16eが軸心方向に伸びるように弾性変形し、弾性変形部材16の前端部16aと後端部16bとが互いに離れるように移動する。
本実施例において弾性変形部材16は、金属材料を用いてプレス加工により成形し、可撓片16eに300g程度の力が掛かったときに弾性変形が始まるようにした。
尚、弾性変形部材16は軸筒2内に挿入される際、可撓片16eの頂部16fが軸筒2の前部内面2dに当接し、少し変形した状態で取り付けられる。これにより、軸筒2や弾性変形部材16の寸法にばらつきが生じても可撓片16eと軸筒2の前部内面2dとを当接させることができ、軸筒2の軸心と弾性変形部材16及び弾性変形部材16に固着している先口3の軸心とが一致した状態に誘導される
【0025】
次に、図2を用いて本実施例のシャープペンシル1で芯11を繰り出す状況を説明する。図2は芯11を先口3の先端部3dより繰り出した状態を示した縦断面図であり、図2
芯繰り出し状態において、筆記を行い芯11が摩耗した場合には、ノック部材5を前方に押圧するノック操作を行うことで、芯タンク9と共にチャック7及び締具8が前進し、締具8が前進した距離だけ芯11が繰り出される。その後、ガイド部材14の内孔段部14cに締具8が当接して締具8の前進が止まり、チャック7の頭部7aが締具8から外れて拡開し、更にノックを続けるとチャック7の頭部7aが芯保持部材15に当接してチャック7の前進が停止する。
ノック部材5への押圧を緩めるとチャックスプリング10が伸びることでチャック7が後退し、チャック7の頭部7aが締具8に押圧され、チャック7が閉じられて再び芯11を狭持し、図2の芯11が先口3より繰り出された状態を維持して筆記を可能とする。
【0026】
次に、図6及び図7を用いて本実施例のシャープペンシル1を筆記面100に対して60°傾けて筆記する場合を説明する。
図6のように、シャープペンシル1を筆記面100に対して60°傾けて筆記を行うと、通常の筆記圧(200g〜300g程度)では把持している軸筒2の軸心と先口3の軸心の位置が一致した状態で筆記することができ、300gを超えた筆記圧が芯11に掛かると、軸筒2の係止部2c(図2参照)を支点にして連結部材12及び芯繰出機構4が撓むことで先口3が前部内面2dに近づくように傾動する。更に、弾性変形部材16における可撓片16eの頂部16fが軸筒2の前部内面2dに圧接されるため、可撓片16eが鉤状から直線状に軸心に沿った方向へ伸びるように弾性変形し、弾性変形部材16の前端部16aと後端部16bとの距離が広がる。このとき、弾性変形部16の後端部16bは連結部材12に螺着され、連結部材12は軸筒2に圧入固着していることから、使用者が把持している軸筒2に対して連結部材12が移動することはなく、弾性変形部材16の前端部16aと共に先口3がガイド部材14の前部外周部14dに沿って前方へ移動することで、図7に示すように、先口3の先端部3dにより筆記中の芯11が保護されて芯11が折れることを防止できる。
図7の状態から芯11に掛かる筆圧を解除すると、弾性変形することで直線状に伸びていた可撓片16eが元の鉤状に戻るため、弾性変形部材16に固定されている先口3も後退し芯11が露出すると共に、傾動していた連結部材12と芯繰出機構4の軸心が、軸筒2の軸心と一致するように移動し、図6の状態に戻る。
本実施例のシャープペンシル1は、筆記角度を傾けるほど芯に対する軸心方向へ力が減少し、芯の軸径方向に働く力が大きくなる。このため、シャープペンシル1を傾けるほど芯11に掛かる筆圧は先口3を介して弾性変形部材16に伝わり易くなり、弾性変形部材16が芯11の軸心方向に伸びるように弾性変形して先口3を前方に移動させ易くなる。
【0027】
次に、図8及び図9を用いて、本実施例のシャープペンシル1を筆記面100に対して垂直(90°)に立てて筆記した場合について説明する
図8に示すように、シャープペンシル1を傾けずに筆記面100に対して垂直に立てた状態で筆記を行う場合、シャープペンシル1を傾けて筆記しているときのように芯11に掛かった筆圧は弾性変形部材16にはほとんど伝わらないため、先口3が前進することはない。そこで、芯11に350g以上の筆圧が掛かると、芯11を狭持している芯繰出機構4に力が伝わり、芯繰出機構4を前方に弾発している緩衝スプリング13が収縮することで芯繰出機構4が後退する。このとき先口3の中段部3eはガイド部材14の先端14eと当接しているため後退することはなく、図9に示すように、先口3に対して芯11と芯繰出機構4のみが後退し、先口3の先端部3dで芯11が保護される。
図9の状態から芯11に掛かる筆圧を解除すると、緩衝スプリング13が伸びることで芯11と芯繰出機構4が前進し、先口3の先端部3dから芯11が突出して図8の状態に戻る。このとき、芯11と共に芯11を芯保持部材15で保持している先口3も前進しようとするが、芯保持部材15の芯保持力は10g程度と弱く設定しているため弾性変形部材16の可撓片16eを変形させることができず先口3が前方へ移動することはない。
【0028】
また、シャープペンシル1を傾けて筆記する場合でも芯11を介して芯繰出機構4に筆圧が伝わるため、緩衝スプリング13が収縮することで芯11及び芯11を狭持している芯繰出機構4を後退させるが、シャープペンシル1を傾けるほど芯11に掛かる筆圧のうち、芯11の軸心方向に掛かる力は減少するため、緩衝スプリング13を収縮するには緩衝スプリングの取付加重(350g)より高い筆圧が必要になる。これは筆記角度を傾けるほど大きくなり、逆に筆記角度を垂直に近づけるほど取付加重(350g)に近くなるものである。
つまり、本実施例における緩衝スプリング13と弾性変形部材16の関係性は、筆記角度を垂直に近づけるほど緩衝スプリング13が収縮し易くなり、芯11を後退させて芯11を保護し、筆記角度を傾けるほど弾性変形部材16に力が伝わり易くなり、弾性変形部材16の可撓片16eが伸びることで先口3を前進させ、芯11を保護するものである。
したがって、高い筆記圧で筆記する場合でも筆記角度に気をつけることなく筆記することが可能な筆記具を提供することが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明による筆記具の構造は、シャープペンシルの他、棒状物の繰出機構を有する色鉛筆、クレヨン、チョークなどの筆記可能な芯を繰り出す機構を有する筆記具などに使用が可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…シャープペンシル、
2…軸筒、2a…前部内孔、2b…後部内面、2c…係止部、2d…前部内面、
3…先口、3a…摺動部、3b…先段部、3c…後段部、3d…先端部、3e…中段部、4…芯繰出機構、
5…ノック部材、
6…筒状部材、6a…先端口、6b…内鍔、6c…外鍔、6d…段部、6e…前端部、
7…チャック、7a…頭部、
8…締具、
9…芯タンク、
10…チャックスプリング、
11…芯、
12…連結部材、12a…先端内孔、12b…段部、12c…第1の雄螺子部、
12d…被係止部、12e…第2の雄螺子部、
13…緩衝スプリング、
14…ガイド部材、14a…雌螺子部、14b…後段部、14c…内孔段部、
14d…前部外周部、14e…先端、
15…芯保持部材、
16…弾性変形部材、16a…前端部、16b…後端部、16c…雌螺子部、
16d…膨出部、16e…可撓片、16f…頂部、16g…溝部、16h…直線部、
100…筆記面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9