特許第6495246号(P6495246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6495246アルミニウム合金及びダイカスト鋳造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495246
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金及びダイカスト鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20190325BHJP
   B22D 17/32 20060101ALI20190325BHJP
   B22D 21/04 20060101ALI20190325BHJP
   B22D 17/20 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   C22C21/02
   B22D17/32 A
   B22D21/04
   B22D17/20 D
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-511331(P2016-511331)
(86)(22)【出願日】2014年12月26日
(86)【国際出願番号】JP2014084505
(87)【国際公開番号】WO2015151369
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2017年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-71281(P2014-71281)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋夫
(72)【発明者】
【氏名】浅井 真一
【審査官】 川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−054047(JP,A)
【文献】 特開平10−036934(JP,A)
【文献】 特開昭57−206560(JP,A)
【文献】 特開昭59−189055(JP,A)
【文献】 特開平11−293429(JP,A)
【文献】 特開平09−099355(JP,A)
【文献】 特開2014−136258(JP,A)
【文献】 特表平09−501988(JP,A)
【文献】 特開平09−125181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/02
C22F 1/043
C22F 1/00
B22D 17/00−17/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下全て質量%にて、Si:6.0〜9.0%,Mg:0.4〜0.8%,Cu:0.25〜1.0%,Fe:0.08〜0.25%,Mn:0.6%以下,Ti:0.2%以下及びSr0.01%以下の範囲で含有し、残部がAlと不可避的不純物であるアルミニウム合金の溶湯をダイカストマシンの射出スリーブに注湯し、
センターゲート型の金型キャビティ内にゲート速度1m/sec以下の速度で層流充填することで、その後にT5処理からなる熱処理にて引張強さが240MPa以上有することを特徴とするアルミニウム合金の鋳造方法。
【請求項2】
前記金型キャビティ内に粉体からなる離型剤を塗布することを特徴とする請求項記載のアルミニウム合金の鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミダイカスト用アルミニウム合金及び鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト鋳造方法は、生産性に優れ、自動車部品,機械部品等アルミ部品を用いる多くの分野にて採用されている。
このようなダイカスト鋳造に用いられるアルミニウム合金としては、日本工業規格JIS ADC12相当の合金が一般的に使用されている。
JIS ADC12合金は、鋳造に優れるものの、この合金を用いてダイカスト鋳造された製品は、金属のミクロ組織が粗大な針状組織になるためにこの析出物を起点に破壊しやすく、充分な強度を確保するのが難しい。
そのために安全設計せざるを得ず、厚肉にならざるを得ない。
また、強度向上を目的にT6処理をすると、コストアップになるだけでなく、部分的に肉厚さが大きい製品では熱歪みにて形状が変形する恐れがある。
【0003】
特許文献1には、鋳造状態で高い伸び率を有するダイカスト用アルミニウム合金を開示するが、モリブデンの添加が必須となっている。
【0004】
【特許文献1】日本国特許第4970709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内部品質に優れ、伸びが大きく強度が高いアルミダイカスト用合金及びその鋳造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るアルミニウム合金は、以下全て質量%にて、Si:6.0〜9.0%,Mg:0.4〜0.8%,Cu:0.25〜1.0%,Fe:0.08〜0.25%,Mn:0.6%以下,Ti:0.2%以下及びSr,Sb,Ca,Naの群から選ばれる1つ以上を0.01%以下の範囲で含有し、残部がAlと不可避的不純物であることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、鋳造方法にも特徴があり、Al−Si−Cu−Mg系のアルミニウム合金の溶湯をダイカストマシンの射出スリーブに注湯し、センターゲート型の金型キャビティ内にゲート速度1m/sec以下の速度で層流充填することを特徴とする。
ダイカスト鋳造時に金型キャビティ内等に離型剤を塗布するのが一般的であり、油性,水溶性等の溶液型離型剤を用いてもよい。
本発明においては、金型キャビティ内に粉体からなる離型剤を塗布するのが好ましい。
粉体からなる離型剤は、型温が低下するのを抑える。
【0008】
本発明において合金組成を選定した理由は次の通りである。
<Si>
Si成分は、鋳造時の湯流れ性を確保するには、6質量%(以下単に%と表示する。)以上必要であり、本発明では亜共晶域である。
亜共晶域は、粗大な初晶Siが析出することが少なく、それを起点とした破壊が生じないことから、機械的性質を確保するために必要な伸びを確保することができる。
よって、Siは6.0〜9.0%の範囲がよい。
<Mg>,<Cu>
Mg及びCuは、強度を確保するのに必要であり、Mgは0.4〜0.8%の範囲、Cuは0.25〜1.0%の範囲がよい。
<Fe>
Fe成分は、少量であれば靭性に対して優位に作用するが0.25%を超えると延性が低下する。
Fe成分は、不純物としては混入しやすく、Fe成分を少なくするには母合金の純度を高くしなければならず、コストアップとなる。
そこで、Feは0.08〜0.25%の範囲が好ましい。
<Mn>
Mn成分は、ダイカスト鋳造において少量の添加により金型への焼き付きを防止するのに有効である。
したがって、Mn成分は添加する場合に0.6%以下が好ましい。
<Sr>,<Sb>,<Ca>,<Na>
これらの成分は、改良処理剤として少量の添加により共晶シリコンの微細化に効果的である。
Sr,Sb,Ca,Naのいずれか1つ以上を0.01%以下の範囲で添加するのが好ましい。
<Ti>
Ti成分は、鋳造時の結晶粒の微細化に効果があり、0.2%以下の範囲で添加してもよい。
Tiは、母合金として添加するとBが少量含まれる。
【0009】
上記のような組織のアルミニウム合金を用いると、ダイカスト鋳造後に空冷したF材又はその後に焼き戻し処理するT5材にて従来より強度が向上し、コストアップとなるT6処理が不要である。
また、鋳造品の内部欠陥を少なくすることも鋳物製品の薄肉化に有効である。
そこで、本発明においては、Al−Si−Cu−Mg系のアルミニウム合金の溶湯をダイカストマシンの射出スリーブに注湯し、センターゲート型の金型キャビティ内にゲート速度1m/sec以下の速度で層流充填するのが好ましい。
金型にセンターゲートを設けることができれば、ダイカストマシンのタイプに制限はない。
薄肉製品を鋳造するには、金型の型温を維持するのが好ましいので、水溶性離型剤よりも粉体からなる断熱性の離型剤が好ましい。
また、本発明において、Zn,Ni,Sn,Cr成分及びその他の成分は不可避的不純物として取り扱われるが、0.03%以下で許容される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る化学組成からなるアルミニウム合金は、Siにより流動性を確保しつつ、Mg及びCu成分の組み合せにより強度向上を図るとともに、Fe成分を従来より少なくし、Sr等による改良処理により伸びが向上するため、T6処理することなく強度が高い。
これにより、T6処理によるコストアップを低減できるだけなく、急冷処理による熱歪みの発生がなくなることで、薄肉製品の寸法精度が向上する。
また、層流ダイカストの採用により内部品質が向上し、金型設計においてセンターゲート方案を採用するとさらに内部品質が向上する。
なお、いわゆるアンダーカット製品の鋳造には可動型と固定型の間に中間型を設けるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】評価に用いたアルミニウム合金の化学成分と評価結果を示す。
図2】実施例1に示すアルミニウム合金の組織写真を示す。
図3】(a)比較例1,(b)比較例6,(c)比較例10に示すアルミニウム合金の組織写真を示す。
図4】(a)〜(d)鋳物製品の形状例を示す。
図5】ダイカスト鋳造の原理を模式的に示す。
図6】固定型と可動型との間に中間型を配置した金型構造の例を示す。
【符号の説明】
【0012】
11 固定型
11a センターゲート
12 可動型
14 スリーブ
15 中間型
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るアルミニウム合金及び鋳造方法を以下説明する。
図1に示した各化学成分(組成)からなるアルミニウム合金の溶湯を調整し、製品をダイカスト鋳造した。
JIS 14号比例試験片を製品から切り出し、機械的性質を評価した。
鋳造条件は、ゲート速度で1m/sec以下の低速で層流ダイカストを行った。
次に、温度180℃,時間180分の熱処理(T5)を行った。
金型構造例を図6に示す。
評価結果を図1の表に示す。
表中、機械的性質に記載された引張強さ,耐力値(0.2%)及び伸びを目標とした。
実施例1〜12は、化学成分が所定の目標の範囲にあり、機械的性質を確保できる。
また、T5処理でコストが低い。
比較例1〜3は、改良処理されていなく、伸びが低い。
比較例2は、T6処理にて強度があるものの伸びが悪いだけでなく、コストアップになる。
比較例4は、機械的性質を満足しているが、T6処理を実施しており、コストが高い。
比較例5は、Cuが低いため、T5処理で機械的性質を満足しない。
比較例6は、改良処理を実施しておらず、また、Cu,Siが所定の範囲外のため伸びが低い。
Mnが多く粗大な晶出物があり、伸びが低い。
また、T6処理のためコストが高い。
比較例7は、改良処理を実施しておらず、また、Cu,Siが所定の範囲外のため伸びが低い。
Mnが多く粗大な晶出物があり、伸びが低い。
比較例8は、Cuが所定の範囲外であり、Mnが多く粗大な晶出物があり、伸びが低い。
比較例9は、Cuが低く機械的性質を満足しない。
比較例10は、T6処理のためコストが高い。
比較例11は、Mgが低く、機械的性質を満足しない。
比較例12は、T6処理のため、コストが高い。
参考として、図2(a),(b)に実施例1の金属組織写真を示し、図3に(a)比較例1、(b)比較例2、(c)に比較例3の金属組織写真を示す。
本発明に係るアルミニウム合金を用いると、共晶シリコンが微細化しているのが分かる。
【0014】
次に金型構造について説明する。
ダイカスト鋳造は、図5に模式図を示すように固定型11と可動型12とでキャビティ13を形成し、スリーブ14内に溶湯を注湯し、このキャビティ内に射出する工法である。
ダイカストマシンには、横型ダイカストマシンと縦型ダイカストマシンがあり、生産性等の観点から横型ダイカストマシンが現在主流になっている。
横型ダイカストマシンにおいても、図5に示したような湯口が下部にある湯口アンダー型ダイカストマシンと、湯口をセンターに配置した湯口センター型ダイカストマシンがある。
例えば、図4(a)〜(d)に断面図を示した円筒形状等の製品の場合には、図6に金型構造を示すように製品の中央部から注湯(射出)する方が湯流れの偏析を抑制し、内部品質に優れる。
そこで本発明においては、センターゲート型の金型を用いてゲート速度(金型のランナーゲートを溶湯が通過する速度)1m/sec以下の層流充填をするようにするのが好ましい。
この場合に図示を省略したが、湯口をセンターに配置したダイカストマシンを用いることもできるが、図6に示したような固定型11と可動型12との間に中間型15を配置した金型構造にすると、湯口が下部にある湯口アンダー型ダイカストマシンであっても固定型11と中間型15の間にランナー部を設けることで、センターゲート11aを有するセンターゲート型の金型を構築することができる。
このように3分割型にすると、図4(a)〜(d)に示すような各種形状の製品を鋳造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明に係るアルミニウム合金は、T5処理することなく高強度が得られるので、各種自動車部品,各種機械部品に適用でき、ダイカスト性に優れるので生産性が高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6