(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項8に記載のペプチドをコードする単離ポリヌクレオチドを含む、神経の損傷の治療又は予防のための医薬組成物であって、前記単離ポリヌクレオチドの配列に相補的な配列、前記単離ポリヌクレオチドの配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列、及び前記単離ポリヌクレオチドの配列との少なくとも60%の相同性を有する配列を含み、前記単離ポリヌクレオチドは、請求項8に記載のペプチドをコードする単離核酸を含む、天然に存在しないポリヌクレオチド、人造の人工構築物、cDNA、又はベクターである、医薬組成物。
神経の損傷が、虚血、周産期の低酸素性虚血、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、多発性硬化症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、卒中、末梢神経障害、脊髄損傷、てんかん、緑内障、及び神経障害性の疼痛のうちの1つ以上である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の概要】
【0015】
本発明の1つの態様によれば、塩基性(すなわちカチオン性)アミノ酸に富んだ単離ペプチドの神経保護作用薬としての使用が提供される。単離ペプチドはCPPであってよい。
【0016】
そのため、本発明は、神経保護活性を有するカチオン性アミノ酸に富んだ単離ペプチドにも及ぶ。本発明は、神経保護活性を示すペプチドの機能性フラグメントにも及ぶ。
ペプチドは、pH7で8以上、好ましくはpH7で10以上、最も好ましくはpH7で11以上の正味電荷を有しうる。
【0017】
ペプチドは天然に存在しないペプチドであってもよい。そのため、本発明のペプチドは人造ペプチドであってもよい。
ペプチドのカチオン性(すなわち塩基性)アミノ酸残基形成部はアルギニン又はリジンであってよい。よって、ペプチドはアルギニンに富んでいてよい。別例として、又は追加として、ペプチドはリジンに富むか、トリプトファンに富むかのうち少なくともいずれかであってもよい。
【0018】
ペプチドは10アミノ酸〜100アミノ酸の長さ、好ましくは10アミノ酸〜32アミノ酸であってよい。
ペプチドは、配列:
X
(K)‐Z
(N)‐X
(K)‐Z
(N)‐X
(K)
であって、
上記配列中、Xは、カチオン性(すなわち塩基性)のアミノ酸残基を含む、任意の天然型又は合成のアミノ酸であってよく;
Kは1〜5の整数であり;
Zは塩基性(すなわちカチオン性)のアミノ酸残基であり;
かつNは1〜30の整数である、配列を有することができる。
【0019】
「X」の位置における、神経保護ペプチドの神経保護効果を減少させないアミノ酸を用いた置換が好ましい。1つの実施形態では、Zはアルギニンであってよい。別の実施形態では、Zはリジンであってよい。ペプチドは、連続したアルギニンに富む少なくとも1個のセグメントを含みうる。他の実施形態では、ペプチドは非連続的なアルギニンに富むセグメントを含みうる。
【0020】
塩基性(すなわちカチオン性)のアミノ酸残基は、該ペプチド又はセグメントの少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、場合によっては該ペプチド又はセグメントの100%もの比率で含まれうる。ペプチドは、該ペプチドのアミノ酸含量の20%を超える、好ましくは30%を超える、40%を超える、50%を超える、60%を超える、70%を超える 80%を超える、90を超える、95%を超える、99%を超える、又は最も好ましくは100%の、アルギニン含量を有しうる。本発明のある実施形態では、ペプチドは、40%を超える、50%を超える、60%を超える、70%を超える 80%を超える、90を超える、95%を超える、99%を超える、又は最も好ましくは100%の、アルギニン及びリジン合計含量を有しうる。
【0021】
ペプチドは、複数の単一のカチオン性アミノ酸残基(アルギニン残基など)を備えてその間に他のアミノ酸残基が点在していてもよく、特に、該ペプチドにはリジン、及びトリプトファンのうち少なくともいずれかのような塩基性(すなわちカチオン性)のアミノ酸残基が点在しうる。ペプチドは、RR、又はRRR、又はRRRR、又はより高次の繰り返しのような、隣接して配置されたアルギニン残基の繰り返しを含んでもよく、かつ他のアミノ酸の間に、又はアミノ酸の連続部の間に点在せしめられてもよい。
【0022】
そのため、ペプチドは完全にカチオン性アミノ酸からなっていてもよい。1つの実施形態では、ペプチドは完全にアルギニン残基からなる。
本発明の態様によれば、神経損傷の治療のための長さ10〜32アミノ酸残基の単離ペプチドであって、少なくとも10〜22個の残基を含む単離ペプチドの使用が提供される。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、ペプチドは、神経損傷の治療のための長さ10〜32アミノ酸残基の単離ペプチドであって、少なくとも10〜22個のアルギニン残基を含む単離ペプチドであってよい。
【0024】
単離ペプチドは、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも99%のアルギニン残基含量を有しうる。
【0025】
単離ペプチドは10〜18個のアルギニン残基を含むポリアルギニンペプチドであってよい。好ましい実施形態では、単離ペプチドはR12、R15、又はR18であり、最も好ましくはR15である。
【0026】
具体的には、単離ペプチドは、配列番号7、8、9、10、11、12、13、16、30、31、32、33、34、35、36、37、並びに神経保護活性を有するこれらの機能性フラグメント及びアナログからなる群から選択されたペプチドのうちのいずれか1つ以上を含むことができる。
【0027】
単離ペプチドは、少なくとも4個の連続したアルギニン残基を含む少なくとも1個のポリアルギニンセグメント、好ましくは少なくとも2個のポリアルギニンセグメント、より好ましくは3個のポリアルギニンセグメントを含みうる。
【0028】
単離ペプチドはペネトラチン(配列番号22)であってもよい。
単離ペプチドは、プロタミン誘導体の混合物を含むことができる。プロタミン誘導体の混合物は硫酸プロタミンを含むことができる。
【0029】
単離ペプチドは、細胞のエンドサイトーシスのプロセスに影響する場合があり;細胞表面受容体の機能に影響して細胞のカルシウム流入の低減をもたらす場合もあり;ミトコンドリア外膜との相互作用及びミトコンドリア外膜の安定化のうち少なくともいずれか一方を為してミトコンドリアの機能を維持する場合もあり;又は、カルシウム依存性プロタンパク質転換酵素フューリンを阻害するか、ダウンレギュレートするか、若しくは影響を及ぼす場合もある。
【0030】
単離ペプチドは合成ペプチドであっても人造ペプチドであってもよい。単離ペプチドは、他のポリペプチド内に含まれてもよいし、他のポリペプチドに融合していてもよい。単離ペプチドどうしが、少なくとも1つのリンカー配列で互いに融合していてもよい。
【0031】
単離ペプチドは、50μM未満、好ましくは20μM未満、最も好ましくは10μM未満のIC50レベルで神経保護活性を示しうる。
本発明は、配列番号7、8、9、10、11、12、13、16、30、31、32、33、34、35、36、37、及び神経保護活性を有するこれらの機能性フラグメント又はアナログのうちのいずれか1つ以上を含む単離ペプチドの、神経の損傷を治療又は予防するための医薬組成物又は薬剤の製造における使用にも及ぶ。
【0032】
本発明の単離ペプチド又は本発明のポリヌクレオチド配列を含んでいる医薬組成物又は薬剤は、神経の損傷の治療又は予防のために使用可能である。
医薬組成物又は薬剤は、虚血、周産期の低酸素性虚血、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、多発性硬化症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、卒中、末梢神経障害、脊髄損傷、又はてんかんの治療又は予防において使用されうる。
【0033】
医薬組成物又は薬剤は、薬学的に許容可能な担体、アジュバント、又はビヒクルを含むことができる。
本発明の別の態様によれば、神経の損傷を治療するか又は神経細胞の生存を促進する方法であって、投与を必要とする患者に、薬学的に許容可能な及び/又は薬学的に有効な量の、本発明のペプチド又は本発明の医薬組成物若しくは薬剤を、投与するステップを含む方法が提供される。
【0034】
本発明のさらに別の態様によれば、対象者における神経細胞死を阻害する方法であって、そのような治療を必要とする対象者に、薬学的に許容可能な及び/又は薬学的に有効な量の、本発明のペプチド又は本発明の医薬組成物若しくは薬剤を、投与することを含む方法が提供される。
【0035】
投与は0.001mg/kg〜50mg/kgであってよい。
本発明は、1つ以上の容器に入った本発明の医薬組成物又は薬剤と、医薬組成物の適用に関わる指示及び情報のうち少なくともいずれかに関する取扱説明書又は情報小冊子とを含むキットにも及ぶ。
【0036】
より具体的には、ペプチドは、配列番号7、8、9、10、11、12、13、16、30、31、32、33、34、35、36、37として示された配列を有するペプチドのうちのいずれか1つ以上であってもよいし、前記ペプチドに対する、少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、なおより好ましくは90%、さらにより好ましくは99%、又はそれより高い配列同一性を有する配列を含んでもよく、そのようなペプチドは神経保護活性を有する。
【0037】
ペプチドは、R8〜R22の任意の長さのポリアルギニンペプチド、又はその繰り返しを含むことができる。1つの実施形態では、ペプチドは、R8、R9、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、及びR18を含む群から選択される。1つの好ましい実施形態では、ペプチドはR10である。別の好ましい実施形態では、ペプチドはR12である。さらに別の好ましい実施形態では、ペプチドはR15である。別の好ましい実施形態では、ペプチドはR18である。
【0038】
ペプチドの使用は、本発明のペプチド、特に配列番号32〜36のうちの任意の2つ以上の混合剤の、神経の損傷の治療又は予防における使用を含みうる。
別の実施形態では、使用には、配列番号37のペプチドを神経の損傷の治療若しくは予防において使用すること、又は配列番号37を配列番号32〜36のペプチドのうちのいずれかとともに使用することが含まれうる。
【0039】
本発明の別の態様では、配列番号32〜37の単離ペプチドが、前記ペプチドに対する少なくとも60%、70%、80%、90%、実に99%又はそれより高い配列同一性を有する配列を含めて提供され、そのようなペプチドは神経保護活性を有する。
【0040】
ペプチドは、サケ精子から単離された市販のプロタミンペプチド混合剤であってもよい。
そのため、ペプチドは、2012年11月15日に公表された、欧州医薬品庁(European Medicines Agency )「プロタミン含有医薬製造品に関する評価報告(Assessment Report for Protamine containing medicinal products )」、手続き番号EMEA/H/A−5(3)/1341に記載されているように、硫酸プロタミンを含む混合剤の形態であってもよく、前記文献の内容は単に参照することにより本願に組み込まれる。
【0041】
表1は、様々な形態のサケ精子プロタミンの概要を示す。該プロタミンペプチド配列(サケ)は、臨床用途の硫酸プロタミン中に存在するものであるか、又はSwissProtデータベース由来のものである。本明細書中で使用されるように、用語「プロタミン」は、配列番号32〜35のペプチドの混合剤を含む市販の注射可能な形態又は硫酸プロタミンを指す。
【0042】
ペプチドはペプチドの混合剤中において次の比率(%)で存在しうる:
【0044】
好ましい実施形態では、ペプチドはペプチドの混合剤中において次の比率(%)で存在する:
【0046】
最も好ましい実施形態では、ペプチドはペプチドの混合剤中において次の比率(%)で存在する:
【0048】
より詳しくは、ペプチドの混合剤は、例えばサノフィ・アベンティス(Sanofi Aventis)製の硫酸プロタミン(サケ)として市販されている、配列番号32、33、34、及び35のペプチドの混合剤であってもよい。
【0049】
そのため、ペプチドの混合剤には、塩化ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム及び水が混ざっていてもよい。
ペプチドの混合剤は、静脈内に注射可能又は投与可能な送達調合物に含まれていてもよい。
【0050】
ペプチドは、0.1mg/ml〜100mg/ml、好ましくは1mg/ml〜20mg/mlの範囲内、最も好ましくは10mg/mlの濃度で送達調合物中に存在していてもよい。
【0051】
使用時には、送達調合物は、注射可能又は静脈注射用の調合物の形態である場合、1〜30分間にわたる、好ましくは5〜20分間にわたる、最も好ましくは10分間にわたる緩徐な静脈内注射によって投与されうる。
【0052】
ペプチドは細胞透過活性を有していてもよい。そのため、ペプチドはCPPであってもよい。
ペプチドは、RR、又はRRR、又はRRRR、又はより高次の繰り返しのような、隣接した配置状態のアルギニン残基の繰り返しを含んでもよく、かつ他のアミノ酸の間に、又はアミノ酸の連続部の間に、点在せしめられてもよい。
【0053】
本発明のさらなる態様によれば、神経の損傷を治療するための医薬組成物又は薬剤の製造における、本発明のペプチドの使用が提供される。本発明は、神経の損傷を治療するための薬剤の製造における、本発明のペプチドの混合剤の使用にも及ぶ。
【0054】
本発明のさらに別の態様によれば、カルシウム流入に関連した細胞表面受容体の機能に影響を及ぼすための、より具体的にはNMDA、AMPA、VGCC、NCX、TRMP2/7、ASIC及びmGlu受容体と相互作用するための、より具体的にはさらに細胞内カルシウム流入の低減をもたらすための、本発明のペプチド又は医薬組成物の使用が提供される。本発明の別の実施形態では、ミトコンドリア外膜との相互作用及びミトコンドリア外膜の安定化のうち少なくともいずれか一方を行うことによりミトコンドリアの機能の維持を支援するための、本発明のペプチド又は医薬組成物の使用が提供される。本発明のさらに別の態様によれば、カルシウム依存性プロタンパク質転換酵素フューリンを阻害するか、ダウンレギュレートするか、若しくは影響を及ぼすための、本発明のペプチド又は医薬組成物の使用が提供される。
【0055】
本発明の別の態様によれば、神経の損傷の治療のための医薬組成物又は薬剤であって、本発明の単離ペプチド、又は本発明の単離ペプチドのうち任意の1つ以上を含む、医薬組成物又は薬剤が提供される。
【0056】
医薬組成物又は薬剤は、薬学的に許容可能な担体、アジュバント、又はビヒクルを含むことができる。
本発明のまたさらに別の態様によれば、神経の損傷を治療する方法であって、投与を必要とする患者に、薬学的に許容可能な及び/又は薬学的に有効な量の、本発明のペプチドを投与するステップを含む方法が提供される。患者は、生理学的に許容可能な量の本発明のペプチドを投与されてもよい。
【0057】
本発明のまたさらなる態様によれば、対象者における神経細胞死を阻害するための方法であって、そのような治療を必要とする対象者に、対象者における神経細胞死を阻害するのに有効な量の神経保護ペプチドを投与することを含み、神経保護ペプチドは本発明のペプチドのうち任意の1つ以上である、方法が提供される。
【0058】
患者は、生理学的に許容可能な量の、本発明のペプチドのうち任意の2つ以上の混合剤を投与されてもよい。
より詳しくは、患者は、配列番号32、33、34、35、36、又は37を含む群から選択された任意の2つ以上のペプチドの混合剤を投与されうる。本発明の1つの特定の態様では、患者は、配列番号32、33、34及び35を含む混合剤を投与されうる。他の組み合わせでは、患者は、配列番号32、33、34及び35からなる群から選択されたペプチドと、配列番号36のペプチドとの任意の組み合わせを投与されうる。特定の実施形態では、患者は配列番号35を投与されてもよい。
【0059】
本発明のペプチドは、神経伝達物質受容体のアンタゴニストに対抗する神経保護活性を提供しうる。神経伝達物質受容体は、NMDA、グルタミン酸、カイニン酸、又は虚血プロセスによって結合がなされ、これらと相互作用し、又はこれらにより影響を受ける受容体であってよい。本発明のペプチドは他のポリペプチド内に含まれていてもよいし、他のポリペプチドに融合せしめられてもよい。本発明のペプチドは、そのような他のポリペプチドのN末端又はC末端のいずれかに連結又は融合されうる。本発明のペプチドは、そのような他のポリペプチドに、神経の損傷を治療するために適した立体配座をとって本発明のペプチドを提示するように連結又は融合されうる。
【0060】
別例として、又は追加として、本発明のペプチドのうち1つ以上がリンカー配列で互いに融合されてもよい。リンカー配列は、任意の配列のアミノ酸、例えば、限定するものではないが塩基性/カチオン性のアミノ酸に富んだリンカー配列を含むことができる。別例として、又は追加として、リンカー配列は開裂可能なリンカーであってよい。1つの実施形態では、リンカーは、1つ以上のMMP型リンカー、カルパインリンカー、カスパーゼリンカー又はtPAリンカーであってよい。MMP型リンカーは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)によって認識及び開裂されるペプチド配列として定義される。同様に、カルパインリンカー、カスパーゼリンカー又はtPAリンカーは、これらのタンパク質分解酵素(すなわちそれぞれカルパイン、カスパーゼ又はtPA)によって認識及び開裂されるペプチド配列である。本発明のペプチドはさらに、神経の損傷の部位へと輸送されるか、又は神経細胞の中へ若しくは神経細胞内部で細胞内輸送されることになっている他のペプチドに融合されてもよい。
【0061】
本発明のペプチドは、神経の機能に害を及ぼす酵素に結合するか又は該酵素と相互作用することが可能である付随的ペプチドに連結されて、その結果、該付随的ペプチドが、細胞膜を横切る輸送の後で該酵素の競合的阻害剤として機能することが可能であるようになっていてもよい。付随的ペプチドは、tPA、カルパイン、及びMMPから選択可能であり、カスパーゼ配列のような開裂可能なリンカーを使用して本発明のペプチドに連結されて、その結果、tPA、カルパイン又はMMPが本発明のペプチドから解放され、次いで神経の機能に害を及ぼす酵素にとっての競合的阻害剤として細胞内で機能しうるようになっていてもよい。
【0062】
そのため、本発明は、本発明のペプチドがカスパーゼ切断部位に連結され、それ自体がひいてはカルパイン、tPA又はMMPに連結されているものにも及ぶ。
本発明のペプチドは、10μM未満、好ましくは5μM未満、好ましくは1μM未満、場合によっては0.2μM程度又は0.2μM未満、さらには0.1μM程度のIC50レベルの神経保護活性を示しうる。
【0063】
以前に言及されたように、ペプチドは本発明のペプチド配列の繰り返し、又はその機能性フラグメント、すなわち神経保護活性を示すフラグメントを含みうる。
従って、本発明の1つの態様は、単離ポリペプチドであって、該ポリペプチド内に含まれた神経保護効果を示す長さ8〜100アミノ酸残基のペプチドセグメントを有し、該神経保護ペプチドはペプチドセグメントの長さの20%超、好ましくは30%超、40%超、50%超、60%超、70%超 80%超、90超、95%超、99%超、又は最も好ましくは100%の塩基性/カチオン性アミノ酸含量を有するペプチドセグメントから選択される、単離ポリペプチドを提供する。
【0064】
本発明の別の態様によれば、本発明のペプチドをコードする単離ポリヌクレオチド配列、該単離ポリヌクレオチド配列に相補的な配列、及び該単離ポリヌクレオチド配列との少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、99%、又は100%の相同性を有する配列が提供される。該ポリヌクレオチド配列は1つ以上の単離された配列であってよく、本発明のポリヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列であってもよい。該ポリヌクレオチド配列は天然に存在しないポリヌクレオチド配列又はDNAであってもよい。そのため、それらは人造の、cDNAのような人工構築物を含みうる。さらに本発明に含まれるのは、単離された先述の単離核酸を含む、発現ベクターのようなベクター、同様にそのようなベクター又はDNA配列を用いて形質転換された細胞である。該ポリヌクレオチド配列はプロタミンをコードしていてもよい。該ポリヌクレオチド配列は配列番号38の配列であってもよい。
【0065】
本発明の別の態様では、配列番号7、8、9、10、11、12、13、16、30、31、32、33、34、35、36、及び37からなる群から選択された単離ペプチドが、前記ペプチドに対する、少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%、なおより好ましくは90%、さらにより好ましくは99%又はそれ以上の配列同一性を有する配列を含めて提供され、そのようなペプチドは神経保護活性を有する。
【0066】
医薬調合物又は薬剤の調製における単離核酸、ベクター、又は細胞の使用も提供される。
本発明は更に、上記調合のうち少なくとも1つの上述の医薬組成物(1つ以上の容器に入っている)と、該医薬組成物の適用に関わる指示及び情報のうち少なくともいずれか一方に関する取扱説明書又は情報小冊子とを含むキットを提供する。
【0067】
1つの実施形態では、上記に定義されるような本発明のペプチドを含む医薬組成物は、虚血、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、卒中、末梢神経障害、脊髄損傷又はてんかんの治療に使用するためのものである。
【0068】
別の実施形態では、本発明は、神経細胞の生存を促進する方法であって、神経細胞を本発明のペプチド又はその組み合わせと接触させるステップを含む方法を提供する。好ましくは、該方法はin vitroで実施される。本発明は、その別の態様において、OGD又は虚血から血液脳関門内皮細胞を保護するための方法及び組成物を提供する。
【0069】
これらの所見は、本発明のペプチドが、興奮毒性及び虚血による損傷に関連した神経に有害な事象/経路を阻害又は改善する能力を有すること、並びに、前記の阻害又は改善を行うための方法に使用可能であることを実証している。さらに、本明細書中に包含された傷害前曝露試験(pre-insult exposure trial )におけるプロタミン及びプロタミン誘導体の効果によって示されるように、新たな重要な所見は、グルタミン酸又はOGD曝露の1〜4時間前の神経細胞のプロタミン治療が、細胞死の低減による神経保護性の応答を誘導することができるということであった。このことは意義深いことである、というのも、患者が脳虚血又は脳卒中を患う結果として脳損傷を生じる可能性のあるリスクがある、脳血管の外科的処置(例えば頚動脈血管内膜切除術)及び心血管の外科的処置(例えば冠動脈バイパスグラフト)が多数存在するからである。
【0070】
したがって、本発明の方法は、本発明の少なくとも1つのペプチド、薬剤、又は医薬組成物を、何らかのそのような大脳虚血事象から脳を保護するためにそのような処置の0.25時間〜4時間前、好ましくは0.5〜3時間前、最も好ましくは1〜2時間前の時間帯に投与することにも及ぶ。
【0071】
このように本発明は、神経損傷、脳血管の傷害若しくは損傷、心血管の傷害若しくは損傷の治療若しくは予防における、又は患者が脳虚血又は卒中に罹患するリスクのありうる外科的処置における、本発明の少なくとも1つのペプチドの使用にも及ぶ。
【0072】
本明細書中に開示された本発明の配列の一次アミノ酸配列の軽微な改変は、ほぼ等価の又は増強された活性を有するタンパク質を生じる場合がある。この改変は、部位特異的突然変異誘発によるものなど、計画的であってもよいし、例えばプロタミン又はLMWPを産生する生物体である宿主の突然変異によるものなど、偶発的であってもよい。これらの改変はすべて、神経保護活性が保持される限りは本発明の範囲内に含まれる。
【0073】
本発明のさらなる特徴は、単に本発明を例証する目的で含められたいくつかの非限定的な実施形態についての以下の説明において、より十分に記載されている。以下の説明は、上記に提示されたような本発明の広範な概要、開示又は説明に対する制限ではなく、添付の図面に関してなされるものであり、図中、用語「プロタミン」又は「Ptm」は市販の硫酸プロタミン(サノフィ・アベンティスを含むいくつかの製造業者により、典型的にはホフマン(Hoffman )、1990年に指定されているようにして市販用に製造されている)を指し、「Ptm1」〜「Ptm」5はそれぞれ配列番号32、33、34、35、及び36を指している。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【
図1a】グルタミン酸興奮毒性モデルの結果を示す図。ペプチドの濃度はμM単位。A:グルタミン酸への曝露並びにCPP、陽性対照ペプチド(JNKI‐1D‐TAT/PYC36L‐TAT)及びグルタミン酸受容体遮断薬(Blkrs;5μM:MK801/5μM:CNQX)を用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害(no insult )対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図1b】グルタミン酸興奮毒性モデルのさらなる結果を示す図。ペプチドの濃度はμM単位。グルタミン酸への曝露並びにTAT‐L及びTAT‐Dペプチドを用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図1c】グルタミン酸興奮毒性モデルのさらなる結果を示す図。具体的には、グルタミン酸傷害に先立って洗浄除去された場合のペプチドの効能である(ペプチドの濃度はμM単位)。CPPが傷害に先立って洗浄除去された場合のグルタミン酸への曝露の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図1d】グルタミン酸興奮毒性モデルからのさらなる結果を示す図。グルタミン酸傷害の後に添加された場合のペプチドの効能である。Arg‐9及びArg‐12ペプチド並びに対照ペプチドJNKI‐1D‐TAT及びNR29cが傷害後0分又は15分で添加された場合のグルタミン酸曝露の後24時間の神経細胞の生存率であり、この実験では、グルタミン酸への曝露は対照群において他の実験よりも生じた細胞死が少なかった(60%対95%)。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図1e】グルタミン酸興奮毒性モデルからのさらなる結果を示す図。ペプチドの濃度はμM単位。A:グルタミン酸への曝露並びにR9、R12、R15、R18及びR9/tPA/R9を用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図1f】グルタミン酸興奮毒性モデルからのさらなる結果を示す図。ペプチドの濃度はμM単位。グルタミン酸への曝露並びにR9、E9/R9、DAHK及びPTD4を用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図1g】グルタミン酸興奮毒性モデルからのさらなる結果を示す図。ペプチドの濃度はμM単位。グルタミン酸への曝露、並びにR9及びNR29c並びに対照ペプチドPCY36(PYC36L‐TAT)を用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図1h】グルタミン酸興奮毒性モデル(穏やかな傷害)からのさらなる結果を示す図。ペプチドの濃度はμM単位。グルタミン酸への曝露、並びにR9、R12及びNR29c並びに対照ペプチドJNK(JNKI‐1‐TAT)を用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図1i】グルタミン酸興奮毒性モデル(穏やかな傷害)からのさらなる結果を示す図。ペプチドの濃度はμM単位。グルタミン酸への曝露、並びにR1、R3、R6、R9、R12及びNR29c対照ペプチドを用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図1j】グルタミン酸興奮毒性モデルからのさらなる結果を示す図;ペプチドの濃度=5μM。グルタミン酸への曝露及びR1、R3、R9旧(ミモトープス(Mimotopes ))、R9新(チャイナ・ペプチド(China peptides))、R12を用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図2】カイニン酸興奮毒性モデルの結果を示す図。ペプチドの濃度はμM単位。カイニン酸への曝露並びにCPP、陽性対照ペプチド(JNKI‐1D‐TAT/PYC36L‐TAT)及びグルタミン酸受容体遮断薬(Blkrs;5μM:MK801/5μM:CNQX)を用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図3a】in vitro虚血モデルの結果を示す図。ペプチドはin vitro虚血の間存在し、虚血後には50%の用量で存在:ペプチドの濃度はμM単位。in vitro虚血並びにCPP、陽性対照ペプチド(PYC36L‐TAT)及びグルタミン酸受容体遮断薬(Blkrs;5μM:MK801/5μM:CNQX)を用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図3b】in vitro虚血モデルのさらなる結果を示す図。ペプチドはin vitro虚血の後に存在し:ペプチドの濃度はμM単位。in vitro虚血並びにR9、R12、R15及びR18を用いた処置の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図3c】in vitro虚血モデルのさらなる結果を示す図。R9ペプチドはin vitro虚血の間存在し、虚血後には50%の用量で存在:bEND3細胞のためのペプチド用量はin vitro虚血の間は10μM/虚血後は5μMであった。SH‐5YSY細胞のためのペプチド用量はin vitro虚血の間は5μM/虚血後は2.5μMであった。in vitroの虚血の後24時間の細胞生存率(MTSデータは平均±SEM;n=4;
*P<0.05)。
【
図4】培養物を様々なペプチド濃度に曝露した後の神経細胞の生存率を示す図。ペプチド濃度はμMで示されている。R3、R6、R9、R12、R15、R18、JNK(JNKI‐1D‐TAT)及びNR29cペプチドを用いた曝露の後24時間の神経細胞の生存率。490nmにおけるMTS吸光度として表わされた細胞生存率データ(平均±SEM;n=4)。
【
図5】ラットの恒久的な中大脳動脈閉塞(MCAO)卒中モデルにおけるR9Dペプチドの効能を示す、初期の動物モデルパイロット試験の結果を示す図。R9DペプチドはMCAO後30分で静脈内投与された。梗塞体積(脳損傷)はMCAO後24時間で測定された(平均±SD)。
【
図6】グルタミン酸モデルにおけるR9、R10、R11、R12、R13及びR14を使用した用量応答研究を示す図。平均±SEM:N=4;
*P<0.05。(ペプチド濃度はμM単位)。
【
図7】グルタミン酸モデルにおけるR9D、R13、R14及びR15を使用した用量応答研究を示す図。平均±SEM:N=4;
*P<0.05。(ペプチド濃度はμM単位)。
【
図8】グルタミン酸モデルにおけるR6、R7、R8、及びR9を使用した用量応答研究を示す図。平均±SEM:N=4;
*P<0.05。(ペプチド濃度はμM単位)。
【
図9】グルタミン酸興奮毒性モデルの結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いた神経細胞培養物の処置は、37℃で5分間のグルタミン酸への曝露(100μM)の前に15分間であった。グルタミン酸への曝露及び様々なプロタミン濃度を用いた処置又は未処置(Glut対照)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図10】グルタミン酸興奮毒性モデルの結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いた神経細胞培養物の処置は、37℃で5分間のグルタミン酸への曝露(100μM)の前15分間及び曝露中であった。グルタミン酸への曝露及び様々なプロタミン濃度を用いた処置又は未処置(Glut対照)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図11】グルタミン酸興奮毒性モデルの結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いた神経細胞培養物の処置は、グルタミン酸への曝露(100μM)(37℃で5分間)の前5分間又は10分間のみであった。グルタミン酸への曝露及び様々なプロタミン濃度を用いた処置又は未処置(Glut)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図12】グルタミン酸興奮毒性モデルの結果を示す図。プロタミン及び低分子量プロタミン(LMWP)の濃度はμM単位。プロタミン又はLMWPを用いた神経細胞培養物の処置は、37℃で5分間のグルタミン酸への曝露(100μM)の前15分間及び曝露中であった。グルタミン酸への曝露及び様々なプロタミン若しくはLMWPの濃度を用いた処置又は未処置(Glut対照)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図13】グルタミン酸興奮毒性モデルの結果を示す図。プロタミン及び低分子量プロタミン(LMWP)の濃度はμM単位。プロタミン又はLMWPを用いた神経細胞培養物の処置は、37℃で5分間のグルタミン酸への曝露(100μM)の前15分間及び曝露中であった。グルタミン酸への曝露及び様々なプロタミン若しくはLMWPの濃度を用いた処置又は未処置(Glut対照)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図14】グルタミン酸興奮毒性モデルの結果を示す図。プロタミン及びLMWPの濃度はμM単位。プロタミンを用いた神経細胞培養物の処置は、グルタミン酸への曝露(100μM;37℃で5分)の直前又は1若しくは2時間前の10分間のみであった。グルタミン酸への曝露及び様々なプロタミン若しくはLMWPの濃度を用いた処置又は未処置(Glut対照)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図15】グルタミン酸興奮毒性モデルの結果を示す図。プロタミン及びプロタミンペプチド1〜5(「Ptm1〜5」)の濃度はμM単位。プロタミン及びプロタミンペプチドを用いた神経細胞培養物の処置は、37℃で5分間のグルタミン酸への曝露(100μM)の前15分間であった。グルタミン酸への曝露並びに様々なプロタミン及びプロタミンペプチドの濃度を用いた処置又は未処置(Glut対照)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図16】酸素グルコース欠乏(OGD)モデルの結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いた神経細胞培養物の処置は、50分間のOGDの直後及び実験終了までであった(24時間)。OGD及び様々なプロタミン濃度を用いた処置又は未処置(OGD)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非OGD対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図17】酸素グルコース欠乏(OGD)モデルの結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いた神経細胞培養物の処置は、50分間のOGDの直後及び実験終了までであった(24時間)。OGD及び様々なプロタミン濃度を用いた処置又は未処置(OGD)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非OGD対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図18】酸素グルコース欠乏(OGD)モデルの結果を示す図。プロタミン及びLMWPの濃度はμM単位。プロタミン又はLMWPを用いた神経細胞培養物の処置は、50分間のOGDの1時間前に10分間であった。OGD及び様々なプロタミン濃度を用いた前処置又は未処置(OGD)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非OGD対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図19】酸素グルコース欠乏(OGD)モデルの結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いた神経細胞培養物の処置は、50分間のOGDの後に15分間又は30分間であった。OGD及び様々なプロタミン濃度を用いた後処置又は未処置(OGD)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非OGD対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図20】酸素グルコース欠乏(OGD)モデルの結果を示す図。プロタミン及びLMWPの濃度はμM単位。プロタミン又はLMWPを用いた神経細胞培養物の処置は、50分間のOGDの後に15分間であった。OGD及び様々なプロタミン濃度若しくはLMWP濃度を用いた後処置又は未処置(OGD)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非OGD対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図21】酸素グルコース欠乏(OGD)モデルの結果を示す図。プロタミン及びプロタミンペプチドの濃度はμM単位(5μM)。プロタミンを用いた神経細胞培養物の処置は、45分間のOGDの後に15分間であった。OGD並びに様々なプロタミン濃度及びプロタミンペプチド濃度を用いた後処置又は未処置(OGD)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非OGD対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=5;
*P<0.05)。
【
図22】酸素グルコース欠乏(OGD)モデルの結果を示す図。プロタミン、プロタミンペプチド及び低分子量プロタミン(LMWP)ペプチドの濃度はμM単位(5μM)。プロタミンを用いた神経細胞培養物の処置は、45分間のOGDの後に15分間であった。OGD並びに様々なプロタミン濃度及びプロタミンペプチド濃度を用いた後処置又は未処置(OGD)の後24時間の神経細胞の生存率。MTSデータは、非OGD対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図23】脳血管内皮細胞(bEND3細胞)を使用した酸素グルコース欠乏(OGD)モデルの結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いたbEND3培養物の処置は、3通りの異なるOGD持続期間(2時間15分、2時間30分及び2時間45分)の直前15分から実験終了までであった(24時間)。細胞の生存率はOGDの24時間後に測定された。MTSデータは、非OGD対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図24】脳血管内皮細胞(bEND3細胞)へのプロタミンペプチドの曝露の結果を示す図。プロタミンの濃度は1μM。プロタミンペプチド1〜5(Ptm1〜Ptm5)、硫酸プロタミン(Ptm)、及び低分子量プロタミン(LMWP)はOGD(2時間30分の持続期間)の直前に15分間、bEND3細胞培養物に添加された。MTSアッセイを使用してOGDの24時間後に評価された細胞の生存率。MTSデータは490mmでの吸光度として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図25】脳血管内皮細胞(bEND3細胞)へのプロタミンの曝露の結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いたbEND3培養物の処置は0.5時間、1時間又は2時間であった。プロタミンへの曝露又は未処置(対照)の後2時間の細胞の生存率。MTSデータは490mmでの吸光度として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図26】脳血管内皮細胞(bEND3細胞)へのプロタミンの曝露の結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いたbEND3培養物の処置は2時間であった。プロタミンへの曝露又は未処置(対照)の後2時間の細胞の生存率。MTSデータは490mmでの吸光度として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図27】恒久的な中大脳動脈閉塞(MCAO)卒中モデルにおける閉塞30分後に静脈内投与された場合のR12、R15、R18及びプロタミン(Ptm)ペプチドの神経保護効果を示す図。ペプチド用量は1μmol/kg(600μl:IV)であり、梗塞の評価はMCAOの24時間後であった(平均±SE;n=8〜10;
*P<0.05)。動物の処置は無作為化され、全ての工程は処置に対して盲検化されて実施された。
【
図28】ペプチドが5分間のグルタミン酸への曝露の間にのみ神経細胞培養物中に存在する場合のグルタミン酸興奮毒性モデルにおけるR9、R12、R15及びR18の神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図29】ペプチドがグルタミン酸への曝露の前に10分間だけ神経細胞培養物中に存在する場合のグルタミン酸モデルにおけるR9、R12、R15及びR18の神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図30】ペプチドがグルタミン酸への曝露の1〜5時間前に10分間だけ神経細胞培養物中に存在する場合のグルタミン酸モデルにおけるR12及びR15の神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図31】酸素グルコース欠乏(OGD)モデルにおける、ペプチドがOGD直後に神経細胞培養物に添加されて15分後に除去された場合のR9、R12、R15及びR18の神経保護性の効能を示す図。OGDの後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図32】酸素グルコース欠乏における、ペプチドがOGDの1〜3時間前に10分間だけ神経細胞培養物中に存在する場合のR9、R12、R15及びR18の神経保護性の効能を示す図。OGDの後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図33】グルタミン酸興奮毒性モデルにおける、ペプチドが5分間のグルタミン酸への曝露の前15分間及び曝露中に神経細胞培養物中に存在する場合の、PTD4、E9/R9及びR9の神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図34】グルタミン酸興奮毒性モデルにおける、ペプチドが5分間のグルタミン酸への曝露の前15分間及び曝露中に神経細胞培養物中に存在する場合の、XIP及びPYC36‐TATの神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図35】グルタミン酸興奮毒性モデルにおける、ペプチドが5分間のグルタミン酸への曝露の前15分間及び曝露中に神経細胞培養物中に存在する場合の、NCXBP3の神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図36】グルタミン酸興奮毒性モデルにおける、ペプチドが5分間のグルタミン酸への曝露の前15分間及び曝露中に神経細胞培養物中に存在する場合の、K10、R10及びTAT‐NR2B9cの神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図37】NMDA興奮毒性モデルにおける、ペプチドが5分間のNMDAへの曝露の前15分間及び曝露中に神経細胞培養物中に存在する場合の、R15及びTAT‐NR2B9cの神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図38】グルタミン酸興奮毒性モデルにおける、ペプチドが5分間のグルタミン酸への曝露の前15分間及び曝露中に神経細胞培養物中に存在する場合の、R8及びCal/R9の神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図39】グルタミン酸への曝露前に10分間だけ神経細胞培養物に添加される前に、±ヘパリン(20IU/ml)として室温で5分間インキュベートされたR9D、R12、R15及びPYC36‐TATペプチドの神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図40】神経細胞培養物が±ヘパリン(40IU/ml)として37℃で5分間インキュベートされた後にペプチドが37℃で10分間だけ添加され、その後グルタミン酸への曝露の前に除去された場合の、R9D、R12、及びR15並びにグルタミン酸受容体遮断薬(Blks:5μMのMK801/5μMのCNQX)の神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図41】グルタミン酸興奮毒性モデルにおける、ペプチドが5分間のグルタミン酸への曝露の前15分間及び曝露中に神経細胞培養物中に存在する場合の、kFGF、kFGF‐JNKI‐1、TAT‐JNKI‐1及びJNKI‐1TATDの神経保護性の効能を示す図。グルタミン酸の後20〜24時間で測定された神経細胞の生存率。ペプチドの濃度はμM単位。MTSデータは、非傷害対照を100%の生存率として得られた神経細胞の生存率(%)として表わされた(平均±SD;n=4;
*P<0.05)。
【
図42】酸素グルコース欠乏の前に15分間の初代ラット星状細胞に対する硫酸プロタミン(Ptm)及びR18ペプチドの事前曝露の結果を示す図。ペプチドの濃度は2μM。MTSアッセイを使用してOGDの24時間後に評価された細胞の生存率。MTSデータは490mmでの吸光度として表わされた(平均±SD;n=4〜6;
*P<0.05)。
【
図43】初代ラット星状細胞に対するプロタミンペプチド1〜5(Ptm1〜Ptm5)、硫酸プロタミン(Ptm)、及び低分子量プロタミン(LMWP)の曝露の結果を示す図。プロタミンの濃度はμM単位。プロタミンを用いた星状細胞培養物の処置は24時間であった。プロタミンへの曝露又は未処置(対照)の後24時間の細胞の生存率。MTSデータは490mmでの吸光度として表わされた(n=4)。
【
図44】神経細胞培養物における、グルタミン酸への曝露後のグルタミン酸受容体遮断薬(5μM/5μMのMK801/CNQX)、R9D、R15、PYC36‐TAT、TAT、TAT‐NR2B9c JNKI‐1‐TATD、TAT‐JNKI‐1、kFGF‐JNKI‐1及びkFGFについての細胞内カルシウム流入の動態を示す図。Fura‐2AMが細胞内カルシウムの評価に使用された。代表的な蛍光Fura−2AMトレーサー;グルタミン酸(終濃度100μM)の添加(矢印)の30秒前及び添加後の神経細胞培養物の蛍光強度(FI)。ペプチド又はグルタミン酸受容体遮断薬は、神経細胞培養物に10分間添加されてグルタミン酸の前に除去された(時間=0)。値は平均±SE;n=3。ペプチド濃度は5μMであった。
【
図45】神経細胞表面構造物のエンドサイトーシスによる細胞内移行を誘導するアルギニンに富んだCPPについての提唱モデルを示す図。注記:モデルは、神経細胞のシナプス及びシナプス外の原形質膜、並びに潜在的には星状細胞、周細胞、脳血管内皮細胞、オリゴデントロサイト及びミクログリアの原形質膜に当てはまる。NMDAR:N‐メチル‐D‐アスパルテート受容体;AMPAR:α‐アミノ‐3‐ヒドロキシ‐5‐メチル‐4‐イソキサゾールプロピオン酸受容体;NCX:ナトリウム・カルシウム交換輸送体;VGCC:電位依存性カルシウムチャネル(例えばCaV2.2、CaV3.3);ASIC:酸感受性イオンチャネル;TRPM2/7:一過性受容器電位カチオンチャネル2及び7:mGluR:代謝型グルタミン酸受容体;VR1:バニロイド受容体1又は一過性受容器電位カチオンチャネル・サブファミリーVのメンバー1;TNFR:腫瘍壊死因子受容体;EAAT:興奮性アミノ酸輸送体;AQP4:アクアポリン4;Trk:トロポミオシン受容体キナーゼ受容体。
【
図46】本明細書中において記載及び使用される配列の参照表。
【
図47】本明細書中において記載及び使用される配列の参照表。
【発明を実施するための形態】
【0075】
実施形態の説明
本明細書全体を通じて、文脈からそうでないことが必要とならないかぎり、単語「〜を含む(comprise)」若しくは「〜を含む(comprises )」や「〜を含む(comprising)」のような変化形、又は「〜を含む、具備する(includes)」若しくは「〜を含んでいる、具備している(including )」は、明示された整数又は整数群を含むが任意の他の整数又は整数群を排除するものではないことを意味すると理解されることになる。
【0076】
本発明は、単離ペプチド及び該単離ペプチドを含む組成物、並びにこれらの使用に関する。単離ペプチドは、神経の損傷又は脳血管の虚血事象(例えば、特に卒中)の神経変性作用を、その神経の損傷又は虚血事象の前後に投与された場合に、低減することが可能であるという点で特徴づけられる。よって、本発明の組成物の投与は、神経の損傷又は脳血管の虚血事象の後の神経細胞の喪失を低減する。本出願人はここで、驚くべきことに、CPPの形態であるある種のポリペプチド、及び連続的に連なった塩基性/カチオン性アミノ酸(特にアルギニン残基であるがリジン残基及びトリプトファン残基も含む)を有するポリペプチドは、神経刺激活性又は神経保護活性を示し、かつ単独で、すなわち他の神経保護性の作用薬又はペプチドに融合される必要を伴わずに、神経保護作用薬としての(すなわち神経の損傷の治療のための)役割を果たすことが可能である、ということを見出した。そのため、本発明は、長さ10〜32アミノ酸のポリペプチドであって、該アミノ酸のうち10〜22個はカチオン性アミノ酸残基(典型的にはアルギニン残基)であり、そのようなペプチドは典型的には30%以上のアルギニン含量を有し、そのようなペプチドは確立された神経損傷モデルにおいて神経保護活性を示す、ポリペプチドに関する。これは、ポリアルギニンペプチドに加えて、硫酸プロタミン(サケ精子から得られたプロタミンペプチドの混合剤として)、及びこれらのペプチドの様々な変型、アナログ、バリアント又はフラグメント、例えばプロタミン及び低分子量プロタミン(LMWP)、並びにこれらの混合剤を含んでいる。
【0077】
本明細書中で使用されるような用語「アミノ酸」又は「残基」には、20個の天然に存在するアミノ酸のうちのいずれか1つ、天然に存在するアミノ酸のうちいずれか1つのD型、天然に存在しないアミノ酸、並びにこれらの誘導体、アナログ及びミメティックが含まれる。天然に存在するアミノ酸を含むいかなるアミノ酸も、商業的に購入可能であるか又は当分野で既知の方法によって合成可能である。天然に存在しないアミノ酸の例には、ノルロイシン(「Nle」)、ノルバリン(「Nva」)、β‐アラニン、L‐若しくはD‐ナフタラニン(naphthalanine )、オルニチン(「Orn」)、ホモアルギニン(homoArg)、及びその他のペプチド分野において良く知られたもの、例えばM.ボダンツキー(Bodanzsky )、「ペプチド合成の原理(Principles of Peptide Synthesis )」第1版及び第2改訂版、1984年及び1993年、米国ニューヨーク州ニューヨークのシュプリンガー・フェアラーク(Springer-Verlag )、並びにスチュアート(Stewart )及びヤング(Young )、「固相ペプチド合成(Solid Phase Peptide Synthesis )」第2版、1984年、米国イリノイ州ロックフォードのピアス・ケミカル社(Pierce Chemical Co. )に記載されたものがあり、前記文献はいずれも参照により本願に組込まれる。
【0078】
一般のアミノ酸はその正式名、標準的な1文字記法(IUPAC)、又は標準的な3文字記法、例えば:A、Ala、アラニン;C、Cys、システイン;D、Asp、アスパラギン酸;E、Glu、グルタミン酸;F、Phe、フェニルアラニン;G、Gly、グリシン;H、His、ヒスチジン;I、Ile、イソロイシン;K、Lys、リジン;L、Leu、ロイシン;M、Met、メチオニン;N、Asn、アスパラギン;P、Pro、プロリン;Q、Gln、グルタミン;R、Arg、アルギニン;S、Ser、セリン;T、Thr、トレオニン;V、Val、バリン;W、Trp、トリプトファン;X、Hyp、ヒドロキシプロリン;Y、Tyr、チロシン、によって引用されうる。本明細書の組成物中のあらゆるアミノ酸が、天然に存在するか、合成物であるか、これらの誘導体又はミメティックである。
【0079】
本明細書中で使用されるように、「単離(された)」は、本明細書中に記載されたペプチドであって天然の状態ではない(例えば、該ペプチドが天然においてその中に存在するか、又は通常はそれと関連付けられている、より大きなタンパク質分子又は細胞残屑から、該ペプチドが切り離されている)もの、又は天然に存在するタンパク質の天然に存在しないフラグメントであるもの(例えば、該ペプチドは天然に存在するタンパク質の25%未満、好ましくは10%未満、及び最も好ましくは5%未満を含む)を意味する。単離(された)はさらに、ペプチドのアミノ酸配列が、例えば、該配列が天然に存在する配列から(例えばアルギニン、トリプトファン若しくはリジンのような塩基性(すなわちカチオン性)のアミノ酸を含むある種のアミノ酸の変更により)改変されているという理由で、又は該配列が天然では存在する隣接アミノ酸を含有していないという理由で、天然には存在しないということを意味する場合もある。用語「単離(された)」は、ペプチド又はアミノ酸配列が人造の配列又はポリペプチドであって天然には存在しないであろうことを意味する場合もある。
【0080】
同様に、ペプチドをコードする核酸に関して使用されるような「単離(された)」は、前述の全てを包含し、例えば、単離核酸は、該核酸が天然において関連している隣接ヌクレオチドから切り離されており、かつ、組換え法、合成法、生物学的抽出物からの精製などにより生産が可能である。単離核酸は、前述のペプチドのうちの1つをコードする部分と、別のペプチド又はタンパク質をコードする別の部分とを含有することが可能である。単離核酸は標識付けすることも可能である。核酸は、動物、細菌、植物、又は真菌が使用するのに好適なコドンを含んでいる。ある実施形態では、単離核酸は、前述の単離ペプチドのうちの1つをコードする核酸を含んでいる、発現ベクターのようなベクターである。任意の所望のDNA配列の構築のための一般的な方法は、例えば、ブラウン(Brown )J.ら、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology )、1979年、第68巻、p.109;上述のサムブルック(Sambrook)J、マニアティス(Maniatis)T、1989年に提供されている。
【0081】
ペプチドの非ペプチド性アナログ、例えば安定した構造又は生分解の減少を提供するものも企図される。ペプチド模倣アナログは、選択されたペプチドを基にして1つ以上の残基を非ペプチド部分により置換することによって、調製可能である。好ましくは、非ペプチド部分は、ペプチドがその自然な立体配座を保持すること、又は好ましい(例えば生物活性を有する)立体配座を安定化することを可能にする。ペプチドから非ペプチド性の模倣アナログを調製するための方法の1例は、ナフマン(Nachman )ら、レギュラトリー・ペプタイズ(Regul. Pept.)、1995年、第57巻、p.359−370に記載されている。本明細書中で使用されるような用語「ペプチド」は前述のものをすべて包含する。
【0082】
上述のように、本発明のペプチドは、天然に存在するアミノ酸すなわちL‐アミノ酸、又はD‐アミノ酸すなわち天然の配列と比較してレトロインベルソ型の順序でD‐アミノ酸を含むアミノ酸配列のD‐アミノ酸、のうちいずれかで構成されうる。用語「レトロインベルソ型(retro-inverso )」とは、配列の方向が逆転しており、かつ各アミノ酸残基のキラリティーが反転している線状ペプチドの異性体を指す。よって、L型で存在している本明細書中の任意の配列は、本質的にD型対掌体の(レトロインベルソ型)ペプチド配列としても本明細書中に開示されている。本発明によるD型対掌体の(レトロインベルソ型)ペプチド配列は、例えば、対応する天然型のL‐アミノ酸配列について逆のアミノ酸配列を合成することによって、構築可能である。D‐レトロインベルソ型対掌体のペプチド、例えば単離ペプチドの構成要素において、個々の単一のアミド結合の中のカルボニル基及びアミノ基の位置は交換されている一方、各α炭素の側鎖基の位置は保存されている。
【0083】
D型対掌体のアミノ酸を有する上記に定義されるような本発明の単離ペプチドの構成要素の調製は、対応する天然のL型アミノ酸配列の逆のアミノ酸配列を化学合成することにより、又は当業者に知られた任意の他の適切な方法により、達成することが可能である。別例として、D‐レトロインベルソ型対掌体の形態のペプチド又はその構成要素は、L型のペプチド又はその構成要素を、D‐レトロインベルソ型対掌体の形態を化学合成するためのマトリックスとして利用する上記に開示されるような化学合成を使用して調製されてもよい。
【0084】
カチオン性アミノ酸に富んだポリペプチド(カチオン性アミノ酸ポリマー又はコポリマーと呼ぶことも可能)は、長さ10〜32アミノ酸のポリペプチド又はオリゴマーを含むことができる。したがって、「カチオンに富んだ」によって意味されるのは、任意のペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチドであって、典型的には、30%超のカチオン性残基、50%超、さらには60%超をも含むかまたは具備しているものである。ある実施形態では、これは、90%、又は実に100%のカチオン性残基、例えば好ましくはアルギニン残基などを含むペプチドを伴う場合がある。従って、アルギニンに富んだポリペプチド(アルギニンアミノ酸ポリマー又はコポリマーと称することも可能)によって、長さ10〜32アミノ酸のポリペプチド又はオリゴマーを含むことができる。したがって、「アルギニンに富んだ」によって意味されるのは、任意のペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチドであって、10個以上のアルギニン残基、又は30%超のアルギニン残基、50%超、さらには60%超をも含むかまたは具備しているものである。そのため、ある種の実施形態は、アミノ酸の100%がアルギニン残基であるペプチドであってR10〜R18の範囲内かつ薬学的に有効な用量で使用されたときに適切な効能及び低い毒性を備えたペプチドを含む一方、他の場合にはそれは断続的に連なったアルギニン残基を有する他のペプチド(例えばCPPでありプロタミン及びLMWPを含むもの)を指す。通常、このアルギニン残基の連なりは、連続/隣接した4〜5個のアルギニン残基を含み、その間に他のアミノ酸残基が点在している。好ましい実施形態では、間に点在しているアミノ酸はリジン(K)残基である、というのはこれらも概してカチオン性の電荷を有するからである。
【0085】
ある実施形態では、アルギニンポリマー又はコポリマーは少なくとも11個の連続したアルギニン残基、より好ましくは少なくとも12個の連続したアルギニン残基、より好ましくは少なくとも13個の連続したアルギニン残基、より好ましくは少なくとも14個の連続したアルギニン残基、より好ましくは少なくとも15個の連続したアルギニン残基、より好ましくは少なくとも16個の連続したアルギニン残基、より好ましくは少なくとも17個の連続したアルギニン残基及びより好ましくは少なくとも18個の連続したアルギニン残基を含んでいる。しかしながら、ある実施形態では、他の、アルギニン以外の残基が間に点在した4〜5個のアルギニン残基の連続した配列、例えば、本明細書中に示されるような、プロタミン、LMWP、及びこれらの機能性バリアントであって神経保護活性を有するか又は神経損傷の治療において使用するためのバリアントによって例証されるものなどがありうる。好ましい実施形態では、R15が利用される。
【0086】
連続したアルギニン残基は、ポリペプチドのC末端、ポリペプチドのN末端、ポリペプチドの中心(例えば、アルギニン以外のアミノ酸残基によって囲まれている)、又はポリペプチド内の任意の位置に、存在することができる。アルギニン以外の残基は、好ましくはアミノ酸、アミノ酸誘導体、又はアミノ酸ミメティックであって細胞内へのポリマーの膜輸送の速度をあまり低減しないもの、例えば、グリシン、アラニン、システイン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、セリン、トレオニン、α‐アミノ‐β‐グアニジノプロピオン酸、α‐アミノ‐γ‐グアニジノ酪酸、及びα‐アミノ‐ε‐グアニジノカプロン酸である。
【0087】
様々な変更、例えばペプチドの機能のしかたに影響を及ぼさないか又はペプチドの機能のしかたに有利な影響を及ぼす、様々な側鎖基の追加などがなされうる。そのような変更は、荷電基の付加又は除去、アミノ酸の置換、脂肪親和性部分の付加であって結合をもたらすことはないが分子の全体的な電荷特性に影響して血液脳関門を越えての送達を促進するもの、などを伴いうる。個々のそのような変更について、その分子が本発明に従って機能するかどうかを試験するのに必要なのは日常的な実験作業だけである。単に所望の変更を加えるか又は所望のペプチドを選択し、実施例に詳細に述べられているような方式でそれを適用するだけである。例えば、ペプチド(改変型であれ非改変型であれ)がカイニン酸からの保護の試験において活性がある場合、又はそのようなペプチドが神経伝達物質機能の試験において元の神経伝達物質と競合する場合、そのペプチドは機能的な神経伝達物質ペプチドである。
【0088】
本発明はさらに、単離ペプチドの機能性バリアントも包含する。本明細書中で使用されるように、単離ペプチドの「機能性バリアント」又は「バリアント」とは、単離ペプチドの一次アミノ酸配列に対する1つ以上の改変を含み、かつ本明細書中に開示された特性を保持しているペプチドである。単離ペプチドの機能性バリアントを作出する改変は、例えば、1)発現系におけるペプチド安定性のような、単離ペプチドの特性を増強するために;2)単離ペプチドに、抗原エピトープの付加若しくは検出可能部分の付加のような、新規な活性又は特性を提供するために;又は3)同一若しくは類似のペプチド特性を生じる異なるアミノ酸配列を提供するために、なされる可能性がある。単離ペプチドに対する改変は、該ペプチドをコードする核酸に対してなされることが可能であり、かつ該改変には、欠失、点突然変異、短縮化、アミノ酸置換及びアミノ酸の付加が含まれうる。別例として、改変は、例えば開裂、リンカー分子、好ましくはMMP、カルパイン、tPAのような開裂可能なリンカーの付加、ビオチンのような検出可能部分の付加、脂肪酸の付加、あるアミノ酸を別のアミノ酸の代替とすることなどにより、ペプチドに直接なされることも可能である。改変はさらに、単離ペプチドのアミノ酸配列のすべて又は一部を含む融合タンパク質も包含する。1つの実施形態では、リンカーは、1つ以上のMMPタイプのリンカー、カルパインリンカー、カスパーゼリンカー、又はtPAリンカーから選択される。MMPタイプのリンカーは、マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)によって認識及び開裂されるペプチド配列として定義される。同様に、カルパイン、カスパーゼ又はtPAリンカーは、これらのプロテアーゼ酵素によって認識及び開裂されるペプチド配列である。ある実施形態では、本発明のペプチドは、神経の損傷部位へと輸送されることになっているか、又は神経細胞の中に細胞内輸送されることになっている、他のペプチドにも融合せしめられる。したがって、本発明のペプチドは、神経の機能に害を及ぼす酵素への結合又は該酵素との相互作用が可能である付随的ペプチドに連結されて、該付随的ペプチドが、本発明のペプチドによる細胞膜を横切る輸送の後に該酵素の競合的阻害剤として機能することが可能であるようになっていてもよい。付随的ペプチドは、tPA、カルパイン、及びMMPであり、かつカスパーゼ配列のような開裂可能なリンカーを使用して本発明のペプチドに連結され、その結果、tPA、カルパイン又はMMPが本発明のペプチドから解放されて、その後神経の機能に害を及ぼす酵素についての競合的阻害剤として細胞内で機能するようになっている。
【0089】
したがって本発明は、カスパーゼ切断部位であってそれ自体が今度はカルパイン、tPA又はMMPに連結されたカスパーゼ切断部位に連結された、R10〜R18又はPtm1〜5若しくはLMWPのような本発明のペプチド、又はこれらのバリアントに及ぶ。
【0090】
本明細書中に定義されるような用語「配列同一性」は、配列を以下のようにして比較することを意味する。2つのアミノ酸配列の同一性(%)を決定するためには、該配列を、最適な比較を目的としてアラインせしめることができる(例えば、第1のアミノ酸配列の配列にギャップを導入することが可能である)。その後、対応するアミノ酸位置のアミノ酸を比較することが可能である。第1の配列内の位置が第2の配列の対応する位置と同じアミノ酸によって占められている場合、それらの分子はその位置について同一である。2つの配列の間の同一性(%)は、該配列によって共有される同一な位置の数の関数である。例えば、特定のペプチドが規定の長さの参照ポリペプチドに対して具体的な同一性(%)を有すると言われる場合、その同一性(%)は参照ペプチドに関するものである。よって、長さ100アミノ酸の参照ポリペプチドに対して50%同一であるペプチドとは、その参照ポリペプチドの長さ50アミノ酸の部分と完全に同一な50アミノ酸のポリペプチドであってもよい。さらに、参照ポリペプチドの長さ全体にわたって50%同一な、長さ100アミノ酸のポリペプチドであることも考えられる。2つの配列の同一性(%)についてのそのような決定は、数学的アルゴリズムを使用して遂行可能である。2つの配列の比較に利用される数学的アルゴリズムの好適な非限定的実例は、カーリン(Karlin)ら、米国科学アカデミー紀要(PNAS USA)、1993年、第90巻、p.5873−5877のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムはNBLASTプログラムに組み込まれており、前記プログラムは本発明のアミノ酸配列に対して所望の同一性を有する配列を同定するために使用可能である。比較の目的でギャップ付き(gapped)アラインメントを得るためには、Gapped BLASTをアルツシュル(Altschul)ら、ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Res )、1997年、第25巻、p.3389−3402に記載されているようにして利用することが可能である。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えばNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することが可能である。配列はさらに、ジェネティック・コンピューティング・グループ(Genetic Computing Group )のGAP(グローバルアラインメントプログラム)のバージョン9を使用し、デフォルト(BLOSUM62)マトリックス(−4〜+11の値)を−12のギャップオープンペナルティ(ギャップの最初のヌル(null)について)及び−4のギャップ伸長ペナルティ(ギャップ中の個々の追加の連続ヌルごとに)とともに使用して、アラインされてもよい。アラインメント後、同一性(%)は、一致した数を許請求の範囲に記載された配列中のアミノ酸の数の百分率として表現することにより算出される。2つのアミノ酸配列の同一性(%)を決定する上記方法は、核酸配列に相応に適用することが可能である。
【0091】
本発明のペプチドは、直接、又はリンカーを介して連結されうる。この文脈での「リンカー」は通常はペプチド、オリゴペプチド又はポリペプチドであり、複数のペプチドを互いに連結するために使用されうる。互いに連結されるように選択される本発明のペプチドは、同一の配列である可能性もあるし、又は本発明のペプチドのうち任意のものから選択される。リンカーは、1〜10アミノ酸の長さ、より好ましくは1〜5アミノ酸の長さ、最も好ましくは1〜3アミノ酸の長さを有することが可能である。ある実施形態では、リンカーは何らかの二次構造を形成する特性を有することは必要とされない、すなわち、例えばリンカーが少なくとも35%のグリシン残基からなる場合にα‐らせん又はβ‐シート構造を形成する傾向を必要としない。本明細書中に前述されるように、リンカーは、正常な細胞のプロセスによって細胞内で開裂せしめられてそれまで連結していたペプチドの細胞内用量を有効に上昇させる一方、細胞外用量は有毒とはみなされないように十分低く保つことが可能な、MMPペプチドのような開裂可能なペプチドであってよい。細胞内で/内発的に開裂可能なペプチド、オリゴペプチド、又はポリペプチド配列のリンカーとしての使用は、該ペプチドが標的細胞への送達後に互いに分離することを可能にする。この意味での開裂可能なオリゴペプチド又はポリペプチドの配列にはさらに、プロテアーゼで開裂可能なオリゴペプチド又はポリペプチドの配列であって、プロテアーゼ切断部位は典型的には処置される細胞により内生的に発現されるプロテアーゼに応じて選択される、配列も含まれる。上記に定義されるようなリンカーは、オリゴペプチド又はポリペプチドの配列として存在する場合、D‐アミノ酸又は天然に存在するアミノ酸(すなわちL‐アミノ酸)のいずれかからなることが可能である。上記の別例として、ペプチドのカップリング又は融合が、カップリング剤又はコンジュゲート剤、例えば架橋試薬を介して遂行されることも可能である。利用可能ないくつかの分子間架橋試薬があるが、例えば、ミーンズ(Means )及びフィーニー(Feeney)、「タンパク質の化学修飾(Chemical Modification of Proteins )」、1974年、ホールデン‐デイ(Holden-Day)、p.39−43を参照されたい。これらの試薬の中には、例えば、N‐スクシンイミジル3‐(2‐ピリジルジチオ)プロピオン酸(SPDP)又はN,N’‐(1,3‐フェニレン)ビスマレイミド;N,N’‐エチレン‐ビス‐(ヨードアセトアミド)又はその他の6〜11個の炭素メチレンブリッジを有するそのような試薬;及び1,5‐ジフルオロ‐2,4‐ジニトロベンゼンがある。この目的に有用なその他の架橋試薬には:p,p’‐ジフルオロ‐m,m’‐ジニトロジフェニルスルホン;アジプイミド酸ジメチル;フェノール‐1,4‐ジスルホニルクロリド;ヘキサメチレンジイソシアナート若しくはジイソチオシアナート、又はアゾフェニル‐p‐ジイソシアナート;グルタルアルデヒド及びジスジアゾベンジジン(disdiazobenzidine)が挙げられる。架橋試薬は、ホモ二官能性、すなわち同一の反応を生じる2つの官能基を有していてよい。好ましいホモ二官能性の架橋試薬はビスマレイミドヘキサン(BMH)である。BMHは、穏やかな条件下(pH6.5〜7.7)でスルフヒドリル含有化合物と特異的に反応する2個のマレイミド官能基を含有する。2個のマレイミド基は炭化水素鎖によって接続されている。したがって、BMHは、システイン残基を含有するタンパク質(又はポリペプチド)の不可逆的な架橋結合に有用である。架橋試薬はヘテロ二官能性であってもよい。ヘテロ二官能性の架橋試薬は、2個の異なる官能基、例えば、それぞれ遊離のアミン及びチオールを有する2つのタンパク質を架橋結合するであろうアミン反応性基及びチオール反応性基、を有する。ヘテロ二官能性の架橋試薬の例は、スクシンイミジル4‐(N‐マレイミドメチル)シクロヘキサン‐1‐カルボキシラート(SMCC)、m‐マレイミドベンゾイル‐N‐ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)、及びMBSの鎖延長型のアナログであるスクシンイミド4‐(p‐マレイミドフェニル)ブチラート(SMPB)、である。第一級アミンを備えたこれらの架橋試薬のスクシンイミジル基、及びチオール反応性のマレイミドは、システイン残基のチオールとともに共有結合を形成する。架橋試薬は水中での溶解度が低いことが多いので、スルホナート基のような親水性部分が、水中溶解度を改善するために架橋試薬に付加されてもよい。スルホMBS及びスルホSMCCは、水への溶解度のために修飾された架橋試薬の例である。数多くの架橋試薬が、細胞条件の下では本質的に開裂不可能なコンジュゲートを生じる。したがって、いくつかの架橋試薬は、細胞条件の下で開裂可能な、ジスルフィドのような共有結合を含有する。例えば、トラウト試薬すなわちジチオビス(スクシンイミジルプロピオナート)(DSP)、及びN‐スクシンイミジル3‐(2‐ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)は、良く知られた開裂可能な架橋剤である。開裂可能な架橋試薬の使用により、細胞が架橋試薬の特定の配列を開裂することが可能であるという条件で、望ましい場合には、ペプチドが標的細胞内への送達後に分離されることが可能となる。この目的には、直接的なジスルフィド結合も有用であるかもしれない。化学的架橋にはさらに、スペーサーアームの使用も挙げられる。スペーサーアームは、分子内の可撓性を提供するか、又はコンジュゲートされた部分どうしの間の分子内距離を調節し、これにより生物活性の維持を支援しうる。スペーサーアームは、スペーサーアミノ酸(例えばプロリン)を含むタンパク質(又はポリペプチド)部分の形態であってもよい。別例として、スペーサーアームは、「長鎖SPDP」(米国イリノイ州ロックフォードのピアス・ケミカル社(Pierce Chem. Co.)カタログ番号21651H)におけるような架橋試薬の一部であってもよい。上記に議論されたものを含む多数の架橋試薬が市販されている。それらを使用するための詳細な説明書は、商品の供給業者から容易に入手可能である。タンパク質の架橋及びコンジュゲートの調製についての一般的参照文献は:ウォン(Wong)、「タンパク質のコンジュゲーション及び架橋の化学(Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking)」、1991年、シーアールシープレス(CRC Press )、である。
【0092】
本発明のペプチドはさらに、「誘導体」、「バリアント」、又は「機能性フラグメント」、すなわち、上記に定義されるような本発明のペプチドの天然に存在する(L‐アミノ酸の)配列から、該アミノ酸配列の1つ以上の部位における1つ以上のアミノ酸の置換を経るか、天然に存在する配列の任意の部位における1つ以上のアミノ酸の欠失を経るか、天然に存在するペプチド配列の1つ以上の部位における1つ以上のアミノ酸の挿入を経るか、のうち少なくともいずれかにより得られたペプチドの配列も包含しうる。「誘導体」は、本発明のペプチドとして使用される場合、その生物学的活性を保持しているものとし、例えば、本発明のペプチドのうち任意のものの誘導体はその神経保護活性を保持しているものとする。本発明の文脈における誘導体はさらに、上記に定義されるような該誘導体のL‐アミノ酸若しくはD‐アミノ酸の配列の形態で、又は両方の形態でも生じうる。
【0093】
本発明のペプチドの誘導体の調製のためにアミノ酸の置換が実行される場合、保存的な(アミノ酸)置換が好ましい。保存的な(アミノ酸)置換には、典型的には次のグループ:グリシン及びアラニン;バリン、イソロイシン及びロイシン;アスパラギン酸及びグルタミン酸;アスパラギン及びグルタミン;セリン及びトレオニン;リジン及びアルギニン;並びに、フェニルアラニン及びチロシン、のグループ内での置換が挙げられる。よって、好ましい保存的置換グループは、アスパルラギン酸‐グルタミン酸;アスパラギン‐グルタミン;バリン‐ロイシン‐イソロイシン;アラニン‐バリン;及びフェニルアラニン‐チロシン、である。そのような突然変異によって、例えば、ペプチドの安定性及び有効性のうち少なくともいずれか一方が増強される場合がある。突然変異がペプチドに導入される場合、該ペプチドは、例えば、配列において、機能において、及び抗原としての形質又は他の機能において、(機能的に)相同なままである。ペプチドのそのような突然変異した構成要素は、ある種の適用について本発明のペプチドの変化していない配列よりも有利な場合のある変化した特性を有する可能性がある(例えば、pH最適条件の拡大、温度安定性の上昇など)。
【0094】
本発明のペプチドの誘導体は、本発明のペプチドの改変されていない配列とほぼ同一であるとして定義される。特に好ましいのは、天然に存在するアナログに対する少なくとも30%の配列同一性、好ましくは少なくとも50%の配列同一性、なお好ましくは少なくとも60%の配列同一性、なお好ましくは少なくとも75%の配列同一性、さらになお好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは90%の配列同一性及び最も好ましくは少なくとも95%又は99%もの配列同一性を有するアミノ酸配列である。本発明のペプチドの機能的誘導体の合成又は単離のための、並びに2つのアミノ酸配列の同一性(%)の決定のための、適切な方法については上述されている。加えて、上記に開示されるようなペプチドの誘導体の生産のための方法は良く知られており、当業者に周知の以下の標準的な方法に従って実行可能である(例えば、サムブルック(Sambrook)J、マニアティス(Maniatis)T、1989年を参照されたい)。
【0095】
さらなる実施形態として、本発明は、本明細書中に定義されるようなペプチドを含む医薬組成物又は薬剤を提供する。ある実施形態では、そのような医薬組成物又は薬剤は、本明細書中に定義されるように、ペプチドのほかに任意選択のリンカーも含む。加えて、そのような医薬組成物又は薬剤は、薬学的に許容可能な担体、アジュバント、又はビヒクルを含むことが可能である。本発明による「薬学的に許容可能な担体、アジュバント、又はビヒクル」は、共に調合されるペプチドの薬理学的活性又は生理学的な標的指向を破壊しない無毒な担体、アジュバント、又はビヒクルを指す。本発明の医薬組成物に使用可能な薬学的に許容可能な担体、アジュバント、又はビヒクルには、限定するものではないが、頭蓋若しくは頭蓋内に適用可能であるか、又は血液脳関門(BBB)を横断可能であるものが挙げられる。上記にかかわらず、本発明の医薬組成物は、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、例えばヒト血清アルブミンなど、緩衝物質、例えばリン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合剤、水、塩類又は電解質、例えばリン酸水素2ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイダル‐シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリラート、ろう、ポリエチレン‐ポリオキシプロピレン‐ブロックポリマー、ポリエチレングリコール及び羊毛脂を含みうる。
【0096】
本発明の医薬組成物は、経口的に、非経口的に、吸入スプレーにより、局所的に、経直腸的に、経鼻的に、口腔内に、経膣的に、脳内に、又は移植されたリザーバを介して、投与されうる。
【0097】
本明細書中で使用されるような非経口的という用語には、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、脊髄腔内、肝臓内、病巣内及び頭蓋内への注射又は注入の技法が含まれる。医薬組成物は、経口的に、腹腔内に、又は静脈内に投与される。本発明の医薬組成物の無菌の注射剤型は、水性又は油性の懸濁液であってよい。これらの懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁化剤を使用して、当分野で既知の技法に従って調合可能である。無菌の注射用調製物はさらに、無毒な非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒中の、例えば1,3‐ブタンジオールの中の溶液としての、無菌の注射用の溶液又は懸濁液であってよい。使用されうる許容可能なビヒクル及び溶媒の中には、水、リンゲル液及び等張食塩水がある。さらに、無菌の固定油は溶媒又は懸濁媒として従来通りに使用される。
【0098】
そのため、合成のモノグリセリド又はジグリセリドを含む任意の無刺激の固定油が使用されうる。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体のような脂肪酸は、天然の薬学的に許容可能な油、例えばオリーブ油又はヒマシ油などが特にそのポリオキシエチル化物であるときのように、注射剤の調製に有用である。これらの油中溶液又は懸濁液はさらに、長鎖アルコールの希釈剤又は分散剤、例えばカルボキシメチルセルロース又は類似の分散剤であって、乳剤及び懸濁液を含む薬学的に許容可能な剤形の調合において一般に使用されるものも含有しうる。その他の一般に用いられている表面活性剤、例えばTween(登録商標)、Span(登録商標)及び他の乳化剤又は生物学的利用能増強剤であって薬学的に許容可能な固体、液体、又はその他の剤形の製造に一般に使用されるものも、調合を目的として使用されうる。
【0099】
本明細書中の薬学的に許容可能な組成物は、任意の経口的に許容可能な剤形、例えば、限定するものではないがカプセル剤、錠剤、水性の懸濁液又は溶液に含めて経口投与されうる。経口的な使用のための錠剤の場合、一般に使用される担体にはラクトース及びコーンスターチが挙げられる。ステアリン酸マグネシウムのような平滑剤も典型的には加えられる。カプセルの形態での経口投与については、有用な希釈剤にはラクトース及び乾燥コーンスターチが挙げられる。経口使用のために水性懸濁液が必要な場合、有効成分は乳化剤及び懸濁化剤と組み合わされる。望ましい場合には、ある種の甘味料、調味料又は着色剤も添加されうる。
【0100】
別例として、本明細書中に定義されるような医薬組成物は、直腸内投与用の坐薬の形態で投与される場合もある。そのような坐薬は、作用薬を、室温では固体であるが直腸温では液体であることから直腸中では溶けて薬物を放出することになる適切な非刺激性の賦形剤とともに混合することにより、調製可能である。そのような材料には、ココアバター、みつろう及びポリエチレングリコールが挙げられる。
【0101】
本明細書中に定義されるような医薬組成物は、特に治療の標的が局所適用により容易にアクセス可能な区域又は器官を含んでいる、例えば脳、その他の頭蓋内組織、眼、若しくは皮膚の疾患などの場合、局所投与されてもよい。適切な調合物は、これらの区域又は器官のそれぞれについて容易に調製される。
【0102】
局所適用については、本明細書中に定義されるような医薬組成物は、1つ以上の担体中に懸濁又は溶解された、本明細書中で同定されるようなペプチドを含有する適切な軟膏に調合されうる。ペプチドの局所投与のための担体には、限定するものではないが、鉱油、流動パラフィン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ろう及び水が挙げられる。別例として、本明細書中に定義されるような医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容可能な担体中に懸濁又は溶解されたペプチドを含有する適切なローション剤又はクリーム剤に調合可能である。適切な担体には、限定するものではないが、鉱油、ソルビタンモノステアラート、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2‐オクチルドデカノール、ベンジルアルコール及び水が挙げられる。
【0103】
本明細書中に定義されるような医薬組成物は、鼻エアロゾル又は吸入によって投与されてもよい。そのような組成物は、医薬製剤の分野において良く知られた技法によって調製可能であり、ベンジルアルコール又はその他の適切な保存剤、生物学的利用能を増強するための吸収促進剤、フルオロカーボン、及びその他の従来の可溶化剤又は分散剤のうち少なくともいずれかを使用して、食塩水中の溶液として調製されうる。本明細書中の薬学的に許容可能な組成物又は薬剤は、経口投与用、又は例えば注射による非経口投与用に、調合される。
【0104】
治療のためには、無毒であり、ダメージを低減する、有効な量のペプチドが、上記に定義されるような医薬組成物の調製に使用されうる。したがって、ある量のペプチドが、上記に定義されるような組成物を生じるために担体材料と組み合わされうる。医薬組成物は典型的には単回(又は複数回)投薬形態で調製されるが、これは治療される被治療者及び特定の投与様式に応じて変化することになろう。通常、医薬組成物は、ペプチドを1日に体重1kgあたり0.0001〜100mgという1用量当たりの投薬量範囲が、該医薬組成物を投薬される患者に投与されることが可能であるように、調合される。1用量当たりの好ましい投薬量範囲は、1日に体重1kgあたり0.01mg〜1日に体重1kgあたり50mgの範囲であり、1用量当たりのさらなる好ましい投薬量範囲は、1日に体重1kgあたり0.1mg〜1日に体重1kgあたり10mgの範囲である。しかしながら、上記に言及されるような投薬量範囲及び治療レジメンは、任意の特定の患者について、様々な要因、例えば使用される特異的なペプチドの活性、年齢、体重、健康状態、性別、食事、投与の時間、排出の速度、薬物の併用、治療している医師の判断及び治療されている特定の疾患の重症度、に応じて適切に合わせることができる。これに関連して、投与は初期の投薬量範囲でなされうるが、該投薬量範囲は治療の時間とともに、例えば、上記に述べたような範囲内で初期の投薬量範囲を増加又は減少させることによって、変化せしめられてもよい。別例として、投与は、具体的な投薬量範囲が投与されることにより連続方式で実行され、それにより治療の時間全体にわたって初期の投薬量範囲が維持されてもよい。例えば、投薬量範囲が治療の様々なセッションの間で適合せしめられる(増加又は減少せしめられる)が単一のセッション内では一定に保たれて、様々なセッションの投薬量範囲が互いに異なるようになっている場合、両方の投与形態を更に組み合わせることができる。
【0105】
本発明の医薬組成物及びペプチドのうち少なくともいずれか一方は、本明細書中に開示されるように、細胞、特に哺乳動物細胞への損傷の有害な影響に関係する疾患の治療、改善又は予防のために、特に神経の損傷、例えば脳卒中又は脊髄損傷、てんかん、周産期の低酸素性虚血、脳又は脊髄への虚血性若しくは外傷性の損傷、及び中枢神経系(CNS)の神経細胞へのダメージ、例えば、限定するものではないが、急性のCNS損傷、虚血性の脳卒中若しくは脊髄損傷、並びに無酸素症、虚血、機械的損傷、神経障害性の疼痛、興奮毒性、及び関連する損傷の治療のために、使用可能である。更に、本発明の医薬組成物及びペプチドは、興奮毒性及び虚血による損傷、興奮毒性、神経栄養性の支援の欠乏、離断、神経細胞へのダメージ、例えばてんかん、慢性的神経変性状態などに対する、神経活性効果又は神経保護効果を、又は治療を、提供するために使用可能である。これに関連して、興奮毒性は、卒中、外傷性脳損傷及び中枢神経系(CNS)の神経変性疾患、例えば、多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、神経障害性の疼痛、結合組織炎、パーキンソン病(PD)、周産期の低酸素性虚血、及びハンチントン舞踏病に特に関与している可能性があり、前記疾患は本明細書中において治療可能である。神経細胞周囲の過剰なグルタミン酸濃度を引き起こし、かつ本明細書中で治療されうるその他の一般的状態は、低血糖症、血管痙攣、ベンゾジアゼピン離脱症状及びてんかん重積持続状態、緑内障/網膜神経節細胞の劣化などである。
【0106】
上記に定義されるような哺乳動物細胞に対する損傷の有害な影響に関係するほかに、本明細書中で言及されるようなさらなる疾患又は障害に関係する疾患の治療、改善又は予防は、典型的には、本発明の医薬組成物又はペプチド若しくはペプチド混合剤を、本明細書中に記載されるような投薬量範囲で投与することにより実行される。医薬組成物又はペプチドの投与は、興奮毒性及び(虚血性)脳損傷のうち少なくともいずれか一方、すなわち哺乳動物細胞への損傷の有害な影響の、発症に先立って実行されてもよいし、同時的又はその後に実行されてもよく;例えば、医薬組成物又はペプチドの投与は、脳卒中又は脊髄損傷、脳又は脊髄への虚血性又は外傷性の損傷、及び一般に、中枢神経系(CNS)の神経細胞へのダメージの後、1時間以内(まで)(0〜1時間)、2時間まで、3〜5時間まで、又は24時間若しくはそれ以上までに実行されうる。慢性的神経変性障害(AD、PD、ALS、MSなど)では、治療は生涯にわたる毎日の治療を必要とするかもしれない。
【0107】
治療的に使用される場合、本発明の化合物は治療上有効な量で投与される。一般に、治療上有効な量とは、治療される特定の状態の発生を遅らせるか、該状態の進行を抑制するか、該状態を完全に止めるのに必要な量を意味する。治療上有効な量は、具体的には、卒中又はその他の大脳の虚血発作の後の神経細胞の生存に望ましい影響を及ぼす量になるであろう。一般に、治療上有効な量は、いずれも当業者によって判断可能な、対象者の年齢及び状態、並びに対象者における疾患の性質及び程度に応じて変わることになろう。投薬量は、特に何らかの合併症が認められている場合には、個々の医師によって調整されうる。
【0108】
上記に言及されるように、本発明の1つの態様は、単離ペプチド又はそのバリアントをコードする核酸配列及びその誘導体、並びにストリンジェントな条件下で上記のヌクレオチド配列で構成されている核酸分子にハイブリダイズするその他の核酸配列に関する。本明細書中で使用されるような用語「ストリンジェントな条件」とは、当分野には馴染みのパラメータを指す。核酸ハイブリダイゼーションのパラメータは、そのような方法を編集した参照文献、例えばJ.サムブルック(Sambrook)ら編「分子クローニング:実験の手引き(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」第二版、1989年、米国ニューヨーク・コールドスプリングハーバーのコールド・スプリング・ハーバー研究所出版社(Cold Spring Harbor Laboratory Press )、又はF.M.オースベル(Ausubel )編「分子生物学の最新プロトコール(Current Protocols in Molecular Biology)」、米国ニューヨークのジョン・ワイリー・アンド・サンズ社(John Wiley and Sons, Inc. )において見出されうる。より具体的には、ストリンジェントな条件は、本明細書中で使用されるように、ハイブリダイゼーションバッファー(3.5×SSC、0.02%Ficoll(登録商標)、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、25mM NaH
2PO
4(pH7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中65℃でのハイブリダイゼーションを指す。SSCは、0.15M 塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7であり;SDSはドデシル硫酸ナトリウムであり;EDTAはエチレンジアミン四酢酸である。ハイブリダイゼーション後、DNAが転写されたメンブレンは2×SSCで室温にて洗浄され、その後0.1×SSC/0.1×SDSで65℃にて洗浄される。
【0109】
本発明は、上記の調合物のうち少なくとも1つに含められた上述の医薬組成物(1つ以上の容器に入ったもの)と、該医薬組成物の適用に関わる指示及び情報のうち少なくともいずれか一方に関する取扱説明書又は情報小冊子とを含むキットを更に提供する。
【0110】
本明細書の全体にわたって、特に別記しない限り、又は文脈からそうでないことが必要とされない限り、単一のステップ、物の組成物、ステップ群又は物の組成物群への言及は、1つ及び複数(すなわち1つ以上)のそれらのステップ、物の組成物、ステップ群又は物の組成物群を包含するように解釈されるものとする。
【0111】
本発明の分野の当業者は、本明細書中に記載された発明が具体的に記載されたもの以外の変形形態及び改変形態を許容しうることを認識するであろう。当然ながら、本発明はそのような機能上の変形形態及び改変形態をすべて含む。本発明はさらに、本明細書中で言及又は表示されたステップ、特徴、組成物及び化合物すべてを、個々に又は総体として、並びに前記のステップ又は特徴のあらゆる組み合わせ又は任意の2つ以上を、含んでいる。本発明は、単に例証目的が意図されているにすぎない本明細書中に記載された具体的な実施形態によって、範囲を限定されるべきではない。機能的に等価な生成物、組成物及び方法は、本明細書中に記載されるように、明らかに本発明の範囲内にある。更に、本発明は、別段の指示がないかぎり、分子生物学、微生物学、神経生物学、ウイルス学、組換えDNA技術、溶液中ペプチド合成、固相ペプチド合成、及び免疫学の従来の技法、又は本明細書中で引用された技法を使用して、不適当な実験作業を伴うことなく実施される。
【0112】
本出願人は、驚くべきことに、ある種のCPP、特にアルギニンに富んだペプチドが、過去に同定された神経保護ペプチドに融合されるという従来の必要性を伴うことなく神経保護性の効能を示すことを見出した。これらのCPPのうちあるものはさらに低い毒性も示し、かつ低い用量又は濃度で機能的である。これらのCPPにはペネトラチン及びPep‐1が含まれる。しかしながら、さらに驚くべきことに、本出願人は、長さ10〜20残基(両端値を含む)、好ましくは長さ10〜18残基(両端値を含む)のポリアルギニンペプチドのような長く連なった塩基性(すなわちカチオン性)アミノ酸、及びプロタミン又はLMWPのような10残基を超えるアルギニンを含有するある種のペプチドは、上記のCPPと比較された場合、特にR1〜R8のようなより短いアルギニンに富む配列と同様の濃度で比較された時、非常に高い神経保護活性を示すことも見出した。特に、R12、R15、R18は、グルタミン酸損傷モデル及びin vitroの虚血性損傷モデルのうち少なくともいずれか一方においてアッセイされた時、上述のCPPと比較して高い神経保護を提供した。この2つの異なる神経細胞損傷モデルは異なる有害な細胞経路を活性化する可能性が高く、したがって本発明のペプチドの神経保護の範囲及び可能な作用様式に対する一層の洞察を提供することになろう。
【0113】
本明細書中、略語「Arg」に整数が後続するものは、その数のアルギニンがペプチド中で繰り返されていることを示す。よって、Arg‐15(アルギニンに関するIUPACの一文字略号に従ってR15と略記される)は、ペプチド形成における連続アルギニン残基を指す。しかしながら、実行可能な限り、本明細書は一文字アミノ酸コードを、すなわち例えばArg‐15の代わりにR15を用いることになろう。
【0114】
[神経細胞死を伴う神経細胞障害]
神経障害、例えば片頭痛、卒中、外傷性脳損傷、脊髄損傷 てんかん、周産期の低酸素性虚血、並びにハンチントン舞踏病(HD)、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む神経変性障害は、長期の脳損傷から生じる病的状態及び能力障害の主な原因である。脳損傷は一般に、アポトーシス、自食作用、ネクロプトーシス及びネクローシスを含む一連の細胞死プロセスを伴い、神経細胞である星状細胞、オリゴデントロサイト、ミクログリア及び血管内皮細胞(まとめて神経血管単位;NVUと呼ばれる)に影響を及ぼす。神経の損傷に関与する有害な誘因は、グルタミン酸興奮毒性のカルシウム過負荷、酸化ストレス、タンパク質分解酵素及びミトコンドリアの異常を伴う種々の経路に関わっている。本明細書中で使用されるように、用語「卒中」には、脳又は脊髄に影響する任意の虚血性障害、例えば脳又は脊髄の動脈における血栓塞栓性の閉塞、重症の低血圧、周産期の低酸素虚血、心筋梗塞、低酸素、脳内出血、血管痙攣、末梢血管障害、静脈血栓症、肺塞栓、一過性脳虚血発作、肺虚血、不安定狭心症、可逆性虚血性神経症候、補助的な血栓溶解活性、過度の凝血状態、大脳の再潅流障害、鎌状赤血球貧血、卒中障害によるか若しくは医原的に誘発された虚血期間、例えば血管形成術、又は脳虚血、が含まれる。
【0115】
神経伝達物質であるグルタミン酸の細胞外レベルの上昇は、興奮毒性によって引き起こされた急性及び遅発性の有害なプロセスを介した神経細胞死の原因となる場合がある。細胞外のグルタミン酸の蓄積は、NMDA受容体及びAMPA受容体、並びに続いてVGCC、NCX、TRMP2/7、ASIC及びmGlu受容体を過剰刺激する結果として、細胞外のカルシウム及びナトリウムイオンの流入並びに細胞内貯蔵部位からの結合カルシウムの放出をもたらす。NMDA受容体の過剰活性化はさらに、有害な分子(例えば、一酸化窒素、CLCA1;カルシウム活性化塩素チャネル調節因子1、カルパイン、SREBP1:ステロール調節エレメント結合タンパク質‐1)の産生及びシグナル伝達経路(例えばDAPK;細胞死関連タンパク質キナーゼ、CamKII:カルシウム‐カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼII)を誘発することも可能である。細胞内カルシウムの増加は、ホスホリパーゼ、タンパク質分解酵素、ホスファターゼ、キナーゼ及び一酸化窒素合成酵素を伴う一連の細胞に有害な事象、並びに細胞死(すなわちアポトーシス、自食作用、ネクロプトーシス及びネクローシス)を誘発する経路の活性化を引き起こす。
【0116】
本発明のペプチドは神経細胞の死を防ぐことが本明細書中において示されているので、国際公開第2009133247号及び欧州特許第1969003号明細書に包含された開示は、本発明のペプチドがさらに、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、卒中、末梢神経障害、又はてんかんの治療及び予防のうち少なくともいずれか一方に、並びにそれに応じて本明細書中に記載されたその他の関連する病的状態にも適用されることを示している。従って、本発明は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、卒中、末梢神経障害、てんかん、脊髄損傷、糖尿病又は薬物嗜癖の治療のための方法であって、薬学的に有効な量の本発明のペプチドのうちいずれか1つ以上が患者に投与される方法に関する。換言すれば、本発明によるペプチドは、虚血に関連した損傷のほかに、アルツハイマー病(AD)、ハンチントン舞踏病(HD)、パーキンソン病(PD)、多発性硬化症(MS)、急性散在性脳脊髄膜炎(ADEM)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、卒中、末梢神経障害、てんかん、脊髄損傷及び本明細書中に記載されたその他の関連する病的状態の、治療に使用するためのものである。
【0117】
製薬上の適用においては、ペプチドは、例えばコアセルベーション技法若しくは界面重合法(例えば、それぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチンのマイクロカプセル及びポリ(メチルメタクリラート)のマイクロカプセル)によって調製されたマイクロカプセル中に、コロイド系薬物送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)に、又はマクロエマルジョン中に、封入されることも可能である。そのような技法は「レミングトンの薬剤科学(Remington's Pharmaceutical Sciences )」に開示されている。これは徐放性調製物を使用して遂行されることもできる。徐放性調製物の適切な例には、ペプチドを包含している固体の疎水性ポリマーの半透性マトリックスであって、例えばフィルムのような成形物、又はマイクロカプセルの形態である、マトリックスが挙げられる。徐放性マトリックスの例には、ポリエステル、ランガー(Langer)ら、ジャーナル・オブ・バイオメディカル・マテリアルズ・リサーチ(J. Biomed. Mater. Res.)、1981年、第15巻、p.167−277及びランガー、ケムテック(Chem.Tech.)、1982年、第12巻、p.98−105に記載されているようなヒドロゲル、若しくはポリビニルアルコール、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号明細書、欧州特許第58,481号明細書)、又は非分解性のエチレン酢酸ビニルが挙げられる。
【0118】
1つの実施形態では、上記に定義されるような本発明のペプチドを含む医薬組成物は、虚血による損傷、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、卒中、末梢神経障害、又はてんかんの治療に使用するためのものである。別の実施形態では、本発明は、神経細胞を本発明のペプチド又はその組み合わせと接触させるステップを含む、神経細胞の生存を促進するための方法を提供する。該方法は本明細書中に示されるようにin vitroで実施可能である。
【0119】
本発明の背景を明らかにするために、かつ特に本発明の実行に関するさらなる詳細を提供するために、本明細書中で使用される出版物及びその他の資料は、参照により本願に組み込まれる。本発明は以下の実施例においてさらに説明されており、該実施例は本発明の範囲を限定するようには意図されていない。
【0120】
実施例(下記の表1、2及び5のポリアルギニンペプチド並びにアルギニンに富んだペプチド及びアルギニンに富んだプロタミンペプチド)。
[硫酸プロタミン、プロタミンペプチド及びその他のペプチド]
ペプチドは表5に列挙されている。硫酸プロタミン(プロタミン;Ptm)はサノフィ・アベンティス(Sanofi Aventis)から入手された。低分子量プロタミン(LMWP)はミモトープス株式会社(Mimotopes Pty Ltd )(オーストラリア連邦)によって合成された。プロタミンペプチド1〜5(Ptm1、Ptm2、Ptm3、Ptm4、Ptm5)はペプミック株式会社(Pepmic Co Ltd )(中華人民共和国)よって合成された。ペプチドは90〜98%を超えるようにHPLC精製された。ペプチドはすべて通常生理食塩溶液中で100×ストック(500μM)として調製され、損傷モデルに応じて0.1〜10μMの濃度範囲で評価された。
【0121】
注目すべきは、硫酸プロタミン(プロタミン;Ptm)がPtm1〜Ptm4
1の混合剤であることである。プロタミンペプチド(Ptm、Ptm1〜5、LMWP)はアルギニンに富んでいる。
【0122】
方法(ポリアルギニンペプチド及びアルギニンに富んだペプチド)
[初代皮質神経細胞培養物]
皮質培養物の確立は以前に記載されたとおりとした(メロニ(Meloni)ら、2001年)。簡潔に述べると、E18〜E19のスプレーグ・ドーリー(Sprague-Dawley)ラット由来の皮質組織は、1.3mMのL‐システイン、0.9mMのNaHCO
3、10ユニット/mlのパパイン(米国のシグマ(Sigma ))及び50ユニット/mlのDNアーゼ(シグマ)を補足したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;オーストラリア連邦のインビトロジェン(Invitrogen))の中で解離せしめられ、冷DMEM/10%ウマ血清の中で洗浄された。神経細胞は、2%のB27(登録商標)サプリメント(B27;インビトロジェン)を含有するNeurobasal(登録商標)(インビトロジェン)の中で再懸濁された。播種の前に、96ウェルサイズのガラスウェル(直径6mm、オーストラリア連邦のプロテック(ProTech ))又は96ウェルのプラスチックプレート(オーストラリア連邦のプロサイテック(ProSciTech))は、ポリDリジンで一晩コーティングされた(50ml/ウェル:50mg/mL;70〜150K、シグマ)。その後、過剰なポリDリジン溶液は除去され、Neurobasal(2%のB27;4%のウシ胎児血清;1%のウマ血清;62.5mMのグルタミン酸;25mMの2‐メルカプトエタノール;並びに30mg/mLのストレプトマイシン及び30mg/mLのペニシリンを含有)に置き換えられた。神経細胞はプレート培養されて、in vitroの11〜12日目に各ウェルにつき〜10,000個の生存能力のある神経細胞が得られた。神経細胞培養物は、CO
2インキュベータ(5%CO
2、95%空気のバランス、湿度98%)中で37℃に維持された。in vitroの4日目に培地に3分の1が除去され、有糸分裂阻害剤であるシトシンアラビノフラノシド(終濃度1mM;シグマ)を含有する新鮮なNeurobasal/2%B27に置き換えられた。in vitroの8日目に、培地の半分がNeurobasal/2%B27に置き換えられた。培養物はin vitroの11日目又は12日目に使用されたが、その後は常に>97%の神経細胞及び1〜3%の星状細胞で構成されている(メロニ(Meloni)ら、2001年)。
【0123】
[使用された他の細胞株]
脳内皮細胞株(bEND3)及び神経芽細胞腫細胞株(SH‐SY5Y)も、いくつかの実験に使用された。bEND3及びSH‐SY5Y細胞は、5%又は15%のウシ胎仔血清を加えたDMEM中で標準的技法を使用して培養された。ラットの初代星状細胞は、Neurobasal/2%B27の代わりにDMEM+10%ウシ胎仔血清が使用され、有糸分裂阻害剤であるシトシンアラビノフラノシドは使用されなかった以外は、皮質神経細胞について記載されたようにして入手及び培養された。
【0124】
[細胞透過性ペプチド及び対照ペプチド]
表1に列挙されたペプチドは、ペプスキャン・プレスト(Pepscan Presto)(オランダ国)により合成されたTAT‐L、並びにチャイナペプチド株式会社(China Peptide Co., Ltd)により合成されたR9/tPA/R9、NCXBP3及びR9/X7/R9を除き、ミモトープス株式会社(Mimotopes Pty Ltd )(オーストラリア連邦)によって合成された。表2に列挙されたペプチドは、チャイナペプチド(China Peptides)(中華人民共和国)によって合成された。ペプチドは88〜96%を超えるようにHPLC精製された。TAT‐L、ペネトラチン、R9及びPep‐1はL型アイソフォームで、TAT‐D及びArg9‐DはD型アミノ酸から逆配列で合成されるプロテアーゼ耐性のD‐レトロインベルソ型(以降D型アイソフォームと称する)で、合成された(ブルギドウ(Brugidou)ら、1995)(表1)。D型アイソフォームのTAT融合型JNK阻害ペプチド(JNKI‐1D‐TAT)及びL型アイソフォームのTAT融合型AP‐1阻害ペプチド(PYC36L‐TAT)が、陽性対照として使用された(表1;ボルセロ(Borsello)ら、2003年;ミード(Meade )ら、2010年b)。ペプチドはすべて通常生理食塩溶液中で100×ストック(500μM)として調製され、損傷モデルに応じて0.1〜15μMの濃度範囲で評価された。TAT‐Lペプチドはグルタミン酸興奮毒性モデルにおいてのみ使用された。
【0126】
[グルタミン酸及びカイニン酸及びNMDA興奮毒性モデル並びにペプチドインキュベーション]
ペプチドは、グルタミン酸又はカイニン酸への曝露の15分前に、培地を除去してCPP、対照ペプチド又はMK801/CNQXを含有するNeurobasal/2%B27を50μl加えることにより、培養ウェル(96ウェルプレート型式)に添加された。興奮毒性を誘発するために、50μlの、グルタミン酸(200μM)又はカイニン酸(400μM)又はNMDA(200μM)を含有するNeurobasal/2%B27が培養ウェルに添加された(終濃度は100μMグルタミン酸、200μMカイニン酸及びNMDAは100μM)。培養物は、グルタミン酸については5分間、カイニン酸については45分間及びNMDAへの曝露については10分間、CO
2インキュベータにて37℃でインキュベートされ、その後培地は、100μlの、50%のNeurobasal/2%N2サプリメント(インビトロジェン)及び50%の平衡塩類溶液(BSS;以下参照)に置き換えられた。培養物はCO
2インキュベータにて37℃でさらに24時間インキュベートされた。グルタミン酸又はカイニン酸による処置の有無に関わらず、未処置の対照には同じ洗浄及び培地添加が行われた。
【0127】
1つの実験では、15分間のCPPインキュベーション(5又は10μM)に続いて、ウェル中の培地が除去され、ウェルは300μlのBSSで1回洗浄されてからグルタミン酸を含有するNeurobasal/2%B27(100μM/100μl)を添加された。このステップに続いて、培養物は上述のように処置された。グルタミン酸への曝露の有無に関わらず、未処置の対照には同じ洗浄ステップ及び培地添加が行われた。加えて、グルタミン酸曝露後のCPP処置(5μM)実験は、R9ペプチド及びJNKI‐1D‐TAT対照ペプチドについて実施された。この実験では、神経細胞は、上述のようにして100μlのNeurobasal/2%B27に含めたグルタミン酸(100μM)に5分間曝露され、その後、培地は除去されて50μlのNeurobasal/2%N2サプリメントに置き換えられ、続いてグルタミン酸曝露の0分後及び15分後にペプチド(BSS中に含めて10μM/50μl)が添加された。
【0128】
グルタミン酸曝露前の実験については、神経細胞は、グルタミン酸への曝露の直前又は1、2、3、4若しくは5時間前に、ペプチドに10分間曝露された。これは、培地を除去してペプチドを含有するNeurobasal/2%B27を50μl加えることにより実施された。CO
2インキュベータにて37℃で10分後、培地は除去されて100μlのNeurobasal/2%B27に置き換えられた(即時のグルタミン酸曝露については培地がグルタミン酸を含有;100μM)。適切なペプチド事前処置時間において、培地が除去されてグルタミン酸(100μM)を含有する100μlのNeurobasal/2%B27に置き換えられた。5分間のグルタミン酸曝露に続いて、神経細胞培養ウェルは上述のように処置された。すべての実験について、グルタミン酸による処置の有無に関わらず、未処置の対照には同じインキュベーションステップ及び培地添加が行われた。
【0129】
[ヘパリン実験]
ヘパリン(注射用)はファイザー(Pfizer)から入手した(1000IU/ml)。2つの異なるヘパリン実験が実施された。すなわち1.ペプチドは、Neurobasal/B27に含めたヘパリン(20IU/ml)とともに室温で5分間インキュベートされた後、CO
2インキュベータ中37℃で15分間、培養ウェルに添加された(50μl)。インキュベーション期間に続いて、ウェル中の培地は除去され、グルタミン酸(100μM)を含有する100μlのNeurobasal/2%B27に置き換えられ、続いて上述のように処置された;2.ウェル中の培地は、ヘパリンを含有するNeurobasal/2%B27(50μl;40IU/ml)に置き換えられ、CO
2インキュベータ中37℃で5分間インキュベートされた。インキュベーション期間に続いて、Neurobasal/2%B27(50μl)に含めたペプチド又はグルタミン酸受容体遮断薬(MK801/CNQX)が培養ウェルに添加され、培養物はCO
2インキュベータ中37℃でさらに10分間インキュベートされた。インキュベーション期間に続いて、ウェル中の培地は除去され、グルタミン酸(100μM)を含有する100μlのNeurobasal/2%B27に置き換えられ、続いて上述のように処置された。すべての実験について、グルタミン酸処置を伴うがヘパリン処置されないペプチド対照には同じインキュベーションステップ及び培地添加が行われた。
【0130】
[In vitroの虚血/OGDモデル及びペプチドインキュベーション]
初代皮質神経細胞培養物について使用されたin vitro虚血モデルは、以前に記述されたとおりに実施された(メロニ(Meloni)ら、2011年)。簡潔に述べると、培地がウェル(ガラス製96ウェルプレート型式)から除去され、315μlのグルコース非含有平衡塩類溶液(BSS;mM単位で116NaCl、5.4KCl、1.8CaCl
2、0.8MgSO
4、1NaH
2PO
4;pH6.9)で洗浄された後に細胞透過性ペプチド又は対照ペプチド(表1を参照)を含有する60μlのBSSが添加された。グルタミン酸受容体遮断薬(5μMのMK801/5μMの6‐シアノ‐7‐ニトロキノキサリン:MK801/CNQX)で構成されている非ペプチドの陽性対照も含まれた。In vitroの虚血は、ウェルを37℃の無酸素インキュベータ(英国のドン・ホワイティ・サイエンティフィック(Don Whitely Scientific);5%CO
2、10%H2及び85%アルゴンの雰囲気、湿度98%)中に55分間置くことにより開始された。無酸素インキュベータから取り出してすぐに、60μlのNeurobasal/2%N2サプリメントがウェルに添加され、培養物はCO
2インキュベータ中37℃でさらに24時間インキュベートされた。対照培養物には、虚血処置された培養物と同じBSS洗浄手順及び培地添加が行われてからCO
2インキュベータ中37℃でのインキュベーションがなされた。
【0131】
OGD曝露前の実験については、手順は、10分間のペプチド事前処置が100μlのNeurobasal/2%B27を使用して実施されたことを除いてグルタミン酸モデルに記載されているのと同じであった。対照培養物には、OGD処理培養物と同じBSS洗浄手順及び培地添加が行われた。
【0132】
In vitroの虚血モデルはbEND3細胞、SH‐SY5Y細胞、及び星状細胞についても用いられた。bEND3細胞については、無酸素インキュベーションは2〜3時間に延長され、無酸素インキュベータから取り出してすぐに、60μlのDMEM/2%FCSがウェルに添加された。SH‐SY5Y細胞については、最初のBSS洗浄ステップ(315μl)は省略され、無酸素インキュベーションは2〜5時間に延長された。無酸素インキュベータから取り出してすぐに、60μlのDMEM/2%FCSがウェルに添加された。星状細胞については、無酸素インキュベーションは1:15〜2:00時間に延長され、無酸素インキュベータから取り出してすぐに、60μlのDMEM/2%FCSがウェルに添加された。
【0133】
[In vitroにおける神経細胞、bEND3及び星状細胞の毒性モデル並びにペプチドインキュベーション]
神経細胞培養物については、ペプチドは、培地を除去して、CPP、JNKI‐1D‐TAT又はTAT‐NR2B9cを含有する100μlの50%Neurobasal/2%N2サプリメント及び50%BSSを加えることにより、培養ウェル(96ウェルプレート型式)に添加された。対照の培養物には50%Neurobasal/2%N2サプリメント及び50%BSSの培地のみが加えられた。培養物は、CO
2インキュベータ中37℃で20時間インキュベートされ、その後MTSアッセイを使用して細胞生存率が評価された。bEND3培養物については、ペプチドは、培地を除去し、ペプチドを含有するDMEM/2%FCSを100μl加えることにより、培養ウェル(96ウェルプレート型式)に添加された。対照の培養物には、DMEM/2%FCSのみが100μl添加された。培養物は、CO
2インキュベータ中37℃にて0.5、1又は2時間インキュベートされ、その後MTSアッセイを使用して細胞生存率が評価された。星状細胞培養物については、ペプチドは、培地を除去し、ペプチドを含有するDMEM/2%FCSを100μl加えることにより、培養ウェル(96ウェルプレート型式)に添加された。対照の培養物には、DMEM/2%FCSのみが100μl添加された。培養物は、CO
2インキュベータ中37℃で24時間インキュベートされ、その後MTSアッセイを使用して細胞生存率が評価された。
【0134】
[細胞生存率の評価及び統計解析]
傷害の24時間後、神経細胞培養物は、神経細胞生存率の定性的評価のために光顕微鏡検査法により検査された。神経細胞生存率は、3‐(4,5,ジメチルイアゾール‐2‐イル)‐5‐(3‐カルボキシメトキシ‐フェニル)‐2‐(4‐スルホフェニル)‐2H‐テトラゾリウム塩(MTS)アッセイ(オーストラリア連邦のプロメガ(Promega ))によって定量的に測定された。MTSアッセイは、テトラゾリウム塩から、490nmにて分光測光法で検出される水溶性の茶色のフォルマザン塩への細胞内変換を測定する。MTSの吸光度データは、未処置の対照を100%の生存率として、未処置対照及び処置対照に関する相対的な細胞生存率を反映するように変換され、平均±SEMとして示された。星状細胞、bEND3及びSH‐Y5Y細胞を使用する研究については、MTSの生データを使用してグラフが生成された。生存率データは、分散分析とその後の事後のフィッシャーのPLSD検定によって解析され、P<0.05の値が統計的に有意とみなされた。4〜6個のウェルがすべてのアッセイに使用された。
【0135】
[ラット永久局所脳虚血モデル − 実験群及び処置]
すべての処置は盲検下にて無作為化及び施用された。ペプチド(DR9:rrrrrrrrr‐NH2;R12、R15、R18、硫酸プロタミン;プロタミン)又はビヒクル(生理食塩水:0.9%NaCl)の処置溶液の投与は、MCAO後30分で実施された。ペプチド処置は、右頚静脈を介して5〜6分かけて施用される1μmol/kg又は1000nmol/kgの静脈内負荷量を提供するように、生理食塩水(600μl)に含めたDR9から成っていた。
【0136】
[ラット永久局所脳虚血モデル]
本研究は、西オーストラリア大学(University of Western Australia )の動物倫理委員会(Animal Ethics Committee )によって承認された。体重270g〜350gの雄のスピローグ・ドーリー(Sprague Dawley)ラットは、12時間の明暗サイクルで食物及び水を自由摂取とした、制御された飼育条件下で管理された。実験動物は一晩断食せしめられ、以下のようにして恒久的な中大脳動脈閉塞(MCAO)に供された。
【0137】
麻酔は、マスクを介して4%のイソフルラン及びN
2OとO
2との2:1混合物を用いて導入された。麻酔は1.7〜2%イソフルランに維持された。脳血流(CBF)は、レーザドップラー流速計(Blood FlowMeter、オーストラリア連邦シドニーのエーディー・インスツルメンツ(AD Instruments))を使用して連続的にモニタリングされた。プローブは、ブレグマから尾側に1mm及び側方(右)に4mmに位置付けられた。血圧を連続的にモニタリングし、かつ血糖値及び血液ガス読取値のための試料を提供するために、カニューレが右大腿動脈に挿入された。血糖はグルコース計(米国マサチューセッツ州ベッドフォードのアボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories )、メディセンス・プロダクツ(MediSense Products))を使用して測定され、血液ガスは血液ガス分析計(ABL5、デンマーク国コペンハーゲンのラジオメータ(Radiometer))を使用して測定された。血圧は80〜100mmHgに維持された。手術中、直腸温は37±0.5℃に維持され、必要な場合はファンヒータを用いて加温された。静脈内注入については、ヘパリン処理された生理食塩水の入った長いPVCラインが右頚静脈の適所につながれ、次いで背側中央〜肩甲骨の切開部を通じて外在化されて自由運動が可能なように設計されたテザー/スイベルシステム(米国フィラデルフィアのインステック・ラボラトリーズ(Instech Laboratories))に達せられた。
【0138】
右総頚動脈(CCA)は腹側の頚部切開部を通じて露出された。外頚動脈(ECA)は上甲状腺動脈及び後頭動脈の焼灼の後に単離された。ECAの単離切開面は断端を作出するために結紮及び焼灼された。頚動脈小体は除去され、翼突口蓋動脈が結紮された。直径0.39mmのシリコーンチップを備えた4‐0ナイロンモノフィラメント(ドッコル(Doccol)、米国カリフォルニア州レッドランズ)は、ECAの断端を通してCCAに挿入され、レーザドップラー流速計が脳血流量のベースラインから>30%の減少を記録するまで、内頚動脈(ICA)の中へ吻側へと前進せしめられた。モノフィラメントは、残りの実験のために2箇所に(ECA断端の基部及びICA上に)固定された。動物には、頭及び下肢の切開部位におけるペチジン(3mg/kg、筋肉内)及びブピバカイン(1.5mg/kg、皮下)で構成される術後麻酔が施された。
【0139】
手術後の動物は、温度湿度が制御されたチャンバ内で回復せしめられ、該動物の中核体温は、3〜4時間の間、モニタリングされて必要な場合は冷却/加熱ファンによって37±0.5℃に維持された。
【0140】
[組織の処理過程及び梗塞体積の測定]
動物はMCAO後24時間でペントバルビタールナトリウム(900mg/kg)の腹腔内注射を用いて屠殺された。安楽死の後、脳が摘出されて0.9%NaClの滅菌容器内に入れられ、次いで−80℃の冷凍庫内に7分間置かれた。その後、脳は、小脳と大脳との接合部からこの地点より12mm吻側まで冠状に薄切されて、2mm厚の切片となされた。切片は直ちに1%の2,3,5トリフェニルテトラゾリウムクロリド(TTC、米国ミズーリ州セントルイスのシグマ(Sigma ))を用いて37℃で20分間染色され、続いて4%ホルマリン中で室温にて少なくとも18〜24時間固定されてから梗塞体積が測定された。切片は走査され、画像は、処置状況を把握していないオペレータによってイメージジェイ(ImageJ)第3版(米国NIH)を使用して解析された。総梗塞体積は、2mmの切片標本の両側における梗塞組織の面積を合計することにより決定された。この測定面積に、切片の厚さの半分(1mm)が乗じられ、かつ病変半球と正常半球との面積の比を乗じることにより、大脳の浮腫について補正された。
【0141】
[統計解析]
梗塞体積の測定について、ペプチド処置群は、スチューデントのt検定(R9Dの試行)又は分散分析とその後の事後のフィッシャーのPLSD検定(R12、R15、R18及びPtmの試行)によって、ビヒクル対照群と比較された。
【0142】
実験実施例1
[グルタミン酸への曝露後の神経保護]
CPPであるTAT‐D、R9、及びペネトラチンは用量応答的に顕著な神経保護を提供した(
図1a、表3)。損傷後の培養物の視覚的評価からも、未処置のグルタミン酸曝露された培養物についての約5%から、R9で処置された培養物についての100%生存に及ぶ、神経保護効果が確認された。R9はIC50値が0.78μMの最も強力なペプチドであり、続いてペネトラチン(IC50:3.4μM)及びTAT‐D(IC50:13.9μM)であった。Pep‐1ペプチドは無効であった。グルタミン酸受容体遮断薬及び対照ペプチド(JNKI‐1D‐TAT、PYC36L‐TAT)もこのモデルにおいて非常に有効であった(
図1a)。
【0143】
加えて、TAT‐DペプチドはTAT‐Lペプチドと同様のレベルの神経保護を示した(
図1b)。CPPがグルタミン酸への曝露の前に洗浄除去された場合、(本実験では)R9のみが高レベルの神経保護を示した(
図1c)。
【0144】
R9及びR12ペプチドはグルタミン酸への曝露の直後に添加された場合にも非常に有効であり、R9は傷害後15分で添加された場合は軽度に有効であった。対照的に、JNKI‐1D‐TAT及びNR29c(TAT‐NR2B9cとも呼ばれる)ペプチドは、グルタミン酸への曝露の直後に、又は15分後に添加された場合、神経細胞の生存をあまり高めなかった(
図1d)。
【0145】
図1e〜jは、ペプチドR1、R3、R6、R9、R12、R15、R18、R9/E9(E9/R9とも呼ばれる)、R9/tPA/R9(R9/X7/R9とも呼ばれる)、並びに対照ペプチドのJNKI‐1D‐TAT及びNR29cについての、グルタミン酸モデルにおけるさらなる効能データを提示している。
【0146】
用量応答研究において、R1、R3、R6、R7、R8、R9、R12、R15及びR18をグルタミン酸モデルにおいて使用することにより、i)R1、R3、R6及びR7は神経保護を全く〜ごくわずかしか示さないこと;ii)R8は5μMで神経保護を示すこと、(iii)その他のペプチドについての効力の順序はR15>R18>R12>R9であること;iv)R15及びR18についての神経保護性の効能はより高い濃度(5μM)では低減されること;が明らかとなった;表4、
図1e、1I、1j、6、7、及び8を参照されたい。
【0147】
用量応答研究において、R9、DAHK(タンパク質アルブミンの最後4つのN末端アミノ酸)PTD4(細胞透過能が33×に高められた修飾型TATペプチド;(ホー(Ho)ら、2001年)、R9/E9(Arg‐9/Glu‐9;中性のペプチド)及びR9/tPA/R9(組織プラスミノーゲン活性化因子酵素ペプチド切断部位にR9が隣接しているもの)をグルタミン酸モデルにおいて使用することにより、i)PTD4及びR9/E9は神経保護を全く〜ごくわずかしか示さず;DAHKは低レベルの神経保護を有すること;並びにii)R9/tPA/R9はR12とR18との間の効力を有すること;が明らかとなった。さらに、TAT‐NR29Cペプチド(C末端NR2B NMDRA受容体サブユニットペプチド;PSD‐95タンパク質を伴うNMDARシグナル伝達を阻止してNO(亜酸化窒素)産生を阻止する;アーツ(Aarts )ら、2002年)は効果がなかった。表4及び
図1d、g、hを参照のこと。
【0148】
ペプチドR12は(濃度0.625μMでの神経保護に基づけば)R9よりも有効であり、かつ両者とも、グルタミン酸モデルでは、PCY‐36‐TATと比較してより有効であった一方、NR29cは無効であった(
図1g)。ペプチドR12は、(濃度0.5μM及び1μMでの神経保護に基づけばR9よりも有効であったが、R1、R3、R6及びNR29cは無効であった(
図1i)。2つの異なる会社によって合成されたペプチドR9も、グルタミン酸モデルにおける同様の効能を有していた(
図1j)。
【0149】
ペプチドR9、R12、R15及びR18は、5分間のグルタミン酸傷害の間にのみ神経細胞培養物に添加された場合(
図28)、又は10分間の事前曝露の後に傷害に先立って培養物から取り除かれた場合(
図29)、有効であった。
【0150】
ペプチドR12及びR15は、グルタミン酸傷害の1〜4時間前に10分間、神経細胞培養物に添加された場合、有効であった(
図30)。
ペプチドPTD4は低レベルの神経保護を示し、ペプチドE9/R9はグルタミン酸モデルでは保護を示さない(
図33)一方、アルギニンに富んだペプチドXIP及びNCXBP3は高レベルの保護を示す(
図34、35)。ポリリジン10ペプチド(K10)及びTAT‐NR2B9cペプチドは、それぞれグルタミン酸モデル(
図36)及びNMDAモデル(
図37)において低レベルの神経保護を示す。R8及びカルパイン切断部位に融合したR9(Cal/R9)は、グルタミン酸において中〜高レベルの神経保護を示す(
図38)。
図39及び40は、グルタミン酸モデルにおいて、陰性に荷電した分子ヘパリンは、R9D、R12、R15及びPYC36‐TATの神経保護作用を阻止するが、グルタミン酸受容体遮断薬(5μM K801/5μM CNQX)については阻止しないことを示している。
図41は、JNKI‐1ペプチドが、取り込みについてエンドサイトーシスに依存しない(非アルギニンの)kFGF CPPに融合された時、グルタミン酸モデルにおいて神経保護性でなかったこと;kFGFペプチドも無効であったこと、を示す。対照的に、TAT‐JNKI‐1及びJNKI‐1‐TATDは神経保護性であった。
図44は、ペプチドR9D、R12、R15、及びPYC36‐TAT、TAT、TAT‐NR2B9c、TAT‐JNKI‐1及びJNKI‐1‐TATD並びにグルタミン酸受容体遮断薬(5μM K801/5μM CNQX)が、グルタミン酸を用いた処置の後に神経細胞培養物中のカルシウム流入を様々な程度に低減したことを示している。
【0151】
実験実施例2
[カイニン酸への曝露後の神経保護]
カイニン酸への曝露の後、TAT‐D、R9及びペネトラチンは神経保護性であったが、グルタミン酸モデルの場合ほど有効ではなく、また必ずしも典型的な用量応答パターンを示さなかった(
図2、表2)。Pep‐1は無効であった。R9は最も強力なペプチドであり、神経細胞の生存を〜20%から最大〜80%まで増大させていた。R9、ペネトラチン、及びTAT‐Dに関するそれぞれのIC50値は、0.81、2.0及び6.2μMであった。グルタミン酸受容体遮断薬、JNKI‐1D‐TAT及びPYC36L‐TATもこのモデルにおいて有効であった(
図2)。
【0152】
実験実施例3
[in vitro虚血/酸素グルコース欠乏(OGD)の後の神経保護]
in vitroの虚血の後、4つのCPP全てが神経保護効果を示した(
図3、表2)。Arg‐9(IC50:6.0μM)及びTAT‐D(IC50:7.1μM)による神経保護は類似しており;効能は用量応答パターンに従い、神経細胞の生存を〜10%から40〜50%に増大させた。神経保護性の効能はペネトラチンの濃度が高まるとともに(≧5μM)失われ、Pep‐1はより低い濃度(1〜5μM)でのみ神経保護性であった。グルタミン酸受容体遮断薬及びPYC36L‐TATも、このモデルにおいて有効であった(
図3a)。
【0153】
加えて、in vitroの虚血後に添加された場合のR9、R12、R15及びR18は神経保護効果を示したが、より高濃度のR15及びR18は効能が低下した(
図3b)。
【0154】
R9はさらに、in vitroの虚血に供された場合のbEND3およびSH‐5YSYの細胞死も低減した(
図3c)。R18も、in vitroの虚血に供された場合の星状細胞の細胞死を低減した(
図42)。
【0155】
図6は、グルタミン酸モデルにおけるR9、R10、R11、R12、R13及びR14を使用した用量応答研究を示し、該研究から、2μM及び5μMで有意な神経保護を示したR11を除き、全てのペプチドが1〜5μMで有意な神経保護を示すことが明らかとなった。平均±SEM:N=4;
*P<0.05。(ペプチド濃度はμM単位)。
【0156】
図7は、グルタミン酸モデルにおけるR9D、R13、R14及びR15を使用した用量応答研究を示し、該研究から、全てのペプチドが1〜5μMで神経保護を示すことが明らかとなった。平均±SEM:N=4;
*P<0.05。(ペプチド濃度はμM単位)。
【0157】
図8に示されるように、グルタミン酸モデルにおけるR6、R7、R8、及びR9を使用した用量応答研究において、ペプチドR8及びR9はそれぞれ5μM並びに1μM及び5μMの濃度で有意な神経保護を示す一方、R6及びR7は有意な神経保護を示さないことが明らかとなった。平均±SEM:N=4;
*P<0.05。(ペプチド濃度はμM単位)。
図31は、ペプチドがOGDの後に15分間添加された場合の、R9、R12、R15及びR18を使用した用量応答研究を示す。神経保護はR12、R15及びR18について示されたが、1μM及び5μMのR9では示されなかった。
【0158】
ペプチドR12及びR18は、OGDの1〜3時間前に神経細胞培養物に10分間添加された場合に有効であった(
図32)。
【0161】
実験実施例4
[動物での試行]
行われた最初の動物での試行において、Arg‐9(R9)、R18及びプロタミン(Ptm)がin vivoで神経保護活性を有することが示された。この試行から、ラットの恒久的な中大脳動脈閉塞(MCAO)卒中モデルにおけるR9Dペプチドの効能が示された。R9DペプチドはMCAO後30分で静脈内投与された。梗塞体積(脳損傷)はMCAO後24hで測定された(平均±SEM)。これは
図5及び27に示されており、同図には、(各群につきN=8〜12匹の動物での)R9D、R18及びプロタミン(Ptm)を用いた処置が、MCAO卒中後に梗塞体積(脳のダメージ)をおよそ20%低減することにより統計的に有意な神経保護効果を示したことを見ることができる。
【0162】
[概説及び議論]
本出願人は、グルタミン酸、カイニン酸、又はin vitroでの虚血(酸素グルコース欠乏)への曝露後の皮質神経細胞培養物において、既知の神経保護性の実例としてTATと、その他の3つのCPP(ペネトラチン、R9、及びPep‐1)とを、その神経保護特性について評価した。
【0163】
加えて、ポリアルギニンペプチド(R9、R12、R15、R18)及びアルギニンに富んだプロタミンペプチドのうち少なくともいずれかについても、星状細胞、脳内皮細胞株(bEND3)、及び神経芽細胞腫細胞株(SH‐SY5Y)の培養物のうち少なくともいずれかにおいてin vitroの虚血モデルを使用して評価がなされた。
【0164】
R9、ペネトラチン及びTAT‐Dは、グルタミン酸損傷モデル(IC50:0.78、3.4、13.9μM)及びカイニン酸損傷モデル(IC50:0.81、2.0、6.2μM)のいずれにおいても一致した高レベルの神経保護活性を示したが、Pep‐1は無効であった。
【0165】
TAT‐Dアイソフォームは、グルタミン酸モデルにおいてTAT‐Lアイソフォームと同様の効能を示した。R9は、グルタミン酸への曝露に先立って洗浄除去された時も効能を示した。しかしながら、R9は、かつて神経保護性であることが示されたペプチド、すなわちTAT‐D、TAT‐L、PYC36L‐TAT、JNKI‐1D‐TATよりも有意に高く有効であった。
【0166】
in vitroの虚血後の神経保護は一層変動的であり、全てのペプチドがあるレベルの神経保護を提供していた(IC50はR9:6.0μM、TAT‐D:7.1μM、ペネトラチン/Pep‐1:>10μM)。陽性対照ペプチドであるJNKI‐1D‐TAT(JNK阻害ペプチド)及びPYC36L‐TAT(AP‐1阻害ペプチド)のうち少なくともいずれか一方は、すべてのモデルにおいて神経保護性であった。
【0167】
グルタミン酸処置後の実験では、R9は直後に添加された場合に極めて有効であり、傷害後15分で添加された場合は軽度に有効であった一方、JNKI‐1D‐TAT対照ペプチドは傷害後に添加された場合は無効であった。
【0168】
行われた最初の動物での試行では、R9、R12、R18、及びプロタミンがin vivoで神経保護活性を有することが示された。
用量応答研究において、R1、R3、R6、R9、R12、R15及びR18をグルタミン酸モデルにおいて使用することにより、i)R1、R3、R6、及びR7は神経保護を全く〜ごくわずかしか示さないこと;ii)他のペプチドについての効力の順序はR15>R18>R12>R9であること;並びに、iii)R15及びR18についての神経保護性の効能は試験されたうちのより高い濃度(5μM)では低減されること;が明らかとなった。
【0169】
用量応答研究において、R9、DAHK(タンパク質アルブミンの最後4つのN末端アミノ酸)、PTD4(細胞透過能が×33に高められた修飾型TATペプチド;ホー(Ho)ら、2001年)、R9E9(R9/Glu‐9;中性のペプチド)及びR9/tPA/R9(組織プラスミノーゲン活性化因子酵素ペプチド切断部位にR9が隣接しているもの)をグルタミン酸モデルにおいて使用することにより、i)PTD4及びR9/E9は神経保護を全く〜ごくわずかしか示さず;DAHKは低レベルの神経保護を有すること;並びにii)R9/tPA/R9はR12とR18との間の効力を有すること;が明らかとなった。さらに、TAT‐NR2B9Cペプチド(C末端NR2B NMDRA受容体サブユニットペプチドはPSD‐95タンパク質を伴うNMDARシグナル伝達を阻止してNO産生を阻止する;アーツ(Aarts )ら、2002年)。ポリアルギニン及びアルギニンに富んだ(プロタミン)ペプチドも、in vitroの虚血後の星状細胞、bEND3、及びSH‐SY5Yの細胞死を低減することが可能であった。
【0170】
これらの所見は、本発明のペプチドが、興奮毒性及び虚血による損傷に関連した神経に有害な事象/経路を阻害する能力を有することを実証している。≧9個のアルギニンアミノ酸残基を備えたポリアルギニンペプチドは特に神経保護性である。
【0171】
本発明のペプチドの細胞保護的な特性は、該ペプチドが、損傷後のCNSに神経保護薬を送達するため、及び、それ自体が潜在的な神経保護物質としての役割を果たすためのうち少なくともいずれか一方の、理想的な担体分子であることを示唆している。
【0172】
本発明のペプチドはこのように、in vivoのモデルに結びつけることが可能であることを示されている様々なin vitroの損傷モデルにおいて神経保護特性を示す。これは、行われた初期の動物での試行において示された神経保護効果によってさらに支持される。R9の優れた神経保護作用は驚くべきものであり;IC50値に基づけば、R9はグルタミン酸モデル及びカイニン酸モデルにおいてTAT‐Dよりもそれぞれ17倍及び7倍強力であり、かつグルタミン酸への曝露に先立って洗浄除去された場合でも有効な唯一のペプチドであった。この所見は、R9の、アルギニン残基の増加及びわずかに高い正味電荷(pH7において10対9)のうち少なくともいずれか一方が、興奮毒性の後の神経保護のための重要な要因であることを示唆している。更に、グルタミン酸への曝露に先立って洗浄除去された後にTAT及びペネトラチンは効能を喪失するがR9は喪失しない正確な理由は不明であるが、これは細胞外のメカニズムではなくR9の細胞内への取り込みの速度に関係するのかもしれない。このことは、R9はグルタミン酸への曝露の後に添加された場合に有効であったがJNKI‐1D‐TATペプチドは無効であったという所見によって支持される。
【0173】
更に、アルギニン並びにポリアルギニンペプチドR1、R3、R6、R9、R12、R15及びR18がグルタミン酸損傷モデルにおいて評価された場合、ペプチドR9、R12、R15及びR18のみが試験された用量において有意な神経保護を示し;R15は最も強力なペプチドであるように見えた。さらに、tPA切断リンカー部位を含有するハイブリッド型のR9ペプチド(R9/tPA/R9)も、グルタミン酸モデルにおいて非常に有効であった。R9も、グルタミン酸への曝露後に添加された時にR12よりも有効であった。興味深いことに、PTA4(通常のTATと比較して33×の改善された導入効率を備えた修飾型TATペプチド;ホー(Ho)ら、2001年)、R9/E9ハイブリッド及びNR29c(NMDA/グルタミン酸受容体により誘導されるNO産生を阻止するTAT融合ペプチド)並びにDAHK(タンパク質アルブミンの最後4つのN末端アミノ酸)は、グルタミン酸への曝露後は概して無効であった。
【0174】
ペプチドR9、R12、R15及びR18はさらに、無酸素インキュベーションの後に(すなわち損傷の再灌流期の間に)添加された場合にin vitroの虚血モデルにおいても有効であった。R9はさらに、in vitroの虚血後に脳内皮細胞(bEND3細胞)及び神経芽細胞腫細胞(SH‐5YSY細胞)を保護することもできた。
【0175】
本明細書中に先述されるように、本研究の結果は、ペネトラチン及びPep‐1も神経保護特性を示すということの実証であった。ペネトラチン及びPep‐1ペプチドは、互いに、又はTAT/R9ペプチドと、アミノ酸配列の同系性を有していない。興味深いことに、ペネトラチンは興奮毒性のモデルにおいては高度に神経保護性であったが(IC50:3.4及び2μM)、in vitroの虚血モデルにおいては濃度が高まると効能が低減し、あまり有効ではなかった。Pep‐1ペプチドは、興奮毒性のモデルにおいては概して効果がなく、かついくつかの実験では神経細胞死を増加させるように見えたが(データは示さない)、in vitroの虚血後にはより低濃度において神経保護性であった。興味深いことに、ペネトラチンがグルタミン酸への曝露に先立って神経細胞培養物から洗浄除去された場合、目視による観察から、該ペプチドがいくらかの早期の神経保護効果を示すことが明らかとなった(データは示さない)。従って、ペネトラチン及びPep‐1はいずれも、損傷モデルにおいて、互いに、またTAT/R9ペプチドとは、異なるように作用した。
【0176】
興奮毒性及び虚血による損傷モデルにおける、4つのCPPの神経保護性の応答の差異は、ペプチドの物理化学的特性に、及びより明確にはペプチドのエンドサイトーシス誘発特性に関係する可能性が高い。更に、CPPの神経保護作用は細胞膜(例えば受容体、イオンチャネル)において仲介される可能性が高い。スー(Xu)ら(2008年)は、TATが細胞膜を変化させ、それによりNMDA受容体のような細胞表面の受容体の機能に影響を及ぼし、その結果カルシウム流入が低下する可能性があることを示唆している。
【0177】
しかしながら、本発明の1又は複数のペプチドは、NMDA受容体の機能の阻止、及びカルシウムの流入の阻止、ダウンレギュレーション、又は減速、のうち少なくともいずれかを為すように作用することが可能であると考えられる。別例のメカニズムは、CPPがミトコンドリア外膜と相互作用してこれを安定化することにより、ミトコンドリアの機能を維持する助けとなるということである。潜在的な恩恵は、ATP合成の維持、活性酸素種の産生の低減、カルシウム輸送の改善である。この目的で、本出願人は、正常な神経細胞中及び損傷後にArg‐9がMTS吸光度レベルをベースラインレベルより上に増加させることができることを観察済みである(例えば
図1A、15μM)。MTSの、そのフォルマザン生成物への還元は、主としてミトコンドリアにおいて生じるので、Arg‐9がフォルマザンのレベルを上昇させる能力は、該ペプチドがミトコンドリアの機能を改善しているということを支持している。特にR9及びTATに関しての別のメカニズムの可能性は、これらのアルギニンに富んだペプチドがカルシウム依存性プロタンパク質転換酵素フューリン(カスプルザック(Kacprzak)ら、2004年)を阻害しており、それにより潜在的に有害なタンパク質の活性化を阻止しているということである。
【0178】
本発明は、カチオン性アミノ酸に富んだCPP、特にアルギニンに富んだCPP又は担体ペプチド(例えばR12、R15、プロタミン)が、一般のCPPとは対照的に、高レベルの神経保護を示すことを実証している。このことは、CPPに融合した神経保護ペプチドの作用メカニズムが、それに限られないにしても大部分は、その担体‐ペプチドの神経保護効果の増強の結果である、という可能性を高めている。更に、アルギニンに富んだCPPがその神経保護作用を発揮するメカニズムは、特異的な細胞質の標的との相互作用によるのではなく、主たる担体‐ペプチドの細胞内取込み経路であるエンドサイトーシスに、結びつけることができる。対照的に、エンドサイトーシスによって細胞内に入る担体‐ペプチドに融合した神経保護ペプチドは最初にエンドソームを回避しなければならないがこれは極めて非能率的なプロセスであることが知られており(アル=タエイ(Al-Taei )ら、2006年;エル=サイード(El-Sayed)ら、2009年;アッペルバウム(Appelbaum )ら、2012年;チエン(Qian)ら、2014年)、その後で細胞質の標的と相互作用することが可能になる、ということから、ペプチドがその意図された標的との相互作用を通じて作用することができるということは全くありそうもない。
【0179】
CPPの細胞内侵入に関して、有力なメカニズムはエンドサイトーシス(マクロピノサイトーシス)によるものと考えられている(パーム=アペルギ(Palm-Apergi )ら、2012年)。本発明にはあまり関連しないが、最近の報告から、積荷物の特性も、ある種のCPPによる直接的細胞侵入メカニズムを促進しうることが実証されている(ヒロセ(Hirose)ら、2012年)。しかしながら、可能性として極めて関連が高いことは、具体的な積荷物、ペプチド又はその他のものが、CPPに対し、その神経保護作用の増強、移動効率の改善、及びカードーゾ(Cardozo )ら(2007年)により実証されるようなその毒性の増大、のうち少なくともいずれかにより、どのように影響を及ぼしうるか、ということである。これは積荷物がそれ自体神経保護性である場合は特に重要である、というのも、上述のように、これはCPPと積荷物との間の神経保護効果を識別することを非常に難しくする。例えば、従来の研究(ミード(Meade )ら、2010年a)において、PYC36ペプチド由来の3アミノ酸残基(Pro、Lys、Ile)の TAT‐Dペプチドへの付加(AM8D‐TAT)により、グルタミン酸モデルではTAT‐Dについての>15μMからAM8D‐TATについての1.1μMへのIC50値の低下がもたらされた。
【0180】
TATペプチド対照を用いての陽性の効果が必ずしも観察されるとは限らなかった。いくつかの考えられる説明があるが、この問題に取り組むために:最初に必要であるのは、対照として、TATペプチドのみ(すなわちGRKKRRQRRRG)を使用する研究と、レポーターのタンパク質(例えばGFP、β‐gal)又はペプチド(例えばHA及び6×HISタグのうち少なくともいずれか一方、混在型ペプチド)に融合したTATを使用する研究とを区別することである。対照としてTATペプチドを単独で使用した研究に関しては、TATが使用された用量では無効であったこと、及び、損傷モデルが重症すぎて神経保護効果を見出すことができなかったこと、のうち少なくともいずれか一方が考えられる。例えば、ボレセロ(Boresello)ら(2003年)は、100μM NMDAへの皮質神経細胞培養物の12、24又は48時間の曝露後には、TATペプチドを用いた神経保護効果を検出しなかった。対照的に、L‐JNKI‐1ペプチドは12時間及び24時間で有効であった一方、プロテアーゼ抵抗性のD‐JNKI‐1ペプチドは全ての時点で有効であった。JNKI‐1ペプチドの効能がTATペプチドと比較して上位にあることを考えると、試験された濃度ではTATは神経保護性ではなかった、又はNMDA傷害が重症であることによりいかなる神経保護効果も無効にされた、という可能性がある。アシュポール(Ashpole )及びハドモン(Hudmon)による研究(2011年)では、TATペプチドを用いた軽度の保護効果が、グルタミン酸への曝露後の皮質神経細胞培養物において観察された。更に、この著者らは、TATペプチドが保護をほとんど提示しないので、CAMKII阻害ペプチドについて観察された神経保護は「インポート配列」(すなわちTAT)に起因するものではないという結論を下した。しかしながら、CAMKII阻害ペプチドがTATペプチドの潜在能力を高めたということは除外することはできない。最後に、TATペプチドが特定の損傷モデル及び細胞種においてのみ神経保護性であることもありうる。
【0181】
レポータータンパク質又は対照ペプチドに融合したTATを使用する研究では、上記に取り上げた点に加えて、対照のタンパク質/ペプチドがTATペプチドの神経保護特性を弱めるか又は無効にするように作用する場合があることもあり得る。対照としてTAT融合タンパク質/ペプチドを使用してきて神経保護効果を示さなかった数多くの研究に基づけば、これが当てはまるように見えるであろう(例えば、クルチ(Kilic )ら、2003年;デップナー(Doeppner)ら、2009年)。しかしながら、心に留めておく必要があるのは、タンパク質がCPPであるという単なる事実は、該タンパク質が神経保護性であろうということを必ずしも意味しない、ということであり、このことは、PTD‐4ペプチド(TATそれ自体より33×優れた導入効率を備えた修飾型TATペプチド;ホー(Ho)ら、2001年)が神経保護特性をほとんど又は全く有していないという事実によって裏付けられる。
【0183】
(臨床用途のための硫酸プロタミン中又はSwissProtデータベースに存在するプロタミンペプチド配列(サケ)。[a=硫酸プロタミン1のHPLC後に同定されたピーク1〜4;b=SwissProt中の配列(Swissprot:P14402)。(1)ホフマン(Hoffmann)JA1、チャンス(Chance)RE、ジョンソン(Johnson )MG、「高速液体クロマトグラフィーを使用するインスリン調合物中に含有されるシロザケプロタミンの主要構成成分の精製及び解析(Purification and analysis of the major components of chum salmon protamine contained in insulin formulations using high-performance liquid chromatography )」、プロテイン・エクスプレッション・アンド・ピューリフィケイション(Protein Expr Purif. )、1990年、第1巻、第2号、p.127−33。(2)チャン(Chang )LC、リー(Lee )HF、ヤン(Yang)Z、ヤン(Yang)VC、「無毒なヘパリン/低分子量ヘパリン解毒剤としての低分子量プロタミン(LMWP)(I):調製及び特性解析(Low molecular weight protamine(LMWP)as nontoxic heparin/low molecular weight heparin antidote(I):preparation and characterization )」、ファームサイ(PharmSci)、2001年、第3巻、第3号:E17)。
【0184】
実験実施例1
[グルタミン酸曝露後の神経保護]
硫酸プロタミン(プロタミン;Ptm)は、用量応答的に、有意な神経保護を提供した(
図9、10、12、13、15)。損傷後の培養物の視覚的評価も、未処置のグルタミン酸曝露された培養物についての〜5%から、プロタミンで処置された培養物についての85〜100%%の生存に及ぶ、神経保護効果を確認した。加えて、5分間又は10分間のプロタミン事前曝露も高度に神経保護性であり、100%の神経細胞の生存をもたらした(
図11)。用量応答実験において、低分子量(LMWP)、プロタミン1(Ptm1)、プロタミン2(Ptm2)、プロタミン3(Ptm3)、プロタミン4(Ptm4)、プロタミン5(Ptm5)、のペプチドも神経保護性であった(
図12、13、15)。
【0185】
プロタミン及びLMWPの事前曝露の実験では、プロタミンは神経細胞がグルタミン酸傷害の直前及び1時間又は2時間前にプロタミンに曝露された場合に神経保護性であった一方、LMWPは曝露がグルタミン酸傷害の直前であった場合にのみ神経保護性であった(
図14)。
【0186】
実験実施例2
[酸素グルコース欠乏(OGD)後の神経保護]
OGDモデルでは、プロタミンは、神経細胞が傷害の1時間前(
図18)又は傷害後(
図16、17)にペプチドで処置された場合に神経保護性であった。加えて、15分間又は30分間添加された場合、OGD後のプロタミンは同じく神経保護性であった(
図19、20、21、22)。LMWPは、神経細胞がOGDの1時間前にペプチドに事前曝露された場合は神経保護性ではなかったが、OGD後に15分間添加された場合は神経保護性であった。さらに、プロタミンペプチド(Ptm1〜Ptm5)及びLMWPがOGD後に15分間添加された場合、ペプチドPtm2、Ptm4、Ptm5及びLMWPが神経保護性であった(
図22)。
【0187】
実験実施例3
[酸素グルコース欠乏(OGD)後のbEND3細胞の保護]
OGDモデルでは、プロタミン及びプロタミン4(ptm4)が、OGDの15分前にペプチドで処置された場合に血液脳関門(bEND3)内皮細胞を保護した(
図23、24)。加えて、bEND3を1.25〜15μMの範囲の濃度のプロタミンに0.5〜2時間曝露しても、MTSアッセイベースでいかなる有意な毒性も引き起こさなかった(
図25、26)。
図43は、2.5〜10μMの濃度のPtm1〜Ptm5及び低分子量プロタミン(LMWP)が、24時間の曝露後に有意な星状細胞の細胞死を引き起こさなかったことを示している。
【0188】
[概説及び議論]
本出願人は、アルギニンに富んだ硫酸プロタミン(プロタミン;Ptm)、プロタミンペプチド1〜5(Ptm1〜Ptm5、それぞれ配列番号32〜36)、及び低分子量プロタミン(LMWP、配列番号37)について、皮質神経細胞培養物におけるグルタミン酸又はin vitroの虚血(酸素グルコース欠乏:OGD)への曝露後の神経保護特性に関して評価を行った。いずれの損傷モデルも虚血性脳卒中の影響を模倣するために一般的に使用されている。
【0189】
本出願人はさらに、OGDからの血液脳関門(bEND3)内皮細胞の保護におけるプロタミンペプチドの使用についても評価した。
プロタミンは、グルタミン酸及びOGDのいずれの損傷モデルにおいても一貫した高レベルの神経保護活性を示した一方、プロタミンはさらにbEND3細胞の保護も提供した。LMWPは、神経細胞のグルタミン酸及びOGD損傷モデルにおいて(プロタミンと同等の神経保護を達成するための用量濃度に基づけば)わずかに劣る有効性であった。このことは、LMWPペプチドが含有するアルギニン残基がより少数であることに起因する可能性が高い。プロタミンペプチド1〜5(Ptm1〜Ptm5)もグルタミン酸モデルにおいて高度に神経保護性であり、さらにPtm2、Ptm4及びPtm5はOGDモデルにおいて神経保護性であった。
【0190】
bEND3細胞を使用するOGDの研究では、プロタミンを用いた15分の事前曝露は、様々なOGD持続期間(2時間15分、2時間30分又は2時間45分)の後に、細胞の生存率及びしたがって保護を著しく高めた。加えて、Ptm4を用いた15分の事前曝露も、OGDモデルにおいて、細胞の生存率及びしたがって保護を著しく高めた。
【0191】
様々な濃度のプロタミンを使用するbEND3毒性試験では、プロタミンは15μMの高濃度でも毒性ではないことが明らかとなった。
これらの所見は、本発明のプロタミンペプチドが、興奮毒性及び虚血による損傷に関連した神経に有害な事象/経路を阻害する能力を有することを実証している。さらに、事前曝露の試行におけるプロタミンの効果により、1つの新しい重要な所見は、グルタミン酸又はOGDへの曝露の1又は2時間前の神経細胞のプロタミン処置が、細胞死の低減により、神経保護性の応答を引き起こすことができるということであった。このことは重要である、というのも、患者が脳損傷という結果をもたらす脳虚血又は脳卒中を被るリスクのある、数多くの脳血管性(例えば頚動脈血管内膜切除術)及び心臓血管性(例えば冠動脈バイパス移植術)の外科手術手技が存在するからである。したがって、プロタミンペプチドは、何らかのそのような大脳の虚血事象から脳を保護するために、そのような手技の1〜2時間前に投与されうる可能性がある。
【0192】
本発明のペプチドの細胞保護特性は、該ペプチドがCNS損傷の治療のための理想的な神経保護薬であることを示唆している。加えて、該ペプチドは細胞透過性を有する可能性もあるので[プロタミンは遺伝子治療の送達用にFDAの承認を受けており(DNA、ウイルスベクター;ソルジ(Sorgi )ら、1997年)、またLMWPは細胞透過性ペプチドとして使用されている;パーク(Park)ら、2005年]、これらは損傷後のCNSに神経保護薬を送達する理想的な担体分子である。
【0193】
本発明のペプチドの神経保護効果はペプチドの物理化学的特性と関係しているようである。更に、おそらくは、アルギニンに富んだプロタミンペプチドの神経保護作用は細胞膜(例えば受容体、イオンチャネル)を介しているであろう。研究により、アルギニンに富んだペプチド、例えばTAT(スー(Xu)ら、2008年)、R6(ファーラー=モンティエル(Ferrer-Montiel)ら、1988年)並びにR9‐CBD3(フェルトマン(Feldman )及びハンナ(Khanna)、2013年)及びTAT‐CBD3(ブルストベトスキー(Brustovetsky)ら、2014年)は、細胞表面の受容体及びイオンチャネル、例えばNMDA受容体などの機能に影響を及ぼして、カルシウム流入の低減をもたらしうることが示唆されている。しかしながら、本発明の1又は複数のペプチドは、NMDA受容体の機能の阻止、及びカルシウムの流入の阻止、ダウンレギュレーション、又は減速、のうち少なくともいずれかを為すように作用することが可能であると考えられる。別例のメカニズムは、プロタミンペプチドがミトコンドリア外膜と相互作用してこれを安定化することにより、ミトコンドリアの機能を維持する助けとなるということである。潜在的な恩恵は、ATP合成の維持、活性酸素種の産生の低減、及びカルシウム輸送の改善である。この目的で、本出願人は、正常な神経細胞において、かつ損傷後に、プロタミンがMTS吸光度レベルをベースラインレベルより上に上昇させることができることを観察済みである(例えば
図11、12;5μM)。MTSの、そのフォルマザン生成物への還元は、主としてミトコンドリアにおいて生じるので、プロタミンがフォルマザンのレベルを上昇させる能力は、該ペプチドがミトコンドリアの機能を改善しているということを支持している。別のメカニズムの可能性は、これらのアルギニンに富んだペプチドがカルシウム依存性プロタンパク質転換酵素フューリン(カスプルザック(Kacprzak)ら、2004年)を阻害しており、それにより潜在的に有害なタンパク質の活性化を阻止しているということである。
【0194】
プロタミンペプチドの細胞内侵入に関して、アルギニンに富んだペプチドについての有力なメカニズムはエンドサイトーシス(マクロピノサイトーシス)によるものと考えられている(パーム=アペルギ(Palm-Apergi )ら、2012年)。したがって、原形質膜を横切るペプチドのエンドサイトーシスの際に、細胞表面構造物のエンドソームによる内在化が生じることがありそうである(
図46を参照)。神経細胞の興奮毒性及び虚血という状況においては、イオンチャネルのダウンレギュレーションは、通常は神経に有害なカルシウム及び他のイオンの流入を低減するので、有益であろう。
【0195】
本出願人は、CPPに加えて神経保護ペプチドとしての役割をも果たすことが可能な、新しい部類又は群のペプチドを同定したという見解である。本出願人は、ポリアルギニンペプチド又はアルギニンに富んだペプチド、特にプロタミン又は低分子量プロタミンから選択されたもの(並びにそれらの混合剤及び誘導体、特に市販の硫酸プロタミンの形態のもの)が、新規な神経保護特性又は神経活性特性を有することを見出した。本発明の一部として本明細書中に開示されたペプチドは、in vivoで使用された時に同じ範囲の神経保護特性又は神経活性特性を有し(ヴァスリン(Vaslin)ら、2009年)、かつ神経の損傷の治療に用いられる、ということが証明されている。
【0196】
本出願人はこのように、アルギニンに富んだペプチド及びTATに無関係なCPP、特にポリアルギニン配列及び長さ10〜32アミノ酸の配列であって10個を超えるアルギニン残基を有するもの(例えばプロタミン、LMWP、及びこれらの誘導体など)が、新規な神経保護特性を有することを見出した。本発明のCPPは、in vivoで使用された時に同じ範囲の神経保護特性を有し(ヴァスリン(Vaslin)ら、2009年)、かつ神経の損傷の治療に用いられる、ということが証明されている。
【0198】
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】